(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/085 20210101AFI20220208BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20220208BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220208BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20220208BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20220208BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20220208BHJP
【FI】
C25B11/085
C25B1/01 Z
C25B9/00 Z
C25B1/23
C25B3/26
C25B11/091
(21)【出願番号】P 2017186911
(22)【出願日】2017-09-27
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】藤沼 尚洋
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-150072(JP,A)
【文献】特開2017-078192(JP,A)
【文献】特開2017-155337(JP,A)
【文献】特開2017-115250(JP,A)
【文献】特開2013-095995(JP,A)
【文献】特開2009-138254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、電解液及びイオン輸送膜の少なくともいずれかと、第2電極とを備える二酸化炭素還元装置であって、
前記第1電極は電解液と接触しておらず、
前記第1電極が二酸化炭素を還元する還元触媒
及び双性イオン化合物を含有する、二酸化炭素還元装置。
【請求項2】
前記双性イオン化合物が、スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、及び下記式(1)で表されるアニオンからなる群から選択される一種以上のアニオン部位を有する、請求項1に記載の二酸化炭素還元装置。
【化1】
(式(1)において、Zは炭素数1~15のアルキル基、炭素数1~15のハロゲン化アルキル基、炭素数6~15のアリール基、炭素数6~15のハロゲン化アリール基、又はハロゲンを表し、*は結合手を表す)
【請求項3】
前記双性イオン化合物が、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、及びピペリジニウムイオンからなる群から選択される一種以上のカチオン部位を有する、請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項4】
前記双性イオン化合物が、下記式(2)~(4)で表される少なくともいずれかの化合物を含む、請求項2に記載の二酸化炭素還元装置。
【化2】
(式(2)において、R
1~R
4は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基または水素原子であり、X
1はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基を表す)
【化3】
(式(3)において、R
5~R
9は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基または水素原子であり、X
2はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基を表す)
【化4】
(式(4)において、X
3及びX
4はそれぞれ独立して、
(i)一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基、
(ii)水素原子、又は
(iii)スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、若しくは式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基
のいずれかであり、X
3及びX
4の少なくとも一方は、(iii)で表される基である)
【請求項5】
前記双性イオン化合物が第1電極上に担持されている、請求項1~4のいずれかに記載の二酸化炭素還元装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を電気的に還元し有価物を生成する二酸化炭素還元装置は、CO2排出量の削減や自然エネルギーの貯蔵方法として注目され、研究開発が行われている(非特許文献1)。二酸化炭素還元には、それに適した触媒の開発が必要であり、金属、合金、金属炭素化合物、炭素化合物などが報告されている(特許文献1~3、非特許文献2)。
【0003】
二酸化炭素の還元を効率よく進めるため、イオン液体を二酸化炭素還元装置に含有させる試みがこれまでに報告されている(特許文献4、非特許文献3~4)。例えば、特許文献4では、イオン液体を、二酸化炭素還元装置における電解液に含有させることで、二酸化炭素の電解液への吸収量が増加し、二酸化炭素の還元反応が促進されることが報告されている。
