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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】有機性汚泥の改質装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
C02F11/00 Z ZAB
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017180701
(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公開番号】P2019055358
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-07-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸次
(72)【発明者】
【氏名】木内 智明
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0044306(US,A1)
【文献】実開平06-011900(JP,U)
【文献】特開2002-172398(JP,A)
【文献】特開2006-095475(JP,A)
【文献】特開2002-307089(JP,A)
【文献】特開2003-236588(JP,A)
【文献】特開2009-067872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0218128(US,A1)
【文献】特開2003-177105(JP,A)
【文献】特開平06-229919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性汚泥を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送された前記有機性汚泥を一時的に滞留させる反応槽と、
前記反応槽内の前記有機性汚泥に対して電磁波を照射する照射部と、
前記反応槽内の圧力を測定する圧力測定部と、
前記反応槽内の前記有機性汚泥の温度が前記反応槽内の飽和蒸気圧に対応した温度を超えないように、前記圧力測定部の測定結果に応じて決定される上限温度に基づいて、前記照射部による前記電磁波の照射量を制御する制御部と、
を備え
前記照射部が照射する電磁波の周波数は、800MHzから30GHzの範囲である、
有機性汚泥の改質装置。
【請求項2】
前記反応槽内に導入される前の前記有機性汚泥の温度を測定する温度測定部をさらに備え、
前記制御部は、前記圧力測定部の測定結果に応じて決定される前記上限温度と、前記温度測定部の測定結果と、の差分に基づいて、前記照射部による前記電磁波の照射量の上限値を決定する、
請求項1に記載の有機性汚泥の改質装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記反応槽内の前記有機性汚泥の温度が、前記有機性汚泥の改質効率を考慮して決定される所定の下限温度を超えるように、前記温度測定部の測定結果と前記所定の下限温度との差分に基づいて、前記照射部による前記電磁波の照射量の下限値を決定する、
請求項2に記載の有機性汚泥の改質装置。
【請求項4】
前記反応槽内に導入される前の前記有機性汚泥の含水率を測定する含水率測定部をさらに備え、
前記制御部は、前記上限温度と前記温度測定部の測定結果との差分と、前記含水率測定部の測定結果と、水の比熱と、前記反応槽内の前記有機性汚泥の質量と、に基づいて、前記上限値を決定し、前記温度測定部の測定結果と前記所定の下限温度との差分と、前記含水率測定部の測定結果と、水の比熱と、前記反応槽内の前記有機性汚泥の質量と、に基づいて、前記下限値を決定する、
請求項3に記載の有機性汚泥の改質装置。
【請求項5】
前記含水率測定部は、前記有機性汚泥に所定の電磁波を照射することで、前記有機性汚泥による前記所定の電磁波のエネルギーの吸収度合を測定し、当該吸収度合に基づいて、前記有機性汚泥の含水率を算出する、
