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  • 特許-アルギン酸凍結乾燥製剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】アルギン酸凍結乾燥製剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20220208BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 31/734 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
A61L27/20
A61K9/08
A61K9/19
A61K31/734
A61K47/02
A61P19/00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2017539172
(86)(22)【出願日】2016-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2016076176
(87)【国際公開番号】W WO2017043485
(87)【国際公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2015175583
(32)【優先日】2015-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人科学技術振興機構(現、国立研究開発法人科学技術振興機構)産学共同実用化開発事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 秋一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 直哉
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/027854(WO,A1)
【文献】特表2012-503498(JP,A)
【文献】特開平06-343479(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025979(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/102855(WO,A1)
【文献】特開2005-075815(JP,A)
【文献】相田卓,超高水圧中における酸の解離促進現象を利用したアルギン酸の自己触媒化による精密分解,科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,日本,2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61P 19/00-19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アルギン酸の1価金属塩及び(b)塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つを含有し、成分(a)/成分(b)の質量比が、100/70~100/10であり、注射用水、生理食塩水等の溶媒を用いて溶解し、溶液として使用することができることを特徴とする凍結乾燥組成物。
【請求項2】
水分含量が3質量%以下である請求項1記載の凍結乾燥組成物。
【請求項3】
前記凍結乾燥組成物が、多価の金属塩を含まない、請求項1又は2記載の凍結乾燥組成物。
【請求項4】
成分(a)と成分(b)からなる請求項1~のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物を収容してなるバイアル入り凍結乾燥組成物。
【請求項6】
バイアルの容量が2~50mlである請求項記載のバイアル入り凍結乾燥組成物。
【請求項7】
バイアルの空気が窒素ガス置換されている請求項又は記載のバイアル入り凍結乾燥組成物。
【請求項8】
少なくとも(a)アルギン酸の1価金属塩及び(b)塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つを溶解してなる水溶液を凍結乾燥することを特徴とし、成分(a)/成分(b)の質量比が、100/70~100/10であり、注射用水、生理食塩水等の溶媒を用いて溶解し、溶液として使用することができる凍結乾燥組成物の製造方法。
【請求項9】
少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解してなる水溶液を凍結し、凍結が維持される温度範囲で減圧して1次乾燥させた後、2次乾燥を行って水分含量を3質量%以下に乾燥させる工程を含む請求項記載の製造方法。
【請求項10】
2次乾燥を、1次乾燥と同じ温度条件で行うか、又は1次乾燥時の温度よりも高い温度条件で行う請求項記載の製造方法。
【請求項11】
少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解してなる水溶液を、バイアルに充填した後、凍結乾燥を行う請求項10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
アルギン酸の1価金属塩が、日局エンドトキシン試験により測定したエンドトキシン値が、100EU/g未満、75EU/g未満、或いは、50EU/g未満のものである請求項1~のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項13】
アルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムである請求項1~及び請求項12のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項14】
成分(b)が、塩化ナトリウムである請求項1~及び請求項1213のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項15】
水分含量が2質量%以下である請求項1~及び請求項1214のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項16】
少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解してなる水溶液を凍結し、凍結が維持される温度範囲で減圧して1次乾燥させた後、2次乾燥を行って水分含量を3質量%以下に乾燥させる工程を含む請求項1215のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物の製造方法。
【請求項17】
成分(b)が、塩化ナトリウムである請求項11及び請求項16のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項18】
軟骨再生もしくは軟骨疾患治療に用いられることを特徴とする請求項1~及び請求項1215のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項19】
アルギン酸の1価金属塩が、ゲルろ過クロマトグラフィーによる重量平均分子量50万~500万のものである請求項1~、請求項1215及び請求項18のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【請求項20】
アルギン酸の1価金属塩のM/G比が0.4~2.0である請求項1~、請求項1215及び請求項1819のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項21】
2~8℃で2年間保存した後に、注射用水で1質量%となるように復水した溶液の粘度の低下率が、40%未満である、請求項1~、請求項1215及び請求項1820のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項22】
40℃、75%RHの恒温恒湿室に60日保存した後、注射用水で1質量%となるように復水した溶液の粘度の低下率が約10%である、請求項1~、請求項1215及び請求項1821のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【請求項23】
凍結乾燥組成物が、凍結乾燥製剤である、請求項1~、請求項1215及び請求項1822のいずれか1項に記載の凍結乾燥組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨再生用組成物、軟骨疾患治療剤、癒着防止材等の医薬品、医療材料、医療機器および試薬等として有用なアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥製剤(凍結乾燥製剤に加えて、凍結乾燥体、凍結乾燥材、凍結乾燥組成物を含め、代表して「組成物」の用語を用いることとする。)、特に経時的粘度低下を抑制したアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物、バイアル入り凍結乾燥組成物、それらの製造方法、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下抑制剤、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下を抑制する方法並びにアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の安定化方法、特に保存安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸ナトリウム凍結乾燥組成物などのアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物を水に溶解してなる水溶液を、関節軟骨における軟骨欠損部に注入して、軟骨再生を行ったり、治療したりすることが知られている(特許文献1)。
一方、工業用アルギン酸ナトリウムには、不純物電解質として、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどが含まれており、これらは約40%以上のアルコールにより抽出される性質を利用して該不純物電解質を除去できること、及びアルギン酸ナトリウム水溶液に、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムなどを添加した場合の粘度、pH,構造粘度、流動曲線や毛管上昇性などの特性の変化が調べられている(非特許文献1及び2)。
又、粉末状と溶液状のアルギン酸ナトリウムの加熱による粘度低下を検討し、いずれも加熱により粘度は低下するが、溶液状の方が粘度低下率は大きいことが報告されている(非特許文献3及び4)。
しかしながら、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物を保存しておくと、該凍結乾燥組成物中のアルギン酸の1価金属塩が経時により劣化して粘度が低下するという問題があることについては、これまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2008/102855公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】化学工業雑誌61巻7号1958 p.871-874
