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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20220208BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220208BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220208BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 35/00 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 93/04 20060101ALI20220208BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20220208BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/36
C08K3/22
C08L1/02
C08L35/00
C08L63/00 A
C08L33/00
C08L75/04
C08L93/04
C08K3/01
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018548468
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017231
(87)【国際公開番号】W WO2018203533
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2017091743
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 健介
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056234(JP,A)
【文献】特開2016-056233(JP,A)
【文献】特開2016-204503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/00
C08K 3/04
C08K 3/36
C08K 3/22
C08L 1/02
C08L 35/00
C08L 63/00
C08L 33/00
C08L 75/04
C08L 93/04
C08K 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム成分100質量部に対し、
充填剤5~200質量部と、
ガラス転移温度が0~200℃であり、前記ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示す第1の樹脂成分5質量部以上と、
ヘテロ原子を含み、凝固点が20℃以下であり、25℃における粘度が10万mPa・s以下である可塑剤5質量部以上と、
化学構造にヘテロ原子を含み、環式共役ジエン構造を含み、ガラス転移温度が0~180℃であり、酸価が400mgKOH/g以下であり、前記ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示さない第2の樹脂成分21質量部以上とを含み、
前記可塑剤は、リン酸エステル系可塑剤または脂肪族エステル系可塑剤を含み、
前記第2の樹脂成分は、マレイン酸系樹脂、ビスフェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ロジン系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の樹脂を含む、ゴム組成物。
【請求項2】
前記充填剤は、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、セルロースからなる群から選択される少なくとも1以上の無機充填剤を含む、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記可塑剤は、引火点が200℃以上の液体である、請求項1または2記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。より詳細には、本発明は、初期グリップ性、ウェットグリップ性、ドライグリップ性および耐摩耗性の優れたタイヤを得るためのゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高性能タイヤのトレッド部は、走行初期から走行終了までにおける、優れた、乾燥路面における操縦安定性(ドライグリップ性)、および、ウェット路面またはセミウェット(半乾き)路面における操縦安定性(ウェットグリップ性)が求められている。走行初期におけるドライグリップ性(初期グリップ性)を向上させるために、トレッド部に使用するゴム組成物に、低軟化点樹脂および液状ポリマーを含むオイル成分を多く添加することや、低温軟化剤を添加することが検討されている。また、走行中の安定したグリップ性を得るために、トレッド部に使用されるゴム組成物に、高軟化点樹脂を配合することが検討されている。さらに、ウェットグリップ性を向上させるために、シリカ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤を配合することが検討されている(特許文献1参照)。他にも、ウェットグリップ性および発熱特性を両立するために、マレイン酸系樹脂を配合することが検討されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-59893号公報
【文献】特開2012-201742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、低軟化点樹脂を配合したゴム組成物をトレッド部に用いたタイヤは、走行中、トレッド部の温度が上昇するにつれてグリップ性能が低下する。そこで、走行中にタイヤ温度が上昇した際のタイヤのグリップ性能を向上させるためにクマロンインデン樹脂等の高軟化点樹脂を単独で配合することが考えられる。しかしながら、このようなゴム組成物をトレッド部に用いたタイヤは、低温路面上におけるタイヤの初期グリップ性が著しく低下する。また、高軟化点樹脂と低軟化点樹脂とがゴム組成物に配合される場合、添加される樹脂の総量がコンパウンド全体の温度特性に大きく影響する。そのため、ゴム組成物は、配合可能な樹脂の総量が制限される。したがって、高軟化点樹脂と低軟化点樹脂とが配合されたゴム組成物によれば、優れた初期性能および走行中の安定したグリップ性を両立したタイヤが得られなかった。
【0005】