非特許文献3では、イオン液体である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIM-BF4)を電解液に含有させることで、二酸化炭素の還元反応が促進されることが報告されている。このような二酸化炭素の還元反応の促進に関して、イオン液体と二酸化炭素が相互作用し、活性化エネルギーを低下させるというメカニズムが提唱されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5376381号公報
【文献】特開2003-213472号公報
【文献】特許第5017499号公報
【文献】国際公開第2012/077198号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nano Energy 29 (2016) 439-456
【文献】Nature Communications 7, Article number: 13869 (2016)
【文献】Science 2011, 334, 643-644
【文献】J.Am.Chem.Soc 2016, 138, 7820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来報告されている二酸化炭素還元装置では、イオン液体を電解液に添加することで、二酸化炭素の還元効率が向上する。しかしながら、このような従来の二酸化炭素還元装置は、二酸化炭素の還元効率が時間とともに低下しやすく、耐久性の観点から改善の余地があることがわかった。
【0007】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、還元効率と耐久性のいずれも良好にすることが可能な二酸化炭素還元装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、双性イオン化合物を使用することで上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]第1電極と、電解液及びイオン輸送膜の少なくともいずれかと、第2電極とを備える二酸化炭素還元装置であって、
前記第1電極が二酸化炭素を還元する還元触媒を含み、二酸化炭素を還元する同一空間に双性イオン化合物を含有する、二酸化炭素還元装置。
[2]前記双性イオン化合物が、スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、及び下記式(1)で表されるアニオンからなる群から選択される一種以上のアニオン部位を有する、上記[1]に記載の二酸化炭素還元装置。
【化1】
(式(1)において、Zは炭素数1~15のアルキル基、炭素数1~15のハロゲン化アルキル基、炭素数6~15のアリール基、炭素数6~15のハロゲン化アリール基、又はハロゲンを表し、*は結合手を表す)
[3]前記双性イオン化合物が、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、及びピペリジニウムイオンからなる群から選択される一種以上のカチオン部位を有する、上記[1]又は[2]に記載の二酸化炭素還元装置。
[4]前記双性イオン化合物が、下記式(2)~(4)で表される少なくともいずれかの化合物を含む、上記[2]に記載の二酸化炭素還元装置。
【化2】
(式(2)において、R
1~R
4は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基または水素原子であり、X
1はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基を表す)
【化3】
(式(3)において、R
5~R
9は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基または水素原子であり、X
2はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基を表す)
【化4】
(式(4)において、X
3及びX
4はそれぞれ独立して、
(i)一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基、
(ii)水素原子、又は
(iii)スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、若しくは式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基
のいずれかであり、X
3及びX
4の少なくとも一方は、(iii)で表される基である)
[5]前記双性イオン化合物が第1電極上に担持されている、上記[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素還元装置。
[6]前記二酸化炭素還元装置が、前記電解液を備え、前記双性イオン化合物が電解液に含有されている、上記[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素還元装置。
