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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】磁性体粒子操作用装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220208BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20220208BHJP
   B03C 1/12 20060101ALI20220208BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20220208BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C12M1/00 A
B01J19/08 D
B03C1/12
G01N1/10 Z
C12Q1/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018113372
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019213504
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】村松 晃
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】山野 彩花
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117032(JP,A)
【文献】国際公開第2016/113883(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0160630(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12Q
B01J
B03C
G01N
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内にゲル状媒体層と液体層とが交互に重層されるとともに磁性体粒子が装填された管状デバイス内で、前記磁性体粒子に目的物質を固定させた状態で、当該磁性体粒子を移動させるための磁性体粒子操作用装置であって、
前記容器を保持するための容器保持部と、
前記容器保持部に保持された前記容器の外側に近接して配置され、前記容器に沿って相対移動することにより、当該容器内の磁性体粒子を磁力によって移動させる磁石と、
前記磁石を前記容器に沿って相対移動させる駆動部と、
前記容器に沿って相対移動する前記磁石の位置が外部から視認できない状態で、前記磁石及び前記容器保持部を内部に収容する筐体と、
前記筐体に対して外部から視認可能に設けられ、発光可能な発光領域を有する表示部と、
前記磁石を相対移動させる複数の処理工程の詳細を保持しておく記憶部と、
前記磁石を相対移動させることにより、前記複数の処理工程を順次実行させる処理工程実行部と、
前記複数の処理工程が順次実行される際に、前記磁石の位置に応じて前記発光領域を発光させる発光制御部とを備えることを特徴とする磁性体粒子操作用装置。
【請求項2】
前記液体層には、前記目的物質以外の不純物を除去するための洗浄液からなる層が含まれることを特徴とする管状デバイスを対象とする請求項1に記載の磁性体粒子操作用装置。
【請求項3】
前記液体層には、前記目的物質に作用する試薬からなる層が含まれることを特徴とする管状デバイスを対象とする請求項1に記載の磁性体粒子操作用装置。
【請求項4】
前記表示部が、個別に発光可能な複数の前記発光領域を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の磁性体粒子操作用装置。
【請求項5】
前記表示部は、複数の前記発光領域の並列配置により構成されることを特徴とする請求項4に記載の磁性体粒子操作用装置。
【請求項6】
前記発光制御部は、前記複数の処理工程が順次実行される際に、各処理工程に対応する前記発光領域を順次発光させることを特徴とする請求項4又は5に記載の磁性体粒子操作用装置。
【請求項7】
前記処理工程実行部により順次実行される前記複数の処理工程のうち、一部の処理工程を省略させて次の処理工程を実行させるために操作される操作部をさらに備え、
前記発光制御部は、前記操作部の操作によって次の処理工程が実行される際に、当該処理工程に対応する発光領域を発光させることを特徴とする請求項6に記載の磁性体粒子操作用装置。
【請求項8】
前記発光制御部は、前記処理工程実行部により順次実行される前記複数の処理工程のうち、途中で停止させるべきではない処理工程として予め定められた特定の処理工程が実行される際に、当該特定の処理工程に対応する前記発光領域を、他の処理工程に対応する前記発光領域とは異なる態様で発光させることを特徴とする請求項6又は7に記載の磁性体粒子操作用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内にゲル状媒体層と液体層とが交互に重層されるとともに磁性体粒子が装填された管状デバイス内で、前記磁性体粒子に目的物質を固定させた状態で、当該磁性体粒子を移動させるための磁性体粒子操作用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医学的検査、食品安全衛生上の管理、環境保全のためのモニタリング等では、多種多様な夾雑物を含む試料から、目的物質を抽出して、検出や反応に供することが求められる。例えば、医学的検査では、動植物から分離取得される血液、血清、細胞、尿、糞便等に含まれる、核酸、タンパク質、糖、脂質、細菌、ウィルス、放射性物質等を検出、同定、定量する必要がある。これらの検査に際しては、夾雑物に起因するバックグランド等の悪影響を排除するために、目的物質を分離・精製することが必要となる場合がある。
