(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】物体の距離と速度を決定する方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20220208BHJP
G01S 13/58 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/58 200
(21)【出願番号】P 2019537384
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(86)【国際出願番号】 EP2018050858
(87)【国際公開番号】W WO2018166668
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-01-31
(31)【優先権主張番号】102017105783.8
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501476454
【氏名又は名称】エス・エム・エス・スマート・マイクロウェーブ・センサーズ・ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】In den Waashainen 1,38108 Braunschweig,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】メンデ、ラルフ
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517104(JP,A)
【文献】特開2000-235072(JP,A)
【文献】特開平07-043453(JP,A)
【文献】特表2009-541724(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0146844(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016224945(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 -13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定場所に対して相対的な物体の距離と半径方向速度を決定する方法であって、前記方法は次の各ステップを有し、
a)第1の周波数ランプ波の形態のレーダ放射である第1の送信信号が発信され、
b)第2の周波数ランプ波の形態のレーダ放射である第2の送信信号が発信され、
前記第1の周波数ランプ波および前記第2の周波数ランプ波は周波数オフセットdfを有する平行な周波数ランプ波であり、
c)物体で反射された前記第1の送信信号からの受信信号および前記第2の送信信号からの受信信号が受信され、
d)
前記第1の送信信号からの前記受信信号と、前記第2の送信信号からの前記受信信号と、前記第1の送信信号とが混合信号をなすように混合され、又は前記第1の送信信号からの前記受信信号と、前記第2の送信信号からの前記受信信号と、前記第2の送信信号とが混合信号をなすように混合され、
e)前記混合信号からレンジドップラーマトリクスが作成され、
f)
前記レンジドップラーマトリクスに基づいて、物体の半径方向速度に由来する2つのドップラー周波数が検知され、
g)前記ドップラー周波数及び/又は
前記混合信号の位相情報が評価され、それにより半径方向速度を決定するときの多義性が解消される、方法において、
前記第1の送信信号と前記第2の送信信号が同時に発信されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1および前記第2の周波数ランプ波は立下り周波数ランプ波であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記周波数オフセットdfはf/kの整数倍であり、ここでkはレンジFFTの長さであり、fはこれらの測定値が記録される走査周波数であることを特徴とする、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記整数倍は少なくとも5、好ましくは少なくとも7かつ多くとも20、好ましくは多くとも15であることを特徴とする、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の送信信号は第1の送信アンテナにより発信され、前記第2の送信信号は第2の送信アンテナにより発信されることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1の送信アンテナと第2の送信アンテナ
がそれぞれ交互に前記第1の送信信号と前記第2の送信信号を発信することを特徴とする、請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
同じ送信アンテナから前記第1の送信信号と前記第2の送信信号が発信されることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記受信信号は、複数の、好ましくは少なくとも4つの、特に好ましくは少なくとも8つの受信アンテナにより受信されることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第3および第4の送信信号が第3および第4の周波数ランプ波の形態で同時に発信され、前記第1および前記第2の送信信号と前記第3および前記第4の送信信号が交互に送信されることを特徴とする、請求項1から
