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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】精紡機の管替装置
(51)【国際特許分類】
   D01H 9/04 20060101AFI20220208BHJP
   D01H 9/18 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
D01H9/04 B
D01H9/18 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018178647
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050978
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江平
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰之
(72)【発明者】
【氏名】槌田 大輔
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-124823(JP,A)
【文献】特開2018-138711(JP,A)
【文献】特開平07-126930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直軸と平行な第1ボビン支持軸を中心にボビンを支持するボビン支持部と、
前記第1ボビン支持軸とは水平方向に位置をずらして設定された第2ボビン支持軸を中心にボビンを支持するボビン移送部と、
把持軸を中心にボビンを把持するボビン把持部と、
前記ボビン把持部を支持するドッフィングバーと、
前記ドッフィングバーを昇降軸と平行な方向に昇降動作させる昇降機構と、
前記垂直軸に対して前記昇降機構全体を傾斜させるチルティング機構と、
を備え、
前記昇降機構と前記ドッフィングバーとの間に、前記ドッフィングバーを介して前記ボビン把持部を支持する支持機構が設けられ、
前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度が、少なくとも2つの異なる角度をとり得るように、前記ボビン把持部の姿勢を変更可能な姿勢変更機構を有し、前記昇降軸を前記第2ボビン支持軸と平行に配置した状態では、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を第1の角度に保持し、前記チルティング機構によって前記昇降機構の前記昇降軸を前記第2ボビン支持軸に対して傾けた状態では、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第1の角度よりも大きい第2の角度に保持するものであり、
前記支持機構が前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第1の角度に保持した状態では、前記把持軸と前記第2ボビン支持軸とが同軸に配置され、前記支持機構が前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第2の角度に保持した状態では、前記把持軸と前記第1ボビン支持軸とが同軸に配置される
精紡機の管替装置。
【請求項2】
前記支持機構は、前記昇降機構に固定される固定部材と、前記固定部材に取り付けられる可動部材とを有し、前記可動部材に前記ドッフィングバーを介して前記ボビン把持部が取り付けられている
請求項1に記載の精紡機の管替装置。
【請求項3】
前記可動部材に突き当て部が設けられるとともに、前記突き当て部に対応して前記精紡機のフレームに固定されるストッパー部材を備え、
前記支持機構は、前記チルティング機構によって前記昇降機構の前記昇降軸を前記第2ボビン支持軸に対して傾けた状態では、前記突き当て部が前記ストッパー部材に突き当たることにより、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第2の角度に保持する
請求項2に記載の精紡機の管替装置。
【請求項4】
前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を、前記ボビン把持部と前記ドッフィングバーの自重によって前記第1の角度に保持する
請求項1~3のいずれか一項に記載の精紡機の管替装置。
【請求項5】
前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を弾性力によって前記第1の角度に保持する
請求項1~3のいずれか一項に記載の精紡機の管替装置。
【請求項6】
前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を磁力によって前記第1の角度に保持する
請求項1~3のいずれか一項に記載の精紡機の管替装置。
【請求項7】
前記支持機構は、前記姿勢変更機構による前記ボビン把持部の姿勢変更量を調整可能な調整部材を有する
請求項1~6のいずれか一項に記載の精紡機の管替装置。
【請求項8】
前記精紡機はポット精紡機である
請求項1~7のいずれか一項に記載の精紡機の管替装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精紡機の管替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リング精紡機には、複数の紡錘において、スピンドルに装着されるボビンを満管のボビン(以下、「満ボビン」ともいう。)から空のボビン(以下、「空ボビン」ともいう。)へと入れ替える動作を全錘一斉に行う一斉管替装置を備えたものがある。一斉管替装置に関する技術として、たとえば、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、ボビン把持部を備えたドッフィングバーを昇降させるパンタグラフ機構と、駆動シャフトを中心にパンタグラフ機構を回動させることにより、パンタグラフ機構全体を精紡機の機台に接近する位置と離間する位置とに移動する移動機構とを備える一斉管替装置が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載された一斉管替装置では、複数のスピンドルが設けられるスピンドルレールの下方に、複数のペグトレイを利用してボビンを移送するボビン移送部を配置している。そして、スピンドルに装着されるボビンを満ボビンから空ボビンへと入れ替えるために、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作と、移動機構によるパンタグラフ機構の回動動作を利用している。
【0005】
具体的には、まず、ペグトレイに装着されている空ボビンを、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作を利用して、ボビン把持部により把持する。その際、ボビン把持部は、ドッフィングバーの昇降動作に従って上下方向に移動し、この移動動作を利用して空ボビンを把持する。
【0006】