【0003】
試料中の目的物質を分離・精製するために、粒径が0.5μm~十数μm程度の磁性体の表面に、目的物質との化学的な親和力や分子認識機能を持たせた磁性体粒子を用いる方法が開発され、実用化されている。この方法では、磁性体粒子の表面に目的物質を固定させた後、磁場操作により磁性体粒子を液相から分離・回収し、必要に応じて、回収された磁性体粒子を洗浄液等の液相に分散させ、液相から磁性体粒子を分離・回収する工程が繰り返し行われる。その後、磁性体粒子が溶出液中に分散されることにより、磁性体粒子に固定されていた目的物質が溶出液中に遊離し、溶出液中の目的物質が回収される。磁性体粒子を用いることにより、磁石による目的物質の回収が可能となるため、化学抽出・精製の自動化に有利な特徴を持つ。
【0004】
目的物質を選択的に固定可能な磁性体粒子は、分離・精製キットの一部として市販されている。キットは複数の試薬が別々の容器に入れられており、使用時はユーザがピペット等で試薬を分取、分注する。これらのピペット操作や磁場操作を自動化するための装置も市販されている(特許文献1)。一方、ピペット操作に代えて、キャピラリー等の管状の容器内に、溶解/固定液、洗浄液、溶出液等の液体層と、ゲル状媒体層とが交互に重層された管状デバイスを用い、この管状デバイス内で磁性体粒子を容器の長手方向に沿って移動させることにより、目的物質を分離・精製する方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
上記のような管状の容器内で磁性体粒子を移動させる構成においては、容器の外側に設けられた磁場印加部としての磁石が、容器の長手方向に沿って移動されることにより、磁場の変化が生じる。この磁場の変化に追従して、磁性体粒子も容器の長手方向に沿って移動し、交互に重層された液体層及びゲル状媒体層を磁性体粒子が順次移動する。このようにして磁性体粒子が複数の液体層を移動する過程で、各液体層において異なる処理工程が行われることにより、磁石の位置に対応する複数の処理工程が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO97/44671号国際公開パンフレット
【文献】WO2012/086243号国際公開パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁石を容器の長手方向に沿って移動させる際、容器内の磁性体粒子と磁石との距離が離れすぎると、磁性体粒子を容器の長手方向に沿って良好に移動させることができない。容器は細長い形状であり、反りが生じていることが一般的であることから、容器内の磁性体粒子と磁石との距離を一定の短い距離に保つために、現状では容器の反りを矯正するような構成が採用されている。具体的には、容器に対して磁石とは反対側から平坦な当接面が押し当てられることにより、容器が一直線状に延びるように矯正される。
【0008】
しかしながら、この場合には、容器に対して押し当てられる当接面によって、容器を外部から視認できない状態となるため、容器に沿って移動する磁石の位置も外部から視認することができない。容器の長手方向に沿った磁石の位置は、容器内における磁性体粒子が存在している層(液体層又はゲル状媒体層)の位置に対応しているため、磁石の位置を外部から視認できない状態では、実行中の処理工程の種類を判別することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、磁石の位置を外部から視認できない状態であっても実行中の処理工程の種類を判別することができる磁性体粒子操作用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る磁性体粒子操作用装置は、容器内にゲル状媒体層と液体層とが交互に重層されるとともに磁性体粒子が装填された管状デバイス内で、前記磁性体粒子に目的物質を固定させた状態で、当該磁性体粒子を移動させるための磁性体粒子操作用装置であって、容器保持部と、磁石と、駆動部と、筐体と、表示部と、記憶部と、処理工程実行部と、発光制御部とを備える。前記容器保持部は、前記容器を保持する。前記磁石は、前記容器保持部に保持された前記容器の外側に近接して配置され、前記容器に沿って相対移動することにより、当該容器内の磁性体粒子を磁力によって移動させる。前記駆動部は、前記磁石を前記容器に沿って相対移動させる。前記筐体は、前記容器に沿って相対移動する前記磁石の位置が外部から視認できない状態で、前記磁石及び前記容器保持部を内部に収容する。前記表示部は、前記筐体に対して外部から視認可能に設けられ、発光可能な発光領域を有する。前記記憶部は、前記磁石を相対移動させる処理工程の詳細を保持する。前記処理工程実行部は、前記磁石を相対移動させることにより、複数の処理工程を順次実行させる。前記発光制御部は、前記複数の処理工程が順次実行される際に、前記磁石の位置に応じて前記発光領域を発光させる。
【0011】
このような構成によれば、複数の処理工程が順次実行される際に、磁石の位置に応じて発光される発光領域を外部から視認することができる。したがって、磁石の位置が外部から視認できない状態であっても、実行中の処理工程の種類を判別することができる。
【0012】
(2)前記液体層には、前記目的物質以外の不純物を除去するための洗浄液からなる層が含まれていてもよい。
【0013】
このような構成によれば、磁石の位置が外部から視認できない状態であっても、洗浄液により不純物を除去するための処理工程(洗浄工程)が実行中であるか否かを判別することができる。したがって、洗浄工程が行われているタイミングや、洗浄工程が行われていないタイミングを正確に判別し、いずれかの処理工程の途中で容器を取り出すことも可能となる。
