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  • 特許-信号炎管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】信号炎管
(51)【国際特許分類】
   G08B 5/40 20060101AFI20220208BHJP
   B60Q 7/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
G08B5/40 C
B60Q7/00 660E
B60Q7/00 610H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018559143
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2017046080
(87)【国際公開番号】W WO2018123848
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2016251663
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 聖也
(72)【発明者】
【氏名】永山 清一郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 容史
【審査官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-281635(JP,A)
【文献】特開昭57-137992(JP,A)
【文献】特開2010-078215(JP,A)
【文献】実開平06-084198(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0261041(US,A1)
【文献】特開平10-234878(JP,A)
【文献】特開2001-319277(JP,A)
【文献】特開昭61-170977(JP,A)
【文献】実公昭49-046314(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00-7/02
G08B 1/00-9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面上に設置し、火薬の燃焼により発する高光度の炎によって事故発生を知らせる信号炎管であって、設置時に路面と接する側の外周面には耐火塗料層を形成したことを特徴とする信号炎管。
【請求項2】
前記耐火塗料層に含まれる樹脂成分が、信号炎管の燃焼熱により発泡し路面損傷防止層となることを特徴とする請求項1に記載の信号炎管。
【請求項3】
前記耐火塗料層が、路面と接する部分を中心として信号炎管外周総面積の10~50%の範囲に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の信号炎管。
【請求項4】
前記耐火塗料層の厚さが100μm~2mmの範囲で形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の信号炎管。
【請求項5】
前記耐火塗料層は、耐火性塗料が塗布されたシート状の基材を信号炎管本体の外周面に貼着して形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の信号炎管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号炎管の燃焼により発生する高温度の火炎や燃焼残渣からアスファルト等の路面を保護する機能を備えた信号炎管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
信号炎管は、高速道路等において事故等が発生した場合、火薬の燃焼により発する高光度の炎によって道路作業員が後続車両に事故が発生していることを知らせるために用いられている。かかる信号炎管は、その本体に設けられた発火薬を摺付薬紙により摩擦、着火して火炎や煙を発生させた後、路面上に置いて使用される。
【0003】
しかしながら、信号炎管から発生する火炎や燃焼残渣は、最高温度が千数百度に達し、路面上に横に置いた状態で燃焼させると、残渣に接触した部分のアスファルトが焼損し、路面に穴あき状態を発生させる。そして、この状態で路面を放置すると、走行車両のタイヤによる衝撃や風雨等による風化作用により、時間経過とともに穴が大きくなるため、穴埋め等により補修しなければならず、補修費用がかかるという課題を有していた。
【0004】
上記の課題を解決するために、特許文献1ないし4には、燃焼残渣と路面との接触を阻止するため、断熱層を備えた板状の路面損傷防止体に信号炎管を取り付けたものが開示されている。
【0005】
しかしながら、これらのものは、板状の損傷防止体に信号炎管を取り付けるものであるため、保管時には嵩張り、またその携帯性の点からも問題があったため、とりわけ一度に5本~10本程度の信号炎管を同時に扱う必要がある道路作業には不向きであった。
【0006】
また、これらの損傷防止体は、着火前にあらかじめ取り付けておくものや着火後に取り付けるものがあるが、いずれの場合も使用手順が多くなり、煩雑であった。
【0007】
さらに、これらの損傷防止体を使用した場合、信号炎管本体以外の燃焼残渣が多くなり、回収作業にも時間がかかるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-319277