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第3および前記第4の送信信号は平行な、好ましくは立下り周波数ランプ波であることを特徴とする、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか1項に記載の方法を実施する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定場所に対して相対的な物体の距離と半径方向速度を決定する方法に関し、本方法は次の各ステップを有する:
a)第1の周波数ランプ波の形態のレーダ放射である第1の送信信号が発信され、
b)第2の周波数ランプ波の形態のレーダ放射である第2の送信信号が発信され、第2の周波数ランプ波周波数は第1の周波数ランプ波と相違し、
c)物体で反射された第1および第2の送信信号である受信信号が受信され、
d)第1または第2の送信信号と受信信号が混合信号をなすように混合され、
e)混合信号からレンジドップラーマトリクスが作成され、
f)物体の半径方向速度に由来する2つのドップラー周波数が検知され、
g)ドップラー周波数および/または混合信号の位相情報が評価され、それにより半径方向速度を決定するときの多義性が解消される。
【0002】
さらに本発明は、このような種類の方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
第1の送信信号を信号Aとも呼び、第2の送信信号を信号Bとも呼ぶ。
【0004】
このような種類の方法は、たとえばドイツ特許出願公開第102012008350A1号明細書から公知である。
【0005】
測定場所にはレーダセンサと相応の受信器がある。適切に変調されたレーダ信号によって、この測定場所に対して相対的な物体の距離と半径方向速度を、1回の測定で両方とも決定することが知られている。その際に、異なる周波数ランプ波が第1および第2の送信信号の形態で互いに入れ子式に発信される。
【0006】
短い高速の同一のランプで送信信号を変調することは知られていた。たとえば長さ65msの周期時間中に、たとえば256個のこのような種類のランプを変調することができ、これらが従来式には上昇していく周波数をもって通過される。したがって、発信される信号はランプの開始時に、各々ランプの最後に最終周波数に到達するまで規定された勾配で上昇していくスタート周波数を有している。このようなたとえば256個のランプの各々が、たとえば254μsの長さを有する。そして各々のランプが512個の走査値で走査されるとき、このことは2.01MHzの走査周波数に相当する。
【0007】
そしてランプごとの第1の評価が第1の高速フーリエ変換(FFT)の形態で実行される。第2のFFTは1つランプから1つのランプにかけて、すなわち254μsの有効走査周期で行われ、これは3.94kHzの有効走査周波数に相当する。2.01MHzの走査周波数での第1のFFTを「レンジFFT」と呼ぶ。3.94kHzの走査周波数での第2のFFTを「ドップラーFFT」と呼ぶ。この例は、本来のランプの間のランプ戻り時間が無視されているという意味で理想化されたものである。
【0008】
3.94kHzのドップラー周波数範囲は、24.125GHzの搬送周波数で24.5m/sの一義的な速度測定範囲に相当する。ランプについての周波数偏移fswとして、すなわち最終周波数とスタート周波数の間の差異として、たとえば150MHzを想定することができる。
【0009】
物体の測定されるべき半径方向速度が、24.5m/sの一義的な測定範囲よりも低い限りにおいて、この速度を一義的に決定することができる。これより大きいたとえば40m/sの半径方向速度では、15.5m/sの速度が決定される。
【0010】
第1のFFT(レンジFFT)は各々のランプについて実行され、それにより、256個のランプの場合には第1のFFTの同じく256個の周波数スペクトルが存在するのに対して、第2のFFT(ドップラーFFT)は各々の距離値(「距離ゲート」)について実行されるのが好ましい。ただし、第2のFFTを選択された距離値についてのみ実行することも可能である。両方のFFTの結果を、レンジドップラーマトリクスに表すことができる。ドップラーFFTの比較的小さい一義性範囲を拡大するために、ドイツ特許出願公開第102012008350A1号明細書では、2つの相違する周波数ランプ波を交互に発信することが提案されている。これらの相違して構成される周波数ランプ波を別々に変更可能である。相違する周波数ランプ波が交互に発信されるので、測定周期中にそれぞれ同じ周波数ランプ波の数が、同一のランプの発信に比べてそれぞれ半分だけ低減され、それによってドップラーFFTについての有効走査周波数も低減され、それに伴って一義性範囲も縮小する。しかし、決定されるべきドップラー周波数は搬送周波数に依存し、およびこれに伴って発信される周波数ランプ波の種類に依存するので、このようにして2つの位相情報を含む2つのドップラー周波数を得ることができ、これらを組み合わせて、ドップラーFFTの一義性範囲を大幅に拡大するために利用することができる。