【0014】
(3)前記液体層には、前記目的物質に作用する試薬からなる層が含まれていてもよい。
【0015】
このような構成によれば、磁石の位置が外部から視認できない状態であっても、目的物質に試薬を作用させるための処理工程(試薬工程)が実行中であるか否かを判別することができる。したがって、試薬工程が行われているタイミングや、試薬工程が行われていないタイミングを正確に判別し、いずれかの処理工程の途中で容器を取り出すことも可能となる。
【0016】
前記試薬工程には、核酸を断片化させるための制限酵素を試薬として目的物質に作用させる制限酵素工程と、断片化された核酸を反応させるための反応酵素を試薬として目的物質に作用させる反応酵素工程とが含まれていてもよい。この場合、制限酵素工程が行われているタイミングや、反応酵素工程が行われているタイミングを正確に判別することができる。したがって、例えば制限酵素工程が行われた後、反応酵素工程が行われる前に、容器を取り出すことも可能となる。
【0017】
(4)前記表示部が、個別に発光可能な複数の前記発光領域を有していてもよい。
【0018】
このような構成によれば、複数の処理工程が順次実行される際に、磁石の位置に応じて複数の発光領域を個別に発光させることができるため、実行中の処理工程の種類を判別しやすい。
【0019】
(5)前記表示部は、複数の前記発光領域の並列配置により構成されてもよい。
【0020】
このような構成によれば、並列配置された複数の発光領域を個別に発光させることにより、複数の処理工程が順次実行される過程を分かりやすく表示することができる。
【0021】
(6)前記発光制御部は、前記複数の処理工程が順次実行される際に、各処理工程に対応する前記発光領域を順次発光させてもよい。
【0022】
このような構成によれば、各処理工程に対応する発光領域を順次発光させることにより、複数の処理工程が順次実行される過程を分かりやすく表示することができる。
【0023】
(7)前記磁性体粒子操作用装置は、前記処理工程実行部により順次実行される複数の処理工程のうち、一部の処理工程を省略させて次の処理工程を実行させるために操作される操作部をさらに備えていてもよい。この場合、前記発光制御部は、前記操作部の操作によって次の処理工程が実行される際に、当該処理工程に対応する発光領域を発光させてもよい。
【0024】
このような構成によれば、操作部を操作することにより、順次実行される複数の処理工程の一部を省略させて、次の処理工程を実行させることができる。次の処理工程が実行される際には、当該処理工程に対応する発光領域が発光されるため、一部の処理工程が省略された場合であっても、実行中の処理工程の種類を正確に判別することができる。
【0025】
例えば、上記のように試薬工程が制限酵素工程及び反応酵素工程を含む場合には、制限酵素工程を省略して反応酵素工程を実行させることにより、核酸を断片化させることなく反応酵素と反応させたい場合がある。このような場合には、操作部を操作することにより、制限酵素工程を省略して反応酵素工程を実行させることができる。このような場合であっても、発光領域の発光を視認することにより、制限酵素工程が省略されて反応酵素工程が実行されていることを正確に判別することができる。
【0026】
(8)前記発光制御部は、前記処理工程実行部により順次実行される複数の処理工程のうち、途中で停止させるべきではない処理工程として予め定められた特定の処理工程が実行される際に、当該特定の処理工程に対応する前記発光領域を、他の処理工程に対応する前記発光領域とは異なる態様で発光させてもよい。
【0027】
このような構成によれば、実行中の処理工程が、途中で停止させるべきではない処理工程、又は、それ以外の処理工程のいずれであるかを、発光領域の発光態様に基づいて容易に判別することができる。したがって、途中で停止させるべきではない処理工程の実行中に、誤って処理工程が停止され、容器が取り出されるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、磁石の位置が外部から視認できない状態であっても、複数の処理工程が順次実行される際に、磁石の位置に応じて発光される発光領域を視認することにより、実行中の処理工程の種類を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】管状デバイスの構成例を示した正面図である。
図2図1の管状デバイスのA-A断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る磁性体粒子操作用装置の構成例を示した正面図である。
図4図3の磁性体粒子操作用装置のB-B断面図である。
図5】磁性体粒子を操作する際の態様について説明するための模式図である。
図6】磁性体粒子操作用装置の外観について説明するための概略正面図である。
図7】磁性体粒子操作用装置の電気的構成の一例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
1.管状デバイス
図1は、管状デバイス1の構成例を示した正面図である。図2は、図1の管状デバイス1のA-A断面図である。この管状デバイス1は、液体試料から目的物質を抽出・精製するためのものであり、一直線上に延びる管状の容器20を備えている。
【0031】
容器20内には、複数の液体層11と複数のゲル状媒体層12が形成されている。具体的には、容器20の最下部に液体層11が形成され、上方に向かって長手方向にゲル状媒体層12と液体層11とが交互に重層されている。この例では、4つの液体層11と3つのゲル状媒体層12が長手方向に交互に形成された構成となっているが、これに限られるものではなく、液体層11及びゲル状媒体層12の数は任意に設定可能である。
