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特許7020795スラリー系反応結合された環境バリアコーティング
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】スラリー系反応結合された環境バリアコーティング
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20220208BHJP
   C01B 33/20 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C04B41/87 M
C01B33/20
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017084461
(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公開番号】P2017193483
(43)【公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】62/326,543
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/488,037
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512182267
【氏名又は名称】ロールス-ロイス コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】516173843
【氏名又は名称】ロールス-ロイス パブリック リミティド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】ナスリン アル ナシリ
(72)【発明者】
【氏名】ショーン イー.ランドベーア
(72)【発明者】
【氏名】アダム リー チェンバレン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム エドワード リー
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0297718(US,A1)
【文献】特開2011-051882(JP,A)
【文献】特開2000-007472(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0112381(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
C04B 41/85-41/98
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有基材の表面を酸化して、ケイ素含有基材の表面上にシリカを含む層を形成することと、
5質量%未満の少なくとも1種の添加剤及び少なくとも1種の希土類酸化物を含む粒子を含むスラリーからシリカを含む層上に少なくとも1種の希土類酸化物及び存在する全ての添加物を含む層を堆積させることと、
少なくともシリカを含む層と少なくとも1種の希土類酸化物及び存在する全ての添加物を含む層を加熱して、シリカと少なくとも1種の希土類酸化物を反応させて、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層を形成することと
を含む方法。
【請求項2】
前記ケイ素含有基材の表面を酸化することが、約1200℃~約1400℃の温度にて約24時間~約100時間、酸化雰囲気中でケイ素含有基材を加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スラリーが、少なくとも1種の希土類酸化物を含む粒子と、極性溶媒と、高分子電解質とを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子電解質が、アウリンカルボン酸のトリアンモニウム塩又はアクリルアンモニウム塩を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記スラリーが、非アルカリ酸又は塩基を更に含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記スラリーが、少なくとも1種の希土類酸化物を含む粒子と、非極性又は低極性溶媒と、非極性又は低極性安定化剤とを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記非極性又は低極性安定化剤が、少なくとも1種の高分子界面活性剤を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の希土類酸化物を含む層を加熱して、スラリーの溶媒の実質的に全てを除去することを更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1種の希土類酸化物が、Yb23、Y23、Er23、又はLu23の少なくとも1種を含み、前記少なくとも1種の希土類シリケートが、Yb2SiO5、Yb2Si27、Y2SiO5、Y2Si27、Er2SiO5、Er2Si27、Lu2SiO5、又はLu2Si27の少なくとも1種を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくともシリカを含む層と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層を加熱して、シリカと少なくとも1種の希土類酸化物を反応させ、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層を形成することが、少なくともシリカを含む層と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層を約1300℃~約1400℃の温度にて約24時間~約100時間加熱することを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種の希土類シリケートを含む層が、希土類シリケートを形成する希土類酸化物との反応をしていないシリカ及び希土類シリケートを形成するシリカとの反応をしていない希土類酸化物を更に含み、前記少なくとも1種の希土類シリケートが濃度勾配を更に含み、希土類シリケートを形成する希土類酸化物との反応をしていないシリカの濃度が、ケイ素含有基材の表面に隣接して最も高く、希土類シリケートを形成するシリカとの反応をしていない希土類酸化物の濃度が、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層の外面に隣接して最も高い、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、その全体の内容が参照により組み入れられる、2016年4月22日に出願された米国仮特許出願第62/326543号の利益を主張する。
【0002】
本開示は、環境バリアコーティングの形成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
