(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】構造体の振動抑制装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/416 20060101AFI20220208BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20220208BHJP
B23Q 1/72 20060101ALI20220208BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
G05B19/416 F
B23Q11/00 A
B23Q1/72 B
G05D3/12 306P
(21)【出願番号】P 2018056796
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】宮路 匡
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-176456(JP,A)
【文献】特開2001-273037(JP,A)
【文献】特開2017-041075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/416
B23Q 11/00
B23Q 1/72
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線移動制御される移動体を備えた構造体に設けられ、前記移動体の直線移動に伴って前記構造体に加わる力によって前記構造体に発生する振動を抑制する装置であって、
前記構造体に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な複数の回転アクチュエータと、
各前記回転アクチュエータを、それぞれの回転速度指令に従い制御する制振手段と、を備え、
各前記回転アクチュエータは、回転軸方向が前記移動体の直線移動方向と交差する向きで配置され、
前記制振手段は、
前記移動体の直線移動制御に係る速度指令から、前記構造体の固有振動数を含む所定の周波数帯域成分をバンドパスフィルタで抽出し、制振ゲインで増幅して回転速度指令加減速成分を生成する加減速成分生成部と、
前記回転速度指令加減速成分に予め設定された回転速度指令定速成分を加算して一部の前記回転アクチュエータへの前記回転速度指令を算出する少なくとも1つの加算制振部と、
前記回転速度指令加減速成分から前記回転速度指令定速成分を減算して他の前記回転アクチュエータへの前記回転速度指令を算出する少なくとも1つの減算制振部と、
を含んでなることを特徴とする構造体の振動抑制装置。
【請求項2】
直線移動制御される移動体を備えた構造体に設けられ、前記移動体の直線移動に伴って前記構造体に加わる力によって前記構造体に発生する振動を抑制する装置であって、
前記構造体に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な複数の回転アクチュエータと、
各前記回転アクチュエータを、それぞれの回転速度指令に従い制御する制振手段と、を備え、
複数の前記回転アクチュエータの内の一部が、同一の前記回転速度指令に対し他の前記回転アクチュエータとは反対方向の回転トルクを発生するよう
前記他の回転アクチュエータに対して回転軸方向を反転して配置され、
前記制振手段は、
前記移動体の直線移動制御に係る速度指令から、前記構造体の固有振動数を含む所定の周波数帯域成分をバンドパスフィルタで抽出し、制振ゲインで増幅して回転速度指令加減速成分を生成する加減速成分生成部と、
前記回転速度指令加減速成分に予め設定された回転速度指令定速成分を加算して、前記一部の前記回転アクチュエータへの前記回転速度指令を算出する少なくとも1つの加算制振部と、
前記回転速度指令定速成分から前記回転速度指令加減速成分を減算して、前記他の前記回転アクチュエータへの前記回転速度指令を算出する少なくとも1つの減算制振部と、
を含んでなることを特徴とする構造体の振動抑制装置。
【請求項3】
前記加算制振部及び前記減算制振部をそれぞれ複数有し、複数の前記加算制振部でそれぞれ用いられる前記回転速度指令加減速成分の総和と、複数の前記減算制振部でそれぞれ用いられる前記回転速度指令加減速成分の総和とが等しくなるように、前記加算制振部及び/又は前記減算制振部の数、又は、前記加減速成分生成部における前記制振ゲインの増幅率が設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体の振動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の各種機械の構造体において生じる振動を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の各種機械において、構造体に沿って移動する移動体を設けた場合、当該移動体が加減速する際の反力等によって構造体に振動が発生することがある。例えば工作機械の一例である門形マシニングセンタにおいては、ベッドに立設された構造体としてのコラムの前面に、水平なクロスレールを上下移動可能に設け、そのクロスレールの前面に、主軸頭を備えたサドルを移動体として水平移動可能に設けている。このサドルが水平移動する際の反力によって、コラムにたわみや振動が発生して、機械の精度が損なわれることになる。また、このような振動は、移動体の移動に伴う反力に限らず、外部からの力によっても生じることがある。
