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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】アジド基含有Fcタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20220208BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220208BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220208BHJP
   C07K 1/00 20060101ALI20220208BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
C07K16/00
C07K19/00
A61K39/395 W
A61K39/395 Y
C12P21/08
C07K1/00
C12N15/13 ZNA
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018515722
(86)(22)【出願日】2017-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2017017013
(87)【国際公開番号】W WO2017191817
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2016092785
(32)【優先日】2016-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平澤 成郎
(72)【発明者】
【氏名】瀧 真清
【審査官】中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/138907(WO,A2)
【文献】特開2010-122071(JP,A)
【文献】特開2009-106267(JP,A)
【文献】特開2008-150464(JP,A)
【文献】特表2009-512641(JP,A)
【文献】特表2015-534996(JP,A)
【文献】特表2015-518905(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0051836(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0314711(US,A1)
【文献】TAKI, Masumi et al.,Peptide Science,2007年01月10日,Volume 88,p.263-271
【文献】瀧 真清,社団法人 日本化学会 生体機能関連化学部会 NEWS LETTER,2008年11月30日,Vol.23, No.3,p.3-6
【文献】TAKI, Masumi et al.,CHEMBIOCHEM,2006年,Vol.7,p.1676-1679
【文献】HAMAMOTO, Toshimasa et al.,ChemComm,2011年,Vol.47,p.9116-9118
【文献】HIRASAWA, Shigeo et al.,Bioconjugatin Approach Towards Peptide-Fc Fusion Compounds,PEPTIDE SCIENCE 2016,2017年02月,p.205-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表されるものであり、かつ
前記フェニルアラニン又はその誘導体における誘導体が、フェニルアラニン中のベンジル基に1~5個の置換基を有するフェニルアラニン誘導体であり、
前記置換基が、以下;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-(ここで、Rは、水素原子、又は炭化水素基を示す);又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-(ここで、Rb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す);
であり、
前記炭化水素基が、炭素原子数1~12のアルキル、炭素原子数2~12のアルケニル、又は炭素原子数2~12のアルキニルである、アジド基含有Fcタンパク質。
【請求項2】
前記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質が、下記式(1-1):
【化1】
〔式中、
、L、L及びFcは、前記式(1)と同じであり、
ベンゼン環は、さらに置換されていてもよい。〕で表される、請求項1記載のアジド基含有Fcタンパク質。
【請求項3】
Fcタンパク質が哺乳動物抗体のFc領域に由来する、請求項1または2記載のアジド基含有Fcタンパク質。
【請求項4】
哺乳動物抗体がヒト抗体である、請求項記載のアジド基含有Fcタンパク質。
【請求項5】
Fcタンパク質がIgG抗体のFc領域に由来する、請求項1~のいずれか一項記載のアジド基含有Fcタンパク質。
【請求項6】
Fcタンパク質が、下記(a)~(c)からなる群より選ばれる、請求項1~のいずれか一項記載のアジド基含有Fcタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基の欠失、置換、付加及び挿入からなる群より選ばれる1又は数個のアミノ酸残基の変異を含むアミノ酸配列を含むタンパク質;並びに
(c)配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質。
【請求項7】
アジド基含有Fcタンパク質の製造方法であって、
フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、
下記式(2):
-L-Phe (2)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体を示す。〕で表される、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、
下記式(3):
-Fc (3)
〔式中、
は、配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表される、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質と反応させて、
下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
及びLは、前記式(2)と同じであり、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
及びFcは、前記式(3)と同じである。〕で表されるアジド基含有Fcタンパク質を生成することを含むものであり、かつ
前記フェニルアラニン又はその誘導体における誘導体が、フェニルアラニン中のベンジル基に1~5個の置換基を有するフェニルアラニン誘導体であり、
前記置換基が、以下;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-(ここで、Rは、水素原子、又は炭化水素基を示す);又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-(ここで、Rb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す);
であり、
前記炭化水素基が、炭素原子数1~12のアルキル、炭素原子数2~12のアルケニル、又は炭素原子数2~12のアルキニルである、方法。
【請求項8】
下記式(4):
【化2】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表されるものであり、かつ
前記フェニルアラニン又はその誘導体における誘導体が、フェニルアラニン中のベンジル基に1~5個の置換基を有するフェニルアラニン誘導体であり、
前記置換基が、以下;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-(ここで、Rは、水素原子、又は炭化水素基を示す);又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-(ここで、Rb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す);
であり、
前記炭化水素基が、炭素原子数1~12のアルキル、炭素原子数2~12のアルケニル、又は炭素原子数2~12のアルキニルである、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体。
【請求項9】
環Aが、7員若しくは8員環、又は7員若しくは8員環と他の環との縮合環である、請求項記載のFcタンパク質誘導体。
【請求項10】
目的物質がポリマー系物質である、請求項又は記載のFcタンパク質誘導体。
【請求項11】
目的物質が、ペプチド、サッカリド、又はヌクレオチドである、請求項10のいずれか一項記載のFcタンパク質誘導体。
【請求項12】
目的物質が、システイン残基をC末端に有するペプチドである、請求項11のいずれか一項記載のFcタンパク質誘導体。
【請求項13】
目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法であって、
下記式(5):
【化3】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環aは、炭素原子間3重結合を有する環を示す。〕で表される、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を、
下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表されるアジド基含有Fcタンパク質と反応させて、
下記式(4):
【化4】
〔式中、
S及びLは、前記式(5)と同じであり、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
、Phe、L、及びFcは、前記式(1)と同じである。〕で表される、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体を生成することを含むものであり、かつ
前記フェニルアラニン又はその誘導体における誘導体が、フェニルアラニン中のベンジル基に1~5個の置換基を有するフェニルアラニン誘導体であり、
前記置換基が、以下;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-(ここで、Rは、水素原子、又は炭化水素基を示す);又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-(ここで、Rb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す);
であり、
前記炭化水素基が、炭素原子数1~12のアルキル、炭素原子数2~12のアルケニル、又は炭素原子数2~12のアルキニルである、方法。
【請求項14】
炭素原子間3重結合を有する環が、7員若しくは8員環、又は7員若しくは8員環と他の環との縮合環である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
目的物質を、炭素原子間3重結合を有する環を含む試薬と反応させて、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を生成することをさらに含む、請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
下記(A)及び(B)を含む、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法:
(A)フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、
下記式(2):
-L-Phe (2)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体を示す。〕で表される、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、
下記式(3):
-Fc (3)
〔式中、
は、配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表される、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質と反応させて、
下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
及びLは、前記式(2)と同じであり、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
及びFcは、前記式(3)と同じである。〕で表されるアジド基含有Fcタンパク質を生成すること;並びに
(B)下記式(5):
【化5】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環aは、炭素原子間3重結合を有する環を示す。〕で表される、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を、
前記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質と反応させて、
下記式(4):
【化6】
〔式中、
S及びLは、前記式(5)と同じであり、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
、Phe、L、及びFcは、前記式(1)と同じである。〕で表される、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体を生成すること;
ここで、前記フェニルアラニン又はその誘導体における誘導体が、フェニルアラニン中のベンジル基に1~5個の置換基を有するフェニルアラニン誘導体であり、
前記置換基が、以下;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-(ここで、Rは、水素原子、又は炭化水素基を示す);又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-(ここで、Rb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す);
であり、
前記炭化水素基が、炭素原子数1~12のアルキル、炭素原子数2~12のアルケニル、又は炭素原子数2~12のアルキニルである。
【請求項17】
配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを介して、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体残基をN末端に有するものであり、かつ
前記アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体残基が、アジド基を含有するフェニルアラニンまたはその誘導体の残基であり、
前記フェニルアラニン又はその誘導体における誘導体が、フェニルアラニン中のベンジル基に1~5個の置換基を有するフェニルアラニン誘導体であり、
前記置換基が、以下;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-(ここで、Rは、水素原子、又は炭化水素基を示す);又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-(ここで、Rb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す);
であり、
前記炭化水素基が、炭素原子数1~12のアルキル、炭素原子数2~12のアルケニル、又は炭素原子数2~12のアルキニルである、アジド基含有Fcタンパク質。
【請求項18】
配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを介して、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体残基をN末端に有する、アジド基含有Fcタンパク質の製造方法であって、
フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、前記ペプチドリンカーをN末端に有するFcタンパク質と反応させて、前記アジド基含有Fcタンパク質を生成することを含むものであり、かつ
前記アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体残基が、アジド基を含有するフェニルアラニンまたはその誘導体の残基であり、
前記フェニルアラニン又はその誘導体における誘導体が、フェニルアラニン中のベンジル基に1~5個の置換基を有するフェニルアラニン誘導体であり、
前記置換基が、以下;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-(ここで、Rは、水素原子、又は炭化水素基を示す);又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-(ここで、Rb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す);
であり、
前記炭化水素基が、炭素原子数1~12のアルキル、炭素原子数2~12のアルケニル、又は炭素原子数2~12のアルキニルである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジド基含有Fcタンパク質及びその製造方法、並びにアジド基含有Fcタンパク質を材料として用いる、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体、及びその製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質等の目的物質は種々の生理活性を有することから、このような目的物質を用いて種々の製剤が開発されている。安定性等の特性を向上させるため、タンパク質等の目的物質とFcタンパク質との融合タンパク質が開発されている。