【文献】化学工業雑誌61巻7号1958 p.874-877
【文献】室蘭工業大学研究報告 1957 Vol.2 No.3 p.609-616
【文献】室蘭工業大学研究報告 1960 Vol.3 p.443-449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安定性が改善されたアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物を提供することを目的とする。特に長期間の保存安定性が改善された凍結乾燥組成物を提供することを目的とする。さらに、実質的にエンドトキシンを含まない、高純度のアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物を提供することを目的とする。
本発明は、凍結乾燥状態での経時的粘度低下を抑制したアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物を提供することを目的とする。
本発明は、経時的粘度低下を抑制したバイアル入りアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物を提供することを目的とする。
本発明は、経時的粘度低下を抑制したアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を有効成分とするアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下抑制剤を提供することを目的とする。
本発明は、1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を凍結乾燥前に添加することを特徴とするアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、驚くべきことに、(a)アルギン酸の1価金属塩及び(b)1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を溶解してなる水溶液を凍結乾燥したものを用いると、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物中のアルギン酸の1価金属塩の経時的粘度低下を効率的に抑制できるとの知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
(1-1) (a)アルギン酸の1価金属塩及び(b)1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を含有することを特徴とする凍結乾燥組成物。
(1-2) 少なくとも成分(a)と(b)を溶解してなる水溶液を凍結乾燥したものである上記(1-1)記載の凍結乾燥組成物。
(1-3) 水分含量が3質量%以下である上記(1-1)又は(1-2)記載の凍結乾燥組成物。
(1-4) 成分(a)/成分(b)の質量比が、100/70~100/10である上記(1-1)~(1-3)のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
(1-5) 成分(b)が、塩化ナトリウム及び塩化カリウムからなる群から選択される少なくとも1つである上記(1-1)~(1-4)のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
(1-6) 成分(a)と成分(b)からなる上記(1-1)~(1-5)のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
(1-7) 成分(a)が、実質的にエンドトキシンを含まない、高純度のアルギン酸の1価金属塩である、上記(1-1)~(1-6)のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物。
【0008】
(2-1) 上記(1-1)~(1-7)のいずれか1項記載の凍結乾燥組成物を収容してなるバイアル入り凍結乾燥組成物。
(2-2) バイアルの容量が2~50mlである上記(2-1)記載のバイアル入り凍結乾燥組成物。
(2-3) バイアルの空気が窒素ガス置換されている上記(2-1)又は(2-2)記載のバイアル入り凍結乾燥組成物。
(3-1) 少なくとも(a)アルギン酸の1価金属塩及び(b)1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を溶解してなる水溶液を凍結乾燥することを特徴とする凍結乾燥組成物の製造方法。
(3-2) 少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解してなる水溶液を凍結し、凍結が維持される温度範囲で減圧して1次乾燥させた後、2次乾燥を行って水分含量を3質量%以下に乾燥させる工程を含む上記(3-1)記載の製造方法。
【0009】
(3-3) 2次乾燥を、1次乾燥と同じ温度条件で行うか、又は1次乾燥時の温度よりも高い温度条件で行う上記(3-2)記載の製造方法。
(3-4) 少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解してなる水溶液を、バイアルに充填した後、凍結乾燥を行う上記(3-1)~(3-3)のいずれか1項記載の製造方法。
(4-1) 1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を有効成分として含有することを特徴とするアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下抑制剤。
