IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特許7020346ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板
<>
  • 特許-ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板 図1
  • 特許-ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板 図2
  • 特許-ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板 図3
  • 特許-ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板 図4
  • 特許-ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/42 20060101AFI20220208BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C30B29/42
C30B11/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018159471
(22)【出願日】2018-08-28
(62)【分割の表示】P 2018514487の分割
【原出願日】2017-07-04
(65)【公開番号】P2019014647
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 寛
(72)【発明者】
【氏名】秋田 勝史
(72)【発明者】
【氏名】石川 幸雄
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】P.Rudolph.et.al,Growth and characterization of GaAs crystals Produced by the VCz method without boric oxide encapsulation,Crystal Growth,vol 292,2006年,P532-537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/42
C30B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングピット密度が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、
酸素濃度が2.0×10 14 原子・cm -3 以上5.0×10 15 原子・cm -3 以下であり、
ホウ素濃度が4.1×1017原子・cm-3以下であり、
n型導電性不純物濃度が1.0×1015原子・cm-3以上1.0×1020原子・cm-3以下であり、
円柱状の直胴部を含み、前記直胴部の直径が100mm以上305mm以下であるヒ化ガリウム結晶体。
【請求項2】
エッチングピット密度が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、
酸素濃度が2.0×10 14 原子・cm -3 以上5.0×10 15 原子・cm -3 以下であり、
ホウ素濃度が4.1×1017原子・cm-3以下であり、
n型導電性不純物濃度が1.0×1015原子・cm-3以上1.0×1020原子・cm-3以下であり、
直径が100mm以上305mm以下であるヒ化ガリウム結晶基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒ化ガリウム結晶基板などの化合物半導体基板は、半導体デバイスの基板として好適に用いられており、その上に高品質のエピタキシャル層を成長させて高特性の半導体デバイスを形成できるものの開発が求められている。
【0003】
T. Bunger et al,“Active Carbon Control During VGF Growth of Semiinsulating GaAs”, presented at International Conference on Compound Semiconductor Mfg. (2003) 3.5(非特許文献1)は、半絶縁性のGaAs(ヒ化ガリウム)結晶を成長させるために、GaAs原料融液中の酸素濃度を調整することによりGaAs結晶の炭素濃度を調整することを開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】T. Bunger et al,“Active Carbon Control During VGF Growth of Semiinsulating GaAs”, presented at International Conference on Compound Semiconductor Mfg. (2003) 3.5