[7]前記二酸化炭素還元装置が、前記イオン輸送膜を備え、前記双性イオン化合物がイオン輸送膜に含有されている、上記[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素還元装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、還元効率と耐久性のいずれも良好にすることが可能な二酸化炭素還元装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の二酸化炭素還元装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明の二酸化炭素還元装置の別の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の二酸化炭素還元装置は、第1電極(カソード)と、電解液及びイオン輸送膜の少なくともいずれかと、第2電極(アノード)とを備え、第1電極が二酸化炭素を還元する還元触媒を含むものである。
本発明の二酸化炭素還元装置では、二酸化炭素を還元する同一空間に双性イオン化合物が含有される。ここで、二酸化炭素を還元する同一空間とは、二酸化炭素を還元する触媒が存在している第1電極、又は第1電極近傍であり二酸化炭素の還元が可能な領域を意味する。第1電極近傍であり二酸化炭素の還元が可能な領域とは、例えば電解液、イオン輸送膜が存在する領域が該当する。
双性イオン化合物とは、同一分子内にカチオン部位とアニオン部位とを有し、カチオン部位とアニオン部位はそれぞれ共有結合により分子内のいずれかの原子と結合している化合物である。双性イオン化合物は、例えば、X+-A-Y-などで表され、同一分子内にカチオン部位(X+)と、アニオン部位(Y-)とを有する。Aは、カチオン部位(X+)とアニオン部位(Y-)を共有結合で結ぶ連結基である。なお、連結基Aは通常、単結合又は炭素数1~20の有機基である。
【0012】
本発明の二酸化炭素還元装置は、双性イオン化合物が、二酸化炭素を還元する同一空間に存在しており、これにより二酸化炭素の還元効率が高くなり、耐久性にも優れる。この理由については以下のように推定される。
双性イオン化合物が、二酸化炭素と相互作用し、還元反応における活性化エネルギーを低下させることで、還元効率が高くなる。双性イオン化合物は、カチオン部位とアニオン部位が共有結合により同一分子内に存在するため、電極近傍の電場によるイオンの拡散が生じ難く、これにより、触媒の腐食が防止されるものと考えられる。これに対して、これまで報告されている二酸化炭素還元装置に利用されたイオン液体は、カチオンとアニオンのイオン対を形成した化合物であるため、イオンが拡散しやすく、このため、触媒の劣化が進みやすく、耐久性が劣るものと推察される。
【0013】
[双性イオン化合物]
本発明で使用することができる双性イオン化合物は、特に限定されず、公知の双性イオン化合物を使用することが可能である。
双性イオン化合物におけるアニオン部位としは、例えば、ハロゲンイオン、スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、リン酸アニオン、リン酸エステルアニオン、ホスホン酸アニオン、炭酸エステルアニオン、硫酸エステルアニオン、ヒドロキシアニオン、下記式(1)で表されるアニオンなどであればよい。中でも、二酸化炭素還元装置の還元効率及び耐久性を良好とする観点から、双性イオン化合物は、スルホン酸アニオン(SO3
-)、カルボン酸アニオン(COO-)、及び下記式(1)で表されるアニオンからなる群から選択される一種以上のアニオン部位を有することが好ましい。
【0014】
【化5】
式(1)において、Zは炭素数1~15のアルキル基、炭素数1~15のハロゲン化アルキル基、炭素数6~15のアリール基、炭素数6~15のハロゲン化アリール基、又はハロゲンを表し、*は結合手を表す。中でもZは、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、ハロゲンであることが好ましい。なお、式(1)における紙面の一番左の硫黄原子が双性イオン化合物中のいずれかの原子と共有結合を形成する。
双性イオン化合物のアニオン部位としては、上記例示したアニオン部位の中でも、スルホン酸アニオンが好ましい。双性イオン化合物がスルホン酸アニオンを含む場合には、二酸化炭素還元装置の還元効率及び耐久性が良好となる傾向がある。
【0015】
双性イオン化合物におけるカチオン部位としは、例えば、置換基を有してもよいイミダゾリウムイオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、スルホニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。中でも、二酸化炭素還元装置の還元効率及び耐久性を良好とする観点から、双性イオン化合物が、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、及びピペリジニウムイオンからなる群から選択される一種以上のカチオン部位を有することが好ましい。
【0016】
本発明の双性イオン化合物としては、下記式(2)~(4)で表される少なくともいずれかの化合物を含むことが好ましい。これらの双性イオン化合物を用いることにより、二酸化炭素還元装置の還元効率及び耐久性が向上しやすくなる。
【0017】
(式(2)で表される双性イオン化合物)
