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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
C08J7/00 302
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017181212
(22)【出願日】2017-09-21
(65)【公開番号】P2019056055
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】野村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】生駒 篤
(72)【発明者】
【氏名】ダサナヤケ アルツゲ ラシカ
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501862(JP,A)
【文献】特開2016-052620(JP,A)
【文献】特開2019-018175(JP,A)
【文献】特開2014-036935(JP,A)
【文献】国際公開第2017/152240(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105435652(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C71/04、C08J7/00-7/02、7/12-7/18、
B01J20/00-20/28、20/30-20/34、
B01D53/02-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体と、SP値が15~25(MPa)1/2である樹脂とを含み、前記樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリビニルエステル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルハライド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ乳酸、ポリオキシアルキレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、並びにこれらの共重合体、複合体及び混合体からなる群から選択される1種以上であり、前記樹脂中に前記金属有機構造体が分散した複合材料からなる表面を有し、
前記複合材料からなる表面に前記金属有機構造体が露出しており、
下記式(1)により求められる、表面に露出している金属有機構造体比率が5~98%であり、
前記複合材料からなる表面に凹凸構造を有し、
前記凹凸構造が、上面視で当該凹凸構造と同じ大きさの平面に対して1.2倍以上10倍以下の表面積を持つ、成形体。
表面に露出している金属有機構造体比率=(A/B)×100 ・・・(1)
ただし、Aは、X線光電子分光法により測定される、前記複合材料からなる表面における前記金属有機構造体由来の金属原子の量(atm%)を示し、
Bは、前記金属有機構造体における金属原子の量(atm%)を示す。
【請求項2】
前記凹凸構造が規則的周期構造を含む請求項に記載の成形体。
【請求項3】
前記樹脂の前記金属有機構造体に対する質量比が2/98~90/10である請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記樹脂の前記金属有機構造体に対する質量比が10/90~50/50である請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
前記金属有機構造体が結晶構造を有し、前記結晶構造の大きさの中央値が10nm~500μmである請求項1~4のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項6】
前記結晶構造の大きさの中央値が50nm~100μmである請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
前記結晶構造の大きさの中央値が500nm~20μmである請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
金属有機構造体と、SP値が15~25(MPa)1/2である樹脂とを含み、前記樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリビニルエステル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルハライド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ乳酸、ポリオキシアルキレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、並びにこれらの共重合体、複合体及び混合体からなる群から選択される1種以上であり、前記樹脂中に前記金属有機構造体が分散した複合材料からなる表面を有する一次成形体を製造し、
前記一次成形体の前記複合材料からなる表面に物理処理を施し、前記金属有機構造体を露出させる、成形体の製造方法。
【請求項9】
前記物理処理が、コロナ処理、プラズマ処理、及び火炎処理からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
前記一次成形体の前記複合材料からなる表面に、前記物理処理を施す前又は後に、凹凸構造を形成する請求項8又は9に記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
前記凹凸構造が、上面視で当該凹凸構造と同じ大きさの平面に対して1.2倍以上10倍以下の表面積を持つ、請求項10に記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂の前記金属有機構造体に対する質量比が2/98~90/10である請求項8~11のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂の前記金属有機構造体に対する質量比が10/90~50/50である請求項12に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属-有機複合体(Metal-Organic Framework;以下、「MOF」とも記す。)あるいは多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer;以下、「PCP」とも記す。)は、金属イオンと、複数の配位性官能基を有する有機配位子との、配位結合による結合形成を経て得られる、1次元、2次元又は3次元の規則的かつ連続的構造を有する構造体である(例えば非特許文献1)。