また、特許文献1に記載の発明において用いられたシリカ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤は、ポリマーに対する相溶性が悪い。そのため、これらが配合される場合、ゴム組成物は、分散不良を起こしやすい。また、特許文献2に記載の発明にようにマレイン酸系樹脂が配合される場合、マレイン酸樹脂の含有量が多い場合、ゴム組成物は、発熱特性が悪化するか、マレイン酸の高い極性による凝集を生じ、分散不良を起こしやすい。他にも、マレイン酸樹脂を高配合したゴム組成物から得られるタイヤは、ゴム表面に成分がブルームしやすく、耐摩耗性が悪化しやすい。そのため、ゴム組成物は、配合可能な樹脂の総量が制限されやすい。
【0006】
以上より、従来、初期グリップ性、ドライグリップ性、ウェットグリップ性、および、耐摩耗性のいずれもが優れたタイヤが得られるゴム組成物は知られていない。
【0007】
本発明は、初期グリップ性、ドライグリップ性、ウェットグリップ性、および、耐摩耗性を、いずれも優れたタイヤを得るためのゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
【0009】
(1)ジエン系ゴム成分100質量部に対し、充填剤5~200質量部と、ガラス転移温度が0~200℃であり、前記ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示す第1の樹脂成分5質量部以上と、ヘテロ原子を含み、凝固点が20℃以下であり、25℃における粘度が10万mPa・s以下である可塑剤5質量部以上と、化学構造にヘテロ原子を含み、環式共役ジエン構造を含み、ガラス転移温度が0~180℃であり、酸価が400mgKOH/g以下であり、前記ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示さない第2の樹脂成分21質量部以上とを含む、ゴム組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、初期グリップ性、ドライグリップ性、ウェットグリップ性、および、耐摩耗性を、いずれも優れたタイヤを得るためのゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ゴム組成物>
本発明の一実施形態のゴム組成物は、ジエン系ゴム成分と、充填剤と、第1の樹脂成分と、可塑剤と、第2の樹脂成分とを主に含む。ジエン系ゴム成分100質量部に対し、充填剤は5~200質量部含まれ、第1の樹脂成分は5質量部以上含まれ、可塑剤は5質量部以上含まれ、第2の樹脂成分は21質量部以上含まれる。本実施形態のゴム組成物によれば、上記可塑剤が5質量部以上含まれることにより、第2の樹脂成分を良好に分散させることができ、21質量部以上高配合させ得る。その結果、そのようなゴム組成物から得られるタイヤは、特にゴム組成物がタイヤのトレッドを構成する場合において、初期グリップ性が優れ、かつ、ドライ路面における路面への粘着性が向上すると共に、ウェット路面では上記第2の樹脂成分の示す親水性によって親和性が向上する。その結果、本実施形態のゴム組成物によれば、得られるタイヤは、初期グリップ性およびドライグリップ性に加え、ウェットグリップ性も向上し、かつ、耐摩耗性も向上し得る。以下、それぞれについて説明する。
【0012】
(ジエン系ゴム成分)
ジエン系ゴム成分は特に限定されない。一例を挙げると、ジエン系ゴム成分は、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等である。ジエン系ゴム成分は、併用されてもよい。これらの中でも、ジエン系ゴム成分は、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、優れたグリップ性能および耐摩耗性が両立され得る点から、NR、BR、SBRを含むことが好ましく、SBRを含むことがより好ましい。
【0013】
SBRは特に限定されない。一例を挙げると、SBRは、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等である。SBRのスチレン含有率は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。また、SBRのスチレン含有率は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましい。SBRのスチレン含有率が20重量%以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分なグリップ性能が示されやすい。一方、SBRのスチレン含有率が60重量%以下であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分な耐摩耗性が示されやすく、かつ、温度依存性が増大しにくく、温度変化に対する性能変化が大きくなりにくい。
【0014】
SBRの含有量は、ジエン系ゴム成分100質量%中、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。なお、SBRの含有量の上限は特に限定されない。SBRの含有量は、ジエン系ゴム成分中、100質量%であってもよい。SBRの含有量が10質量%以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分な耐熱性が示されやすい。
【0015】
ジエン系ゴム成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、ジエン系ゴム成分のMwは、1.0×103以上であることが好ましく、3.0×103以上であることがより好ましい。また、ジエン系ゴム成分のMwは、2.0×105以下であることが好ましく、1.5×104以下であることがより好ましい。Mwが1.0×103以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分な耐摩耗性、耐久性が示されやすい。一方、Mwが2.0×105以下であることにより、そのようなジエン系ゴム成分は、生産時に取り扱いやすい。なお、本実施形態において、Mwは、たとえば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値として算出され得る。
【0016】
(充填剤)
充填剤は特に限定されない。充填剤は、従来、タイヤ用ゴム組成物において汎用されている各種充填剤から任意に選択して用いられ得る。一例を挙げると、充填剤は、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、水酸化アルミニウム、セルロース、炭酸マグネシウム、酸化チタン、クレー、タルク、酸化マグネシウム等である。充填剤は、併用されてもよい。これらの中でも、充填剤は、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、優れたグリップ性能および耐摩耗性が得られる点から、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、セルロースからなる群から選択される少なくとも1以上の無機充填剤を含むことが好ましく、カーボンブラックを含むことがより好ましい。
