(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220208BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
H02M7/48 F
F04B39/00 106Z
(21)【出願番号】P 2018204684
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅士
(72)【発明者】
【氏名】名嶋 一記
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-242110(JP,A)
【文献】特開2016-32420(JP,A)
【文献】特開2009-124914(JP,A)
【文献】特開2009-17613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動するモータと、
前記モータを駆動するためにスイッチング動作を行うスイッチング素子を有するとともに出力側に前記モータの各相のコイルが接続されるインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに直流電源に対して並列接続されているコンデンサと、
前記インバータ回路へ3相のPWM信号を出力して前記インバータ回路の制御を行う制御部と、
前記コンデンサの温度を推定する温度推定部と、
前記モータのロータの位置を推定するロータ位置推定部と、を備え、
前記制御部は、
前記温度推定部により推定された前記コンデンサの温度が予め定められた温度以下の場合に、前記ロータ位置推定部によって推定された前記ロータの位置で、前記3相のPWM信号のうち、前記モータに流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行する電動圧縮機。
【請求項2】
前記制御部は、前記位相シフト処理において、前記3相のPWM信号のうち、前記モータに流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相を、その他の相のPWM信号の位相に対して180°ずらす請求項1に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、圧縮部を駆動するモータと、スイッチング素子を有するインバータ回路と、インバータ回路の制御を行う制御部と、を備えている。スイッチング素子は、モータを駆動するためにスイッチング動作を行う。インバータ回路の出力側には、モータの各相のコイルが接続されている。制御部は、インバータ回路へ3相のPWM信号を出力してインバータ回路の制御を行う。そして、制御部から出力されたPWM信号に基づいて、スイッチング素子がスイッチング動作を行うことにより、直流電源からの直流電流が交流電流に変換され、交流電流がモータの各相のコイルに供給されることにより、モータが駆動する。
【0003】
また、インバータ回路の入力側には、直流電源に対して並列接続されているコンデンサが設けられている。ところで、極低温(例えば0℃以下)の環境下では、コンデンサの等価直列抵抗(ESR)が急激に大きくなる。コンデンサの等価直列抵抗が急激に大きくなった状態で、コンデンサに電流が流れると、サージ電圧が発生し、サージ電圧がスイッチング素子の耐電圧を超えると、スイッチング素子が故障する虞がある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、コンデンサの温度が予め定められた温度以下の場合に、インバータ回路へ出力される3相のPWM信号のうち少なくとも1相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行している。具体的には、インバータ回路から出力される3相(U相、V相、W相)の出力電圧の各々の極性が全て同一(全てHigh極性又はLow極性)である期間が短くなるように、インバータ回路へ出力されるPWM信号のうち少なくとも1相のPWM信号の位相をシフトしている。これによれば、位相シフト処理を実行した後のPWM信号に基づいてスイッチング素子がスイッチング動作を行うと、位相シフト処理を実行する前よりも多くの電流がコンデンサに流れることになり、コンデンサが早期に暖められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように位相シフト処理を実行したとしても、PWM信号の位相をシフトする相によっては、コンデンサが暖まり難い場合がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、コンデンサを早期に暖めることができる電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動するモータと、前記モータを駆動するためにスイッチング動作を行うスイッチング素子を有するとともに出力側に前記モータの各相のコイルが接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに直流電源に対して並列接続されているコンデンサと、前記インバータ回路へ3相のPWM信号を出力して前記インバータ回路の制御を行う制御部と、前記コンデンサの温度を推定する温度推定部と、前記モータのロータの位置を推定するロータ位置推定部と、を備え、前記制御部は、前記温度推定部により推定された前記コンデンサの温度が予め定められた温度以下の場合に、前記ロータ位置推定部によって推定された前記ロータの位置で、前記3相のPWM信号のうち、前記モータに流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行する。
【0008】
本発明者らは、3相のPWM信号のうち、モータに流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトすると、多くの電流がコンデンサに流れ、コンデンサが早期に暖められることを見出した。そこで、制御部は、ロータ位置推定部によって推定されたロータの位置で、3相のPWM信号のうち、モータに流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行する。これによれば、コンデンサに流れる電流の値が大きくなるため、コンデンサが暖まり易くなる。したがって、コンデンサを早期に暖めることができる。
【0009】
上記電動圧縮機において、前記制御部は、前記位相シフト処理において、前記3相のPWM信号のうち、前記モータに流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相を、その他の相のPWM信号の位相に対して180°ずらすとよい。
【0010】
これによれば、コンデンサに電流が流れる時間を長くすることができるため、コンデンサがさらに暖まり易くなる。したがって、コンデンサをさらに早期に暖めることができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、コンデンサを早期に暖めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態における電動圧縮機を示す側断面図。
【
図3】モータに流れる電流とロータの位置との関係を示すグラフ。
【
図4】暖機制御モードにおけるモータに流れる電流、ロータの位置、及び位相をシフトする相の関係を示すグラフ。
【
図5】暖機制御モードにおけるロータの位置と位相をシフトする相との関係を示す図。
【
図6】推定されたロータの位置が0°であるときにU相のPWM信号の位相をシフトした場合のモータに流れる電流の変化、3相のPWM信号の変化、及びコンデンサに対する電流の流れの変化の関係を示すグラフ。
【
図7】制御装置の制御を説明するためのフローチャート。
【
図8】
図6におけるタイミングT1のときの電流の流れを示す図。
【
図9】
図6におけるタイミングT2のときの電流の流れを示す図。
【
図10】
図6におけるタイミングT3のときの電流の流れを示す図。
【
図11】
図6におけるタイミングT4のときの電流の流れを示す図。
【
図12】
図6におけるタイミングT5のときの電流の流れを示す図。
【
図13】比較例における推定されたロータの位置が0°であるときに制御装置が位相シフト処理を実行しない場合でのモータに流れる電流の変化、3相のPWM信号の変化、及びコンデンサに対する電流の流れの変化の関係を示すグラフ。
【
図14】
図13におけるタイミングT11のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図15】
図13におけるタイミングT12のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図16】
図13におけるタイミングT13のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図17】
図13におけるタイミングT14のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図18】