請求項4に記載の有機性汚泥の改質装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記照射部を制御して前記電磁波の照射エネルギー密度を調整することで、前記照射量を制御する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の有機性汚泥の改質装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記搬送部を制御して前記反応槽内における前記有機性汚泥の滞留時間を調整することで、前記照射量を制御する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の有機性汚泥の改質装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機性汚泥の改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水汚泥や食品廃棄物などといった有機性汚泥からエネルギーを回収する技術が検討されている。このような技術の一つとして、微生物を用いて有機性汚泥を消化することでエネルギーを回収する技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、有機性汚泥としての下水汚泥や食品廃棄物は、そのまま消化槽(微生物による分解プロセスを行う槽)に投入しても、あまり高い分解率は得られない。このため、従来では、下水汚泥や食品廃棄物を消化槽に投入する前に、破砕装置などを用いた破砕処理や、ミルやスリコギなどを用いた機械的破砕、超音波照射、キャビテーション付加、衝撃波照射、加熱処理、凍結融解処理、薬品処理、電気分解、マイクロバブル照射などといった様々な前処理を行うことが検討されている。
【0004】
たとえば、有機性汚泥に対してマイクロ波(電磁波)を照射して有機性汚泥を改質する改質処理を前処理として行う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-217815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電磁波のエネルギーは、有機性汚泥の改質の他、有機性汚泥の温度上昇にも寄与する。基本的には、電磁波の照射量を大きくして有機性汚泥の温度を高くする程、有機性汚泥の改質効率は向上すると考えられる。
【0007】
しかしながら、水分を比較的多く含んだ有機性汚泥では、たとえば通常の大気圧下における電磁波の照射によって温度が100℃を超えると、電磁波のエネルギーは、有機性汚泥に含まれる水分を蒸発させるためのエネルギーとして主に消費されるので、改質効率が低下する。
【0008】
そこで、改質効率を損なわないように、有機性汚泥に対する電磁波の照射量を適切に制御することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態による有機性汚泥の改質装置は、搬送部と、反応槽と、照射部と、圧力測定部と、制御部と、を備える。搬送部は、有機性汚泥を搬送する。反応槽は、搬送部により搬送された有機性汚泥を一時的に滞留させる。照射部は、反応槽内の有機性汚泥に対して電磁波を照射する。圧力測定部は、反応槽内の圧力を測定する。制御部は、反応槽内の有機性汚泥の温度が反応槽内の飽和蒸気圧に対応した温度を超えないように、圧力測定部の測定結果に応じて決定される上限温度に基づいて、照射部による電磁波の照射量を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態における有機性汚泥の分解プロセスを示した例示的な図である。
図2図2は、実施形態における改質処理を含んだ有機性汚泥に対する処理の流れを示した概略的なフロー図である。
図3図3は、実施形態における有機性汚泥の改質過程を示した例示的な帯グラフである。
図4図4は、実施形態における電磁波の照射の効果を説明するための例示的なグラフである。
図5図5は、実施形態による改質装置の構成を示した例示的な図である。
図6図6は、実施形態において考慮される水の飽和蒸気圧曲線を示した例示的な図である。
図7図7は、実施形態において考慮される、バイオガスの発生効率と温度との関係を示した例示的な図である。
図8図8は、実施形態の変形例における有機性汚泥に対する処理の流れを示した概略的なフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0012】
まず、実施形態が適用される技術分野の概略について説明する。この実施形態(後述する他の実施形態も同様)は、下水汚泥や食品廃棄物などといった有機性汚泥をメタン菌などの微生物によって分解することでバイオガスを生成し、エネルギーを回収する技術に適用される。
【0013】
図1は、実施形態における有機性汚泥の分解プロセスを示した例示的な図である。
【0014】
図1に示されるように、一般に、有機性汚泥は、タンパク質や炭水化物、脂質などといった有機物と、無機物などの非分解物と、に分解されうる。
【0015】
また、タンパク質や炭水化物、脂質などといった有機物は、アミノ酸や、糖類、脂肪酸などに分解(低分子化)されうる。そして、これらの低分子化された有機物は、有機酸や酢酸などの有機物にさらに分解(低分子化)されうる。
【0016】