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のヒ化ガリウム結晶体は、エッチングピット密度が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満である。
【0006】
本開示のヒ化ガリウム結晶基板は、エッチングピット密度が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示のヒ化ガリウム結晶体の製造方法および製造装置の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、本開示のヒ化ガリウム結晶体の製造方法および製造装置で用いられる遮蔽板の一例を示す概略平面図である。
図3図3は、典型的なヒ化ガリウム結晶体の製造方法および製造装置の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、ヒ化ガリウム結晶基板におけるEPD(エッチングピット密度)と酸素濃度との関係を示すグラフである。
図5図5は、ヒ化ガリウム結晶基板における酸素濃度とホウ素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
T. Bunger et al,“Active Carbon Control During VGF Growth of Semiinsulating GaAs”, presented at International Conference on Compound Semiconductor Mfg. (2003) 3.5(非特許文献1)に開示されたGaAs結晶の製造においては、GaAs原料融液中の酸素濃度が高く、添加したドーパント(たとえばC(炭素))と反応して、ドーパントの取り込み量が少なくなり、GaAs結晶の絶縁性または導電性の調整が効率的でないという問題点があった。また、GaAs原料融液中の酸素濃度が高いと、成長させたGaAs結晶が硬化し、加工の際に割れやすく加工歩留まりが低下するという問題点があった。
【0009】
そこで、本開示は、上記問題点を解決するため、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりの高いヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりの高いヒ化ガリウム結晶体およびヒ化ガリウム結晶基板を提供できる。
【0011】
[実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0012】
[1]本発明のある態様にかかるヒ化ガリウム結晶体は、エッチングピット密度が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満である。本態様のヒ化ガリウム結晶体は、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0013】
[2]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶体は、酸素濃度を2.0×1014原子・cm-3以上5.0×1015原子・cm-3以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶体は、酸素濃度がさらに極めて低いため、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0014】
[3]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶体は、円柱状の直胴部を含み、直胴部の直径を100mm以上305mm以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶体は、直胴部の直径が100mm以上305mm以下と大きくてもエッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0015】
[4]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶体は、n型導電性不純物濃度を1.0×1015原子・cm-3以上1.0×1020原子・cm-3以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶体は、n型導電性を有し、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0016】
