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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】レジスト用インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20220208BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220208BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
C09D4/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018165155
(22)【出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2020037645
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝田 愛
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-265430(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132406(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有しない光重合性化合物と、酸性基を有する光重合性化合物と、酸性基を有しないゲル化剤と、光重合開始剤とを含有し、かつ、温度によりゾル・ゲル相転移することを特徴とするレジスト用インクジェットインク。
【請求項2】
25℃での粘度が1~1×10Pa・sの範囲内であり、かつ、40℃以上100℃未満の範囲内に相転移点を有することを特徴とする請求項1に記載のレジスト用インクジェットインク。
【請求項3】
前記ゲル化剤が、下記一般式(G1)及び(G2)で表される構造を有する化合物のうちの少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレジスト用インクジェットインク。
一般式(G1):R-CO-R
一般式(G2):R-COO-R
[式中、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数12以上の直鎖部分を持ち、かつ、分岐を持ってもよいアルキル鎖を表す。]
【請求項4】
前記ゲル化剤が、インク全体に対して0.5~5質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【請求項5】
前記酸性基を有する光重合性化合物として、カルボキシ基、リン酸基及びスルホン酸基から選ばれる酸性基を有する(メタ)アクリレート化合物を含有し、かつ、
当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して1~30質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【請求項6】
前記酸性基を有しない光重合性化合物として、分子量が300~1500の範囲内で、ClogP値が4.0~7.0の範囲内にある(メタ)アクリレート化合物を含有し、かつ、
当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して10~40質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【請求項7】
前記酸性基を有しない光重合性化合物として、分子量が300~1500の範囲内で、分子内に(-CH-CH-O-)で表されるユニット構造を3~14個有している(メタ)アクリレート化合物をさらに含有し、かつ、
当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して30~70質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする請求項6に記載のレジスト用インクジェットインク。
【請求項8】
着色剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト用インクジェットインクに関し、特に、ゲル化剤の溶解安定性及び顔料分散性が良好で、また、インクの射出安定性、細線再現性、レジスト膜の耐久性、アルカリに対する溶解剥離性及び基板への密着性に優れたレジスト用インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板(PCB)の製造は、例えば、図1(a)に示すように、従来、基板1上に導電性物質からなる酸化膜2を形成し、当該酸化膜2上に、マスクのパターンを焼き付けるためにレジストを塗布してレジスト膜3を形成し(図1(b)参照。)、当該レジスト膜3に光(紫外線)を照射してマスク4のパターンを転写して露光する(図1(c)参照。)。その後、露光したものを現像し(図1(d)参照。)、次いで、レジスト膜3で覆われていない部分の酸化膜2を酸によるエッチング溶液で除去する(図1(e)参照。)。その後、アルカリにより酸化膜2を覆っていたレジスト膜3を除去することによって、PCBが得られる(図1(f)参照。)。
【0003】
一方、前記レジスト膜をインクジェットでパターニングすることによって塗布することが知られている。このようなレジスト膜に用いられるインクジェットインクとしては、例えば、酸ワックス、酸基非含有アクリレート及びラジカル開始剤を含んだホットメルトインクが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、前記ホットメルトインクは、室温で100%固体であり、かつ、酸ワックスの添加量が0.5~40質量%で、比較的ワックス量が多くなっている。そのため、装置内のインク供給や射出時にモノマー中への溶解の負荷が大きく、また、射出時の温度変動に伴う射出不良が発生しやすいという問題がある。また、ワックス量が多いことから、酸化膜への密着性が得られにくく、アルカリによるレジスト膜の除去性が悪い。さらに、酸ワックスを用いていることから、ワックスの酸価により、顔料と併用するときに分散を不安定化させてしまう。
また、例えば、特許文献2に示すような通常のUVインクを用いたレジスト用インクジェットインクは、インクジェット描画時におけるピニング性が悪く、特にPCBに用いられる吸収性のない基板上では、インク滴の合一を抑制できず、細線の不均一性を招いたり細線再現性が難しい。また、インク膜厚を稼ぐために重ね打ちすると、インク滴が横に広がるため、線幅と膜厚の両立が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5731746号公報
【文献】特許第5255307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ゲル化剤の溶解安定性及び顔料分散性が良好で、また、インクの射出安定性、細線再現性、酸によるレジスト膜の耐エッチング性、アルカリに対する溶解剥離性及び基板(酸化膜)への密着性に優れたレジスト用インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、酸性基を有しない光重合性化合物と、酸性基を有する光重合性化合物と、酸性基を有しないゲル化剤と、光重合開始剤とを含有させることで、インクジェット法に好適なレジスト膜を形成することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0007】
1.酸性基を有しない光重合性化合物と、酸性基を有する光重合性化合物と、酸性基を有しないゲル化剤と、光重合開始剤とを含有し、かつ、温度によりゾル・ゲル相転移することを特徴とするレジスト用インクジェットインク。
【0008】
2.25℃での粘度が1~1×10Pa・sの範囲内であり、かつ、40℃以上100℃未満の範囲内に相転移点を有することを特徴とする第1項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【0009】
3.前記ゲル化剤が、下記一般式(G1)及び(G2)で表される構造を有する化合物のうちの少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする第1項又は第2項に記載のレジスト用インクジェットインク。
一般式(G1):R-CO-R
一般式(G2):R-COO-R
[式中、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数12以上の直鎖部分を持ち、かつ、分岐を持ってもよいアルキル鎖を表す。]
【0010】
4.前記ゲル化剤が、インク全体に対して0.5~5質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【0011】
5.前記酸性基を有する光重合性化合物として、カルボキシ基、リン酸基及びスルホン酸基から選ばれる酸性基を有する(メタ)アクリレート化合物を含有し、かつ、