図13におけるタイミングT15のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図19】
図13におけるタイミングT16のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図20】比較例における推定されたロータの位置が0°であるときにV相のPWM信号の位相をシフトした場合のモータに流れる電流の変化、3相のPWM信号の変化、及びコンデンサに対する電流の流れの変化の関係を示すグラフ。
【
図21】
図20におけるタイミングT21のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図22】
図20におけるタイミングT22のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図23】
図20におけるタイミングT23のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図24】
図20におけるタイミングT24のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図25】
図20におけるタイミングT25のときの電流の流れを模式的に示す図。
【
図26】
図20におけるタイミングT26のときの電流の流れを模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、電動圧縮機を具体化した実施形態を
図1~
図26にしたがって説明する。本実施形態の電動圧縮機は、例えば、車両空調装置に用いられる。
図1に示すように、電動圧縮機10のハウジング11は、有底筒状の吐出ハウジング12と、吐出ハウジング12に連結される有底筒状のモータハウジング13とを有している。吐出ハウジング12及びモータハウジング13は金属材料製(例えばアルミニウム製)である。モータハウジング13は、底壁13eと、底壁13eの外周縁から筒状に延設する側壁13aとを有している。
【0014】
モータハウジング13内には、回転軸14が収容されている。また、モータハウジング13内には、回転軸14が回転することにより駆動して流体としての冷媒を圧縮する圧縮部15と、回転軸14を回転させて圧縮部15を駆動するモータ16とが収容されている。圧縮部15及びモータ16は、回転軸14の回転軸線が延びる方向である軸線方向に並んで配置されている。モータ16は、圧縮部15よりもモータハウジング13の底壁13e側に配置されている。
【0015】
圧縮部15は、例えば、モータハウジング13内に固定された図示しない固定スクロールと、固定スクロールに対向配置される図示しない可動スクロールとから構成されるスクロール式である。なお、圧縮部15は、スクロール式に限らず、例えば、ピストン式やベーン式等であってもよい。
【0016】
モータ16は、筒状のステータ17と、ステータ17の内側に配置されるロータ18とからなる。ロータ18は、回転軸14と一体的に回転する。ステータ17は、ロータ18を取り囲んでいる。ロータ18は、回転軸14に止着されたロータコア18aと、ロータコア18aに設けられた複数の永久磁石18bと、を有している。ステータ17は、筒状のステータコア17aと、ステータコア17aに巻回されたコイル19とを有している。そして、コイル19に電力が供給されることによりロータ18が回転し、回転軸14がロータ18と一体的に回転する。
【0017】
側壁13aには、吸入ポート13hが形成されている。吸入ポート13hは、モータハウジング13内に冷媒を吸入する。吸入ポート13hには、外部冷媒回路20の一端が接続されている。吐出ハウジング12には、吐出ポート12hが形成されている。吐出ポート12hには、外部冷媒回路20の他端が接続されている。
【0018】
外部冷媒回路20から吸入ポート13hを介してモータハウジング13内に吸入された冷媒は、圧縮部15の駆動により圧縮部15で圧縮されて、吐出ポート12hを介して外部冷媒回路20へ流出する。そして、外部冷媒回路20へ流出した冷媒は、外部冷媒回路20の熱交換器や膨張弁を経て、吸入ポート13hを介してモータハウジング13内に還流する。電動圧縮機10及び外部冷媒回路20は、車両空調装置21を構成している。
【0019】
モータハウジング13の底壁13eには、有底筒状のカバー22が取り付けられている。そして、モータハウジング13の底壁13eとカバー22とによって、モータ16を駆動するインバータ回路24を収容する収容空間22aが形成されている。圧縮部15、モータ16、及びインバータ回路24は、この順序で、回転軸14の軸線方向に並んで配置されている。
【0020】
図2に示すように、モータ16のコイル19は、u相コイル19u、v相コイル19v、及びw相コイル19wを有する三相構造になっている。本実施形態において、u相コイル19u、v相コイル19v、及びw相コイル19wは、Y結線されている。
【0021】
インバータ回路24は、複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2を有している。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2は、モータ16を駆動するためにスイッチング動作を行う。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2は、IGBT(パワースイッチング素子)である。複数のスイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2には、ダイオードDu1,Du2,Dv1,Dv2,Dw1,Dw2がそれぞれ接続されている。ダイオードDu1,Du2,Dv1,Dv2,Dw1,Dw2は、スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2に対して並列に接続されている。
【0022】
各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1は、各相の上アームを構成している。各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2は、各相の下アームを構成している。各スイッチング素子Qu1,Qu2、各スイッチング素子Qv1,Qv2、及び各スイッチング素子Qw1,Qw2はそれぞれ直列に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のゲートは、制御装置25に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1のコレクタは、車両のバッテリである直流電源31の正極に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のエミッタは、各電流センサ41u,41v,41wを介して直流電源31の負極に電気的に接続されている。各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1のエミッタ及び各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のコレクタは、それぞれ直列に接続された中間点からu相コイル19u、v相コイル19v、及びw相コイル19wにそれぞれ電気的に接続されている。したがって、インバータ回路24の出力側にモータ16の各相のコイル19が接続されている。
【0023】
電動圧縮機10は、直流電源31に対して並列接続されているコンデンサ32を備えている。コンデンサ32は、インバータ回路24の入力側に設けられている。コンデンサ32は、例えば、電解コンデンサである。
【0024】
電動圧縮機10は、直流電源31からの入力電圧を検出する電圧センサ33を備えている。電圧センサ33は、制御装置25と電気的に接続されており、検出した検出結果を制御装置25に送信する。
【0025】
制御装置25は、モータ16の駆動電圧をパルス幅変調により制御する。具体的には、制御装置25は、搬送波信号と呼ばれる高周波の三角波信号と、電圧を指示するための電圧指令信号とによって3相のPWM信号を生成する。PWM信号は、パルス幅制御された矩形波の信号であり、インバータ回路24から出力される出力電圧を制御するための信号である。3相のPWM信号は、それぞれ所定の位相、及び所定のデューティー比を有している。そして、制御装置25は、生成した3相のPWM信号を各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2へ出力して、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のスイッチング動作の制御(オンオフ制御)を行う。したがって、制御装置25は、インバータ回路24へ3相のPWM信号を出力してインバータ回路24の制御を行う制御部である。
【0026】