この問題解決の一例として、特許文献1には、移動体を駆動する装置とは別に、構造体に回転アクチュエータを設け、移動体の速度指令と同期した回転速度指令を回転アクチュエータに与えることで、構造体に加わる力を打ち消す回転トルクを発生させ、振動を抑制する構造体の振動抑制装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の発明においては、構造体の振動を抑制するためには、回転アクチュエータが発生する振動を打ち消す力を、振動する構造体の全域に作用させる必要がある。よって、回転アクチュエータの設置場所が限定的となる。また、回転アクチュエータを加減速して振動を抑制するため、回転状態を維持するエネルギーに加えて、加速に必要なエネルギーを供給することができる出力容量を備えた電源装置が必要となっている。
【0005】
そこで、本発明は、構造体の振動を抑制可能でありながらも、回転アクチュエータの設置場所に対する自由度を高め、更には、回転アクチュエータの駆動に必要となる電源装置の出力容量を小さくすることが可能な構造体の振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、直線移動制御される移動体を備えた構造体に設けられ、移動体の直線移動に伴って構造体に加わる力によって構造体に発生する振動を抑制する装置であって、
構造体に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な複数の回転アクチュエータと、各回転アクチュエータを、それぞれの回転速度指令に従い制御する制振手段と、を備え、
各回転アクチュエータは、回転軸方向が移動体の直線移動方向と交差する向きで配置され、
制振手段は、
移動体の直線移動制御に係る速度指令から、構造体の固有振動数を含む所定の周波数帯域成分をバンドパスフィルタで抽出し、制振ゲインで増幅して回転速度指令加減速成分を生成する加減速成分生成部と、
回転速度指令加減速成分に予め設定された回転速度指令定速成分を加算して一部の回転アクチュエータへの回転速度指令を算出する少なくとも1つの加算制振部と、
回転速度指令加減速成分から回転速度指令定速成分を減算して他の回転アクチュエータへの回転速度指令を算出する少なくとも1つの減算制振部と、を含んでなることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、直線移動制御される移動体を備えた構造体に設けられ、移動体の直線移動に伴って構造体に加わる力によって構造体に発生する振動を抑制する装置であって、
構造体に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な複数の回転アクチュエータと、各回転アクチュエータを、それぞれの回転速度指令に従い制御する制振手段と、を備え、複数の回転アクチュエータの内の一部が、同一の回転速度指令に対し他の回転アクチュエータとは反対方向の回転トルクを発生するよう他の回転アクチュエータに対して回転軸方向を反転して配置され、
制振手段は、
移動体の直線移動制御に係る速度指令から、構造体の固有振動数を含む所定の周波数帯域成分をバンドパスフィルタで抽出し、制振ゲインで増幅して回転速度指令加減速成分を生成する加減速成分生成部と、
回転速度指令加減速成分に予め設定された回転速度指令定速成分を加算して、一部の回転アクチュエータへの回転速度指令を算出する少なくとも1つの加算制振部と、
回転速度指令定速成分から回転速度指令加減速成分を減算して、他の回転アクチュエータへの回転速度指令を算出する少なくとも1つの減算制振部と、を含んでなることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、加算制振部及び減算制振部をそれぞれ複数有し、複数の加算制振部でそれぞれ用いられる回転速度指令加減速成分の総和と、複数の減算制振部でそれぞれ用いられる回転速度指令加減速成分の総和とが等しくなるように、加算制振部及び/又は減算制振部の数、又は、加減速成分生成部における制振ゲインの増幅率が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の構造体の振動抑制装置によれば、構造体の振動を抑制した上で、回転アクチュエータの設置場所に対する自由度を高めることができる。また、回転アクチュエータの駆動に必要となる電源装置の出力容量を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】形態1の振動抑制装置に係るブロック図である。