当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して1~30質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【0012】
6.前記酸性基を有しない光重合性化合物として、分子量が300~1500の範囲内で、ClogP値が4.0~7.0の範囲内にある(メタ)アクリレート化合物を含有し、かつ、
当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して10~40質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【0013】
7.前記酸性基を有しない光重合性化合物として、分子量が300~1500の範囲内で、分子内に(-CH-CH-O-)で表されるユニット構造を3~14個有している(メタ)アクリレート化合物をさらに含有し、かつ、
当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して30~70質量%の範囲内で含有されていることを特徴とする第6項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【0014】
8.着色剤を含有することを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載のレジスト用インクジェットインク。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、ゲル化剤の溶解安定性及び顔料分散性が良好で、また、インクの射出安定性、細線再現性、酸によるレジスト膜の耐エッチング性、アルカリに対する溶解剥離性及び基板(酸化膜)への密着性に優れたレジスト用インクジェットインクを提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
本発明のレジスト用インクジェットインクは、ピニング性を有することを特徴としているが、インクのピニング性を高めるためには、ゾル・ゲル相転移速度を高くすることが好ましく、本発明に用いられる酸性基を有しない光重合化合物と、酸性基を有しないゲル化剤を用いることで、少量のゲル化剤で、高いピニング性を発現することを見いだし、同時に溶解安定性、射出安定性、細線再現性が保たれていると考えている。また、酸性基を有する光重合化合物を添加することで、アルカリ溶解性や基材密着性が良好になると考えている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来のプリント回路基板の製造工程を示すための図
図2】本発明のレジスト用インクジェットインクを用いて、プリント回路基板の製造工程を示すための図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のレジスト用インクジェットインクは、酸性基を有しない光重合性化合物と、酸性基を有する光重合性化合物と、酸性基を有しないゲル化剤と、光重合開始剤とを含有し、かつ、温度によりゾル・ゲル相転移することを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0018】
本発明の実施態様としては、25℃での粘度が1~1×10Pa・sの範囲内であり、かつ、40℃以上100℃未満の範囲内に相転移点を有することが、ピニング性が良好で、細線と膜厚が両立した描画ができ、細線再現性に優れる点で好ましい。
【0019】
前記ゲル化剤が、前記一般式(G1)及び(G2)で表される構造を有する化合物のうちの少なくとも1種の化合物を含むことが、ピニング性が良好で、細線と膜厚が両立した描画ができ、細線再現性に優れる点で好ましい。
前記ゲル化剤が、インク全体に対して0.5~5質量%の範囲内で含有されていることが、射出安定性に優れる点で好ましい。
【0020】
前記酸性基を有する光重合性化合物として、カルボキシ基、リン酸基及びスルホン酸基から選ばれる酸性基を有する(メタ)アクリレート化合物を含有し、かつ、当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して1~30質量%の範囲内で含有されていることが、レジスト膜の耐久性及び基材密着性に優れ、また、アルカリに対する溶解剥離性に優れる点で好ましい。
【0021】
前記酸性基を有しない光重合性化合物として、分子量が300~1500の範囲内で、ClogP値が4.0~7.0の範囲内にある(メタ)アクリレート化合物を含有し、かつ、当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して10~40質量%の範囲内で含有されていることが、ゲル化剤の溶解安定性の点で好ましい。
【0022】
前記酸性基を有しない光重合性化合物として、分子量が300~1500の範囲内で、分子内に(-CH-CH-O-)で表されるユニット構造を3~14個有している(メタ)アクリレート化合物をさらに含有し、かつ、当該(メタ)アクリレート化合物が、インク全体に対して30~70質量%の範囲内で含有されていることが、前記(メタ)アクリレート化合物による硬化収縮の抑制が良好となり、基材(酸化膜)への密着性に優れる点で好ましい。
【0023】
また、着色剤を含有することが、描画パターンの視認性が良好になり、画質評価の点で好ましい。
【0024】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0025】
[レジスト用インクジェットインク]
本発明のレジスト用インクジェットインク(以下、単に、インクともいう。)は、酸性基を有しない光重合性化合物と、酸性基を有する光重合性化合物と、酸性基を有しないゲル化剤と、光重合開始剤とを含み、温度によりゾル・ゲル相転移することを特徴とする。
本発明のレジスト用インクジェットインクは、例えば、金属加工、電子回路、プリント基板、製版、半導体分野、カラーフィルターなどの各種分野で、基板上にエッチングパターンを形成する際に用いるレジストとして機能するものである。
具体的には、基板上に形成された銅、亜鉛などの導電性を有する酸化膜上に、本発明のインクでインクジェット印刷にてパターニングし、レジスト膜を形成する。次いで、当該レジスト膜で覆われていない部分の酸化膜を酸によるエッチング溶液で除去し、さらにアルカリによって酸化膜を覆っていたレジスト膜を除去することによって、精緻な回路やパターンが形成される。
【0026】
本発明のインクは、活性光線により硬化可能なインク組成物である。
「活性光線」とは、その照射によりインク組成物中に開始種を発生させるエネルギーを付与できる光線であり、α線、γ線、X線、紫外線、電子線等を包含する。中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から紫外線及び電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0027】
<酸性基を有しない光重合性化合物>
本発明に係る酸性基を有しない光重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステルであることが好ましく、(メタ)アクリレート化合物(以下、単に(メタ)アクリレートともいう。)であることがより好ましい。
【0028】
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタアクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基又はメタアクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0029】
(メタ)アクリレートの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどを含む単官能のアクリレート、ならびに、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、及びトリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどを含む2官能のアクリレート、ならびにトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートなどの3官能以上のアクリレートを含む多官能のアクリレートなどが含まれる。
【0030】
(メタ)アクリレートは、感光性などの観点から、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートなどが好ましい。