例えば、硝酸亜鉛6水和物とテレフタル酸(1,4-ベンゼンジカルボン酸、あるいはHBDCとも称される。)とを、加圧及び加熱して反応させるか、三級アミンを触媒として反応させると、組成式ZnO(BDC)で表される構造体が得られる。BDCは、1,4-ベンゼンジカルボキシレートを示す。この構造体は、前述の組成式の構造が3次元的に連続して連なった構造体であり、MOF-5という名称で呼ばれることがある。
【0003】
MOFの特徴は、その構造中の空孔にある。この空孔は金属や有機物を変えることにより、大きさや形を自由に設計することが可能である。このことから、MOFは、ガスや液体の貯蔵、種々の物質の分離又は濾過等への応用が期待されている。ゼオライトや活性炭等の従来の多孔質材料との違いは、金属種や有機化合物の構造により、孔の大きさや構造を設計できる点にある。即ち、MOFは、吸着、貯蔵、分離又は濾過する分子に応じて、空孔の大きさや形、極性を調整することが可能である。
MOFは、構造中の金属を触媒として用いることも可能である。MOFは、空孔内に種々の材料を内包することにより、磁性材料、イオン伝導性材料、センサ、光学材料等の多彩な用途に用いることも可能である。MOFの構造、機能、応用分野等は、多くの総説により報告されている(例えば非特許文献2)。
【0004】
MOFは、金属原子、金属イオン、金属クラスタ、又はMOF形成のための配位数調整を行った金属含有二次構造単位(secondary building unit;以下、SBUとも記す。)間を、剛直な有機配位子で結合した規則構造体からなる場合がほとんどである。このため、MOFは結晶性が高く、単結晶、あるいは多結晶構造をとることが多い。また、MOFは本質的にその内部に空孔を有する。このため、MOF結晶は脆く、フィルムや弾性体等の基材の表面にMOFを配した場合、物理的な接触や衝撃により破損したり、基材の変形によりMOFの破損や脱落が生じたりして、MOFとしての機能を喪失する場合がある。
【0005】
最近、MOFを樹脂と複合することが検討されている。非特許文献3には、金属としてジルコニウム(Zr)、有機配位子としてテレフタル酸を有するMOF(UiO-66)を、スチレン-ブタジエン共重合体(SBS又SBR)又はポリスチレン(PS)と複合することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】CrystEngComm、2012年、14巻、3001頁
【文献】Science and Technology of Advanced Materials、16巻、2015年、論文番号054202
【文献】Chemical Communications、2016年、52巻、14376頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献3の方法でMOFと樹脂とを複合すると、MOFの多孔質性が犠牲になり、吸着性能が低下する。樹脂の比率を増やすにつれ、屈曲性や物理的強度は増すが、吸着性能の低下が著しくなる。すなわち、屈曲性や物理的強度と、吸着性能とがトレードオフの関係にある。
【0008】
本発明は、MOFの多孔質性に由来する機能と、樹脂複合による効果とを両立できる成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
〔1〕金属有機構造体と、SP値が15~25(MPa)1/2である樹脂とを含む複合材料からなる表面を有し、
前記複合材料からなる表面に前記金属有機構造体が露出しており、
下記式(1)により求められる、表面に露出している金属有機構造体比率が5~98%である、成形体。
表面に露出している金属有機構造体比率=(A/B)×100 ・・・(1)
ただし、Aは、X線光電子分光法により測定される、前記複合材料からなる表面における前記金属有機構造体由来の金属原子の量(atm%)を示し、
Bは、前記金属有機構造体における金属原子の量(atm%)を示す。
〔2〕前記複合材料からなる表面に凹凸構造を有する〔1〕の成形体。
〔3〕前記凹凸構造が規則的周期構造を含む〔2〕の成形体。
〔4〕前記樹脂の前記金属有機構造体に対する質量比が2/98~90/10である〔1〕~〔3〕のいずれかの成形体。
〔5〕前記金属有機構造体が結晶構造を有し、前記結晶構造の大きさの中央値が10nm~500μmである〔1〕~〔4〕のいずれかの成形体。
〔6〕前記結晶構造の大きさの中央値が50nm~100μmである〔5〕の成形体。
〔7〕前記結晶構造の大きさの中央値が500nm~20μmである〔6〕の成形体。
〔8〕金属有機構造体と、SP値が15~25(MPa)1/2である樹脂とを含む複合材料からなる表面を有する一次成形体を製造し、
前記一次成形体の前記複合材料からなる表面に物理処理を施し、前記金属有機構造体を露出させる、成形体の製造方法。
〔9〕前記物理処理が、コロナ処理、プラズマ処理、及び火炎処理からなる群から選ばれる少なくとも1種である〔8〕の成形体の製造方法。
〔10〕前記一次成形体の前記複合材料からなる表面に、前記物理処理を施す前又は後に、凹凸構造を形成する〔8〕又は〔9〕の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、MOFの多孔質性に由来する機能と、樹脂複合による効果とを両立できる成形体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の成形体の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の成形体の他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔成形体〕
本発明の成形体(以下、「本成形体」とも記す。)は、MOFと、SP値が15~25(MPa)1/2である樹脂とを含む複合材料からなる表面(以下、「複合材料面」とも記す。)を有する。複合材料については後で詳しく説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
複合材料面を有する成形体としては、例えば、以下の(i)、(ii)が挙げられる。ただし、本成形体は、これらに限定されない。
(i)複合材料からなる成形体。
(ii)複合材料以外の材料からなる基材と、基材上に設けられた複合材料からなる層(以下、「複合材料層」とも記す。)とを有する成形体(積層体)。
【0014】
上記(i)の成形体は、複数の複合材料層が積層した積層体であってもよい。
上記(ii)の成形体において、基材の材質としては、特に限定されず、例えば樹脂、金属、セラミック、ガラス、木材、紙類、布類等が挙げられる。
上記(ii)の成形体は、基材と複合材料層との間に他の層を更に有していてもよい。
【0015】
