(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】塗装装置
(51)【国際特許分類】
B05B 5/04 20060101AFI20220208BHJP
B05B 5/08 20060101ALI20220208BHJP
B05B 3/10 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B05B5/04 A
B05B5/08 E
B05B3/10 B
(21)【出願番号】P 2018180709
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-02-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591274059
【氏名又は名称】CFTランズバーグ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 真二
(72)【発明者】
【氏名】沼里 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 一基
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】村井 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 勇気
(72)【発明者】
【氏名】富田 篤
(72)【発明者】
【氏名】岡元 健二
(72)【発明者】
【氏名】増田 直大
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-042749(JP,A)
【文献】国際公開第2005/009621(WO,A1)
【文献】特開2007-029920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B1/00-17/08
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ヘッドと、
前記回転ヘッドを回転させる駆動部と、
前記回転ヘッドに塗料を供給する塗料供給管と、
前記回転ヘッドに電圧を印加する電源部と、
前記電源部を制御する制御部とを備える塗装装置であって、
前記回転ヘッドおよびワークを相対的に移動させる移動部を備え、
前記回転ヘッドは、塗料が遠心力によって外縁部に向けて拡散される拡散面と、前記外縁部に形成された複数の溝部とを含み、
前記回転ヘッドの溝部から糸状の塗料が放出され、その糸状の塗料が静電微粒化されるように構成され、
前記制御部は、前記電源部から前記回転ヘッドに流れる全電流と、前記回転ヘッドから前記塗料供給管を介してリークするリーク電流とに基づいて、前記回転ヘッドから接地されたワークに向けて放電される放電電流を算出し、前記放電電流に基づいて前記電源部を制御するように構成され
、
前記移動部は、前記電源部の出力電圧の絶対値が所定値を下回った場合に、前記回転ヘッドおよび前記ワークの接近を禁止するように構成されていることを特徴とする塗装装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗装装置において、
前記制御部は、前記放電電流が所定の目標値になるように前記電源部の出力電圧を制御するように構成されていることを特徴とする塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転ヘッドを備える塗装装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の塗装装置は、回転ヘッドから糸状の塗料を放出し、その糸状の塗料を静電微粒化することにより、塗料粒子を形成してワークに塗着させるように構成されている。この塗装装置は、電圧発生器によって回転ヘッドに高電圧が印加されるとともに、ワークが接地されることにより、回転ヘッドとワークとの間に電界が形成されている。そして、塗装装置では、回転ヘッドとワークとの距離に応じて電圧発生器の出力電圧が調整されることにより、電界強度の変動が抑制されるとともに、回転ヘッドからワークに向けて放電される放電電流の変動が抑制されるので、静電微粒化を安定させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、回転ヘッドから放出される糸状の塗料は、帯電電荷による反発力を利用して分裂されることから、静電微粒化を安定させるためには、放電電流を安定させることが望まれる。すなわち、塗料の微粒化を適切に制御するためには、放電電流を適切に制御することが望まれる。
【0006】
