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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20220208BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 501
B41J2/14 303
B41J2/045
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019508606
(86)(22)【出願日】2018-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2018001719
(87)【国際公開番号】W WO2018179706
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2017071993
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 章人
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-113529(JP,A)
【文献】特開2010-110969(JP,A)
【文献】特開2011-037257(JP,A)
【文献】特開2004-042395(JP,A)
【文献】特開平05-293960(JP,A)
【文献】特開2011-051274(JP,A)
【文献】国際公開第2016/150715(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/14
B41J 2/16
B41J 2/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するインク貯留部と、
前記インク貯留部に連通するノズル孔が設けられているノズル形成部材と、
入力された駆動信号に応じて前記インク貯留部内のインクの圧力を変動させる圧力変動動作を行う圧力変動部と、
前記インク貯留部内のインクを前記ノズル孔のインク吐出口から吐出させる前記圧力変動動作を行わせる前記駆動信号を前記圧力変動部に対して出力する駆動部と、
を備え、
前記ノズル孔は、一端が前記インク吐出口を形成する第1部分と、前記第1部分の他端に接続されている第2部分とからなり、
前記第2部分がテーパー形状であり、
前記第1部分及び前記第2部分は、前記インク吐出口がなすノズル面に平行な断面における断面積の分布が前記インク吐出口からの距離の増大に従って単調非減少となる形状を有して前記ノズル面に垂直なノズル軸方向に沿って延在し、かつ、前記第1部分及び前記第2部分の接続面における前記第1部分の第1の開口が、前記接続面における前記第2部分の第2の開口に包含される形状及び位置関係を有して接続されており、
前記駆動部は、前記ノズル孔の内部におけるインクの表面を前記ノズル軸方向について前記第2の開口よりも前記インク貯留部側に引き込む前記圧力変動動作を行わせる前記駆動信号を供給し、
前記第1の開口の中心を通り前記接続面に沿った任意の方向についての前記第1の開口の開口幅をD、当該開口幅の方向に沿った前記第1の開口の縁と前記第2の開口の縁との間の距離の最大値をLとした場合に、
0<L≦0.25D
を満たし、
前記第1部分は、
一端が前記インク吐出口を形成し、前記ノズル形成部材における内壁面が前記インク吐出口から前記ノズル軸方向に平行に延びている前方部と、
前記前方部の他端から前記第1の開口まで延び、前記インク吐出口からの距離の増大に従って前記断面積が単調増加する後方部と、
を有するインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記D及び前記Lが
0<L<0.15D
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1部分及び前記第2部分は、前記インク吐出口の中心を通り前記ノズル軸方向に平行な任意の断面において、前記ノズル形成部材における前記第2部分の内壁面が前記ノズル軸方向との間でなす角度の最小値が、前記ノズル形成部材における前記第1部分の内
壁面が前記ノズル軸方向との間でなす角度の最大値よりも大きくなる形状を有する請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記ノズル軸方向についての前記前方部の長さは、前記インク吐出口の中心を通り前記ノズル面に沿った任意の方向についての前記インク吐出口の開口幅の0.3倍以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記ノズル軸方向についての前記第1部分の長さは、前記インク吐出口の中心を通り前記ノズル面に沿った任意の方向についての前記インク吐出口の開口幅の1.5倍以下である請求項1からのいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記ノズル形成部材は、単一の部材からなる請求項1からのいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク貯留部内のインクの圧力を変動させることで、当該インク貯留部に連通するノズルのインク吐出口から記録媒体に対してインクを吐出して、当該記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置がある。インクジェット記録装置におけるノズルとしては、樹脂板などのノズル形成部材においてインク貯留部に連通するノズル孔を設けることで形成されたものが広く用いられている。
【0003】
このようなノズル形成部材が用いられたインクジェット記録装置では、ノズル孔のインク吐出口に平行な断面における断面積の分布が、インク吐出口からの距離の増大に従って単調非減少(広義単調増加)となる形状でノズル孔を設けることで、ノズル孔の内部をインク吐出口に向かって流動するインクが壁面から受ける抗力の影響を抑えてインクの吐出効率を向上させつつ、微小なインクを吐出させる技術がある(例えば、特許文献1)。さらに、ノズル孔を、一端がインク吐出口を形成する第1部分と、当該第1部分の他端に接続された第2部分とを有する形状とし、かつ、第1部分及び第2部分が接続される接続面において、第1部分の開口(第1の開口)が第2部分の開口(第2の開口)に包含されるような形状及び位置関係で各部分が接続された構造とすることで、上記接続面において棚状の段差(棚状部)が生じるようにしたノズルが知られている(例えば、特許文献2)。このようなノズルによれば、第1部分及び第2部分の形成位置に誤差が生じても、当該誤差が棚状部の幅内であれば第1部分の形状に影響が及ばないため、第1部分の形状に当初の設計からの差異が生じることに起因してインク吐出方向が曲がる不具合の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-237067号公報