次に、ボビン把持部に把持されている空ボビンを、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作と移動機構によるパンタグラフ機構の回動動作を利用して、中間ペグに装着する。
【0007】
次に、スピンドルに装着されている満ボビンを、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作を利用して、ボビン把持部により把持した後、その満ボビンを、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作と移動機構によるパンタグラフ機構の回動動作を利用して、ペグトレイに装着する。
【0008】
次に、中間ペグに装着されている空ボビンを、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作と移動機構によるパンタグラフ機構の回動動作を利用して、ボビン把持部により把持した後、その空ボビンを、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作と移動機構によるパンタグラフ機構の回動動作を利用して、スピンドルに装着する。これにより、スピンドルに装着されるボビンを満ボビンから空ボビンに入れ替えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平7-126930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された一斉管替装置には、精紡機の機台の高さ寸法が大きくなるという課題があった。その理由は、次のとおりである。
【0011】
まず、ボビン移送部のペグトレイに対してボビンを抜き挿しする場合は、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作によってボビン把持部を上下方向に移動させるのに代えて、ボビン移送部を上下方向に移動させてもよい。ただし、ボビン移送部を上下方向に移動させるとなると、ボビン移送部全体を上下方向に移動させるための駆動系が新たに必要になる。このため、一斉管替装置の構成が複雑かつ大掛かりになってしまう。したがって、ペグトレイに対するボビンの抜き挿しは、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作を利用して行うことが望ましい。
【0012】
ただし、ペグトレイに対するボビンの抜き挿しを、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作を利用して行うには、スピンドルとペグトレイを上下方向に大きく離して配置するとともに、スピンドルのボビン支持軸とペグトレイのボビン支持軸を互いに同軸に配置する必要がある。また、スピンドルに対してボビンを抜き挿しする場合や、ペグトレイに対してボビンを抜き挿しする場合は、いずれも、ボビン把持部を上下方向に移動させる必要がある。このため、スピンドルの上方とペグトレイの上方には、それぞれ、ボビンの長手寸法に加えて、ボビンを抜き挿しするための動作用スペースを確保する必要がある。したがって、精紡機の機台の高さ寸法が大きくなってしまう。
【0013】
なお、上述した動作用スペースは、パンタグラフ機構によるドッフィングバーの昇降動作を利用して、ボビン把持部を上下方向に移動させるために必要なスペースである。また、ボビン支持軸は、たとえば上述したスピンドルやペグトレイのようにボビンが抜き挿し可能に装着される部分に設定される仮想の軸である。スピンドルやペグトレイでは、ボビン支持軸を中心にボビンが支持される。特許文献1に記載された一斉管替装置では、スピンドルのボビン支持軸とペグトレイのボビン支持軸とが、いずれも垂直軸に平行な軸となっている。本明細書に記載する垂直軸とは、重力の方向と平行な軸をいう。
【0014】
精紡機の機台の高さ寸法を低く抑える手段として、たとえば、スピンドルのボビン支持軸とペグトレイのボビン支持軸のうち、いずれか一方または両方のボビン支持軸を垂直軸に対して傾けることも考えられる。しかし、スピンドルのボビン支持軸を傾けると、スピンドルによってボビンを回転させるときに、スピンドルやボビンに対して重力が斜めに作用し、その影響でスピンドルやボビンの回転が不安定になってしまう。また、ペグトレイのボビン支持軸を傾けると、ボビン移送部でボビンを移送するときにペグトレイからボビンが外れるおそれがある。また、精紡機で糸の巻き返しを終えた満ボビンをボビン移送部から受け取るワインダ装置では、ペグトレイのボビン支持軸の傾きにあわせて装置構成を大幅に変更する必要がある。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、垂直軸に対してボビン支持軸を傾けなくても、精紡機の機台の高さ寸法を小さく抑えることができる精紡機の管替装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る精紡機の管替装置は、垂直軸と平行な第1ボビン支持軸を中心にボビンを支持するボビン支持部と、前記第1ボビン支持軸とは水平方向に位置をずらして設定された第2ボビン支持軸を中心にボビンを支持するボビン移送部と、把持軸を中心にボビンを把持するボビン把持部と、前記ボビン把持部を支持するドッフィングバーと、前記ドッフィングバーを昇降軸と平行な方向に昇降動作させる昇降機構と、前記垂直軸に対して前記昇降機構全体を傾斜させるチルティング機構と、を備え、前記昇降機構と前記ドッフィングバーとの間に、前記ドッフィングバーを介して前記ボビン把持部を支持する支持機構が設けられ、前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度が、少なくとも2つの異なる角度をとり得るように、前記ボビン把持部の姿勢を変更可能な姿勢変更機構を有し、前記昇降軸を前記第2ボビン支持軸と平行に配置した状態では、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を第1の角度に保持し、前記チルティング機構によって前記昇降機構の前記昇降軸を前記第2ボビン支持軸に対して傾けた状態では、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第1の角度よりも大きい第2の角度に保持するものであり、前記支持機構が前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第1の角度に保持した状態では、前記把持軸と前記第2ボビン支持軸とが同軸に配置され、前記支持機構が前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第2の角度に保持した状態では、前記把持軸と前記第1ボビン支持軸とが同軸に配置される。
【0017】
また、本発明に係る精紡機の管替装置において、前記支持機構は、前記昇降機構に固定される固定部材と、前記固定部材に取り付けられる可動部材とを有し、前記可動部材に前記ドッフィングバーを介して前記ボビン把持部が取り付けられていてもよい。
【0018】
