(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】メモリスタ素子およびその製造の方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/8239 20060101AFI20220208BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20220208BHJP
H01L 45/00 20060101ALI20220208BHJP
H01L 49/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
H01L27/105 448
H01L45/00 Z
H01L49/00 Z
(21)【出願番号】P 2018545530
(86)(22)【出願日】2016-11-23
(86)【国際出願番号】 AU2016051145
(87)【国際公開番号】W WO2017088016
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-21
(32)【優先日】2015-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】506018639
【氏名又は名称】ロイヤル・メルボルン・インスティテュート・オブ・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】バスカラン,マデュ
(72)【発明者】
【氏名】スリラム,シャラス
(72)【発明者】
【氏名】ワリア,サミート
(72)【発明者】
【氏名】アフマダーバーディ,フセイン・ニリ
【審査官】西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0264397(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0087755(US,A1)
【文献】Hussein Nili , * Sumeet Walia , Ahmad Esmaielzadeh Kandjani , Rajesh Ramanathan , Philipp Gutruf , Taimur Ahmed , Sivacarendran Balendhran , Vipul Bansal , Dmitri B. Strukov , Omid Kavehei , Madhu Bhaskaran , and Sharath Sriram *,Donor-Induced Performance Tuning of Amorphous SrTiO 3Memristive Nanodevices: Multistate Resistive Switchingand Mechanical Tunability,ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2015 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim,2015年04月14日,P3172-3182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 45/00
H01L 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と;
第二の電極と;
前記第一の電極の表面上に配置されたカソード金属層と;
前記第二の電極と
前記カソード金属層との間に配置され、
且つ、それらに電気的に接触
するアクティブ領域
であって、アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層を含む前記アクティブ領域と、
を含み
、
スイッチング電圧が、
前記第一の電極と
前記第二の電極との間に印加されると、
前記メモリスタ素子は、前記アクティブ領域が抵抗スイッチング動作を呈する
ように構成され、
前記アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層が、酸素欠損アモルファス金属酸化物を包含し、
前記酸素欠損アモルファス金属酸化物が、0.05<x<0.15である式(アモルファス-SrTiO
3-x
)で表されるチタン酸ストロンチウムを包含する、
メモリスタ素子。
【請求項2】
前記アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層が、
さらに一つのアモルファス金属酸化物
層を含む、請求項1記載のメモリスタ素子。
【請求項3】
前記アモルファス金属酸化物
層が
、式(アモルファス-SrTiO
3-x)で表されるチタン酸ストロンチウムを包含する、請求項
2記載のメモリスタ素子。
【請求項4】
前記酸素欠損アモルファス金属酸化物層および
前記アモルファス金属酸化物層の各々が
、15nm
~40nmの範囲内である厚さを有する、請求項
2記載のメモリスタ素子。
【請求項5】
前記酸素欠損アモルファス金属酸化物が、クロムおよびニオブからなる群より選択されるドーパント元素のドーピング原子を含む、請求項
1から4のうちいずれか1項記載のメモリスタ素子。
【請求項6】
前記ドーパント元素がニオブであり、前記チタンに対する
前記ニオブの比が
、0.02
~0.05
の間である、請求項
5記載のメモリスタ素子。
【請求項7】
前記アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層が
、15nm
~40nmの範囲内である厚さを有する、請求項1記載のメモリスタ素子。
【請求項8】
前記カソード金属層が
、2nm
~15nmの範囲内である厚さを有する、請求項1から
7のうちいずれか1項記載のメモリスタ素子。
【請求項9】
前記カソード金属層が
、5nm
~10nmの範囲内である厚さを有する、請求項