本成形体の形状等は特に限定されず、例えばシート状、フィルム状、立体形状等、任意の形状であってよい。MOFの表面機能をより活用できる点では、表面積が大きな形状が好ましい。その一例として、シート状形態、フィルム状形態が挙げられる。
本成形体が、表面積の少ないバルク状形態である場合や、シート状形態またはフィルム状形態であっても柔軟性等の特性が必要な場合には、複合材料以外の材料からなる基材に、複合材料層を設けてもよい。
【0016】
図1は、本成形体の一例を示す模式断面図である。この例の成形体1は、複合材料からなるシートである。成形体1の第1面1a及びその反対側の第2面1bはそれぞれ複合材料面である。成形体1の厚さは特に制限はないが、例えば、10μm~10mmであってよい。
図2は、本成形体の他の例を示す模式断面図である。この例の成形体2は、基材3と、基材3の両面それぞれに積層された複合材料層4とを含む積層シートである。成形体2の第1面2a及びその反対側の第2面2bはそれぞれ複合材料面である。基材3の厚さは、特に制限されないが、例えば柔軟シートの例として挙げれば10μm~30mmであってよい。複合材料層4の厚さは、成形体が必要とする表面機能、基材の柔軟性などの機械的特性、複合材料層の基材追従性や密着性などを勘案して決められるため、一概に言えないが、例えば一例として挙げれば1μm~1mmであってよい。
なお、図1図2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。成形体2において、複合材料層4は基材3の片面のみに積層されていてもよい。
【0017】
本成形体の複合材料面にはMOFが露出している。また、本成形体の下記式(1)により求められる、表面に露出しているMOF比率(以下、「表面露出MOF比率」とも記す。)は、5~98%である。
表面露出MOF比率は、複合材料面のうち、MOFが露出している部分が占める割合を示す指標である。表面露出MOF比率が上記下限値以上であれば、MOFの多孔質性に由来する機能(吸着機能等。以下、「MOF機能」とも記す。)が充分に発現する。表面露出MOF比率が上記上限値以下であれば、MOFの破損や脱落が生じにくく、MOF機能の耐久性が優れる。
MOF比率は、10~90%が好ましく、15~80%がより好ましく、46~80%がさらに好ましい。
【0018】
表面露出MOF比率=(A/B)×100 ・・・(1)
ただし、Aは、X線光電子分光法(以下、「XPS」とも記す。)により測定される複合材料面におけるMOF由来の金属原子の量(atm%)を示し、
Bは、MOFにおける金属原子の量(atm%)を示す。
【0019】
XPSによる金属原子の量Aは、XPSで測定される、リチウム以上の原子量を有する原子の全原子量(100atm%)に対する比率である。金属原子の量Aの測定方法の詳細は、後述する実施例に示す。
MOFにおける金属原子の量Bは、MOFを構成する、リチウム以上の原子量を有する原子の全原子量(100atm%)に対する比率である。金属原子の量Bは、MOFの組成式から算出される。
複合材料が複数のMOFを含む場合、Bの値は、各MOFの質量を重みとして、各MOFの金属原子の量を加重平均した値とする。
表面露出MOF比率は、複合材料におけるMOFと樹脂との質量比、複合材料面に施す物理処理の条件等によって調整できる。
なお、走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のエネルギー分散型X線分析(EDX)装置により複合材料面の元素分析を行うことで、表面露出MOF比率を簡易に確認することができる。EDXによる値は、必ずしも上記式(1)による値とは一致しないが、上記式(1)による値と同様の傾向を示す。例えばEDXによる値が大きいほど、上記式(1)による値も大きい傾向がある。
【0020】
本成形体は、複合材料面に凹凸構造を有することが好ましい。
凹凸構造としては、例えば、複数の凸部又は凹部が分散配置された形状、複数の凸条又は溝が平行に配置された形状(いわゆるラインアンドスペース)、うねり形状等が挙げられる。凸部又は凸部の形状としては、例えば円柱状、多角柱状、半球状、円錐状、多角錐状等が挙げられる。
【0021】
複合材料面に凹凸構造を有することで、以下の二つの効果が得られる。
一つは表面積の増大である。成形体中のMOFは、成形体の表面に位置しているものがより機能を発揮する。表面積を増大させることで、表面に位置するMOFが増え、成形体中のMOFをより活用することができる。
もう一つの効果は、成形体の表面に気体や液体等の乱流を生じさせることである。MOF機能としては、気体や液体の吸着、貯蔵、分離等がある。吸着、貯蔵、分離等の対象となる気体や液体が成形体の表面を通過する際、成形体の表面が平面であると、気体や液体がそのまま流れていくため、成形体表面付近での気体や液体の濃度が低下しやすい可能性がある。表面に凹凸構造があれば、そこで気体や液体の乱流を生じ、表面付近の気体や液体が撹拌される。これにより、成形体表面で、吸着、貯蔵、分離等の対象となる気体や液体の濃度が低下せず、効果的な機能発現を行うことができる。
【0022】
表面積を増大の観点からは、凹凸構造は、上面視で同じ大きさの平面に対して1.2倍以上の表面積を実現する形状であることが好ましい。
一方で、平面に対して極端に表面積が大きくなると、凹凸構造が壊れやすくなる。具体的な上限は樹脂の物性によるため一概に言えないが、例えば、表面積を平面に対して10倍超にするような、高さ方向のアスペクト比(高さ/幅)の大きいラインアンドスペースを表面に形成すると、凹凸構造は不安定かつ脆弱化しやすい。したがって、凹凸構造の表面積は、上面視で同じ大きさの平面の表面積の10倍以下が好ましい。
【0023】
機能発現に効果的な凹凸構造は、対象とする気体や液体の流れの方向や速さ等からシミュレーションにより規定することができるが、複数の凸部が分散配置された形状、流れの方向に沿ったラインアンドスペース等が好ましい。
凹凸構造は、気体や液体の流れを複合材料面全面に行き渡らせやすい点で、規則的周期構造を含むことが好ましい。規則的周期構造は、製造しやすいという面からも好ましい。
規則的周期構造では、同じ大きさの複数の構造(凸部、凹部、凸条、溝等)が一定のピッチで、複合材料面の面内の一定の方向に配列している。複数の構造の配列方向は1方向でもよく2方向以上でもよい。
規則的周期構造を構成する複数の構造の大きさは、対象とする気体や液体に応じて選定される。成形性の点では、配列方向における幅(凸部又は凹部の直径、凸条又は溝の幅等)は、20nm~1mmの範囲内が妥当である。高さ方向のアスペクト比は、耐久性の点から、10以下が好ましい。ピッチは、例えば20nm~5mmとすることができる。
【0024】
(MOF)
MOFとしては、MOFの定義に従ったものであれば特に制限は無い。MOFは、金属原子(金属イオンであってもよい。)と、2以上の配位性官能基を有する有機配位子とが連続的に結合している構造体である。MOFは、典型的には、内部に複数の空孔を有する多孔質体である。MOFは、空孔内に何らかの機能性分子を包接していてもよい。
