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特許7020543ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20220208BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B41J2/16 401
B41J2/14 501
B41J2/16 507
B41J2/16 511
B41J2/16 517
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020514881
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2018016243
(87)【国際公開番号】W WO2019202723
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸林 純
(72)【発明者】
【氏名】下村 明久
(72)【発明者】
【氏名】林 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】平野 肇志
(72)【発明者】
【氏名】浦木 信吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-022180(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080265(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/087155(WO,A1)
【文献】特開2004-009660(JP,A)
【文献】特開2004-255696(JP,A)
【文献】特開昭63-081050(JP,A)
【文献】特開2015-202671(JP,A)
【文献】特開2015-231726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0156161(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/16
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するためのアクチュエータを備えるヘッドチップに対して接着剤によって接着され、液体を吐出するノズルが形成された金属製のノズルプレートの製造方法であって、
金属製の板状部材に前記ノズルを形成するノズル形成工程と、
前記金属製の板状部材に溝を形成する溝形成工程と、
前記ノズルプレートの外形加工を行う外形加工工程と、
を備え
前記外形加工工程では、前記金属製の板状部材に対して、前記溝形成工程で前記溝が形成される面側から、前記ノズルプレートの外形に沿ってウェットエッチングを行うことを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項2】
前記ノズル形成工程では、複数の前記ノズルを直線状に一定の方向に一定の間隔で並べてノズル列を単数列又は複数列形成し、
前記溝形成工程では、前記溝を前記一定の方向に平行に形成することを特徴とする請求項1に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項3】
前記溝形成工程では、前記溝を、前記一定の方向に平行な同一直線上に並んだ複数の小溝によって形成し、
隣り合う前記小溝同士の隙間領域の間隔を隣り合う前記ノズル同士の隙間領域の間隔よりも狭くすることを特徴とする請求項2に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項4】
前記溝形成工程では、前記一定の方向について、隣り合う前記小溝同士の隙間領域が前記溝の隣りの前記ノズル列のいずれのノズルにも重ならないように、それぞれの前記小溝を形成することを特徴とする請求項3に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項5】
前記溝形成工程では、前記ノズル列よりも長く、前記一定の方向について当該ノズル列が内側となるように、前記溝を形成することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項6】
前記溝形成工程では、前記ノズル列を挟んでその両側となる位置に前記溝を形成することを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項7】
前記ノズル形成工程では、前記ノズル列を複数列形成し、
前記溝形成工程では、隣り合う2つの前記ノズル列の間の部分のみに前記溝を形成することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項8】
前記溝をウェットエッチングにより形成することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項9】
前記外形加工工程では、前記金属製の板状部材に対して、前記ノズルプレートの外形に沿って、一部のブリッジ部を残して分断部を形成し、
前記外形加工工程後に、前記金属製の板状部材に撥水膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程後に前記ブリッジ部を切断してノズルプレートを分離する分離工程と、
を備えることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項10】
前記外形加工工程では、前記金属製の板状部材に対して、前記ノズルプレートの外形に沿って分断して分離し、
前記溝形成工程後であって前記外形加工工程前に、前記金属製の板状部材に撥水膜を形成する膜形成工程を備えることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項11】
前記溝形成工程前に、前記溝を形成する面を研磨する研磨工程を備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項12】
前記ノズル形成工程では、前記ノズルをプレス加工と研磨、又はレーザー加工によって形成することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項13】
前記外形加工工程は、前記ノズル形成工程よりも後に行う工程であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項14】
前記外形加工工程は、前記ノズル形成工程よりも後に行う工程であり、
1つの前記金属製の板状部材から複数の前記ノズルプレートを製造することを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項15】
液体を吐出するためのアクチュエータを備えるヘッドチップと、
前記ヘッドチップに対して接着剤によって接着され、液体を吐出するノズルが形成された金属製のノズルプレートと、
を有するインクジェットヘッドであって、
前記ノズルプレートに複数の前記ノズルを直線状に一定の方向に一定の間隔で並べたノズル列が単数列又は複数列形成され、