このような分解プロセスは、上記したメタン菌などの微生物の働きによって実現される。微生物は、分解プロセスを実現する際に、メタン(CH)や、二酸化炭素(CO)、水素(H)などといったバイオガスを生成する。
【0017】
ところで、有機性汚泥としての下水汚泥や食品廃棄物は、高分子の有機物であり、微生物による分解スピードが比較的遅いため、そのまま消化槽(微生物による分解プロセスを行う槽)に投入しても、あまり高い分解率は得られない。
【0018】
したがって、従来から、下水汚泥や食品廃棄物を消化槽に投入する前に、破砕装置などを用いた破砕処理や、ミルやスリコギなどを用いた機械的破砕、超音波照射、キャビテーション付加、衝撃波照射、加熱処理、凍結融解処理、薬品処理、電気分解、マイクロバブル照射などといった様々な前処理を行うことが検討されている。
【0019】
そこで、実施形態では、より高い分解率を得るために、有機性汚泥に対して電磁波を照射して有機性汚泥を改質する改質処理を前処理として実行する例について説明する。
【0020】
図2は、実施形態における改質処理を含んだ有機性汚泥に対する処理の流れを示した概略的なフローチャートである。
【0021】
図2に示されるように、有機性汚泥に対する処理においては、まず、微生物を用いた消化処理が実行される(S1)。そして、消化処理後に、脱水処理が実行される(S2)。そして、脱水処理の後に、乾燥処理が実行される(S3)。なお、乾燥処理後の有機性汚泥は、廃棄される。
【0022】
実施形態による改質処理は、消化処理の後か、または脱水処理の後に実行される。そして、これら改質処理が実行された後は、消化処理に処理が戻る。これにより、消化処理をより効果的に実行することが可能になる。
【0023】
すなわち、実施形態では、消化処理の後に改質処理が実行されて再び消化処理に戻る場合もあれば(S4)、脱水処理の後に改質処理が実行されて再び消化処理に戻る場合もある(S5)。なお、S4およびS5の改質処理は、両方が実行されてもよいし、一方のみが実行されてもよい。
【0024】
ここで、以下に説明するように、電磁波の照射による有機性汚泥の改質は、有機性汚泥中における水溶性有機物の割合の増加につながる。水溶性有機物は、分解率が比較的高く、かつ分解スピードも比較的早いため、水溶性有機物の割合の増加は、より多くのバイオガスをより効率的に得ることにつながる。
【0025】
図3は、実施形態における有機性汚泥の改質過程を示した例示的な帯グラフである。
【0026】
より具体的に、図3は、電磁波の照射前(改質前)と、電磁波の照射後(改質後)と、微生物による分解後と、の3つの状態における、有機性汚泥の成分構成を示した帯グラフである。この図3によれば、電磁波の照射による有機性汚泥の改質が、有機性汚泥中の水溶性有機物の割合の増加につながっているということが分かる。
【0027】
また、図4は、実施形態における電磁波の照射の効果を説明するための例示的なグラフである。
【0028】
図4に示されるように、電磁波を照射した場合(改質後:L1参照)は、電磁波を照射していない場合(未改質:L2参照)よりも、バイオガスの発生量が明らかに多くなる。より具体的に、電磁波を照射した場合は、電磁波を照射していない場合と異なり、比較的早い段階で、より多くのバイオガスが発生している(領域A参照)。これは、電磁波を照射した場合が、電磁波を照射していない場合に比べて、分解率が高い水溶性有機物をより多く含んでいることが理由である。
【0029】
なお、水溶性有機物がある程度分解された後は、電磁波を照射した場合でも電磁波を照射していない場合でも同様に、非水溶性有機物の分解が主として行われる。このため、ある程度時間が経った後は、電磁波を照射した場合も、電磁波を照射していない場合も、略同様のスピードでバイオガスが発生する(領域BおよびC参照)。
【0030】
このように、有機性汚泥に対する電磁波の照射は、有機性汚泥中の水溶性有機物の割合を増加させ、より多くのバイオガスをより効率的に得ることにつながる。
【0031】
そこで、実施形態は、以下のように構成された装置を用いて、有機性汚泥に電磁波を照射する。なお、以下では、有機性汚泥の一例としての下水汚泥に実施形態の技術を適用する場合について説明するが、実施形態の技術は、食品廃棄物や、脱水ケーキ、バイオマスなどの他の有機性資源にも適用可能である。
【0032】
図5は、実施形態による改質装置500の構成を示した例示的な図である。この改質装置500は、含水率が比較的高い(たとえば70%以上の)下水汚泥Xを処理対象とする場合に有効である。
【0033】
図5に示されるように、改質装置500は、投入部501と、ポンプ502aと、搬送路502bと、温度測定部503と、含水率測定部504と、反応槽505と、照射部506と、圧力測定部507と、温度測定部508と、制御部510と、を有している。
