(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】組織因子標的化抗体薬物接合体
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20220208BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220208BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220208BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
A61P35/00
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2019511435
(86)(22)【出願日】2017-06-09
(86)【国際出願番号】 CN2017087779
(87)【国際公開番号】W WO2018036243
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】201610704559.1
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710125244.6
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519058734
【氏名又は名称】フータン ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】512148861
【氏名又は名称】シャンハイ インスティチュート オブ マテリア メディカ,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】519058745
【氏名又は名称】シャンハイ ミラコーケン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ユイ コー
(72)【発明者】
【氏名】シェン チンカン
(72)【発明者】
【氏名】モン タオ
(72)【発明者】
【氏名】マー ランピン
(72)【発明者】
【氏名】チャン シュエサイ
(72)【発明者】
【氏名】リー チンロウ
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532148(JP,A)
【文献】特表2019-526256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体薬物接合体であって、以下:
(a)抗体部分;及び
(b)当該抗体部分と接合した接合部分、ここで当該接合部分は、
(i)マイタジン(Maytansine)誘導体(DM1、DM4)、アウリスタチン(auristatin)及びドラスタチン(dolastatin);並びに
(ii)モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、モノメチルドラスタチン10(MMAD)誘導体又はそれらの組合せ;
からなる群から選択される;
を含み、当該抗体の重鎖可変領域が、以下の3つの相補性決定領域(CDR):
(H1)配列番号1に記載の配列を有するCDR1;
(H2)配列番号2に記載の配列を有するCDR2;及び
(H3)配列番号3に記載の配列を有するCDR3;
を含み、及び
当該抗体の軽鎖可変領域が、以下の3つの相補性決定領域(CDR):
(L1)配列番号4に記載の配列を有するCDR1';
(L2)配列番号5に記載の配列を有するCDR2';及び
(L3)配列番号6に記載の配列を有するCDR3';
を含む、抗体薬物接合体。
【請求項2】
前記抗体薬物接合体(ADC)が、以下の式:
【化1】
(式中、
Abは抗TF抗体であり、
LUはリンカーであり、
Dは薬物であり、
Pは1~10から選択される数値である)
で表される、請求項1に記載の抗体薬物接合体。
【請求項3】
LUが:6-マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-val-cit-PAB)、6-マレイミドカプロイル-アラニン-フェニルアラニン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-ala-phe-PAB)、マレイミドプロピオニル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MP-val-cit-PAB)、マレイミドプロピオニル-アラニン-フェニルアラニン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MP-ala-phe-PAB)、N-スクシニミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシニミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、4-(2-ピリジルジチオ)ブタン酸N-ヒドロスクシニミドエステル(SPDB)又はN-スクシニミジル(4-ヨード-アセチル)アミノベンゾエート(SIAB)からなる群から選択される、請求項2に記載の抗体薬物接合体。
【請求項4】
前記抗体が、以下:動物由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の抗体薬物接合体。
【請求項5】
前記抗体
が、
(1)配列番号7に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号8に記載のVLアミノ酸配列;
(2)配列番号9に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号14に記載のVLアミノ酸配列;
(3)配列番号9に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号15に記載のVLアミノ酸配列;
(4)配列番号9に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号16に記載のVLアミノ酸配列;
(5)配列番号9に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号17に記載のVLアミノ酸配列;
(6)配列番号10に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号14に記載のVLアミノ酸配列;
(7)配列番号10に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号15に記載のVLアミノ酸配列;
(8)配列番号10に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号16に記載のVLアミノ酸配列;
(9)配列番号10に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号17に記載のVLアミノ酸配列;
(10)配列番号11に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号14に記載のVLアミノ酸配列;
(11)配列番号11に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号15に記載のVLアミノ酸配列;
(12)配列番号11に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号16に記載のVLアミノ酸配列;
(13)配列番号11に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号17に記載のVLアミノ酸配列;
(14)配列番号12に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号14に記載のVLアミノ酸配列;
(15)配列番号12に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号15に記載のVLアミノ酸配列;
(16)配列番号12に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号16に記載のVLアミノ酸配列;
(17)配列番号12に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号17に記載のVLアミノ酸配列;
(18)配列番号13に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号14に記載のVLアミノ酸配列;
(19)配列番号13に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号15に記載のVLアミノ酸配列;
(20)配列番号13に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号16に記載のVLアミノ酸配列;
(21)配列番号13に記載のVHアミノ酸配列及び配列番号17に記載のVLアミノ酸配列;
を含む、請求項1に記載の抗体薬物接合体。
【請求項6】
TF関連疾患の予防及び/又は治療用医薬の製造における、請求項1~
5のいずれか1項に記載の抗体薬物接合体の使用。
【請求項7】
前記TF関連疾患が:腫瘍形成、腫瘍成長及び/又は転移からなる群から選択され、前記腫瘍が、TFを高度に発現している、請求項
6に記載の使用。
【請求項8】
以下:
(i)請求項1に記載の抗体薬物接合体又はその組合せである有効成分;及び
(ii)医薬として許容される担体;
を含有する、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野に関し、特に組織因子を標的とする抗体、及びその抗体-薬物接合体、並びにその調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組織因子(TF)は、47kDaのトランスメンブラン糖タンパク質である。通常の生理学的条件下で、TF発現は主に、主に内皮下細胞の層に隔離されており;血管が生体内で損傷されると、TFが血流に暴露され、そして第VII因子に結合し、そして活性化することにより、外因性凝固反応を開始する。
【0003】
TFが異常に活性化され、そして多くの腫瘍組織において発現され、そして腫瘍の発生及び進行において重要な役割を演じることが研究において見出された。特に癌の進行期において、ほとんどの患者は、自発的血栓症、例えば深部静脈血栓症(DVT)、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び肺塞栓症(PE)を伴い(Thrombosis research, 2013, 131: S59-S62; Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2011, 9(s1): 306-315);腫瘍細胞におけるTFの異常発現は、それらの症状の主なる原因である。多くの腫瘍の臨床サンプルについての分析は、TFの発現レベルが悪化指標、例えば患者における腫瘍の転移及び血栓症の発生に直接的に影響を及ぼし、例えば異常TF発現の割合が、乳癌で85.8%、膵臓癌で88.5%、肺癌で83.6%及び食道癌において91.3%、等であったことを示している(Blood, 2012, 119: 924-932)。