1から8のうちいずれか1項記載のメモリスタ素子。
【請求項10】
前記第一の電極および
前記第二の電極の各々が
、25nm
~35nmの範囲内である厚さを有する、請求項1から
9のうちいずれか1項記載のメモリスタ素子。
【請求項11】
前記抵抗スイッチング動作が、順方向および逆方向の一方または両方で発生するバイポーラ抵抗スイッチング動作を含む、請求項1から1
0のうちいずれか1項記載のメモリスタ素子。
【請求項12】
前記抵抗スイッチング動作が、順方向、逆方向、および相補型抵抗スイッチング動作のうち一つまたは複数で発生するバイポーラ抵抗スイッチング動作を含む、請求項
1~
10の
うちいずれか1項記載のメモリスタ素子。
【請求項13】
メモリスタ素子を製造する方法であって、:
a)第一の電極を提供する工程と;
b)第二の電極を提供する工程と;
c)
前記第一の電極の表面上に配置されたカソード金属層を提供する工程と;
d)
前記第二の電極と
前記カソード金属層との間に配置され、電気的に接触しているアクティブ領域
であって、アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層を含む前記アクティブ領域、を提供する工程とを含み
、
スイッチング電圧が、
前記第一の電極と
前記第二の電極との間に印加されると、
前記アクティブ領域が、抵抗スイッチング動作を呈
し、
前記アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層が、酸素欠損アモルファス金属酸化物を包含し、前記酸素欠損アモルファス金属酸化物が、0.05<x<0.15である式(アモルファス-SrTiO
3-x
)で表されるチタン酸ストロンチウムを包含する、
方法。
【請求項14】
前記工程a)~d)の一つ室温が室温で実施される、請求項1
3記載の方法。
【請求項15】
基板上にメモリスタ素子を製造する方法であって、:
a)基板上に下部電極を堆積する工程と;
b)アクティブ領域を画定するために、堆積された下部電極上にアモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層を堆積する工程と;
c)
前記アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層上にカソード金属層を堆積する工程と;
d)
前記アクティブ領域が
、下部電極と
前記カソード金属層との間に配置され、
且つ、それらに電気的に接触
するように、堆積された
前記カソード金属層上に上部電極を堆積する工程と
、
を含み、
スイッチング電圧が上部電極と下部電極との間に印加されると、
前記アクティブ領域が抵抗スイッチング動作を呈
し、
前記アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層が、酸素欠損アモルファス金属酸化物を包含し、前記酸素欠損アモルファス金属酸化物が、0.05<x<0.15である式(アモルファス-SrTiO
3-x
)で表されるチタン酸ストロンチウムを包含する、
方法。
【請求項16】
前記工程a)~d)の一つ
以上が室温で実施される、請求項1
5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、メモリスタ素子およびその製造の方法に関する。
【0002】
本発明は、主として、互換性のあるメモリスタのシステムの使用のために開発され、本出願を参照しながら以下に記載される。しかし、本発明がこの特定の分野の使用に限定されないことがわかる。
【0003】
発明の背景
本発明の背景の以下の考察は、本発明の理解を容易にすることを意図する。しかし、考察が、本明細書の請求項のいずれか1項の優先日において、オーストラリアもしくは任意の他の国で、参照された資料のいずれかが発行されている、公知である、または共通の一般知識の一部であることの承認または容認ではないことがわかる。
【0004】
メモリ技術は、従来、1および0の形態でデジタルデータを記憶するために利用されてきた。他方で、現在の関心は、アナログメモリが複数の状態を有することを可能にする技術にある。これは、かつてないほどの高密度メモリおよび最も有意にニューロモルフィックなコンピューティングを可能にする。これらの関心は、耐久性があり周期的なスイッチングおよびオン/オフ状態間の簡単な区別を持つ高度に不揮発性であるメモリの電子状態に依存する。ナノスケール抵抗メモリ(または「メモリスタ」)は、これらの要件の多くを満たし、機能性酸化物に依存している。それらは、通常は、機能性二元および三元金属酸化物(例えば、TiO2、SrTiO3)に基づくパッシブ二端子金属-絶縁体-金属(MIM)素子として構成される。これらは、スケーラブル、高速、不揮発性かつ低エネルギーメモリスタの性能を供する。それらの動的非線形電流電圧特性は、非線形回路設計および代替論理アーキテクチャにおける用途も示唆する。
【0005】
これらの素子におけるバイポーラ抵抗スイッチング動作は、金属-酸化物界面における電子効果と、遷移金属酸化物層における可逆的酸化還元およびナノイオン輸送との組み合わせに対して扱われる。これらのプロセスは、高い電気的勾配下、電鋳プロセス中の拡張された欠陥構造の生成時の酸化物において引き起こされる。
【0006】
遷移金属酸化物に基づく二端子容量のような金属-絶縁体-金属(MIM)素子の高度に非線形かつ不揮発性のメモリスタの特性は、高度にスケーラブルなメモリ素子開発の可能性に起因して、強い研究的関心を集めてきた。それらは、新規コンピューティングアーキテクチャおよび非従来型のコンピューティング、例えば、ニューロモルフィック工学のための前駆体であることも約束される。
【0007】
