(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】フルオロアルキルピリジンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 213/803 20060101AFI20220208BHJP
C07D 213/80 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C07D213/803
C07D213/80
(21)【出願番号】P 2018131712
(22)【出願日】2018-07-11
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】清野 淳弥
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-520538(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020738(WO,A1)
【文献】Stephen M. Brown et al.,Organic Process Research & Development,1997年,Vol.1, No.5,p.370-378
【文献】Young Kwan Ko et al.,Bulletin or the Korean Chemical Society ,2001年,Vol.22, No.2,p.234-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 213/803
C07D 213/80
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基の存在下にて、下記一般式(1)で表されるプロピオール酸エステルと、下記一般式(2)で表されるアミノクロトン酸エステルとを反応させて下記一般式(3)で表されるフルオロアルキルピリジンを得る、フルオロアルキルピリジンの製造方法。
一般式(1)
【化1】
一般式(2)
【化2】
一般式(3)
【化3】
(上記一般式(1)~(3)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1以上10以下のアルキル基を表し、R
3は1以上のフッ素原子で置換された炭素数1以上10以下のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記塩基が、1、5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-ノネン、1,8-ジアザビシクロ-[5,4,0]-7-ウンデセン、メチルトリアザビシクロデセン、およびジアザビシクロオクタンからなる群から選択された少なくとも1種の塩基である、請求項1に記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
【請求項3】
上記一般式(1)で表されるプロピオール酸エステルと、上記一般式(2)で表されるアミノクロトン酸エステルとを、0~60℃で反応させる、請求項1または2に記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
【請求項4】
前記プロピオール酸エステルが、下記式(4)で表される、請求項1から3までのいずれか1項に記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
式(4)
【化4】
【請求項5】
前記R
3は、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基である、請求項1から4までのいずれか1項に記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
【請求項6】
前記アミノクロトン酸エステルが下記式(5)で表される、請求項1から5までのいずれか1項に記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
式(5)
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキルピリジンの製造方法に関し、例えば、プロピオール酸エステルとアミノクロトン酸エステルとを反応させてフルオロアルキルピリジンを得る、フルオロアルキルピリジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロアルキルピリジンは、医農薬中間体として重要であり、種々の生理活性物質の合成に用いられている。例えば、6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エステルの反応、薬理活性、及び用途については、種々の報告がなされている。
【0003】
フルオロアルキルピリジンの製造方法としては、原料としてアクリルアミドを用いる製造方法(特許文献1~4参照)及びアクリロイルクロリドを用いる製造方法が提案されている(特許文献5参照)。これらの製造方法ではいずれも、第1段階目の反応において、原料であるアクリルアミド又はアクリロイルクロリドとエステル化合物との付加環化反応を行う。次に、第2段階目の反応において、付加環化体の酸化反応を行うことにより、フルオロアルキルピリジン(例えば、6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エステル)を得ている。
特許文献1の製造方法では、第1段階目の付加環化体の収率は9%であり、第2段階目の最終生成物(6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エステル)の収率は70%であり、6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エステルの総収率は6.3%となっている。
