(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】三次元積層造形物製造装置及び三次元積層造形物製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 12/41 20210101AFI20220208BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20220208BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20220208BHJP
B29C 64/386 20170101ALI20220208BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220208BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220208BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220208BHJP
B22F 12/60 20210101ALI20220208BHJP
B22F 12/90 20210101ALI20220208BHJP
【FI】
B22F12/41
B29C64/153
B29C64/268
B29C64/386
B33Y50/02
B33Y10/00
B33Y30/00
B22F12/60
B22F12/90
(21)【出願番号】P 2019547017
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2018037237
(87)【国際公開番号】W WO2019070034
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017196149
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】清水 六
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143137(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163403(WO,A1)
【文献】特開2017-020422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0308153(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0159266(US,A1)
【文献】特表2016-533432(JP,A)
【文献】特開平10-282065(JP,A)
【文献】特開平08-334498(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02832475(EP,A2)
【文献】欧州特許出願公開第03095539(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16;3/105;10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 67/24-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10;33/00;99/00
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状に配置された導電体粉末に対してビームを照射するビーム照射部と、
前記導電体粉末が硬化して形成された三次元積層造形物の表層部を探傷するプローブと、
前記ビームのエネルギを制御するエネルギ制御部と、を備え、
前記プローブは、当該プローブの走査方向と交差する方向に延在していると共に複数の検査コイルを含み、
前記複数の検査コイルは、前記走査方
向に並んで配置されて
いる複数の列を構成し、
前記複数の列の各々は、前記走査方向に交差する方向に並ぶ複数の前記検査コイルを含んでおり、
前記複数の検査コイルの各々は、磁界を発生させる励磁コイルと、前記励磁コイルの内側に配置されていると共に磁界の変化を検出する複数の検出コイルとを含んでおり、
前記エネルギ制御部は、前記プローブによる探傷結果に応じて設定された補修領域にビームを照射する際に、前記ビームによるエネルギを増加させる三次元積層造形物製造装置。
【請求項2】
前記導電体粉末を均す粉末塗布機構をさらに備え、