【文献】特開2002-240294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、第1の開口の開口幅の大きさに対して、棚状部の幅、すなわち第1の開口の縁と第2の開口の縁との間の上記接続面に沿った距離が大き過ぎると、ノズル孔の内部におけるインクの表面(メニスカス)が第2の開口よりもインク貯留部側まで引き込まれた場合に、当該インクの表面の後退に伴ってノズル孔の内部に入った空気が気泡としてインクに取り込まれやすくなってしまう。ノズル孔の内部においてインクに気泡が取り込まれると、インク貯留部内のインクの圧力がノズル孔の内部のインクに適正に伝わらなくなるため、吐出インク量やインク吐出方向に係る異常が生じてインク吐出不良に繋がるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、インク吐出不良の発生を抑制することができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のインクジェット記録装置の発明は、
インクを貯留するインク貯留部と、
前記インク貯留部に連通するノズル孔が設けられているノズル形成部材と、
入力された駆動信号に応じて前記インク貯留部内のインクの圧力を変動させる圧力変動動作を行う圧力変動部と、
前記インク貯留部内のインクを前記ノズル孔のインク吐出口から吐出させる前記圧力変動動作を行わせる前記駆動信号を前記圧力変動部に対して出力する駆動部と、
を備え、
前記ノズル孔は、一端が前記インク吐出口を形成する第1部分と、前記第1部分の他端に接続されている第2部分とからなり、
前記第2部分がテーパー形状であり、
前記第1部分及び前記第2部分は、前記インク吐出口がなすノズル面に平行な断面における断面積の分布が前記インク吐出口からの距離の増大に従って単調非減少となる形状を有して前記ノズル面に垂直なノズル軸方向に沿って延在し、かつ、前記第1部分及び前記第2部分の接続面における前記第1部分の第1の開口が、前記接続面における前記第2部分の第2の開口に包含される形状及び位置関係を有して接続されており、
前記駆動部は、前記ノズル孔の内部におけるインクの表面を前記ノズル軸方向について前記第2の開口よりも前記インク貯留部側に引き込む前記圧力変動動作を行わせる前記駆動信号を供給し、
前記第1の開口の中心を通り前記接続面に沿った任意の方向についての前記第1の開口の開口幅をD、当該開口幅の方向に沿った前記第1の開口の縁と前記第2の開口の縁との間の距離の最大値をLとした場合に、
0<L≦0.25D
を満たし、
前記第1部分は、
一端が前記インク吐出口を形成し、前記ノズル形成部材における内壁面が前記インク吐出口から前記ノズル軸方向に平行に延びている前方部と、
前記前方部の他端から前記第1の開口まで延び、前記インク吐出口からの距離の増大に従って前記断面積が単調増加する後方部と、
を有する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記D及び前記Lが
0<L<0.15D
を満たす。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置において、
前記第1部分及び前記第2部分は、前記インク吐出口の中心を通り前記ノズル軸方向に平行な任意の断面において、前記ノズル形成部材における前記第2部分の内壁面が前記ノズル軸方向との間でなす角度の最小値が、前記ノズル形成部材における前記第1部分の内壁面が前記ノズル軸方向との間でなす角度の最大値よりも大きくなる形状を有する。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記ノズル軸方向についての前記前方部の長さは、前記インク吐出口の中心を通り前記ノズル面に沿った任意の方向についての前記インク吐出口の開口幅の0.3倍以下である。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1からのいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記ノズル軸方向についての前記第1部分の長さは、前記インク吐出口の中心を通り前記ノズル面に沿った任意の方向についての前記インク吐出口の開口幅の1.5倍以下である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1からのいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記ノズル形成部材は、単一の部材からなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従うと、インク吐出不良の発生を抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
図2】ヘッドユニットの内部構成を示す図である。
図3】記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
図4】インクジェット記録装置の主要な機能構成を示すブロック図である。
図5A】ノズルプレートに設けられたノズル孔の構成を示す図であり、ノズルプレートのXZ平面における断面図である。
図5B】第1の開口及び第2の開口をZ方向から見た平面図である。
図6】棚状部を設けることによるインク射出角度の曲がりの抑制効果を示すグラフである。
図7A】インク吐出動作のために供給される駆動信号の例を示す図である。
図7B】インク吐出動作のために供給される駆動信号の例を示す図である。
図8A】駆動信号の入力に応じた記録ヘッドの動作を説明する模式断面図である。
図8B】駆動信号の入力に応じた記録ヘッドの動作を説明する模式断面図である。
図8C】駆動信号の入力に応じた記録ヘッドの動作を説明する模式断面図である。
図9】第2の開口よりも圧力室側まで引き込まれたインクのメニスカスを示す図である。
図10】実施形態の効果を確認するためのシミュレーションの結果を示す図である。
図11A】ノズル孔においてインク内に気泡が巻き込まれる態様を示す模式図である。
図11B】ノズル孔においてインク内に気泡が巻き込まれる態様を示す模式図である。
図11C】ノズル孔においてインク内に気泡が巻き込まれる態様を示す模式図である。
図12】ノズル孔の形成方法を説明する図である。
図13】変形例に係るノズル孔の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のインクジェット記録装置に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態であるインクジェット記録装置1の概略構成を示す図である。
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、ヘッドユニット20などを備える。
