(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】S-エナンチオマーのラセミ体への変換方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/70 20060101AFI20220208BHJP
C07C 211/60 20060101ALI20220208BHJP
C07C 233/15 20060101ALI20220208BHJP
C07C 231/02 20060101ALI20220208BHJP
C07C 233/25 20060101ALI20220208BHJP
C07C 231/12 20060101ALI20220208BHJP
C07B 55/00 20060101ALN20220208BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
C07C209/70
C07C211/60 CSP
C07C233/15
C07C231/02
C07C233/25
C07C231/12
C07B55/00 A
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018548801
(86)(22)【出願日】2017-03-15
(86)【国際出願番号】 US2017022441
(87)【国際公開番号】W WO2017160933
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-13
(32)【優先日】2016-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391022452
【氏名又は名称】エフ エム シー コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】FMC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(72)【発明者】
【氏名】スワミー、ナラヤナ
(72)【発明者】
【氏名】デバラジャン、チョカリンガム
(72)【発明者】
【氏名】ダター、レビンドラ ビットホール
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519384(JP,A)
【文献】特開平10-147552(JP,A)
【文献】特表2014-508169(JP,A)
【文献】特表2010-539187(JP,A)
【文献】特開平08-208622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/00
C07C 211/00
C07C 233/00
C07C 231/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(II)を有する(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンから始まる、下記の式(I)を有する(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造方法であって、
【化1】
(a)インダンアミド誘導体を得るために(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンをアシル化する工程、
(b)3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を得るために前記インダンアミド誘導体を酸化する工程、
(c)インデンアミド誘導体を得るために前記3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を脱水する工程、
(d)インデンアミン誘導体を得るために前記インデンアミド誘導体を脱アシル化する工程、および、
(e)所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために前記インデンアミン誘導体を水素化する工程、
を含む、
方法。
【請求項2】
【化2】
(a)対応する式(III)のインダンアミド誘導体を得るために式RC(O)Xのアシル化剤で、式(II)の化合物をアシル化する工程、
【化3】
(b)対応する式(IV)の3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を得るために前記インダンアミド誘導体を酸化する工程、
【化4】
(c)対応する式(V)のインデンアミド誘導体を得るために前記3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を脱水する工程、
【化5】
(d)対応する式(VI)のインデンアミン誘導体を得るために前記インデンアミド誘導体を脱アシル化する工程、および、
【化6】
(e)所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために前記インデンアミン誘導体を水素化する工程、
を含み、
【化7】
式中、
-RはC
1~C
6のアルキル基またはC
6~C
10のアリール基から選択され、これらの基は1つ以上のC
1~C
6のアルキル基および/またはハロゲン原子で任意に置換され、
-Xは(i)ヒドロキシ基、(ii)ハロゲン原子、(iii)C
1~C
6のアルキルスルホニルオキシ基、(iv)C
6~C
10のアリールスルホニルオキシ基、(v)R
aがC
1~C
6のアルキル基であるR
aCOO基から選択される脱離基であり、(iii)~(v)の基は1つ以上のハロゲン原子で任意に置換される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アシル化剤RC(O)Xは、アシルハロゲン化物
、アシル無水物
およびそれらの混合物から選択される、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
工程(c)は、工程(d)の前もしくは後に実施される、またはこれらの2つの工程が同時に実施される、請求項1
~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(a)は
、80℃
~120℃の範
囲で実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
酸化の工程(b)は、3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を生成するために
、KMnO
4、MnO
2、SeO
2、CrO
