(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】層システムおよび層システムを備える光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20220208BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20220208BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20220208BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
G02B1/115
G02C7/00
G02B5/26
G02B5/28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019140726
(22)【出願日】2019-07-31
(62)【分割の表示】P 2017535673の分割
【原出願日】2015-10-19
【審査請求日】2019-08-29
(31)【優先権主張番号】102015100091.1
(32)【優先日】2015-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514073189
【氏名又は名称】ローデンシュトック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェルシュリヒト,リュディガー
(72)【発明者】
【氏名】フォークト,ミカエル
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/122253(WO,A1)
【文献】特開2012-093689(JP,A)
【文献】特開2006-165493(JP,A)
【文献】特開2003-248103(JP,A)
【文献】特開平11-030703(JP,A)
【文献】国際公開第2013/171434(WO,A1)
【文献】特開平08-075902(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069250(WO,A1)
【文献】特表2015-520412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0286827(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/115
G02C 7/00
G02B 5/26
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ、4つまたは5つの連続する多層(20、22、24、26、28)の積層体(14)を有する、基板(12)の少なくとも1つの表面(60、62)上に配置される干渉層システム(10、11)を備える光学素子(100)の光学特性を設計するための設計方法であって、
各多層(20、22、24、26、28)は、第1の光学的厚さ(t1)を有する第1の部分層(30)と、前記第1の光学的厚さ(t1)とは異なる第2の光学的厚さ(t2)を有する第2の部分層(32)とを備え、かつ、
前記基板(12)との距離がより少ない方の前記部分層(30)は、もう一方の前記部分層(32)よりも高い屈折特性を有し、
前記第1の部分層(30)は、より高い屈折特性を有する部分層(30)であり、かつ前記第2の部分層(32)は、より低い屈折特性を有する部分層(32)であり、かつ前記より高い屈折特性を有する部分層(30)は、高屈折性の部分層(30)を備え、かつ前記より低い屈折特性を有する部分層(32)は、低屈折性の部分層(32)を備えてなり、
前記層システム(10)の光学特性は、反射率(Rm)及び変数(σ)の積(σ*Rm)を選択することによって設計され、
前記積(σ*Rm)を、多層(20、22、24、26)の各積層体(14)の反射防止及び/又は反射防止効果のために1未満とすることか、または、前記積(σ*Rm)を、前記各積層体(14)の反射効果のために1以上とすることかのいずれかが選択され、
いずれかの選択後、選択された積(σ*Rm)に基づいて、前記多層(20、22、24、26)における前記第1の部分層(30)の前記第1の光学的厚さ(t1)、および、前記第2の部分層(32)の前記第2の光学的厚さ(t2)が設定され、
同じ材料の前記多層(20、22、24、26)を用いながら、同数の多層(20、22、24、26)を同じ層順序で有する前記積層体(14)内の前記多層(20、22、24、26)の厚さを変えることにより変数(σ)が設定され、
前記各多層(20、22、24、26、28)は、前記多層(20、22、24、26、28)の各々のより高い屈折特性を有する第1の部分層(30)の第1の光学的厚さ(t1)およびより低い屈折特性を有する第2の部分層(32)の第2の光学的厚さ(t2)の商(vi)の関数として形成され、前記指数iは、前記積層体(14)における前記連続する多層(20、22、24、26、28)の順位を示し、かつ前記変数(σ)は、前記商(vi)の割合の関数であり、
380nmから800nmまでの可視光範囲に渡って平均されて百分率として与えられる前記多層(20、22、24、26、28)の積層体(14)の前記反射率(Rm)は、前記個々の積層体(14)について予め決定され、かつ前記反射率(Rm)と前記変数(σ)との前記積(σ*Rm)は、前記多層(20、22、24、26、28)の積層体(14)の反射防止および/または反射防止効果を達成するためには1未満に設定され、または、この積層体(14)のミラーリング効果を達成するためには1以上であるように設定され、かつ、
1つまたは複数の多層(20、22、24、26、28)の前記第1および第2の部分層(30、32)の前記光学的厚さ(t1、t2)は、前記変数(σ)が最適化プロセスによって決定され、かつ前記第1および第2の部分層(30、32)が計算される多層(20、22、24、26、28)の積層体(14)の前記多層(20、22、24、26、28)の前記部分層(30、32)の前記光学的厚さ(t1、t2)によって生成されるように指定され、
