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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018546288
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2017037107
(87)【国際公開番号】W WO2018074337
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2016203340
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹弥
(72)【発明者】
【氏名】長尾 朋和
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】武井 健浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-192807(JP,A)
【文献】特表2001-501842(JP,A)
【文献】特開2005-007072(JP,A)
【文献】特開2011-125494(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040035(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00 - 13/02
A62B 18/00 - 18/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者に面する内面と、前記内面とは反対側に位置する外面とを有するマスクであって、
前記外面に配置され、通気性を有し、吸水能力が100%以上、1000%未満からなる第1のフィルタと、
前記第1のフィルタに対して前記内面側に積層され、通気性を有し、吸水能力が30%未満である第2のフィルタと、
前記第2のフィルタに対して前記内面側に積層され、通気性を有し、吸水能力が50%未満であるエレクトレットフィルターからなる第3のフィルタと、
前記内面に配置され、通気性を有する第4のフィルタと、
からなることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記第1のフィルタの目付けが15g/m以上、40g/m以下であることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記第1のフィルタおよび前記第2のフィルタは、エレクトレットフィルター以外のフィルタであることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスク。
【請求項4】
前記第4のフィルタが、吸水能力が100%以上、1000%未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のマスク。
【請求項5】
前記第1のフィルタおよび/または前記第4のフィルタの少なくとも一部に、殺菌性および/または抗ウイルス性を有する無機微粒子が固定されていることを特徴とする請求項4に記載のマスク。
【請求項6】
前記第1のフィルタ及び前記第4のフィルタは、レーヨン繊維からなり、
前記第2のフィルタ及び前記第3のフィルタは、ポリプロピレン繊維からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のマスク。
【請求項7】
前記第2のフィルタを構成する繊維が、ポリプロピレンポリエチレンテレフタレートのいずれか一方の樹脂のみからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のマスク。
【請求項8】
前記第3のフィルタの吸水能力が前記第2のフィルタの吸水能力よりも高いことを特徴とする請求項7に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や飛沫などの透過を防止するマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
2010年以降、日本では東日本大震災をはじめ、九州北部豪雨、熊本地震など、多くの自然災害が発生しており、多くの避難者が避難生活を余儀なくされている。また、自然災害以外でも、海外での爆破テロやビル火災など、多くの犠牲者が出る事件も起きている。このような場面で一番問題になっているのが、救護活動をする人々の感染症対策である。多くのウイルス感染症は血液により感染が拡大するため、救護に際しては、防護服やマスク、キャップなどを着用することが推奨されているが、これらを着脱する際に手に感染症患者の血液が付着したり、飛沫が防護服やマスクを透過して、口などから感染したりすることがある。