セラミック又はセラミックマトリックス複合(CMC)材料は、機械的及び熱的特性が重要である種々の状況において有用であることができる。例えば、ガスタービンエンジン等の高温機械システムの部品をセラミック又はCMC材料から製造することができる。セラミック又はCMC材料は高温に対して耐性がある場合があるが、幾つかのセラミック又はCMC材料は、高温機械システムの動作環境において存在する幾つかの元素及び化合物、たとえば水蒸気と反応する場合がある。水蒸気との反応は、セラミック又はCMC材料のリセッションをもたらす場合がある。これらの反応は、セラミック又はCMC材料を損傷させ、セラミック又はCMC材料の機械的特性を低減する場合があり、このことは部品の耐用年数を低減する場合がある。したがって、幾つかの例において、セラミック又はCMC材料は、高温機械システムの動作環境において存在する元素及び化合物に対する基材の露出を低減することができる環境バリアコーティングで被覆することができる。
【発明の概要】
【0004】
幾つかの例において、本開示は、ケイ素含有基材の表面を酸化して、ケイ素含有基材の表面上にシリカを含む層を形成することを含む方法を記載する。方法は、少なくとも1種の希土類酸化物を含むスラリーからケイ素を含む層上に少なくとも1種の希土類酸化物を含む層を堆積させることも含むことができる。加えて、方法は、少なくともシリカを含む層と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層を加熱して、シリカと少なくとも1種の希土類酸化物を反応させて、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層を形成することを含むことができる。
【0005】
幾つかの例において、本開示は、約1200℃~約1400℃の温度にてケイ素含有基材を加熱して、ケイ素含有基材の表面を酸化して、ケイ素含有基材の表面上にシリカを含む層を形成することを含む方法を記載する。方法は、イッテルビウム、イットリウム、エルビウム、又はルテチウムの少なくとも1種を含むスラリーから、シリカを含む層上にイッテルビウム、イットリウム、エルビウム、又はルテチウムの少なくとも1種を含む層を堆積させることも含むことができる。方法は、少なくともシリカを含む層とイッテルビウム、イットリウム、エルビウム、又はルテチウムの少なくとも1種を含む層を約1300℃~約1400℃の温度にて加熱して、シリカとイッテルビウム、イットリウム、エルビウム、又はルテチウムの少なくとも1種を反応させて、Yb2SiO5、Yb2Si27、Y2SiO5、Y2Si27、Er2SiO5、Er2Si27、Lu2SiO5、又はLu2Si27の少なくとも1種を含む層を形成することを更に含むことができる。
【0006】
1つ又はそれより多くの例の詳細を、添付の図面及び以下の詳細な説明において記載する。他の特徴、目的、及び利点は、詳細な説明及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、少なくとも1種の希土類シリケートを含む環境バリアコーティングの例示的な形成方法を示すフロー図である。
図2A図2Aは、基材と、シリカを含む層と、シリカを含む層上に少なくとも1種の希土類酸化物を含む層とを含む例示的な物品を示す概念断面図である。
図2B図2Bは、基材と、基材上に少なくとも1種の希土類シリケートを含む層とを含む例示的な物品を示す概念断面図である。
図3図3は、基材と、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層とを含む例示的な物品及び濃度勾配を示す概念断面図である。
図4図4は、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティングに関してX線回折を用いて測定された、X線強度対回折角2θのプロットである。
図5A図5A~5Fは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図5B図5A~5Fは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図5C図5A~5Fは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図5D図5A~5Fは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図5E図5A~5Fは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図5F図5A~5Fは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図6図6は、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイッテルビウムシリケートを含むコーティングに関してX線回折を用いて測定されたX線強度対回折角2θのプロットである。
図7A図7A~7Eは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイッテルビウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図7B図7A~7Eは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイッテルビウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図7C図7A~7Eは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイッテルビウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図7D図7A~7Eは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイッテルビウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図7E図7A~7Eは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイッテルビウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図8図8は、粉末ベッドを用いて形成されたイットリウムシリケートを含むコーティングに関してX線回折を用いて測定されたX線強度対回折角2θのプロットである。
図9A図9A~9Dは、粉末ベッドを用いて形成されたイットリウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図9B図9A~9Dは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイットリウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図9C図9A~9Dは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイットリウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図9D図9A~9Dは、本開示に記載のスラリーを用いて形成されたイットリウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図10図10は、粉末ベッドを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティングに関するX線回折を用いて測定されたX線強度対回折角2θのプロットである。