前記変数(σ)としての、前記各多層(20、22、24、26、28)のより高い屈折特性を有する部分層(30)の前記光学的厚さ(t1)およびより低い屈折特性を有する部分層(32)の前記光学的厚さ(t2)の商(vi)の割合の前記関数は、3つまたは5つの連続する多層(20、22、24、26、28)による積層体(14)の場合、
【数1】
であり、ここで、i=1からnmaxまで、但しnmax=3またはnmax=5、は、前記積層体(14)内の前記多層(20、22、24、26、28)の順位を示し、かつviは、個々の多層(20、22、24、26、28)の前記より高い屈折特性を有する部分層(30)の前記光学的厚さ(t1)の、前記より低い屈折特性を有する部分層(32)の前記光学的厚さ(t2)に対する商から得られ、または、
4つの連続する多層(20、22、24、26)による積層体(14)の場合、
【数3】
であり、数字1から4までは、前記積層体(14)内の前記多層(20、22、24、26)の順位を示し、かつvi、但しi=1から4まで、は、個々の多層(20、22、24、26)の前記より高い屈折特性を有する部分層(30)の前記光学的厚さ(t1)の、前記より低い屈折特性を有する部分層(32)の前記光学的厚さ(t2)に対する商から得られることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記最適化プロセスにおいて、限定値として、前記より高い屈折特性を有する部分層の層厚さに関して最小値2nmおよび最大値150nmが設定され、かつ前記第1の光学的厚さ(t1)に関しても最小値0.01および最大値0.55が設定され、かつ限定値として、前記より低い屈折特性を有する部分層の前記層厚さに関して最小値2nmおよび最大値200nmが設定され、かつ前記第2の光学的厚さ(t2)に関しても最小値0.01および最大値0.53が設定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
より低い屈折特性を有する部分層(32)およびより高い屈折特性を有する部分層(30)は、何れの場合も、前記積層体(14)の前記多層(20、22、24、26、28)において同じ順序で配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記変数(σ)が4未満に設定されて、前記多層(20、22、24、26、28)による積層体(14)が反射防止効果を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
低屈折性の機能層(54)は、前記多層(20、22、24、26、28)による個々の積層体(14)の個々の最後の多層(24、26、28)において、前記2つの部分層(30、32)の間に配置されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
層システム(10、11)は、何れの場合も前記基板(12)の2つの反対側の表面(60、62)上にそれぞれ配置されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記2つの層システム(10、11)は、異なる数の多層(20、22、24、26、28)を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記変数(σ)が1未満に設定されて、前記多層(20、22、24、26、28)による積層体(14)が反射防止効果を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記変数(σ)が0.3未満に設定されて、前記多層(20、22、24、26、28)による積層体(14)が反射防止効果を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
3つ、4つまたは5つの連続する多層(20、22、24、26、28)の積層体(14)を有する、基板(12)の少なくとも1つの表面(60、62)上に配置される干渉層システム(10、11)を備える光学素子(100)を製造する方法であって、
請求項1から9のいずれか一項に記載された前記設計方法に基づいて、前記光学素子(100)の光学特性を設計する工程と、
前記設計方法において設定された前記積(σ*Rm)および前記変数(σ)を使用して、光学素子(100)を製造する工程と、を含む、光学素子(100)を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の光学特性を設定するための層システム、具体的には、眼鏡レンズをコーティングするための層システムに関し、かつこのような層システムを備える光学素子、およびこのような層システムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の光学特性に影響を与えるために光学素子のコーティングを用いることは、知られている。この場合は、例えば反射防止、ミラーリング、フィルタ効果等の光学コーティングの形態毎に、この特別な用途または要件に適合された一連の層が使用される。これらの層設計は、通常、層の順序、使用される材料、プロセス管理、および場合によってはコーティングの方法を異にする。
【0003】
特許文献1は、前面および裏面にコーティングを有する眼鏡レンズを開示している。この場合、眼鏡レンズの前面には、前面に当たる光線のUV成分をカットするためのコーティングが施されている。眼鏡レンズの裏面は、UV範囲で7%以下の加重反射率を有する反射防止コーティングを有する。さらに、眼鏡レンズは、400nmから460nmまでの波長範囲内の青の光成分をフィルタリングするためのコーティングを有する。
【0004】
