(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】合成桁の床版撤去方法
(51)【国際特許分類】
E01D 24/00 20060101AFI20220208BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D19/12
(21)【出願番号】P 2018063783
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】特許業務法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】宇野 名右衛門
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-292404(JP,A)
【文献】特開2017-203299(JP,A)
【文献】特開2004-232426(JP,A)
【文献】特開平08-151607(JP,A)
【文献】特開平06-306819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 24/00
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁上にコンクリート製の床版が設置され、主桁の上面に設けられたずれ止め部材によって主桁と床版が結合された合成桁から床版を撤去する合成桁の床版撤去方法において、
床版撤去区間の床版を橋軸方向の複数箇所で橋軸直角方向に切断する第1の切断工程と、
主桁と床版との間のコンクリートをずれ止め部材ごとワイヤーソーで橋軸方向に所定長さだけ切断する第2の切断工程と、
第2の切断工程で切断された床版を吊り上げて撤去する撤去工程とを含み、
第1の切断工程は、湿式のコンクリートカッターによって既設床版のコンクリートを上面から所定深さまで切断した後、残りのコンクリートを乾式のコンクリートカッターによって下面まで切断するようにし、
第2の切断工程と撤去工程とを床版撤去区間の橋軸方向一端から他端まで繰り返し行う
ことを特徴とする合成桁の床版撤去方法。
【請求項2】
前記第2の切断工程は、切断しようとする床版に対して橋軸方向他の位置に配置される他の床版上にワイヤーソーの駆動装置を配置し、駆動装置から延出するワイヤーソーを他の床版に穿設した貫通孔を介して床版の下面側に通すとともに、切断しようとする床版にワイヤーソーを主桁の幅方向両側から掛け渡し、切断しようとする床版と主桁との間のコンクリートをワイヤーソーで橋軸方向に切断する
ことを特徴とする請求項1記載の合成桁の床版撤去方法。
【請求項3】
前記撤去工程は、床版上に敷設される軌条に沿って橋軸方向に移動可能な門型の吊り装置及び搬送台車を用い、前記第2の切断工程で切断された床版を吊り装置によって吊り上げて搬送台車に載置し、床版を載置した搬送台車を所定の場所まで搬送するとともに、吊り装置を橋軸方向に所定距離だけ移動し、次に撤去しようとする床版上の軌条を除去する
ことを特徴とする請求項1または2記載の合成桁の床版撤去方法。
【請求項4】
前記第1の切断工程は、床版を橋軸方向の長さが橋軸直角方向の長さよりも短くなるように切断し、
前記撤去工程は、前記吊り装置によって吊り上げた床版を長手方向が橋軸方向となるように水平方向に回転させて搬送台車に載置する
ことを特徴とする請求項3記載の合成桁の床版撤去方法。
【請求項5】
前記所定の場所に配置された他の門型の吊り装置を用いて搬送台車から運搬車両への床版の積み替えを行う
ことを特徴とする請求項3または4記載の合成桁の床版撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成桁からなる既設の橋梁から床版を撤去して新たな床版を架設するための合成桁の床版撤去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般道、高速道路等の橋梁の多くには、主桁上にコンクリートを打設してなる床版を設置した合成桁が用いられている。合成桁は、主桁の上面に複数のずれ止め部材としてのスタッドを設け、スタッドを埋め込んだ状態で床版のコンクリートを打設することにより、スタッドによって主桁と床版とを結合している。
【0003】
また、床版が老朽化した場合は、既設の床版を撤去して新たな床版を再構築する床版取替施工が行われる(例えば、特許文献1参照)。
図42乃至
図45は、従来の床版取替施工における床版撤去方法を示すものである。
【0004】