前記ノズルプレートの前記ヘッドチップ側となる第一面には前記一定の方向に平行に溝が形成され、
前記ノズルプレートの前記ヘッドチップとは逆側となる第二面は撥水膜で被覆され
前記ノズルプレートの外周に形成された外周端面の一部又は全部は、その前記第一面側の端部が、当該第一面に対して鈍角となっていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項16】
前記溝は、前記一定の方向に平行な同一直線上に並んだ複数の小溝からなり、
隣り合う前記小溝同士の隙間領域の間隔が隣り合う前記ノズル同士の隙間領域の間隔よりも狭くなるように形成されていることを特徴とする請求項15に記載のインクジェットヘッド。
【請求項17】
前記一定の方向について、隣り合う前記小溝同士の隙間領域が前記溝の隣りの前記ノズル列のいずれのノズルにも重ならないように、それぞれの前記小溝が形成されていることを特徴とする請求項16に記載のインクジェットヘッド。
【請求項18】
前記溝は、前記ノズル列よりも長く、前記一定の方向について当該ノズル列が内側となるように形成されていることを特徴とする請求項15から17のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項19】
前記溝は、前記ノズル列を挟んでその両側に形成されていることを特徴とする請求項15から18のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項20】
前記ノズル列は、複数列形成されており、
前記溝は、隣り合う2つの前記ノズル列の間の部分のみに形成されていることを特徴とする請求項15から17のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項21】
前記ノズルプレートは、ステンレス製であり、厚さが30~50[μm]であることを特徴とする請求項15から20のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項22】
前記溝は、深さ5~20[μm]であることを特徴とする請求項21に記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体の吐出を行うインクジェットヘッドは、複数の圧力室が形成されたヘッドチップと、液体が吐出されるノズルが形成されたノズルプレートとを有し、ヘッドチップの端面にノズルプレートが接着剤を用いて接着されている。
このノズルプレートについては、形成材料を金属プレートとし、ノズルをプレス加工と研磨で形成することが特許文献1に記載されている。
また、特許文献2には、ノズルプレートの形成材料をシリコンとし、フォトリソ加工によってノズルを形成することが記載されている。
また、特許文献3には、ノズルプレートの形成材料をポリイミド樹脂とし、レーザー加工やエッチング加工によってノズルを形成することが記載されている。また、このノズルプレートには、ヘッドチップとの接着の際に接着剤がノズルを塞ぐことを防ぐための溝が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-137039号公報
【文献】特開2003-154652号公報
【文献】特開2015-112848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1及び2のノズルプレートは、ヘッドチップへの接着の際に接着剤の対策が設けられておらず、接着剤による吐出不良が生じるおそれがあった。
また、特許文献2のノズルプレートは、シリコンから形成されているため、耐薬品性、特にアルカリ性に弱く、インクジェットヘッドとしては不適であった。
また、特許文献3のノズルプレートは、ポリイミド樹脂からなり、強度や耐久性に劣るという問題があった。
【0005】
この発明の目的は、耐久性に優れ、吐出性の良好なノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
液体を吐出するためのアクチュエータを備えるヘッドチップに対して接着剤によって接着され、液体を吐出するノズルが形成された金属製のノズルプレートの製造方法であって、
金属製の板状部材に前記ノズルを形成するノズル形成工程と、
前記金属製の板状部材に溝を形成する溝形成工程と、
前記ノズルプレートの外形加工を行う外形加工工程と、
を備え
前記外形加工工程では、前記金属製の板状部材に対して、前記溝形成工程で前記溝が形成される面側から、前記ノズルプレートの外形に沿ってウェットエッチングを行うことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記ノズル形成工程では、複数の前記ノズルを直線状に一定の方向に一定の間隔で並べてノズル列を単数列又は複数列形成し、
前記溝形成工程では、前記溝を前記一定の方向に平行に形成することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記溝形成工程では、前記溝を、前記一定の方向に平行な同一直線上に並んだ複数の小溝によって形成し、
隣り合う前記小溝同士の隙間領域の間隔を隣り合う前記ノズル同士の隙間領域の間隔よりも狭くすることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記溝形成工程では、前記一定の方向について、隣り合う前記小溝同士の隙間領域が前記溝の隣りの前記ノズル列のいずれのノズルにも重ならないように、それぞれの前記小溝を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項2から4のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記溝形成工程では、前記ノズル列よりも長く、前記一定の方向について当該ノズル列が内側となるように、前記溝を形成することを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項2から5のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記溝形成工程では、前記ノズル列を挟んでその両側となる位置に前記溝を形成することを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項2から4のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記ノズル形成工程では、前記ノズル列を複数列形成し、
前記溝形成工程では、隣り合う2つの前記ノズル列の間の部分のみに前記溝を形成することを特徴とする。
請求項8記載の発明は、請求項1からのいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記溝をウェットエッチングにより形成することを特徴とする。
【0013】
請求項記載の発明は、請求項1からのいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記外形加工工程では、前記金属製の板状部材に対して、前記ノズルプレートの外形に沿って、一部のブリッジ部を残して分断部を形成し、
