(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/68 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
B60N2/68
(21)【出願番号】P 2018110863
(22)【出願日】2018-06-11
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 満久
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210085(JP,A)
【文献】特開2004-322881(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0314501(US,A1)
【文献】特開2016-150660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、シートバック側フレームと前記シートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームと表面を表皮で覆ったウレタンパッドとを備え、
前記シートバック側フレームは、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて射出成形により成形された
前面側フレームと後面側フレームとを組み合わせて内部が空洞に形成され、
前記シートバック側フレームの前記金属製のロアフレームと接続する部分の断面
における前記後面側フレームに対する前記前面側フレームの高さ方向の寸法は、搭乗者が着座した状態で
前記搭乗者の肩の高さに相当する部分における前記シートバック側フレームの断面
における前記後面側フレームに対する前記前面側フレームの高さ方向の寸法と比べて大きく形成され
、かつ、前記シートバック側フレームの前記金属製のロアフレームと接続する部分の断面における前記後面側フレームの幅方向の寸法は、前記搭乗者が着座した状態で前記搭乗者の肩の高さに相当する部分における前記シートバック側フレームの断面における前記後面側フレームの幅方向の寸法と同じに形成され、前記シートバック側フレームの前記金属製のロアフレームと接続する部分の断面は、前記搭乗者が着座した状態で前記搭乗者の肩の高さに相当する部分における前記シートバック側フレームの断面と比べて、肉厚が薄く形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項
1記載の車両用シートであって、前記シートバックはリクライニング機構部を更に備え、前記シートバック側フレームを構成する複数の部品は、前記リクライニング機構部の回転の中心からトルソ角に平行に390mm程度の高さまでの肉厚に比べて、前記リクライニング機構部の回転の中心からトルソ角に平行に390mm程度乃至550mm程度までの高さの部分の肉厚が厚く形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項
1記載の車両用シートであって
、前記前
面側フレームと前記後
面側フレームとはそれぞれ射出成形により形成され、前記前
面側フレームと前記後
面側フレームとは接着剤で接合されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、シートバック側フレームと、前記シートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームと、表面を表皮で覆ったウレタンパッドとを備え、
前記金属製のロアアームは左右一対の金属製のブラケットを備え、
前記シートバック側フレームは、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を射出成形して成形した
アッパーフレームと前記アッパーフレームと前記金属製のブラケットとを接続する左右一対のサイドフレームを備え、前記アッパーフレームは前面側アッパーフレームと後面側アッパーフレームとを組み合わせることにより内部が空洞で両端に開口部を有する環状に形成され、
前記左右一対のサイドフレームはそれぞれ一体で内部が空洞な筒状に形成され、前記
左右一対のサイドフレームのそれぞれの一方の端部
の付近で前記左右一対の金属製のブラケット
とインサート成型により一体化された状態で接続し、前記
左右一対のサイドフレームのそれぞれの他方の端部
は前記アッパーフレームと接続していることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
請求項
4記載の車両用シートであって、前記シートバック側フレームの
前記左右一対のサイドフレームの前記左右一対の金属製のブラケッ
トと接続する
側の前記開口部の付近の断
面は、搭乗者が着座した状態で前記搭乗者の肩の高さに相当する部分における前記シートバック側フレームの
前記アッパーフレームの断面と比べて、肉厚が薄く、かつ、
前記シートバック側フレームの断面における前記後面側アッパーフレームに対する前記前面側アッパーフレームの高さ方向の寸法が大きく形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
