(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】空調制御装置、空調制御方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/64 20180101AFI20220208BHJP
F24F 11/74 20180101ALI20220208BHJP
F24F 11/79 20180101ALI20220208BHJP
【FI】
F24F11/64
F24F11/74
F24F11/79
(21)【出願番号】P 2017237239
(22)【出願日】2017-12-11
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯邑 隆司
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-112259(JP,A)
【文献】特開2006-349307(JP,A)
【文献】特開2008-116064(JP,A)
【文献】特開2017-161206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0042662(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2004-0020614(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間の空調を実現する複数の空調機に対して予め定められた
第1の空調動作を行わせ、前記
第1の空調動作によって生じ
た前記対象空間内の空気の状態の変化に基づいて前記複数の空調機に対して前記対象空間内に循環空気流を発生させるための
第2の空調動作を行わせるための動作条件を決定する調整部と、
前記調整部によって決定された前記動作条件で前記複数の空調機
に前記第2の空調動作
を行わせる制御部と、
を備え
、
前記調整部は、前記複数の空調機のうちの対象機に前記第1の空調動作を開始させてから、前記第1の空調動作によって生じた前記空気の状態の変化が他の空調機において観測されるまでの時間に基づいて前記対象機に最も近い位置に存在する空調機である近接機を識別し、前記複数の空調機のそれぞれについて前記近接機を識別することにより、前記複数の空調機の位置関係を取得し、
前記調整部は、取得した前記位置関係に基づいて前記第2の空調動作の動作条件を決定する、
空調制御装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記複数の空調機について識別した前記位置関係に基づき、前記近接機の関係
にある空調機について、互いに吐出する空気の流れを妨げないように空気を吐出する方向および吐出量を決定することにより、前記複数の空調機について前記第2の空調動作の動作条件を決定する、
請求項
1に記載の空調制御装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記複数の空調機のそれぞれに前記対象空間内の空気と異なる状態の空気を吐出させ、それによって生じる前記対象空間内の空気の状態の変化に基づいて、前記動作条件を決定する、
請求項1
または2に記載の空調制御装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記複数の空調機のそれぞれに、前記対象空間内の空気と温度又は湿度が異なる空気を吐出させる、
請求項
3に記載の空調制御装置。
【請求項5】
前記調整部は、決定した前記動作条件を第1の動作条件として、前記複数の空調機が前記第1の動作条件で動作することにより生成される循環空気流の方向と逆向きの方向の循環空気流を生成する第2の動作条件を前記第1の動作条件に基づいて決定し、
前記制御部は、前記第1の動作条件で動作している前記複数の空調機の動作条件を、所定のタイミングで前記第2の動作条件に一斉に切り替える、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の空調制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数の空調機が前記動作条件で動作しているときに、前記複数の空調機において観測される空気の状態に所定値以上の差が生じた場合、各空調機の吐出量を増加させる、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の空調制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記複数の空調機を最大出力で所定期間動作させた後に前記動作条件で動作させる、
請求項1から
6のいずれか一項に記載の空調制御装置。
【請求項8】
前記調整部は、前記対象空間の利用目的を示す情報と、前記対象空間の容積と、前記対象空間に存在する人数と、に基づいて、建築基準法に定められた必要換気量が満たされるように前記動作条件を決定する、
請求項1から
7のいずれか一項に記載の空調制御装置。
【請求項9】
対象空間の空調を実現する複数の空調機
に対して予め定められた第1の空調動作を行わせ、前記第1の空調動作によって生じた前記対象空間内の空気の状態の変化に基づいて、前記複数の空調機に対して前記対象空間内に循環空気流を発生させるための
第2の空調動作を行わせるための動作条件を決定する調整ステップと、
前記調整ステップにおいて決定された前記動作条件で前記複数の空調機
に前記第2の空調動作
を行わせる制御ステップと、
を有
し、
前記調整ステップにおいて、
前記複数の空調機のうちの対象機に前記第1の空調動作を開始させてから、前記第1の空調動作によって生じた前記空気の状態の変化が他の空調機において観測されるまでの時間に基づいて前記対象機に最も近い位置に存在する空調機である近接機を識別し、前記複数の空調機のそれぞれについて前記近接機を識別することにより、前記複数の空調機の位置関係を取得し、
取得した前記位置関係に基づいて前記第2の空調動作の動作条件を決定する、
空調制御方法。
【請求項10】
コンピュータに、
対象空間の空調を実現する複数の空調機
に対して予め定められた第1の空調動作を行わせ、前記第1の空調動作によって生じた前記対象空間内の空気の状態の変化に基づいて、前記複数の空調機に対して前記対象空間内に循環空気流を発生させるための
第2の空調動作を行わせるための動作条件を決定する調整ステップと、
前記調整ステップにおいて決定された前記動作条件で前記複数の空調機
に前記第2の空調動作
を行わせる制御ステップと、
を
実行させ、
前記調整ステップにおいて、
前記複数の空調機のうちの対象機に前記第1の空調動作を開始させてから、前記第1の空調動作によって生じた前記空気の状態の変化が他の空調機において観測されるまでの時間に基づいて前記対象機に最も近い位置に存在する空調機である近接機を識別し、前記複数の空調機のそれぞれについて前記近接機を識別することにより、前記複数の空調機の位置関係を取得させ、
