(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】積層造形物の造形手順設計方法、積層造形物の造形方法及び製造装置、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/386 20170101AFI20220208BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220208BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220208BHJP
【FI】
B29C64/386
B33Y50/02
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2018095769
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄幹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-275945(JP,A)
【文献】特表2011-506763(JP,A)
【文献】特開2016-198974(JP,A)
【文献】国際公開第2018/026962(WO,A1)
【文献】特開2018-012336(JP,A)
【文献】国際公開第2003/016031(WO,A1)
【文献】特開2009-113294(JP,A)
【文献】特開2009-006509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/386
B33Y 50/02
B33Y 30/00
B22F 3/105
B22F 3/16
B23K 9/032
B23K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に直交した一方向に延びる突起部を有する積層造形物を、溶加材を溶融及び凝固させて形成するビードにより積層造形する積層造形物の積層造形手順設計方法であって、
前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記積層造形物の形状を前記ビードの高さに応じて複数の層に分割する層分割工程と、
分割された前記層
を前記ビードの高さ方向から平面視したときの前記層の平面形状に、予め設定された設定形状の領域を当てはめ
て、前記平面形状を複数の領域に面分割する面分割工程と、
前記層の前記突起部
が延びる前記一方向の一端部から他端部に向けて、隣接する前記領域同士を連結する連結線を求める連結線抽出工程と、
前記連結線から前記突起部の延長方向を求める延長方向推定工程と、
分割された前記層を
、前記延長方向に沿って複数の
前記ビードを形成するビード領域に分割して、前記ビードの形成予定線を決定するビード形成線決定工程と、
を含む、積層造形物の積層造形手順設計方法。
【請求項2】
前記面分割工程において、分割された前記層の形状を複数のポリゴン面からなる領域に分割する、
請求項1に記載の積層造形物の積層造形手順設計方法。
【請求項3】
前記面分割工程において、分割された前記層に、前記予め設定された設定形状の領域を当てはめ、更に当該領域
と前記一方向に隣接する前記層の部分に前記設定形状の領域を当てはめることを繰り返し、
次に当てはめる領域を、前記層
と重なる面積が最大となるように選定する、
請求項1に記載の積層造形物の積層造形手順設計方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の積層造形物の積層造形手順設計方法により決定された
造形手順により、前記積層造形物を造形する積層造形物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の積層造形物の製造方法
により前記造形手順を決定する制御部と、
前記制御部により決定された前記造形手順に応じて駆動され、前記ビードを形成する造形部と、
を備える積層造形物の製造装置。
【請求項6】
積層方向に直交した一方向に延びる突起部を有する積層造形物の3次元形状データを用いて、溶加材を溶融及び凝固させて形成するビードで前記積層造形物を積層造形する積層造形手順を決定する手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記積層造形物の形状を前記ビードの高さに応じて複数の層に分割する手順と、
分割された前記層
を前記ビードの高さ方向から平面視したときの前記層の平面形状に、予め設定された設定形状の領域を当てはめ