3またはそれらの混合物から選択される酸化剤の存在下において、前記インダンアミド誘導体を反応させる工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
脱水の工程(c)は、インデンアミドを生成するために
、HCl、HBr、H
2SO
4またはそれらの混合物から選択される強酸の存在下において
、有機溶媒中に溶解した前記3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を反応させることを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記脱水の工程(c)は
、25℃
~40℃の範囲で実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
脱アシル化の工程(d)は、インデンアミンの付加塩を得るために、高温で、前記インデンアミドを強酸に接触させる工程を含み、接触後に所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを生成するために、前記付加塩が塩基溶液で処理される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)における前記高温は
、90℃
~120℃の範
囲である、請求
項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(d)における前記強酸は、HCl、HBr、H
2SO
4およびそれらの混合物から選択される、請求項
9または1
0に記載の方法。
【請求項12】
工程(d)における前記塩基は、NaOH、NaHCO
3、KOHおよびそれらの混合物から選択される、請求項
9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水素化の工程(e)は、所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために、水素化触媒の存在下において、有機溶媒に溶解した前記インデンアミンを気体水素に接触させる工程を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程(e)における前記有機溶媒は
、ヘキサン、ヘプタン、塩化メチレン、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチルおよびそれらの混合物から選択される極性溶媒である、請求
項13に記載の方法。
【請求項15】
工程(e)における前記水素化触媒は
、ニッケル、パラジウムおよび白金、ならびにそれらの混合物から選択される(X)族金属触
媒である、請求項
13または1
4に記載の方法。
【請求項16】
式V
【化8】
の化合物であって、
式中、RはC
1~C
6のアルキル基またはC
6~C
10のアリール基から選択され、これらの基は1つ以上のC
1~C
6のアルキル基および/またはハロゲン原子で任意に置換される、
化合物。
【請求項17】
N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミドである、請求項
16に記載の化合物。
【請求項18】
(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造のための式Vの化合物の使用。
【請求項19】
前記化合物は、N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミドである、請求項
18に記載の使用。
【請求項20】
式IV
【化9】
の化合物であって、
式中、RはC
1~C
6のアルキル基またはC
6~C
10のアリール基から選択され、これらの基は1つ以上のC
1~C
6のアルキル基および/またはハロゲン原子で任意に置換される、
化合物。
【請求項21】
(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-3-ヒドロキシ-1H-インダン-4-イル)アセトアミドである、請求項
20に記載の化合物。
【請求項22】
7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4-アミンである、化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌性の化合物3-ジフルオロメチル-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-4-インダニル)-1-メチル-4-ピラゾールカルボキサミド(化合物I)の製造に有用な中間体である、化合物7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミン(化合物II)に関する。より具体的には、本発明は、化合物IIのSエナンチオマーおよびその製造に関する。化合物IおよびIIの構造式は、下記に示される。
【化1】
【背景技術】
【0002】
化合物Iは最近発見された殺菌性の分子である。Venturini,Isabella et al.による現在の国際公開第2012/084812号(特許文献1)には、農業での使用および合成のための殺菌剤として化合物Iが始めに記載されている。構造上、化合物Iはアミド化合物であり、そのようなアミド化合物を創り出す通常の過程で容易に得ることができる。例えば、化合物Iは、化合物IIを対応するピラゾールカルボン酸またはピラゾールカルボン酸ハロゲン化合物と縮合させることによって得ることができ、これは得られた化合物Iの対応するインダン部分を提供する。その合成ルートを下記に示す。
【化2】
【0003】
化合物Iはインダン環の3’-炭素にキラル中心を有するキラル分子であり、化合物Iは2つのエナンチオマー形態を有するようになり、つまり、RおよびSエナンチオマーである。さらに、研究は、Rエナンチオマーが殺菌活性に寄与する活性成分であり、Sエナンチオマーが殺菌活性をほとんどまたは全く示さない、ということを見出した。
【0004】
このように、望ましくない非活性Sエナンチオマーを形成することなく、高収率でRエナンチオマーの活性成分を合成することが望まれている。この目的を達するために現在用いられる1つのアプローチは、対応するインダン誘導体と反応して所望のRエナンチオマーを特異的に生成する出発物質としてラセミ体の代わりに化合物IIのRエナンチオマーを用いることである。このアプローチにより、化合物IIのRエナンチオマーは有用である一方で、Sエナンチオマーは無益および無駄になる。
【0005】
非活性Sエナンチオマーがリサイクルでき、活性Rエナンチオマーが高収率で合成できる場合には、未だ高い需要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