【文献】特開2001-319278
【文献】特開2005-301761
【文献】特開2004-164021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、従来の信号炎管のかかる欠点を克服し、十分な路面保護機能を有するとともに、保管が容易で携帯性や使用性にも優れ、燃焼残渣も最小限にすることができる信号炎管の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、路面上に設置し、火薬の燃焼により発する高光度の炎によって事故発生を知らせる信号炎管であって、設置時に路面と接する側の外周面には耐火塗料層を形成したことを特徴とする信号炎管である。
【0011】
また本発明は、耐火塗料層に含まれる樹脂成分が、信号炎管の燃焼熱により発泡し路面損傷保護層となることを特徴とする信号炎管である。
【0012】
さらに本発明は、前記耐火塗料層が、耐火性塗料が塗布されたシート状の基材を信号炎管本体の外周面に貼着することにより形成されていることを特徴とする信号炎管である。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる本体の外周面に耐火塗料層を形成した信号炎管は、損傷防止体等の部材の取り付けが不要なため、使用性に優れ、また、保管や携帯も容易であり、また、燃焼後はすべて灰化、炭化するため、燃焼残渣を大幅に減少させることができる。
【0014】
また、本発明にかかる信号炎管で、耐火塗料層に含まれる樹脂成分が信号炎管の燃焼熱により発泡し路面損傷保護層となるものは、発泡した耐火塗料層により路面と信号炎管本体の直接の接触を防止することができるため、路面損傷防止機能を高めることができる。
【0015】
また、本発明にかかる信号炎管で、耐火塗料層が形成されたシート状の基材を信号炎管本体に貼着したものは、簡易に耐火塗料層を形成した信号炎管を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る信号炎管を路面と接する底面側から見た斜視図
図2】(a)本発明の信号炎管を路面に置いた状態を模式的に表した図、(b)本発明の信号炎管の燃焼時の状態を模式的に表した図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の信号炎管の実施態様を、図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施態様に何ら制約されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の信号炎管を路面と接する底面側から見た斜視図である。本発明において使用される信号炎管は円筒形の一般的なものであればよい。また、本実施態様では、路面に置かれた信号炎管が転がることを防ぐために、略コの字状に形成された転がり防止部材4が信号炎管本体1の外周面11に外装されているが、転がり防止手段はこれに限定されず、この他の転がり防止部材を用いてもよい。
【0019】
図に示すように、円筒状の信号炎管本体1の外周面11には、耐火塗料層3が設けられている。耐火塗料層3は、少なくとも、使用時に路面と接する側の外周面11に形成されている。なお、一般的な信号炎管において、使用時に路面と接する側は特に決まってはいないため、耐火塗料層3は信号炎管本体1の任意の外周面11に形成すればよく、使用時に該耐火塗料層3が路面側になるように設置すればよい。
【0020】
信号炎管は、未使用時にはその先端側に蓋体2が装着されているが、耐火塗料層3は該蓋体2により覆われている信号炎管本体1の外周面11にも形成されている。より詳しくは、耐火塗料層3は信号炎管本体1の外周面11にその軸方向に沿って延伸するように形成されているが、信号炎管本体1の先端及び後端まで完全に形成しなくてもよく、図示するように、先端側と後端側は耐火塗料層3を形成しない部分を多少残してもよい。
【0021】
図2(a)は、本発明の信号炎管を路面に置いた状態を模式的に表した図である。なお、本図では、蓋体2や転がり防止部材4などの説明に不要な部材の図は省略する。図に示すように、耐火塗料層3は設置時に路面と接する部分12から信号炎管本体1の外周面11の任意の範囲にわたって形成されている。具体的には、少なくとも燃焼時に路面との接触を防ぐとともに、発炎の視認性を損なわない範囲で形成すればよく、路面と接する部分12を中心に信号炎管本体1の外周総面積の10~50%の範囲で形成することが好ましく、30~40%の範囲で形成することがより好ましい。
【0022】
図2(b)は、本発明の信号炎管の燃焼時の状態を模式的に表した図である。図に示すように、信号炎管本体1は燃焼により溶融した残渣13となり、また、耐火塗料層3は燃焼熱により発泡して路面損傷防止層31となる。かかる路面損傷防止層31は、熱により炭化又は灰化した断面略半月状の壁となり、かかる略半月状の路面損傷防止層31が受け皿となり、残渣13が路面上に漏出することを防ぐことができる。なお、燃焼時の火炎はその大部分が略半月状の路面損傷防止層31よりも上に立ち昇るため、火炎の視認性が妨げられることはない。
【0023】
本発明において耐火塗料層3を形成する耐火性の塗料は、250~300度程度の燃焼熱によって発泡する樹脂成分を含み、建材などに使用される耐火性塗料を使用することができる。具体的には、SKタイカコート主材EX、SK水性タイカコート(いずれもエスケー化研株式会社製、「SKタイカコート」は登録商標)、タイカリット(日本ペイント株式会社製、「タイカリット」は登録商標)、ウェスタ(菊水化学工業株式会社製、「ウェスタ」は登録商標)、ナリファイア・システムS、ナリファイア・ハイブリッドベースコート(いずれもNullifire製、「NULLIFIRE」は登録商標)などが好適に使用できる。