【0011】
欠点となるのは、発信されるそれぞれ個々のランプ種類についてドップラーFFTの一義性範囲が縮小し、さらには、1つのランプ種類の個々のランプの少ない個数に基づいて信号対雑音比も低下し、それに伴って測定値の品質が劣化することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】ドイツ特許出願公開第102012008350A1号明細書
【発明の概要】
【0013】
したがって本発明の課題は、ドップラーFFTの一義性範囲が拡大されると同時に、信号対雑音比が改善されるように、当分野に属する方法を改良することにある。
【0014】
本発明は、第1の送信信号と第2の送信信号が同時に発信されることを特徴とする、請求項1のプレアンブルに記載の方法によって、課せられた課題を解決する。
【0015】
従来技術に基づく方法では、両方の周波数ランプ波が常に交互に送信されるのに対して、本発明では両方の周波数ランプ波が同時に送信され、それにより、1回の測定周期中に発信されるランプの数が2倍になる。両方の送信信号が同時に発信されるので、これら両方が検知されるべき物体に反射され、それにより、受信信号も2つの個別信号で構成される。それにもかかわらず受信信号は、混合信号を得るために、発信される送信信号のうちの一方とのみ混合される。そしてこの混合信号が、従来技術と同じく二次元FFTにかけられ、それによりレンジドップラーマトリクス(Range-Doppler matrix)が作成される。しかし本発明の方法では混合信号が、発信される2つの送信信号に対応して2つの成分を有する受信信号から生成されるので、二次元FFTでは、検知されるべき各々の物体について、発信される両方の送信信号およびこれに伴って両方の受信される受信信号のそれぞれ相違する周波数から生じる2つの周波数ピークが生じる。発信される両方の送信信号の周波数オフセットが既知であればこれらを容易に利用して、測定場所からの物体の距離と一義的なドップラー周波数に関する情報を得ることができる。
【0016】
さらに従来技術と同じく、両方の送信信号のそれぞれ相違する搬送周波数に基づいて同じく若干相違する2つのドップラー周波数が決定される。これらのドップラー周波数および/または混合信号からの位相情報が、ドップラーFFTの多義性を取り除くために通常の仕方で利用される。本発明による方法の利点は、従来技術と比較したとき、ドップラーFFTの有効走査レートを2倍にすることができ、そのようにして、一方ではそれぞれ個々の決定されたドップラー周波数について一義性範囲を拡大することができ、他方では、各々のドップラー周波数について多数の測定値を利用できるので、信号対雑音比も改善することができるという点にある。
【0017】
依然としてただ1つのレンジドップラーマトリクスだけを作成すればよいので、計算コストは従来技術に基づく方法と比較してほとんど増大しない。
【0018】
周波数ランプ波は立下り周波数ランプ波であるのが好ましい。このことは、各々の周波数ランプ波が、周波数ランプ波の最大の周波数である最終周波数で始まり、周波数ランプ波の最小の周波数であるスタート周波数で終わることを意味する。当然ながら、個々の周波数ランプ波を立上り周波数ランプ波として利用し、最小の周波数で始まって最大の周波数まで送信信号を調整することも可能である。
【0019】
好ましい実施形態では、第1の周波数ランプ波と第2の周波数ランプ波は周波数オフセットdfを有する平行な周波数ランプ波である。このことは、各々の時点で発信される両方の送信信号の周波数が差異dfを有することを意味する。一定の周波数オフセットは、実行されるべき計算を簡易化する。第1のレンジFFTの後の両方のピークの周波数オフセットは、一定かつ既知である限りにおいて容易に算出することができる周波数オフセットdfに関する情報を含んでいる。
【0020】
好ましい実施形態では、周波数オフセットdfはf/kの整数倍であり、ここでkはレンジFFTの長さであり、fはこれらの測定値が記録される走査周波数である。好ましくは整数倍は少なくとも5、好ましくは少なくとも7かつ多くとも20、好ましくは多くとも15である。
【0021】
レンジドップラーマトリクスの計算にあたっては、まずレンジFFTが計算される。たとえば512個の測定値(サンプル)がランプごとに走査される場合、ランプごとに長さ512のレンジFFTが計算されることになる。次いで、ドップラーFFTの計算がレンジゲートごとに行われる。特にシングルチャネルの走査の場合、レンジFFTの比較的狭い一義性範囲に基づき、通常、ドップラーFFTはすべてのレンジゲートについて計算されるのではない。しばしば半分よりも若干少ない、たとえば可能な数の0.4倍が計算される。したがってこのケースでは、ドップラーFFTは可能な512個のレンジゲート(距離ゲート)のうち204個についてのみ計算される。
【0022】
そして、これらの距離ゲートの各々がf/kの周波数に相当し、ここでkはすでに述べたようにレンジFFTの長さであり、fはこれらの測定値が記録または走査される走査周波数である。
【0023】
