(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】時計部品の装飾の方法、及び当該方法で得られる時計部品
(51)【国際特許分類】
G04B 19/06 20060101AFI20220208BHJP
G04B 45/00 20060101ALI20220208BHJP
G04B 19/10 20060101ALI20220208BHJP
B23K 26/354 20140101ALI20220208BHJP
【FI】
G04B19/06 G
G04B45/00 V
G04B19/10
B23K26/354
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016047814
(22)【出願日】2016-03-11
【審査請求日】2019-02-13
(32)【優先日】2015-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノアロ, アントニー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴェイラ, アレクサンドル
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-101271(JP,A)
【文献】国際公開第2013/135703(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0216926(US,A1)
【文献】特開2014-051041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/06
G04B 45/00
G04B 19/10
B23K 26/354
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計部品の表面に、フェムト秒レーザを用いて深彫り
を施し、当該深彫りを第1の装飾
とする深彫りステップ(E10)と、
前記深彫りステップ(E10)に続いて、
前記第1の装飾を施した前記表面に前記第1の装飾とは異なる第2の装飾を
加える表面構造形成ステップ(E20)と、
を含む、時計部品の装飾方法であって、
前記第1の装飾および前記第2の装
飾は、
前記表面に対して少なくとも互いに部分的に重なり合
う態様で施され、
前記第2の装飾は、前記第1の装飾による
前記深彫りの深さより浅い深さの装飾である、
時計部品の装飾方法。
【請求項2】
前記深彫りステップ(E10)は、4μm以上の平均深さの彫刻を生成する、
請求項1に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項3】
前記深彫りステップ(E10)は、8μm以上の平均深さの彫刻を生成する、
請求項1に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項4】
前記深彫りステップ(E10)は、4μmから25μmの間の平均深さの彫刻を生成する、
請求項1に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項5】
前記表面構造形成ステップ(E20)は、前記第2の装飾として、サンバースト仕上げ、梨地処理、ソフトサンドブラスト、サンドブラスト、微細スタンピング、環状シボ加工、スポッティング、スネイル仕上げ、ジュネーブ波形の形成、の少なくともいずれか1つを含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項6】
前記表面構造形成ステップ(E20)は、1μm以下の深さの浮き彫りを形成する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項7】
前記表面構造形成ステップ(E20)は、0.3μm以下の深さの浮き彫りを形成する、請求項1から5のいずれか一項に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項8】
前記表面構造形成ステップ(E20)は、0.1μm以下の深さの浮き彫りを形成する、請求項1から5のいずれか一項に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項9】
前記表面構造形成ステップ(E20)の後に、1以上の電気めっき層の堆積、1以上のPVD(物理蒸着)層の堆積、1以上のALD(原子層蒸着)層の堆積、形成すべき前記時計部品の知覚可能な色を変更できる被膜を形成可能とする技術による堆積、の少なくともいずれか1つによる着色ステップ(E5)を含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項10】
前記深彫りステップ(E10)が施す前記第1の装飾は、
平行または実質的に平行な複数の線、及びまたは、
前記装飾すべき表面の様々な区域では平行または実質的に平行な複数の線、2つの異なる区域間では平行ではない複数の線、2つの隣接する区域では垂直な複数の線、であることを含む、
請求項1から9のいずれか一項に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項11】