取得された前記位置関係に基づいて前記第2の空調動作の動作条件を決定させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、空調制御装置、空調制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象空間の空調を複数の空気調和機(以下「空調機」という。)によって実現する空調システムが知られている。従来の空調システムでは、主に空調機の設定温度を調整することによって省エネルギー化が実現されていたが、省エネルギー化のために設定温度が過度に低く設定されてしまい、対象空間の快適性が損なわれてしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-78045号広報
【文献】特開2012-145275号広報
【文献】特開2011-137595号広報
【文献】特開2013-245886号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、対象空間の快適性の低下を抑制しつつ省エネルギー効果を高めることができる空調制御装置、空調制御システム及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の空調制御装置は、調整部と、制御部と、を持つ。調整部は、対象空間の空調を実現する複数の空調機に対して予め定められた所定の空調動作を行わせ、前記所定の空調動作によって生じる前記対象空間内の空気の状態の変化に基づいて前記複数の空調機に対して前記対象空間内に循環空気流を発生させるための動作を行わせるための動作条件を決定する。制御部は、前記調整部によって決定された前記動作条件で前記複数の空調機を動作させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態における空調制御システム1のシステム構成の具体例を示す図。
【
図2】第1の実施形態における空調機10の構成の具体例を示す概略図。
【
図3】第1の実施形態におけるコントローラ20の構成の具体例を示す図。
【
図4】第1の実施形態における空調制御装置30の機能構成の具体例を示すブロック図。
【
図5】第1の実施形態における第1の制御処理の流れを示すフローチャート。
【
図6】第1の実施形態における第1の制御処理の流れを示すフローチャート。
【
図7】第1の実施形態において空調制御装置30が各空調機10の近接機を識別する方法の具体例を説明する図。
【
図8】第1の実施形態において空調制御装置30が各空調機10について阻害方向を識別する方法の具体例を説明する図。
【
図9】第1の実施形態において空調制御装置30が各空調機10について阻害方向を識別する方法の具体例を説明する図。
【
図10】第1の実施形態の空調制御システム1によって得られる効果の具体例を示す図。
【
図11】第1の実施形態の空調制御システム1によって得られる効果の具体例を示す図。
【
図12】第1の実施形態の空調制御システム1によって得られる効果の具体例を示す図。
【
図13】第1の実施形態における循環経路の決定方法の第1の変形例を説明する図である。
【
図14】第1の実施形態における循環経路の決定方法の第2の変形例を説明する図である。
【
図15】第2の実施形態における空調制御装置30aの機能構成の具体例を示すブロック図。
【
図16】第3の実施形態における空調制御装置30bの機能構成の具体例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の空調制御装置、空調制御方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における空調制御システム1のシステム構成の具体例を示す図である。空調制御システム1は、対象空間4の空調を実現するシステムである。対象空間4は、例えばビルや、店舗、オフィス等の有人の空間であってもよいし、工場やサーバルーム等の無人の空間であってもよい。空調制御システム1は、空調機10a~10f、コントローラ20a~20f及び空調制御装置30を備える。コントローラ20a~20fは、それぞれ空調機10a~10fのうち共通する文字(aからf)を付した空調機を制御する。以下、空調機10a~10fを区別しない場合は空調機10と記載し、コントローラ20a~20fを区別しない場合はコントローラ20と記載する。
【0009】
対象空間4は、例えばaからfまでの空調エリアに分割される。空調エリアa~fの空調は、それぞれに対応する空調機10a~10f及びコントローラ20a~20fにより実現され、空調制御装置30が各コントローラ20を制御することによって、対象空間4全体での空調が実現される。空調エリアa~fには、それぞれに共通する文字(aからf)が付された空調機10及びコントローラ20が対応する。以下、空調エリアa~fを区別しない場合は単に「空調エリア」と記載する。
【0010】
空調機10は、例えば対象空間4の天井部に所定の間隔で複数設けられる室内空調機である。空調機10は、例えば冷媒配管により図示しない室外空調機と接続されている。空調機10及び室外空調機は、コントローラ20に出力された制御信号に基づいて、例えば空調機10が備える熱交換器(図示せず)と、室外空調機が備える熱交換器(図示せず)とが熱交換を行うことにより、対象空間4の温度や、湿度、その他を制御する。なお、空調機には、空調機10と室外空調機とが含まれる。
【0011】
図2は、第1の実施形態における空調機10の構成の具体例を示す概略図である。例えば
図2は、天井に設置された空調機10を下から見た図である。空調機10は、1つの吸入口11と4つの吐出口12-1~12-4を備える。空調機10は、その空調動作において、1つの吸入口11から空気を吸い込み、吸い込んだ空気を室外空調機に送る。室外空調機において調整された空気は空調機10に送られる。空調機10は、調整された空気を吐出口12-1~12-4から吐出する。なお、空調機10は、各吐出口12-1~12-4に図示しない風向制御板を備え、各吐出口から吐出される空気の方向を調整可能である。吐出方向は、各空調機10の制御部(図示せず)によって調整されてもよいし、対応するコントローラ20によって調整されてもよい。
【0012】
図1の説明に戻る。各コントローラ20及び空調制御装置30は通信線5で接続され、互いに通信可能に構成される。通信線5は、例えばPLC(Power Line Communication)である。コントローラ20は、後述する計測部6から取得した計測データや、予め設定された設定値に基づいて自装置に対応する空調機10を制御する。なお、コントローラ20は、他のコントローラ20から取得した計測データや、他のコントローラ20に設定された設定値に基づいて自装置に対応する空調機10を制御してもよい。また、各コントローラ20及び空調制御装置30の通信は無線通信によって実現されてもよい。
【0013】
ここで、設定値とは、コントローラ20により空調機10に設定される給気温度や、風量、風向き等を示す値である。また、ここでいう風向きは、水平方向成分の風向きだけでなく、鉛直方向成分の風向きも含む。鉛直方向成分の風向きは風向板によって制御され、重力方向の風量が増えるほど、水平方向成分の風量は減ることになる。
【0014】