また、本発明に係る精紡機の管替装置においては、前記可動部材に突き当て部が設けられるとともに、前記突き当て部に対応して前記精紡機のフレームに固定されるストッパー部材を備え、前記支持機構は、前記チルティング機構によって前記昇降機構の前記昇降軸を前記第2ボビン支持軸に対して傾けた状態では、前記突き当て部が前記ストッパー部材に突き当たることにより、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を前記第2の角度に保持するものであってもよい。
【0019】
また、本発明に係る精紡機の管替装置において、前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を、前記ボビン把持部と前記ドッフィングバーの自重によって前記第1の角度に保持するものであってもよい。
【0020】
また、本発明に係る精紡機の管替装置において、前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を弾性力によって前記第1の角度に保持するものであってもよい。
【0021】
また、本発明に係る精紡機の管替装置において、前記支持機構は、前記把持軸と前記昇降軸とのなす角度を磁力によって前記第1の角度に保持するものであってもよい。
【0022】
また、本発明に係る精紡機の管替装置において、前記支持機構は、前記姿勢変更機構による前記ボビン把持部の姿勢変更量を調整可能な調整部材を有するものであってもよい。
【0023】
本発明に係る精紡機の管替装置において、前記精紡機はポット精紡機であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、垂直軸に対してボビン支持軸を傾けなくても、精紡機の機台の高さ寸法を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る精紡機の管替装置の構成例を示す側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る精紡機の管替装置の構成例を示す正面図である。
図3】本発明の実施形態に係る精紡機の管替装置の構成例を示す斜視図である。
図4】ボビン移送部の構成を示す図である。
図5】精紡機長手方向におけるペグトレイと中間ペグの配置状態を示す図である。
図6】ボビン支持部の構成を示す図である。
図7】パンタグラフ機構を傾ける前の各部の配置状態を示す側面図である。
図8】パンタグラフ機構を傾けた後の各部の配置状態を示す側面図である。
図9】パンタグラフ機構とドッフィングバーと支持機構の取り付け状態を正面側から見た斜視図である。
図10】パンタグラフ機構とドッフィングバーと支持機構の取り付け状態をフレーム側から見た斜視図である。
図11】パンタグラフ機構が垂直に起立しているときの支持機構の状態を示す部分断面図である。
図12】パンタグラフ機構を斜めに傾けたときの支持機構の状態を示す部分断面図である。
図13】支持機構にバネ部材を設けた例を示す側面図である。
図14】支持機構に磁石を設けた例を示す側面図である。
図15】姿勢変更機構の他の例を説明する側面図である。
図16】姿勢変更機構の他の例を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る精紡機の管替装置の構成例を示す側面図であり、図2は同正面図、図3は同斜視図である。なお、本実施形態においては、精紡機がポット精紡機である場合を例に挙げて説明する。
【0028】
図1に示すように、ポット精紡機10のフレーム11の両側には、それぞれ複数の固定カバー12が設けられている。ポット精紡機10の機台の高さ寸法を小さく抑えるには、フレーム11の高さ寸法を小さく抑えることが有効である。複数の固定カバー12は、図2に示すように、精紡機長手方向Xに並んで配置されている。固定カバー12は円筒状に形成されている。固定カバー12の内部には、図示しないポットが収容されている。ポット精紡機10は、フレーム11の両側に複数の紡錘を備えている。紡錘は、紡績の一単位となるものである。固定カバー12とポットは、紡錘ごとに設けられている。1つの紡錘には、固定カバー12とポットの他に、図示しないドラフト装置、吸篠管、導糸管などが設けられる。
【0029】
ここで、ポット精紡機10の基本的な動作について簡単に説明する。
まず、ポット精紡機10では、ドラフト装置によって引き伸ばした糸を、吸篠管を通して導糸管に供給し、導糸管を通してポット内に導入する。そして、ポットの内部で導糸管の下端部から糸を排出するとともに、ポットの回転により糸に撚りを加えた状態で、ポットの内壁に糸を積層する。その際、導糸管を所定の周期で繰り返し上下方向に往復移動させながら、導糸管の位置を徐々に下方に変位させる。これにより、ポットの内壁に、糸の積層体であるケークが形成される。次に、ポットの回転を継続したまま、ポット内にボビンを挿入し、ケークを形成している糸をボビンに巻き返す。その後、糸の巻き返しによって所定量の糸が巻かれた満管のボビンをポットから取り出す。
【0030】
このように動作するポット精紡機10に対し、管替装置20は、満ボビンと空ボビンを入れ替える作業を行うものである。管替装置20は、複数の紡錘に対応してフレーム11の両側に対をなして配置されている。管替装置20は、ポット精紡機10が備える複数の紡錘を対象に一斉にボビンの入れ替えを行う一斉式管替装置を構成している。
【0031】
管替装置20は、ボビンを移送するボビン移送部21と、ボビンを支持するボビン支持部22と、ボビンを把持するボビン把持部23と、ボビン把持部23を支持するドッフィングバー24と、昇降機構としてのパンタグラフ機構25と、パンタグラフ機構25全体を傾斜させるチルティング機構26と、ドッフィングバー24を介してボビン把持部23を支持する支持機構27と、を備えている。
【0032】
(ボビン移送部)
ボビン移送部21は、複数の紡錘を備えるポット精紡機10に対して、空ボビンの搬入と満ボビンの排出のためにボビンを移送するものである。ボビン移送部21は、図4に示すようにペグトレイ31を有し、このペグトレイ31を用いてボビン30を移送する。ペグトレイ31は、突状のペグ31aを一体に有している。ペグトレイ31およびペグ31aは、いずれも平面視円形に形成されている。ボビン30は、ペグトレイ31のペグ31aに対して抜き挿し可能に構成されている。ペグトレイ31は、ペグ31aの軸芯を通る第2ボビン支持軸J2を中心にボビン30を支持する。その際、ペグトレイ31に支持されるボビン30の中心軸は、第2ボビン支持軸J2と同軸に配置される。第2ボビン支持軸J2は、垂直軸J5と平行な仮想の軸であり、垂直軸J5は、重力の方向と平行な仮想の軸である。このため、ボビン移送部21において、ボビン30は垂直に起立した状態でペグトレイ31に支持される。
【0033】
ペグトレイ31は、ガイド部材32が形成するペグトレイ通路に複数配置されている。ガイド部材32は、精紡機長手方向Xに長いレール状に形成されている。複数のペグトレイ31は、精紡機長手方向Xに一定のピッチで配列されている。ペグトレイ31のピッチは、精紡機長手方向Xに並ぶ複数のポットと同じピッチに設定されている。
【0034】