【
図2】形態1の制振用サーボモータの回転特性の一例を示した図である。
【
図3】形態2の振動抑制装置に係るブロック図である。
【
図4】形態2の制振用サーボモータの回転特性の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、一例として門形マシニングセンタに第1発明の構造体の振動抑制装置を搭載した実施形態を示した図である。
門形マシニングセンタ1において、ベース2上に立設される構造体としてのコラム3の前面には、クロスレール4が設けられ、そのクロスレール4の前面に、移動体としてのサドル5が水平方向へ直線移動可能に設けられている。このサドル5は、クロスレール4に設けられたボールネジ6及びサーボモータ7を介して後述する制御装置20によって移動制御される。
【0010】
一方、コラム3の上部には、回転アクチュエータとしての制振用サーボモータ8a,8bが組み込まれている。この制振用サーボモータ8a,8bは、次のような同様の構成をそれぞれ備えている。具体的には、ロータ10を前向きにした姿勢でステータ9がコラム3と一体に連結されて、ロータ10には、負荷イナーシャを付与するために、質量のある円盤11が連結されている。よって、制振用サーボモータ8a,8bが駆動すると、それぞれにおいて、ステータ9を介してロータ10及び円盤11の回転方向と反対方向でコラム3に回転トルクが印加されることになる。この制振用サーボモータ8a,8bと後述する制振手段としての制振装置30とによって振動抑制装置が構成される。
【0011】
次に、制御装置20は、NCプログラムに基づいて上位装置(図示しない)で生成された位置指令値に基づいて速度指令値を出力する位置制御部21と、位置制御部21からの速度指令値に基づいてトルク指令値を出力する速度制御部22と、トルク指令値に基づいてサーボモータ7を駆動制御する電流制御部23とを備える。24,25は減算器で、ここでは、サーボモータ7に設けた回転検出器26から得られる位置フィードバック信号と位置指令値との偏差が0となるような位置ループが組まれており、位置ループの内側には、回転検出器26からの出力信号を微分器27によって微分して得られる速度フィードバック信号と速度指令値との偏差を0とする速度ループが組まれている。
【0012】
そして、制振用サーボモータ8a,8bは、制振手段としての制振装置30によって制御される。この制振装置30は、サーボモータ7への位置指令値の出力と同期して制振用サーボモータ8a,8bを駆動制御するもので、ここでは、位置指令値に基づいて制振用サーボモータ8a,8bに対する回転速度指令加減速成分としての制振用の速度指令値Vc0を算出する加減速成分生成部31と、制振用サーボモータ8aに対する回転速度指令を算出する加算制振部32aと、制振用サーボモータ8bに対する回転速度指令を算出する減算制振部32bとをそれぞれ備えている。
加減速成分生成部31は、サーボモータ7への位置指令値を微分する微分器33と、微分器33から得られる速度指令値から、コラム3の固有振動数を含む所定の周波数帯域での速度指令波形を抽出するバンドパスフィルタ34と、その速度指令波形に予め設定した係数を乗じて制振用の速度指令値Vc0を出力する制振ゲイン35とを備えている。
【0013】
加算制振部32aは、加減速成分生成部31から得られる速度指令値Vc0と、予め設定した回転速度指令定速成分としての回転速度オフセットとを加算する加算器36aを備えている。なお、バンドパスフィルタ34を用いることで信号の遅れが生じる場合を考慮して、サーボモータ7の制御装置20には、位置制御部21への位置指令値の入力を遅らせるディレイ部28が設けられている。
【0014】
また、加算制振部32aにおいて、加算器36aで修正された制振用の速度指令値Vcaは、速度制御部37に入力されて、ここから出力されるトルク指令値に基づいて電流制御部38が制振用サーボモータ8aを駆動制御するものとなっている。なお、ここでも制振用サーボモータ8aに回転検出器39が設けられて、回転検出器39からの出力信号を微分器40によって微分して得られる速度フィードバック信号を減算器41で減算して制振用の速度指令値Vcaとの偏差を0とする速度ループが組まれている。
【0015】
一方、減算制振部32bは、加算制振部32aの加算器36aが減算器36bに代わることを除いて、加算制振部32aと同様の構成となっている。なお、減算器36bは、制振ゲイン35が出力した速度指令値Vc0から予め設定した回転速度オフセットを減算することで制振用の速度指令値Vcbを生成する。これにより、制振用サーボモータ8bは制振用の速度指令値Vcbとの偏差が0となるよう制御される。
この加減速成分生成部31と、加算制振部32a及び制振用サーボモータ8aと、減算制振部32b及び制振用サーボモータ8bとでコラム3の振動抑制装置が構成される。