【0003】
特許文献1には、リコンビナント法による、目的タンパク質とFcタンパク質との融合タンパク質の調製方法が記載されている。
特許文献2には、native chemical ligation法により、目的ペプチドのチオエステル(R-CO-SR)をN末端にシステイン残基を有するFcタンパク質(NH-CH(CHSH)-R)と反応させて、目的ペプチドとFcタンパク質との融合タンパク質(R-CO-NH-CH(CHSH)-R)を調製する方法が記載されている。
特許文献3には、還元アミノ化反応により、ホルミル基を有する目的ペプチド(R-CH-CHO)をアミノ基を有するFcタンパク質(HN-R)と反応させて、目的タンパク質とFcタンパク質との融合タンパク質(R-CH-CH-NH-R)を調製する方法が記載されている。
特許文献4には、セルフリーのタンパク質発現系において、任意の位置にアジド基を導入したFcタンパク質を調製し、次いでStrain-promoted azide-alkyne cyclization(SPAAC)反応によって、目的ペプチドとFcタンパク質との融合タンパク質を調製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5,428,130号明細書
【文献】米国特許第7,404,956号明細書
【文献】米国特許第7,737,260号明細書
【文献】国際公開第2014/004639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるリコンビナント法については、融合タンパク質の配列によっては融合タンパク質を発現できないこともあり、また、Fcタンパク質がタンパク質以外の目的物質と融合されるべき場合に利用できないことから、汎用性の面で課題がある。
特許文献2に記載されるnative chemical ligation法については、目的タンパク質のチオエステルを大過剰用いてもFcタンパク質に対する目的タンパク質のモノ付加体とジ付加体の混合物が取得されており、反応効率と精製の煩雑さの点で課題がある。
特許文献3に記載される還元アミノ化反応は、反応効率の点で課題があり、また、本反応で用いられるsodium cyanoborohydrideがタンパク質側鎖の化学変換という副反応を引き起こすという課題がある。
特許文献4に記載される方法については、セルフリーのタンパク質発現系の原料の入手性及びコスト面から、実用的な方法とは言い難いという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、Fcタンパク質と目的物質(例、タンパク質)との融合物質を効率良く作製できる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の酵素反応により所定のアジド基含有Fcタンパク質を作製すること、及びこの作製されたアジド基含有Fcタンパク質を材料として用いることにより目的タンパク質とFcタンパク質との融合タンパク質が効率良く作製できること等を見出した。所定のアジド基含有Fcタンパク質を材料として用いる本発明者らが開発した方法論は、タンパク質以外の物質のFcタンパク質への付加にも応用できることから汎用性に優れ、また、セルフリーのタンパク質発現系の使用を回避できることから実用性にも優れると考えられる。以上に基づき、本発明者らは上記課題を解決することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表される、アジド基含有Fcタンパク質。
〔2〕前記ペプチドリンカーが4~30個のアミノ酸残基からなる、〔1〕のアジド基含有Fcタンパク質。
〔3〕前記ペプチドリンカーが16個のアミノ酸残基からなる、〔2〕のアジド基含有Fcタンパク質。
〔4〕前記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質が、下記式(1-1):
【化1】
〔式中、
、L、L及びFcは、前記式(1)と同じであり、
ベンゼン環は、さらに置換されていてもよい。〕で表される、〔1〕~〔3〕のいずれかのアジド基含有Fcタンパク質。
〔5〕Fcタンパク質が哺乳動物抗体のFc領域に由来する、〔1〕~〔4〕のいずれかのアジド基含有Fcタンパク質。
〔6〕哺乳動物抗体がヒト抗体である、〔5〕のアジド基含有Fcタンパク質。
〔7〕Fcタンパク質がIgG抗体のFc領域に由来する、〔1〕~〔6〕のいずれかのアジド基含有Fcタンパク質。
〔8〕Fcタンパク質が、下記(a)~(c)からなる群より選ばれる、〔1〕~〔7〕のいずれかのアジド基含有Fcタンパク質:
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基の欠失、置換、付加及び挿入からなる群より選ばれる1又は数個のアミノ酸残基の変異を含むアミノ酸配列を含むタンパク質;並びに
(c)配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質。
〔9〕アジド基含有Fcタンパク質の製造方法であって、
フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、
下記式(2):
-L-Phe (2)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体を示す。〕で表される、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、
下記式(3):
-Fc (3)
〔式中、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表される、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質と反応させて、
下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
及びLは、前記式(2)と同じであり、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
及びFcは、前記式(3)と同じである。〕で表されるアジド基含有Fcタンパク質を生成することを含む、方法。
〔10〕下記式(4):
【化2】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表される、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体。
〔11〕環Aが、7~9員の単環、又は7~9員の単環と他の環との縮合環である、〔10〕のFcタンパク質誘導体。
〔12〕目的物質がポリマー系物質である、〔10〕又は〔11〕のFcタンパク質誘導体。
〔13〕目的物質が、ペプチド、サッカリド、又はヌクレオチドである、〔10〕~〔12〕のいずれかのFcタンパク質誘導体。
〔14〕目的物質が、システイン残基をC末端に有するペプチドである、〔10〕~〔13〕のいずれかのFcタンパク質誘導体。
〔15〕目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法であって、
下記式(5):
【化3】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環aは、炭素原子間3重結合を有する環を示す。〕で表される、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を、
下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表されるアジド基含有Fcタンパク質と反応させて、
下記式(4):
【化4】
〔式中、
S及びLは、前記式(5)と同じであり、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
、Phe、L、及びFcは、前記式(1)と同じである。〕で表される、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体を生成することを含む、方法。
〔16〕炭素原子間3重結合を有する環が、7~9員環、又は7~9員の単環と他の環との縮合環である、〔15〕の方法。
〔17〕目的物質を、炭素原子間3重結合を有する環を含む試薬と反応させて、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を生成することをさらに含む、〔15〕又は〔16〕の方法。
〔18〕下記(A)及び(B)を含む、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法:
(A)フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、
下記式(2):
-L-Phe (2)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体を示す。〕で表される、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、
下記式(3):
-Fc (3)
〔式中、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕で表される、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質と反応させて、
下記式(1):
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
及びLは、前記式(2)と同じであり、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
及びFcは、前記式(3)と同じである。〕で表されるアジド基含有Fcタンパク質を生成すること;並びに
(B)下記式(5):
【化5】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環aは、炭素原子間3重結合を有する環を示す。〕で表される、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を、
前記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質と反応させて、
下記式(4):
【化6】
〔式中、
S及びLは、前記式(5)と同じであり、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
、Phe、L、及びFcは、前記式(1)と同じである。〕で表される、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体を生成すること。
〔19〕16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーをN末端に有する、Fcタンパク質。
〔20〕ペプチドリンカーのN末端アミノ酸残基が、リジン残基又はアルギニン残基である、〔19〕のFcタンパク質。
〔21〕N末端アミノ酸残基がリジン残基又はアルギニン残基である16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを介して、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体残基をN末端に有する、アジド基含有Fcタンパク質。
〔22〕N末端アミノ酸残基がリジン残基又はアルギニン残基である16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを介して、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体残基をN末端に有する、アジド基含有Fcタンパク質の製造方法であって、
フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、前記ペプチドリンカーをN末端に有するFcタンパク質と反応させて、前記アジド基含有Fcタンパク質を生成することを含む、方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアジド基含有Fcタンパク質は、融合されるべき目的物質との反応効率に優れることから、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の製造に有用である。本発明はまた、このようなアジド基含有Fcタンパク質を用いて製造された、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体などを提供する。
16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーをN末端に有する本発明のFcタンパク質は、目的物質との反応効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の概要を示す図である。
図2図2は、Cys-Fc遺伝子導入HEK293細胞の培養上清をプロテインAで精製した後の溶出液を、SDS-PAGEにより分析した結果を示す図である。レーン1:分子量マーカー;レーン2:培養上清;レーン3:プロテインA透過液;レーン4;プロテインA溶出液。
図3図3は、アジド基含有Fcタンパク質の合成(図1の反応Aを参照)における、SDS-PAGEによるアジド基含有Fcタンパク質への変換率の評価を示す図である。アジド基含有Fcタンパク質の合成は、フェニルアラニルtRNA(tRNAPhe)、アミノアシルtRNA合成酵素(double-mutant aminoacyl-tRNA synthetase)、及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素(L/F-transferase)を用いた、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体(4-アジドフェニルアラニン)の下記各種Fcタンパク質への付加により行われた。Conv.:変換率。Fc(4):KTHT(配列番号4)-Fcタンパク質(変換率70%);Fc(8):KSSDKTHT(配列番号5)-Fcタンパク質(変換率84%);Fc(12):KVEPKSSDKTHT(配列番号6)-Fcタンパク質(変換率75%);Fc(13):KKVEPKSSDKTHT(配列番号7)-Fcタンパク質(変換率76%);Fc(16):KVDKKVEPKSSDKTHT(配列番号8)-Fcタンパク質(変換率90%)。レーン1:分子量マーカー(図2と同じ);レーン2:反応前の上記各種Fcタンパク質(ネガティブコントロール);レーン3:アジド基含有Fcタンパク質の合成における反応混合物(上のバンド:PEG化タンパク質;下のバンド:非PEG化タンパク質)。
図4図4は、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成(図1の反応Bに対する比較例)における、SDS-PAGEによる当該Fcタンパク質誘導体への変換率の評価を示す図である。目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成(比較例)は、S-Alkylation反応によるFcタンパク質と目的物質との反応により行われた。Conv.:変換率。レーン1:分子量マーカー;レーン2:反応前のFcタンパク質Fc(16)(ネガティブコントロール);レーン3:目的ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体の合成における反応混合物(変換率49%)。
図5図5は、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成(図1の反応B)における、SDS-PAGEによる当該Fcタンパク質誘導体への変換率の評価を示す図である。目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成は、SPAAC反応によるアジド基含有Fcタンパク質と目的物質との反応により行われた。Conv.:変換率。レーン1:分子量マーカー;レーン2:反応前のFcタンパク質Fc(16)(ネガティブコントロール);レーン3:目的ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体の合成における反応混合物(変換率100%)。
図6図6は、形質転換細胞を用いて産生された、N末端にリジン残基を有するFcタンパク質(Lys-Fc)について、SDS-PAGEにより分析した結果を示す図である。レーン1:分子量マーカー;レーン2:Refolding Mixture;レーン3:N末端にリジン残基を有するFcタンパク質(実施例7で調製されたFcタンパク質)。
図7図7は、目的物質としての非天然環状ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体の合成(図1の反応B)における、SDS-PAGEによる当該Fcタンパク質誘導体への変換率の評価を示す図である。目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成は、SPAAC反応によるアジド基含有Fcタンパク質と目的物質との反応により行われた。レーン1:分子量マーカー;レーン2:反応前のFcタンパク質Fc(16)(ネガティブコントロール);レーン3:目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成における反応混合物。