請求項
4記載の車両用シートであって、前記シートバックはリクライニング機構部を更に備え、前記シートバック側フレームを構成する前記
アッパーフレームと前記左右一対のサイドフレームは、前記リクライニング機構部の回転の中心からトルソ角に平行に390mm程度の高さまでの肉厚に比べて、前記リクライニング機構部の回転の中心からトルソ角に平行に390mm程度乃至550mm程度までの高さの部分の肉厚が厚く形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項7】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、シートバック側フレームと、前記シートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームと、表面を表皮で覆ったウレタンパッドとを備え、
前記金属製のロアアームは左右一対の金属製のブラケットを備え、
前記シートバック側フレームは、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を射出成形して成形した左右一対のトップフレームと、前記左右一対のトップフレームと接続する左右一対のアッパーフレームと、前記左右一対のアッパーフレームと前記金属製のブラケットとを接続する左右一対のサイドフレームを備え、前記左右一対のトップフレームと前記左右一対のアッパーフレームと前記左右一対のサイドフレームはそれぞれ内部が空洞な筒状に形成され、前記左右一対のサイドフレームのそれぞれの一方の端部は前記左右一対の金属製のブラケットと接続し、前記左右一対のサイドフレームのそれぞれの他方の端部は前記左右一対のアッパーフレームと接続していることを特徴とする車両用シート。
【請求項8】
請求項7記載の車両用シートであって、前記シートバック側フレームの、前記左右一対の金属製のブラケットと接続する前記左右一対のサイドフレームの端部の付近の断面は、搭乗者が着座した状態で前記搭乗者の肩の高さに相当する部分における前記シートバック側フレームの前記左右一対のアッパーフレームの断面と比べて、肉厚が薄く、かつ、高さ方向の寸法が大きく形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項9】
請求項7記載の車両用シートであって、前記シートバックはリクライニング機構部を更に備え、前記シートバック側フレームを構成する前記左右一対のトップフレームと、前記左右一対のアッパーフレームと、前記左右一対のサイドフレームは、前記リクライニング機構部の回転の中心からトルソ角に平行に390mm程度の高さまでの肉厚に比べて、前記リクライニング機構部の回転の中心からトルソ角に平行に390mm程度乃至550mm程度までの高さの部分の肉厚が厚く形成されていることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用シートに関し、特に、樹脂で形成したシートフレームを有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂で形成したシートフレームを有する車両用シートの従来例として、特許文献1には、複合樹脂材料で製造されたシェルタイプのシートフレームを備えた乗物用シートについて記載されている。
【0003】
特許文献1においては、乗物用シートを、シートの外形をなして乗員を支持するクッション材としてのバックパッドと、このバックパッドを裏面側から支持する骨格としての繊維強化樹脂製のバックパンを備えた構成が記載されている。
【0004】
そして、このバックパンには、背部領域と肩部領域においてそれぞれバックパンの側が開口した強化部材が取り付けられており、背部領域と肩部領域に取り付ける強化部材も繊維強化樹脂で形成することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2においては、シートのフレームを炭素繊維強化樹脂などの樹脂材料製のインナーフレーム部材とアウターフレーム部材とで閉断面構造を構成し、この樹脂製のインナーフレーム部材とアウターフレーム部材との間に接着面間のすき間が一定に保てる構造にして、このすき間に接着剤を充填することで樹脂製のインナーフレーム部材とアウターフレーム部材とを接着する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-100617号公報
【文献】特開2014-65341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているバックパン及び背部領域と肩部領域に取り付ける強化部材を形成する繊維強化樹脂として、カーボンファイバーで織った繊維を3枚~6枚重ね合せてエポキシ樹脂をマトリクス樹脂として含浸固化させて複合化させたものを用いている。
【0008】
特許文献1に記載されている繊維強化樹脂は、材料費が高く、乗物用シートのコストを低減する上で、ネックになってしまう。また、特許文献1に記載されている構成では、バックパンの背部領域と肩部領域に強化部材を取り付ける構造であるために、乗物用シートの重量を低減する上で障害となってしまう可能性がある。
