(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】プラント運転支援装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
(21)【出願番号】P 2019010144
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】葛西 良亮
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 良雄
(72)【発明者】
【氏名】矢野 亮太
【審査官】黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-014024(JP,A)
【文献】特開平02-112098(JP,A)
【文献】特開2008-009510(JP,A)
【文献】特開平02-277196(JP,A)
【文献】特開2010-244159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントにおけるプラントデータからプラントの運転状態を推定するプラント状態推定部と、プラントにおける運転手順を記憶する手順書データベースと、前記運転状態に応じて前記手順書データベースを検索し、当該運転状態における前記運転手順を検索する手順書検索部と、プラントの運転員の行動を監視して運転員が操作しようとしている前記プラントの機器を推定する動作分析部と、動作分析部が推定した運転員が操作しようとしている前記機器と前記手順書検索部で検索した前記運転手順を用いて、運転員が操作しようとしている前記機器の操作の妥当性を外部出力する操作判定部とを備えることを特徴とするプラント運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラント運転支援装置であって、
前記動作分析部が推定した運転員が操作しようとしている前記機器を操作した時におけるプラントの運転状態を推定するプラントシミュレータと、前記プラントシミュレータの推定結果が所定閾値を超えるときに運転員が操作しようとしている前記機器の操作の妥当性を外部出力する挙動判定部とを備え、前記操作判定部と前記挙動判定部がともに前記機器の操作の妥当性を外部出力するときに最終の外部出力とすることを特徴とするプラント運転支援装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプラント運転支援装置であって、
運転員はAR(拡張現実)ゴーグルを装着しており、前記外部出力により警告や、対応操作ガイドをAR(拡張現実)ゴーグル上に表示もしくは音声発生することを特徴とするプラント運転支援装置。
【請求項4】
請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載のプラント運転支援装置であって、
中央制御室・現場に配置された前記の機器について、次に操作すべき機器の位置を前記外部出力によりガイドすることを特徴とするプラント運転支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載のプラント運転支援装置であって、
全交流電源喪失(SBO)に目的地へのルートを前記外部出力によりガイドすることを特徴とするプラント運転支援装置。
【請求項6】
請求項1から
請求項5のいずれか1項に記載のプラント運転支援装置であって、
運転員の行動を監視するために、運転員の視線トラッキングや動作・音声・応答から運転員の緊張・理解・判断状況を把握し前記外部出力によりガイドすることを特徴とするプラント運転支援装置。
【請求項7】
請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載のプラント運転支援装置であって、
実プラントの代わりに運転訓練シミュレータでのプラント運転訓練を支援することを特徴とするプラント運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントなどの緊急時におけるプラント運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントは、一般に中央制御室に設置されたプラント運転装置(中央制御室制御盤)により、プラント全体のプロセス値(温度や圧力、流量など)や警報、機器運転状態を一括して確認・操作されている。
【0003】
プラント運転装置は、運転監視補助盤(以降、大型表示盤)と中央運転監視盤(以降、主盤)を備えており、運転員は大型表示盤の重要警報窓や系統一括警報窓、あるいは主盤上端末の個別警報画面のランプ表示にて警報の発生状態を監視し、大型表示盤上のプラント状態表示器、端末のプラントサマリ画面で機器状態、パラメータ表示画面と指示計器でパラメータを監視することができる。
【0004】