図8図8は、目的物質としての非天然直鎖ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体の合成(図1の反応B)における、SDS-PAGEによる当該Fcタンパク質誘導体への変換率の評価を示す図である。目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成は、SPAAC反応によるアジド基含有Fcタンパク質と目的物質との反応により行われた。レーン1:分子量マーカー;レーン2:反応前のFcタンパク質Fc(16)(ネガティブコントロール);レーン3:目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成における反応混合物。
図9図9は、目的物質としてのオリゴ核酸(配列番号21)が付加されたFcタンパク質誘導体の合成(図1の反応B)における、SDS-PAGEによる当該Fcタンパク質誘導体への変換率の評価を示す図である。目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成は、SPAAC反応によるアジド基含有Fcタンパク質と目的物質との反応により行われた。レーン1:分子量マーカー;レーン2:反応前のFcタンパク質Fc(16)(ネガティブコントロール);レーン3:目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成における反応混合物。
図10図10は、目的物質としてのオリゴ核酸(配列番号22)が付加されたFcタンパク質誘導体の合成(図1の反応B)における、SDS-PAGEによる当該Fcタンパク質誘導体への変換率の評価を示す図である。目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成は、SPAAC反応によるアジド基含有Fcタンパク質と目的物質との反応により行われた。レーン1:分子量マーカー;レーン2:反応前のFcタンパク質Fc(16)(ネガティブコントロール);レーン3:目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の合成における反応混合物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.アジド基含有Fcタンパク質、及びその製造方法)
本発明は、アジド基含有Fcタンパク質を提供する。
【0012】
本発明のアジド基含有Fcタンパク質は、下記式(1)で表される。
【0013】
-L-Phe-L-Fc (1)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕
【0014】
式(1)において、Phe及びL間の結合、並びにL及びFc間の結合は、アミド結合である。よって、上記式(1)におけるPhe-L-Fcの部分は、その構成アミノ酸残基がアミド結合で連結されたポリペプチド構造を示す。
【0015】
式(1)において、Lにより示される2価の基は、N及びPheを連結する直鎖又は分岐鎖の基である。Lにより示される2価の基としては、例えば、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、-O-、-S-、-C(=O)-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、及びこれらの組み合わせからなる基が挙げられる。
【0016】
直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレンが挙げられる。
【0017】
アルキレンとしては、炭素原子数1~12のアルキレンが好ましく、炭素原子数1~6のアルキレンがより好ましく、炭素原子数1~4のアルキレンが特に好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アルキレンは、直鎖、分岐鎖、又は環状のいずれであってもよいが、直鎖のアルキレンが好ましい。このようなアルキレンとしては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレンが挙げられる。
【0018】
アルケニレンとしては、炭素原子数2~12のアルケニレンが好ましく、炭素原子数2~6のアルケニレンがより好ましく、炭素原子数2~4のアルケニレンが特に好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アルケニレンは、直鎖、分岐鎖、又は環状のいずれであってもよいが、直鎖のアルケニレンが好ましい。このようなアルケニレンとしては、例えば、エチレニレン、プロピニレン、ブテニレン、ペンテニレン、へキセニレンが挙げられる。
【0019】
アルキニレンとしては、炭素原子数2~12のアルキニレンが好ましく、炭素原子数2~6のアルキニレンがより好ましく、炭素原子数2~4のアルキニレンが特に好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アルキニレンは、直鎖、分岐鎖、又は環状のいずれであってもよいが、直鎖のアルキニレンが好ましい。このようなアルキニレンとしては、例えば、エチニレン、プロピニレン、ブチニレン、ペンチニレン、へキシニレンが挙げられる。
【0020】
直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基が有していてもよい置換基、及びRにより示される置換基は、後述するフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様であるが、なかでも炭化水素基が好ましい。直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基が有していてもよい置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0021】
これらの中でも、Lにより示される2価の基としては、2価の炭化水素基が好ましく、アルキレンがより好ましい。
【0022】
特に好ましくは、Lは、結合である。この場合、式(1)は、N-Phe-L-Fc (1’)と表記することもできる。
【0023】
式(1)において、Pheにより示されるフェニルアラニン又はその誘導体の残基は、隣接するL(リジン残基若しくはアルギニン残基、又はペプチドリンカー中のN末端リジン残基若しくはアルギニン残基)にアミド結合を介して結合するため、アミド結合のC末端側の構造(すなわち、CO-)をC末端に有する。フェニルアラニンの誘導体は、フェニルアラニンの側鎖部分(ベンジル基)に1~5個、1~3個、又は1若しくは2個の置換基を有するフェニルアラニンである。このような置換基は、例えば、以下である;
(i)炭化水素基、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、グアニジノ、若しくはシアノ;
(ii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、若しくはR-C(=O)-O-〔(ii)におけるRは、水素原子、又は炭化水素基を示す〕;又は
(iii)NRb1b2-、NRb1b2-C(=O)-、NRb1b2-C(=O)-O-、若しくはRb1-C(=O)-NRb2-〔(iii)におけるRb1及びRb2は、同一若しくは異なって、水素原子、若しくは炭化水素基を示す〕。
【0024】
(i)~(iii)における炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、又は環状の1価の炭化水素基であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖の1価の炭化水素基である。このような炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、及びアルキニルが挙げられる。
【0025】
アルキルとしては、例えば、炭素原子数1~12のアルキルが好ましく、炭素原子数1~6のアルキルがより好ましく、炭素原子数1~4のアルキルが特に好ましい。アルキルは、直鎖、分岐鎖、又は環状のいずれであってもよいが、直鎖又は分岐鎖のアルキルが好ましい。このようなアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、iso-プロピル、ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチルが挙げられる。
【0026】
アルケニルとしては、炭素原子数2~12のアルケニルが好ましく、炭素原子数2~6のアルケニルがより好ましく、炭素原子数2~4のアルケニルが特に好ましい。アルケニルは、直鎖、分岐鎖、又は環状のいずれであってもよいが、直鎖又は分岐鎖のアルケニルが好ましい。このようなアルケニルとしては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、へキセニルが挙げられる。
【0027】
アルキニルとしては、炭素原子数2~12のアルキニルが好ましく、炭素原子数2~6のアルキニルがより好ましく、炭素原子数2~4のアルキニルが特に好ましい。アルキニルは、直鎖、分岐鎖、又は環状のいずれであってもよいが、直鎖又は分岐鎖のアルキニルが好ましい。このようなアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、へキシニルが挙げられる。
【0028】
式(1)において、Lは、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示す。Lがリジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有するペプチドリンカーである理由は、式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質の製造方法において、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体(「N-L-Phe」の構造単位に相当し得る)をアミド結合によりLに連結するためには、当該フェニルアラニン誘導体を連結可能であるアミノ酸として、アルギニン残基、又はリジン残基を用いる必要があるためである。詳細については、上記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質の製造方法における、フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いる後述の反応を参照されたい。
【0029】
好ましくは、Lは、リジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示す。アミノ酸残基は、L-アミノ酸又はD-アミノ酸の残基であるが、L-アミノ酸の残基が好ましい。アミノ酸残基としてはまた、α-アミノ酸が好ましい。より具体的には、好ましいアミノ酸残基としては、例えば、L-アラニン(A)、L-アスパラギン(N)、L-システイン(C)、L-グルタミン(Q)、L-イソロイシン(I)、L-ロイシン(L)、L-メチオニン(M)、L-フェニルアラニン(F)、L-プロリン(P)、L-セリン(S)、L-スレオニン(T)、L-トリプトファン(W)、L-チロシン(Y)、L-バリン(V)、L-アスパラギン酸(D)、L-グルタミン酸(E)、L-アルギニン(R)、L-ヒスチジン(H)、またはL-リジン(K)、及びグリシン(G)が挙げられる。
【0030】
より好ましくは、ペプチドリンカーは、4個以上のアミノ酸残基からなる。ペプチドリンカーは、6個以上、8個以上、10個以上、12個以上、又は14個以上のアミノ酸残基からなるものであってもよい。ペプチドリンカーはまた、30個以下、25個以下、20個以下、又は18個以下のアミノ酸残基からなるものであってもよい。特に好ましくは、ペプチドリンカーは、16個のアミノ酸残基からなる。
【0031】
特定の実施形態において、ペプチドリンカーは、Fcタンパク質のアミノ酸配列に対して異種のアミノ酸配列からなるものであってもよい。ペプチドリンカーについて、Fcタンパク質のアミノ酸配列に対して「異種」のアミノ酸配列とは、抗体においてFcタンパク質が天然に連結されているアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列からなることを意味する。例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるFcタンパク質を含む天然抗体において、当該Fcタンパク質のN末端アミノ酸(メチオニン)残基はグリシンのC末端に対して天然に連結されているが、Fcタンパク質として配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質が用いられる場合、ペプチドリンカーは、そのC末端にグリシン残基を含まないアミノ酸配列からなる。
【0032】
好ましい特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、以下であってもよい。
(1)KVDKKVEPKSSDKTHT(配列番号8)のアミノ酸配列からなるペプチド;又は
(2)KVDKKVEPKSSDKTHT(配列番号8)のアミノ酸配列において、アミノ酸残基の欠失、置換、付加及び挿入からなる群より選ばれる1若しくは2個のアミノ酸残基の変異を含むアミノ酸配列からなるペプチド。
【0033】
式(1)において、Fcにより示されるFcタンパク質は、任意の動物(例、ニワトリ等の鳥類、哺乳動物)の抗体のFc領域に由来する。好ましくは、Fcタンパク質が由来する動物種は、哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、モルモット、ウサギ)、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジが挙げられるが、霊長類又は齧歯類が好ましく、霊長類がより好ましく、ヒトがさらにより好ましい。
【0034】
Fcタンパク質が由来する抗体としては、例えば、IgG(例、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD、IgE、及びIgY、並びにこれらの抗体のFc部分のハイブリッドが挙げられるが、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEが好ましく、IgGがより好ましい。
【0035】
特に好ましくは、Fcタンパク質は、ヒトIgG(例、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)である。
【0036】
特定の実施形態では、Fcタンパク質は、下記(a)~(c)からなる群より選ばれる:
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、アミノ酸残基の欠失、置換、付加及び挿入からなる群より選ばれる1又は数個のアミノ酸残基の変異を含むアミノ酸配列を含むタンパク質;並びに
(c)配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質。
【0037】
上記(b)のタンパク質において、1又は数個のアミノ酸残基についての変異の数は、例えば1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~30個、さらにより好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個(例、1、2、3、4または5個)である。
【0038】
上記(c)のタンパク質において、アミノ酸配列の相同性パーセントは、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上または99%以上であってもよい。相同性としては、例えば、同一性及び類似性が挙げられるが、同一性が好ましい。
【0039】
アミノ酸配列の相同性は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993))、PearsonによるFASTA(MethodsEnzymol.,183,63(1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTPとよばれるプログラムが開発されているので(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)、これらのプログラムをデフォルト設定で用いて、アミノ酸配列の相同性を計算してもよい。また、アミノ酸配列の相同性としては、例えば、Lipman-Pearson法を採用している株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ORFにコードされるポリペプチド部分全長を用いて、Unit Size to Compare=2の設定でSimilarityをpercentage計算させた際の数値を用いてもよい。あるいは、相同性は、NEEDLEプログラム(J Mol Biol 1970;48:443-453)検索において、デフォルト設定のパラメータ(Gap penalty=10、Extend penalty=0.5、Matrix=EBLOSUM62)を用いて得られた値(Identity)であってもよい。アミノ酸配列の相同性として、これらの計算で導き出される値のうち、最も低い値を採用してもよい。好ましくは、相同性は、NEEDLEプログラム検索において上記パラメータを用いて得られた値であってもよい。
【0040】
上記(b)及び(c)のタンパク質の調製のため、配列番号1のアミノ酸配列に対して変異が導入され得るアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかであり、例えば、アミノ酸配列のアライメントを参考にして変異を導入することができる。具体的には、当業者は、1)複数のホモログのアミノ酸配列を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。したがって、当業者は、Fcタンパク質の機能(例、循環血中での長い半減期)を維持するように、1以上のアミノ酸残基の変異を適宜導入することができる。
【0041】