これにより、直流電源31からの直流電流が交流電流に変換される。したがって、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2は、スイッチング動作を行うことにより、直流電源31からの直流電流を交流電流に変換する。そして、変換された交流電流がモータ16に供給されることにより、モータ16が駆動する。
【0027】
制御装置25は、車両空調装置21の全体を制御する空調ECU26と電気的に接続されている。空調ECU26は、車内温度や設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、モータ16の目標回転数に関する情報を制御装置25に送信する。また、空調ECU26は、モータ16の運転指令やモータ16の停止指令などの各種指令を制御装置25に送信する。
【0028】
制御装置25は、モータ16のロータ18の位置θを検出するレゾルバなどの回転角センサを用いずに、インバータ回路24からモータ16に流れる電流に基づいて、モータ16のロータ18の位置θを推定することによりモータ16の回転制御を行うことが可能になっている。よって、本実施形態の電動圧縮機10は、制御装置25によって推定されたロータ18の位置θに基づいて、モータ16の回転を制御する位置センサレス制御が行われている。したがって、制御装置25は、モータ16のロータ18の位置θを推定するロータ位置推定部としても機能する。
【0029】
具体的には、制御装置25には、電流センサ41u,41v,41wにより検出されたモータ16に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwと、電圧センサ33により検出された入力電圧と、からロータ18の位置θを推定するロータ位置推定プログラムが予め記憶されている。そして、制御装置25は、電流センサ41u,41v,41wにより検出されたモータ16に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwと、電圧センサ33により検出された入力電圧と、ロータ位置推定プログラムと、に基づいてロータ18の位置θの推定を行う。
【0030】
制御装置25は、電流センサ41u,41v,41wにより検出されたモータ16に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwと、推定されたロータ18の位置θとに基づいて、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwをd軸電流(励磁成分電流)及びq軸電流(トルク成分電流)に変換する。なお、d軸電流(励磁成分電流)は、モータ16に流れる電流において、永久磁石18bが作る磁束と同じ方向の電流ベクトル成分である。q軸電流(トルク成分電流)は、モータ16に流れる電流において、d軸と直交する電流ベクトル成分である。
【0031】
制御装置25は、電流センサ41u,41v,41wにより検出されたモータ16に流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwに基づいて、モータ16におけるd軸電流(励磁成分電流)とq軸電流(トルク成分電流)とが目標値となるように、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2のオンオフ制御を行う。これにより、モータ16が、空調ECU26から送信された目標回転数で回転する。
【0032】
図3には、モータ16に流れる電流とロータ18の位置θとの関係を示している。
図3では、U相電流Iuの波形を実線、V相電流Ivの波形を一点鎖線、W相電流Iwの波形を二点鎖線で示している。
図3に示すように、U相電流Iuの波形、V相電流Ivの波形、及びW相電流Iwの波形は、互いに120°ずつ位相がずれた正弦波により形成されている。U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwは、ロータ18の位置θがいずれの位置であっても、Iu+Iv+Iw=0の関係が成立している。
【0033】
本実施形態では、例えば、Iu:Iv:Iw=+1:-0.5:-0.5の関係が成立するとき、ロータ18の位置θが0°になる。また、例えば、Iu:Iv:Iw=+√3/2:0:-√3/2の関係が成立するとき、ロータ18の位置θが30°になる。さらに、例えば、Iu:Iv:Iw=+0.5:+0.5:-1の関係が成立するとき、ロータ18の位置θが60°になる。
【0034】
図2に示すように、電動圧縮機10は、温度センサ34を備えている。温度センサ34は、制御装置25に電気的に接続されている。温度センサ34は、コンデンサ32の温度を推定するための温度を検出する。具体的には、温度センサ34は、例えば、コンデンサ32が実装された基板の温度を検出する。温度センサ34によって検出された温度に関する情報は、制御装置25に送信される。
【0035】
制御装置25には、温度センサ34から送信された温度に関する情報に基づいて、コンデンサ32の温度を推定する温度推定プログラムが予め記憶されている。そして、制御装置25は、温度センサ34により検出された温度と、温度推定プログラムと、に基づいてコンデンサ32の温度の推定を行う。したがって、温度センサ34及び制御装置25は、コンデンサ32の温度を推定する温度推定部を構成している。
【0036】
また、制御装置25には、最大許容モータ電流値を演算する演算プログラムが予め記憶されている。最大許容モータ電流値とは、コンデンサ32の等価直列抵抗(ESR)により発生するサージ電圧によって、各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2が損傷しない電流の最大値である。制御装置25は、推定されたコンデンサ32の温度と、予め記憶された演算プログラムと、に基づいて最大許容モータ電流値を演算する。そして、制御装置25は、演算された最大許容モータ電流値以下の電流がモータ16へ流れるようにインバータ回路24を制御する。
【0037】
制御装置25には、推定されたコンデンサ32の温度が予め定められた温度以下の場合に、モータ16に対して直流電流を供給するようにインバータ回路24の制御を行って、コンデンサ32の暖機を行う暖機制御モードを実行するプログラムが予め記憶されている。また、制御装置25には、推定されたコンデンサ32の温度が予め定められた温度よりも高い場合には、モータ16に対して交流電流を供給するようにインバータ回路24の制御を行う通常制御モードを実行するプログラムが予め記憶されている。したがって、制御装置25は、推定されたコンデンサ32の温度に基づいて、暖機制御モードと通常制御モードとに切り替え可能になっている。
【0038】
制御装置25には、暖機制御モードにおいて、推定されたロータ18の位置θで、3相のPWM信号のうち、モータ16に流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行するプログラムが予め記憶されている。
【0039】
図4には、暖機制御モードにおけるモータ16に流れる電流、ロータ18の位置θ、及び位相をシフトする相の関係を示している。また、
図5には、暖機制御モードにおけるロータ18の位置θと位相をシフトする相との関係を示している。
【0040】
図4及び
図5に示すように、ロータ18の位置θが、例えば、330°<θ≦360°、且つ0°≦θ≦30°であるとき、3相のPWM信号のうち、U相電流Iuの絶対値が最大である。したがって、制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、330°<θ≦360°、且つ0°≦θ≦30°であるとき、位相シフト処理によって、U相のPWM信号の位相をシフトする。
【0041】
ロータ18の位置θが、例えば、30°<θ≦90°であるとき、3相のPWM信号のうち、W相電流Iwの絶対値が最大である。したがって、制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、30°<θ≦90°であるとき、位相シフト処理によって、W相のPWM信号の位相をシフトする。
【0042】
ロータ18の位置θが、例えば、90°<θ≦150°であるとき、3相のPWM信号のうち、V相電流Ivの絶対値が最大である。したがって、制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、90°<θ≦150°であるとき、位相シフト処理によって、V相のPWM信号の位相をシフトする。
【0043】
ロータ18の位置θが、例えば、150°<θ≦210°であるとき、3相のPWM信号のうち、U相電流Iuの絶対値が最大である。したがって、制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、150°<θ≦210°であるとき、位相シフト処理によって、U相のPWM信号の位相をシフトする。
【0044】
ロータ18の位置θが、例えば、210°<θ≦270°であるとき、3相のPWM信号のうち、W相電流Iwの絶対値が最大である。したがって、制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、210°<θ≦270°であるとき、位相シフト処理によって、W相のPWM信号の位相をシフトする。
