(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ボールねじのナットの製造方法及びボールねじの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20220208BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20220208BHJP
B21J 5/12 20060101ALI20220208BHJP
B21K 1/04 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16H25/22 C
B21J5/12 Z
B21K1/04
(21)【出願番号】P 2018146781
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 幹史
(72)【発明者】
【氏名】平田 清孝
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠司
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-249077(JP,A)
【文献】特開2003-033841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/00
B21J 5/00
B21K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に第1ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に第2ねじ溝を有するナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転動路に配置される複数のボールと、を備え、前記ナットは、前記ボールを前記転動路の一端から他端へ戻すボール循環溝を備えるボールねじのナットの製造方法であって、
前記ナットの内周面に沿う曲面状の基底面と前記基底面から突出する突起とを有する凸型を、前記ナットの内周面に押し付ける鍛造工程を備え、
前記鍛造工程において、前記基底面は、前記ボール循環溝の外縁に沿って形成される低隆起部よりも高く且つ前記ボール循環溝の外縁の端部に形成される4つの高隆起部に接するボールねじのナットの製造方法。
【請求項2】
前記凸型は、前記基底面と前記突起とを接続する曲面状の接続面を備える
請求項1に記載のボールねじのナットの製造方法。
【請求項3】
前記鍛造工程において、前記ナットの外周面に拘束型が配置され、
前記拘束型は、前記ナットの前記ボール循環溝の裏面に面する逃げ部を備える
請求項1又は2に記載のボールねじのナットの製造方法。
【請求項4】
前記鍛造工程の後、前記ボール循環溝の外縁に形成されるダレを除去するダレ除去工程を備える
請求項1から3のいずれか1項に記載のボールねじのナットの製造方法。
【請求項5】
前記ダレ除去工程は、前記ナットの内周面を研削又は切削する工程である
請求項4に記載のボールねじのナットの製造方法。
【請求項6】
前記鍛造工程における前記ナットの内径は、前記ボールねじにおいて前記ボールの中心の軌跡である円の直径の0.9倍以上1.0倍未満である
請求項4又は5に記載のボールねじのナットの製造方法。
【請求項7】
前記鍛造工程の前に、前記ナットを焼鈍する焼鈍工程を備える
請求項1から6のいずれか1項に記載のボールねじのナットの製造方法。
【請求項8】
外周面に第1ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に第2ねじ溝を有するナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転動路に配置される複数のボールと、を備え、前記ナットは、前記ボールを前記転動路の一端から他端へ戻すボール循環溝を備えるボールねじの製造方法であって、
前記ナットの内周面に沿う曲面状の基底面と前記基底面から突出する突起とを有する凸型を、前記ナットの内周面に押し付ける鍛造工程を備え、
