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特許7020979ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法およびポリエチレン系樹脂発泡シートとそのロール状物
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  • 特許-ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法およびポリエチレン系樹脂発泡シートとそのロール状物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法およびポリエチレン系樹脂発泡シートとそのロール状物
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20220208BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20220208BHJP
   B29C 48/32 20190101ALI20220208BHJP
【FI】
C08J9/14 CES
B29C44/00 E
B29C48/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018064650
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172883
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】谷口 隆一
(72)【発明者】
【氏名】大利 隆史
(72)【発明者】
【氏名】森田 和彦
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155423(JP,A)
【文献】特開2017-071780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/14
B29C 48/32
B29C 44/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなるポリエチレン系樹脂溶融物を環状ダイから押出して形成された筒状の発泡体を引取ることにより、平均厚み2mm以下、坪量10g/m以上100g/m以下、独立気泡率5%以上85%以下、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.1以上0.6以下、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.2以上0.8以下のポリエチレン系樹脂発泡シートを製造する方法であって、
前記ポリエチレン系樹脂が、低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含み、
前記物理発泡剤として、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む物理発泡剤を用い、
前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合量が、前記ポリエチレン系樹脂1kgあたり0.5mol以上3.0mol以下であることを特徴とするポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂が、低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂のメルトフローレイト(190℃、荷重2.16kg)が、2g/10min以上20g/10min以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項4】
前記ポリエチレン系樹脂の190℃における溶融張力が、15mN以上300mN以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項5】
前記ポリエチレン系樹脂発泡シートの見掛け密度が、20kg/m以上300kg/m以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項6】
低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂と1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む物理発泡剤とを混練してなるポリエチレン系樹脂溶融物を押出し、発泡させてなる、平均厚み2mm以下、坪量10g/m以上100g/m以下、独立気泡率5%以上85%以下、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.1以上0.6以下、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.2以上0.8以下、見掛け密度20kg/m 以上300kg/m 以下のポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項7】
請求項6に記載のポリエチレン系樹脂発泡シートがロール状に巻回されたロール状物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法およびポリエチレン系樹脂発泡シートとそのロール状物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系樹脂発泡シートは、その緩衝性が活かされた板状物用間紙、梱包材、緩衝材等として、種々の分野に利用されている。
【0003】
特許文献1に示されるように、ポリエチレン系樹脂発泡シートは一般的に、物理発泡剤としてブタン等の脂肪族炭化水素を含有させた樹脂溶融物を押出装置から押出し、発泡させることで製造される。例えば環状ダイを備えた押出装置から樹脂溶融物を押出して形成された筒状の発泡体を引取ることで、ポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることができる。
【0004】
ポリエチレン系樹脂発泡シートは、一般的にはロール状に巻き取られたロール状物として保管され出荷される。また近年、ポリエチレン系樹脂発泡シートは、輸出製品として、ロール状物の形態で出荷されるケースが増加している。
【0005】
その他、特許文献2では、ポリスチレン樹脂の押出発泡体の物理発泡剤として不燃性のヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)を用いて、ポリスチレンにおける気体の溶解性および拡散係数、得られたポリスチレン樹脂発泡体の特性を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-074671号公報
【文献】特表2010-522818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、ポリエチレン系樹脂発泡シートを板状物用間紙等に用いる場合、緩衝性や垂れ下がりへの耐性であるコシ強度が求められる。このような物性を満足させるために、独立気泡構造を有するポリエチレン系樹脂発泡シートが求められる。