前記表面構造形成ステップ(E20)は、前記深彫りステップ(E10)で形成される前記第1の装飾を横断する平行痕を前記第2の装飾として形成する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の時計部品の装飾方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の装飾方法で得られる時計部品であって、
前記フェムト秒レーザで得られる少なくとも1つの前記深彫りと、少なくとも部分的に重なる表面構造と、を含む、
時計部品。
【請求項13】
前記時計部品は、文字盤、ベゼル、エボーシュ、香箱、香箱蓋、角穴車を含むムーブメント部品、の少なくともいずれか1つである、
請求項12に記載の時計部品。
【請求項14】
前記時計部品は、
金属製、ジルコニアまたはアルミナを含むセラミック製、シリコン製、ガラス製、サファイア製、真珠層製、鉱物素材製、のいずれかである、
請求項
12または13に記載の時計部品。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に記載の時計部品を含む、腕時計を含む小型時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計部品、特に小型時計部品の装飾方法に関する。本発明はまた、当該方法の実施により得られる時計部品に関する。最後に、本発明は、当該時計部品を含む時計、特に小型時計、例えば腕時計に関する。
【0002】
例えば文字盤などの時計部品上に装飾を形成することが望まれるとき、時計部品上に構造を与えるために、従来では例えばフライス加工、ブラシ加工、またはダイヤモンド研削といった方法により、表面を加工することが知られている。このような従来技術の取り組み方は、選択した表面仕上げを形成するために、装飾すべき表面を機械加工する単一のステップからなる。当該ステップは、例えばラッカー塗り、電気めっき、又はPVD堆積ステップなどの、色の追加を可能とする他のステップと組み合わせることができる。
【0003】
現存の装飾策は、十分ではない。特に、時計への適用では、当該装飾方法に高い要求が課せられることに留意しなければならない。得られる審美的効果は非常に重要であり、研削や着色には、欠陥やバリがあってはならない。このような方法で装飾された部品は、衝撃を受け、時には過酷な環境(海水、汗、等)にもさらされる外部要素を構成することも多いため、高い堅牢性が要求される。最後に、現存の解決策で形成可能な装飾の選択は、いくつかの周知の長年にわたる解決策に限られており、独創的な装飾案を提供することができない。
【0004】
同時に、これらの装飾方法を補完する解決策も存在するが、その目的は装飾ではない。例えば、特許文献1は、金属基板を着色し、当該基板に印をつけるための、フェムト秒レーザの使用を説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、魅力的であり精密であり経時的に耐久性がある新規の審美性を、簡単に且つ高い多様性で得ることのできる、時計部品、特に文字盤を装飾する方法を提供することである。
【0007】
この目的において、装飾方法は、
時計部品の装飾すべき表面を、フェムト秒レーザを用いて深彫りするステップと、
前記時計部品の前記装飾すべき表面を、表面構造形成するステップと、
を含む、時計部品の装飾方法であって、
前記2つの装飾は、少なくとも互いに部分的に重なり合う。
【0008】
本発明に係る装飾方法、時計部品、及び時計は、各請求項により定義される。
【0009】
本発明の内容、特徴、及び利点は、添付の図面を参照した、特定の実施形態の限定的でない説明において、詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る装飾方法のステップを模式的に示す図である。
【
図2】
図2は本発明の実施形態に係る深彫り第1ステップ後に得られる時計部品の、上面図を示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る深彫り第1ステップ後に得られる時計部品の、表面を横切る平面の断面形状を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る深彫りステップの変形例後に得られる時計部品の上面を、模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る深彫りステップの変形例後に得られる時計部品の、表面を横切る平面の断面形状を示す。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る深彫り第1ステップ後に得られる、時計部品の一部の上面を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る深彫り第1ステップとその後の表面構造形成第2ステップ後に得られる、同一の時計部品の上面を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る表面構造形成第2ステップのみの後に得られる、同一の時計部品の上面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の装飾方法の実施方法によれば、金属または非金属の塊から製造される時計部品を装飾するために、フェムト秒レーザ機械加工が与える可能性を、第2装飾技術と共に用いている。