(メタ)アクリレートは、変性物であってもよい。変性物である(メタ)アクリレートの例には、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどを含むエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどを含むカプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ならびにカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを含むカプロラクタム変性(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0031】
(メタ)アクリレートは、重合性オリゴマーであってもよい。重合性オリゴマーである(メタ)アクリレートの例には、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、及び直鎖(メタ)アクリルオリゴマーなどが含まれる。
【0032】
本発明に係る酸性基を有しない光重合性化合物として、前記(メタ)アクリレートのうち、分子量が300~1500の範囲内で、ClogP値が4.0~7.0の範囲内にある(メタ)アクリレートを含有することが、射出安定性及びゲル化剤の溶解安定性の点で好ましい。
前記分子量が300~1500の範囲内で、ClogP値が4.0~7.0の範囲内にある(メタ)アクリレートとしては、例えば、プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート(分子量471、ClogP 4.9)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(分子量310、ClogP 5.75)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(分子量304、ClogP4.69)及びトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(分子量332、ClogP5.12)等が挙げられる。
また、前記分子量が300~1500の範囲内で、ClogP値が4.0~7.0の範囲内にある(メタ)アクリレートは、インク全体に対して10~40質量%の範囲内で含有されていることが、射出安定性及びゲル化剤の溶解安定性の点で好ましい。
【0033】
ここで、本願でいう「logP値」とは、水と1-オクタノールに対する有機化合物の親和性を示す係数である。
1-オクタノール/水分配係数Pは、1-オクタノールと水の二液相の溶媒に微量の化合物が溶質として溶け込んだときの分配平衡で、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比であり、底10に対するそれらの対数logPで示す。すなわち、「logP値」とは、1-オクタノール/水の分配係数の対数値であり、分子の親疎水性を表す重要なパラメータとして知られている。
【0034】
「ClogP値」とは、計算により算出したlogP値である。ClogP値は、フラグメント法や、原子アプローチ法等により算出されうる。より具体的に、ClogP値を算出するには、文献(C.Hansch及びA.Leo、“Substituent Constants for Correlation Analysis in Chemistry and Biology”(John Wiley & Sons, New York, 1969))に記載のフラグメント法又は下記市販のソフトウェアパッケージ1又は2を用いればよい。
ソフトウェアパッケージ1:MedChem Software (Release 3.54,1991年8月、Medicinal Chemistry Project, Pomona College,Claremont,CA)、
ソフトウェアパッケージ2:Chem Draw Ultra ver.8.0.(2003年4月、CambridgeSoft Corporation,USA)
本願明細書等に記載したClogP値の数値は、ソフトウェアパッケージ2を用いて計算した「ClogP値」である。
【0035】
本発明に係る酸性基を有しない光重合性化合物として、前記分子量が300~1500の範囲内で、ClogP値が4.0~7.0の範囲内にある(メタ)アクリレートに加えて、さらに、分子量が300~1500の範囲内で、分子内に(-CH-CH-O-)で表されるユニット構造を3~14個有している(メタ)アクリレートを含有することが、射出安定性、ゲル化剤の溶解安定性及び硬化収縮の点で好ましい。
前記分子量が300~1500の範囲内で、分子内に(-CH-CH-O-)で表されるユニット構造を3~14個有している(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量508、ClogP 0.5)、4EO変性ヘキサンジオールジアクリレート(分子量358、ClogP 2.5)、6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(分子量560、ClogP 3.6)、4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(分子量528、ClogP 2.3)等が挙げられる。
また、分子量が300~1500の範囲内で、分子内に(-CH-CH-O-)で表されるユニット構造を3~14個有している(メタ)アクリレートは、インク全体に対して30~70質量%の範囲内で含有されていることが、硬化膜の硬化収縮性の点で好ましい。
【0036】
<酸性基を有する光重合性化合物>
本発明に係る酸性基を有する重合性化合物は、その分子内にカルボキシ基、リン酸基(又はホスホ基ともいう。)、スルホン酸基(又はスルホ基ともいう。)などの酸性基を有する(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0037】
カルボキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物や、これらからなるオリゴマーに酸無水物を付加させた(メタ)アクリレートが挙げられる。この酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水ハイミック酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸が挙げられ、2-カルボキシエチルアクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシロキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシロキシカルボニルフタル酸などの(メタ)アクリロイルオキシアルコキシカルボニルフタル酸類、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシカルボニルフタル酸などの(メタ)アクリロイルオキシアルコキシアルコキシカルボニルフタル酸類、モノ-2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、2,2-ビス(アクリロイルアミド)酢酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、挙げられる。
【0038】
リン酸基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)リン酸エステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートアシッドホスフェート、エチル(メタ)アクリレートアシッドホスフェート、3-クロロ-2-アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコール(メタ)アクリレートアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルカプロエートアシッドホスフェート、モノ-2-(メタアクリロイルオキシ)エチルホスフェートが挙げられる。