前記プローブは、前記粉末塗布機構に取り付けられており、前記粉末塗布機構と共に移動する、請求項
1に記載の三次元積層造形物製造装置。
【請求項3】
前記ビーム照射部は、
前記ビームである電子線を照射する電子銃と、
前記電子銃に加速電圧を供給する加速電源と、
前記電子銃の照射口の前方領域に磁場を形成するコイル部と、を備え、
前記エネルギ制御部は、
前記加速電圧を制御する加速電圧制御部と、
前記コイル部を制御するコイル制御部と、を含む請求項1
又は2に記載の三次元積層造形物製造装置。
【請求項4】
前記加速電圧制御部は、前記補修領域に対して前記電子線を照射する際に、前記加速電圧を増加させる請求項
3に記載の三次元積層造形物製造装置。
【請求項5】
前記コイル制御部は、前記補修領域に対して前記電子線を照射する際に、前記電子線の走査速度を低下させる請求項
3又は
4に記載の三次元積層造形物製造装置。
【請求項6】
層状に配置された導電体粉末に対してビームを照射して、前記導電体粉末を溶融し硬化させ、三次元積層造形物を製造する三次元積層造形物製造方法であって、
保持部に保持された第1層の前記導電体粉末に前記ビームを照射して、前記第1層の前記導電体粉末を溶融させる溶融工程と、
前記第1層の導電体粉末が溶融されて硬化した後の前記三次元積層造形物の表層部をプローブで探傷する非破壊検査工程と、
前記三次元積層造形物の上に第2層の前記導電体粉末を積層する積層工程と、
前記非破壊検査工程による探傷結果に応じて設定された領域を補修する補修工程と、を含み、
前記プローブは、当該プローブの走査方向と交差する方向に延在し、前記走査方
向に並んで配置され
ている複数の列を構成し、かつ、各々が、磁界を発生させる励磁コイルと、前記励磁コイルの内側に配置されていると共に磁界の変化を検出する複数の検出コイルとを含んでいる複数の検査コイルを含み、
前記複数の列の各々は、前記走査方向に交差する方向に並ぶ複数の前記検査コイルを含んでおり、
前記補修工程では、前記第2層の前記導電体粉末に前記ビームを照射する際に、前記ビームによるエネルギを増加させて、前記領域を補修する三次元積層造形物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元積層造形物製造装置及び三次元積層造形物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業テーブル上に原料である粉末を層状に配置して、この粉末層の選択した部分にエネルギを付与して順次溶融し、三次元製品を製造する装置がある(例えば特許文献1参照)。このような三次元製品を製造する装置では、一つの粉末層について、部分的に溶融させ、溶融した粉末が硬化した後に、その上に別の粉末層を形成し、さらに選択した部分を溶融し硬化させて、これを繰り返して三次元製品を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、欠陥を有する三次元製品は、製品として利用されず不良品として廃棄されている。上記の特許文献1では、欠陥を有する三次元製品について、どのように対処するかについて記載されていない。本開示は、表層部の欠陥を検出し、検出された欠陥を補修することが可能な三次元積層造形物製造装置及び三次元積層造形物製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の三次元積層造形物製造装置は、層状に配置された導電体粉末に対してビームを照射するビーム照射部と、導電体粉末が硬化して形成された三次元積層造形物の表層部を探傷する非破壊検査部と、ビームのエネルギを制御するエネルギ制御部と、を備える。エネルギ制御部は、非破壊検査部による探傷結果に応じて設定された補修領域にビームを照射する際に、ビームによるエネルギを増加させる。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、表層部の欠陥を検出し、検出された欠陥を補修することが可能な三次元積層造形物製造装置及び三次元積層造形物製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態の三次元積層造形物製造装置を示す構成図である。
【
図2】
図2は、内部欠陥が検出された三次元積層造形物を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す三次元積層造形物製造装置のブロック構成図である。
【
図4】
図4は、
図3中のプローブにおける検査コイルの配置を上方から示す図である。
【
図5】