【0017】
充填剤としてカーボンブラックが用いられる場合、カーボンブラックは特に限定されない。一例を挙げると、カーボンブラックは、汎用のカーボンブラックであってもよく、オイルファーネス法により製造されたカーボンブラックであってもよい。また、カーボンブラックは、コロイダル特性の異なるものが併用されてもよい。
【0018】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に限定されない。一例を挙げると、カーボンブラックのN2SAは、100(m2/g)以上であることが好ましく、105(m2/g)以上であることがより好ましく、110(m2/g)以上であることがさらに好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、600(m2/g)以下であることが好ましく、550(m2/g)以下であることがより好ましく、530(m2/g)以下であることがさらに好ましい。カーボンブラックのN2SAが100(m2/g)以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分なグリップ性能が示されやすい。一方、カーボンブラックのN2SAが600(m2/g)以下であることにより、カーボンブラックは、ゴム組成物中で分散されやすく、得られるタイヤの耐摩耗性が充分に示されやすい。なお、本実施形態において、N2SAは、ASTM D 3037-81に準じて行われるBET法によって測定され得る。
【0019】
カーボンブラックのオイル吸収量(OAN)は特に限定されない。一例を挙げると、OANは、50mL/100g以上であることが好ましく、100mL/100g以上であることがより好ましい。また、OANは、250mL/100g以下であることが好ましく、200mL/100g以下であることがより好ましく、135mL/100g以下であることがさらに好ましい。OANが50mL/100g以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分な耐摩耗性が示されやすい。一方、OANが250mL/100g以下であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分なグリップ性能が示されやすい。なお、カーボンブラックのOANは、たとえばJIS K 6217-4 2008に準拠して測定され得る。
【0020】
充填剤としてシリカが用いられる場合、シリカは特に限定されない。一例を挙げると、シリカは、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等である。これらの中でも、シリカは、湿式シリカであることが好ましい。
【0021】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に限定されない。一例を挙げると、シリカのN2SAは、40(m2/g)以上であることが好ましく、50(m2/g)以上であることがより好ましく、60(m2/g)以上であることがさらに好ましい。また、シリカのN2SAは、400(m2/g)以下であることが好ましく、360(m2/g)以下であることがより好ましく、300(m2/g)以下であることがさらに好ましい。シリカのN2SAが40(m2/g)以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分な補強効果が得られやすい。一方、シリカのN2SAが400(m2/g)以下であることにより、シリカは、ゴム組成物中で分散されやすく、ゴム組成物は加工されやすい。
【0022】
充填剤として水酸化アルミニウムが用いられる場合、水酸化アルミニウムは特に限定されない。水酸化アルミニウムの平均粒子径は、0.69μm以下であることが好ましく、0.65μm以下であることがより好ましく、0.62μm以下であることがさらに好ましい。また、水酸化アルミニウムの平均粒子径は、0.20μm以上であることが好ましく、0.25μm以上であることがより好ましい。水酸化アルミニウムの平均粒子径が上記範囲内であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、良好な耐摩耗性およびウェットグリップ性が示されやすい。なお、水酸化アルミニウムの平均粒子径は、数平均粒子径であり、たとえば透過型電子顕微鏡により測定され得る。
【0023】
水酸化アルミニウムの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に限定されない。一例を挙げると、水酸化アルミニウムのN2SAは、10(m2/g)以上であることが好ましく、12(m2/g)以上であることがより好ましく、14(m2/g)以上であることがさらに好ましい。また、水酸化アルミニウムのN2SAは、110(m2/g)以下であることが好ましく、100(m2/g)以下であることがより好ましく、90(m2/g)以下であることがさらに好ましい。水酸化アルミニウムのN2SAが上記範囲内であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、良好な耐摩耗性およびウェットグリップ性が示されやすい。
【0024】
本実施形態のゴム組成物において、充填剤は、ジエン系ゴム成分100質量部に対し、5質量部以上となるよう含まれればよく、10質量部以上となるよう含まれることが好ましく、30質量部以上となるよう含まれることがより好ましい。また、充填剤は、ジエン系ゴム成分100質量部に対し、200質量部以下となるよう含まれればよく、180質量部以下となるよう含まれることが好ましく、150質量部以下となるよう含まれることがより好ましい。充填剤が上記配合割合となるよう含有されることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、ウェットグリップ性および補強性が向上し得る。充填剤の含有量が5質量部未満である場合、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分なグリップ力が得られない傾向がある。特に、充填剤の含有量が200質量部以下であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、優れた耐摩耗性が示されやすい。
【0025】
(第1の樹脂成分)