従来の床版撤去方法では、まず、合成桁1において、撤去する床版2を橋軸直角方向に切断するとともに、
図42に示すように主桁3上に一部のコンクリート4を残して床版2を橋軸直角方向の複数の切断位置Cで橋軸方向に切断する。次に、
図43に示すように、主桁3上のコンクリート4以外をクレーン等で吊り上げて撤去する。この後、
図44に示すように、主桁3上に残存したコンクリート4を大型ブレーカやハンドブレーカ等の破砕機5により破砕し、破砕作業で発生したコンクリート屑の撤去及び収集を行う。そして、
図45に示すように、スタッド3aの切断及び撤去を行い、残存コンクリート屑を除去した後、主桁3の表面仕上げを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の床版撤去方法では、主桁3上の床版2を橋軸方向の複数箇所で切断し、橋軸直角方向に多数に分割された床版2を個々に撤去する必要があるため、床版2の切断及び撤去作業に長時間を要する。また、主桁3上の残存コンクリート4の破砕作業により、コンクリート屑が多く発生し、その収集作業に多大な手間を要するとともに、鉄筋やスタッド間のコンクリートを除去する必要があり、コンクリート屑の撤去及び収集にも長時間を要する。このため、施工期間中の交通規制時間が長くなり、通行量の多い道路橋での交通への影響が大きくなるという問題点があった。また、コンクリート4の破砕作業による騒音、振動、粉塵の発生が著しく、市街地での作業に適さないという問題点もあった。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、床版の切断及び撤去作業の効率化を図ることができるとともに、主桁上に残存したコンクリートの除去作業を軽減することのできる合成桁の床版撤去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するために、主桁上にコンクリート製の床版が設置され、主桁の上面に設けられたずれ止め部材によって主桁と床版が結合された合成桁から床版を撤去する合成桁の床版撤去方法において、床版撤去区間の床版を橋軸方向の複数箇所で橋軸直角方向に切断する第1の切断工程と、主桁と床版との間のコンクリートをずれ止め部材ごとワイヤーソーで橋軸方向に所定長さだけ切断する第2の切断工程と、第2の切断工程で切断された床版を吊り上げて撤去する撤去工程とを含み、第1の切断工程は、湿式のコンクリートカッターによって既設床版のコンクリートを上面から所定深さまで切断した後、残りのコンクリートを乾式のコンクリートカッターによって下面まで切断するようにし、第2の切断工程と撤去工程とを床版撤去区間の橋軸方向一端から他端まで繰り返し行うようにしている。
【0009】
これにより、床版撤去区間の床版が橋軸方向の複数箇所で橋軸直角方向に切断された後、主桁と床版との間のコンクリートを橋軸方向に所定長さだけ切断された床版が撤去されることから、橋軸方向に所定長さずつ分割した床版を橋軸直角方向に分割せずに全幅のまま撤去することができる。また、主桁と床版との間のコンクリートがずれ止め部材ごとワイヤーソーで切断されることから、主桁上に残存するコンクリート量が極めて少なくなる。更に、第1の切断工程と撤去工程とが床版撤去区間の橋軸方向一端から他端まで繰り返し行われることから、主桁から切り離される前の床版上で床版撤去作業を行うことが可能となる。また、第1の切断工程において、湿式のコンクリートカッターによって既設床版のコンクリートが上面から所定深さまで切断された後、残りのコンクリートが乾式のコンクリートカッターによって下面まで切断されることから、湿式と乾式を併用した切断が行われる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、橋軸方向に所定長さずつ分割した既設床版を橋軸直角方向に分割せずに全幅のまま撤去することができるので、従来のように床版を橋軸直角方向に複数に分割して撤去する必要がなく、撤去する床版の分割数を大幅に少なくすることができる。これにより、床版の切断及び撤去作業を効率よく行うことができ、施工期間を短縮することができる。また、主桁上に残存するコンクリート量を極めて少なくすることができるので、主桁上のコンクリート除去作業を大幅に軽減することができる。更に、主桁から切り離される前の床版上で床版撤去作業を行うことができるので、例えば床版を撤去及び搬送するための装置を床版上を移動させながら床版撤去作業を行うことができる。また、第1の切断工程においては、湿式と乾式を併用した切断により、桁下への汚水の落下を防止しつつ低コストに既設床版のコンクリートを切断することができる。即ち、湿式切断は冷却に使用した水の処理が必要であるが、乾式よりも低コストであるという利点があり、他方、乾式は汚水を発生させないが、切削粉を回収するための大型バキューム装置を必要とする分コストが高くなるとともに最大深長が湿式よりも小さいため、既設床版の厚さ方向の大部分を湿式で切断し、残りの僅かな部分を乾式で切断することにより、切断コストを抑えるとともに、汚水対策も講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態を示す主桁及び床版の斜視図
