(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】水性樹脂用架橋剤組成物及び水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08K 5/057 20060101AFI20220208BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220208BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20220208BHJP
C07C 43/11 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C08K5/057
C08K5/29
C08L101/14
C07C43/11
(21)【出願番号】P 2018031214
(22)【出願日】2018-02-23
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100113561
【氏名又は名称】石村 理恵
(72)【発明者】
【氏名】中島 真一
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 健一
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-140797(JP,A)
【文献】米国特許第03817889(US,A)
【文献】特開2017-114857(JP,A)
【文献】特公昭47-020206(JP,B1)
【文献】特開2007-297491(JP,A)
【文献】特開2004-217767(JP,A)
【文献】特開平06-086936(JP,A)
【文献】OCHI, Masayoshi et al.,Synthesis and Properties of Surface Active Organotitanium Compounds. I,BULLETIN OF THE CHEMICAL SOCIETY OH JAPAN,VOL.40,1967年,p.983-987
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C08L
C08C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表され、質量平均分子量が800~8500である、金属アルコキシド
と、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物とを含む、水性樹脂用架橋剤組成物。
Ti(OA)
4 (1-1)
Zr(OA)
4 (1-2)
Al(OA)
3 (1-3)
[式(1-1)~(1-3)中、Aは、それぞれ独立に、下記一般式(1a)で表されるポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルから水酸基を除いた残基である。
R
11(OCHR
12CH
2)
nOH (1a)
(式(1a)中、R
11は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。R
12は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。nは4~45の整数である。)]
【請求項2】
下記式(2-1)、(2-2)又は(2-3)で表され、質量平均分子量が600~6000である、金属アルコキシド
と、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物とを含む、水性樹脂用架橋剤組成物。
Ti(OA)
p(OR)
4-p (2-1)
Zr(OA)
q(OR)
4-q (2-2)
Al(OA)
r(OR)
3-r (2-3)
[式(2-1)~(2-3)中、Aは、それぞれ独立に、下記一般式(1a)で表されるポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルから水酸基を除いた残基である。Rは、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。p及びqは2以上4未満の数、rは2以上3未満の数である。
R
11(OCHR
12CH
2)
nOH (1a)
(式(1a)中、R
11は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。R
12は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。nは4~45の整数である。)]
【請求項3】
アルコール性水酸基及びカルボキシ基の少なくともいずれかを含む1種以上の水性樹脂と、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物と、下記式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表され、質量平均分子量が800~8500である、金属アルコキシドとを含む、水性樹脂組成物。
Ti(OA)
4
(1-1)
Zr(OA)
4
(1-2)
Al(OA)
3
(1-3)
[式(1-1)~(1-3)中、Aは、それぞれ独立に、下記一般式(1a)で表されるポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルから水酸基を除いた残基である。
R
11
(OCHR
12
CH
2
)
n
OH (1a)
(式(1a)中、R
11
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。R
12
は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。nは4~45の整数である。)]
【請求項4】
アルコール性水酸基及びカルボキシ基の少なくともいずれかを含む1種以上の水性樹脂と、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物と、
下記式(2-1)、(2-2)又は(2-3)で表され、質量平均分子量が600~6000である、金属アルコキシドとを含む、水性樹脂組成物。
Ti(OA)
p
(OR)
4-p
(2-1)
Zr(OA)
q
(OR)
4-q
(2-2)
Al(OA)
r
(OR)
3-r
(2-3)
[式(2-1)~(2-3)中、Aは、それぞれ独立に、下記一般式(1a)で表されるポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルから水酸基を除いた残基である。Rは、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。p及びqは2以上4未満の数、rは2以上3未満の数である。
R
11
(OCHR
12
CH
2
)
n
OH (1a)
(式(1a)中、R
11
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。R
12