前記外形加工工程後に、前記金属製の板状部材に撥水膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程後に前記ブリッジ部を切断してノズルプレートを分離する分離工程と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項10記載の発明は、請求項1からのいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記外形加工工程では、前記金属製の板状部材に対して、前記ノズルプレートの外形に沿って分断して分離し、
前記溝形成工程後であって前記外形加工工程前に、前記金属製の板状部材に撥水膜を形成する膜形成工程を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項11記載の発明は、請求項1から10のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記溝形成工程前に、前記溝を形成する面を研磨する研磨工程を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項12記載の発明は、請求項1から11のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記ノズル形成工程では、前記ノズルをプレス加工と研磨、又はレーザー加工によって形成することを特徴とする。
【0018】
請求項13記載の発明は、請求項1から12のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記外形加工工程は、前記ノズル形成工程よりも後に行う工程であることを特徴とする。
請求項14記載の発明は、請求項1から12のいずれか一項に記載のノズルプレートの製造方法において、
前記外形加工工程は、前記ノズル形成工程よりも後に行う工程であり、
1つの前記金属製の板状部材から複数の前記ノズルプレートを製造することを特徴とする。
請求項15記載の発明は、インクジェットヘッドにおいて、
液体を吐出するためのアクチュエータを備えるヘッドチップと、
前記ヘッドチップに対して接着剤によって接着され、液体を吐出するノズルが形成された金属製のノズルプレートと、
を有するインクジェットヘッドであって、
前記ノズルプレートに複数の前記ノズルを直線状に一定の方向に一定の間隔で並べたノズル列が単数列又は数列形成され、
前記ノズルプレートの前記ヘッドチップ側となる第一面には前記一定の方向に平行に溝が形成され、
前記ノズルプレートの前記ヘッドチップとは逆側となる第二面は撥水膜で被覆され
前記ノズルプレートの外周に形成された外周端面の一部又は全部は、その前記第一面側の端部が、当該第一面に対して鈍角となっている。
【0019】
請求項16記載の発明は、請求項15記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記溝は、前記一定の方向に平行な同一直線上に並んだ複数の小溝からなり、
隣り合う前記小溝同士の隙間領域の間隔が隣り合う前記ノズル同士の隙間領域の間隔よりも狭くなるように形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項17記載の発明は、請求項16記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記一定の方向について、隣り合う前記小溝同士の隙間領域が前記溝の隣りの前記ノズル列のいずれのノズルにも重ならないように、それぞれの前記小溝が形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項18記載の発明は、請求項15から17のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記溝は、前記ノズル列よりも長く、前記一定の方向について当該ノズル列が内側となるように形成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項19記載の発明は、請求項15から18のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記溝は、前記ノズル列を挟んでその両側に形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項20記載の発明は、請求項15から17のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズル列は、複数列形成されており、
前記溝は、隣り合う2つの前記ノズル列の間の部分のみに形成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項21記載の発明は、請求項15から20記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズルプレートは、ステンレス製であり、厚さが30~50[μm]であることを特徴とする。
【0025】
請求項22記載の発明は、請求項21記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記溝は、深さ5~20[μm]であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上の構成により、本発明は、耐久性に優れ、吐出性の良好なノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】発明の実施形態であるインクジェットヘッドのヘッドチップとノズルプレートを分解した斜視図である。
図2】ヘッドチップとノズルプレートの接着部分の前後上下方向に沿った断面図である。
図3】ノズルプレートの背面図である。
図4A】ノズルプレートの製造におけるノズル形成工程を示す金属板の平面図である。
図4B図4AのA-A線に沿った断面図である。
図5A】ノズルプレートの製造における溝形成工程を示す金属板の平面図である。
図5B図5AのB-B線に沿った断面図である。
図6A】ノズルプレートの製造におけるノズル外形加工工程を示す金属板の平面図である。
図6B図6AのC-C線に沿った断面図である。
図7A】ノズルプレートの製造における膜形成工程を示す金属板の平面図である。
図7B図7AのD-D線に沿った断面図である。
図8】ノズルプレートの製造における分離工程を示す金属板の平面図である。
図9A】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(1)の方法を示す工程図である。
図9B】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(1)の方法を示す図9Aに続く工程図である。
図9C】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(1)の方法を示す図9Bに続く工程図である。
図9D】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(1)の方法を示す図9Cに続く工程図である。
図9E】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(1)の方法を示す図9Dに続く工程図である。