しかしながら、上記した従来の塗装装置では、塗装時に放電電流を変動させる要因として、回転ヘッドとワークとの距離しか考慮されておらず、改善の余地がある。たとえば、塗装によるワークの状態の変化や、塗装装置におけるリーク電流の変化などにより、放電電流が変動することが考えられる。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、放電電流を適切に制御することが可能な塗装装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による塗装装置は、回転ヘッドと、回転ヘッドを回転させる駆動部と、回転ヘッドに塗料を供給する塗料供給管と、回転ヘッドに電圧を印加する電源部と、電源部を制御する制御部と、回転ヘッドおよびワークを相対的に移動させる移動部とを備える。回転ヘッドは、塗料が遠心力によって外縁部に向けて拡散される拡散面と、外縁部に形成された複数の溝部とを含む。塗装装置は、回転ヘッドの溝部から糸状の塗料が放出され、その糸状の塗料が静電微粒化されるように構成されている。制御部は、電源部から回転ヘッドに流れる全電流と、回転ヘッドから塗料供給管を介してリークするリーク電流とに基づいて、回転ヘッドから接地されたワークに向けて放電される放電電流を算出し、放電電流に基づいて電源部を制御するように構成されている。移動部は、電源部の出力電圧の絶対値が所定値を下回った場合に、回転ヘッドおよびワークの接近を禁止するように構成されている。
【0009】
このように、全電流とリーク電流とに基づいて放電電流を算出することにより、直接測定することが困難な放電電流を推定することができる。そして、その算出された放電電流に基づいて電源部を制御することにより、放電電流を適切に制御することができる。また、電源部の出力電圧の絶対値が所定値を下回った場合に、回転ヘッドおよびワークの接近が禁止されることにより、回転ヘッドおよびワークが接触するのを抑制することができる。
【0010】
上記塗装装置において、制御部は、放電電流が所定の目標値になるように電源部の出力電圧を制御するように構成されていてもよい。
【0011】
このように構成すれば、電源部の出力電圧を制御することにより、放電電流を所定の目標値に調整することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗装装置によれば、放電電流を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態による塗装装置を説明するための概略構成図である。
【
図2】
図1の塗装装置の回転ヘッドを示した断面図である。
【
図3】
図2の回転ヘッドの先端を示した斜視図である。
【
図4】
図1の塗装装置による静電微粒化を説明するための模式図である。
【
図5】
図1の塗装装置における塗装時の電流の流れを説明するためのブロック図である。
【
図6】
図1の塗装装置による塗装時の出力電圧の制御例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図6のステップS5における定電流制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
まず、
図1~
図5を参照して、本発明の一実施形態による塗装装置100について説明する。
【0018】
塗装装置100は、
図1に示すように、回転ヘッド1から糸状の塗料P1を放出し、その糸状の塗料P1を静電微粒化することにより、塗料粒子(微粒化された塗料)P2を形成してワーク200に塗着させるように構成されている。なお、ワーク200は、被塗装物であり、たとえば車両のボディである。
【0019】
この塗装装置100は、塗料を噴霧するスプレーガン10と、スプレーガン10を移動させるロボットアーム20とを備えている。ロボットアーム20は、スプレーガン10をワーク200に対して移動させるために設けられている。このため、塗装装置100では、スプレーガン10による塗装を行いながら、ワーク200に対してスプレーガン10を移動させることが可能である。なお、ロボットアーム20は、本発明の「移動部」の一例である。
【0020】
スプレーガン10は、回転ヘッド1と、エアモータ2と、キャップ3と、塗料供給部4と、電圧発生器5とを含んでいる。なお、エアモータ2は、本発明の「駆動部」の一例であり、電圧発生器5は、本発明の「電源部」の一例である。
【0021】
回転ヘッド1は、液体の塗料が供給され、その塗料を遠心力によって放出するように構成されている。この回転ヘッド1は、
図2の例のように、円筒状に形成されており、基端側(X2方向側)に配置される取付部11と、先端側(X1方向側)に配置されるヘッド部12とを含んでいる。取付部11は、エアモータ2の回転軸21に取付可能に構成され、ヘッド部12は、液体の塗料が供給されるように構成されている。なお、回転ヘッド1の直径は、たとえば20~80mmである。
【0022】
取付部11の内周面には、回転軸21が取り付けられている。回転軸21は、中空状に形成され、内部に塗料供給管6が配置されている。塗料供給管6は、塗料供給部4(
図1参照)に格納された塗料をヘッド部12に供給するために設けられており、先端61にノズル(図示省略)が形成されている。
【0023】