【化6】
式(2)において、R
1~R
4は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基または水素原子であり、X
1はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基を表す。
式(2)においてR
1~R
4は、それぞれ独立して炭素数1~10の有機基又は水素原子であることが好ましく、それぞれ独立して炭素数1~5の有機基又は水素原子であることがより好ましい。中でも、R
1は炭素数1~5のアルキル基であるとともに、R
2~R
4はいずれも水素原子であることがさらに好ましく、R
1は炭素数1~3のアルキル基であるとともに、R
2~R
4はいずれも水素原子であることがさらに好ましい。
式(2)において、X
1はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数1~15の有機基であることが好ましい。中でも、式(2)において、X
1はスルホン酸アニオンを含有する炭素数1~10の有機基であることがより好ましく、炭素数1~5のスルホナトアルキル基(-(CH
2)n-SO
3
-;nは1~5の整数)であることがさらに好ましい。
【0018】
式(2)で表される双性イオン化合物の中では、例えば、下記の1-メチル-3-(3-スルホナトプロピル)イミダゾリウムが挙げられる。
【化7】
【0019】
(式(3)で表される双性イオン化合物)
【化8】
式(3)において、R
5~R
9は、それぞれ独立して一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基または水素原子であり、X
2はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基を表す。
式(3)においてR
5~R
9は、それぞれ独立して炭素数1~10の有機基又は水素原子であることが好ましく、それぞれ独立して炭素数1~5のアルキル基又は水素原子であることがより好ましい。中でも、R
5~R
9はいずれも水素原子であることがさらに好ましい。
式(3)において、X
2はスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、又は式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数1~15の有機基であることが好ましい。中でも、式(3)において、X
2はスルホン酸アニオンを含有する炭素数1~10の有機基であることがより好ましく、炭素数1~5のスルホナトアルキル基(-(CH
2)n-SO
3
-;nは1~5の整数)であることがさらに好ましい。
【0020】
式(3)で表される双性イオン化合物の中では、例えば、下記の1-(3-スルホナトプロピル)ピリジニウムが挙げられる。
【化9】
【0021】
(式(4)で表される双性イオン化合物)
【化10】
式(4)において、X
3及びX
4はそれぞれ独立して、(i)一級アミノ基及び二級アミノ基の一方又は両方を有していてもよい有機基、(ii)水素原子、又は(iii)スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、若しくは式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数0~15の基である。式(4)において、X
3及びX
4の少なくとも一方は、(iii)で表される基である。
式(4)において、X
3が(iii)で表される基であり、X4が(i)で表される基、又は水素原子であることが好ましい。この中でも、X
3は、スルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、若しくは式(1)で表されるアニオンのいずれかを含有する炭素数1~15の有機基であることが好ましい。そして、X
3は、スルホン酸アニオンを含有する炭素数1~10の有機基であることがより好ましく、炭素数1~5のスルホナトアルキル基(-(CH
2)
n-SO
3
-;nは1~5の整数)であることがさらに好ましい。
X
4は、炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0022】
式(4)で表される双性イオン化合物の中では、例えば、下記の1-メチル-1-(3-スルホナトプロピル)ピペリジニウムが挙げられる。
【化11】
【0023】
上記式(2)~(4)で表される双性イオン化合物の中では、二酸化炭素還元装置の還元効率及び耐久性をより良好とする観点から、式(2)及び(3)の少なくともいずれか一方の双性イオン化合物を用いることが好ましい。
【0024】
双性イオン化合物は、二酸化炭素を還元する同一空間に含有される。具体的には、双性イオン化合物は、第1電極又は電解液若しくはイオン輸送膜の少なくともいずれかに含有されていることが好ましく、中でも第1電極又はイオン輸送膜のいずれかに含有されていることが好ましい。第1電極に含有される場合は、例えば、双性イオン化合物を第1電極上に担持すればよい。
第1電極上に担持する方法としては、例えば、後述する還元触媒を含有するカーボンペーパー等の基材上に、双性イオン化合物が含有された溶液を塗布し、乾燥させればよい。