第1の樹脂成分は、上記したジエン系ゴム成分に対して相溶性を示す樹脂成分である。本実施形態において、ジエン系ゴム成分に対する相溶性は、たとえば、薄膜法により確認し得る。薄膜法は、第1の樹脂成分とジエン系ゴム分とを20℃にて質量比で1:1となるよう混合し、得られた複合体を0.6mm以下の薄膜とし、透明か否かを目視にて観察する方法である。相溶性を示す複合体は、透明の薄膜が得られる。一方、相溶性を示さない複合体は、薄膜が白濁等を生じ、不透明となる。なお、本実施形態において、相溶性が低く、透明の薄膜が得られないものは、相溶性を示さないものとして取り扱われる。
【0026】
また、第1の樹脂成分のガラス転移温度(Tg)は、0℃以上であればよく、10℃以上であることが好ましい。また、第1の樹脂成分のTgは、200℃以下であればよく、180℃以下であることが好ましい。Tgが0℃未満である場合、第1の樹脂成分は、ジエン系ゴムと相溶しにくい。一方、Tgが200℃を超える場合、第1の樹脂成分は、ジエン系ゴムと相溶しにくい。なお、本実施形態において、Tgは、示差走査熱量計(DSC)によって測定され得る。
【0027】
第1の樹脂成分は、ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示し、かつ、上記Tgを示す限りにおいて特に限定されない。一例を挙げると、第1の樹脂成分は、C9芳香族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、テルペン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、クマロンインデン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上の樹脂である。また、これらの樹脂は、水素添加反応を行ったものものであってもよい。第1の樹脂成分は、併用されてもよい。
【0028】
本実施形態のゴム組成物において、第1の樹脂成分は、ジエン系ゴム成分100質量部に対し、5質量部以上となるよう含まれればよい。なお、第1の樹脂成分の含有量の上限は特に限定されない。一例を挙げると、第1の樹脂成分の含有量の上限は、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。第1の樹脂成分が上記配合割合となるよう含有されることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、ドライグリップ性が向上し得る。含有量が5質量部未満である場合、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分なグリップ力が得られない傾向がある。一方、充填剤の含有量が200質量部以下であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、充分な耐摩耗性が示されやすい。
【0029】
第1の樹脂成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、第1の樹脂成分のMwは、1.0×103以上であることが好ましく、3.0×103以上であることがより好ましい。また、第1の樹脂成分のMwは、2.0×105以下であることが好ましく、1.5×104以下であることがより好ましい。Mwが1.0×103以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、優れた耐摩耗性、耐久性が示されやすい。一方、Mwが2.0×105以下であることにより、第1の樹脂成分は、生産時に取り扱われやすい。
【0030】
(可塑剤)
本実施形態の可塑剤は、酸素原子、リン原子、窒素原子、硫黄原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子等のヘテロ原子を含む。このようなヘテロ原子を含む可塑剤は、後述する第2の樹脂成分との溶解性が優れる。
【0031】
可塑剤の凝固点は、ゴム組成物に可塑性が付与される点から、20℃以下であればよく、0℃以下であることがより好ましい。可塑剤の凝固点の下限は特に限定されない。一例を挙げると、可塑剤の凝固点の下限は、-100℃以上であることが好ましく、-80℃以上であることがより好ましい。このような凝固点が20℃以下である可塑剤が配合されることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、優れたウェットグリップ性およびドライグリップ性が両立されやすい。なお、本実施形態において、凝固点は、たとえば、試料(可塑剤)をアルミニウムセルの中に密閉し、アルミニウムセルを示差走査熱量測定器((株)島津製作所製、DSC-60A)のサンプルホルダーに挿入した後、サンプルホルダーを窒素雰囲気下10℃/分で150℃まで加熱しながら吸熱ピークを検出することにより測定され得る。
【0032】
可塑剤の粘度は、ゴム組成物に可塑性が付与される点から、10万mPa・s以下であればよく、8万mPa・s以下であることが好ましい。また、可塑剤の粘度の下限は特に限定されない。粘度が10万mPa・s以下である可塑剤が配合されることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、優れた初期グリップ性が示されやすい。なお、可塑剤の粘度は、25℃において、B型回転粘度計を用いることにより測定され得る。
【0033】
可塑剤は、ヘテロ原子を含み、かつ、上記凝固点および粘度を示す限りにおいて特に限定されない。一例を挙げると、可塑剤は、リン酸エステル系可塑剤や、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤等の脂肪族エステル系可塑剤等である。リン酸エステル系可塑剤は、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリス(2-エチルへキシル)、リン酸トリス(ブトキシエチル)、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル等が例示される。フタル酸エステル系可塑剤は、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ビス(2-エチルへキシル)、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸-n-デシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ウンデシル、フタル酸トリデシル、フタル酸ジブチルベンジル等が例示される。アジピン酸エステル系可塑剤は、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジ-n-へキシル、アジピン酸ジ-n-オクチル、アジピン酸ビス(2-エチルへキシル)、アジピン酸ジノニル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジ‐n-デシル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(ブチルジグリコール)等が例示される。可塑剤は、併用されてもよい。