運転員は、プラント運転装置における大型表示盤並びに主盤における上記警報表示によりプラントの運転状態を監視し、必要に応じて制御盤面のスイッチを操作しプラントの安全な運転を継続する各種操作手順書に従い運転操作を行っている。
【0005】
係る原子力発電プラントにおいては、上記の大型表示盤並びに主盤以外にプラント運転支援装置を設置して運転員の負担軽減を図っており、具体的には以下のような支援を行うことが知られている。
【0006】
例えば特許文献1によれば、「プラント1の構成機器10a~10cの運転中のプロセスデータを入力し、プラント1のあるべき状態と現状との比較をして機器の操作用、操作禁止の判断データを作成するとともに、予め入力された操作禁止対象機器のデータを前記判断データとともに出力するプラント運転支援装置3のデータを格納するデータベース4を参照する表示指令機能5が、画面7上に操作禁止対象機器を操作禁止と表示する。」ことにより、運転員が操作すべきでない機器を明確にすることで運転員の負担を軽減している。
【0007】
また特許文献2によれば、「設定値に基づいてプラントを制御するプロセス制御装置と、前記プラントを模擬するトラッキングシミュレータとを具備するプラント運転支援装置において、変更された前記設定値を、前記プロセス制御装置に通知することを一時的に保留して保持する設定値ホールド手段と、前記設定値ホールド手段から通知される、変更後の設定値情報に基づいて前記プラントの将来トレンドを予測する第1予測シミュレータと、変更前の設定値情報に基づいて前記プラントの将来トレンドを予測する第2予測シミュレータと、前記第1予測シミュレータ及び第2予測シミュレータのシミュレーション結果を表示する予測情報表示部と、を備える。」ことにより、設定値の変更が適正か否かを事前に知り、危険な操作を回避するための支援情報を自動的に提供できるプラント運転支援装置を実現している。
【0008】
また特許文献3によれば、「運転訓練シミュレータ9でシミュレーションを行うとき、入力装置1によってシミュレーションで入力された運転操作情報を取得し、事故事象検知装置2によってシミュレーションで発生した事故事象を検知して、誤操作検知装置4で運転操作情報と事故時対応操作データベース3内の事故事象に対応する対応操作情報とを比較して、運転員による誤操作情報を誤操作シナリオデータベース5に登録しておき、実プラント10の運転時にはプラント事故事象検知装置6で実プラント10に発生する事故事象を検知し、その事故事象に対応する誤操作情報を誤操作シナリオデータベース装置5から呼び出して誤操作シナリオ表示装置8によりCRT11上に表示する。」ことにより、運転訓練シミュレータで得られた訓練結果データを有効に利用することができるプラント運転支援システムを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-265856号
【文献】特開2009-223457号
【文献】特開平10-268745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
プラントの緊急時には、運転員は警報・機器状態・パラメータの情報と事故時手順書に基づき対応操作を行うことになる。その際、複数の警報が発生し、事故事象に相関する複数のパラメータが変化するとともに、事象進展およびその予測が複雑なため、運転経験の少ない運転員の場合、対応操作によるプラント事象展開予測が困難であるため、対応操作の遅れや手順の誤判断により、プラント状態の悪化を招くリスクがあり、運転員の負担が大きかった。
【0011】
係る状況における誤対応を防止する方法として、従来技術では繰り返しプラント運転操作の訓練を実施し、運転員の対応操作に関する力量を向上させ、あるいは操作禁止のインタロックにて誤操作した場合でも機器が動作しないようにしてヒューマンエラー発生を防いでいたが、運転員の力量向上のみでは大きなプレッシャーがかかる緊急時対応操作の際のヒューマンエラーを完全に防ぐことはできず、操作禁止インタロックをあらゆるプラント運転状態を考慮して作成することは現実的ではない。また、あらかじめ操作可否を検討しておき操作スイッチへ操作禁止札を掛け、あるいは紙のチェックリスト・手順書を運用し、指差呼称で確認後操作する場合も、運転員への負担が大きく操作に時間を要していた。
【0012】
特許文献1は、プラント全体のあるべき状態を演算し現状との比較を行い、操作要・禁止を判断するが、予めデータベースDBに格納した運転状態でしか操作禁止を判断できない。また、操作禁止表示する対象がソフト画面上にシンボル表示されている機器に限定されており、ハード盤面上のスイッチを対象とすることができない。
【0013】
特許文献2は、設定値を変更する場合しない場合のトレンドを比較し設定値変更誤操作を防止するが、設定値の変更指令を一時的にホールドしてしまうため、実動作までのタイムラグがあり、一刻を争う緊急時対応操作時には事象の悪化を招くリスクがある。また、トレンドを比較し操作可否判断するため、運転員の力量に依存してしまう。さらに、対象がプロセス制御装置に対する設定値変更のみに限定されてしまっている。