第1電極に、双性イオン化合物を含有させる場合は、二酸化炭素還元装置の還元効率及び耐久性を向上させる観点から、双性イオン化合物の含有量は、還元触媒100質量部に対して、1~1000質量部であることが好ましく、5~200質量部であることがより好ましい。
【0025】
双性イオン化合物は、電解液に含有されていてもよい。この場合、双性イオン化合物の含有量は、電解液全量基準で1~50質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
双性イオン化合物は、イオン輸送膜に含有されていてもよい。この場合、双性イオン化合物の含有量は、イオン輸送膜全量基準で1~60質量%であることが好ましく、1~40質量%であることがより好ましい。
【0026】
[二酸化炭素還元装置]
本発明の二酸化炭素還元装置は、第1電極(カソード)と、イオン輸送膜及び電解液の少なくともいずれかと、第2電極(アノード)を備えている。
本発明の二酸化炭素還元装置は、第1電極において二酸化炭素が還元されて、生成物が生じる。生成物としては、例えば、CO(一酸化炭素)、HCO3-、OH-、HCO-、H2CO、(HCO2)-、H2CO2、CH3OH、CH4、C2H4、CH3CH2OH、CH3COO-、CH3COOH、C2H6、O2、(COOH)2、(COO-)2が挙げられるが、一酸化炭素が生成されることが好ましい。第2電極では、任意の物質に対して酸化反応を行えばよいが、水に対して酸化反応を行うことが好ましい。
【0027】
本発明の二酸化炭素還元装置では、第2電極においてカチオンが生成される。生成されたカチオンは、イオン輸送膜及び電解液の少なくともいずれかを介して第1電極側に供給される。カチオンとしてはプロトンが好ましい。
二酸化炭素還元装置では、第1電極においてアニオンが生成される。第1電極で生成されたアニオンは、イオン輸送膜及び電解液の少なくともいずれかを介して第2電極側に供給される。アニオンとしては水酸化物イオンが好ましい。
カチオン、アニオンは、いずれか一方が生成されればよいが、両方が生成されてもよい。第2電極でカチオンが生成され、第1電極側に供給されることが好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態に係る二酸化炭素還元装置は、第1及び第2電極と、イオン輸送膜を備え、第1及び第2電極が、イオン輸送膜の両面それぞれに配置されるとともに、これらは接合されて膜-電極接合体となる。
そのような膜-電極接合体を使用した具体例を
図1に模式的に示す。
図1に示すように、二酸化炭素還元装置10は、第1電極11、第2電極12、及びイオン輸送膜13を有する膜-電極接合体14を備える。二酸化炭素還元装置10では、セルが膜-電極接合体14により区画され、カソード室15とアノード室16が形成される。このように、二酸化炭素還元装置10は、膜-電極接合体14によって二室に隔てられた二室型隔膜式セルを有する。
【0029】
カソード室15には、二酸化炭素が導入される第1導入口17A、一酸化炭素などの還元された物質を排出するための第1排出口18Aなどが設けられる。アノード室16には、水などの酸化させるための物質や、後述する不活性ガスを導入するための第2導入口17B、酸素などの酸化した物質を排出するための第2排出口18Bなどが設けられる。
【0030】
第1及び第2電極11、12には、電源19が接続され、第1及び第2電極11、12間には電圧が印加される。カソード室15には、第1導入口17Aより二酸化炭素が導入されており、二酸化炭素が第1電極11にて還元され、一酸化炭素が生成される。カソード室15には水などが充填されず、気体状の二酸化炭素を第1電極11に接触させるとよい。カソード室15に水が充填されるとともに、二酸化炭素がその水中に導入され、二酸化炭素は水中で第1電極11に接触してもよい。水分を含む気体状の二酸化炭素を第1電極11に接触させてもよい。
アノード室16には、水素、水、又は、水酸化物イオン若しくは水素などを含む水溶液などが充填又は導入され、第2電極12では酸化反応が行われる。アノード室16に充填された水又は水溶液には、適宜ヘリウムなどの不活性ガスが吹き込まれてもよい。
カソード室15では、気体状の二酸化炭素を導入して、第1電極11に接触させることが好ましい。アノード室16には水を充填することが好ましい。
【0031】
本発明の別の実施形態に係る二酸化炭素還元装置は、電解液を使用するものである。そのような電解液を使用した二酸化炭素還元装置20の具体例を
図2に模式的に示す。
図2に示すように、二酸化炭素還元装置20は、電解槽21内部に、電解液22が満たされ、その電解液22の内部に第1及び第2電極11、12が配置される。ただし、第1及び第2電極11、12は、電解液22に接していればよく、電解液22の内部に配置されていなくてもよい。
【0032】
電解槽21内部には、イオン輸送膜13が配置され、電解液22が、イオン輸送膜13によって、第1電極11側の領域と、第2電極12側の領域に区画される。二酸化炭素還元装置20は、第1導入口17Aが設けられ、導入口17Aの一端が、第1電極11側の領域において電解液22内部に配置される。二酸化炭素還元装置20には、第1電極11側の領域において電解液22中に配置された参照電極などが設けられてもよい。第1及び第2電極11,12の間には、電源19により電圧が印加される。