ヘッド部12は、内面12aおよび外面12bを有し、内面12aが先端側に向けて拡径するように形成されている。内面12aの中央には軸方向から見て円形の凹部121が形成され、その凹部121を塞ぐようにハブ13が設けられている。このため、凹部121およびハブ13により塗料空間S2が区画され、塗料空間S2には塗料供給管6の先端61が臨むように配置されている。ハブ13の外縁部には、塗料空間S2から塗料を流出させるための複数の流出孔13aが形成されている。複数の流出孔13aは、周方向(回転ヘッド1の回転方向)に所定の間隔を隔てて配置されている。
【0024】
そして、流出孔13aに対して径方向(回転ヘッド1の軸方向と直交する方向)の外側の内面12aが、塗料が遠心力により拡散される拡散面122として機能する。この拡散面122は、先端側に向けて拡径するように形成され、流出孔13aから流出した塗料を膜状にするように構成されている。また、拡散面122の外縁部122aには、
図3に示すように、膜状の塗料を糸状にして放出するための溝部123が形成されている。なお、
図2では見やすさを考慮して溝部123の図示を省略している。
【0025】
溝部123は、軸方向から見た場合に、径方向に延びるように形成されるとともに、周方向に複数設けられている。すなわち、溝部123は、拡散面122の外縁部122aに、その拡散面122の傾斜方向に延びるように形成されている。この溝部123は、断面がたとえばV字状(三角形状)に形成され、回転ヘッド1の端部まで達するように形成されている。このため、溝部123の断面が外面12bに現れており、回転ヘッド1の先端が外面12b側から見て凹凸状になっている。なお、溝部123の数は、回転ヘッド1の直径によるが、たとえば300~1800個である。
【0026】
図1に示すように、エアモータ2は、回転ヘッド1を回転させるために設けられている。このエアモータ2は、回転可能な回転軸21を有し、その回転軸21が回転ヘッド1に連結されている。
【0027】
キャップ3(
図2参照)は、回転ヘッド1の外周面を覆うように構成され、先端側に向けて縮径するようにテーパ状に形成されている。このキャップ3は、回転ヘッド1の軸方向から見て円環状に形成され、内部に回転ヘッド1が配置されている。すなわち、キャップ3は、回転ヘッド1の周囲を取り囲むように設けられている。
【0028】
塗料供給部4は、着脱可能に設けられ、内部に塗料が格納されている。塗料供給部4に格納された塗料は、塗料供給管6(
図2参照)を介して回転ヘッド1に供給可能になっている。なお、塗料供給管6は、
図5に示すように、接地されており、回転ヘッド1からリークするリーク電流I3が流れるリーク経路の一部を構成している。
【0029】
電圧発生器5は、たとえばコッククロフト・ウォルトン回路であり、負の高電圧を発生させるように構成されている。この電圧発生器5の出力電圧が回転ヘッド1に印加されることにより、接地されたワーク200と回転ヘッド1との間の電極間空間S1に電界が形成されるようになっている。電圧発生器5には電圧コントローラ51が接続され、その電圧コントローラ51が電圧発生器5の出力電圧を制御するように構成されている。なお、電圧コントローラ51は、本発明の「制御部」の一例である。
【0030】
この塗装装置100では、糸状の塗料P1を放出して静電微粒化することにより、塗料粒子P2を形成してワーク200に塗着させるように構成されている。つまり、塗装装置100では、シェーピングエアを吐出するエア吐出部が設けられていないため、シェーピングエアによらず塗料粒子P2が形成されるようになっている。
【0031】
ここで、
図4に示すように、回転ヘッド1から放出される糸状の塗料P1は、帯電電荷による反発力を利用して分裂されることから、静電微粒化を安定させるためには、糸状の塗料P1に電荷を安定的に供給して、回転ヘッド1からワーク200に向けて放電される放電電流I2(
図5参照)を安定させることが望まれる。すなわち、塗料の微粒化を適切に制御するために、放電電流I2を適切に制御することが望まれる。
【0032】
しかしながら、塗装装置100による塗装時に放電電流I2が変動する場合がある。
図5に示すように、放電電流I2は、回転ヘッド1から電極間空間S1およびワーク200を介して接地に流れる。なお、塗料粒子P2がワーク200以外に塗着した場合にはそちらに電流が流れるので、放電電流I2の一部がワーク200以外を介して流れ得る。また、スプレーガン10では、リーク電流I3が回転ヘッド1から塗料供給管6を含むリーク経路を介して接地に流れ、放電電流I2とリーク電流I3とに分流される全電流I1が電圧発生器5から回転ヘッド1に流れる。
【0033】
このため、塗装時に放電電流I2を変動させる要因としては、たとえば、電極間空間S1の抵抗、ワーク200の抵抗および塗料供給管6を含むリーク経路の抵抗が挙げられる。電極間空間S1の抵抗は、ワーク200と回転ヘッド1との距離、塗料の流量(吐出量)、および、塗料の抵抗値などに応じて変化する。ワーク200の抵抗は、ワーク200に形成される塗装膜(図示省略)などによって変化する。塗料供給管6を含むリーク経路の抵抗は、塗料の抵抗値および経路長などに応じて変化する。
【0034】
なお、電圧発生器5が負の高電圧を発生させることから、全電流I1、放電電流I2およびリーク電流I3は、負の電流であり、実際の電流(正の電流とした場合)の向きはそれぞれ逆向きである。また、電圧発生器5の出力電圧の高低は、出力電圧の絶対値の高低を意味する。