【0018】
搬送部10は、図1のX方向に延びる回転軸を中心に回転する駆動ローラー101及び従動ローラー102により内側が支持された輪状の搬送ベルト103を備える。搬送部10は、搬送ベルト103の搬送面上に記録媒体Pが載置された状態で駆動ローラー101が図示略の搬送モーターの動作に応じて回転して搬送ベルト103が周回移動することで記録媒体Pを搬送ベルト103の移動方向(搬送方向;図1のY方向)に搬送する。
記録媒体Pとしては、紙や樹脂などのシート部材とすることができる。記録媒体Pは、図示略の給紙装置により搬送ベルト103上に供給され、ヘッドユニット20からインクが吐出されて画像が記録された後に搬送ベルト103から所定の排紙部に排出される。
【0019】
ヘッドユニット20は、搬送部10により搬送される記録媒体Pに対して画像データに基づいて適切なタイミングでインクを吐出して画像を記録する。本実施形態のインクジェット記録装置1では、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する4つのヘッドユニット20が記録媒体Pの搬送方向上流側からY,M,C,Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。なお、ヘッドユニット20の数は3つ以下又は5つ以上であってもよい。
【0020】
図2は、ヘッドユニット20の内部構成を示す図である。図2は、ヘッドユニット20を搬送ベルト103側から見た場合の構成を示す。
ヘッドユニット20は、搬送ベルト103に対向するインク吐出面にインクを吐出する複数のノズル孔40(ノズル)が各々設けられた複数の記録ヘッド30を有する。各記録ヘッド30では、複数のノズル孔40がX方向に沿って2列に配列されて2つのノズル列を構成しており、これら2つのノズル列は、X方向についてノズル孔40の配置間隔の2分の1だけ互いにずれた状態で配置されている。また、ヘッドユニット20では、記録ヘッド30が2つずつ組み合わされてヘッドモジュール30Mが構成され、このヘッドモジュール30Mが千鳥格子状に配列されている。各ヘッドモジュール30Mでは、2つの記録ヘッド30のノズル孔40がX方向について交互に配置されるような位置関係で記録ヘッド30が配置されている。このような記録ヘッド30の配置により、ヘッドユニット20に含まれるノズル孔40のX方向についての配置範囲が、搬送ベルト103により搬送される記録媒体Pのうち画像が形成可能な領域のX方向の幅(記録可能幅)をカバーするようになっている。ヘッドユニット20は、画像の記録時には位置が固定されて用いられ、記録媒体Pの搬送に応じて搬送方向の異なる位置に所定の間隔(搬送方向間隔)で順次インクを吐出していくことで、シングルパス方式で画像を記録する。
【0021】
図3は、記録ヘッド30の構成を示す分解斜視図である。なお、図3では、記録ヘッド30におけるノズル列の数が一列に、またノズル孔40の数が7個に省略されて描かれている。
記録ヘッド30は、インクを貯留する圧力室38(インク貯留部)が複数形成されたインク吐出基板31を有している。インク吐出基板31の端面には、複数のノズル孔40が設けられたノズルプレート33が接着されている。ノズル孔40は、インク吐出基板31の圧力室38と連通しており、圧力室38に貯留されたインクが吐出されるようになっている。インク吐出基板31のノズルプレート33側の上部にはカバープレート32が取り付けられている。
ノズルプレート33としては、レーザー光により容易にアブレーション可能な材料、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリサルフォンなどの樹脂基板を用いることができる。本実施形態では、ポリイミド基板からなるノズルプレート33が用いられている。
【0022】
インク吐出基板31は、2枚の基板34,35が接着部36を介して互いに接着された構造を有している。基板34,35は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料から構成されており、厚さ方向において互いに逆方向に分極されている。インク吐出基板31には互いに等しい間隔をあけた状態で複数の圧力室38が形成されており、各圧力室38の間に圧電材料からなる隔壁37(圧電素子)が形成されている。各圧力室38の側壁(隔壁37の表面)には、電極371(図8A図8C)が設けられており、隔壁37は、隣接する圧力室38の電極371間に印加された電圧に応じて接着部36を中心として屈曲(せん断変形)する。記録ヘッド30は、ヘッド駆動部39(図4)から電極371に対して所定の駆動波形の電圧信号(以下では、駆動信号と記す)が入力されると、当該駆動信号における駆動電圧の変化に応じて隔壁37がせん断変形し、これにより圧力室38内に圧力変化を生じさせてノズル孔40からインクを吐出する。このように、本実施形態の記録ヘッド30は、圧電素子の分極方向と直交する方向に電界を加えて発生するせん断(シェア)応力によりノズル孔40からインクを吐出するせん断モード(シェアモード)のインク吐出機構を有するインクジェットヘッドである。本実施形態では、記録ヘッド30のうち、電極371が設けられた隔壁37により圧力変動部が構成され、駆動信号に応じた隔壁37のせん断変形が圧力変動動作に対応する。
【0023】
なお、記録ヘッド30におけるインク吐出機構の構成は、上記のシェアモードのものに限られない。例えば、ピエゾを用いた圧力室の壁面の薄膜振動によるベンドモードのインク吐出機構や、インクを加熱して気泡を発生させることによってインクを吐出する方式のインク吐出機構が用いられてもよい。
【0024】
図4は、インクジェット記録装置1の主要な機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、制御部50と、ヘッド制御部301及びヘッド駆動部39を有するヘッドユニット20と、搬送駆動部61と、入出力インターフェース62と、バス63などを備える。
【0025】
制御部50は、CPU51(Central Processing Unit)、RAM52(Random Access Memory)、ROM53(Read Only Memory)及び記憶部54を有する。
【0026】
CPU51は、ROM53に記憶された各種制御用のプログラムや設定データを読み出してRAM52に記憶させ、当該プログラムを実行して各種演算処理を行う。また、CPU51は、インクジェット記録装置1の全体動作を統括制御する。
【0027】
RAM52は、CPU51に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。RAM52は、不揮発性メモリーを含んでいてもよい。
【0028】
ROM53は、CPU51により実行される各種制御用のプログラムや設定データ等を格納する。なお、ROM53に代えてEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリー等の書き換え可能な不揮発性メモリーが用いられてもよい。