図11A図11A~11Dは、粉末ベッドを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図11B図11A~11Dは、粉末ベッドを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図11C図11A~11Dは、粉末ベッドを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
図11D図11A~11Dは、粉末ベッドを用いて形成されたルテチウムシリケートを含むコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、少なくとも1種の希土類シリケートを含む環境バリアコーティングの形成方法を記載する。本開示に記載の方法は、ケイ素含有基材を酸化して、ケイ素含有基材の表面にシリカを含む層を形成することを含むことができる。その後、スラリーから少なくとも1種の希土類酸化物をシリカ層に堆積させることができる。ケイ素含有基材、シリカを含む層、及びスラリー堆積相を加熱して、シリカと少なくとも1種の希土類酸化物を反応させることができる。シリカと少なくとも1種の希土類酸化物との反応は、ケイ素含有基材上の層において少なくとも1種の希土類シリケートを形成する。少なくとも1種の希土類シリケートは、少なくとも1種の希土類モノシリケート、少なくとも1種の希土類ジシリケート、又は少なくとも1種の希土類モノシリケートと少なくとも1種の希土類ジシリケートとの混合物を含むことができる。
【0009】
ケイ素含有基材を酸化させてシリカを含む層を形成することは、基材に対して良好に接着するコヒーレントの実質的に連続の酸化バリアをもたらす。次いで、少なくとも1種の希土類酸化物とシリカを反応させることにより、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層及び基材に対する良好な接着を形成することができる。更に、スラリーを用いて、シリカを含む層に少なくとも1種の希土類酸化物を堆積させることにより、少なくとも1種の希土類酸化物とシリカとの密接な接触を容易にし、反応を環境圧力にて実施することができる。特に基材が複雑形状であるなど比較的脆弱である場合、高い圧力は下にある基材を損傷させる場合があるため、このことは、反応物間の接触を促す高圧を用いる方法と比較して利点である場合がある。
【0010】
EBCは、ガスタービンエンジン中の燃焼環境等の環境における高圧、高速水蒸気により生じるリセッションからケイ素を含むセラミックマトリックス複合(CMC)基材を保護する。幾つかのEBCは、主要な信頼性のあるコーティングであり、それは、EBCが、CMC部品の寿命のためにCMC部品上に留まるはずであることを意味する。主要な信頼性のあるEBCは、高い水蒸気安定性と、下にあるCMCとの熱膨張の適合性を含む、複数の競合する設計パラメータを満たす場合がある。加えて、幾つかの主要な信頼性のあるEBCは、製造中のコーティングソースと視野外(non‐line‐of‐sight)の関係にある表面上で用いられる。これらの表面は、少なくとも部分的に遮られた表面として本開示でよばれる。例えば、ガスタービンエンジンブレード、ベーン、又はブレードトラックの内面、及びガスタービンエンジン中のダブレット又はトリプレットベーン間の領域は、コーティングの製造中にコーティングソースによる視野(line‐of‐sight)に置くことができない場合がある。ケイ素含有基材の表面を酸化すること、及びスラリー堆積を用いて少なくとも1種の希土類酸化物を堆積させることは、少なくとも1種の希土類シリケートを含む本開示に記載のコーティングを用いて、視野外表面のコーティングを可能にすることができる。
【0011】
図1は、少なくとも1種の希土類シリケートを含む環境バリアコーティングの例示的な形成方法を示すフロー図である。図1の方法を、図2A及び2Bを参照して記載する。図2Aは、ケイ素含有基材22と、シリカを含む層24と、シリカを含む層24上に少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26とを含む例示的な物品20を示す概念断面図である。図2Bは、ケイ素含有基材22と、ケイ素含有基材22上に希土類シリケートを含む層32とを含む例示的な物品30を示す概念断面図である。
【0012】
図1の方法は、ケイ素含有基材22の表面28を酸化してケイ素含有基材22の表面28にシリカを含む層24を形成すること(12)を含む。ケイ素含有基材22は、ケイ素を含むか、またはケイ素を基礎とする任意の材料を含むことができる。幾つかの例において、ケイ素含有基材22は、ケイ素含有セラミック又はケイ素含有CMCを含む。例示的なセラミック材料としては、例えば炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、アルミノシリケート、シリカ(SiO2)、遷移金属シリサイド(例えばWC、Mo2C、TiC、MoSi2、NbSi2、TiSi2)などを挙げることができる。加えて幾つかの例において、ケイ素含有基材12は、アルミナ(Al23)、ケイ素金属、炭素などを含むことができる。幾つかの例において、ケイ素含有基材12は、SiC、Si34、アルミノシリケート、シリカ、遷移金属シリサイド、アルミナケイ素金属、炭素などの2種又はそれより多くの混合物を含むことができる。
【0013】
ケイ素含有基材12がCMCを含む例において、ケイ素含有基材12は、マトリックス材料及び強化材料を含む。マトリックス材料としては、例えばケイ素金属又はセラミック材料、たとえばSiC、窒化ケイ素(Si34)、アルミノシリケート、シリカ(SiO2)、遷移金属シリサイド(例えばWC、Mo2C、TiC、MoSi2、NbSi2、TiSi2)、又は本開示に記載の他のセラミックなどが挙げられる。CMCは、連続又は不連続強化材料を更に含む。例えば、強化材料としては、不連続ウィスカ、プレートレット、繊維、又は粒状物を挙げることができる。他の例として、強化材料としては、連続モノフィラメント又はマルチフィラメント織物を挙げることができる。幾つかの例において、強化材料としては、C、SiC、窒化ケイ素(Si34)、アルミノシリケート、シリカ(SiO2)、遷移金属シリサイド(例えばWC、Mo2C、TiC、MoSi2、NbSi2、TiSi2)、本開示に記載の他のセラミック材料などを挙げることができる。幾つかの例において、ケイ素含有基材12としては、SiC‐SiCセラミックマトリックス複合体が挙げられる。
【0014】
物品20は、ガスタービンエンジン等の高温機械システムの任意の部品を含むことができ、またはこれであることができる。例えば、物品20は、シールセグメント、ブレードトラック、エアフォイル、ブレード、ベーン、燃焼室ライナーなどであることができ、またはその一部であることができる。