【0032】
容器20の最上部の液体層11は、多数の磁性体粒子13が装填された溶解液である。溶解液は、例えば水又は界面活性剤などであり、この溶解液中に目的物質を含む液体試料が混合される。溶解液は、液体試料と混合された上で容器20内に注入されてもよい。容器20の最下部の液体層11は、液体試料中の目的物質を溶出させるための溶出液である。容器20の中間部の1つ又は複数(この例では2つ)の液体層11は、液体試料に含まれる目的物質以外の不純物(夾雑物)を除去するための洗浄液である。これらの各液体層11は、ゲル状媒体層12によって互いに分離されている。液体試料に含まれる目的物質を磁性体粒子13に固定させた状態で、磁場を変化させることによって容器20の最上部から最下部まで磁性体粒子13を移動させる操作(粒子操作)が行われ、その間に洗浄液によって目的物質が洗浄された上で最下部の溶出液に溶出される。
【0033】
磁性体粒子13は、その表面又は内部に、核酸や抗原等の目的物質を特異的に固定可能な粒子である。容器20の最上部の液体層11中で磁性体粒子13を分散させることにより、この液体層11中に含まれる目的物質が磁性体粒子13に選択的に固定される。
【0034】
磁性体粒子13への目的物質の固定方法は特に限定されず、物理吸着、化学吸着等の各種公知の固定化メカニズムが適用可能である。例えば、ファンデルワールス力、水素結合、疎水相互作用、イオン間相互作用、π-πスタッキング等の種々の分子間力により、磁性体粒子13の表面あるいは内部に目的物質が固定される。
【0035】
磁性体粒子13の粒径は1mm以下が好ましく、0.1μm~500μmがより好ましく、3~5μmがさらに好ましい。磁性体粒子13の形状は、粒径が揃った球形が望ましいが、粒子操作が可能である限りにおいて、不規則な形状で、ある程度の粒径分布を持っていてもよい。磁性体粒子13の構成成分は単一物質でもよく、複数の成分からなるものでもよい。
【0036】
磁性体粒子13は、磁性体のみからなるものでもよいが、磁性体の表面に目的物質を特異的に固定するためのコーティングが施されたものが好ましく用いられる。磁性体としては、鉄、コバルト、ニッケル、ならびにそれらの化合物、酸化物及び合金等が挙げられる。具体的には、マグネタイト(Fe)、ヘマタイト(Fe又はαFe)、マグヘマイト(γFe)、チタノマグネタイト(xFeTiO・(1-x)Fe)、イルメノヘマタイト(xFeTiO・(1-x)Fe)、ピロタイト(Fe1-xS(x=0~0.13)‥Fe(x~0.13))、グレイガイト(Fe)、ゲータイト(αFeOOH)、酸化クロム(CrO)、パーマロイ、アルコニ磁石、ステンレス、サマリウム磁石、ネオジム磁石、バリウム磁石が挙げられる。
【0037】
磁性体粒子13に選択的に固定される目的物質としては、例えば核酸、タンパク質、糖、脂質、抗体、受容体、抗原、リガンド等の生体由来物質や細胞自身が挙げられる。目的物質が生体由来物質である場合は、分子認識等により、磁性体粒子13の内部あるいは粒子表面に目的物質が固定されてもよい。例えば、目的物質が核酸である場合は、磁性体粒子13として、表面にシリカコーティングが施された磁性体粒子等が好ましく用いられる。目的物質が、抗体(例えば、標識抗体)、受容体、抗原及びリガンド等である場合、磁性体粒子13の表面のアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アピジン、ピオチン、ジゴキシゲニン、プロテインA、プロテインG等により、目的物質を粒子表面に選択的に固定できる。特定の目的物質を選択的に固定可能な磁性体粒子13として、例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィックから販売されているDynabeads(登録商標)等に封入されている磁気ビーズの市販品を用いることもできる。
【0038】
目的物質が核酸である場合、洗浄液は、核酸が磁性体粒子13の表面に固定された状態を保持したまま、液体試料中に含まれる核酸以外の成分(例えばタンパク質、糖質等)や、核酸抽出等の処理に用いられた試薬等の不純物を洗浄液中に遊離させ得るものであればよい。洗浄液としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム等の高塩濃度水溶液、エタノール、イソプロパノール等のアルコール水溶液等が挙げられる。
【0039】
核酸を溶出するための溶出液(核酸溶出液)としては、水又は低濃度の塩を含む緩衝液を用いることができる。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、蒸留水等を用いることができ、pH7~9に調整された5~20mMトリス緩衝液を用いることが一般的である。核酸が固定された磁性体粒子13を溶出液中で分散させることにより、核酸溶出液中に核酸を遊離溶出させることができる。回収された核酸は、必要に応じて濃縮や乾固等の操作を行った後、分析や反応等に供することができる。
【0040】
ゲル状媒体層12は、粒子操作前においてゲル状、若しくはペースト状である。ゲル状媒体層12は、隣接する液体層11に対して不溶性又は難溶性であり、化学的に不活性な物質からなることが好ましい。ここで、液体に不溶性又は難溶性であるとは、25℃における液体に対する溶解度が概ね100ppm以下であることを意味する。化学的に不活性な物質とは、液体層11との接触や磁性体粒子13の操作(すなわち、ゲル状媒体層12中で磁性体粒子13を移動させる操作)において、液体層11、磁性体粒子13や磁性体粒子13に固定された物質に、化学的な影響を及ぼさない物質を指す。
【0041】