遷移金属酸化物の中でも、原型的なペロブスカイト酸化物であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3;STO)は、メモリスタのMIM素子の機能性酸化物層の有望な候補として浮上してきた。電気的または熱応力を受ける酸素空孔をセルフドーピングするその傾向は、その電子構造を、バンド絶縁体から金属導体に変換し、二端子メモリ素子に好適な電気抵抗スイッチングを容易にすることができる。チタン酸ストロンチウムは、酸素空孔点欠陥および酸化チタン副格子の転位に沿った目立った酸化還元活性を潜ませる、STOの安定したペロブスカイト構造の内在する傾向に起因して、ナノスケール抵抗スイッチング用途の大きい可能性を示してきた。
【0008】
STOに基づく素子の抵抗スイッチングは、一般的に、拡張された欠陥構造に沿った酸素空孔の高度に局所的な蓄積(すなわち、ナノフィラメント)によるものであり、金属-酸化物界面における空乏層の局所迂回を結果としてもたらす。また、STOの欠陥構造は、ドーピングを介してドナーまたはアクセプター型遷移金属で直接操られることができ、これは、局所(例えば、粒界および点欠陥)においてバルクレベルで電子構造を調節するために採用されることができる。これは、ナノフィラメントの配置および電子/イオン輸送特性を、したがって、STOに基づく素子のメモリスタの特性をエンジニアリングするためのツールとして使用されることができる。そのように、STOに基づく素子は、コンピューティングアーキテクチャにおけるパッシブアナログメモリ要素としての高密度集積の可能性を有する。さらに、結合された電気機械的および電気光学効果についてのSTO構造の調整可能性は、それが多機能非線形素子の設計において与えることができる印象的な自由度を強調する。
【0009】
しかし、通常、STOに基づくメモリスタ素子を製造するために採用される高処理温度および非CMOS互換性基板は、これらの素子の商業化に対する障壁を生み出し得る。
【0010】
本発明は、少なくとも一部の先行技術の欠陥を克服するまたは実質的に緩和することができる、または少なくとも代替を提供するために、メモリスタ素子およびその製造の方法を提供することを目指す。
【0011】
発明の概要
本発明の第一の態様によって、メモリスタ素子が提供され、メモリスタ素子が:
第一の電極と;
第二の電極と;
第一の電極の表面上に配置されたカソード金属層と;
第二の電極とカソード金属層との間に配置され、電気的に接触しているアクティブ領域とを含み、アクティブ領域がアモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層を含み、
スイッチング電圧が第一の電極と第二の電極との間に印加されると、アクティブ領域が抵抗スイッチング動作を呈する。
【0012】
好ましくは、アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層は、チタンの酸化物を包含する。
【0013】
好ましくは、アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層は、酸素欠損アモルファス金属酸化物を包含する。
【0014】
一つの実施態様では、酸素欠損アモルファス金属酸化物は、0.05<x<0.15である式(アモルファス-SrTiO3-x)で表されるチタン酸ストロンチウムを包含する。
【0015】
好ましくは、アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層は、酸素欠損アモルファス金属酸化物層およびアモルファス金属酸化物層を含む。
【0016】
一つの実施態様では、酸素欠損アモルファス金属酸化物層は、0.05<x<0.15である式(アモルファス-SrTiO3-x)で表されるチタン酸ストロンチウムを包含し、アモルファス金属酸化物層は、式(アモルファス-SrTiO3)で表されるチタン酸ストロンチウムを包含する。
【0017】
代替実施態様では、酸素欠損アモルファス金属酸化物層およびアモルファス金属酸化物層の各々は、およそ15nm~およそ40nmの範囲内である厚さを有する。
【0018】
好ましくは、酸素欠損アモルファス金属酸化物は、クロムおよびニオブからなる群より選択されるドーパント元素のドーピング原子を含む。
【0019】
一つの実施態様では、酸素欠損アモルファス金属酸化物は、0.05<x<0.15である式(アモルファス-SrTiO3-x)で表されるチタン酸ストロンチウムであり、ドーパント元素がニオブである。
【0020】
好適には、チタンに対するニオブの比は、およそ0.02~およそ0.05である。
【0021】
好ましくは、アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層は、およそ15nm~およそ40nmの範囲内である厚さを有する。
【0022】
好ましくは、カソード金属層は、およそ2nm~およそ15nmの範囲内である厚さを有する。
【0023】
一つの実施態様では、カソード金属層は、およそ5nm~およそ10nmの範囲内である厚さを有する。
【0024】
好ましくは、第一の電極および第二の電極の各々は、およそ25nm~およそ35nmの範囲内である厚さを有する。
【0025】
好ましくは、抵抗スイッチング動作は、順方向および逆方向の一つまたは両方で発生するバイポーラ抵抗スイッチング動作を含む。
【0026】
好ましくは、抵抗スイッチング動作は、順方向、逆方向、および相補型抵抗スイッチング動作のうち、一つまたは複数で発生するバイポーラ抵抗スイッチング動作を含む。
【0027】
本発明の第二の態様によって、メモリスタ素子を製造する方法が提供され、方法が:
a)第一の電極を提供する工程と;
b)第二の電極を提供する工程と;
c)第一の電極の表面上に配置されたカソード金属層を提供する工程と;
d)第二の電極とカソード金属層との間に配置され、電気的に接触しているアクティブ領域を提供する工程とを含み、アクティブ領域がアモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層を含み、