【0045】
ロータ18の位置θが、例えば、270°<θ≦330°であるとき、3相のPWM信号のうち、V相電流Ivの絶対値が最大である。したがって、制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、270°<θ≦330°であるとき、位相シフト処理によって、V相のPWM信号の位相をシフトする。
【0046】
図6には、推定されたロータ18の位置θが0°であるときのモータ16に流れる電流の変化、3相のPWM信号の変化、及びコンデンサ32に対する電流の流れの変化の関係を示している。なお、
図6において、例えば、U相のPWM信号がHighである場合は、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオン状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオフ状態である。また、U相のPWM信号がLowである場合は、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオフ状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオン状態である。同様に、例えば、V相のPWM信号がHighである場合は、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオン状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオフ状態である。また、V相のPWM信号がLowである場合は、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオフ状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオン状態である。さらに、W相のPWM信号がHighである場合は、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオン状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオフ状態である。また、W相のPWM信号がLowである場合は、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオフ状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオン状態である。
【0047】
図6に示すように、本実施形態では、制御装置25は、インバータ回路24から出力される3相(U相、V相、W相)の出力電圧の各々の極性が全て同一(全てHigh極性又はLow極性)である期間が短くなるように、U相のPWM信号の位相をシフトしている。具体的には、位相シフト処理を実行した後のU相のPWM信号の波形は、V相及びW相のPWM信号の波形に対して、位相が180°ずれている。よって、本実施形態では、制御装置25は、位相シフト処理において、3相のPWM信号のうち、モータ16に流れる電流の絶対値が最大の相であるU相のPWM信号の波形の位相を、その他の相であるV相及びW相のPWM信号の波形の位相に対して180°ずらす。
【0048】
図6では、位相シフト処理を実行する前のU相のPWM信号の波形を二点鎖線で示し、位相シフト処理を実行した後のU相のPWM信号の波形を実線で示している。
図6に示すように、位相シフト処理を実行する前の3相のPWM信号それぞれの波形と、位相シフト処理を実行した後の3相のPWM信号それぞれの波形とを比較して分かるように、位相シフト処理を実行した後では、3相のPWM信号が全てHigh又は全てLowである期間が短くなっている。
【0049】
制御装置25は、位相シフト処理後の位相を有する3相のPWM信号をインバータ回路24へ出力してモータ16に対して直流電流を供給するようにインバータ回路24の制御を行う制御プログラムが予め記憶されている。
【0050】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図7に示すように、制御装置25は、まず、ステップS11において温度センサ34から送信された温度に関する情報に基づいて、コンデンサ32の温度を推定する。次に、制御装置25は、ステップS12において、推定したコンデンサ32の温度が予め定められた温度以下であるか否かを判定する。制御装置25は、ステップS12においてコンデンサ32の温度が予め定められた温度以下ではないと判定すると、ステップS13に移行し、モータ16に対して交流電流を供給するようにインバータ回路24の制御を行う通常制御モードとなる。
【0051】
一方、制御装置25は、ステップS12においてコンデンサ32の温度が予め定められた温度以下であると判定すると、ステップS14に移行して、暖機制御モードとなり、ステップS14においてロータ18の位置θを推定する。次に、制御装置25は、ステップS15において最大許容モータ電流値を演算する。さらに、制御装置25は、ステップS16において、ロータ18の位置θを、推定されたロータ18の位置θとするための3相のPWM信号を生成する。
【0052】
そして、制御装置25は、ステップS17において、生成された3相のPWM信号のうち、モータ16に流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行する。制御装置25は、例えば、推定されたロータ18の位置θが0°であった場合、U相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行し、位相シフト処理後の位相を有する3相のPWM信号をインバータ回路24へ出力する。
【0053】
図8では、
図6におけるタイミングT1のときの電流の流れを示している。タイミングT1は、U相のPWM信号がLowからHighに切り替わるとともに、V相のPWM信号がHighからLowに切り替わり、W相のPWM信号がHighからLowに切り替わったタイミングである。
図8に示すように、タイミングT1では、U相のPWM信号がHighであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオン状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオフ状態である。したがって、
図8において矢印R1aで示すように、コンデンサ32から放電された電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。このとき、ロータ18の位置θが0°となる通電パターンでは、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwの関係が、Iu:Iv:Iw=+1:-0.5:-0.5の関係である。したがって、コンデンサ32から放電されてU相電流Iuとして流れる電流の値が最大であるため、コンデンサ32から放電される電流の値が大きくなる。したがって、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。なお、直流電源31には、インダクタンス成分があるため、
図8において矢印R1bで示すように、コンデンサ32から直流電源31に向けて電流が流れ続ける。よって、コンデンサ32から直流電源31側へも放電が行われ、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0054】
また、タイミングT1では、V相のPWM信号がLowであるため、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオフ状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオン状態である。したがって、V相電流Ivは、
図8において矢印R1cで示すように、スイッチング素子Qv2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。さらに、タイミングT1では、W相のPWM信号がLowであるため、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオフ状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオン状態である。したがって、W相電流Iwは、
図8において矢印R1dで示すように、スイッチング素子Qw2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。
【0055】
図9では、
図6におけるタイミングT2のときの電流の流れを示している。タイミングT2は、タイミングT1での3相のPWM信号のHigh及びLowの関係が維持されたまま、タイミングT1から所定時間経過したタイミングである。
図9に示すように、タイミングT1から所定時間経過したタイミングT2では、コンデンサ32からの放電が終了し、