[5]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶体は、比抵抗を1.2×107Ω・cm以上5.0×108Ω・cm以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶体は、半絶縁性を有し、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、絶縁性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0017】
[6]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶体を、ホウ素濃度が1.0×1019原子・cm-3以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶体は、ドーパントの活性化率が高いため、エピタキシャル成長後の品質が良く、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0018】
[7]本発明の別の態様にかかるヒ化ガリウム結晶基板は、エッチングピット密度が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満である。本態様のヒ化ガリウム結晶基板は、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0019】
[8]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶基板は、酸素濃度を2.0×1014原子・cm-3以上5.0×1015原子・cm-3以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶基板は、酸素濃度がさらに極めて低いため、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0020】
[9]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶基板は、直径を100mm以上305mm以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶基板は、直径が100mm以上305mm以下と大きくてもエッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、絶縁性または導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0021】
[10]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶基板は、n型導電性不純物濃度を1.0×1015原子・cm-3以上1.0×1020原子・cm-3以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶基板は、n型導電性を有し、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0022】
[11]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶基板は、比抵抗を1.2×107Ω・cm以上5.0×108Ω・cm以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶基板は、半絶縁性を有し、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、絶縁性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0023】
[12]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶基板は、ホウ素濃度を1.0×1019原子・cm-3以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶基板は、ドーパントの活性化率が高いため、エピタキシャル成長後の品質が良く、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、導電性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0024】
[13]本態様にかかるヒ化ガリウム結晶基板は、エッチングピット密度を10個・cm-2以上10000個・cm-2以下とし、酸素濃度を2.0×1014原子・cm-3以上5.0×1015原子・cm-3以下とし、ホウ素濃度を1.0×1019原子・cm-3以下とし、直径を100mm以上305mm以下とすることができる。かかるヒ化ガリウム結晶基板は、かかるヒ化ガリウム結晶基板は、直径が100mm以上305mm以下と大きくても、エッチングピット密度および酸素濃度が極めて低いため、絶縁性の効率的な調整が可能であり加工の際の割れが抑制されて加工歩留まりが高い。