スイッチング電圧が第一の電極と第二の電極との間に印加されると、アクティブ領域が抵抗スイッチング動作を呈する。
【0028】
好ましくは、工程a)~d)の一つまたは複数は、室温で実施される。
【0029】
本発明の第三の態様によって、メモリスタ素子を製造する方法が提供され、方法が:
a)基板上に下部電極を堆積する工程と;
b)アクティブ領域を画定するために、堆積された下部電極上にアモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層を堆積する工程と;
c)アモルファス金属酸化物の少なくとも一つの層上にカソード金属層を堆積する工程と;
d)アクティブ領域が下部電極とカソード金属層との間に配置され、電気的に接触しているように、堆積されたカソード金属層上に上部電極を堆積する工程とを含み、
スイッチング電圧が上部電極と下部電極との間に印加されると、アクティブ領域が抵抗スイッチング動作を呈する。
【0030】
好ましくは、工程a)~d)の一つまたは複数は、室温で実施される。
【0031】
本発明の他の態様も開示される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】(a)本発明の好ましい実施形態に従って作製されたa-STO
xMIM素子の模式断面図と、(b)代表的なバイポーラ抵抗スイッチング動作を明らかにする、30nmの酸素欠損アモルファス-STO
x(以下a-STO
xと呼ぶ)スイッチング層厚さL
1と、5nmのチタン
カソード層厚さL
Tとを含む、
図1(a)のa-STO
xMIM単層素子の電流-電圧関係を図示するグラフとを示す。
【
図2】(a)本発明のもう一つの好ましい実施態様に従って作製されたa-STO
x/a-STO二層MIM素子の模式断面図と、(b)順方向バイポーラ抵抗スイッチング動作、(c)相補型抵抗スイッチング動作および(d)逆方向バイポーラ抵抗スイッチング動作を明らかにする
図2(a)のa-STO
x/a-STO二層MIM素子の電流-電圧関係を図示するグラフとを示す。
【
図3】(a)酸素空孔集中率対室温でのRFマグネトロンスパッタリングによってSi/SiO
2基板上に
堆積された酸素欠損a-STO
xスイッチング層への酸素圧力を図示するグラフと、(b)0%酸素分圧での、酸素欠損a-STO
xスイッチング層の成長率対プラズマ放電電力を図示するグラフとを示す。
【0033】
発明を実施するための形態
本発明の範囲内であることができる任意の他の形態にもかかわらず、本発明の好ましい実施形態を、添付図面を参照しながら、例としてのみ記載する。
以下の記載では、異なる実施形態における同じまたは同一の符号が同一のまたは類似の特徴を示すことに留意されたい。
【0034】
[単層素子]
図1(a)に示すように、本発明の好ましい実施形態によって作製された代表的な単層メモリスタ素子10の模式断面図が提供される。単層素子10は、単層MIM素子10の上部電極および下部電極としてそれぞれ働く第一の電極20および第二の電極30を含む、スタックされたパッシブ二端子金属-絶縁体-金属(MIM)素子またはセルである。第一の電極20および第二の電極30は、プラチナ、パラジウム、金、タングステンおよび窒化チタンからなる群より選択される金属から作製された不活性高仕事関数金属電極である。
【0035】
好ましい実施形態では、第一の電極20および第二の電極30は、プラチナ金属から形成され、各々がおよそ25nm~およそ35nmの範囲内である厚さを有する。
【0036】
図1(a)に示すように、第一のまたは上部プラチナ電極20は、その内側に向いた表面上に配置された
カソード金属層40を有する。
カソード金属層40は、理想的には、プラチナ、パラジウム、金、パラジウム-銀、ルテニウムおよびイリジウムからなる群より選択される反応性低仕事関数金属である。
【0037】
好ましい実施形態では、カソード金属層40は、チタン金属から形成され、およそ2nm~およそ15nmの範囲内である厚さ、より好ましくは、およそ5nm~およそ10nmの範囲内である厚さを有する。
【0038】
アモルファス金属酸化物の形態のスイッチング層50を含むアクティブ領域は、実質的に第二のまたは下部プラチナ電極30とチタンカソード層40との間に、配置され、電気的に接触している。アモルファス金属酸化物スイッチング層50は、0.05<x<0.15である式アモルファス-SrTiO3-x(以下a-SrTiO3-xと呼ぶ)(以下短縮表記形態でa-STOxと呼ぶ)で表されるチタン酸ストロンチウムの近化学量論的酸素欠損アモルファスペロブスカイト三元金属酸化物層の形態を取る。
【0039】
一つの実施形態では、酸素欠損a-STOxスイッチング層50は、およそ15nm~およそ40nmの範囲内、より好ましくは、およそ15nm~およそ30nmの範囲内、より一層好ましくは、およそ15nm~およそ25nmの範囲内である厚さを有する。
【0040】
[方法]
本発明者らは、汎用抵抗スイッチング単層MIM素子10を達成するための望ましい要件が単層MIM素子10の金属-絶縁体遷移を誘発するための低または無初期電気的応力(または電鋳電圧/電流)であることを発見した。以下に記載されるように、本発明の好ましい実施形態の単層MIM素子10の電鋳電圧/電流閾値を制御するために、三つの製造パラメータを採用することができる。
【0041】
[a-STO酸化物スイッチング層における酸素欠損含有率の制御]:a-STOスイッチング層を堆積するために最適な合成技術は、化学量論的SrTiO3セラミックターゲットを使用するAr/O2スパッタリングガス混合物中でのRFマグネトロンスパッタリングである。RFプラズマの背景酸素分圧を制御することによって、堆積されたa-STOスイッチング層50の酸素含有率を制御することができる。本発明者らは、単層MIM素子10のa-STOxスイッチング層50における高い酸素欠損含有率が初期電鋳のためのより低いエネルギー必要量を容易にすることを発見した。