【0016】
このように構成された振動抑制装置では、サドル5への位置指令値が上位装置から出力されると、これと同期して、コラム3の固有振動数を含む所定の周波数成分から構成された制振用の速度指令値Vc0が、加減速成分生成部31の微分器33、バンドパスフィルタ34、制振ゲイン35を介して算出される。更に、制振用の速度指令値Vc0に従って、制振用サーボモータ8a,8bがそれぞれ加算制振部32a、減算制振部32bを介して加減速駆動されるため、各円盤11に回転トルクが生じる。この時、コラム3には、各円盤11の回転トルクと反対方向の回転トルクがサドル5の動作に合わせて印加されることとなり、サドル5の移動に伴ってコラム3に発生するたわみや振動を打ち消すことが可能となる。
【0017】
また、加算器36aで加算、減算器36bで減算される回転速度オフセットは、加減速を伴わないため、制振用サーボモータ8a,8bの回転トルクの発生には寄与しない一方、制振用の速度指令値Vc0によって発生する揺動運動を回避して、軸受け等におけるフレッチング摩耗の発生を防止する目的で印加される。
【0018】
図2は、
図1における制振用の速度指令値Vc0、Vca、Vcbと、これにより制振用サーボモータ8a,8bで発生する回転トルクτa、τbの一例を示した図である。
図2で示される制振用の速度指令値Vc0に回転速度オフセットが加算器36aで加算され、値が常に正値となるVcaが生成される。同様に、制振用の速度指令値Vc0から回転速度オフセットが減算器36bで減算され、値が常に負値となるVcbが生成される。また、この時、制振用サーボモータ8a,8bで発生する回転トルクτa、τbは、Vcaの微分値、Vcbの微分値にそれぞれ比例した応答となる。
【0019】
ここで、Vcaとτaとが同符号となるのは制振用サーボモータ8aが加速状態にあることを意味しており、加速に必要な電気エネルギー(電力)が図示しない電源装置から制振用サーボモータ8aへ供給される力行状態となっている。反対に、Vcaとτaとが異符号となるのは制振用サーボモータ8aが減速状態にあることを意味しており、奪った運動(回転)エネルギーが制振用サーボモータ8aから電源装置へ流れ込む回生状態となっている。Vcbとτbとについても同様である。
【0020】
図2において加減速状態に着目すると、Vcaが加速している時、Vcbは減速し、Vcaが減速している時、Vcbは加速していることを確認できる。即ち、制振用サーボモータ8aの加速に必要なエネルギーは制振用サーボモータ8bの減速で生じるエネルギーで、制振用サーボモータ8bの加速に必要なエネルギーは制振用サーボモータ8aの減速で生じるエネルギーで、それぞれ賄うことが可能であり、電源装置は制振用サーボモータ8a,8bで発生する銅損などの損失分のエネルギー(電力)のみを供給することとなる。
【0021】
このように、上記形態1の振動抑制装置によれば、サドル5への位置指令値に同期して制振用サーボモータ8a,8bで回転トルクを発生させることができるため、サドル5の移動に伴ってコラム3に発生するたわみや振動を打ち消すことができる。その上で、複数の加算制振部32a及び減算制振部32b間で加速に必要なエネルギーを供給しあえるので、制振用サーボモータ8a,8bの駆動に必要となる電源装置の出力容量を小さくすることができる。また、複数の加算制振部32a及び減算制振部32bを備えることで、制振用サーボモータ一つあたりで必要となる回転トルクを小さくできるため、結果、制振用サーボモータ8a,8b自体を小さくすることが可能であり、設置場所に対する自由度を高めることができる。
【0022】
[形態2]
図3は、第2発明の構造体の振動抑制装置を搭載した実施形態を示した図である。
形態1に対し、ここでは制振用サーボモータ8bに代えて、軸芯方向を反転した制振用サーボモータ8cが配置されている点が異なる。また、形態1では減算制振部32bの減算器36bが速度指令値Vc0から回転速度オフセットを減算して制振用の速度指令値Vcbを生成していたのに対し、この減算制振部32cでは、減算器36cが回転速度オフセットから速度指令値Vc0を減算して制振用の速度指令値Vccを生成する点が異なる。その他の構成については
図1と同様であるため、説明を省略する。
【0023】
図4は、
図3における制振用の速度指令値Vc0、Vca、Vccと、これにより制振用サーボモータ8a、8cで発生する回転トルクτa、τcの一例を示した図である。
図4で示される制振用の速度指令値Vc0に回転速度オフセットが加算器36aで加算され、値が常に正値となるVcaが生成される。一方、減算器36cでは、回転速度オフセットから速度指令値Vc0が減算されるため、速度指令値Vc0の符号を反転させた後、回転速度オフセットを加算した
図4の中段のようなVccが生成される。なお、VccはVcaと同様、値が常に正値となる。また、この時、制振用サーボモータ8a、8cで発生する回転トルクτa、τcは、Vcaの微分値、Vccの微分値にそれぞれ比例した応答となる。