さらに、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルリン酸エステル(2-アクリロイルオキシエチルリン酸エステル又は2-メタクリロイルオキシエチルリン酸エステルを意味し、以下この略記法による)、2-又は3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルリン酸エステル、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルリン酸エステル、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルリン酸エステル、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルリン酸エステル、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルリン酸エステル、12-(メタ)アクリロイルオキシラウリルリン酸エステル、16-(メタ)アクリロイルオキシセチルリン酸エステル、18-(メタ)アクリロイルオキシステアリルリン酸エステル、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルリン酸エステルなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルリン酸エステル類;1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-リン酸エステルなどのジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルリン酸エステル類;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸エステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアニシルリン酸エステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリルリン酸エステルなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルアリールリン酸エステル類;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホン酸などの(メタ)アクリロイルオキシアルキルアリールホスホン酸類;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルチオリン酸エステル、2-又は3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルチオリン酸エステル、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルチオリン酸エステル、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルチオリン酸エステル、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルチオリン酸エステル、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルチオリン酸エステル、12-(メタ)アクリロイルオキシラウリルチオリン酸エステル、16-(メタ)アクリロイルオキシセチルチオリン酸エステル、18-(メタ)アクリロイルオキシステアリルチオリン酸エステル、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルチオリン酸エステルなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルチオリン酸エステル類;1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-チオリン酸エステルなどのジ(メタ)アクリロイルオキシアルキルチオリン酸エステル類;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルチオリン酸エステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアニシルチオリン酸エステル、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリルチオリン酸エステルなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルアリールチオリン酸エステル類;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルチオホスホン酸などの(メタ)アクリロイルオキシアルキルアリールチオホスホン酸類などを挙げることができる。
【0039】
スルホン酸基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、メタリルスルホン酸、ビス(3-スルホプロピル)イタコン酸、2-(スルホキシ)エチルメタアクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリル酸、3-スルホプロピルメタアクリル酸、アクリルアミド-2-メチル-2-プロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0042】
前記酸性基を有する光重合性化合物として、前記(メタ)アクリレートのうち、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート、モノ-2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸等であることが好ましい。
また、当該(メタ)アクリレートは、インク全体に対して1~30質量%の範囲内で含有されていることが、レジスト膜の耐久性に優れ、また、アルカリに対する溶解剥離性に優れる点で好ましい。
【0043】
<酸性基を有しないゲル化剤>
本発明に係る酸性基を有しないゲル化剤は、酸化膜に着弾したインクの液滴をゲル状態にして仮固定(ピニング)することができる。インクがゲル状態でピニングされると、インクの濡れ広がりが抑えられて隣り合うドットが合一しにくくなるため、より高精細な画像を形成することができる。ゲル化剤は、本発明のインクジェットインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0044】
本発明に係る酸性基を有しないゲル化剤の例には、ジアルキルケトン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、オイルゲル化剤等が含まれるが、本発明に用いられるゲル化剤は、-COOH等の酸性基を有しないことを特徴とする。すなわち、前記酸性基を有しないゲル化剤とは、酸性基を有しないもののみからなっている純度100%のゲル化剤とは限らず、本願発明の目的効果を阻害しない限度において酸性基を有するゲル化剤が不純物として含有している場合も含み、酸価が10mgKOH/g以下であればよい。
【0045】
特に好ましい前記ゲル化剤としては、下記一般式(G1)及び(G2)で表される構造を有する化合物のうちの少なくとも1種の化合物を含む。
一般式(G1):R-CO-R
一般式(G2):R-COO-R
[式中、R~Rは、それぞれ独立に、炭素数12以上の直鎖部分を持ち、かつ、分岐を持ってもよいアルキル鎖を表す。]
【0046】
上記一般式(G1)で表されるケトンワックス又は上記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基(アルキル鎖)の炭素数が12以上であるため、ゲル化剤の結晶性がより高まり、かつ、下記カードハウス構造においてより十分な空間が生る。そのため、溶媒、光重合性化合物等のインク媒体が上記空間内に十分に内包されやすくなり、インクのピニング性がより高くなる。
また、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基(アルキル鎖)の炭素数は26以下であることが好ましく、26以下であると、ゲル化剤の融点が過度に高まらないため、インクを出射するときにインクを過度に加熱する必要がない。
上記観点からは、R及びR、又は、R及びRは炭素原子数12以上23以下の直鎖状の炭化水素基であることが特に好ましい。
また、インクのゲル化温度を高くして、着弾後により急速にインクをゲル化させる観点からは、R若しくはRのいずれか、又はR若しくはRのいずれかが飽和している炭素原子数12以上23以下の炭化水素基であることが好ましい。
上記観点からは、R及びRの双方、又は、R及びRの双方が飽和している炭素原子数11以上23未満の炭化水素基であることがより好ましい。
【0047】
上記一般式(G1)で表されるケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン(C24-C24)、ジベヘニルケトン(C22-C22)、ジステアリルケトン(C18-C18)、ジエイコシルケトン(C20-C20)、ジパルミチルケトン(C16-C16)、ジミリスチルケトン(C14-C14)、ジラウリルケトン(C12-C12)、ラウリルミリスチルケトン(C12-C14)、ラウリルパルミチルケトン(C12-C16)、ミリスチルパルミチルケトン(C14-C16)、ミリスチルステアリルケトン(C14-C18)、ミリスチルベヘニルケトン(C14-C22)、パルミチルステアリルケトン(C16-C18)、バルミチルベヘニルケトン(C16-C22)、ステアリルベヘニルケトン(C18-C22)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、カルボニル基で分断される二つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0048】