【0025】
[実施形態の詳細]
<実施形態1:ヒ化ガリウム結晶体>
本実施形態のGaAs(ヒ化ガリウム)結晶体は、EPD(エッチングピット密度)が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満である。本態様のGaAs結晶体は、EPDおよび酸素濃度が極めて低い。EPDが10個・cm-2以上10000個・cm-2以下と低いことにより、GaAs結晶体は加工の際の割れやすさが抑制され加工歩留まりが高くなる。また、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満と極めて低いことにより、GaAs結晶の絶縁性または導電性の効率的な調整が可能となる。
【0026】
(エッチングピット密度)
EPD(エッチングピット密度)とは、結晶表面を化学薬品で処理することにより表面に発生する腐食孔(エッチングピット)の単位面積当たりの個数をいう。本実施形態のGaAs結晶体のEPDは、具体的には、25質量%のKOH(水酸化ナトリウム)水溶液により350℃で30分間処理したときに表面に発生する腐食孔の単位面積当たりの個数をいう。本実施形態のGaAs結晶体のEPDは、10個・cm-2以上10000個・cm-2以下である。GaAs結晶体の加工の際の割れやすさを抑制する観点から、10000個・cm-2以下であり、7000個・cm-2以下が好ましく、4000個・cm-2以下がより好ましい。GaAs結晶体の現在の製造技術レベルから10個・cm-2以上である。
【0027】
(酸素濃度)
酸素濃度は、CPAA(荷電粒子放射化分析法)により測定する。CPAAとは、高エネルギーの荷電粒子を衝撃して生成する放射性核種から放出される放射線を計測して、対象とする元素を定量する放射化分析である。GaAs結晶体の酸素濃度の定量には、荷電粒子として3Heなどが用いられる。酸素濃度の測定は、SIMS(二次イオン質量分析法)によっても可能であるが、SIMSの検出限界が1×1016原子・cm-3程度であるのに対し、CPAAの検出限界は2.0×1014原子・cm-3程度であるため、2.0×1014原子・cm-3以上7.0×1015原子・cm-3未満程度の低い酸素濃度の精密測定に好適である。
【0028】
酸素濃度のCPAAに用いたのは、3HeとGaAs結晶体中の酸素16Oの核反応により生成し、半減期109.73分でβ+崩壊する18Fである。3He照射後のGaAs結晶体を酸溶解し、KBF4(テトラフルオロ硼酸カリウム)沈殿法により生成した18Fを化学分離した。18Fのβ+崩壊の際に陽電子消滅で発生する511keVのガンマ線を、NaI検出器で測定し、最小二乗法により照射終了後規定時間でのカウント数をもとめる。標準サンプルSiO2で同様に求めた規定時間後のカウント数を用いて、補正することで、酸素濃度に換算する。
【0029】
本実施形態のGaAs結晶体の酸素濃度は、7.0×1015原子・cm-3未満である。GaAs結晶の絶縁性または導電性の効率的な調整を可能とする観点から、7.0×1015原子・cm-3未満であり、5.0×1015原子・cm-3以下が好ましく、3.0×1015原子・cm-3以下がより好ましい。GaAs結晶体の現在の製造技術レベルから、2.0×1014原子・cm-3以上である。
【0030】
(直胴部の直径)
本実施形態のGaAs結晶体は、特に制限はないが、後述のようにVB(垂直ブリッヂマン)法、VGF(垂直温度傾斜凝固)法などのボート法により製造される場合が多いため、円柱状の直胴部を含み、直胴部の直径が100mm以上305nm以下であることが好ましい。かかるGaAs結晶体は、直胴部の直径が100mm以上305mm以下と大きくてもエッチングピット密度および酸素濃度が極めて低い。大型のGaAs結晶体であってもEPDおよび酸素濃度が低い観点から、100mm以上が好ましく、150mm以上がより好ましい。現在の製造技術レベルから305mm以下が好ましく、204mm以下がより好ましい。
【0031】
(n型導電性不純物濃度)
本実施形態のGaAs結晶体は、n型導電性を有しEPDおよび酸素濃度が極めて低い観点から、n型導電性不純物濃度(GaAs結晶体にn型導電性を付与する不純物の濃度)が1.0×1015原子・cm-3以上1.0×1020原子・cm-3以下が好ましい。n型導電性不純物濃度は、GaAs結晶体にn型導電性を効果的に付与する観点から、1.0×1015原子・cm-3以上が好ましく、1.0×1017原子・cm-3以上がより好ましい。ドーパントの活性化率の低下を避ける観点から、1.0×1020原子・cm-3以下が好ましく、5.0×1018原子・cm-3以下がより好ましい。n型導電性不純物は、特に制限はないが、GaAs結晶体にn型導電性を効果的に付与する観点から、ケイ素が好ましい。ケイ素濃度は、GDMS(グロー放電質量分析法)により測定する。