また、コントローラ20は、計測部6から取得した計測データを空調制御装置30に送信する。空調制御装置30は、各コントローラ20から取得される計測データに基づいて、各コントローラ20を全体制御する。
【0015】
図3は、第1の実施形態におけるコントローラ20の構成の具体例を示す図である。コントローラ20と、計測部6との間は、例えば専用線で接続されている。計測部6は、各空調エリアの空気の温度や湿度、風量、風向き等の物理量を計測するセンサ等の機器である。計測部6は、各空調機10の吸入口11付近に設置され、各空調機10が吸入する空気に関する物理量を計測する。計測部6は、計測データをコントローラ20に出力する。なお、計測部6は、空調機10と一体に構成されてもよい。
【0016】
コントローラ20は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。コントローラ20は、プログラムの実行によってインターフェース部21、入力部22、通信部23、記憶部24、制御部25を備える装置として機能する。なお、コントローラ20の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0017】
インターフェース部21は、計測部6及び空調機10をコントローラ20に接続する接続インターフェースである。インターフェース部21は、計測部6から計測データを取得し、取得した計測データを制御部25に出力する。また、インターフェース部21は、制御部25と空調機10との間で空調機10の動作制御に関する制御信号を入出力する。
【0018】
入力部22は、操作者の操作により入力された設定値や、冷房運転又は暖房運転の設定を受け付け、受け付けた操作に対応する信号を制御部25に出力する。入力された設定値とは、例えば空調エリアの温度や湿度、風量、風向き等の設定値である。入力部22は、専用キーやダイヤルスイッチ、マウス、タッチパッド、キーボード等を含んでもよい。
【0019】
通信部23は、自装置を他のコントローラ20及び空調制御装置30と通信可能にする通信インターフェースである。通信部23は、計測部6によって取得された計測データを空調制御装置30に送信する。また、通信部23は、空調制御装置30から送信される制御情報を受信し、受信した制御情報を制御部25に出力する。制御情報は、空調制御装置30が各コントローラ20に対して指示する空調機10の制御に関する情報である。
【0020】
記憶部24は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。記憶部24は、例えばコントローラ20が実行するプログラムや各種設定情報、コントローラ20において取得又は生成される各種情報を記憶する。例えば、記憶部24には計測データや制御信号、制御情報などの情報が記憶されてもよい。
【0021】
制御部25は、空調機10の制御機能を有する。制御部25は、空調制御装置30から送信される制御情報に基づいて対応する空調機10の動作を制御する。なお、制御部25は、自装置に対応する計測部6が取得した計測データや、予め設定された設定値に基づいて空調機10を制御してもよい。また、制御部25は、他のコントローラ20の設定値や、他のコントローラ20において取得された計測データに基づいて空調機10を制御してもよい。
【0022】
図4は、第1の実施形態における空調制御装置30の機能構成の具体例を示すブロック図である。空調制御装置30は、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。空調制御装置30は、プログラムの実行によって記憶部31、通信部32及び空調制御部33を備える装置として機能する。なお、空調制御装置30の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0023】
記憶部31は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。記憶部31は、空調制御装置30が実行するプログラムや各種設定情報、空調制御装置30において取得又は生成される各種情報を記憶する。例えば、記憶部31には、各コントローラ20から取得される計測データの情報を記憶する。
【0024】
通信部32は、自装置を各コントローラ20と通信可能にする通信インターフェースである。通信部32は、各コントローラ20から計測データを取得して空調制御部33に出力する。また、通信部32は、空調制御部33によって生成される制御情報を各コントローラ20に送信する。
【0025】
空調制御部33は、対象空間4の空調機10を制御するための各種制御処理を実行する。具体的には、空調制御部33は、空調機10の動作条件を決定するための第1の制御処理と、第1の制御処理によって決定された動作条件で各空調機10の動作を制御する第2の制御処理とを実行する。空調制御部33は、第1の制御処理を実現する機能部として調整部331を備え、第2の制御処理を実現する機能部として制御部332を備える。
【0026】
調整部331は、第1の制御処理を実行することにより、各空調機10に対して対象空間4内に循環空気流を発生させるための動作を行わせるための動作条件を決定する。具体的には、調整部331は、各空調機10に所定の空調動作(以下「調整動作」という。)を行わせ、その動作状態と、各空調機10において計測される空気の温度とに基づいて、対象空間4内に循環空気流を発生させるための動作条件を決定する。調整部331は、決定した動作条件を示す設定情報を記憶部31に記憶させる。なお、第1の制御処理において各空調機10にどのような動作を行わせるかは、予め設定情報として空調制御装置30に設定されている。以下、この設定情報を初期設定情報という。
【0027】
制御部332は、第2の制御処理を実行することにより、調整部331によって決定された動作条件で複数の空調機10を動作させる。これにより、複数の空調機10の動作によって、対象空間4内に循環空気流が生成される。
【0028】
図5及び
図6は、第1の実施形態における第1の制御処理の流れを示すフローチャートである。まず、調整部331は、記憶部31から初期設定情報を取得する(ステップS101)。調整部331は、各空調機10に初期設定情報が示す調整動作を行わせることを各コントローラ20に指示する。各コントローラ20は、この指示に応じて対応する空調機10に、調整部331から指示された調整動作を行わせる。各コントローラ20は、空調機10が調整動作を行っている間に取得される計測データを空調制御装置30に送信する。空調制御装置30は、各コントローラ20から送信された計測データを取得する(ステップS103)。
【0029】
続いて、調整部331は、各コントローラ20から取得された計測データが有効なデータであるか否かを判定する(ステップS104)。例えば、調整部331は、計測データの示す計測値が、予め定められた下限値及び上限値によって定まる有効範囲内の値であるか否かを判定する。この場合、調整部331は、計測値が有効範囲内である場合に、その計測データが有効であると判定し、計測値が有効範囲外である場合には、その計測データが有効でないと判定する。
【0030】