【0035】
そこで、電圧コントローラ51は、全電流I1およびリーク電流I3に基づいて放電電流I2を算出し、その放電電流I2に基づいて電圧発生器5を制御するように構成されている。具体的には、電圧コントローラ51は、フィードバック制御を行うことにより、算出された放電電流I2の現在値が所定の目標値になるように電圧発生器5の出力電圧を制御するように構成されている。この所定の目標値は、予め設定された値であり、回転ヘッド1から放出される糸状の塗料P1を適切に静電微粒化することが可能な値である。たとえば、所定の目標値は、ワーク200と回転ヘッド1との距離および塗料の流量などに応じて設定されている。このため、上記した放電電流I2の変動要因が変化することに起因して放電電流I2が変動しても、電圧発生器5の出力電圧が制御されることにより、放電電流I2の変動が解消されるので、放電電流I2の安定化を図ることが可能である。
【0036】
たとえば、全電流I1は、電圧発生器5の所定の端子間の電圧に基づいて電圧コントローラ51によって算出され、リーク電流I3は、リーク経路の所定位置の電圧に基づいて電圧コントローラ51によって算出される。放電電流I2は、ワーク200以外に流れ得ることから、全電流I1からリーク電流I3を差し引いて算出される。
【0037】
また、ロボットアーム20(
図1参照)は、電圧発生器5の出力電圧が所定値を下回った場合に、ワーク200に対する回転ヘッド1の接近を禁止するように構成されている。この所定値は、予め設定された値であり、ワーク200に対して回転ヘッド1が近づきすぎであるか否かを判定するための閾値である。
【0038】
-塗装時の動作例-
次に、
図1~
図4を参照して、本実施形態による塗装装置100の塗装時の動作例について説明する。
【0039】
まず、塗装時には、
図1に示すように、電圧発生器5により回転ヘッド1に負の高電圧が印加され、ワーク200が接地されている。これにより、回転ヘッド1とワーク200との間の電極間空間S1に電界が形成されている。なお、負の高電圧は、たとえば-30000~-70000Vである。また、回転ヘッド1とワーク200との距離は、たとえば50~100mm程度の短い距離である。ここで、電圧発生器5の出力電圧は電圧コントローラ51によって制御される。この電圧コントローラ51による電圧発生器5の出力電圧の制御については後述する。
【0040】
そして、エアモータ2により回転ヘッド1が回転される。なお、回転ヘッド1の回転速度(1分あたりの回転数)は、回転ヘッド1の直径によるが、たとえば10000~50000rpmである。
【0041】
次に、
図2に示すように、塗料供給管6のノズルから液体の塗料が吐出され、塗料空間S2に塗料が供給される。なお、ノズルから吐出される塗料の流量は、回転ヘッド1の直径によるが、たとえば10~300cc/minである。塗料空間S2に供給された塗料は、遠心力により流出孔13aから流出される。
【0042】
そして、流出孔13aから流出した塗料は、遠心力により拡散面122に沿って径方向の外側に流れる。その拡散面122に沿って流れる塗料は膜状になり、外縁部122aに到達して複数の溝部123(
図3参照)に供給される。この外縁部122aでは塗料が溝部123から溢れておらず、各溝部123内の塗料は隣接する溝部123内の塗料と分離されている。すなわち、膜状の塗料が溝部123により周方向において分断される。溝部123を通過する塗料は糸状になり、回転ヘッド1の端部(外面12bに現れた溝部123)から放出される。なお、膜状の塗料は遠心力によって膜厚が均一化されており、各溝部123に塗料がほぼ均等に供給されることから、各溝部123から放出される糸状の塗料P1の寸法(長さおよび直径)がほぼ均等になる。
【0043】
回転ヘッド1から放出された糸状の塗料P1は、
図4に示すように、静電微粒化されて塗料粒子P2が形成される。塗料粒子P2の粒径は、たとえばザウター平均粒径で10~50μmである。そして、電極間空間S1の電界により、負に帯電された塗料粒子P2がワーク200に引き寄せられる。このため、塗料粒子P2がワーク200に塗着され、ワーク200の表面上に塗装膜(図示省略)が形成される。
【0044】
[電圧発生器の出力電圧の制御例]
次に、
図6および
図7を参照して、電圧コントローラ51による電圧発生器5の出力電圧の制御例について説明する。なお、
図6および
図7の各ステップは電圧コントローラ51により実行される。
【0045】
まず、
図6のステップS1において、電圧オン指示がされたか否かが判断される。たとえば、ワーク200が塗装装置100に搬送され、そのワーク200に対する塗装開始の準備が整った場合に、電圧オン指示がされる。そして、電圧オン指示がされたと判断された場合には、ステップS2に移る。その一方、電圧オン指示がされていないと判断された場合には、ステップS1が繰り返し行われる。すなわち、電圧オン指示があるまで待機する。
【0046】
次に、ステップS2において、放電電流I2の目標値が設定される。この目標値は、上記したように、ワーク200と回転ヘッド1との距離および塗料の流量などに応じて設定された値である。