図10】ノズルプレートの外周端面が第一面に対して鋭角の傾斜面で形成された例を示す断面図である。
図11A】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(2)の方法を示す工程図である。
図11B】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(2)の方法を示す図11Aに続く工程図である。
図11C】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(2)の方法を示す図11Bに続く工程図である。
図11D】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(2)の方法を示す図11Cに続く工程図である。
図11E】ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(2)の方法を示す図11Dに続く工程図である。
図12A】ノズルプレートの他の製造方法の例(1)における溝形成工程を示す金属板の平面図である。
図12B図12Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図13A】ノズルプレートの他の製造方法の例(1)におけるノズル形成工程を示す金属板の平面図である。
図13B図13Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図14A】ノズルプレートの他の製造方法の例(1)における膜形成工程を示す金属板の平面図である。
図14B図14Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図15A】ノズルプレートの他の製造方法の例(1)における外形加工工程を示す金属板の平面図である。
図15B図15Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図16】ノズルプレートの他の製造方法の例(1)における分離工程を示す金属板の平面図である。
図17A】ノズルプレートの他の製造方法の例(2)における膜形成工程を示す金属板の平面図である。
図17B図17Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図18A】ノズルプレートの他の製造方法の例(2)におけるノズル形成工程を示す金属板の平面図である。
図18B図18Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図19A】ノズルプレートの他の製造方法の例(2)における溝形成工程を示す金属板の平面図である。
図19B図19Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図20A】ノズルプレートの他の製造方法の例(2)における外形加工工程を示す金属板の平面図である。
図20B図20Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図21】ノズルプレートの他の製造方法の例(2)における分離工程を示す金属板の平面図である。
図22A】ノズルプレートの他の製造方法の例(3)におけるノズル形成工程を示す金属板の平面図である。
図22B図22Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図23A】ノズルプレートの他の製造方法の例(3)における膜形成工程を示す金属板の平面図である。
図23B図23Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図24A】ノズルプレートの他の製造方法の例(3)における溝形成工程を示す金属板の平面図である。
図24B図24Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図25A】ノズルプレートの他の製造方法の例(3)における外形加工工程を示す金属板の平面図である。
図25B図25Aのノズルプレートの前後に沿った断面図である。
図26】ノズルプレートの他の製造方法の例(3)における分離工程を示す金属板の平面図である。
図27A】ノズルプレートの溝の他の形成例(1)としてのノズルプレートの平面図である。
図27B図27Aの領域Eの拡大図である。
図28】ノズルプレートの溝の他の形成例(2)としてのノズルプレートの平面図である。
図29】ノズルプレートの溝の他の形成例(3)としてのノズルプレートの平面図である。
図30】ノズルプレートの厚さと吐出性能に影響を与えるメニスカスの形成との関係を求めたシミュレーション結果を示す図である。
図31】ノズルプレートの吐出側の面からメニスカスの後退部分まで長さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[発明の実施形態の概要]
以下、本発明のインクジェットヘッド10を図面に基づいて説明する。
インクジェットヘッド10は、ヘッドチップ20とノズルプレート30とを備えており、図1はヘッドチップ20とノズルプレート30を分解した斜視図を示しており、図2はヘッドチップ20とノズルプレート30の接着部分の前後上下方向に沿った断面図を示している。
なお、本実施形態の全図において、一列に並んだノズルやチャネルの個数は、実際よりも少なく図示している。
【0029】
[ヘッドチップ]
ヘッドチップ20は直方体形状の圧電材料からなるブロックである。ヘッドチップ20の吐出側の端面にはノズルプレート30が接着される。このヘッドチップ20の吐出側の端面を接着面21とする。この接着面21は長方形状であり、以下の説明では、その長辺に沿った方向を左右方向、その短辺に沿った方向を上下方向、接着面21に垂直な方向を前後方向とする。図1におけるUは「上」、Dは「下」、Lは「左」、Rは「右」、Fは「前」、Bは「後」を示す。
【0030】
ヘッドチップ20には、圧力室であるチャネル22が前後方向に沿って複数形成されており、これら複数のチャネル22は、前方から見て、左右方向に平行な上下二列の直線上にそれぞれ一定の間隔で並んで形成されている。左右方向に並んだチャネル22の穴の中心の間隔は、後述するノズルプレート30の複数のノズル33のピッチ(穴の中心の間隔)と一致している。また、上の列のチャネル22と下の列のチャネル22は、左右方向にノズルピッチの1/2の距離でオフセットされている(図1では簡略化のために左右方向の配置が一致した状態で図示されている)。
【0031】
また、各チャネル22は、前方から見た断面形状が上下に長い長方形状である。そして、チャネル22の上下の開口幅は、150~450[μm]であり、下の列のチャネル22の上端部から上の列のチャネル22の下端部までの距離は、400~1500[μm]である。
【0032】
図1に示すように、各チャネル22は、ヘッドチップ20の接着面21側において開口し、ノズルプレート30の各ノズル33に個別に連通する。また、各チャネル22は、ヘッドチップ20の後端面側で図示しないインクマニホールドに連通し、インクが供給されるようになっている。
【0033】