ボビン移送部21は、各々のペグトレイ31に装着されるボビン30を、ペグトレイ31と共に移送する。図5に示すように、精紡機長手方向Xにおいては、複数のペグトレイ31が互いに隣接して配置されている。また、精紡機長手方向Xで隣り合う2つのペグトレイ31の境界部には、それぞれ1つずつ中間ペグ33が配置されている。中間ペグ33は、管替装置20がボビンの入れ替え作業を行う際に、一時的に空ボビンを退避させておくためのものである。ここで、精紡機長手方向Xで隣り合う2つのペグ31a間のピッチPaに対し、ある1つのペグ31aからこれに隣り合う中間ペグ33までのピッチPbは、ピッチPaの半分に設定されている。すなわち、中間ペグ33は、精紡機長手方向Xで隣り合う2つのペグ31a間の中間位置に配置されている。
【0035】
(ボビン支持部)
ボビン支持部22は、ポット精紡機10が精紡する際に、糸の巻き返しに使用されるボビン30を支持するものである。また、ボビン支持部22は、管替装置20がボビン入れ替え作業を行う際に、入れ替え前のボビンとなる満ボビンと入れ替え後のボビンとなる空ボビンをそれぞれ異なるタイミングで支持するものである。これにより、ボビン支持部22は、ポット精紡機10と管替装置20の両方に属する構成要素となる。
【0036】
ボビン支持部22は、紡錘ごとに設けられるポットと1対1の対応関係でボビン30を支持する。ボビン支持部22は、ボビンレール36を有し、このボビンレール36上でボビン30を垂直に支持する。ボビンレール36には、図6に示すように、支持ピン37が設けられている。支持ピン37は、平面視円形に形成されている。支持ピン37は、ボビンレール36の上面から垂直に起立している。ボビン30は、支持ピン37に対して抜き挿し可能に構成されている。ボビンレール36は、支持ピン37の軸芯を通る第1ボビン支持軸J1を中心にボビン30を支持する。その際、ボビンレール36に支持されるボビン30の中心軸は、第1ボビン支持軸J1と同軸に配置される。よって、ボビン支持部22において、ボビン30は垂直に起立した状態でボビンレール36に支持される。
【0037】
第1ボビン支持軸J1は、垂直軸J5と平行な仮想の軸である。このため、上記の第2ボビン支持軸J2と第1ボビン支持軸J1とは、互いに平行な軸となっている。ただし、第2ボビン支持軸J2と第1ボビン支持軸J1は、互いに水平方向に位置をずらして設定されている。具体的には、第2ボビン支持軸J2と第1ボビン支持軸J1は、精紡機長手方向Xと直交する精紡機短手方向Yに位置をずらして設定されている。また、精紡機短手方向Yにおいて、第2ボビン支持軸J2は、第1ボビン支持軸J1よりもフレーム11から遠い側に設定されている。
【0038】
ボビン支持部22は、リフター装置38によって上下方向に移動可能に設けられている。リフター装置38は、ポット内でボビン30に糸を巻き返すために、ボビン支持部22を初期位置から上方に移動させる。また、リフター装置38は、ポット内で糸が巻き返されたボビン30を取り出すために、ボビン支持部22を下方に移動させて初期位置に戻す。ボビン支持部22を初期位置に配置した状態では、ボビン移送部21とボビン支持部22との間に所定の高低差H(図1参照)が設定される。この高低差Hは、ボビン30の長手寸法よりも短く設定されている。このため、ボビン支持部22に支持されるボビン30の下端部は、ボビン移送部21に支持されるボビン30の上端部よりも低い位置に配置される。したがって、ボビン支持部22に支持されるボビン30と、ボビン移送部21に支持されるボビン30は、フレーム11の高さ方向で部分的にスペースを共用して配置される。
【0039】
その場合、本実施形態においては、第1ボビン支持軸J1と第2ボビン支持軸J2が水平方向に位置をずらして配置されているため、各々の軸J1,J2を中心に支持されるボビン30同士が干渉することはない。これに対して、たとえば、第1ボビン支持軸J1と第2ボビン支持軸J2を同軸に配置する場合は、各々の軸J1,J2を中心に支持されるボビン30同士が干渉しないよう、ボビン移送部21とボビン支持部22の高低差を少なくともボビン30の長手寸法以上に確保する必要がある。したがって、本実施形態によれば、第1ボビン支持軸J1と第2ボビン支持軸J2を同軸に配置する場合に比べて、フレーム11の高さ寸法を低く抑えることができる。
【0040】
(ボビン把持部)
ボビン把持部23は、ボビンの入れ替えに際してボビン30を把持するものである。ボビン把持部23は、ボビン30の上端部を挿入可能なボビン挿入孔(不図示)を有し、このボビン挿入孔内を通る把持軸J3(図1参照)を中心にボビン30を把持する。把持軸J3は、仮想の軸である。ボビン把持部23によってボビン30を把持した状態では、ボビン30の中心軸が把持軸J3と同軸に配置される。
【0041】
ボビン把持部23には、たとえば、特開平9-87931号公報に記載されたボビン把持部を適用可能である。同公報に記載されたボビン把持部は、固定把持部材と可動把持部材とダイヤフラムと付勢手段とを備える。このボビン把持部では、可動把持部材にダイヤフラムを介して流体圧力を作用させることにより、可動把持部材を解放位置から把持位置へと移動させ、固定把持部材と可動把持部材との間にボビンを把持する。また、このボビン把持部では、ダイヤフラムへの流体圧力の作用を解除することにより、可動把持部材を付勢手段によって解放位置に移動させ、ボビンの把持を解除する。
【0042】
(ドッフィングバー)
ドッフィングバー24は、図2に示すように、精紡機長手方向Xに長く延びる部材であって、水平に配置されている。ドッフィングバー24は、水平な姿勢を維持しながら、パンタグラフ機構25の駆動に従って昇降動作するものである。ドッフィングバー24の長手方向には、各紡錘のポットと1対1の対応関係で複数のボビン把持部23が配列されている。各々のボビン把持部23は、ネジ止め等によってドッフィングバー24に取り付けられている。これにより、ドッフィングバー24には複数のボビン把持部23が支持されている。
【0043】
(パンタグラフ機構)
パンタグラフ機構25は、ドッフィングバー24を昇降軸J4(図1および図2参照)の方向に昇降動作させるものである。昇降軸J4は、仮想の軸である。昇降軸J4が垂直軸J5と平行であるときは、ドッフィングバー24は、昇降軸J4と平行な方向、すなわち垂直方向に昇降動作する。パンタグラフ機構25は、駆動シャフト42を中心に回動可能に支持されている。駆動シャフト42は、精紡機長手方向Xに沿って水平に配置されている。駆動シャフト42は、図示しないパワーシリンダの駆動によって精紡機長手方向Xに往復移動可能に設けられている。
【0044】
パンタグラフ機構25は、第1のリンク43と、第2のリンク44と、を備えている。第1のリンク43の一端部は連結ピン45によって固定部材62に連結されている。固定部材62にはドッフィングバー24が取り付けられている。第1のリンク43と第2のリンク44は、精紡機長手方向Xに所定の間隔で複数設けられる。そして、精紡機長手方向Xで隣り合う2つの第1のリンク43の上端部間にドッフィングバー24が水平に配置されている。第1のリンク43の他端部は連結ピン46によって移動ブラケット47に連結されている。連結ピン45および連結ピン46は、それぞれパンタグラフ機構25のリンク節点を形成している。昇降軸J4は、連結ピン45が形成するリンク節点と連結ピン46が形成するリンク節点とを結ぶ軸となる。移動ブラケット47は、駆動シャフト42と一体に精紡機長手方向Xに移動するように駆動シャフト42に固定されている。