前記鍛造工程において、前記基底面は、前記ボール循環溝の外縁に沿って形成される低隆起部よりも高く且つ前記ボール循環溝の外縁の端部に形成される4つの高隆起部に接するボールねじの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじのナットの製造方法及びボールねじの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直進運動に変換する装置としてボールねじが知られている。ボールねじは、ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、を備える。ボールねじの一例として、ナットの内周面にボールを戻すための経路としての凹部(ボール循環溝)を備えるボールねじが知られている。ボール循環溝は、例えば、外周面に突起を備える凸型をナットの内周面に押し付けることによって形成される。特許文献1及び特許文献2には、ボール循環溝を有するナットの製造方法の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-231925号公報
【文献】特開2013-76464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、凸型の突起をナットの内周面に押し付けると、ボール循環溝の周辺部が隆起する。凸型の突起をナットの内周面に押し付けることにより、ナットの外周面に配置された拘束型の逃げ部にナットの押し付けられた部分が流動する。しかし、凸型の形状、ボール循環溝のナット端面からの距離、又はナットの肉厚により流動し難い部分がある。その流動し難い部分が隆起するため、ボール循環溝の周辺部が隆起する。凸型が下死点にある時に凸型の突起を除く外周面がナットの内周面に接しない場合、ボール循環溝の周辺の隆起部が高くなる。このため、先に形成したボール循環溝の反対側に配置されるボール循環溝を形成する前に、工具をナットに挿入できるように、先に形成したボール循環溝の周辺の隆起部を削っておく必要が生じる。一方、凸型が下死点にある時に凸型の突起を除く外周面が隆起部の全周に接する場合、凸型に高い強度が必要となる。このため、容易にボール循環溝を形成できるナットの製造方法が求められている。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、容易にボール循環溝を形成できるボールねじのナットの製造方法及びボールねじの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の第一態様のボールねじのナットの製造方法は、外周面に第1ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に第2ねじ溝を有するナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転動路に配置される複数のボールと、を備え、前記ナットは、前記ボールを前記転動路の一端から他端へ戻すボール循環溝を備えるボールねじのナットの製造方法であって、前記ナットの内周面に沿う曲面状の基底面と前記基底面から突出する突起とを有する凸型を、前記ナットの内周面に押し付ける鍛造工程を備え、前記鍛造工程において、前記基底面は、前記ボール循環溝の外縁に沿って形成される低隆起部よりも高く且つ前記ボール循環溝の外縁の端部に形成される4つの高隆起部に接する。
【0007】
これにより、凸型の基底面が高隆起部を押さえ付けるので、高隆起部が低くなる。このため、先に形成したボール循環溝を形成する工程と、先に形成したボール循環溝とは反対側に配置されるボール循環溝を形成する工程との間に、先に形成したボール循環溝の高隆起部を除去する工程が不要となる。また、基底面がボール循環溝の外縁の全周に接しないので、凸型に生じる応力が低減される。このため、ボールねじのナットの製造方法は、凸型の寿命を長くできる。ボールねじのナットの製造方法は、容易にボール循環溝を形成できる。
【0008】
第一態様のボールねじのナットの製造方法の望ましい態様として、前記凸型は、前記基底面と前記突起とを接続する曲面状の接続面を備える。
【0009】
これにより、ボールねじのナットの製造方法は、ナットの内周面とボール循環溝との境界に生じるダレを小さくでき、且つ突起の破損を抑制できる。
【0010】
第一態様のボールねじのナットの製造方法の望ましい態様として、前記鍛造工程において、前記ナットの外周面に拘束型が配置され、前記拘束型は、前記ナットの前記ボール循環溝の裏面に面する逃げ部を備える。
【0011】
これにより、ボールねじのナットの製造方法は、ナットの内周面とボール循環溝との境界に生じるダレを小さくでき、且つ高隆起部をより低くできる。また、凸型に生じる応力が低減されるので、ボールねじのナットの製造方法は、凸型の寿命を長くできる。さらに、凸型に生じる応力が低減され、且つ高隆起部を低くできることにより、曲面状の接続面の曲率半径を小さくできる。このため、凸型の基底面を広くすることができる。これにより、凸型の基底面が確実に高隆起部を押さえ付けるので、ボールねじのナットの製造方法は、容易にボール循環溝を形成できる。