【0034】
本実施形態のゴム組成物において、可塑剤は、ジエン系ゴム成分100質量部に対し、5質量部以上となるよう含まれればよい。なお、可塑剤の含有量の上限は特に限定されない。一例を挙げると、可塑剤の含有量の上限は、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。可塑剤が上記配合割合となるよう含有されることにより、可塑剤は、後述する第2の樹脂成分の分散性が向上し得る。また、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、初期のドライグリップ性が向上し得る。可塑剤の含有量が5質量部未満である場合、第2の樹脂成分との溶解性が低下する傾向がある。この場合、第2の樹脂成分がゴム組成物中で分散されにくく、ブルームを生じる傾向がある。その結果、そのようなゴム組成物から得られるタイヤは、耐摩耗性が劣る傾向がある。
【0035】
なお、可塑剤は、引火点が200℃以上の液体であることが好ましい。これにより、可塑剤が取り扱われる際の発火等の虞が低減され得る。なお、可塑剤の引火点は、たとえば、JIS K 2265-4:2007に準拠したクリーブランド開放法によって測定され得る。
【0036】
(第2の樹脂成分)
第2の樹脂成分は、上記したジエン系ゴム成分に対して相溶性を示さない樹脂成分である。本実施形態において、ジエン系ゴム成分に対する相溶性は、たとえば、第1の樹脂成分に関連して説明した方法と同様の方法により確認し得る。
【0037】
本実施形態の第2の樹脂成分は、化学構造にヘテロ原子を含み、環式共役ジエン構造を含む。環式共役ジエン構造は特に限定されない。一例を挙げると、環式共役ジエン構造は、ベンゼン構造、ナフタレン構造等の炭化水素から構成される芳香族構造;ピロール、フラン、チオフェン等のヘテロ原子を含む炭化水素から構成される複素環式構造;アビエチン酸等の天然樹脂の基本構造となる構造等である。これらは2種以上が含まれてもよい。環式共役ジエン構造を含む第2の樹脂成分は、ジエン系ゴム成分(共役ジエンポリマー)や充填剤(特にカーボンブラック)との親和性が優れる。そのため、第2の樹脂成分は、ゴム組成物中、優れた分散性を示す。
【0038】
第2の樹脂成分のTgは、0℃以上であればよく、10℃以上であることが好ましい。また、第1の樹脂成分のTgは、180℃以下であればよく、150℃以下であることが好ましい。Tgが0℃未満である場合、得られるゴム組成物は、ブリードを生じる傾向がある。一方、Tgが180℃を超える場合、第2の樹脂成分は、ゴム組成物中に分散されにくい傾向がある。その結果、そのようなゴム組成物から得られるタイヤは、耐摩耗性が劣る傾向がある。なお、本実施形態において、第2の樹脂成分のTgは、たとえば、第1の樹脂成分に関連して説明した方法と同様の方法により測定し得る。
【0039】
第2の樹脂成分の酸価は、400mgKOH/g以下であればよく、300mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価の下限は特に限定されない。一例を挙げると、酸価は、70mgKOH/g以上であることが好ましく、90mgKOH/g以上であることがより好ましい。酸価が400mgKOH/gを超える場合、第2の樹脂成分は、ジエン系ゴム成分との相溶性が劣る傾向がある。その結果、そのようなゴム組成物から得られるタイヤは、耐摩耗性が劣る傾向がある。なお、本実施形態において、酸価は、たとえば、樹脂1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量をミリグラム数で表したものであり、電位差滴定法(JIS K 0070:1992)により測定され得る。
【0040】
第2の樹脂成分は、ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示さず、環式共役ジエン構造を含み、かつ、上記ガラス転移温度および酸価を示す限りにおいて特に限定されない。一例を挙げると、第2の樹脂成分は、マレイン酸系樹脂、ビスフェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ロジン系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の樹脂を含むことが好ましい。
【0041】
マレイン酸系樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、マレイン酸系樹脂は、ロジンと無水マレイン酸との反応生成物(ロジン-無水マレイン酸付加体で構成されたロジン変性マレイン酸樹脂)、ロジンと無水マレイン酸と多価アルコールとの反応生成物(エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂)等である。
【0042】
なお、本実施形態において、マレイン酸樹脂には、上記無水マレイン酸をマレイン酸やフマル酸に代えて得られる樹脂も含まれる。すなわち、エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂には、ロジンと無水マレイン酸と多価アルコールとの反応生成物以外にも、ロジンとマレイン酸と多価アルコールとの反応生成物や、ロジンとフマル酸と多価アルコールとの反応生成物等も含まれ得る。
【0043】
ロジンは特に限定されない。一例を挙げると、ロジンは、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸を主成分とするトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等である。
【0044】
多価アルコールは特に限定されない。一例を挙げると、多価アルコールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等である。
【0045】
ビスフェノール系樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、ビスフェノール系樹脂は、ビスフェノールF、ビスフェノールA等を構成単位とする樹脂である。
【0046】