上記(b)及び(c)のタンパク質の調製のため、配列番号1のアミノ酸配列に対してアミノ酸残基の変異が導入され、かつ当該アミノ酸残基の変異が置換である場合、アミノ酸残基のこのような置換は、保存的置換であってもよい。用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、および硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸および非極性側鎖を有するアミノ酸を包括的に、中性アミノ酸と呼称することがある。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、およびグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0042】
好ましくは、上記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質は、下記式(1-1)で表される。
【0043】
【化7】
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示し、
ベンゼン環は、さらに置換されていてもよい。〕
【0044】
式(1-1)において、L、L及びFcの定義、例及び好ましい例は、式(1)と同じである。
【0045】
式(1-1)において、ベンゼン環は、任意の位置にN-L-の基を有するが、好ましくは、-CH-CH(NH)-CO-L-Fcの基に対してメタ位又はパラ位に有する。ベンゼン環が置換されている場合、置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0046】
より好ましくは、式(1-1)において、ベンゼン環は、-CH-CH(NH)-CO-L-Fcの基に対してパラ位にN-L-の基を有する。
【0047】
本発明はまた、上記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質の製造方法を提供する。本方法は、フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、下記式(2)で表される、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、下記式(3)で表される、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質と反応させて、上記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質を生成することを含む。
【0048】
-L-Phe (2)
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体を示す。〕
【0049】
-Fc (3)
〔式中、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕
【0050】
式(2)において、Lにより示される2価の基の定義、例及び好ましい例は、式(1)と同じである。
【0051】
式(2)において、Pheにより示されるフェニルアラニンの誘導体は、フェニルアラニンの側鎖部分(ベンジル基)に1~5個、1~3個、又は1若しくは2個の置換基を有するフェニルアラニンである。置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。下記式(2)で表される、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体としては、非常に多数の誘導体が知られている。したがって、本発明では、このような誘導体を適宜合成することができ、また、市販品を利用することもできる。
【0052】
好ましくは、上記式(2)で表される、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体は、下記式(2-1)で表される。
【0053】
【化8】
〔式中、
は、アジド基を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
ベンゼン環は、さらに置換されていてもよい。〕
【0054】
式(2-1)において、Lにより示される2価の基の定義、例及び好ましい例は、式(1)と同じである。
【0055】
式(2-1)において、ベンゼン環は、任意の位置にN-L-の基を有するが、好ましくは、-CH-CH(NH)-COOHの基に対してメタ位又はパラ位に有する。ベンゼン環が置換されている場合、置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0056】
より好ましくは、式(2-1)において、ベンゼン環は、-CH-CH(NH)-COOHの基に対してパラ位にN-L-の基を有する。
【0057】
式(3)において、Lにより示されるペプチドリンカーの定義、例及び好ましい例は、式(1)と同じである。
【0058】
式(3)において、Fcにより示されるFcタンパク質の定義、例及び好ましい例は、式(1)と同じである。
【0059】
式(3)で表される、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質は、任意の方法により調製することができる。このような方法としては、例えば、(1)リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質のN末端リジン残基又はアルギニン残基に対して分泌シグナルペプチドが付加されたタンパク質を培養細胞において発現させ、分泌シグナルペプチドが切断された、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質を培地から回収する方法(例、国際公開第2002/081694号;国際公開第2005/103278号;国際公開第2014/126260号を参照)、(2)リジン残基又はアルギニン残基をFcタンパク質のN末端アミノ酸残基に対して付加する方法(例、米国特許第7,404,956号明細書;Proc.Jap.Acad.Ser.B,2011,603を参照)、(3)Fcタンパク質のN末端アミノ酸残基に対してペプチドが付加されたタンパク質をプロテアーゼにより切断して、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質を得る方法が挙げられる。
【0060】
フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いた反応(図1の反応Aを参照)により、タンパク質のN末端に存在するリジン残基若しくはアルギニン残基に対して、フェニルアラニン又はその誘導体をアミド結合により付加することができる。このような反応は、NEXT-A反応として知られている(例、特開2009-106267号公報、特開2009-106268号公報、国際公開第2011/024887号)。
【0061】
フェニルアラニルtRNA(tRNAPhe)は、既報(例、ChemBioChem 2009,2460;Nucleic Acids Res 1996,907)にしたがい調製することができる。あるいは、tRNAPheは、市販のものを購入して入手してもよい。
【0062】
アミノアシルtRNA合成酵素は、既報(例、ChemBioChem 2009,2460;J.Am.Chem.Soc.2002,5652;ChemBioChem 1991,99;Chembiochem,2002,235-237)にしたがい調製することができる。アミノアシルtRNA合成酵素としては、フェニルアラニン又はその誘導体に対して基質特異性を有する野生型のアミノアシルtRNA合成酵素、ならびにフェニルアラニン又はその誘導体に対して特異性が高められたアミノアシルtRNA合成酵素の変異体を用いることができる。例えば、大腸菌由来フェニルアラニルtRNA合成酵素(E.coli PheRS)変異体(例、Ala294→Gly変異体、Ala356→Trp変異体、Thr251→Ala変異体、もしくは、Gly318→Trp変異体のいずれか、またはこれらの多重変異体)を用いることができる。あるいは、アミノアシルtRNA合成酵素は、市販のものを購入して入手してもよい。
【0063】
ロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素(L/F転移酵素)は、tRNAPheに結合しているフェニルアラニン又はその誘導体を、N末端にリジン残基又はアルギニン残基を有するタンパク質に転移する能力を有する。ロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素は、既報(例、ChemBioChem 2006,1676;J.Biol.Chem.1995,20631;Chembiochem,2008,719-722)にしたがい調製することができる。
【0064】
フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いた反応は、補酵素(ATP)、塩類などを含む適切な緩衝液等の水系媒体中で行うことができる。緩衝液としては、例えばHEPES緩衝液、Tris-HClなどが挙げられる。例えば、このような反応は、MgCl、Spermidineを含むHEPES緩衝液と、ATPを含む溶液との混合液を用いて行うことができる。
【0065】
反応で用いられる、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体、及びリジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質の量は適宜設定することができる。リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質に対して、例えば1~5000当量、好ましくは1~500当量、より好ましくは2~50当量の、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を用いることができる。
【0066】
反応温度、反応pHおよび反応時間などの反応条件については、タンパク質の変性を回避できる穏やかな条件を適宜設定することができる。反応温度は、例えば、約4℃~40℃、好ましくは約15℃~37℃である。反応pHは、例えば、約6~9、好ましくは約6.5~8.5であり、より好ましくは7~8である。反応時間は、反応温度及び反応pHの条件、並びに生成物の所望される量に応じて適宜設定することができる。
【0067】
(2.目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体、及びその製造方法)
本発明はさらに、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体を提供する。
【0068】
本発明のFcタンパク質誘導体は、下記式(4)で表される。
【0069】
【化9】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
Pheは、フェニルアラニン又はその誘導体の残基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕
【0070】
式(4)において、Phe及びL間の結合、並びにL及びFc間の結合は、アミド結合である。よって、上記式(4)におけるPhe-L-Fcの部分は、その構成アミノ酸残基がアミド結合で連結されたポリペプチド構造を示す。
【0071】
式(4)において、Sにより示される目的物質は、2以上の構成単位が連結したポリマー系物質、又は非ポリマー系物質であり、ポリマー系物質が好ましい。ポリマー系物質は、同じ構成単位が連結したホモポリマー系物質、又は異なる構成単位が連結したヘテロポリマー系物質である。ポリマー系物質における構成単位数は、2以上である限り特に限定されないが、好ましくは5以上、10以上、15以上、20以上、25以上又は30以上である。ポリマー系物質における構成単位数はまた、例えば、500以下、300以下、200以下、100以下又は50以下であってもよい。ポリマー系物質としては、例えば、ペプチド、サッカリド、及びヌクレオチドが挙げられる。本発明において目的物質として用いられるペプチドとしては、例えば、オリゴペプチド(例、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド)、及びポリペプチドが挙げられる。ペプチドは、上述したような20種のL-α-アミノ酸及びそれ以外の任意のアミノ酸(例、D-アミノ酸)から構成されていてもよい。ペプチドはまた、直鎖、分岐鎖、または環状であってもよい。ペプチドは、サッカリド等の分子により修飾されていてもよい。本発明において目的物質として又はペプチドの修飾に用いられるサッカリドとしては、例えば、オリゴサッカリド(例、ジサッカリド、トリサッカリド、テトラサッカリド)、及びポリサッカリドが挙げられる。サッカリドはまた、リガンド等の機能性サッカリドであってもよい。本発明において目的物質として用いられるヌクレオチドとしては、例えば、オリゴヌクレオチド(例、ジヌクレオチド、トリヌクレオチド、テトラヌクレオチド)、及びポリヌクレオチドが挙げられる。ヌクレオチドとしては、例えば、天然ヌクレオチド(例、RNA、DNA)、及び非天然ヌクレオチド(例、ペプチド核酸、ロック型核酸、架橋型核酸、ホスホロチオエート核酸)が挙げられる。ヌクレオチドはまた、アンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例、siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、核酸アプタマー(例、DNAアプタマー、RNAアプタマー)等の機能性ヌクレオチドであってもよい。目的物質はまた、医薬、又は試薬であってもよい。
【0072】
目的物質がペプチドである場合、ペプチドとしては、生理活性ポリペプチドが好ましい。このような生理活性ポリペプチドとしては、例えば、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、酵素、抗体、増殖因子、転写調節因子、ワクチン、構造タンパク質、リガンドタンパク質、受容体、細胞表面抗原、受容体拮抗物質、血液因子、及びペプチド医薬が挙げられる。より具体的には、このような生理活性ポリペプチドとしては、例えば、ヒト成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ペプチド、インターフェロン、インターフェロン受容体、コロニー刺激因子、グルカゴン様ペプチド(例、GLP-1(前駆体、ならびに成熟体および中間体等の誘導体を含む。例、特許第4548335号公報)、Exenatide)、Gタンパク質共役受容体、インターロイキン、インターロイキン受容体、酵素、インターロイキン結合タンパク質、サイトカイン結合タンパク質、マクロファージ活性因子、マクロファージペプチド、B細胞因子、T細胞因子、タンパク質A、アレルギー抑制因子、細胞怪死糖タンパク質、免疫毒素、リンホトキシン、腫瘍怪死因子、腫瘍抑制因子、転移成長因子、α-1アンチトリプシン、アルブミン、α-ラクトアルブミン、アポリポタンパク質-E、赤血球生成因子、高糖化赤血球生成因子、アンジオポイエチン類、ヘモグロビン、トロンビン、トロンビン受容体活性ペプチド、トロンボモジュリン、血液因子VII、VIIa、VIII、IX及びXIII、プラズミノゲン活性因子、フィブリン結合ペプチド、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ヒルジン、タンパク質C、C-反応性タンパク質、レニン抑制剤、コラゲナーゼ抑制剤、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、血小板由来成長因子、上皮細胞成長因子、表皮細胞成長因子、アンジオスタチン、アンジオテンシン、骨形成成長因子、骨形成促進タンパク質、カルシトニン、インスリン、アトリオペプチン、軟骨誘導因子、エルカトニン、結合組織活性因子、組織因子経路抑制剤、濾胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、神経成長因子類、副甲状腺ホルモン、リレキシン、シクレチン、ソマトメジン、インスリン様成長因子、副腎皮質ホルモン、グルカゴン、コレシストキニン、膵臓ポリペプチド、ガストリン放出ペプチド、副腎皮質刺激ホルモン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、オートタキシン、ラクトフェリン、ミオスタチン、受容体類、受容体拮抗物質、細胞表面抗原、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び抗体断片が挙げられる。Fcタンパク質との融合タンパク質として、このような生理活性ポリペプチドを適宜用いることができる(例、特許第5020934号公報を参照)。上記グルカゴン様ペプチドの好ましい例としては、Exenatide、GLP-1(7-37)、GLP-1(1-37)が挙げられる(特許第4548335号公報)。
【0073】
式(4)において、Lにより示される2価の基は、目的物質Sと環Aを連結する直鎖、分岐鎖、若しくは環状の基、又はこれらの組み合わせからなる基である。Lにより示される2価の基は、置換基を有していてもよい。Lにより示される2価の基としては、例えば、2価の炭化水素基、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、-O-、-S-、-C(=O)-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、2価の複素環基、及びこれらの2以上(例えば2~8、好ましくは2~6、より好ましくは2~4)の組み合わせからなる基が挙げられる。Lは、環Aにおける任意の原子、例えば環構成原子に結合するが、好ましくは、トリアゾールと共有している炭素原子とは異なる環構成原子に結合する。
【0074】
2価の炭化水素基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状の2価の炭化水素基であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖の2価の炭化水素基である。このような2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンが挙げられる。