このように電解質を使用した二酸化炭素還元装置20でも、第1導入口17Aから導入された二酸化炭素が第1電極11にて還元され、一酸化炭素が生成される。第2電極12では、電解液22中の水、水酸化物イオン、水素又はその他の物質が酸化されるとよい。水素などの気体は図示しない第2導入口により第2電極12側の電解液22中に吹き込まれてもよい。
【0033】
なお、上記で示した二酸化炭素還元装置10、20は、二酸化炭素還元装置の一例を示すものであって、本発明の二酸化炭素還元装置は、上記構成に限定されるものではない。例えば、電解質を使用する二酸化炭素還元装置20では、イオン輸送膜が省略されてもよい。例えば光による起電力により電圧を印加するものであってもよい。
【0034】
[イオン輸送膜]
本発明の二酸化炭素還元装置に使用されるイオン輸送膜としては、固体膜が使用され、プロトンなどのカチオンを輸送できるカチオン輸送膜、アニオンを輸送できるアニオン輸送膜が挙げられる。
カチオン輸送膜としては、ポリエチレンスルホン酸、フラーレン架橋ポリスルホン酸、ポリアクリル酸のような炭化水素樹脂系のポリスルホン酸類やカルボン酸類、パーフルオロエチレンスルホン酸のようなフッ素樹脂系のスルホン酸類やカルボン酸類などが好ましく挙げられる。SiO2-P2O5のようなリン酸ガラス類、ケイタングステン酸やリンタングステン酸のようなヘテロポリ酸類、ペロブスカイト型酸化物等のセラミックス類等も用いることができる。
アニオン輸送膜としては、ポリ(スチリルメチルトリメチルアンモニウムクロリド)のような4級アンモニウム塩を有する樹脂やポリエーテル類等が好ましく挙げられる。
上記した中では、カチオン輸送膜が好ましく、中でもパーフルオロエチレンスルホン酸樹脂が好ましい。パーフルオロエチレンスルホン酸樹脂の市販品としてはナフィオン(デュポン社の商標)が挙げられる。
【0035】
[第1電極]
第1電極は、二酸化炭素を還元する還元触媒を含有し、還元反応を起こすことができるものであればよい。還元触媒としては、例えば、各種金属又は金属化合物を使用することができる。
第1電極に使用する金属としては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、Hg、Al、Si、In、Sn、Tl、Pb、Bi、Sb、Te、U、Sm、Tb、La、Ce、及びNdなどが挙げられる。金属化合物としては、これら金属の無機金属化合物及び有機金属化合物等の金属化合物を使用することができ、具体的には、金属ハロゲン化物、金属酸化物、金属水酸化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属リン酸塩、金属カルボニル、及び金属アセチルアセトナト等が挙げられる。
第1電極としては、上記金属又は金属化合物の他に導電性炭素材料を含むことが好ましい。導電性炭素材料としては、電気伝導性を有する種々の炭素材料を使用することができ、例えば、活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンペーパー、及びカーボンウィスカー等が挙げられる。
【0036】
第1電極は、好ましくは、上記金属及び金属化合物の少なくともいずれかを、カーボンペーパーなどの導電性炭素材料に担持させたものが好ましい。担持方法は限定されないが、例えば、金属又は金属化合物を溶媒中に分散してカーボンペーパーなどの導電性炭素材料に塗布して加熱すればよい。
【0037】
第1電極には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンオリゴマー(TFEO)、フッ化黒鉛((CF)n)、及びフッ化ピッチ(FP)等の含フッ素化合物を混合させてもよい。これらは、撥水剤として使用されるものであり、電気化学反応効率を向上させる。
上記含フッ素化合物は、第1電極を形成する際の結着剤としても使用できる。この場合、金属又は金属化合物及び上記フッ素化合物を溶媒中に分散して、カーボンペーパーなどの導電性炭素材料に塗布して加熱することで、第1電極を作製すればよい。
【0038】
[第2電極]
第2電極としては、酸化反応を起こすことができるものであればよいが、例えば、各種金属、金属化合物、及び導電性炭素材料からなる群から選択される1種又は2種以上を含む材料を使用することができる。
第2電極に使用する金属としては、鉄、金、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられる。金属化合物としては、これら金属の無機金属化合物及び有機金属化合物等の金属化合物を使用することができ、具体的には、金属ハロゲン化物、金属酸化物、金属水酸化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属リン酸塩、金属カルボニル、及び金属アセチルアセトナト等が挙げられる。
導電性炭素材料としては、電気伝導性を有する種々の炭素材料を使用することができ、例えば、メソポーラスカーボン、活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンペーパー、及びカーボンウィスカー等が挙げられる。
【0039】