特許文献2は、180nmから370nmまでの波長範囲内の低減された紫外線反射度を有する光学層システムを開示している。何れの場合も、層システムは、隣接する低屈折特性および高屈折特性を有する層から成る多層から成る。基板に最も近い層は、フッ化マグネシウムから成ってはならず、層のいずれも、紫外領域における動作波長の半分を超える層厚を有さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/171435号
【文献】独国特許出願公開第10101017号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、異なる要件に対しても一様である(要求事項が異なっても統一的に適用できるところの)、恐らくは最も単純なコーティング方法によって光学素子の光学特性に影響を及ぼすことを可能にする、光学素子のための層システムを有する光学素子を作成することにある。
【0008】
本発明のさらなる目的は、このような光学素子を設計し、かつ製造するための方法を生み出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的は、独立請求項に記載されている特徴によって達成される。本発明の効果的な実施形態および優位点は、さらなる請求項、明細書本文および図面から明らかである。
【0010】
本発明は、基板の表面に配置され連続する多層による少なくとも1つの積層体を備える少なくとも1つの層システムを備える光学素子、具体的には眼科用レンズまたは眼鏡レンズに関し、各多層は、第1の光学的厚さt1を有する第1の部分層と、第1の光学的厚さt1とは異なる第2の光学的厚さt2を有する第2の部分層とを備える。この場合、多層の光学特性は、変数σ(パラメータ)の関数として予め決定可能である。したがって、多層は、この変数の関数として予め決定される光学特性を有する。個々の多層は、各々、多層におけるより高い屈折特性を有する部分層の光学的厚さt1、およびより低い屈折特性を有する部分層の光学的厚さt2の商viの関数として形成され、指数iは、積層体における連続する多層の順位を示し、より高い屈折特性を有する部分層は、具体的には高屈折性の部分層を備え、かつより低い屈折特性を有する部分層は、具体的には低屈折性の部分層を備える。この場合、変数σは、何れの場合も、より高い屈折特性を有する部分層の光学的厚さ、およびより低い屈折特性を有する部分層の光学的厚さの商viの割合の関数である。
【0011】
多層による積層体の反射率Rmは、予め決定されることが可能であり、380nmから800nmまでの可視光範囲に渡って平均される単位パーセントの反射率Rmと変数σとの積は、多層による積層体の反射防止および/または反射防止効果の場合に1未満であり、あるいは、380nmから800nmまでの可視光範囲内で発生する積層体のミラーリングまたはミラーリング効果の場合に1以上である。この場合、商viの指数i=1からnmaxまでは、多層の最大数をnmaxとする、連続して、または相互に配列される多層の順序を示す。光学素子の基板上に搭載された状態では、指数iは、個々の多層の基板上の配置位置が基板に近いほど、小さくなる。言い換えると、例えば、光学素子に取り付けられた状態にある5つの多層の積層体では、基板からさらに離れて配置された多層に商v5が割り当てられる。
【0012】
層システムが例えば眼鏡レンズへ適用される場合、指数nmaxを有する多層は、空気に最も近く配置される多層になる。
層システム全体は、光学的に透明な基板へ直に、または硬質層で被覆された基板へも付けることができる。層システムを付ける前に、記述された表面がプラズマによって調整されてもよい。プラズマには、Ar、O2、N2およびこれらに類似するもの等の異なるガスが添加されてもよい。この調整は、起動となり得るが、被覆されるべき表面の締固め等の機能化ともなり得る。
記述したプラズマ調整は、基板から最遠にある最も外側の部分層にも適用することができる。
【0013】
具体的には、本発明は、眼鏡レンズの光学特性に、例えば反射防止コーティングまたは反射防止として、例えば可視光の青成分のフィルタ(青ブロック)として、またはミラーリングとして、等の異なる方法で影響を与えるための眼鏡レンズのコーティングに関する。
【0014】
本発明によれば、これは、一連の連続する多層によって達成され、各多層は、少なくとも、より低い屈折特性を有する部分層と、より高い屈折特性を有する部分層、具体的には低屈折部分層と高屈折部分層、を有する。同じ材料を用いつつも多層の厚さが多様であることにより、具体的には反射防止および/または反射防止効果およびミラーリングに関して、異なる効果/反射率を達成することができる。これは、変数σを最小化/最適化することによって達成される。σは、層厚さの関数、または各多層の部分層の光学的厚さの割合の関数である。
【0015】
この場合、反射度とも称される反射率Rmは、光線の入射強度に対する反射の割合をエネルギーパラメータとして表す。
【0016】
本発明によれば、反射率Rmと変数σとの積が1未満に設定されていれば、多層の積層体の予め決定可能な反射率Rmに対して、多層の積層体による反射防止および/または反射防止効果が達成される。
【0017】
この場合、反射率Rmは、先に述べた関係式によって、入射光線の入射強度に対する反射強度の割合として決定されることが可能であり、反射率Rmは、効果的には、380nmから800nmまでの可視光範囲で平均され、100%を基礎として、または百分率で与えられる。このような条件は、層システムを製造する方法の最適化プロセスの境界条件として設定されてもよい。
【0018】
さらに、反射率Rmと変数σとの積が1以上に設定されれば、多層による積層体の予め決定可能な反射率Rmに対してミラーリングを達成することができる。このような条件もやはり、便宜上、層システムを製造する方法の最適化プロセスの境界条件として設定されてもよい。
【0019】
このタイプのコーティングを用いれば、同じ層順序および同じ材料で、最も多様な反射防止効果、最も多様な形態および構成のミラーリング、ならびに最も多様な光学フィルタ(IRブロック、青色ブロック、UV保護、高レベル無色反射防止)を生成することが可能である。換言すれば、層構造は、層材料および関連するコーティングプロセスの選択に関して常に同じである。