て、前記平面形状を複数の領域に面分割する手順と、
前記層の前記突起部
が延びる前記一方向の一端部から他端部に向けて、隣接する前記領域同士を連結する連結線を求める手順と、
前記連結線から前記突起部の延長方向を求める手順と、
分割された前記層を
、前記延長方向に沿って複数の
前記ビードを形成するビード領域に分割して、前記ビードの形成予定線を決定する手順と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の造形手順設計方法、積層造形物の造形方法及び製造装置、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタは、レーザや電子ビーム、更にはアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させることで積層造形物を作製する。
【0003】
例えば、ポンプや圧縮機などの流体機械に設けられるインペラやロータ等の回転部材を製造する技術として、ハブとなるベース材の表面にビードを積層して複数のブレードとなる造形部を造形し、その後、造形部を切削してブレードを形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような3次元的に湾曲した複雑形状のブレードとなる積層造形部をビードで形成する場合、ビードの形成方向が適切に設定されていないと、ビードで形成した積層造形部を切削加工する際に、無駄に切削する部分が多くなり、歩留りが低下してしまう。
このため、積層造形部をビードで形成する際の形成方向を適切かつ容易に設定して効率的に積層造形を行える技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、積層造形物をビードの積層によって造形するに際して、ビードの形成方向を適切かつ容易に決定して効率的に積層造形物を製造することが可能な積層造形物の積層造形手順設計方法、積層造形物の製造方法及び製造装置、並びに、その造形手順をコンピュータに実行させるプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記構成からなる。
(1) 一方向に延びる突起部を有する積層造形物を、溶加材を溶融及び凝固させて形成するビードにより積層造形する積層造形物の積層造形手順設計方法であって、
前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記積層造形物の形状を前記ビードの高さに応じて複数の層に分割する層分割工程と、
分割された前記層に予め設定された設定形状の領域を当てはめて分割する面分割工程と、
前記層の前記突起部の一端部から他端部に向けて、隣接する前記領域同士を連結する連結線を求める連結線抽出工程と、
前記連結線から前記突起部の延長方向を求める延長方向推定工程と、
分割された前記層を前記延長方向に沿って複数の前記ビードに分割して、前記ビードの形成予定線を決定するビード形成線決定工程と、
を含む、積層造形物の積層造形手順設計方法。
(2) (1)の積層造形物の積層造形手順設計方法により決定された前記造形手順により、前記積層造形物を造形する積層造形物の製造方法。
(3) (2)の積層造形物の製造方法の前記造形手順を決定する制御部と、
前記制御部により決定された前記造形手順に応じて駆動され、前記ビードを形成する造形部と、
を備える積層造形物の製造装置。
(4) 一方向に延びる突起部を有する積層造形物の3次元形状データを用いて、溶加材を溶融及び凝固させて形成するビードで前記積層造形物を積層造形する積層造形手順を決定する手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記積層造形物の形状を前記ビードの高さに応じて複数の層に分割する手順と、
分割された前記層に複数の領域を当てはめて分割する手順と、
前記層の前記突起部の一端部から他端部に向けて、隣接する前記領域同士を連結する連結線を求める手順と、
前記連結線から前記突起部の延長方向を求める手順と、
分割された前記層を前記延長方向に沿って複数の前記ビードに分割して、前記ビードの形成予定線を決定する手順と、
を実行させるプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、積層造形物をビードの積層によって造形するに際して、ビードの形成方向を適切かつ容易に決定して効率的に積層造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の積層造形物を製造する製造装置の概略構成図である。