(5-1) アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物に、1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を含有させることを特徴とするアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下を抑制する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えばアルギン酸ナトリウムに代表されるアルギン酸の1価金属塩の凍結乾燥組成物の安定性が改善される。又、本発明によれば、長期間保管や貯蔵しておいても、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物中のアルギン酸の1価金属塩の経時的粘度低下を効率的に抑制できるアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物を提供できる。又、成分(a)と成分(b)を含む水溶液を凍結し、凍結が維持される温度範囲で減圧して1次乾燥させた後、2次乾燥を行って水分含量を3質量%以下に乾燥させる工程を含む、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の製造方法において、2次乾燥を1次乾燥時の温度よりも高い温度条件で行うことができ、これにより製造時間を短縮できるメリットを有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】塩化ナトリウム未添加のアルギン酸ナトリウム凍結乾燥組成物[実施例1-3と1-4]と、塩化ナトリウム添加のアルギン酸ナトリウム凍結乾燥組成物[実施例1-1と1-2]の経時による粘度の低下傾向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用するアルギン酸の1価金属塩(a)の構成成分であるアルギン酸は、海藻から抽出し、精製して製造される天然多糖類の一種である。又、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)が重合したポリマーである。アルギン酸のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なり、また、その生物の生育場所や季節による影響を受け、M/G比が約0.4の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。アルギン酸のM/G比、MとGの配列の仕方等によってアルギン酸の物理化学的性質が異なり、また好ましい用途が異なる場合がある。アルギン酸の工業的な製造方法には、酸法とカルシウム法などがあるが、本発明ではいずれの製法で製造されたものも使用することができる。精製により、HPLC法による定量値が80~120質量%の範囲に含まれるものが好ましく、90~110質量%の範囲に含まれるものがより好ましく、95~105質量%の範囲に含まれるものがさらに好ましい。本発明においては、HPLC法による定量値が前記の範囲に含まれるものを高純度のアルギン酸と称する。本発明で使用するアルギン酸は、高純度アルギン酸であることが好ましい。市販品としては、例えば、キミカアルギンシリーズとして、(株)キミカより販売されているもの、好ましくは、高純度食品・医薬品用グレードのものを購入して使用することができる。市販品を、さらに適宜精製して使用することも可能である。
本発明で使用するアルギン酸の1価金属塩としては、アルギン酸のカルボキシル基の水素カチオンが、ナトリウムやカリウムなどの1価金属カチオン、特にアルカリ金属カチオンとイオン交換したものが好ましい。これらのうち、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム又はこれらの混合物などが好ましく、特に、アルギン酸ナトリウムが好ましい。
【0013】
本発明で使用するアルギン酸の1価金属塩としては、その最終使用用途に応じて、適切な重量平均分子量のものを用いるのがよい。例えば、軟骨疾患治療に用いる場合には、重量平均分子量が50万~500万のものを用いるのが好ましく、より好ましくは65万以上、さらに好ましくは80万以上300万以下である。
アルギン酸の1価金属塩は高分子多糖類であり、分子量を正確に定めることは困難であるが、一般的に、本発明では、例えば、重量平均分子量が5000以上、好ましくは1万以上で、1000万以下、好ましくは500万以下のアルギン酸の1価金属塩を用いることができる。
一般に天然物由来の高分子物質は、単一の分子量を持つのではなく、種々の分子量を持つ分子の集合体であるため、ある一定の幅を持った分子量分布として測定される。代表的な測定手法はゲルろ過クロマトグラフィーである。ゲルろ過クロマトグラフィーにより得られる分子量分布の代表的な情報としては、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散比(Mw/ Mn)があげられる。
分子量の大きい高分子の平均分子量への寄与を重視したのが重量平均分子量であり、下記式で表される。
Mw = Σ(WiMi) / W =Σ(HiMi) /Σ(Hi)
数平均分子量は、高分子の総重量を高分子の総数で除して算出される。
Mn = W /ΣNi = Σ(MiNi) /ΣNi =Σ(Hi) /Σ(Hi/Mi)