特許文献2~4の製造方法では、第1段階目の付加環化体の収率は25%であり、第2段階目の最終生成物(6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エステル)の収率は92%であり、6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エステルの総収率は23%となっている。
また、特許文献5の製造方法では、第1段階目の付加環化体の収率は35%であり、付加環化体を単離することなく、第2段階目の酸化反応を実施しているために、最終生成物であるフルオロアルキルピリジンの総収率については記載されていない。
【0004】
一方、フルオロアルキルピリジンを製造するための別法として、まずは非フッ素化体であるアルキルピリジンを合成した後に、フッ素化反応によりフルオロアルキルピリジンを製造する方法も提案されている(特許文献6~10参照)。アルキルピリジンの製造について、特許文献6~9に記載の方法では、第1段階目のプロピオール酸エステルとアミノクロトン酸エステルとの付加反応を行った後、第2段階目の環化反応を行うことによりアルキルピリジンを得ている。しかしながら、特許文献6においては、第1段階目の付加体における二重結合の位置については言及されていない。また、特許文献9では、第1段階目の付加体の収率は93%であり、第2段階目の環化反応の収率は60%であり、アルキルピリジンの総収率が56%であることが記載されている。続いて、アルキルピリジンのフッ素化反応によるフルオロアルキルピリジンの製造について、特許文献10に記載の方法では、無水フッ化水素存在下において、2-メチルピリジンを塩素ガスにより酸化することで、2-トリフルオロメチルピリジンが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/020615号
【文献】国際公開第2005/074939号
【文献】国際公開第2004/029027号
【文献】国際公開第2004/029026号
【文献】米国特許出願公開第2009/0247588号明細書
【文献】国際公開第2006/028958号
【文献】国際公開第2008/085119号
【文献】国際公開第2009/126863号
【文献】国際公開第2013/056015号
【文献】特開昭57-9762号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Org. Process Res. Dev.,1(1),370,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4のようなアクリルアミドを用いたフルオロアルキルピリジンの合成では、アクリルアミドの高い有害性により厳重な安全対策が不可欠となることから、作業における操作性、利便性及び経済性の低下が問題となる。また、フルオロアルキルピリジンは主に医農薬中間体として利用されるため、上述した高い有害性が懸念されるアクリルアミドなどの化合物を原料とする製造方法は反応残留物の観点から問題となる場合があった。このため、生成物へのアクリルアミドなどの残留を防ぐための除去工程及び分析工程の厳重化も避けられなかった。
【0008】
特許文献5のようなアクリロイルクロリドを用いたフルオロアルキルピリジンの製造方法では、酸塩化物であるアクリロイルクロリドが、湿気などの空気中の水分により容易に加水分解を受け、発熱と共に腐食性の塩化水素を発煙し得る。そのため、アクリロイルクロリドを用いたフルオロアルキルピリジンの製造方法では、厳密な無水環境及び対耐食設備が必要となる場合があった。また、アクリロイルクロリドは、アクリルアミド以上に熱及び光に対して不安定であり極めて容易に重合反応を引き起こすため、取り扱いに際しては重合禁止剤の添加が不可欠である。そのため、アクリロイルクロリドを用いる場合には、原料への重合禁止剤の添加及び生成物からの重合禁止剤の除去という操作が必要となり非効率的であった。
【0009】
また、上記の特許文献1~5に記載の、アクリルアミドまたはアクリロイルクロリドを用いたフルオロアルキルピリジンの製造方法では、中間体としての付加環化体(例えば、6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチル-4,5-ジヒドロピリジン-3-カルボン酸エステル)の酸化工程が必要となる。この酸化工程では、酸化剤として用いるN-ブロモスクシンイミド(NBS)の原子効率の低さ、溶媒として使用する四塩化炭素の有害性及び環境負荷が高かった。また、これらの反応は不純物の影響を受け易く最終生成物の収率が安定しない上に、副反応として過剰酸化が競合する問題があった(非特許文献1参照)。
【0010】
また、特許文献6~9に記載の方法では、第1段階目の反応でプロピオール酸エステルとアミノクロトン酸エステルとの付加体を得た後、第2段階目の反応で付加体を環化してピリジン環を形成する必要があり、反応が2段階のため操作が煩雑で非効率的であった。さらに、第2段階目の環化反応は、反応の進行が困難なために高温で反応を行う必要があった。従って、特許文献6~9の方法では最低でも160℃まで加熱して反応を行っており、多大なエネルギーの投入が必要であった。加えて、特許文献6では強塩基性試薬の添加操作が必要となり、特許文献7及び8ではマイクロ波加熱設備が必要となっていた。
【0011】