【0025】
MOFを構成する金属原子としては、亜鉛、コバルト、ニオブ、ジルコニウム、カドミウム、銅、ニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、及びアルミニウム等が挙げられる。ただし、MOFを構成する金属原子はこれらに限定されるものではない。MOFを構成する金属原子は1種でもよく2種以上でもよい。
MOFの金属原料としては、特に、Zn2+、Cu2+、Ni2+、Co2+等の金属イオンを有する錯体や金属含有二次構造単位(SBU)が好適である。
【0026】
有機配位子の配位性官能基は、金属原子に配位可能な官能基であり、カルボキシル基、イミダゾール基、水酸基、スルホン酸基、ピリジン基、三級アミン基、アミド基、チオアミド基等が挙げられる。
有機配位子としては、典型的には、2以上の配位性官能基が、剛直構造を有する骨格(例えば芳香族環、不飽和結合等)に置換したものが用いられる。
以下に本発明で好適に用いることができる有機配位子を例示する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(BTB)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(BDC)、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(DOBDC)、シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボン酸(CB BDC)、2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸(H2N BDC)、テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸(HPDC)、テルフェニルジカルボン酸(TPDC)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-NDC)、ピレン-2,7-ジカルボン酸(PDC)、ビフェニルジカルボン酸(BPDC)、フェニール化合物を有する任意のジカルボン酸、3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボン酸、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-ニトロイミダゾール、シクロベンズイミダゾール、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒド、4-シアノイミダゾール、6-メチルベンズイミダゾール、6-ブロモベンズイミダゾール等。
【0027】
得られるMOFの具体例を以下に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
ZnO(1,3,5-ベンゼントリベンゾエート)で表されるMOF-177;IRMOF-Iとしても知られる、ZnO(1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-5;Mg(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-74(Mg);Zn(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるMOF-74(Zn);Cu(3,3’,5,5’-ビフェニルテトラカルボキシレート)で表されるMOF-505;ZnO(シクロブチル-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるIRMOF-6;ZnO(2-アミノ-1,4-ベンゼンジカルボキシレート)で表されるIRMOF-3;ZnO(テルフェニルジカルボキシレート)又はZnO(テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボキシレート)で表されるIRMOF-11;ZnO(テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボキシレート)で表されるIRMOF-8;Zn(ベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-68;Zn(シクロベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-69;Zn(ベンズイミダゾレート)で表されるZIF-7;Co(ベンズイミダゾレート)で表されるZIF-9;Zn(ベンズイミダゾレート)で表されるZIF-11;Zn(イミダゾレート-2-カルボキシアルデヒド)で表されるZIF-90;Zn(4-シアノイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)でZIF-82;Zn(イミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-70;Zn(6-メチルベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-79;及びZn(6-ブロモベンズイミダゾレート)(2-ニトロイミダゾレート)で表されるZIF-81等。
【0028】
MOFは、典型的には、結晶構造を有する。MOFは規則構造を有するために結晶しやすく、単結晶または多結晶として得られやすい。結晶は単結晶であってもよく多結晶であってもよい。
結晶構造の大きさは、中央値として、10nm~500μmが好ましく、50nm~100μmがより好ましく、500nm~20μmが更に好ましい。結晶構造の大きさの中央値が上記範囲内であると、MOF機能と複合体としての物理的、機械的物性とを両立できる。
結晶構造の大きさの中央値が10nm未満である場合、結晶構造を構成するMOF構造単位は概ね3以下であると考えられ、樹脂中に複合された状態で表面積比が大きすぎ、空孔が活用されない可能性がある。一方、結晶構造の大きさの中央値が500μm超である場合、樹脂との物性(例えば弾性率や熱膨張率)の違いを反映して、樹脂とMOFとの界面が剥離し、結果として複合材料の欠陥部位となる可能性がある。そのため、樹脂中のMOFの結晶構造の大きさが小さすぎるとMOFの機能が制限され、大きすぎると複合材料としての強度や耐久性が不十分になるおそれがある。
【0029】
MOFの結晶構造の大きさの中央値は、以下の方法により測定される。