【0034】
投入部501は、下水汚泥Xの投入口である。ポンプ502aは、ホッパーなどを有し、投入部501から投入された下水汚泥Xを搬送路502bに送り出す。搬送路502bは、投入部501と、温度測定部503と、含水率測定部504と、反応槽505と、圧力測定部507と、温度測定部508と、を連通する。したがって、ポンプ502aおよび搬送路502bは、下水汚泥Xを搬送する搬送部として機能する。
【0035】
温度測定部503は、下水汚泥Xの温度を測定する。また、含水率測定部504は、下水汚泥Xの含水率を測定する。なお、含水率の測定方法は、下水汚泥Xを乾燥させない方法であれば、どのような方法が用いられてもよい。
【0036】
たとえば、含水率の測定方法の一例として、下水汚泥Xの電気伝導度を測り、当該電気伝導度に基づいて含水率を算出する方法が考えられる。この方法は、一般的によく知られた方法であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0037】
また、含水率の測定方法の他の一例として、下水汚泥Xに所定の電磁波(たとえば照射部506が照射する電磁波と同等の電磁波)を照射することで、下水汚泥Xによる所定の電磁波のエネルギーの吸収度合を測定し、当該吸収度合に基づいて、含水率を算出する方法も考えられる。この方法は、従来に無い新規な方法であり、有効である。この方法では、たとえば、所定の電磁波が照射される前段および後段に所定の電磁波を検知するアンテナなどを設け、当該前段および後段における所定の電磁波のエネルギー量の比をとることで、吸収度合が測定される。
【0038】
反応槽505は、下水汚泥Xを一時的に滞留させる。そして、照射部506は、反応槽505内の下水汚泥Xに対して電磁波を照射する。なお、ここで用いられる電磁波の周波数は、たとえば800MHz~30GHzの範囲に設定される。
【0039】
ところで、照射部506により照射される電磁波のエネルギーは、下水汚泥Xの改質の他、下水汚泥Xの温度上昇にも寄与する。詳細は後述するが、基本的には、電磁波の照射量を大きくして下水汚泥Xの温度を高くする程、下水汚泥Xの改質効率(バイオガスの発生効率)は向上すると考えられる。
【0040】
しかしながら、下水汚泥Xは、水分を比較的多く含んでいるため、たとえば通常の大気圧下における電磁波の照射によって温度が100℃を超えると、電磁波のエネルギーは、下水汚泥Xに含まれる水分を蒸発させるためのエネルギーとして主に消費され、改質効率が低下する。
【0041】
したがって、実施形態では、反応槽505内の圧力(気圧)と、当該圧力に対応した水の沸点と、の関係を考慮して、下水汚泥Xに対する電磁波の照射量を適切に設定することが重要となる。
【0042】
そこで、実施形態による改質装置500は、反応槽505内の圧力を測定する圧力測定部507と、反応槽505内の下水汚泥Xの温度が当該反応槽505内の飽和蒸気圧に対応した温度を超えないように、圧力測定部507の測定結果に応じて決定される上限温度に基づいて、照射部506による電磁波の照射量を制御する制御部510と、を有している。
【0043】
図6は、実施形態において考慮される水の飽和蒸気圧曲線を示した例示的な図である。
【0044】
図6において、縦軸は、水の飽和蒸気圧を示し、当該縦軸の数値は、紙面の下から上に向かって大きくなる。また、図6において、横軸は、水の温度を示し、当該横軸の数値は、紙面の左から右に向かって大きくなる。図6に示されるように、水の飽和蒸気圧は、温度が大きいほど大きくなる。
【0045】
圧力測定部507の測定結果と、図6に示される飽和蒸気圧曲線と、を利用すれば、反応槽505内の圧力に応じた水の沸点(上限温度)が分かる。そして、上限温度が分かれば、下水汚泥Xの温度が上限温度を超えないように、照射部506による電磁波の照射量を制御(調整)することが可能である。
【0046】
なお、電磁波の照射量を制御する方法としては、照射部506の電源(不図示)などの出力を制御して電磁波の照射エネルギー密度を調整する方法と、下水汚泥Xを搬送する搬送部(ポンプ502aおよび搬送路502b)を制御して反応槽505内における下水汚泥Xの滞留時間を調整する方法と、の2つの方法が考えられるが、実施形態では、前者の方法で電磁波の照射量を制御する例として説明する。
【0047】
実施形態において、制御部510は、以下のような計算で、照射部506による電磁波の照射量(エネルギー量)の上限値を求める。
【0048】
まず、下水汚泥Xの水分の蒸発を回避可能な温度の上限値である上限温度をTmaxとし、電磁波の照射前の温度をTとすると、許容される温度上昇の上限値ΔTmaxは、下記の式(1)で表すことが可能である。
【0049】