【0003】
これらの課題を解決するために、マスクの表面に抗ウイルス剤を固定したウイルス不活化マスク(特許文献1)や、飛沫の透過を防止したサージカルマスク(特許文献2)などが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2011/040035号公報
【文献】特表2014-503288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のマスクでは、付着したウイルスを不活化するものの、血液のような大量の水分を含むものの透過を防止することはできなかった。また、特許文献2のマスクについては、血液の透過を防止する性能(以下、血液バリア性と称す)には優れているものの、その分、目の細かいフィルタを用いているため呼吸がしづらく、また付着したウイルスや細菌などを不活化することもできなかった。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、呼吸がしやすく、血液や飛沫などの透過を防止できるマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち第1の発明は、着用者に面する内面と、前記内面とは反対側に位置する外面とを有すマスクであって、
前記外面に配置され、通気性を有し、吸水能力が100%以上、1000%未満からなる第1のフィルタと、
前記第1のフィルタに対して前記内面側に積層され、通気性を有し、吸水能力が30%未満である第2のフィルタと、
前記第2のフィルタに対して前記内面側に積層され、通気性を有し、吸水能力が50%未満であるエレクトレットフィルターからなる第3のフィルタと、
前記内面に配置され、通気性を有する第4のフィルタと、
からなることを特徴とするマスクである。
【0008】
また第2の発明は、第1の発明において、前記第1のフィルタの目付けが15g/m2以上、40g/m2以下であることを特徴とするマスクである。
【0009】
さらに第3の発明は、第1または第2の発明において、前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタはエレクトレットフィルター以外のフィルタであることを特徴とするマスクである。
【0010】
さらに第4の発明は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記第4のフィルタの吸水能力が100%以上、1000%未満であることを特徴とするマスクである。
【0011】
さらに第5の発明は、第4の発明において、前記第1のフィルタおよび/または前記第4のフィルタの少なくとも一部に、殺菌性および/または抗ウイルス性を有する無機微粒子が固定されていることを特徴とするマスクである。
【0012】
さらに第6の発明は、第1から第5の発明のいずれかにおいて、前記第1のフィルタ及び前記第4のフィルタがレーヨン繊維からなり、前記第2のフィルタ及び前記第3のフィルタがポリプロピレン繊維からなることを特徴とするマスクである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、呼吸がしやすく、血液や飛沫などの透過を防止できるマスクを提供するものである。また、上記第5の発明によれば、付着した血液や飛沫に含まれる細菌やウイルスを不活化することができるマスクを提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。また本明細において「吸水能力」とはJIS L 1912:1997に基づき測定された値のことである。具体的には、吸水能力WA[%]は、下記(1)式に基づいて算出される。
【0015】
【化1】
上記(1)式において、MKは、水中に浸漬する前の試料の重さ(5回の測定値の平均値)であり、MNは水中に浸漬した後の試料の重さ(5回の測定値の平均値)である。
【0016】
本実施形態は、通気性を有する4つのフィルタからなり、最外層(マスクの着用者から一番遠い層)から内側に向かって、第1のフィルタ、第2のフィルタ、第3のフィルタ、第4のフィルタの順に積層されたマスクである。これらのフィルタは、マスクの厚み方向に沿って積層されてウェルダー溶着されることにより、一体化されている。これらの一体化処理は、ウェルダー溶着に限定されず、他の方法、例えば縫着としてもよい。
【0017】
まず、本発明のマスクを構成する第1のフィルタについて説明する。
【0018】