アクリル系樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、アクリル系樹脂を構成するアクリル系モノマー成分は、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸エステル(2エチルヘキシルアクリレート等のアルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステルなど)、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体等である。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸の総称である。また、アクリル系樹脂を構成する芳香族ビニルモノマー成分は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ビニル等である。
【0047】
アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体、芳香族ビニルと共に、他のモノマー成分が用いられてもよい。また、アクリル系樹脂は、カルボキシル基の他に、水酸基、エポキシ基、シラノール基等を少量有してもよい。さらに、アクリル系樹脂は、カルボキシル基に加え、アルキル基を有することが好ましい。アルキル基の炭素数は特に限定されない。一例を挙げると、アルキル基の炭素数は、1~30であってもよい。
【0048】
ロジン系樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、ロジン系樹脂は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸などの樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然産のロジン樹脂(重合ロジン)の他、水素添加ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などの変性ロジン樹脂、ロジングリセリンエステルなどのロジンエステル、ロジン樹脂を不均化することによって得られる不均化ロジン樹脂等である。
【0049】
ウレタン樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、ウレタン樹脂は、イソシアネート基化合物とポリオール化合物とを反応させるもの、または、イソシアネート基化合物とアミンとで硬化させるものである。
【0050】
本実施形態のゴム組成物において、第2の樹脂成分は、ジエン系ゴム成分100質量部に対し、21質量部以上となるよう含まれればよく、25質量部以上含まれることが好ましい。なお、第2の樹脂成分の含有量の上限は特に限定されない。一例を挙げると、第2の樹脂成分の含有量の上限は、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。第2の樹脂成分が上記配合割合となるよう含有されることにより、第2の樹脂成分は、ゴム組成物中における分散性および加工性が向上し得る。また、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、ドライグリップ性、ウェットグリップ性および耐摩耗性が向上し得る。第2の樹脂成分の含有量が21質量部未満である場合、そのようなゴム組成物から得られるタイヤは、ウェットグリップ性が劣り、発熱特性と両立されにくい傾向がある。
【0051】
第2の樹脂成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、第2の樹脂成分のMwは、1.0×103以上であることが好ましく、3.0×103以上であることがより好ましい。また、第2の樹脂成分のMwは、2.0×105以下であることが好ましく、1.5×104以下であることがより好ましい。Mwが1.0×103以上であることにより、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤにおいて、優れた耐摩耗性、耐久性が示されやすい。一方、Mwが2.0×105以下であることにより、第2の樹脂成分は、生産時に取り扱われやすい。
【0052】
(任意成分)
本実施形態のゴム組成物は、上記成分の他、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤が任意成分として配合されてもよい。一例を挙げると、任意成分は、軟化剤、カップリング剤、酸化亜鉛、硫黄、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤等である。また、ゴム組成物の加工性を向上させる点から、ゴム組成物は、アロマオイルやミネラルオイル等のプロセスオイルが配合されてもよい。なお、これらのプロセスオイルは、上記可塑剤には含まれない。
【0053】
カップリング剤は、充填剤としてシリカが含有される際に、好適に併用される。カップリング剤は特に限定されない。一例を挙げると、カップリング剤は、アルコキシシラン系カップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤等である。
【0054】
酸化亜鉛は特に限定されない。酸化亜鉛は、タイヤ等のゴム分野で使用されているものが使用され得る。中でも、酸化亜鉛は、微粒子酸化亜鉛であることが好ましい。より具体的には、微粒子酸化亜鉛の平均一次粒子径は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。平均一次粒子径の下限は特に限定されない。一例を挙げると、平均一次粒子径の下限は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。なお、本実施形態において、酸化亜鉛の平均一次粒子径は、たとえば、窒素吸着によるBET法により測定した比表面積から換算され得る。
【0055】
酸化亜鉛が配合される場合、酸化亜鉛の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、酸化亜鉛の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0056】
硫黄は、加硫剤として含有される硫黄における純硫黄成分である。そのため、加硫促進剤等に含まれ得る硫黄成分は、ここでいう硫黄には含まない。硫黄は特に限定されない。一例を挙げると、硫黄は、ゴム工業において一般的に用いられる不溶性硫黄が好適に用いられ得る。
【0057】
硫黄が含有される場合、硫黄の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましい。硫黄の含有量が1質量部未満である場合、本実施形態のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、耐久性が低下する傾向がある。なお、硫黄として不溶性硫黄が用いられる場合、硫黄の含有量は、オイル分を除いた純硫黄分の含有量である。
【0058】
老化防止剤は特に限定されない。一例を挙げると、老化防止剤は、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤や、カルバミン酸金属塩、ワックス等である。老化防止剤は併用されてもよい。これらの中でも、老化防止剤は、アミン系老化防止剤であることが好ましい。