図9において矢印R2aで示すように、直流電源31からの電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流としてモータ16へ流れる。
【0056】
図10では、
図6におけるタイミングT3のときの電流の流れを示している。タイミングT3は、U相のPWM信号がHighであり、V相のPWM信号がLowからHighに切り替わるとともにW相のPWM信号がLowからHighに切り替わったタイミングである。
図10に示すように、タイミングT3では、3相のPWM信号が全てHighであるため、各相の上アームを構成する各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1がそれぞれオン状態であるとともに、各相の下アームを構成する各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がそれぞれオフ状態である。したがって、
図10において矢印R3aで示すように、スイッチング素子Qv1を通過するV相電流Ivと、
図10において矢印R3bで示すように、スイッチング素子Qw1を通過するW相電流Iwとが、
図10において矢印R3cで示すように、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。また、
図10において矢印R3dで示すように、直流電源31からの電流がコンデンサ32に流れ込む。これにより、コンデンサ32が充電され、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0057】
図11では、
図6におけるタイミングT4のときの電流の流れを示している。タイミングT4は、V相のPWM信号及びW相のPWM信号がHighであるとともに、U相のPWM信号がHighからLowに切り替わったタイミングである。
図11に示すように、タイミングT4では、U相のPWM信号がLowであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオフ状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオン状態である。したがって、
図11において矢印R4aで示すように、電流が直流電源31及びコンデンサ32からスイッチング素子Qu2を通過してU相電流Iuとしてモータ16へ流れる。
【0058】
また、タイミングT4では、V相のPWM信号及びW相のPWM信号がそれぞれHighである。よって、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1及びW相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がそれぞれオン状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2及びW相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がそれぞれオフ状態である。したがって、
図11において矢印R4bで示すように、V相電流Ivが、スイッチング素子Qv1を通過して、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れるとともに、
図11において矢印R4cで示すように、W相電流Iwが、スイッチング素子Qw1を通過して、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れる。さらに、
図11において矢印R4dで示すように、直流電源31からの電流がコンデンサ32に流れ込む。これにより、コンデンサ32が充電され、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0059】
図12では、
図6におけるタイミングT5のときの電流の流れを示している。
図6に示すように、タイミングT5は、タイミングT4での3相のPWM信号のHigh及びLowの関係が維持されたまま、タイミングT4から所定時間経過したタイミングである。
図12に示すように、タイミングT4から所定時間経過したタイミングT5では、コンデンサ32が満充電の状態になっているため、
図12において矢印R5aで示すように、V相電流Ivが、スイッチング素子Qv1を通過して、回生電流としてコンデンサ32に流れ込まずに、直流電源31に向けて流れる。さらに、
図12において矢印R5bで示すように、W相電流Iwが、スイッチング素子Qw1を通過して、回生電流としてコンデンサ32に流れ込まずに、直流電源31に向けて流れる。その後、直流電源31から流れる電流がコンデンサ32に流れ込んで、コンデンサ32が充電される。このように、
図8~
図12で説明した電流の流れが繰り返されることにより、コンデンサ32の暖機が行われる。
【0060】
図7に示すように、制御装置25は、ステップS18において、温度センサ34から送信された温度に関する情報に基づいて、コンデンサ32の温度を推定する。そして、制御装置25は、ステップS19において、推定したコンデンサ32の温度が予め定められた温度を超えたか否かを判定する。制御装置25は、ステップS19においてコンデンサ32の温度が予め定められた温度を超えていないと判定すると、ステップS15に移行する。一方、制御装置25は、ステップS19においてコンデンサ32の温度が予め定められた温度を超えたと判定すると、ステップS13に移行し、暖機制御モードから通常制御モードへ切り替わる。
【0061】
図13には、比較例として、例えば、推定されたロータ18の位置θが0°であるときに制御装置25が位相シフト処理を実行しない場合でのモータ16に流れる電流の変化、3相のPWM信号の変化、及びコンデンサ32に対する電流の流れの変化の関係を示している。
図13に示すように、比較例では、制御装置25が位相シフト処理を実行していないため、位相シフト処理を実行した場合と比べて、3相のPWM信号が全てHigh又は全てLowである期間が長くなっている。
【0062】
図14では、
図13におけるタイミングT11のときの電流の流れを示している。タイミングT11は、U相のPWM信号がHighであるとともに、V相のPWM信号及びW相のPWM信号がHighからLowにそれぞれ切り替わったタイミングである。
図14に示すように、タイミングT11では、U相のPWM信号がHighであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオン状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオフ状態である。したがって、
図14に矢印R11aで示すように、コンデンサ32から放電された電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。このとき、ロータ18の位置θが0°となる通電パターンでは、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwの関係が、Iu:Iv:Iw=+1:-0.5:-0.5の関係である。したがって、コンデンサ32から放電されてU相電流Iuとして流れる電流の値が最大であるため、コンデンサ32から放電される電流の値が大きくなる。したがって、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0063】
また、タイミングT11では、V相のPWM信号がLowであるため、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオフ状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオン状態である。したがって、V相電流Ivは、
図14において矢印R11bで示すように、スイッチング素子Qv2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。さらに、タイミングT11では、W相のPWM信号がLowであるため、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオフ状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオン状態である。したがって、W相電流Iwは、
図14において矢印R11cで示すように、スイッチング素子Qw2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。
【0064】
図15では、
図13におけるタイミングT12のときの電流の流れを示している。タイミングT12は、V相のPWM信号及びW相のPWM信号がLowであるとともに、W相のPWM信号がHighからLowに切り替わったタイミングである。
図15に示すように、タイミングT12では、3相のPWM信号が全てLowであるため、各相の上アームを構成する各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1がそれぞれオフ状態であるとともに、各相の下アームを構成する各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がそれぞれオン状態である。したがって、