更に詳しくは、装飾方法は、フェムト秒レーザを用いて行われる深彫りと、単に「表面構造形成」と称する、より一層表面的な研削または機械加工とを組み合わせる。これらの作業の要件と複雑さにより、時計部品上に特定の装飾を形成するために異なる性質の2つの機械加工作業を組み合わせることは非現実的と考えられていた。特に、従来の彫刻は、バリを生じることから再加工または研磨による除去が必要となり、これは彫刻の規則正しさに対して審美上の欠陥を生じさせる可能性がある。こうした先入観は実施例により克服される。以下の組み合わせステップにより、予期外の装飾効果が得られることを説明する。当該アプローチは更に、時計部品の装飾方法の数を大きく増加する効果を有する。
【0012】
このため、本発明の実施形態は、時計部品の表面に設けられる凹部から得られる浮き彫りであって、2つの異なる性質を有し、それぞれ装飾方法の2つの別個且つ補完的ステップを適用することで得られる浮き彫りによる装飾の製造に基づくものである。
【0013】
本発明を、文字盤の装飾に関連して、非限定的に説明する。本発明は当然、他の時計部品、腕時計の時計部品、または例えば非限定的な例示でベゼル、エボーシュ、及び特に香箱または香箱蓋、または角穴車といったムーブメント部品などの、時計部品を装飾するために用いることができる。
【0014】
当該実施形態に係る装飾方法は、特に、表面の準備ステップE1、梨地処理、黒鏡面仕上げ、またはソフトサンドブラストステップE2、及び保護層の堆積ステップE3(これらステップは、従来文字盤分野で適用されており、以下に説明する)の後、フェムト秒レーザを用いた深彫り第1ステップE10を含む。当該レーザは、文字盤の装飾すべき表面に深彫りがなされるように使用され、その設定は、最終的に求める美観に依存する。
【0015】
フェムト秒レーザは、超短パルスを生じる特定のタイプのレーザであり、そのパルス幅は約数フェムト秒から数百フェムト秒(1fs=1フェムト秒=10-15秒)である。このため、真鍮製の文字盤を装飾するためには、フェムト秒レーザは、例えば1030nmの波長で20μJのエネルギーであって、パルス繰返し数が500kHzでパルス幅が270fsであるパルスを生成する。当然、こうした数値は例示であり、特定の範囲からなる他の数値を用いることができる。レーザの周波数は、例えば300nmから1100nmの間を含み、例えば典型的にはサファイアで343nmであって、シリコンでは515nmである。パルス幅は、200fsから500fsの間で変更することができる。
【0016】
ビームの形成のために光学システムが用いられる。光学システムは、提供するエネルギー、ビームの偏光、その大きさを調整するために、様々な部品から構成されている。ビームは、ビームを偏向するための電子工学的に制御された光学デバイスにより対象(時計部品の表面)上を走査する。制御ソフトウェアにより、望ましいパターンの作成を可能とする。例えば、本実施形態では、それぞれ72mm及び121mmの直径の領域(フィールド)の機械加工を可能とするため、100mm及び160mmの焦点距離を有するFθレンズを用いた。焦点距離60mmのFθレンズを用いた場合、領域は直径45mmに減少する。走査ヘッドは、デジタル制御基板と関連付けたソフトウェアパッケージにより制御され、ビームの動きをレーザの発射に同期化させることを可能にする。当該アセンブリは、特に、彫刻すべき表面上のレーザビームの動きのスピード、レーザスキャニング手順及び特定の区域上の通過数を変更することを可能にする。微小位置決めシステムは、5軸回りに、特に並進3軸及び回転2軸に沿って制御される。
【0017】
特許文献1記載の解決方法と異なり、ここではフェムト秒レーザは、彫刻の底を着色することなく、装飾的彫刻を形成するために用いられることを注記する。彫刻は、あらゆるデザインを形成するため、または文字や数字を形成するため、いかなる形状であってもよい。
【0018】
得られる彫刻の深さは、往復の数、つまり走査パターンの反復数により調整でき、往復の数が多いほど、凹部が深くなる。いずれにせよ、この深彫りステップE10の結果除去される素材により、平均深さが4μm以上、好ましくは4μm以上25μm以下、さらには平均深さが8μm以上の凹部を形成する。それ故、「深彫り」の表現は、平均深さが4μm以上の彫刻を意味すると理解される。
【0019】
本発明は、選択した経路に沿ってビームを動かすことであらゆる曲線、特に平行または実質的に平行の線を形成できる彫刻ステップによって生成されたデザインには関連しない。例として、装飾すべき表面は、様々な区域に分割でき、各区域は互いに平行な深彫りを含み、2つの異なる区域の彫刻は必ずしも平行でなくても良く、2つの隣接する区域の彫刻は例えば互いに垂直である。
【0020】
図2から
図5は、以下のパラメータによる第1深彫りステップ によって得られる彫刻を例として示す。