【0032】
(比抵抗)
本実施形態のGaAs結晶体は、半絶縁性を有しEPDおよび酸素濃度が極めて低い観点から、比抵抗が1.2×107Ω・cm以上5.0×108Ω・cm以下が好ましく、5.0×107Ω・cm以上5.0×108Ω・cm以下がより好ましい。比抵抗は、van der Pauw法によるホール測定により測定する。
【0033】
(半絶縁性不純物濃度)
本実施形態のGaAs結晶体に半絶縁性を付与する半絶縁性不純物は、特に制限はないが、GaAs結晶体に半絶縁性を効果的に付与する観点から、炭素が好ましい。GaAs結晶体に比抵抗が1.2×107Ω・cm以上5.0×108Ω・cm以下の半絶縁性を付与する観点から、炭素濃度は5.0×1014原子・cm-3以上1.5×1016原子・cm-3以下が好ましく、8.0×1014原子・cm-3以上1.3×1016原子・cm-3以下がより好ましい。GaAs結晶体の酸素濃度が低いほど炭素が効果的に添加できるため、炭素濃度を高める観点からも酸素濃度は低いほど好ましい。炭素濃度は、CPAA(荷電粒子放射化分析法)により測定する。
【0034】
(ホウ素濃度)
本実施形態のGaAs結晶体は、後述のようにVB(垂直ブリッヂマン)法、VGF(垂直温度傾斜凝固)法などの坩堝を用いたボート法により製造され、かかる坩堝は一般的にホウ素を含んでいる(坩堝は一般にPBN(熱分解窒化ホウ素)が用いられ、GaAs原料に接する内壁面には封止材としてホウ素酸化物膜が用いられる)ため、ホウ素を含んでいる。このため、本実施形態のGaAs結晶体はホウ素が含まれる。本実施形態のGaAs結晶体のホウ素濃度は、GaAs結晶体のドーパント活性化率の低下を防ぐ観点から、1.0×1019原子・cm-3以下が好ましく、8.0×1018原子・cm-3以下がより好ましい。また、現在の製造技術レベルから好ましくは5.0×1016原子・cm-3以上である。ホウ素濃度は、GDMS(グロー放電質量分析法)により測定する。
【0035】
(ヒ化ガリウム結晶体の製造装置)
図1を参照して、本実施形態のGaAs(ヒ化ガリウム)結晶体の製造装置は、特に制限はないが、EPDが10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満であるGaAs結晶体を効率よく製造する観点から、坩堝21と、坩堝保持台22と、封止材23と、ヒータ24a,24bと、遮蔽板25と、チャンバー26と、を含むことが好ましい。
【0036】
坩堝21は、種結晶保持部と、種結晶保持部上に接続される結晶成長部と、を含む。種結晶保持部は、結晶成長部に接続される側に開口し、その反対側に底壁が形成された中空円筒状の部分であり、当該部分においてGaAs種結晶11を保持できる。結晶成長部は、軸方向小径側において種結晶保持部に接続される円錐状の円錐部と、円錐部の軸方向大径側に接続される中空円筒状の直胴部と、を含む。結晶成長部は、その内部においてGaAs原料13を保持するとともに、溶融状態になるように加熱されたGaAs原料13を凝固させることによりGaAs結晶体を成長させる機能を有する。
【0037】
ここで、坩堝21を構成する材料は、原料溶融時の温度に耐え得る機械的強度が高い材料であれば特に制限はなく、たとえば、PBN(熱分解窒化ホウ素)が好適に採用できる。また、坩堝21の内壁面には、内壁面へのGaAsの固着を防止する観点から、封止材として、B23膜などのホウ素酸化物膜などの酸化膜21cを形成することが好ましい。たとえば、PBNで構成されている坩堝21においては、50体積%以上の酸素含有雰囲気中1000℃以上の高温で処理することにより、坩堝21の内壁面上にB23膜を形成することができる。
【0038】
封止材23を構成する材料は、原料溶融時の温度に耐え得る材料であれば特に制限はなく、B23などのホウ素酸化物が好適に採用できる。
【0039】
ヒータ24a,24bは、GaAs原料13の融解および凝固を適切に制御するために通常複数配置されるが、成長させるGaAs結晶体中のEPDおよび酸素濃度を低減する観点から、ヒータ間隙間は少なくすることが好ましく、1とすることが好ましい。すなわち、ヒータ数は少なくすることが好ましく、2とすることが好ましい。
【0040】
遮蔽板25は、成長させるGaAs結晶体中の酸素濃度を低減する観点から、GaAs原料13と封止材23との間に配置することが好ましい。遮蔽板25を構成する材料は、原料溶融時の温度に耐え得る機械的強度が高い材料であれば特に制限はなく、たとえば、PBN(熱分解窒化ホウ素)が好適に採用できる。遮蔽板25の遮蔽率(坩堝21の直胴部の軸方向に垂直な断面積に対する遮蔽板の面積の百分率をいう、以下同じ。)は、成長させるGaAs結晶体中のEPDおよび酸素濃度を低減するとともに坩堝の破損を防止する観点から、75%以上100%以下が好ましく、90%以上98%以下がより好ましい。なお、図2を参照して、遮蔽率の調整のため、遮蔽板25は、開口部25oを有していてもよい。