一般式(G1)で表されるケトンワックスの市販品の例には、Stearonne(Alfa Aeser社製;ステアロン)、18-Pentatriacontanon(Alfa Aeser社製)、Hentriacontan-16-on(Alfa Aeser社製)及びカオーワックスT-1(花王社製)が含まれる。
【0049】
一般式(G2)で表される脂肪酸又はエステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル(C21-C22)、イコサン酸イコシル(C19-C20)、ステアリン酸ステアリル(C17-C18)、ステアリン酸パルミチル(C17-C16)、ステアリン酸ラウリル(C17-C12)、パルミチン酸セチル(C15-C16)、パルミチン酸ステアリル(C15-C18)、ミリスチン酸ミリスチル(C13-C14)、ミリスチン酸セチル(C13-C16)、ミリスチン酸オクチルドデシル(C13-C20)、オレイン酸ステアリル(C17-C18)、エルカ酸ステアリル(C21-C18)、リノール酸ステアリル(C17-C18)、オレイン酸ベヘニル(C18-C22)リノール酸アラキジル(C17-C20)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、エステル基で分断される二つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0050】
一般式(G2)で表されるエステルワックスの市販品の例には、ユニスターM-2222SL及びスパームアセチ、日油社製(「ユニスター」は同社の登録商標)、エキセパールSS及びエキセパールMY-M、花王社製(「エキセパール」は同社の登録商標)、EMALEX CC-18及びEMALEX CC-10、日本エマルジョン社製(「EMALEX」は同社の登録商標)並びにアムレプスPC、高級アルコール工業社製(「アムレプス」は同社の登録商標)が含まれる。
これらの市販品は、2種類以上の混合物であることが多いため、必要に応じて分離・精製してインクに含有させてもよい。これらのゲル化剤のうち、よりピニング性を高める観点からは、ケトンワックス、エステルワックス、高級脂肪酸、高級アルコール及び脂肪酸アミドが好ましい。
【0051】
ゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して0.5~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。ゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることで、ゲル化剤の溶媒成分に対する溶解性及びピニング性効果が良好となる。また、上記観点からは、インクジェットインク中のゲル化剤の含有量は、0.5~2.5質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0052】
また、以下の観点から、ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化することが好ましい。ゲル化温度とは、加熱によりゾル化又は液体化したインクを冷却していったときに、ゲル化剤がゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度をいう。具体的には、ゾル化又は液体化したインクを、粘弾性測定装置(例えば、MCR300、Physica社製)で粘度を測定しながら冷却していき、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
【0053】
ゲル化剤がインク中で結晶化すると、板状に結晶化したゲル化剤によって形成された三次元空間に溶媒、光重合性化合物等のインク媒体が内包される構造が形成されることがある(このような構造を、以下「カードハウス構造」という。)。
カードハウス構造が形成されると、液体のインク媒体が前記空間内に保持されるため、インク液滴がより濡れ広がりにくくなり、インクのピニング性がより高まる。インクのピニング性が高まると、記録媒体に着弾したインク液滴同士が合一しにくくなり、より高精細な画像を形成することができる。
カードハウス構造を形成するには、インク中の溶媒、光重合性化合物等のインク媒体とゲル化剤とが相溶していることが好ましい。これに対して、インク中の溶媒、光重合性化合物等のインク媒体とゲル化剤とが相分離していると、カードハウス構造を形成しにくい場合がある。
【0054】
<光重合開始剤>
光重合開始剤は、前記光重合性化合物がラジカル重合性化合物であるときは、光ラジカル開始剤を用い、前記光重合性化合物がカチオン重合性化合物であるときは、光酸発生剤を用いることが好ましい。
光重合開始剤は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。光重合開始剤は、光ラジカル開始剤と光酸発生剤の両方の組み合わせであってもよい。
光ラジカル開始剤には、開裂型ラジカル開始剤及び水素引き抜き型ラジカル開始剤が含まれる。
【0055】
開裂型ラジカル開始剤の例には、アセトフェノン系の開始剤、ベンゾイン系の開始剤、アシルホスフィンオキシド系の開始剤、ベンジル及びメチルフェニルグリオキシエステルが含まれる。
アセトフェノン系の開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンが含まれる。
ベンゾイン系の開始剤の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテルが含まれる。
アシルホスフィンオキシド系の開始剤の例には、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドが含まれる。
【0056】
水素引き抜き型ラジカル開始剤の例には、ベンゾフェノン系の開始剤、チオキサントン系の開始剤、アミノベンゾフェノン系の開始剤、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン及びカンファーキノンが含まれる。
ベンゾフェノン系の開始剤の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルスルフィド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン及び3,3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンが含まれる。
チオキサントン系の開始剤の例には、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン及び2,4-ジクロロチオキサントンが含まれる。
アミノベンゾフェノン系の開始剤の例には、ミヒラーケトン及び4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノンが含まれる。
【0057】
光酸発生剤の例には、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187~192ページに記載の化合物が含まれる。
光重合開始剤の含有量は、インクが十分に硬化できる範囲であればよく、例えば、本発明のインクの全質量に対して0.01~10質量%の範囲内とすることができる。
光重合開始剤の市販品の例には、Irgacure TPO(BASF社製)、819(BASF社製)、Irgacure 379(BASF社製)、Genocure ITX(Rahn A.G.社製)Genocure EPD(Rahn A.G.社製)等が含まれる。
【0058】
本発明のインクは、必要に応じて光重合開始剤助剤や重合禁止剤などをさらに含んでもよい。
光重合開始剤助剤は、第3級アミン化合物であってよく、芳香族第3級アミン化合物が好ましい。
芳香族第3級アミン化合物の例には、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、トリエチルアミン及びN,N-ジメチルヘキシルアミン等が含まれる。中でも、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステルが好ましい。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0059】
<着色剤>
本発明のインクは、必要に応じて着色剤をさらに含有してもよい。
着色剤は、染料又は顔料でありうるが、インクの構成成分に対して良好な分散性を有し、かつ耐候性に優れることから、顔料が好ましい。顔料は、特に限定されないが、例えば、カラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料が挙げられる。
【0060】
赤又はマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
【0061】
青又はシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