【0015】
ケイ素含有基材22の表面28を酸化してケイ素含有基材22の表面28上にシリカを含む層24を形成すること(12)は、酸化反応を開始するのに十分な温度にて、酸化雰囲気中でケイ素含有基材22を加熱することを含むことができる。酸化雰囲気としては、空気、水蒸気、又は酸素の豊富な雰囲気を挙げることができる。
【0016】
幾つかの例において、ケイ素含有基材22を加熱する温度は、約1200℃~約1600℃、たとえば約1200℃~約1400℃であることができる。幾つかの例において、1200℃未満では不十分なシリカが形成する場合がある。温度範囲の上限を、加熱が基材22を溶融又は劣化させないように、基材22の組成に基づいて選択することができる。幾つかの例において、ケイ素含有基材22を加熱する温度は、約1300℃~約1350℃、たとえば約1300℃又は約1350℃であることができる。ケイ素含有基材22を加熱する時間は、選択された厚さまでシリカを含む層24を形成するのに十分な任意の時間であることができ、たとえば少なくとも約1時間、又は約24時間~約100時間、又は約24時間~約48時間である。
【0017】
ケイ素含有基材22を加熱する温度及びケイ素含有基材22を加熱する時間は、得られるシリカを含む層24の厚さに影響する場合がある。例えば、ケイ素含有基材22をより高い温度熱することは、反応の速度、及び既に形成されたシリカを通る酸素の拡散を増大させる場合があり、したがって(所定の時間に関して)シリカを含む層24の厚さを増加させることができる。別の例として、より長時間に亘ってケイ素含有基材22を加熱することは、(所定の温度に関して)シリカを含む層24の厚さを増加させることができる。
【0018】
シリカを含む層24の厚さ、ひいては酸化条件は、方法において少なくとも1種の希土類酸化物と後に反応させて選択された厚さを有する少なくとも1種の希土類シリケートを含む層を形成するために十分なシリカを与えるように選択することができる。幾つかの例において、シリカを含む層24の厚さは、約3ミクロン~約15ミクロン、たとえば約3ミクロン~約8ミクロンであることができる。
【0019】
シリカを含む層24が、ケイ素含有基材22を酸化する化学反応により形成されるため、シリカを含む層24は、例えば、蒸着又は熱スプレー等の堆積プロセスにより形成されたシリカ層と比較して、ケイ素含有基材22に対して良好な接着性を有することができる。加えて、シリカを含む層24が、ケイ素含有基材22の化学反応により形成されるため、シリカを含む層24は、実質的に非多孔質(例えばシリカを含む層24中の空き領域を、シリカを含む層24で専有された全空間により除した体積として規定される約5体積パーセント未満の空隙率)であることができる。空隙率は、コーティングを切断し、顕微鏡を用いて空隙率を分析することにより測定することができる。シリカを含む実質的に非多孔質の層24は、環境バリアコーティングであることができる少なくとも1種の希土類シリケートを含む層を形成するのに有用な出発点を形成するコヒーレントで粘着性のあるバリア層を形成することができる。
【0020】
図1の方法は、スラリーからシリカを含む層24に少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26堆積させること(14)も含む。スラリーは、少なくとも1種の希土類酸化物、溶媒、及び任意選択的に1種又はそれより多くの添加剤を含む粒子を含むことができる。少なくとも1種の希土類酸化物としては、ルテチウム(Lu)、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、プロメチウム(Pm)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)の酸化物を含む、希土類元素の任意の酸化物を挙げることができる。幾つかの例において、少なくとも1種の希土類酸化物としては、イッテルビウム(Yb、例えばYb23)、イットリウム(Y、例えばY23)、エルビウム(Er、例えばEr23)、又はルテチウム(Lu、例えばLu23)の少なくとも1種の酸化物を挙げることができる。
【0021】
幾つかの例において、粒子は、1種より多くの希土類酸化物を含む。幾つかの例において、個々の粒子は、1種より多くの希土類酸化物(例えば少なくとも2種の希土類酸化物)を含むことができる。他の例において、粒子は少なくとも2種の希土類酸化物の混合物を含むことができ、個々の粒子は、単独の希土類酸化物を実質的に含むことができる。言い換えると、個々の粒子は、複数の希土類酸化物を含むことができ、または個々の粒子は単独の希土類酸化物を含むことができ、及びそれぞれ単独の希土類酸化物を含む異なる粒子各々を混合して、少なくとも2種の希土類酸化物を含む粒子の混合物を形成することができる。
【0022】
幾つかの例において、粒子は、1種又はそれより多くの添加剤、例えばアルミナ、ホウ素、又は酸化ホウ素、アルカリ金属、又はアルカリ金属酸化物;アルカリ土類酸化物;チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、又はニオブの酸化物又はシリケートなどを含むことができる。添加剤は、約5質量パーセント(質量%)未満、たとえば約2質量%未満、又は約1質量%未満の量で粒子中に存在することができる。1種又はそれより多くの添加剤が、ホウ素若しくは酸化ホウ素又はアルカリ金属若しくはアルカリ金属酸化物を含む場合などの幾つかの例において、1種又はそれより多くの添加剤は、シリカと希土類酸化物の反応を促進することができる。
【0023】
粒子は、任意の大きさ及び任意の形状であることができる。幾つかの例において、粒子の直径は、単峰性のサイズ分布(例えば、粒子の直径分布内で1つの直径が最も高頻度である)を有することができる。他の例において、粒子の直径は、多峰性のサイズ分布(例えば、2つ又はそれより多くの直径が粒子の直径分布内で最も高頻度である)を有することができる。幾つかの例において、多峰性のサイズ分布は、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26中の粒子のパッキングを容易にすることができ、シリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26中の粒子との接触を容易にすることができる。
【0024】
スラリーは、溶媒を含むこともできる。幾つかの例において、溶媒は、水性溶媒、水、アルコール(例えばメタノール、イソプロパノールなど)、メチルエチルケトンなどの極性であることができる。極性溶媒は、高い、中程度、または低い極性を有することができる。水性溶媒は主成分として水を含む。他の例において、溶媒は、非極性溶媒、たとえばヘキサン、ヘプタン、たとえばナフサ又はlacolene等の混合物などであることができる。
【0025】