第1のフィルタは、吸水能力が100%以上、1000%未満であること、つまり親水性を有する素材からなることを特徴とする。第1のフィルタの吸水能力は、好ましくは100%以上、900%以下であり、より好ましくは100%以上、850%以下である。血液や飛沫は最外層である第1のフィルタに一番多く付着する。この時、第1のフィルタに衝突した血液や飛沫は、第1のフィルタが親水性であるため、第2のフィルタの側に移動するのではなく、第1のフィルタの表面に沿って広がりやすくなる。したがって、第1のフィルタを透過する血液や飛沫の量を大きく減少させることができる。
【0019】
第1のフィルタに用いる素材としては、濡れ広がりやすい親水性を有する素材であれば当業者が適宜選定できるものであるが、天然繊維、再生繊維、半合成繊維などが好ましい。これらの繊維としては、例えば、綿、カポック、麻、ウール、シルク、リヨセル(登録商標)、テンセル(登録商標)、レーヨン、レーヨンPET混紡繊維、ビスコースレーヨン、ポリノジック、キュプラ(登録商標)、カゼイン繊維、再生絹糸、アセテート、トリアセテート、酸化アセテート、プロミックスなどが挙げられるが、適度な強度と風合いのよさから、綿、レーヨン、レーヨンPET混紡繊維などが特に好ましい。
【0020】
また、第1のフィルタは通気性を有するが、通気性以外の機能も持たせるために、第1のフィルタの素材としては不織布が好ましい。不織布を用いることにより、特に良好な肌触りや皮膚への低刺激性を確保したり、第1のフィルタの親水性素材が三次元方向(第1のフィルタの表面に沿った二次元方向と、第1のフィルタの厚み方向)に存在することによって吸水性を向上させたりすることができる。また、第1のフィルタの目付けについては15g/m2以上、40g/m2以下であることが好ましく、15g/m2以上、25/m2以下であることがより好ましい。目付けが15g/m2未満であると、血液や飛沫が第1のフィルタを通過しやすくなり、上述したように血液や飛沫を第1のフィルタの表面に沿って広げにくくなる。一方、目付けが40g/m2より大きくなると、着用者が息苦しいと感じるからである。また、息を吸い込むときにマスクの外側の面からの流入空気(第1~第4のフィルタを通過して流入する空気)以外にマスクと着用者(顔面)との隙間から流入する空気が多くなる、つまりマスクを介さずに吸入する空気量が増大して、マスク着用の効果が低減する場合も生じるので好ましくない。
【0021】
さらに、第1のフィルタの外面(マスクの外側の面及び、第2のフィルタと対向する面の少なくとも一方)には、抗菌、抗ウイルス性を有する無機微粒子(以下、抗菌・抗ウイルス性微粒子と称す)が、バインダーを介して結合している。
【0022】
抗菌・抗ウイルス性微粒子は、ヨウ化白金(II)、ヨウ化パラジウム(II)、ヨウ化銀(I)、ヨウ化銅(I)、およびチオシアン酸銅(I)からなる群から少なくとも1種選択される無機化合物の微粒子であり、グラム陽性、陰性にかかわらず抗菌性を示し、エンベロープの有無にもかかわらずウイルスを不活化可能である。また、本発明で用いられる抗菌・抗ウイルス性微粒子は、タンパク質や脂質の存在下にあっても、細菌やウイルスを不活化することができる。
【0023】
抗菌・抗ウイルス性微粒子のウイルスの不活化機構については現在のところ、必ずしも明確ではないが、抗菌・抗ウイルス性微粒子が空気中あるいは飛沫中の水分と接触すると、その一部の酸化還元反応により、本実施形態のマスクに付着したウイルス表面の電気的チャージや、膜タンパク質や、DNAなどに何らかの影響を与えて不活化させるものと考えられる。そのため、親水性を有する基材上(フィルタの外面)に抗菌・抗ウイルス性微粒子が存在していると、空気中あるいは飛沫中の水分が親水性を有する基材上に保持され易いため、抗菌・抗ウイルス性微粒子が菌やウイルスに作用し易くなるので好ましい。
【0024】
ここで、抗菌・抗ウイルス性微粒子の粒子径は特に限定されず当業者が適宜設定可能であるが、平均粒子径が1nm以上、500nm未満であるのが好ましい。平均粒子径が1nm未満では物質的に不安定となるため、抗菌・抗ウイルス性微粒子同士が物理的な相互作用によって凝集し、第1のフィルタの外面に抗菌・抗ウイルス性微粒子を均一に固定させるのが困難となる。また、平均粒子径が500nm以上である場合は、500nm未満と比べて、抗菌・抗ウイルス性微粒子及び第1のフィルタの密着性が低下する。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径をいう。
【0025】