【0059】
老化防止剤が含有される場合の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、老化防止剤の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましい。また、老化防止剤の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0060】
加硫促進剤は特に限定されない。一例を挙げると、加硫促進剤は、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸系加硫促進剤、アルデヒド-アミン系加硫促進剤、アルデヒド-アンモニア系加硫促進剤、イミダゾリン系加硫促進剤、キサンテート系加硫促進剤等である。加硫促進剤は併用されてもよい。これらの中でも、加硫促進剤は、加硫特性が優れ、加硫後のゴムを用いて得られるタイヤの低燃費性が優れる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤であることが好ましい。
【0061】
加硫促進剤が含有される場合、加硫促進剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、加硫促進剤の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満である場合、ゴム組成物は、充分に加硫されにくい傾向がある。一方、加硫促進剤の含有量が5質量部を超える場合、ゴム組成物は、ゴム焼けを起こしやすい傾向がある。
【0062】
<ゴム組成物の製造方法>
本実施形態にゴム組成物は、一般的な方法により製造され得る。一例を挙げると、ゴム組成物は、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等の一般的なゴム工業で使用される公知の混練機を用いて、上記した各成分を混練し、その後加硫する方法等により製造され得る。
【0063】
得られたゴム組成物は、種々の用途に好適に用いられ得る。一例を挙げると、ゴム組成物は、タイヤ、靴底ゴム、産業用ベルト、ブチル枠ゴム、パッキン、免震ゴム、薬栓等の技術分野において好適に用いられ得る。これらの中でも、ゴム組成物は、靴底ゴム、産業用ベルト、空気入りタイヤのトレッド用として好適である。
【0064】
<タイヤの製造方法>
本実施形態のゴム組成物からタイヤを製造する方法は特に限定されない。一例を挙げると、タイヤは、未加硫の段階で各タイヤ部材の形状(たとえばトレッド部の形状)にあわせてゴム組成物を押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、次いで、汎用の方法にて成型することにより未加硫タイヤを得て、その後、加硫機中で加熱加圧することにより製造され得る。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に限定されない。なお、上記した実施形態は以下の構成を有する発明の一実施形態である。
【0066】
(1)ジエン系ゴム成分100質量部に対し、充填剤5~200質量部と、ガラス転移温度が0~200℃であり、前記ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示す第1の樹脂成分5質量部以上と、ヘテロ原子を含み、凝固点が20℃以下であり、25℃における粘度が10万mPa・s以下である可塑剤5質量部以上と、化学構造にヘテロ原子を含み、環式共役ジエン構造を含み、ガラス転移温度が0~180℃であり、酸価が400mgKOH/g以下であり、前記ジエン系ゴム成分に対して相溶性を示さない第2の樹脂成分21質量部以上とを含む、ゴム組成物。
【0067】
(2)前記充填剤は、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、セルロースからなる群から選択される少なくとも1以上の無機充填剤を含む、(1)記載のゴム組成物。
【0068】
(3)前記可塑剤は、引火点が200℃以上の液体である、(1)または(2)記載のゴム組成物。
【0069】
(4)前記第2の樹脂成分は、マレイン酸系樹脂、ビスフェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ロジン系樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1以上の樹脂を含む、(1)~(3)のいずれかに記載のゴム組成物。
【実施例
【0070】
実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。本発明は、これら実施例に限定されない。
【0071】
実施例および比較例で使用した各種薬品を以下に示す。
(ジエン系ゴム成分)
SBR:タフデン4850(旭化成(株)製、Mw:350000、スチレン含量:40質量%、ビニル含量:46質量%、ガラス転移温度:-17℃)
BR:BR150B(宇部興産(株)製、シス含有量:97質量%、ML1+4(100℃):40)
NR:TSR20
(充填剤)
シリカ:ニプシールAQ(東ソー(株)製)
水酸化アルミニウム:ハイジライトH-43(昭和電工(株)製、平均一次粒子径:1μm)
カーボンブラック:シースト9SAF(東海カーボン(株)製、(N2SA:142m2/g)
(第1の樹脂成分)
クマロンインデン樹脂:クマロンG90(日塗化学(株)製、Mw:500、Tg:54℃、軟化点:90℃)
芳香族性炭化水素樹脂:ネオポリマー160(日本石油化学(株)製、Mw:2700、Tg:100℃、軟化点:165℃)
(可塑剤)
ジオクチルフタレート(DOP)(昭和化学(株)製、比重0.96、粘度(25℃):81mPs・S、引火点:218℃)
(第2の樹脂成分)
マレイン酸系樹脂1:X205(星光PMC(株)製、環式共役ジエン構造を含むスチレンマレイン酸共重合体、Mw:500、酸価205mgKOH/g、Tg:71℃)
マレイン酸系樹脂2:SMA1000(サートマー社製、環式共役ジエン構造を含むスチレンマレイン酸共重合体、Mw:500、酸価495mgKOH/g、Tg60℃)
アクリル系樹脂:UC3900(東亜合成(株)製、環式共役ジエン構造を含むスチレンアクリル共重合体、Mw:500、酸価108mgKOH/g、Tg:65℃)
ロジン系樹脂:ハリエスターTF(ハリマ化成(株)製、環式共役ジエン構造を含むロジンエステル樹脂、Mw:500、酸価10mgKOH/g、Tg:80℃)
ウレタン樹脂:商品名:AROMATIC URETHANE ACRYLATE(TOTAL社製、環式共役ジエン構造を含むウレタン樹脂、Mw:630、酸価3mgKOH/g、Tg:32℃)