【0041】
(ヒ化ガリウム結晶体の製造方法)
図1を参照して、本実施形態のGaAs(ヒ化ガリウム)結晶体の製造方法は、特に制限はないが、EPDおよび酸素濃度が低いGaAs結晶体を効率よく成長させる観点から、上記の製造装置20を用いて、VB(垂直ブリッヂマン)法、VGF(垂直温度傾斜凝固)法などのボート法によることが好ましい。さらに、直胴部の直径の大きなGaAs結晶体を製造する観点から、VB法がより好ましい。具体的には、本実施形態のGaAs結晶体の製造方法は、好ましくは、GaAs種結晶装入工程、GaAs原料装入工程、遮蔽板配置工程、封止材配置工程、および結晶成長工程を含む。
【0042】
製造装置20を用いて、まず、GaAs種結晶装入工程において、坩堝21の種結晶保持部の内部にGaAs種結晶11を装入する。次いで、GaAs原料装入工程において、坩堝21の結晶成長部(円錐部および直胴部)の内部にGaAs原料13を装入する。ここで、GaAs原料13は、高純度(たとえば99.9質量%以上)のGaAsであれば特に制限はなく、GaAs多結晶体、GaAs単結晶の物性不良部分などが好適に用いられる。次いで、遮蔽板配置工程において、坩堝21内のGaAs原料13上に遮蔽板25を配置する。次いで、封止材配置工程において、坩堝21内の遮蔽板25上に封止材23を配置する。
【0043】
次に、結晶成長工程において、GaAs種結晶11、GaAs原料13、遮蔽板25、および封止材23がこの順に下から上に内部に配置された坩堝21を結晶装置20内に装填する。坩堝21は坩堝保持台22により保持され、坩堝21を取り囲むようにヒータ24a,24bが配置されている。次いで、ヒータ24a,24bに電流を供給することにより、坩堝21を加熱する。これにより、GaAs原料13は溶融して融液となるとともに、封止材23も溶融して液体封止材となる。また、坩堝21の内壁には、坩堝21を構成する材料の酸化により酸化膜が形成されている。
【0044】
このとき、GaAs原料13の融液は、ヒータ24aとヒータ24bとの間のヒータ間隙間24aboの存在により形成される局所的な低温部により発生する対流によって撹拌される。撹拌されたGaAs原料13は、坩堝21の内壁の酸化膜21cおよび/または封止材23と接触することにより、坩堝21の内壁の酸化膜21cおよび/または封止材23に含まれている酸素がGaAs原料13に取り込まれると考えられる。ここで、図3を参照して、典型的な製造装置30においては、3つ以上のヒータ34a,34b,34c,34dが配置されていることから、2つ以上のヒータ間隙間34abo,34bco,34cdoが存在するため、それらにより形成される局所的な低温部により発生する対流が多くなり、坩堝31の内壁の酸化膜31cおよび/または封止材33に含まれている酸素がGaAs原料13に多量に取り込まれる。これに対して、図1を参照して、本実施形態の製造装置20においては、2つのヒータ24a,24bが配置されているに過ぎないことから、1つのヒータ間隙間24aboのみが存在するに過ぎないため、それにより形成される局所的な低温部により発生する対流は少なく、GaAs原料13への酸素の取り込みが抑制される。
【0045】
さらに、本実施形態の製造装置20においては、GaAs原料13と封止材23との間に遮蔽板25が配置されていることから、GaAs原料13と封止材23との接触が抑制されるため、GaAs原料13への酸素の取り込みが抑制される。
【0046】
次に、VB法においては、坩堝21を軸方向下側に向けて移動させることにより、VGF法においてはヒータ24a,24bの温度を調節することにより、坩堝21の軸方向においてGaAs種結晶11側の温度が相対的に低くGaAs原料13側の温度が相対的に高い温度勾配を形成する。これにより、溶融していたGaAs原料13は、GaAs種結晶11側から順に凝固することによりGaAs結晶が成長する。結晶成長部の円錐部および胴直部内の溶融していたGaAs原料13がこの順にすべて凝固することによりGaAs結晶体が形成される。VB法において、坩堝21の移動速度(引き下げ速度)は、特に制限はなく、たとえば、2.0mm/h以上5.0mm/h以下とすることができる。このようにして、EPDおよび酸素濃度が極めて低いGaAs結晶体が得られる。
【0047】
なお、本実施形態のGaAs結晶体の製造方法においては、成長する結晶体の直胴部の直径が大きくなると、GaAs融液中に温度差が発生しやすくなり、対流による攪拌がより起こり易くなるため、GaAs結晶体中の酸素濃度はより高くなりやすい。本実施形態のGaAs結晶体の製造方法によれば、遮蔽板設置による原料と封止材との接触面積の低減と、適正なヒータ構造および熱環境設計による対流低減のため、GaAs原料への酸素取り込みを抑制できる。