本実施形態において、抗菌・抗ウイルス性微粒子は、バインダーを介して、第1のフィルタに固定されている。バインダーとしては、特に限定されるものではないが、シランモノマーやその重合体であるオリゴマーは、分子量が低く、その為、抗菌・抗ウイルス性微粒子と、細菌、ウイルスとの接触を阻害することが低くなり、効果的に細菌やウイルスを不活化できるため好適である。また、シランモノマーやその重合体であるオリゴマーは、抗菌・抗ウイルス性微粒子や第1のフィルタとの密着性も高くなるため、抗菌・抗ウイルス性微粒子を第1のフィルタに安定に固定することが可能となる。
【0026】
このように、本実施形態のマスクにおいては、バインダーとして、シランモノマーやそのオリゴマーを用いれば、シランモノマーあるいはそのオリゴマーが少量でも十分な固定力があるため、第1のフィルタに固定された抗菌・抗ウイルス性微粒子の露出面積(バインダーで覆われていない領域の面積)を大きくすることができる。よって、抗菌・抗ウイルス性微粒子をシランモノマーやそのオリゴマー以外の合成樹脂などのバインダーを用いて第1のフィルタに固定した場合と比較して、第1のフィルタ表面に付着した細菌やウイルスが抗菌・抗ウイルス性微粒子と接触する確率を高くすることができる。そのため、抗菌・抗ウイルス性微粒子が少量であっても効率良く細菌やウイルスを不活化することができる。
【0027】
上記シランモノマーの中でも、不飽和結合部を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。カップリング剤は加水分解により多数の親水基(-OH基)を有するため、親水性の高い第1のフィルタに無機微粒子からなる疎水性の抗菌・抗ウイルス性微粒子を固定しても、親水性を高く保つ(吸水能力を保つ)効果があるからである。
【0028】
また、抗菌・抗ウイルス性微粒子は、シランモノマーまたはそのオリゴマーとの化学結合により第1のフィルタに強固に固定されているので、シランモノマーやそのオリゴマー以外の合成樹脂などのバインダーを用いた従来の場合と比べて、第1のフィルタからの抗菌・抗ウイルス性微粒子の脱落が大きく抑制されている。そのため、本実施形態のマスクは、従来と比べて細菌やウイルスの不活化作用を維持できる時間を延ばすことができる。なお、シランモノマーを選択することにより、縮合反応やアミド結合、水素結合、イオン結合、或いはファンデルワールス力や物理的吸着などにより抗菌・抗ウイルス性微粒子を第1のフィルタに保持させてもよい。
【0029】
本実施形態において、抗菌・抗ウイルス性微粒子が第1のフィルタ上に保持される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、抗菌・抗ウイルス性微粒子が第1のフィルタ上において散在していてもよい。また、抗菌・抗ウイルス性微粒子の集合体が平面状または3次元状の形態で第1のフィルタに保持されるようにしてもよい。より具体的には、集合体は、点状、島状、薄膜状等の形態で保持されることができる。また、集合体が3次元状の形態で保持される場合、抗菌・抗ウイルス性微粒子には、シランモノマーまたはそのオリゴマーを介して第1のフィルタに結合するもの(抗菌・抗ウイルス性微粒子aと称す)と、シランモノマーまたはそのオリゴマーを介して抗菌・抗ウイルス性微粒子aに結合するものとが存在する。
【0030】
ここで、抗菌・抗ウイルス性微粒子が本実施形態のマスクに保持される量は、マスクの使用目的や用途及び抗菌・抗ウイルス性微粒子の粒子径を考慮して当業者が適宜設定することが可能である。具体的には、第1のフィルタ上に保持される物質(バインダー及び抗菌・抗ウイルス性微粒子)の合計に対して、抗菌・抗ウイルス性微粒子が1.0質量%から80.0質量%であることが好ましく、より好ましくは5.0質量%から60.0質量%である。抗菌・抗ウイルス性微粒子が1.0質量%に満たない場合は、1.0質量%以上である場合と比較して、細菌やウイルスを不活化する活性が低下する。また、抗菌・抗ウイルス性微粒子を80.0質量%より多くしても、1.0質量%から80.0質量%の範囲内にある場合と比較して、細菌やウイルスを不活化する効果に大差はない。また、抗菌・抗ウイルス性微粒子が80.0質量%より多いと、バインダーの量が不足することによって、シランモノマーの縮合反応により形成されたオリゴマーのバインディング性が低下し、80.0質量%以下である場合と比較して、抗菌・抗ウイルス性微粒子が第1のフィルタ上から離脱し易くなる。
【0031】