その需要は本発明によって充分に満たされる。このように、本発明の1つの側面において、(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンから始まり、(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの新規な製造方法を提供し、または(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを、ラセミ体である(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンに変換する方法を有する新規な製造方法を提供する。
【0008】
出願時の請求項の方法は主に下記の工程を含む。
(a)インダンアミド誘導体を得るために(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンをアシル化する工程、
(b)3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を得るために前記インダンアミド誘導体を酸化する工程、
(c)インデンアミド誘導体を得るために前記ヒドロキシルインダンアミド誘導体を脱水する工程、
(d)インデンアミン誘導体を得るために前記インデンアミド誘導体を脱アシル化する工程、および、
(e)所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために前記インデンアミン誘導体を水素化する工程。
【0009】
本発明の他の側面において、脱水する工程(c)は後に続く脱アシル化する工程(d)に先だって、またはこれら2つの工程が同時に実施されることを除いて前記方法と完全に同じ方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミン(式II)から始まり、(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミン(式I)の新規な製造方法を提供する。全体の合成ルートと同様に式IおよびIIは下記に示される。
【化3】
式中、Rは下記のように定義される。
【0011】
ここで、1つの側面において、本発明は、下記の工程を含む、(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造方法を提供する。
(a)インダンアミド誘導体を得るために(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンをアシル化する工程、
(b)ヒドロキシルインダンアミド誘導体を得るために前記インダンアミド誘導体を酸化する工程、
(c)インデンアミド誘導体を得るために前記ヒドロキシルインダンアミド誘導体を脱水する工程、
(d)インデンアミン誘導体を得るために前記インデンアミド誘導体を脱アシル化する工程、および、
(e)所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために前記インデンアミン誘導体を水素化する工程。
【0012】
他の側面において、本発明は下記の工程を含む、下記式Iを有する(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造方法を提供する。
【化4】
(a)対応する式(III)のインダンアミド誘導体を得るために式RC(O)Xのアシル化剤で、下記の式(II)を有する(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンをアシル化する工程、
【化5】
(b)対応する式(IV)のヒドロキシルインダンアミド誘導体を得るために前記インダンアミド誘導体を酸化する工程、
【化6】
(c)対応する式(V)のインデンアミド誘導体を得るために前記ヒドロキシルインダンアミド誘導体を脱水する工程、
【化7】
(d)対応する式(VI)のインデンアミン誘導体を得るために前記インデンアミド誘導体を脱アシル化する工程、および
【化8】
(e)所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために前記インデンアミン誘導体を水素化する工程。
【化9】
【0013】
式中、-RはC1~C6のアルキル基またはC6~C10のアリール基から選択され、これらの基は1つ以上のC1~C6のアルキル基および/またはハロゲン原子で任意に置換される。
【0014】
-Xは(i)ヒドロキシ基、(ii)ハロゲン原子、(iii)C1~C6のアルキルスルホニルオキシ基、(iv)C6~C10のアリールスルホニルオキシ基、(v)RaがC1~C6のアルキル基であるRaCOO基から選択される脱離基であり、(iii)~(v)の基は1つ以上のハロゲン原子で任意に置換される。
【0015】
C1~C6のアルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルである。
【0016】
C6~C10のアリール基の例は、フェニル、ナフチルである。
【0017】
ハロゲン原子の例は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。
【0018】
本発明の方法は上記で説明したように順番に実施される。
【0019】
本方法の1つの実施形態において、脱水工程(c)および脱アシル化工程(d)の反応の順番は、変更することができる。他の実施形態において、工程(c)は工程(d)に先だって、または工程(d)の後に実施される。さらなる実施形態において、工程(c)および工程(d)は同時に実施される。
【0020】
1つの実施形態において、本発明の工程(a)では、例示の目的ではRC(O)Xのアシル化剤はアシルハロゲン化物およびハロゲン無水物から選択され、好ましくはアシルハロゲン化物および低級アルカン酸の無水物、より好ましくは塩化アセチル、無水酢酸またはそれらの混合物から選択される。しかし、当業者は多数の代替的なアシル化剤を工程(a)において交換可能に使用することができるということをよく理解しているだろう。他の実施形態において、工程(a)は高温で実施され、好ましくは約80℃~約120℃、より好ましくは約80℃~約100℃の範囲で実施される。他の実施形態において、工程(a)は式(II)の化合物を新たに蒸留した無水酢酸に添加する工程を含む。
【0021】
1つの実施形態において、本発明の工程(b)では、酸化は対応する式(IV)のヒドロキシルインダンアミド誘導体を生成するための酸化剤の存在下において、式(III)のインダンアミド誘導体を反応させる工程を含む。他の実施形態において、例示の目的では酸化剤はKMnO