【
図3】積層造形物を積層設計し、この設計された条件で積層造形物を造形するプログラムを生成するまでの手順を示すフローチャートである。
【
図4】積層造形物の一断面において粗形材領域を決定する様子を示す説明図である。
【
図5】積層造形物の外形を、粗形材領域と積層造形領域とに区分けした結果を示す説明図である。
【
図7】
図6に示すVII-VII線のA1部における断面図である。
【
図8】ビードを形成する様子を模式的に示す工程説明図である。
【
図9】本実施形態に係る積層造形手順の設計方法を説明する図であって、(A)は積層造形物の斜視図、(B)は積層造形物の展開図である。
【
図11】層分割したブレードの1層目を面分割した状態を示す積層造形物の展開図である。
【
図12】層分割したブレードの1層目を面分割した一つのブレードの展開図である。
【
図13】ブレードの1層目の形状を三角形のポリゴン面からなる領域に面分割したブレードの一部の展開図である。
【
図14】延長方向の求め方の変形例を説明する図であって、(A)から(D)は、それぞれブレードの面分割の仕方を示すブレードの模式図である。
【
図15】延長方向の選定の仕方を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物を製造する製造装置の概略構成図である。
本構成の積層造形物の製造装置100は、造形部11と、造形部11を統括制御する造形コントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0011】
造形部11は、先端軸にトーチ17が設けられたトーチ移動機構としての溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Fmを供給する溶加材供給部21とを有する。
溶接ロボット19は、例えば6軸の自由度を有する多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Fmが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0012】
トーチ17は、溶加材Fmを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Fmの先端からアークを発生する。トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるようになっている。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Fmがコンタクトチップに保持される。
【0013】
溶加材Fmは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0014】
溶加材Fmは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、造形コントローラ13からの指令により、溶接ロボット19はトーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Fmを溶融及び凝固させる。これにより、溶加材Fmの溶融凝固体であるビードが形成される。ここでは詳細を後述するように、ベース材23に支持された軸体25に、ビードで形成されるブレード27を形成する場合を例に説明する。
【0015】
溶加材Fmを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。アークを用いる場合は、シールド性を確保しつつ、素材、構造によらずに簡単にビードを形成できる。電子ビームやレーザにより加熱する場合は、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0016】
造形コントローラ13は、溶接方向決定部31と、プログラム生成部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。制御部37には、作製しようとする積層造形物の形状を表す3次元モデルデータ(CADデータ等)や、各種の指示情報が入力部39から入力される。
【0017】
溶接方向決定部31は、詳細を後述するが、入力された積層造形物の3次元モデルデータを用いて、ビードを形成する位置情報を含むビードマップ(詳細は後述)を生成する。生成されたビードマップは、記憶部35に記憶される。
【0018】