本実施形態のマスクによれば、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等にかかわることなく、様々なウイルスを不活化することができる。このウイルスとしては、例えば、ライノウイルス・ポリオウイルス・口蹄疫ウイルス・ロタウイルス・ノロウイルス・エンテロウイルス・ヘパトウイルス・アストロウイルス・サポウイルス・E型肝炎ウイルス・A型、B型、C型インフルエンザウイルス・パラインフルエンザウイルス・ムンプスウイルス(おたふくかぜ)・麻疹ウイルス・ヒトメタニューモウイルス・RSウイルス・ニパウイルス・ヘンドラウイルス・黄熱ウイルス・デングウイルス・日本脳炎ウイルス・ウエストナイルウイルス・B型、C型肝炎ウイルス・東部および西部馬脳炎ウイルス・オニョンニョンウイルス・風疹ウイルス・ラッサウイルス・フニンウイルス・マチュポウイルウス・グアナリトウイルス・サビアウイルス・クリミアコンゴ出血熱ウイルス・スナバエ熱・ハンタウイルス・シンノンブレウイルス・狂犬病ウイルス・エボラウイルス・マーブルグウイルス・コウモリリッサウイルス・ヒトT細胞白血病ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス・ヒトコロナウイルス・SARSコロナウイルス・ヒトポルボウイルス・ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス・アデノウイルス・ヘルペスウイルス・水痘・帯状発疹ウイルス・EBウイルス・サイトメガロウイルス・天然痘ウイルス・サル痘ウイルス・牛痘ウイルス・モラシポックスウイルス・パラポックスウイルス・ジカウイルスなどを挙げることができる。
【0032】
また、本実施形態のマスクによれば、不活化できる細菌についても特に限定されず、グラム陽性、陰性、好気性、嫌気性などの性質にかかわらず様々な細菌等を殺菌することができる。この細菌としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、百日咳菌、腸炎菌、肺炎桿菌、緑膿菌、ビブリオ、サルモネラ菌、コレラ菌、赤痢菌、炭疽菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、レンサ球菌などを挙げることができる。
【0033】
さらに、本実施形態のマスクによれば、例えば飛沫などが付着した結果、細菌やウイルスの他に脂質やタンパク質が存在していても、細菌やウイルスを不活化することができる。
【0034】
したがって、本実施形態のマスクによれば、該マスクに付着した細菌やウイルスを不活化できるため、着用者の感染を予防することができる。さらに、使用後のマスクに触れた場合にも2次感染を起こしにくくすることができる。
【0035】
続いて本実施形態の第2のフィルタについて説明する。
【0036】
本実施形態の第2のフィルタは、吸水能力が30%未満であることを特徴とする。第2のフィルタの吸水能力は、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である。第2のフィルタは、吸水能力が30%未満であるため、第1のフィルタを透過した飛沫や血液をブロックするとともに、血液や飛沫が第1のフィルタに沿って移動することを補助する役目を持つ。吸水能力が30%以上であると、飛沫や血液は第2のフィルタを透過してしまうため好ましくない。
【0037】
第2のフィルタは、エレクトレットフィルター以外のフィルタであるのが望ましい。エレクトレットフィルターは集塵効率が高く、細かい粒子などを捕捉すること可能であるが、本願マスクの第2のフィルタのように、多層フィルタマスクの外層に近い位置に集塵効率の高いフィルタを配置すると、粉塵などによって短時間で目詰まりを起こしてマスクの機能低下を起こし易くなる。そのため、外側のフィルタより内側のフィルタにより集塵効果が高いフィルタを配置するのが望ましい。後述の通り、本実施形態のマスクでは第3のフィルタにはエレクトレットフィルターを使用するので、第2のフィルタを透過した粒子などを第3のフィルタで補足することが可能である。よって、第2のフィルタにエレクトレットフィルター以外のフィルタを使用することで、目詰まりを生じにくく、かつ集塵効率の高いマスクを得ることができる。また、第2のフィルタをエレクトレットフィルター以外のフィルタにより構成する場合には、第1のフィルタもエレクトレットフィルター以外のフィルタにより構成することが好ましい。第1のフィルタと第2のフィルタの両方がエレクトレットフィルター以外のフィルタにより構成されることにより、さらに目詰まりが生じにくくなる。さらに、マスクの外側の面又は内側の面に配置されるフィルタは、粉塵と接触しやすいため、これらのフィルタをエレクトレットフィルターで構成した場合、粉塵などによって短時間で目詰まりを起こしてマスクの機能低下を起こし易くなる。このため、第1のフィルタや第4のフィルタは、エレクトレットフィルター以外のフィルタにより構成することが好ましい。なお、エレクトレットフィルターは、帯電体であるため、帯電しやすい疎水性の素材で構成される(つまり、帯電しにくい親水性の素材で構成されにくい)。従って、親水性の素材が用いられるフィルタ(例えば、第1のフィルタ)は、エレクトレットフィルターとして構成しにくい。