4、MnO
2、SeO
2、CrO
3、またはそれらの混合物からなる群より選択され、好ましくはKMnO
4である。当業者は多数の代替的な酸化剤を本発明の工程(b)において交換可能に使用することができるということをよく理解しているだろう。他の実施形態において、工程(b)の反応は攪拌中に、室温で行われ、好ましくはMgSO
4の存在下で行われる。
【化10】
【0022】
1つの実施形態において、本発明の工程(c)では、脱水は式(V)のインデンアミド誘導体を生成するための強酸の存在下において、式(IV)の前記ヒドロキシルインダンアミド誘導体を反応させる工程を含む。他の実施形態において、その反応は有機溶媒中で行われ、有機溶媒は、好ましくはヘキサン、ヘプタン、塩化メチレン、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチルおよびそれらの混合物から選択される。工程(c)の他の実施形態において、強酸はHCl、HBr、H
2SO
4またはそれらの混合物からなる群より選択される。HClおよびH
2SO
4がより好ましい。他の実施形態において、その反応は室温で行われ、好ましくは約20℃~約40℃の範囲、より好ましくは約25℃で行われる。他の実施形態において、その反応は攪拌中に、高温で行われる。他の実施形態において、工程(c)の反応は溶媒を用いずに行われる。
【化11】
【0023】
1つの実施形態において、本発明の工程(d)では、脱アシル化はインデンアミン誘導体の付加塩を得るために高温下で、前記インデンアミド誘導体を強酸に接触させることを含み、前記インデンアミンは式(VI)のインデンアミンを生成するために塩基溶液で処理される。他の実施形態において、例示の実施例では、強酸はHCl、HBr、H
2SO
4またはそれらの混合物からなる群より選択される。HClおよびH
2SO
4がより好ましい。他の実施形態において、その反応は約90℃~約120℃の範囲の高温で行われ、好ましくは約100℃~約120℃の範囲である。他の実施形態において、その塩基はNaOH、NaHCO
3、KOHおよびそれらの混合物から選択される。
【化12】
【0024】
1つの実施形態において、本発明の工程(e)では、水素化は所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために、水素化触媒の存在下において前記インデンアミン誘導体を気体水素と反応させる工程を含む。他の実施形態において、その反応は有機溶媒中で行われ、有機溶媒は、好ましくは極性溶媒、より好ましくはヘキサン、ヘプタン、塩化メチレン、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチルおよびそれらの混合物から選択される。水素化触媒の例示的な例は、ニッケル、パラジウムおよび白金のような(X)族金属触媒、好ましくはPd-C触媒を含む。他の実施形態において、工程(e)の反応は溶媒を用いることなく行われる。
【化13】
【0025】
本発明の他の側面において、出願時の請求項に記載の方法に従って製造された(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンのラセミ体を提供する。
【0026】
本発明のさらなる側面において、R基が本明細書において上記のように定義される式Vの化合物を提供する。1つの実施形態において、本発明はN-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミドの化合物を提供する。
【化14】
【0027】
本発明のさらなる側面において、(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造のための式Vの化合物の使用に関する。1つの実施形態において、(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造のためのN-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミドの使用に関する。
【0028】
本発明のさらなる側面において、式IVの化合物に関し、R基は本明細書において上記の様に定義される。1つの実施形態において、式IVの化合物は(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-3-ヒドロキシ-1H-インダン-4-イル)アセトアミドである。
【0029】
本発明のさらなる側面において、7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4-アミンである式VIの化合物を提供する。
【0030】
上述の出願時の請求項に係る発明の利点は、当業者には明らかである。本発明の方法では、望ましくない(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンは変換されてそのラセミ体に戻ることができ、さらに所望のRエナンチオマーの活性体を生成するためにリサイクルされる。したがって、本発明の方法は、決して報告されていない、または以前に想起されておらず、より環境に優しく、より費用対効果の高いものである。
【0031】
下記の実施例は例示の目的のために提供され、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
工程(a)-アシル化:式(III)の(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-イル)アセトアミドの製造
(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミン(6g、31mmol)を新たに蒸留した無水酢酸(4mL)に添加し、90℃で30分間攪拌した。反応完了後すぐに、反応混合物を室温に冷却し、水(20ml)で急冷した。反応混合物を酢酸エチル(50mL)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮して、粗固体の(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-イル)アセトアミド(7.1g)を得て、それをGCで分析した:97.5%。
【0033】
工程(b)-酸化:式(IV)の(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-3-ヒドロキシ-1H-インダン-4-イル)アセトアミドの製造