【0004】
最初に、TF及びFVIIにより形成されるTF-FVIIaはトランスメンブランGタンパク質共役受容体、すなわちプロテアーゼ活性化受容体2(PAR2)に直接的に接合し、そしてその活性化を誘発できることが研究において示される。PAR2は、炎症応答を調節する重要なシグナル経路である。腫瘍の分野におけるPAR2についての研究はほとんどないが、TFがPAR2により細胞における一連の腫瘍機能シグナルに影響を及ぼすことができると考えられる。例えば、TF-FVIIa-PAR2は、血管新生を促進し、そしてMAPK/ERKリン酸化、及び主要成長因子、免疫調節剤及びケモカイン(例えば、VEGF、CSF1/2、IL8、CXCL1、等)の遺伝子発現の誘発により、腫瘍増殖のための適切な栄養素、エネルギー及び適切な微小管強を提供する。次に、TFはまた、Rac1及びβ1ファミリー関連インテグリンとの相互作用により腫瘍細胞の遊走及び付着を増強することができ、それにより、一般的に腫瘍細胞の血行性転移能力を増強することができる。さらに、TF開始の凝固はまた、腫瘍血栓症の重要な原因であり、そして複数の腫瘍の悪化をもたらす。一方、TF誘発性凝固亢進状態はまた、腫瘍細胞が生体における免疫系を回避するのを直接的に助け、そして腫瘍細胞と内皮細胞との間の相互作用を増強し、血行性転移能力の上昇をもたらす。これはまた、癌を治療することが難しい理由でもあります。
【0005】
モノクローナル抗体が腫瘍細胞の表面上の特定抗原を特異的に認識する特性を利用することにより、抗体-薬物接合体(ADC)は、抗腫瘍薬(例えば、小分子化学療法薬)を腫瘍標的細胞に正確に送達し、そしてそこで薬物を放出し、腫瘍を正確に殺す目的を達成することができる。ADCはまた、それらの適切な分子量、高い安定性、強い標的化特性、及び低い毒性副作用のために、最も潜在的な抗腫瘍薬として見なされている。しかしながら、ADCの開発の成功に関しては、考慮し、そして解決されなければならない多くの以下の問題が存在する:例えば、抗体は病変部位を特異的認識しなければならず、免疫感作性が低く、そして細胞により急速且つ効率的に内在化され得;抗体-薬物リンカーは、血液におて非常に安定しなければならず、そして標的細胞において特異的に活性化され、そして小分子薬物を効率的に放出することができ;接合された小分子薬物は細胞を殺す強い能力を有すべきであり、そして同様のことを有すべきである。
【0006】
TFは腫瘍の発生及び進行において重要な役割を果たし、そして抗体-薬物接合体はそれらの独自の特徴及び利点を有するが、しかしながら、ヒトTFに対して非常に特異的な抗体-薬物接合体はまだ存在しないことが結論づけられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ヒトTFを特異的に標的とし、腫瘍増殖及び転移を阻害する活性、等を有する抗体-薬物接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の側面によれば、本発明は、以下を含み:
(a)抗体部分:及び
(b)前記抗体部分に接合される接合部分、ここで前記接合部分は検出可能マーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、及びそれらの組合せから成る群から選択され;
前記抗体のH鎖可能領域が、以下の3種の相補的決定領域(CDR)を含み:
(H1)配列番号1に記載の配列を有するCDR1、
(H2)配列番号2に記載の配列を有するCDR2、及び
(H3)配列番号3に記載の配列を有するCDR3;
ここで前記H鎖可能領域のアミノ酸配列のアミノ酸配列がさらに、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から任意に生じ、そしてTF-結合親和性を保持する誘導体配列を含み;そして/又は
前記抗体のL鎖可変領域が、以下の3種の相補的決定領域(CDR)を含み:
(L1)配列番号4に記載の配列を有するCDR1′
(L2)配列番号5に記載の配列を有するCDR2′及び
(L3)配列番号6に記載の配列を有するCDR3′
ここで、前記アミノ酸配列中の任意のアミノ酸配列が、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有する誘導体配列を含むことを特徴とする、抗体-薬物接合体を提供する。
【0009】
別のこの好ましい例によれば、前記抗体は、無償の抗体又はその活性フラグメントを含む。
【0010】
別の好ましい例によれば、前記活性フラグメントは、組織因子に対するその結合活性を保持する。
【0011】
別の好ましい例によれば、抗体-薬物接合体(ADC)は、以下のような式:
【化1】
[式中、LUはリンカーであり:
Dは薬物であり;そして
下付文字pは、1~10、好ましくは1~8から選択された値である]を有する。
【0012】
別の好ましい例によれば、LUは、6-マレイミドカプロイル - バリン- シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-val -cit-PAB)、6-マレイミドカプロイル-アラニン-フェニルアラニン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC - ala - phe - PAB)、マレイミドプロピオニル- バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MP-val-cit-PAB)、マレイミドプロピオニル-アラニン-フェニルアラニン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MP-ala-phe-PAB)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート( SPP)、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、4-(2-ピリジルジチオ)ブタン酸N-ヒドロスクシンイミドエステル(SPDB)又はN-スクシンイミジル(4-ヨード-アセチル)アミノベンゾエート(SIAB)から成る群から選択される。
【0013】
別の好ましい例によれば、LUは、SMCC、SPP、SPDB又は6-マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(MC-val-cit-PAB)である。
【0014】
別の好ましい例によれば、Dは、メイタンミン誘導体(DM1、DM4)、アウリスタチン及びドラスタチンから成る群から選択される。
【0015】
別の好ましい例によれば、Dは、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、モノメチルドラスタチン10(MMAD)誘導体、又はそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0016】
【0017】
別の好ましい例によれば、Dに連結されるアミノ酸残基は、本来、抗体(親抗体)に存在するか、又は外因的に導入される。
【0018】
別の好ましい例によれば、Dに連結されるアミノ酸残基は、システインである。
【0019】
別の好ましい例によれば、システインとは、Kabat番号付け規則に従ってL鎖の1又は2以上の位置で及び/又はKabat番号付け規則に従ってH鎖の1又は2以上の位置で、及びEU番号付け規則に従ってH鎖の1又は2以上の位置で親抗体中に導入される1又は2以上の遊離システインを言及する。
【0020】
別の好ましい例によれば、Dに連結されるアミノ酸残基は、リシンである。
【0021】
別の好ましい例によれば、前記フラグメントは、Fab、F(ab’)2、Fv又はscFvフラグメントから選択される。
【0022】
別の好ましい例によれば、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0023】
別の好ましい例によれば、抗体は、二本鎖の抗体、単鎖抗体を含む。
【0024】
別の好ましい例によれば、抗体は組換え型である。
【0025】
別の好ましい例によれば、抗体は、最近(例えば、E.コリ(E.Coli))において生成される。
【0026】
別の好ましい例によれば、抗体は、真核細胞(例えば、CHO細胞)において生成される。
【0027】
別の好ましい例によれば、抗体は、動物由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又はそれらの組合せから選択され;より特定には、抗体はヒト化抗体である。
【0028】
別の好ましい例によれば、抗体は、ヒトTFタンパク質に対する親和性について、0.005~0.10nM又は0.01~0.02nMのEC50を有する。
【0029】
別の好ましい例によれば、抗体は、野生型ネズミTFタンパク質に結合しない。
【0030】
別の好ましい例によれば、抗体は、
(a)腫瘍細胞の移動又は転移の阻害;及び
(b)腫瘍増殖の阻害、
から成る群から選択される1又は2以上の特性を有する。
【0031】
別の好ましい例によれば、抗体のH鎖可変領域の配列は、配列番号7、9、10、11、12又は13から選択され、そして/又は抗体のL鎖可変領域の配列は、配列番号8、14、15、16又は17から選択される。
【0032】
別の好ましい例によれば、抗体は、TF-mAb-SC1、TF-mAb-Ch、 TF-mAb-H29、 TF-mAb-H30、 TF-mAb-H31、 TF-mAb-H32、 TF-mAb-H33、 TF-mAb-H34、 TF-mAb-H35、 TF-mAb-H36、 TF-mAb-H37、 TF-mAb-H38、 TF-mAb-H39、 TF-mAb-H40、 TF-mAb-H41、 TF-mAb-H42、 TF-mAb-H43、 TF-mAb-H44、 TF-mAb-H45、 TF-mAb-H46、 TF-mAb-H47、及びTF-mAb-H48から成る群から選択される。
【0033】
別の好ましい例によれば、本発明は、(i)診断剤の製造;及び/又は(ii)TF-関連疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造のためへの、本発明の第1の側面の抗体-薬物接合体の使用を提供する。
【0034】
別の好ましい例によれば、TF関連疾患は、腫瘍形成、腫瘍増殖及び/又は転移、血栓症関連疾患、炎症、代謝関連疾患、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0035】
別の好ましい例によれば、腫瘍は、高TF発現を有する腫瘍である。
【0036】
別の好ましい例によれば、「高TF発現(high TF expression)」という表現は、腫瘍中のTF転写体及び/又はタンパク質レベルL1が、正常組織中の転写体及び/又はタンパク質レベルLOに比較して、L1/L0≧2、好ましくは≦3であることを意味する。
【0037】
別の好ましい例によれば、腫瘍は、トリプルネガティブ乳癌、膵臓癌、肺癌及び悪性神経膠腫から成る群から選択される。
【0038】
第3の側面によれば、本発明は、