図15において矢印R12aで示すように、スイッチング素子Qv2を通過するV相電流Ivと、
図15において矢印R12bで示すように、スイッチング素子Qw2を通過するW相電流Iwとが、
図15において矢印R12cで示すようにスイッチング素子Qu2を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。また、
図15において矢印R12dで示すように、直流電源31からの電流がコンデンサ32に流れ込む。これにより、コンデンサ32が充電されて、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0065】
図16では、
図13におけるタイミングT13のときの電流の流れを示している。タイミングT13は、タイミングT12での3相のPWM信号のHigh及びLowの関係が維持されたまま、タイミングT12から所定時間経過したタイミングである。
図16に示すように、タイミングT12から所定時間経過したタイミングT13では、コンデンサ32が満充電の状態になっており、直流電源31からコンデンサ32へ電流が流れ込んでいない。
【0066】
図17では、
図13におけるタイミングT14のときの電流の流れを示している。タイミングT14は、V相のPWM信号及びW相のPWM信号がLowであるとともに、U相のPWM信号がLowからHighに切り替わったタイミングである。
図17に示すように、タイミングT14では、U相のPWM信号がHighであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオン状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオフ状態である。したがって、
図17において矢印R13aで示すように、コンデンサ32から放電された電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。したがって、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0067】
また、タイミングT14では、V相のPWM信号がLowであるため、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオフ状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオン状態である。したがって、V相電流Ivは、
図17において矢印R13bで示すように、スイッチング素子Qv2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。さらに、タイミングT14では、W相のPWM信号がLowであるため、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオフ状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオン状態である。したがって、W相電流Iwは、
図17において矢印R13cで示すように、スイッチング素子Qw2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。
【0068】
図18では、
図13におけるタイミングT15のときの電流の流れを示している。タイミングT15は、U相のPWM信号がHighであるとともに、V相のPWM信号及びW相のPWM信号がLowからHighに切り替わったタイミングである。
図18に示すように、タイミングT15では、3相のPWM信号が全てHighであるため、各相の上アームを構成する各スイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1がそれぞれオン状態であるとともに、各相の下アームを構成する各スイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がそれぞれオフ状態である。したがって、
図18において矢印R14aで示すように、スイッチング素子Qv1を通過するV相電流Ivと、
図18において矢印R14bで示すように、スイッチング素子Qw1を通過するW相電流Iwとが、
図18において矢印R14cで示すように、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。また、
図18において矢印R14dで示すように、直流電源31からの電流がコンデンサ32に流れ込む。これにより、コンデンサ32が充電され、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0069】
図19では、
図13におけるタイミングT16のときの電流の流れを示している。タイミングT16は、タイミングT15での3相のPWM信号のHigh及びLowの関係が維持されたまま、タイミングT15から所定時間経過したタイミングである。
図19に示すように、タイミングT15から所定時間経過したタイミングT16では、コンデンサ32が満充電の状態になっており、直流電源31からコンデンサ32へ電流が流れ込んでいない。
【0070】
図13~
図19で説明した比較例では、タイミングT12からタイミングT13までの間や、タイミングT15からタイミングT16の間では、3相のPWM信号が全てHigh又は全てLowである期間であり、これらの期間では、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwのいずれもコンデンサ32の充放電に寄与していない。
図13~
図19で説明した比較例のように、位相シフト処理を実行しない場合では、3相のPWM信号が全てHigh又は全てLowである期間が長いため、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwのいずれもコンデンサ32の充放電に寄与していない期間が長くなることになる。したがって、
図13~
図19で説明した比較例のように、位相シフト処理を実行しない場合では、コンデンサ32の充放電量が小さく、コンデンサ32が暖まり難い。
【0071】
一方、本実施形態では、制御装置25が、暖機制御モードのときに、位相シフト処理を実行することで、タイミングT4からタイミングT5までの間では、V相電流Iv及びW相電流Iwが、各スイッチング素子Qv1,Qw1を通過して、回生電流としてコンデンサ32にそれぞれ流れ込むようになる。したがって、位相シフト処理を実行しない場合に比べると、コンデンサ32の充放電量が大きくなり、コンデンサ32が早期に暖まる。
【0072】
図20には、比較例として、例えば、推定されたロータ18の位置θが0°であるときにV相のPWM信号の位相をシフトした場合のモータ16に流れる電流の変化、3相のPWM信号の変化、及びコンデンサ32に対する電流の流れの変化の関係を示している。この比較例では、
図20に示すように、インバータ回路24から出力される3相(U相、V相、W相)の出力電圧の各々の極性が全て同一(全てHigh極性又はLow極性)である期間が短くなるように、V相のPWM信号の位相をシフトしている。具体的には、位相シフト処理を実行した後のV相のPWM信号の波形は、U相及びW相のPWM信号の波形に対して、位相が180°ずれている。
【0073】
図21では、
図20におけるタイミングT21のときの電流の流れを示している。タイミングT21は、U相のPWM信号がHighであるとともにV相のPWM信号がLowであり、W相のPWM信号がHighからLowに切り替わったタイミングである。
図21に示すように、タイミングT21では、U相のPWM信号がHighであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオン状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオフ状態である。したがって、
図21において矢印R21aで示すように、コンデンサ32から放電された電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。なお、直流電源31には、インダクタンス成分があるため、
図21において矢印R21bで示すように、直流電源31からの電流がU相電流Iuとして流れ続ける。このとき、ロータ18の位置θが0°となる通電パターンでは、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwの関係が、Iu:Iv:Iw=+1:-0.5:-0.5の関係である。したがって、コンデンサ32から放電されてU相電流Iuとして流れる電流の値が最大であるため、コンデンサ32から放電される電流の値が大きくなる。したがって、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0074】