15%MgSO4溶液を準備した(4.6g、38mmol)。この溶液に、アセトン(90mL)に溶解した工程(a)から得られた(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-イル)アセトアミド(6g、25.5mmol)を室温で添加した。この溶液に、固体のKMnO4(9.26g、58.6mmol)を少量ずつ添加し、室温で5時間攪拌した。反応完了後すぐに、反応混合物を1NのNaOH溶液で塩基性のpHになるまで急冷した。反応混合物を酢酸エチル(50mL)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮して、粗固体の(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-3-ヒドロキシ-1H-インダン-4-イル)アセトアミド(5.1g)をGCで分析した:83.5%A。
【0034】
工程(c)-脱水:式(V)のN-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミドの製造
メタノール(30mL)を工程(b)から得られた(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-3-ヒドロキシ-1H-インダン-4-イル)アセトアミド(5g、19.8mmol)に添加した。この溶液にHCl(10mL)を室温で添加し、90分間攪拌した。反応混合物を水(100mL)で希釈し、酢酸エチル(50mL)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮して、粗固体のN-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミド(4g)を得て、それをGCで分析した:90.8%A。
【0035】
工程(d)-脱アセチル化:式(VI)の7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4-アミンの製造
25gの50%H2SO4を工程(c)から得られたN-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミド(4g、17.2mmol)に室温で添加した。反応混合物を115℃で5時間攪拌した。その後、反応混合物に水を加えて25%に希釈した。得られた固体を濾過し、水で洗浄した後、ヘキサンで洗浄した。得られた固体に水(20mL)を添加し、10%NaOH溶液(15mL)で塩基性にし、室温で1時間攪拌した。反応混合物を酢酸エチル(20mL)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮して、粗固体の7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4-アミン(2.2g)を得て、それをGCで分析した:95.5%A。
【0036】
工程e-水素化:式(I)の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造
メタノール(20mL)を工程(d)から得られた7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4-アミン(1g、7.6mmol)に添加した。この溶液に10%Pd-C(50mg、0.05mmol)を室温で添加した。乾燥水素ガスを、室温で2時間撹拌しながらガスバブラーを通して泡立たせた。反応混合物を濾過し、減圧下で濃縮して、粗固体(0.9g)を得て、GCで分析した:83%A。これをさらに50℃でヘキサン(7mL)に溶解することにより結晶化させて精製し、室温で5時間放置した。得られた固体を濾過し、減圧下で乾燥し、得られた(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミン(225mg)の固体をGCで分析した:95%A。ラセミ混合物は、キラルHPLCで47:53(R:S)と、比旋光度が[α]D25-1.45、C=0.15%、メタノールと測定した。
【0037】
(付記)
(付記1)
下記の式(II)を有する(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンから始まる、下記の式(I)を有する(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造方法であって、
【化15】
(a)インダンアミド誘導体を得るために(S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンをアシル化する工程、
(b)3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を得るために前記インダンアミド誘導体を酸化する工程、
(c)インデンアミド誘導体を得るために前記3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を脱水する工程、
(d)インデンアミン誘導体を得るために前記インデンアミド誘導体を脱アシル化する工程、および、
(e)所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために前記インデンアミン誘導体を水素化する工程、
を含む、
方法。
【0038】
(付記2)
【化16】
(a)対応する式(III)のインダンアミド誘導体を得るために式RC(O)Xのアシル化剤で、式(II)の化合物をアシル化する工程、
【化17】
(b)対応する式(IV)の3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を得るために前記インダンアミド誘導体を酸化する工程、
【化18】
(c)対応する式(V)のインデンアミド誘導体を得るために前記3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を脱水する工程、
【化19】
(d)対応する式(VI)のインデンアミン誘導体を得るために前記インデンアミド誘導体を脱アシル化する工程、および、
【化20】
(e)所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために前記インデンアミン誘導体を水素化する工程、
を含み、
【化21】
式中、
-RはC
1~C
6のアルキル基またはC
6~C
10のアリール基から選択され、これらの基は1つ以上のC
1~C
6のアルキル基および/またはハロゲン原子で任意に置換され、
-Xは(i)ヒドロキシ基、(ii)ハロゲン原子、(iii)C
1~C
6のアルキルスルホニルオキシ基、(iv)C
6~C
10のアリールスルホニルオキシ基、(v)R
aがC
1~C
6のアルキル基であるR