【0009】
また、特許文献2に記載されているインナーフレーム部材とアウターフレーム部材とで形成した閉断面構造を有するシートのフレームにおいては、下部カバーに近い搭乗者の腰に近い高さの部分と下部カバーから離れた搭乗者の肩に近い高さの部分とで、インナーフレーム部材とアウターフレーム部材とで形成される閉断面構造の高さが異なっている構成が図示されている。
【0010】
しかし、特許文献2に記載されている構成では、インナーフレーム部材とアウターフレーム部材との厚さはそれぞれ一定であり、剛性が小さくなる閉断面構造の高さが低い搭乗者の肩に近い高さの部分においても十分な剛性が確保できる程度の厚さでインナーフレーム部材とアウターフレーム部材とを形成することになる。この部分を基準としてインナーフレーム部材とアウターフレーム部材との厚さを決めると、閉断面構造の高さが高い下部カバーに近い搭乗者の腰に近い高さの部分において、インナーフレーム部材とアウターフレーム部材との厚さが過剰になってしまう。このことは、シートのフレームを軽量化するという観点からは、課題がある。
【0011】
更に、特許文献2においては、下部カバーも繊維強化樹脂で成形し、それに左右に伸びる凸ビードを形成した構成が示されているが、下部カバーに大きな衝撃荷重がかかったときでも壊れないような十分な剛性を持たせるという観点からは、課題がある。
【0012】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、比較的安価な材料を用いて、軽量で高い剛性を有するシートフレームを備えた車両用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した従来技術に課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートバックは、シートバック側フレームとこのシートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームと表面を表皮で覆ったウレタンパッドとを備え、シートバック側フレームは、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて射出成形により成形された前面側フレームと後面側フレームとを組み合わせて内部が空洞に形成され、シートバック側フレームの金属製のロアフレームと接続する部分の断面における後面側フレームに対する前面側フレームの高さ方向の寸法は、搭乗者が着座した状態で搭乗者の肩の高さに相当する部分におけるシートバック側フレームの断面における前記後面側フレームに対する前記前面側フレームの高さ方向の寸法と比べて大きく形成され、かつ、前記シートバック側フレームの前記金属製のロアフレームと接続する部分の断面における前記後面側フレームの幅方向の寸法は、搭乗者が着座した状態で前記搭乗者の肩の高さに相当する部分における前記シートバック側フレームの断面における前記後面側フレームの幅方向の寸法と同じに形成され、前記シートバック側フレームの前記金属製のロアフレームと接続する部分の断面は、搭乗者が着座した状態で搭乗者の肩の高さに相当する部分における前記シートバック側フレームの断面と比べて、肉厚が薄く形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、上記した従来技術に課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートバックは、シートバック側フレームと、このシートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームと、表面を表皮で覆ったウレタンパッドとを備え、金属製のロアアームは左右一対の金属製のブラケットを備え、シートバック側フレームは、単繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を射出成形して成形したアッパーフレームと前記アッパーフレームと前記金属製のブラケットとを接続する左右一対のサイドフレームを備え、前記アッパーフレームは前面側アッパーフレームと後面側アッパーフレームとを組み合わせることにより内部が空洞で両端に開口部を有する環状に形成され、左右一対のサイドフレームはそれぞれ一体で内部が空洞な筒状に形成され、左右一対のサイドフレームのそれぞれの一方の端部の付近で左右一対の金属製のブラケットとインサート成型により一体化された状態で接続し、左右一対のサイドフレームのそれぞれの他方の端部はアッパーフレームと接続している構成とした。