ビスフェノールA系樹脂:ケミチレンPEB-13ST(三洋化学(株)製、環式共役ジエン構造を含むビスフェノールA系樹脂、Mw:420、酸価0mgKOH/g、Tg:70℃)
(その他)
シランカップリング剤:Si266(エボニックデグッサ社製、(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド))
プロセスオイル:ダイアナプロセスAH-24(出光興産(株)製)
酸化亜鉛:ジンコックスーパーF1(ハクスイテック(株)製)
ステアリン酸:ステアリン酸「椿」(日本油脂(株)製)
老化防止剤1:アンチゲン6C(住友化学(株)製)
老化防止剤2:アンチゲンRD(住友化学(株)製)
ワックス:サンノックN(大内新興化学工業(株)製)
硫黄:粉末硫黄(軽井沢硫黄(株)製)
加硫促進剤:ノクセラーDM(大内新興化学(株)製)
【0072】
(実施例1~10および比較例1~8)
表1または2に示される配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製1.7Lバンバリーを用いて配合材料を混練りした後、オープンロール上で、得られた混練りゴムに硫黄および加硫促進剤を加えて練り込んだ混合物を、150℃で30分間加硫させ、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物について、以下の評価方法にしたがって、加工性評価(素材の分散性およびゴムの密着性)を評価した。また、それぞれのゴム組成物をトレッドの形状に成形し、一般的なタイヤの成形方法、加硫方法にしたがってタイヤを製造した。得られたタイヤについて、以下の評価方法にしたがって、ウェットグリップ性、初期グリップ性、安定したグリップ性、および耐摩耗性を評価した。
【0073】
[ゴム組成物の評価]
<素材の分散性>
上記ゴム組成物の混合物のシートを作成し、カット断面を観察し、白色の異物の有無を確認した。結果を表1または表2に示す。
(評価基準)
○:ゴム組成物は、異物がなく、素材分散性が良いと判断された。
×:ゴム組成物は、異物があり、素材分散性が悪いと判断された。
【0074】
<ゴムの密着性>
混練りゴムの排出の際の、ローターやロールからの排出されやすさ(ローターやロールへのゴムの密着性)を観察した。結果を表1または表2に示す。
(評価基準)
○:ゴムは、密着性が低く、排出されやすかった。
×:ゴムは、密着性が高く、排出しにくかった。
【0075】
[タイヤの評価]
<ウェットグリップ性>
それぞれのゴム組成物からなるトレッド部を有する、サイズ215/45R17のタイヤを作製した。このタイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、散水車によって路面を濡らしたウェットアスファルト路面のテストコースにて、10周の実車走行を行なった。ベストラップと最終ラップとの操舵時のコントロールの安定性を、テストドライバーが比較評価し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどウェット路面における安定したグリップ性が高いことを示す。結果を表1または表2に示す。
【0076】
<初期グリップ性>
それぞれのゴム組成物からなるトレッド部を有する、サイズ215/45R17のタイヤを作製した。このタイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて、10周の実車走行を行なった。2周目おける操舵時のコントロールの安定性を、テストドライバーが比較評価し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどドライ路面における初期グリップ性が高いことを示す。結果を表1または表2に示す。
【0077】
<安定したグリップ性>
それぞれのゴム組成物からなるトレッド部を有する、サイズ215/45R17のタイヤを作製した。このタイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて、10周の実車走行を行なった。ベストラップと最終ラップとの操舵時のコントロールの安定性を、テストドライバーが比較評価し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどドライ路面における安定したグリップ性が高いことを示す。結果を表1または表2に示す。
【0078】
<耐摩耗性>
それぞれのゴム組成物からなるトレッド部を有する、サイズ215/45R17のタイヤを作製した。このタイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて、10周の実車走行を行なった。タイヤトレッドゴムの残溝量を計測し(新品時8mm)、耐摩耗性を評価した。比較例1の残溝量を100として指数表示した。数値が大きいほど、耐摩耗性が高いことを示す。結果を表1または表2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1および表2に示されるように、本発明の実施例1~10のゴム組成物は、いずれも素材の分散性およびゴムの密着性が良好であった。また、実施例1~10のゴム組成物から構成されたトレッド部を備えたタイヤは、いずれも比較例1のゴム組成物より得られたタイヤと比べ、初期グリップ性、ウェットグリップ性、ドライグリップ性および耐摩耗性が優れた。
【0082】
一方、第1の樹脂成分、可塑材および第2の樹脂成分を含有しない比較例1のゴム組成物は、いずれの実施例のゴム組成物より得られたタイヤと比べ、初期グリップ性、ウェットグリップ性、ドライグリップ性および耐摩耗性が劣った。また、比較例1に対して充填剤である水酸化アルミニウムを添加した比較例2のゴム組成物より得られたタイヤは、耐摩耗性がさらに低下した。比較例1に対して第1の樹脂成分を添加した比較例3のゴム組成物は、ゴムの密着性が低下した。比較例1に対して第1の樹脂成分と第2の樹脂成分とを添加した比較例4のゴム組成物は、素材の分散性が低下した。また、このゴム組成物より得られたタイヤは、ウェットグリップ性および耐摩耗性が低下した。比較例1に対して充填剤である水酸化アルミニウムと第1の樹脂成分と第2の樹脂成分とを添加した比較例5のゴム組成物は、素材の分散性が低下した。また、このゴム組成物より得られたタイヤは、ウェットグリップ性および耐摩耗性が低下した。比較例1に対して第1の樹脂成分と可塑材とを添加した比較例6のゴム組成物は、ゴムの密着性が低下した。また、このゴム組成物より得られたタイヤは、ウェットグリップ性および安定したグリップ性が低下した。また、充填剤の配合量が5質量部未満であった比較例7のゴム組成物は、得られたタイヤの各種グリップ性が低下した。充填剤の配合量が200質量部を超えた比較例8のゴム組成物は、得られたタイヤの耐摩耗性が低下した。