【0012】
第一態様のボールねじのナットの製造方法の望ましい態様として、前記鍛造工程の後、前記ボール循環溝の外縁に形成されるダレを除去するダレ除去工程を備える。
【0013】
これにより、鍛造工程においてナットの内周面とボール循環溝との境界に生じるダレが除去される。ボールねじのナットの製造方法によれば、ボールがボール循環溝に掬い上げられやすくなる。ボールねじのナットの製造方法によれば、ボールねじの作動を滑らかにできる。
【0014】
第一態様のボールねじのナットの製造方法の望ましい態様として、前記ダレ除去工程は、前記ナットの内周面を研削又は切削する工程である。
【0015】
これにより、ダレ除去工程は、ダレをより容易に除去することができる。
【0016】
第一態様のボールねじのナットの製造方法の望ましい態様として、前記鍛造工程における前記ナットの内径は、前記ボールねじにおいて前記ボールの中心の軌跡である円の直径の0.9倍以上1.0倍未満である。
【0017】
これにより、ボールねじのナットの製造方法は、ボールねじの作動をより滑らかにできる。
【0018】
第一態様のボールねじのナットの製造方法の望ましい態様として、前記鍛造工程の前に、前記ナットを焼鈍する焼鈍工程を備える。
【0019】
これにより、凸型がナットに押し付けられた時に、ナットに所望の変形が生じやすくなる。ボールねじのナットの製造方法は、より容易にボール循環溝を形成できる。
【0020】
本開示の第二態様のボールねじの製造方法は、外周面に第1ねじ溝を有するねじ軸と、内周面に第2ねじ溝を有するナットと、前記第1ねじ溝と前記第2ねじ溝との間の転動路に配置される複数のボールと、を備え、前記ナットは、前記ボールを前記転動路の一端から他端へ戻すボール循環溝を備えるボールねじの製造方法であって、前記ナットの内周面に沿う曲面状の基底面と前記基底面から突出する突起とを有する凸型を、前記ナットの内周面に押し付ける鍛造工程を備え、前記鍛造工程において、前記基底面は、前記ボール循環溝の外縁に沿って形成される低隆起部よりも高く且つ前記ボール循環溝の外縁の端部に形成される4つの高隆起部に接する。
【0021】
これにより、凸型の基底面が高隆起部を押さえ付けるので、高隆起部が低くなる。このため、先に形成したボール循環溝を形成する工程と、先に形成したボール循環溝とは反対側に配置されるボール循環溝を形成する工程との間に、先に形成したボール循環溝の高隆起部を除去する工程が不要となる。また、基底面がボール循環溝の外縁の全周に接しないので、凸型に生じる応力が低減される。このため、ボールねじの製造方法は、凸型の寿命を長くできる。ボールねじの製造方法は、容易にボール循環溝を形成できる。
【発明の効果】
【0022】
本開示のボールねじのナットの製造方法及びボールねじの製造方法よれば、容易にボール循環溝を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態のボールねじの断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態のボールねじのナットの断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態のボールねじのナットの製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態の鍛造工程を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、実施形態のナットの一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、下記実施形態において、前述したものと同様の構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は適宜省略することがある。
【0025】
(実施形態)
図1は、実施形態のボールねじの断面図である。
図2は、実施形態のボールねじのナットの断面図である。ボールねじ1は、回転運動を直進運動に変換する装置である。ボールねじ1は、例えば、自動車若しくは二輪車等の車両、又は船舶等に設けられる電動アクチュエータ等に用いられる。ボールねじ1は、上述した電動アクチュエータに限らず、様々な装置に適用される。
【0026】