図5は、一実施形態の三次元積層造形物製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の三次元積層造形物製造装置は、層状に配置された導電体粉末に対してビームを照射するビーム照射部と、導電体粉末が硬化して形成された三次元積層造形物の表層部を探傷する非破壊検査部と、ビームのエネルギを制御するエネルギ制御部と、を備える。エネルギ制御部は、非破壊検査部による探傷結果に応じて設定された補修領域にビームを照射する際に、ビームによるエネルギを増加させる。
【0009】
この三次元積層造形物製造装置は、非破壊検査部を備えているので、この非破壊検査部によって三次元積層造形物の表層部の欠陥を検出することができる。三次元積層造形物製造装置は、エネルギ制御部を備えているので、非破壊検査部によって検出された欠陥を含む補修領域にビームを照射する際に、ビームによるエネルギを増加させることができる。これにより、三次元積層造形物製造装置は、次回の導電体粉末の層にビームを照射しながら、その下層に存在する欠陥に対してビームのエネルギを付与することができる。三次元積層造形物製造装置は、欠陥を補修することができる。
【0010】
ビーム照射部は、ビームである電子線を照射する電子銃と、電子銃に加速電圧を供給する加速電源と、電子銃の照射口の前方領域に磁場を形成するコイル部と、を備えていてもよい。エネルギ制御部は、加速電圧を制御する加速電圧制御部と、コイル部を制御するコイル制御部と、を含んでもよい。これにより、電子銃から導電体粉末に対して電子線を照射することで、導電体粉末を溶融して、硬化させて三次元積層造形物を製造することができる。加速電圧制御部は、補修領域に対して電子線を照射する際に、加速電圧を増加させることができる。これにより、電子線によるエネルギを増加させて、次回の導電体粉末の層に電子線を照射しながら、その下層に存在する欠陥に対して電子線のエネルギを付与することができる。その結果、三次元積層造形物製造装置は、欠陥を溶融して補修することができる。
【0011】
コイル制御部は、補修領域に対して電子線を照射する際に、電子線の走査速度を低下させてもよい。これにより、電子線が照射された領域に付与されるエネルギを増加させることができるので、次回の導電体粉末の層に電子線を照射しながら、その下層に存在する欠陥に対してビームのエネルギを付与することができる。三次元積層造形物製造装置は、欠陥を溶融して補修することができる。
【0012】
本開示の三次元積層造形物製造方法は、層状に配置された導電体粉末に対してビームを照射して、導電体粉末を溶融し硬化させ、三次元積層造形物を製造する三次元積層造形物製造方法であって、保持部に保持された第1層の導電体粉末にビームを照射して、第1層の導電体粉末を溶融させる溶融工程と、第1層の導電体粉末が溶融されて硬化した後の三次元積層造形物の表層部を探傷する非破壊検査工程と、三次元積層造形物の上に第2層の導電体粉末を積層する積層工程と、非破壊検査工程による探傷結果に応じて設定された領域を補修する補修工程と、を含む。補修工程では、第2層の導電体粉末にビームを照射する際に、ビームによるエネルギを増加させて、領域を補修する。
【0013】
この三次元積層造形製造方法では、非破壊検査工程を行うことによって三次元積層造形物の表層部の欠陥を検出することができる。この三次元積層造形物製造方法の補修工程では、三次元積層造形物の上に積層された第2層の導電体粉末にビームを照射する際に、ビームによるエネルギを増加させることができるので、検出された欠陥を含む領域を補修することができる。これにより、第1層に含まれる欠陥を補修しながら、第2層の導電体粉末を溶融させて、三次元積層造形物を製造することができる。
【0014】
以下、本開示の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1に示される三次元積層造形物製造装置(以下「製造装置」という)1は、いわゆる3Dプリンタであり、層状に配置した金属粉末(導電体粉末)2に部分的にエネルギを付与して、金属粉末2を溶融又は焼結させることができる。製造装置1は、溶融又は焼結を複数回繰り返して三次元部品(三次元積層造形物)3を製造する。三次元部品3は、例えば機械部品などであり、その他の構造物であってもよい。金属粉末としては例えばチタン系金属粉末、インコネル(登録商標)粉末、アルミニウム粉末等が挙げられる。導電体粉末は、金属粉末に限定されず、例えばCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)など、炭素繊維と樹脂を含む粉末でもよく、その他の導電性を有する粉末でもよい。
【0016】