プログラム生成部33は、造形部11を駆動して積層造形物の造形手順を設定し、この手順をコンピュータに実行させるプログラムを、上記のビードマップを用いて生成する。生成されたプログラムは、記憶部35に記憶される。
【0019】
記憶部35には、造形部11が有する各種の駆動部や可動範囲等の仕様情報も記憶され、プログラム生成部33でプログラム生成する際や、プログラムを実行する際に適宜情報が参照される。この記憶部35は、メモリやハードディスク等の記憶媒体からなり、各種情報の入出力が可能となっている。
【0020】
制御部37を含む造形コントローラ13は、CPU、メモリ、I/Oインターフェース等を備えるコンピュータ装置であって、記憶部35に記憶されたデータやプログラムを読み込み、データの処理やプログラムを実行する機能、及び造形部11の各部を駆動制御する機能を有する。制御部37は、入力部39からの操作や通信等による指示によって、記憶部35からプログラムを読み込み、実行する。
【0021】
制御部37がプログラムを実行すると、溶接ロボット19や電源装置15等がプログラムされた所定の手順に従って駆動される。溶接ロボット19は、造形コントローラ13からの指令により、プログラムされた軌道軌跡に沿ってトーチ17を移動させるとともに、溶加材Fmを所定のタイミングでアークにより溶融させて、所望の位置にビードを形成する。
【0022】
溶接方向決定部31やプログラム生成部33は、造形コントローラ13に設けられるがこれに限らない。図示はしないが、例えば積層造形物の製造装置100とは別体に、ネットワーク等の通信手段や記憶媒体を介して離間して配置されたサーバや端末等の外部コンピュータに、溶接方向決定部31やプログラム生成部33が設けられてもよい。外部コンピュータに溶接方向決定部31やプログラム生成部33が接続されることで、積層造形物の製造装置100を要せずにビードマップやプログラムを生成でき、プログラム生成作業が繁雑にならない。また、生成したビードマップやプログラムを、造形コントローラ13の記憶部35に転送することで、造形コントローラ13で生成した場合と同様に動作させることができる。
【0023】
図2は積層造形物41の斜視図である。
一例として示す積層造形物41は、円柱状の軸体25と、軸体25の外周に径方向外側へ突出する複数条(図示例では6条)の螺旋状のブレード27とを備える。複数のブレード27は、軸体25の軸方向中間部で、周方向に沿って等間隔に設けられたスクリュー形状となっている。
【0024】
図1に示す積層造形物の製造装置100は、積層造形物41を造形する際、全形状を積層造形法により形成するのではなく、軸体25については棒材等の粗形材を用いて形成し、ブレード27を積層造形法により形成してもよい。その場合、積層造形物41の軸体25を粗形材で形成し、軸体25の外周に形成されるブレード27をビードによって積層造形する。これにより、積層造形物41の造形工数を大きく削減できる。
【0025】
次に、上記一例としての積層造形物の基本的な積層手順を説明する。
図3は積層造形物41を積層設計し、この設計された条件で積層造形物41を造形するプログラムを生成するまでの手順を示すフローチャートである。
【0026】
まず、
図1に示す入力部39から制御部37に積層造形物41の形状を表す3次元モデルデータ(以降、形状データと称する。)を入力する(S11)。形状データには、積層造形物41の外表面の座標、軸体25の径や軸長等の寸法情報の他、必要に応じて参照される材料の種類や最終仕上げ等の情報も含まれる。以下のプログラムを生成する工程は、プログラム生成部33により行われる。
【0027】
図4は積層造形物41の一断面において粗形材領域を決定する様子を示す説明図である。
積層造形物41は、円柱状又は円筒状の軸体25を有し、複数のブレード27が軸体25の外周面から立設される。そこで、入力された形状データを用いて、積層造形物41の外形を、積層造形物41の基体となる粗形材領域と、基体上に形成される積層造形物41の外形となる積層造形領域とに区分けする。
【0028】
粗形材領域と積層造形領域は、積層造形物41の形状データと、用意可能な粗形材の種類に応じて決定される。図示例の積層造形物41の場合、一例として示される粗形材(丸棒)43A,43B,43Cのうち、積層造形物41の形状に合わせるための切削量が最小となる径の粗形材43Cが選択される。
【0029】
図5は積層造形物41の外形を、粗形材領域45と積層造形領域47とに区分けした結果を示す説明図である。
本例の場合、粗形材43Cが粗形材領域45となり、粗形材43Cの外周に配置される複数のブレード27がそれぞれ積層造形領域47となる(S12)。