ここで、W は高分子の総重量、Wiはi番目の高分子の重量、Miはi番目の溶出時間における分子量、Niは分子量Miの個数、Hiはi番目の溶出時間における高さである。
【0014】
天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法により値に違いが生じうることが知られている(ヒアルロン酸の例:Chikako YOMOTA et.al. Bull.Natl.Health Sci., Vol.117, pp135-139(1999)、Chikako YOMOTA et.al. Bull.Natl.Inst. Health Sci., Vol.121, pp30-33(2003))。アルギン酸塩の分子量測定については、固有粘度(Intrinsic viscosity)から算出する方法、SEC-MALLS(Size Exclusion Chromatography with Multiple Angle Laser Light Scattering Detection)により算出する方法が記載された文献がある(ASTM F2064-00 (2006), ASTM International発行)。なお、当該文献では、サイズ排除クロマトグラフィー(=ゲルろ過クロマトグラフィー)により分子量を測定するにあたっては、プルランを標準物質として用いた較正曲線により算出するだけでは不十分とし、多角度光散乱検出器(MALLS)を併用すること(=SEC-MALLSによる測定)を推奨している。また、SEC-MALLSによる分子量を、アルギン酸塩のカタログ上の規格値として用いている例もある(FMC Biopolymer社、PRONOVATM sodium alginates catalogue)。
【0015】
本明細書中においてアルギン酸塩の分子量を特定する場合は、特段のことわりがない限り、ゲルろ過クロマトグラフィーにより算出される重量平均分子量である。ゲルろ過クロマトグラフィーの好適な条件としては、例えば、プルランを標準物質とした較正曲線を用いることが挙げられる。標準物質として用いるプルランの分子量としては、少なくとも160万、78.8万、40.4万、21.2万および11.2万のものを標準物質として用いることが好ましい。その他、溶離液(200mM硝酸ナトリウム溶液)、カラム条件などを特定できる。カラム条件としては、ポリメタクリレート樹脂系充填剤を用い、排除限界分子量1000万以上のカラムを少なくとも1本用いることが好ましい。代表的なカラムは、TSKgel GMPWx1(直径7.8mm×300mm)(東ソー株式会社製)である。
【0016】
また、本発明で使用するアルギン酸の1価金属塩としては、その最終使用用途に応じて、適切な粘度のものを用いるのがよい。例えば、軟骨疾患治療に用いる場合には、日局粘度測定法により測定した1%液の粘度(20℃)が、50~2万mPa・sのものを用いるのが好ましく、より好ましくは50~1万mPa・s、より好ましくは100~5千mPa・s、より好ましくは300~800mPa・s、さらに好ましくは300~600mPa・sである。
また、本発明で使用するアルギン酸の1価金属塩としては、その最終使用用途に応じて、適切なM/G比のものを用いるのがよい。例えば、軟骨疾患治療に用いる場合には、M/G比が、0.4~2.0のものを用いるのが好ましく、より好ましくは0.6~1.8、さらに好ましくは0.8~1.6である。
また、本発明で使用するアルギン酸の1価金属塩としては、エンドトキシンレベルを低下させたものを使用することが好ましい。日局エンドトキシン試験により測定したエンドトキシン値が、100EU/g未満のものを用いるのが好ましく、より好ましくは75EU/g未満、さらに好ましくは50EU/g未満である。本発明において、「実質的にエンドトキシンを含まない」とは、日局エンドトキシン試験により測定したエンドトキシン値が前記の数値範囲にあるものを意味する。
【0017】
本発明の成分(b)として用いる1価金属塩及びアンモニウム塩としては、水溶性の無機塩または水溶性の有機塩があげられ、特に、水溶性の無機塩を用いるのが好ましい。このうち、1価金属塩としては、ナトリウムやカリウムなどの1価金属の塩、特にアルカリ金属の水溶性塩が好ましいものとしてあげられる。具体的には、無機塩として、アルカリ金属の塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などがあげられ、有機塩として、アルカリ金属のクエン酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩などがあげられる。これらのうち、塩酸塩が好ましく、特に塩化ナトリウムや塩化カリウムが好ましい。最も好ましくは塩化ナトリウムである。
又、アンモニウム塩としては、水溶性の塩化アンモニウム、酢酸アンモニウムなどが好ましいものとしてあげられる。
本発明では、成分(a)/成分(b)の質量比が、100/70~100/10であるのが好ましく、より好ましくは、100/60~100/30であり、最も好ましくは100/約44である。成分(b)が塩化ナトリウムの場合、注射用水で復水した時に生理食塩水相当の濃度となる様に、成分(a)に対して成分(b)を配合するのが最も好ましい。
【0018】
本発明の凍結乾燥組成物としては、成分(a)と(b)を含む水溶液を凍結乾燥したものであるのが好ましい。この際、水分含量が3質量%以下となるように凍結乾燥されたものが好ましいが、特に、水分含量が2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下となるように凍結乾燥されたものが好ましい。