溶媒が極性溶媒を含む幾つかの例において、スラリーは、高分子電解質を追加的に含むことができる。高分子電解質は、スラリーを安定化することができる(例えば、少なくとも1種の希土類酸化物を含む粒子のスラリーの凝集又は沈殿を低減し、または実質的に抑制する)。幾つかの例において、高分子電解質は、アルカリを含まない高分子電解質を含む。アルカリを含まない高分子電解質が、スラリーを安定化することができる一方で、少なくとも1種の希土類酸化物を含む粒子は実質的に化学的に影響を受けないままである。言い換えると、アルカリを含まない高分子電解質は、少なくとも1種の希土類酸化物と反応しない場合がある。幾つかの例において、高分子電解質は、アウリンカルボン酸のトリアンモニウム塩又はアクリルアンモニウム塩を含むことができる。スラリーは、約0.5質量%~約5質量%の高分子電解質を含むことができる。
【0026】
幾つかの例において、極性溶媒を含むスラリーは、非アルカリ酸又は塩基を追加的に含むことができる。非アルカリ酸又は塩基は、スラリーのpHを改変し、スラリー中の少なくとも1種の希土類酸化物を含む粒子の分散性に影響を与えることができる。例示的な非アルカリ酸及び塩基としては、硝酸及び水酸化アンモニウムが挙げられる。
【0027】
溶媒が非極性又は低極性溶媒を含む幾つかの例において、スラリーは、非極性又は低極性安定化剤を含むことができる。非極性又は低極性安定化剤としては、少なくとも1種の高分子界面活性剤、たとえばポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。スラリーは、約0.5質量%~約5質量%の非極性又は低極性安定化剤を含むことができる。
【0028】
幾つかの例において、溶媒が極性であるか、低極性であるか、または非極性であるかにかかわらず、スラリーは、バインダー(例えばポリエチレングリコール、アクリレートコポリマー、ラテックスコポリマー、ポリビニルピロリドンコポリマー、ポリビニルブチラールなど)、分散剤(例えばアウリンカルボン酸のトリアンモニウム塩(アルミノン)、アンモニウムポリアクリレート、ポリビニルブチラール、ホスフェートエステル、ポリエチレンイミン、BYK(登録商標)110(Byk USA,Inc.、Wallingford Connecticutから入手可能)など)などを追加的に含むことができる。
【0029】
スラリーの組成を、所望のレオロジー特性を達成するように選択することができる。例えば、より多くの粒子を含むスラリーは、より少ない粒子を有するスラリーより高い粘度を有する場合がある。加えて、添加剤及び安定化剤、又は高分子電解質は、スラリーの粘度に影響を与える場合がある。
【0030】
単独のスラリー適用又は複数のスラリー適用において、スラリーから少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を堆積させることができる(14)。幾つかの例において、堆積した層を乾燥させて溶媒を十分に除去した後にスラリーを各々適用する、複数のスラリーのより薄い適用は、堆積した層のクラックを低減するか、または実質的に抑制することができる。このように、複数のスラリーのより薄い適用は、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26のクラックを低減するか、または実質的に抑制しつつ、少なくとも1種の希土類酸化物を含むより厚い層26の形成を促進することができる。
【0031】
スラリーの適用の各々は、スラリー堆積法を用いて行うことができる。例示的なスラリーの堆積又は適用の方法としては、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコート、ブラッシングなどが挙げられる。堆積又は適用方法を、基材22の形状に基づいて選択することができる。例えば、基材22が十分に平らな表面を含む場合、スピンコートを用いることができ、一方で基材22がより複雑な形状を含む場合、浸漬コーティングを用いることができる。
【0032】
少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26は、任意の適した厚さに堆積することができる。幾つかの例において、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26の厚さは、シリカを含む層24中で後にシリカと反応するために存在することが望まれる少なくとも1種の希土類酸化物の量に基づいて選択することができる。例えば、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26の厚さは、150マイクロメートル未満、たとえば約20マイクロメートルであることができる。
【0033】
図1に示されていないものの、スラリーからシリカを含む層24上に少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を堆積した(14)後に、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を乾燥させて実質的に溶媒を除去することができる。幾つかの例において、上記で言及したように、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を、複数のスラリー適用を用いて形成することができ、スラリーの後の適用を行う前にスラリーの各適用を乾燥させることができる。他の例において、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を乾燥させる前に、スラリー適用を実施することができる。更に他の例において、別個の乾燥工程を含めないことができ、層26を加熱して少なくとも1種の希土類酸化物とシリカを反応させる際に、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を乾燥させることができる。
【0034】
スラリーを用いて少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を堆積させることにより、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26及びシリカを含む層24における粒子間の密接な接触をつくることができる。これは、反応中に高圧を適用することなく、少なくとも1種の希土類酸化物及びシリカの反応を促進することができる。加えて、シリカを含む層24が(例えば下にあるケイ素含有基材22の表面粗さに起因して)表面粗さを有する例において、スラリーは、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26、及びシリカを含む層24における粒子間の密接な接触を容易にすることができる。例えば、スラリーを乾燥させることは、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26における粒子の密なパッキングを促進することができ、それは、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26、及びシリカを含む層24における粒子間の接触を向上させることができる。乾燥粉末を用いる他の方法において、粉末とシリカを含む層との密接な接触は、反応中に高圧を利用して、粉末をシリカを含む層と密接に接触させることができる。この高圧は、方法が用いることのできる基材の種類(例えば形状及び構造)を制限する場合があり、また、高圧を発生させ、支持する高コストの製造装置を要求する場合もある。