【0030】
次に、上記S12で決定された積層造形領域47に、ビードを形成する手順を決定する。
積層造形領域47では、複数のビードを順次に積層することでブレード27の粗形状を造形する。積層造形領域47を構成する個々のビードのビード幅、ビード高さ等のビードサイズは、トーチ17(
図1参照)の移動速度、つまり、ビードの連続形成速度や、電源装置15からの溶接電流、溶接電圧、印加パルス等の溶加材や溶接部への入熱量、等の溶接条件の変更によって制御される。このビードサイズは、溶着ビードを形成するトーチの移動方向に直交する断面で管理することが好ましい。
【0031】
図6は積層造形物41の一部正面図である。
本構成の積層造形物41においては、螺旋状のブレード27の延設方向をビード形成方向Vbに一致させれば、溶着ビードの連続形成長さを長くできる。そのため、ビード形成方向Vbをブレード27の延設方向と同じにして、これを基準方向とする(S13)。これにより、ビードサイズは、基準方向(ビード形成方向Vb)に直交するVII-VII線断面で示すビード断面の形状を基準に制御する。
【0032】
例えば、特定方向に連続した少なくとも一つの突起部を有する積層造形物においては、この連続する特定方向に沿って溶着ビードを形成すれば、効率よく造形が行え、積層造形工程の煩雑化が軽減される。そこで、作製しようとする積層造形物の形状データから、まず、積層造形物の連続する特定方向を求める。この特定方向は、コンピュータによる演算によって、形状データを適宜なアルゴリズムで解析して決定してもよく、作業者が判断する等、人為的に決定してもよい。
【0033】
図7は
図6に示すVII-VII線のA1部における断面図である。図中の横軸は、ブレード27の延設方向(基準方向)に直交する方向で、縦軸は軸体25の径方向となるビード積層方向である。
【0034】
ここで、ブレード27の積層造形領域47を、複数の仮想ビード層に層分解する(S14)。複数層の仮想ビード層のビード(仮想ビード51として示す)は、仮想ビード層の1層分のビード高さhに応じて、ブレード27の最終形状が内包されるように配置される。図示例では、点線で示す仮想ビード51を、軸体25(粗形材43C)の表面から順次積層(層H1,H2,・・・)して、7層目(層H7)においてブレード27の径方向最外縁部27aが覆われる場合を示す。つまり、ここでは合計7層の仮想ビード層を有する積層モデルとなる。
【0035】
この積層モデルは、
図5に示す複数の積層造形領域47の全てに対して生成される。そして、各積層モデルにおいて、共通の断面でビードサイズを設計する。つまり、積層造形領域47の各仮想ビード層における仮想ビード51の配置位置(ビード積層高さh等)、ビードサイズ(ビード幅W等)、溶接条件、等の諸条件を設定する(S15)。なお、
図7においては仮想ビード層を7つに分割しているが、ビードサイズ、積層造形物の大きさや形状、等に応じて分割層数は任意に設定できる。
【0036】
次に、上記のように設計された積層モデルに従ってビードを粗形材43C上に形成する手順を示すプログラムを生成する(S16)。このプログラムの生成は、
図1に示すプログラム生成部33が行う。
【0037】
ここでいうプログラムとは、入力された積層造形物の形状データから、所定の演算により設計されたビードの形成手順を、造形部11により実施させるための命令コードである。制御部37は、予め用意されたプログラムの中から所望のプログラムを特定し、この特定されたプログラムを実行することで、造形部11によって積層造形物41を製造させる。つまり、制御部37は、記憶部35から所望のプログラムを読み込み、このプログラムにしたがってビードを形成して、積層造形物41を造形する。
【0038】
図8はビードを形成する様子を模式的に示す工程説明図である。
造形コントローラ13(
図1参照)は、造形部11を生成したプログラムにしたがって駆動して、積層造形物41の粗形材43Cにビード55A,55B,55C,・・・を順次に並設し、第1層目(層H1)のビード層を形成する。そして、第1層目(層H1)のビード層の上に第2層目(層H2)のビード55D,55E,・・・を順次に並設する。
【0039】
ここで、ビード55Dの外表面とビード55Bの外表面との境界をPc(ビード55Dの図中右側の境界)とし、境界Pcにおけるビード55Dの外表面の接線をL1、境界Pcにおけるビード55Bの外表面の接線をL2とする。また、接線L1とL2とのなす角をαとし、角αの二等分線をNとする。
【0040】