【0075】
Lにより示される2価の基の例であるアルキレン、アルケニレン、及びアルキニレンの定義、例及び好ましい例は、Lにより示される2価の基の例であるアルキレン、アルケニレン、及びアルキニレンのものと同じである。
【0076】
アリーレンとしては、炭素原子数6~24のアリーレンが好ましく、炭素原子数6~18のアリーレンがより好ましく、炭素原子数6~14のアリーレンがさらに好ましく、炭素原子数6~10のアリーレンがさらにより好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アリーレンとしては、例えば、フェニレン(例、フルオロベンゼン試薬を用いて式(4)で表されるFcタンパク質誘導体を製造した場合)、ナフチレン、アントラセニレンが挙げられる。
【0077】
Lにより示される2価の基の例である-NR-及び-C(=O)-NR-におけるRにより示される置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0078】
Lにより示される2価の基の例である2価の複素環基は、2価の芳香族複素環基、又は2価の非芳香族複素環基である。複素環を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0079】
2価の芳香族複素環基としては、炭素原子数3~21の2価の芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数3~15の2価の芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数3~9の2価の芳香族複素環基がさらに好ましく、炭素原子数3~6の2価の芳香族複素環基がさらにより好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。より具体的には、2価の芳香族複素環基としては、例えば、ピレンジイル、ピロールジイル、フランジイル、チオフェンジイル、ピリジンジイル、ピリダジンジイル、ピリミジンジイル、ピラジンジイル、トリアジンジイル、ピロリンジイル、ピペリジンジイル、トリアゾールジイル、プリンジイル、アントラキノンジイル、カルバゾールジイル、フルオレンジイル、キノリンジイル、及びイソキノリンジイルが挙げられる。
【0080】
2価の非芳香族複素環基としては、炭素原子数3~21の非芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数3~15の非芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数3~9の非芳香族複素環基がさらに好ましく、炭素原子数3~6の非芳香族複素環基がさらにより好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。より具体的には、2価の非芳香族複素環基としては、例えば、2,5-ピロールジオンジイル(マレイミド試薬を用いて式(4)で表されるFcタンパク質誘導体を製造した場合)、3-ピロリン-2,5-ジオン-1,3-ジイル(ハロゲン化マレイミド試薬を用いてFcタンパク質誘導体を製造した場合)、ピロール-3-アリールチオ-2,5-ジオン-1,3-ジイル(アリールチオマレイミド試薬を用いてFcタンパク質誘導体を製造した場合)、オキシランジイル、アジリジンジイル、アゼチジンジイル、オキセタンジイル、チエタンジイル、ピロリジンジイル、ジヒドロフランジイル、テトラヒドロフランジイル、ジオキソランジイル、テトラヒドロチオフェンジイル、イミダゾリジンジイル、オキサゾリジンジイル、ピペリジンジイル基、ジヒドロピランジイル、テトラヒドロピランジイル、テトラヒドロチオピランジイル、モルホリンジイル、チオモルホリンジイル、ピペラジンジイル、ジヒドロオキサジンジイル、テトラヒドロオキサジンジイル、ジヒドロピリミジンジイル、及びテトラヒドロピリミジンジイルが挙げられる。
【0081】
好ましくは、2価の非芳香族複素環基は、2,5-ピロールジオンジイル、3-ピロリン-2,5-ジオン-1,3-ジイル、ピロール-3-アリールチオ-2,5-ジオン-1,3-ジイルである。
【0082】
好ましくは、Lにより示される2価の基は、-L-L-(L及びLは、2価の基を示す。)である。
【0083】
ここで、Lにより示される2価の基としては、例えば、Lについて上述したような2価の基が挙げられるが、好ましくは、アリーレン又は2価の複素環基であり、より好ましくは、アリーレン又は2価の非芳香族複素環基であり、さらにより好ましくは、フェニルジイル、2,5-ピロールジオンジイル、3-ピロリン-2,5-ジオン-1,3-ジイル、ピロール-3-アリールチオ-2,5-ジオン-1,3-ジイルである。
【0084】
により示される2価の基としては、例えば、2価の炭化水素基、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、-O-、-S-、-C(=O)-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、2価の複素環基、及びこれらの2以上(例えば2~7、好ましくは2~5、より好ましくは2又は3)の組み合わせからなる基が挙げられる。ここで、Lにより示される2価の基の例である2価の炭化水素基、-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、-C(=O)-NR-(Rは水素原子、又は置換基を示す)、2価の複素環基の定義、例及び好ましい例は、Lにより示される2価の基の例であるものと同じである。
【0085】
L、又はL若しくはLにより示される2価の基は、置換基を有していてもよい。置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0086】
式(4)において、環Aは、トリアゾールと縮合している環を示す。環Aの構成部分には、縮合しているトリアゾール環自体は含まれないが、トリアゾールと共有している炭素原子間二重結合の部分は含まれる。したがって、環Aは、炭素原子間二重結合を有する環であるということができる。
【0087】
環Aは、単環、又は単環と他の環との縮合環である。環Aは、置換基を有していてもよい。単環としては、同素環、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含む複素環が好ましい。より好ましくは、単環は、同素環、又は酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される1種以上を含む複素環である。単環としては、5~12員の単環が好ましく、6~10員の単環がより好ましく、7~9員の単環がさらにより好ましい。単環としては、非芳香族性の単環が好ましい。
【0088】
環Aが縮合環である場合、単環と縮合される他の環としては、例えば、シクロアルカン、アレーン、複素環が挙げられる。
【0089】
シクロアルカンとしては、炭素原子数3~24のシクロアルカンが好ましく、炭素原子数6~18のシクロアルカンがより好ましく、炭素原子数3~14のシクロアルカンがさらに好ましく、炭素原子数3~10のシクロアルカンがさらにより好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。シクロアルカンとしては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンが挙げられる。
【0090】
アレーンとしては、炭素原子数6~24のアレーンが好ましく、炭素原子数6~18のアレーンがより好ましく、炭素原子数6~14のアレーンがさらに好ましく、炭素原子数6~10のアレーンがさらにより好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アレーンとしては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンが挙げられる。
【0091】
複素環は、芳香族複素環、又は非芳香族複素環である。複素環を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0092】
芳香族複素環としては、炭素原子数3~21の芳香族複素環が好ましく、炭素原子数3~15の芳香族複素環がより好ましく、炭素原子数3~9の芳香族複素環がさらに好ましく、炭素原子数3~6の芳香族複素環がさらにより好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。より具体的には、芳香族複素環としては、例えば、ピレン、ピロール、フラン、チオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、ピロリン、ピペリジン、トリアゾール、プリン、アントラキノン、カルバゾール、フルオレン、キノリン、及びイソキノリンが挙げられる。
【0093】
非芳香族複素環としては、炭素原子数3~21の非芳香族複素環が好ましく、炭素原子数3~15の非芳香族複素環がより好ましく、炭素原子数3~9の非芳香族複素環がさらに好ましく、炭素原子数3~6の非芳香族複素環がさらにより好ましい。上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。より具体的には、非芳香族複素環としては、例えば、オキシラン、アジリジン、アゼチジン、オキセタン、チエタン、ピロリジン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロチオフェン、イミダゾリジン、オキサゾリジン、ピペリジン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、モルホリン、チオモルホリン、ピペラジン、ジヒドロオキサジン、テトラヒドロオキサジン、ジヒドロピリミジン、及びテトラヒドロピリミジンが挙げられる。
【0094】
環Aが有していてもよい置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0095】
好ましくは、環Aは、7~9員の単環、又は7~9員の単環と他の環との縮合環である。このような環Aの好適な例は、以下である(例、Org.Biomol.Chem.2013,11,6439、Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 1190を参照)。
【0096】
【化10】
〔式中、
X及びYの一方は、CHを示し、他方はCH、NH、O、又はSを示し、
Zは、CH、NH、O、又はSを示し、
V及びWは、同一又は異なって、CH、NH、O、又はSを示す。〕
【0097】
式(4)において、L、L及びFcの定義、例及び好ましい例は、上記式(1)と同じである。
【0098】
式(4)において、Pheの定義、例及び好ましい例は、上記式(1)と同じである。よって、フェニルアラニン誘導体の有する置換基の例及び好ましい例もまた、上述したとおりである。置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0099】
好ましくは、上記式(4)で表されるFcタンパク質誘導体は、下記式(4-1)で表される。
【0100】
【化11】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環Aは、トリアゾールと縮合している環を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕
【0101】
式(4-1)において、S、L、環A、L、L、及びFcの定義、例及び好ましい例は、式(4)のものと同じである。ベンゼン環は、置換基を有していてもよい。ベンゼン環が有していてもよい置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0102】
より好ましくは、上記式(4)で表されるFcタンパク質誘導体は、下記式(4-2)で表される。
【0103】
【化12】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環A’は、トリアゾールと縮合している8員環を示し、
X及びYの一方は、CHを示し、他方はCH、NH、O、又はSを示し、
~Rは、同一又は異なって、水素原子、又は置換基を示し、
あるいは、R及びRは一緒になって、置換基を有する環を形成していてもよく、R及びRは一緒になって、置換基を有する環を形成していてもよく、
環A’における実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を示し、
は、結合又は2価の基を示し、
は、リジン残基若しくはアルギニン残基、又はリジン残基若しくはアルギニン残基をN末端に有する2個以上のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを示し、
Fcは、Fcタンパク質を示す。〕
【0104】
式(4-2)において、S、L、L、L、及びFcの定義、例及び好ましい例は、式(4)のものと同じである。ベンゼン環は、置換基を有していてもよい。ベンゼン環が有していてもよい置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0105】
環A’において、X及びYの一方は、CHを示し、他方はCH、NH、O、又はSを示す。好ましくは、X及びYの一方は、CHを示し、他方はCH、又はNHを示す。
【0106】
好ましくは、X又はYは、Lと連結されている。この場合、環A’に結合するS-L-の基は、X又はYと連結して、S-L-CH又はS-L-Nの構造を示してもよい。
【0107】
~Rにより示される置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0108】
及びR並びに/あるいはR及びRが一緒になって形成される環としては、例えば、上述したシクロアルカン、アレーン、及び複素環が挙げられる。シクロアルカン、アレーン、及び複素環の定義、例及び好ましい例は、上述したものと同じである。R及びR並びに/あるいはR及びRが一緒になって形成される環が有していてもよい置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0109】
環A’は、R~Rに加えて、追加置換基を有していてもよい。このような追加置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。追加置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0110】
本発明はまた、上記式(4)で表されるFcタンパク質誘導体の製造方法を提供する。本方法は、下記式(5)で表される、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を、上記式(1)で表されるアジド基含有Fcタンパク質と反応させて、上記式(4)で表されるFcタンパク質誘導体を生成することを含む。
【0111】
【化13】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環aは、炭素原子間3重結合を有する環を示す。〕
【0112】
式(5)において、S及びLの定義、例及び好ましい例は、上記式(4)と同じである。
【0113】
環aは、炭素原子間3重結合を有する環を示す。環aは、単環、又は単環と他の環との縮合環である。環aは、置換基を有していてもよい。単環としては、同素環、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含む複素環が好ましい。より好ましくは、単環は、同素環、又は酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される1種以上を含む複素環である。単環としては、7~10員の単環が好ましく、7~9員の単環がより好ましい。単環としては、非芳香族性の単環が好ましい。
【0114】
環aが縮合環である場合、単環と縮合される他の環としては、例えば、シクロアルカン、アレーン、複素環が挙げられる。シクロアルカン、アレーン、複素環の定義、例及び好ましい例は、環Aについての縮合環における他の環のものと同じである。
【0115】
環aが有していてもよい置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0116】
好ましくは、環aは、7~9員の単環、又は7~9員の単環と他の環との縮合環である。このような環aの好適な例は、以下である(例、Org.Biomol.Chem.2013,11,6439;Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,1190;J.Am.Chem.Soc.2004,126,15046;J.Am.Chem.Soc.2008,130,11486;Chem.Commun.2010,46,97)。
【0117】
【化14】
〔式中、
X及びYの一方は、CHを示し、他方はCH、NH、O、又はSを示し、
Zは、CH、NH、O、又はSを示し、
V及びWは、同一又は異なって、CH、NH、O、又はSを示す。〕
【0118】
好ましくは、上記式(5)で表される、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質は、下記式(5’)で表される、炭素原子間3重結合を有する8員環が付加されている目的物質である。
【0119】
【化15】
【0120】
〔式中、
Sは、目的物質を示し、
Lは、結合又は2価の基を示し、
環a’は、炭素原子間3重結合を有する8員環を示し、
X及びYの一方は、CHを示し、他方はCH、NH、O、又はSを示し、
~Rは、同一又は異なって、水素原子、又は置換基を示し、
あるいは、R及びRは一緒になって、置換基を有する環を形成していてもよく、R及びRは一緒になって、置換基を有する環を形成していてもよく、
環A’における実線及び破線からなる二重線は、単結合又は二重結合を示す。〕
【0121】