ΔTmax=Tmax-T …(1)
【0050】
なお、上記の式(1)において、Tmaxは、圧力測定部507の測定結果と、図6に示される飽和蒸気圧曲線と、から求めることが可能であり、Tは、反応槽505よりも前段に設けられた温度測定部503の測定結果から求めることが可能である。
【0051】
そして、反応槽505内の下水汚泥Xの質量をM、下水汚泥Xの含水率を百分率で表したものをA、水の比熱をBとすると、下水汚泥Xに上限値ΔTmax分の温度上昇をもたらす電磁波の照射量(エネルギー量)の上限値Emaxは、下記の式(2)で表することが可能である。
【0052】
Emax=ΔTmax×(M×(A/100)×B)/3600 …(2)
【0053】
上記の式(2)において、Mは、反応槽505の大きさに応じた値であり、Bは、水の特性に応じた値であるため、基本的には定数となる。一方、Aは、含水率測定部504の測定結果から求めることが可能である。なお、3600という数字は、Emaxの単位をkWh、Mの単位をkg、Bの単位をJ/g・Kと想定した場合に計算の整合をとるための数字である。
【0054】
このように、実施形態において、制御部510は、圧力測定部507の測定結果に応じた上限温度(Tmax)と、温度測定部503の測定結果(T)と、の差分(ΔTmax)に基づいて、照射部506による電磁波の照射量の上限値(Emax)を決定する。
【0055】
より具体的に、制御部510は、圧力測定部507の測定結果に応じた上限温度(Tmax)と温度測定部503の測定結果(T)との差分(ΔTmax)と、含水率測定部504の測定結果(A)と、水の比熱(B)と、反応槽505内の下水汚泥Xの質量(M)と、に基づいて、照射部506による電磁波の照射量の上限値(Emax)を決定する。
【0056】
ところで、上述した上限温度(大気圧下では100℃)以下の温度範囲における下水汚泥Xの改質効率(つまりバイオガスの発生効率)は、以下のようになっている。
【0057】
図7は、実施形態において考慮される、バイオガスの発生効率と温度との関係を示した例示的な図である。
【0058】
図7において、縦軸は、バイオガスの発生効率(バイオガスの発生量/電磁波の照射エネルギー量)を示し、当該縦軸の数値は、紙面の下から上に向かって大きくなる。また、図7において、横軸は、電磁波の照射エネルギー密度を示し、当該横軸の数値は、紙面の左から右に向かって大きくなる。また、図7において、40℃、50℃、60℃、80℃、および100℃という表記は、対応する電磁波の照射エネルギー密度によって実現される下水汚泥Xの温度を示す。
【0059】
図7に示されるように、バイオガスの発生効率(つまり下水汚泥Xの改質効率)は、約50℃以下の温度範囲では非常に低いが、約50℃~80℃の温度範囲で急激に向上し、80℃~100℃の温度範囲では略横ばいとなる。
【0060】
したがって、図7を考慮すると、実施形態では、所定以上の改質効率を確保する観点から、下水汚泥Xの温度が低くとも約50℃以上になるように、照射部506による電磁波の照射量(エネルギー量)に下限値を設定することが望まれる。
【0061】
そこで、実施形態において、制御部510は、以下のような計算で、照射部506による電磁波の照射量(エネルギー量)の下限値を求める。
【0062】
まず、所定以上の改質効率を確保するために最低限実現すべき下限温度をTminとし、電磁波の照射前の温度をTとすると、最低限実現すべき下水汚泥Xの温度上昇の下限値ΔTminは、下記の式(3)で表すことが可能である。
【0063】
ΔTmin=Tmin-T …(3)
【0064】
なお、上記の式(3)において、Tminは、図7に示されるような、バイオガスの発生効率(つまり下水汚泥Xの改質効率)と温度との関係を考慮して決定される値(図7に示される例では約50℃)である。また、Tは、反応槽505よりも前段に設けられた温度測定部503の測定結果から求めることが可能である。
【0065】
そして、反応槽505内の下水汚泥Xの質量をM、下水汚泥Xの含水率を百分率で表したものをA、水の比熱をBとすると、下水汚泥Xに下限値ΔTmin分の温度上昇をもたらす電磁波の照射量(エネルギー量)の下限値Eminは、下記の式(4)で表することが可能である。
【0066】
Emin=ΔTmin×(M×(A/100)×B)/3600 …(4)
【0067】
上記の式(4)において、Mは、反応槽505の大きさに応じた値であり、Bは、水の特性に応じた値であるため、基本的には定数となる。一方、Aは、含水率測定部504の測定結果から求めることができる。なお、3600という数字は、Emaxの単位をkWh、Mの単位をkg、Bの単位をJ/g・Kと想定した場合に計算の整合をとるための数字である。
【0068】