製造装置1は、真空チャンバ4、作業テーブル(保持部)5、昇降装置6、粉末供給装置7、電子線照射装置(ビーム照射部)8、非破壊検査装置9及びコントローラ31を備える。真空チャンバ4は、内部を真空(低圧)状態とする容器であり、図示しない真空ポンプが接続されている。
図2に示される作業テーブル5は、例えば板状を成し、三次元部品3の原料である金属粉末2が配置される保持部である。作業テーブル5上の金属粉末2は例えば層状に複数回に分けて配置される。作業テーブル5は、平面視において、例えば矩形状を成している。作業テーブル5の形状は、矩形に限定されず、円形でもよく、その他の形状でもよい。作業テーブル5は、真空チャンバ4内において、例えば底部で下方に窪む凹部に配置されている。作業テーブル5は、Z方向(上下方向)に移動可能であり、金属粉末2の層数に応じて順次降下する。作業テーブル5の外周には、作業テーブル5の移動を案内するガイド部10が設けられている。ガイド部10は、作業テーブル5の外形に対応するように角筒状(作業テーブルが円形の場合は円筒状)を成している。ガイド部10及び作業テーブル5は、金属粉末2及び造形された三次元部品3を収容する収容部を形成する。作業テーブル5はガイド部10の内側でZ方向に移動可能である。例えばガイド部10は、真空チャンバ4の一部を構成している。
【0017】
昇降装置6は、作業テーブル5を昇降させる。昇降装置6は、例えばラックアンドピニオン方式の駆動機構を含み、作業テーブル5をZ方向に移動させる。昇降装置6は、作業テーブル5の底面に連結されて下方に伸びる棒状の上下方向部材(ラック)と、この上下方向部材を駆動するための駆動源と、を含む。駆動源としては、例えば電動モータを用いることができる。電動モータの出力軸にはピニオンが設けられ、上下方向部材の側面にはピニオンと噛み合う歯形が設けられている。電動モータが駆動され、ピニオンが回転して動力が伝達されて、上下方向部材が上下方向に移動する。電動モータの回転を停止することで、上下方向部材が位置決めされて、作業テーブル5のZ方向の位置が決まり、その位置が保持される。上下方向位置調整機構は、ラックアンドピニオン方式の駆動機構に限定されない。上下方向位置調整機構は、例えば、ボールねじ、シリンダなどその他の駆動機構を備えるものでもよい。
【0018】
図1に示す粉末供給装置7は、金属粉末2を貯留する貯留部である原料タンク11と、金属粉末2を均す粉末塗布機構12とを備える。原料タンク11及び粉末塗布機構12は、真空チャンバ4内に配置されている。原料タンク11は、Z方向において作業テーブル5より上方に配置されている。原料タンク11は、例えば、Z方向と交差するY方向において、作業テーブル5の両側に配置されている。原料タンク11の下方には、張出板13が設けられている。張出板13はガイド部10の上端部から側方に延びている。張出板13は、作業テーブル5の周囲において、Z方向に交差する平面を形成している。原料タンク11に貯留されている金属粉末2は、原料タンク11から流出して張出板13上に堆積する。
【0019】
粉末塗布機構12は、作業テーブル5及び張出板13の上方で、Y方向に移動可能である。粉末塗布機構12は、張出板13上に堆積する金属粉末2を作業テーブル5上に掻き寄せると共に、作業テーブル5上の金属粉末2の積層物の最上層の表面(上面)2aを均す。粉末塗布機構12の下端部は、金属粉末2の積層物の表面2aに当接して高さを均一にする。粉末塗布機構12は、例えば板状を成し、X方向に所定の幅を有する。X方向は、Z方向及びY方向に交差する方向である。粉末塗布機構12のX方向の長さは、例えば作業テーブル5のX方向の全長に対応している。製造装置1は、粉末塗布機構12に替えて、ローラー部、棒状部材、刷毛部などを備える構成でもよい。
【0020】
電子線照射装置8は、電子銃14、加速電源15及びコイル部16を備える。電子銃14は、カソード14a、アノード14b及びフィラメント14cを含む。これらのカソード14a、アノード14b及びフィラメント14cは、加速電源15に電気的に接続されている。加速電源15の負極は接地されている。加速電圧は、例えば-60kvである。加速電圧は、カソード14aとアノード14bとの間の電位差である。カソード14aは、フィラメント14cによって加熱される。加熱されたカソード14aから電子が放出される。電子は、カソード14a及びアノード14b間の電位差に応じて加速される。電子ビーム(電子線)Bは、電子銃14の照射口14dを通じて、真空チャンバ4内に照射される。
【0021】