【0062】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50から選ばれる顔料又はその混合物が含まれる。
黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26から選ばれる顔料又はその混合物等が含まれる。
【0063】
顔料の市販品の例には、Black Pigment(Mikuni社製)、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストイエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業社製); KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(DIC社製);Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、ColortexBlue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素社製);Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ社製)、Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリー社製);Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、Hostaperm Blue B2G(クラリアント製);カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、CF9(三菱化学製)等が挙げられる。
【0064】
顔料の分散は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、及びペイントシェーカー等により行うことができる。
顔料の分散は、顔料粒子の体積平均粒子径が、好ましくは0.08~0.5μmの範囲内、最大粒子径が好ましくは0.3~10μmの範囲内、より好ましくは0.3~3μmの範囲内となるように行われることが好ましい。
顔料の分散は、顔料、分散剤、及び分散媒体の選定、分散条件、及び濾過条件等によって、調整される。
【0065】
本発明のインクは、顔料の分散性を高めるために、分散剤をさらに含んでもよい。
分散剤の例には、ヒドロキシ基を有するカルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、及びステアリルアミンアセテート等が含まれる。分散剤の市販品の例には、Avecia社のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ社のPBシリーズ等が含まれる。
【0066】
本発明のインクは、必要に応じて分散助剤をさらに含んでもよい。分散助剤は、顔料に応じて選択されればよい。
【0067】
分散剤及び分散助剤の合計量は、顔料に対して1~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0068】
本発明のインクは、必要に応じて顔料を分散させるための分散媒体をさらに含んでもよい。分散媒体として溶剤をインクに含ませてもよいが、形成された画像における溶剤の残留を抑制するためには、前述のような光重合性化合物(特に粘度の低いモノマー)を分散媒体として用いることが好ましい。
【0069】
染料は、油溶性染料等が挙げられる。
油溶性染料は、以下の各種染料が挙げられる。マゼンタ染料の例には、MS Magenta VP、MS Magenta HM-1450、MS Magenta HSo-147(以上、三井東圧社製)、AIZENSOT Red-1、AIZEN SOT Red-2、AIZEN SOTRed-3、AIZEN SOT Pink-1、SPIRON Red GEH SPECIAL(以上、保土谷化学社製)、RESOLIN Red FB 200%、MACROLEX Red Violet R、MACROLEX ROT5B(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Red B、KAYASET Red 130、KAYASET Red 802(以上、日本化薬社製)、PHLOXIN、ROSE BENGAL、ACID Red(以上、ダイワ化成社製)、HSR-31、DIARESIN Red K(以上、三菱化成社製)、Oil Red(BASFジャパン社製)が含まれる。
【0070】
シアン染料の例には、MS Cyan HM-1238、MS Cyan HSo-16、Cyan HSo-144、MS Cyan VPG(以上、三井東圧社製)、AIZEN SOT Blue-4(保土谷化学社製)、RESOLIN BR.Blue BGLN 200%、MACROLEX Blue RR、CERES Blue GN、SIRIUS SUPRATURQ.Blue Z-BGL、SIRIUS SUPRA TURQ.Blue FB-LL 330%(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Blue FR、KAYASET Blue N、KAYASET Blue 814、Turq.Blue GL-5 200、Light Blue BGL-5200(以上、日本化薬社製)、DAIWA Blue 7000、OleosolFast Blue GL(以上、ダイワ化成社製)、DIARESIN Blue P(三菱化成社製)、SUDAN Blue 670、NEOPEN Blue 808、ZAPON Blue 806(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0071】
イエロー染料の例には、MS Yellow HSm-41、Yellow KX-7、Yellow EX-27(三井東圧社製)、AIZEN SOT Yellow-1、AIZEN SOT YelloW-3、AIZEN SOT Yellow-6(以上、保土谷化学社製)、MACROLEX Yellow 6G、MACROLEX FLUOR.Yellow 10GN(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Yellow SF-G、KAYASET Yellow2G、KAYASET Yellow A-G、KAYASET Yellow E-G(以上、日本化薬社製)、DAIWA Yellow 330HB(ダイワ化成社製)、HSY-68(三菱化成社製)、SUDAN Yellow 146、NEOPEN Yellow 075(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0072】
ブラック染料の例には、MS Black VPC(三井東圧社製)、AIZEN SOT Black-1、AIZEN SOT Black-5(以上、保土谷化学社製)、RESORIN Black GSN 200%、RESOLIN BlackBS(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Black A-N(日本化薬社製)、DAIWA Black MSC(ダイワ化成社製)、HSB-202(三菱化成社製)、NEPTUNE Black X60、NEOPEN Black X58(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0073】
着色剤の含有量は、インク全量に対して0.1~20質量%の範囲内であることが好ましく、0.4~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0074】
<その他の成分>
本発明のインクは、本発明の効果が得られる範囲において、重合禁止剤及び界面活性剤を含むその他の成分をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0075】
(重合禁止剤)
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム及びシクロヘキサノンオキシムが含まれる。
重合禁止剤の市販品の例には、Irgastab UV10(BASF社製)、Genorad 18(Rahn A.G.社製)等が含まれる。
【0076】
重合禁止剤の量は、本発明の効果が得られる範囲において、任意に設定することができる。
重合禁止剤の量は、インクの全質量に対して、例えば0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0077】
(界面活性剤)
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類及び脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、及び第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、並びにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0078】