【0029】
記憶部54には、入出力インターフェース62を介して外部装置2から入力されたプリントジョブ(画像記録命令)及び当該プリントジョブに係る画像データなどが記憶される。記憶部54としては、例えばHDD(Hard Disk Drive)が用いられ、また、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などが併用されてもよい。
【0030】
ヘッド制御部301は、制御部50からの制御信号に応じた適切なタイミングで、記録ヘッド30に設けられたヘッド駆動部39に対して各種制御信号や画像データを出力する。ここで、制御信号には、ヘッド駆動部39から上述のインク吐出機構における隔壁37に対して供給する駆動信号に係る駆動波形を指定する信号が含まれる。
ヘッド駆動部39は、ヘッド制御部301から入力される制御信号や画像データに応じて記録ヘッド30の隔壁37に設けられた電極371に対して駆動信号を供給することで、ノズル孔40からインクを吐出させる。詳しくは、ヘッド駆動部39は、複数の駆動信号の駆動波形データが記憶された波形データ記憶部を有し、ヘッド制御部301からの制御信号及び画像データに応じて複数の駆動波形から一の駆動波形を選択して駆動信号を隔壁37の電極371に供給する。
【0031】
搬送駆動部61は、制御部50から供給される制御信号に基づいて図示しない搬送モーターに駆動信号を供給して駆動ローラー101を回転動作させ、これにより搬送ベルト103を所定の速度で周回移動させる。
【0032】
入出力インターフェース62は、外部装置2と制御部50との間のデータの送受信を媒介する。入出力インターフェース62は、例えば各種シリアルインターフェース、各種パラレルインターフェースのいずれか又はこれらの組み合わせで構成される。
【0033】
バス63は、制御部50と他の構成との間で信号の送受信を行うための経路である。
【0034】
外部装置2は、例えばパーソナルコンピューターであり、入出力インターフェース62を介してプリントジョブ及び画像データ等を制御部50に供給する。
【0035】
次に、記録ヘッド30におけるノズル孔40の構成を詳細に説明する。
図5A及び図5Bは、ノズルプレート33に設けられたノズル孔40の構成を示す図である。
図5Aは、ノズルプレート33のXZ平面における断面図である。図5Aに示されるように、ノズル孔40は、単一の部材(ポリイミド基板)からなるノズルプレート33に設けられた貫通孔により構成される。図5Aにおけるノズル孔40の下方の端部はインク吐出口40aであり、上方の端部は、圧力室38に連通している。ノズル孔40は、インク吐出口40aがなす面(以下では、ノズル面と記す)に垂直なZ方向(ノズル軸方向)に延在している。
【0036】
ノズル孔40は、インク吐出口40aがなすノズル面に平行な断面(すなわち、Z方向に垂直な断面)における断面積の分布が、インク吐出口40aからの距離の増大に従って単調非減少(広義単調増加)となるように、すなわちインク吐出口40aからの距離の増大に従って断面積が減少する箇所がない形状で設けられている。また、ノズル孔40は、一端がインク吐出口40aを形成する第1部分41と、第1部分41の他端(インク吐出口40a側とは反対側の端部)に接続された第2部分42とからなる。本実施形態では、ノズルプレート33の厚さは200[μm]であり、インク吐出口40aの直径dは20[μm]となっている。また、第1部分41のZ方向についての長さAは、インク吐出口40aの直径dの1.5倍以下となる範囲内とすることが望ましく、本実施形態の長さAは15[μm]となっている。
ここで、インク吐出口40aが円形以外である場合における上記長さAの規定では、直径dに代えて、インク吐出口40aの面積重心(中心)を通る開口幅の最小値が用いられる。すなわち、長さAは、インク吐出口40aの面積重心を通りノズル面に沿った任意の方向についてのインク吐出口40aの開口幅の1.5倍以下の範囲内とされる。
なお、図5Aでは、第1部分41の形状が分かりやすくなるよう、第2部分42(及びノズルプレート33)のZ方向についての長さが縮小して描かれている。
【0037】
第1部分41は、インク吐出口40aの中心を通りZ方向に平行な平面内において、ノズルプレート33における当該第1部分41の内壁面がZ方向との間で角度θ1をなすようなテーパー形状を有している。また、第2部分42は、インク吐出口40aの中心を通りZ方向に平行な平面内において、ノズルプレート33における当該第2部分42の内壁面がZ方向との間で角度θ1よりも大きい角度θ2をなすようなテーパー形状を有している。すなわち、第2部分42は、第1部分41よりも傾斜角が大きいテーパー形状を有している。本実施形態では、角度θ1は約4度、角度θ2は約36度となっている。図5Aでは、XZ平面内での内壁面の角度が示されているが、インク吐出口40aの中心を通りZ方向に平行な任意の他の断面においても、第2部分42は、第1部分41よりも傾斜角が大きいテーパー形状を有している。
【0038】
第1部分41及び第2部分42は、ノズル面に平行な接続面Sにおいて接続されている。また、第1部分41及び第2部分42は、接続面Sにおける第1部分41の第1の開口41aが、接続面Sにおける第2部分42の第2の開口42aの範囲内に包含される形状及び位置関係を有して接続されている。これにより、接続面Sでは、棚状の段差が形成されて棚状部T(テラス部)が設けられている。
【0039】
図5Bは、第1の開口41a及び第2の開口42aをZ方向から見た平面図である。図5Bに示されるように、第1の開口41aの縁は、円形をなし、第2の開口42aの縁は、4つの頂点が丸みを帯びた正方形をなしている。これらの第1の開口41aの縁及び第2の開口42aの縁の間の領域が、棚状部Tを構成する。この棚状部Tは、接続面Sの面内にあり、したがってノズル面に平行となっている。
以下では、第1の開口41aの中心を通り接続面Sに沿った方向についての第1の開口41aの開口幅(本実施形態では、第1の開口41aがなす円の直径)をD(以下では、開口幅Dとも記す)、当該開口幅の方向に沿った前記第1の開口41aの縁と第2の開口42aの縁との間の距離の最大値をL(以下では、棚状部Tの幅Lとも記す)とする。
【0040】
本実施形態のノズル孔40は、棚状部Tが設けられることで、第1部分41及び第2部分42の形成位置に誤差が生じた場合に、第1部分41の形状に影響が及びにくくなっている。すなわち、第1部分41及び第2部分42のXY平面内での相対的な位置ずれ量が棚状部Tの幅内であれば、棚状部Tの形状は変動するものの、第1の開口41aが接続面Sにおいて第2の開口42aに包含される状態が維持されるため、第1部分41の形状自体には影響が及ばない。このように、第1部分41の形状が変動しにくいことで、第1部分41及び第2部分42の形成位置のずれが生じた場合におけるノズル孔40から吐出されるインクの射出角度の曲がりを生じにくくすることができる。