【0038】
吸水能力が30%未満である材料としては、合成繊維が好ましい。合成繊維の材料としては、具体的には、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられるが、血液等の透過を防止する性能に優れたポリプロピレンが好ましい。
【0039】
本実施形態の第2のフィルタも、上述の第1のフィルタと同様に、通気性を有するが、通気性以外の機能も持たせるために、第2のフィルタの素材としては不織布が好ましい。不織布を用いることにより、良好な肌触りや皮膚への低刺激性を確保したり、上述した吸水能力を有する第2のフィルタの材料が三次元方向(第1のフィルタの表面に沿った二次元方向と、第1のフィルタの厚み方向)に存在することによって撥水性を向上させたりすることができる。また、第2のフィルタの目付けは、15g/m2以上40g/m2以下であることが好ましく、15g/m2以上、25/m2以下であることがより好ましい。目付けが15g/m2未満であると、血液や飛沫が第2のフィルタを通過しやすくなり、第2のフィルタの上記役目を果たしにくくなる。一方、目付けが40g/m2より大きくなると、マスクの着用者が息苦しいと感じるからである。
【0040】
さらに、本実施形態の第3のフィルタについて説明する。
【0041】
本実施形態の第3のフィルタは、吸水能力が50%未満であるのエレクトレットフィルターからなることを特徴とする。第3のフィルタの吸水能力は、好ましくは40%未満であり、より好ましくは30%未満である。
【0042】
エレクトレットフィルターは、集塵効率の高いフィルタとして知られているため、第1、第2のフィルタを透過してしまったウイルスや細菌、粉塵などを低目付でも効率良く捕集することができる。第3のフィルタがエレクトレットフィルターでない場合、細かい粉塵などが透過してしまう場合がある。また、該エレクトレットフィルターを、第2のフィルタと同様に、吸水能力の低い素材で構成することにより、第1、第2のフィルタを透過してしまった飛沫や血液を最終的にブロックすることができる。
【0043】
吸水能力が50%未満である材料としては、合成繊維が好ましい。合成繊維の材料としては、具体的には、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられるが、血液等の透過を防止する性能に優れたポリプロピレンが好ましい。
【0044】
本実施形態の第3のフィルタも、上述の第1、2のフィルタと同様に、通気性を有するが、通気性以外の機能も持たせるために、第3のフィルタの素材としては不織布が好ましい。不織布を用いることにより、良好な肌触りや皮膚への低刺激性を確保したり、上述した吸水能力を有する第3のフィルタの材料が三次元方向(第1のフィルタの表面に沿った二次元方向と、第1のフィルタの厚み方向)に存在することによって撥水性を向上させたりすることができる。また、第3のフィルタの目付けは、15g/m2以上40g/m2以下であることが好ましく、15g/m2以上、25/m2以下であることがより好ましい。目付けが15g/m2未満であると、血液や飛沫が第3のフィルタを通過しやすくなり、第3のフィルタの上記役目を果たしにくくなる。一方、目付けが40g/m2より大きくなると、マスクの着用者が息苦しいと感じるからである。
【0045】
最後に、本実施形態の第4のフィルタについて説明する。
【0046】
本実施形態の第4のフィルタは、通気性を有することを特徴とする。第1のフィルタから第3のフィルタで血液や飛沫の透過を防止しきれないこともあるため、第4のフィルタが設けられない場合、血液バリア性が低下する。第4のフィルタは、通気性があれば特に限定されることはないが、マスクの着用者に直接触れるものであるため、吸水性が高くないと呼気中に含まれる水分などが、マスクの内側にこもってしまい不快になるため親水性であることが好ましい。例えば、第4のフィルタの吸水能力を100%以上、1000%未満とすることができる。ここで、第4のフィルタの吸水能力は、好ましくは100%以上、900%以下であり、より好ましくは100%以上、850%以下である。そのため、第4のフィルタの材料も、第1のフィルタと同様に、天然繊維、再生繊維、半合成繊維などが好ましく、特に綿、レーヨンが好ましい。
【0047】