シリコーン系の界面活性剤の例には、ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物、具体的には、Tego rad 2250、Evonik社製、KF-351A、KF-352A、KF-642及びX-22-4272、信越化学工業社製、BYK307、BYK345、BYK347及びBYK348、ビッグケミー社製(「BYK」は同社の登録商標)、並びにTSF4452、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製が含まれる。
【0079】
フッ素系の界面活性剤は、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部又は全部をフッ素で置換したものを意味する。
フッ素系の界面活性剤の例には、Megafac F、DIC社製(「Megafac」は同社の登録商標)、Surflon、AGCセイケミカル社製(「Surflon」は同社の登録商標)、Fluorad FC、3M社製(「Fluorad」は同社の登録商標)、Monflor、インペリアル・ケミカル・インダストリー社製、Zonyls、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社製、Licowet VPF、ルベベルケ・ヘキスト社製、及びFTERGENT、ネオス社製(「FTERGENT」は同社の登録商標)が含まれる。
【0080】
界面活性剤の量は、本発明の効果が得られる範囲において、任意に設定することができる。界面活性剤の量は、インクの全質量に対して、例えば0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0081】
(物性)
本発明のインクの25℃における粘度は、1~1×10Pa・sの範囲内であることが、着弾して常温に降温した際にインクを十分にゲル化させ、ピニング性が良好となる点で好ましい。
また、インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点からは、本発明のインクの80℃における粘度は、3~20mPa・sの範囲内であることが好ましく、7~9mPa・sの範囲内であることがより好ましい。
【0082】
本発明のインクは、40℃以上100℃未満の範囲内に相転移点を有することが好ましい。相転移点が40℃以上であると、記録媒体に着弾後、インクが速やかにゲル化するため、ピニング性がより高くなる。また、相転移点が100℃未満であると、インク取り扱い性が良好になり射出安定性が高くなる。
より低温でインクを吐出可能にし、画像形成装置への負荷を低減させる観点からは、本発明のインクの相転移点は、40~60℃の範囲内であることがより好ましい。
【0083】
本発明のインクの80℃における粘度、25℃における粘度及び相転移点は、レオメータにより、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。
本発明において、これらの粘度及び相転移点は、以下の方法によって得られた値である。
本発明のインクを100℃に加熱し、ストレス制御型レオメータPhysica MCR301(コーンプレートの直径:75mm、コーン角:1.0°)、Anton Paar社製によって粘度を測定しながら、剪断速度11.7(1/s)、降温速度0.1℃/sの条件で20℃までインクを冷却して、粘度の温度変化曲線を得る。
80℃における粘度及び25℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において80℃、25℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求めることができる。相転移点は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPa・sとなる温度として求めることができる。
【0084】
インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点からは、本発明に係る顔料粒子の平均分散粒子径は、50~150nmの範囲内であり、最大粒子径は300~1000nmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましい平均分散粒子径は80~130nmの範囲内である。
本発明における顔料粒子の平均分散粒子径とは、データサイザーナノZSP、Malvern社製を使用して動的光散乱法によって求めた値を意味する。なお、着色剤を含むインクは濃度が高く、この測定機器では光が透過しないので、インクを200倍で希釈してから測定する。測定温度は常温(25℃)とする。
【0085】
[レジスト膜の形成方法]
本発明のインクを適用したレジスト膜の形成方法は、(1)本発明のインクをインクジェットヘッドのノズルから吐出して基板上の酸化膜に着弾させる工程と、(2)前記酸化膜に着弾したインクに活性光線を照射してインクを硬化させる工程とを含む。
【0086】
<(1)の工程>
(1)の工程では、図2(b)に示すように、インクの液滴をインクジェットヘッド5から吐出して、記録媒体である基板1上に形成された導電性を有する酸化膜2上の、形成すべきレジスト膜3に応じた位置に着弾させて、パターニングする。
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式とコンティニュアス方式のいずれでもよい。
オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、並びにサーマルインクジェット型及びバブルジェット(登録商標)(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0087】
インクの液滴を、加熱した状態でインクジェットヘッドから吐出することで、吐出安定性を高めることができる。吐出される際のインクの温度は、40~100℃の範囲内であることが好ましく、吐出安定性をより高めるためには、40~90℃の範囲内であることがより好ましい。特には、インクの粘度が7~15mPa・sの範囲内、より好ましくは8~13mPa・sの範囲内となるようなインク温度において射出を行うことが好ましい。
【0088】
ゾル・ゲル相転移型のインクは、インクジェットヘッドからのインクの吐出性を高めるために、インクジェットヘッドに充填されたときのインクの温度が、当該インクの(ゲル化温度+10)℃~(ゲル化温度+30)℃に設定されることが好ましい。インクジェットヘッド内のインクの温度が、(ゲル化温度+10)℃未満であると、インクジェットヘッド内若しくはノズル表面でインクがゲル化して、インクの吐出性が低下しやすい。一方、インクジェットヘッド内のインクの温度が(ゲル化温度+30)℃を超えると、インクが高温になりすぎるため、インク成分が劣化することがある。
【0089】
インクの加熱方法は、特に制限されない。例えば、ヘッドキャリッジを構成するインクタンク、供給パイプ及びヘッド直前の前室インクタンク等のインク供給系、フィルター付き配管並びにピエゾヘッド等の少なくともいずれかをパネルヒーター、リボンヒーター又は保温水等によって加熱することができる。
吐出される際のインクの液滴量は、記録速度及び画質の面から、2~20pLの範囲内であることが好ましい。
【0090】
基板は、特に限定されないが、例えば、紙フェノール、紙エポキシ、ガラス布エポキシ、ガラスポリイミド、ガラス布/不繊布エポキシ、ガラス布/紙エポキシ、合成繊維エポキシ、フッ素・ポリエチレン・PPO・シアネートエステル等を用いた高周波回路用銅張積層版等の材質を用いたもので全てのグレード(FR-4等)の銅張積層版、その他ポリイミドフィルム、PETフィルム、ガラス基板、セラミック基板、ウエハ板、ステンレス鋼板等であることが好ましい。
また、導電性の酸化膜としては、例えば、銅、金、銀、アルミ、ニッケル、ITO等が挙げられる。
【0091】
<(2)の工程>
(2)の工程では、(1)の工程で酸化膜に着弾させたインクに活性光線を照射して、該インクが硬化してなるレジスト膜を形成する。
活性光線は、例えば電子線、紫外線、α線、γ線、及びエックス線等から選択することができるが、好ましくは紫外線である。
紫外線の照射は、例えばPhoseon Technology社製の水冷LEDを用いて、波長395nmの条件下で行うことができる。LEDを光源とすることで、光源の輻射熱によってインクが溶けることによるインクの硬化不良を抑制することができる。
【0092】
紫外線の照射は、370~410nmの範囲内の波長を有する紫外線のレジスト膜表面におけるピーク照度が、好ましくは0.5~10W/cmの範囲内、より好ましくは1~5W/cmの範囲内となるように行う。輻射熱がインクに照射されることを抑制する観点からは、レジスト膜に照射される光量は350mJ/cm未満であることが好ましい。