【0035】
図1の方法は、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を加熱して、シリカと少なくとも1種の希土類酸化物を反応させ、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層32(図2B)を形成すること(16)を更に含む。少なくとも1種の希土類シリケートは、少なくとも1種の希土類モノシリケート、少なくとも1種の希土類ジシリケート、又は少なくとも1種の希土類モノシリケートと少なくとも1種の希土類ジシリケートとの混合物を含むことができる。少なくとも1種の希土類シリケート中の希土類元素は、層26中の少なくとも1種の希土類酸化物中の希土類元素に依存し、それは、ルテチウム、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム、ホルミウム、ジスプロシウム、テルビウム、ガドリニウム、ユウロピウム、サマリウム、プロメチウム、ネオジム、プラセオジム、セリウム、ランタン、イットリウム、又はスカンジウムの少なくとも1種を含むことができる。
【0036】
希土類ジシリケートは、希土類酸化物とシリカを反応させるのに十分な条件(例えば熱及び/又は圧力)下で特定の量論比(1モルの希土類酸化物及び2モルのシリカ)において希土類酸化物とシリカを化学的に反応させることにより形成される化合物である。希土類ジシリケートは、束縛されていない希土類酸化物と束縛されていないシリカとの混合物とは化学的に区別でき、希土類モノシリケートとは化学的に区別できる。例えば、希土類ジシリケートは、束縛されていない希土類酸化物と束縛されていないシリカとの混合物とは異なる化学的及び物理的特性を有する。希土類ジシリケートは、概してケイ素系基材22との良好な熱膨張係数適合性を有し、それは、少なくとも1種の希土類ジシリケートを含む層32(図2B)及びケイ素含有基材22間の界面において熱サイクル発生応力を低減することができる。
【0037】
希土類モノシリケートは、希土類酸化物とシリカを反応させるのに十分な条件(例えば熱及び/又は圧力)下で特定の量論比(1モルの希土類酸化物及び1モルのシリカ)において希土類酸化物とシリカを化学的に反応させることにより形成される化合物である。希土類モノシリケートは、束縛されていない希土類酸化物と拘束されていないシリカとの混合物とは化学的に区別でき、希土類ジシリケートとは化学的に区別できる。例えば、希土類モノシリケートは、束縛されていない希土類酸化物と束縛されていないシリカとの混合物とは異なる化学的及び物理的特性を有する。希土類モノシリケートは、概してケイ素系基材22との希土類ジシリケートより悪い熱膨張係数適合性を有するが、希土類ジシリケートより良好な水蒸気安定性を有する。
【0038】
少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26は、シリカと少なくとも1種の希土類酸化物を反応させて、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層32を形成する(16)のに十分な温度及び時間で加熱することができる。幾つかの例において、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を約1200℃~約1600℃の温度にて少なくとも1時間、たとえば約24時間~約100時間加熱することができる。他の例において、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26は、約1300℃~約1400℃の温度にて約24時間~約100時間加熱することができる。
【0039】
シリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を、十分に不活性、または酸化雰囲気下で加熱することができる(16)。上記のように、酸化雰囲気としては、空気、水、又は酸素の豊富な雰囲気を挙げることができる。酸素がケイ素含有基材22を酸化してシリカを形成する際、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を酸化雰囲気下で加熱すること(16)は、少なくとも1種の希土類酸化物と反応させるための追加的なシリカを与えることができる。加えて、雰囲気は、加熱条件下で少なくとも1種の希土類酸化物及びシリカに対して実質的に不活性であることができる。例えば、不活性雰囲気としては、アルゴン、ヘリウム、窒素などを挙げることができる。幾つかの例において、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を加熱すること(16)を、環境圧力にて実施することができる。
【0040】
シリカ及び少なくとも1種の希土類酸化物の反応中に形成される希土類ジシリケート又は希土類モノシリケートの量は、反応条件に依存する場合がある。例えば、所定の熱処理温度に対して、より長い処理時間は、希土類ジシリケートの割合を増加させる場合がある。
【0041】
幾つかの例において、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26の加熱(16)中に、層間で拡散が起こることができ、希土類シリケートを少なくとも1種の希土類シリケートを含む層32全体に亘って形成することができる。幾つかの例において、少なくとも1種の希土類シリケートを含む得られた層32は、実質的に均一な組成を含むことができる(例えば、化学組成が少なくとも1種の希土類シリケートを含む層32の体積全体に亘って実質的に均一である)。
【0042】
他の例において、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層32は、不均一な組成を含むことができる。例えば、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層32は、少なくとも1つの組成勾配を含むことができる。例えば、図3は、ケイ素含有基材22及び濃度勾配を含む少なくとも1種の希土類シリケートを含む層42を含む例示的な物品40を示す概念断面図である。図3に示されるように、層42は基材22に隣接した第一の部分44、層42の外面50に隣接した第三の部分48、及び第一の部分44と第三の部分48との間の第二の部分46を含むことができる。幾つかの例において、第一の部分44は、束縛されていないシリカ(すなわち、希土類シリケートを形成するように希土類酸化物と反応していないシリカ)を含むことができ、または第一の部分44の少なくとも1部がシリカを含む層24(図2A)の少なくとも一部に対応する場合、第二の部分46又は第三の部分48より多くの束縛されていないシリカを含むことができる。幾つかの例において、束縛されていないシリカを、希土類シリケート又は希土類酸化物等の他の元素又は化合物と混合することができる。
【0043】