焦点位置におけるフェムト秒レーザビームの直径:20から40μm。
2つの彫刻間の横方向距離間隔:140から280μm。
彫刻深さ:5、10、または20μm。
重なりの横方向及び縦方向度合は、50%から99%の間であり、この例における彫刻の場合はそれぞれ68%と84%である。出力密度は、素材のアブレーション閾値以上でなくてはならず、典型的には約12.7×10
6 MW/cm
2である。
【0021】
図2、3、4及び5はそれぞれ、2つの異なるタイプの走査により得られる2つの例示的形状を示す。特に、
図2及び
図3は、「線」形状と称される、均一の形状を示し、得られた彫刻10は(特に装飾の底11の形状のように)細く均一であり、深さは実質的に10μmに等しい。
【0022】
図4及び
図5は、レーザビームの複数の通過であり、横方向にシフトする通過により特定の彫刻を形成する、「充填」形状と称される、均一性が低い輪郭を示す。複数の通過により、より幅広の溝の形状であって、均一性の低い輪郭を有する彫刻底11’を有する彫刻10’の形成を可能とする。
【0023】
装飾方法は、(以下に説明する)可鍛性金属層を堆積するステップE4を含むことができる。装飾方法はまた、表面構造形成ステップE20と称されるさらなる表面処理ステップ を含み、当該構造形成により得られる構造は、彫刻ステップで形成される彫刻に少なくとも部分的に重なる。
【0024】
この表面構造形成ステップは、例えばブラシ及びまたは研磨ペーストにより文字盤の表面に浅い擦り傷を形成するサンバースト仕上げである、第二機械加工操作を含む。変形例として、当該ステップはソフトサンドブラスト及びまたはサンドブラスト及びまたは微細スタンピングを含むことができる。サンバースト仕上げの場合、以下に説明するように、例えば銀層に、無作為に位置された筋の細かな網が形成される。形成された筋は非常に微細であり、レーザで形成される溝よりも明らかに浅い深さを有する。第1ステップでフェムト秒レーザにより形成された彫刻が高品質であるため、第二機械加工操作の実行と、必要とされる高い審美的品質(欠陥が無く、バリが無い)の確保を可能とする。
【0025】
もちろん、当該表面構造形成ステップにおいて、文字盤が有するべき最終外観によっては、前述のサンバースト仕上げ、ソフトサンドブラスト、サンドブラスト及び微細スタンピング技術以外の技術の使用を考慮することも可能である。例として、当該表面処理で実施可能な他の技術は以下の通りである。
ソフトサンドブラストのように、非常に微細且つ浅いテクスチャが得られる、梨地処理及びブラシ加工。
表面に命を吹き込む同心円を形成する、環状シボ加工。
非常に滑らかな光沢を形成する、ダイヤモンド研削。
【0026】
最後に、表面構造形成は、制御可能だが潜在的には無作為に部品の表面を引っ掻くことで、浅い装飾を形成する。
【0027】
用いるツールは、例えば研磨剤で覆われたバッファまたはブラシである。当該表面構造形成ステップは、0.05から0.1μm間の表面粗さを形成し、このため平行痕の深さは0.1μm以下、または変形例として0.3μm以下、または1μm以下である。当該構造形成は、筋(または平行痕)を、上記の厚みに沿って形成し、その深さは可視できる深さであり、規則的且つ整理され、規則的な配向と、ある構成要素と他の構成要素で異なるディテールとを組み合わせる特に横編みの風合いを形成して、魅力的な視覚効果を創造する。
【0028】
表面構造形成は例えば、以下のような既知のデザインの形成を可能とする。
ブラシがけされた区域の帯のパターンを形成する、ジュネーブ波形(コート・ド・ジュネーブ)。幅、精密さ、角度、及び波の帯間の相対的距離を変更することができる。往復運動により、研磨剤またはブラシは、波を形成する直線または円形の平行な平行痕を表面に刻む。
非常に密集して、または一部重なる、同心円で形成される装飾である、スポッティング。スポッティングは、通常、受、底板、地板の凹部の底、及び文字盤の仕上げに用いられる。
同一の交差点を有する複数の線で形成され、これにより部品に日光のような外観を与える装飾である、上述のサンバースト仕上げ。この仕上げにおける放射線は、例えば、部品に対して反対方向に回転し、特定の中心点を通過する直線を得られるよう方向付けされるフライス盤を用いて形成される。
一般的には、角穴車、ロータ、香箱または香箱カバーに適用される、螺旋状の装飾であるスネイル仕上げ。この装飾は、部品の表面上で回転し、螺旋痕を得るよう方向付けされるフライス盤を用いて形成される。
【0029】
上述の通り、本方法の利点は、特に深彫りとサンバースト仕上げといった2種類の装飾を、高い審美的品質を達成しつつ、簡単に組み合わせることを可能にする。このような組み合わせは、文字盤に関しては自明ではない。方法のステップは、数が多く、最終的に得られる表現に影響を与える。このため、例えば、彫刻バリ除去のために一般的に使用され必要とされる再加工または研磨は、彫刻間の表面仕上げの品質を落とし、その後得られるサンバースト仕上げの外観を変更することから、ここでは用いることができない。文字盤板の彫刻にフェムト秒レーザを用いることで製造ステップが大いに簡単になり、非常に良好な審美的品質を保証することができる。レーザはまた、求める審美的効果を得るために、彫刻のパラメータ(線の厚み、線の深さ、線間の距離)を細かく調整することができる。特に、文字盤の異なる区域において異なる方向づけがされた線から構成される装飾を有する文字盤は、従前可能であったよりも非常に高い多様性をもって製造することができる。