10MHzの走査周波数fと512の数kの場合、このような種類のレンジゲートは19.53kHzの周波数または距離ゲート周波数に相当する。したがって、この周波数の整数倍5は97.65kHzの周波数オフセットdfに相当し、整数倍15はdf=292.95kHzの周波数オフセットに相当する。別の走査周波数またはランプごとの測定値の別の数は、当然ながら別の周波数をもたらす。
【0024】
このように小さい周波数オフセットを適用することは、受信された受信信号と両方の送信信号のうちの1つとの混合による混合信号が、比較的小さい周波数範囲内に配置されるように作用する。ミキサの後でバンドパスフィルタが使用されてから、信号がさらに処理されるとき、このバンドパスフィルタは、全部の混合信号がバンドパスフィルタを通過することができ、そのようにして、両方の周波数ピークを検知できるようにするために、単一のレンジドップラーマトリクスを作成するだけでよいように選択できるのが好ましい。周波数オフセットdfが大きすぎると、このことは、混合信号も相応に大きく乖離した周波数成分を有し、これらが単一のバンドパスフィルタを場合により完全に通過できないという帰結を有する。
【0025】
好ましい実施形態では、第1の送信信号は第1の送信アンテナによって発信され、第2の送信信号は第2の送信アンテナによって発信される。
【0026】
その別案として、2つの送信アンテナが設けられるが、第1の送信信号または第2の送信信号のいずれもこれらに固定的に割り当てられるのではない。むしろこのケースでは、第1の送信アンテナと第2の送信アンテナがそれぞれ交互に第1の送信信号と第2の送信信号を送信するのが好ましい。
【0027】
この実施形態が特に好ましいのは、距離と半径方向速度に加えて、物体が存在している方向も判定しようとする場合である。そのために、それぞれ相違する送信信号を発信する複数の送信アンテナの使用によって改善することができる角解像度が有利である。
【0028】
その別案として、当然ながら、第1の送信信号と第2の送信信号が単一の送信アンテナから発信されることも可能である。このことが特に好ましいのは、角解像度の改善が必要ない場合である。このケースでは、装置コストを明らかに削減することができるからである。
【0029】
好ましい実施形態では、受信信号は複数の、好ましくは少なくとも4つの、特別に好ましくは少なくとも8つの受信アンテナによって受信される。異なる受信アンテナが空間的に互いに分離して配置され、好ましくは等間隔に配置されるので、送信アンテナから発信される送信信号が、物体により反射された後、異なる受信アンテナに到達するまでにそれぞれ若干異なる進行時間を有する。このような進行時間差から、および/またはそこから生じる位相差から、角度情報およびこれに伴って物体が存在している方向に関する情報を導き出すことができる。さらに、さまざまな物体を角度に関しても分離し、そのようにして判別することができる。受信チャネルが多く使われるほど、このような分離能力が改善される。それと同時に、それぞれ第1および第2の送信信号を発信するか、またはそれぞれ交互に第1および第2の送信信号を発する少なくとも2つの送信アンテナが使用されると、個々のアンテナの相互の巧みな選択と配置によって、物理的に存在する受信アンテナの実際の数よりも多いバーチャルなアンテナアレイを製作することができる。MIMO原理と呼ばれるこの方法は従来技術から知られており、これはMultiple Input Multiple Outputの略である。
【0030】
第1および第2の送信信号がそれぞれ相違する送信アンテナから発信され、引き続いて反射された受信信号がそれぞれ異なる複数の受信アンテナにより受信される、本発明に基づく方法の実施例は、本発明に基づいてもともと存在する改善された信号対雑音比とドップラーFFTのいっそう広い一義性範囲を可能にするだけでなく、さらに、非常に正確な角解像度、およびこれに伴って物体が存在している方向の非常に正確な決定も可能にする。
【0031】
本方法の好ましい実施形態では、第3のおよび第4の送信信号が第3および第4の周波数ランプ波の形態で同時に発信され、第1および第2の送信信号と第3および第4の送信信号が交互に送信される。全部で4つの相違する送信信号により、4つの相違するドップラー周波数をドップラーFFTによって判定することができ、これらのドップラー周波数および/または混合信号の位相情報から一義性範囲をさらに拡大することができる。第3および第4の送信信号が発信されるとき、これらの結果として生じる反射された受信信号が受信されて、第3の送信信号または第4の送信信号とのみ混合される。当然ながら、これらを第1または第2の送信信号と混合することもできる。それぞれ相違する4つの送信信号は、それぞれ相違する周波数オフセット値を有する平行な周波数ランプ波であるのが好ましい。当然ながら、4つの送信信号を同時に発信することもできる。周波数オフセット値が十分に小さく選択されれば、このような種類の送信信号から惹起される混合信号を、相応の受信信号が受信されて少なくとも1つの送信信号と混合されたときに、引き続き単一のバンドパスフィルタに通すことができ、それにより、このケースでは単一のレンジドップラーマトリクスしか作成、計算しなくてすむ。さらに第3および第4の送信信号は、さまざまな物体を分離し、そのようにして判別することができる、角度に関する分離能力を改善するために利用することもできる。
【0032】