ビード55Dに隣接する次のビード55Eは、境界Pcを目標位置として形成される。ビード55Eを形成する際、トーチ17のトーチ軸線の向きは、直線Lと概ね同じ方向に設定される。なお、ビード55Eを形成する目標位置は、境界Pcに限らず、ビード55Bとビード55Cとの間の境界Pcaにしてもよい。
【0041】
造形コントローラ13は、各ビード55A~55E,・・・の形成時に、上記したプログラムに従ってトーチ17を図中奥側(紙面垂直方向)に向けて移動させ、シールドガスG雰囲気中で発生させたアークによりビード形成の目標位置付近を加熱する。そして、加熱により溶融した溶加材Fmが目標位置で凝固することで、新たなビードが形成される。これにより、
図7に示す粗形状のビード層が形成される。ビード層が形成された積層造形領域47は、その後の適宜な加工によって所望のブレード27の形状に仕上げられる。
【0042】
ここで、本実施形態では、積層造形物の製造装置100の造形部11を駆動させてビードにより積層造形する積層造形物の積層造形手順を、層分割工程と、面分割工程と、連続線抽出工程と、延長方向推定工程と、ビード形成線決定工程とから設計する。
【0043】
以下、具体的な積層造形手順の設計方法を、各工程毎に説明する。
図9は本実施形態に係る積層造形手順の設計方法を説明する図であって、(A)は積層造形物の斜視図、(B)は積層造形物の展開図である。
図10は
図9(B)におけるA-A断面図である。
図11は層分割したブレードの1層目を面分割した状態を示す積層造形物の展開図である。
図12は層分割したブレードの1層目を面分割した一つのブレードの展開図である。
【0044】
(層分割工程)
積層造形物の3次元形状データを用いて、積層造形物41の形状をビードの高さに応じて複数の層に分割する。
図9(A)に示すように、複数のブレード27を有する積層造形物41を展開すると、
図9(B)に示すように、各ブレード27が斜めに整列した状態となる。この展開図において、ブレード27を、軸体25の軸線に直交する方向に断面視すると、
図10に示すように、ブレード27は、軸体25からなる基材から立設された形状となる。層分割工程では、このブレード27を、積層造形物41の3次元形状データを用い、ビードの高さに応じて複数の層に分割する。本例では、H1~H7の7層に分割している。
【0045】
(面分割工程)
分割された各層H1~H7の形状を複数のポリゴン面からなる領域Rに分割する。
図11に示すものは、展開図におけるブレード27の1層目H1の平面形状を示している。この1層目H1において、その形状を複数のポリゴン面からなる領域Rに分割する。ここでは、四角形からなるポリゴン面でブレード27の1層目H1の平面形状をポリゴン面からなる複数の領域Rに分割している。
【0046】
(連結線抽出工程)
各層において、ブレード27の一端部27Aから他端部27Bに向けて、隣接する領域R同士を連結する連結線Lを求める。例えば、
図12に示すように、ブレード27の一端部27Aにおける一つの領域Rを任意に選択する。ここでは、ブレード27の一端部27Aにおける左端の領域Rを選択する。次に、予め設定した設定方向Aに隣接する領域Rを選択し、これらの領域Rの中心位置を結ぶ連結線Lを求める。その後も設定方向Aに隣接する領域Rの中心位置を結ぶ連結線Lを順次求める。なお、領域Rの設定方向A側がブレード27の縁部となっているために設定方向Aに隣接する領域Rがない場合は、左側に隣接する領域Rを選択し、それぞれの中心位置を結ぶ連結線Lを求める。
【0047】
なお、ブレード27の一端部27Aで選択する領域Rは、左端に限らず、中央または右端でもよく、いずれの場合も、連結線Lを求めていくことで、その後に同一ルートをたどることとなる(
図12中点線参照)。
【0048】
(延長方向推定工程)
抽出した連結線Lから、例えば、最小二乗法等によってビードを形成する方向であるブレード27の延長方向Bを求める。
【0049】
(ビード形成線決定工程)
分割されたブレード27の層を、推定した延長方向Bに沿って複数のビードに分割して、それぞれのビードを形成するための形成予定線Cを決定する。
【0050】
そして、ブレード27の全ての層H1~H7において形成予定線Cを決定し、その決定した形成予定線Cに沿ってビード55を形成する。
【0051】
このように、上記実施形態によれば、複数層に分割した積層造形物であるブレード27の各層H1~H7に領域Rを当てはめて分割し、これらの領域R同士を連結する連結線Lを求めて延長方向Bを割り出し、その延長方向Bに沿ってビードの形成予定線Cを決定する。具体的には、ブレード27の各層H1~H7の形状を複数のポリゴン面からなる領域Rに分割して連結線Lを求めて延長方向Bを割り出し、その延長方向に沿ってビードの形成予定線Cを決定する。これにより、ビードを形成する際の形成方向を適切かつ容易に決定することができ、最適な造形手順で効率的に積層造形が行える。