ゲル状媒体層12の材料や組成等は、特に限定されず、物理ゲルであってもよいし、化学ゲルであってもよい。例えば、WO2012/086243号に記載されているように、非水溶性又は難水溶性の液体物質を加熱し、加熱された当該液体物質にゲル化剤を添加し、ゲル化剤を完全に溶解させた後、ゾル・ゲル転移温度以下に冷却することで、物理ゲルが形成される。
【0042】
容器20内への液体層11及びゲル状媒体層12の装填は、適宜の方法により行い得る。本実施形態のように管状の容器20が用いられる場合、装填に先立って容器20の一端(例えば下端)の開口が封止され、他端(例えば上端)の開口部から液体層11及びゲル状媒体層12が順次装填されることが好ましい。
【0043】
容器20内に装填される液体層11及びゲル状媒体層12の容量は、操作対象となる磁性体粒子13の量や、操作の種類等に応じて適宜に設定され得る。本実施形態のように容器20内に複数の液体層11及びゲル状媒体層12が設けられる場合、各層の容量は同一でもよいし、異なっていてもよい。各層の厚みも適宜に設定され得る。操作性等を考慮した場合、各層の厚みは、例えば2mm~20mm程度が好ましい。
【0044】
容器20の最上部は、他の部分よりも内径及び外径が大きい膨出部21となっている。膨出部21の上面は開口部となっており、膨出部21に対して着脱可能なキャップ30により当該開口部を封止することができる。キャップ30を取り外した状態で、膨出部21内に液体試料が注入されることにより、容器20の最上部の液体層11が形成される。
【0045】
容器20における膨出部21よりも下方の部分は、長手方向に直交する断面形状が図2に示すような一定形状である直線部22となっている。膨出部21及び直線部22は、膨出部21側から直線部22側に向かって先細りするテーパ部23により接続されている。直線部22の下端(容器20の底面)には、開口が形成されており、当該開口がフィルム部材40により封止されている。容器20の最下部の液体層11である溶出液中に溶出された目的物質は、フィルム部材40を貫通させるようにしてピペットを溶出液中に挿入することにより、当該ピペット内に吸い出すことができる。フィルム部材40は、例えばアルミなどにより形成されるが、これに限られるものではない。
【0046】
容器20の材料は、容器20内で磁性体粒子13を移動可能であり、液体層11及びゲル状媒体層12を保持できるものであれば、特に限定されない。容器20外から磁場を変化させる操作(磁場操作)を行うことにより容器20内の磁性体粒子13を移動させるためには、プラスチック等の透磁性材料が好ましく、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、テトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン等の樹脂材料が挙げられる。容器20の材質としては、上述の素材の他、セラミック、ガラス、シリコーン、非磁性金属等も用いられ得る。容器20の内壁面の撥水性を高めるために、フッ素系樹脂やシリコーン等によるコーティングが行われてもよい。
【0047】
容器20の形状としては、図2に示すように、容器20における膨出部21よりも下方の直線部22の断面形状(長手方向に直交する断面形状)が、中心Cに対して非対称な形状となっている。具体的には、直線部22の正面側の外周面が平坦面221となっており、中心Cを挟んで反対側である背面側の外周面が凸湾曲面222となっている。ただし、容器20の形状は、上記のような形状に限られるものではなく、例えば直線部22の断面形状が中心Cに対して対称な形状(例えば円形など)であってもよい。
【0048】
2.磁性体粒子操作用装置
図3は、本発明の一実施形態に係る磁性体粒子操作用装置100の構成例を示した正面図である。図4は、図3の磁性体粒子操作用装置100のB-B断面図である。この磁性体粒子操作用装置100(以下、「装置100」という。)は、図1及び図2に示す管状デバイス1が固定された状態で使用され、管状デバイス1の容器20内の液体試料に含まれる目的物質に対して粒子操作を行うためのものである。
【0049】
装置100は、その外形が筐体100aにより区画されている。筐体100aは、管状デバイス1を保持する容器保持部110が形成された本体101と、容器保持部110に保持されている管状デバイス1の容器20を押圧して固定するための容器押圧部102とを備えている。この例では、容器押圧部102が、本体101に対してヒンジ(図示せず)により回動可能に取り付けられた扉により構成されている。ただし、容器押圧部102は、容器保持部110に保持されている管状デバイス1を固定可能な構成であれば、本体101に対して回動可能な構成に限らず、本体101に対してスライド可能な構成や、本体101に対して着脱可能な構成などであってもよい。
【0050】
容器保持部110は、本体101の前面120に形成された凹部により構成されている。容器保持部110は、管状デバイス1の容器20における膨出部21を収容する第1収容部111と、直線部22を収容する第2収容部112とが、上下方向D1に連続して延びるように形成されている。また、容器保持部110は、直線部22が延びる方向(上下方向D1)に対して直交し、本体101の前面120に平行な方向である横方向D2の幅が、管状デバイス1に対応する幅となっている。
【0051】
具体的には、第1収容部111の横方向D2の幅W1は、容器20の膨出部21の幅よりも若干大きい。一方、第2収容部112の横方向D2の幅W2は、容器20の直線部22の幅よりも若干大きく、膨出部21の幅よりも小さい。また、第1収容部111及び第2収容部112は、容器20のテーパ部23に対応する角度で傾斜した絞り部113により接続されている。これにより、容器保持部110内に容器20を収容した状態では、容器20のテーパ部23が容器保持部110の絞り部113に引っ掛かり、吊り下げられた状態で保持されるようになっている。