は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。nは4~45の整数である。)]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂用架橋剤組成物及び水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性又は水分散性を有する水性樹脂は、環境面や安全面の点で取り扱い性に優れていることから、塗料やインキ、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤等の各種用途で用いられている。水性樹脂は、樹脂自体に水溶性又は水分散性を付与するために、水酸基やカルボキシ基等の親水基が導入されている。それゆえに、水性樹脂は、油性樹脂に比べて、耐水性や耐久性の点で劣る傾向にある。
このため、水性樹脂の耐水性や耐久性、強度等の諸物性を向上させるために、該水性樹脂には、架橋剤が添加される。
【0003】
このような架橋剤として、ポリカルボジイミドやポリオキサゾリンが知られている。例えば、特許文献1及び2には、ポリカルボジイミドを、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコラート(アルコキシド)の存在下で、水酸基又はメルカプト基を有する化合物と反応させることにより、カルボジイミド基による架橋反応が促進されることが記載されている。
また、特許文献3及び4には、加水分解し難い架橋剤として、チタンアルコキシドやチタンキレート化合物と、アミン化合物と、グリコール化合物とからなる水性チタン組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-221532号公報
【文献】特開平9-216931号公報
【文献】特開2004-256505号公報
【文献】特開2009-132762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2では、金属アルコキシドの金属としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属が用いられており、これらは加水分解しやすく、反応系が強アルカリ性となり、取り扱い時の安全性の点で好ましくない。このため、特許文献1及び2に記載されているような方法による架橋は、水性樹脂に適しているとは言えない。
【0006】
一方、上記特許文献3及び4に記載されている水性チタン組成物は、アミン化合物を必須成分としており、ポリカルボジイミドやポリオキサゾリンを成分として含むものではない。カルボジイミド基含有成分を該水性チタン組成物と混合すると、アミンとカルボジイミド基とが容易に反応し、架橋反応性官能基(架橋性基)が減少する。オキサゾリン基含有成分の場合も、同様の現象が生じる。
【0007】
また、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンは、一般に、アルコール性水酸基との反応性が低く、アルコール性水酸基の含有割合が多い水性樹脂に対しては、架橋反応が十分に進行しないという課題があった。
【0008】
このような状況の下、本発明者らは、アルコール性水酸基の架橋性基に対するポリカルボジイミドの架橋反応性を向上させるべく検討を重ねたところ、耐加水分解性に優れ、かつ、ポリカルボジイミドと併用することにより架橋度の高い水性樹脂硬化体を生成させることができる、新規の金属アルコキシドを見出した。また、該金属アルコキシドは、ポリオキサゾリンに対しても同様の効果が得られるとの知見を得た。
さらに、前記金属アルコキシドは、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンのいずれについても、カルボキシ基の架橋性基に対する架橋反応性も向上させるとの知見も得た。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、耐加水分解性に優れた、新規の金属アルコキシド、並びにこれを用いた水性樹脂用架橋剤組成物及び水性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル由来の置換基を有するチタン、ジルコニウム又はアルミニウムのアルコキシドが、優れた耐加水分解性を有することを見出したことに基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供する。
[1]下記式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表され、質量平均分子量が800~8500である、金属アルコキシド。
Ti(OA)4 (1-1)
Zr(OA)4 (1-2)
Al(OA)3 (1-3)
[式(1-1)~(1-3)中、Aは、それぞれ独立に、下記一般式(1a)で表されるポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルから水酸基を除いた残基である。 R11(OCHR12CH2)nOH (1a)
(式(1a)中、R11は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。R12は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。nは4~45の整数である。)]
[2]下記式(2-1)、(2-2)又は(2-3)で表され、質量平均分子量が600~6000である、金属アルコキシド。
Ti(OA)p(OR)4-p (2-1)
Zr(OA)q(OR)4-q (2-2)
Al(OA)r(OR)3-r (2-3)
[式(2-1)~(2-3)中、Aは、それぞれ独立に、下記一般式(1a)で表されるポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルから水酸基を除いた残基である。Rは、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。p及びqは2以上4未満の数、rは2以上3未満の数である。
R11(OCHR12CH2)nOH (1a)
(式(1a)中、R11は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。R12は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。nは4~45の整数である。)]
【0012】
[3]上記[1]又は[2]に記載の金属アルコキシドと、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物とを含む、水性樹脂用架橋剤組成物。
[4]アルコール性水酸基及びカルボキシ基の少なくともいずれかを含む1種以上の水性樹脂と、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物と、上記[1]又は[2]に記載の金属アルコキシドとを含む、水性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、チタン、ジルコニウム又はアルミニウムのアルコキシドである新規の金属アルコキシドが提供される。前記金属アルコキシドは、優れた耐加水分解性を有しており、また、親水性の架橋性基に対するポリカルボジイミド及び/又はポリオキサゾリンの架橋反応性を向上させることができる。