特許文献10に記載の方法は、気相反応として塩素や無水フッ化水素といったガス状の反応剤を使用する。これらの反応剤は非常に高い毒性や腐食性を持ったガスであることから、取り扱いには多大な危険が伴い、厳しい安全管理が不可欠となる。また、特許文献10には、反応の進行が遅いことから、約400℃まで加熱する必要があるばかりか、生成物には、芳香環上に複数の塩素が導入された副生成物が混入することが記載されている。このため、特許文献10の方法は、エネルギー効率や選択率、官能基許容性が低いといった問題がある。これらの制約により、まず特許文献6~9に記載の方法でアルキルピリジンを得た後に、特許文献10に記載の方法でフルオロアルキルピリジンへと変換する方法は、実用には適さないと判断できる。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明者は、アクリルアミド及びアクリロイルクロリドに替わりうるフルオロアルキルピリジンの原料について検討を行った。その結果、プロピオール酸エステルと、特定構造を有するアミノクロトン酸エステルが原料として有用であり、上記課題を解消しうることを見出した。すなわち、プロピオール酸エステルは、アクリルアミドよりも人体に対する有害性が低く、アクリロイルクロリドとは異なり水と接触して発熱、発煙及び加水分解することがなく激しい重合反応も引き起こさない。また、プロピオール酸エステルとの反応において、フルオロアミノクロトン酸エステルは、アミノクロトン酸エステルとは異なり、1段階でフルオロアルキルピリジンを与えることから、酸化反応工程を別途設ける必要がなく、中間体の単離精製及び過剰反応による損失も回避可能となった。これにより本発明者は、一段階の反応工程で簡易的にフルオロアルキルピリジンが得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、安全性の高い原料を使用できると共に一段階の反応工程で簡易的にフルオロアルキルピリジンを得ることが可能な、フルオロアルキルピリジンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]塩基の存在下にて、下記一般式(1)で表されるプロピオール酸エステルと、下記一般式(2)で表されるアミノクロトン酸エステルとを反応させて下記一般式(3)で表されるフルオロアルキルピリジンを得る、フルオロアルキルピリジンの製造方法。
一般式(1)
【化1】
一般式(2)
【化2】
一般式(3)
【化3】
(上記一般式(1)~(3)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1以上10以下のアルキル基を表し、R
3は1以上のフッ素原子で置換された炭素数1以上10以下のアルキル基を表す。)
[2]前記塩基が、1、5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-ノネン、1,8-ジアザビシクロ-[5,4,0]-7-ウンデセン、メチルトリアザビシクロデセン、およびジアザビシクロオクタンからなる群から選択された少なくとも1種の塩基である、上記[1]に記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
[3]上記一般式(1)で表されるプロピオール酸エステルと、上記一般式(2)で表されるアミノクロトン酸エステルとを、0~60℃で反応させる、上記[1]または[2]に記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
[4]前記プロピオール酸エステルが、下記式(4)で表される、上記[1]から[3]までのいずれか1つに記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
式(4)
【化4】
[5]前記R
3は、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基である、上記[1]から[4]までのいずれか1つに記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
[6]前記アミノクロトン酸エステルが下記式(5)で表される、上記[1]から[5]までのいずれか1つに記載のフルオロアルキルピリジンの製造方法。
式(5)
【化5】
【発明の効果】
【0015】
安全性の高い原料を使用できると共に一段階の反応工程で簡易的にフルオロアルキルピリジンを得ることが可能な、フルオロアルキルピリジンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた生成物のガスクロマトグラフによる分析結果を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた生成物の質量分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態によって何ら制限されるものではない。
【0018】
一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法は、塩基の存在下にて、下記一般式(1)で表されるプロピオール酸エステルと、下記一般式(2)で表されるアミノクロトン酸エステルとを反応させて下記一般式(3)で表されるフルオロアルキルピリジンを得る。
一般式(1)
【化6】
一般式(2)
【化7】
一般式(3)
【化8】
(上記一般式(1)~(3)において、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1以上10以下のアルキル基を表し、R
3は1以上のフッ素原子で置換された炭素数1以上10以下のアルキル基を表す。)。
【0019】
上記反応の一例は下記式(6)で表される。
式(6)
【化9】
(なお、上記反応式(6)において、置換基R
1~R
3は、上記一般式(1)~(3)の置換基R
1~R
3と同義である。)
すなわち、上記式(6)で表されるように、プロピオール酸エステルと、アミノクロトン酸エステルとから環状のピリジン構造が形成されると共に、プロピオール酸エステルに由来するR
1OHが生成する。
【0020】
一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法では、原料としてプロピオール酸エステルを用いる。このため、従来法のように、人体に対する有害性を有するアクリルアミドを用いる必要がなく、また、水と接触して発熱、発煙及び加水分解を行うアクリロイルクロリドを用いる必要がない。プロピオール酸エステルはアクリル酸の酸化体であるため、一実施形態の製造方法では酸化反応工程を設ける必要がなく、1段階でフルオロアルキルピリジンを得ることができ、反応工程を簡素化して中間体の単離精製及び過剰反応による損失が回避可能となる。