図1に示すように、ねじ軸40と、ナット20と、ボール60と、を備える。ねじ軸40は、外周面に第1ねじ溝41を備える。第1ねじ溝41は、螺旋状の溝である。ねじ軸40は、ナット20を貫通する。ナット20は、内周面に第2ねじ溝21を備える。第2ねじ溝21は、螺旋状の溝である。第1ねじ溝41と第2ねじ溝21との間には、螺旋状の転動路11が形成される。ボール60は、転動路11に配置される。
【0027】
以下の説明において、ねじ軸40及びナット20の軸方向は、単に軸方向と記載される。軸方向に対する直交方向は、単に径方向と記載される。ねじ軸40及びナット20の回転軸Zを中心とした円に沿う方向は、単に周方向と記載される。
【0028】
図1及び
図2に示すように、ナット20は、複数のボール循環溝23として、第1ボール循環溝23aと、第2ボール循環溝23bと、第3ボール循環溝23cと、第4ボール循環溝23dと、を備える。ボール循環溝23の数は、必ずしも4つでなくてもよく、特に限定されない。ボール循環溝23は、ナット20の内周面25に設けられる略S字状の溝である。ボール循環溝23は、転動路11の一端と他端とを繋ぐ溝である。ボール循環溝23は、ボール60を転動路11の一端から他端へ戻す。ねじ軸40又はナット20が回転すると、ボール60は、転動路11とボール循環溝23とを無限循環する。
【0029】
図1及び
図2に示すように、4つのボール循環溝23は、軸方向において異なる位置に配置される。4つのボール循環溝23は、周方向において異なる位置に配置される。軸方向から見た場合、4つのボール循環溝23は、周方向において等間隔に配置される。
【0030】
図3は、実施形態のボールねじのナットの製造方法を示すフローチャートである。
図4は、実施形態の鍛造工程を説明するための模式図である。
図5は、実施形態の凸型の斜視図である。
図6は、実施形態のナットの一部を示す斜視図である。
図7は、
図6におけるA-A断面図である。
図8は、
図6におけるB-B断面図である。
図9は、
図6におけるC-C断面図である。
【0031】
図3に示すように、本実施形態のナット20の製造方法は、ナット20を焼鈍する焼鈍工程S1を備える。焼鈍工程S1においては、ナット20が加熱される。ナット20の材料は、鋼材である。例えば、ナット20の材料は、SCM420である。焼鈍工程S1を経た後のナット20の硬さは、HRB60以上HRB90以下である。
【0032】
図3に示すように、本実施形態のナット20の製造方法は、焼鈍工程S1の後に、第1鍛造工程S2を備える。例えば、第1鍛造工程S2において、第1ボール循環溝23aが形成される。
図4に示すように、第1鍛造工程S2において、凸型95がナット20の内周面25に押し付けられる。第1鍛造工程S2におけるナット20の内径D20は、ボールねじ1においてボール60の中心の軌跡である円の直径D60(
図1参照)の0.9倍以上1.0倍未満である。直径D60は、BCD(Ball Center Diameter)と呼ばれる。第1鍛造工程S2においては、
図4に示すように、拘束型81と、下型83と、上型85と、ケース91と、工具93と、凸型95が用いられる。
【0033】
図4に示すように、拘束型81は、ナット20の外周面29を覆うように配置される。拘束型81は、ナット20の外周面29を拘束する。
図7から
図9に示すように、拘束型81は、逃げ部813を備える。逃げ部813は、ナット20のボール循環溝23の裏面に面する溝である。下型83は、ナット20の一方の端面を覆うように配置される。下型83は、ナット20の下端面を拘束する。上型85は、ナット20の他方の端面を覆うように配置される。上型85は、ナット20の上端面を拘束する。
【0034】
図4に示すように、ケース91は、ナット20の内側に挿入される。ケース91は、円筒状であって、縦穴911と、横穴913と、を備える。縦穴911は、ケース91の一方の端面から他方の端面にわたる穴である。横穴913は、ケース91の外周面と内周面とを繋ぐ穴である。工具93は、棒状の部材であって、例えばマンドレルである。工具93は、縦穴911に挿入される。工具93は、縦穴911に挿入される方の端部に斜面939を備える。
【0035】
図4に示すように、凸型95は、ケース91の横穴913に配置される。
図4及び
図5に示すように、凸型95は、基底面951と、突起953と、接続面955と、斜面959と、を備える。基底面951は、ナット20の内周面25に沿う曲面状の表面である。突起953は、基底面951から突出する。突起953は、ボール循環溝23に対応する形状を有する。突起953は、略S字状である。接続面955は、基底面951と突起953とを接続する曲面状の表面である。
図7から
図9に示すように、基底面951及び突起953を含む断面において、接続面955は、曲線を描く。斜面959は、基底面951の裏面である。斜面959は、工具93の斜面939に接する。