また、同種の計測データが複数取得される場合には、調整部331は、各計測データ間の計測値のばらつきに基づいて、計測データが有効であるか否かを判定してもよい。例えば、調整部331は、各計測データ間の計測値のばらつきの大きさが予め定められた閾値以下であるか否かを判定する。この場合、調整部331は、ばらつきの大きさが閾値以下である場合に、その計測データが有効であると判定し、ばらつきの大きさが閾値より大きい場合には、その計測データが有効でないと判定する。
【0031】
ステップS104において、取得された計測データが有効でないと判定した場合(ステップS104-NO)、調整部331は、調整動作の動作条件を変更し(ステップS105)、ステップS102に処理を戻す。ここで、調整部331は、動作条件の変更後、所定時間を待機した後にステップS102に処理を戻してもよい。
【0032】
なお、全ての動作条件で有効な計測データが取得されなかった場合、ユーザは、空調エリアが適切な状態であるか(例えば、ドアが閉じられているか等)を確認した上で上記の調整動作を再実行させてもよい。また、この場合、ユーザは、予め定められた調整動作の条件を変更した上で調整動作を再実行させてもよい。このような対応を行ってもなお有効な計測データが得られない空調機10が存在する場合、空調制御装置30は、そのような空調機10を循環空気流の生成に用いる空調機から除外してもよい。また、この場合、空調制御装置30は、有効な計測データが得られない空調機10が、循環空気流を形成する他の空調機10から独立して動作するように動作条件を決定してもよい。
【0033】
一方、取得された計測データが有効であると判定した場合(ステップS104-YES)、調整部331は、取得された調整動作時の計測データに基づいて、各空調機10について最も近い位置に存在する空調機10(以下「近接機」という。)を識別する(ステップS106)。この近接機の識別により、調整部331は各空調機10の位置関係を取得することができる。なお、近接機の識別方法については後述する。
【0034】
続いて、調整部331は、取得した各空調機10の位置関係に基づいて、循環空気流の経路の候補(以下「候補経路」という。)を1つ以上生成する(ステップS107)。具体的には、調整部331は、隣接する空調機10で形成される閉経路を候補経路として生成する。調整部331は、生成した候補経路の中から1つの候補経路を選択する(ステップS108)。調整部331は、選択した候補経路で形成される循環空気流を最適化するために、各空調機10に所定の空調動作(以下「確認動作」という。)を行わせる(ステップS109)。各コントローラ20は、空調機10が確認動作を行っている間に取得される計測データを空調制御装置30に送信する。空調制御装置30は、各コントローラ20から送信された計測データを取得する(ステップS110)。
【0035】
続いて、調整部331は、取得された確認動作時の計測データに基づいて、複数の空調機10のそれぞれが他の空調機10から吐出された空気の流れを妨げないような動作条件を各空調機10について決定する。具体的には、調整部331は、各空調機10について循環空気流の形成を妨げる可能性のある吐出方向(以下「阻害方向」という。)を検出する(ステップS111)。阻害方向の検出方法については後述する。調整部331は、各空調機10に検出された阻害方向への吐出を抑止させる、又は吐出量を低下させて動作させる条件を、選択された候補経路の循環空気流を形成する動作条件として記憶部31に記録する(ステップS112)。これにより、調整部331は、最短距離にある空調機10同士が、互いに吐出する空気の流れを妨げないような吐出方向又は吐出量を決定することができる。
【0036】
続いて、調整部331は、全ての候補経路について阻害方向の検出処理を行ったか否かを判定する(ステップS113)。いずれかの候補経路について検出処理を行っていないと判定した場合(ステップS113-NO)、調整部331は他の候補経路を選択し(ステップS114)、ステップS109に処理を戻す。一方、全ての候補経路について検出処理を行ったと判定した場合(ステップS113-YES)、調整部331は第1の制御処理を終了する。
【0037】
図7は、第1の実施形態において空調制御装置30が各空調機10の近接機を識別する方法の具体例を説明する図である。
図7は対象空間4を上方(天井側)から俯瞰した図である。まず、調整部331は、空調機10a~10fが空調動作を停止した状態で対象空間4の温度(以下「基準温度」という。)を計測する。ここで、対象空間4は、温度分布が一様な状態であることが望ましい。また、基準温度の計測時以降において、対象空間4は、人の出入りがなく、外気が流入しないようにドアや窓等の流入経路が全て閉ざされた状態であることが望ましい。
【0038】
このような状態で、調整部331は、1つの空調機10(ここでは空調機10aとする)に基準温度T0[℃]よりΔT[℃]だけ低温の空気(以下「冷気」という。)を吐出させる。調整部331は、これ以降に取得される計測データに基づいて各空調機10付近の温度変化を観測し、基準温度からの温度低下を最も早く示した計測データに対応する空調機10が空調機10aの近接機であると判定する。これは、空調機10aに最も近い空調機10の位置で最も早く温度変化が観測されると考えられるためである。すなわち、空調機10aがX軸正方向に冷気を吐出した場合、空調機10bにおいて最も早く温度低下が検出される。このようにして、調整部331は、空調機10aの近接機が空調機10bであることを検出する。調整部331は、空調機10aの他の吐出方向についても同様の処理を行うことで、最終的に近接機が空調機10b及び10fであることを検出する。
【0039】
なお、
図7の例において、空調機10aからY軸正方向には壁が存在するのみで他の空調機10は存在しない。この場合、空調機10aがY軸正方向に冷気を吐出すると、冷気は壁に反射されて、その多くが空調機10a側に戻ってくることになる。そのため、この場合において、冷気による温度低下を最も早く検出するのは空調機10a自身となる。したがって、このような場合、調整部331は、吐出方向に近接機が存在しないと判定してもよい。
【0040】
また、空調機10aがY軸正方向に吐出した空気による温度低下を最も早く観測するのは、空調機10a以外では空調機10bであると考えられるが、温度低下が観測されるまでの時間は、空調機10aがX軸正方向に冷気を吐出した場合よりも長いと考えられる。このような場合、調整部331は、温度低下が観測されるまでの時間が予め定められた所定の閾値よりも長い場合に、吐出方向に近接機が存在しないと判定してもよい。この場合、上記の閾値は、空調機10bが空調機10aからX軸正方向に吐出された冷気による温度低下を検出するのに要する時間以上であって、空調機10bが空調機10aからY軸正方向に吐出された冷気による温度低下を検出するのに要する時間未満の時間として設定されるとよい。
【0041】