【0045】
第2のリンク44は、第1のリンク43の1/2の長さを有するリンクである。第2のリンク44の一端部は、第1のリンク43の長さ方向の中間部に連結ピン48によって連結されている。第2のリンク44の他端部は連結ピン49によって支持ブラケット50に連結されている。連結ピン48および連結ピン49は、それぞれパンタグラフ機構25のリンク節点を形成している。支持ブラケット50は、固定ブラケット51により駆動シャフト42の軸方向への移動が規制されている。支持ブラケット50は、精紡機長手方向Xへの駆動シャフト42の移動を許容する状態で、駆動シャフト42に回動可能に取り付けられている。
【0046】
上記構成からなるパンタグラフ機構25において、図示しないパワーシリンダの駆動により駆動シャフト42を精紡機長手方向Xに往復移動させると、第1のリンク43と第2のリンク44の動作に従ってドッフィングバー24が昇降動作する。また、ドッフィングバー24が昇降動作すると、ボビン把持部23もドッフィングバー24と共に昇降動作する。
【0047】
(チルティング機構)
チルティング機構26は、垂直軸J5に対してパンタグラフ機構25全体を傾斜させるものである。このチルティング機構26によってパンタグラフ機構25を傾斜させることにより、第2ボビン支持軸J2に対してパンタグラフ機構25の昇降軸J4を傾けることができる。チルティング機構26は、上述した駆動シャフト42を有し、この駆動シャフト42を中心にパンタグラフ機構25を回動させることにより、パンタグラフ機構25全体を傾斜させる。このため、駆動シャフト42は、チルティング機構26によってパンタグラフ機構25を傾斜させるときの回動支点となる。チルティング機構26によってパンタグラフ機構25を回動させると、ボビン把持部23とドッフィングバー24は、フレーム11に対して接近または離間する方向に移動する。
【0048】
具体的には、図7に示すようにパンタグラフ機構25の昇降軸J4を垂直に起立させた状態から駆動シャフト42を中心にパンタグラフ機構25を図の時計回り方向CWに回動させると、ボビン把持部23とドッフィングバー24は、フレーム11に対して接近する方向に移動する。このときのチルティング機構26の動作は、垂直軸J5に対してパンタグラフ機構25を傾ける動作(以下、「第1のチルティング動作」という。)となる。一方、図8に示すように垂直軸J5に対してパンタグラフ機構25の昇降軸J4を傾けた状態から駆動シャフト42を中心にパンタグラフ機構25を図の反時計回り方向CCWに回動させると、ボビン把持部23とドッフィングバー24は、フレーム11に対して離間する方向に移動する。このときのチルティング機構26の動作は、垂直軸J5に対するパンタグラフ機構25の傾きを解消する動作(以下、「第2のチルティング動作」という。)となる。
【0049】
チルティング機構26の構成としては、たとえば、上記特許文献1(特開平7-126930号公報)に開示された構成を採用することができる。すなわち、支持ブラケット50に一体に設けられたレバー50aを、図示しないエアーシリンダの駆動によって駆動シャフト42を中心に回動させ、これによってパンタグラフ機構25全体を支持ブラケット50と共に駆動シャフト42を中心に回動させる。なお、チルティング機構26は、特許文献1に開示された構成に限らず、駆動シャフト42を中心にパンタグラフ機構25全体を回動可能な構成であればよい。
【0050】
(支持機構)
支持機構27は、パンタグラフ機構25とドッフィングバー24との間に設けられ、ドッフィングバー24を介してボビン把持部23を支持するものである。支持機構27は、ボビン把持部23の把持軸J3とパンタグラフ機構25の昇降軸J4とのなす角度が、少なくとも2つの異なる角度をとり得るように、ボビン把持部23の姿勢を変更する姿勢変更機構61を有している。姿勢変更機構61は、蝶番66を用いて構成されている。ボビン把持部23の姿勢は、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度で規定され、この角度が変わることで、ボビン把持部23の姿勢も変わる。
【0051】
図9は、パンタグラフ機構とドッフィングバーと支持機構の取り付け状態を正面側から見た斜視図であり、図10は、パンタグラフ機構とドッフィングバーと支持機構の取り付け状態をフレーム側から見た斜視図である。また、図11は、パンタグラフ機構が垂直に起立しているときの支持機構の状態を示す部分断面図であり、図12は、パンタグラフ機構を斜めに傾けたときの支持機構の状態を示す部分断面図である。
【0052】
支持機構27は、固定部材62と、可動部材63とを備えている。固定部材62は、パンタグラフ機構25に対して固定される部材である。固定部材62には凹溝64が形成されている。凹溝64には第1のリンク43の上端部が挿入されている。第1のリンク43の上端部は、凹溝64に挿入された状態で連結ピン45により固定部材62に連結されている。また、固定部材62の上部には突起部65が設けられている。突起部65は固定部材62に一体に形成されている。
【0053】
可動部材63は、蝶番66によって固定部材62に接続されている。蝶番66は、軸部66aと、軸部66aを中心に回動自在な一対の翼部66b,66cとによって構成されている。軸部66aは、駆動シャフト42と平行に配置されている。一方の翼部66bは、固定部材62の下面にネジ67aによって固定されている。他方の翼部66cは、可動部材63の下面にネジ67bによって固定されている。これにより、可動部材63は、固定部材62に対して蝶番66の軸部66aを中心に回動可能に支持されている。可動部材63にはネジ止め等によってドッフィングバー24が取り付けられている。このため、蝶番66の軸部66aを中心に可動部材63が回動すると、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が変化し、これに応じてボビン把持部23の姿勢が変わる。
【0054】
可動部材63にはフック部68が形成されている。フック部68は、固定部材62の突起部65に対応して形成されたものである。また、可動部材63にはフック部68と対向する位置に調整ネジ69が取り付けられている。調整ネジ69は、可動部材63に形成されたネジ孔70に取り付けられている。調整ネジ69は、姿勢変更機構61によるボビン把持部23の姿勢変更量を調整するための調整部材に相当する。本実施形態においては、一例として、調整ネジ69が六角孔付き止めネジによって構成されている。調整ネジ69の先端部は、可動部材63の表面から所定量だけ突出している。調整ネジ69の突出量は、調整ネジ69自身を回転させることで調整可能である。調整ネジ69の先端部は、姿勢変更機構61によってボビン把持部23の姿勢を変更する際に、固定部材62の突起部65に突き当たる部分となる。このため、調整ネジ69の突出量を調整することにより、ボビン把持部23の姿勢変更量を調整することが可能となる。調整ネジ69を用いたボビン把持部23の姿勢変更量の調整は、姿勢変更機構61によってボビン把持部23の姿勢を変更する際に、第1ボビン支持軸J1に対して把持軸J3を正確に位置合わせし、両軸を同軸に配置するために有効な手段となる。