【0020】
本発明による層システムの重要な優位点は、異なるタイプのコーティングの相違点が、個々の部分層厚さの選択だけでしかないことにある。このようなコヒーレントなコーティングプロセスにより製造される層システムは、さらに、装置の全体的開発、整理、始動、プロセスの保全および装置の取り扱い(機器、調整、他)を単純化する。対応する専門スタッフは、コーティング機器の作動時および設定/調整に際して、1つのコーティング概念を習得すればよい。
【0021】
このタイプのコーティングにおいて、用途のタイプを決定づけるものは、もはや使用される材料ではなく、層の順序、延ては、光学コーティングの干渉システム(interferometric system)全体での層上への作用である。
【0022】
このタイプの層システムは、これまでに使用されている光学コーティングを適応させることができる。さらに、層システムのこのようなプラットフォーム概念に起因して、このようにして生成されるコーティングは、例えば、接着力、耐引っ掻き性、耐熱性、気候、他等の類似する機械的層特性を有する。
【0023】
本発明によれば、このような層システムにおいて、3つまたは5つの連続する多層による積層体の変数σは、以下の通り決定できる。
【0024】
【0025】
ここで、i=1からnmaxまで、但しnmax=3またはnmax=5、は、積層体内の多層の順位を指し、かつviは、個々の多層のより高い屈折特性を有する部分層の光学的厚さt1の、より低い屈折特性を有する部分層の光学的厚さt2に対する商から得られる。この場合、光学的厚さtまたはFWOT(全波光学的厚さ)は、以下の通り決定できる。
【0026】
【0027】
ここで、dは、層厚さを表し、λは、設計波長を表し、nは、部分層の屈折率を表す。
【0028】
本発明によれば、4つの連続する多層による積層体の場合、変数σは以下の通り決定できる。
【0029】
【0030】
ここで、数字1から4までは、3つまたは5つの連続する多層による積層体の例における指数iに対応していて積層体内の多層の順位を示し、かつviは、個々の多層のより高い屈折特性を有する部分層の光学的厚さt1の、より低い屈折特性を有する部分層の光学的厚さt2に対する商から得られる。
【0031】
ある効果的な実施形態によれば、より低い屈折特性を有する部分層およびより高い屈折特性を有する部分層は、何れの場合も、積層体の多層内に同じ順序で配置されることが可能である。したがって、層システム全体では、何れの場合も常に、より低い屈折特性を有する部分層に、より高い屈折特性を有する部分層が続く。その結果、コーティングプロセスも、効果的に標準化されかつ合理化されることが可能である。
【0032】
さらなる効果的な実施形態によれば、多層の積層体による反射防止または反射防止作用および/または反射防止効果は、変数σが4未満に、好ましくは1未満、特に好ましくは0.3未満に設定されれば達成されることが可能である。したがって、多層の積層体は、変数σが4未満の場合に反射防止効果を有する。これもまた、おそらくは、層システムを製造する方法の最適化プロセスのための有益な境界条件を構成する。
【0033】
さらなる効果的な実施形態によれば、同じ多層内のより高い屈折特性を有する部分層およびより低い屈折特性を有する部分層の屈折率n1、n2の差は、0.2より大きく、好ましくは0.3より大きく、特に好ましくは0.4より大きくてもよい。屈折率n1、n2のこのような差は、具体的には眼鏡レンズの分野で使用される場合、層システム内に多くの、例えば3つ、4つまたは5つの連続する多層が存在するとすれば、層システムの光学特性の目標とされる影響を所望される方法で達成するには十分である。
【0034】
さらなる効果的な実施形態によれば、高屈折性の部分層は、少なくとも1.6、好ましくは少なくとも1.7、特に好ましくは少なくとも1.8、特別に好ましくは少なくとも1.9である第1の屈折率n1を有してもよく、かつ低屈折性の部分層は、最大1.55、好ましくは最大1.48、特に好ましくは最大1.4である第2の屈折率n2を有する。
屈折率に関するこれらの詳細は、使用される温度25℃ならびに光強度の基準波長550nmにおける標準状態に関連する。
【0035】
異なる屈折率を有する層材料の典型的な例には、屈折率1.46の二酸化ケイ素(SiO2)、屈折率1.7の酸化アルミニウム(Al2O3)、屈折率2.05の酸化ジルコニウム(ZrO2)、屈折率2.1の酸化チタンプラセオジム(PrTiO3)、何れの場合も屈折率2.3である酸化チタン(TiO2)および硫化亜鉛(ZnS)が含まれる。これらの値は、平均値を構成するものであり、コーティングプロセスおよび層厚さに依存して最大10%まで変わり得る。
【0036】
従来の光学レンズは、1.5から2.0までの間の屈折率を有する。したがって、光学レンズと組み合わせた、1.5未満の屈折率を有するMgF2、SiO2、Al2O3等の層材料は、低屈折材料と称され、かつ光学レンズと組み合わせた、2.0より大きい屈折率を有するZrO2、PrTiO3、TiO2、ZnS等の層材料は、高屈折材料と称される。したがって、高屈折材料と低屈折材料との屈折率の差は、コーティングプロセスおよび層厚さに依存して少なくとも0.2から少なくとも0.5までである。
【0037】
さらなる効果的な実施形態によれば、多層の積層体の最後の多層は、各々、2つの部分層の間に機能層を有してもよい。この機能層は、例えば、導電性を高めることによって帯電防止効果を上げることができ、応力の弾性均等化をもたらすことができ、または拡散バリアとして用いることもできる。
【0038】
さらなる効果的な実施形態によれば、多層の積層体内では、より低い屈折特性を有する部分層を類似材料から形成することができ、かつ/または多層の積層体内では、より高い屈折特性を有する部分層を類似材料から形成することができる。その結果、コーティング材料として2つの材料を用いる層システムを製造することが可能であり、これにより、装置の観点から、またオペレータの観点からの双方で、層システムの開発および製造が大幅に単純化され、延ては促進もされる。