(i)第1の側面の抗体-薬物接合体、又はその組合せである活性成分;及び
(ii)医薬的に許容できる担体、
を含む医薬組成物を提供する。
【0039】
別の好ましい例によれば、医薬組成物は、ヒト用の単位剤形である。
【0040】
別の好ましい例によれば、医薬組成物は、液体製剤である。
【0041】
別の好ましい例によれば、医薬組成物においては、抗体-薬剤接合体は、0.005~50重量%、好ましくは0.05~10重量%の量で存在する。
【0042】
別の好ましい例によれば、医薬組成物はさらに、(iii)追加の治療剤を含む。
【0043】
別の好ましい例によれば、追加の治療剤は、化学療法剤である。
【0044】
第4の側面によれば、本発明は、腫瘍細胞と、第1の側面の抗体-薬物接合体とを接触する工程を含む、インビトロで腫瘍細胞を非治療に阻害する方法を提供する。
【0045】
第5の側面によれば、本発明は、第1の側面の抗体-薬物接合体を、その必要な対象に投与する工程を含む、腫瘍の治療方法を提供する。
【0046】
別の好ましい例によれば、対象は、ヒトを含む哺乳類である。
【0047】
別の好ましい例によれば、接触は、インビトロ培養システムにおいて実施される。
【0048】
第6の側面によれば、本発明は、放射線療法、化学療法、生物学的療法、又はそれらの組合せから選択された1又は2以上の療法と組合して、有効量の第1の側面の抗体-薬物接合体を用いる工程を含む、対象における腫瘍増殖を遅らせる方法を提供する。
【0049】
第7の側面によれば、本発明は、放射線療法、化学療法、生物学的療法、又はそれらの組合せから選択された1又は2以上の療法と組合して、有効量の第1の側面の抗体-薬物接合体を用いる工程を含む、対象における細胞移動を阻害するための方法を提供する。
【0050】
第8の側面によれば、本発明は、放射線療法、化学療法、生物学的療法、又はそれらの組合せから選択された1又は2以上の療法と組合して、有効量の第1の側面の抗体-薬物接合体を用いる工程を含む、対象における細胞付着を阻害するための方法を提供する。
【0051】
第9の側面によれば、本発明は、
本発明のネズミ抗体可変領域のヌクレオチド配列を、ヒト抗体不変領域を含む発現ベクター中にクローニングした後、動物細胞をトランスフェクトすることによりヒト-マウスキメラ抗体を発現し;
本発明のヒトFR領域を含む抗体可変領域のヌクレオチド配列を、ヒト抗体不変領域を含む発現ベクター中にクローニングした後、動物細胞をトランスフェクトすることによりヒト化抗体を発現する、工程を含む、ヒト化抗体又はキメラ抗体を調製するための方法を提供する。
【0052】
別の好ましい例によれば、抗体は、部分的に又は完全にヒト化されたモノクローナル抗体である。
【0053】
本発明の範囲内で、上述の本発明の技術的特徴と以下に(例えば実施例において)記載される技術的特徴とを互いに組み合わせて、新規又は好ましい技術的解決策を構成することができることが理解されるべきである。スペースを節約するために、これらの組み合わせはここではこれ以上説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】
図1は、TF-mAb-DM1が高いTF発現を有する腫瘍細胞の増殖を有意に阻害し得、そしてその阻害は細胞表面上のTF分子に比例することを示し、ここで左図は、TF-mAb-DM1が高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を良く阻害できたことを示す曲線であり、そして右の表は、異なる細胞系についてのTF-mAb-DM1のID
50値を示した。
【0055】
【
図2】
図2は、TF-mAb-MMAEが高いTF発現を有する腫瘍細胞の増殖を有意に阻害し得、そしてその阻害は細胞表面上のTF分子に比例することを示し、ここで左図は、TF-mAb-MMAEが高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を良く阻害できたことを示す曲線であり、そして右の表は、異なる細胞系についてのTF-mAb-MMAEのID
50値を示した。
【0056】
【
図3A】
図3A及び3Bは、細胞表面上のTF分子に比例した異なる腫瘍細胞の増殖に対するTF-mAb-DM1(
図3A)及びTF-mAb-MMAE(
図3B)の阻害効果を示す。CCLEデータベース(Arrays_2013-03-18.tar.gz, Broad-Novartis Cancer Cell line Encyclopedia)を用いて、異なる腫瘍細胞の細胞表面上の相対TF分子数を分析することにより、結果は、異なる細胞の増殖に対するTF-mAb-DM1の阻害効果が細胞表面上の分子数に比例したことを示す。
【
図3B】
図3A及び3Bは、細胞表面上のTF分子に比例した異なる腫瘍細胞の増殖に対するTF-mAb-DM1(
図3A)及びTF-mAb-MMAE(
図3B)の阻害効果を示す。CCLEデータベース(Arrays_2013-03-18.tar.gz, Broad-Novartis Cancer Cell line Encyclopedia)を用いて、異なる腫瘍細胞の細胞表面上の相対TF分子数を分析することにより、結果は、異なる細胞の増殖に対するTF-mAb-DM1の阻害効果が細胞表面上の分子数に比例したことを示す。
【0057】
【
図4A】
図4Aは、TF-mAb-DM1が、容量依存性態様でHCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害できたことを示す。ドセタキセルグループと比較して、TF-mAb-DM1グループにおけるマウスは、ほとんど体重減少を示さず、このことは、TF-mAb-DM1が低い毒性副作用を有することを示唆する。
図4Bはヌードマウス体の体重曲線を示す。
【
図4B】
図4Aは、TF-mAb-DM1が、容量依存性態様でHCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害できたことを示す。ドセタキセルグループと比較して、TF-mAb-DM1グループにおけるマウスは、ほとんど体重減少を示さず、このことは、TF-mAb-DM1が低い毒性副作用を有することを示唆する。
図4Bはヌードマウス体の体重曲線を示す。
【0058】
【
図5A】
図5は、TF-mAb-MMAEが、容量依存性態様でHCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害できたことを示す。特に、TF-mAb-MMAEは、3.75mg/kgの容量でHCC1806同所性移植腫瘍の増殖を、ほぼ完全に阻害できた。ドセタキセルグループと比較して、TF-mAb-MMAEグループにおけるマウスは、ほとんど体重減少を示さず、このことは、TF-mAb-MMAEが低い毒性副作用を有したことを示唆する。
図5Bは、ヌードマウスの体重曲線を示す。
【
図5B】
図5は、TF-mAb-MMAEが、容量依存性態様でHCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害できたことを示す。特に、TF-mAb-MMAEは、3.75mg/kgの容量でHCC1806同所性移植腫瘍の増殖を、ほぼ完全に阻害できた。ドセタキセルグループと比較して、TF-mAb-MMAEグループにおけるマウスは、ほとんど体重減少を示さず、このことは、TF-mAb-MMAEが低い毒性副作用を有したことを示唆する。
図5Bは、ヌードマウスの体重曲線を示す。
【0059】
【
図6】
図6は、TF-mAb-MMAEがまた、低容量で効果的に、HCC1806異種移植腫瘍の増殖を阻害できることを示し、そして実験は、最小効果用量が0.7mg/kgであったことを示す。
【0060】
【
図7A】
図7Aは、TF-mAb-MMAEが、容量依存性態様でBxPC-3皮下移植腫瘍の増殖を効果的に阻害できたことを示す。ドセタキセルグループと比較して、TF-mAb-MMAEグループにおけるマウスは、ほとんど体重減少を示さず、このことは、TF-mAb-MMAEが低い毒性副作用を有することを示唆する。
図7Bはヌードマウス体の体重曲線を示す。
【
図7B】
図7Aは、TF-mAb-MMAEが、容量依存性態様でBxPC-3皮下移植腫瘍の増殖を効果的に阻害できたことを示す。ドセタキセルグループと比較して、TF-mAb-MMAEグループにおけるマウスは、ほとんど体重減少を示さず、このことは、TF-mAb-MMAEが低い毒性副作用を有することを示唆する。
図7Bはヌードマウス体の体重曲線を示す。
【0061】
【
図8】
図8は、TF-mAb-H39-MMAEの分子篩HPLC結果を示す。
【0062】
【
図9】
図9は、TF-mAb-H39-MMAEの疎水性クロマトグラフィーの結果を示す。
【0063】
【
図10】
図10は、質量分析により特徴づけられたTF-mAb-H39-MMAEの結果を示す。
【0064】
【
図11】
図11は、TF-mAb-H44-MMAEの分子篩HPLC結果を示す。
【0065】
【
図12】
図12は、TF-mAb-H44-MMAEの疎水性クロマトグラフィーの結果を示す。
【0066】
【
図13】
図13は、質量分析により特徴づけられたTF-mAb-H44-MMAEの結果を示す。
【0067】
【
図14】
図14は、TF-mAb-H39-MMAEが、高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を有意に阻害し、そしてその阻害効果は、細胞表面上のTFの分子数に比例することを示し、ここで右パネルの表は、その対応するIC
50値を示す。
【0068】
【
図15】
図15は、TF-mAb-H44-MMAEが、高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を有意に阻害し、そしてその阻害効果は、細胞表面上のTFの分子数に比例することを示し、ここで右パネルの表は、その対応するIC
50値を示す。
【0069】
【
図16A】
図16A及び16Bは、CCLEデータベース(Arrays_2013-03-18.tar.gz, Broad-Novartis Cancer Cell line Encyclopedia)による異なる細胞の細胞表面上のTF相対分子数の分析を示し、そしてその結果は、異なる細胞に対するTTF-mAb-H39-MMAE(
図16A)及びTTF-mAB-H44-MMAE(
図16B)の殺害効果が細胞表面上TFの分子数に比例したことを示す。
【
図16B】
図16A及び16Bは、CCLEデータベース(Arrays_2013-03-18.tar.gz, Broad-Novartis Cancer Cell line Encyclopedia)による異なる細胞の細胞表面上のTF相対分子数の分析を示し、そしてその結果は、異なる細胞に対するTTF-mAb-H39-MMAE(
図16A)及びTTF-mAB-H44-MMAE(
図16B)の殺害効果が細胞表面上TFの分子数に比例したことを示す。
【0070】
【
図17】
図17は、TF-mAb-H44-MMAEがHCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害でき、そして3mg/kgの用量でHCC1806腫瘍の増殖を完全に阻害できたことを示す。
【0071】
【
図18】