好ましい実施形態では、第3および第4の送信信号は、好ましくは立下り周波数ランプ波である平行な周波数ランプ波である。当然ながら、これらが立上り周波数ランプ波として構成されていてもよい。
【0033】
さらに本方法の好ましい実施形態では、第1または第2の送信信号の一部が、送信アンテナから発信されることなく、それぞれ他の送信信号と混合される。こうして生じた混合信号からレンジドップラーマトリクスが算出されるとき、両方の送信信号の混合がもたらすピークは、その間隔がレンジFFTの方向で周波数オフセットに正確に相当する。ドップラー周波数が包含されていないからである。相応の混合信号の周波数および/または位相情報を、送信信号発生器の品質に関する情報と対照測定を得るために利用することができる。
【0034】
以下の図面を用いて、本発明の実施例について詳しく説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】従来技術に基づいて二次元FFTによりレンジドップラーマトリクスを形成するための曲線推移と模式的な評価信号である。
【
図3】レンジドップラーマトリクスでの結果の模式図である。
【
図4】本発明の実施例に基づく装置の回路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、レンジドップラーマトリクスをどのようにして計算できるかを模式的に示している。実線を含んでいる
図1の上側領域には、送信信号の周波数が時間の関数としてプロットされている。ランプ波の最小の周波数であるスタート周波数からランプ波の最大の周波数である最終周波数まで通過する、上昇していくランプを見ることができる。これに対して若干オフセットされた破線には、距離と速度が決定されるべき物体で反射された後に、本装置の受信装置により受信される相応の受信信号が示されている。
【0037】
この受信信号が送信信号と混合され、次いで2D-FFTにかけられて、レンジドップラーマトリクスを作成する。その際には、
図1に示すように、まず第1のFFT(レンジFFT)が実行される。これは各々のランプ波について実行され、それにより、たとえば
図1の上側領域に示す2L=256個の発信されるランプの場合、2L=256回のレンジFFTが実行されなければならない。
【0038】
ランプ波は連続して計測されるのではなく、たとえばk=512個の走査値で走査される。ランプ内部の特定の周波数値に相当するこれらの走査値の各々について、第2のFFT(ドップラーFFT)が実行される。その際には、着目する距離範囲に相当する距離値についてのみ第2のFFTを実行するのが有意義であり得る。
【0039】
その結果が、
図1の右下に示すレンジドップラーマトリクスであり、そこには、物体の距離に実質的に相当するうなり周波数と、物体の速度に由来するドップラー周波数とで、周波数ピークがプロットされている。このような方法は従来技術から公知である。
【0040】
図2は、本発明の実施例に基づく方法における周波数推移を示している。送信信号A(TransmitSignal A)および送信信号B(TransmitSignal B)およびそれに伴って第1の送信信号および第2の送信信号に相当する鎖線と実線を見ることができる。これらは平行に発信される。これは、本実施例では平行に延びる立下り周波数ランプ波である第1の送信信号と第2の送信信号である。第1の送信信号は、本実施例では低いほうの周波数を有する信号である。周波数ランプ波は終了周波数で始まり、スタート周波数まで降下していく。このときスタート周波数と呼ぶのは周波数ランプ波の最小の周波数であり、最終周波数と呼ぶのは周波数ランプ波の最大の周波数であり、ランプの進行が実際に当該周波数でスタートまたは終了しているか否かを問わない。ここでf
swは周波数偏移すなわち最終周波数とスタート周波数の間の差異を表す。
【0041】
第2の送信信号は、
図2では高いほうの周波数である。第2の周波数ランプ波は、周波数オフセットdfの分だけオフセットされた、第1の周波数ランプ波に対して平行にオフセットされたランプである。
【0042】
さまざまなランプ波が、
図2の下側領域に示す走査周波数と走査レートで走査される。
【0043】
破線と点線により、検知されるべき物体でのそれぞれの送信信号の反射に由来するそれぞれの受信信号が示されている。
【0044】
これらが送信信号のうちの1つと混合され、引き続き、レンジドップラーマトリクスを計算するためのすでに周知である評価にかけられると、
図3に示す結果がもたらされる。物体について2つのピークを有するレンジドップラーマトリクスを見ることができる。これら両方のピークは
図3のマトリクスの同じ列に位置しているので、これらは等しい、もしくは少なくともほぼ等しいドップラー周波数を有している。実際には、この両方のドップラー周波数は若干相違しているが、それは、異なる信号の搬送周波数が若干相違するからである。しかし、ドップラー周波数は検知されるべき物体の速度に由来しているので、このような相違は非常に小さく、レンジドップラーマトリクスには表示されていない。
【0045】
ただし、これら両方のピークはマトリクスの相違する行に含まれており、このことは本来、2つの相違する距離を示唆する。しかし両方のピークの間の間隔は、両方の送信信号の周波数オフセットdfに正確に相当している。この周波数オフセットは容易に逆計算することができ、それにより、測定点から物体までの実際の距離を決定することができる。