調整部331は、他の空調機10についても同様の処理を行うことで、各空調機10の近接機を識別することができる。なお、近接機の識別処理を繰り返し実行すると、次第に室温が低下していく。また、各識別処理の実行直後には、室内の温度分布にムラが生じている可能性もある。そのため、近接機の識別処理を繰り返し実行すると、調整動作時における各空調機10の動作条件が各識別処理間で異なってしまう可能性がある。そのため、同じ動作条件で近接機の識別処理を行う場合には、各識別処理の間に、識別処理の開始時点における室温(すなわち基準温度)を所定温度に調整するリセット処理が行われてもよい。例えば、リセット処理は、低下した室温が常温に戻るまで待機する処理であってもよいし、室温を所定温度に調整する空調処理によって実現されてもよい。この場合、調整部331は、リセット処理の実行中に取得される各空調機10の計測データが、一定時間同じ温度を示しているか否かによってリセット処理が完了したか否かを判定することができる。
【0042】
図8及び
図9は、第1の実施形態において空調制御装置30が各空調機10について阻害方向を識別する方法の具体例を説明する図である。まず、調整部331は、空調機10aに対して冷気を一方向に吐出させる。
図8は、空調機10aが冷気をX軸正方向に吐出する場合を示している。また、調整部331は、空調機10aの冷気の吐出に合わせて、空調機10aの近接機の一つである空調機10bに対して室温の空気を一方向に吐出させる。調整部331は、このような調整動作による温度変化が検出されるまでの時間に基づいて、調整動作における吐出方向が阻害方向であるか否かを判定する。
【0043】
例えば、
図8は、空調機10aがX軸正方向に冷気を吐出し、空調機10bがX軸負方向に室温の空気を吐出する場合を示している。この場合、空調機10bが吐出する空気は、X軸正方向への冷気の流れを妨げる。そのため、空調機10aが吐出した冷気による温度低下が空調機10bにおいて検出されるまでの時間(以下「検出時間」という。)は、空調機10bが空気を吐出しない場合の検出時間(以下「基準時間」という。)に比べて長くなる。調整部331は、空調機10bにおける検出時間を基準時間と比較し、その大小関係によって空調機10bの空気の吐出方向が阻害方向であるか否かを判定する。
【0044】
例えば、空調機10bにおいて、空調機10aから吐出された冷気による温度低下が検出される基準時間がT(a→b)であるとすると、空調機10bがX軸負方向に空気を吐出している状況での検出時間T’(a→b)は、T’(a→b)’>T(a→b)となる。これにより、調整部331は、空調機10bの阻害方向がX軸負方向であると判定する。
【0045】
また、調整部331は、冷気を吐出する空調機10自身が温度低下を最も早く検出した場合、その冷気の吐出方向を阻害方向と判定する。上述したとおり、このような状況は冷気の吐出方向に壁が存在する場合などに発生しうる。このような状況では、空調機10は、自身が吐出した冷気を吸い込んでいる可能性が高い。このような空調動作は対象空間4の空調効率を低下させる要因となるため、そのような方向には空気を吐出しない、又は吐出量を少なくするように空調機10を動作させることが望ましい。このため、調整部331は、このような吐出方向についても阻害方向と判定する。
【0046】
このような方法により、調整部331は、空調機10bについて、X軸負方向及びY軸正方向が阻害方向であると判定する。調整部331は、他の空調機10についても同様の処理を行うことにより、各空調機10の阻害方向を検出する。その結果、
図9に示すような循環空気流の流路(以下「循環経路」という。)が決定される。
【0047】
なお、
図9において、空調機10d~10fはY軸負方向において壁に面しているものの、壁との間に大きなスペースを有している。このような場合、空気を対象空間4の隅々に行き渡らせるという観点から、吐出方向D1が阻害方向から除外されてもよい。壁方向を阻害方向から除外するか否かは、壁方向に吐出された冷気による温度低下の検出時間に閾値を設けることで判定することができる。この場合、調整部331は、検出時間が閾値未満である場合には壁方向を阻害方向と判定し、検出時間が閾値以上である場合には壁方向を阻害方向でないと判定する。
【0048】
また、上記の方法では、必ずしも循環空気流の形成を妨げるものではないものの、より大きな又はより強い循環空気流が形成されることを妨げる吐出方向に空気を吐出する動作条件が設定される可能性がある。そのため、調整部331は、このような吐出方向を阻害方向と判定してもよい。例えば、調整部331は、各空調機10について阻害方向を検出した後、阻害方向以外の吐出方向を組み合わせて複数の循環経路を生成する。調整部331は、生成された循環経路のうち、所定数以上の空調機10を含む循環経路を選択し、選択した循環経路を分割しうる経路に対応する吐出方向を阻害経路と判定する。例えば、
図9の例では、調整部331は、空調機10a~10fからなる第1の循環経路R1を、空調機10a、10b、10e及び10fからなる第2の候補経路と、空調機10b~10eからなる第3の候補経路とに分割しうる経路(空調機10bと空調機10eとを結ぶ経路)に対応する吐出方向D2を阻害経路と判定する。
【0049】
このように構成された第1の実施形態の空調制御装置30は、対象空間4の空調を実現する複数の空調機10の動作状態と、複数の空調機10において計測される空気の温度とに基づいて、複数の空調機10に対して対象空間4内に循環空気流を発生させるための動作を行わせるための動作条件を決定する調整部331と、調整部331によって決定された動作条件で複数の空調機10を動作させる制御部332と、を備える。このような構成を備えることにより、空調制御装置30は対象空間4に循環空気流を形成することが可能となる。
【0050】
例えば、人の体感温度を表す式の一つとしてミスナール改良計算式が知られている。ミスナール改良計算式は、周囲の温度、湿度及び空気流の速度によって人の体感温度を表すものである。このミスナール改良計算式によれば、周囲の空気流の速度が高いほど人の体感温度が下がる。これは、対象空間4内の空気流の速度を高めることによって体感温度が低下した分、空調機の設定温度を高くすることができることを意味する。実施形態の空調制御装置30は、上記の構成を備えることにより、対象空間4内に循環空気流が形成されるように各空調機10を制御することができる。そのため、実施形態の空調制御装置30によれば、対象空間4の快適性の低下を抑制しつつ省エネルギー効果を高めることが可能となる。
【0051】
図10、
図11及び
図12は、第1の実施形態の空調制御システム1によって得られる効果の具体例を示す図である。
図10は従来の空調制御方法による対象空間の空気の流れをシミュレーションした結果を示し、
図11は第1の実施形態の空調制御方法による対象空間の空気の流れをシミュレーションした結果を示す。このシミュレーション結果は熱流体解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)によって得られたものであり、両シミュレーションにおいて、対象空間の初期状態及び対象空間に供給される空気の流量は同じである。
図10及び
図11は、ともに、各空調機が空気の吐出を開始してから3秒が経過した時点における対象空間の空気の流れを示す。
図10及び
図11において、Z軸方向は対象空間の高さ方向に対応し、X軸方向は対象空間の横方向に対応する。
【0052】