aCOO基から選択される脱離基であり、(iii)~(v)の基は1つ以上のハロゲン原子で任意に置換される、
付記1に記載の方法。
【0039】
(付記3)
工程(c)は、工程(d)の前もしくは後に実施される、またはこれらの2つの工程が同時に実施される、付記1または2に記載の方法。
【0040】
(付記4)
前記アシル化剤RC(O)Xは、アシルハロゲン化物およびアシル無水物から選択され、好ましくは塩化アセチル、無水酢酸またはそれらの混合物から選択される、付記1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0041】
(付記5)
前記工程(a)は、高温で実施され、好ましくは約80℃~約120℃の範囲、より好ましくは約80℃~約100℃の範囲で実施される、付記1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0042】
(付記6)
酸化の工程(b)は、3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を生成するために、酸化剤、好ましくはKMnO4、MnO2、SeO2、CrO3またはそれらの混合物から選択される酸化剤の存在下において、前記インダンアミド誘導体を反応させる工程を含む、付記1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0043】
(付記7)
脱水の工程(c)は、インデンアミドを生成するために、好ましくはHCl、HBr、H2SO4またはそれらの混合物から選択される強酸の存在下において、有機溶媒、好ましくは極性溶媒、より好ましくはヘキサン、ヘプタン、塩化メチレン、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチルおよびそれらの混合物から選択される有機溶媒中に溶解した前記3-ヒドロキシルインダンアミド誘導体を反応させることを含む、付記1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0044】
(付記8)
前記脱水の工程(c)は、室温、好ましくは約25℃~約40℃の範囲で実施される、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0045】
(付記9)
脱アシル化の工程(d)は、インデンアミンの付加塩を得るために、高温で、前記インデンアミドを強酸に接触させる工程を含み、接触後に所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを生成するために、前記付加塩が塩基溶液で処理される、付記1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0046】
(付記10)
工程(d)における前記高温は、約90℃~約120℃の範囲、より好ましくは約100℃~約120℃の範囲である、付記1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0047】
(付記11)
工程(d)における前記強酸は、HCl、HBr、H2SO4およびそれらの混合物から選択される、付記1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0048】
(付記12)
工程(d)における前記塩基は、NaOH、NaHCO3、KOHおよびそれらの混合物から選択される、付記1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0049】
(付記13)
前記水素化の工程(e)は、所望の(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンを得るために、水素化触媒の存在下において、有機溶媒に溶解した前記インデンアミンを気体水素に接触させる工程を含む、付記1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0050】
(付記14)
工程(e)における前記有機溶媒は、極性溶媒、好ましくはヘキサン、ヘプタン、塩化メチレン、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチルおよびそれらの混合物から選択される極性溶媒である、付記1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0051】
(付記15)
工程(e)における前記水素化触媒は、(X)族金属触媒、好ましくはニッケル、パラジウムおよび白金、ならびにそれらの混合物から選択される(X)族金属触媒、より好ましくはPd-C触媒である、付記1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0052】
(付記16)
付記1~15のいずれか1つに記載の方法で製造される、(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミン。
【0053】
(付記17)
式V
【化22】
の化合物であって、
式中、RはC
1~C
6のアルキル基またはC
6~C
10のアリール基から選択され、これらの基は1つ以上のC
1~C
6のアルキル基および/またはハロゲン原子で任意に置換される、
化合物。
【0054】
(付記18)
N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミドである、付記17に記載の化合物。
【0055】
(付記19)
(R,S)-7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-2,3-ジヒドロ-1H-インデン-4-アミンの製造のための式Vの化合物の使用。
【0056】
(付記20)
前記化合物は、N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4イル)アセトアミドである、付記19に記載の使用。
【0057】
(付記21)
式IV
【化23】
の化合物であって、
式中、RはC
1~C
6のアルキル基またはC
6~C
10のアリール基から選択され、これらの基は1つ以上のC
1~C
6のアルキル基および/またはハロゲン原子で任意に置換される、
化合物。
【0058】
(付記22)
(S)-N-(7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-3-ヒドロキシ-1H-インダン-4-イル)アセトアミドである、付記21に記載の化合物。
【0059】
(付記23)
7-フルオロ-1,1,3-トリメチル-1H-インデン-4-アミンである、化合物。