【0008】
通常、このようなポリエチレン系樹脂発泡シートは、脂肪族炭化水素として、可燃性ガスであるブタン等を用いて製造されるため、製造直後のポリエチレン系樹脂発泡シートには、物理発泡剤として用いたブタンが残存している。
【0009】
製造直後にポリエチレン系樹脂発泡シートに残存する物理発泡剤は、時間経過とともに徐々に外部に逸散する。その一方で、周囲のガス(一般的には空気)は発泡シート内に徐々に流入する。このとき、物理発泡剤が逸散することにより発泡シートが収縮するため、収縮した発泡シートの厚みを回復させるために、発泡シートの養生工程が必要となる。従って、発泡シートを早期に出荷できるようにする観点から、厚みの回復が早く、養生工程に要する時間が短い発泡シートが求められる。
【0010】
一方、ポリエチレン系樹脂発泡シートを保管または運搬等するためにコンテナ等の密閉空間に収容した場合、ポリエチレン系樹脂発泡シートにブタンが残存していると、ブタンがポリエチレン系樹脂発泡シートから逸散して密閉空間内に蓄積し、密閉空間内のブタン濃度が上昇する。特に、輸出製品として出荷されるポリエチレン系樹脂発泡シートは、船などで長時間かけて運搬される場合、密閉容器内の製品量によっては、輸送中に密閉空間内のブタン濃度が爆発限界濃度に達するおそれがあった。
【0011】
ポリエチレン系樹脂発泡シートに残存するブタンを低減する方法としては、ポリエチレン系樹脂発泡シートを密閉空間に収容する前に、ポリエチレン系樹脂発泡シートに残存しているブタンを逸散させる養生工程を長期間十分に実施する方法や、ポリエチレン系樹脂発泡シートに対し、別途、ブタンの逸散を促進するための加熱処理を実施する方法が考えられる。
【0012】
しかし、養生工程を長期間行う場合には、ポリエチレン系樹脂発泡シートを出荷するまでの期間が長くなり、養生のためのスペースを確保する必要もあるため、生産性が悪化する問題があった。加えて、長期間の養生を行ったとしても、ブタンの残存量を十分に低減させることができないおそれがあった。また、加熱処理を行う場合には、製造工程が増加するため、生産性が悪化するという問題があった。
【0013】
また、ブタンの代替として、不燃性の物理発泡剤として一般的な二酸化炭素等を用いることが考えられる。しかし、二酸化炭素等の従来用いられてきた不燃性の発泡剤を用いてポリエチレン系樹脂発泡シートを製造した場合、環状ダイからの押出発泡性が低下して発泡体の表面性状の悪化や破泡が生じやすくなる。特に、薄物の発泡シートを得ようとする場合、この傾向が顕著になる。
【0014】
特許文献2においては物理発泡剤としてHCFOを用いた場合におけるポリスチレン樹脂発泡体の特性を評価しているが、環状ダイから押出してブローアップしたシート状の発泡体、特にポリエチレン系樹脂発泡シートに適用した場合における物性等については明らかにされていない。
【0015】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、可燃性の物理発泡剤を使用した場合と同等の製造条件で、可燃性の物理発泡剤を使用して製造されたポリエチレン系樹脂発泡シートと同等の物性を有すると共に、可燃性の物理発泡剤の残存量を低下させる工程や、発泡シートの厚みを回復させるための工程を短縮もしくは省略可能なポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法およびポリエチレン系樹脂発泡シートとそのロール状物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために、本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、ポリエチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなるポリエチレン系樹脂溶融物を環状ダイから押出して形成された筒状の発泡体を引取ることにより、平均厚み2mm以下、坪量10g/m以上100g/m以下、独立気泡率5%以上85%以下、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.1以上0.6以下、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.2以上0.8以下のポリエチレン系樹脂発泡シートを製造する方法であって、物理発泡剤として、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む物理発泡剤を用い、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合量が、ポリエチレン系樹脂1kgあたり0.5mol以上3.0mol以下であることを特徴としている。
【0017】
本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートは、ポリエチレン系樹脂と1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む物理発泡剤とを混練してなるポリエチレン系樹脂溶融物を押出し、発泡させてなる、平均厚み2mm以下、坪量10g/m以上100g/m以下、独立気泡率5%以上85%以下、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.1以上0.6以下、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.2以上0.8以下のポリエチレン系樹脂発泡シートである。
【0018】
本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートのロール状物は、前記ポリエチレン系樹脂発泡シートがロール状に巻回されたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、物理発泡剤として不燃性の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを用いている。そのため本発明によれば、発泡シートにおける可燃性の物理発泡剤の残存量を低下させるための養生や加熱処理の工程を短縮もしくは省略することができる。また、製造直後の発泡シートにおける厚みの回復が早いため、養生工程を短縮することができる。
【0020】
加えて本発明によれば、可燃性の物理発泡剤を使用した場合と同等の製造条件で、可燃性の物理発泡剤を用いて製造された発泡シートと同等の良好な物性を有するポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に用いられる押出装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0023】