【0041】
図6は、棚状部Tを設けることによるインク射出角度の曲がりの抑制効果を示すグラフである。
図6における曲線C1,C2,C3は、それぞれ、ノズル孔40において、棚状部Tを設けない場合、幅Lが2[μm]で均等である棚状部Tを設けた場合、及び幅Lが6[μm]で均等である棚状部Tを設けた場合の各々において、第1部分41及び第2部分42の相対的な位置ずれ量に対するインク射出角度の曲り量を示すものである。
【0042】
図6の曲線C1に示されるように、棚状部Tを設けない場合には、第1部分41及び第2部分42の相対的な位置ずれに応じてインク射出角度の曲り量が急激に増大していく。これは、棚状部Tが設けられていない場合、第1部分41と第2部分42との間で位置ずれが生じると、第1部分41と第2部分42との接続面がノズル面に対して傾斜するため、第1部分41内にインクが流入する向きがZ方向以外の成分を含んでしまうことに起因する。
【0043】
他方で、図6の曲線C2,C3に示されるように、棚状部Tを設けた場合には、第1部分41及び第2部分42の相対的な位置ずれ量に対するインク射出角度の曲り量が大幅に低減される。これは、上述のように、第1部分41と第2部分42との間での位置ずれが棚状部Tの形状の変動により吸収されて、接続面Sがノズル面に対して平行となる状態が維持されやすいためである。インク射出角度の曲りの低減効果は、棚状部Tの幅Lを増大させるほど大きくなる。
【0044】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1における駆動信号に応じた記録ヘッド30のインク吐出動作、及び当該インク吐出動作におけるノズル孔40内でのインクの挙動について説明する。
【0045】
図7A及び図7Bは、それぞれ、インク吐出動作のためにヘッド駆動部39から隔壁37の電極371に供給される駆動信号の例を示す図である。
また、図8A図8B及び図8Cは、駆動信号の入力に応じた記録ヘッド30の動作を説明する模式断面図であり、ノズルプレート33に平行な平面での記録ヘッド30の断面を示す。図8A図8B及び図8Cでは、隣接する3つの圧力室38A~38Cが描かれており、以下では、このうち中央の圧力室38Bからインクを吐出する場合の動作を説明する。図8Aは、各電極371A,371B,371Cが接地電位とされた中立状態を示している。
【0046】
図7Aに示される駆動信号は、時間t0から時間t1まで印加される電圧V1の膨張パルスp1を有する。ここで、膨張パルスp1の印加時間(t1-t0)は、圧力室38内における圧力波の音響的固有振動数に対応する共振周期の1/2とされる。
図7Aの駆動信号の電極371への供給が開始されると、膨張パルスp1の印加に応じて、図8Bに示されるように、電極371Bに電圧V1が供給され、電極371A,371Cが接地電位とされることで、圧力室38Bを挟む隔壁37がせん断変形して圧力室38Bの容積が膨張する。これにより、圧力室38内のインクの圧力が減少する。そして、時間t1において膨張パルスp1の印加が終了して各電極371A,371B,371Cが接地電位とされると、図8Bの状態から図8Aの状態に遷移することで、圧力室38の体積が収縮して圧力室38内のインクの圧力が増大する。このインクの圧力により、ノズル孔40のインク吐出口40aからインクが吐出される。
このように、図7Aの駆動信号によれば、圧力室38内のインクの圧力を減少させた後で増大させる隔壁37の一連の動作(圧力変動動作)が行われることで、圧力室38内のインクがノズル孔40から吐出される。
【0047】
また、図7Bに示される駆動信号は、時間t0から時間t1まで印加される上記の電圧V1の膨張パルスp1と、時間t1から時間t2まで印加される電圧-V2の収縮パルスp2とからなる。ここで、収縮パルスp2の印加時間(t2-t1)は、膨張パルスp1の印加時間の2倍であり、また、電圧-V2の絶対値は、電圧V1の絶対値の1/2である。
図7Bの駆動信号が隔壁37に供給されると、図8Bに示されるように、膨張パルスp1の立ち上がりに応じて圧力室38の体積が膨張する方向に隔壁37が変形し、圧力室38内のインクの圧力が減少する。そして、収縮パルスp2の印加が開始されると、図8Cに示されるように、電極371Bに電圧-V2が供給され、電極371A,371Cが接地電位とされることで、圧力室38Bを挟む隔壁37がせん断変形して圧力室38Bの容積が図8Aの中立状態からさらに収縮する。これにより、圧力室38内のインクの圧力が増大し、このインクの圧力によりノズル孔40のインク吐出口40aからインクが吐出される。
このように、図7Bの駆動信号によっても、圧力室38内のインクの圧力を減少させた後で増大させる隔壁37の一連の動作(圧力変動動作)が行われることで、圧力室38内のインクがノズル孔40から吐出される。
【0048】
より具体的には、図7A又は図7Bの駆動信号の印加により隔壁37の圧力変動動作が開始されると、まず膨張パルスp1の印加による圧力室38内のインクの圧力の減少に応じて、ノズル孔40内のインクの表面(メニスカス)が圧力室38側に引き込まれて後退する。そして、図7Aの駆動信号では膨張パルスp1の印加終了によって、また図7Bの駆動信号では収縮パルスp2の印加開始によって、圧力室38内のインクの圧力が増大すると、これに応じてノズル孔40内のインクのメニスカスがZ方向についてインク吐出口40a側に押し出され、一部のインクがインク液滴としてインク吐出口40aから吐出される。なお、インクのメニスカスの挙動は、必ずしも駆動信号におけるパルスの印加期間と同期した動きになるとは限らず、パルスの印加前において既に生じていたインクの流れに応じた慣性や、ノズル孔40内での圧力分布などに応じて、各パルスの印加前後においてもZ方向に移動し得る。
【0049】
ここで、本実施形態のインクジェット記録装置1では、上述のインク吐出動作におけるインクのメニスカスの一連の挙動のうち、当該メニスカスが圧力室38側に引き込まれるときのメニスカスのZ方向についての位置は、第2部分42における第2の開口42aよりも圧力室38側まで後退するようになっている。換言すれば、隔壁37の圧力変動動作に応じて、ノズル孔40内のインクのメニスカスがZ方向について第2の開口42aよりも圧力室38側に引き込まれるような駆動信号がインク吐出に用いられている。
【0050】
図9は、第2の開口42aよりも圧力室38側まで引き込まれたインクInのメニスカスMを示す図である。
インクInのメニスカスMが第2の開口42aよりも圧力室38側まで引き込まれると、メニスカスMが存在し得る範囲が第2部分42の内部まで拡大されるため、メニスカスMが広がりやすくなる。このため、第2部分42の内部に入ったメニスカスMに対して当該メニスカスMをインク吐出口40a方向に押し戻す適切なインクの圧力がかからないと、メニスカスMが第2部分42内に深く入り込んでしまう。この結果、メニスカスMが気泡を巻き込んで、当該気泡がインクInの内部に取り込まれる不具合が発生する。インクInの内部に気泡が取り込まれると、圧力室38内のインクの圧力がノズル孔40内のインクInに適正に伝わらなくなるため、吐出インク量やインク吐出方向に係る異常が生じてインク吐出不良に繋がる。