図18は、TF-mAb-H39-MMAEがHCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害でき、そしてその最小有効用量は1mg/kgであったことを示す。
【0072】
【
図19】
図19は、TF-mAb-H44-MMAEがBxPC-3異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害でき、そして1mg/kgの用量で、BxPC-3異種移植腫瘍の増加を完全に阻害できたことを示す。
【0073】
【
図20】
図20は、TF-mAb-H39-MMAEがBxPC-3異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害でき、そしてその最小有効用量が0.3mg/kgであったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本発明者は、広範且つ詳細な研究及び多数のスクリーニングを実施することにより、意外にも抗-TFモノクローナル抗体(TF-mAb-SC1)を得、そしてその実験結果は、TFタンパク質に対するモノクローナル抗体がIgG2b抗体であることを示す。抗体は、高い特異性及び高い親和性でTF抗原に結合することができ(EC50は、ELISAにより決定される場合、約0.019nMである)、そして抗体は有意な抗腫瘍活性を有し、そして哺乳動物自体に対して明らかな毒性副作用を有さない。さらに、TF-mAb-SC1に基いて得られる、キメラ抗体、ヒト化抗体及びその対応するADCもまた、卓越した特性を有する。本発明は、それらに基いて達成された。
【0075】
用語
本明細書において、「抗体薬物接合体」、「抗体接合体」、「抗体-薬物-接合体」、「抗体-薬物接合体」及び「免疫接合体」は相互置換可能に用いられ得、(a)抗体又は活性断片及び(b)薬物によって形成される接合体を意味する。
【0076】
「本発明の抗体薬物接合体」、「本発明の抗体-薬物接合体」及び「本発明のADC」は、相互置換可能に用いられ得、本発明の薬物及び組織因子に対する抗体又はその活性断片によって形成される接合体を意味する。
【0077】
他に規定の無い限り、本明細書中で用いられる技術及び科学用語は、当業者が共通して理解するのと同じ意味を有する。本明細書中、特定の数値が示されているときに使用される「約」は、その値が、明示された数値から最大1%変動し得ることを意味する。例えば、「約100」は、99~101の間の全ての数値を含む(例えば99.1、99.2.99.3、99.4等)
【0078】
抗体
本明細書において使用される場合、用語「抗体(antibody)」又は「免疫グロブリン(immunoglobulin)」とは、2つの同一の軽鎖(L)及び2つの同一の重鎖(H)から成る、同じ構造特性を有する約150,000Daのヘテロテトラマー糖タンパク質である。各軽鎖は、共有ジスルフィド結合を介して重鎖に結合され、そして異なる免疫グロブリンイソタイプは、重鎖間に異なる数のジスルフィド結合を有する。各重鎖及び各軽鎖に規則的等間隔の鎖内ジスルフィド結合も存在する。各重鎖は、一端で可変領域(VH)、続いて多くの不変領域を有する。各軽鎖は、一端で可変領域(VL)及び他端で不変領域;重鎖の第1不変領域に対応する軽鎖の不変領域、及び重鎖の不変領域に対応する軽鎖の可変領域を有する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域との間に界面を形成する。
【0079】
本明細書において使用される場合、用語「可変(variable)」とは、可変領域の特定部分における配列に関して、抗体がお互いに異なり、それが種々の特定の抗体のそれらの特定の抗原への結合及び特異性を担当していることを意味する。しかしながら、可変性は、抗体の可変領域全体に均一に分布されない。それは、軽鎖及び重鎖可変領域における相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中されている。可変領域の保存部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然に存在する重鎖及び軽鎖の各可変領域は、一般的に、結合ループを形成する3つのCDRにより連結されるβ-シート構造で存在し、そして場合によっては、部分的β-シート構造を形成できる、4つのFR領域を含む。各鎖におけるCDRは、FR領域を介して互いに密接に結合され、そして他の鎖のCDRと共に、抗体の抗原結合部位を形成する(Kabat et al., NIH Publ. No. 91-3242, Vol. I, pp. 647-669 (1991)を参照のこと)。不変領域は、抗原への抗体の結合に直接関与していないが、しかしながら、それらは異なる効果及び機能を示し、例えば抗体の抗体依存性細胞毒性に関与している。
【0080】
脊椎動物抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖(light chain)」は、その不変領域のアミノ酸配列に依存して、2つの明白に異なるクラス(κ及びλと呼ばれる)のうちの1つに分類され得る。免疫グリブリンは、それらの重鎖不変領域のアミノ酸配列に依存して、異なるクラスに分類され得る。免疫グロブリンには主に以下の5つのクラスがあり:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、それらのいくつかはさらに、以下のサブクラス(アイソタイプ)に分類され得る:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖不変領域はそれぞれ、α、δ、 ε、 γ、 及び μと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット機構及び三次元配置は、当業者に良く知られている。
【0081】
一般的に、抗体の抗原結合特性は、可変領域を4つのフレームワーク領域(FR)に分割する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、重鎖及び軽鎖可変領域に位置する3つの特定領域により説明され得;4つのFRのアミノ酸配列は比較的保存的であり、そして結合反応には直接的に関与していない。それらのCDRは環構造を形成し、そしてそれらの環のFRにより形成されるβ-シートを介して立体構造内で互いに接近し、そして重鎖上のCDR及び対応する軽鎖上のCDRは抗体の抗原結合部位を構成する。同じタイプの抗体のアミノ酸配列を比較することにより、どのアミノ酸がFR又はCDRを形成するかが決定され得る。
【0082】
本発明は、損なわれていない抗体のみならず、また免疫学的活性を有する抗体のフラグメント、又は抗体及び別の配列により形成される融合タンパク質も含む。従って、本発明はまた、抗体のフラグメント、誘導体及び類似体を含む。
【0083】
本発明においては、抗体は、当業者に周知の技法により調製される、マウス、キメラ、ヒト化又は完全ヒト抗体を含む。ヒト及び非ヒト部分を含む、キメラ及びヒト化モノクローナル抗体などの組換え抗体は、標準的なDNA組換え技法により得られ、それらのすべては有用な抗体である。キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する分子、例えばマウス由来のモノクローナル抗体からの可変領域、及びヒト免疫グロブリンからの不変領域を有するキメラ抗体である(例えば、米国特許第4,816,567号及び第4,816,397号を参照のこと;それらはそれらの全体が参照により本明細書に組込まれる)。ヒト化抗体は、非ヒト種由来の1又は2以上の相補性決定領域(CDR)、及びヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する、非ヒト種由来の抗体分子を言及する(米国特許第5,585,089号を参照のこと;それはその全体が参照により本明細書に組込まれる)。それらのキメラ及びヒト化抗体は、当業界において良く知られている組換えDNA技法により調製され得る。
【0084】
本発明においては、抗体は、単一特異性、二重特異性、三重特異性、又は多重特異性であり得る。
【0085】
本発明においては、本発明の抗体はさらに、その保存的変異体を含み、それは本発明の抗体のアミノ酸配列に比較して最大10、好ましくは最大8、より好ましくは最大5及び最も好ましくは最大3個のアミノ酸の類似アミノ酸による置換により形成されるポリペプチドを言及する。それらの保存的変異体ポリペプチドは好ましくは、表Aによるアミノ酸置換により調製される。
【0086】
【0087】
抗-TF抗体
本発明は、重鎖及び軽鎖を含む、TFに対して高い特異性及び高い親和性を有する抗体を提供し、ここで重鎖は、重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を含み、そして軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を含む。
【0088】
好ましくは、重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列に対するCDRは、下記から選択される:
a1) 配列番号1;
a2) 配列番号2;
a3) 配列番号3;
a4) 配列番号4;
a5) 配列番号5;
a6) 配列番号6;
a7) 前記アミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、TF-結合親和性を有する配列。
【0089】
別の好ましい例によれば、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じる配列は好ましくは、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0090】
好ましくは、抗体は、TF-関連シグナル経路を阻害する活性を有し;抗凝固活性を有し;FXa産生を阻害する活性を有し;又はそれらの組合を有する。
【0091】
典型的には、本発明は:本発明の重鎖可変領域;及び/又は本発明の軽鎖可変領域;を有する抗-TF抗体を提供し、ここで、当該抗体の重鎖可変領域は、以下の3つの相補性決定領域(CDR):
配列番号1に記載の配列を有するCDR1、
配列番号2に記載の配列を有するCDR2、
配列番号3に記載の配列を有するCDR3;
を有し、ここで、これらのアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列は、更に任意で少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換による誘導的配列を含みつつ、TF-結合活性を保持し;
ここで、当該抗体の軽鎖可変領域は、以下の3つの相補性決定領域(CDR):
配列番号4に記載の配列を有するCDR1´、
配列番号5に記載の配列を有するCDR2´、
配列番号6に記載の配列を有するCDR3´;
を有し、ここで、これらのアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列は、更に任意で少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換による誘導的配列を含みつつ、TF-結合活性を保持している。