左右方向に隣り合うチャネル22の間の隔壁23には、チャネル22の内面側に電極が設けられており、当該隔壁23の電極に駆動電圧を印加することにより、圧電材料からなる隔壁23に圧電効果が生じ、隣接するチャネル22内のインクを吐出させることができる。つまり、電極と隔壁23を構成する圧電材料とが、液体を吐出するためのアクチュエータとして機能する。
また、ヘッドチップ20には、隔壁23に設けられた電極をインクから保護するための樹脂被膜231が形成されている。
【0034】
[ノズルプレート]
図3はノズルプレートの背面図である。図1図3に示すように、ノズルプレート30は、長方形状の金属平板からなり、耐アルカリ性、耐薬品性に優れる金属、例えば、シリコンを除く金属、望ましくは、ニッケル(合金を含む)、より望ましくは、ステンレスから形成されている。
ノズルプレート30は、その平板面の一方をヘッドチップ20との接着面としており、他方をインク吐出面とする。そして、以下の説明では、ノズルプレート30の接着面を第一面31、吐出面を第二面32とする。
【0035】
また、このノズルプレート30についても、第一面31の長辺に沿った方向を左右方向、その短辺に沿った方向を上下方向、第一面31に垂直な方向を前後方向とする。但し、図1ついては、ノズルプレート30は向きを傾けた状態でヘッドチップ20から離隔させて図示されているので、符号L、R、F、Bはノズルプレート30の前後左右と一致していない。
【0036】
ノズルプレート30には、前後方向に貫通した複数のノズル33が、左右方向に平行な上下二列の直線上に一定のノズルピッチで並んで形成されている。この左右方向に平行な複数のノズル33からなる上下二本の列をそれぞれノズル列34とする。
各ノズル33のノズルピッチは、ヘッドチップ20の各チャネル22の左右方向のピッチと一致し、二本のノズル列34の上下の間隔(一方のノズル列34のノズル33の中心から他方のノズル列34のノズル33の中心までの上下方向の距離)は、上の列のチャネル22と下の列のチャネル22の間隔(チャネル22の中心とチャネル22の中心の上下方向の間隔)と一致している。
また、上のノズル列34と下のノズル列34は、左右方向にノズルピッチの1/2の距離でオフセットされている。
従って、ヘッドチップ20の接着面21に対して、ノズルプレート30の第一面31を接着した場合に、前後方向から見て、個々のノズル33を個々のチャネル22の開口の内側に重ねた状態で配置することができ、各ノズル33に対して、各チャネル22を個別に連通させることができる。
【0037】
ノズルプレート30の第一面31には、各ノズル列34ごとに、当該ノズル列34を挟んで上下の両側に溝35が形成されている。
この溝35は、ノズルプレート30をヘッドチップ20に接着する際に、第一面31と接着面21とに挟まれた接着剤がこれらの面21,31に沿って広がる場合に、各ノズル33に入り込まないように余剰の接着剤を受け入れる退避スペースとして機能する。
【0038】
各ノズル列34の上下それぞれに溝35を設けることにより、ノズル列34の上側の領域と下側の領域からの接着剤を受け入れることができ、各ノズル33への接着剤の流入を抑制する。
また、各溝35は、その左右方向の長さL0がノズル列34の左右方向の長さL1よりも長く、且つ、左右方向についてノズル列34が溝35の内側となるように形成されている。つまり、ノズル列34の左端部は溝35の左端部より右側に位置し、ノズル列34の右端部は溝35の右端部より左側側に位置している。
これにより、ノズル列34の上側又は下側からの接着剤を左右方向の全範囲に渡って受け入れることができ、効果的に各ノズル33への流入を抑制する。
【0039】
なお、図3では各溝35は、ノズルプレート30の左右の端部に到ってはいないが、図1のように溝35の両端部或いは一方の端部がノズルプレート30の左端部又は右端部に到るまで形成されていても良い。
その場合、ヘッドチップ20に対してノズルプレート30を接着する場合に、溝35の端部が外部に開通した状態となるので、溝35内部の空気を排気することができ、接着剤が流れ込みやすくなる。
【0040】
また、各溝35の断面形状は、深さ方向に向かって幅が狭くなる形状、例えば、図2に示すように、略半円状である。溝35の内側面は第一面31に対して鈍角で傾斜した形状とすると、第一面31上の接着剤を内側面に沿って溝35内に引き込みやすくなり、より望ましい。
【0041】
また、ノズルプレート30は、インクの吐出性能との関係から、その厚さが30~50[μm]が望ましい。この点については後述する。
これに対して、溝35は、前後方向の深さが5~20[μm]の範囲が望ましい。溝35は、この範囲よりも浅くなると接着剤の受入量が足りなくなるおそれがあり、この範囲より深くなると溝35の底部の肉厚が薄くなりすぎてノズルプレート30の強度が足りなくなるおそれがある。
【0042】
また、図2に示すように、溝35からノズル列34のノズル33に連通するチャネル22までの距離(溝35のノズル列34側の端部からチャネル22の溝35側の端部までの距離)wcは50[μm]以上とすることが望ましい。これより狭くなると、毛管力による接着剤の流動が生じにくくなり、ノズルプレート30とヘッドチップ20との間に隙間を生じるおそれがある。
また、各溝35は、ノズルプレート30をヘッドチップ20に接着した時に、いずれのチャネル22にも連通しないように配置されている。
【0043】
[ノズルプレートの製造方法]
上記構成のノズルプレート30の製造方法を図4Aから図8に基づいて説明する。
ここでは、一枚のステンレス製の板状部材Pから三枚のノズルプレート30を製造する場合を例示する。一枚の板状部材Pから製造するノズルプレート30の枚数は一例に過ぎず、増減させてもよい。
【0044】
まず、図4A及び図4Bに示すように、左右方向に沿ってノズル列34が形成されるように所定のノズルピッチで複数のノズル33が形成される(ノズル形成工程)。
各ノズル33は、レーザー加工、又はプレス加工と研磨によって、前述した各位置に形成される。
そして、板状部材Pにおけるノズルプレート30の第一面31となる面に対して研磨が行われる(研磨工程)。この研磨は、次工程である溝形成工程において、溝35をウェットエッチングで形成するためのフォトレジスト膜を第一面31となる面に良好に形成するための処理である。
【0045】
次に、図5A及び図5Bに示すように、板状部材Pにおけるノズルプレート30の第一面31となる面に対して、各ノズル列34を挟んで二本の溝35が左右方向に沿って前述した配置で形成される(溝形成工程)。
各溝35は、ウェットエッチングにより形成される。即ち、板状部材Pにおけるノズルプレート30の第一面31となる面にドライフィルムレジストが貼着され、フォトマスクにより、各ノズル列34に対する各溝35の形成予定位置が露光され、各溝35の形成予定位置のドライフィルムレジストを除き、板状部材Pがエッチング液に浸される。エッチング液に浸す時間が調整され、溝35が目標の深さとなるように形成される。その後、ドライフィルムレジストは除去される。
このとき、溝35と共に、後述するブリッジ部37の形成予定位置にもブリッジ部37の前身となる溝37aを形成する。ブリッジ部37については後述する。
【0046】