更に、上記した従来技術に課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートバックは、シートバック側フレームと、このシートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームと、表面を表皮で覆ったウレタンパッドとを備え、金属製のロアアームは左右一対の金属製のブラケットを備え、シートバック側フレームは、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を射出成形して成形した左右一対のトップフレームと、この左右一対のトップフレームと接続する左右一対のアッパーフレームと、この左右一対のアッパーフレームと金属製のブラケットとを接続する左右一対のサイドフレームを備え、左右一対のトップフレームと左右一対のアッパーフレームと左右一対のサイドフレームはそれぞれ内部が空洞な筒状に形成され、前記左右一対のサイドフレームのそれぞれの一方の端部は前記左右一対の金属製のブラケットと接続し、前記左右一対のサイドフレームのそれぞれの他方の端部は前記左右一対のアッパーフレームと接続している構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度、高剛性を有するシートバック側フレームを射出成形により形成することを可能にしたので、カーボンファイバーで織った織物を複数枚重ねてエポキシ樹脂で含浸固化させて形成する従来技術と比べて、材料コストを大幅に低減することが可能になる。
【0016】
また、本発明によれば、シートバック側フレームの加工工程が従来技術と比べて簡略化されるので、製造コストを低減することができる。
【0017】
更に、本発明によれば、シートバックの部品点数を減らすことができるので、シートバックの軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る車両用シートから表皮及びウレタンパッドを取り除いた状態におけるフレームの外観を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームを分解した状態を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの
図2におけるA-A断面矢視図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの
図2におけるB-B断面矢視図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームの斜視図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームを分解した状態を示す斜視図である。
【
図8】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームの
図6におけるC-C断面矢視図である。
【
図9】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームの
図6におけるD-D断面矢視図である。
【
図10】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームの
図6におけるE-E断面矢視図である。
【
図11】本発明の実施例3に係る車両用シートのシートバック側のフレームの斜視図である。
【
図12】本発明の実施例3に係る車両用シートのシートバック側のフレームを分解した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、車両用シートのシートバック側フレームを、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて射出成形により成形された複数の部品を組み合わせて内部を空洞に形成し、シートバック側フレームの断面の形状と肉厚とを、搭乗者が着座した状態で搭乗者の腰の位置と肩の高さに相当する部分とにおいて変化させたることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、車両用シートのシートバック側フレームを、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて射出成形により成形された複数の部品を組み合わせた内部が空洞な構造を有して環状に形成し、この環状の一端が左右一対の金属製のブラケットの一方と接続し、環状の他端が左右一対の金属製のブラケットの他方と接続する構成とした。
以下に、本発明の実施例を、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
本実施例に係る車両用シート100の外観を、
図1に示す。本実施例に係る車両用シート100は、搭乗者が着座するシートクッション10、シートクッション10に着座した搭乗者が背をもたれかけるシートバック20、シートクッション10を載せて前後方向に移動するガイドレール部30を備えている。シートクッション10は、ウレタンパッド12の表面を表皮11で覆った構成を有している。また、シートバック20も、ウレタンパッド22の表面を表皮21で覆った構成を有している。本実施例に係る車両用シート100のシートバック20は、シートバックとヘッドレストとの機能を兼ね備えた、ハイバック型シートの例を示している。
【0022】
図1に示した車両用シート100から表皮11および21とウレタンパッド12および22を取り除いた状態におけるフレームの斜視図を、
図2に示す。