【0036】
図4に示すように、第1鍛造工程S2において、工具93が軸方向に移動する。工具93の斜面939が凸型95の斜面959に接することによって、凸型95が径方向に移動する。凸型95の突起953がナット20の内周面25に押し付けられることによって、内周面25が塑性変形する。これにより、内周面25にボール循環溝23が形成される。
【0037】
図7から
図9に示すように、第1鍛造工程S2においてボール循環溝23の形成に伴って、ボール循環溝23の外縁に低隆起部26及び高隆起部28が形成される。低隆起部26は、ボール循環溝23の外縁に沿うように形成される。高隆起部28は、第1高隆起部28aと、第2高隆起部28bと、第3高隆起部28cと、第4高隆起部28dと、を含む。第1高隆起部28aから第4高隆起部28dは、低隆起部26よりも高い。第1高隆起部28aから第4高隆起部28dは、低隆起部26よりも径方向の内側に突出する。
【0038】
第1高隆起部28aは、ボール循環溝23の外縁の周方向における端部Pa(
図6参照)に形成される。第2高隆起部28bは、ボール循環溝23の外縁の周方向における端部Pb(
図6参照)に形成される。第3高隆起部28c、ボール循環溝23の外縁の周方向における端部Pc(
図6参照)に形成される。第4高隆起部28dは、ボール循環溝23の外縁の周方向における端部Pd(
図6参照)に形成される。
図6に示すように、端部Pbは、ボール循環溝23を挟んで端部Paとは反対側の位置である。端部Pdは、ボール循環溝23を挟んで端部Pcとは反対側の位置である。低隆起部26は、端部Pa、端部Pb、端部Pc及び端部Pdを除くボール循環溝23の外縁に形成される。
【0039】
図7から
図9は、工具93(
図4参照)が下死点にある時のナット20、拘束型81及び凸型95を示す。
図7に示すように、工具93が下死点にある時、凸型95の基底面951は、低隆起部26に接しない。工具93が下死点にある時、凸型95の基底面951と低隆起部26との間には隙間がある。
図8及び
図9に示すように、工具93が下死点にある時、凸型95の基底面951は、第1高隆起部28a、第2高隆起部28b、第3高隆起部28c及び第4高隆起部28dに接する。すなわち、工具93が下死点にある時、凸型95の基底面951は、4つの高隆起部28に接する。
【0040】
図7から
図9に示すように、第1鍛造工程S2においてボール循環溝23の形成に伴って、ナット20のボール循環溝23の裏面が逃げ部813に向かって突出する。逃げ部813の体積は、ナット20のボール循環溝23の裏面に生じる突出部の体積よりも大きい。
【0041】
図3に示すように、本実施形態のナット20の製造方法は、第1鍛造工程S2の後に、第2鍛造工程S3を備える。例えば、第2鍛造工程S3において、第2ボール循環溝23bが形成される。
図4に示すように、第2鍛造工程S3において、凸型95がナット20の内周面25に押し付けられる。第2鍛造工程S3において、第1鍛造工程S2と同様に、工具93が下死点にある時、凸型95の基底面951は、4つの高隆起部28に接する。
【0042】
図3に示すように、本実施形態のナット20の製造方法は、第2鍛造工程S3の後に、第3鍛造工程S4を備える。例えば、第3鍛造工程S4において、第3ボール循環溝23cが形成される。
図4に示すように、第3鍛造工程S4において、凸型95がナット20の内周面25に押し付けられる。第3鍛造工程S4において、第1鍛造工程S2と同様に、工具93が下死点にある時、凸型95の基底面951は、4つの高隆起部28に接する。
【0043】
仮に第1鍛造工程S2において凸型95の基底面951が高隆起部28に接しない場合、第1ボール循環溝23aの周辺の高隆起部28がより高くなる。この場合、第3鍛造工程S4において工具93を軸方向に移動させると、工具93が第1ボール循環溝23aの高隆起部28に干渉する可能性がある。このため、第3鍛造工程S4の前に、高隆起部28を取り除く工程が必要となる。これに対して、本実施形態では上述したように第1鍛造工程S2において凸型95の基底面951が高隆起部28に接するので、第1ボール循環溝23aの周辺の高隆起部28の高さが低減される。これにより、高隆起部28を取り除く工程を経ずに、第3鍛造工程S4に進むことが可能である。
【0044】
図3に示すように、本実施形態のナット20の製造方法は、第3鍛造工程S4の後に、第4鍛造工程S5を備える。例えば、第4鍛造工程S5において、第4ボール循環溝23dが形成される。