第二の部分46は、シリカ及び希土類酸化物に達するように層24及び26を加熱することに先立ってシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26の界面があった場所に近い。したがって、第二の部分は、第一の部分44及び第三の部分48より高い割合の希土類シリケート(例えば、希土類モノシリケート、希土類ジシリケート、又は両方)を含むことができる。
【0044】
幾つかの例において、第三の部分48は、束縛されていない希土類酸化物(すなわち、希土類シリケートを形成するようにシリカと反応していない希土類酸化物)を含むことができ、または、第三の部分48の少なくとも一部が少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26(図2A)の少なくとも一部に対応する場合、第二の部分46又は第一の部分44より多くの束縛されていない希土類酸化物を含むことができる。幾つかの例において、束縛されていない希土類酸化物を、希土類シリケート又はシリカ等の他の元素又は化合物と混合することができる。
【0045】
少なくとも1種の希土類シリケートを含む層42が、3つの区別できる部分44、46及び48を含むものとして示されることを図3が示しているものの、幾つかの例において、シリカ、希土類酸化物、及び/又は希土類シリケートの濃度勾配は、とびとびではなく、実質的に連続であることができる。言い換えると、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層42は、区別できる部分を含まない場合があるが、実質的に連続の組成勾配を含む場合がある。
【0046】
幾つかの例において、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26の加熱中(16)に、ケイ素含有基材22からの元素又は化合物の拡散も起こることができる。例えば、ケイ素含有基材22中に存在する場合、ホウ素、SiC、Si33、アルミナ、炭素、アルミノシリケート、SiO2、遷移金属シリサイドなどの1種又はそれより多くは、少なくとも1種の希土類シリケートを含む層32に拡散することができる。
【0047】
幾つかの例において、少なくともシリカを含む層24と少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26(16)の加熱は、加えて、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26の焼結を起こすことができ、それは、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26中の空隙率を低減させることができる。幾つかの例において、これは、実質的に稠密のまたは実質的に非多孔質の少なくとも1種の希土類シリケート32又は42を含む層をもたらすことができる。実質的に稠密のまたは実質的に非多孔質の層32又は42は、水蒸気の接触を抑制すること、及びケイ素含有基材22と反応することにより、ケイ素含有基材22の保護を与えることができる。幾つかの例において、実質的に稠密の微細構造を有する層は、約10体積%未満、例えば約5体積%未満の空隙率を有することができ、空隙率は、細孔体積を全層体積で除した割合として測定される。
【0048】
図1に示されていないものの、図1の方法は、ケイ素含有基材22の表面28(図2A)を酸化する(12)前に、ケイ素含有基材22の表面28を滑らかにすることを任意選択的に含むことができる。ケイ素含有基材22がCMCを含む幾つかの例において、ケイ素含有基材22は、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26のシリカなどを含む層との接触に影響を与える、シリカを含む層24の形成に影響を与える、物品20の空気力学特性に影響を与える表面粗さを含むことができる。ケイ素含有基材22の表面28を滑らかにすることは、表面粗さに起因するこれらの課題の少なくとも1つに対処することができる。表面28を、機械的粉砕又は研磨、化学機械研磨、エッチングなどにより滑らかにすることができる。
【0049】
このように、スラリーを用いて少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26を堆積させること、次いで少なくとも1種の希土類酸化物をシリカと反応させることにより、下にある基材に対する良好な接着性を有するか、実質的に非多孔質であるか、視野外表面上にあるか、またはこれらの特性の組み合わせを有する希土類シリケートを含む層を形成することができる。スラリーの使用は、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26及びシリカを含む層24における粒子間の密接な接触を容易にすることができる。これは、反応中に高圧を適用することなく、少なくとも1種の希土類酸化物とシリカの反応を促進することができる。加えて、(例えば、下にあるケイ素含有基材22の表面粗さに起因して)シリカを含む層24が表面粗さを有する例において、スラリーは、少なくとも1種の希土類酸化物を含む層26及びシリカを含む層24における粒子間の密接な接触を容易にすることができる。乾燥粉末を用いる他の方法において、粉末をシリカを含む層と密接に接触させる反応中の粉末とシリカを含む層との密接な接触は、高圧を利用することができる。この高圧は、方法が用いることのできる基材の種類(例えば形状及び構造)を制限する場合があり、また、高圧を発生させ、支持する高コストの製造装置を要求する場合もある。
【0050】

例1
4±0.2μmの粒子サイズを有する30体積パーセント(体積%)の酸化ルテチウム(Lu23)粒子(abcr GmbH、Karlsruhe、ドイツから入手可能)を含むスラリー(水中)を調製した。スラリーは、商品名Dolapix CE64(Zschimmer&Schwarz GmbH&Co KG、Lahnstein、ドイツから入手可能)で入手可能な0.15質量%のカルボン酸系分散剤、及び約2.0質量%のポリエチレングリコール10000(Alfa Aesar、Haverhill、マサチューセッツから入手可能)も含んでいた。スラリーのpHは約9.5であった。
【0051】
約1300℃にて約48時間、SiC/SiC CMCを加熱することによりSiC/SiC CMCの表面を酸化した。スラリーを次いで浸漬コーティングを用いてSiC/SiC CMCの酸化された表面に適用した。コーティングされたCMCを、次いで約1350℃の温度にて約48時間加熱した。サンプルを次いでBruker AXS、Inc.、ウィスコンシン州マディソンから入手可能なX線回折装置を用いてX線回折により特性評価した。X線回折測定は、10°~80°の範囲の2θにおいて実施した。Xpert High Score Plusソフトウェア(PANalytical Inc.、Westborough、マサチューセッツから入手可能)を用い、回折データ国際センターデータベースを用いて相を特定した。図4は、得られたコーティングに関するX線強度対回折角2θのプロットである。図4に示されるように、コーティングは、ルテチウムモノシリケート、ルテチウムジシリケート、残留酸化ルテチウム、及び残留シリカを含んでいた。
【0052】