【0039】
さらなる効果的な実施形態によれば、より高い屈折特性を有する部分層は、材料Ta2O5、TiO2、ZrO2、Al2O3、Nd2O5、Pr2O3、PrTiO3、La2O3、Nb2O5、Y2O3、HfO2、ITO(インジウムスズ酸化物)、Si3N4、MgO、CeO2およびこれらの改変体、具体的にはこれらの他の酸化段階、のうちの少なくとも1つを含んでもよい。これらの材料は、光学素子において、例えば眼鏡レンズをコーティングするため等に用いるための、高い従来的な屈折率を有する材料として知られている。しかしながら、部分層全体の屈折率が1.6より大きいものである限り、より高い屈折特性を有する部分層は、SiO2またはより低い屈折特性を有する他の材料も含んでもよい。
【0040】
さらなる効果的な実施形態によれば、より低い屈折特性を有する部分層は、材料SiO、SiO2、シラン、シロキサンのうちの少なくとも1つを含んでもよい。しかしながら、より低い屈折特性を有する部分層は、SiO2とAl2O3との混合物も含んでもよい。より低い屈折特性を有する部分層は、好ましくは、少なくとも80重量%のSiO2、特に好ましくは少なくとも90重量%のSiO2を含んでもよい。
【0041】
このタイプのコーティングに使用される材料は、光学分野において例えばPVDプロセス(PVD=物理蒸着)またはCVDプロセス(CVD=化学蒸着)によって適用される典型的な材料である。これは、より低い屈折特性を有する材料として、SiO2およびSiO2との混合物が好ましいことを意味する。全ての典型的な高屈折酸化物材料およびそれらの混合物が、高屈折材料として可能である(Ta2O5、TixOy、ZrO2、他)。過去のコーティングにはある程度必要であったような特定の材料組成の選定は、本発明による層システムではもはや提供されない。
【0042】
したがって、光学産業における典型的な高屈折金属酸化物(Ta2O5、TixOy、ZrO2およびこれらに類似するもの)およびその混合物は、全て、より高い屈折特性を有する材料として使用されてもよい。
【0043】
光学産業における典型的な低屈折金属酸化物(SiO、SiO2;Al添加SiO2、SiOおよび純粋な形態のシランおよびシロキサン、またはそれらのフッ素化誘導体およ
びこれらに類似するもの)およびその混合物は、全て、より低い屈折特性を有する材料として使用されてもよい。
【0046】
ある効果的な実施形態では、光学素子において、基板との距離がより少ない方の部分層は、もう一方の部分層より高い屈折特性を有し得る。このように、より高い屈折特性を有する部分層およびより低い屈折特性を有する部分層は、何れの場合も、層システムにおいて交互に配置されることから、層システムの個々の多層の部分層の順序が規定される。
【0047】
記述しているコーティングは、被覆されるべき基板の両側に付けられても、片側のみに付けられてもよく、よって、さらなる効果的な実施形態によれば、層システムは、何れの場合も、基板の2つの反対面上に設けられてもよい。
【0048】
別の効果的な実施形態によれば、基板の2つの反対面上に設けられる層システムは、異なる数の多層を有してもよい。2つの層システムのうちの一方は、最上の多層上に追加の機能層も有することができるが、2つの層システムのうちのもう一方の層にはこれがない。
【0049】
さらなる効果的な実施形態によれば、基板の少なくとも一方の表面は、硬質層でコーティングされることが可能である。この硬質層は、有機ワニス層として、または、場合により可能な添加剤を含む例えばSiO2等の無機層としても設計されることが可能である。
【0050】
さらなる態様によれば、本発明は、基板の少なくとも一方の表面に配置される、3つ、4つまたは5つの連続する多層の積層体を有する干渉層システムを備える光学素子を製造するための方法に関し、各多層は、第1の光学的厚さを有する第1の部分層と、第1の光学的厚さとは異なる第2の光学的厚さを有する第2の部分層とを備え、基板との距離がより少ない方の部分層は、もう一方の部分層より高い屈折特性を有し、第1の部分層は、より高い屈折特性を有する部分層であり、かつ第2の部分層は、より低い屈折特性を有する部分層であり、より高い屈折特性を有する部分層は、具体的には高屈折性の部分層を備え、かつより低い屈折特性を有する部分層は、具体的には低屈折性の部分層を備え、同じ多層材料を用いながら、同数の多層を同じ層順序で有する積層体内の多層の厚さが多様であることにより、層システムの光学特性は、変数σ(パラメータ)の関数として設定され、個々の多層は、各々多層のより高い屈折特性を有する第1の部分層の第1の光学的厚さ(t1)およびより低い屈折特性を有する第2の部分層の第2の光学的厚さt2の商viの関数として形成され、指数iは、積層体における連続する多層の順位を示す。この場合、変数σは、商viの割合の関数であり、指数iは、積層体における連続する多層の順位を示し、より高い屈折特性を有する部分層は、具体的には高屈折性の部分層を備え、かつより低い屈折特性を有する部分層は、具体的には低屈折性の部分層を備える。この場合、380nmから800nmまでの可視光範囲に渡って平均される多層による積層体の反射率Rmは、百分率として予め決定されてもよい。反射率Rmと変数σとの積は、多層による積層体の反射防止または反射防止効果および/または反射防止効果を達成するために1未満となるように設定されるか、ミラーリングまたはミラーリング効果のために1以上となるように設定される。1つまたは複数の多層の第1および第2の部分層の光学的厚さt1、t2は、変数σが最適化プロセスによって、好ましくは変分計算法によって決定されるように指定される。
【0051】
第1および第2の部分層は、これに基づいて、計算された変数、具体的には多層による積層体の多層の部分層の光学的厚さt1、t2を用いて生成される。
【0052】
層システムの光学的特性は、上記で既に述べたように、変数σの適切な選択、または反射率との積Rm*σの適切な選択によって設定されることが可能である。例えば、多層の