さらに、第4のフィルタの外面(着用者側に露出する面及び、第3のフィルタと対向する面の少なくとも一方)には、第1のフィルタと同様に、抗菌・抗ウイルス性微粒子がバインダーによって固定されていてもよい。第4のフィルタの外面に抗菌・抗ウイルス性微粒子を固定することにより、万が一、第3のフィルタを通過してしまった飛沫や血液中に含まれる細菌やウイルスを不活化することができる。しかも、マスクを長期間使用しても菌の増殖による臭いの発生を抑えることができるため、さらに安全性が高く長期使用可能なマスクを提供できる。
【0048】
抗菌・抗ウイルス性微粒子の平均粒子径や質量%については、第1のフィルタに固定される抗菌・抗ウイルス性微粒子と同様に設定することができる。また、バインダーとしては、シランモノマーやそのオリゴマーを用いることができる。
【0049】
ここで、本実施形態のマスクでは、第1のフィルタだけでなく第4のフィルタの吸水能力を100%以上、1000%未満とするとともに、これら第1のフィルタ及び/又は第4のフィルタの少なくとも一部分に抗菌・抗ウイルス性微粒子を固定(保持)することが好ましい。このように構成される本実施形態のマスクでは、第1のフィルタ及び第4のフィルタが水分を保持しやすいため、フィルタに保持される抗菌・抗ウイルス性微粒子が水分と接触しやすくなり、抗菌性及び抗ウイルス性が向上しやすい。また、第1のフィルタと第4のフィルタは、マスクの外側の面又は内側の面に配置されるフィルタであり、細菌やウイルスが付着しやすい位置に配置される。このため、マスクに付着するより多くの細菌やウイルスを不活化しやすい。
【0050】
また、本実施形態のマスクは、第1のフィルタ及び第4のフィルタがレーヨン繊維から構成され、第2のフィルタ及び第3のフィルタがポリプロピレン繊維から構成されていることが好ましい。
【0051】
以上、本実施形態のマスクについて詳述してきたが、本発明はこれに限定されることなく他の態様とすることも可能である。このように、本発明のマスクを用いると、着用者は快適に過ごせると共に、血液や飛沫の透過も防止でき、付着した細菌やウイルスによる感染も防止することができる。
【実施例
【0052】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
第1のフィルタとして、レーヨンPET混紡不織布(目付け20g/m2)を、第2のフィルタとして、ポリプロピレン不織布(目付け20g/m2)を、第3のフィルタとして、ポリプロピレンエレクトレットフィルター1(三井化学(株)製 MPER04目付け20g/m2)を、第4のフィルタとして、第1のフィルタと同じレーヨンPET混紡不織布(目付け20g/m2)を用いた。これら4つのフィルタを第1、第2、第3、第4のフィルタの順にウェルダー融着したものを実施例1のサンプルとした。
【0054】
(実施例2)
実施例1の第1と第4のフィルタをレーヨン不織布(目付け20g/m2)にした以外は実施例1と同様の方法にて実施例2のサンプルを得た。
【0055】
(実施例3)
抗菌・抗ウイルス剤としての市販のヨウ化銅(I)粉末を、エタノールに1.0質量%加え、さらに、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを表面に共有結合させた酸化ジルコニウム粒子を1.4質量%加え、ホモジナイザーで5分間プレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、平均粒子径146nmのスラリーを得た。なお、ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。続いて、このスラリーにテトラメトキシシランを0.7質量%加えたものを、実施例2の第1のフィルタと同じレーヨン不織布にスプレー塗工後、120℃、3分間乾燥することで、実施例3で用いる抗菌・抗ウイルス性を有する第1のフィルタを得た。この抗菌・抗ウイルス性を有する第1のフィルタと、実施例2で用いた第2、第3、第4のフィルタをウェルダー融着したものを実施例3のサンプルとした。
【0056】
(実施例4)
実施例3の第1のフィルタと同じものを第4のフィルタとした以外は実施例3と同じ方法で実施例4のサンプルを得た。
【0057】
(実施例5)
実施例4の第1のフィルタに用いたレーヨン不織布の目付けを15g/m2とした以外は実施例4と同じ方法で実施例5のサンプルを得た。
【0058】
(実施例6)
実施例4の第1のフィルタに用いたレーヨン不織布の目付けを40g/m2とした以外は実施例4と同じ方法で実施例6のサンプルを得た。
【0059】
(実施例7)
実施例4の第2のフィルタをポリエチレンテレフタレート(PET)不織布(目付け20g/m2)とした以外は実施例4と同じ方法で実施例7のサンプルを得た。