【0042】
図3(a)は、酸素空孔集中率対室温でのRFマグネトロンスパッタリングによってSi/SiO
2基板上に
堆積された酸素欠損a-STO
xスイッチング層50への酸素圧力の依存関係を図示するグラフを示す。単層MIM素子10および二層MIM素子100の酸化物スイッチング層50の酸素欠損を制御できることにより、初期電鋳のためのより低いエネルギー必要量ならびにより高い素子歩留まりおよび耐久性を持つより均一なスイッチング性能を容易にすることが可能である。
【0043】
[酸化物厚さ/密度の制御]:スパッタリング電力、期間およびターゲットから基板への距離は、RFスパッタリング堆積中の酸化物層厚さおよび密度を制御するために採用されることができる。「スパッタアップ」機器構成における中程度のRF電力(100W)および大きいターゲットから基板への距離(50cm)により、酸化物層の厚さは、<5nmまで均一に制御されることができる。単層MIM素子10に使用される酸素欠損a-STOxスイッチング層50は、結果としての単層MIM素子10の抵抗スイッチング性能を最適化するために、厚さにおいて10~40nm、好ましくは15~40nmで変動させることができる。
【0044】
図3(b)は、0%酸素分圧での、酸素欠損a-STO
xスイッチング層50の成長率対プラズマ放電電力の依存関係を図示するグラフを示す。単層MIM素子10または二層MIM素子100の酸素欠損a-STO
xスイッチング層50の厚さを制御できることにより、全体的な初期MIMセル抵抗に影響を与え、低または無電鋳工程のための臨界厚さの達成を許容することが可能である。
【0045】
手短に言えば、先の手法は、酸素欠損a-STOxスイッチング層50の厚さおよび酸素欠損集中に対する正確な制御を許容する。とりわけ、異なる酸素分圧を使用して、本発明者らは、多層化されたまたはスタックされた膜が簡単に基板上に堆積されることができることを発見した。堆積が室温で発生するため、欠陥空孔プロファイルを持つ成長したままのアモルファス酸素欠損a-STOxスイッチング層50間の相互拡散は、可能性が低く、最悪の場合のシナリオでも、2~3nmに限定される。したがって、各個別の層の電気的輸送特性は、全体的なスタックの性能を最適化するために採用されることができる。
【0046】
[カソード金属の厚さ]:単層MIM素子10のチタンカソード層40の厚さは、単層MIM素子10の初期抵抗および電気的特性に影響を与える。臨界厚さにおいては、単層MIM素子10内の設計された非対称は、より低いエネルギーでの堅牢な抵抗スイッチングを許容する。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によって単層MIM素子10を製造する方法が記載される。
【0048】
方法の工程1)によって、25nm厚さの下部プラチナ電極30は、室温での電子ビーム堆積によって予めパターン化されたSiO2/Si基板上に堆積される。予めパターン化されたSiO2/Si基板と下部プラチナ電極30との間の接着は、下部プラチナ電極30を貼り付ける前に、予めパターン化されたSiO2/Si基板上に厚さ5nmのTiO2の接着促進層を堆積することにより、強化されることができる。
【0049】
工程2)によって、30nm厚さの酸素欠損a-STOxスイッチング層50は、化学量論的SrTiO3セラミックターゲットを使用するAr/O2スパッタリングガス混合物中で<10-7Torrのベース圧力で室温でのRFマグネトロンスパッタリングをすることによってシャドウマスクを通して下部プラチナ電極30上にスパッタされる。
【0050】
本発明者らは、単相ペロブスカイト酸化物層を獲得するために好ましい分圧範囲が0~5%であり、5%酸素分圧が化学量論的a-STO薄膜を生み、0%分圧が酸化物スイッチング層50において3~4%の最大酸素欠損含有率を生むことを発見した。
【0051】
酸素欠損スイッチング層(a-STOx)50が0%酸素分圧で合成され、3~4%の酸素欠損含有率を有する単層MIM素子10の場合に良好な結果が得られた。
【0052】
工程3)によって、厚さ5nmのチタンカソード層40は、最初に、室温での電子ビーム蒸着によってスパッタされた酸素欠損a-STOxスイッチング層50上に堆積される。
【0053】
工程4)によって、厚さ25nmの上部プラチナ電極20は、ここでもまた室温での同一の電子ビーム蒸着装置を使用してチタンカソード層40上に堆積される。
【0054】
先に記載した製造方法がスパッタリングによって個別の層を堆積することに限定しておらず、熱蒸着、電子ビーム蒸着、原子層堆積、共堆積、化学気相堆積、イオンビームアシスト堆積を含む他の堆積方法も採用することができることが当業者によってわかる。
【0055】
本発明者らは、チタンカソード層40が上部プラチナ金属電極20と酸素欠損a-STOxスイッチング層50との間に位置付けられ、電気的に接触していることにより、単層MIM素子10内の結果としての非対称は、高性能非線形抵抗スイッチングの達成を可能にすることを発見した。
【0056】
単層MIM素子10の酸素欠損a-STOxスイッチング層50およびチタンカソード層40の厚さは、低圧バイポーラ抵抗スイッチング動作を可能にするために最適化された。
【0057】
各々が20nmの厚さを有する第一のプラチナ電極20および第二のプラチナ電極30と、5nmの厚さLTを有するチタンカソード層40と、30nmの厚さL1を有する酸素欠損a-STOx層50とを含む単層MIM素子10の場合に良好な結果が得られた。
【0058】
本発明者らは、スイッチング電圧が単層MIM素子10の第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に印加されると、酸素欠損a-STOxスイッチング層50が順方向および逆方向の一つまたは両方で発生するバイポーラ抵抗スイッチング動作を呈することも発見した。