【0030】
2つの組み合わされた種類の装飾は、少なくとも部分的に重なり合わされる。一実施態様によれば、表面構造形成ステップにより得られた平行痕は、彫刻ステップで得られた彫刻を横切る。この重ね合わせで得られる視覚的効果は、2つの装飾の組み合わせを一体としてとらえるという、第三の効果に到達する異なる効果の組み合わせから得られる点で格別である。なぜならば、表面構造形成で得られる平行痕は、彫刻の生成後そのまま残された、部品の当初の表面のみを視覚的に変更するものであり、彫刻されたひっかき傷の底には影響を与えないからである。
【0031】
本発明はまた、当該装飾方法で得られた時計部品に関する。当該部品は、このため一方では深彫りを、他方では粗さ及びまたは浅い平行痕を含む表面構造を含む、少なくとも2種類の浮き彫り装飾を含む。
【0032】
図6及び
図7は、最初にフェムト秒レーザにより彫刻される均一線であって、部品の各四分円に分布され2つの隣接する四分円の線に直角に方向づけられる線(
図6)を生成し、当初の彫刻に重なり合うサンレイ仕上げ(
図7)からなる、一実施形態を図示する。
【0033】
図8は、(深彫り第1ステップのない)表面構造形成第2ステップのみを実施して得られた時計部品の上面図を模式的に示す。このため、
図7は、本実施形態に係る装飾方法の実施後に得られた時計部品を示し、
図6及び
図8は、それぞれ、本発明の実施形態に係る、時計部品の装飾用の第1ステップのみ及び第2ステップのみの実施後に得られた同一時計部品を示す。
図7は、本発明の実施形態から得られる、視覚的に
図6及び
図8の装飾の単なる足し算を超える、新規の装飾を示す。この驚くべき効果は、実際の時計部品上では更に顕著である。
【0034】
装飾方法は、任意の補完ステップを含んでもよい。任意のステップを含む完全な方法を、
図1に示す。
【0035】
本実施形態によれば、装飾方法は処理すべき文字盤の表面を準備する初期ステップE1を含む。このためには、例えば真鍮といった金属製の、文字盤を形成する板を研磨し、洗浄し、脱脂する。変形例として、文字盤またはその他装飾すべき時計部品は、他の金属製であってもよく、ここで金属とは、例えば鋼、チタン、金、または白銀といった、純金属または合金を含む。代替的に、セラミック製の、例えばジルコニア又はアルミナ、シリコン、ガラス、サファイア、真珠層、または鉱物素材であって、その表面は素材の天然色または例えば白といった特定の色に着色された、素材板を念頭に置くこともできる。
【0036】
任意で、装飾方法は、梨地処理、ブラシ仕上げまたはソフトサンドブラストの補完処理ステップE2を含む。当該ステップE2は、表面構造形成ステップE20前の、装飾方法のいかなる時点でも実施できる。
【0037】
同様に、任意で、装飾方法は、文字盤の酸化を防止する及びまたは文字盤に着色するため、好ましくは0.2μm以上1μm以下の厚みを有する、任意層を堆積するステップE3を含む。
【0038】
深彫りステップE10後、洗浄作業が行われ、本実施形態によれば、装飾方法は金属層を堆積するステップE4を含むこともできる。好ましくは、堆積された金属は、以降の作業、特に表面構造形成ステップE20で構成可能なように、十分に可鍛である、銀を含む。もちろん、銀以外の可鍛金属の層を、第2機械加工作業を促進するため、堆積することができる。
【0039】
装飾方法の最後の最終ステップE5において、任意で、例えば一以上の電気めっき層、及びまたは一以上のPVD(物理蒸着)で形成される層、及びまたは一以上のALD(原子層蒸着)で形成される層、または形成すべき文字盤の知覚可能な色を変更する被膜の形成を可能とするその他の堆積技術により、色付加層又は一連の層を堆積することができる。マスキング技術により文字盤の一部分のみに着色層を堆積すること、または文字盤の表面の異なる位置に異なる色の複数の層を堆積することも、予想可能である。
【0040】
彫刻深さ、及び2つの彫刻間の横方向距離は、好ましい審美的基準(例えば、光学効果、転写画の堆積の有無、等)に基づき選択される。レーザ彫刻後に堆積する可能性のある層、特に装飾層(サンレイ仕上げ)及び任意の色付加層、を可能としなければならない。後者について、レーザ装飾の審美性に電気めっき層が与える影響は、PVD層の影響よりも大きい。特に、層の厚さ、及びその方法は、装飾を約1μm均一にする。
【0041】
装飾方法は上記説明において例として挙げられており特定のステップの順序を逆にすること、例えば表面構造形成、特にサンバースト仕上げを、例えば着色層の堆積後に、または例えばレーザ彫刻前に行うことも可能である。
【0042】
一般に、その後ラッカーを堆積し、その後刻印(文字、数字、マーカ、軌道、他の印)の転写を文字盤に施す。任意で、完成した文字盤はまた、例えば発光マーカまたは宝石用圧着はめ込み台などを含んでもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 彫刻
11 底