【0052】
図4に示すように、容器20は、平坦面221が横方向D2に延び、凸湾曲面222が平坦面221よりも背面側に位置するようにして、容器保持部110内に収容される。容器保持部110の第2収容部112の内面には、横方向D2の両側から内側に向かって突出する段差部114が形成されている。この段差部114における第1収容部111の横方向D2の幅W3は、前面120側における幅W2よりも小さく、容器20の直線部22の横方向D2の幅よりも小さい。
【0053】
したがって、前面120側から容器保持部110内に収容される容器20の直線部22は、その凸湾曲面222側が段差部114に当接した状態となる。このとき、容器20の平坦面221は、容器保持部110から本体101の前面120よりも前方に張り出した状態となる。この状態で、容器押圧部102を構成する扉を閉じることにより、図4に示すように、本体101の前面120に対向する当接面121を容器20の平坦面221に当接させ、背面側に押圧することができる。これにより、当接面121と段差部114との間で容器20の直線部22を挟み込み、直線部22を強固に固定することができる。
【0054】
容器保持部110の背面側は開口しており、容器保持部110に対向するように磁石130が配置されている。磁石130は、容器保持部110に保持されている容器20に対して、外側(背面側)から近接している。この磁石130は、永久磁石からなり、上下方向D1に沿ってスライド可能に保持されている。
【0055】
磁石130は、容器20内の磁性体粒子13を磁力で引き付ける。これにより、図4に示すように凸湾曲面222側に磁性体粒子13が集められる。このようにして磁性体粒子13を磁石130側に引き付けた状態で、磁石130を上下方向D1に移動させることにより、容器20内の磁性体粒子13を磁力によって上下方向D1に移動させることができる。
【0056】
このように、磁石130は、磁場を変化させることにより容器20内の磁性体粒子13を移動させる磁場印加部を構成している。磁石130は、モータ等の駆動部によりスライドさせることができる。図4の例では、磁石130における容器20に対向する対向面131が、凹湾曲面により構成されている。対向面131は、容器20の凸湾曲面222に対応する曲率半径を有する凹湾曲面となっている。ただし、対向面131は、凹湾曲面により構成されるものに限らず、例えば平坦面などにより構成されていてもよい。
【0057】
磁石130は、磁性体粒子13の操作が可能であれば、その形状や大きさ、材質は特に限定されない。磁石130としては、永久磁石を用いる以外に電磁石を用いることも可能である。また、磁石130は、複数設けられていてもよい。磁石130は、容器20に対して相対移動することにより磁場を変化させるような構成であればよく、本実施形態のように磁石130が移動するような構成に限らず、容器20が移動するような構成であってもよい。
【0058】
3.磁性体粒子の操作
図5は、磁性体粒子13を操作する際の態様について説明するための模式図である。図5では、説明を分かりやすくするために、管状デバイス1の形状を簡略化して示している。図5Aにおいて、容器20の最上部の液体層11には、多数の磁性体粒子13が含まれている。このように、磁性体粒子13を液体層11中で分散させることにより、液体層11中に含まれる目的物質が磁性体粒子13に選択的に固定される。
【0059】
その後、図5Bに示すように、容器20の外周面に、磁力源である磁石130を近付けると、目的物質が固定された磁性体粒子13が、磁場の作用により、容器20内の磁石130側(凸湾曲面222側)に集められる。そして、図5Cに示すように、磁石130を容器20の外周面に沿って容器20の長手方向(上下方向)に移動させると、磁場の変化に追随して、磁性体粒子13も容器20の長手方向に沿って移動し、交互に重層された液体層11及びゲル状媒体層12を順次移動する。
【0060】
磁性体粒子13の周囲に液滴として物理的に付着している液体の大半は、磁性体粒子13がゲル状媒体層12の内部に進入する際に、磁性体粒子13の表面から脱離する。ゲル状媒体層12内への磁性体粒子13の進入及び移動により、ゲル状媒体層12が穿孔されるが、ゲルの復元力による自己修復作用により、ゲル状媒体層12の孔は直ちに塞がれる。そのため、磁性体粒子13による貫通孔を介したゲル状媒体層12への液体の流入は、ほとんど生じない。
【0061】
液体層11内で磁性体粒子13を分散させ、磁性体粒子13を液体層11内の液体と接触させることにより、磁性体粒子13への目的物質の固定、磁性体粒子13の表面に付着している不純物(夾雑物)を除去するための洗浄操作、磁性体粒子13に固定されている目的物質の反応、磁性体粒子13に固定されている目的物質の液体中への溶出等の操作が行われる。
【0062】
4.磁性体粒子操作用装置の外観
図6は、磁性体粒子操作用装置100の外観について説明するための概略正面図である。図6に示すように、容器押圧部102としての扉が閉じられ、容器押圧部102により管状デバイス1の容器20が押圧されて本体101内に固定された状態では、容器20の前方が容器押圧部102により覆われている。この図6の状態では、筐体100a(本体101及び容器押圧部102)の内部に磁石130及び容器保持部110が収容され、容器20の周囲が筐体100aにより完全に覆われているため、容器20に沿って相対移動する磁石130を外部から視認できない状態となっている。
【0063】