【0024】
図2と同様、
図4において加減速状態に着目すると、Vcaが加速している時、Vccは減速し、Vcaが減速している時、Vccは加速していることを確認できる。即ち、制振用サーボモータ8aの加速に必要なエネルギーは制振用サーボモータ8cの減速で生じるエネルギーで、制振用サーボモータ8cの加速に必要なエネルギーは制振用サーボモータ8aの減速で生じるエネルギーで、それぞれ賄うことが可能であり、電源装置は制振用サーボモータ8a、8cで発生する銅損などの損失分のエネルギー(電力)のみを供給することとなる。
【0025】
一方、
図4から、制振用サーボモータ8a、8cで発生する回転トルクτa、τcは、符号を反転したような関係にあることが確認できる。これは、制振用サーボモータ8aの回転方向と回転トルクτaの作用方向の関係に対し、制振用サーボモータ8cの回転方向と回転トルクτcの作用方向の関係が正反対であることを意味する。
【0026】
しかし、制振用サーボモータ8cは制振用サーボモータ8aに対して、軸芯方向を反転して配置しているため、それぞれのサーボモータが正方向に回転していても、コラム3上では逆方向に回転していることになる。結果、回転トルクτaと回転トルクτcの符号が反転していることによって、コラム3上では同方向の回転トルクが加えられることとなり、共にサドル5の動作に合わせてたわみや振動を打ち消す回転トルクを発生することとなる。
【0027】
このように、上記形態2の振動抑制装置によれば、形態1と同様に、サドル5への位置指令値に同期して制振用サーボモータ8a、8cで回転トルクを発生させることができるため、サドル5の移動に伴ってコラム3に発生するたわみや振動を打ち消すことができる。その上で、複数の加算制振部32a及び減算制振部32cで加速に必要なエネルギーを供給しあえるので、制振用サーボモータ8a、8cの駆動に必要となる電源装置の出力容量を小さくすることができる。また、複数の加算制振部32a及び減算制振部32cを備えることで、制振用サーボモータ一つあたりで必要となる回転トルクを小さくできるため、結果、制振用サーボモータ8a,8c自体を小さくすることが可能であり、設置場所に対する自由度を高めることができる。
【0028】
なお、形態1,2に共通して、ここでは制振用サーボモータと対応する加算若しくは減算制振部とをそれぞれ1組ずつ設けた場合を例に説明したが、複数組であっても本発明の適用は可能である。この場合、複数の加算制振部32aで用いられる制振用の速度指令値Vc0の総和と、複数の減算制振部32b(あるいは減算制振部32c)で用いられる制振用の速度指令値Vc0の総和とが等しくなるよう、加算制振部32a、減算制振部32b(あるいは減算制振部32c)の数、または制振ゲイン35の増幅率が調整されていれば、加速に必要なエネルギーと減速で生じるエネルギーとを等しくすることが可能である。
【0029】
但し、加算制振部と減算制振部との制振用の速度指令値Vc0の総和は、厳密に等しくなる必要は無く、多少異なっていても電源装置の出力容量を小さくする効果を得ることは可能である。例えば、全体で必要となる回転トルクの大きさを10とした場合、加算制振部32aの構成が5、減算制振部32b(あるいは減算制振部32c)の構成が5の回転トルクを出力することが理想であるが、加算制振部32aの構成が6、減算制振部32b(あるいは減算制振部32c)の構成が4の回転トルクを出力する構成であっても、全体では10の回転トルクを得ながら、電源装置に必要となるエネルギーは両者の差分である2の回転トルクに相当するエネルギー分のみで良いため、加減速動作で必要となる電源容量を1/5に抑えることができる。
【0030】
その他、上記形態の振動抑制装置では、1つの加減速成分生成部を複数の加算制振部及び減算制振部で共用する格好となっているが、各加算制振部及び減算制振部ごとに加減速成分生成部を設けてもよい。また、各加算制振部及び減算制振部に入力される回転速度オフセットは、同一の値を入力する格好となっているが、各加算制振部及び減算制振部ごとに異なる値を入力してもよい。さらに、本発明は、門形マシニングセンタ以外の他の工作機械にも適用可能であるし、工作機械以外の他の産業機械等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1・・門形マシニングセンタ、2・・ベース、3・・コラム、4・・クロスレール、5・・サドル、6・・ボールネジ、7・・サーボモータ、8a,8b,8c・・制振用サーボモータ、9・・ステータ、10・・ロータ、11・・円盤、20・・制御装置、21・・位置制御部、22,37・・速度制御部、23,38・・電流制御部、24,25,36b,36c,41・・減算器、26,39・・回転検出器、27,33,40・・微分器、28・・ディレイ部、30・・制振装置、31・・加減速成分生成部、32a・・加算制振部,32b,32c・・減算制振部、34・・バンドパスフィルタ、35・・制振ゲイン、36a・・加算器。