なお、本明細書において「ポリエチレン系樹脂発泡シート」の用語は、ポリエチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなるポリエチレン系樹脂溶融物を環状ダイから押出して形成された筒状の発泡体を引取った後、厚みが定常となるまで回復した発泡シートを主に示している。平均厚み、坪量、独立気泡率、平均気泡径、見掛け密度、発泡倍率等は、この厚みが回復した発泡シートの値が参照される。ただし、必ずしもこれに限定されるものではなく、押出直後の筒状の発泡体および引取り後に厚みが回復するまでのシート状物を「ポリエチレン系樹脂発泡シート」と表記する場合もある。
(ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法)
本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法は、前記のとおりポリエチレン系樹脂発泡シートを製造するに際して、物理発泡剤のうち少なくとも一部として、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが用いられる。
【0024】
そのため、特に輸出する際において密閉容器に収容する前に必要となる、可燃性であるブタン等の脂肪族炭化水素の残存量を低下させるための養生工程を短縮もしくは省略できる。また、発泡シートの厚みが早期に回復するため、養生工程を短縮できる。更に、得られたポリエチレン系樹脂発泡シートは、同様の押出製造方法において物理発泡剤としてブタン等の脂肪族炭化水素を用いて形成されたポリエチレン系樹脂発泡シートと同等の物性を示す。従って本発明によれば、物性の良好なポリエチレン系樹脂発泡シートを速やかに出荷および輸出することが可能である。
【0025】
本発明の製造方法が対象としているポリエチレン系樹脂発泡シートは、押出時において、樹脂溶融物の吐出速度よりも速い引取速度で発泡体を引取り、発泡体を引き伸ばすことで得られる厚みの薄い発泡シートである。押出時の吐出速度よりも速い引取速度で発泡体を引取ることで、発泡シートの気泡は押出方向に長い扁平な気泡形状となる。また、押出時において、ブローアップ、すなわち環状ダイリップ部よりも直径の大きい筒状の冷却管(以下、マンドレルともいう)により拡径することで、気泡が扁平化し発泡シート幅方向に長い気泡形状となる。
【0026】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂は、エチレン成分が50モル%以上であり、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
【0027】
ポリエチレン系樹脂は、例えば、通常、ポリエチレン系樹脂発泡体に用いられるポリエチレン系樹脂であれば特に制限なく用いることができる。具体的には、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
これらの中でも、発泡シート製造時の押出発泡性がよく、緩衝性、コシ強度が良好な発泡シートを安定して得ることができるという観点から、低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。一般に、低密度ポリエチレンとは、密度0.91g/cm以上0.93g/cm未満のポリエチレン系樹脂をいう。
【0029】
低密度ポリエチレンを用いる場合、そのMFR(メルトフローレイト)は、2g/10min以上20g/10min以下が好ましく、4g/10min以上15g/10min以下がより好ましい。
【0030】
ここでMFRは、JIS K 7210-1:2014(試験温度:190℃、荷重2.16kg)に基づいて測定される。なお、2種類以上の低密度ポリエチレンを組み合わせて用いる場合、これらの混合物のMFRが上記範囲内であることが好ましい。
【0031】
MFRがこの範囲内であると、ポリエチレン系樹脂の流動性が高く、引取り時に発泡体を引き伸ばしやすくなる。そのため、厚みが薄く、外観が良好な発泡シートを安定して得ることができる。
【0032】
低密度ポリエチレンを用いる場合、その190℃における溶融張力は、15mN以上300mN以下が好ましい。溶融張力がこの範囲内であると、低坪量で独立気泡率が高く、外観が良好な発泡シートを安定して得ることができる。この点を考慮すると溶融張力は30mN以上がより好ましく、40mN以上が更に好ましい。また、溶融張力は250mN以下がより好ましい。
【0033】
ポリエチレン系樹脂の190℃における溶融張力(以下、メルトテンションまたはMTとも記載している。)は、例えば、株式会社東洋精機製作所製のメルトテンションテスターII型等によって測定することができる。具体的には、ノズル径2.095mm、長さ8mmのノズルを有するメルトテンションテスターを用い、前記ノズルから樹脂温度190℃、押出のピストン速度10mm/分の条件で樹脂を紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛けた後、15.7m/minの巻取り速度で直径50mmの巻取りロールで巻取る。
【0034】
溶融張力を求める具体的な方法は、次のとおりである。巻取り速度15.7m/minの巻取り速度において巻取りを行って張力検出用プーリーと連結する検出機により検出される紐状物の溶融張力を経時的に測定し、縦軸にMT(mN)を、横軸に時間(秒)を取ったチャートに示すと、振幅をもったグラフが得られる。次に振幅の安定した部分の、振幅の中央値(X)をとる。本発明では、この値(X)を溶融張力とする。なお、測定に際し、まれに発生する特異的な振幅は無視するものとする。
【0035】
ただし、張力検出用プーリーに掛けた紐状物が巻取り速度15.7m/minまでに切断した場合は、紐状物が切断したときの巻取り速度Rを求める。次いでR×0.7の一定の巻取り速度において、前記と同様にして得られるグラフより、振幅の中央値(X)を溶融張力とする。
【0036】
本発明において、物理発泡剤としては、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO1233zd)が用いられる。
【0037】
物理発泡剤として実質的に1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのみを用いてもよいし、本発明の効果を損なわない範囲内において、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンに加えて他の物理発泡剤を用いてもよい。他の発泡剤としては、二酸化炭素、窒素、空気、水等の無機系物理発泡剤や、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、イソヘキサン、シクロヘキサンなどの炭素数3~6の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロエタンなどの炭素数1以上4以下のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどの炭素数2以上8以下の脂肪族エーテル等の有機系物理発泡剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