【
図3】第1の切断工程を示す主桁及び床版の正面断面図
【
図7】第2の切断工程を示す主桁及び床版の正面断面図
【
図8】第2の切断工程を示す主桁及び床版の正面断面図
【
図9】第2の切断工程を示す主桁及び床版の平面断面図
【
図10】第2の切断工程を示す主桁及び床版の平面断面図
【
図11】第2の切断工程を示す主桁及び床版の側面断面図
【
図12】第2の切断工程を示す主桁及び床版の側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図41は本発明の一実施形態を示すもので、橋梁から既設の床版を撤去する床版撤去方法を示すものである。
【0013】
同図に示す橋梁10は、橋軸方向に間隔をおいて配置された複数の橋脚11と、橋脚11に支持された主桁12と、主桁12上に架設された既設床版13とからなる。
【0014】
主桁12は、ウエブ12aの上端及び下端にそれぞれ上フランジ12b及び下フランジ12cを有する鋼桁からなり、互いに橋軸直角方向に間隔をおいて複数列(例えば3列)に配置されている。また、上フランジ12bの上面には、主桁12と床版13とを結合するための複数のずれ止め部材としてのジベル12dが設けられている。ジベル12dは、上下方向に延びる金属製の棒状部材によって形成され、上端に他の部分よりも外径の大きい頭部を有する、いわゆるスタッドジベルからなる。このジベル12dは、橋軸直角方向に複数本(例えば3本)ずつ設けられるとともに、主桁12の長手方向一端側から他端側に亘って橋軸方向に間隔をおいて配列されている。尚、本実施形態で示すジベル12dは一例であり、ずれ止め部材としては他の形状のものが用いられる場合もある。
【0015】
床版13は、各主桁12の上フランジ12b上に図示しない型枠によって打設されたコンクリートにより形成され、その幅方向両側には壁高欄13aが一体に形成されている。床版13においては、各ジベル12dを埋め込んだ状態でコンクリートを打設することにより、各ジベル12dによって主桁12と床版13が結合されている。また、床版13の下面側には、各主桁12の上フランジ12b上にそれぞれ位置するハンチ13bが設けられ、各ハンチ13bは下方に向かって突出するように形成されている。この場合、ハンチ13bの側面は上フランジ12bの両側から床版13の下面まで傾斜面をなすように形成されている。
【0016】
次に、本実施形態における床版撤去方法について説明する。本実施形態の床版撤去方法は、既設床版13を橋軸直角方向に切断する第1の切断工程と、既設床版13と主桁12との間のコンクリートをスタッドごとワイヤーソーで切断する第2の切断工程と、第2の切断工程で切断された既設床版13を吊り上げて撤去する撤去工程とを含み、第2の切断工程と撤去工程とを床版撤去区間Nの一端から他端まで繰り返し行うことにより、既設床版13を主桁12上から撤去する。尚、前記撤去工程には、
図16乃至
図24に示す床版撤去装置が用いられるが、床版撤去装置の詳細な構成については後述する。
【0017】
まず、第1の切断工程では、
図2に示すように、既設床版13を切断後の橋軸方向の長さがLとなるように橋軸方向の複数の位置Cで橋軸直角方向に切断する。尚、床版13の橋軸方向の長さLは橋軸直角方向の長さWよりも十分に短いものとする。この場合、壁高欄13aを含まない部分(路面部分のほぼ全福に亘る床版)を第1の切断範囲C1 とし、壁高欄13aを含む他の部分を第2の切断範囲C2 として、各切断範囲C1 ,C2 ごとに以下のように切断する。
【0018】
第1の切断範囲C1 では、
図4に示すように、まず湿式のコンクリートカッター70によって既設床版13のコンクリートを上面から所定深さT1 (例えば150mm)まで切断した後、