【0014】
特許文献3は、操作信号を起点とするため、人間が事前に同じ操作をする必要がある。操作前の予測が不可能であり、事前にデータベースに登録されている誤操作しか注意喚起できない。
【0015】
以上述べたように、上記従来技術によれば、例えば特許文献3の訓練により緊急時対応を実施可能であり、また特許文献1によれば操作すべきでない機器が明示されており、また特許文献2によれば機器操作後の状態が推定可能である。
【0016】
しかしながら、原子力発電プラントのように高い信頼性が要求される重要プラントの緊急時に、一斉に警報が鳴動し、異常表示がされ、プロセス量が状態変化する中で、適切な対応を行わせる手法としては、上記従来技術は十分なものではなかった。
【0017】
以上のことから本発明においては、緊急時における運転員の行動を予測的に把握して、その結果を提供可能とすることで運転員の負担を軽減可能なプラント運転支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上のことから本発明においては、「プラントにおけるプラントデータからプラントの運転状態を推定するプラント状態推定部と、プラントにおける運転手順を記憶する手順書データベースと、運転状態に応じて手順書データベースを検索し、当該運転状態における運転手順を検索する手順書検索部と、プラントの運転員の行動を監視して運転員が操作しようとしているプラントの機器を推定する動作分析部と、動作分析部が推定した運転員が操作しようとしている機器と手順書検索部で検索した運転手順を用いて、運転員が操作しようとしている機器の操作の妥当性を外部出力する操作判定部とを備えることを特徴とするプラント運転支援装置。」としたものである。
【0019】
また本発明においては、「プラントの運転員の行動を監視して運転員が操作しようとしているプラントの機器を推定する動作分析部と、動作分析部が推定した運転員が操作しようとしている機器を操作した時におけるプラントの運転状態を推定するプラントシミュレータと、プラントシミュレータの推定結果が所定閾値を超えるときに運転員が操作しようとしている機器の操作の妥当性を外部出力する操作判定部とを備えることを特徴とするプラント運転支援装置。」としたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、プラントの緊急時、運転員が誤操作するリスクを低減することができ、プラントの安全な運転を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】緊急時プラント運転支援装置の全体構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の実施例に係るプラント運転支援装置の全体構成例を示す図である。
【0024】
図1のプラント運転支援装置100は、定点カメラ・マイク13と、制御盤1と、運転員が装着するAR(拡張現実)ゴーグル2と、運転操作予測装置200と、プラント挙動予測装置300と、警告・対応操作ガイド提供装置400を主たる構成要素として構成されている。
【0025】
また
図1のプラント運転支援装置100は、プロセス計算機600に接続されており、プロセス計算機600を経由して実プラント(原子力発電プラント)500から各種のプラントデータS1を入力している。これらのプラントデータS1は、プラントパラメータ、機器状態および警報発生状態であり、プラント運転支援装置100内の制御盤1、運転操作予測装置200、プラント挙動予測装置300に与えられる。
【0026】
プラント運転支援装置100における上記概略構成において、まず制御盤1はプロセス計算機600からの各種のプラントデータS1を入力して表示し、また運転員による制御盤1上の制御機器操作結果をプロセス計算機600に伝送する。この制御盤1は、プラント運転装置に相当するものであり、大型表示盤、主盤により構成されている。
【0027】
制御盤1あるいはその近傍には、定点カメラ・マイク13が設置されており、制御盤1の表示状態を監視しあるいは制御盤1により制御機器操作を実行している運転員Mの位置などについての運転員監視データS2を生成する。運転員監視データS2とは具体的には、運転員の位置、動作画像、音声であり、運転操作予測装置200に与えられる。
【0028】
制御盤1の近傍で行動する運転員Mは、ARゴーグル2を装着しており、さらにARゴーグル2にはカメラ及び視線検出(アイトラッキング)装置14が装備されており、運転員Mの挙動についての運転員挙動データS3を生成する。運転員挙動データS3とは具体的には、運転員の視線、動作画像、音声であり、運転操作予測装置200に与えられる。
【0029】