【0024】
耐火塗料層3は、発泡時に路面損傷保護機能を有するに十分な厚みに形成すればよく、100μm~2mmの厚みに形成することが好ましい。かかる範囲で耐火塗料層3の厚さを形成することにより、信号炎管を燃焼させた後の残渣を最小限にすることができ、路上にかかる残渣が残存した場合も炭化、灰化して車両の走行や作業員の歩行を妨げない。さらに、耐火塗料層3を形成した信号炎管は元の形状・外寸等の大きな変更を伴わないため、既成の転がり防止部材の装着や、着火機構に不具合が出るおそれもない。
【0025】
耐火塗料層3は信号炎管本体1の外周面11に耐火性の塗料を直接塗布して形成してもよいが、シート状の基材の一面に塗布して形成し、該基材を外周面11に貼着して形成してもよい。このように、耐火塗料層3をシート状基材とすることで、耐火性塗料を信号炎管本体1に直接塗布した場合と比べて乾燥時間を短縮できる。また、かかるシート状基材を、基材、耐火性塗料、接着剤、離型紙の4層構造にあらかじめ形成しておくことにより、外周面11に貼着する作業をより簡略化でき、好ましい。
【実施例
【0026】
次に、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0027】
(実施例1)
耐火塗料を基材となる紙に(SKタイカコート主材EX、「SKタイカコート」は登録商標)を300μmの厚みで塗布・乾燥し、両面テープを貼り付けることにより、耐火塗料層を備えたシート状基材(260mm×40mm×厚み500μm)を得た。得られたシート状基材を信号炎管の本体(284mm×φ32mm)に半周巻くように貼り付けることにより耐火塗料層を備えた信号炎管を得た。落下強度試験、路面損傷試験及び燃焼残存物の観察の結果を表1に示す。
【0028】
片手で耐火塗料層を具備した信号炎管を持ち、他方の手で信号炎管の蓋体を容易に抜いて着火できた。その際、耐火塗料層が脱落することはなかった。その後、耐火塗料層が高機能アスファルトの路面に接触するように置いた。信号炎管の燃焼終了後、炭化又は灰化した路面損傷防止層を踏むと細かくなった。
【0029】
落下強度試験は、アスファルト舗装上に1mの高さから耐火塗料層を下側にして路面に水平に落とし、耐火塗料層の破損具合を観察した。
【0030】
路面損傷試験は信号炎管を着火させた後、耐火塗料層を下側にして路面上に置き、信号炎管の燃焼終了後に燃焼残渣を回収し、路面の損傷具合を観察した。また、炭化・灰化せず路面に残った路面損傷防止層を残存物として観察した。
【0031】
(実施例2) 耐火塗料を信号炎管の本体に(SKタイカコート主材EX、「SKタイカコート」は登録商標)を厚さ1mmにて塗布・乾燥することにより耐火塗料層を備えた信号炎管を得た。落下強度試験、路面損傷試験及び燃焼残存物の観察の結果を表1に示す。
【0032】
片手で耐火塗料層を具備した信号炎管を持ち、他方の手で信号炎管の蓋体を容易に抜いて着火できた。その際、耐火塗料層が脱落することはなかった。その後、耐火塗料層が路面に接触するように置いた。信号炎管の燃焼終了後、路面損傷防止層を踏むと細かくなった。
【0033】
(比較例1) 路面損傷防止のための措置を何も講じていない信号炎管を着火して、路面に置いた。落下強度試験、路面損傷試験及び燃焼残存物の観察の結果を表1に示す。
【0034】
(比較例2)
パーライトに少量の糊を加えて、板状に成形(360mm×50mm×厚み20mm)し、乾燥することによって路面損傷防止体を得た。信号炎管設置部に両面テープを貼り付けて路面損傷防止機能を具備した信号炎管を得た。落下強度試験、路面損傷試験及び燃焼残存物の観察の結果を表1に示す。
【0035】
(比較例3) アルミ箔と樹脂フィルムの積層体を板状に成形(360mm×50mm×厚み20mm)し路面損傷防止体を得た。信号炎管設置部に両面テープを貼り付けて路面損傷防止機能を具備した信号炎管を得た。落下強度試験、路面損傷試験及び燃焼残存物の観察の結果を表1に示す
【0036】
【表1】
落下試験
○:割れなかった
×:2つ以上に割れた

路面損傷防止試験
○:路面損傷無し
×:路面損傷範囲が信号炎管側面の面積(39cm2)の半分以上

燃焼残存物の観察
○:路面損傷防止層(防止体)の体積の全てが炭化又は灰化した
×:路面損傷防止層(防止体)の体積の5割以上が炭化又は灰化せずに残っ

【0037】
以上の結果の通り、本発明の耐火塗料層を備えた信号炎管(実施例1及び実施例2)は、落下強度に優れ、装着工程等を必要とせず使用でき、信号炎管の燃焼による路面の損傷を軽減できた。
【0038】
本発明の信号炎管は、発泡性の耐火塗料からなる路面損傷防止層を備え、熱により形成された炭化又は灰化層は断熱効果に優れ、信号炎管から発生する燃焼残渣の接着によるアスファルトの剥がれを有効に防止できる。また、未発泡の状態では断熱層(耐火塗料層)を薄くできるため、携帯性に優れ、さらに、落下等の衝撃を受けても壊れにくく、また、使用時の装着操作を必要としないため、取り扱いが容易である。
【符号の説明】
【0039】
1 … … 信号炎管本体
2 … … 蓋体
3 … … 耐火塗料層
4 … … 転がり防止部材
11 … … 外周面
12 … … 路面と接する部分
13 … … 残渣
31 … … 路面損傷防止層
図1
図2