式(5’)において、S、L、X、Y、及びR~Rの定義、例及び好ましい例は、式(4-2)のものと同じである。
【0122】
環a’は、R~Rに加えて、追加置換基を有していてもよい。このような追加置換基は、上述したフェニルアラニンの誘導体が有してもよい置換基と同様であり、好ましい範囲も同様である。追加置換基の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個である。
【0123】
Fcタンパク質誘導体の製造方法における反応は、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質、及びアジド基含有Fcタンパク質と共存させることにより進行させることができる(図1の反応Bを参照)。これは、所定の環中の炭素原子間3重結合とアジド基が非酵素的に反応するためである。このような反応は、銅触媒の存在下又は非存在下で行うことができる。このような反応は、Huisgen反応としても知られている。銅触媒は、反応効率を高めるために使用される。しかし、銅触媒の細胞毒性や生成物における残留を回避できることから、銅触媒の非存在下で反応を行うことが好ましい。環aとして7~9員の単環、又は7~9員の単環と他の環との縮合環を用いる場合、銅触媒の非存在下で反応を効率的に行うことができる。このような反応は、Strain-promoted azide-alkyne cyclization(SPAAC)反応としても知られている(例、Org.Biomol.Chem.2013,11,6439;Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,1190;J.Am.Chem.Soc.2004,126,15046;J.Am.Chem.Soc.2008,130,11486;Chem.Commun.2010,46,97)。本発明では、銅触媒の非存在下でも極めて高い反応効率が確認されている(例、実施例を参照)。
【0124】
Fcタンパク質誘導体の製造方法は、目的物質を、炭素原子間3重結合を有する環を含む試薬と反応させて、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を生成することをさらに含んでいてもよい。このような試薬としては、例えば、マレイミド試薬、ハロゲン化マレイミド試薬、アルキルチオマレイミド試薬、フルオロベンゼン試薬が挙げられる。
【0125】
反応で用いられる、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質、及びアジド基含有Fcタンパク質の量は適宜設定することができる。アジド基含有Fcタンパク質に対して、例えば1~100当量、好ましくは1~20当量、より好ましくは1.5~10当量の、より好ましくは2~5当量の、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を用いることができる。
【0126】
反応は、適切な緩衝液等の水系媒体中で行うことができる。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液、HEPES緩衝液、Tris-HClなどが挙げられる。
【0127】
反応温度、反応pHおよび反応時間などの反応条件については、タンパク質の変性を回避できる穏やかな条件を適宜設定することができる。反応温度は、例えば、約4℃~40℃、好ましくは約15℃~37℃である。反応pHは、例えば、約6~9、好ましくは約6.5~8.5であり、より好ましくは7~8である。反応時間は、反応温度及び反応pHの条件、並びに生成物の所望される量に応じて適宜設定することができる。
【0128】
本発明はまた、以下の工程を含む、Fcタンパク質誘導体の製造方法を提供する:
(A)フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質と反応させて、アジド基含有Fcタンパク質を生成すること;並びに
(B)炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質を、アジド基含有Fcタンパク質と反応させて、Fcタンパク質誘導体を生成すること。
【0129】
工程(A)は、本発明に係るアジド基含有Fcタンパク質の製造方法と同様にして行うことができる(図1の反応Aを参照)。工程(A)における、フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素、ロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体、リジン残基又はアルギニン残基をN末端に有するFcタンパク質、及びアジド基含有Fcタンパク質の定義、例及び好ましい例は、上述したとおりである。
【0130】
工程(B)は、本発明に係るFcタンパク質誘導体の製造方法と同様にして行うことができる(図1の反応Bを参照)。工程(B)における、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質、アジド基含有Fcタンパク質、及びFcタンパク質誘導体の定義、例及び好ましい例は、上述したとおりである。
【0131】
工程(A)及び(B)は、別々に行うことができる。あるいは、工程(A)及び(B)は、同時に行こともできる。工程(A)及び(B)の反応は、いずれも水系媒体中で、タンパク質の変性を回避できる穏やかな条件で行うことができる点で共通するためである。したがって、工程(A)及び(B)を含む本発明の方法は、ワンポット反応で行われてもよい。
【0132】
本発明のFcタンパク質誘導体は、例えば、医薬又は試薬として有用である。したがって、本発明のFcタンパク質誘導体は、医薬組成物の形態で提供されてもよい。このような医薬組成物は、本発明のFcタンパク質誘導体に加えて、医薬上許容され得る担体を含んでいてもよい。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。本発明のFcタンパク質誘導体は、Fcタンパク質部分を有することから、ヒト等の動物の体内において高い安定性を有することができる。本発明のFcタンパク質誘導体はまた、Fcタンパク質との融合に加えて、さらなる安定性を実現する任意の修飾(例、PEG化)を有していてもよい。
【0133】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量の有効成分を溶解させた液剤、有効量の有効成分を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の有効成分を懸濁させた懸濁液剤、有効量の有効成分を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0134】
本発明の医薬組成物は、非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与)に好適である。このような非経口的な投与に好適な医薬組成物としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0135】
本発明の医薬組成物の投与量は、有効成分の種類・活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、適宜設定することができる。
【0136】
(3.16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを有するFcタンパク質)
本発明は、16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーをN末端に有する、Fcタンパク質を提供する。
【0137】
上記ペプチドリンカーの定義、例及び好ましい例は、16個のアミノ酸残基からなるものである点を除き、上記(1.アジド基含有Fcタンパク質、及びその製造方法)で述べたものと同じである。
【0138】
Fcタンパク質の定義、例及び好ましい例は、上記(1.アジド基含有Fcタンパク質、及びその製造方法)で述べたものと同じである。
【0139】
本発明はまた、N末端アミノ酸残基がリジン残基又はアルギニン残基である16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを介して、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体残基をN末端に有する、アジド基含有Fcタンパク質を提供する。
【0140】
本発明はさらに、上記アジド基含有Fcタンパク質の製造方法を提供する。本製造方法は、フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素を用いて、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体を、前記ペプチドリンカーをN末端に有するFcタンパク質と反応させて、前記アジド基含有Fcタンパク質を生成することを含む。
【0141】
上記アジド基含有Fcタンパク質及びその製造方法における上記ペプチドリンカーの定義、例及び好ましい例は、16個のアミノ酸残基からなるものである点を除き、上記(1.アジド基含有Fcタンパク質、及びその製造方法)で述べたものと同じである。
【0142】
上記アジド基含有Fcタンパク質及びその製造方法における、Fcタンパク質、アジド基を含有するフェニルアラニン誘導体、及びアジド基含有Fcタンパク質の定義、例及び好ましい例は、上記(1.アジド基含有Fcタンパク質、及びその製造方法)で述べたものと同じである。
【0143】
上記アジド基含有Fcタンパク質の製造方法で用いられる、フェニルアラニルtRNA、アミノアシルtRNA合成酵素、及びロイシル/フェニルアラニルtRNA転移酵素の定義、例及び好ましい例は、上記(1.アジド基含有Fcタンパク質、及びその製造方法)で述べたものと同じである。上記アジド基含有Fcタンパク質の製造方法は、上記(1.アジド基含有Fcタンパク質、及びその製造方法)で述べたものと同様にして行うことができる。
【実施例
【0144】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0145】
実施例1:N末端にシステイン残基を有するFcタンパク質(Cys-Fc)の調製
HEK293細胞にてCys-Fc(配列番号1のアミノ酸配列からなるヒトIgG1由来ポリペプチド)の発現を行なった。HEK293細胞を、pSecTag2/HygroA(Thermofisher Scientific)に配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子を導入した発現ベクターでOpti-MEMI(Thermofisher Scientific)培地中で形質転換した。配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端にリーダー配列〔METDTLLLWVLLLWVPGSTG(配列番号3)〕が付加されたタンパク質をコードする。形質転換細胞から分泌されるタンパク質は、リーダー配列直後のシグナル切断部位で切断されるので、培養上清中にはCys-Fc(配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド)が分泌される。得られた形質転換細胞を、37℃、CO濃度8%の条件下で5日間回転培養(125rpm)した。遠心分離により培養上清を取得し、HiTrap Protein A FF (1mL,GE Healthcare)にて精製した。その溶出液をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel、還元条件下、Bio-safe CBB G-250染色)で分析した結果を図2に示す。また、得られたCys-Fcを、以下の手順によりESI-TOFMS分析した。得られたCys-FcをPNGase F(NEW ENGLAND BioLabs,カタログ番号P0704)を用い、製造者プロトコルに従って糖鎖切断を行なった。Cys-Fc(40μg)の溶液にキット添付のGlycoBuffer2(10x、8μL)を添加し、水を添加して80μLとした。ここに、水で10倍希釈したPNGase F溶液を4μL加え、混合した後に37℃で24時間インキュベートした。ここに終濃度0.2%となるようTFA(トリフルオロ酢酸)を加え、37℃で30分間インキュベートした後、これを限外濾過(Vivaspin500,10k MWCO)を用いて20mM 酢酸アンモニウム(pH6.5)へ緩衝液置換した。その溶液5μLに2mM TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)水溶液(3.5μL)と水(11.5μL)を加えて混合し、室温にて1時間静置した後にESI-TOFMS分析した。結果を以下に示す。
Cys-Fcの分子量:
理論値:24836.9
実測値:24834.5
【0146】
実施例2:ペプチドリンカーチオエステルの調製
下記に示したペプチドリンカーチオエステルは、全て同様の方法にて調製した。Fmoc法による2-クロロトリチル樹脂を用いたペプチド固相合成によって、N末端Boc保護の保護ペプチドを調製し、20%HFIP(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール)/ジクロロメタン溶液にて保護ペプチドを切り出した。これを濃縮し、ジクロロメタン溶液とした上で、HOSu(N-ヒドロキシスクシンイミド)(10モル当量)、DIPCI(N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド)(10モル当量)、チオフェノール(30モル当量)、DIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)(10モル当量)を加え、室温にて2晩撹拌した。反応混合物を水で洗浄した後に濃縮した。この反応混合物をTFA/TIS(トリイソプロピルシラン)/水=95/2.5/2.5に溶解させ、室温にて3時間撹拌した。反応混合物を濃縮した後に、ジクロロメタンと水を加えて混合し、水層を分取HPLCにて精製し、ペプチドリンカーチオエステルを取得した。
【0147】
ペプチドリンカーチオエステル
Fc(4)用リンカー: KTHT(配列番号4)-SPh
Fc(8)用リンカー: KSSDKTHT(配列番号5)-SPh
Fc(12)用リンカー: KVEPKSSDKTHT(配列番号6)-SPh
Fc(13)用リンカー: KKVEPKSSDKTHT(配列番号7)-SPh
Fc(16)用リンカー:KVDKKVEPKSSDKTHT(配列番号8)-SPh
(Phは、フェニルを示し、SPhは、フェニルチオを示す)
【0148】
実施例3:N末端にリジン残基を有するFcタンパク質の調製
Fcタンパク質は、特許文献(米国特許第7,404,956号明細書)および非特許文献(Proc.Jap.Acad.Ser.B,2011,603)に従って調製した。1.0mM TCEP-HClと10mM MPAA(4-メルカプトフェニル酢酸)を含む50mM MES緩衝液(pH6.5)に、0.02mM Cys-Fc(実施例1で調製したもの)と0.4mM ペプチドリンカーチオエステル(実施例2で調製したもの)を溶解し、25℃にて1晩混合した。反応液をVivaspin 500(10k MWCO, Sartorius)にて20mM 酢酸緩衝液(pH5.5)に置換し、Resource S(1mL,GE Healthcare)にて精製した。
【0149】
実施例3で得られた、N末端にリジン残基を有するFcタンパク質は、以下のとおりである。
Fc(4):KTHT(配列番号4)-Fcタンパク質(配列番号1)
Fc(8):KSSDKTHT(配列番号5)-Fcタンパク質(配列番号1)
Fc(12):KVEPKSSDKTHT(配列番号6)-Fcタンパク質(配列番号1)
Fc(13):KKVEPKSSDKTHT(配列番号7)-Fcタンパク質(配列番号1)
Fc(16):KVDKKVEPKSSDKTHT(配列番号8)-Fcタンパク質(配列番号1)
(ペプチドリンカーとFcタンパク質はアミド結合を介して結合している。ペプチドリンカーチオエステルとFcタンパク質のN末端システイン残基のアミノ基とが反応して、アミド結合を生じるためである。)
【0150】
実施例4:酵素およびtRNAの調製
N末端にリジン残基を有するFcタンパク質とフェニルアラニン誘導体との反応に用いる二種の酵素およびtRNAを調製した。具体的には、Leucyl/phenylalanyl-tRNA-protein transferase(L/F-Transferase)は、非特許文献(ChemBioChem 2006,1676;J.Biol.Chem.1995,20631)記載の方法で調製した。Double-mutated ARSは、非特許文献(ChemBioChem 2009,2460;J.Am.Chem.Soc.2002,5652;ChemBioChem 1991,99)に従って調製した。tRNAPheは、非特許文献(ChemBioChem 2009,2460;Nucleic Acids Res 1996,907)に従って調製した。
【0151】
実施例5:Fcタンパク質のN末端配列による反応性の違い
(5-1)炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質の調製
PEGを目的物質として、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質(PEG-DIBAC)を以下の手順で調製した。DIBAC acid(5-(5,6-Dihydro-11,12-didehydrodibenzo[b,f]azocin-5(6H)-yl)-5-oxopentanoic acid)16.1mgをジクロロメタン1mLに溶解し、EDC-HCl 14.7mg、HOBt-HO 11.7mg、ジイソプロピルエチルアミン 17.5μLを加え、メトキシポリエチレングリコールプロピルアミン(SUNBRIGHT MEPA-20H)102.2mgを加え、室温にて一晩混合した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水にて洗浄した後に溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、PEG-DIBACを94mg取得した。