活性光線の照射は、インク着弾後0.001~1.0秒の間に行うことが好ましく、高精細なレジスト膜を形成するためには、0.001~0.5秒の間に行うことがより好ましい。
【0093】
活性光線の照射は、2段階に分けて行ってもよい。
まず、インクが着弾した後0.001~2.0秒の間に活性光線を照射してインクを仮硬化させ、全印字終了後、さらに活性光線を照射してインクを本硬化させてもよい。活性光線の照射を2段階に分けることで、インク硬化の際に起こる記録材料の収縮がより生じにくくなる。
【0094】
上記のようにしてインクジェット法で形成したレジスト膜3で覆われていない酸化膜2を酸によるエッチング溶液で除去し(図2(c)参照。)、さらにアルカリ溶液によって酸化膜2を覆っていたレジスト膜3を除去することにより、回路、パターン、文字、画像などの微細で精度のよい線画を得ることができる(図2(d)参照。)。なお、前記レジスト膜はエッチングしない用途で用いてもよい。
エッチング溶液としては、第二塩化鉄水溶液、塩化第二銅水溶液、アンモニア銅水溶液、高濃度水酸化ナトリウム水溶液、高濃度塩酸、フッ化水素水、硝酸第二鉄水溶液などが挙げられ、アルカリ溶液としては、水酸化カリウム水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド水溶液、(メタ)ケイ酸ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【実施例
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[インクジェットインク材料]
インクジェットインク材料として、以下のものを用いた。
<光重合性化合物>
光重合性化合物として、下記表に示すものを用いた。
【0096】
【表1】
【0097】
【化1】
【0098】
<ゲル化剤>
ゲル化剤として、下記表に示すものを用いた。
【0099】
【表2】
【0100】
<界面活性剤>
・KF-352A(信越化学工業社製)
【0101】
<光重合開始剤>
・IRGACURE TPO(BASF社製)
・819(BASF社製)
【0102】
<増感助剤>
・ITX(2-イソプロピルチオキサントン)
【0103】
<重合禁止剤>
・Irgastab UV10(BASF社製)
【0104】
<顔料分散液>
(顔料分散液1の調製)
下記分散剤及び分散媒をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱撹拌溶解し、室温まで冷却した後、これに下記顔料を加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gとともにガラス瓶に入れ密栓した。これをペイントシェーカーにて、所望の粒径になるまで分散処理した後、ジルコニアビーズを除去した。
分散剤:BYKJET-9151(BYK社製) 7質量部
分散媒:トリプロピレングリコールジアクリレート(Irgastab UV10を熱重合禁止剤として分散媒に0.2%含有)
70質量部
顔料:Pigment Blue 15:4(大日精化社製、クロモファインブルー6332JC)
23質量部
【0105】
(顔料分散液2の調製)
前記顔料分散液1の調製において、分散媒としてトリプロピレングリコールジアクリレートの代わりに、NKエステルA-400(新中村化学社製)(酸性基を有しない光重合性化合物:分子量が300~1500の範囲内で、分子内に(-CH-CH-O-)で表されるユニット構造を3~14個有している(メタ)アクリレート化合物)を用いた以外は同様にして顔料分散液2を調製した。
【0106】
[インクの調製]
下記表III-1~表III-3に記載されたインク成分(光重合性化合物、光重合開始剤、ゲル化剤、界面活性剤、光重合開始剤、増感助剤、重合禁止剤及び顔料分散液)に従って混合し、当該混合液を80℃に加熱しながらADVANTEC社製テフロン(登録商標)3μmのメンブレンフィルターで濾過を行い、インク1~25を得た。
また、Physica社製粘弾性測定装置 MCR300、シェアレート11(1/s)にて、各インクの25℃粘度及びゾル・ゲル相転移温度を測定した。測定結果を下記表に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
<インクジェットによるパターン形成>
調製したインクを、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置に装填した。この装置を用いて、プリント配線板用銅張積層板上(FR-4 厚さ1.6mm、大きさ150mm×95mm)にパターン形成を行った。
インク供給系は、インクタンク、インク流路、インクジェット記録ヘッド直前のサブインクタンク、金属フィルター付き配管、ピエゾヘッドからなる。インクタンクからヘッド部分までインクを90℃に加温する。ピエゾヘッドにもヒーターを内蔵させ、記録ヘッド内のインク温度を90℃に加熱した。ピエゾヘッドは、ノズル径22μmで、ノズル解像度600dpiのヘッドを千鳥に配置して1200dpiのノズル列を形成した。このインクジェット記録装置を用いて、液滴量が8.0plのドットになるように電圧を印加し、基板上に、20mm×50mmのベタパターンとライン&スペースが100μmの櫛型パターンを、それぞれ厚さが20μmになるように印字したのち、Phoseon Technology社製LEDランプ(395nm、8W/cm、water cooled unit)を500mJ/cmになるよう照射してインク層を硬化して硬化膜を得た。
【0111】
[評価]
<ゲル化剤溶解性>
前記インクを調液後、100℃で4時間静置後の溶解状態を目視で観察した。
◎:分離、析出なし。
○:4時間放置後1mm以下の油滴が2個以下析出するが、撹拌で消滅した。
△:4時間放置後1mm以下の油滴が5個以下析出するが、撹拌で消滅した。
×:油玉が表面に集まって、撹拌しても残留している(層分離している)。
【0112】
<顔料分散安定性>
インクに含有される顔料粒子について、それぞれのインクにおける平均粒径をデータサイザーナノZSP(Malvern社製)を使用して動的光散乱法によって測定した。それぞれのインクを耐熱管に採取して、60℃で1ヶ月間恒温槽に保存した。保存後のそれぞれのインクにおける顔料粒子の平均粒径を同様に測定し、保存前の平均粒径(PA)と保存後の平均粒径(PB)との差(PA-PB)を計算した。
○:平均粒径の差が7nm未満である。
△:平均粒径の差が7nm以上15nm未満である。
×:平均粒径の差が15nm以上である。
【0113】
<インクの射出安定性>
前記ピエゾヘッドを用いて、液滴量3.5pl、液滴速度7m/sec、射出周波数40kHz、印字率100%となる条件で連続吐出(駆動)させ、駆動開始から1分後、5分後、10分後に射出していないノズル数をカウントした。
◎:欠ノズルの数が2個未満である。
○:欠ノズルの数が2個以上10個未満である。
△:欠ノズルの数が10個以上50個未満である。
×:欠ノズルの数が50個以上である。
【0114】
<細線再現性>
前記櫛型パターンの印字サンプルについて、マイクロスコープ(KEYENCE社製 VHX-5000)を用い500倍に拡大し観察を行った。
○:シャープなラインで、100μmのライン&スペースを誤差が±10μm以内で再現し、サテライト等の飛び散りが発生していない。
△:ラインに僅かな太り細りが見られるが、100μmのライン&スペースを誤差が±10μmより大きく、±20μm以内で再現している。
×:ラインがデコボコしており、ライン&スペースが潰れる箇所が見られる。
【0115】
<基板密着性>
ベタパターンの印字サンプルについて、硬化膜にJIS K5600のクロスカット法に準じて碁盤目状に切り込みを入れ、粘着テープを貼付し、引き剥がすことで、硬化膜の剥離状態を観察した。
◎:付着残留率が100%である。
○:付着残留率が80%以上100%未満である。
△:付着残留率が60%以上80%未満である。
×:付着残留率が60%未満である。
【0116】
<耐エッチング性>
ベタパターンの印字サンプルについて、塩化第二鉄水溶液中に60℃30分浸漬した後、水洗し、乾燥後、粘着テープを貼付し、引き剥がすことで、硬化膜の剥離状態を観察した。
◎:剥離を生じなかった。
○:剥離を生じなかったが、やや変色があった。
△:一部剥離を生じた。
×:全面に剥離を生じた。
【0117】
<アルカリ剥離性>
ベタパターンの印字サンプルについて、40℃、2.5%水酸化ナトリウム水溶液中に1分間浸漬し、硬化膜の溶解剥離性を目視にて観察した。
○:完全に溶解剥離した。
△:完全に溶解しないが、剥離した。
×:剥離しなかった。
【0118】
【表6】
【0119】
以上の結果より、本発明のインクは、比較例のインクに比べて、ゲル化剤溶解性、顔料分散安定性、インクの射出安定性、細線再現性、基板密着性、耐エッチング性及びアルカリ剥離性の点で良好であることが認められる。
【符号の説明】
【0120】
1 基板
2 酸化膜
3 レジスト膜
4 マスク
5 インクジェットヘッド
図1
図2