また、従来のアクリル酸誘導体を原料として用いてアルキルピリジンを製造する方法では、アクリル酸誘導体の重合物が形成され得る。このアクリル酸誘導体の重合物は主鎖が重合して飽和炭化水素鎖になる際に膨大なエネルギーを放出して安定化するため、反応系が高温となったり爆発に至る場合があった。これに対して、一実施形態の製造方法で原料として用いるプロピオール酸エステルは重合物を形成しにくく、重合物を形成した場合であってもその主鎖が不飽和炭化水素鎖となるため、重合による安定化の寄与が少なく重合時の発熱量が減少する。この結果、連鎖的な重合反応が起こりにくくなり、安全性が向上する。
従って、一実施形態では、廃棄物の削減、反応工程の簡素化、作業の効率化及び経済性の向上を実現できるだけでなく、安全性の高い原料を使用でき、一段階の反応工程で簡易的にフルオロアルキルピリジンを得ることができる、フルオロアルキルピリジンの製造方法を実現することが可能となる。
【0021】
上記一般式(1)におけるR1は、炭素数1以上10以下のアルキル基であれば特に限定されないが、炭素数1以上5以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基がより好ましい。より具体的には、R1はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基又はn-ペンチル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はi-プロピル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0022】
上記一般式(2)~(3)におけるR2は、炭素数1以上10以下のアルキル基であれば特に限定されないが、炭素数1以上5以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基がより好ましい。より具体的には、R2はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基又はn-ペンチル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はi-プロピル基がより好ましく、エチル基がさらに好ましい。
【0023】
上記一般式(2)~(3)におけるR3は、1以上のフッ素原子で置換された炭素数1以上10以下のアルキル基であれば特に限定されないが、1以上のフッ素原子で置換された炭素数1以上5以下のアルキル基が好ましく、1以上のフッ素原子で置換された炭素数1以上3以下のアルキル基がより好ましい。また、R3において、アルキル基を置換するフッ素原子の数は1以上であれば特に限定されないが、アルキル基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基であるのが好ましい。より具体的には、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基が好ましく、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基がより好ましく、パーフルオロメチル基(トリフルオロメチル基)がさらに好ましい。
【0024】
プロピオール酸エステルは、下記式(4)で表されるプロピオール酸エステルであることが特に好ましい。
式(4)
【化10】
アミノクロトン酸エステルは、下記式(5)で表されるアミノクロトン酸エステルであることが特に好ましい。
式(5)
【化11】
【0025】
また、フルオロアルキルピリジンとして下記一般式(7)で表される6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エステルを製造することが特に好ましい。
一般式(7)
【化12】
(上記一般式(7)において、R
2は炭素数1以上10以下のアルキル基を表す。)。
【0026】
一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法では、プロピオール酸エステルと、アミノクロトン酸エステルとの反応を塩基の存在下で行う。上記反応に用いられる塩基としては、例えば、1、5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-ノネン(DBN)、1,8-ジアザビシクロ-[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU)、メチルトリアザビシクロデセン、ジアザビシクロオクタンといった有機窒素誘導体や、ホスファゼン(Phosphazene)塩基などが挙げられる。塩基の使用量は、モル比で(プロピオール酸エステル):(塩基)=1:0.1~5が好ましく、1:0.2~3がより好ましく、1:0.5~1.5がさらに好ましい。
【0027】
一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法では効率的に反応を行わせることができるため、好適には、反応温度を低く設定することができる。上記一般式(1)で表されるプロピオール酸エステルと、上記一般式(2)で表されるアミノクロトン酸エステルとは、0~100℃で反応させることが好ましく、0~80℃で反応させることがより好ましく、0~60℃で反応させることがさらに好ましい。
【0028】
プロピオール酸エステルと、アミノクロトン酸エステルの反応時間は、30分以上72時間以下が好ましく、1時間以上48時間以下がより好ましく、2時間以上36時間以下がさらに好ましい。
【0029】