【0046】
さらに
図3のレンジドップラーマトリクスは、参照ピークとして表示されている別のピークを有している。これは、第1の送信信号が第2の送信信号と混合されたときに生じる。物体の距離のゆえに成立する進行時間差に由来する、両方の混合された信号の間の周波数差に相当するこのピークの行は、このケースでは周波数オフセットであるにすぎないので、ここでは簡単な対照可能性が与えられる。
【0047】
図4は、このような種類の方法を実施する装置の模式的な構造を示している。たとえばクオーツとして構成されていてよい参照源により参照信号が生成されて、これが2つのデジタル信号発生器に供給される。信号発生器は従来技術から知られているコンポーネントであるので、詳細な説明は割愛する。両方の信号発生器は送信信号Aと送信信号Bを生成する。この両者が送信アンテナ(「TXアンテナ」)へ送られて、同じアンテナにより発信される。別案として、これらを当然ながらそれぞれ異なる送信アンテナへ送ることもでき、これらの送信アンテナがそれぞれ相違する信号を発信する。このとき、両方のアンテナによって、それぞれ相違する信号の交互の発信が行われてもよい。
【0048】
発信された信号は、
図4には図示しない検知されるべき物体で反射されて、受信アンテナ(「RXアンテナ」)により捕捉される。「ミキサ」という用語が付されている混合器で、受信された受信信号が第1の送信信号と混合され、引き続きバンドパスフィルタ(BPF)に通されて評価部に供給される。別案として、受信信号を当然ながら第2の送信信号と混合することもできる。これに追加してカプラーが存在し、これによって第2の送信信号の一部が受信信号へ供給され、そのようにして同じく第1の送信信号と混合される。それにより、
図3のレンジドップラーマトリクスで表される参照ピークが生じる。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] 測定場所に対して相対的な物体の距離と半径方向速度を決定する方法であって、前記方法は次の各ステップを有し、
a)第1の周波数ランプ波の形態のレーダ放射である第1の送信信号が発信され、
b)第2の周波数ランプ波の形態のレーダ放射である第2の送信信号が発信され、前記第2の周波数ランプ波周波数は前記第1の周波数ランプ波と相違し、
c)物体で反射された前記第1の送信信号および前記第2の送信信号からの受信信号が受信され、
d)前記第1の送信信号または前記第2の送信信号と前記受信信号が混合信号をなすように混合され、
e)前記混合信号からレンジドップラーマトリクスが作成され、
f)物体の半径方向速度に由来する2つのドップラー周波数が検知され、
g)前記ドップラー周波数および/または混合信号の位相情報が評価され、それにより半径方向速度を決定するときの多義性が解消される、方法において、
前記第1の送信信号と前記第2の送信信号が同時に発信されることを特徴とする方法。
[2] 前記周波数ランプ波は立下り周波数ランプ波であることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3] 前記第1および前記第2の周波数ランプ波は周波数オフセットdfを有する平行な周波数ランプ波であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記周波数オフセットdfはf/kの整数倍であり、ここでkはレンジFFTの長さであり、fはこれらの測定値が記録される走査周波数であることを特徴とする、[3]に記載の方法。
[5] 前記整数倍は少なくとも5、好ましくは少なくとも7かつ多くとも20、好ましくは多くとも15であることを特徴とする、[4]に記載の方法。
[6] 前記第1の送信信号は第1の送信アンテナにより発信され、前記第2の送信信号は第2の送信アンテナにより発信されることを特徴とする、[1]から[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 第1の送信アンテナと第2の送信アンテナはそれぞれ交互に前記第1の送信信号と前記第2の送信信号を発信することを特徴とする、[1]から[5]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 同じ送信アンテナの前記第1の送信信号と前記第2の送信信号が発信されることを特徴とする、[1]から[5]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 前記受信信号は複数の、好ましくは少なくとも4つの、特に好ましくは少なくとも8つの受信アンテナにより受信されることを特徴とする、[1]から[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 第3および第4の送信信号が第3および第4の周波数ランプ波の形態で同時に発信され、前記第1および前記第2の送信信号と前記第3および前記第4の送信信号が交互に送信されることを特徴とする、[1]から[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11] 前記第3および前記第4の送信信号は平行な、好ましくは立下り周波数ランプ波であることを特徴とする、[10]に記載の方法。
[12] [1]から[11]のいずれか1項に記載の方法を実施する装置。