使用する物理発泡剤の少なくとも一部を1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンにすることで、可燃性の発泡剤の逸散を目的とした養生工程を省略もしくは短縮することが可能であると共に、物性が良好なシート状の発泡体を得ることができる。さらに、製造直後の発泡シートの厚みの回復が早く、発泡シートの厚みを回復させるための養生期間を短縮することができる。
【0039】
外観が良好な発泡シートが得られると共に、得られたポリエチレン系樹脂発泡シートを密閉容器に収容した場合に、当該密閉容器内に発泡シート由来の可燃性ガスが溜まることを完全に回避できるという観点からは、物理発泡剤として、実質的に1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのみを用いることが好ましい。
【0040】
なお、他の物理発泡剤として、本発明の効果を損なわない範囲内において、炭素数3以上6以下の脂肪族炭化水素、炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール、炭素数2以上8以下の脂肪族エーテル等の可燃性ガス(可燃性物理発泡剤)を用いる場合、可燃性ガスを逸散させるための養生工程を省略もしくは短縮する観点から、製造直後のポリエチレン系樹脂発泡シート中に残存する可燃性ガスの含有量が0.05質量%以下となるよう可燃性ガスを配合することが好ましい。特に、炭素数3以上6以下の飽和炭化水素を用いる場合、その配合量はポリエチレン系樹脂100質量部に対して5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、1質量部以下が更に好ましい。
【0041】
なお、前記観点から、物理発泡剤として、可燃性ガスを用いないことが最も好ましい。
【0042】
本発明の製造方法において、ポリエチレン系樹脂に対する1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合量は、ポリエチレン系樹脂1kgあたり0.5mol以上3.0mol以下である。この範囲内であると、安定して押出発泡を行うことができる。この観点において、ポリエチレン系樹脂に対する1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合量は、1.0mol以上2.5mol以下であることが好ましい。
【0043】
なお、良好な発泡シートを得やすいという観点から、ポリエチレン系樹脂に対する物理発泡剤の配合量は、ポリエチレン系樹脂1kgあたり0.5mol以上3.0mol以下であることが好ましく、1.0mol以上2.5mol以下であることがより好ましい。
【0044】
従来、不燃性の物理発泡剤として用いられてきた二酸化炭素等を用いて、引取速度を大きくして(例えば、5m/分以上75m/分以下の範囲に調整した場合)薄厚みの発泡体シートを得ようとした場合、環状ダイから押出された樹脂が引取に耐え切れず、発泡シートが破断してしまう傾向にある。また、シート状に成形できた場合であっても、発泡体の表面は、伸びムラ、または気泡の破泡による凹凸が発生し表面性状が不良となる傾向にあった。これは、二酸化炭素の熱可塑性樹脂に対する可塑化効果が低いため、物理発泡剤として二酸化炭素を使用した場合、環状ダイから押出され引取られる樹脂の延展性が十分でないことが原因の一つとして考えられる。これに対して、物理発泡剤に上述の配合量で1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むことにより、薄厚みの発泡シートを得ようとした場合であっても、伸びムラや破泡の発生と、表面性状の悪化が抑制される。
【0045】
表面性状、見掛け密度および独立気泡率が良好な発泡シートが得られる観点からは、物理発泡剤における1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合割合が50mol%以上であることが好ましく、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合割合が60mol%以上であることがより好ましく、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合割合が70mol%以上であることが更に好ましく、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合割合が90mol%以上であることが更に好ましく、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの配合割合が100mol%であることが特に好ましい(ただし、いずれも1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと他の物理発泡剤との配合割合の合計を100mol%とする。)。
【0046】
本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法においては、以上に説明したポリエチレン系樹脂および物理発泡剤に加え、本発明の効果を損なわない範囲内で、押出成形に必要なその他の材料を1種または2種以上用いることができる。
【0047】
その他の材料としては、例えば、気泡調整剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤、抗菌剤、着色剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0048】
気泡調整剤としては、無機系、有機系のいずれも用いることができる。無機系の気泡調整剤としては、例えば、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0049】
有機系の気泡調整剤としては、例えば、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。また、クエン酸と重炭酸ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と重炭酸ナトリウム等を組み合わせたもの等も用いることができる。これらの気泡調整剤は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
気泡調整剤の添加量は、ポリエチレン系樹脂発泡シートに形成させる気泡に応じて適宜設定することができるが、通常、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下であり、好ましくは0.2質量部以上5質量部以下の範囲である。
【0051】
本発明の製造方法により得られるポリエチレン系樹脂発泡シートの平均厚みは、2mm以下である。大型薄肉のガラス板への対応等、被包装物やその使用目的に応じて、平均厚みは例えば1mm以下、あるいは0.5mm以下とすることができる。平均厚みの下限は特に限定されないが、被包装物に対する緩衝性、表面保護の観点から0.1mm以上が好ましい。
【0052】
本発明におけるポリエチレン系樹脂発泡シートの平均厚みは、発泡シートに対して、押出方向に沿って無作為に選択された3箇所以上について、全幅にわたって幅方向に沿って等間隔に測定される厚み(mm)の算術平均により前記3箇所以上の平均厚みをそれぞれ算出し、算出した前記3箇所以上の平均厚みの値を算術平均することにより求めることができる。