【0092】
好ましくは、前記抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号7、9、10、11、12又は13から選択され;及び/又は前記抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号8、14、15、16又は17から選択される。
【0093】
本発明において、前記抗体は、動物由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はそれらの組合せからなる群から選択される。他の好ましい例において、付加、欠失、修飾及び/又は置換されるアミノ酸の数は、当初のアミノ酸配列の全アミノ酸数の40%を超えない。
【0094】
他の好ましい例において、付加、欠失、修飾及び/又は置換されるアミノ酸の数は、1~7個である。
【0095】
他の好ましい例において、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換によって得られた配列は、元の配列に対し80%以上の同一性を有する。
【0096】
他の好ましい例において、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換によって得られた配列は、TF-関連シグナル経路の阻害活性、抗凝集活性、及びFXa生産の阻害活性の1つ以上を有する。
【0097】
本発明の抗体は、二本鎖又は単鎖抗体であり得、そして動物由来の抗体、キメラ抗体、及びヒト化抗体から成る群から選択され得;より好ましくは、ヒト化抗体及びヒト-動物キメラ抗体から成る群から選択され得;そして完全ヒト抗体であり得る。
【0098】
本発明の抗体は、単鎖抗体、及び/又は抗体フラグメント、例えばFab、Fab′、(Fab′)2、又は当業界において知られている他の抗体誘導体であり得、そしてIgA,IgD、IgE、IgG及びIgM抗体又はサブタイプの抗体のいずれか1又2以上であり得る。
【0099】
本発明においては、動物は好ましくは、哺乳類、例えばマウスである。
【0100】
本発明の抗体は、ヒトTFを標的とするキメラ抗体、ヒト化抗体、CDR移植及び/又は修飾抗体であり得る。
【0101】
本発明の好ましい例によれば、配列番号1~3のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列は、重鎖可変領域(VH)のCDRに位置する。
【0102】
本発明の好ましい例によれば、配列番号4~6のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列は、軽鎖可変領域(VL)のCDRに位置する。
【0103】
本発明のより好ましい例によれば、VH CDR1,CDR2,CDR3は、配列番号1~3のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列から独立して選択され;VL CDR1,CDR2,CDR3は、配列番号4~6のいずれか1又は2以上の配列、又は少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失、修飾及び/又は置換から生じ、そしてTF-結合親和性を有するそれらの配列から独立して選択される。
【0104】
本発明においては、付加され、欠失され、修飾され、そして/又は置換されるアミノ酸の数は、初期アミノ酸配列のアミノ酸の合計数の、好ましくは、40%を越えず、より好ましくは35%を越えず、より好ましくは1~33%であり、より好ましくは5~30%であり、より好ましくは10~25%であり、そしてより好ましくは15~20%である。
【0105】
本発明においては、より好ましくは、付加され、欠失され、修飾され及び/又は置換されるアミノ酸の数は、1~7、より好ましくは1~5、より好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。
【0106】
別の好ましい例によれば、TFを標的とする抗体は、TF-mAb-SC1(オリジナル名称はTF-mAbである)である。
【0107】
別の好ましい例によれば、抗体TF-mAb-SC1の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号7に示されるようなアミノ酸配列である。
【0108】
別の好ましい例によれば、抗体TF-mAb-SC1の軽鎖可変領域(V-κ)のアミノ酸配列は、配列番号8に示されるようなアミノ酸配列である。
【0109】
抗体の調製
本発明の抗体又はそのフラグメントに対するDNA分子の配列は、従来の技法、例えばPCR増幅又はゲノムライブラリースクリーニングのような方法により得られる。さらに、軽鎖及び重鎖をコードする配列は、一緒に融合され、単鎖抗体が形成される。
【0110】
関連配列が得られると、組換え方法を用いて、関連配列を多量に得ることができる。これは通常、配列をベクター中にクローニングし、そのベクターにより細胞を形質転換し、そして次に、増殖された宿主細胞から関連配列を、従来の方法により分離することにより実施される。
【0111】
さらに、関連配列は、特に、フラグメントの長さが短い場合、人工的に合成される。通常、いくつかの小フラグメントが、まず合成され、そして次に、一緒に連結され、長い配列を有するフラグメントが得られる。
【0112】
本発明の抗体(又はそのフラグメント、又はその誘導体)をコードするDNA配列を、化学合成により得ることは、現在可能である。次に、そのDNA配列は、当業界において知られている種々の既存のDNA分子(又は、例えばベクター)及び細胞中に導入され得る。さらに、突然変異がまた、化学合成により、本発明のタンパク質配列中に導入され得る。
【0113】
本発明はさらに、前記適切なDNA配列、及び適切なプロモーター又は制御配列を含むベクターに関する。それらのベクターは、それらがタンパク質を発現することを可能にするために適切な宿主細胞を形質転換するために使用され得る。
【0114】
宿主細胞は、原核細胞、例えば細菌細胞;又は下等真核細胞、例えば酵母細胞;又は高等真核細胞、例えば哺乳類細胞であり得る。好ましい動物細胞は、CHO-S、HEK-293細胞を含むが、但しそれらだけには限定されない。
【0115】
一般的に、本発明の抗体の発現のために適切な条件下で、得られる宿主細胞は培養される。次に、本発明の抗体は、従来の免疫グロブリン精製工程、例えば当業者に良く知られている従来の分離及び精製手段、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、分子篩クロマトグラフィー又は親和性クロマトグラフィーを用いることにより精製される。
【0116】
得られるモノクローナル抗体は、従来の手段により同定され得る。例えば、モノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合アッセイ(例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA))により決定され得る。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばScatchard分析(Anal. Biochem., 107: 220 (1980))により決定され得る。
【0117】
本発明の抗体は、細胞において又は細胞膜上に発現され、又は細胞外に分泌される。必要に応じて、組換えタンパク質は、その物理的、化学的又は他の特性に従って種々の分離方法により分離され、そして精製され得る。それらの方法は、当業者に良く知られている。それらの方法の例は、以下を含むが、但しそれらだけには限定されない:従来の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透性細菌の破砕、超音波処理、超遠心分離、モレキュラーシーブクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、他の様々な液体クロマトグラフィー技法及びそれらの方法の組合せ。
【0118】
細胞毒性薬物
本発明のADCを形成するのに用いられ得る薬物は、限定されないが:細胞毒性薬物を含む。
【0119】
「細胞毒性薬物」は、細胞発現活性、細胞機能を阻害又はブロックし、及び/又は細胞の破壊をもたらす物質を意味する。この用語は、放射性同位体、化学治療剤及び毒素、例えば細菌、真菌、植物又は動物由来の、小分子毒素又は酵素活性毒素(その断片及び/又は変異体を含む)を含む。細胞毒性薬物の例は、限定されないが、以下のものを含む:アウリスタチン(auristatin)(例えばアウリスタチンE、アウリスタチンF、MMAE及びMMAF)、クロルテトラサイクリン、マイタンシノール(maytansinol)、リシン(ricin)、リシンA鎖、コブスタチン、cc1065、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テントポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシ炭疽菌ジオン、アクチノマイシン、ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素(PE)A、PE40、アカシア毒素(Acacia toxin)、アカシア毒素A鎖、モデクシン(modeccin)A鎖、α-サルシナ、ゲロニン、ミトゲリン、レトストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、クリシン、クロチン、カリケアマイシン、サパオナリア・オフィシナリス(Sapaonaria officinalis)阻害剤、グルココルチコイド及び他の化学治療剤、並びに放射性同位体、例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212又は213、P32、及びLu177を含むLuの放射性同位体。抗体は、プロドラッグをその活性フォームに変換し得る、抗癌プロドラッグ活性化とも接合され得る。
【0120】
好ましい小分子薬物は、高い細胞毒性を有する化合物であり、好ましくは、モノメチルアウリスタチン、カリケアミシン(calicheamicin)、マイタンシン(maytansine)、又はその組合せ;より好ましくは:モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチン-D(MMAD)、モノメチルアウリスタチン-F(MMAF)、又はそれらの組合せから選択される。
【0121】
抗体-薬物接合体(ADC)
本発明はまた、本発明の抗体に基く抗体-薬物接合体(ADC)も提供する。
【0122】
典型的には、抗体-薬物接合体は、抗体及びエフェクター分子を含み、ここで抗体はエフェクター分子に接合され、そして化学的接合が好ましい。好ましくは、エフェクター分子は、治療的活性薬物である。さらに、エフェクター分子は、1又は2以上の毒性タンパク質、化学療法薬物又は放射性核種であり得る。
【0123】