次に、図6A及び図6Bに示すように、板状部材Pに対して、ノズルプレート30の外形に沿って、ウェットエッチングによって、一部のブリッジ部37を残して分断部36が形成される(外形加工工程)。分断部36は、レーザー加工、又はプレス加工によって形成することも可能であるが、ウェットエッチングによって形成することが望ましい。これについては、別途、後述する。
【0047】
分断部36は、ノズルプレート30の外形に沿って前後に貫通形成された長穴であり、外形の一部分であるブリッジ部37が残存するので、ノズルプレート30となる部分は、板状部材Pから分離せずに保持された状態を維持する。このように、ブリッジ部37を残して分断部36を形成することで、最終的な板状部材Pからのノズルプレート30の分離作業を、ブリッジ部37のみの切断により簡単に行うことができる。
【0048】
次に、図7A及び図7Bに示すように、板状部材Pにおけるノズルプレート30の第二面32となる面に対して、撥水膜38が形成される(膜形成工程)。
撥水膜38は、フッ素樹脂を含有する塗布液の塗布、乾燥、熱処理により形成される。塗布液の塗布は、蒸着、スプレーコーティング、スピンコーティング、はけコーティング等、周知のコーティング方法を用いることができる。
また、撥水膜の形成前に下地層を形成してもよい。下地層としては、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、ニオビウム、チタン、タングステン、コバルト、モリブテン、バナジウム、ランタン、マンガン、クロム、イットリウム、プラセオジウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、イリジウム、セリウム及びアルミニウムから選ばれる単数もしくは複数の種類の金属元素を含有し、かつ、酸素、窒素、炭素から選ばれる単数もしくは複数の種類の元素を含有する膜を形成すれば良い。あるいは、酸化シリコン、酸化炭化シリコン、タンタルシリケート及び炭化酸化シリコンから選ばれる膜を形成しても良い。
このような下地層を形成することで、撥水膜の結合を強固にし、化学耐性や擦過耐性を向上することが出来る。
【0049】
次に、図8に示すように、板状部材Pに対して、ブリッジ部37が切断され、ノズルプレート30が分離される(分離工程)。
ブリッジ部37は、レーザー加工又はプレス加工によって切断しても良いが、手で切断しても良い。特に、ブリッジ部37には、前述した溝形成工程において、溝37aが形成されて薄肉化しているので、より容易に切断することが可能である。
これにより、個々のノズルプレート30が形成される。
【0050】
[ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(1)]
前述した分断部36をウェットエッチングにより形成してノズルプレート30の外周を形成する複数の方法について詳細に説明する。
図9A図9Eは、ノズルプレート30の第一面31側から分断部36を形成する方法を順番に示している。
即ち、分断部36の形成は、板状部材Pの両面にドライフィルムレジストが貼着され(図9A)、フォトマスクにより、第一面31側の各分断部36の形成予定位置が露光され、各分断部36の形成予定位置のドライフィルムレジストが除去され(図9B)、エッチング液に浸されて分断部36が形成され(図9C)、ドライフィルムレジストが除去される(図9D)。
【0051】
上述のように、ノズルプレート30の第一面31側からウェットエッチングにより分断部36を形成した場合、図9Eに示すように、ノズルプレート30は、外周端面39がヘッドチップ20に対して順テーパとなり、外周端面39は第一面31に対して鈍角の傾斜面で形成される。その結果、ヘッドチップ20の接着面21にノズルプレート30を接着すると、接着剤層311の接着剤が外周端面39側にはみ出してきた場合に、接着面21と外周端面39の間に蓄えられ、撥水膜38が形成される第二面32側への接着剤の回り込みを効果的に抑制することが可能となる。
【0052】
仮に、ノズルプレート30の第二面32側からウェットエッチングにより分断部36を形成した場合、図10に示すように、ノズルプレート30の外周端面39は第一面31に対して鋭角の傾斜面で形成され、はみ出した接着剤は外周端面39に沿って第二面32側へ回り込みが生じ易くなる。
【0053】
[ウェットエッチングによるノズルプレートの外周の形成(2)]
また、図11A図11Eは、ノズルプレート30の分断部36を形成する方法の他の例を順番に示している。
この場合、即ち、分断部36の形成は、板状部材Pの両面にドライフィルムレジストが貼着され(図11A)、フォトマスクにより、第一面31と第二面32の両側の各分断部36の形成予定位置が露光され、各分断部36の形成予定位置のドライフィルムレジストが除去され(図11B)、エッチング液に浸されて分断部36が形成され(図11C)、ドライフィルムレジストが除去される(図11D)。
【0054】
この場合も、図11Eに示すように、ノズルプレート30は、外周端面39における第一面31側端部が第一面31に対して鈍角に傾斜して形成されるので、図9Eの例と同様に、撥水膜38が形成される第二面32側への接着剤の回り込みを効果的に抑制することが可能となる。
【0055】
[ノズルプレートの他の製造方法の例(1)]
ノズルプレートの他の製造方法の例(1)を図12A図16に従って説明する。この製造方法の他の例については、前述した図4A図8に示した製造方法と異なる点のみについて説明する。
【0056】
この例は、主に、ノズル形成工程より先に溝形成工程を行う点が、図4A図8の製造方法と異なっている。
即ち、図12A及び図12Bに示すように、板状部材Pの第一面31となる面に対して溝35をウェットエッチングにより形成する(溝形成工程)。なお、この溝形成工程の前に第一面31側の研磨を行う研磨工程を実施してもよい。
そして、図13A及び図13Bに示すように、レーザー加工、又はプレス加工と研磨によって、複数のノズル33が形成される(ノズル形成工程)。
次に、図14A及び図14Bに示すように、板状部材Pの第二面32となる面に対して撥水膜38が形成される(膜形成工程)。
次に、図15A及び図15Bに示すように、板状部材Pに対して、ノズルプレート30の外形に沿って、ウェットエッチング又はレーザー加工によって、ブリッジ部37を残すことなく分断部36が形成される(外形加工工程)。これにより、図16に示すように、板状部材Pに対して、各ノズルプレート30が分離される(分離工程)。
【0057】
なお、図13A及び図13Bのノズル形成工程から後は、前述した図6A図8に示す外形加工工程、膜形成工程、分離工程を行っても良い。
また逆に、前述した図4A図8に示した製造方法において、図5A及び図5Bの溝形成工程から後は、図14A図16に示す膜形成工程、外形加工工程、分離工程を行っても良い。
【0058】
[ノズルプレートの他の製造方法の例(2)]
ノズルプレートの他の製造方法の例(2)を図17A図21に従って説明する。この製造方法の他の例については、前述した図4A図8に示した製造方法と異なる点のみについて説明する。
【0059】
この例は、主に、最初に膜形成工程を行う点が、図4A図8の製造方法と異なっている。
即ち、図17A及び図17Bに示すように、板状部材Pの第二面32となる面に対して撥水膜38が形成される(膜形成工程)。