【0053】
ポリエチレン系樹脂発泡シートの平均厚みは、主に押出時の引取速度、吐出量、ブローアップ比(拡径比)等によって調整することができる。平均厚みが前記範囲のポリエチレン系樹脂発泡シートを製造する場合には、押出機より押出された筒状の発泡体の引取速度は5m/分以上75m/分以下が好ましく、特に平均厚みを1.0mm以下に調整する場合、引取速度は10m/分以上75m/分以下が好ましく、15m/分以上60m/分以下がより好ましい。
【0054】
本発明の製造方法により得られるポリエチレン系樹脂発泡シートの坪量は、10g/m以上100g/m以下である。坪量がこの範囲内であると、緩衝性やコシ強度を維持しつつ軽量なポリエチレン系樹脂発泡シートを得るのに適している。
【0055】
本発明の製造方法により得られるポリエチレン系樹脂発泡シートの独立気泡率は、5%以上85%以下である。独立気泡率がこの範囲内であると、気泡が扁平形状であっても、緩衝性やコシ強度等の物性が良好なポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることができる。
【0056】
また、厚み回復性と緩衝性とのバランスに優れる観点から、独立気泡率の上限は、80%であることが好ましく、より好ましくは70%である。
【0057】
発泡シートの独立気泡率は、例えば次のようにして特定することができる。発泡シートから試験片を切り出し、ASTM-D2856-70の手順Cに準拠して試験片の真の体積Vxを測定し、下記式(1)により独立気泡率S(%)を算出する。測定装置としては、例えば、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型等を使用することができる。
【0058】
【数1】
【0059】
ただし、上記式(1)中、Vxは、上記測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(試験片を構成する樹脂組成物の体積と、試験片の独立気泡部分の気泡全体積との和に相当する。)、Vaは、試験片の外形寸法から算出された試験片の見掛け上の体積(cm)、Wは、試験片の全重量(g)、ρは、押出発泡シートを構成する樹脂組成物の密度(g/cm)を示す。
【0060】
なお、独立気泡率を測定する試験片として、発泡シートを複数枚重ねることで見掛け体積が概ね20cmとなるように調整した試験片を用いることができる。
【0061】
本発明の製造方法により得られるポリエチレン系樹脂発泡シートにおける、押出方向(MD)の平均気泡径に対する厚み方向(VD)の平均気泡径の比(VD/MD)は、0.1以上0.6以下である。また、幅方向(TD)の平均気泡径に対する厚み方向(VD)の平均気泡径の比(VD/TD)は、0.2以上0.8以下である。これらの比が当該範囲内であると、板状物用間紙として用いる場合、コシ強度が確保され取扱い性が良好であり、緩衝性が確保され被包装物の保護に適している。
【0062】
緩衝性やコシ強度が良好な発泡シートが安定して得られる観点から、ポリエチレン系樹脂発泡シートにおける、押出方向(MD)の平均気泡径は、概ね300μm以上1000μm以下であることが好ましい。また、幅方向(TD)の平均気泡径は、概ね100μm以上600μm以下であることが好ましい。また、厚み方向(VD)の平均気泡径は、概ね80μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0063】
前記平均気泡径は、後述するように、各方向における垂直断面の断面写真において各方向と平行する線分を引き、該線分の長さに対する、該線分と交わる気泡の数を求めることで算出する。
【0064】
なお、これらの比が1.0未満であることは、気泡が扁平形状であることを示している。一般に、ポリエチレン系樹脂発泡シートを比較的早い引取速度で引取り、薄厚みのポリエチレン系樹脂発泡シートとした場合、気泡が扁平となりやすい。これらの平均気泡径の比(VD/MDおよびVD/TD)は、引取速度のほか、吐出量、ブローアップ比(拡径比)等によって当該範囲内に調整することができる。
【0065】
例えば、引取速度を上げることで、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比(VD/MD)を0.6以下に調整することができる。また、ブローアップ比を大きくすることで、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比(VD/TD)を0.8以下に調整することができる。
【0066】
コルゲートの発生を抑制でき、外観が良好な発泡シートを得やすくなる観点から、前記ブローアップ比は2.0以上4.0以下であることが好ましく、2.1以上3.8以下であることがより好ましく、2.2以上3.5以下であることがさらに好ましい。
【0067】
なお、ブローアップ比(拡径比)は、環状ダイリップ部の直径に対する、マンドレルの直径の比(マンドレルの直径/環状ダイリップ部の直径)である。ブローアップ比を小さく設定することで、押出発泡シートにおいて幅方向の気泡径に対する厚み方向の気泡径が大きくなるように調整できる。一方、ブローアップ比を大きく設定することで、押出発泡シートにおいて幅方向の気泡径に対する厚み方向の気泡径が小さくなるように調整できる。
【0068】
本発明の製造方法により得られるポリエチレン系樹脂発泡シートの見掛け密度は、20kg/m以上300kg/m以下が好ましく、35kg/m以上250kg/m以下がより好ましい。見掛け密度がこの範囲内であると、緩衝性やコシ強度を維持しつつ軽量なポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることができる。本発明の発泡シートは、軽量で厚みが薄く、緩衝性やコシ強度が良好であることから板状物用間紙として好適である。
【0069】
前記見掛け密度(kg/m)は、発泡シートから切り出した複数の試験片の質量(kg)と、外見寸法から求められる体積(m)とを測定し、前記質量(kg)を前記体積(m)で除して各試験片の見掛け密度(kg/m)を求め、得られた値を算術平均することにより求めることができる。
【0070】
本発明において、ポリエチレン系樹脂発泡シートを製造する際には、ポリエチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練したポリエチレン系樹脂溶融物を環状ダイから押出して形成された筒状の発泡体を引取る。
【0071】
例えば、ポリエチレン系樹脂と、気泡調整剤と、必要に応じて添加剤とを押出機に供給し加熱溶融して樹脂溶融物とし、次いで、該樹脂溶融物に物理発泡剤を圧入し、更に混練して発泡性樹脂溶融物とする。押出機内において発泡性樹脂溶融物を発泡可能な温度(樹脂温度)に調整し、環状ダイに導入してダイ先端のリップ部から低圧域の大気中に押出し、発泡性樹脂溶融物を発泡させて筒状発泡体とする。この筒状発泡体を、マンドレルにて拡径(ブローアップ)しつつ引取りながら押出方向に沿って切り開くことにより、発泡シートを得ることができる。
【0072】