本発明の抗体及びエフェクター分子は、カップリング剤によりカップリングされ得る。カップリング剤の例としては、非選択的カップリング剤、カルボキシル基を利用するカップリング剤、ペプチド鎖、及びジスルフィド結合を利用するカップリング剤のいずれか1つ又は2以上のものであり得る。非選択的カップリング剤は、共有結合、例えばグルタルアルデヒドなどを介してエフェクター分子と抗体との間の連結をもたらす化合物を言及する。カルボキシル基を利用するカップリング剤は、シス-アコニット酸無水物カップリング剤(例えば、シス-アコニット酸無水物)及びアシルヒドラゾンカップリング剤(カップリング部位はアシルヒドラゾンである)のいずれか1つ又は2以上のものであり得る。
【0124】
抗体上の特定の残基(例えば、Cys又はLys、等)は、造影剤(例えば、発色団及び蛍光体)、診断剤(例えば、MRI造影剤及び放射性同位体)、安定化剤(例えば、ポリ(エチレングリコール))及び治療剤を含む種々の官能基を連結するために使用される。抗体は、抗体-機能剤の接合体を形成するために機能剤に接合され得る。機能剤(例えば、薬物、検出試薬、安定化剤)は、抗体に接合される(共有結合による)。機能剤は、リンカーを介して直接的に又は間接的に抗体に連結される。
【0125】
本発明に適した典型的な接合様式は、K-Lock及びC-Lock接合様式の両方を含む。K-Lock接合様式において、薬物分子は、抗体配列中のリシン(K)残基と接合し;C-Lock接合様式において、薬物分子は、抗体配列中のシステイン(C)残基と接合する。
【0126】
抗体は、抗体-薬物接合体(ADC)を形成するために、薬物に接合され得る。典型的には、ADCは、薬物と抗体との間にリンカーを含む。リンカーは、分解性又は非分解性リンカーであり得る。典型的には、分解性リンカーは、細胞内環境下で容易に分解され、例えば、リンカーは標的部位で分解され、それにより、抗体から薬物を放出する。適切な分解性リンカーは、細胞内でプロテアーゼ(例えば、リソソームプロテアーゼ又はエンドソームプロテアーゼ)により分解され得るペプチジル含有リンカーを含む酵素分解リンカー、糖リンカー、例えばグルクロニダーゼにより分解され得るグルクロニド含有リンカーを含む。ペプチジルリンカーは例えば、ジペプチド、例えばバリン-シトルリン、フェニルアラニン-リシン又はバリン-アラニンを含むことができる。他の適切な分解性リンカーは、例えばpH感受性リンカー(例えば、5.5以下のpHで水分解されるリンカー、例えばヒドラゾンリンカー)及び還元条件下で分解されるリンカー(例えば、ジスルフィド結合リンカー)を含む。非分解性リンカーは、典型的には、抗体がプロテアーゼにより加水分解される条件下で薬物を放出する。
【0127】
抗体への連結の前、リンカーは特定のアミノ酸残基と反応できる反応基を有し、そして連結がその反応基により達成される。チオール特異的反応基が好ましく、これは例えば、マレイミド化合物、ハロゲン化(例えば、ヨード、ブロモ、又はクロロ置換された)アミド;ハロゲン化(例えば、ヨード、ブロモ、又はクロロ置換された)エステル;ハロゲン化(例えば、ヨード、ブロモ、又はクロロ置換された)ハロゲン化ベンジル;ビニルスルホン;ピリジルジスルフィド;水銀誘導体、例えば3、6-ジ-(水銀メチル)ジオキサン(対イオンがCH3COO-、Cl-又はNO3
-である);及びポリメチレンジメチルスルフィドチオスルホネートを含む。リンカーは例えば、チオスクシンイミドを介して抗体に連結されるマレイミドを含む。
【0128】
薬物は、任意の細胞毒性、細胞増殖抑制又は免疫抑制薬物であり得る。1つの実施形態によれば、抗体はリンカーを介して薬物に連結され、そして薬物は、リンカーと共に結合を形成できる官能基を有する。例えば、薬物は、リンカーと共に結合を形成できる、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ヒドロキシル基、又はケトン基を有することができる。薬物がリンカーに直接連結される場合、薬物は、抗体に連結される前、反応基を有する。
【0129】
有用な薬物は以下を含む:抗チューブリン薬、DNA副溝結合剤、DNA複製阻害剤、アルキル化剤、抗生物質、葉酸拮抗薬、代謝拮抗薬、化学療法増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ビンカアルカロイドなど。特に有用な細胞毒性薬物の例は、以下を含み:DNA副溝結合剤、DNAアルキル化剤、及びチューブリン阻害剤;典型的な細胞毒性薬物は、例えば以下を含む:アウリスタチン、カンプトテシン、ドカマイシン/デュオカルマイシン、エトポシド、メイタンシン及びメイタンシノイド(例えば、DM1及びDM4)、タキサン、ベンゾジアゼピン又はベンゾジアゼピン含有薬物(例えば、ピロロ[1,4]ベンゾジアゼピン(PBD)、インドリノベンゾジアゼピン及びオキサゾリジノベンゾジアゼピン)、並びにビンカアルカロイド。
【0130】
本発明においては、薬物-リンカーは、簡単な工程プロセスでADCを形成するために使用され得る。他の実施形態によれば、二官能性リンカー化合物が、二段階又は多段階プロセスでADCを形成するために使用され得る。例えば、システイン残基は、第1段階においてリンカーの反応性部分と反応され、そして次に、リンカー上の官能基が、ADCを形成するために続く段階において薬物と反応される。
【0131】
一般的に、リンカー上の官能基は、薬物部分上の適切な反応性基と特別に反応できるよう選択される。非限定的な例として、アジトベースの部分が、薬物部分上の反応性アルキニル基と特別に反応するために使用され得る。薬物は、アジト基とアルキニル基との間の1,3-双極子環状付加によりリンカーに共有結合される。他の有用な官能基は例えば、以下を含む:ケトン及びアルデヒド(ヒドラジド及びアルコキシアミンとの反応のために適切な)、ホスフィン(アジドとの反応のために適切な);イソシアネート及びイソチオシアネート(アミン及びアルコールとの反応のために適切な);及び活性化エステル、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(アミン及びアルコールとの反応のために適切な)。それらの及び他の連結法、例えばBioconjugation Technology (2nd Edition (Elsevier))は、当業者に良く知られている。当業者は、相補的対の反応性官能基が薬物部分とリンカーとの間の選択的反応のために選択される場合、相補的対の各メンバーがリンカーのために使用され、そしてまた、薬物のために使用され得ることを理解できる。
【0132】
本発明はさらに、抗体-薬物接合体(ADC)を形成するために十分な条件下で、薬物-リンカー化合物に抗体を結合されることをさらに含む、ADCの調製方法を提供する。
【0133】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、抗体-リンカー接合体を形成するのに十分な条件下で、二官能性リンカー化合物に抗体を結合されることを含む。それらの実施形態によれば、本発明の方法は、リンカーを介して薬物部分を抗体に共存結合するのに十分な条件下で、抗体-リンカー接合体を薬物部分に結合されることを含む。
【0134】
いくつかの実施形態によれば、抗体-薬物接合体(ADC)は、以下のような式:
【化2】
[式中、Abは抗体であり;
LUはリンカーであり、
Dは薬物であり;そして
下付文字pは、1~8から選択された値である]を有する。
【0135】
用途
本発明はさらに、診断剤の製造、又はTF関連疾患を予防し、そして/又は治療するための医薬の製造のための本発明の抗体の使用を提供する。TF関連疾患は、腫瘍形成、腫瘍増殖及び/又は転移、血栓症関連疾患、炎症、代謝関連疾患などを包含する。
【0136】
本発明の抗体、ADC又はCAR-Tの使用は、以下のためを包含する(但し、それらだけには限定されない):
(i)腫瘍形成、腫瘍増殖及び/又は転移、特に高TF発現を有する腫瘍の診断、予防及び/又は治療、ここで腫瘍は以下を含む(但し、それらだけには限定されない):乳癌(例、トリプルネガティブ乳がん)、膵臓癌、肺癌、悪性神経膠腫、胃癌、肝臓癌、食道癌、腎臓癌、大腸癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮頸癌、白血病、骨髄癌、血管肉腫など;特に、トリプルネガティブ乳癌、膵臓癌、悪性神経膠腫及び肺癌;より好ましくは、トリプルネガティブ乳癌及び/又は膵臓癌;
(ii)血栓症関連疾患の診断、予防及び/又は治療、ここで血栓症関連疾患は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):アテローム性動脈硬化症、急性冠症候群、急性心筋梗塞、脳卒中、高血圧、深部静脈血栓症、肺塞栓症、腎塞栓症及び動脈手術、冠状動脈バイパス術による血栓症など;
(iii)炎症の診断、予防及び/又は治療、ここで炎症は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):リウマチ性関節炎、変形性関節症、強直性脊椎炎、痛風、リトル症候群、乾癬性関節炎、感染性関節炎、結核性関節炎、ウイルス性関節炎、真菌性関節炎、糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患、及び特発性肺線維症;
(iv)代謝関連疾患の診断、予防及び/又は治療、ここで代謝関連疾患は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):糖尿病、食事性肥満、脂肪炎症など。
【0137】
医薬組成物
本発明はさらに、組成物を提供する。好ましい例によれば、組成物は、抗体、又はその活性フラグメント、融合タンパク質又はADC、又は対応するCAR-T細胞、及び医薬的に許容できる担体を含む医薬組成物である。一般的に、それらの物質は、非毒性、不活性及び医薬的に許容できる水性担体媒体において配合され得、ここでpHは一般的に約5~8であり、好ましくは、pHは約6~8であり、但しそのpH値は、配合される物質の性質及び治療される状態に依存して変えられ得る。配合される医薬組成物は、従来の経路、例えば腫瘍内、腹腔内、静脈内、又は局所投与(但し、それらだけには限定されない)により投与され得る。
【0138】
本発明の医薬組成物は、TFタンパク質分子に結合するように直接使用され、それにより、腫瘍等の疾患を予防及び治療するために使用され得る。加えて、他の治療剤、例えば様々なサイトカイン、例えばTNF、IFN、IL-2等;様々な腫瘍用の化学治療剤、例えば核酸の生合成に影響する薬物、例えば5-FU及びメトトレキサート等;アルキル化剤、例えばナイトロジェンマスタード及びシクロホスファミド等;転写に干渉してRNA合成をブロックする薬物、例えばドキソルビシン及びアクチノマイシンD;ビンクリスチン及びカンプトテシン等が、同時に使用され得る。
【0139】
本発明の医薬組成物は、安全且つ有効な量(例えば、0.001~99重量%、好ましくは0.01~90重量%、好ましくは0.1~80重量%)の本発明のモノクローナル抗体(又はその接合体)及び医薬的に許容できる担体又は賦形剤を含む。そのような担体は、以下を含む(但し、それらだけには限定されない):食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール及びそれらの組合せ。医薬製剤は、投与法に対応すべきである。本発明の医薬組成物は、生理食塩水、又はグルコース及び他のアジュバントを含む水溶液を用いて従来の方法により、注射剤の形で調製され得る。医薬組成物、例えば注射剤及び溶液は、無菌条件で調製されるべきである。活性成分の投与量は、治療的有効量、例えば約1μg/kg体重/日~約5mg/kg体重/日である。さらに、本発明のポリペプチドはまた、追加の治療剤と組合しても使用され得る。