図4に示すように、第4鍛造工程S5において、凸型95がナット20の内周面25に押し付けられる。第4鍛造工程S5において、第1鍛造工程S2と同様に、工具93が下死点にある時、凸型95の基底面951は、4つの高隆起部28に接する。
【0045】
仮に第2鍛造工程S3において凸型95の基底面951が高隆起部28に接しない場合、第2ボール循環溝23bの周辺の高隆起部28がより高くなる。この場合、第4鍛造工程S5において工具93を軸方向に移動させると、工具93が第2ボール循環溝23bの高隆起部28に干渉する可能性がある。このため、第4鍛造工程S5の前に、高隆起部28を取り除く工程が必要となる。これに対して、本実施形態では上述したように第2鍛造工程S3において凸型95の基底面951が高隆起部28に接するので、第2ボール循環溝23bの周辺の高隆起部28の高さが低減される。これにより、高隆起部28を取り除く工程を経ずに、第4鍛造工程S5に進むことが可能である。
【0046】
図3に示すように、本実施形態のナット20の製造方法は、第4鍛造工程S5の後に、ボール循環溝23の外縁に形成されるダレ27を除去するダレ除去工程S6を備える。本実施形態において、ダレ除去工程S6は、ナット20の内周面25の一部又は全周を研削又は切削する工程である。ダレ除去工程S6は、全てのボール循環溝23が形成された後に行われる。ダレ除去工程S6において、ダレ27が全て除去されるように、ナット20の内周面25が研削又は切削される。ダレ27は、凸型95がナット20の内周面25に押し付けられた時に、内周面25とボール循環溝23との境界に形成される曲面状の角である。例えば、ダレ除去工程S6において、
図7から
図9に示すラインLに沿ってナット20の内周面が研削又は切削される。
【0047】
ダレ除去工程S6の後、例えば切削加工等によって、ナット20の内周面25に第2ねじ溝21が形成される。これにより、
図2に示すナット20が形成される。
【0048】
ナット20を製造した後、ボールねじ1が製造される。本実施形態のボールねじ1の製造方法は、ナット20を製造した後に、ナット20、ねじ軸40及びボール60を組み立てる組立工程を備える。
【0049】
なお、ナット20の製造方法において、必ずしも第1ボール循環溝23a、第2ボール循環溝23b、第3ボール循環溝23c、第4ボール循環溝23dの順に形成されなくてもよい。複数のボール循環溝23を形成する順番は、特に限定されない。例えば、第1鍛造工程S2において、第2ボール循環溝23b、第3ボール循環溝23c又は第4ボール循環溝23dが形成されてもよい。
【0050】
ナット20の製造方法は、必ずしも4つの鍛造工程(第1鍛造工程S2から第4鍛造工程S5)を備えていなくてもよい。ナット20の製造方法は、少なくとも1つの鍛造工程を備えていればよい。
【0051】
以上で説明したように、ボールねじ1は、外周面に第1ねじ溝41を有するねじ軸40と、内周面に第2ねじ溝21を有するナット20と、第1ねじ溝41と第2ねじ溝21との間の転動路11に配置される複数のボール60と、を備える。ナット20は、ボール60を転動路11の一端から他端へ戻すボール循環溝23を備える。ボールねじ1のナット20の製造方法は、ナット20の内周面25に沿う曲面状の基底面951と基底面951から突出する突起953とを有する凸型95を、ナット20の内周面25に押し付ける鍛造工程(第1鍛造工程S2、第2鍛造工程S3、第3鍛造工程S4及び第4鍛造工程S5)を備える。鍛造工程において、基底面951は、ボール循環溝23の外縁に沿って形成される低隆起部26よりも高く且つボール循環溝23の外縁の端部に形成される4つの高隆起部28に接する。
【0052】
これにより、凸型95の基底面951が高隆起部28を押さえ付けるので、高隆起部28が低くなる。このため、先に形成したボール循環溝23を形成する工程と、先に形成したボール循環溝23とは反対側に配置されるボール循環溝23を形成する工程との間に、先に形成したボール循環溝23の高隆起部28を除去する工程が不要となる。また、基底面951がボール循環溝23の外縁の全周に接しないので、凸型95に生じる応力が低減される。このため、ボールねじ1のナット20の製造方法は、凸型95の寿命を長くできる。ボールねじ1のナット20の製造方法は、容易にボール循環溝23を形成できる。
【0053】
ボールねじ1のナット20の製造方法において、凸型95は、基底面951と突起953とを接続する曲面状の接続面955を備える。
【0054】
これにより、ボールねじ1のナット20の製造方法は、ナット20の内周面25とボール循環溝23との境界に生じるダレを小さくでき、且つ突起953の破損を抑制できる。