コイル部16は、電子銃14の照射口14dの前方領域に磁場を形成する。前方領域とは、電子ビームBの照射方向における前方の領域である。コイル部16は、収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19を備える。収差コイル17、フォーカスコイル18及び偏向コイル19は、電子ビームBの照射方向において、例えば電子銃14側からこの順番で配置されている。収差コイル17は、電子銃14から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBを収束させる。フォーカスコイル18は、電子銃14から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBのフォーカス位置のずれを補正する。偏向コイル19は、電子銃14から出射される電子ビームBの周囲に設置され、電子ビームBの照射位置を調整する。偏向コイル19は、電磁的なビーム偏向を行うため、機械的なビーム偏向と比べて、電子ビームBの照射時における走査速度を高速にすることができる。電子銃14及びコイル部16は、真空チャンバ4の上部に配置されている。電子銃14から出射された電子ビームBは、コイル部16によって収束されて焦点位置が補正される。電子ビームBは、走査速度が制御され、金属粉末2の照射位置に到達する。
【0022】
図2に示される非破壊検査装置9は、三次元部品3の表層部3aを探傷するプローブ(非破壊検査部)9aを備える。プローブ9aは、粉末塗布機構12に取り付けられている。プローブ9aは、粉末塗布機構12と共にY方向に移動可能である。プローブ9aは、粉末塗布機構12とは別に移動可能な構成でもよい。プローブ9aの底面は、粉末塗布機構12の下端より上方に配置されている。プローブ9aの底面と金属粉末2の積層物の表面2aとの間には隙間が形成されている。プローブ9aは、金属粉末2及び三次元部品3に対して接触していない。プローブ9aは、プローブ9aの走査方向であるY方向と交差するX方向に延在している。プローブ9aは、
図4に示されるように、X方向に並んで配置された複数の検査コイル20を含む。プローブ9aは、X方向に並ぶ複数個の検査コイル20の列を含む。この検査コイル20の複数の列は、Y方向に並んで配置されている。プローブ9aの検査コイル20は、例えば箱形を成す筐体内に収容されている。図示の例では、プローブ9aは粉末塗布機構12の移動方向において前側に配置されている。プローブ9aは粉末塗布機構12の移動方向において後側に配置されていてもよい。粉末塗布機構12によって金属粉末2を均した後に、プローブ9aが金属粉末2の上を通過しながら探傷してもよい。
【0023】
図4に示される検査コイル20は、励磁コイル21と、一対の検出コイル22と、を備える。励磁コイル21は、交流電流が供給されて磁界を発生させる。これにより、励磁コイル21は、三次元部品3の表層部3aに渦電流を発生させることができる。励磁コイル21は、例えばZ方向に延在する軸線周りに形成されている。一対の検出コイル22は、励磁コイル21の内側に配置されている。検出コイル22は、例えばZ方向に延在する軸線周りに形成されている。検出コイル22の内側にはフェライトコア(鉄心)が配置されている。フェライトコアは、例えば棒状を成しZ方向に延在している。フェライトコアは、円柱状でもよく、角柱状でもよい。一対の検出コイル22は、表層部3aの渦電流による磁界の変化を検出する。表層部3aは、三次元部品3の表面及び表面近傍の内部の部分を含んでもよい。表層部3aは、例えば表面から深さ1mmまでの領域を含んでもよい。表層部3aは、例えば深さ2mmまでの領域を含むものでもよく、その他の深さまでの領域を含むものでもよい。プローブ9aは、三次元部品3の表層部3aとして、金属粉末2の複数層分(例えば5層分)の深さまで、同時に探傷可能である。
【0024】
表層部3aに欠陥Cがある場合には、渦電流の流れに変化が生じこれにより磁界が変化する。検出コイル22により磁界の変化を検出することで、欠陥Cの有無を検出することができる。一対の検出コイル22のうち一方が磁界の変化を検出し、他方が磁界の変化を検出しない場合がある。このような場合には、一対の検出コイル22によって検出された信号の差分を算出することで、磁界の変化を精度良く検出することができる。このように複数の検出コイル22で検出された信号の差分を算出することで、プローブ9aが欠陥Cの上を通過したときに信号の差分が最も大きくなる。そのため、電気的ノイズを抑えることができ精度良く欠陥Cを検出することができる。検出コイル22によって検出される欠陥Cとしては、例えば溶け込み不良、割れ、融着、ポロシティ(空隙)などがある。
【0025】
図1及び