図5に示すように残りの所定深さT2 (例えば20mm)のコンクリートを乾式(無水)のコンクリートカッター71によって下面まで切断する。その際、既設床版13の下面にスポンジ等の養生部材72を切断位置Cに沿って取り付けておくことにより、乾式の切断によってコンクリートが下面まで切断された際、切削粉が橋桁下方に飛散しないようにする。また、第2の切断範囲C2 はワイヤーソーによって切断する。
【0019】
次に、第2の切断工程では、まず、
図6及び
図7に示すように既設床版13にワイヤーソー用の複数の貫通孔13cを穿設する。各貫通孔13cは、例えば周知のコアドリルでコンクリートを削孔することにより、主桁12の幅方向(橋軸直角方向)両側に位置するように主桁12ごとに2つずつ設けられる。この場合、貫通孔13cは、橋軸直角方向の各切断位置C間の既設床版13のうち、床版撤去区間Nの一端側(図中右側)から3番目の既設床版13に設けられるとともに、5番目以降の既設床版13に切断位置C間の既設床版13の1つおきに設けられる。
【0020】
続いて、床版撤去区間Nの一端側から1番目及び2番目の既設床版13をワイヤーソー80によって以下のように主桁12から切り離す。ワイヤーソー80は駆動装置81から環状に延出し、切断対象物に巻き掛けたワイヤーソー80を駆動装置81によって高速で回転させながら牽引することにより切断対象物を切断する周知の構成からなる。この場合、駆動装置81は、後述する軌条50を跨いで既設床版13上に設置可能に形成されている。
【0021】
即ち、
図9に示すように、3番目の既設床版13の上面にワイヤーソー80の駆動装置81を配置し、駆動装置81から延出するワイヤーソー80を既設床版13の下面側に貫通孔13cを介して通すとともに、
図9及び
図11に示すように、1番目の既設床版13の橋軸方向一端側の端面にワイヤーソー80を主桁12の上フランジ12bの幅方向両側から掛け渡す。続いて、駆動装置81を駆動し、
図10及び
図12に示すように、1番目及び2番目の既設床版13と主桁12の上フランジ12bとの間のコンクリート(ハンチ13b)をワイヤーソー80で橋軸方向に切断する。この場合、図示したように主桁12ごとに配置された3台のワイヤーソー80及び駆動装置81を用いてもよいし、1台のワイヤーソー80及び駆動装置81で各主桁12の位置の切断を順次行うようにしてもよい。
【0022】
次に、
図13に示すように1番目の既設床版13を吊り上げて撤去した後、
図14に示すように2番目の既設床版13を吊り上げて撤去する。
【0023】
この後、ワイヤーソー80の駆動装置81を5番目の既設床版13に移動し、前記第2の切断工程と前記撤去工程とを繰り返し行うことにより、床版撤去区間Nの全ての既設床版13を撤去する。既設床版13が撤去された主桁12は、上フランジ2bの上面に残存する僅かなコンクリート(ハンチ13b)及びスタッド13dの一部を除去した後、上フランジ2bの表面仕上げを行う。
【0024】
【0025】
同図に示す床版撤去装置は、既設床版13の吊り上げ及び吊り降ろしを行う門型の第1及び第2の吊り装置20,30と、第1の吊り装置20と第2の吊り装置30との間で床版13の搬送を行う搬送台車40とを備え、第1の吊り装置20及び搬送台車40は軌条50に沿って橋軸方向に移動するようになっている。
【0026】
第1の吊り装置20は、橋軸方向に延びる左右一対の第1のフレーム21と、各第1のフレーム21の橋軸方向一端側及び他端側からそれぞれ下方に延びる左右一対の第2のフレーム22と、橋軸方向に延びる左右一対の第1のガイドレール23と、第1のガイドレール23に沿って橋軸方向に移動する環状の第2のガイドレール24と、第2のガイドレール24に沿って回動する吊り天秤25と、軌条50に係合して走行する複数の自走式の走行ユニット26とから構成されている。
【0027】
各第1のフレーム21は、両端側が各第2のフレーム22よりも橋軸方向に長く延出した片持ち梁状に形成され、橋軸直角方向に延びる複数の横梁21aによって互いに連結されている。
【0028】
各第2のフレーム22は、上端を第1のフレーム21に連結され、下端側を橋軸方向に延びる複数の横梁22aによって互いに連結されている。
【0029】
各第1のガイドレール23は、第1のフレーム21よりもやや長く形成され、各第1のガイドレール23の各横梁21aに固定されている。
【0030】
第2のガイドレール24は周方向4箇所をそれぞれ支持機構24aを介して各第1のガイドレール23に連結されており、各支持機構24aによって各第1のガイドレール23の一端側から他端側まで移動するようになっている。各支持機構24aとしては、例えば周知の電動トロリを用いることができる。