このため、本発明の金属アルコキシドは、ポリカルボジイミド及び/又はポリオキサゾリンとともに、優れた水性樹脂用架橋剤組成物を構成し、さらに、架橋反応性に優れた水性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の金属アルコキシド、並びにこれらを用いた水性樹脂用架橋剤組成物及び水性樹脂組成物を詳細に説明する。
なお、本発明で言う「水性」とは、水性溶剤に対する溶解性又は分散性を有していることを意味する。水性溶剤とは、水、又は、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類等から選ばれる親水性溶剤、並びにこれらの混合溶剤を指す。
【0015】
[金属アルコキシド]
本発明の金属アルコキシドとしては、下記に示すように、第1の形態に係る金属アルコキシド(X)、及び第2の形態に係る金属アルコキシド(Y)とが提供される。
【0016】
(金属アルコキシド(X))
本発明の第1の形態に係る金属アルコキシド(X)は、下記式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表され、質量平均分子量が800~8500である。これらは、いずれも、新規な金属アルコキシドであり、かつ、耐加水分解性に優れている。
Ti(OA)4 (1-1)
Zr(OA)4 (1-2)
Al(OA)3 (1-3)
【0017】
式(1-1)~(1-3)中、Aは、それぞれ独立に、下記一般式(1a)で表されるポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルから水酸基を除いた残基である。
R11(OCHR12CH2)nOH (1a)
式(1a)中、R11は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基、より好ましくはメチル基である。R12は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくは水素原子又はメチル基であり、より好ましくは水素原子である。nは4~45、好ましくは5~30、より好ましくは6~15の整数である。
【0018】
前記ポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルは、取り扱い性や入手容易性等の観点から、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルであることが好ましく、具体的には、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられ、特に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルが好適に用いられる。
【0019】
金属アルコキシド(X)は、質量平均分子量が800~8500であり、好ましくは800~8000、より好ましくは1000~8000である。
金属アルコキシドの加水分解は、構成金属原子と水分子とが近づくことにより進行すると考えられる。金属アルコキシド(X)の構成金属原子(中心金属原子)は、置換基(A)の立体障害により、水分子と近づくことが阻害される。置換基(A)の質量平均分子量が800未満では、立体障害効果が小さく、加水分解が進行するため、後述する架橋反応性を向上させる触媒機能が十分に得られない。一方、8500を超える場合は、置換基(A)の式量が大きく、相対的に分子中の中心金属原子の濃度が低くなり、触媒機能が十分に得られない。
なお、本発明における金属アルコキシド(X)の質量平均分子量は、原料の分子量等から求められた計算値である。この質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)によって測定することもできる。
【0020】
金属アルコキシド(X)の構成金属原子は、チタン原子、ジルコニウム原子又はアルミニウム原子である。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属アルコキシドは、非常に加水分解しやすいのに対して、金属原子がチタン、ジルコニウム又はアルミニウムである金属アルコキシド(X)は、耐加水分解性に優れている。
【0021】
金属アルコキシド(X)の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、炭素数1~4の低級アルコールの金属アルコキシドである、市販のチタンテトラアルコキシド、ジルコニウムテトラアルコキシド又はアルミニウムトリアルコキシドを原料として、これらの各アルコキシ基に対して、所定のポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルを用いて、公知の方法で、すべてのアルコキシ基の置換反応を行うことにより得ることができる。
【0022】
(金属アルコキシド(Y))
本発明の第2に形態に係る金属アルコキシド(Y)は、下記式(2-1)、(2-2)又は(2-3)で表され、質量平均分子量が600~6000の化合物である。
Ti(OA)p(OR)4-p (2-1)
Zr(OA)q(OR)4-q (2-2)
Al(OA)r(OR)3-r (2-3)
【0023】
金属アルコキシド(Y)の構成金属原子も、金属アルコキシド(X)と同様に、チタン原子、ジルコニウム原子又はアルミニウム原子である。
【0024】
式(2-1)~(2-3)中、Aは、金属アルコキシド(X)におけるAと同じである。
Rは、それぞれ独立に、炭素数1~20のアルキル基である。前記アルキル基としては、取り扱い性や原料の入手容易性等の観点から、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、オクチル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0025】
p及びqは2以上4未満の数、rは2以上3未満の数である。式(2-1)~(2-3)で表される金属アルコキシドは、構成金属原子(中心金属原子)と水分子とが近づくことを阻害するため、p、q及びrは2以上とする。また、これらの金属アルコキシドは、アルコキシ基(OR)を有するものであり、p及びqは4未満、rは3未満とする。
【0026】
pは、式(2-1)で表されるチタンアルコキシド1分子中の、チタン原子と結合している有機基(OA)の個数の平均値を表しており、2以上4未満の数であって、整数に限られない。式(2-1)で表されるチタンアルコキシドは、チタン原子に、アルコキシ基(OA)及びアルコキシ基(OR)が合計で4個結合している。そして、このチタンアルコキシドは、アルコキシ基(OA)が2個又は3個結合した1種のアルコキシドでもよく、0~4個のうちの整数個結合したアルコキシドの混合物であってもよい。
混合物である場合は、アルコキシ基(OA)の1分子あたりの平均個数をpとして表している。
【0027】