図5A~5Fは、ルテチウムシリケートを含む例のコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。SEM顕微鏡写真及びEDSプロットは、JEOL Ltd.、日本の東京から入手可能なJEOL JSM‐6010LAを用いて取得した。コーティングは約5μm~約7μmの厚さを有し、実質的に連続である。図5Bは、図5Aの位置52のEDSプロットを示す。図5Cは、図5Aの位置54のEDSプロットを示す。図5Dは、図5Aの位置56のEDSプロットを示す。図5Eは、図5Aの位置58のEDSプロットを示す。図5Fは、図5Aの位置60のEDSプロットを示す。EDSプロットに示されるように、これらの位置の各々は、おおよそ類似の割合でLu、O及びSiを含んでいた。
【0053】
例2
4±0.1μmの粒子サイズを有する20体積パーセント(体積%)の酸化イッテルビウム(Yb23)粒子(abcr GmbH、Karlsruhe、ドイツから入手可能)を含むスラリー(水中)を調製した。スラリーは、Sigma‐Aldrich、ミズーリ州のセントルイスから商品名Aluminoで入手可能な0.7質量%のアウリントリカルボン酸アンモニウム塩分散剤、及び約2.0質量%のポリエチレングリコール10000(Alfa Aesar、Haverhill、マサチューセッツから入手可能)も含んでいた。スラリーのpHは約8.0であった。
【0054】
約1300℃にて約48時間、SiC/SiC CMCを加熱することによりSiC/SiCの表面を酸化した。スラリーを次いで浸漬コーティングを用いてSiC/SiC CMCの酸化された表面に適用した。コーティングされたCMCを、次いで約1350℃の温度にて約48時間加熱した。サンプルを次いでBruker AXS、Inc.、ウィスコンシン州マディソンから入手可能なX線回折装置を用いてX線回折により特性評価した。X線回折測定は、10°~80°の範囲の2θにおいて実施した。Xpert High Score Plusソフトウェア(PANalytical Inc.、Westborough、マサチューセッツから入手可能)を用い、回折データ国際センターデータベースを用いて相を特定した。図6は、得られたコーティングに関するX線強度対回折角2θのプロットである。図6に示されるように、コーティングは、イッテルビウムモノシリケート、イッテルビウムジシリケート、及び残留酸化イッテルビウムを含んでいた。
【0055】
図7A~7Eは、イッテルビウムシリケートを含む例のコーティング内の各々の位置に関するSEM顕微鏡写真及びEDSプロットである。SEM顕微鏡写真及びEDSプロットは、JEOL Ltd.、日本の東京から入手可能なJEOL JSM‐6010LAを用いて取得した。コーティングは約15μm~約20μmの厚さを有し、実質的に連続である。図7Bは、図7Aの位置62のEDSプロットを示す。図7Cは、図7Aの位置64のEDSプロットを示す。図7Dは、図7Aの位置66のEDSプロットを示す。図7Eは、図7Aの位置68のEDSプロットを示す。EDSプロットに示されるように、これらの位置の各々は、おおよそ類似の割合でYb、O及びSiを含んでいた。
【0056】
比較例1
約1300℃にて約48時間、SiC/SiC CMCを加熱することによりSiC/SiC CMCの表面を酸化した。酸化されたCMCを、次いでアルミナるつぼ中の酸化イットリウム(Y23)粉末ベッド中に置き、焼結炉に置いた。酸化イットリウム粒子は3±0.1μmの粒子サイズを有し、abcr GmbH、Karlsruhe、ドイツから入手された。炉を次いで約1350℃の温度にて約48時間加熱した。サンプルを次いでBruker AXS、Inc.、ウィスコンシン州マディソンから入手可能なX線回折装置を用いてX線回折により特性評価した。X線回折測定は、10°~80°の範囲の2θにおいて実施した。Xpert High Score Plusソフトウェア(PANalytical Inc.、Westborough、マサチューセッツから入手可能)を用い、回折データ国際センターデータベースを用いて相を特定した。図8は、得られたコーティングに関するX線強度対回折角2θのプロットである。図8に示されるように、コーティングは、イットリウムモノシリケート、イットリウムジシリケート、及び残留シリカを含んでいた。
【0057】
図9A~9Dは、イットリウムシリケートを含む例のコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。SEM顕微鏡写真及びEDSプロットは、JEOL Ltd.、日本の東京から入手可能なJEOL JSM‐6010LAを用いて取得した。コーティングは不連続で不均一であった。図9Bは、図9Aの位置72のEDSプロットを示す。図9Cは、図9Aの位置74のEDSプロットを示す。図9Dは、図9Aの位置76のEDSプロットを示す。EDSプロットに示されるように、位置72及び76は、おおよそ類似の割合でY、O及びSiを含み、一方で位置74はSiとOを含むが実質的にYを含まなかった。
【0058】
比較例2
約1300℃にて約48時間、SiC/SiC CMCを加熱することによりSiC/SiC CMCの表面を酸化した。酸化されたCMCを、次いでアルミナるつぼ中の酸化ルテチウム(Y23)粉末ベッド中に置き、焼結炉に置いた。酸化ルテチウム粒子は4±0.2μmの粒子サイズを有し、abcr GmbH、Karlsruhe、ドイツから入手された。炉を次いで約1350℃の温度にて約48時間加熱した。サンプルを次いでBruker AXS、Inc.、ウィスコンシン州マディソンから入手可能なX線回折装置を用いてX線回折により特性評価した。X線回折測定は、10°~80°の範囲の2θにおいて実施した。Xpert High Score Plusソフトウェア(PANalytical Inc.、Westborough、マサチューセッツから入手可能)を用い、回折データ国際センターデータベースを用いて相を特定した。図10は、得られたコーティングに関するX線強度対回折角2θのプロットである。図10に示されるように、コーティングは、ルテチウムモノシリケート、ルテチウムジシリケート、残留酸化ルテチウム及び残留シリカを含んでいた。
【0059】
図11A~11Dは、ルテチウムシリケートを含む例のコーティング内の各々の位置に関する走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真及びエネルギー分散分光法(EDS)プロットである。SEM顕微鏡写真及びEDSプロットは、JEOL Ltd.、日本の東京から入手可能なJEOL JSM‐6010LAを用いて取得した。コーティングは不連続で不均一であった。図11Bは、図11Aの位置82のEDSプロットを示す。図11Cは、図11Aの位置84のEDSプロットを示す。図11Dは、図11Aの位置86のEDSプロットを示す。EDSプロットに示されるように、位置82がLu、O及びSiを含む一方、位置84及び86はSiとOを含むが実質的にLuを含まなかった。
【0060】
種々の例を記載してきた。これら及び他の例は、以下の特許請求の範囲内である。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11A
図11B
図11C
図11D