積層体による反射防止および/または反射防止効果は、変数σが4未満に、好ましくは1未満、特に好ましくは0.3未満に設定されれば達成することができる。
【0053】
さらに、反射率Rmと変数σとの積が1未満に設定されれば、多層による積層体の予め決定可能な反射率Rmに関して、多層の積層体による反射防止/反射防止効果を達成することができる。あるいは、反射率Rmと変数σとの積が1以上に設定されれば、多層による積層体の予め決定可能な反射率Rmに関してミラーリングを達成することができる。
【0054】
効果的には、より高い屈折特性を有する部分層の層厚さは、2nmから150nmまでの間に設定することができ、かつ光学的厚さt1も、0.01から0.55までの間に設定することができる。さらに、より低い屈折特性を有する部分層の層厚さは、2nmから200nmまでの間に設定することができ、かつ光学的厚さt2も、0.01から0.53までの間に設定することができる。部分層の層厚さおよび/または光学的厚さt1、t2のこれらの最小値および最大値は、効果的には、最適化プロセスの限界値を形成する。
【0055】
この場合、変数σは、個々の部分層の光学的厚さを、変数σが所望される範囲内にある程度にまで変えることによって最適化される。この変化は、非線形最適化プロセスによって達成することができるが、その可能な方法の1つが変分計算法である。しかしながら、例えば進化的アルゴリズム、クラスタ分析またはニューラルネットワークといった他の局所的または全体的な非線形最適化方法も考えられる。この場合は、生成される層システムの測定結果が次に新たな最適化計算の変数に包含され、よってより信頼性の高い結果が得られるように、反復手順も考えられる。最適化のためには、例えば、Thin Film
Center Inc.から市販されている最適化/計算プロセス(ソフトウェアパッケージ、Essential Macleod)またはFilmstarが使用されてもよい。
【0056】
さらなる優位点は、図面に関する以下の説明から明らかである。図面には、本発明の実施形態が示されている。図面、明細書本文および特許請求の範囲には、多くの特徴が組み合わせて含まれている。当業者であれば、効果的には、これらの特徴を個別にも考慮して、これらのさらなる合理的な組み合わせを生み出すであろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】基板の両面に層システムが配置されている、本発明の例示的な一実施形態による光学素子を示す。
【
図2】3つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムを示す。
【
図3】4つの多層を有する、本発明のさらなる例示的な一実施形態による層システムを示す。
【
図4】5つの多層を有する、本発明の別の例示的な実施形態による層システムを示す。
【
図5】反射防止の緑色、反射防止の青色ブロックおよび反射防止UVコーティングとして適用するための3つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの変数を示す。
【
図6】反射防止の無色、反射防止の赤色および反射防止金コーティングとして適用するための3つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの変数を示す。
【
図7】青色ミラーリング、赤色ミラーリング、緑色ミラーリングおよび金ミラーリングとして適用するための3つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの変数を示す。
【
図8】反射防止の緑色、反射防止の青色ブロックおよび反射防止UVコーティングとして適用するための4つの多層を有する、本発明のさらなる例示的な一実施形態による層システムの変数を示す。
【
図9】反射防止の無色、反射防止の赤色および反射防止の金コーティングとして適用するための4つの多層を有する、本発明のさらなる例示的な一実施形態による層システムの変数を示す。
【
図10】青色ミラーリング、赤色ミラーリング、緑色ミラーリングおよび金ミラーリングとして適用するための4つの多層を有する、本発明のさらなる例示的な一実施形態による層システムの変数を示す。
【
図11】反射防止の緑色、反射防止の青色ブロックおよび反射防止UVコーティングとして適用するための5つの多層を有する、本発明の別の例示的な実施形態による層システムの変数を示す。
【
図12】反射防止の無色、反射防止の赤色および反射防止金コーティングとして適用するための5つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの変数を示す。
【
図13】青色ミラーリング、赤色ミラーリング、緑色ミラーリングおよび金ミラーリングとして適用するための5つの多層を有する、本発明の別の例示的な実施形態による層システムの変数を示す。
【
図14】反射防止の青色ブロックフィルタとして適用するための4つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの反射曲線を示す。
【
図15】反射防止の無色コーティングとして適用するための4つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの反射曲線を示す。
【
図16】反射防止のUVフィルタとして適用するための4つの多層を有す、本発明の例示的な一実施形態による層システムの反射曲線を示す。
【
図17】反射防止の赤色コーティングとして適用するための4つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの反射曲線を示す。
【
図18】反射防止の黄色コーティングとして適用するための4つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの反射曲線を示す。
【