図2において、40は、シートバック20を構成するシートバック側フレームである。また、50は、シートクッション10を構成するシートクッション側フレームであり、詳細な構成を省略して図示している。70は、シートバック側フレーム40の両側の下端部を接続するロアフレームで、金属で形成されている。60は、シートクッション側フレーム50の左右を接続する連結棒であり、リクライニング機構部61と接続している。連結棒60の軸心は、シートバック20をリクライニングさせる場合の回転の中心となる。シートバック側フレーム40は、上位部がヘッドレストのフレーム機能を備えた、ハイバック型シートフレームを構成する。
【0023】
図2に示したシートバック側フレーム40を取り出して分解した状態を、
図3に示す。シートバック側フレーム40は、前面側フレーム41と後面側フレーム42とで構成される。前面側フレーム41と後面側フレーム42とは何れも、カーボン繊維やガラス繊維からなる短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、射出成形により成形されている。シートバック側フレーム40の両側の下端部を接続するロアフレーム70は、図示していないリクライニング機構部をカバーするカバー部71と、カバー部71の両側に取り付けたブラケット72を備えている。ブラケット72は、シートバック側フレーム40に、ボルト73で固定される。
【0024】
図2におけるシートバック側フレーム40の、標準的な身長を有する搭乗者の背中の下部から腰に近い高さにおけるA-A断面矢視図を
図4に、搭乗者の肩の付近の背中(背中の上部)が当たる高さにおけるB-B断面矢視図を
図5に示す。
【0025】
シートバック側フレーム40の、
図4に示した搭乗者の背中の下部から腰に近い高さの部分に対して、
図5に示した搭乗者の肩の付近の背中が当たる高さの部分では、搭乗者の動きの障害とならないように、シートバック側フレーム40の高さを抑えなければならない。即ち、リクライニングの中心(連結棒60の軸心)からトルソ角に平行に390mm程度の高さまでの搭乗者の背中の下部から腰にかけての高さの部分におけるシートバック側フレーム40の断面(
図2のA-A断面)の高さ方向の寸法:h1(
図4)に対して、搭乗者の肩の付近の背中が当たる高さ(リクライニングの中心からトルソ角に平行に390mm乃至550mm程度の高さ)におけるシートバック側フレーム40の断面(
図2のB-B断面)における高さ方向の寸法:h2(
図5)は、小さく(低く)形成されている。
【0026】
一方、
図2のA-A断面における幅方向の寸法W1(
図4参照)とB-B断面における幅方向の寸法W2(
図5参照)は、同じ寸法にした。
【0027】
このように、幅方向の寸法W1とW2とは同じにして、高さ方向の寸法h1とh2とを変えてシートバック側フレーム40を形成する場合、必要とされる断面強度(断面係数)を確保するためには、高さ方向に比較的大きい寸法h1で形成されるA-A断面部に対して、比較的小さい寸法h2で形成されるB-B断面部の肉厚を厚くして形成する必要がある。即ち、本実施例においては、A-A断面における前面側フレーム41の厚さt1及び後面側フレーム42の厚さt2に対して、B-B断面における前面側フレーム41の厚さt3及び後面側フレーム42の厚さt4をそれぞれ厚く形成することにより、A-A断面部とB-B断面部の断面強度(断面係数)がそれぞれ必要な強度を満たすようにした。
【0028】
このように、肉厚を変えて形成したA-A断面部とB-B断面部における前面側フレーム41と後面側フレーム42との接続方法を
図4及び
図5に示す。
【0029】
比較的肉厚が薄いA-A断面部においては、
図4に示すように、前面側フレーム41の開口部分からその内側に後面側フレーム42の開口部分を挿入して、それぞれが接触する面を接着剤を用いて接続する構成とした。すなわち、前面側フレーム41に後面側フレーム42を差し込んだ状態で、前面側フレーム41と後面側フレーム42とが接触する部分43及び44において、両者を接着剤で接続している。接着剤としては、例えば、メタクリレート系構造接着剤を用いる。
図4では、後面側フレーム42の内部にブラケット72が、図示していないボルトで固定されている状態を示している。
【0030】
一方、比較的肉厚が厚いB-B断面部においては、
図5に示すように、前面側フレーム41の内面側に段差部411と412を形成し、後面側フレーム42の先端部分を当てることにより、前面側フレーム41の内側に挿入する後面側フレーム42の挿入深さを規定するようにした。また、
図5に示した構成においても、前面側フレーム41と後面側フレーム42とが接触する部分45及び46において、両者を接着剤で接続している。
【0031】
なお、上記した説明においては、前面側フレーム41と後面側フレーム42とを、接着剤を用いて接続する構成について説明したが、必ずしも接着剤を用いなくても良い。例えば、前面側フレーム41の後面側フレーム42と重なる部分の複数の箇所に爪を形成し、後面側フレーム42には、一部を前面側フレーム41に挿入したときに前面側フレーム41に形成した爪と重なる位置に爪と勘合する部分を設けておくことにより、前面側フレーム41と後面側フレーム42とを接続する構成としても良い。また、上記した接着剤を用いた接続と更に上記した爪を用いた勘合による接続とを組み合わせて用いても良い。