走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いて、成形体表面(複合材料面)の画像を得る。このときの倍率は、画像中に存在する結晶(MOF)の数が100~200個になる倍率とする。得られた画像中に存在する全ての結晶の最大径を測定し、それらの中央値(最小値と最大値との平均値)を算出し、その値をMOFの結晶構造の大きさの中央値とする。
【0030】
(樹脂)
樹脂のSP値は15~25(MPa)1/2であり、16~23(MPa)1/2が好ましい。
SP値とは、材料凝集力の平方根であり、材料の組成や構造により固有の数値となる。材料の凝集力は、分散、極性、水素結合の成分からなる。このうち、分散力は、分子の種類による差は比較的小さい。一方、極性及び水素結合は、分子が有する官能基により大きく異なる。一般に極性が大きな分子は、分子間の極性相互作用が大きくなり、SP値は大きな値となる。水素結合可能な分子は、水素結合により凝集力が大きくなり、結果としてSP値は大きな値を取る。
SP値が上記範囲内であると、MOFと樹脂とが適度に相互作用し、複合材料や成形体の製造中、あるいは製造後にストレスがかかっても、MOFと樹脂との界面が容易に剥がれたりせず、また、必要以上の相互作用がないため、MOFの多孔質体としての機能等を充分に活用できる。
【0031】
SP値が15(MPa)1/2未満の樹脂は、同じ分子同士の相互作用が弱いだけではなく、他の材料との相互作用も小さい。MOFを複合してもMOFとの相互作用が弱く、界面剥離してしまい、成形体として十分な強度を発揮することは難しい。また、SP値が15(MPa)1/2未満の樹脂中では、MOFのような凝集力が強い材料は分散しにくく、凝集してしまう。凝集が起こると、複合の狙いであった柔軟性、可撓性、耐久性を満足することはできない。
SP値が15(MPa)1/2未満の樹脂の例としては、ポリテトラフルオロエチレン等のパーフルオロ樹脂、ジメチルシロキサン等の疎水性シリコーン樹脂が挙げられる。
【0032】
一方、SP値が25(MPa)1/2超の樹脂は、極性基や水素結合性基を含むため、極性の高いMOFと強く相互作用する。ここで、強い極性基や水素結合性基は一般に配位能を有するため、MOFと高SP値の樹脂を複合した状態で加熱したり、長時間複合状態にすると、MOFの配位結合と結合交換が起こり、MOFを壊してしまう可能性がある。高SP値の樹脂がMOFの結合を壊さない場合でも、MOFとの強い相互作用のために樹脂がMOFを取り囲んでしまい、MOFの空孔を利用することが困難となる。
SP値が25(MPa)1/2超の樹脂の例としては、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂等の水酸基含有樹脂、ポリシアノアクリレート、ポリジニトリルフマレート等のシアノ基含有樹脂、ポリビニルアミン等の1級又は2級アミノ基含有樹脂が挙げられる。
【0033】
樹脂としては、SP値が上記範囲内であればよく、特に制限はない。
樹脂の例としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂の分子量は、成形可能な範囲であればよく、例えば5千~100万であってよい。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。なお、樹脂が硬化性樹脂の場合、樹脂のSP値は、硬化後の硬化性樹脂のSP値である。
樹脂は、主鎖が炭素原子から構成される樹脂でもよく、主鎖に炭素原子以外の原子を含む樹脂(ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂等)でもよい。
【0034】
樹脂の具体例を以下に示す。ただし本発明で使用される樹脂はこれらに限定されるものではない。なお、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを示す。
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のポリオレフィン樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸ヘキシル等のポリ(メタ)アクリレート樹脂;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等のポリビニルエステル樹脂;ポリビニルフェニルエーテル等のポリビニルエーテル樹脂;ポリ塩化ビニル等のポリビニルハライド樹脂;ポリスチレン、ポリメチルスチレン等のポリスチレン樹脂;ポリジメチルマレイン酸、ポリジメチルフマル酸等のポリビニルエステル樹脂;ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;セルロース、酢酸セルロース等のセルロース樹脂;アルキッド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリ乳酸;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリオキシアルキレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ樹脂;フラン樹脂;主鎖芳香族系高機能高分子;ベンゾオキサジン樹脂等。これらの共重合体や複合体、混合体等も用いることができる。
【0035】
樹脂としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
2種以上の樹脂を併用する場合、2種以上の樹脂全体でのSP値が15~25(MPa)1/2の範囲内であれば、単独でのSP値が15(MPa)1/2未満又は25(MPa)1/2超の樹脂が含まれていてもよい。
【0036】
SP値としてはいくつかの種類が知られているが、本発明におけるSP値は、ハンセン溶解度パラメータである。SP値は、例えばPolymer Handbook(第四版、1999年、VII/675頁)等の文献によって知ることができる。また、分子の構造がわかれば、官能基の種類から概算することもできる。
【0037】
(複合材料)
複合材料は、上述のMOFと樹脂とを含む。複合材料は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を更に含んでいてもよい。
【0038】
複合材料中、MOFと樹脂との配合比率は、その成形体に望まれるMOF機能等を勘案して決定される。
樹脂のMOFに対する質量比(樹脂/MOF)は、2/98~90/10が好ましく、5/95~70/30がより好ましく、10/90~50/50が更に好ましい。樹脂/MOFが2/98以上であると、樹脂によるMOFをつなぎとめる、いわゆるバインダとしての機能が充分に発揮され、複合材料面への物理的な接触や衝撃、複合材料面の変形等によるMOFの破損や脱落が生じにくい。また、複合材料の成形性が優れる。樹脂/MOFが90/10以下であると、MOFの絶対量が充分に多く、またMOFが樹脂に取り囲まれにくいため、MOF機能が発現しやすい。