図1は、本発明に用いられる押出装置の一例を示す概略図である。まず、ポリエチレン系樹脂を供給口2から押出機1に供給する。このとき、気泡調整剤等の他の成分を適宜添加してもよい。また物理発泡剤は、発泡剤注入口3から押出機1に注入される。押出機1でポリエチレン系樹脂を溶融させると共に、ポリエチレン系樹脂と、物理発泡剤およびその他の成分とを混練し、ポリエチレン系樹脂溶融物を得る。
【0073】
続いて、押出機1の先端に取り付けられた環状ダイ4からポリエチレン系樹脂溶融物を押出して形成された筒状の発泡体7を引取りつつ、環状ダイ4の下流側に配置されたマンドレル5上を通過させ、マンドレル5に設置されたカッター刃6等の切開手段により切り開くことで、シート状の発泡体であるポリエチレン系樹脂発泡シート8を得ることができる。
【0074】
前記説明では、筒状の発泡体7を切り開いてポリエチレン系樹脂発泡シート8を製造する態様を説明したが、本発明の製造方法はこれに限定されず、例えば、筒状の発泡体7を引取りながら図示省略するピンチロールに通過させて、筒状の発泡体7の内面同士を融着したシート状の発泡体をポリエチレン系樹脂発泡シート8として形成することもできる。
【0075】
また、シート状の発泡体8を、図示省略する巻取り機にて巻取ることで、ポリエチレン系樹脂発泡シート8のロール状物を得ることができる。
【0076】
ロール状物は、例えば、断裁、包装等の工程を経て、出荷される。
【0077】
以上の説明では、単層であるポリエチレン系樹脂発泡シートを製造する方法について説明したが、多層のシート状の発泡体を製造することもできる。具体的には、ポリエチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡層形成用ポリエチレン系樹脂溶融物に、ポリエチレン系樹脂を混練してなる樹脂層形成用ポリエチレン系樹脂溶融物を積層し、環状ダイから共押出して形成された筒状の発泡体を引取ることにより、ポリエチレン系樹脂発泡層と、該発泡層に積層接着されたポリエチレン系樹脂層とを有するポリエチレン系樹脂発泡シート(以下、多層発泡シートともいう。)を製造することができる。
【0078】
この場合、例えば、発泡層形成用押出機の出口に共押出用環状ダイを取り付け、この共押出用環状ダイに樹脂層形成用押出機を連結させた装置を用いて共押出することで、発泡層と樹脂層とを有する筒状の多層発泡シートを得、筒状の多層発泡シートを、上述したとおり切り聞き、またはピンチロールに通過させる等して製造することができる。なお、樹脂層は非発泡状態であっても発泡状態であってもよい。
【0079】
なお、前記発泡層や前記樹脂層を構成する樹脂としては、単層であるポリエチレン系樹脂発泡シートの材料として前記したポリエチレン系樹脂を用いることができる。また、多層発泡シートの形態の場合、平均厚み、坪量、独率気泡率、見掛け密度、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比は、多層発泡シートに対して各種測定を行うことで求めることができる。
【0080】
緩衝性を維持したまま、コシ強度を高めることができる観点から、多層発泡シートにおける樹脂層の坪量は、片面当たり1g/m以上40g/m以下であることが好ましく、1.5g/m以上20g/m以下であることがより好ましい。
【0081】
なお、樹脂層の坪量は、樹脂層の厚みを樹脂層を構成する樹脂の密度で乗じ、単位換算することや、押出時の発泡層と樹脂層との吐出量の比と、多層発泡シートの坪量との関係から算出することができる。
【0082】
(ポリエチレン系樹脂発泡シートおよびロール状物)
本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートは、ポリエチレン系樹脂と1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む物理発泡剤とを混練してなるポリエチレン系樹脂溶融物を押出し、平均厚み2mm以下、坪量10g/m以上100g/m以下、独立気泡率5%以上85%以下、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.1以上0.6以下、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比0.2以上0.8以下のポリエチレン系樹脂発泡シートである。
【0083】
本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートによれば、物理発泡剤のうち少なくとも一部として、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが用いられる。そのため、特に輸出する際において密閉容器に収容する前に必要となる、可燃性であるブタン等の脂肪族炭化水素の残存量を低下させる養生工程を短縮もしくは省略できる。また発泡シートの厚みが早期に回復するため、養生工程を短縮できる。更に、得られたポリエチレン系樹脂発泡シートは、同様の押出製造方法において物理発泡剤としてブタン等の脂肪族炭化水素を用いて形成されたポリエチレン系樹脂発泡シートと同等の物性を示す。従って本発明によれば、物性の良好なポリエチレン系樹脂発泡シートを速やかに出荷および輸出することが可能である。
【0084】
上記観点から、ポリエチレン系樹脂発泡シート中の可燃性物理発泡剤の含有量が0.05質量%以下であることが好ましく、0質量%であることがより好ましい。なお、可燃性物理発泡剤としては、炭素数3以上6以下の脂肪族炭化水素、炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール、炭素数2以上8以下の脂肪族エーテル等から選択される1または2以上の物理発泡剤が挙げられる。また、発泡シートが複数の可燃性物理発泡剤を含有する場合、これらの含有量の合計を、前記含有量とする。
【0085】
また、以上のポリエチレン系樹脂発泡シートを用いた多層発泡シートとすることもできる。この本発明の多層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡シートの少なくとも一方のシート面に、ポリエチレン系樹脂層が積層接着されている。特に、ポリエチレン系樹脂発泡シートの両面にポリエチレン系樹脂層が共押出により積層接着されていることが好ましい。
【0086】
本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートにおいて、ポリエチレン系樹脂、平均厚み、坪量、独立気泡率、押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比等、その具体的な発明を実施するための形態は、前記「ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法」の欄の記載が参照され、その詳細な説明を省略する。多層発泡シートについても前記「ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法」の欄の記載が参照され、その詳細な説明を省略する。
【0087】