【0052】
なお、上記実施形態では、面分割工程において、各層H1~H7におけるブレード27の平面形状を四角形のポリゴン面からなる領域Rに分割したが、領域Rの形状は四角形に限らない。
【0053】
図13はブレードの1層目の形状を三角形のポリゴン面からなる領域に面分割したブレードの一部の展開図である。
図13に示すように、面分割工程において、各層H1~H7におけるブレード27の平面形状を三角形のポリゴン面からなる領域Rに分割してもよい。ここで、この三角形のポリゴン面からなる領域Rで分割した場合における連結線抽出工程について説明する。
【0054】
三角形のポリゴン面からなる領域Rで分割した場合、連結線Lの進行方向の選択の優先順位を、例えば、上、右、左とし、隣接する領域R同士を連結する連結線Lを求める。具体的には、ブレード27の一端部27Aにおける一つの領域Rを任意に選択し、予め設定した設定方向Aに隣接する領域Rを選択し、これらの領域Rの中心位置を結ぶ連結線Lを順次求める。このとき、設定方向Aに隣接する領域Rが存在しない場合は、進行方向の選択の優先順位に沿って隣接する領域Rを選択する。
【0055】
その後は、抽出した連結線Lから、ビードを形成する方向であるブレード27の延長方向Bを求め(延長方向推定工程)、分割されたブレード27の層において、推定した延長方向Bに沿って複数のビードに分割して、それぞれのビードを形成するための形成予定線Cを決定する(ビード形成線決定工程)。
【0056】
次に、延長方向の求め方の変形例について説明する。
図14は延長方向の求め方の変形例を説明する図であって、(A)から(D)は、それぞれブレードの面分割の仕方を示すブレードの模式図である。
図15は延長方向の選定の仕方を示すグラフである。
【0057】
変形例では、面分割工程において、分割された層に予め設定された設定形状の領域Rを当てはめ、この当てはめた領域Rに隣接する部分で設定形状を当てはめる際に、既に当てはめた領域Rに接する面の面積Sが最大となるように領域Rを設定していく。
【0058】
図14に示すものは、ブレード27に対して一端部27A側に、設定形状(平行四辺形)の領域R1を当てはめ、この領域R1に隣接する部分に同一形状の設定形状の領域R2を当てはめる場合を示している。
図14(A)では、一端部27A側の領域R1の中心位置に対して隣接する部分の領域R2の中心位置が左側へ大きくずれており、設定方向Aに対して連結線Lの傾き角が-θ2となっている。
図14(B)では、一端部27A側の領域R1の中心位置に対して隣接する部分の領域R2の中心位置が左側へずれており、設定方向Aに対して連結線Lの傾き角が-θ1となっている。
図14(C)では、一端部27A側の領域R1の中心位置と隣接する部分の領域R2の中心位置とを連結する連結線Lが設定方向Aに一致している。
図14(D)では、一端部27A側の領域R1の中心位置に対して隣接する部分の領域R2の中心位置が右側へずれており、設定方向Aに対して連結線Lの傾き角が+θ1となっている。
【0059】
このような場合において、
図15に示すように、互いに隣接する領域R1,R2の接する面の面積Sは、設定方向Aに対する連結線Lの傾き角が-θ1のときに最大となっている。したがって、この場合、設定方向Aに対して領域R1,R2の連結線Lの傾き角が-θ1となるように面分割し、その連結線Lからブレード27の延長方向Bを求める。
【0060】
このように、変形例によれば、積層造形物であるブレード27の各層H1~H7の形状に予め設定された設定形状の領域Rを当てはめ、この当てはめた領域Rに隣接する部分で設定形状の領域Rを当てはめる際に、既に当てはめた領域Rに接する面の面積が最大となるように領域Rを設定していく。そして、各領域Rの連結線Lを求めて延長方向Bを割り出し、その延長方向Bに沿ってビードの形成予定線Cを適切かつ容易に決定することができる。
【0061】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0062】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 一方向に延びる突起部を有する積層造形物を、溶加材を溶融及び凝固させて形成するビードにより積層造形する積層造形物の積層造形手順設計方法であって、