【0047】
次に、ステップS3において、昇圧制御が行われる。具体的には、PID動作により、放電電流I2の現在値が目標値になるように電圧発生器5の出力電圧が制御される。この放電電流I2の現在値は、全電流I1からリーク電流I3を差し引いて算出される。また、塗料の吐出が開始される。なお、後述するステップS9において、放電電流I2の目標値が再設定された場合には、放電電流I2の現在値が目標値になるように降圧制御が行われる場合もある。
【0048】
次に、ステップS4において、放電電流I2の現在値が目標値に到達したか否かが判断される。そして、放電電流I2の現在値が目標値に到達したと判断された場合には、ステップS5に移る。その一方、放電電流I2の現在値が目標値に到達していないと判断された場合には、ステップS3に戻る。
【0049】
次に、ステップS5において、定電流制御が行われる。この定電流制御は、放電電流I2を目標値に保つためのものである。このとき、回転ヘッド1から塗料を噴霧して塗装を行いながら、ロボットアーム20によりスプレーガン10がワーク200に対して移動される。
【0050】
この定電流制御では、まず、
図7のステップS11において、放電電流I2の現在値が算出される。
【0051】
次に、ステップS12において、放電電流I2が目標値から遠ざかり、かつ、放電電流I2の変化量が所定値以上であるか否かが判断される。そして、放電電流I2が目標値から遠ざかっていないと判断された場合、および、放電電流I2の変化量が所定値未満であると判断された場合には、ステップS13に移る。その一方、放電電流I2が目標値から遠ざかり、かつ、放電電流I2の変化量が所定値以上であると判断された場合には、放電電流I2の変化が急激であることから、ステップS14に移る。
【0052】
次に、ステップS13では、放電電流I2の現在値が目標値になるようにI動作が行われる。すなわち、比例項および微分項がゼロにされ、積分制御のみが行われる。I動作では、放電電流I2の現在値が目標値以下である場合にプラスの補正値が算出され、放電電流I2の現在値が目標値を超過する場合にマイナスの補正値が算出される。
【0053】
また、ステップS14では、放電電流I2の現在値が目標値になるようにID動作が行われる。すなわち、放電電流I2の急激な変化に機敏に反応させるために、積分制御を補助するために微分制御も行われる。
【0054】
そして、ステップS15では、I動作またはID動作による電圧発生器5の出力電圧が算出される。その後、ステップS16において、ステップS15で算出された電圧が出力されるように電圧発生器5が制御される。
【0055】
このように、定電流制御が行われることにより、放電電流I2の変動要因が変化することに起因して放電電流I2が変動しても、その変動を解消することが可能である。
【0056】
次に、
図6のステップS6において、段数切替があるか否かが判断される。段数切替とは、塗装条件(たとえば、ワーク200と回転ヘッド1との距離)が変更されることである。そして、段数切替がないと判断された場合には、ステップS7に移る。その一方、段数切替があると判断された場合には、ステップS9に移る。
【0057】
次に、ステップS7において、電圧オフ指示がされたか否かが判断される。たとえば、ワーク200に対する塗装が完了された場合や、異常の発生により緊急停止する必要がある場合に、電圧オフ指示がされる。そして、電圧オフ指示がされていないと判断された場合には、ステップS5に戻る。その一方、電圧オフ指示がされたと判断された場合には、塗料の吐出が停止され、ステップS8に移る。
【0058】
次に、ステップS8において、降圧制御が行われることにより、電圧発生器5の出力電圧がゼロにされ、エンドに移る。
【0059】
また、段数切替がある場合(ステップS6:Yes)には、ステップS9において、放電電流I2の目標値が再設定され、ステップS3に戻る。なお、再設定された目標値は、変更後の塗装条件に応じた目標値である。
【0060】
-効果-
本実施形態では、上記のように、全電流I1とリーク電流I3とに基づいて放電電流I2を算出することによって、直接測定することが困難な放電電流I2を推定することができる。そして、その算出された放電電流I2に基づいて電圧発生器5を制御することにより、放電電流I2を適切に制御することができる。したがって、放電電流I2の変動要因が変化することに起因して放電電流I2が変動しても、電圧発生器5が制御されることにより、放電電流I2の変動が解消されるので、放電電流I2の安定化を図ることができる。
【0061】
たとえば、ワーク200と回転ヘッド1との距離が長くなり、放電電流I2が低下すると、放電電流I2の低下が検出され、その放電電流I2の低下を打ち消すように電圧発生器5の出力電圧が高くされる。一方、ワーク200と回転ヘッド1との距離が短くなり、放電電流I2が上昇すると、放電電流I2の上昇が検出され、その放電電流I2の上昇を打ち消すように電圧発生器5の出力電圧が低くされる。
【0062】