図19】赤色ミラーリングとして適用するための4つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの反射曲線を示す。
【
図20】青色ミラーリングとして適用するための4つの多層を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システムの反射曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図面において、類似する、または同等のコンポーネントには同じ参照符号が付されている。図面は、単なる例示であって、限定として理解されるべきではない。
【0059】
図1は、基板12の両面60、62に層システム10、11が配置されている、本発明の例示的な一実施形態による光学素子100を示す。図示されている例示的な実施形態において、基板12は、2つの表面60、62の各々が硬質層16でコーティングされ、何れの場合も、その上に層システム10、11が付される。この硬質層16は、有機ワニス層として、または、場合により可能な添加剤を含む例えばSiO
2等の無機層としても設計されることが可能である。
【0060】
層システム10、11を付す前に、表面60、62は、プラズマ処理によって調整されることが可能である。プラズマには、Ar、O2、N2またはこれらに類似するもの等の異なるガスが添加されてもよい。この調整は、起動となり得るが、例えば圧縮を目的とする、被覆されるべき表面の機能化ともなり得る。層システム10、11の最上の部分層も、このようなプラズマ調整を受けることができる。
【0061】
2つの層システム10、11は、これらが異なる数の多層を有する点で、異なる構造を
有することもできる。2つの層システム10、11のうちの一方は、最上の多層上に追加の機能層も有することができるが、2つの層システム10、11のうちのもう一方の層にはこれがない。
【0062】
これに関連して、
図2は、3つの多層20、22、24を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10を示す。層システム10は、最下層として、基板12上または基板12に付される硬質層16上へ直に良好に接着するための接着向上層18を有する。この接着向上層18は、例えば、準化学量論的な低屈折金属酸化物、クロム、シランさらにはシロキサンからも成り得る。
【0063】
次には、その上に個々の多層20、22、24が連続して配置され、多層20、22は、何れの場合も、より低い屈折特性を有する部分層32に続く、より高い屈折特性を有する部分層30から成る。基板12との距離が少ない方の部分層30は、もう一方の部分層32より高い屈折特性を有する。最上の多層24は、より高い屈折特性を有する部分層30と、より低い屈折特性を有する部分層32との間に、例えば、導電性を高め、応力を等化するように作用する、または拡散バリアとして作用することが可能な機能層54も有する。光学的に関連のあるこの機能層54は、低屈折材料で構成されてもよく、かつ例えばアルミニウム等の他の金属酸化物と合金化されてもよい。
【0064】
最上の多層24上には、機能層52も配置される。機能層52は、多層24の最後の光学的に関連のある部分層32へ付され、かつフッ素含有分子を含有し得る。この機能層52の機能は、通常、典型的には15mN/m未満の表面エネルギーを有する撥水および撥油機能等の特性を有する、改善された保全特性を構成する。
【0065】
層システム10の光学特性が設定される、層システム10を製造するための方法は、個々の多層20、22、24が、多層20、22、24の個々のより高い屈折特性を有する第1の部分層30の第1の光学的厚さt1およびより低い屈折特性を有する第2の部分層32の第2の光学的厚さt2の商v1、v2、v3の関数として形成され、かつ変数σは、商v1、v2、v3の割合の関数である、という事実に基づいている。1つまたは複数の多層20、22、24の第1および第2の部分層30、32の光学的厚さt1、t2は、変数σが最適化プロセスによって、好ましくは変分計算によって決定され、かつ第1および第2の部分層30、32は、計算された変数、具体的には多層20、22、24による積層体14の多層20、22、24の部分層30、32の光学的厚さt1、t2、を用いて生成されるように指定される。同様に、層システム10は、変数σを変えることにより、4つまたは5つの多層20、22、24、26、28によって製造されてもよい。
【0066】
図3は、本発明のさらなる例示的な一実施形態による、4つの多層20、22、24、26を有する
図2のそれに類似する層システム10を示す。これは、さらなる多層26を含む。この例示的な実施形態では、層システム10の最も外側の多層を構成するのが多層26であることから、機能層54は、多層26に組み込まれる。さらなる機能層52は、最も外側の多層26の最後の部分層32へ付される。
【0067】
図4は、5つの多層20、22、24、26、28を有する、本発明の別の例示的な実施形態によるさらなる層システム10を示す。この例示的な実施形態では、層システム10の最も外側の多層を構成するのが多層28であることから、機能層54は、多層28に組み込まれる。さらなる機能層52は、最も外側の多層28の最後の部分層32へ付される。
【0068】
図5は、反射防止緑色コーティングを表すAntiref_g、反射防止青色ブロックコーティングを表すAntiref_bbおよび反射防止UVコーティングを表すAnt
iref_uvによるアプリケーションに関する、3つの多層20、22、24を有する本発明の例示的な一実施形態による層システム10の変数を記載している。変数dは、厚さを示し、かつ変数MATは、層材料を示す。
【0069】
多層20、22、24は、何れの場合も、類似の材料Ta2O5による部分層30と、類似の材料SiO2による部分層32とで構成される。最も上側の多層24は、2つの部分層30、32の間にAl2O3による機能層54を有する。この場合、Ta2O5は、典型的には2.03の屈折率を有し、SiO2は、典型的には充填密度に依存して1.46から1.62までの屈折率を有し、Al2O3は、典型的には1.67の屈折率を有する。したがって、より高い屈折特性を有する部分層とより低い屈折特性を有する部分層との屈折率の差は、0.2から0.5までの間である。