従来の空調制御システムは、各空調機間での風向きの干渉を考慮することなく、全ての吐出方向に空気を吐出させるのが一般的であった。この場合、
図10からも明らかなように、各空調機間でX軸方向の空気の流れが相殺され、下向き(Z軸負方向)の空気の流れになることが分かる。また、この場合、各空調機から吐出された空気が対象空間のほぼ上半分にとどまっており、空気が十分に循環していないことが分かる。
【0053】
このような状況は、各空調機の吐出口及び吸入口付近に渦が生じていることからも分かるように、吐出口から吐出された空気が隣接する吸入口から吸いこまれることによって生じると考えられる。このような状況は、対象空間に供給されて対象空間内を循環すべき空気の一部が、対象空間を循環する前に排出されている状況であり、空調効率を低下させる要因となるため好ましくない。
【0054】
これに対して、第1の実施形態の空調制御方法によれば、各空調機10は空調制御装置30によって決定された動作条件で動作することにより、各空調機10が互いに空気の流れを妨げない方向に空気を吐出する。そして、各空調機10がこのような空調動作を行うことにより対象空間に循環空気流が生成される。具体的には、
図11においては、各空調機10間でX軸方向における空気流の相殺が生じておらず、天井付近に右方向から左方向に向かう空気流が形成されることが分かる。また、天井付近に形成された空気流の高さ方向の成分によって、床付近に天井付近と逆向きの空気流が形成されることが分かる。そのため、第1の実施形態の空調制御方向によれば、対象空間の横方向及び高さ方向の両方向に空気流を形成することができ、従来よりも短時間で対象空間全体に空気を行き渡らせることができる。これは次の
図12に示すシミュレーション結果からも明らかである。
【0055】
図12は、空調動作によって得られる高さ方向の風量を、実施形態の空調制御方法と従来の空調制御方法とで比較した図である。
図12は、空調機が各空調制御方法において同じ吐出流量で動作した場合をシミュレーションした結果を示す。この結果から、実施形態の空調制御方法によれば、いずれの高さにおいても、従来の空調制御方法に対して少なくとも約2倍以上の流量が得られることが分かる。
【0056】
この空気流は、紙面奥行き方向にも同様に生成されるため、対象空間内にはX-Y平面(Y軸はX軸及びZ軸に垂直)に平行な向きに流れる循環空気流が形成される。これにより、空調機10によって調整された空気が対象空間の四方に行き渡りやすくなるため、空調効率を向上させることができる。
【0057】
さらに、
図11のシミュレーション結果によれば、本実施形態の空調制御方法によって、対象空間内に上下方向の循環空気流が形成されることが分かる。これは、空調機10から斜め下方向に吐出された空気が対象空間の壁に沿って下方向に流れることによって形成されたものと考えられる。一般に、冷気は下方に向かい暖気は上方に向かうため、暖房運転時には暖気が下方に行き渡らない場合がある。しかしながら、本実施形態の空調制御方法によれば、上下方向においても循環空気流が形成されやすくなるため、空調効率をより向上させることができる。
【0058】
(変形例)
図13は、第1の実施形態における循環経路の決定方法の第1の変形例を説明する図である。
図13は、空調機10c及び10dを含まない循環経路が生成された例を示す。この場合、空調機10c及び10dは、空調機10a、10b、10e及び10fによる循環経路の形成に寄与しない。以下、対象空間4において空調機10a、10b、10e及び10fの順に形成される循環経路を循環経路(a→b→e→f→a)と表し、循環経路(a→b→e→f→a)で空気が循環する時間をΔt(a→b→e→f→a)とする。例えば、Δt(a→b→e→f→a)は空調機10aと空調機10bとの間の検出時間、空調機10bと空調機10eとの間の検出時間、空調機10eと空調機10fとの間の検出時間、及び空調機10fと空調機10aとの間の検出時間の総和として与えられる。
【0059】
この場合、調整部331は、より大きな循環空気流を形成するために、空調機10c及び10dを含むように循環経路を変更してもよい。具体的には、調整部331は、空調機10bから空調機10eの方向への吐出を抑止(又は吐出量を減少させる)し、循環経路(a→b→c→d→e→f→a)で空気が循環するように動作条件を決定する。
【0060】
なお、この場合、調整部331は、空調機10c及び10dを循環経路に含めたことで、空気の循環に要する時間が所望の時間を超えるような場合には、必ずしも循環経路を変更する必要はない。例えば、この閾値をΔt1とし、循環経路(a→b→c→d→e→f→a)で空気が循環するのにかかる時間Δt(a→b→c→d→e→f→a)とした場合、調整部331は次の式(1)が満たされた場合には循環経路を変更しないように構成されてもよい。また、この場合、調整部331は、循環経路から除外した空調機10c及び10dについて、循環空気流に影響を与えない範囲で個別に動作させるような動作条件を決定してもよい。
【0061】
Δt(a→b→c→d→e→f→a)-Δt(a→b→e→f→a)<Δt1 (1)
【0062】
ここで閾値Δt1は任意の方法で定められてもよい。例えば、次の式(2)に示すように、閾値Δt1は、変更前の循環経路での空気の循環に要する時間に対する所定の定数α倍として定められてもよい。
【0063】
Δt1=α×Δt(a→b→e→f→a) (2)
【0064】
図14は、第1の実施形態における循環経路の決定方法の第2の変形例を説明する図である。
図14は、
図13と同様に、空調機10c及び10dを含まない循環経路が生成された例を示す。この場合、調整部331は、個々の循環空気流を乱さない範囲であれば、対象空間4内に複数の循環空気流が形成されるように動作条件を決定してもよい。例えば、
図14の例の場合、調整部331は、循環経路(c→b→e→d→c)で空気が循環するのにかかる時間をΔt(c→b→e→d→c)とすると、調整部331は次の式(3)~(6)が満たされた場合に、循環経路(a→b→e→f→a)と、循環経路(c→b→e→d→c)とを共存させる動作条件を決定してもよい。
【0065】
なお、式(2)及び(3)において、Δt2及びΔt3は各循環経路での空気の循環に要する時間の閾値を表す。閾値Δt2は、Δt1と同様に変更前の所要時間に対する所定の定数β倍として定められてもよい。また、閾値Δt3は、所定の基準に基づいて予め定められればよい。例えば、循環経路(c→b→e→d→c)と循環経路(a→b→e→f→a)との経路長が同程度である場合には、閾値Δt3はΔt2と等しい値に定められてもよい。
【0066】
Δt(a→b→e→f→a)<Δt2 (3)
Δt(c→b→e→d→c)<Δt3 (4)
Δt2=β×Δt(a→b→e→f→a) (5)
Δt3=Δt2 (6)
【0067】
なお、この場合、式(3)~(6)が満たされない場合には、第1の変形例と同様に、調整部331は、循環経路から除外した空調機10c及び10dについて、循環空気流に影響を与えない範囲で個別に動作させるような動作条件を決定してもよい。
【0068】
さらに、