【0059】
図1(b)は、バイアス電圧が単層MIM素子10の第一の電極20と第二の電極30との間に印加されるときの、先に述べた寸法を有する単層a-STO
xに基づくMIM素子10の電流-電圧関係を図示するグラフを示す。
【0060】
バイアス電圧が印加されない
図1(b)の原点においては、単層MIM素子10がオフ状態に留まることがわかる。しかし、上部プラチナ電極20からバイアスしたバイアス電圧が単層MIM素子10におよそ0Vからおよそ-1.5Vまで印加されると、単層MIM素子10は、およそ-1Vの電圧で電流がおよそ-5μAに達するまで、高抵抗の経路(経路1)を経験する。この時点で、単層MIM素子10は、低抵抗状態に相当する-1.5Vに電圧が達するまで電流がおよそ-330μAに上昇する、オン状態にスイッチする。続いて電圧がおよそ0Vからおよそ+2Vまで印加されると、電流が低下し始める一方で単層MIM素子10は、低抵抗の経路(経路2に沿う)を経験する。電流および電圧が原点を通過して経路3に沿うにつれ、電流は、およそ+1.2Vの電圧でおよそ+225μAに上昇する。この時点で、単層MIM素子10は、電圧がおよそ+2Vに達するまで電流が徐々に低下する、オフ状態にスイッチする。バイアス電圧がおよそ0Vまで下げられると、電流がゼロまで低下し、単層MIM素子10が高抵抗の経路(経路4)を経験するため、オフ状態は、維持される。
【0061】
本発明者らは、単層MIM素子10の順方向バイポーラ抵抗スイッチングを達成するための代表的な電圧範囲がおおよそ-1.5V~+2Vであることを発見した。
【0062】
したがって、上部プラチナ電極30からバイアスした電圧が第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に負の極性で印加されると、単層MIM素子10は、高抵抗状態から低抵抗状態にスイッチする。他方で、ここでもまた上部プラチナ電極30からバイアスした電圧が正の極性で印加されると、単層MIM素子10は、低抵抗状態から高抵抗状態にスイッチする。このバイポーラ抵抗スイッチング動作は、運転サイクルの結果としてのヒステリシスによって表示されるように、安定した不揮発性バイポーラスイッチング特性に相当し、同一のやり方で繰り返し行われることができる。
【0063】
本発明者らは、単層MIM素子10の平均オフ/オンスイッチング比が102~103の範囲であることを発見した。
【0064】
任意の一つの特定の理論に縛られることを望まないものの、スタックされたMIM素子の遷移金属酸化物層のバイポーラスイッチング動作は、一般的に、局所的なフィラメント経路を通じた不均質な伝導機構に由来するものと考えられる。
【0065】
単層MIM素子10の場合、酸素欠損の結果としてのa-STOxスイッチング層50の制御された欠陥に富む構造により、これは、十分に高いバイアス電圧が第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に印加されるとき、導電性フィラメント経路(図示せず)が単層MIM素子10の下部プラチナ電極30とチタンカソード層40との間に形成されることを許容する。一旦導電性フィラメント経路が形成されると、それは、望ましいメモリスタの特性を提供するために、単層MIM素子10の構造にわたって印加された好適な電圧によって再設定または設定されることができる。
【0066】
[二層素子]
図2(a)に示すように、本発明のもう一つの好ましい実施形態によって作製された代表的な二層メモリスタ素子100の模式断面図が提供される。
【0067】
二層MIM素子100は、
図2(a)に示すように、チタン
カソード層40と酸素欠損a-STO
xスイッチング層50との間に実質的に配置された、式a-SrTiO
3(以下、短縮表記形態でa-STOと呼ぶ)で表されるチタン酸ストロンチウムの追加のアモルファス金属酸化物層60があるものの、先に記載した単層MIM素子10を作り上げる同一のまたは類似の構成要素を含む。
【0068】
先に記載した単層MIM素子10を製造する方法を参照して、この方法の工程3)の前に、二層MIM素子100の製造は、化学量論的SrTiO3セラミックターゲットを使用するAr/O2スパッタリングガス混合物中で<10-7Torrのベース圧力で室温でのRFマグネトロンスパッタリングを使用してシャドウマスクを通してスパッタリングをすることによって、酸素欠損a-STOxスイッチング層50上にa-STOスイッチング層60を堆積する追加の工程、工程3a)を伴う。
【0069】
酸素欠損スイッチング層(a-STOx)50が0%酸素分圧で合成され、3~4%の酸素欠損含有率を有する一方で、化学量論的(a-STO)スイッチング層60が5%分圧で合成される二層MIM素子100の場合に良好な結果が得られた。本発明者らは、この組み合わせが抵抗スイッチング素子用途に対して最も適していることを発見した。
【0070】
二層MIM素子100のチタンカソード層40が単層MIM素子10と同一のまたは類似の原理によって機能することが当業者によって理解される。
【0071】
一つの実施形態では、二層MIM素子100の酸素欠損a-STOxスイッチング層50およびa-STOスイッチング層60の各々は、およそ15nm~およそ40nmの範囲内、より好ましくは、およそ15nm~およそ30nmの範囲内、より一層好ましくは、およそ15nm~およそ25nmの範囲内にある厚さを有する。
【0072】
各々が20nmの厚さを有する第一のプラチナ電極20および第二のプラチナ電極30と、5nmの厚さLTを有するチタンカソード層40と、20nmの厚さL2を有するa-STOスイッチング層60と、20nmの厚さL1を有する酸素欠損a-STOxスイッチング層50とを含む二層MIM素子100の場合に良好な結果が得られた。
【0073】