MOFと樹脂との合計の含有量は、例えば複合材料の総質量に対し、30~100質量%であってよい。
【0039】
他の成分としては、特に制限はない。例えば、MOFと樹脂との混合を助けるために、界面活性剤や分散剤を用いてもよい。複合材料の耐久性向上等のために、酸化防止剤、紫外線防止剤等を用いてもよい。成形体の加飾性を高めるために、染料、顔料、表面平滑剤、滑剤等を用いてもよい。
なお、これら添加剤は、MOFの機能を妨げないものを用いることが好ましい。従って、予めMOFと添加剤との反応性や相互作用を評価してから使用することが好ましい。
また、一般的に、増量剤や強化剤等の目的で無機微粒子を樹脂に加えること場合が多い。しかし、MOFと樹脂との複合において、MOF以外の無機微粒子の添加は、MOFの添加量に影響するため、MOF機能への影響を十分に勘案して添加量を決定することが好ましい。
【0040】
本成形体は、例えば、以下に示す成形体の製造方法により製造できる。
【0041】
〔成形体の製造方法〕
本発明の成形体の製造方法は、複合材料面を有する一次成形体を製造する工程(成形工程)と、一次成形体の複合材料面に物理処理を施し、MOFを露出させる工程(表面物理処理工程)とを有する。
本発明の成形体の製造方法は、必要に応じて、表面物理処理工程の前又は後に、一次成形体の複合材料面に凹凸構造を形成する工程(表面付形工程)をさらに含むことができる。表面物理処理工程の後に表面付形工程を行う場合、表面付形工程の後に再度、表面物理処理工程を行ってもよい。
【0042】
(成形工程)
一次成形体を製造する方法としては、例えば、MOFと樹脂とを複合し、成形する方法が挙げられる。MOFと樹脂とを複合する方法としては、公知の無機添加剤と樹脂との複合方法を用いてよい。
最も一般的な複合方法は、樹脂が溶媒に溶解した樹脂溶液にMOF結晶を加える方法である。この場合、一次成形体は以下のようにして製造できる。
【0043】
まず、樹脂溶液にMOF結晶及び必要に応じて他の成分を加え、この混合物を、撹拌羽根、ホモジナイザー、ビーズミル、自公転式撹拌脱法装置等の撹拌手段を用いて撹拌し、MOF結晶を樹脂溶液中に分散させ、分散液を得る。
分散液を得る際、MOF結晶が必要以上に壊れるような撹拌方法は好ましくない。超音波ホモジナイザー、ボールミル等、強い物理力や剪断力を発生する撹拌手段は、MOFの強度を勘案して使用する。
【0044】
次に、この分散液を、基材に塗布、あるいは型に注型して所望の形態とした後、溶媒を揮発させる。
ここで、基材への分散液の塗布方法は特に限定されず、公知の塗布方法を用いてよい。例えば平面やフィルムへの塗布はロールコーター、バーコーター、凸版印刷、凹版印刷等を用いることができる。バルクや成形体への塗布は噴霧、インクジェット、ディップコート、静電塗工等の方法を用いることができる。
また、溶媒を揮発させる方法は特に限定されず、熱による乾燥、減圧による乾燥、風乾等、公知の乾燥方法を用いてよい。
これにより、樹脂中にMOFが分散した複合材料成形体(シート等)が形成される。基材に塗布して複合材料成形体を得た場合、基材と複合材料成形体との積層体をそのまま一次成形体としてもよく、複合材料成形体を基材から剥離して一次成形体としてもよい。
【0045】
別の複合方法として、熱可塑性樹脂にMOFを加え、加熱下で混練する方法が挙げられる。この場合、得られた混練物を成形することにより一次成形体が得られる。
混練方法は特に限定されない。例えば、ニーダー、ロールプレス等の公知の混練装置を用いることができる。成形装置中の混練装置をそのまま使用してもよい。この場合、必要に応じて滑剤などを用いてもよい。
成形方法も特に限定されない。例えばプレス成形、射出成形、押し出し成形等、熱可塑性樹脂の成形方法として公知の成形方法を用いることができる。
この方法では、MOFに熱と剪断力が加わるため、MOFがそのストレスに耐えるか事前に検討しておくことが好ましい。
【0046】
MOFは公知の方法により合成できる。所望のMOFが市販されていれば、市販品を用いてもよい。MOFの合成方法は複数知られており、本発明で用いるMOFの合成方法は特に限定されない。MOFの合成方法は、溶液法、水熱法が代表的であり、そのほか、固相合成法(メカノケミカル法)、マイクロ波法、超音波法等が知られている。
溶液法は、金属類(金属錯体あるいは金属含有二次構造体)の溶液と、有機配位子の溶液とを、必要に応じて触媒の存在下で、混合する方法である。
このとき、金属類の溶液の溶媒と、有機配位子の溶液の溶媒とが混和しにくい場合は、界面でMOF合成反応が起こる。この際、反応系を静置すると、界面に比較的大きなMOF結晶が成長する可能性がある。
金属類の溶液の溶媒と、有機配位子の溶液の溶媒とがが混和しやすい場合、あるいはそれらの溶媒が同じ溶媒である場合は、反応は随所で起こるため、細かい結晶または多結晶体が得られる。
水熱法は、金属類と有機配位子とを溶媒に溶解した溶液を耐圧容器に封入し、溶媒の沸点以上に加熱することで高温高圧下、反応させる方法である。反応性の低いものを反応させるときに好適に用いられる。
上述の材料(金属類、有機配位子等)を用い、これらの合成方法で合成すると、用いた材料に応じて種々のMOFが合成される。金属類や有機配位子の選択及び組み合わせ、あるいは複数の金属類や有機配位子の併用により、高い設計自由度でMOFが合成される。
【0047】
一次成形体を製造する他の方法として、MOFと、重合性単量体(又は架橋性材料)と、必要に応じて他の成分とを混合し、得られた組成物中の重合性単量体(又は架橋性材料)を重合(又は架橋)させて複合材料を得て、複合材料を成形する方法が挙げられる。組成物を成形した後に、組成物中の重合性単量体(又は架橋性材料)を重合(又は架橋)させてもよい。
MOFと重合性単量体(又は架橋性材料)等の混合は、重合性単量体(又は架橋性材料)の粘度等にもよるが、上述した樹脂溶液とMOFの混合と同様の方法で行うことができる。重合(または架橋)は、開始剤の存在下で行ってもよい。硬化性樹脂が液状である場合には、溶媒の使用は省略してもよい。
例えば、スチレンモノマー中にMOFを分散させ、スチレンをラジカル重合させる。これにより、ポリスチレン中にMOFが分散した複合材料が得られる。ポリスチレンは熱可塑性であるため、重合後、熱プレス等により、所望の形状に成形することができる。
あるいは、硬化前のエポキシ樹脂(例えばビスフェノールAジグリシジルエーテルとメチルヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物)にMOFを分散させ、塗布や注型により所望の形態とした後、加熱硬化することで複合材料成形体(一次成形体)が得られる。ここでは熱硬化性のエポキシ樹脂を例に挙げたが、光硬化性の材料(例えば多官能アクリレート等)も用いることができる。
【0048】