同様に、qも、式(2-2)で表されるジルコニウムアルコキシド1分子中の、ジルコニウム原子と結合しているアルコキシ基(OA)の個数の平均値を表しており、2以上4未満の数であって、整数に限られない。すなわち、式(2-2)で表されるジルコニウムアルコキシドは、ジルコニウム原子に、アルコキシ基(OA)及びアルコキシ基(OR)が合計で4個結合しており、アルコキシ基(OA)が2個又は3個結合した1種のアルコキシド、又は、0~4個のうちの整数個結合したアルコキシドの混合物である。
混合物である場合は、アルコキシ基(OA)の1分子あたりの平均個数をqとして表している。
【0028】
また、rは、式(2-3)で表されるアルミニウムアルコキシド1分子中の、アルミニウム原子と結合しているアルコキシ基(OA)の個数の平均値を表しており、2以上3未満の数であって、整数に限られない。すなわち、式(2-3)で表されるアルミニウムアルコキシドは、アルミニウム原子にアルコキシ基(OA)及びアルコキシ基(OR)が合計で3個結合しており、アルコキシ基(OA)が2個結合した1種のアルコキシド、又は、0~3個のうちの整数個結合したアルコキシドの混合物である。
混合物である場合は、アルコキシ基(OA)の1分子あたりの平均個数をrとして表している。
【0029】
金属アルコキシド(Y)の質量平均分子量は、該金属アルコキシドの親水性及び触媒機能の観点から、600~6000である。好ましくは700~5000、より好ましくは800~4000である。
金属アルコキシド(Y)の質量平均分子量も、金属アルコキシド(X)の質量平均分子量と同様に求めることができる。
【0030】
金属アルコキシド(Y)の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、金属アルコキシド(X)の製造方法と同様に、例えば、炭素数1~4の低級アルコールの金属アルコキシドである、市販のチタンテトラアルコキシド、ジルコニウムテトラアルコキシド又はアルミニウムトリアルコキシドを原料として、これらの各アルコキシ基に対して、所定のポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルを用いて置換反応を行い、反応条件を調整する等の公知の方法によりアルコキシ基の置換度を制御することによって得ることができる。
【0031】
[水性樹脂用架橋剤組成物]
本発明の水性樹脂用架橋剤組成物は、上述した金属アルコキシド(X)又は(Y)と、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物(以下、化合物(Z)と称する。)とを含むものである。
【0032】
化合物(Z)とともに、金属アルコキシド(X)又は(Y)を併用することにより、水性樹脂に対する化合物(Z)の架橋剤としての作用を向上させることができる。
金属アルコキシド(X)又は(Y)は、耐加水分解性に優れており、水溶性又は水分散性を有する水性樹脂に対しても、該水性樹脂の親水性の架橋性基に対する化合物(Z)の架橋反応性を向上させる機能を有している。
なお、金属アルコキシド(X)又は(Y)は、これらのみの添加でも、水性樹脂に対して、架橋反応性をわずかに示すが、この場合は、化合物(Z)と併用した場合のような十分な架橋反応性は得られない。
【0033】
(水性樹脂)
前記水性樹脂は、水溶性又は水分散性を有する樹脂である。前記水性樹脂は架橋剤により架橋され得るものである。
具体的には、本発明で言う水性樹脂は、アルコール性水酸基及びカルボキシ基から選ばれる少なくともいずれかを含む1種以上の樹脂を指すものとする。すなわち、親水基であるアルコール性水酸基及び/又はカルボキシ基を架橋性基として有している。
前記水性樹脂用架橋剤組成物は、特に、このような架橋性基に対して架橋反応性の向上効果を発揮し得る。
前記水性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びスチレン-アクリル樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0034】
水性樹脂は、本発明の効果を十分に発揮させる観点から、アルコール性水酸基及びカルボキシ基のうち、アルコール性水酸基のみを含む場合、固形分(樹脂分)の水酸基価が5mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは5~150mgKOH/g、さらに好ましくは5~100mgKOH/gである。
また、水性樹脂が、アルコール性水酸基及びカルボキシ基のうち、カルボキシ基のみを含む場合、上記と同様の観点から、固形分(樹脂分)の酸価が5mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは5~150mgKOH/g、さらに好ましくは5~100mgKOH/gである。
また、水性樹脂が、アルコール性水酸基及びカルボキシ基を含む場合、上記と同様の観点から、固形分(樹脂分)の水酸基価及び酸価の合計が5mgKOH/g以上であることが好ましく、より好ましくは5~150mgKOH/g、さらに好ましくは5~100mgKOH/gである。
なお、水酸基価及び酸価は、JIS K 0070:1992に記載の方法により測定することができる。
【0035】
(化合物(Z))
化合物(Z)は、ポリカルボジイミド及びポリオキサゾリンから選ばれる1種以上の化合物である。この化合物(Z)が、水性樹脂に対する架橋作用を有するものである。
これらの化合物は、カルボキシ基に対する反応性を有する架橋剤として一般的に用いられているが、アルコール性水酸基との反応性に劣る。本発明においては、金属アルコキシド(X)又は(Y)を、化合物(Z)と併用することにより、アルコール性水酸基を有する樹脂の該水酸基に対する架橋反応性を向上させることができ、また、カルボキシ基に対する架橋反応性を向上させることもできる。
【0036】
前記水性樹脂用架橋剤組成物中の金属アルコキシド(X)又は(Y)の含有量は、架橋反応性を十分に向上させる観点から、化合物(Z)の合計含有量100質量部に対して、0.1~500質量部であることが好ましく、より好ましくは1.0~200質量部、さらに好ましくは2.5~50質量部である。
【0037】
ポリカルボジイミドとは、2個以上のカルボジイミド基を有する化合物であることを意味し、公知の合成方法を用いて、ジイソシアネートの脱炭酸縮合反応により得ることができる。
前記ジイソシアネートは、特に限定されるものではなく、鎖状又は脂環状の脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート又は複素環ジイソシアネートのいずれでもよく、これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
鎖状脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環状ジイソシアネートとしては、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)プロパン、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トルエン-2,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,2’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,4,6-トリイソプロピルベンゼン-1,3-ジイルジイソシアネート等が挙げられる。