本発明のロール状物は、前記ポリエチレン系樹脂発泡シートがロール状に巻回されたものである。従来のように、ブタン等の脂肪族炭化水素を用いて発泡シートを製造した場合、発泡シートに残存する発泡剤を逸散させるために時間を要する等の課題があり、特に発泡シートをロール状物とした場合、ロール状物の厚み方向中央(すなわち、ロール状物の芯側と最表面側との間)部分に位置する発泡体の発泡剤の逸散がより起こりにくく、ブタンの残存量を低減することが難しかった。本発明において、ポリエチレン系樹脂発泡シートは物理発泡剤として不燃性の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを用いて製造されるため、ロール状物の形態としても、製造後の養生工程を省略もしくは短縮して輸出することができる。
【0088】
ロール状物である発泡シートは、通常、ロール幅は700mm以上4000mm以下、発泡シートの全長は100m以上2000m以下、ロール径は200mm以上2000mm以下である。ただし、ロール径については巻芯に3インチ巻き芯管(外径80mm)を使用した際の径を表記している。
【0089】
(用途)
以上に説明した本発明のポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法およびポリエチレン系樹脂発泡シートとそのロール状物において、ポリエチレン系樹脂発泡シートの用途は特に限定されないが、液晶パネル用ガラス板等の板状物用間紙や、梱包材、緩衝材等として好適に使用される。例えば板状物用間紙として使用される発泡シートには、ガラス板等の被包装物を保護するための緩衝性に加え、片持ち時の垂れ下がり量が小さく(コシが強い)ガラス間に介装する際の取り扱い性にも優れていることが要求される。また、近年、液晶パネル用ガラス板等の大型薄肉化が進み、その間紙として使用される発泡シートも、より厚みの薄いものが求められている。前記ポリエチレン系樹脂発泡シートは、このような要求を満足するものとして適している。
【実施例
【0090】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
製造装置として、バレル内径65mmの押出機と、その下流側に連結したバレル内径90mmの押出機とを備えるタンデム式の押出装置を用いた。
【0092】
押出装置の出口に環状ダイ(リップ径60mm)を取り付け、環状ダイの下流側に直径150mmのマンドレルを設置した。マンドレルはシート状の発泡体を切断するカッター刃が設けられたものを用いた。
【0093】
各実施例および各比較例に用いた樹脂材料は以下のとおりである。
・ポリエチレン系樹脂(LDPE1):低密度ポリエチレン、株式会社NUC社製、NUC-8321、MFR(190℃、荷重2.16kg)2.4g/10min、190℃における溶融張力52.2mN
・ポリエチレン系樹脂(LDPE2):低密度ポリエチレン、株式会社NUC社製、NUC/8008、MFR(190℃、荷重2.16kg)4.7g/10min、190℃における溶融張力46.6mN
・ポリエチレン系樹脂(LDPE3):低密度ポリエチレン、株式会社NUC社製、NUC/8009、MFR(190℃、荷重2.16kg)9.0g/10min、190℃における溶融張力20mN
・ポリエチレン系樹脂(LLDPE1):直鎖状低密度ポリエチレン、東ソー株式会社製、M55、MFR(190℃、荷重2.16kg)8.0g/10min、190℃における溶融張力3mN
MFRおよび溶融張力の測定は前述した方法が参照される。
【0094】
各実施例および各比較例を実施するために用いた発泡剤は以下のとおりである。
・1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO1233zd)
・二酸化炭素(CO
・シルバーブタン(s-Bu) イソブタンとノルマルブタンとの質量比(イソブタン:ノルマルブタン)を30:70に調整した混合物
・1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)
用いた発泡剤の種類および配合量は、表1に示す。
【0095】
ポリエチレン系樹脂を上述の割合で押出機に供給し、気泡調整剤としてクエン酸と炭酸水素ナトリウムとを1:2の比率で配合した化学発泡剤をポリエチレン系樹脂100質量部に対し1.1質量部添加し、加熱、溶融、混練し、次いで発泡剤を注入し、適度な樹脂温度に調整したポリエチレン系樹脂溶融物を得、環状ダイに導入した。
【0096】
各実施例および各比較例における発泡剤の種類と分類(可燃または不燃)およびその配合量、ならびに樹脂温度(℃)および吐出量(kg/hr)は、表1に示す。
【0097】
続いて、環状ダイに導入したポリエチレン系樹脂溶融物をマンドレルの外面に沿って筒状に押出し、筒状の発泡体を形成した。なお、実施例1~5、比較例1~5、比較例7においてはブローアップ比を2.5とした。また、実施例6、比較例6、比較例8においては、直径212mmのマンドレルを用い、ブローアップ比を3.5とした。筒状の発泡体をマンドレルに設けられたカッター刃で切り開くとともに、適度な引取速度で引き取ってロール状に巻き取り、ポリエチレン系樹脂発泡シートを得た。
【0098】
各実施例および各比較例における環状ダイのダイ圧(G:ゲージ圧)(MPa)および引取速度(m/min)は、表1に示す。
【0099】
上述の各実施例および各比較例において製造した発泡シートについて以下のとおり測定および評価を行った。
【0100】
見掛け密度
ポリエチレン系樹脂発泡シートの押出方向において無作為に5箇所選択し、各箇所について、発泡シートの全幅×押出方向の長さ100mmの試験片を5つ切り出した。各試験片の質量(kg)および外見寸法から求められる体積(m)を測定し、質量(kg)を体積(m)で除して各試験片の見掛け密度(kg/m)を求め、得られた値の算術平均値を見掛け密度(kg/m)とした。
【0101】
発泡倍率
使用したポリエチレン系樹脂の密度(kg/m)を前記方法により算出された見掛け密度(kg/m)で除した値を発泡倍率として算出した。
【0102】
平均厚み
ポリエチレン系樹脂発泡シートの全幅にわたって、幅方向に沿って等間隔で15箇所の発泡シートの厚み(mm)を測定し、それらの算術平均による平均厚みを算出した。前記測定を発泡シートの無作為に選択された3箇所に対して行い、算出した前記3箇所の平均厚みの値の算術平均値をポリエチレン系樹脂発泡シートの平均厚み(mm)とした。なお、ポリエチレン系樹脂発泡シートの平均厚みは、ポリエチレン系樹脂発泡シートの厚みが定常となった回復後の厚みを測定した値である。
【0103】
また、実施例3~5、比較例3~5については、押出装置より引取ってから1日後(24時間後)におけるポリエチレン系樹脂発泡シートの平均厚みを測定し、押出装置より引取ってから1日後の厚み回復率を次式より算出した。
1日後の厚み回復率(%)=[1日後の平均厚み/回復後の平均厚み]×100
【0104】
坪量
ポリエチレン系樹脂発泡シートを100mm×100mmの寸法に切り出して試験片を作製し、試験片の面積(m)および試験片の質量(kg)を測定し、質量(kg)を面積(m)で除して坪量(g/m)を求めた。
【0105】
独立気泡率