【0055】
鍛造工程(第1鍛造工程S2、第2鍛造工程S3、第3鍛造工程S4及び第4鍛造工程S5)において、ナット20の外周面29に拘束型81が配置される。拘束型81は、ナット20のボール循環溝23の裏面に面する逃げ部813を備える。
【0056】
これにより、ボールねじ1のナット20の製造方法は、ナット20の内周面25とボール循環溝23との境界に生じるダレを小さくでき、且つ高隆起部28をより低くできる。また、凸型95に生じる応力が低減されるので、ボールねじ1のナット20の製造方法は、凸型95の寿命を長くできる。さらに、凸型95に生じる応力が低減され、且つ高隆起部28を低くできることにより、曲面状の接続面955の曲率半径を小さくできる。このため、凸型95の基底面951を広くすることができる。これにより、凸型95の基底面951が確実に高隆起部28を押さえ付けるので、ボールねじ1のナット20の製造方法は、容易にボール循環溝23を形成できる。
【0057】
ボールねじ1のナット20の製造方法は、鍛造工程(第1鍛造工程S2、第2鍛造工程S3、第3鍛造工程S4及び第4鍛造工程S5)の後、ボール循環溝23の外縁に形成されるダレ27を除去するダレ除去工程S6を備える。
【0058】
これにより、鍛造工程においてナット20の内周面25とボール循環溝23との境界に生じるダレが除去される。ボールねじ1のナット20の製造方法によれば、ボール60がボール循環溝23に掬い上げられやすくなる。ボールねじ1のナット20の製造方法によれば、ボールねじ1の作動を滑らかにできる。
【0059】
ボールねじ1のナット20の製造方法において、ダレ除去工程S6は、ナット20の内周面を研削又は切削する工程である。
【0060】
これにより、ダレ除去工程S6は、ダレ27をより容易に除去することができる。
【0061】
鍛造工程(第1鍛造工程S2、第2鍛造工程S3、第3鍛造工程S4及び第4鍛造工程S5)におけるナット20の内径D20(
図4参照)は、ボールねじ1においてボール60の中心の軌跡である円の直径D60(
図1参照)の0.9倍以上1.0倍未満である。
【0062】
これにより、ボールねじ1のナット20の製造方法は、ボールねじ1の作動をより滑らかにできる。
【0063】
ボールねじ1のナット20の製造方法は、鍛造工程(第1鍛造工程S2、第2鍛造工程S3、第3鍛造工程S4及び第4鍛造工程S5)の前に、ナット20を焼鈍する焼鈍工程S1を備える。
【0064】
これにより、凸型95がナット20に押し付けられた時に、ナット20に所望の変形が生じやすくなる。ボールねじ1のナット20の製造方法は、より容易にボール循環溝23を形成できる。
【0065】
ボールねじ1の製造方法は、ナット20の内周面25に沿う曲面状の基底面951と基底面951から突出する突起953とを有する凸型95を、ナット20の内周面25に押し付ける鍛造工程(第1鍛造工程S2、第2鍛造工程S3、第3鍛造工程S4及び第4鍛造工程S5)を備える。鍛造工程において、基底面951は、ボール循環溝23の外縁に沿って形成される低隆起部26よりも高く且つボール循環溝23の外縁の端部に形成される4つの高隆起部28に接する。
【0066】
これにより、凸型95の基底面951が高隆起部28を押さえ付けるので、高隆起部28が低くなる。このため、先に形成したボール循環溝23を形成する工程と、先に形成したボール循環溝23とは反対側に配置されるボール循環溝23を形成する工程との間に、先に形成したボール循環溝23の高隆起部28を除去する工程が不要となる。また、基底面951がボール循環溝23の外縁の全周に接しないので、凸型95に生じる応力が低減される。このため、ボールねじ1の製造方法は、凸型95の寿命を長くできる。ボールねじ1の製造方法は、容易にボール循環溝23を形成できる。
【符号の説明】
【0067】
1 ボールねじ
11 転動路
20 ナット
21 第2ねじ溝
23 ボール循環溝
25 内周面
26 低隆起部
27 ダレ
28 高隆起部
28a 第1高隆起部
28b 第2高隆起部
28c 第3高隆起部
28d 第4高隆起部
40 ねじ軸
41 第1ねじ溝
60 ボール
81 拘束型
813 逃げ部
83 下型
85 上型
91 ケース
911 縦穴
913 横穴
93 工具
939 斜面
95 凸型
951 基底面
953 突起
955 接続面
959 斜面
D20 内径
D60 直径
L ライン
Pa、Pb、Pc、Pd 端部
S1 焼鈍工程
S2 第1鍛造工程
S3 第2鍛造工程
S4 第3鍛造工程
S5 第4鍛造工程
S6 ダレ除去工程
Z 回転軸