図14のように、複数の循環空気流が形成される場合、調整部331は、各循環経路が重なる部分の経路(以下「重畳経路」という。)における空気の流量が他の経路における空気の流量よりも多くなるように動作条件を決定してもよい。これは、重畳経路を構成する空調機10において、空気の吸入及び吐出が追い付かず、循環空気流の流れを阻害する可能性があるためである。例えば、
図14の例において各空調機10が吐出する空気の流量と、吸入する空気の流量とが同じである場合、調整部331は、重畳経路(b→e)における流量が、循環経路(a→b→e→f→a)における流量と、循環経路(c→b→e→d→c)における流量との和となるように、空調機10b及び10eの吐出流量を決定してもよい。
【0069】
また、調整部331は、複数の循環空気流が形成されることによって、重畳経路における検出時間が予め定められた閾値以上長くならない範囲で吐出流量を調整してもよい。例えば、
図14の例の場合、調整部331は、まず、循環経路(a→b→e→f→a)の循環空気流のみが形成されているときの検出時間T(b→e)と、循環経路(a→b→e→f→a)及び循環経路(a→b→e→f→a)の両方が形成されているときの検出時間T’(b→e)とを測定する。調整部331は、測定した検出時間T’(b→e)及び検出時間T(b→e)が次の式(7)を満たすように、空調機10b及び10eの吐出流量を決定する。なお、式(7)においてΔT
THは予め定められた閾値を表す。
【0070】
T’(b→e)-T(b→e)<ΔTTH (7)
【0071】
具体的には、調整部331は、式(7)が満たされない場合、空調機10b及び10eの吐出流量を変更した上で、再度検出時間T’(b→e)を測定し、式(7)が満たされたか否かを判定する。調整部331は、このような吐出流量の変更及び式(7)の判定を繰り返し実行することによって、式(7)を満たす空調機10b及び10eの吐出流量を探索的に決定することができる。
【0072】
(第2の実施形態)
図13は、第2の実施形態における空調制御装置30aの機能構成の具体例を示すブロック図である。空調制御装置30aは、空調制御部33に代えて空調制御部33aを備える点で第1の実施形態における空調制御装置30と異なる。また、空調制御部33aは、調整部331に代えて調整部331aを備える点、制御部332に代えて制御部332aを備える点で第1の実施形態における空調制御部33と異なる。空調制御装置30aの他の構成は第1の実施形態における空調制御装置30と同様である。そのため、
図13においては、これらの同様に機能部には
図3と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0073】
調整部331aは、複数の空調機10の調整動作及び確認動作によって決定した動作条件を第1の動作条件として、複数の空調機10が第1の動作条件で動作することにより生成される循環空気流の方向と逆向きの方向の循環空気流を生成する第2の動作条件を第1の動作条件に基づいて決定する。具体的には、調整部331aは、各空調機10が第1の動作条件で吐出する空気の向きを逆向きにすることによって第2の動作条件を決定する。
【0074】
制御部332aは、調整部331aによって各空調機10の動作条件が決定されると、まず、各空調機10を最大出力で所定期間動作させる。そして、制御部332aは、所定期間が経過したタイミングで、各空調機10の動作条件を、調整部331aによって決定された動作条件に切り替える。これにより、空調制御装置30aは、各空調機10から吐出される調整された空気(例えば冷気や暖気)を、効率よく対象空間内に循環させることができる。なお、このタイミングにおいて、制御部332aは、各空調機10の動作条件を第1の動作条件に切り替えてもよいし、第2の動作条件に切り替えてもよい。
【0075】
また、制御部332aは、各空調機10が調整部331aによって決定された第1又は第2の動作条件で動作しているときに取得される計測データに基づいて各空調機10の動作条件を変更する。具体的には、制御部332aは、複数の空調機10において観測される空気の状態に所定値以上の差が生じた場合、吐出量を増加させるように各空調機10の動作条件を変更する。例えば、制御部332aは、各空調機10において観測される温度又は湿度の分散値が所定の閾値以上になった場合に各空調機10の吐出量を増加させるように動作条件を変更する。
【0076】
制御部332aは、第1の動作条件で動作している複数の空調機10の動作条件を、所定のタイミングで一斉に第2の動作条件に切り替えてもよい。同様に、制御部332aは、第2の動作条件で動作している複数の空調機10の動作条件を、所定のタイミングで一斉に第1の動作条件に切り替えてもよい。
【0077】
このように構成された第2の実施形態の空調制御装置30aによれば、対象空間の空調効率をより向上させることができる。具体的には、従来は、各空調機を最大出力で動作させることで急速な空調を実現していたが、実施形態の空調制御装置30aは、各空調機10を最大出力で所定期間動作させた後に、各空調機10の動作条件を、循環空気流を生成する動作条件に切り替える。このような空調機10の制御を行うことにより、空調制御装置30aは、調整された空気を効率よく対象空間に循環させることができる。また、その結果、各空調機10を最大出力で動作させる時間を短縮することが可能になり、より省エネルギー効果を高めることが可能となる。
【0078】
(第3の実施形態)
図14は、第3の実施形態における空調制御装置30bの機能構成の具体例を示すブロック図である。空調制御装置30bは、空調制御部33に代えて空調制御部33bを備える点で第1の実施形態における空調制御装置30と異なる。また、空調制御部33bは、調整部331に代えて調整部331bを備える点、解析部333をさらに備える点で第1の実施形態における空調制御部33と異なる。空調制御装置30bの他の構成は第1の実施形態における空調制御装置30と同様である。そのため、
図14においては、これらの同様に機能部には
図3と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0079】
解析部333は、調整部331bによって決定された動作条件に基づいて熱流体解析に基づくシミュレーション(以下「熱流体シミュレーション」という。)を行う。具体的には、解析部333は、調整部331bが各空調機10について決定した動作条件で第1の熱流体シミュレーションを行うとともに、その動作条件の一部を変更して第2の熱流体シミュレーションを行う。例えば、解析部333は、複数の空調機10のうちの1つの空調機10について吐出方向を変更して第2の熱流体シミュレーションを行う。解析部333は、第1及び第2の熱流体シミュレーションの結果を調整部331bに出力する。なお、第1及び第2の熱流体シミュレーションにおいて、空調動作に要するエネルギーは同じであるものとする。また、第1及び第2の熱流体シミュレーションにおいて、空調機10が吐出する空気の性質(例えば温度や湿度)及び吐出量の総和は同じものとする。
【0080】