図2(b)を参照して、バイアス電圧が二層MIM素子100の第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に印加されるときの、先に述べた寸法を有する二層MIM素子100の電流-電圧関係を図示するグラフが示される。
【0074】
バイアス電圧が印加されない
図2(b)の原点においては、二層MIM素子100がオフ状態に留まることがわかる。しかし、上部プラチナ電極20からバイアスしたバイアス電圧が二層MIM素子100におよそ0Vからおよそ-3Vまで印加されると、二層MIM素子100は、およそ-1.8Vの電圧で電流がおよそ-5μAの限界に達するまで高抵抗の経路(経路1)を経験する。この時点で、二層MIM素子100は、低抵抗状態に相当する-2.5Vに電圧が達するまで電流がおよそ-70μAに上昇する、オン状態にスイッチする。続いて電圧がおよそ0Vからおよそ+4Vまで印加されると、電流は、低下し始め、二層MIM素子100は、低抵抗の経路(経路2に沿う)を経験する。電流および電圧が原点を通過して経路3に沿うにつれ、電流は、およそ+3.8Vの電圧でおよそ+85μAに上昇する。この時点で、二層MIM素子100は、オフ状態にスイッチする。バイアス電圧がおよそ-0Vまで下げられると、二層MIM素子100が高抵抗の経路(経路4)を経験するにつれ、電流がゼロまで減少するため、オフ状態は、維持される。スイッチング閾値に達する前の低圧範囲におけるバイアス電圧の印加は、スイッチング状態を乱すこともなく、素子が読取操作のために安定していることができる。
【0075】
本発明者らは、二層MIM素子100の順方向バイポーラ抵抗スイッチングを達成するための代表的な電圧範囲がおおよそ-1.5V~+3Vであることを発見した。
【0076】
したがって、単層MIM素子10(
図1(b)を参照されたい)の場合のように、上部プラチナ電極30からバイアスした電圧が第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に負の極性で印加されると、二層MIM素子100は、高抵抗状態から低抵抗状態にスイッチする。他方で、ここでもまた上部プラチナ電極30からバイアスした電圧が正の極性で印加されると、二層MIM素子100は、低抵抗状態から高抵抗状態にスイッチする。このバイポーラ抵抗スイッチング動作は、運転サイクルの結果としてのヒステリシスによって表示されるように、安定した不揮発性バイポーラスイッチング特性に相当し、同一のやり方で繰り返し行われることができる。スイッチング閾値に達する前の低圧範囲におけるバイアス電圧の印加は、スイッチング状態を乱すこともなく、素子が読取操作のために安定していることができる。
【0077】
本発明者らは、追加のa-STOスイッチング層60の導入がどちらか一方のスイッチング体制(低または高抵抗)で二層MIM素子100の全体的な伝導をさらに限定する一方で、二層MIM素子100の自由な形成が保たれることを発見した。これは、より低いエネルギー必要量での抵抗スイッチング操作を許容することができる。
【0078】
先に記載した単層MIM素子10の場合のように、本発明者らは、二層MIM素子100の個別の層の各々の厚さを変動させることによって、メモリスタの特性を微調整することが可能であることを発見した。実際に、本発明者らは、最大103までのスイッチング比が二層MIM素子100において達成可能であることを発見した。
【0079】
二層MIM素子100のもう一つの形態は、相補型抵抗スイッチングおよびスイッチング極性の反転を達成する可能性である。
【0080】
相補型抵抗スイッチング(CRS)の場合、具体的には
図2(c)を参照して、バイアス電圧が二層MIM素子100の第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に印加されるときの、先に述べた寸法を有する二層層MIM素子100の電流-電圧関係を図示するグラフが示される。
【0081】
本発明者らは、一つの例では二層MIM素子100のフルレンジCRS型スイッチングを達成するための代表的な電圧範囲がおおよそ-3V~+3Vであることを発見した。
【0082】
したがって、
図2(c)のグラフが明らかにするように、二層MIM素子100の電圧を上昇させることによって、それは、単セルCRS素子として稼働することができる。
図2(c)では、V
NTH1は第一の状態またはオン状態スイッチング領域の開始を表示し、V
PTH1は第二の状態またはオフ状態スイッチング領域の開始(または反対)を表示する。逆に、V
NTH2は第一の状態またはオン状態スイッチング領域の終了を表示し、V
PTH2は第二の状態またはオフ状態スイッチング領域の終了(または反対)を表示する。
【0083】
二層MIM素子100のスイッチング極性の反転の場合、具体的には
図2(d)を参照して、(上部プラチナ電極30からバイアスした)バイアス電圧が二層MIM素子100の第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に印加されるときの、先に述べた寸法を有する二層層MIM素子100の電流-電圧関係を図示するグラフが示される。反転は、V
PTH1と等しい正の極性でまたはV
NTH1と等しい負の極性でバイアスを印加することによって達成されることができる。これら二つの閾値は、スイッチング極性を
図2(b)から
図2(d)へおよび反対に入れ替えるために使用されることができる。
【0084】
バイアス電圧が印加されない