磁石130を移動させることにより磁性体粒子13を複数の液体層11に順次移動させる際には、各液体層11において異なる処理工程が行われる。本実施形態では、容器20の最上部の液体層11に磁石130が対向する状態で、目的物質が混合された溶解液を攪拌して目的物質を溶解させる溶解工程が行われる。容器20の最下部の液体層11に磁石130が対向する状態では、目的物質を溶出液に溶出させるための溶出工程が行われる。容器20の中間部の1つ又は複数(この例では2つ)の液体層11に磁石が対向する状態では、目的物質以外の不純物を除去するための洗浄工程が行われる。このように、本実施形態では、磁石130の位置に対応する複数の処理工程(溶解工程、洗浄工程、溶出工程)が順次実行される。
【0064】
筐体100aの前面には、複数の発光領域140a~140cを有する表示部140が設けられている。各発光領域140a~140cは、例えばLED(Light Emitting Diode)をそれぞれ備えており、個別に発光可能である。表示部140が筐体100aの前面に設けられているため、ユーザは、筐体100aに対して外部から表示部140の各発光領域140a~140cを視認可能である。ただし、表示部140を筐体100aの外部から視認可能であれば、筐体100aの前面に限らず、筐体100aの他の外面(側面や上面など)に表示部140が設けられていてもよい。上記のような並列配置したLEDによる表示に限らず、液晶表示器のようなもので表示されてもよいし、それらはプログレスバー状の表示であってもよい。この際、プログレスバーの表示は処理工程に限らず、処理時間と対応付けられてもよい。この場合、プログレスバーの長さと処理時間とが対応していてもよい。複数の発光領域140a~140cは、各処理工程に対応付けられていなくてもよい。また、発光領域の数は1つであってもよく、例えば実行中の処理工程に応じた色で発光領域を発光させてもよい。
【0065】
筐体100aの前面には、表示部140以外に、ユーザが操作可能なスタートキー150a及びスキップキー150bなどの操作部150が設けられている。表示部140と同様に、操作部150は筐体100aの前面に設けられた構成に限らず、筐体100aの他の外面(側面や上面など)に設けられていてもよい。ユーザが、容器押圧部102を構成する扉を閉じた状態でスタートキー150aを操作することにより、磁性体粒子13の粒子操作が開始され、複数の処理工程が順次実行される。また、ユーザは、複数の処理工程が順次実行されている途中でスキップキー150bを操作することにより、一部の処理工程を省略させて次の処理工程を実行させることができる。
【0066】
5.磁性体粒子操作用装置の電気的構成
図7は、磁性体粒子操作用装置100の電気的構成の一例を示したブロック図である。この磁性体粒子操作用装置100は、上述の表示部140及び操作部150の他に、駆動部160、開閉センサ170、制御部200及び記憶部300などを備えている。
【0067】
駆動部160は、磁石130を容器20に沿って上下方向D1に移動させるための機構であり、例えばモータなどを備えている。開閉センサ170は、容器押圧部102を構成する扉が閉じられているか否かを検知する。制御部200は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、CPUがプログラムを実行することにより、処理工程実行部201及び発光制御部202などとして機能する。記憶部300は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)又はハードディスクなどにより構成され、磁石130を移動させる処理工程の詳細(例えば処理内容や処理時間など)を保持している。
【0068】
処理工程実行部201は、駆動部160を制御して磁石130を上方から下方へと移動させることにより、磁石130の位置に対応する複数の処理工程を実行させる。処理工程実行部201は、操作部150のスタートキー150aが操作されたことに応答して、駆動部160の制御を開始させる。また、複数の処理工程が順次実行されている途中でスキップキー150bが操作された場合には、処理工程実行部201は、駆動部160を制御して磁石130を移動させることにより、そのとき実行されている処理工程の次の処理工程を実行させる。
【0069】
複数の処理工程が順次実行されている途中で、容器押圧部102を構成する扉が開かれた場合には、処理工程実行部201は、開閉センサ170からの検知信号に基づいて、駆動部160の制御を停止させ、実行中の処理工程を中断させる。その後、扉が閉じられた場合には、処理工程実行部201は、開閉センサ170からの検知信号に基づいて、駆動部160の制御を再開させてもよい。
【0070】
発光制御部202は、表示部140の動作を制御することにより、複数の発光領域140a~140cを個別に発光させる。本実施形態では、発光領域140aが溶解工程に対応し、発光領域140bが洗浄工程に対応し、発光領域140cが溶出工程に対応している。すなわち、順次実行される各処理工程に対応する各発光領域140a~140cが、各処理工程の実行順序と同じ順序で並べて配置されている(図6参照)。発光制御部202は、複数の処理工程が順次実行される際に、各処理工程に対応する発光領域140a~140cを順次発光させる。
【0071】
これにより、磁石130の位置に対応する複数の処理工程が順次実行される際に、各処理工程に対応して順次発光される発光領域140a~140cを外部から視認することができる。したがって、磁石130の位置が外部から視認できない状態であっても、実行中の処理工程の種類を判別することができる。
【0072】
具体的には、実行中の処理工程に対応する発光領域140a~140cが点灯し、次の処理工程が実行される際には、当該処理工程に対応する発光領域140a~140cが点灯するとともに、実行済みの処理工程に対応する発光領域140a~140cも点灯した状態のまま維持される。したがって、溶解工程中は発光領域140aのみが点灯し、洗浄工程中は発光領域140a,140bが点灯し、溶出工程中は発光領域140a~140cが点灯した状態となる。