また、芳香族環を含む脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)等が挙げられる。
これらの中でも、入手容易性やポリカルボジイミドの合成の容易さ等の観点から、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートが好ましく、特に、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートが好適に用いられる。
【0038】
イソシアネート基を末端に有するポリカルボジイミドは、イソシアネート基との反応性を有する官能基を有する公知の末端封止剤と反応させることにより、末端イソシアネート基が封止されていることが好ましい。前記官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基等が挙げられる。また、水性樹脂に対する架橋剤として用いる観点から、前記官能基は、親水基であることが好ましく、例えば、ポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル等が挙げられ、具体的には、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。
前記ポリアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルの質量平均分子量は、ポリカルボジイミドの親水性や、金属アルコキシド(X)又は(Y)との混和性、水性樹脂との混和性等の観点から、180~2100であることが好ましく、より好ましくは200~2000、さらに好ましくは250~1000である。
【0039】
また、ポリオキサゾリンは、2個以上のオキサゾリン基を有する化合物であることを意味し、下記に示すような低分子化合物や、2位でポリマー主鎖と結合するオキサゾリン基含有ポリマーが一般的に用いられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
ポリオキサゾリンの低分子化合物としては、例えば、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-トリメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレンビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド及びビス-(2-オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等のビス(2-オキサゾリン)類が挙げられる。
また、オキサゾリン基含有ポリマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の不飽和オキサゾリンの単独重合体もしくはこれと共重合可能な他の不飽和化合物との共重合体が挙げられる。
ポリオキサゾリンとしては、例えば、オキサゾリン基含有ポリマーである「エポクロス(登録商標)」(株式会社日本触媒製)等の市販品を用いることもできる。
【0040】
(その他の成分)
前記水性樹脂用架橋剤組成物には、金属アルコキシド(X)もしくは(Y)、及び化合物(Z)以外に、使用目的や用途等に応じて、必要により、溶剤や、分散剤、酸化防止剤等の各種添加剤等のその他の成分が含まれていてもよい。ただし、該架橋剤組成物が架橋反応性を十分に発揮するようにする観点から、水性樹脂用架橋剤組成物中の溶剤以外の成分中の金属アルコキシド(X)もしくは(Y)及び化合物(Z)の合計含有量が、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0041】
溶剤は、水性樹脂用架橋剤組成物中の各成分を均一に混合する観点から、必要に応じて用いられるものである。その含有量は、特に限定されるものではなく、使用時の取り扱い性等に応じて適宜調整することができる。溶剤の種類は、樹脂の種類や使用用途等に応じて適宜選択されるものであり、水性樹脂に対して添加して用いられるものであることから、水や、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類等から選ばれる親水性溶剤が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、水、又は水と親水性溶剤との混合溶剤であることが好ましく、環境やコスト等の観点からは、水のみであることが好ましい。これらの溶剤は、市販のポリカルボジイミドやポリオキサゾリンの製品中に含まれている場合もある。
前記添加剤の含有量は、水性樹脂の架橋反応に影響を及ぼさない範囲内において、製造する水性樹脂硬化体の所望の物性に応じて適宜調整することができる。
【0042】
[水性樹脂組成物]
本発明の水性樹脂組成物は、前記水性樹脂と、化合物(Z)と、金属アルコキシド(X)又は(Y)とを含むものである。すなわち、この水性樹脂組成物は、前記水性樹脂及び前記水性樹脂用架橋剤組成物を含むものである。
【0043】
前記水性樹脂組成物中の化合物(Z)の含有量は、前記水性樹脂のアルコール性水酸基及びカルボキシ基の合計1モルに対して、ポリカルボジイミドのカルボジイミド基及びポリオキサゾリンのオキサゾリン基の合計で0.01~10モルであることが好ましく、より好ましくは0.1~5.0モル、さらに好ましくは0.2~2.4モルである。
【0044】
また、前記水性樹脂組成物中の金属アルコキシド(X)又は(Y)の含有量は、前記水性樹脂の合計100質量部に対して、金属元素量換算で合計0.005~5.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01~3.0質量部、さらに好ましくは0.03~2.0質量部である。
【0045】
前記水性樹脂組成物には、水性樹脂、化合物(Z)、及び金属アルコキシド(X)もしくは(Y)以外のその他の成分として、使用目的や用途等に応じて、必要により、溶剤や、着色剤、充填剤、分散剤、可塑剤、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤等が含まれていてもよい。ただし、該水性樹脂組成物が良好な水性樹脂硬化体を生成するようにする観点から、水性樹脂組成物中の溶剤以外の成分中の水性樹脂、化合物(Z)、及び金属アルコキシド(X)もしくは(Y)の合計含有量が、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0046】
溶剤は、水性樹脂組成物中の各成分を均一に混合する観点から、必要に応じて用いられるものである。その含有量は、特に限定されるものではなく、使用時の取り扱い性等に応じて適宜調整することができる。溶剤の種類は、樹脂の種類や使用用途等に応じて適宜選択されるものであり、水性樹脂に対して添加して用いられるものであることから、前記水性溶剤であることが好ましい。これらの溶剤は、市販の水性樹脂や化合物(Z)の製品中に含まれている場合もある。