【0048】
<実施形態2:ヒ化ガリウム結晶基板>
本実施形態のGaAs(ヒ化ガリウム)結晶基板は、EPD(エッチングピット密度)が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が1.0×1016原子・cm-3未満である。本実施形態のGaAs結晶体は、EPDおよび酸素濃度が極めて低い。EPDが10個・cm-2以上10000個・cm-2以下と低いことにより、GaAs結晶体は加工の際の割れやすさが抑制され加工歩留まりが高くなる。また、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満と極めて低いことにより、GaAs結晶の絶縁性または導電性の効率的な調整が可能となる。
【0049】
本実施形態のGaAs結晶基板は、実施形態1のGaAs結晶体と同様に、酸素濃度が2.0×1014原子・cm-3以上5.0×1015原子・cm-3以下であることが好ましく、直径が100mm以上305mm以下であることが好ましく、n型導電性不純物濃度を1.0×1015原子・cm-3以上1.0×1020原子・cm-3以下とすることができ、比抵抗を1.2×107Ω・cm以上5.0×108Ω・cm以下とすることができ、ホウ素濃度が1.0×1019原子・cm-3以下であることが好ましい。本実施形態のGaAs結晶基板は、後述のように、実施形態1のGaAs結晶体を加工および研磨して得られるものであるため、実施形態1のGaAs結晶体と同様の物性(EPD、酸素濃度、直径、n型導電性不純物濃度、比抵抗、およびホウ素濃度)を有する。このため、これらの物性については繰り返さない。
【0050】
本実施形態のGaAs結晶基板は、エッチングピット密度が10個・cm-2以上10000個・cm-2以下であり、酸素濃度が2.0×1014原子・cm-3以上5.0×1015原子・cm-3以下であり、ホウ素濃度が1.0×1019原子・cm-3以下であり、直径が100mm以上305mm以下であることが好ましい。かかるGaAs結晶基板は、直径が100mm以上305mm以下と大きくても、エッチングピット密度が低いためGaAs結晶の加工歩留まりが高く、酸素濃度が極めて低いためGaAs結晶の絶縁性または導電性の効率的な調整が可能である。
【0051】
本実施形態のGaAs結晶基板の製造方法は、特に制限はないが、EPDおよび酸素濃度が低いGaAs結晶基板を効率よく形成する観点から、実施形態1のGaAs結晶体を用いて、加工工程および研磨工程を含むことが好ましい。加工工程において、GaAs結晶体の外周を研削し、研削後のGaAs結晶体を任意に特定される方向にスライスすることにより、任意に特定される面方位の主表面を有するGaAs結晶基板が得られる。次いで、研磨工程において、GaAs結晶基板の主表面を機械的研磨および/または化学機械的研磨(CMP)することにより、主表面が鏡面に研磨されたGaAs結晶基板が得られる。
【実施例
【0052】
(実施例I)
本願の明細書および図面中の実施例Iにおいて、以下の実施例I-1およびI-4を参考例I-1およびI-4とそれぞれ読み替える。
【0053】
1.GaAs結晶体の作製
図1に示すような製造装置を用いて、VB法によりn型導電性不純物としてSi(ケイ素)を添加することによりケイ素濃度の異なる4つのn型導電性のGaAs結晶体を成長させた(実施例I-1~I-5)。GaAs原料として純度99.9質量%のGaAs多結晶を用いた。遮蔽板としてPBN板を用いた。封止材としてB23を用いた。遮蔽板の遮蔽率およびヒータ間隙間の数は表1に示すとおりとした。結晶成長界面の結晶成長方向の温度勾配が1℃/mm以下となるように坩堝内の温度分布を調整して、GaAs結晶体を成長させた。
【0054】
2.GaAs結晶基板の作製
得られたGaAs結晶体の外周を研削し結晶成長方向に垂直な面でスライスした後、主表面を機械的研磨および化学機械的研磨(CMP)することにより、表1に示す直径で厚さが325μm以上700μm以下のGaAs結晶基板を作製した(実施例I-1~I-5)。得られたGaAs結晶基板のEPD、酸素濃度、ケイ素濃度、ホウ素濃度、および比抵抗をそれぞれ測定した。EPDは、GaAs結晶基板を25質量%のKOH水溶液により350℃で30分間浸漬したときに表面に発生した腐食孔の単位面積当たりの個数を画像解析により測定した。酸素濃度は、CPAA(荷電粒子放射化分析法)により測定した。ケイ素濃度およびホウ素濃度は、GDMS(グロー放電質量分析法)により測定した。比抵抗は、van der Pauw法によるホール測定により測定した。結果を表1、図4および5にまとめた。ここで、図4および5は、実施例I-1~I-5以外の実施例を含む。