【0073】
ただし、実行中の処理工程に対応する発光領域140a~140cのみが点灯され、実行済みの処理工程に対応する発光領域140a~140cは消灯されてもよい。また、各発光領域140a~140cは、点灯に限らず、点滅などの他の態様で発光されるような構成であってもよい。
【0074】
特に、本実施形態では、磁石130の位置が外部から視認できない状態であっても、洗浄液により不純物を除去するための処理工程(洗浄工程)が実行中であるか否かを判別することができる。したがって、洗浄工程が行われているタイミングや、洗浄工程が行われていないタイミングを正確に判別し、いずれかの処理工程の途中で容器20を取り出すことも可能となる。
【0075】
発光制御部202は、複数の発光領域140a~140cをそれぞれ異なる態様で発光させてもよい。例えば、順次実行される複数の処理工程のうち、途中で停止させるべきではない処理工程として予め定められた特定の処理工程が実行される際には、当該特定の処理工程に対応する発光領域140a~140cが、他の処理工程に対応する発光領域140a~140cとは異なる態様で発光されてもよい。これにより、実行中の処理工程が、途中で停止させるべきではない処理工程、又は、それ以外の処理工程のいずれであるかを、発光領域140a~140cの発光態様に基づいて容易に判別することができる。したがって、途中で停止させるべきではない処理工程の実行中に、誤って処理工程が停止され、容器20が取り出されるのを防止することができる。
【0076】
途中で停止させるべきではない処理工程は、任意であるが、例えば磁石130を上下方向D1に高速で往復移動させるような工程などであってもよい。また、異なる態様とは、例えば異なる色で点灯したり、短い間隔で点滅するなど、他の処理工程に対応する発光領域140a~140cよりもユーザが気付きやすい発光態様であることが好ましい。
【0077】
本実施形態では、各発光領域140a~140cが横方向に並べて配置されているが、これに限らず、上下方向などの他の方向に沿って各発光領域140a~140cが並べて配置されていてもよい。また、洗浄工程が複数の液体層11において行われる場合には、各液体層11での洗浄工程に対応付けて、別々に発光領域が設けられていてもよい。
【0078】
複数の処理工程が順次実行されている途中でスキップキー150bが操作され、次の処理工程が実行される場合には、発光制御部202は、当該処理工程に対応する発光領域140a~140cを発光させる。すなわち、発光制御部202が発光させる発光領域140a~140cと、実行中の処理工程とは、スキップキー150bが操作された場合でも常に対応している。
【0079】
このように、本実施形態では、操作部150(スキップキー150b)を操作することにより、順次実行される複数の処理工程の一部を省略させて、次の処理工程を実行させることができる。次の処理工程が実行される際には、当該処理工程に対応する発光領域140a~140cが発光されるため、一部の処理工程が省略された場合であっても、実行中の処理工程の種類を正確に判別することができる。
【0080】
6.変形例
以上の実施形態では、複数の液体層11の一部が、目的物質以外の不純物を除去するための洗浄液からなる層である場合について説明した。しかし、液体層11を構成する液体は任意であり、複数の液体層11の一部が、例えば目的物質に作用する試薬からなる層であってもよい。試薬としては、核酸を断片化させるための制限酵素や、断片化された核酸を反応させるための反応酵素などの酵素を例示することができるが、酵素に限らず他の試薬であってもよい。
【0081】
この場合、磁石130の位置が外部から視認できない状態であっても、目的物質に試薬を作用させるための処理工程(試薬工程)が実行中であるか否かを判別することができる。したがって、試薬工程が行われているタイミングや、試薬工程が行われていないタイミングを正確に判別し、いずれかの処理工程の途中で容器20を取り出すことも可能となる。
【0082】
前記試薬工程には、制限酵素を試薬として目的物質に作用させる制限酵素工程と、反応酵素を試薬として目的物質に作用させる反応酵素工程とが含まれていてもよい。この場合、制限酵素工程や反応酵素工程に対応する発光領域が順次発光されることにより、制限酵素工程が行われているタイミングや、反応酵素工程が行われているタイミングを正確に判別することができる。したがって、例えば制限酵素工程が行われた後、反応酵素工程が行われる前に、容器20を取り出すことも可能となる。
【0083】
上記のように試薬工程が制限酵素工程及び反応酵素工程を含む場合、ユーザによっては、制限酵素工程を省略して反応酵素工程を実行させることにより、核酸を断片化させることなく反応酵素と反応させたい場合がある。このような場合には、操作部150(スキップキー150b)を操作することにより、制限酵素工程を省略して反応酵素工程を実行させることができる。このような場合であっても、発光領域の発光を視認することにより、制限酵素工程が省略されて反応酵素工程が実行されていることを正確に判別することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 管状デバイス
11 液体層
12 ゲル状媒体層
13 磁性体粒子
20 容器
100 磁性体粒子操作用装置
100a 筐体
101 本体
102 容器押圧部
110 容器保持部
130 磁石
140 表示部
140a~140c 発光領域
150 操作部
150a スタートキー
150b スキップキー
200 制御部
201 処理工程実行部
202 発光制御部
300 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7