【0152】
(5-2)アジド基含有Fcタンパク質の調製
反応容器に、溶液A(500mM HEPES、pH7.6、100mM MgCl、10mMスペルミジン)4μLと溶液B(25mM ATP、200mM KCl)4μLを取り、ここにtRNAPhe水溶液(0.10 O.D./μL)2μL、double-mutant aminoacyl-tRNA synthetase溶液(17.8μM)4.5μL、L/F-transferase(39μM)2.1μL、4-アジドフェニルアラニン(1mM)14.5μL、水3.4μLを加え、混合した。ここに実施例3で得られた各種鎖長の上記ペプチドリンカーを有するFcタンパク質溶液(1.2~2.3mg/mL)を5.5μL加えて混合し、37℃にて5時間振とうした。これにより、4-アジドフェニルアラニンと上記Fcタンパク質とが反応したアジド基含有Fcタンパク質が得られた。
【0153】
(5-3)目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の調製
(5-2)で得られた反応液に(5-1)で得られたPEG-DIBACのDMSO溶液(2mM)30μLを加え、25℃にて一晩振とうした。これにより、アジド基含有Fcタンパク質とPEG-DIBACとが反応してPEG化Fcタンパク質が生成した(DIBACに対するアジド基の付加様式は下記式に示す2とおりが考えられる)。
【0154】
【化16】
【0155】
得られた反応混合物をProtein A(Aspire Protein A Tips,Thermo)にて精製し、溶出液をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel,4~20%,BIO-RAD)にて分析した結果を、図3に示す。
【0156】
その結果、N末端にあるペプチドリンカーの長さが4~16アミノ酸残基長であるFcタンパク質はいずれもフェニルアラニン誘導体(4-アジドフェニルアラニン)との反応、その後のPEG-DIBACとの反応の全体をとおして70%以上の高い変換率を示しつつも、ペプチドリンカーの長さにより変換率が異なる傾向が認められた(図3)。N末端にあるペプチドリンカーの長さが16アミノ酸残基長であるFc(16)は90%という極めて高い変換率を示した(図3)。
【0157】
比較例1:S-アルキル化反応による、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法
目的物質として、配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド(Exenatide-Cys:Exenatideというペプチド医薬のC末端にシステインを付加したペプチド)を、ペプチド固相合成法により調製した。
【0158】
反応容器に、溶液A(500mM HEPES、pH7.6、100mM MgCl、10mMスペルミジン)8μLと溶液B(25mM ATP、200mM KCl)8μLを取り、ここにtRNAPhe水溶液(0.10 O.D./μL)4μL、double-mutant aminoacyl-tRNA synthetase溶液(17.8μM) 9μL、L/F-transferase (39μM) 4.1μL、4-(クロロアセトアミド)フェニルアラニン(11mM) 29μL、水 9.5μLを加え、混合した。ここにFc(16)溶液(2.5mg/mL)を8.3μL加えて混合し、37℃にて5時間振とうした。これにより、4-(クロロアセトアミド)フェニルアラニンとFc(16)とが反応したクロロアセトアミド基含有Fcタンパク質が得られた。
【0159】
【化17】
【0160】
得られた反応混合物をProtein A(Aspire Protein A Tips,Thermo)にて精製し、溶出液を0.1M HEPES buffer,pH 7.5に緩衝液置換し、限外濾過にて25μLに濃縮した。ここにペプチド(配列番号9)の水溶液(18mM)を5μL(クロロアセトアミド基含有Fcタンパク質の量に対して100当量のペプチド(配列番号9)を含有)を加えて混合し、25℃にて4日間振とうした。これにより、クロロアセトアミド基含有Fcタンパク質とペプチド(配列番号9)とが反応した、ペプチド(配列番号9)が付加されたFcタンパク質誘導体が得られた。
【0161】
【化18】
【0162】
得られた反応混合物をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel,4~20%,BIO-RAD;還元条件下;SYPRO(登録商標)Rubyにより染色)にて分析した結果を、図4に示す。
【0163】
その結果、S-アルキル化反応によるFcタンパク質の反応効率は、Fcタンパク質の量に対して約100当量のペプチドを用いた場合、49%であった(図4)。
【0164】
実施例6:SPAAC反応による、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法
(6-1)アジド基含有Fcタンパク質の調製
反応容器に、溶液A(500mM HEPES、pH7.6、100mM MgCl、10mMスペルミジン)16μLと溶液B(25mM ATP、200mM KCl)16μLを取り、ここにtRNAPhe水溶液(0.10 O.D./μL)8μL、double-mutant aminoacyl-tRNA synthetase溶液(17.8μM) 18μL、L/F-transferase(39μM)8.2μL、4-アジドフェニルアラニン(11mM)58.2μL、水19μLを加え、混合した。ここにFc(16)溶液(2.5mg/mL)を16.6μL加えて混合し、37℃にて6時間振とうした。これにより、下記式に示す4-アジドフェニルアラニンとFc(16)とが反応したアジド基含有Fcタンパク質が得られた。
【0165】
【化19】
【0166】
得られた反応混合物をProtein A(Aspire Protein A Tips,Thermo)にて精製し、溶出液を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に緩衝液置換し、限外濾過にて65μLに濃縮した。アジド基含有Fcタンパク質の溶液をA280法により定量したところ、0.49mg/mLであった。
【0167】
また、ここで用いたFc(16)、およびここで調製したアジド基含有Fcタンパク質を、以下の手順によりESI-TOFMS分析した。Fc(16)およびアジド基含有Fcタンパク質をそれぞれPNGase F(NEW ENGLAND BioLabs,カタログ番号P0704)を用い、製造者プロトコルに従って糖鎖切断を行なった。それぞれの化合物(40μg)の溶液にキット添付のGlycoBuffer2(10x、8μL)を添加し、水を添加して80μLとした。ここに、水で10倍希釈したPNGase F溶液を4μL加え、混合した後に37℃で24時間インキュベートした。ここに終濃度0.2%となるようTFAを加え、37℃で30分間インキュベートした後、これを限外濾過(Vivaspin500,10k MWCO)を用いて20mM 酢酸アンモニウム(pH6.5)へ緩衝液置換した。その溶液5μLに2mM TCEP水溶液(3.5μL)と水(11.5μL)を加えて混合し、室温にて1時間静置した後にESI-TOFMS分析した。結果を以下に示す。
Fc(16)の分子量:
理論値:26645.9
実測値:26643.8
アジド基含有Fcタンパク質の分子量:
理論値:26834.1
(アジド基還元体の理論値:26808.1)
実測値:26805.7
【0168】
(6-2)炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質の調製
配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチドを目的物質として、炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質(ペプチド-DBCO付加体)を以下の手順で調製した。配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド7.6mgに、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)818μLを加え、ここにDBCO(ジベンゾシクロオクチン)-マレイミド(Tokyo Chemical Industries,40mM in DMSO)88μLを加えて混合し、25℃にて4時間振とうした。これを限外濾過(Amicon Ultra-4, 3k MWCO)にて濃縮と水希釈を4回繰り返し、得られた水溶液を凍結乾燥してペプチド-DBCO付加体を7.1mg取得した。
ESI-MS(positive mode) m/z;1572.5、1179.9、944.0、786.9
【0169】
(6-3)目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の調製
(6-1)で取得したアジド基含有Fcタンパク質の溶液4μLに、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)7.6μLと、(6-2)で取得した0.10mMペプチド(配列番号9)-DBCO付加体溶液1.5μL(アジド基含有Fcタンパク質の量に対して2当量のペプチド(配列番号9)-DBCO付加体を含有)を加え、25℃にて一晩振とうした。これにより、アジド基含有Fcタンパク質とペプチド(配列番号9)-DBCO付加体とが反応した、ペプチド(配列番号9)が付加されたFcタンパク質誘導体が得られた(DBCOに対するアジド基の付加様式は下記式に示す2とおりが考えられる)。
【0170】
【化20】
【0171】
得られた反応混合物をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel,4~20%,BIO-RAD;還元条件下;SYPRO(登録商標)Rubyにより染色)にて分析した結果を、図5に示す。また、得られたペプチド(配列番号9)が付加されたFcタンパク質誘導体を、以下の手順によりESI-TOFMS分析した。得られたペプチド(配列番号9)が付加されたFcタンパク質誘導体をPNGase F(NEW ENGLAND BioLabs,カタログ番号P0704)を用い、製造者プロトコルに従って糖鎖切断を行なった。ペプチド(配列番号9)が付加されたFcタンパク質誘導体(40μg)の溶液にキット添付のGlycoBuffer2(10x、8μL)を添加し、水を添加して80μLとした。ここに、水で10倍希釈したPNGase F溶液を4μL加え、混合した後に37℃で24時間インキュベートした。ここに終濃度0.2%となるようTFAを加え、37℃で30分間インキュベートした後、これを限外濾過(Vivaspin500, 10k MWCO)を用いて20mM 酢酸アンモニウム(pH 6.5)へ緩衝液置換した。その溶液5μLに2mM TCEP水溶液(3.5μL)と水(11.5μL)を加えて混合し、室温にて1時間静置した後にESI-TOFMS分析した。結果を以下に示す。
ペプチド(配列番号9)が付加されたFcタンパク質誘導体の分子量:
理論値:31551.3
(加水分解体の理論値:31569.3)
実測値:31567.3
【0172】
その結果、SPAAC反応によるアジド基含有Fcタンパク質の反応効率は、アジド基含有Fcタンパク質の量に対して2当量という少量のペプチドを用いた場合であっても、100%という極めて高い値を示した(図5)。
【0173】
実施例7:培養細胞を用いた、N末端にリジン残基を有するFcタンパク質(Lys-Fc)の調製
(7-1)YDK0107株の構築
国際公開第2014/126260号に記載の、生理活性ペプチドであるTeriparatideの分泌発現プラスミドpPKK50TEV-Teriを用いて、国際公開第2002/081694号に記載のC.glutamicum YDK010株を形質転換した。なお、pPKK50TEV-Teriは生理活性ペプチドであるTeriparatideの分泌発現用ベクターであって、C.glutamicum ATCC13869株のcspB遺伝子のプロモーター領域、同プロモーターの下流に発現可能に連結された同株のCspBシグナルペプチド、同株の成熟CspBのN末端50アミノ酸残基、ProTEVプロテアーゼの認識配列ENLYFQ(配列番号10)、およびTeriparatideの融合タンパク質(以下、CspB50TEV-Teriと表記する)をコードする塩基配列を有するプラスミドである(国際公開第2014/126260号)。C.glutamicum YDK010株は、C.glutamicum AJ12036(FERM BP-734)の細胞表層タンパク質CspBの欠損株である(国際公開第2002/081694号)。得られた形質転換体を、25mg/Lのカナマイシンを含むCMDex寒天培地(グルコース 5g、硫酸マグネシウム七水和物 0.4g、硫酸鉄七水和物 0.01g、硫酸マンガン五水和物 0.01g、リン酸二水素カリウム 1g、ビオチン 10μg、DifcoTM Select Soytone(Becton Dickinson) 10g、BactoTM Yeast Extract(Becton Dickinson) 10g、尿素 3g、大豆塩酸加水分解液(全窒素量 1.2g)、寒天抹 20g、水で1LにしてpH6.5に調整)上で30℃で培養してコロニーを形成させた。
【0174】
培養後、phoS遺伝子に変異が導入された自然変異株を選択し、YDK0107株と命名した。
【0175】
(7-2)pPK6ベクターの構築
(a)pPK4ベクター中のNaeI認識サイトを改変したベクター(pPK5)の構築
特開平9-322774号公報に記載のpPK4の中には、制限酵素NaeIの認識配列が一ヵ所存在する。この配列を改変するため、NaeI認識配列gccggcをgcaggcに改変した配列とpPK4におけるその周辺配列を含む配列番号11および配列番号12に記載のプライマーを合成した。次に、pPK4を鋳型として、配列番号11と配列番号12に記載のプライマーを用いて、約5.6kbpのプラスミド全長をPCR法によって増幅した。PCR反応にはPyrobest(登録商標) DNA polymerase(Takara Bio)を用い、反応条件は95℃ 5分、(95℃ 30秒、55℃ 1分、72℃ 12分)x12cycleで行った。
【0176】
次に、得られたPCR産物を制限酵素DpnIで処理し、メチル化されている鋳型DNAを消化した。Dpn I消化後に得られた非メチル化プラスミドを、E.coli JM109(Takara Bio)のコンピテントセルに導入し、プラスミドを取得した。塩基配列決定の結果、予想通りNaeI認識サイトが改変されたプラスミドが構築されていることを確認した。塩基配列の決定はBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)と3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて行った。こうして得られた、pPK4ベクター中のNaeI認識サイトを改変したベクターをpPK5と名付けた。
【0177】
(b)pPK5ベクターにtatABC遺伝子を搭載したベクター(pPK5-tatABC)の構築
次に、国際公開第2005/103278号に記載のTat系分泌装置の増幅プラスミドであるpVtatABCを鋳型にして、配列番号13および配列番号14に記載のプライマーを用いて、tatABC遺伝子をコードする配列を含む約3.7kbpのDNA断片をPCR法によって増幅した。配列番号14に記載のプライマーには制限酵素KpnIとApaIの認識配列がデザインしてある。PCRにはPyrobest(登録商標) DNA polymerase(Takara Bio)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。このDNA断片の末端をBKL Kit(Takara Bio)を用いてリン酸化し、別途KpnI処理し、さらにBKL Kit(TakaraBio)を用いて平滑末端化し、さらにCIAP(Takara Bio)を用いて末端を脱リン酸化処理したpPK5ベクターに挿入することによって、tatABC遺伝子搭載ベクターであるpPK5-tatABCを構築した。ライゲーション反応にはDNA Ligation Kit Ver.2.1(Takara Bio)を用い、反応条件は業者の推奨するプロトコルに従った。挿入断片の塩基配列決定の結果、予想通りの遺伝子が挿入されていることを確認した。塩基配列の決定はBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)と3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて行った。
【0178】
(c)pPK5-tatABCベクター中のtatABC遺伝子内KpnIおよびXbaI認識サイトを改変したベクター(pPK6)の構築
前項で構築したpPK5-tatABCプラスミド中のtatABC遺伝子領域の中には、制限酵素KpnIおよびXbaIの認識配列が1ヵ所ずつ存在する。これらの配列を改変するため、KpnI認識配列ggtaccをggaaccに改変した配列とpPK5-tatABCにおけるその周辺配列を含む配列番号15および配列番号16に記載のプライマーと、XbaI認識配列tctagaをtgtagaに改変した配列とpPK5-tatABCにおけるその周辺配列を含む配列番号17および配列番号18に記載のプライマーを合成した。
【0179】
まず、pPK5-tatABCを鋳型として、配列番号15および配列番号16に記載のプライマーを用いて、tatABC遺伝子領域内のKpnI認識サイトを改変するよう約9.4kbpのプラスミド全長をPCR法によって増幅した。PCR反応にはPyrobest(登録商標) DNA polymerase(Takara Bio)を用い、反応条件は95℃ 5分、(95℃ 30秒、55℃ 1分、72℃ 12分)x12cycleで行った。