上記の各種データを用いて、まず運転操作予測装置200は以下のように作動する。運転操作予測装置200は、そのプラント状態判定部3へ入力されたプラントデータS1(プラントパラメータ、機器状態および警報発生状態)を用いて、現在のプラント運転状態が、プラント定常状態なのか、プラントの起動もしくは停止状態なのか、事故事象の前兆・最中なのか、を判定する。判定した運転状態は手順書検索部4へ入力され、運転状態に応じた運転手順書を手順書データベースDBから抽出し、操作判定部7へ入力する。
【0030】
運転状態に応じて取り出された手順書には、当該運転状態において操作対象または操作非対象となる機器、及び各プロセス量についての変動可能許可範囲、各種設定値の調整可能範囲などの手順書情報を含んでいる。
【0031】
他方において、運転操作予測装置200内の動作分析部6には、運転員監視データS2と運転員挙動データS3が与えられている。動作分析部6はこれら運転員監視データS2と運転員挙動データS3における運転員の位置情報から、操作しようとしている盤を推定し、運転員の視線情報および指差呼称やスイッチへ手を伸ばす動作情報から操作しようとしている機器(例えばスイッチ、ハンドルなど)を分析し、操作判定部7へ入力する。
【0032】
操作判定部7では、運転員の操作しようとしている機器を、手順書検索部4からの手順書情報と照合する。例えば運転員の操作しようとしている機器が、当該運転状態において操作対象または操作非対象となる機器であることを確認する。照合した結果、予測される手順と操作が相違する場合には、出力信号O1を警告・対応操作ガイド提供装置400に与える。
【0033】
プラント運転支援装置100内のプラント挙動予測装置300には、プロセス計算機600からの各種のプラントデータS1が与えられている。プラント挙動予測装置300内のプラントシミュレータ8は、プラントデータS1を用いて実プラントの状態を再現する。この場合にプラントシミュレータ8は、動作分析部6から運転員が操作しようとしている機器の情報を入力し、当該機器を操作した場合のプラント挙動(応答)をシミュレーションする。
【0034】
プラントシミュレータ8が予測した応動結果は、挙動判定部9へ入力され、挙動判定部9において、機器操作の結果としてシミュレーションされた予測値が、その警報値に至る場合には、出力信号O2を警告・対応操作ガイド提供装置400に与える。なお、この場合の警報値などは、運転状態に応じて手順書データベースDBから取り出された手順書に記述されている各プロセス量についての変動可能許可範囲、あるいは各種設定値の調整可能範囲などの手順書情報を参照するのがよい。
【0035】
出力信号O1または出力信号02を受信した警告・対応操作ガイド提供装置400内の画像・音声出力部10は、出力信号O1または出力信号02に応じて機器選択ミスである旨を警告表示もしくは警告音声を発生させる。警告表示もしくは警告音声は、運転員が装着しているARゴーグル2に付随するスピーカや画面を通じて直接的に行うものであっても、あるいは制御盤1などを通じて行うものであってもよい。これにより運転員の意図している機器操作を予測的に阻止することができ、機器の誤操作を防止することができる。なお、ARゴーグル2に視線検出装置を設置しているが、制御盤1の面上に備えさせても良い。また、視線検出装置ではなくカメラによって運転員の視線を検出しても良い。なお
図1では、ARゴーグル2に表示する警告ガイド情報の一例を16として示している。
【0036】
本発明は概略上記のように構成されたものであるが、
図1の本発明の実施例に係るプラント運転支援装置各部の詳細について原子力発電プラントを例に詳細に説明すると、以下のようである。
【0037】
まずプラント状態判定部3は、例えばプラント起動停止に関わる給復水ポンプやタービン加減弁開度などの機器運転状態やプラントの主要パラメータである原子炉熱出力、発電機出力、原子炉圧力、復水器真空度などの信号を、プラント状態判定用の指標とし、起動停止曲線上の運転フェーズを特定することができる。
【0038】
運転フェーズを特定すれば手順書検索部4は手順書データベースDBから該当箇所を検索し、操作判定部7が次操作を特定することができる。また、プラント状態が事故事象の場合は、警報発生状態をプラント状態判定部3へ入力しており、事象別にまとめられている事故時手順書に記載の発生警報から、事故事象を判別することができる。
【0039】
動作分析部6は、例えば制御盤1の盤面をメッシュ状に分割し、運転員Mの視線および手の方向・位置情報から制御盤1の盤面上で手を伸ばしている座標を検出し、事前にデータベースに格納してある制御盤正面図および銘板名称一覧表などから操作しようとしている機器を検出することができる。
【0040】