【0032】
また、前面側フレーム41と後面側フレーム42とを、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、射出成形により成形する例を説明したが、本実施例で用いる材料はこれに限定されるものではなく、他の樹脂材料を用いて前面側フレーム41と後面側フレーム42とを形成しても良い。
【0033】
本実施例によれば、シートバック側フレーム40を
図4及び
図5に示したような中空の閉断面形状で構成したことにより、シートバック側フレーム40を、軽量化して、必要とされる断面強度(断面係数)を確保することができるようになった。
【0034】
また、本実施例によれば、搭乗者が着座することにより大きなモーメント荷重がかかるシートバック側フレーム40のロアフレーム70への付け根部分を金属製のブラケット72を用いてカバー部71に取り付ける構成としたことにより、車両用シートに求められる大きなモーメント荷重や衝撃荷重にも耐えうる構造とすることができる。
【実施例2】
【0035】
実施例1においては、シートバック側フレーム40を、前面側フレーム41と後面側フレーム42とで構成する例を示したが、本実施例においては、
図6に示すように、シートバック側フレーム140を、上下2つに分離して、上側を前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142との2つの部分で構成し、下側を左右1対を成す左側のサイドフレーム143と右側のサイドフレーム144とで構成した。
【0036】
図7に、それぞれの部品を分離した状態を示す。前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142とは、実施例1の場合と同様に分離した構造とした。一方、左右一対を成す左側のサイドフレーム143と右側のサイドフレーム144とは前後に分離せずに、それぞれ一体で内部が空洞な、筒状に形成した。
【0037】
このような構成で、先ず、前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142とを、実施例1で説明したのと同様にして組み合わせて、接着剤で接着する。
【0038】
次に、接着剤で接着した前面側アッパーフレーム141の左側の先端部分1411と後面側アッパーフレーム142の左側の先端部分1421とを、内部が空洞な左側のサイドフレーム143の上端部の開口部に差し込んで接着剤で接着する。ここで、前面側アッパーフレーム141の左側の先端部分1411は、前面側アッパーフレーム141よりも肉厚が薄く形成されており、前面側アッパーフレーム141と先端部分1411との間には段差が形成されている。後面側アッパーフレーム142の左側の先端部分1421も同様に、後面側アッパーフレーム142よりも肉厚が薄く形成されており、後面側アッパーフレーム142と先端部分1421との間には段差が形成されている。
【0039】
一方、左側のサイドフレーム143の上端部の開口部は、先端部分1411と先端部分1421とを組み合わせた寸法に対応する寸法の開口になっており、接着した先端部分1411と1421とを左側のサイドフレーム143の上端部の開口部に挿入すると、前面側アッパーフレーム141と先端部分1411との間の段差及び後面側アッパーフレーム142と先端部分1421との間の段差が開口部の先端に突き当たって、前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142との左側のサイドフレーム143への挿入深さが決まる。
【0040】
同様にして、接着剤で接着した前面側アッパーフレーム141の右側の先端部分1412と後面側アッパーフレーム142の右側の先端部分1422とを右側のサイドフレーム144の上端部に差し込んで接着剤で接着する。ここで、前面側アッパーフレーム141と右側の先端部分1412との間、および、後面側アッパーフレーム142と右側の先端部分1422との間には、上記に説明した前面側アッパーフレーム141と左側の先端部分1411との間、および、後面側アッパーフレーム142と左側の先端部分1421との間と同様に、段差が形成されており、接着した先端部分1412と1422とを右側のサイドフレーム144の上端の開口部に挿入すると、前面側アッパーフレーム141と先端部分1411との間の段差及び後面側アッパーフレーム142と先端部分1421との間の段差が開口部の先端に突き当たって、前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142との右側のサイドフレーム144への挿入深さが決まる。
【0041】
これにより、接着された前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142とを、左右1対を成す左側のサイドフレーム143と右側のサイドフレーム144とに接続するようにした。
【0042】