本発明の凍結乾燥組成物には、その性能を損なわない範囲で、マンニトール、キシリトール、白糖などの糖を追加成分として含有させることができるが、成分(a)と成分(b)のみから構成されるのが好ましい。
本発明の凍結乾燥組成物を凍結乾燥直後に注射用水で1質量%となるように復水した溶液の粘度は、塩未添加のアルギン酸ナトリウム凍結乾燥組成物においては、通常500~900mPa・sの値を示し、好ましくは550~800mPa・sの値を示す。塩を添加したアルギン酸ナトリウム凍結乾燥組成物においては、通常、400~800mPa・sの値を示し、好ましくは450~700mPa・sの値を示す。
【0019】
本発明の凍結乾燥組成物は、冷蔵、好ましくは2~8℃で保存することが好ましい。冷蔵保存することにより、アルギン酸の1価金属塩の分解が抑制され、復水時の粘度低下が抑制される。本発明の凍結乾燥組成物を2~8℃で2年間保存した後に、注射用水で1質量%となるように復水した溶液の粘度低下率は、通常40%未満であり、好ましくは30%未満であり、さらに好ましくは20%未満である。粘度低下率は、加速試験結果、統計処理、等により外挿することが可能である。
本発明の凍結乾燥組成物は、軟骨再生剤、軟骨疾患治療剤、等の医療用途に使用することができる。注射用水、生理食塩水等の溶媒を用いて溶解し、目的とする用途に適した濃度、粘度の溶液として使用することができる。当該溶液を、スポンジなどの担体に含浸させて使用することもできる。また、当該溶液に、塩化カルシウム溶液などの架橋剤を添加して、溶液をゲル化して使用することもでき、当該ゲルを凍結乾燥して使用することもできる。また、本発明の凍結乾燥組成物をバイアルから取り出し、粉砕して患部に散布する等の使用も可能である。
本発明でいう凍結乾燥組成物は、凍結乾燥組成物、凍結乾燥製剤、凍結乾燥体、凍結乾燥品等を包含するものである。
本発明の凍結乾燥組成物の好ましい製造方法を次に説明する。
すなわち、(a)アルギン酸の1価金属塩及び(b)1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を溶解してなる水溶液を凍結乾燥する方法によって製造するのが好ましい。
【0020】
より具体的には、少なくとも成分(a)と成分(b)を、注射用水に溶解して水溶液を調製する。この際、成分(a)であるアルギン酸の1価金属塩の濃度を0.2~3質量%、好ましくは、0.3~2質量%程度となるようにするのが好ましい。成分(b)である塩は、使用した成分(a)に対して、成分(a)/成分(b)の質量比が、100/70~100/10となる量、より好ましくは100/60~100/30となる量で用いるのがよい。水への成分(a)と成分(b)の添加順序は任意とすることができるが、成分(a)、成分(b)の順で加えるのが好ましい。通常、室温で溶解させるが、場合により、溶液を加熱または冷却してもよい。溶解に際して、任意の攪拌機を用いてもよい。
本発明では、少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解した水溶液の粘度(20℃)が、40~800mPa・sとなるようにするのが好ましい。ここで、水溶液の粘度は、レオストレスRS600(Thermo Haake GmbH社製)で2軸円筒状の金属製カップを用いて、20℃で測定した値を用いることができる。
溶解後、必要により、水溶液を濾過して不溶解物を除去してもよい。この際、無菌濾過を行うのが好ましい。
【0021】
本発明では、少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解した水溶液を任意の容器に充填した後、凍結乾燥に付すことができるが、バイアルに充填するのが好ましく、特に容量が2~50mlのバイアルに充填するのが好ましい。凍結乾燥後に容易に密封できる容器に充填することが好ましい。充填量は、バイアルの容量の1~90%程度、好ましくは10~50%程度とするのが好ましい。
任意の容器に充填した水溶液は、その後任意の温度で凍結させる。前記凍結工程は、水溶液が凍結する温度から-200℃の温度の範囲内で、氷晶が均一かつ十分に成長するのに十分な時間をかけて行うのが好ましい。その後、温度設定を氷晶が維持される範囲に維持しつつ減圧して凍結乾燥を行う。
好ましくは、少なくとも成分(a)と成分(b)を溶解してなる水溶液を、凍結温度ないし-50℃の範囲で凍結し、この温度範囲で減圧して1次乾燥させる。引続き、2次乾燥を行って水分含量を3質量%以下、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下に、最も好ましくは実質的に水分を含まなくなるまで乾燥させる。凍結乾燥組成物の水分含量は常法、例えば乾燥減量法、カールフィッシャー法等により測定できる。当該凍結乾燥組成物が吸湿性を有する場合には、測定時に吸湿の影響を受けないよう留意する必要がある。
ここで、1次乾燥は、水分子の氷からの昇華によって氷晶がなくなるまでの過程を、2次乾燥とは、分子への結合水が昇華する過程をいう。1次乾燥終了時の水分含量(残量)は、凍結乾燥物と量にも依存するが、概ね15~30%程度と言われている。
なお、本発明の凍結乾燥条件に記載する温度は、凍結乾燥機における棚温を意味する。棚温は、通常、凍結乾燥機の庫内に設置された温度センサーにより測定、モニターすることが可能である。また、本発明に記載の凍結温度とは、凍結乾燥組成物とする溶液が凍結を開始する温度で設定した棚温を意味する。
【0022】
乾燥は、凍結により生じた氷結晶に含まれる水分を減圧下で昇華させて除去する。この際の減圧条件としては、設定棚温度にもよるが、0.0~50Paの圧力であればよく、0.0~5Paの圧力とするのが好ましい。冷却下で減圧乾燥できる市販の凍結乾燥装置を用いて、凍結乾燥を行うのが好ましい。