【0055】
さらに、可動部材63には突き当て部71が設けられている。突き当て部71は、可動部材63に一体に形成してもよいし、可動部材63とは別体に構成してもよい。本実施形態では、一例として、突き当て部71が可動部材63の上部にネジ止め等によって固定されている。突き当て部71は、側面視半月状に形成されるとともに、固定カバー12側に向かって突出するように配置されている。
【0056】
これに対して、フレーム11にはストッパー部材75が固定されている。ストッパー部材75は、管替装置20の一構成要素としてフレーム11に取り付けられるもので、いずれか1つの固定カバー12を囲むように配置されている。ストッパー部材75は、フレーム11に対してネジ止め等により取り付けられている。また、ストッパー部材75は、精紡機短手方向Yにおいて可動部材63の突き当て部71と対向するように配置されている。これにより、姿勢変更機構61によってボビン把持部23の姿勢を変更する場合は、チルティング機構26がパンタグラフ機構25全体を傾斜させることにより、可動部材63の突き当て部71がストッパー部材75に突き当たる構成になっている。
【0057】
また、可動部材63にはドッフィングバー24を介してボビン把持部23が取り付けられている。ドッフィングバー24とボビン把持部23は、蝶番66の軸部66aの位置を基準にみると一方向に偏って配置され、これによって可動部材63、ドッフィングバー24、ボビン把持部23を含む機構部分全体の重心が同方向に偏っている。このため、可動部材63は、ボビン把持部23とドッフィングバー24の自重により、図11の時計回り方向に回転力F1を受けており、この回転力F1によって可動部材63のフック部68が固定部材62の突起部65に接触している。
【0058】
上記構成からなる支持機構27は、図7に示すように、パンタグラフ機構25の昇降軸J4を第2ボビン支持軸J2と平行に配置した状態では、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を、角度θ1と同じ第1の角度に保持する。角度θ1は、昇降軸J4と垂直軸J5とのなす角度であり、第2ボビン支持軸J2は垂直であるから昇降軸J4と第2ボビン支持軸J2とのなす角度と等しい。パンタグラフ機構25の昇降軸J4を第2ボビン支持軸J2と平行に配置した状態では、θ1=0°となる。
また、支持機構27は、図8に示すように、チルティング機構26によってパンタグラフ機構25の昇降軸J4を第2ボビン支持軸J2に対して傾けた状態では、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を、角度θ2と同じ第2の角度に保持する。角度θ2は、昇降軸J4と垂直軸J5とのなす角度であり、第1ボビン支持軸J1は垂直であるから昇降軸J4と第1ボビン支持軸J1とのなす角度に等しい。パンタグラフ機構25の昇降軸J4を第2ボビン支持軸J2に対して傾けた状態では、角度θ2は上記の角度θ1よりも大きい角度となる。
以下、詳しく説明する。
【0059】
まず、パンタグラフ機構25の昇降軸J4を第2ボビン支持軸J2と平行に配置した状態では、ボビン把持部23とドッフィングバー24の自重により、可動部材63が図11の時計回り方向の回転力F1を受ける。この回転力F1により、可動部材63のフック部68は固定部材62の突起部65に接触する。これにより、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が、角度θ1(図7参照)と同じ第1の角度に保持される。このとき、把持軸J3は第2ボビン支持軸J2と平行に配置される。このため、第1の角度は0°に保持される。このように第1の角度に保持した状態では、把持軸J3と第2ボビン支持軸J2とが同軸に配置される。「同軸に配置」とは、2つの軸が同一の軸線上に配置されることを意味する。把持軸J3と第2ボビン支持軸J2を同軸に配置する理由は、ボビン移送部21で第2ボビン支持軸J2を中心に支持されるボビン30をボビン把持部23で把持できるようにするためである。
【0060】
一方、チルティング機構26によってパンタグラフ機構25全体を傾斜させると、図12に示すように、可動部材63の突き当て部71がストッパー部材75に突き当たる。このとき、可動部材63は、突き当て部71とストッパー部材75の突き当てによる反力F2を受けて、蝶番66の軸部66aを中心に図12の反時計回り方向に回動する。また、このように可動部材63が回動すると、フック部68が突起部65から離れて、調整ネジ69の先端部が突起部65に突き当たる。これにより、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が、角度θ2(図8参照)と同じ第2の角度に保持される。また、第2ボビン支持軸J2に対してパンタグラフ機構25を傾斜させると、パンタグラフ機構25と共に昇降軸J4が傾く。その際、把持軸J3は、上述した可動部材63の回動により、昇降軸J4に対して、昇降軸J4の傾き方向とは反対方向に角度θ2だけ傾く。このため、第2ボビン支持軸J2に対して昇降軸J4が傾いても、把持軸J3は第1ボビン支持軸J1や第2ボビン支持軸J2と平行に配置される。また、昇降軸J4は垂直軸J5に対して傾きをもつため、第2の角度は0°よりも大きい角度に保持される。このように第2の角度を保持した状態では、把持軸J3と第1ボビン支持軸J1とが同軸に配置される。把持軸J3と第1ボビン支持軸J1を同軸に配置する理由は、ボビン支持部22で第1ボビン支持軸J1を中心に支持されるボビン30をボビン把持部23で把持できるようにするためである。
【0061】
続いて、上記構成からなる管替装置20を用いたボビン入れ替え作業の手順について説明する。
まず、ポット精紡機10の各紡錘では、リフター装置38によってボビン支持部22が上方に移動することにより、ボビン支持部22に支持されたボビン30がポット内に挿入され、そこでボビン30に糸が巻き返される。これに対して、管替装置20は、ポット内でボビン30への糸の巻き返しが終了する前に動作を開始し、以下のように動作する。
【0062】
(第1ステップ)
まず、ボビン移送部21によって各紡錘に対応する位置にそれぞれ空のボビン30を移送する。このとき、ボビン30は、ペグトレイ31のペグ31aに装着されて移送される。また、ボビン移送部21の第2ボビン支持軸J2は、ボビン把持部23の把持軸J3と同軸に配置される。このため、空のボビン30は、ボビン把持部23の真下に配置される。
【0063】
(第2ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を下降動作させる。この段階ではパンタグラフ機構25の昇降軸J4が第2ボビン支持軸J2と平行に配置される。このため、ドッフィングバー24は、ボビン把持部23と共に、第2ボビン支持軸J2に沿って真っ直ぐに下降する。
【0064】
(第3ステップ)
次に、上述のようにボビン移送部21によって移送された空のボビン30をボビン把持部23によって把持する。