【0051】
これに対し、本実施形態のノズル孔40では、上述した第1の開口41aの開口幅D及び棚状部Tの幅Lが以下の式(1)を満たすようにノズル孔40を形成することで、上述のような不具合の発生が抑制される。
0<L≦0.25D …(1)
例えば、図5Aに示されるX方向に平行な方向についての第1の開口41aの開口幅Dは21[μm]、第2の開口42aの開口幅Wは25[μm]であり、当該方向についての棚状部Tの幅Lは2[μm]となっている。また、図5Aでは示されていないが、第1の開口41aの中心を通る任意の方向について、開口幅Dと棚状部Tの幅Lとが上記式(1)を満たしている。
【0052】
式(1)のように棚状部Tの幅Lの上限を制限することで、第1部分41の内壁面のうち棚状部Tに繋がる部分の位置と、第2部分42の内壁面のうち棚状部Tに繋がる部分の位置とが接続面Sに沿った方向について極端に離隔しないようにすることができる。これにより、第1部分41から第2部分42の内部に入ったメニスカスMの拡大可能範囲が急激に広がることが抑制される。メニスカスMの拡大可能範囲が抑えられることで、メニスカスMに及ぼされるインクInからの圧力が分散されにくくなり、メニスカスMの各部がインクInから受ける圧力の低減が抑制される。特に、第2部分42の内部に入ったメニスカスMに対して、図9の矢印に示されるように、第2部分42の内壁面に沿ったインクInの圧力がかかりやすい状態とすることができる。この結果、メニスカスMが第2部分42に深く入り込んで気泡を巻き込み、当該気泡がインクIn内に取り込まれる不具合の発生が抑制される。
【0053】
また、上記の式(1)に代えて、第1の開口41aの開口幅Dと、棚状部Tの幅Lとが下記の式(2)を満たすようにノズル孔40を形成することで、より確実に上述の不具合の発生が抑制される。
0<L<0.15D …(2)
【0054】
なお、本実施形態では、第1部分41における第1の開口41aが円形である例を用いているが、第1の開口41aの形状はこれに限られず、例えば楕円形や多角形(頂点が丸みを帯びているものを含む)などであってもよい。第1の開口41aが円形以外である場合には、上記式(1)及び式(2)におけるD及びLは、第1の開口41aの面積重心(中心)を通る方向に沿って算出する。また、一の方向についての一対の棚状部Tの幅が互いに異なる場合には、当該一対の棚状部Tの幅のうち大きい方(最大値)をLとする。
【0055】
次に、本実施形態の効果を確認するために行ったシミュレーションの結果について説明する。
図10は、本実施形態の効果を確認するためのシミュレーションの結果を示す図である。ここでは、図5Aに示される、第1の開口41aの開口幅Dが21[μm]であるノズル孔40において、棚状部Tの幅Lを0[μm]から10[μm]まで7段階に変えたときのノズル孔40内におけるインクの挙動を流体シミュレーションにより解析した。シミュレーションでは、インク吐出動作のうち、メニスカスMがノズル孔40の第2部分42において最も圧力室38側まで引き込まれるときの気泡の巻き込みの有無を解析した。図10では、気泡の巻き込みの解析結果が、「○」、「△」、「×」で示されている。
【0056】
図11A図11B及び図11Cは、ノズル孔40においてインク内に気泡が巻き込まれる態様を示す模式図である。
図11Aは、第2部分42内においてインクlnのメニスカスMが安定的に保持され気泡の巻き込みがない場合の例が示されている。図10では、このような解析結果が得られた場合を「〇」で示している。
図11Bは、第2部分42内においてメニスカスMが保持されるが、一定の確率で不安定となり気泡の巻き込みが生じ得る場合の例が示されている。図10では、このような解析結果が得られた場合を「△」で示している
図11Cは、第2部分42内においてメニスカスMが潰れて(壊れて)気泡の巻き込みが生じる場合の例が示されている。図10では、このような解析結果が得られた場合を「×」で示している。
【0057】
図10に示されるように、第1の開口41aの開口幅Dに対する棚状部Tの幅Lの割合(L/D)が0.25を超えると、メニスカスMが潰れて気泡の巻き込みが生じる結果(「×」)となった。
一方、L/Dが0.25以下である範囲内では、気泡の巻き込みの解析結果は「△」又は「〇」であり、第2部分42内においてメニスカスMが保持されて気泡の巻き込みを一定程度の範囲内に抑えることができることが分かった。
特に、L/Dが0.15未満である範囲内では、第2部分42内においてメニスカスMが安定的に保持され気泡の巻き込みが生じない結果(「〇」)となった。
【0058】
これらの結果から、第1の開口41aの開口幅Dと、棚状部Tの幅Lとが上記の式(1)を満たすようにノズル孔40を形成することで、ノズル孔40内のインクへの気泡の巻き込みを一定程度の範囲内に抑えることができ、さらに式(2)を満たすようにノズル孔40を形成することで、より確実に気泡の巻き込みを抑制可能となることが確認された。
【0059】
次に、ノズル孔40の形成方法について説明する。
上述の構成を有するノズル孔40は、特には限られないが、例えば以下の方法で形成することができる。
【0060】
図12は、ノズル孔40の形成方法を説明する図である。
図12のノズル孔40の形成方法では、まず、インク吐出口40aの開口形状に対応する大きさの透過穴を有するマスク70を介して厚さ200[μm]のポリイミド基板からなるノズルプレート33にレーザー(ここでは、エキシマレーザー)を照射することで、ノズルプレート33を貫通する貫通孔を形成する(図12のS1)。これにより、ノズルプレート33にインク吐出口40aが形成される。ここで、レーザーのエネルギー密度を調整することで、レーザーの入口側の開口から出口側の開口(インク吐出口40a)にかけてテーパー形状を有する貫通孔を形成することができる。
次に、第2の開口42aの開口形状に対応する大きさの透過穴を有するマスク70を、当該透過穴がインク吐出口40aの開口と同心となる位置に配置して、マスク70を介してノズルプレート33にレーザーを照射し、深さ185[μm]まで穿孔する。これにより、第1部分41の形状を確定させるとともに、棚状部Tを形成する(図12のS2)。
その後、マスク70の透過穴の面積を第2部分42の圧力室38側の開口形状まで変化させながらレーザーを照射することで、第2部分42の内壁面がテーパー形状となるように加工する(図12のS3)。