【0031】
吊り天秤25は水平方向に直線状に延びるように形成され、長手方向2箇所をそれぞれ支持機構25aを介して第2のガイドレール24に連結されており、各支持機構25aによって第2のガイドレール24の周方向に回動するようになっている。各支持機構25aとしては、例えば周知のギヤードトロリを用いることができる。また、吊り天秤25には複数の吊り下げ部材25bが互いに吊り天秤25の長手方向に間隔をおいて設けられ、各吊り下げ部材25bによって床版13を吊り下げるようになっている。各吊り下げ部材25bとしては、例えば周知の手動チェーンブロックを用いることができる。
【0032】
各走行ユニット26は、それぞれ各第2のフレーム22の下端に設けられている。走行ユニット26には前後一対の車輪26aが設けられ、各車輪26aは図示しないモータによって駆動されるようになっている。
【0033】
第2の吊り装置30は、橋軸方向に延びる左右一対の第1のフレーム31と、各第1のフレーム31の橋軸方向一端側及び他端側からそれぞれ下方に延びる左右一対の第2のフレーム32と、橋軸方向に延びる吊り天秤33とから構成されている。
【0034】
各第1のフレーム31は、両端側がほぼ各第2のフレーム32の上端に位置するように形成され、橋軸直角方向に延びる複数の横梁31aによって互いに連結されている。
【0035】
各第2のフレーム32は、上端を第1のフレーム31に連結され、下端側を橋軸方向に延びる複数の横梁32aによって互いに連結されている。
【0036】
吊り天秤33は水平方向に直線状に延びるように形成され、第1のフレーム31の各横梁31aに橋軸直角方向中央に位置するように固定されている。吊り天秤33には複数の吊り下げ部材33aが互いに吊り天秤33の長手方向に間隔をおいて設けられ、各吊り下げ部材33aによって床版13を吊り下げるようになっている。各吊り下げ部材33aとしては、例えば周知の手動チェーンブロックを用いることができる。
【0037】
搬送台車40は、橋軸方向に延びる左右一対の第1のフレーム41と、橋軸直角方向に延びる前後一対の第2のフレーム42と、軌条50に係合して走行する複数の自走式の走行ユニット43とから構成されている。
【0038】
各第1のフレーム41は、両端側が各第2のフレーム42よりも橋軸方向に長く延出するように形成され、互いに床版13の橋軸方向の長さLよりも短い間隔をおいて配置されている。
【0039】
各第2のフレーム42は、橋軸直角方向中央側が両端側よりも下方に位置するように屈曲しており、橋軸直角方向中央側に各第1のフレーム41が固定されている。
【0040】
各走行ユニット43は、それぞれ各第2のフレーム42の両端に設けられている。走行ユニット43には前後一対の車輪43aが設けられ、各車輪43aは図示しないモータによって駆動されるようになっている。
【0041】
軌条50は、互いに橋軸直角方向に間隔をおいて配置されるレール51と、上端にレール51が固定された固定部材52とを有し、レール51及び固定部材52は既設床版13上または既設床版13が除去された主桁12上に互いに橋軸直角方向に間隔をおいて一対ずつ配置されるようになっている。軌条50は、床版13の橋軸方向の長さLの2倍の長さ2Lに形成されたレール51及び固定部材52が橋軸方向に連結されるようになっている。この場合、左右のレール51及び固定部材52は橋軸直角方向両端の主桁12と等しい間隔で配置され、左右の固定部材52は互いに複数の補強部材53を介して連結されている。また、軌条50を既設床版13が除去された主桁12上に設置する場合は、固定部材52と主桁12との間に床版13と等しい高さの枕木材54が配置される。
【0042】
次に、前記床版撤去装置を用いた床版撤去工程について、
図26乃至
図40を参照して説明する。
【0043】
まず、
図27に示すように、前記第1の切断工程によって既設床版13を橋軸方向の複数の位置Cで橋軸直角方向に切断する。この場合、床版13の橋軸方向の長さLは橋軸直角方向の長さWよりも十分に短いものとする。
【0044】
次に、
図28及び
図29に示すように、橋軸直角方向に切断された既設床版13上に軌条50を敷設する。その際、床版撤去区間Nの一端側の2枚の既設床版13を除いた位置から床版撤去区間Nの他端側及び床版撤去区間外の既設床版13上に亘って軌条50を敷設する。尚、床版撤去区間外は既に床版取替施工が完了した新設床版上であってもよい。
【0045】
続いて、