図3に示されるコントローラ31は、製造装置1の装置全体の制御を司る制御部である。コントローラ31は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとから構成されたコンピュータである。コントローラ31は、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などを含む。コントローラ31は、演算部32、加速電圧制御部(エネルギ制御部)33、コイル制御部(エネルギ制御部)34及び記憶部35を含む。コントローラ31は、加速電源15、収差コイル17、フォーカスコイル18、偏向コイル19、粉末塗布機構12、プローブ9a、昇降装置6、表示部41及び操作部42と電気的に接続されている。
【0026】
製造装置1は、電子ビームBのエネルギを制御するエネルギ制御部を備えている。コントローラ31は、エネルギ制御部として、加速電圧制御部33及び、コイル制御部34を含んでもよい。
【0027】
演算部32は、プローブ9aで検出された信号について演算を行う。演算部32は例えば一対の検出コイル22で検出された信号の差分を算出することができる。演算部32は、例えば、欠陥Cの有無、欠陥Cの位置(X方向の位置、Y方向の位置)、欠陥Cの深さ(Z方向の位置)を算出することができる。演算部32は、算出された検査結果(探傷結果)を表示部41に出力する。演算部32は、算出された検査結果を記憶部35に記憶する。
【0028】
加速電圧制御部33は、加速電源15によって印加される加速電圧を制御する。加速電圧制御部33は、検出された欠陥Cの位置及び深さに応じて、加速電圧を通常時より増加させる。通常時の加速電圧とは、欠陥Cを補修する必要がないときの加速電圧である。通常時の加速電圧は、例えば1層分の金属粉末2を溶融させることが可能な電子ビームBを照射するために必要な加速電圧である。加速電圧制御部33は、加速電圧を増加させて、電子ビームBによる電子の速度を上昇させる。加速電圧制御部33は、三次元部品3上に堆積する金属粉末2を溶融させる際に、電子ビームBが欠陥Cに照射されるタイミングに合わせて、加速電圧を増加させる制御を行う。加速電圧制御部33は、加速電圧を増加させた後に、電子ビームBが欠陥Cから外れた位置に照射されるときに、加速電圧を低下させて通常時の値に戻す制御を行う。
【0029】
コイル制御部34は、収差コイル17を制御して、電子ビームBを収束させる。コイル制御部34は、フォーカスコイル18を制御して、電子ビームBのフォーカス位置を制御する。コイル制御部34は、偏向コイル19を制御して、電子ビームBの照射位置を制御する。例えば、通常時と比較して加速電圧を増加させた場合には、電子ビームBの挙動が変わるので、コイル制御部34は、収差コイル17における制御量、フォーカスコイル18における制御量、偏向コイル19における制御量を補正することができる。例えば、これらの収差コイル17における制御量、フォーカスコイル18における制御量、及び偏向コイル19における制御量に関するデータは、記憶部35に記憶されている。
【0030】
表示部41は、例えば、液晶表示装置であり、コントローラ31から出力された検査結果等を表示することができる。表示部41は、例えば、検出された欠陥Cの位置、深さ等に関する情報を表示する。表示部41は、電子銃14から照射される電子ビームBに関する情報を表示することができる。表示部41は、加速電圧、収差コイル17の制御量、フォーカスコイル18の制御量、及び偏向コイル19の制御量に関するデータを表示することができる。操作部42は、使用者が操作可能な入力手段である。使用者は、表示部41に表示された情報を確認し、各種設定(制御量)を変更することができる。
【0031】
次に、三次元部品の製造方法(三次元積層造形物製造方法)について説明する。
図5は、三次元部品の製造方法の手順を示すフローチャートである。三次元部品の製造方法は、例えば製造装置1を用いて実行される。
【0032】
まず、製造装置1では、原料タンク11から金属粉末2を排出し、第1層の金属粉末2を作業テーブル5上に供給し、粉末塗布機構12をY方向に移動させて、金属粉末2の積層物の表面2aを均す(ステップS1)。次に、作業テーブル5上の金属粉末2に電子ビームBを照射する照射工程を行う(溶融工程;ステップS2)。この照射工程では、加速電圧制御部33は、加速電源15を制御して、加速電圧を制御する。これにより、電子が加速されて電子銃14から電子ビームBが照射される。照射工程では、コイル制御部34は、収差コイル17を制御して電子ビームBを収束させ、フォーカスコイル18を制御して電子ビームBのフォーカス位置を制御し、偏向コイル19を制御して電子ビームBの照射位置を制御し、電子ビームBの走査速度を制御する。