【0140】
医薬組成物が使用される場合、安全且つ有効な量の免疫接合体が哺乳類に投与され、ここで前記安全且つ有効な量は、一般的に、少なくとも約10μg/kg体重、及びほとんどの場合、約50mg以下/kg体重である。好ましくは、用量は、約10μg/kg体重~約20mg/kg体重である。もちろん、特定の用量は、投与経路及び患者の体調など、熟練した医師の技量の範囲内である要因に依存するはずである。
【0141】
本発明の主な利点は、以下を含む:
a)本発明の抗体は、卓越した生物活性及び特性を有し、そして高い親和性を有し(EC50は、ELISAにより決定される場合、0.01~003nMである);さらに、細胞表面TFに対して良好な結合親和性を有し、そしてTF-標的抗体として使用され得;
(b)本発明のヒト化抗体は、免疫抗体の活性に匹敵する活性を有するのみならず、また、低い免疫原性も有し;
(c)本発明の抗体及びADCの両者は、有意な抗腫瘍活性を有し、そし的哺乳類動物自体に対して明らかな毒性副作用を有さず、そして
(d)本発明の抗体及びADCは、腫瘍モデルにおいて有意な治療効果を有するのみならず、また、他の高TF発現関連疾患、例えば血栓性疾患及び代謝性疾患にも適用できる。
【0142】
本発明はさらに、続く特定の実施例を参照して説明される。続く実施例は、本発明を説明するために単に使用されるが、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。続く実施例における実験方法は、その特定の条件は示されていないが、通常、従来の条件、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載される条件、又は製造業者により推薦される条件に従って、実施される。特にことわらない限り、百分率及び部は、重量百分率及び重量部を意味する。細胞系は、市販されているか又はATCCから購入される従来の製品であり、そしてすべてのプラスミドは、市販されている製品である。
【実施例】
【0143】
実施例1:ヒトTFを標的とするモノクローナル抗体の発現及び調製
工程1:ハイブリドーマ細胞の調製:
最初に、生後8週の雌のBalb/cマウスを、ヒトTFタンパク質の細胞外ドメイン(UniProtKB/Swiss-Prot: P13726.1、位置34~251からのアミノ酸)により免疫化し、ここでTFの細胞外ドメインは、免疫化された脾細胞を調製するために100μg/マウスの量で使用され;マウス骨髄腫細胞(SP2/0)及びフィーダー細胞を、融合の目的で適時に調製した。
【0144】
前記3種の細胞を調製した後、脾細胞及びSP2/0の細胞の融合を、PEGにより媒介し、PEGを除去し、そして得られる細胞を、フィーダー細胞を含むHAT完全培地に再懸濁し、そして96ウェルプレートにおいて培養した。陽性ウェルを、ELISAによりスクリーニングした。最終的に、陽性ウェル中の細胞を、限界希釈法によりクローン培養にゆだね、そして高力価及び良好な形態を有し、そしてモノクローナル様式で増殖した細胞を、ELISA又は免疫蛍光技法によりスクリーニングした。モノクローナル様式で増殖された細胞をさらに、3回の連続したスクリーニングについて陽性クローニング率が100%になるまで、サブクローニングスクリーニングにゆだねた。
【0145】
工程2:ヒトTFを標的とするネズミモノクローナル抗体の腹水の調製:
工程1でスクリーニングされたハイブリドーマ細胞を、増幅培養にゆだねた。適応性の上昇の後、プリスタン(0.5ml/マウス)を、マウスの腹腔内に注射し、ハイブリドーマ細胞の増殖のために好ましい環境を提供した。7~10日後、10×106個のハイブリドーマ細胞を、各マウスの腹腔内に注射した。マウスを、7日目以降、腹水及び精神状態の産生を毎日観察し、そして腹水を採取し、遠心分離し、細胞を除去し、そして後での精製のために-80℃で凍結保存した。
【0146】
工程3:ヒトTFを標的とするネズミモノクローナル抗体の精製:
工程2で凍結保存された腹水を、氷上で融解し、そして0.45μmのフィルターを通して濾過した後、4℃で一晩、PBSにより透析した。最終的に、抗体を、FPLC技法により精製し、限外濾過し、所望する濃度に濃縮し、再包装し、そしてさらなる使用のために-80℃で凍結保存した。
【0147】
工程4:ヒトTFを標的とするネズミモノクローナル抗体の生物活性及び標的特異性の決定:
予備スクリーニングの後、約30個のハイブリドーマを、二次限界希釈クローニングのために選択し、そして次に6個の抗体を、大規模発現及び精製のために選択した。各抗体を、フローサイトメトリーにより、ヒト乳癌細胞MDA-MB-231、ヒト膵臓癌細胞BxPC-3及びネズミ黒色腫細胞B16-F10に対するその親和性について10μg/mlの濃度で決定した。
【0148】
図1に示される結果は、試験された抗体がネズミTF(B16-F10細胞)への特異的結合を伴わないで、ヒトTF(MDA-MB-231及びBxPC-3細胞)に対して特異的に結合し、ここで、TF-mAb-SC1は、他の5個の抗体よりもヒトTFに対して高い親和性を有したことを示した。
【0149】
その後、ELISAアッセイにおいて、ELISAプレートを、0.05μg/ウェルでのTFの細胞外ドメインタンパク質により被覆した。結果は、TF-mAb-SC1がTFの細胞外ドメインタンパク質への強い結合親和性を有したことを示し;細胞結合親和性アッセイは、TF-mAb-SC1がトリプルネガティブ乳癌細胞(MDA-MB-231)、及び高TF発現を有する膵臓癌細胞(BxPC-3)に対して非常に高い親和性を有したことを示し;そしてTF-mAb-SC1は、ある程度の用量依存性で、TF-PAR2下流MAPK/ERKのリン酸化レベルを有意に阻害できた。
【0150】
TF-mAb-SC1は非常に高い特異性、非常に高い親和性、及びMAPK/ERKのリン酸化レベルに対する有意な阻害効果を示したので、それを配列決定及び続く研究のために選択した。
【0151】
Kabatのデータベースに従っての従来の配列決定及び分析により、以下の配列情報を得た:
H鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、以下の通りであった:
配列番号1: SYWMN;
配列番号2: MIYPADSETRLNQKFKD;
配列番号3: EDYGSSDY。
【0152】
完全VHアミノ酸配列は、配列番号7に示される通りであった:
QVQLQQPGAELVRPGASVKLSCKASGYSFISYWMNWVKQRPGQGLEWIGMIYPADSETRLNQKFKDKATLTVDKSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYCAREDYGSSDYWGQGTTLTVSS (配列番号7)。
【0153】
L鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列は、以下の通りであった:
配列番号4: SASSSVSYMN;
配列番号5: GISNLAS;
配列番号6: QQKSSFPWT。
【0154】
完全VLアミノ酸配列は、配列番号8に示される通りであった:
EILLTQSPAIIAASPGEKVTITCSASSSVSYMNWYLQKPGSSPKIWIYGISNLASGVPARFSGSGSGTSFSFTINSMETEDVATYYCQQKSSFPWTFGGGTKLEIK(配列番号8)。
【0155】
実施例2:ヒト-マウスキメラ抗体の調製
ヒト-マウス抗体を、得られた高い活性の及び特異的ネズミTF-mAb-SC1に基いて構成した。
【0156】
プライマーを、H鎖可変領域にEcoRI及びNheIを導入し、そしてL鎖可変領域にAgeI及びBsiWI制限エンドヌクレアーゼ部位を導入するよう設計し、そして次に、上記で得られた抗体のH鎖及びL鎖可変領域の配列を、H鎖不変領域及びヒトIgG1のκ鎖不変領域を含むベクター中に別々にクローン化した。同定による確認の後、構成されたキメラ抗体を、トランスフィクション技法及び哺乳類発現システム(CHO-S又はHEK-293細胞)を用いることにより、発現し、そして精製し、そして得られたヒト-マウスキメラ抗体を、TF-mAb-Chと命名した。
【0157】
実施例3:TF-mAb-SC1のヒト化及び活性の決定
抗体TF-mAb-SC1のH鎖可変領域(配列番号7)及びL鎖可変領域(配列番号8)の配列を参照することにより、非CDR領域と最も良く一致したヒト化鋳型を、Germlineデータベースで選択した。次に、ネズミ抗体TF-mAb-SC1のCDR領域を、選択されたヒト化鋳型に移植し、ヒト化鋳型のCDR領域を置換し、続いてIgG1/κ不変領域と組換えた。一方、ネズミ抗体の三次元構造に基いて、CDR領域と直接的に相互作用された残基、及びVL及びVHの立体配座に対する重要な効果を有した残基に対して復帰突然変異を行い、それにより、5つのヒト化H鎖可変領域(配列番号9、10、11、12及び13)及び4つのヒト化L鎖可変領域(配列番号14、15、16及び17)を得た。
【0158】
【0159】
操作されたVH及びVLに基いて、それらのヒト化H鎖及びL鎖を別々に組合して発現し、最終的に合計20のヒト化抗体、すなわちTF-mAb-H29~TF-mAb-H48を得た。各抗体についてのH鎖及びL鎖の対応する組合せは、以下の表に示された:
【0160】
【0161】
最初に、20のヒト化抗体を、ELISA結合アッセイによりTFの細胞外ドメインタンパク質に対するそれらの親和性について決定した(実験方法については、実施例1の段階4を参照)。結果は、表1に示される。
【0162】
【0163】
10μg/ml及び1μg/mlでの20のヒト化抗体を、それぞれ、フローサイトメトリーにより1×105個のMDA-MB-231細胞に対するそれらの結合親和性について試験した。結果は、表2に示された。
【0164】
【0165】
実施例4:抗体-薬物接合体TF-mAb-MMAEの調製
TF―mAb―SC1のストック溶液に、その濃度が20mg/mlに達するまで、PBS/D(pH=7.4)緩衝液を添加し、そして次に、TF-mAb-SC1を、25℃で2時間、TCEP(2.6当量)により還元した。得られる混合物を氷上で冷却し、そしてMIMAE(6当量)を、精製しないで、直接添加した。0℃での1時間の反応の後、Cystを添加し、反応を停止した。過剰の小分子を、G25脱塩カラムにより除去し、そして得られる画分を、10mMのPBS溶液(pH7.4)に配置し、さらなる使用のために-80℃で貯蔵した。得られる抗体-薬物接合体を、TF-mAb-MMAEと命名した。
【0166】
実施例5:抗体-薬物接合体TF-mAb-DM1の調製
1:一段階調製
最初に、TF-mAb-SC1のストック溶液を、7.8mg/mlの最終濃度になるよう、G25脱塩カラムにより、反応緩衝液(50 mMのリン酸カリウム/50 mM のNaCl/2 mM のEDTA、pH 7.5)に交換し;そして次に、9当量の11mg/mlのMCC-DM1(DMAに溶解された;ここで反応システム中のDMA含有率は5%未満であった)を添加した。反応を、室温で6時間、実施した。遠心分離の後、上清液を、Qカラム及びカチオンカラム精製により精製し、過剰の小分子を除去し、そして最終的に、G25脱塩化ラム又は限外濾過により、10mMのPBS溶液に交換し、そしてさらなる使用のために-80℃で貯蔵した。得られた抗体-薬物接合体を、TF-mAb-DM1と命名した。