【0180】
次に、得られたPCR産物を制限酵素DpnIで処理し、メチル化されている鋳型DNAを消化した。DpnI消化後に得られた非メチル化プラスミドを、E.coli JM109(Takara Bio)のコンピテントセルに導入し、プラスミドを取得した。こうしてtatABC遺伝子領域内のKpnI認識サイトを改変したベクターであるpPK5-tatABCΔKpnIを構築した。
【0181】
次に、pPK5-tatABCΔKpnIを鋳型として、配列番号17および配列番号18に記載のプライマーを用いて、tatABC遺伝子領域内のXbaI認識サイトを改変するよう約9.4kbpのプラスミド全長をPCR法によって増幅した。PCR反応にはPyrobest(登録商標) DNA polymerase(Takara Bio)を用い、反応条件は95℃ 5分、(95℃ 30秒、55℃ 1分、72℃ 12分)x12cycleで行った。
【0182】
次に、得られたPCR産物を制限酵素DpnIで処理し、メチル化されている鋳型DNAを消化した。DpnI消化後に得られた非メチル化プラスミドを、E.coli JM109(Takara Bio)のコンピテントセルに導入し、プラスミドを取得した。こうしてtatABC遺伝子領域内のXbaI認識配列を改変したベクターであるpPK5-tatABCΔKpnIΔXbaIを取得した。塩基配列決定の結果、予想通りの遺伝子が構築されていることを確認した。塩基配列の決定はBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)と3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて行った。
【0183】
こうして得られた、pPK4ベクターを基にしたtatABC遺伝子搭載ベクターをpPK6と名付けた。
【0184】
(7-3)N末端にリジン残基を有するFcタンパク質(Lys-Fc)の調製
(7-2)に記されているpPK6にLys-Fcの遺伝子(配列番号19および配列番号20)を導入した発現ベクターを作製し、これを用いて(7-1)で得られたCorynebacterium glutamicum YDK0107株を形質転換した。得られた各形質転換体を、25mg/Lのカナマイシンを含むMMTG液体培地(グルコース 120g、硫酸マグネシウム七水和物 3g、硫酸アンモニウム 30g、リン酸二水素カリウム 1.5g、硫酸鉄七水和物 0.03g、硫酸マンガン五水和物 0.03g、チアミン塩酸塩 0.45mg、ビオチン 0.45mg、DL-メチオニン 0.15g、大豆塩酸加水分解液(全窒素量 0.2g)、炭酸カルシウム 50g、水で1LにしてpH7.0に調整)で30℃、72時間培養した。培養終了後、各培養液を遠心分離して培養上清を取得した。
【0185】
このFcタンパク質を含む培養上清(9mL弱)をMILLEX-GVフィルター(0.22μm,φ13mm)にて濾過し、これを限外濾過膜(Amicon Ultra-4,10k MWCO)で遠心濃縮しつつPBSの差し液により緩衝液置換した。その濃縮液160μLのうち、100μLをもちいてrefoldingを行なった。濃縮液に8M Guanidine-HCl in 20mM sodium phosphate,pH8.0(300μL)を加えて混合し、37℃にて1.5h撹拌した。ここに200mM DTT in 100mM Tris-HCl,pH8.4(6μL)を加えて混合し、37℃にて更に1.5h撹拌した。この混合液を5℃に冷却し、冷却したrefolding premix(表1)全量を加えて混合し、冷蔵室内にて一晩静置した。Refolding液を透析膜(SpectroPor社,Float-A-Lyzer G2 5mL,3.5-5k MWCO)にてPBSへと透析し、更に限外濾過膜(Amicon Ultra-4,10k MWCO)にて濃縮し、refolding混合物300μLを取得した。この取得物をProtein A(Aspire Protein A Tips,Thermo)にて精製し、溶出液を限外濾過膜(Vivaspin 500,10k MWCO)にて濃縮およびPBS置換して、N末端にリジン残基を有するFcタンパク質(Lys-Fc)を100μL取得した。A280法による定量の結果、取得された溶液中のFcタンパク質を0.69mg/mLと算出した。そのSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel;非還元条件下;Bio-safe CBB G-250染色)の結果を図6に示した。
【0186】
【表1】
【0187】
以上より、培養細胞を用いて、N末端にリジン残基を有するFcタンパク質を調製できることが確認された。
【0188】
実施例8:SPAAC反応による、非天然環状ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法
(8-1)炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質(非天然環状ペプチド-DBCO付加体)の調製
【0189】
【化21】
【0190】
目的物質としての上記式の非天然環状ペプチド18.3mgを水913μLに溶解し、この溶液663μLに対してDBCO(ジベンゾシクロオクチン)-マレイミド(Tokyo Chemical Industries,40mM in DMSO)70.4μLおよびDMSO150.6μLを加えて混合し、室温にて20時間振とうした。この反応混合物を分取HPLC(Inertsil ODS-3,φ20×250mm,溶離液A;100mM酢酸アンモニウム水溶液,溶離液B;アセトニトリル,33%B~53%Bの直線的グラジエント勾配)にて精製し、得られたフラクションを凍結乾燥して下記式の非天然環状ペプチド-DBCO付加体を9.8mg取得した。ESI-TOFMS(positive mode) m/z;1134.5
【0191】
【化22】
【0192】
(8-2)目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の調製
アジド基含有Fcタンパク質の溶液6.6μL(アジド基含有Fcタンパク質50μg含有)に、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)24.4μLと、2.5mMの(8-1)で得られた非天然環状ペプチド-DBCO付加体の水溶液7.4μLを加え、25℃にて一晩振とうした。これにより、アジド基含有Fcタンパク質と非天然環状ペプチド-DBCO付加体とが反応し、非天然環状ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体が得られた(DBCOに対するアジド基の付加様式は下記式に示す2とおりが考えられる)。
【0193】
【化23】
【0194】
得られた反応混合物をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel,4~20%,BIO-RAD;還元条件下;Coomassie Brilliant Blue G-250 Stainにより染色)にて分析した結果を、図7に示す。この結果から、本ペプチドとアジド基含有Fcタンパク質のSPAAC反応が、極めて高い反応効率にて進行することが分かった。
【0195】
この反応混合物を限外濾過(Vivaspin500, 10k MWCO)にて濃縮と20mM酢酸アンモニウム(pH 6.5)希釈を5回繰り返し、緩衝液置換した。この溶液14μLに7mM TCEP水溶液(4μL)とアセトニトリル(14μL)を加えて混合し、室温にて30分間静置した後にESI-TOFMS分析した。結果を以下に示す。
非天然環状ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体(G0糖鎖付き)の分子量:
理論計算値 :29413.7
ESI-TOFMS測定値:29412.5
【0196】
実施例9:SPAAC反応による、非天然直鎖ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法
(9-1)炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質(非天然直鎖ペプチド-DBCO付加体)の調製
【0197】
【化24】
【0198】
目的物質としての上記式の非天然直鎖ペプチド16.5mgを水826μLに溶解し、この溶液576μLに対してDBCO(ジベンゾシクロオクチン)-マレイミド(Tokyo Chemical Industries,40mM in DMSO)26.4μLおよびDMSO165.6μLを加えて混合し、室温にて20時間振とうした。ここに更にDBCO(ジベンゾシクロオクチン)-マレイミド(Tokyo Chemical Industries,40mM in DMSO)8.8μLおよびDMSO100μLを加えて混合し、室温にて3.5時間振とうした。この反応混合物を分取HPLC(Inertsil ODS-3,φ20×250mm、溶離液A:100mM酢酸アンモニウム水溶液、溶離液B:アセトニトリル、45%B~65%Bの直線的グラジエント勾配)にて精製し、得られたフラクションを凍結乾燥して下記式の非天然直鎖ペプチド-DBCO付加体を4.5mg取得した。ESI-TOFMS(positive mode) m/z;2060.9
【0199】
【化25】
【0200】
(9-2)目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の調製
アジド基含有Fcタンパク質の溶液6.6μL(アジド基含有Fcタンパク質50μg含有)に、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)4.8μLおよび水20μLと、2.5mMの(9-1)で得られた非天然直鎖ペプチド-DBCO付加体の溶液7.4μLを加え、25℃にて19時間振とうした。その後更に水20μLとDMSO6μLを加えて25℃にて4時間振とうした。これにより、アジド基含有Fcタンパク質と非天然直鎖ペプチド-DBCO付加体とが反応し、非天然直鎖ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体が得られた(DBCOに対するアジド基の付加様式は下記式に示す2とおりが考えられる)。
【0201】
【化26】
【0202】
得られた反応混合物をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel,4~20%,BIO-RAD;還元条件下;Coomassie Brilliant Blue G-250 Stainにより染色)にて分析した結果を、図8に示す。この結果から、本ペプチドとアジド基含有Fcタンパク質のSPAAC反応が、極めて高い反応効率にて進行することが分かった。この反応混合物を限外濾過(Vivaspin500, 10k MWCO)にて濃縮と20mM酢酸アンモニウム(pH 6.5)希釈を5回繰り返し、緩衝液置換した。この溶液14μLに7mM TCEP水溶液(4μL)とアセトニトリル(14μL)を加えて混合し、室温にて30分間静置した後にESI-TOFMS分析した。結果を以下に示す。
非天然直鎖ペプチドが付加されたFcタンパク質誘導体(G0糖鎖付き)の分子量:
理論計算値 :30340.2
ESI-TOFMS測定値:30339.5
【0203】
実施例10:SPAAC反応による、オリゴ核酸が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法
(10-1)炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質(オリゴ核酸-DBCO付加体)の調製
【0204】
【化27】
【0205】
Oravaらの報告(ACS Chem. Biol. 2013, 8, 170)に基づき設計した、目的物質としての上記式のオリゴ核酸(DNA、配列番号21)33.8mgを水6.77mLに溶解し、この溶液5.77mLに対して10mM Tris-HCl、1mM EDTA、pH8.0を23.1mLおよび、0.12M DTT水溶液と0.5M リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)の2:1混合溶液28.8mLを加え、室温にて一晩振とうした。この反応混合物を限外濾過(Amicon Ultra-15, 3k MWCO)にて濃縮と水希釈を4回繰り返し、溶媒置換した。ここにDBCO(ジベンゾシクロオクチン)-マレイミド(Tokyo Chemical Industries,40mM in DMSO) 88.8μLおよびDMSO 600μLを加えて混合し、室温にて一晩振とうした。この反応混合物を限外濾過(Amicon Ultra-15, 3k MWCO)にて濃縮と水希釈を4回繰り返して溶媒置換し、得られた溶液を凍結乾燥して下記式のオリゴ核酸-DBCO付加体を21.1mg取得した。ESI-TOFMS(negative mode) calculated 8411.7,measured m/z;1681.3,2101.9
【0206】
【化28】
【0207】
(10-2)目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の調製
アジド基含有Fcタンパク質の溶液6.6μL(アジド基含有Fcタンパク質50μg含有)に、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)24.4μLと2.5mMの(10-1)で得られた付加体の溶液7.4μLを加え、25℃にて一晩振とうした。これにより、アジド基含有Fcタンパク質とオリゴ核酸-DBCO付加体とが反応し、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体が得られた(DBCOに対するアジド基の付加様式は下記式に示す2とおりが考えられる)。
【0208】
【化29】
【0209】
得られた反応混合物をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel,4~20%,BIO-RAD;還元条件下;Coomassie Brilliant Blue G-250 Stainにより染色)にて分析した結果を、図9に示す。この結果から、本オリゴ核酸とアジド基含有Fcタンパク質のSPAAC反応が、極めて高い反応効率にて進行することが分かった。
【0210】
実施例11:SPAAC反応による、オリゴ核酸が付加されたFcタンパク質誘導体の製造方法
(11-1)炭素原子間3重結合を有する環が付加されている目的物質(オリゴ核酸-DBCO付加体)の調製
【0211】
【化30】
【0212】
Pottyらの報告(Biopolymers 2009, 91(2), 145)に基づき設計した、目的物質としての上記式のオリゴ核酸(DNA、配列番号22)27.8mgを水5.55mLに溶解し、この溶液4.55mLに対して10mM Tris-HCl,1mM EDTA,pH8.0を18.2mLおよび、0.12M DTT水溶液と0.5Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)の2:1混合溶液22.8mLを加え、室温にて一晩振とうした。この反応混合物を限外濾過(Amicon Ultra-15, 3k MWCO)にて濃縮と水希釈を4回繰り返し、溶媒置換した。ここにDBCO(ジベンゾシクロオクチン)-マレイミド(Tokyo Chemical Industries,40mM in DMSO) 68.4μLおよびDMSO 600μLを加えて混合し、室温にて一晩振とうした。この反応混合物を限外濾過(Amicon Ultra-15, 3k MWCO)にて濃縮と水希釈を4回繰り返して溶媒置換し、得られた溶液を凍結乾燥して下記式のオリゴ核酸-DBCO付加体を24.7mg取得した。ESI-TOFMS(negative mode) calculated 8604.8,measured m/z;1719.9,2150.1
【0213】
【化31】
【0214】
(11-2)目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体の調製
アジド基含有Fcタンパク質の溶液6.6μL(アジド基含有Fcタンパク質50μg含有)に、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)24.4μLと2.5mMの(11-1)で得られた付加体の溶液7.4μLを加え、25℃にて一晩振とうした。これにより、アジド基含有Fcタンパク質とオリゴ核酸-DBCO付加体とが反応し、目的物質が付加されたFcタンパク質誘導体が得られた(DBCOに対するアジド基の付加様式は下記式に示す2とおりが考えられる)。
【0215】
【化32】
【0216】
得られた反応混合物をSDS-PAGE(Mini-PROTEAN TGX gel,4~20%,BIO-RAD;還元条件下;Coomassie Brilliant Blue G-250 Stainにより染色)にて分析した結果を、図10に示す。この結果から、本オリゴ核酸とアジド基含有Fcタンパク質のSPAAC反応が、極めて高い反応効率にて進行することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明のFcタンパク質誘導体は、例えば、医薬又は試薬として有用である。
本発明のアジド基含有Fcタンパク質は、例えば、本発明のFcタンパク質誘導体の製造における中間体として有用である。
16個のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーをN末端に有する本発明のFcタンパク質は、例えば、本発明のFcタンパク質誘導体の製造における中間体として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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