前記添加剤の含有量は、水性樹脂の架橋反応に影響を及ぼさない範囲内において、水性樹脂組成物の硬化体の所望の物性に応じて適宜調整することができる。前記添加剤の合計含有量は、水性樹脂100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0047】
前記水性樹脂組成物は、前記水性樹脂、化合物(Z)と、金属アルコキシド(X)又は(Y)とを、混合撹拌することにより得ることができる。混合撹拌は公知の方法を適用することができる。さらに任意の成分として前記添加剤等を添加してもよい。各成分の添加混合順序は特に限定されるものではない。混合撹拌の際、上述したように、各配合成分を均一に混合する観点から、適宜溶剤を用いてもよい。
【0048】
前記水性樹脂組成物は、加熱することにより硬化し、架橋度の高い水性樹脂硬化体が得られる。このため、前記水性樹脂組成物は、塗料やインキ、繊維処理剤、接着剤、コーティング剤、成形物等の種々の用途において、高い架橋度を有する水性樹脂硬化体であることによる優れた諸物性を発揮し得る。
例えば、塗料として用いた場合は、架橋度の高い硬化塗膜を得ることができ、この硬化塗膜は、優れた耐水性及び耐溶剤性を有する。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
下記実施例、比較例及び参考例の水性樹脂組成物の製造における配合原料の詳細は以下のとおりである。なお、下記水性樹脂において、水酸基価はアルコール性水酸基、また、酸価はカルボキシ基に基づく値であるものとみなした。
<水性樹脂>
・アクリル樹脂A(エマルジョン):「ネオクリル(登録商標)XK-103」、DSM Coating Resins社製;固形分(樹脂分)45質量%、分散媒:水、水酸基価(固形分換算)47.2mgKOH/g、酸価(固形分換算)3.2mgKOH/g
・アクリル樹脂B(エマルジョン):「バーノック(登録商標)WE-304」、DIC株式会社製;固形分(樹脂分)45質量%、分散媒:水、水酸基価(固形分換算)43mgKOH/g
・ポリウレタン樹脂ディスパージョン:「サンキュアー(登録商標)777」、ルーブリゾール社製、固形分(樹脂分)35質量%、酸価(ディスパージョン)21.4mgKOH/g、水系ディスパージョン
<化合物(Z)>
・ポリカルボジイミド(Z1):下記合成例Pにより製造したもの、固形分(成分濃度)40質量%、重合度6.5、溶剤:水
・ポリオキサゾリン(Z2):「エポクロス(登録商標)WS500」、株式会社日本触媒製、オキサゾリン基含有ポリマー、ポリマー主鎖:アクリル系、固形分(成分濃度)39質量%、オキサゾリン当量220(固形分換算計算値)、溶剤:水及び1-メトキシ-2-プロパノール
<金属アルコキシド>
・チタンアルコキシド(X1):下記合成例1により製造したもの
・チタンアルコキシド(Y1-1):下記合成例2により製造したもの
・チタンアルコキシド(Y1-2):下記合成例3により製造したもの
・チタンアルコキシド(Y1-3):下記合成例4により製造したもの
・ジルコニウムアルコキシド(X2):下記合成例5により製造したもの
・ジルコニウムアルコキシド(Y2-1):下記合成例6により製造したもの
・ジルコニウムアルコキシド(Y2-2):下記合成例7により製造したもの
・ジルコニウムアルコキシド(Y2-3):下記合成例8により製造したもの
・アルミニウムアルコキシド(X3):下記合成例9により製造したもの
・アルミニウムアルコキシド(Y3-1):下記合成例10により製造したもの
・アルミニウムアルコキシド(Y3-2):下記合成例11により製造したもの
・チタンテトラノルマルブトキシド:「オルガチックスTA-21」、マツモトファインケミカル株式会社製、分子量340.32
【0050】
(合成例P)ポリカルボジイミドの合成
ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート1572g、及びカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド7.86gを、還流管及び撹拌機付き3000ml反応容器に入れ、窒素気流下、185℃で10時間撹拌し、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートの重合体であるイソシアネート末端ポリカルボジイミドを得た。
このイソシアネート末端ポリカルボジイミドに、既知濃度のジノルマルブチルアミンのトルエン溶液を混合して、前記末端イソシアネート基とジノルマルブチルアミンとを反応させた。残存するジノルマルブチルアミンを塩酸標準液で中和滴定し、電位差滴定法(使用装置:自動滴定装置「COM-900」、平沼産業株式会社製)によりイソシアネート基の残存量[質量%](末端イソシアネート基量)を算出したところ、5.00質量%であった。すなわち、このイソシアネート末端ポリカルボジイミドの重合度(1分子中のカルボジイミド基の平均含有個数)は6.5であった。
【0051】
得られたイソシアネート末端ポリカルボジイミド51.8gを120℃で溶解し、これにポリエチレングリコールモノメチルエーテル(「ブラウノンMP-400」、青木油脂工業株式会社製、分子量400(カタログ値);以下、同様。)24.7gを添加し、140℃まで加熱して撹拌しながら5時間反応させた。反応生成物について、赤外吸収スペクトル測定により波長2200~2300cm-1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認した。その後、80℃まで冷却し、イオン交換水115gを添加して1時間撹拌し、固形分40質量%のポリカルボジイミド水溶液を得た。
【0052】
(合成例1)チタンアルコキシド(X1)の合成
チタンテトライソプロポキシド(「TA-8」、マツモトファインケミカル株式会社製、チタン含有量16.9質量%)50g、及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル(「ブラウノンMP-400」)282gを撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、90℃で24時間撹拌し、イソプロピルアルコールを反応容器外へ排出して、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化チタン)が0.0969g(反応生成物中のチタン含有量2.91質量%)であった。このチタン含有量は、チタン原子1個にポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)が4個結合しているアルコキシド(平均質量分子量1644)中のチタン含有量と一致することから、目的物のチタンアルコキシド(X1)が得られたことが確認された。
【0053】
(合成例2)チタンアルコキシド(Y1-1)の合成
合成例1において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を212gとし、それ以外は、合成例1と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化チタン)が0.122g(反応生成物中のチタン含有量3.66質量%)であった。このことから、チタンテトライソプロポキシド1分子中のイソプロポキシ基4個のうち平均3個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のチタンアルコキシド(Y1-1)(平均質量分子量1304)が得られたことが確認された。