【0065】
(第4ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を上昇動作させる。これにより、ボビン把持部23は、空のボビン30を把持したまま、ドッフィングバー24と共に上昇する。その結果、ボビン移送部21のペグトレイ31からボビン30が抜き取られる。
【0066】
(第5ステップ)
次に、ボビン移送部21によってペグトレイ31の位置を半ピッチPb(図5参照)だけ精紡機長手方向Xの一方に移動させる。これにより、ボビン把持部23の直下に中間ペグ33が配置される。
【0067】
(第6ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を下降動作させた後、ボビン把持部23によるボビン30の把持を解除する。これにより、中間ペグ33に空のボビン30が装着される。
【0068】
(第7ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を上昇動作させた後、ボビン移送部21によってペグトレイ31の位置を半ピッチPb(図5参照)だけ精紡機長手方向Xの他方に移動させる。これにより、ボビン把持部23の真下にペグトレイ31のペグ31aが配置される。
その後、管替装置20は、ポット内でボビン30への糸の巻き返しが終了していない場合は、終了するまで待機する。
【0069】
(第8ステップ)
次に、ポット内でボビン30への糸の巻き返しが終了すると、リフター装置38によってボビン支持部22が下方に移動する。これにより、糸の巻き返しを終えた満管のボビン30がポットから取り出される。
【0070】
(第9ステップ)
次に、チルティング機構26の第1のチルティング動作により、第2ボビン支持軸J2に対してパンタグラフ機構25全体を傾斜させる。パンタグラフ機構25を傾斜させると、可動部材63の突き当て部71がストッパー部材75に突き当たり、その反力を受けて可動部材63が蝶番66の軸部66aを中心に回動する。また、可動部材63が回動すると、フック部68が突起部65から離れ、調整ネジ69の先端部が突起部65に突き当たる。その結果、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が第2の角度に保持される。また、ボビン把持部23の把持軸J3が、ボビン支持部22の第1ボビン支持軸J1と同軸に配置される。
【0071】
(第10ステップ)
次に、リフター装置38によってボビン支持部22を上方に移動させた後、ボビン把持部23によって満管のボビン30を把持する。
【0072】
(第11ステップ)
次に、リフター装置38によってボビン支持部22を下方に移動させた後、チルティング機構26の第2のチルティング動作により、第2ボビン支持軸J2に対するパンタグラフ機構25の傾きを解消する。これにより、パンタグラフ機構25の昇降軸J4が第2ボビン支持軸J2と平行に配置される。また、可動部材63の突き当て部71がストッパー部材75から離れる。このため、可動部材63は、ボビン把持部23とドッフィングバー24の自重による回転力を受けて、蝶番66の軸部66aを中心に回動する。その結果、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が第1の角度に保持される。また、ボビン把持部23の把持軸J3が、ボビン移送部21の第2ボビン支持軸J2と同軸に配置される。
【0073】
(第12ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を下降動作させた後、ボビン把持部23によるボビン30の把持を解除する。これにより、ボビン移送部21のペグトレイ31に満管のボビン30が装着される。
【0074】
(第13ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を上昇動作させた後、ボビン移送部21によってペグトレイ31の位置を半ピッチPbだけ精紡機長手方向Xの一方に移動させる。これにより、ボビン把持部23の直下に中間ペグ33が配置される。この段階では中間ペグ33に空のボビン30が装着されている。
【0075】
(第14ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を下降動作させた後、中間ペグ33に装着されている空のボビン30をボビン把持部23によって把持する。
【0076】
(第15ステップ)
次に、パンタグラフ機構25によってドッフィングバー24を上昇動作させた後、チルティング機構26の第1のチルティング動作により、第2ボビン支持軸J2に対してパンタグラフ機構25全体を傾斜させる。これにより、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が第2の角度に保持される。また、ボビン把持部23の把持軸J3が、ボビン支持部22の第1ボビン支持軸J1と同軸に配置される。
【0077】
(第16ステップ)
次に、リフター装置38によってボビン支持部22を上方に移動させた後、ボビン把持部23によるボビン30の把持を解除する。これにより、ボビン支持部22の支持ピン37に空のボビン30が装着される。
【0078】
(第17ステップ)
次に、リフター装置38によってボビン支持部22を下方に移動させた後、チルティング機構26の第2のチルティング動作により、第2ボビン支持軸J2に対するパンタグラフ機構25の傾きを解消する。これにより、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が第1の角度に保持される。また、ボビン把持部23の把持軸J3が、ボビン移送部21の第2ボビン支持軸J2と同軸に配置される。
【0079】
以上述べた管替装置20の動作により、ボビン支持部22に支持されるボビン30が満ボビンから空ボビンに入れ替えられる。
なお、上述した管替装置20の動作は、ポット精紡機10および管替装置20の動作を統括的に制御する制御部(不図示)が、ボビン移送部21、ボビン支持部22、ボビン把持部23、パンタグラフ機構25およびチルティング機構26の駆動を制御することにより実行されるものである。
上記ステップにおいて、ボビン移送部21によって移送される空のボビン30は、中間ペグ33に装着された状態で移送されてもよい。その場合、第2ステップから第7ステップまでは省略される。また、ペグトレイ31のペグ31aと中間ペグ33とを入れ替えて使用してもよい。
【0080】
<実施形態の効果>