なお、図12のS3に示す工程では、開口形状が異なる複数のマスク70を順次適用してレーザーを照射することで内壁面をテーパー形状に加工してもよい。また、図12のS1における貫通孔の形成時においても、図12のS3と同様の方法でテーパー形状の加工を行ってもよい。また、上記では、第1部分41を形成した後に第2部分42を形成したが、第2部分42の形成を先に行ってもよい。また、上記方法に代えて、円錐形状や四角錐形状のポンチによる打ち抜き加工によって第1部分41及び第2部分42をそれぞれ形成してもよい。
【0061】
このような形成方法では、図12のS1におけるマスク70の透過穴の軸と図12のS2におけるマスク70の透過穴の軸がずれる不具合が生じ得るが、ノズル孔40が棚状部Tを有する構成とすることで、当該軸ずれが生じても、第1部分41及び第2部分42の接続面Sがノズル面と平行な状態に維持されて第1部分41の形状が変動しにくいため、インク射出方向が曲る不具合の発生を抑制することができる。
【0062】
なお、記録ヘッド30においてベンドモードのインク吐出機構が用いられている場合には、ノズルプレート33としてシリコン基板が好適に用いられる。シリコン基板を用いる場合には、例えば以下の方法でノズル孔40を形成することができる。
すなわち、まず表裏両面に熱酸化膜が形成された厚さ200[μm]のシリコン基板の一方の面にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィー処理により、第2部分42の圧力室38側の開口形状に対応するフォトレジストパターンを形成する。このフォトレジストパターンを用いて熱酸化膜をエッチングすることで、熱酸化膜によるエッチングマスクパターンを形成する。そして、当該エッチングマスクパターンを用いて、異方性ドライエッチングにより深さ185[μm]までシリコン基板をエッチングして第2部分42を形成する。
次に、シリコン基板の他方の面にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィー処理により、上記第2部分42の開口と同心となる位置に、インク吐出口40aの開口形状に対応するフォトレジストパターンを形成する。このフォトレジストパターンを用いて熱酸化膜をエッチングすることで、熱酸化膜によるエッチングマスクパターンを形成する。そして、当該エッチングマスクパターンを用いて、異方性ドライエッチングにより第2部分42に貫通するまでシリコン基板をエッチングして第1部分41を形成する。
この方法に用いるシリコン基板としては、第1部分41と第2部分42との境界位置にエッチングストッパーとしてのシリコン酸化膜が積層されたものを用いてもよい。これにより、第2部分42を形成するエッチングの深さを正確に制御することができる。また、ドライエッチングに代えてウェットエッチングによりノズル孔40を形成してもよい。
【0063】
(変形例)
続いて、上記実施形態の変形例について説明する。本変形例は、ノズル孔40における第1部分41の形状が上記実施形態と異なる。以下では、上記実施形態との相違点について説明する。
【0064】
図13は、本変形例に係るノズル孔40の構成を示す図である。
本変形例のノズル孔40は、一端がインク吐出口40aを形成し、ノズルプレート33における内壁面がインク吐出口40aからZ方向に平行に延びているストレート部411(先端部)と、ストレート部411の他端から第1の開口41aまで延び、インク吐出口40aからの距離の増大に従って断面積が単調増加する(すなわち、内壁面がテーパー形状を有する)テーパー部412(後端部)とを有する。このうちテーパー部412の内壁面のZ方向からの傾斜角は、第2部分42の内壁面のZ方向からの傾斜角よりも小さくなっている。
また、ストレート部411のZ方向についての長さA1は、インク吐出口40aの直径dの0.3倍以下となる範囲内とすることが望ましく、本実施形態の長さA1は、5[μm]となっている。
なお、インク吐出口40aが円形以外である場合における上記長さA1の規定では、直径dに代えて、インク吐出口40aの面積重心(所定の中心)を通る開口幅の最小値が用いられる。すなわち、長さA1は、インク吐出口40aの面積重心を通りノズル面に沿った任意の方向についてのインク吐出口40aの開口幅の0.3倍以下の範囲内とされる。
【0065】
このように、第1部分41におけるインク吐出口40a側の先端にストレート部411を設けることで、インク吐出口40aから吐出される直前のインクがストレート部411に沿って移動するため、インクの射出角度が曲る不具合の発生が抑制される。
なお、第2部分42についても、内壁面のZ方向からの傾斜角度が異なる2以上の部分を有する構成としてもよい。この場合には、第2部分42における内壁面の傾斜角度の最小値が、第1部分41における内壁面の傾斜角度の最大値よりも大きくなるようにノズル孔40を形成すればよい。
【0066】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、インクを貯留する圧力室38と、圧力室38に連通するノズル孔40が設けられているノズルプレート33と、入力された駆動信号に応じて圧力室38内のインクの圧力を変動させる圧力変動動作を行う隔壁37と、圧力室38内のインクをノズル孔40のインク吐出口40aから吐出させる圧力変動動作を行わせる駆動信号を隔壁37に対して出力するヘッド駆動部39と、を備え、ノズル孔40は、一端がインク吐出口40aを形成する第1部分41と、第1部分41の他端に接続されている第2部分42とからなり、第1部分41及び第2部分42は、インク吐出口40aがなすノズル面に平行な断面における断面積の分布がインク吐出口40aからの距離の増大に従って単調非減少となる形状を有してノズル面に垂直なZ方向(ノズル軸方向)に沿って延在し、第1部分41及び第2部分42の接続面Sにおける第1部分41の第1の開口41aが、接続面Sにおける第2部分42の第2の開口42aに包含される形状及び位置関係を有して接続されていることで棚状部Tを形成しており、ヘッド駆動部39は、ノズル孔40の内部におけるインクの表面をZ方向について第2の開口42aよりも圧力室38側に引き込む圧力変動動作を隔壁37に行わせる駆動信号を供給し、第1の開口41aの中心を通り接続面Sに沿った任意の方向についての第1の開口41aの開口幅をD、当該開口幅の方向に沿った第1の開口41aの縁と第2の開口42aの縁との間の距離の最大値をLとした場合に、
0<L≦0.25D …(1)
を満たす。
このように棚状部Tの幅Lの上限を制限することで、接続面Sに繋がる第1部分41の内壁面の位置と、第2部分42の内壁面の位置とが接続面Sに沿った方向について極端に離隔しないようにすることができる。これにより、第1部分41から第2部分42の内部に入ったメニスカスMの拡大可能範囲が急激に広がることが抑制される。メニスカスMの拡大可能範囲が抑えられることで、メニスカスMに及ぼされるインクからの圧力が分散されにくくなり、メニスカスMの各部がインクから受ける圧力の低減を抑制することができる。特に、第2部分42の内部に入ったメニスカスMに対して、第2部分42の内壁面に沿ったインクの圧力がかかりやすくなることで、メニスカスMの形状を維持しやすくすることができる。この結果、メニスカスMが第2部分42に深く入り込んで気泡を巻き込み、当該気泡がインク内に取り込まれる不具合の発生を抑制することができる。