プラントシミュレータ8は、実プラントからプラントパラメータおよび機器状態に関する各種のプラントデータS1を入力することでシミュレーションを開始する初期状態を設定することができ、実プラントと同期してシミュレーションを継続できる。実機プラントパラメータをシミュレータへ伝送する装置追設が困難な場合は、例えば運転員Mの装着しているARゴーグル2に設置のカメラや制御盤1の定点カメラから当該計器の指示値を読み取りシミュレータへ取り込んでも良い。運転員Mが操作を実施しようとしたことを検出した場合は、動作分析部6からの機器操作情報を入力し、数百倍速でシミュレーションを実施し、挙動判定部9にて警報値に至る傾向にあるか判定する。例えば300倍でシミュレーションすれば1秒間で5分後の挙動を予測することが可能となる。
【0041】
上記例では中央制御室の制御盤を例として説明したが、現場盤やラックもしくは現場設置の機器である弁・ポンプなどの機器を対象としても良い。現場機器を対象とする場合は、例えばARゴーグル設置のカメラによって弁やポンプの形状を撮影し、機器形状用データベースと照合し操作しようとしている機器を判別するか、GPSやジャイロを組合せ運転員Mの位置を検出し、建屋の機器配置図から運転員Mの操作しようとしている機器を判別する方法が考えられる。
【0042】
なお手順書検索部4が手順書データベースDBから得るデータには、機器の操作ガイドを含んでいるのがよく、出力される操作ガイドは、操作すべき機器の名称や番号だけでなく、運転員Mを当該機器の場所へルートガイドする機能でも良い。例えば、運転員Mが当該機器から離れた場所にいる場合は、矢印で進むべき方向を示しつつ、平面図(建屋の地図)を表示しガイドし、同一の部屋に来た際には当該機器を色替え表示もしくは点滅表示することで、機器の錯誤を防止することができる。
【0043】
また原子力発電プラントに想定される最悪の事態である全交流電源喪失(SBO)の際には、建屋の照明が消灯してしまい何処に何があるか、どのルートを通れば良いか判別することが困難なことが予想されるため、目的地(操作すべき機器や避難経路)をガイド表示することはプラントの安全な運転のみならず、運転員の安全を確保する観点からも有用である。
【0044】
更に運転操作予測装置200へ入力する運転員Mの視線や動作・音声から運転員Mの緊張・理解・判断状況を判断し、緊急時の対応操作など通常と異なるプレッシャーがかかる場面において運転員Mへのアドバイスを表示し、あるいは他の運転員Mへ注意喚起することでヒューマンエラーを防止する効果があると考えられる。
【0045】
また、上記実施例は実機プラントの運転支援装置について記載しているが、本内容を運転訓練シミュレータへ適用することもできる。その場合、中央制御室はシミュレータの運転訓練用中央制御室となり、制御盤1および運転操作予測装置200、プラント挙動予測装置300へプラントパラメータ・機器状態・警報発生状態を入力する実プラントの代わりに運転訓練シミュレータから信号を出力することとなる。
【0046】
従来の運転訓練シミュレータを用いた訓練は、事故事象への対応操作訓練を実施した後に、訓練を録画したビデオなどを交えた振り返り講義として、誤操作や対応操作の問題点をインストラクタが指摘し運転員M(訓練生)へフィードバックしていた。本発明を用いれば、リアルタイムで運転員Mへの誤操作指摘を行うことができ、誤操作と指摘のタイムラグが短いため、記憶に残りやすく、高い訓練効果が期待できる。また、誤操作の指摘や運転操作のガイドを自動で実施するため、インストラクタの立会無しで自己学習することもできる。経験の浅い運転員Mは上記自己学習を実施した後にインストラクタと訓練を行ったり、インストラクタとの訓練後に繰り返し自己学習したりすることで知識を定着させやすく、またインストラクタの拘束時間と負担を低減することが期待できる。
【0047】
以上述べたように本発明は、プラント運転状態に依らず運転員Mが操作しようとしている機器をソフト画面・ハード盤面に関わらず検出・予測し、当該機器を操作した場合のプラント応答を高速シミュレーションで求め、警報が発生するなど不安全なプラント状態となる場合には警告を発するプラント運転支援装置としたものである。
【0048】
なお、
図1においては、動作判定部7が与える出力信号O1または挙動判定部9が与える出力信号02のいずれかにより、誤った機器の操作であることを予測的に運転員Mに報知、警告をすることを例示しているが、これは動作判定部7が与える出力信号O1と挙動判定部9が与える出力信号02の双方が合致することをもって報知、警告をするものであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1:制御盤(プラント運転装置)
2:AR(拡張現実)ゴーグル
3:プラント状態判定部
4:手順書検索部
DB:手順書データベース
6:動作分析部
7:操作判定部
8:プラントシミュレータ
9:挙動判定部
10:画像、音声出力部
13:定点カメラ・マイク
14:カメラ及び視線検出装置
100:プラント運転支援装置
200:運転操作予測装置
300:プラント挙動予測装置
400:警告・対応操作ガイド提供装置
500:原子力発電プラント
600:プロセス計算機