【0054】
(合成例3)チタンアルコキシド(Y1-2)の合成
合成例1において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を141gとし、それ以外は、合成例1と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化チタン)が0.165g(反応生成物中のチタン含有量4.95質量%)であった。このことから、チタンテトライソプロポキシド1分子中のイソプロポキシ基4個のうち平均2個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のチタンアルコキシド(Y1-2)(平均質量分子量968)が得られたことが確認された。
【0055】
(合成例4)チタンアルコキシド(Y1-3)の合成
合成例1において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を71gとし、それ以外は、合成例1と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化チタン)が0.254g(反応生成物中のチタン含有量7.63質量%)であった。このことから、チタンテトライソプロポキシド1分子中のイソプロポキシ基4個のうち平均1個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のチタンアルコキシド(Y1-3)(平均質量分子量628)が得られたことが確認された。
【0056】
(合成例5)ジルコニウムアルコキシド(X2)の合成
ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド(「ZA-45」、マツモトファインケミカル株式会社製、ジルコニウム含有量21.0質量%)50g、及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル(「ブラウノンMP-400」)184gを撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、90℃で24時間撹拌し、ノルマルプロピルアルコールを反応容器外へ排出して、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化ジルコニウム)が0.146g(反応生成物中のジルコニウム含有量は5.40質量%)であった。このジルコニウム含有量は、ジルコニウム原子1個にポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)が4個結合しているアルコキシド(平均質量分子量1687)中のチタン含有量と一致することから、目的物のジルコニウムアルコキシド(X2)が得られたことが確認された。
【0057】
(合成例6)ジルコニウムアルコキシド(Y2-1)の合成
合成例5において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を138gとし、それ以外は、合成例5と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化ジルコニウム)が0.182g(反応生成物中のジルコニウム含有量6.74質量%)であった。このことから、ジルコニウムテトライソプロポキシド1分子中のイソプロポキシ基4個のうち平均3個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のジルコニウムアルコキシド(Y2-1)(平均質量分子量1347)が得られたことが確認された。
【0058】
(合成例7)ジルコニウムアルコキシド(Y2-2)の合成
合成例5において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を92gとし、それ以外は、合成例5と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化ジルコニウム)が0.244g(反応生成物中のジルコニウム含有量9.02質量%)であった。このことから、ジルコニウムテトライソプロポキシド1分子中のイソプロポキシ基4個のうち平均2個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のジルコニウムアルコキシド(Y2-2)(平均質量分子量1011)が得られたことが確認された。
【0059】
(合成例8)ジルコニウムアルコキシド(Y2-3)の合成
合成例5において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を46gとし、それ以外は、合成例5と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化ジルコニウム)が0.367g(反応生成物中のジルコニウム含有量6.74質量%)であった。このことから、ジルコニウムテトライソプロポキシド1分子中のイソプロポキシ基4個のうち平均1個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のジルコニウムアルコキシド(Y2-3)(平均質量分子量671)が得られたことが確認された。
【0060】
(合成例9)アルミニウムアルコキシド(X3)の合成
アルミニウムトリセカンダリーブトキシド(「AL-3001」、マツモトファインケミカル株式会社製、アルミニウム含有量10.7質量%)50g、及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル(「ブラウノンMP-400」)238gを撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、90℃で24時間撹拌し、イソプロピルアルコールを反応容器外へ排出して、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化アルミニウム)が0.0831g(反応生成物中のアルミニウム含有量2.20質量%)であった。このアルミニウム含有量は、アルミニウム原子1個にポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)が3個配位しているアルコキシド(平均質量分子量1224)中のアルミニウム含有量と一致することから、目的物のアルミニウムアルコキシド(X3)が得られたことが確認された。
【0061】
(合成例10)アルミニウムアルコキシド(Y3-1)の合成
合成例9において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を159gとし、それ以外は、合成例9と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化アルミニウム)が0.113g(反応生成物中のアルミニウム含有量3.00質量%)であった。このことから、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド1分子中のセカンダリーブトキシ基3個のうち平均2個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のアルミニウムアルコキシド(Y3-1)(平均質量分子量898)が得られたことが確認された。