【0033】
次に、コントローラ31は、昇降装置6に指令信号を送信して、作業テーブル5を降下させる(ステップS3)。これにより、第1層の上に第2層の金属粉末2を積層するためのスペースが確保される。
【0034】
溶融した第1層(第n層)の金属粉末2が硬化した後に、製造装置1では、第2層(第n+1層)の金属粉末2を作業テーブル5上(第n層の金属粉末2の上)に供給し(積層工程)、粉末塗布機構12をY方向に移動させて、第2層の金属粉末2の表面2aを均す(ステップS4)。このとき、粉末塗布機構12を移動させる際に探傷工程(非破壊検査工程;ステップS5)が実行される。例えば第2層(第n+1層)の金属粉末2の表面2aを均すと共に、第1層(第n層)の表層部3aに対する探傷工程が実行される。
【0035】
探傷工程では、励磁工程及び検出工程が行われる。励磁工程では、励磁コイル21に電流を供給して磁界を発生させて、表層部3aに渦電流を生じさせる。検出工程では、表層部3aにおける磁界の変化を検出する。例えば表層部3aに欠陥C、形状不連続部などがある場合には、渦電流が迂回して変化し磁界が変化する。検出工程では、演算部32は一対の検出コイル22で検出された信号の差分を算出する。演算部32は、この算出した結果に基づいて検査結果を示す画像情報を生成する。検査結果を示す画像情報は、表示部41に出力されて表示される。表示部41は、検査結果を示す画像情報として、欠陥Cの位置、大きさ、向きなどを表示してもよい。
【0036】
次に、演算部32は、検査結果に基づいて欠陥Cの有無を判定する(ステップS6)。ここでは、演算部32は、一対の検出コイル22による信号の差分に基づいて、欠陥Cの有無を判定してもよく、使用者が表示部41に表示された画像情報を見て欠陥Cの有無を判定してもよい。欠陥Cが検出されなかった場合には、ステップS8に進み、欠陥Cが検出された場合には、ステップS7に進む。
【0037】
ステップS7では、補修準備工程を行う。補修準備工程では、コントローラ31は、欠陥Cを補修するための各種設定を行う。補修準備工程では、コントローラ31は、例えば、欠陥Cを含む補修領域を設定する。補修準備工程では、コントローラ31は、欠陥Cを含む補修領域に電子ビームBを照射する際の加速電源の制御量を設定する。コントローラ31は、例えば、加速電圧を増加させるように加速電源15の制御量を設定する。補修準備工程では、コントローラ31は、加速電圧を増加させた場合のコイル部16の制御量を設定する。コントローラ31は、例えば、電子ビームBにおける電子の速度の増加量に応じて、収差コイル17の制御量、フォーカスコイル18の制御量、偏向コイル19の制御量を設定することができる。補修準備工程では、欠陥Cの位置、大きさ、形状、及び電子ビームBの過去の制御量等に基づいて、上記の制御量が設定される。これらの制御量は、使用者が設定してもよく、演算部32が演算することで設定してもよい。設定された制御量は、記憶部35に記憶される。なお、欠陥Cを含む補修領域は、欠陥Cのみでもよく、欠陥Cの周囲の領域を含むものでもよく、欠陥Cの一部のみを含むものでもよい。
【0038】
ステップS7の補修準備工程を実施した後、ステップS2に戻る。このステップS2照射工程では、電子線照射装置8は、第1層の上に積層された第2層の金属粉末2に対して、電子ビームBを照射する。このステップS2では、欠陥Cを含む補修領域に、電子ビームBが照射される際に、補修準備工程で設定された制御量に基づく制御が実行され、加速電圧が増加されると共にコイル部16について制御が行われる。これにより、電子ビームBによるエネルギが増加されて、電子ビームBが欠陥Cまで到達し、欠陥Cが溶融される。これにより、欠陥Cを補修する補修工程が実施される。なお、照射工程において、第2層の金属粉末2に対して補修領域以外の領域について電子ビームBを照射する際には、前回の第1層の金属粉末2に対して電子ビームBを照射したときと同様に、電子ビームBを照射する。すなわち、電子ビームBの照射位置が移動して欠陥Cを含む補修位置から外れたら、加速電圧制御部33は、加速電圧を戻す。
【0039】
このステップS2における照射工程を実施したら、ステップS3~S6を繰り返す。ステップS6で、欠陥なしと判定されたら、ステップS8に進む。ステップS8では、コントローラ31は、三次元部品3の全層について造形が終了して、部品が完成しているか否かを判定する。例えば、設計通りの層分について造形が終了しているか否かを判定する。三次元部品の造形が終了していない場合には、ステップS2に戻る。このステップS2では、電子線照射装置8は、前回のステップS4において形成された金属粉末2に対して、電子ビームBを照射して部分的にエネルギを付与して、溶融を行う。以下、製造装置1は、同様の工程を繰り返し、三次元部品3の全層について造形を行い、三次元部品3の製造を完了する。