調整部331bは、解析部333から第1及び第2の熱流体シミュレーションの結果を取得する。調整部331bは、両者を比較し、第2の熱流体シミュレーションの結果が、第1の熱流体シミュレーションの結果よりも優れている場合、第2の熱流体シミュレーションに用いられた動作条件を制御部332に出力する。なお、どちらのシミュレーション結果が優れているかは、どちらがより理想的な循環空気流であるかを判定することができればどのような方法で判定されてもよい。例えば、調整部331bは、生成された循環空気流の流量が多い方を優れたシミュレーション結果であると判定してもよいし、対象空間4内の温度分布がより均一である方を優れたシミュレーション結果であると判定してもよい。
【0081】
なお、第2の熱流体シミュレーションの結果が第1の熱流体シミュレーションの結果よりも優れている場合であって、動作条件が変更された空調機10が、変更後の吐出方向に空気を吐出することができない場合には、調整部331bは、その空調機10について、風向制御板の設置を促す情報(以下「支援情報」という。)を出力するように構成されてもよい。
【0082】
このように構成された第3の実施形態の空調制御装置30bによれば、調整部331bによって決定された動作条件の妥当性がシミュレーションによって確認されるため、循環空気流の生成により適した動作条件を取得することが可能となる。さらに、より適切な動作条件が取得された場合には、その動作条件を満たすために必要な事項(例えば風向制御板の設置)を促す支援情報が出力されるため、ユーザは、対象空間4における空調機10の動作環境をより容易にかつ適切に構築することが可能となる。
【0083】
(変形例)
【0084】
調整部331bは、空調機10が実際には吐出することができない吐出方向であっても、その吐出方向への吐出が可能であると仮定して第2の熱流体シミュレーションを行ってもよい。その結果、第1の熱流体シミュレーションの結果よりも良好な結果が得られた場合には、仮定した方向に空気を送るように風向制御板を設置することを促す支援情報を出力してもよい。
【0085】
調整部331bは、熱流体シミュレーションの実行に代えて、以下のような処理を実行することによって風向制御板の設置が必要か否かを判定してもよい。対象空間に適切な循環空気流が形成されている場合、隣接機間の検出時間は相対的に短くなる。一方、この場合、空調機10が、自身の吐出した空気による温度変化を検出する時間は相対的に長くなる。そのため、隣接機間の検出時間を第1の検出時間Tとし、空気を吐出した空調機10自身の検出時間を第2の検出時間T’とすると、第1の検出時間Tに対する第2の検出時間T’との比T/T’の値が小さいほど循環空気流の流量が大きく、大きいほど循環空気流の流量が小さいと考えられる。そこで、調整部331bは、各空調機10について第1及び第2の検出時間を測定し、各検出時間の比の値が閾値より大きくなっている空調機10について、風向制御板の設置を促す支援情報を出力する。このとき、調整部331bは、各空調機10について測定された第1及び第2の検出時間を示す情報、各検出時間の比を示す情報、各検出時間の比と閾値との大小関係等を示す情報などを支援情報として出力してもよい。支援情報は、どのような形式で出力されてもよい。例えば、支援情報は、テキストデータや音声データとして出力されてもよいし、所定の装置に所定の動作を行わせる制御信号として出力されてもよい。例えば、支援情報は、複数色の光を発することができる発光装置(例えばLED(Light Emitting Diode)など)に対して支援情報に応じた色を発行させる制御信号として出力されてもよい。
【0086】
以上の説明では、第3の実施形態における空調制御装置30bの構成を第1の実施形態における空調制御装置30の変形例として記載したが、空調制御装置30bが備える機能は、第2の実施形態における空調制御装置30aに備えられてもよい。
【0087】
(各実施形態に共通の変形例)
以下、各実施形態に共通の変形例を記載する。簡単のため、ここでは、共通の変形例を第1の実施形態の変形例として記載するが、共通の変形例は第2又は第3の実施形態にも適用可能である。
【0088】
調整部331は、建築基準法に定められた必要換気量が満たされるように各空調機10の動作条件を決定することが望ましい。この場合、空調制御システム1は、対象空間4の容積及び利用目的を示す情報を予め空調制御装置30に記憶するとともに、各空調エリアに存在する人の数を検出する手段(以下「人数検出手段」という。)をさらに備える。例えば、人数検出手段は、赤外線センサや画像センサ等のセンサによって実現されてもよいし、対象空間4の入退室を管理するシステムとの通信機能によって実現されてもよい。調整部331は、人数検出手段によって検出される対象空間4に存在する人の数、対象空間4の容積及び利用目的に基づいて必要換気量を算出し、必要換気量の空調が実現されるように各空調機10の動作条件を決定してもよい。
【0089】
調整部331は、空調機10に調整動作又は確認動作を行わせる際、調整動作又は確認動作による対象空間4内の空気の性質の変化を検出することができれば、各空調機10に対して、どのように調整された空気を吐出させてもよい。例えば、上記の実施形態では、各空調エリアの温度変化を検出するために各空調機10に対して冷気を吐出させたが、調整部331は、冷気に代えて暖気を吐出させてもよい。この場合、調整部331は暖気による温度上昇を観測することにより、近接機又は阻害方向を検出してもよい。
【0090】
上記の実施形態では、空調機10が空気を四方に吐出可能である場合を例に説明したが、空調機10は必ずしも四方に空気を吐出できるものでなくてもよい。例えば、空調機10は、三方向又は二方向に空気を吐出するものであってもよいし、四方向以上の方向に空気を吐出するものであってもよい。また、空調機10は一方向のみに空気を吐出するものであってもよい。
【0091】
また、空調機10は必ずしも各吐出口12に風向制御板を備えている必要はない。この場合、空調制御装置30は、各空調機10に空気を吐出させる吐出口を動作条件として決定してもよい。
【0092】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、対象空間4の空調を実現する複数の空調機10に対して予め定められた所定の空調動作を行わせ、その空調動作によって生じる対象空間4内の空気の状態の変化に基づいて複数の空調機10に対して対象空間4内に循環空気流を発生させるための動作を行わせるための動作条件を決定する調整部331と、調整部331によって決定された動作条件で複数の空調機10を動作させる制御部と、を持つことにより、対象空間4の快適性の低下を抑制しつつ省エネルギー効果を高めることができる。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0094】
1…空調制御システム、10,10a~10f…空調機、11…吸入口、12,12-1~12-4…吐出口、20,20a~20f…コントローラ、21…インターフェース部、22…入力部、23…通信部、24…記憶部、25…制御部、30,30a~30b…空調制御装置、31…記憶部、32…通信部、33,33a、33b…空調制御部、331,331a、331b…調整部、332,332a…制御部、333…解析部、4…対象空間、5…通信線、6…計測部