第2電極は、好ましくは、上記金属及び金属化合物の少なくともいずれかと、導電性炭素材料とを混合して形成された複合体である。複合体においては少なくとも金属を使用することがより好ましい。複合体としては複合膜が挙げられる。複合膜は、金属又は金属化合物と、導電性炭素材料の混合物を溶媒中に分散して基材などに塗布して加熱することにより形成することができる。このとき、基材としては、カーボンペーパーなどの導電性炭素材料を使用するとよい。
【0040】
第2電極には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンオリゴマー(TFEO)、フッ化黒鉛((CF)n)、及びフッ化ピッチ(FP)等の含フッ素化合物を混合させてもよい。これらは、撥水剤として使用されるものであり、電気化学反応効率を向上させる。
上記含フッ素化合物は、第2電極を形成する際の結着剤としても使用できる。したがって、上記した複合体を形成するとき、金属及び金属化合物の少なくともいずれかと、導電性炭素材料に、さらに含フッ素化合物を混合させるとよい。
【0041】
[電解液]
本発明の二酸化炭素還元装置に使用される電解液は、アニオン、カチオンを移動できるものである。電解液としては、従来公知の電解液を使用すればよい。例えば、炭酸水素ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
30mgの銀ナノ粒子(アルドリッチ社製)と、3mgのPTFEを0.3mLのイソプロパノールに分散させ、カーボンペーパー上に塗布した。さらに、該カーボンペーパー上に、30mgの下記式で表される双性イオン化合物(1-メチル-3-(3-スルホナトプロピル)イミダゾリウム;IMS)をアセトニトリル0.3mLに溶解させた溶液を塗布した。これを80℃で1時間、120℃で1時間加熱乾燥させ、双性イオン化合物が担持された第1電極を得た。
続いて、30mgの白金ナノ粒子(アルドリッチ社製)と10mgのメソポーラスカーボン(アルドリッチ社製)、3mgのPTFEを、0.5mlのイソプロパノールに分散させ、カーボンペーパー上に塗布し、300℃で1時間加熱することで第2電極を得た。得られた第1電極と第2電極を、ナフィオン(商標名)からなるイオン輸送膜に積層し,59MPa、413Kで熱プレスすることで膜-電極接合体を作製した。カソード室とアノード室の空間を有する二室型隔膜式セル中央に膜-電極接合体をセットし、二酸化炭素還元装置とした。
【0044】
【0045】
(実施例2)
IMSの代わりに下記式で表される双性イオン化合物(1-(3-スルホナトプロピル)ピリジニウム;PS1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして二酸化炭素還元装置とした。
【0046】
【0047】
(実施例3)
IMSの代わりに下記式で表される双性イオン化合物(1-メチル-1-(3-スルホナトプロピル)ピペリジニウム;PS2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして二酸化炭素還元装置とした。
【0048】
【0049】
(比較例1)
IMSの代わりに下記式で表される化合物(下記式;EMIM-BF4)を用いたこと以外は実施例1と同様にして二酸化炭素還元装置とした。なお、EMIM-BF4は、カチオンとアニオンがイオン対を形成している化合物であり、双性イオン化合物ではない。
【0050】
【0051】
(比較例2)
IMSの代わりに下記式で表される化合物(下記式;EMIM-MeSO3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして二酸化炭素還元装置とした。なお、EMIM-MeSO3は、カチオンとアニオンがイオン対を形成している化合物であり、双性イオン化合物ではない。
【0052】
【0053】
(比較例3)
IMSを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして二酸化炭素還元装置とした。
【0054】
各実施例、比較例の二酸化炭素還元装置において、カソード室にCO2(1atm)を流通させ、アノード室にはイオン交換水を満たしHe(1atm)を流通した。273Kでカソード電位-0.6V(SHE)の電圧を印加させ、電流を読みこむと共に、一酸化炭素の生成をガスクロマトグラフィー(GC)にて分析し、通電した電流に対する二酸化炭素が還元された効率(電流効率)を求めた。電圧を印加し続け一時間後の電流効率を求め、初期の電流効率との比率を維持率とした。
電流効率については、70%以上をA、60%以上70%未満をB、60%未満をCとして評価した。
維持率については、70%以上をA、60%以上70%未満をB、60%未満をCとして評価した。
【0055】
【0056】
表1に示すとおり、双性イオン化合物を用いた各実施例は、電流効率及び維持率がともに良好であった。イオン対を有する化合物を用いた比較例1,2では、電流効率は良好であるが維持率が劣っていた。いずれの化合物も用いていない比較例3は、電流効率が悪かった。以上のように、本発明の二酸化炭素還元装置は、還元効率と耐久性のいずれも良好である。
【符号の説明】
【0057】
10、20 二酸化炭素還元装置
11 第1電極
12 第2電極
13 イオン輸送膜
14 膜-電極接合体
15 カソード室
16 アノード室
17A~17B 導入口
18A,18B 排出口
19 電源