図30に示すように、第1の吊り装置20、第2の吊り装置30及び搬送台車40を配置する。第1の吊り装置20は軌条50上を走行可能に配置され、床版撤去区間Nの一端側に位置している。第2の吊り装置30は床版撤去区間外の既設床版13上に配置され、各第2のフレーム32が軌条50の外側に位置するように設置される。搬送台車40は軌条50上を走行可能に配置され、第1の吊り装置20と第2の吊り装置30との間を往復移動するようになっている。
【0046】
次に、前記第2の切断工程によって床版撤去区間Nの一端側の既設床版13と主桁12との間のコンクリートを切断する。
【0047】
続いて、
図31に示すように、第1の吊り装置20の吊り天秤25を第1の吊り装置20の一端側に位置させるとともに、各吊り下げ部材25bを床版撤去区間Nの最も一端側に位置する既設床版13にロープ25cを介して連結し、
図32に示すように各吊り下げ部材25bによって既設床版13を吊り上げる。その際、吊り天秤25の向きは長手方向が橋軸直角方向となっている。また、搬送台車40は第1の吊り装置20の他端側に位置している。
【0048】
次に、
図33に示すように、吊り天秤25及び既設床版13の長手方向の向きが橋軸直角方向となるように第1の吊り装置20の吊り天秤25を90度回転させ、
図34に示すように第2のガイドレール24によって吊り天秤25及び既設床版13を第1の吊り装置20の他端側に移動する。
【0049】
この後、
図35に示すように吊り天秤25から既設床版13を搬送台車40上に吊り降ろし、
図36に示すように既設床版13を載せた搬送台車40を第2の吊り装置30まで移動する。
【0050】
続いて、
図37に示すように第2の吊り装置30の吊り天秤33の各吊り下げ部材33aによって既設床版13を吊り上げた後、搬送台車40を第1の吊り装置20の他端側まで移動する。その際、第1の吊り装置20を既設床版13の1つ分の長さLだけ床版撤去区間Nの他端側に向かって移動するとともに、吊り天秤25を第1の吊り装置20の一端側まで移動する。
【0051】
次に、
図38に示すように、第2の吊り装置30の内側に乗り入れた運搬車両60(トラック)に吊り天秤33から既設床版13を吊り降ろし、運搬車両60によって既設床版13を外部に搬出する。また、第1の吊り装置20の吊り天秤25を長手方向の向きが橋軸方向となるように90度回転させる。
【0052】
この後、次の既設床版13と主桁12との間のコンクリートをスタッドごと前述と同様に切断し、
図39に示すように第1の吊り装置20の各吊り下げ部材25bによって次の既設床版13を吊り上げる。前述と同様の工程により2枚目の既設床版13を撤去した後、
図40に示すように第1の吊り装置20を既設床版13の1つ分の長さLだけ床版撤去区間Nの他端側に向かって移動するとともに、軌条50のレール51及び固定部材52を1つ分だけ取り除く。即ち、既設床版13を2枚撤去するごとにレール51及び固定部材52を1つずつ取り除く工程を繰り返しながら第1の吊り装置20を順次移動させることにより、床版撤去区間Nの既設床版13を全て撤去する。
【0053】
そして、既設床版13が全て撤去された床版撤去区間Nの主桁12上には、新たな床版が設置される。
【0054】
このように、本実施形態の床版撤去方法によれば、床版撤去区間Nの既設床版13を橋軸方向の複数箇所で橋軸直角方向に切断した後、主桁12の上フランジ12bと既設床版13との間のコンクリートを橋軸方向に所定長さだけ切断し、切断された既設床版13を吊り上げて撤去するようにしたので、橋軸方向に所定長さLずつ分割した既設床版13を橋軸直角方向に分割せずに全幅のまま撤去することができる。即ち、既設床版13を従来のように橋軸直角方向に複数に分割する必要がないので、撤去する既設床版13の分割数を大幅に少なくすることができる。これにより、既設床版13の切断及び撤去作業を効率よく行うことができ、施工期間を短縮することができる。
【0055】
また、主桁12の上フランジ12bと既設床版13との間のコンクリートをスタッド12dごとワイヤーソー80で切断するようにしたので、主桁12上に残存するコンクリート量を極めて少なくすることができ、主桁12上のコンクリート除去作業を大幅に軽減することができる。
【0056】