前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記積層造形物の形状を前記ビードの高さに応じて複数の層に分割する層分割工程と、
分割された前記層に予め設定された設定形状の領域を当てはめて分割する面分割工程と、
前記層の前記突起部の一端部から他端部に向けて、隣接する前記領域同士を連結する連結線を求める連結線抽出工程と、
前記連結線から前記突起部の延長方向を求める延長方向推定工程と、
分割された前記層を前記延長方向に沿って複数の前記ビードに分割して、前記ビードの形成予定線を決定するビード形成線決定工程と、
を含む、積層造形物の積層造形手順設計方法。
この積層造形物の積層造形手順設計方法によれば、複数層に分割した積層造形物の各層に領域を当てはめて分割し、これらの領域同士を連結する連結線を求めて延長方向を割り出し、その延長方向に沿ってビードの形成予定線を決定する。これにより、ビードを形成する際の形成方向を適切かつ容易に決定することができ、最適な造形手順で効率的に積層造形が行える。
【0063】
(2) 前記面分割工程において、分割された前記層の形状を複数のポリゴン面からなる領域に分割する
(1)に記載の積層造形物の積層造形手順設計方法。
この積層造形物の積層造形手順設計方法によれば、積層造形物の各層の形状を複数のポリゴン面からなる領域に分割して連結線を求めて延長方向を割り出し、その延長方向に沿ってビードの形成予定線を適切かつ容易に決定することができる。
【0064】
(3) 前記面分割工程において、分割された前記層に、前記予め設定された設定形状の領域を当てはめ、更に当該領域に隣接する前記層の部分に前記設定形状の領域を当てはめることを繰り返し、
次に当てはめる領域を、前記層の部分と重なる面積が最大となるように選定する、
(1)に記載の積層造形物の積層造形手順設計方法。
この積層造形物の積層造形手順設計方法によれば、積層造形物の各層の形状に予め設定された設定形状の領域を当てはめ、この当てはめた領域に隣接する部分で設定形状の領域を当てはめる際に、既に当てはめた領域に接する面の面積が最大となるように領域を設定していく。そして、各領域の連結線を求めて延長方向を割り出し、その延長方向に沿ってビードの形成予定線を適切かつ容易に決定することができる。
【0065】
(4) (1)から(3)のいずれか一つに記載の積層造形物の積層造形手順設計方法により決定された前記造形手順により、前記積層造形物を造形する積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、ビード形成方向を適切かつ容易に行うことができ、高効率に積層造形が行える。
【0066】
(5) (4)に記載の積層造形物の製造方法の前記造形手順を決定する制御部と、
前記制御部により決定された前記造形手順に応じて駆動され、前記ビードを形成する造形部と、
を備える積層造形物の製造装置。
この積層造形物の製造装置によれば、積層造形物を高効率で造形できる。
【0067】
(6) 一方向に延びる突起部を有する積層造形物の3次元形状データを用いて、溶加材を溶融及び凝固させて形成するビードで前記積層造形物を積層造形する積層造形手順を決定する手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記積層造形物の3次元形状データを用いて、前記積層造形物の形状を前記ビードの高さに応じて複数の層に分割する手順と、
分割された前記層に複数の領域を当てはめて分割する手順と、
前記層の前記突起部の一端部から他端部に向けて、隣接する前記領域同士を連結する連結線を求める手順と、
前記連結線から前記突起部の延長方向を求める手順と、
分割された前記層を前記延長方向に沿って複数の前記ビードに分割して、前記ビードの形成予定線を決定する手順と、
を実行させるプログラム。
このプログラムによれば、ビードの形成予定線を、複数層に分割した積層造形物の各層に領域を当てはめて分割し、これらの領域同士を連結する連結線を求めて延長方向を割り出し、その延長方向に沿ってビードの形成予定線を決定する。これにより、ビード形成する際の形成方向を適切かつ容易に決定することができ、最適な造形手順で効率的に積層造形できる。
【符号の説明】
【0068】
13 造形コントローラ
17 トーチ
27 ブレード(突起部)
31 溶接方向決定部
33 プログラム生成部
35 記憶部
37 制御部
41 積層造形物
55A,55B,55C,55D,55E ビード
B 延長方向
C 形成予定線
Fm 溶加材
H1~H7 層
L 連結線
R 領域