プロピオール酸エステルとアミノクロトン酸エステルを反応させる際の溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルピロリドン、ジメチルエチレン尿素、ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、スルホランといった非プロトン性極性溶媒などが用いられる。
【0030】
一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法において、アミノクロトン酸エステルは、プロピオール酸エステルに対して過剰のモル当量となるように添加することが好ましい。これにより、反応に用いられる塩基と上記一般式(1)で表されるプロピオール酸エステルとのアニオン重合反応を抑制でき、フルオロアルキルピリジンの収率が向上する。プロピオール酸エステルと、アミノクロトン酸エステルの使用比(モル比)である(プロピオール酸エステル):(アミノクロトン酸エステル)は、1:1を超え5以下が好ましく、1:1.3~3がより好ましく、1:1.5~2.5がさらに好ましい。
【0031】
一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法では、塩基を溶解した溶液中にアミノクロトン酸エステルを加えてから、プロピオール酸エステルを前記溶液中に加えることが好ましい。これにより、反応に用いられる塩基とプロピオール酸エステルとのアニオン重合反応を抑制できるので、フルオロアルキルピリジンの収率を向上させることができる。
【0032】
一実施形態の製造方法により得られたフルオロアルキルピリジンは、無水硫酸ナトリウムにて乾燥させてろ過をした後、GC-MSによりフルオロアルキルピリジンの生成を確認することができる。
【0033】
以上説明したように、一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法では、原料としてプロピオール酸エステルを用いるので、人体に対する有害性を有するアクリルアミドを用いる必要がない。また、原料として、水と接触して発熱、発煙及び加水分解を行うアクリロイルクロリドを用いることなく、フルオロアルキルピリジンを得ることが可能となる。一実施形態の製造方法では、原料であるプロピオール酸エステルはアクリル酸の酸化体であるため、酸化反応工程を必要とせずに1段階でフルオロアルキルピリジンを得ることができ、反応工程を簡素化して中間体の単離精製及び過剰反応による損失も回避可能となる。
また、従来のアクリル酸誘導体を原料として用いてアルキルピリジンを製造する方法では、アクリル酸誘導体の重合物が形成され得る。このアクリル酸誘導体の重合物は主鎖が重合して飽和炭化水素鎖になる際に膨大なエネルギーを放出して安定化するため、反応系が高温となったり、爆発に至る場合があった。これに対して、一実施形態の製造方法で原料として用いるプロピオール酸エステルは重合物を形成しにくく、重合物を形成した場合であってもその主鎖が不飽和炭化水素鎖となるため重合による安定化の寄与が少なく、重合時の発熱量が減少する。この結果、連鎖的な重合反応が起こりにくくなり、安全性が向上する。
これらにより、上記実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法によれば、廃棄物の削減、反応工程の単純化、作業の効率化及び経済性の向上を実現することができるだけでなく安全性の高い原料を使用でき、一段階の反応工程で簡易的にフルオロアルキルピリジンを得ることが可能な、フルオロアルキルピリジンの製造方法を実現することが可能となる。
【0034】
なお、一実施形態のフルオロアルキルピリジンの製造方法において、一段階で簡易的にフルオロアルキルピリジンの生成反応が起こる原因の一つは、原料として用いたアミノクロトン酸エステル中のR3がフッ素原子を有するためであると考えられる。すなわち、フッ素原子は高い電気陰性度を有するため、R3は電子吸引性の置換基となっている。そして、プロピオール酸エステルとアミノクロトン酸エステルとからフルオロアルキルピリジンを生成させる反応の中間体である、プロピオール酸エステルとアミノクロトン酸エステルとの付加体が、環化する際には塩基により供与された電子により、負に帯電したカルボアニオンを経由しているものと考えられる。ここで、遷移状態のカルボアニオン中に含まれるR3は電子吸引性基であるため、カルボアニオン中の負電荷を求引することにより該カルボアニオンを安定化させているものと推定される。この結果、一連の反応の活性化エネルギーが低下して、フルオロアルキルピリジンを容易に生成させることができるようになったものと考えられる。また、一つの炭素原子に結合するフッ素原子の数が多いほど、R3の電子吸引性は大きくなるため、R3がパーフルオロアルキル基の場合に、フルオロアルキルピリジンは最も容易に生成するものと推定される。
【実施例】
【0035】
以下では実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
100mLの三口フラスコに、テトラヒドロフラン(THF)6.25g、3-アミノ-4,4,4-トリフルオロクロトン酸エチル25g(136mmol)、ジアザビシクロ-[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU)11.5g(75.5mmol)を攪拌しながら加えた。次に、氷水冷却下、内温が20℃を超えないように、プロピオール酸メチル6.25g(74.3mmol)を滴下し、1時間撹拌した後、60℃まで昇温した。24時間撹拌後、内容物を分取して無水硫酸ナトリウムにて乾燥及びろ過した後、GC-MS(型番:QP2010、株式会社島津製作所製、カラム:DB-1MS、アジレント・テクノロジー株式会社製、移動層:He)により分析した。その結果を
図1及び
図2に示す。
図1及び2において矢印で示すように、6-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルピリジン-3-カルボン酸エチルが得られたことを確認できた。