【0167】
2:二段階調製
TF-mAb-SC1のストック溶液を、10mg/mlの最終濃度になるよう、G25脱塩カラムにより、反応緩衝液(50 mMのリン酸カリウム/50 mM のNaCl/2 mM のEDTA、pH 7.5)に交換し;そして次に、8当量のMCC-DM(DMAOに溶解された)を添加した。反応を、10-12℃で3時間、実施した、そして過剰SMCCを、G25脱塩カラムにより除去した。DM1(12当量)を、P-MCCに添加し、そして反応を25℃で18時間、行い、そして最終的に、G25脱塩化ラムにより、10mMのPBS溶液に交換し、そしてさらなる使用のために-80℃で貯蔵した。得られた抗体-薬物接合体を、TF-mAb-DM1と命名した。
【0168】
実施例6:高TF発現を有するトリプルネガティブ乳癌細胞及び膵臓癌細胞に対するTF-mAb-ADCのインビトロ抗腫瘍活性
この実施例に使用される以下の細胞系を、American Type Culture Collection (ATCC) 又は Cell Bank of Chinese Academy of Sciencesから購入し、そしてその対応する説明書に従って培養した:MCF7、MDA-453、T47D、A549、U87MG、H1975、MDA-MB-231、BxPC-3、HCC1806及び Hs578T。
【0169】
対数増殖期にある細胞を、ウェル当たり1,000~3,000個の密度で(異なる細胞の増殖速度に依存する)、96ウェル培養部プレートに播種した。5%CO2下で37℃で約16時間インキュベートした後、異なる濃度でのTF-mAb-ADC(すなわち、TF-mAb-DM1及びTF-mAb-MMAE)を添加し、各薬物濃度を3つのウェルにおいて反復し、そして対応する培地対照及びブランク対照ウェルを使用した。4日間のインキュベーションの後、培養溶液を廃棄し、そしてMTS反応溶液(Promegaから購入された、カタログ番号G3581)を、100μl/ウェルで添加した。反応を、所望の色深度が得られるまで、37℃で行い、各グループの細胞生存率(OD490nm)を決定し、そして細胞生存率を、以下の式に従って計算した:
細胞生存率=ODadministration
-ODblank)/(ODcontrol-ODblank)×100%
【0170】
上記データを、Graphpad Prism 5ソフトウェアにより分析し、そして異なる細胞系についてのTF-mAb-DM1及びTF-mAb-MMAEのIC50値を、それぞれ計算した。
【0171】
実験結果は、TF-mAb-DM1及びTF-mAb-MMAEの両者が、インビトロで高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を良好に阻害でき、そして阻害効果が細胞表面上のTF分子の数に比例したことを示した。
図1に示されるように、左図は、TF-mAb-DM1が高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を十分に阻害できることを示す曲線であり、そして右図は、異なる細胞系に対するTF-mAb-DM1のIC
50値を示した。
図2に示されるように、左図は、TF-mAb-MMAEが高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を十分に阻害できたことを示す曲線であり、そして右側の表は、異なる細胞に対するTF-mAb-MMAEのIC
50値を示した。
【0172】
異なる細胞表意面上のTFの相対的分子数を、CCLEデータベース(Broad-Novartis Cancer Cell line Encyclopedia)により分析し、そしてその結果は、異なる細胞の増殖に対するTF-mAb-DM1及びTF-mAb-MMAEの阻害効果が細胞表面上のTFの分子数に比例することを示し、それらは、それぞれ
図3A及び
図3Bに示している。
【0173】
実施例7:高TF発現を有するトリプルネガティブ乳癌及び膵臓癌モデルに対するTF-mAb-ADCのインビボ抗腫瘍活性
対数増殖期におけるHCC1806及びBxPC-3細胞を、生後6週のBalb/c雌ヌードマウスの背の皮下又は乳房脂肪パッドに、それぞれ200μlの無血清培地当たり3×106及び10×106個の密度で接種するために使用した(Balb/cヌードは、Shanghai Xipuer-Beikai Experimental Animal Co., Ltd.から購入された)。腫瘍が100~200mm3まで増殖した後、動物をランダムにグループ分けし、各グループについて8個の腫瘍を有した。マウスに、3.75mg/kg及び15mg/kgの用量でTF-mAb-DM1を投与するか、0.7mg/kg、2mg/kg、3.75mg/kg、7mg/kg及び15mg/kgの用量でTF-mAb-MMAEを、尾の静脈に週当たり1度、投与した。正常マウスIgG(IgG)及びドセタキセルを、それぞれ、負及び正の対照薬物として使用した。ヌードマウスの腫瘍体積及び重量を、週当たり2~3度、測定し、そして記録し、腫瘍増殖曲線をプロットした。腫瘍体積(V)を、以下の式に従って計算した:
V=1/2×a×b2
式中、a及びbは、それぞれ、腫瘍の長さ及び幅を表している。
【0174】
図4に示されるように、
図4Aは、HCC1806異種移植腫瘍増殖が、特定用量依存性態様でTF-mAb-DM1により阻害された曲線を示す。
図4Bは、ヌードマウスの体重変化曲線を示した。
【0175】
図5A及び
図6は、HCC1806異種移植腫瘍増殖が異なる用量でTF-mAb-MMAEにより阻害された曲線を示し、そして
図5Bは、ヌードマウスの体重変化曲線を示した。TF-mAb-MMAEが0.7mg/kgの用量でHCC1806腫瘍の増殖を効果的に阻害でき、そして3.75mg/kgの用量でHCC1806の増殖をほとんど完全に阻害できたことが、結果から見られた。
【0176】
図7Aに示されるように、TF-mAb-MMAEは、用量依存性態様でBxPc-3異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害できた。ドセタキセルグループ中のマウスと比較して、TF-mAb-MMAEグループ中のマウスは、体重減少を示さず、このことは、TF-mAb-MMAEがより低い毒性副作用を有したことを示唆する。
図7Bは、ヌードマウスの体重変化の曲線を示した。
【0177】
実施例8:ヒト化抗体のADC
実施例4-7を反復し、但しTF-mAb-SC1を、以下により置換した:TF-mAb-H29、 TF-mAb-H30、 TF-mAb-H31、 TF-mAb-H32、 TF-mAb-H33、 TF-mAb-H34、 TF-mAb-H35、 TF-mAb-H36、 TF-mAb-H37、 TF-mAb-H38、 TF-mAb-H39、 TF-mAb-H40、 TF-mAb-H41、 TF-mAb-H42、 TF-mAb-H43、 TF-mAb-H44、 TF-mAb-H45、 TF-mAb-H46、 TF-mAb-H47、及びTF-mAb-H48。
【0178】
次に、それらのヒト化抗体とMMAEとの接合体を、それぞれ調製し、ここでTF-mAb-H39-MMAE及びTF-mAb-H44-MMAEの特徴づける結果を、下記に示した。
【0179】
図8は、TF-mAb-H39-MMAEの分子篩HPLCを示し;
図9は、TF-mAb-H39-MMAEの疎水性クロマトグラフィーを示し;
図10は、TF-mAb-H39-MMAEの質量スペクトルを示し;
図11は、TF-mAb-H44-MMAEの分子篩HPLCを示し;
図12は、TF-mAb-H44-MMAEの疎水性クロマトグラフィーを示し;そして
図13は、TF-mAb-H44-MMAEの質量スペクトルを示した。
【0180】
上記実験結果に従って計算される場合、TF-mAb-H39-MMAE及びTF-mAb-H44-MMAEは主に、2及び4の薬物-抗体比(DAR)を有し、そして平均DARは約4であった。
【0181】
試験結果は、それらのヒト化抗体に基いてのADCもまた、高い親和性(TF-mAb-MMAEと比較して、好ましいヒト化抗体のACDは、60%~140%の範囲の相対的親和性を有した)、高い細胞毒性、及び低い毒性副作用を有し、そして有意な抗腫瘍効果を示したことを示した。
【0182】
2種の好ましいヒト化抗体TF-mAb-H39-MMAE及びTF-mAb-H44-MMAEのインビトロ及びインビボ抗腫瘍活性が、それぞれ
図14~
図20に示された。
【0183】
図14に示されるように、実験結果は、TF-mAb-H39-MMAEが高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を有意に阻害でき、そして細胞表面上のTFの分子数に比例したことを示し、ここで右側の表は、異なる細胞系についてのTF-mAb-H39-MMAEのIC
50値を示した。
【0184】
図15に示されるように、TF-mAb-H44-MMAEは、高TF発現を有する腫瘍細胞の増殖を有意に阻害し、そして阻害効果は、細胞表面上のTFの分子数に比例し、ここで右側の表は、異なる細胞系についてのTF-mAb-H44-MMAEのIC
50値を示した。
【0185】
異なる細胞表面上のTFの相対的分子数を、CCLEデータベースにより分析し、そしてその結果は、異なる細胞に対するTF-mAb-H39-MMAE及びTF-mAb-H44-MMAEの阻害効果が、細胞表面上のTF分子数に比例することを示し、それらは、それぞれ、
図16A及び
図16Bに示された。
【0186】
図17に示されるように、TF-mAb-H44-MMAEは、用量依存性態様でHCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害でき、そして3mg/kgの用量でHCC1806腫瘍増殖を完全に阻害でき、そして最小効果用量(MED)は1mg/kgであった。
【0187】
図18に示されるように、TF-mAb-H39-MMAEは、HCC1806異種移植腫瘍の増殖を効果的に阻害し、そして最小効果用量(MED)は1mg/kgであった。
【0188】
図19に示されるように、TF-mAb-H44-MMAEは、用量依存性態様で、BxPC-3異種移植腫瘍の増殖を有意に阻害し、そして1mg/kgの用量でBxPC-3腫瘍の増殖を完全に阻害できた。
【0189】
図20に示されるように、TF-mAb-H39-MMAEは、BxPC-3異種移植腫瘍の増殖を有意に阻害でき、そして最小効果用量(MED)は、0.3mg/kgであった。
【0190】
本発明において言及される全ての文書は、あたかも各個々の文書が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されるのと同程度に参照により本出願に組み込まれる。 さらに、本発明で教示された内容を読んだ後、当業者によって本発明に対して様々な修正及び変更がなされてもよく、これらの同等物もまた特許請求の範囲によって定義される範囲に含まれることを理解すべきである。
【配列表】