前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142及び左右一対を成す左側のサイドフレーム143と右側のサイドフレーム144とは、実施例1の場合と同様に、それぞれを、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、射出成形により成形する。
【0043】
図8は、
図6におけるC-C断面の矢視図である。右側のサイドフレーム144を射出成形する場合、ロアフレーム70のブラケット72も一緒に成形(インサート成形)することにより、
図8に示すように、ブラケット72の一部が右側のサイドフレーム144の内部に組み込まれて一体化された状態となっている。左側のサイドフレーム143についても同様に、インサート成形によりブラケット72の一部が左側のサイドフレーム143の内部に組み込まれて一体化されている。
【0044】
図9は、右側のサイドフレーム144の上端部分に前面側アッパーフレーム141の右側の先端部分1412と後面側アッパーフレーム142の右側の先端部分1422とを挿入した部分を示し、
図6におけるD-D断面の矢視図である。前面側アッパーフレーム141の右側の先端部分1412と後面側アッパーフレーム142の右側の先端部分1422とは、突合せた状態で右側のサイドフレーム144の上端部分に形成された開口部から空洞部分に挿入されている。前面側アッパーフレーム141の先端部分1411および後面側アッパーフレーム142の先端部分1421と右側のサイドフレーム144の上端部分との接触する部分に接着剤が塗布されて接着されている。
【0045】
図示していないが、前面側アッパーフレーム141の左側の先端部分1411と後面側アッパーフレーム142の左側の先端部分1421、及び、左側のサイドフレーム143との関係も同様である。
【0046】
図10は、
図6におけるE-E断面の矢視図であり、前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142とが突合されて、この突合わされた部分が接着剤で接続されている状態を示している。
【0047】
本実施例においては、シートバック側フレーム140を構成する各部材を、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、射出成形により成形する例を説明したが、本実施例で用いる材料はこれに限定されるものではなく、他の樹脂材料を用いてシートバック側フレーム140を構成する各部材を形成しても良い。
【0048】
本実施例においても、実施例1の場合と同様に、シートバック側フレーム140を
図8乃至
図10に示したような中空の閉断面形状で構成したことにより、シートバック側フレーム140を、軽量化して、必要とされる断面強度(断面係数)を確保することができるようになった。
【0049】
また、実施例1の場合と同様に、本実施例によれば、搭乗者が着座することにより大きなモーメント荷重がかかるシートバック側フレーム140のロアフレーム70への付け根部分を金属製のブラケット72を用いてカバー部71に取り付ける構成としたことにより、車両用シートに求められるモーメント荷重や衝撃荷重にも耐えうる構造とすることができる。
【0050】
更に、本実施例によれば、シートバック側フレーム140を、上下2つに分離してそれぞれを射出成形する構成としたので、実施例1の場合と比べて、射出成形に用いる金型を小型化することができ、比較的小型の射出成形装置を用いて成形することができる。
【実施例3】
【0051】
実施例2においては、シートバック側フレーム140の上部を、前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142で構成する構造とした。これに対して、本実施例では、前面側アッパーフレーム141と後面側アッパーフレーム142とを一体化した上で、長さ方向に2つに分けて、それぞれを、左側のサイドフレーム143及び右側のサイドフレーム144と同様に筒状に形成するようにした。
【0052】
即ち、本実施例においては、シートバック側フレーム240を構成する全てのモールド部材を、内部が空洞な筒状に形成した。
【0053】
図11に、本実施例に係るシートバック側フレーム240の構成を示す。本実施例に係るシートバック側フレーム240は、
図12に各部品を分解して示したように、左側トップフレーム2411と右側トップフレーム2412、左側ミドルフレーム2421と右側ミドルフレーム2422、左側サイドフレーム2431と右側サイドフレーム2432とで構成されている。
【0054】
左側サイドフレーム2431及び右側サイドフレーム2432とロアフレーム70のブラケット72との関係は、実施例2で
図8を用いて説明したのと同様に、インサート成形によりブラケット72の一部が左側サイドフレーム2431及び右側サイドフレーム2432の内部にそれぞれ組み込まれて一体化して形成された状態となっている。
【0055】
左側ミドルフレーム2421とその先端部分2423との間には段差部が形成されており、先端部分2423は、実施例2において
図9を用いて説明したのと同様に、左側サイドフレーム2431の先端部分(