【0060】
(実施例8)
実施例4の第3のフィルタをPPエレクトレットフィルター2(東レ(株)製EMO2010 目付け20g/m2)とした以外は実施例4と同じ方法で実施例8のサンプルを得た。
【0061】
(実施例9)
実施例4の第4のフィルタに用いたレーヨン不織布に代えて綿不織布(目付け20g/m2)を用いた以外は実施例4と同じ方法で実施例9のサンプルを得た。
【0062】
(比較例1)
実施例2の第1、第3、第4のフィルタをウェルダー融着し、比較例1のサンプルを得た。
【0063】
(比較例2)
実施例2の第1、第2、第4のフィルタをウェルダー融着し、比較例2のサンプルを得た。
【0064】
(比較例3)
実施例2の第2のフィルタと同じポリプロピレン不織布(目付け20g/m2)を第1のフィルタとした以外は実施例2と同じ方法で比較例3のサンプルを得た。
【0065】
(比較例4)
実施例2の第1のフィルタと同じレーヨン不織布(目付け20g/m2)を第2のフィルタとした以外は実施例2と同じ方法で比較例4のサンプルを得た。
【0066】
(比較例5)
実施例2の第1のフィルタと同じレーヨン不織布(目付け20g/m2)を第3のフィルタとした以外は実施例2と同じ方法で比較例5のサンプルを得た。
【0067】
(比較例6)
実施例2の第1、第2、第3のフィルタをウェルダー融着し、比較例6のサンプルを得た。
【0068】
上記サンプルの組合せについて表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(吸水性試験)
上記各サンプル(実施例1~9、比較例1~6)についての吸水能力については、JIS L 1912:1997「医療用不織布試験方法」の吸水性試験:吸水量に基づき試験を実施し、吸水能力(%)を算出した。その結果を表2に示す。
【0071】
(血液バリア性試験)
上記各サンプル(実施例1~9、比較例1~6)についての血液バリア性試験については、ASTM F1862 “Standard Test Method for Resistance of Medical Face Masks to Penetration by Synthetic Blood”に基づき行った。32枚の各サンプルを用意し、32枚のうち、29枚以上のサンプルで血液透過が無い場合、合格とした。このときの人工血液の噴射圧は160mmHgにて行った。その結果を表2に示す。
【0072】
(抗ウイルス性評価)
実施例2~9の第1のフィルタ及び第4のフィルタ並びに比較例1の第1のフィルタをそれぞれ0.4g採取し、各サンプル(0.4 g)をバイアル瓶に入れ、ウイルス液0.2 mlを滴下し、37℃で5分間作用させた。5分間作用させた後、10mlのSCDLP培地を添加し、Vortexミキサーを用いて攪拌することによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10-2~10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞にサンプル液100μLを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU:plaque-forming units)を算出した。ここで、各サンプルにおける第1のフィルタおよび第4のフィルタのそれぞれについて、ウイルスの感染価を算出した。その結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
本発明による全ての実施例において血液バリア性の判定結果は合格であった。この結果に対し、第2、第3あるいは第4のフィルタが欠如している比較例1、2、6のサンプル、第1のフィルタの吸水能力が低い比較例3、第2のフィルタの吸水能力が高い比較例4および第3のフィルタの吸水能力が高い比較例5のサンプルでは、いずれも血液バリア性が不合格であった。つまり、第1のフィルタに吸水能力の高い不織布基材(吸水能力100%以上)を用い、さらに第2および第3のフィルタに吸水能力の低い疎水性不織布基材(第2のフィルタ:吸水能力30%以下、第3のフィルタ:吸水能力50%以下)を用いるとともに第4のフィルタを設けないと、血液バリア性が低下することを示している。さらに抗ウイルス加工を施した実施例3~9のサンプルでは、5分間という短時間にも関わらず、検出限界値以下という高い抗ウイルス効果を示すことも確認できた。以上の結果より、本実施例のマスクは、血液バリア性に優れ、抗ウイルス効果も高いため、2次感染防止に有用な血液バリア性を有するマスクを提供できる。