また、タイミングT21では、V相のPWM信号がLowであるため、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオフ状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオン状態である。したがって、V相電流Ivは、
図21において矢印R21cで示すように、スイッチング素子Qv2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。さらに、タイミングT1では、W相のPWM信号がLowであるため、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオフ状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオン状態である。したがって、W相電流Iwは、
図21において矢印R21dで示すように、スイッチング素子Qw2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。
【0075】
図22では、
図20におけるタイミングT22のときの電流の流れを示している。タイミングT22は、W相のPWM信号がLowであり、U相のPWM信号がHighからLowに切り替わるとともにV相のPWM信号がLowからHighに切り替わったタイミングである。
図22に示すように、タイミングT22では、V相のPWM信号がHighであるため、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオン状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオフ状態である。したがって、
図22において矢印R22aで示すように、V相電流Ivが、スイッチング素子Qv1を通過して、回生電流としてコンデンサ32に流れ込む。また、このとき、
図22において矢印R22bで示すように、直流電源31からの電流もコンデンサ32に流れ込む。これにより、コンデンサ32が充電されて、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0076】
また、タイミングT22では、U相のPWM信号がLowであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオフ状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオン状態である。したがって、
図22において矢印R22cに示すように、電流が直流電源31及びコンデンサ32からスイッチング素子Qu2を通過してU相電流Iuとしてモータ16へ流れる。また、W相のPWM信号がLowであるため、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオフ状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオン状態である。したがって、
図22において矢印R22dで示すように、W相電流Iwが、スイッチング素子Qw2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。
【0077】
図23では、
図20におけるタイミングT23のときの電流の流れを示している。タイミングT23は、タイミングT22での3相のPWM信号のHigh及びLowの関係が維持されたまま、タイミングT22から所定時間経過したタイミングである。
図23に示すように、タイミングT22から所定時間経過したタイミングT23では、コンデンサ32が満充電の状態になっているため、
図23において矢印R23aで示すように、V相電流Ivが、スイッチング素子Qv1を通過して、回生電流としてコンデンサ32に流れ込まずに、直流電源31に向けて流れる。
【0078】
図24では、
図20におけるタイミングT24のときの電流の流れを示している。タイミングT24は、V相のPWM信号がHighであるとともにW相のPWM信号がLowであり、U相のPWM信号がLowからHighに切り替わったタイミングである。
図24に示すように、タイミングT24では、U相のPWM信号がHighであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオン状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオフ状態である。したがって、
図24において矢印R24aで示すように、コンデンサ32から放電された電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。
【0079】
また、タイミングT24では、V相のPWM信号がHighであるため、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオン状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオフ状態である。したがって、
図24において矢印R24bで示すように、V相電流Ivが、スイッチング素子Qv1を通過して回生電流としてコンデンサ32に向けて流れる。したがって、コンデンサ32からU相電流Iuとしてモータ16側へ放電される電流の値は、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れるV相電流Ivの値を差し引いた値となる。なお、直流電源31には、インダクタンス成分があるため、
図24において矢印R24cで示すように、コンデンサ32から直流電源31に向けて電流が流れ続ける。よって、コンデンサ32から直流電源31側へも放電が行われる。これにより、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0080】
また、タイミングT24では、W相のPWM信号がLowであるため、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオフ状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオン状態である。したがって、W相電流Iwは、
図24において矢印R24dで示すように、スイッチング素子Qw2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。
【0081】
図25では、
図20におけるタイミングT25のときの電流の流れを示している。タイミングT25は、U相のPWM信号がHighであり、V相のPWM信号がHighからLowに切り替わるとともにW相のPWM信号がLowからHighに切り替わったタイミングである。
図25に示すように、タイミングT25では、U相のPWM信号がHighであるため、U相の上アームを構成するスイッチング素子Qu1がオン状態であるとともに、U相の下アームを構成するスイッチング素子Qu2がオフ状態である。したがって、
図25において矢印R25aで示すように、コンデンサ32から放電された電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。
【0082】
また、タイミングT25では、W相のPWM信号がHighであるため、W相の上アームを構成するスイッチング素子Qw1がオン状態であるとともに、W相の下アームを構成するスイッチング素子Qw2がオフ状態である。したがって、
図25において矢印R25bで示すように、W相電流Iwが、スイッチング素子Qw1を通過して回生電流としてコンデンサ32に向けて流れる。したがって、コンデンサ32からU相電流Iuとしてモータ16側へ放電される電流の値は、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れるW相電流Iwの値を差し引いた値となる。なお、直流電源31には、インダクタンス成分があるため、
図25において矢印R25cで示すように、コンデンサ32から直流電源31に向けて電流が流れ続ける。よって、コンデンサ32から直流電源31側へも放電が行われる。これにより、コンデンサ32が発熱し、コンデンサ32が暖められる。
【0083】
また、タイミングT25では、V相のPWM信号がLowであるため、V相の上アームを構成するスイッチング素子Qv1がオフ状態であるとともに、V相の下アームを構成するスイッチング素子Qv2がオン状態である。したがって、V相電流Ivは、
図25において矢印R25dで示すように、スイッチング素子Qv2を通過して、直流電源31及びコンデンサ32に向けて流れる。
【0084】
図26では、
図20におけるタイミングT26のときの電流の流れを示している。タイミングT26は、タイミングT25での3相のPWM信号のHigh及びLowの関係が維持されたまま、タイミングT25から所定時間経過したタイミングである。
図26に示すように、タイミングT25から所定時間経過したタイミングT26では、コンデンサ32からの放電が終了し、