図2(d)の原点においては、二層MIM素子100がオフ状態に留まることがわかる。しかし、下部プラチナ電極20からバイアスしたバイアス電圧が二層MIM素子100におよそ0Vからおよそ+3Vまで印加されると、二層MIM素子100は、およそ+1.7Vの電圧まで高抵抗の経路(経路1)を経験する。この時点で、二層MIM素子100は、電圧が+2.2Vに達するまで電流が上昇し始め、低抵抗状態に相当するおよそ+50μAの電流を結果としてもたらす、オン状態にスイッチする。続いて電圧がおよそ+3Vからおよそ-5Vまで印加されると、電流は、低下し始め、二層MIM素子100は、およそ-3.5Vの電圧で電流がおよそ-85μAに達するまで低抵抗の経路(経路2に沿い、原点を通過し、経路3に沿う)を経験する。この時点で、二層MIM素子100は、オフ状態にスイッチする。バイアス電圧がここでもまたおよそ+3Vに上昇すると、二層MIM素子100が高抵抗の経路(経路4)を経験するにつれ、電流はゼロまで減少する。反転は、V
PTH1と等しい正の極性でまたはV
NTH1と等しい負の極性でバイアスを印加することによって達成されることができる。これら二つの閾値は、スイッチング極性を
図2(b)から
図2(d)へおよび反対に入れ替えるために使用されることができる。
【0085】
本発明者らは、二層MIM素子100の逆方向バイポーラ抵抗スイッチングのための代表的な電圧範囲がおおよそ-3V~+1.5Vであることを発見した。
【0086】
したがって、上部プラチナ電極30からバイアスした電圧が第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に正の極性で印加されると、二層MIM素子100は、低抵抗状態から高抵抗状態にスイッチする。他方で、ここでもまた上部プラチナ電極30からバイアスした電圧が負の極性で印加されると、二層MIM素子100は、高抵抗状態から低抵抗状態にスイッチする。このバイポーラ抵抗スイッチング動作は、運転サイクルの結果としてのヒステリシスによって表示されるように、安定した不揮発性バイポーラスイッチング特性に相当し、同一のやり方で繰り返し行われる。スイッチング閾値に達する前の低圧範囲におけるバイアス電圧の印加は、スイッチング状態を乱すこともなく、素子が読取操作のために安定していることができる。
【0087】
要するに、本発明者らは同一の動作を使用して、二層MIM素子100を逆の極性でスイッチングするために利用することができることを発見した。
【0088】
ここでもまた、任意の一つの特定の理論に縛られることを望まないものの、本発明者らは、二層MIM素子100の二つの酸化物スイッチング層の一つがオンにスイッチされると、電流は、他方の酸化物スイッチング層をオフにスイッチすることを暗示する、二層MIM素子100で認められた相補型抵抗スイッチング(CRS)動作がa-STOスイッチング層60および酸素欠損a-STOxスイッチング層50の電荷分布および極性の反転を伴うものと考える。これは、非連続的なやり方で相互に接続された二つの個別の単層MIM素子(図示せず)を使用する従来型の手法を採用して達成された結果と全く対照的である。
【0089】
他方で、一旦二つの酸化物スイッチング層の一つをオンにスイッチングするための閾値に達し、二層MIM素子100の第一のプラチナ電極20と第二のプラチナ電極30との間に印加された電圧スイープが中止される場合(パルスバイアスについても同様に、電圧パルスがおおよそ第一の閾値電圧である場合)、酸化物スイッチング層(または界面)は、二層MIM素子100の全体的な電気的動作をとり、単層MIM素子10の場合のように、それは、バイポーラスイッチとして動作する。
【0090】
両方の極性に閾値電圧がある
図2(c)のグラフに示すように、閾値電圧の極性が変えられる場合、バイポーラ動作の極性も変えられる。これは、二層MIM素子100を三つの別個のモードで稼働させることが可能であることを意味する。
【0091】
[効果]
本発明の方法によって製造された単層MIM素子10および二層MIM素子100は、従来型のSTOに基づくメモリスタ素子を上回る、多数の別個の効果を提供する。
【0092】
例えば、単層MIM素子10および二層MIM素子100は、室温でポストアニーリング工程を必要とすることなく製造されることができ、それにより、STOに基づくメモリスタ素子を製造するための従来型の手法に関連する高い処理温度を排除する。
【0093】
加えて、従来型のSTOに基づくメモリスタ素子と違い、先に記載した単層MIM素子10および二層MIM素子100は、従来型のSiおよびSiO2基板上の相補型金属-酸化物半導体(CMOS)互換性プロセスを通じて製造されることができる。
【0094】
単に単層MIM素子10の酸素欠損a-STOxスイッチング層50の厚さならびに二層MIM素子100の酸素欠損a-STOxスイッチング層50およびa-STOスイッチング層60の一つまたは両方の厚さを変えることによって、単層MIM素子10および二層MIM素子100のスイッチングエネルギーおよび比を微調整することが可能である。
【0095】
二層MIM素子100は、三つの別個のモード:(i)順方向バイポーラ抵抗スイッチング動作、(ii)逆方向バイポーラ抵抗スイッチング動作;および(iii)相補型抵抗スイッチング(CRS)動作を稼働させることができる。
【0096】
[他の実施形態]
本発明が先に記載した実施形態に限定されず、他の実施形態を包含することができることがわかる。
【0097】
別の実施形態では、単層MIM素子10の酸素欠損a-STOxスイッチング層50または二層MIM素子100の酸素欠損a-STOxスイッチング層50およびa-STOスイッチング層60の一つもしくは両方が単層MIM素子10および二層MIM素子100のメモリスタの性能のエネルギー必要量、安定性および可制御性をさらに改善するために、特定のドーパント元素のドーピング原子を含むことができることが理解される。例として、ドーピング原子は、クロムおよびニオブからなる群より選択されることができる。
【0098】
一つの実施形態では、単層MIM素子10の酸素欠損a-STOxスイッチング層50のニオブに対するチタンの比は、およそ0.02~およそ0.05である。
【0099】
最後に、本発明の本質および範囲を逸することなく、様々な改変、変形および/または追加を前に記載された部分の構築および配置に導入することができることが理解される。