ポリエチレン系樹脂発泡シートの独立気泡率(%)を、ASTM D 2856-70に記載されている手順Cに準拠し、以下のとおり求めた。ポリエチレン系樹脂発泡シートから適宜の寸法に切り出した試験片を用い、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型等を使用して測定される試験片の実体積(独立気泡の体積と樹脂部分の体積との和):Vx(cm)から、下記式(1)により独立気泡率(%)を算出した。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) …(1)
ただし、前記式中の、Va、W、ρは以下のとおりである。
Va:測定に使用した試験片の見掛け体積(cm
W:試験片の質量(g)
ρ:試験片を構成する樹脂組成物の密度(g/cm
なお、樹脂組成物の密度ρ(g/cm)は、試験片の質量w(g)および測定に使用した試験片を加熱プレスにより気泡を脱泡させてから冷却する操作を行い、得られたサンプルの体積(cm)から求めた。
【0106】
また、発泡シートを複数枚重ねることで見掛け体積が概ね20cmとなるように調整した試験片を用いて独立気泡率を測定した。
【0107】
発泡シートの表面性状
発泡シートの一方側の表面を室内灯下において1mの距離から目視により観察し以下のとおり評価した。
○:平滑性があり外観が良好であった
△:やや伸びムラが確認される箇所があった
×:伸びムラがあって、気泡の破泡による凹凸や外観不良が見られた
【0108】
発泡シート中の可燃性ガスの含有量(wt%)
ロール状に巻き取られた直後のシート状の発泡体において、ロール物の芯と外面との中間であってシートの幅方向中心部分から、1gの試験片を切り出した。この試験片を密閉容器内で、既知量のシクロペンタンをトルエンに加えた50ccの溶媒中に常温で24時間浸漬して、試験片中に残存する可燃性物理発泡剤(炭素数3~6の脂肪族炭化水素)を溶媒中に抽出した。
【0109】
そして溶媒中に抽出した炭素数3~6の脂肪族炭化水素の量を、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により定量し、予め測定しておいた試験片の質量から、試験片中に残存する発泡剤の量を求め、これを発泡シート中の可燃性ガス含有量とした。
【0110】
平均気泡径
押出方向(MD)の平均気泡径は、以下の方法により求めた。まず、ポリエチレン系樹脂発泡シートを押出方向に平行かつ幅方向に10等分するように切断し、10個の試験片Aを形成した。各試験片Aの片側一方の垂直断面(計10面)の断面写真を撮影した。次に、前記断面写真における、厚み方向の中心部において、押出方向に長さ30mmの線分を引き、この線分と交わる全ての気泡の数を測定し、線分の長さ(すなわち30mm)を測定した気泡の数で割った値を押出方向における気泡径とした。10面それぞれで得られた気泡径の算術平均値を求め、この値を押出方向の平均気泡径(μm)とした。
【0111】
なお、前記線分の始点は気泡の最外端とした。また、気泡の一部が線分と交わっている場合も、気泡として計測した。
【0112】
同様に、幅方向(TD)の平均気泡径は、以下の方法により求めた。まず、発泡体の幅方向において、この幅方向と平行かつ押出方向に無作為に10箇所、発泡体を切断して10個の試験片Bを形成した。各試験片Bの片側一方の垂直断面(計10面)の断面写真を撮影した。次に、断面写真における、厚み方向の中心部において、幅方向に長さ30mmの線分を引き、この線分と交わる全ての気泡の数を測定し、線分の長さ(すなわち30mm)を測定した気泡の数で割った値を幅方向における気泡径とした。10面それぞれで得られた気泡径の算術平均値を求め、この値を幅方向の平均気泡径(μm)とした。
【0113】
なお、前記線分の始点は気泡の最外端とした。また、気泡の一部が線分と交わっている場合も、気泡として計測した。
【0114】
また、厚み方向(VD)の平均気泡径は、以下の方法により求めた。前記した押出方向の平均気泡径の測定と同様に、前記試験片Aに対して、垂直断面の断面写真を撮影した。次に、断面写真において、発泡体の全厚み方向に線分を引き、この線分上にある気泡の数を測定し、線分の長さを気泡数で割った値を厚み方向の気泡径とした。10面それぞれで得られた気泡径の算術平均値を求め、厚み方向の平均気泡径(μm)とした。
【0115】
表2における押出方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比(VD/MD)、幅方向の平均気泡径に対する厚み方向の平均気泡径の比(VD/TD)は、以上の方法による測定値から算出した。
【0116】
以上の測定および評価の結果を表2に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
(*1)ポリエチレン系樹脂1kgに対し配合した発泡剤のmol量
(*2)単位時間当たりにおいて押出機に注入した発泡剤の質量
(*3)押出機に供給されたLDPE100質量部に対し用いられた発泡剤の量
(*4)押出機に注入された発泡剤100mol%におけるHCFO1233zdもしくはHFO1234zeの割合
【0119】
【表2】
【0120】
表1に示すとおり、各実施例は、物理発泡剤として、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを用い、製造される発泡シートに可燃性の物理発泡剤が残存しない条件で行った。したがって、各実施例において得られた発泡シートは、いずれも発泡シートに残存する発泡剤を逸散させるための養生工程を省略して、速やかにコンテナ等の密閉容器に収容しても、密閉容器内に可燃性の物理発泡剤が蓄積するおそれがない。
【0121】
表1より、物理発泡剤としてHCFO1233zdを用いた実施例1~6は、物理発泡剤としてシルバーブタンを用いた以外は同様の製造条件とした比較例1~6と比べて、押出条件、発泡状況、引取状態に大きな差異は見られず、表2より、物性においても同等のシートを取得できた。
【0122】
実施例3、実施例4、実施例5の1日後の厚み回復率は、それぞれ96%、93%、100%であった。一方、比較例3、比較例4、比較例5の1日後の厚み回復率は、それぞれ95%、84%、95%であった。これらの結果から、実施例3~5は、物理発泡剤としてシルバーブタンを用いた以外は同様の製造条件とした比較例3~5と比べて、製造後の厚み回復が速い傾向が確認された。早期に厚みを回復できることから、養生工程をより短縮できることが示唆された。
【0123】
比較例7は、物理発泡剤として、実施例で用いたHCFO1233zdと同様にヒドロフルオロオレフィン(HFO)であるHFO1234zeを用いたが、樹脂を発泡させることが困難であり、シート状の発泡体を得ることができなかった。
【0124】
比較例8は、物理発泡剤として、COを用いたが、ポリエチレン系樹脂溶融物の延展性が悪く、シート状の発泡体を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0125】
1 押出機
2 供給口
3 発泡剤注入口
4 環状ダイ
5 マンドレル
6 カッター刃
7 筒状の発泡体
8 ポリエチレン系樹脂発泡シート
図1