そして、図18A及び図18Bに示すように、レーザー加工によって、複数のノズル33が形成される(ノズル形成工程)。
次に、図19A及び図19Bに示すように、板状部材Pの第一面31となる面に対して溝35をウェットエッチングにより形成する(溝形成工程)。なお、この溝形成工程の前に第一面31側の研磨を行う研磨工程を実施してもよい。
次に、図20A及び図20Bに示すように、板状部材Pに対して、ノズルプレート30の外形に沿って、ウェットエッチング又はレーザー加工によって、ブリッジ部37を残すことなく分断部36が形成される(外形加工工程)。これにより、図21に示すように、板状部材Pに対して、各ノズルプレート30が分離される(分離工程)。
【0060】
なお、図18A及び図18Bに示すノズル形成工程と図19A及び図19Bに示す溝形成工程は、先後の順番を入れ替えてもよい。
【0061】
[ノズルプレートの他の製造方法の例(3)]
ノズルプレートの他の製造方法の例(3)を図22A図26に従って説明する。この製造方法の他の例については、前述した図4A図8に示した製造方法と異なる点のみについて説明する。
【0062】
この例は、主に、溝形成工程より先に膜形成工程を行う点が、図4A図8の製造方法と異なっている。
即ち、図22A及び図22Bに示すように、レーザー加工、又はプレス加工と研磨によって、複数のノズル33が形成される(ノズル形成工程)。
そして、図23A及び図23Bに示すように、板状部材Pの第二面32となる面に対して撥水膜38が形成される(膜形成工程)。
次に、図24A及び図24Bに示すように、板状部材Pの第一面31となる面に対して溝35をウェットエッチングにより形成する(溝形成工程)。なお、この溝形成工程の前に第一面31側の研磨を行う研磨工程を実施してもよい。
次に、図25A及び図25Bに示すように、板状部材Pに対して、ノズルプレート30の外形に沿って、ウェットエッチング又はレーザー加工によって、ブリッジ部37を残すことなく分断部36が形成される(外形加工工程)。これにより、図26に示すように、板状部材Pに対して、各ノズルプレート30が分離される(分離工程)。
【0063】
なお、図23A及び図23Bに示すノズル形成工程と図24A及び図24Bに示す溝形成工程は、先後の順番を入れ替えてもよい。
また、上記他の製造方法の例(1)~(3)については、ノズルプレートの用途に応じては、膜形成工程を省略することが可能である。
【0064】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記のように、ノズル形成工程、溝形成工程、外形加工工程を経て金属製の板状部材Pから製造されたノズルプレート30は、耐久性及び耐薬品性に優れ、接着剤によるノズル33の詰まりを溝35によって抑制することができるので、吐出性にも優れている。このため、ノズルプレート30を搭載することにより、耐久性、耐薬品性及び吐出性に優れるインクジェットヘッド10を提供することが可能となる。
【0065】
また、ノズルプレート30には、ノズル列34が形成され、溝35がノズル列34に平行に形成されているので、各ノズル33に対して、均等に接着剤の流入を抑制することが可能である。
また、各溝35は、ノズル列34よりも長く、左右方向について当該ノズル列34が内側となるように形成されているので、ノズル列34の全長に渡って効果的に接着剤の流入を抑制することが可能である。
さらに、各ノズル列34に対してこれを挟むように両側に溝35が形成されているので、ノズル列34の長手方向に直交する方向の両側からの接着剤の流入を抑制することが可能である。
さらに、各溝35は、深さが5~20[μm]の範囲で形成されているので、接着剤の受入量を適度に確保しつつ、ノズルプレート30を適度な強度に維持することが可能である。
【0066】
また、ノズルプレート30は、各溝35がウェットエッチングにより形成されている。溝35は、ノズルプレート30の第一面31に形成され、第二面32には貫通しない構造である。このような有底溝をレーザー加工やプレス加工で形成すると、溝底部側(第二面32側)と溝開口部(第一面31側)とで残留応力の違いが生じ、ノズルプレート30に反りが発生し易くなる。
しかしながら、各溝35は、ウェットエッチングにより形成されているので、ノズルプレート30の反りの発生を効果的に抑制することができる。
従って、ノズルプレート30をヘッドチップ20に接着した場合に、反りによる接着不良箇所の発生を低減し、信頼性の高いインクジェットヘッド10を提供することが可能となる。
【0067】
また、図4A図8に示すノズルプレート30の製造工程において、板状部材Pに対して、ノズルプレート30の外形に沿って、一部のブリッジ部37を残して分断部36を形成する外形加工工程後に、板状部材Pの撥水膜を形成する膜形成工程を行っている。
この場合、各ノズルプレート30は、ブリッジ部37を介して板状部材Pにつながっているので、板状部材Pにおけるノズルプレート30以外の部分を利用して保持した状態で撥水膜を形成することができる。
このため、ノズルプレート30を個別に分離させてから、撥水膜を形成する場合に比べて、ノズルプレート30を保持することにより(例えば、テープでノズルプレート30を固定する等)、撥水膜形成が遮られることがなく、ノズルプレート30に良好に撥水膜38を形成することが可能となる。
また、ノズルプレート30を個別に固定する作業を不要とし、ノズルプレート30の製造をより容易に行い作業負担の低減を図ることが可能となる。
【0068】
また、図12A図16に示したノズルプレートの他の製造方法の例(1)のように、ノズルプレート30の製造工程において、溝形成工程後であってノズルプレート30を板状部材Pから分離する外形加工工程前に、膜形成工程を実行する場合も、撥水膜形成が遮られることがなく、ノズルプレート30に良好に撥水膜38を形成することが可能となる。
【0069】
また、ノズルプレート30の製造工程において、ノズル形成工程後であって、溝形成工程前に、板状部材Pを研磨する研磨工程を備えている。
これにより、ウェットエッチングによる溝35の形成のためのフォトレジスト膜を良好に形成することが可能となり、各溝35を良好に精度良く形成することが可能となる。
【0070】
また、ノズル形成工程において、各ノズル33をプレス加工と研磨、又はレーザー加工によって形成している。各ノズル33は板状部材Pを貫通して形成されるので、前述した溝35の場合と異なり、板状部材Pの厚さ方向について残留応力の差が生じにくく、反りは発生しにくい。また、反りが生じた場合、両面を研磨して研磨量を調整することで反りを抑制することができる。
さらに、各ノズル33をプレス加工と研磨、又はレーザー加工により形成することで、効率良く製造することが可能となる。
【0071】
[ノズルプレートの溝の他の形成例(1)]
図27Aはノズルプレートの溝の他の形成例(1)としてのノズルプレート30Aの平面図、図27B図27Aの領域Eの拡大図である。
このノズルプレート30Aの複数の溝35Aは、前述した溝35と同じ位置で同じ範囲に形成されているが、各溝35Aは、ノズル列34に平行な同一直線上に並んだ複数の小溝351Aから構成されている点が異なっている。つまり、前述した溝35は、ノズル列34に対してこれより長い一本の溝で構成されていたが、溝35Aは、溝35を複数に分割した構成となっている。