一次成形体を製造する他の方法として、樹脂溶液に、MOFの原料となる金属類(金属錯体、金属含有二次構造体等)及び有機配位子と、必要に応じて他の成分を加え、樹脂溶液中でMOFを合成し、塗布や注型により所望の形態とした後、溶媒を揮発させる方法が挙げられる。
樹脂として、有機配位子構造を持つ樹脂(例えばテレフタル酸のポリエーテル)を用いてもよい。この場合、有機配位子を別途配合しなくてもよい。
このように樹脂溶液中でMOFを合成すると、大きなストレスをかけずに樹脂とMOFとを複合化できる。そのため、特に脆いMOFを樹脂と複合する場合にこの方法を好適に用いることができる。
この方法では、反応しなかった金属類や有機配位子が複合材料成形体中に残る場合がある。そのため、これら未反応物を溶媒抽出法等で複合材料成形体から取り除くか、複合材料成形体中に残留しても問題が無いことを確認することが好ましい。
【0049】
一次成形体を製造する他の方法として、重合性単量体(又は架橋性材料)と、MOFの原料となる金属類及び有機配位子と、必要に応じて他の成分とを混合し、得られた組成物中で重合性単量体(又は架橋性材料)の重合(又は架橋)及びMOFの合成を行って複合材料を得て、複合材料を成形する方法が挙げられる。組成物を成形した後に、組成物中の重合性単量体(又は架橋性材料)の重合(又は架橋)及びMOFの合成を行ってもよい。重合性単量体(又は架橋性材料)の重合(又は架橋)及びMOFの合成は、同時に行ってもよく順次行ってもよい。
この方法では、樹脂とMOFとを同時あるいは順次合成する。この方法を用いると、ストレスなしに高分散複合材料が得られる。一方で、この方法では、重合反応(又は架橋反応)へのMOF原料の影響、逆に、MOF合成反応への重合性単量体(又は架橋性材料)や開始剤の影響を勘案する必要があるため、複合する系には制限がある。また、複合材料成形体からの残留単量体やMOF未反応原料の除去や影響を勘案する必要がある。
【0050】
以上のように、一次成形体の製造方法は多種多様であり、上記にて挙げた例のみにとどまらず、MOFを損なわない限り、公知のあらゆる複合材料形成方法や成形方法を用いてよい。
【0051】
(表面物理処理工程)
表面物理処理工程では、一次成形体の複合材料面に物理処理を施す。
樹脂による複合効果(可撓性、耐久性、成形性、基材との密着性、凝集性等)を発揮させるためには、ある程度の量の樹脂が必要となる。この場合、MOFの一部は樹脂中に埋もれてしまうことになる。この場合、MOF機能は充分に発揮されない。
一次成形体の複合材料面を物理処理し、表層の樹脂被膜を取り除くことで、埋もれていたMOFが表面に露出し、複合材料面の表面露出MOF比率が増大する。その結果、MOF機能が充分に発揮されるようになる。例えば、物理処理を行うことで、ガス吸着機能が大きく向上する。
【0052】
物理処理法は、成形体にダメージを与えないものであれば特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
MOFを露出させるためには、MOF上に存在する樹脂薄膜を除去するだけでよいため、比較的温和な物理処理が好ましい。このような物理処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等が挙げられる。これらの処理は、成形体に致命的なダメージを与えず、表面の活性化のみを行うために好適に用いることができる。
ただし、物理処理はこれらの方法に限定されず、サンドブラストのような物理的な表面粗化法、アーク放電のような強い電気ストレスを加える方法等も、目的に応じて使用できる。
具体的な処理条件の設定は、実際に成形体の処理を行い、確認しながら実施することか好ましい。
【0053】
(表面付形工程)
表面付形工程では、一次成形体の複合材料面に凹凸構造を形成する。
凹凸構造の形成方法に特に制限はなく、一般的な手法を用いることができる。例えば、表面に凹凸構造を有する型を加熱下で複合材料面に押し当てて凹凸構造を転写する方法、複合材料面をレーザー切削加工する方法等が挙げられる。一次成形体を注型により製造する場合、その型に予め凹凸構造を形成しておいてもよい。
ピッチが1μm未満の微細凹凸構造を形成する場合、ナノインプリント技術を用いることが好ましい。ナノインプリント技術は、大きく分類すると、加熱して型を押しつける熱ナノインプリント技術、透明な型に光硬化性樹脂を注型して固める光ナノインプリント、シリコーンのような離型性良好な凸版に対象となる成形体を付着させ、必要な部分にプリントするマイクロコンタクトプリントなどがあり、いずれの方法も本発明に好適に用いることができる。
【実施例
【0054】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、実施例で使用される化合物、溶媒等は全て市販品(断りのない限り、和光純薬工業(株)社製)を用いた。「室温」は23±5℃の温度である。
実施例中のSP値はPolymer Handbook(第四版、1999年、VII/675頁)から引用した。
表面露出MOF比率及びBET比表面積の測定方法は以下のとおりである。MOFの結晶構造の大きさの中心値は、SEMを用い、上述の測定方法により測定した。
【0055】
(表面露出MOF比率)
XPS装置(Kratos社製)を用い、以下の条件で、成形体(積層体又はシート)の概中央部分を10mm角、厚み5mm以内に切断し、測定サンプルとした。切断した複合材料面のうち、中央付近1×2mmの範囲を測定対象面とし、測定対象面の金属原子(Zn又はZr)の量A(atm%)を測定した。この値と、成形体に用いたMOFの金属原子(Zn又はZr)の量B(atm%)から、前記式(1)により表面露出MOF比率(%)を算出した。
XPS測定条件:X線源AlKα(モノクロ)を用い、ワイドスペクトルと、想定される元素のナロースペクトルを測定、これらの結果よりatm%を算出。
【0056】
(BET比表面積)
成形体の吸着性能の指標として、BET比表面積を測定した。BET比表面積は、窒素を吸着ガスとし、BET法により測定される比表面積である。測定は、BET比表面積計(島津製作所製)を用いて行った。
【0057】
(合成例1:MOF-5の合成)
テレフタル酸5.7gをジメチルホルムアミド(以下、「DMF」とも記す。)400mLに溶解し、この溶液に官能基等量のトリエチルアミン(8.5mL)を加え、10分間室温にて撹拌し、テレフタル酸-トリエチルアミン溶液を得た。別途、硝酸亜鉛6水和物23.1gを500mLのDMFに加え溶解し、硝酸亜鉛溶液を得た。テレフタル酸-トリエチルアミン溶液に硝酸亜鉛溶液を、撹拌しながら室温にて15分かけて滴下し、滴下終了後、室温にて更に2.5時間撹拌を継続し、反応液を得た。反応液中の沈殿を濾取し、再度DMF250mLに分散し、1夜、室温にて撹拌を継続した。次いで、沈殿を再度濾取し、クロロホルム(安定剤不含)350mLに分散し、更に1日、室温にて撹拌する洗浄処理を行った。クロロホルムによる洗浄処理を更に3回繰り返した。クロロホルム中の沈殿を、デカンテーション後、遠心分離機(2500rpm、3分)で沈降させ、得られた沈殿を室温にて減圧乾燥(オイルポンプ使用)し、更に120℃にて6時間乾燥し、MOF-5(Zn原子の量B:9.3atm%)の粉末5.25gを得た。MOF-5の構造は、粉末X線散乱装置(島津製作所製)にて確認した。得られたMOF-5を走査型電子顕微鏡(日本電子製)にて観察したところ、結晶構造の大きさの中心値は2.5μmであった。