また、ワーク200に塗装膜が形成され、塗装膜の形成に伴いワーク200の抵抗が高くなり、放電電流I2が低下すると、放電電流I2の低下が検出され、その放電電流I2の低下を打ち消すように電圧発生器5の出力電圧が高くされる。また、塗料供給管6を含むリーク経路の抵抗が低下してリーク電流I3が上昇することにより、放電電流I2が低下すると、放電電流I2の低下が検出され、その放電電流I2の低下を打ち消すように電圧発生器5の出力電圧が高くされる。一方、塗料供給管6を含むリーク経路の抵抗が上昇してリーク電流I3が低下することにより、放電電流I2が上昇すると、放電電流I2の上昇が検出され、その放電電流I2の上昇を打ち消すように電圧発生器5の出力電圧が低くされる。
【0063】
このように、放電電流I2の種々の変動要因(たとえば、電極間空間S1の抵抗、ワーク200の抵抗および塗料供給管6を含むリーク経路の抵抗)に対処して、放電電流I2を安定化させることができる。その結果、回転ヘッド1から放出される糸状の塗料P1の静電微粒化を安定させることができるので、塗装品質の向上を図ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、定電流制御を行うことによって、回転ヘッド1がワーク200に近づけば出力電圧が低下され、スパークの発生が抑制されるので、回転ヘッド1をワーク200に近づけることが可能である。しかしながら、回転ヘッド1がワーク200に近づきすぎると、回転ヘッド1がワーク200に接触するおそれがある。そこで、電圧発生器5の出力電圧が所定値を下回った場合にワーク200に対する回転ヘッド1の接近を禁止することによって、回転ヘッド1がワーク200に接触するのを抑制することができる。
【0065】
-他の実施形態-
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0066】
たとえば、上記実施形態では、ワーク200が車両のボディである例を示したが、これに限らず、ワークが車両のボディ以外であってもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、電圧発生器5の所定の端子間の電圧に基づいて全電流I1が算出される例を示したが、これに限らず、電圧発生器と回転ヘッドとの間に電流センサ(図示省略)が設けられ、その電流センサによって検出された全電流が電圧コントローラに入力されるようにしてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、リーク経路の所定位置の電圧に基づいてリーク電流I3が算出される例を示したが、これに限らず、リーク経路に電流センサ(図示省略)が設けられ、その電流センサによって検出されたリーク電流が電圧コントローラに入力されるようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、ワーク200と回転ヘッド1との距離および塗料の流量などに応じて放電電流I2の目標値が設定される例を示したが、これに限らず、ワークと回転ヘッドとの距離、塗料の流量、塗料の種類、ワークの種類(材質)および回転ヘッドの回転速度などに応じて放電電流の目標値が設定されるようにしてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、放電電流I2の現在値が目標値に到達した場合に定電流制御に移行する例を示したが、これに限らず、放電電流の現在値が目標値の付近に到達した場合に定電流制御に移行するようにしてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、ロボットアーム20によりスプレーガン10が移動される例を示したが、これに限らず、スプレーガンが固定され、スプレーガンに対してワークが移動されるようにしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、回転ヘッド1が円筒状に形成される例を示したが、これに限らず、回転ヘッドがカップ状(椀状)に形成されていてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、溝部123の断面がV字状である例を示したが、これに限らず、溝部の断面がU字状(円弧状)などのその他の形状であってもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、塗料空間S2から塗料を流出させるための流出孔13aが形成される例を示したが、これに限らず、塗料空間から塗料を流出させるためのスリット状の溝が形成されていてもよい。
【0075】
また、上記実施形態において、塗料は、水性塗料であってもよいし、溶剤系塗料であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、回転ヘッドを備える塗装装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 回転ヘッド
2 エアモータ(駆動部)
5 電圧発生器(電源部)
6 塗料供給管
20 ロボットアーム(移動部)
51 電圧コントローラ(制御部)
100 塗装装置
122 拡散面
122a 外縁部
123 溝部
200 ワーク