図26において矢印R26aで示すように、直流電源31からの電流が、スイッチング素子Qu1を通過して、U相電流Iuとしてモータ16へ流れる。その後、直流電源31から流れる電流がコンデンサ32に流れ込んで、コンデンサ32が充電される。このように、
図21~
図26で説明した電流の流れが繰り返されることにより、コンデンサ32の暖機が行われる。
【0085】
図21~
図26で説明した比較例のように、推定されたロータ18の位置θが0°であるときにV相のPWM信号の位相をシフトした場合、例えば、タイミングT22のように、V相電流Ivが、スイッチング素子Qv1を通過して、回生電流としてコンデンサ32に流れ込む。一方、本実施形態のように、推定されたロータ18の位置θが0°であるときにU相のPWM信号の位相をシフトした場合、例えば、タイミングT4からタイミングT5までの間では、V相電流Iv及びW相電流Iwが、各スイッチング素子Qv1,Qw1をそれぞれ通過して、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れる。よって、コンデンサ32の充電量が、比較例に比べて大きくなる。したがって、多くの電流がコンデンサ32に流れ、コンデンサ32が早期に暖められる。
【0086】
また、本実施形態では、タイミングT4からタイミングT5までの間で、V相電流Iv及びW相電流Iwが、各スイッチング素子Qv1,Qw1をそれぞれ通過して、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れるとともに、直流電源31からの電流がコンデンサ32に流れ込んでいる。したがって、コンデンサ32へ流れ込む電流量が最大となり、コンデンサ32の発熱量が最大となる。したがって、コンデンサ32がさらに早期に暖められる。
【0087】
また、
図21~
図26で説明した比較例では、コンデンサ32からU相電流Iuとしてモータ16側へ放電される電流の値が、例えば、タイミングT24のように、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れるV相電流Ivの値を差し引いた値となることがある。さらに、コンデンサ32からU相電流Iuとしてモータ16側へ放電される電流の値が、例えば、タイミングT25のように、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れるW相電流Iwの値を差し引いた値となることがある。一方、本実施形態では、コンデンサ32からU相電流Iuとしてモータ16側へ放電される値が、V相電流IvやW相電流Iwの値を差し引いた値となることが無い。よって、コンデンサ32からの放電量が、比較例に比べて大きくなる。したがって、多くの電流がコンデンサ32に流れ、コンデンサ32が早期に暖められる。
【0088】
このように、3相のPWM信号のうち、モータ16に流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトすると、多くの電流がコンデンサ32に流れ、コンデンサ32が早期に暖められる。
【0089】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)本発明者らは、3相のPWM信号のうち、モータ16に流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトすると、多くの電流がコンデンサ32に流れ、コンデンサ32が早期に暖められることを見出した。そこで、制御装置25は、推定されたロータ18の位置θで、3相のPWM信号のうち、モータ16に流れる電流の絶対値が最大の相のPWM信号の位相をシフトする位相シフト処理を実行する。これによれば、コンデンサ32に流れる電流の値が大きくなるため、コンデンサ32が暖まり易くなる。したがって、コンデンサ32を早期に暖めることができる。
【0090】
(2)制御装置25は、位相シフト処理において、3相のPWM信号のうち、モータ16に流れる電流の絶対値が最大の相であるU相のPWM信号の波形の位相を、その他の相であるV相及びW相のPWM信号の波形の位相に対して180°ずらす。これによれば、コンデンサ32に電流が流れる時間を長くすることができるため、コンデンサ32がさらに暖まり易くなる。したがって、コンデンサ32をさらに早期に暖めることができる。
【0091】
(3)本実施形態では、タイミングT4からタイミングT5までの間で、V相電流Iv及びW相電流Iwが、各スイッチング素子Qv1,Qw1をそれぞれ通過して、回生電流としてコンデンサ32に向けて流れるとともに、直流電源31からの電流がコンデンサ32に流れ込んでいる。したがって、コンデンサ32へ流れ込む電流量が最大となり、コンデンサ32の発熱量が最大となる。したがって、コンデンサ32をさらに早期に暖めることができる。
【0092】
(4)推定されたコンデンサ32の温度が予め定められた温度以下の場合に、コンデンサ32を早期に暖めることができるため、制御装置25が、通常制御モードでインバータ回路24の制御を行うことが可能となるまでの時間を短くすることができる。
【0093】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0094】
○ 実施形態において、制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、330°≦θ≦360°、且つ0°≦θ<30°であるとき、位相シフト処理によって、U相のPWM信号の位相をシフトするようにしてもよい。制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、30°≦θ<90°であるとき、位相シフト処理によって、W相のPWM信号の位相をシフトするようにしてもよい。制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、90°≦θ<150°であるとき、位相シフト処理によって、V相のPWM信号の位相をシフトするようにしてもよい。制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、150°≦θ<210°であるとき、位相シフト処理によって、U相のPWM信号の位相をシフトするようにしてもよい。制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、210°≦θ<270°であるとき、位相シフト処理によって、W相のPWM信号の位相をシフトするようにしてもよい。制御装置25は、暖機制御モードでは、推定されたロータ18の位置θが、例えば、270°≦θ<330°であるとき、位相シフト処理によって、V相のPWM信号の位相をシフトするようにしてもよい。
【0095】
○ 実施形態において、位相シフト処理で、U相のPWM信号の波形の位相を、V相及びW相のPWM信号の波形の位相に対してずらす度合いは、180°に限らない。要は、位相シフト処理では、インバータ回路24から出力される3相(U相、V相、W相)の出力電圧の各々の極性が全て同一(全てHigh極性又はLow極性)である期間が短くなるように、U相のPWM信号の波形の位相を、V相及びW相のPWM信号の波形の位相に対してずらすようにすればよい。
【0096】
○ 実施形態において、コンデンサ32は、例えば、フィルムコンデンサであってもよい。
○ 実施形態において、温度センサ34は、コンデンサ32が実装された基板の温度を検出するのではなく、コンデンサ32の温度を検出(推定)するようにしてもよい。この場合、制御装置25には、温度センサ34から送信された温度に関する情報に基づいて、コンデンサ32の温度を推定する温度推定プログラムが予め記憶されていなくてもよく、温度センサ34のみがコンデンサ32の温度を推定する温度推定部として機能している。
【0097】
○ 実施形態では、制御装置25によって推定されたロータ18の位置θに基づいて、モータ16の回転を制御する位置センサレス制御が行われていたが、これに限らず、制御装置25は、例えば、レゾルバなどの回転速度センサを用いて、ロータ18の位置θを推定し、モータ16の回転を制御するようにしてもよい。
【0098】
○ 実施形態において、電動圧縮機10は、例えば、インバータ回路24が、ハウジング11に対して回転軸14の径方向外側に配置されている構成であってもよい。要は、圧縮部15、モータ16、及びインバータ回路24が、この順で、回転軸14の回転軸線方向に並設されていなくてもよい。
【0099】
○ 実施形態において、電動圧縮機10は、車両空調装置21を構成していたが、これに限らず、例えば、電動圧縮機10は、燃料電池車に搭載されており、燃料電池に供給される流体としての空気を圧縮部15により圧縮するものであってもよい。
【符号の説明】
【0100】
Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2…スイッチング素子、10…電動圧縮機、15…圧縮部、16…モータ、18…ロータ、19…コイル、24…インバータ回路、25…制御部であるとともにロータ位置推定部及び温度推定部として機能する制御装置、31…直流電源、32…コンデンサ、34…温度推定部を構成する温度センサ。