【0040】
本実施形態の製造装置1では、非破壊検査装置9を備えているので、この非破壊検査装置9によって、三次元部品3の表層部3aの欠陥Cを検出することができる。製造装置1は、加速電圧制御部33を備えているので、非破壊検査装置9によって検出された欠陥Cを含む補修領域に電子ビームBを照射する際に、電子ビームBによるエネルギを増加させることができる。これにより、製造装置1は、第2層の金属粉末2に電子ビームBを照射しながら、その下層の第1層に存在する欠陥Cに対して電子ビームBのエネルギを付与することができる。その結果、欠陥Cを補修することができる。
【0041】
本開示は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記のような種々の変形が可能である。上記の実施形態では、加速電圧を増加させる制御を行うことで、電子ビームBによるエネルギを増加させているが、ビームによるエネルギを増加させる制御は、これに限定されない。例えば、コントローラ31は、電子ビームBの走査速度を低下させることで、電子ビームBの照射位置の移動速度を低下させて、導電体粉末に付与されるエネルギを増加させてもよい。すなわち、コイル制御部34は、補修領域に対して電子ビームBを照射する際に、電子ビームBの走査速度を通常時よりも低下させる制御をしてもよい。コイル制御部34は、加速電圧を増加させる制御と走査速度を低下させる制御とを同時に行ってもよい。すなわち、加速電圧を増加させながら走査速度を低下させてもよい。上記の実施形態において、製造装置1は、欠陥Cが検出された場合に、欠陥Cを含む補修領域に対して、電子ビームBを再照射することで、欠陥Cを補修することもできる。
【0042】
上記の実施形態では、電子ビームBを照射して、導電体粉末を溶融しているが、導電体粉末に照射されるビームは、電子ビームに限定されず、その他のエネルギービームでもよい。三次元積層造形物製造装置は、例えば、レーザ発信器を備え、レーザビームを照射して、導電体粉末を溶融するものでもよい。このように、レーザビームを照射する場合には、コイル制御部は、レーザビームの出力を上げる制御を行ってもよく、レーザビームの走査速度を低下させる制御を行ってもよい。これにより、補修領域にビームを照射する際に、ビームによるエネルギを増加させて、欠陥を補修することができる。
【0043】
上記の実施形態では、三次元部品3の表層部3aを探傷する非破壊検査部として、三次元部品3に渦電流を発生させて、探傷を行う場合(渦流探傷試験)について説明しているが、非破壊検査部は、渦流探傷試験を行うものに限定されない。非破壊検査部は、例えば、放射線透過試験など、その他の非破壊検査を行うものでもよい。非破壊検査部は、カメラ(撮像部)を含んでもよく、撮像された画像に基づいて欠陥を検出して補修領域を設定してもよい。
【0044】
上記の実施形態では、粉末塗布機構をY方向に移動させて、粉末の積層物(粉末層)の表面2aを均しているが、粉末塗布機構をその他のX-Y面内の方向に移動させて、粉末層の表面2aを均してもよい。製造装置は、円周方向に粉末塗布機構を移動させてもよい。製造装置は、平面視において、粉末塗布機構に対して作業テーブルを含む造形タンクを相対的に移動させて表面2aを均してもよい。造形タンク(ガイド部)は、例えばX方向に往復運動する構成でもよく、その他の方向に移動可能な構成でもよい。造形タンクは、Z方向に延在する仮想線を中心として回転移動可能な構成でもよい。例えば、製造装置は、平面視において円形の保持部(作業テーブル)を備え、Z方向に延在する仮想線(保持部の中央部)を中心として保持部及び粉末層を回転移動させながら、粉末の塗布及びビーム照射を順次行う構成でもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 製造装置(三次元積層造形物製造装置)
2 金属粉末(導電体粉末)
3 三次元部品(三次元積層造形物)
3a 表層部
5 作業テーブル(保持部)
8 電子線照射装置(ビーム照射部)
9 非破壊検査装置(非破壊検査部)
9a プローブ
14 電子銃
15 加速電源
16 コイル部
33 加速電圧制御部(エネルギ制御部)
34 コイル制御部(エネルギ制御部)
B 電子ビーム(電子線)
C 欠陥