【0062】
(合成例11)アルミニウムアルコキシド(Y3-2)の合成
合成例9において、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルの添加量を79gとし、それ以外は、合成例9と同様にして、反応生成物を得た。
得られた反応生成物をアルミナ製るつぼに2.00g秤量し、600℃で3時間加熱した後の残留物(酸化アルミニウム)が0.178g(反応生成物中のアルミニウム含有量4.71質量%)であった。このことから、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド1分子中のセカンダリーブトキシ基3個のうち平均1個がポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)で置換された目的物のアルミニウムアルコキシド(Y3-2)(平均質量分子量573)が得られたことが確認された。
【0063】
[水性アクリル樹脂組成物の製造]
(実施例1)
200mlポリ容器に、水性樹脂としてアクリル樹脂A(エマルジョン)100g、ポリカルボジイミド(Z1)18g(水性樹脂のアルコール性水酸基1モルに対してカルボジイミド基0.5モル)、及びチタンアルコキシド(X1)2.0g(金属元素量換算で水性樹脂(固形分)100質量部に対して0.13質量部)を秤量し、1時間混合撹拌し、水性アクリル樹脂組成物を得た。
【0064】
(実施例2~19)
下記表1に記載の配合組成とし、それ以外は実施例1と同様にして、各水性アクリル樹脂組成物を得た。
【0065】
(比較例1~9)
下記表2に記載の配合組成とし、それ以外は実施例1と同様にして、各水性アクリル樹脂組成物を得た。
【0066】
[塗膜の耐溶剤性評価(1)]
上記実施例及び比較例で得られた各水性アクリル樹脂組成物を用いて、以下のようにして塗膜試料を作製し、該塗膜試料の耐溶剤性試験を行った。なお、参照のため、アクリル樹脂Aのみを用いて作製した塗膜試料を比較例10とし、これについても同様の試験を行った。
(塗膜試料の作製)
ビーカー中で撹拌機にて1時間撹拌して調製した直後の水性アクリル樹脂組成物を、アルミ板の基材上に、バーコーターを用いて、厚さ約60μmで塗工し、設定温度130℃の乾燥機内で10分間乾燥した。その後、25℃の室内で1日間エージングして、塗膜試料を得た。
また、上記において調製した水性アクリル樹脂組成物を25℃の室内で1週間保存し、この水性アクリル樹脂組成物を用いて、同様に塗膜試料を作製した。
【0067】
(耐溶剤性試験)
上記において作製した各塗膜試料について、摩擦試験機(「型式FR-1B」、スガ試験機株式会社製)を用いて、溶剤として95体積%エタノール水溶液を染み込ませた脱脂綿(荷重900g/cm2)を往復50回ダブルラビングすることにより、耐溶剤性試験を行った。塗膜の耐溶剤性は、水性樹脂組成物の硬化塗膜の架橋度の指標となるものであり、架橋度が高いほど、優れた耐溶剤性を示す。
【0068】
試験後の塗膜試料の状態を目視観察し、下記の評価基準にて評価を行った。
<評価基準>
A:変化なし(無色透明)、又は薄いラビング痕
B:一部が白化
C:全体的に白化
D:塗膜が一部溶解し、ラビング箇所の基材の一部が露出
E:塗膜が溶解し、ラビング箇所の基材の全体が露出
【0069】
評価Aの塗膜は、十分な耐溶剤性を有しているものであり、水性樹脂組成物の硬化塗膜は、十分に高い架橋度を有していると言える。評価Bの塗膜は、評価Aには劣るものの、耐溶剤性を有し、高い架橋度を有していると言える。評価C及びDの塗膜は、耐溶剤性が十分であるとは言えず、架橋度が不十分であり、評価Cについては、架橋度が低く、また、評価Dについては、架橋度が非常に低い又はほとんど架橋していないと考えられる。評価Eの塗膜は、架橋していないとみなすことができるものである。
これらの評価結果を下記表1及び2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
[水性ポリウレタン樹脂組成物の製造]
(実施例20)
200mLポリ容器に、水性樹脂としてポリウレタン樹脂ディスパージョン100g、ポリカルボジイミド化合物(Z1)7.00g(水性樹脂のカルボキシ基1モルに対してカルボジイミド基0.66モル)、チタンアルコキシド化合物(X1)2.0g(金属元素量換算で水性樹脂(固形分)100質量部に対して0.17質量部)を秤量し、1時間混合撹拌し、水性ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0073】
(実施例21~27及び比較例11~14)
下記表3に記載の配合組成とし、それ以外は実施例20と同様にして、各水性ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0074】
[塗膜の耐溶剤性評価(2)]
上記実施例及び比較例で得られた各水性ポリウレタン樹脂組成物を用いて、以下のようにして塗膜試料を作製し、該塗膜試料の耐溶剤性試験を行った。
【0075】
(塗膜試料の作製)
ビーカー中で撹拌機にて1時間撹拌して調製した直後の水性ポリウレタン樹脂組成物を、アルミ板の基材上に、バーコーターを用いて、厚さ約60μmで塗工し、設定温度25℃の室内で5時間乾燥させて、塗膜試料を得た。
【0076】
(耐溶剤性試験)
上記において作製した各塗膜試料について、摩擦試験機(「型式FR-1B」、スガ試験機株式会社製)を用いて、溶剤として95体積%エタノール水溶液を染み込ませた脱脂綿(荷重900g/cm2)を往復100回ダブルラビングすることにより、耐溶剤性試験を行った。塗膜の耐溶剤性は、水性樹脂組成物の硬化塗膜の架橋度の指標となるものであり、架橋度が高いほど、優れた耐溶剤性を示す。
【0077】
試験後の塗膜試料の状態を目視観察し、下記の評価基準にて評価を行った。
<評価基準>
A:変化なし
B:塗膜が白化し、傷が付いている
C:塗膜に穴が開き、基材のラビング箇所の一部が露出している
D:塗膜が溶解し、基材のラビング箇所の全体が露出している
【0078】
評価Aの塗膜は、十分な耐溶剤性を有しているものであり、水性樹脂組成物の硬化塗膜は、十分に高い架橋度を有していると言える。評価Bの塗膜は、評価Aには劣るものの、耐溶剤性を有し、高い架橋度を有していると言える。評価C及びDの塗膜は、耐溶剤性が十分であるとは言えず、架橋度が不十分であり、評価Cについては、架橋度が低く、また、評価Dについては、架橋度が非常に低い又はほとんど架橋していないと考えられる。
これらの評価結果を下記表3に示す。
【0079】
【0080】
表1~3に示した評価結果から分かるように、本発明の水性樹脂組成物を用いて形成された塗膜は、十分に高い架橋度を有していることが認められた。すなわち、化合物(Z)と、金属アルコキシド(X)又は(Y)とを併用することにより、水性樹脂の親水性の架橋性基に対する架橋反応性を向上させることができることが認められた。