このように、実施形態において、制御部510は、反応槽505内の下水汚泥Xの温度が、下水汚泥Xの改質効率(図7参照)を考慮して決定される所定の下限温度(Tmin)を超えるように、温度測定部503の測定結果(T)と所定の下限温度(Tmin)との差分(ΔTmin)に基づいて、照射部506による電磁波の照射量(エネルギー量)の下限値(Emin)を決定する。
【0069】
より具体的に、制御部510は、温度測定部503の測定結果(T)と所定の下限温度(Tmin)との差分(ΔTmin)と、含水率測定部504の測定結果(A)と、水の比熱(B)と、反応槽505内の下水汚泥Xの質量(M)と、に基づいて、照射部506による電磁波の照射量(エネルギー量)の下限値(Emin)を決定する。
【0070】
なお、実施形態では、下限温度のみならず、上限温度も、図7に示されるような、バイオガスの発生効率(つまり下水汚泥Xの改質効率)と温度との関係を考慮して決定されうる。たとえば、図7に示される例では、バイオガスの発生効率が所定以上となるのは、約50℃~100℃の温度範囲であると言える。したがって、実施形態では、この100℃という温度を上限温度(Tmax)として、上述した式(1)および(2)に基づき、電磁波の照射量(エネルギー量)の上限値(Emax)が算出されてもよい。
【0071】
図5に戻り、実施形態では、反応槽505よりも後段に、電磁波の照射後(つまり改質後)の下水汚泥Xの温度を測定する温度測定部508が設けられている。この温度測定部508の測定結果は、反応槽505内の処理によって下水汚泥Xの温度が実際に所望の温度範囲(上述した例では約50℃~100℃の温度範囲)内に収まっているか否かのチェックに使用することが可能である。
【0072】
上記のようなチェックは、たとえば制御部510によって実行される。チェックの結果、下水汚泥Xの温度が所望の温度範囲内に収まっていると判定された場合は、その下水汚泥Xをそのまま次の工程に進めても問題がない。しかしながら、下水汚泥Xの温度が所望の温度範囲内から外れていると判定された場合、その下水汚泥Xをそのまま次の工程に進めると、改質が不十分な下水汚泥Xが次の工程に進むことになる。
【0073】
したがって、実施形態は、温度測定部508の測定結果をフィードバックし、下水汚泥Xの温度が所望の温度範囲内に収まっているか否かに応じて、下水汚泥Xをそのまま次の工程に進めるか、あるいは再度改質を施すために反応槽505よりも前段に戻すかを切り替えるように構成されていてもよい。
【0074】
以上説明したように、実施形態による改質装置500は、反応槽505内の下水汚泥Xの温度が反応槽505内の飽和蒸気圧に対応した温度を超えないように、圧力測定部507の測定結果に応じて決定される上限温度に基づいて、照射部506による電磁波の照射量を制御する制御部510を有している。これにより、電磁波のエネルギーが下水汚泥Xの水分の蒸発に使われるのを抑制することができる。つまり、電磁波のエネルギーが下水汚泥Xの改質に主として使われることになるので、下水汚泥Xの改質効率が損なわれるのを抑制することができる。このように、実施形態によれば、改質効率を損なわないように、下水汚泥Xに対する電磁波の照射量を適切に制御することができる。
【0075】
<変形例>
上述した実施形態の技術は、消化槽を持たない他の処理場(下水処理場)から排出される有機性汚泥を受け入れ、受け入れた有機性汚泥に改質を施すとったビジネスモデルにも適用可能である。このビジネスモデルでは、運搬の便宜のため、他の処理場から排出される有機性汚泥は、脱水されて、いわゆる脱水ケーキとなる。
【0076】
図8は、実施形態の変形例における有機性汚泥に対する処理の流れを示した概略的なフロー図である。
【0077】
図8に示されるように、変形例では、他の処理場からの脱水ケーキに対して、上述した改質装置500などを用いた改質処理が実行される(S11)。そして、改質処理の後に、消化処理が実行される(S12)。そして、消化処理の後に、脱水処理が実行される(S13)。
【0078】
なお、上述した実施形態では、脱水処理の後に、乾燥処理が実行される例を示したが(図2参照)、脱水処理の後の乾燥処理は、特に必須ではない。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態およびその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
500 改質装置
502a ポンプ(搬送部)
502b 搬送路(搬送部)
503 温度測定部
504 含水率測定部
505 反応槽
506 照射部
507 圧力測定部
X 下水汚泥(有機性汚泥)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8