本発明の実施形態においては、ボビン移送部21の第2ボビン支持軸J2とボビン支持部22の第1ボビン支持軸J1とが、互いに水平方向に位置をずらして設定されている。また、パンタグラフ機構25の昇降軸J4を第2ボビン支持軸J2と平行に配置した状態では、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が支持機構27によって第1の角度に保持され、かつ、把持軸J3と第2ボビン支持軸J2とが同軸に配置される。一方、チルティング機構26によってパンタグラフ機構25の昇降軸J4を第2ボビン支持軸J2に対して傾けて配置した状態では、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が第1の角度よりも大きい第2の角度に保持され、かつ、把持軸J3と第1ボビン支持軸J1とが同軸に配置される。これにより、管替装置20でボビン入れ替え作業を行う場合に、第1ボビン支持軸J1の位置と第2ボビン支持軸J2の位置が水平方向にずれていても、ボビン移送部21に支持されるボビン30とボビン支持部22に支持されるボビン30を、それぞれボビン把持部23で把持することができる。また、第1ボビン支持軸J1と第2ボビン支持軸J2を垂直方向に位置をずらして同軸に配置する場合に比べて、ポット精紡機10のフレーム11の高さを低く抑えることができる。その結果、垂直軸J5に対してボビン支持軸J1,J2を傾けなくても、ポット精紡機10のフレーム11の高さ寸法、ひいてはポット精紡機10の機台の高さ寸法を小さく抑えることが可能となる。
【0081】
また、本発明の実施形態において、支持機構27は、パンタグラフ機構25に固定される固定部材62と、固定部材62に取り付けられる可動部材63とを有し、可動部材63にドッフィングバー24を介してボビン把持部23が取り付けられた構成を採用している。これにより、固定部材62に対する可動部材63の動きを利用して、ボビン把持部23の姿勢を変更することができる。また、簡易な構成でボビン把持部23の姿勢を変更することができる。
【0082】
また、本発明の実施形態においては、可動部材63に突き当て部71を設け、これに対応してフレーム11にストッパー部材75を設けている。そして、チルティング機構26によってパンタグラフ機構25を傾けた場合に、突き当て部71がストッパー部材75に突き当たることで、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を第2の角度に保持する構成を採用している。これにより、別途駆動源を追加しなくても、チルティング機構26の動作を利用してボビン把持部23の姿勢を変更し、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を第2の角度に保持することができる。
【0083】
また、本発明の実施形態においては、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を、ボビン把持部23とドッフィングバー24の自重により、第1の角度に保持する構成を採用している。これにより、より少ない部品点数で支持機構27を構成することができる。
【0084】
また、本発明の実施形態においては、姿勢変更機構61によるボビン把持部23の姿勢変更量を調整可能なフック部68を備えた構成を採用している。これにより、チルティング機構26によってパンタグラフ機構25を傾斜させたときに、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を所望の角度に精度良く合わせすることができる。
【0085】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0086】
たとえば、上記実施形態においては、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を、ボビン把持部23とドッフィングバー24の自重だけで、第1の角度に保持する構成を採用したが、本発明はこれに限らない。たとえば、図13に示すように、固定部材62と可動部材63とが対向する部分に、弾性部材としてのバネ部材77を取り付け、このバネ部材77の弾性力(バネ力)によって第1の角度を保持する構成を採用してもよい。ただし、弾性部材はバネ部材に限らず、たとえば、伸縮性に富むゴム状部材であってもよい。また、これ以外にも、たとえば、図14に示すように、固定部材62の突起部65に磁石78aを設けるとともに、これに対応して可動部材63のフック部68に磁石78bを設け、これら2つの磁石78a,78bの間に働く磁力によって第1の角度を保持する構成を採用してもよい。ただし、2つの磁石78a,78bのうち、いずれか一方は、磁石に引きつけられる金属片であってもよい。
このように、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度を、弾性力あるいは磁力によって第1の角度に保持する構成を採用すれば、パンタグラフ機構25による昇降動作やチルティング機構26によるチルティング動作に際して、ドッフィングバー24やボビン把持部23の振動を抑制することができる。
【0087】
また、上記実施形態においては、蝶番66を用いて姿勢変更機構61を構成したが、姿勢変更機構はこれに限らず、把持軸J3と昇降軸J4とのなす角度が変わるように、ボビン把持部23の姿勢を変更し得るものであればよい。たとえば、図15に示すようなリンク機構80によって姿勢変更機構を構成してもよい。リンク機構80は、上側リンク81と下側リンク82とを有している。上側リンク81の一端はピン83によって固定部材62に接続され、同他端はピン84によって可動部材63に接続されている。また、下側リンク82の一端はピン85によって固定部材62に接続され、同他端はピン86によって可動部材63に接続されている。このリンク機構80では、図15に示すように、パンタグラフ機構25の昇降軸J4が垂直に配置された状態では、ボビン把持部23の把持軸J3が垂直に配置される。また、図16に示すように、パンタグラフ機構25の昇降軸J4が傾いて配置された状態では、リンク機構80の動きに応じてボビン把持部23の姿勢が変わることにより、ボビン把持部23の把持軸J3が垂直に配置される。
【0088】
また、上記実施形態では、昇降機構の一例としてパンタグラフ機構25を採用したが、本発明はこれに限らず、ドッフィングバー24を昇降動作させ得るものであれば、他の機構を採用してもよい。
【0089】
また、上記実施形態においては、本発明を適用可能な精紡機の一例としてポット精紡機を挙げたが、本発明はこれに限らず、たとえば、リング精紡機にも適用可能である。リング精紡機に適用する場合は、ボビンレール36の代わりにスピンドル(不図示)がボビン支持部に設けられる。また、リング精紡機に比べると、ポット精紡機は、ポットなどの筒状部材を配置するスペースの他に、ポットに対してボビンを出し入れするための動作用スペースを確保する必要があり、機台の高さ寸法が大きくなりやすい。したがって、機台の高さを低く抑えるという効果は、本発明をポット精紡機に適用した場合のほうがより顕著になる。
【符号の説明】
【0090】
10 ポット精紡機、11 フレーム、20 管替装置、21 ボビン移送部、22 ボビン支持部、23 ボビン把持部、24 ドッフィングバー、25 パンタグラフ機構(昇降機構)、26 チルティング機構、27 支持機構、30 ボビン、42 駆動シャフト、61 姿勢変更機構、62 固定部材、63 可動部材、69 調整ネジ(調整部材)、71 突き当て部、75 ストッパー部材、77 バネ部材(弾性部材)、78a,78b 磁石、J1 第1ボビン支持軸、J2 第2ボビン支持軸、J3 把持軸、J4 昇降軸、J5 垂直軸。
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