図12において、左側ミドルフレーム2421の先端部分2423に近い側)の開口部から内部の空洞部分に挿入され、左側ミドルフレーム2421とその先端部分2423との間の段差部が左側サイドフレーム2431の開口部の先端部分に突き当たって止まった状態で、左側サイドフレーム2431の空洞部分の内側と左側ミドルフレーム2421の先端部分2423の表面とが接着剤により固定されている。
【0056】
また、右側ミドルフレーム2422とその先端部分2424との間にも段差部が形成されており、先端部分2423は、実施例2で
図9を用いて説明したのと同様に、右側サイドフレーム2432の先端部分(
図12において、右側ミドルフレーム2422とその先端部分2424に近い側)の開口部から内部の空洞部分に挿入されて、右側ミドルフレーム2422とその先端部分2424との間の段差部が右側サイドフレーム2432の開口部の先端部分に突き当たって止まった状態で、右側サイドフレーム2432の空洞部分の内側と右側ミドルフレーム2422の先端部分2424の表面とが接着剤により固定されている。
【0057】
左側トップフレーム2411と先端部分2413との間にも段差部が形成されており、先端部分2413は、実施例2において
図9用いて説明したのと同様に、左側ミドルフレーム2421の先端部分(
図12において、左側トップフレーム2411の先端部分2413に近い側)の開口部から内部の空洞部分に挿入されて、左側トップフレーム2411とその先端部分2413との間の段差部が左側ミドルフレーム2421の開口部の先端部分に突き当たって止まった状態で、左側ミドルフレーム2421の空洞部分の内側と左側トップフレーム2411の先端部分2413の表面とが接着剤により固定されている。
【0058】
また、右側トップフレーム2412と先端部分2414との間にも段差部が形成されており、実施例2で
図9を用いてで説明したのと同様に、右側ミドルフレーム2422の先端部分(
図12において、右側トップフレーム2412の先端部分2414に近い側)の開口部から内部の空洞部分に挿入されて、右側トップフレーム2412とその先端部分2414との間の段差部が右側ミドルフレーム2422の開口部の先端部分に突き当たって止まった状態で、右側ミドルフレーム2422の空洞部分の内側と右側トップフレーム2412の先端部分2414の表面とが接着剤により固定されている。
【0059】
また、左側トップフレーム2411の先端部分2415は、右側トップフレーム2412の先端部分(左側トップフレーム2411の先端部分2415に近い側)の開口部から内部の空洞部分に挿入されて、左側トップフレーム2411とその先端部分2415との間の段差部が右側トップフレーム2412の開口部の先端部分に突き当たって止まった状態で、右側トップフレーム2412の空洞部分の内側と左側トップフレーム2411の先端部分2415の表面とが接着剤により固定されている。
【0060】
本実施例においても、実施例1及び2の場合と同様に、シートバック側フレーム240を中空の閉断面形状で構成したことにより、シートバック側フレーム240を、軽量化して、必要とされる断面強度(断面係数)を確保することができるようになった。
【0061】
また、実施例1及び2の場合と同様に、本実施例によれば、搭乗者が着座することにより大きなモーメント荷重がかかるシートバック側フレーム240のロアフレーム70への付け根部分を金属製のブラケット72を用いてカバー部71に取り付ける構成としたことにより、車両用シートに求められるモーメント荷重や衝撃荷重にも耐えうる構造とすることができる。
【0062】
更に、本実施例によれば、シートバック側フレーム240を、左右を上中下の6つに分離してそれぞれを射出成形により空洞構造で形成する構成としたので、実施例1及び実施例2の場合と比べて、射出成形に用いる金型を小型化することができ、かつ、組み立てが容易になり、製造のコストを低減することが可能になった。
【0063】
本実施例においては、シートバック側フレーム240を構成する各部材を、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、射出成形により成形する例を説明したが、本実施例で用いる材料はこれに限定されるものではなく、他の樹脂材料を用いてシートバック側フレーム240を構成する各部材を形成しても良い。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
10・・・シートクッション 20・・・シートバック 40、140,240・・・シートバック側フレーム 41・・・前面側フレーム 42・・・後面側フレーム 70・・・ロアフレーム 71・・・カバー部 72・・・ブラケット 100・・・車両用シート 141・・・前面側アッパーフレーム 142・・・後面側アッパーフレーム 143・・・左側のサイドフレーム 144・・・右側のサイドフレーム 2411・・・左側トップフレーム 2412・・・右側トップフレーム 2421・・・左側ミドルフレーム 2422・・・右側ミドルフレーム 2431・・・左側サイドフレーム 2432・・・右側サイドフレーム。