【0072】
このため、図27Bに示すように、隣り合う小溝351A同士で隙間領域が存在している。この隙間領域の左右方向の間隔h2は、隣り合うノズル33同士の隙間領域の間隔h1よりも狭くなるように、各小溝351Aは形成されている。
さらに、隣り合う小溝351A同士の隙間領域が、いずれも、左右方向について、いずれのノズル33とも重ならない配置で各小溝351Aは形成されている。
これらにより、溝35Aを複数の小溝351Aから構成した場合、小溝351A同士の隙間では接着剤の受け入れを行うことができないが、左右方向について、小溝351A同士の隙間とノズル33の配置が重ならないので、その影響は最小限に抑えられ、各ノズル33への接着剤の流入は効果的に抑制することが可能である。
さらに、溝35Aを複数の小溝351Aで構成した場合には、加工形成時の残留応力の影響を低減することができる。従って、溝35Aは、ウェットエッチングにより形成することが望ましいが、仮に、レーザー加工やプレス加工により形成した場合であっても、反りの影響を抑制し、効率良く製造することができる。
【0073】
なお、このノズルプレート30Aは前述したノズルプレート30と同じ工程で製造することができる。なお、溝形成工程では、上述のように、ウェットエッチングに替えて、レーザー加工やプレス加工により溝35Aを形成することも可能である。
【0074】
[ノズルプレートの溝の他の形成例(2)]
図28はノズルプレートの溝の他の形成例(2)としてのノズルプレート30Bの平面図である。
前述のノズルプレート30のように、ノズル列34を挟んでその両側に溝35を形成する場合、ノズル列34とノズル列34の間には二本の溝35が形成されるが、このようなノズル列34とノズル列34の間の二本の溝35は一本の溝にまとめても良い。
ノズルプレート30Bは、ノズル列34とノズル列34の間の溝を一本にまとめた構成となっている。この場合、ノズル列34とノズル列34の間に形成される溝35Bは、前述の溝35よりも幅を広くして、二本分の溝35の接着剤の受入量を確保することが望ましい。
また、一方のノズル列34のノズル33と他方のノズル列34のノズル33とでノズルピッチ1/2分のオフセットが形成されている場合には、溝35Bは、左右方向について、両方のノズル列34の全長が内側に含まれる長さ及び配置とすることが望ましい。
なお、このノズルプレート30Bは前述したノズルプレート30と同じ工程で製造することができる。
【0075】
このようなノズルプレート30Bの構造であれば、溝の数を低減することが可能となり、ノズルプレート30Bの製造の容易化、効率化を図ることが可能となる。
【0076】
[ノズルプレートの溝の他の形成例(3)]
図29はノズルプレートの溝の他の形成例(3)としてのノズルプレート30Cの平面図である。
前述のノズルプレート30では、ノズル列34を挟んでその両側に溝35が形成されているが、各ノズル列34の並び方向(上下方向)について、全てのノズル列34よりも外側となる溝35(図3における一番上と一番下の溝35)については省略することが可能である。
このように、全てのノズル列34よりも外側となる溝35の形成を省略したノズルプレート30Cの場合、溝35の本数が低減するので接着剤の受入量が低減し、各ノズル33に対する接着剤の流入抑制効果は低減する。
しかし、上記全てのノズル列34よりも外側となる溝35が配置されていた領域の余剰となる接着剤は、ノズルプレート30Cの外縁部(上端部と下端部から外部に)から外側に押し出させることができるので、ノズル列34とノズル列34との間の領域の接着剤のようには流入量は多くならない。従って、ノズル列34とノズル列34との間の領域に溝35を設けてあれば、各ノズル33への接着剤の流入の抑制が可能であり、各ノズル33のつまりによる吐出不良の発生を低減することが可能となる。
なお、このノズルプレート30Cは前述したノズルプレート30と同じ工程で製造することができる。
【0077】
[ノズルプレートの厚さと吐出性能の関係]
ノズルプレート30の厚さと吐出性能に影響を与えるメニスカスの形成との関係を求めたシミュレーション結果を図30の一覧に示す。
ノズル33からの液体吐出の際には、ノズル33にメニスカスが形成される。このメニスカスによる液面からの後退量が大きくなる程、吐出時にメニスカスが気泡を巻き込んで壊れやすくなり、吐出不良の発生確率が高くなる。
メニスカスによる液面からの後退量は、図31に示すように、ノズルプレート30の吐出側の面からメニスカスの後退部分までの長さBからノズルプレート30の厚さを減じた量である。
【0078】
ノズルプレート30の厚さを20,30,40,50,60[μm]として、そのメニスカスの後退量と組立性について評価を行ったところ、ノズルプレート30の厚さが20[μm]まで薄くなると、メニスカスの液面からの後退量が大きくなり、吐出が良好に行われなくなる。
また、ノズルプレート30の厚さが60[μm]まで厚くなると、接着剤によるヘッドチップ20とノズルプレート30の粘着力に対してノズルプレート30の弾性力の方が強くなるため、ノズルプレート30をヘッドチップ20へ接着剤で貼り付けた際に、ノズルプレート30に反りが生じている場合に、剥がれてしまったり、接着剤の硬化ベークにより線膨張差によるせん断力によりリークが発生しやすくなり、組立て性が悪化する。これにより、吐出が良好に行われなくなる。
従って、ノズルプレート30の厚さが30~50[μm]の範囲で吐出が良好に行われるという結果が得られた。
【0079】
[その他]
上記ノズルプレート30,30A,30B,30Cではノズル列34が二列である場合を例示したが、その数は二列に限定されず、単数列又は三列以上としてもよい。その場合、ノズル列34ごとにその両側に溝35を設けることが望ましいが、互いに隣り合うノズル列34とノズル列34の間の二本の溝35については、前述した溝35Bのように、一本にまとめてもよい。
【0080】
また、上記ノズルプレート30,30A,30B,30Cでは、溝35,35A,35Bが第二面32まで貫通しないように形成された例を示したが、材質や構造設計等によりノズルプレート30,30A,30B,30Cの必要強度を確保することが可能であれば、溝35,35A,35Bを第二面32まで貫通形成しても良い。
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るノズルプレートの製造方法及びインクジェットヘッドは、ノズルプレートを金属製とする分野に対して産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0082】
10 インクジェットヘッド
20 ヘッドチップ
21 接着面
22 チャネル
30,30A,30B,30C ノズルプレート
31 第一面
32 第二面
33 ノズル
34 ノズル列
35,35A,35B 溝
36 分断部
37 ブリッジ部
38 撥水膜
351A 小溝
h1,h2 間隔
L 符号
P 板状部材
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20A
図20B
図21
図22A
図22B
図23A
図23B
図24A
図24B
図25A
図25B
図26
図27A
図27B
図28
図29
図30
図31