本発明では、2次乾燥を、1次乾燥と同じ温度条件で行うことも、1次乾燥時の温度よりも高い温度条件で行うことも可能である。1次乾燥時の温度よりも高い温度条件で行う場合には、製造時間を短縮することができる場合がある。具体的には、2次乾燥温度として、例えば-10℃~5℃が挙げられるがこの範囲に限定されない。
凍結乾燥終了後、バイアル中の空気を窒素ガス、好ましくは乾燥窒素ガスで置換し、次いで、キャップして密閉状態にするのが好ましい。キャップとしてはゴム製、特に、臭化ブチルゴム製のものが好ましい。尚、バイアルとしては、ガラス製バイアルなど市販の種々の材料でできたものを用いることができる。また、バイアルの内壁をシリコーン等でコーティングすることも可能である。
【0023】
本発明は、さらに、1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を含有することを特徴とするアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下抑制剤を提供する。又、本発明は、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物に、1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩を含有させることを特徴とするアルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下を抑制する方法を提供する。
これらの態様において、1価金属塩及びアンモニウム塩から選ばれる塩である成分(b)を、アルギン酸の1価金属塩である成分(a)に対して、成分(a)/成分(b)の質量比が、100/70~100/10の範囲で用いるのが好ましく、より好ましくは、100/60~100/30の範囲で用いることにより、アルギン酸の1価金属塩凍結乾燥組成物の経時的粘度低下を抑制することができる。
【実施例
【0024】
次に、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
以下の方法により、各種アルギン酸ナトリウム凍結乾燥組成物を調製し、その特性を測定し、比較した。
(1)アルギン酸ナトリウム水溶液の調製方法
精製アルギン酸ナトリウム((株)キミカより購入:純度(定量値)98%:粘度(1質量%溶液、20℃)525mPa・s:M/G比1.2)、塩化ナトリウム(メルク(株)社製)及び水(注射用水:大塚製薬(株)社製)を用いた。
滅菌済みの1~2L容量の容器に、精製アルギン酸ナトリウム単独、又は精製アルギン酸ナトリウムと塩化ナトリウムを、注射用水と共に入れ、室温で攪拌して溶解させ、表1に記載の使用原薬液A及びBを調製した。
次いで、使用原薬液A及びBを、クリーンベンチ内で0.22μmフィルター(ミリポア社製)を用いて無菌ろ過を行い、20ml容量のガラスバイアルにバイアルあたり、乾燥アルギン酸ナトリウムとして、102mgとなるように充填を行った。
【0025】
(2)凍結乾燥
アルギン酸ナトリウム水溶液を充填したガラスバイアルを、凍結乾燥装置を用いて、下記の条件で、凍結乾燥した。
凍結・乾燥条件:270分かけて-40℃まで冷却し、この温度で、600分保持して完全に凍結させた後、240分かけて温度を-10℃に上昇させ、この温度で、凍結乾燥機の庫内が3Pa以下となるまで減圧し、約120時間保持して、水分含量約2質量%まで乾燥した。
凍結乾燥後、バイアル中の空気を乾燥窒素ガスで置換し、次いで、キャップして密閉状態にし、これを以下の試験に供した。
表1にアルギン酸ナトリウム水溶液の処方や乾燥温度などをまとめて示す。
【0026】
表1
【0027】
(3)試験条件
本実施例においては、アルギン酸ナトリウムの経時的な粘度の変化を評価するため、40℃、75%RHの恒温恒湿室に60日保存して、アルギン酸ナトリウム凍結乾燥品にストレスを与えた。
(4)分析方法
レオストレスRS600(Thermo Haake GmbH社製)で2軸円筒状の金属製カップを用いて、20℃における粘度を3分間測定しそのうち開始1分後から2分後までの平均を測定値とし、粘度の経時変化を調べた。すなわち、アルギン酸ナトリウム凍結乾燥品を経時ごとに取り出し、アルギン酸ナトリウムの濃度が1質量%になるように注射用水で復水して、粘度を測定した。
【0028】
(5)結果
得られた結果を図1に示す。
図1における実施例1-1、1-2と実施例1-3、1-4を比較すると、塩化ナトリウム未添加の実施例(1-3と1-4)に比べて、塩化ナトリウム添加の実施例(1-1と1-2)の初期粘度(保存期間0日)は低い傾向にあることがわかる。この現象は塩化ナトリウム添加による見かけの粘度低下であって、品質劣化によるものではない。経時による粘度の低下は、実施例(1-3と1-4)に比べて実施例(1-1と1-2)の方が緩やかであり、保存期間が30日を過ぎると、両者の粘度は逆転して、60日経過後では両者の粘度の差が大きくなっていることがわかる。これは、塩化ナトリウムである1価金属塩が、アルギン酸ナトリウムであるアルギン酸の1価金属塩の経時的粘度の低下を抑制できることを示している。30日時点の粘度低下率(初期値からの変化率)は、実施例(1-3と1-4)が約30%低下しているのに対し、実施例(1-1と1-2)では、約10%であり、塩化ナトリウムを添加することにより、粘度低下がさらに抑制されることが確認された。
同時に、薬液濃度の変更(10mg/L)および、バイアルサイズの変更(50ml容量のバイアル)の実験も行ったが、薬液濃度の変更、バイアルサイズの変更(充填量の変更)の安定性への影響はいずれも認められなかった。
図1