また、ノズル孔40に棚状部Tが設けられることで、第1部分41及び第2部分42の形成位置に誤差が生じた場合に、第1部分41の形状に影響が及ぶ不具合の発生を抑制することができる。すなわち、第1部分41及び第2部分42のXY平面内での相対的な位置ずれ量が棚状部Tの幅の範囲内であれば、棚状部Tの形状は変動するものの、第1部分41及び第2部分42の接続面Sがノズル面と平行な状態で維持されるため、第1部分41の形状自体には影響が及ばないこととなる。これにより、第1部分41及び第2部分42の形成位置のずれが生じた場合における、第1部分41の形状の当初の設計からの変動を抑制することができるため、ノズル孔40からのインク射出角度の曲がりを生じにくくすることができる。
【0067】
また、第1の開口41aの開口幅D及び棚状部Tの幅Lが
0<L<0.15D …(2)
を満たすようにノズル孔40が設けられることで、ノズル孔40においてインク内に気泡が巻き込まれて取り込まれる不具合の発生をより確実に抑制することができる。
【0068】
また、第1部分41及び第2部分42は、インク吐出口40aの中心を通りZ方向に平行な任意の断面において、ノズルプレート33における第2部分42の内壁面がZ方向との間でなす角度の最小値が、ノズルプレート33における第1部分41の内壁面がZ方向との間でなす角度の最大値よりも大きくなる形状を有する。このような構成により、ノズル孔40内をZ方向に進行するインクがノズル孔40の壁面から受ける抗力(粘性抵抗)を低減させて効率良くインクを吐出することができる。このため、より小さな電圧振幅のパルスからなる駆動信号によりインク吐出動作を行わせることができる。また、このような構成では、インクのメニスカスMがノズル孔40の第2部分42の内部に入った場合に、メニスカスMが広がりやすくなるが、ノズル孔40が上記の式(1)又は式(2)を満たすように形成されることで、メニスカスMの形状を維持しやすくすることができる。よって、インク内に取り込まれる不具合の発生を効果的に抑制することができる。
【0069】
また、変形例における第1部分41は、一端がインク吐出口40aを形成し、ノズルプレート33における内壁面がインク吐出口40aからZ方向に平行に延びているストレート部411と、ストレート部411の他端から第1の開口41aまで延び、インク吐出口40aからの距離の増大に応じて断面積が単調増加するテーパー部412と、を有する。これにより、インク吐出口40aから吐出される直前のインクがストレート部411に沿って移動するため、インクの射出角度が曲る不具合の発生をより確実に抑制することができる。
【0070】
また、Z方向についてのストレート部411の長さは、インク吐出口40aの中心を通りノズル面に沿った任意の方向についてのインク吐出口40aの開口幅(上記実施形態では、直径d)の0.3倍以下である。ストレート部411は、微小なインク液滴を吐出するために狭く設けられているインク吐出口40aと同径の狭小な経路であるため、ストレート部411を通過するインクは、壁面から受ける抗力の影響を受けやすいが、ストレート部411の長さを上記の範囲内に制限することで、当該抗力の影響を抑えて効率良くインクを吐出することができる。
【0071】
また、Z方向についての第1部分41の長さは、インク吐出口40aの中心を通りノズル面に沿った任意の方向についてのインク吐出口40aの開口幅(上記実施形態では、直径d)の1.5倍以下である。第1部分41は、第2部分42よりも断面積が小さく、第1部分41を通過するインクは、第2部分42よりも壁面から受ける抗力の影響を受けやすいが、第1部分41の長さを上記の範囲内に制限することで、当該抗力の影響を抑えて効率良くインクを吐出することができる。
【0072】
また、本実施形態のノズルプレート33は、単一の部材からなる。第1部分41が形成されたプレートと第2部分42が形成されたプレートとを接着剤で貼り合わせる構成では、ノズル孔40内の棚状部Tの位置に接着剤が侵入する問題が生じるが、上記のようにノズルプレート33を単一の部材により構成することで、このような問題が生じないようにすることができる。この結果、接着剤の影響でインクの吐出量や飛翔方向に異常が発生するのを抑制することができる。
【0073】
なお、本発明は、上記実施形態及び変形例に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、インク吐出動作のために供給される駆動信号は、図7A及び図7Bに示したもの限られず、駆動信号の印加による圧力室38内のインク圧力の変動に応じて、ノズル孔40内のインクのメニスカスが第2の開口42aよりも圧力室38側に引き込まれるような任意の駆動信号を用いることができる。例えば、膨張パルス及び収縮パルスの少なくとも一方が複数組み合わされた駆動信号であってもよい。
【0074】
また、ノズル孔40における第1部分41及び第2部分42の形状は、上記実施形態及び変形例に記載したものに限られない。例えば、第1部分41及び第2部分42の少なくとも一方における内壁面がZ方向と平行なストレート形状を有していてもよい。また、第1部分41及び第2部分42の少なくとも一方における内壁面が段差や凹凸を有していてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、シングルパス形式のインクジェット記録装置1を例に挙げて説明したが、記録ヘッドを走査させながら画像の記録を行うインクジェット記録装置に本発明を適用してもよい。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、インクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 インクジェット記録装置
2 外部装置
10 搬送部
101 駆動ローラー
102 従動ローラー
103 搬送ベルト
20 ヘッドユニット
30 記録ヘッド
30M ヘッドモジュール
301 ヘッド制御部
31 インク吐出基板
32 カバープレート
33 ノズルプレート
34,35 基板
36 接着部
37 隔壁
371,371A,371B,371C 電極
38,38A,38B,38C 圧力室
39 ヘッド駆動部
40 ノズル
40a インク吐出口
41 第1部分
41a 第1の開口
411 ストレート部
412 テーパー部
42 第2部分
42a 第2の開口
50 制御部
51 CPU
52 RAM
53 ROM
54 記憶部
61 搬送駆動部
62 入出力インターフェース
63 バス
70 マスク
In インク
M メニスカス
P 記録媒体
T 棚状部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13