【0058】
(合成例2:MOF-74の合成)
2,5-ジヒドロキシテレフタル酸2.4gをDMF200mLに溶解し、フタル酸溶液を得た。別途、硝酸亜鉛6水和物9.3gをDMF200mLに溶解し、亜鉛溶液を得た。亜鉛溶液にフタル酸溶液を、撹拌しながら室温にて10分かけて滴下し、滴下終了後、室温にて更に20時間撹拌を継続し、反応液を得た。反応液中の結晶を遠心分離機(合成例1と同条件)にて沈降させた。得られた結晶を、DMF200mLで3回洗浄し、続いてメタノール200mLで3回洗浄し、メタノール200mL中に再度分散させ、1夜、室温にて撹拌した。メタノール中の結晶を遠心分離機で分離し、得られた結晶を、室温にて8時間減圧乾燥し、次いで110℃にて12時間乾燥し、次いで260℃にて12時間乾燥して、MOF-74(Zn)(Zn原子の量B:12.5atm%)の粉末2.9gを得た。MOF-74の構造は、粉末X線散乱装置にて確認した。結晶構造の大きさの中心値は8.5μmであった。
【0059】
(合成例3:UiO-66の合成)
4塩化ジルコニウム10.6g、テレフタル酸6.8gをDMF1000mLに室温にて溶解した。この溶液を窒素雰囲気下120℃にて24時間加熱撹拌し、反応液を得た。反応液を室温まで冷却し、反応液中の沈殿を濾取し、合成例1のMOF-5と同様に、DMFとクロロホルムにて洗浄、乾燥し、UiO-66(Zr原子の量B:0.70atm%)の粉末3.4gを得た。UiO-66の構造は粉末X線散乱装置にて確認した。結晶構造の大きさの中心値は0.8μmであった。
【0060】
(実施例1)
ポリアクリル酸エチル(Sigma-Aldrich社製、SP値19.2(MPa)1/2)1gをテトラヒドロフラン(以下、「THF」とも記す。)20mLに溶かした。ここにMOF-74(Zn)の粉末2gを加え、自公転型撹拌脱泡装置(シンキー社製)にて分散させ、分散液を得た。
上記分散液を、100μm厚の表面親水化ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」とも記す。)フィルム(帝人製)の第1面に、アプリケータ(テスター産業製)にて厚み100μmで塗布した。室温にて2時間乾燥後、80℃オーブンに入れ、3時間乾燥した。これにより、表面親水化PETフィルム上に6μm厚の白濁したMOF含有フィルムが得られた。次いで、上記表面親水化PETフィルムの第1面とは反対側の第2面に、上記と同様にしてMOF含有フィルムを形成し、表面親水化PETフィルムの両側にMOF含有フィルムが積層した積層体を得た。この積層体のBET比表面積は620m/gで、表面露出MOF比率は45%であった。
この積層体の両面をそれぞれ、コロナ処理装置にて処理(コロナ処理)したところ、BET比表面積は880m/g、表面露出MOF比率は65%となった。
更に、この積層体の両面それぞれに、ピッチ20μm、深さ10μmのラインアンドスペース構造を表面に有する金属ロールを押し当て、120℃で表面付形し、その後、再度コロナ処理したところ、BET比表面積は1030m/g、表面露出MOF比率は69%となった。
【0061】
(実施例2)
ポリエチレン(Sigma-Aldrich社製、SP値16.2(MPa)1/2)1gとUiO-66の粉末2gを、加熱卓上ニーダー(井本製作所製)に入れ、220℃にて30分加熱混練した。得られた白濁樹脂複合体を卓上プレス(井本製作所製)にて240℃プレスし、100μm厚のシートを得た。このシートのBET比表面積は320m/g、表面露出MOF比率は30%であった。
このシートを真空プラズマ装置に入れ、両面それぞれにアルゴンプラズマを照射(アルゴンプラズマ処理)したところ、BET比表面積は520m/g、表面露出MOF比率は49%となった。
更に、このシートの両面それぞれに、実施例1で用いた金属ロールを押し当て、240℃で表面付形し、その後、再度アルゴンプラズマ処理したところ、BET比表面積は630m/g、表面露出MOF比率は55%となった。
【0062】
(実施例3)
エピコート828(Sigma-Aldrich社製)1g及びメチルヘキサヒドロフタル酸無水物1gに、MOF-5の粉末3gを加え、DMFの5mLを更に加え、自公転式撹拌脱泡装置にて混練し、混合物を得た。
この混合物を、アプリケータを用い、30μm厚にて100μm厚ポリイミドフィルム(DuPont社製)に塗布し、80℃で3時間、180℃で2時間、及び220℃で1時間加熱した。これにより、ポリイミドフィルム上に、エポキシ樹脂(エピコート828のメチルヘキサヒドロフタル酸無水物による硬化物、SP値22.2(MPa)1/2)とMOF-5とを含むシートが得られた。
得られたシートをポリイミドフィルムから剥がしたところ、18umの濁った淡褐色の硬い単独シートとなった。このシートのBET比表面積は1200m/g、表面露出MOF比率は27%であった。
このシートの両面をそれぞれ火炎処理装置にて処理(火炎処理)したところ、BET比表面積は1480m/g、表面露出MOF比率は33%となった。
なお、このシートに、実施例1で用いた金属ロールで表面付形しようとしたところ、シートが破損した。そこで、別途、上記と同様にしてシートを作製し、火炎処理した後、シートの両面それぞれに、レーザー切削加工により、50μm幅、5μm厚のラインアンドスペース構造を形成する加飾処理を行った。その結果、シートのBET比表面積は1650m/g、表面露出MOF比率は34%となった。
【0063】
以上のように、成形体の表面を物理処理することにより、BET比表面積が顕著に増大した。更に、表面に凹凸構造を付与することにより、BET比表面積がより増大した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、成形体表面に、MOF機能(吸着性能等)を持たせつつ、樹脂としての可撓性、耐久性、成形性を持たせることができる。
本成形体は、MOF機能及びその耐久性に優れており、分子吸着、貯蔵、分離のほか、医薬や香料の徐放、磁性材料、イオン伝導性材料、センサ、光学材料等への展開が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1,2 成形体
1a,2a 第1面(複合材料からなる表面)
1b,2b 第2面(複合材料からなる面)
2 成形体
3 基材
4 複合材料層
図1
図2