この場合、切断しようとする既設床版13に対して橋軸方向他の位置に配置される他の既設床版13上にワイヤーソー80の駆動装置81を配置し、駆動装置81から延出するワイヤーソー80を他の既設床版13に穿設した貫通孔13cを介して既設床版13の下面側に通すとともに、切断しようとする既設床版13の橋軸方向一端側の端面にワイヤーソー80を主桁12の上フランジ12bの幅方向両側から掛け渡し、切断しようとする既設床版13と主桁12の上フランジ12bとの間のコンクリート(ハンチ13b)をワイヤーソー80で橋軸方向に切断するようにしたので、切断しようとする既設床版13と主桁12とを他の既設床版13上に配置された駆動装置81から延出するワイヤーソー80によって確実に切り離すことができる。
【0057】
また、主桁12の上フランジ12bと既設床版13との間のコンクリートを橋軸方向に所定長さLだけ切断する第2の切断工程と、切断された既設床版13を吊り上げて撤去する撤去工程とを床版撤去区間Nの橋軸方向一端から他端まで繰り返し行うようにしたので、主桁12から切り離される前の既設床版13上に第1の吊り装置20及び搬送台車40を配置して作業することができ、第1の吊り装置20及び搬送台車40を軌条50に沿って既設床版13上を移動させながら床版撤去作業を行うことができる。即ち、床版撤去区間Nの全ての既設床版13と主桁12との間を先に切断してしまうと、主桁12と切り離された不安定な既設床版13上では作業ができなくなるが、本実施形態では主桁12と切り離される前の既設床版13上を第1の吊り装置20の作業場として利用することができる。
【0058】
更に、第1の切断工程において、既設床版13を橋軸方向複数の切断位置Cで互いに間隔Lをおいて切断する際、湿式のコンクリートカッター70によって既設床版13のコンクリートを上面から所定深さT1 まで切断した後、残りの所定深さT2 のコンクリートを無水式のコンクリートカッター71によって既設床版13の下面まで切断するようにしたので、湿式と乾式を併用した切断により、桁下への汚水の落下を防止しつつ低コストに既設床版13のコンクリートを切断することができる。即ち、湿式切断は冷却に使用した水の処理が必要であるが、乾式よりも低コストであるという利点があり、他方、乾式は汚水を発生させないが、切削粉を回収するための大型バキューム装置を必要とする分コストが高くなるとともに最大深長が湿式よりも小さいため、本実施形態のように、既設床版13の厚さ方向の大部分を湿式で切断し、残りの僅かな部分を乾式で切断することにより、切断コストを抑えるとともに、汚水対策も講じることができる。
【0059】
この場合、既設床版13の下面に養生部材72を切断位置Cに沿って取り付けておくようにしたので、乾式の切断によってコンクリートが下面まで切断された際、切削粉が橋桁下方に飛散することがない。また、前工程の湿式の切断時に発生した水や雨水が床版134上に残存していた場合でも、養生部材72によって橋桁下方への水の落下を防止することもできる。
【0060】
更に、床版撤去区間Nの既設床版13を橋軸方向の長さLが橋軸直角方向の長さWよりも短くなるように橋軸方向複数箇所で橋軸直角方向に切断し、既設床版13上を橋軸方向に移動可能な門型の第1の吊り装置20及び搬送台車40を用い、切断された既設床版13を第1の吊り装置20によって吊り上げるとともに、吊り上げた既設床版13を長手方向が橋軸方向となるように回転させて搬送台車40に載置し、既設床版13を載置した搬送台車40を所定の搬送場所まで搬送するとともに、第1の吊り装置20を次の床版撤去位置に移動して既設床版13の前記撤去を床版撤去区間Nの橋軸方向一端から他端まで順次行うようにしたので、既設床版13をクレーン車によって吊り上げる必要がなく、しかも撤去する既設床版13を道路幅よりも小さい幅になる向きで搬送することができる。これにより、クレーン車を用いずに床版撤去作業を行うことができるので、施工現場の上方に位置する交差道路や高圧電線によって上空制約がある場合や、供用中の隣接道路や近隣構造物による道路幅方向の作業スペースに制約がある場合、或いは既設橋梁の耐荷力による重量の制約がある場合でも、これらの制約を受けることなく既設床版13の撤去を行うことができる。
【0061】
尚、前記実施形態では、橋軸方向の長さLの既設床版13を複数枚(例えば2枚)撤去するごとに長さ2Lのレール51及び固定部材52を1つずつ取り除くようにしたものを示したが、既設床版13を1枚撤去するごとに長さLのレール51及び固定部材52を1つずつ取り除くようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…橋梁、12…主桁、12d…スタッド、13…既設床版、13c…貫通孔、20…第1の吊り装置、30…第2の吊り装置、40…搬送台車、50…軌条、60…運搬車両、70,71…コンクリートカッター、80…ワイヤーソー、81…駆動装置。