【0055】
(実施例II)
本願の明細書および図面中の実施例IIにおいて、実施例IIを参考例IIと読み替え、以下の実施例II-1~II-5を参考例II-1~II-5とそれぞれ読み替える。
【0056】
1.GaAs結晶体の作製
図1に示すような製造装置を用いて、VB法により半絶縁性不純物としてC(炭素)を添加することにより炭素濃度および比抵抗の異なる5つの半絶縁性のGaAs結晶体を成長させた(実施例II-1~II-5)。GaAs原料として純度99.9質量%のGaAs多結晶を用いた。遮蔽板としてPBN板を用いた。封止材としてB23を用いた。遮蔽板の遮蔽率およびヒータ間隙間の数は表2に示すとおりとした。結晶成長界面の結晶成長方向の温度勾配が1℃/mm以下となるように坩堝内の温度分布を調整して、GaAs結晶体を成長させた。
【0057】
2.GaAs結晶基板の作製
得られたGaAs結晶体の外周を研削し結晶成長方向に垂直な面でスライスした後、主表面を機械的研磨および化学機械的研磨(CMP)することにより、表2に示す直径で厚さが325μm以上700μm以下のGaAs結晶基板を作製した(実施例II-1~II-5)。得られたGaAs結晶基板のEPD、酸素濃度、炭素濃度、ホウ素濃度、および比抵抗をそれぞれ測定した。EPDは、GaAs結晶基板を25質量%のKOH水溶液により350℃で30分間浸漬したときに表面に発生した腐食孔の単位面積当たりの個数を画像解析により測定した。酸素濃度および炭素濃度は、CPAA(荷電粒子放射化分析法)により測定した。ホウ素濃度は、GDMS(グロー放電質量分析法)により測定した。比抵抗は、van der Pauw法によるホール測定により測定した。結果を表2、図4および5にまとめた。ここで、図4および5は、実施例II-1~II-5以外の実施例を含む。
【0058】
(比較例)
上記実施例IおよびIIとの対比のため、表3に示す製造方法および製造条件以外は、実施例I(n型導電性の場合)または実施例II(半絶縁性の場合)と同様にして、GaAs結晶体およびGaAs結晶基板を作製した(比較例RI-1~RI-3およびRII-1~RII-3)。なお、比較例RI-1および比較例RII-1は、LEC(液体封止型チョクラルスキー)法により製造したものであり、上記実施例IおよびIIと同様に、原料には純度99.9質量%のGaAs多結晶、半絶縁性不純物にはC(炭素)、n型導電性不純物にはSi(ケイ素)を用いた。得られたGaAs結晶基板のEPD、酸素濃度、ケイ素濃度もしくは炭素濃度、ホウ素濃度、および比抵抗をそれぞれ実施例Iまたは実施例IIと同様にして測定した。結果を表1、図4および5にまとめた。ここで、図4は、比較例RI-1~RI-3およびRII-1~RII-3以外の比較例を含む。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1~3および図4を参照して、実施例I-1~I-5および実施例II-1~II-5に示すように、n型導電性および半導電性のいずれの場合でも、EPDが10個・cm-2以上10000個・cm-2以下と極めて低く、かつ、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満と極めて低かったため、GaAs結晶体からGaAs結晶基板への加工歩留まりが90%以上と極めて高かった。これに対して、比較例RI-1およびRII-1に示すように、LEC法で製造したものは、n型導電性および半導電性のいずれの場合でも、EPDが10000個・cm-2より高かったため、GaAs結晶体からGaAs結晶基板への加工歩留まりが90%未満と低かった。また、比較例RI-2~RI-3およびRII-2~RII-3に示すように、従来のVB法で製造したものは、n型導電性および半導電性のいずれの場合でも、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3以上と高かったため、GaAs結晶体からGaAs結晶基板への加工歩留まりが90%未満と低かった。
【0063】
また、表1~3および図5を参照して、実施例I-1~I-5および実施例II-1~II-5においては、n型導電性および半導電性のいずれの場合でも、酸素濃度が7.0×1015原子・cm-3未満と極めて低く、かつ、ホウ素濃度が1.0×1019原子・cm-3以下と低いGaAs結晶基板が得られた。
【0064】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
11 InP種結晶、13 InP原料、21,31 坩堝、21c,31c 酸化膜、22,32 坩堝保持台、23,33 封止材、24a,24b,34a,34b,34c,34d ヒータ、24abo,34abo,34bco,34cdo ヒータ間隙間、25 遮蔽板、25o 開口部、26 チャンバー。
図1
図2
図3
図4
図5