【0070】
例えばTa2O5およびTiO2の屈折率は、例えばプラズマサポートによって特定の範囲に設定されることが可能である。例えば、Ta2O5の場合、屈折率は、この方法で、例えば1.95から2.15までの間に設定されてもよい。TiO2についても、同様である。
【0071】
図5に示されている層システム10は、連続する多層20、22、24による積層体14を有し、各多層20、22、24は、第1の光学的厚さt1を有する第1の部分層30と、第1の光学的厚さt1とは異なる第2の光学的厚さt2を有する第2の部分層32と備える。多層20、22、24の光学特性は、変数σの関数として予め決定可能である。個々の多層20、22、24は、多層20、22、24の個々のより高い屈折特性を有する部分層30の光学的厚さt1およびより低い屈折特性を有する部分層32の光学的厚さt2の商v
1、v
2、v
3の関数として形成される。より高い屈折特性を有する部分層30は、具体的には、
図5の例示的な実施形態においてTa
2O
5である高屈折性の部分層30を備え、かつより低い屈折特性を有する部分層32は、具体的には、
図5の例示的な実施形態においてSiO
2である低屈折性の部分層32を備える。変数σは、商v
1、v
2、v
3の割合の関数である。
図5において、部分層30、32の光学的厚さt1、t2は、何れもFWOT欄に列挙されている。さらに、物理的厚さも、単位nmで示されている。より低い屈折特性を有する部分層32およびより高い屈折特性を有する部分層30は、何れの場合も、積層体14の多層20、22、24において同じ順序で配置されている。
【0072】
図5における、連続する3つの多層20、22、24による積層体14の変数σは、次式で表される。
【0073】
【0074】
ここで、i=1からnmaxまでであって、(このiは)積層体内の多層の順位を示すものであって、nmax=3の場合、次式で表される。
【0075】
【0076】
ここで、v1、v2、v3は、多層20、22、24のより高い屈折特性を有する部分層30の光学的厚さt1の、より低い屈折特性を有する部分層32の光学的厚さt2に対する商から生じ、v1は、基板の最も近くに存在する多層20に関連づけられ、v2は、中央の多層22に関連づけられ、かつv3は、最も外側の多層24に関連づけられる。多層20、22、24による積層体14の反射率Rmは、予め決定されてもよい。この場合、反射率Rmと変数σとの積が1未満に設定されれば、多層20、22、24の積層体14による反射防止/反射防止効果を達成することができる。この場合、反射率Rmは、380nmから800nmまでの間の可視範囲で平均される。ミラーリングは、反射率Rmと変数σとの積が1以上であるように設定されれば達成することができる。また、多層20、22、24の積層体14による反射防止および/または反射防止効果は、変数σが4未満に、好ましくは1未満、特に好ましくは0.3未満に設定される場合にも達成することができる。
【0077】
図6は、反射防止無色コーティングを表すAntiref_f、反射防止赤色コーティングを表すAntiref_rおよび反射防止金コーティングを表すAntiref_goによるアプリケーションに関する、3つの多層20、22、24による積層体14の本発明の例示的な実施形態による層システム10の変数を示し、
図7は、青色ミラーリングを表すV_b、赤色ミラーリングを表すV_r、緑色ミラーリングを表すV_gおよび金ミラーリングを表すV_goによるコーティングのアプリケーションに関する。変数dは、厚さを示し、かつ変数MATは、層材料を示す。この場合は、ミラーリングが、反射率Rmと変数σとの積、すなわちσ*Rmが1より大きいことによって達成され、記述されているこの例示的な実施形態において、これは、大きさの程度の観点から、11から21までの間の値を有することが認識され得る。一方で、σ*Rm値が1未満であれば、反射防止/反射防止効果が達成される。反射防止の層システムでは、σは、0.31以下の値を有する。
【0078】
図8は、反射防止緑色コーティングを表すAntiref_g、反射防止青色ブロックコーティングを表すAntiref_bbおよび反射防止UVコーティングを表すAntiref_uvによるアプリケーションに関する、各々Ta
2O
5である類似する部分層30およびSiO
2である部分層32で構成される4つの多層20、22、24、26による積層体14の本発明のさらなる例示的な一実施形態による層システム10の対応する変数を示す。変数dは、厚さを示し、かつ変数MATは、層材料を示す。この場合も、最も上側の多層26は、部分層30と部分層32との間にAl
2O
3である機能層54を有する。
【0079】
図8における、4つの多層20、22、24、26の変数σは、次式で表される。
【0080】
【0081】
ここで、v1、v2、v3、v4は、個々の多層20、22、24、26のより高い屈折特性を有する部分層30の光学的厚さt1の、より低い屈折特性を有する部分層32の光学的厚さt2に対する商から得られ、v1は、多層20に関連づけられ、v2は、多層22に関連づけられ、v3は、多層24に関連づけられ、かつv4は、多層26に関連づけられる。
【0082】
図9は、反射防止無色コーティングを表すAntiref_f、反射防止赤色コーティングを表すAntiref_rおよび反射防止金コーティングを表すAntiref_goによるアプリケーションに関する、4つの多層20、22、24、26を有する例示的な実施形態による層システム10の変数を示す。変数dは、厚さを示し、かつ変数MATは、層材料を示す。
【0083】
図10は、青色ミラーリングを表すV_b、赤色ミラーリングを表すV_r、緑色ミラーリングを表すV_gおよび金ミラーリングを表すV_goを有するアプリケーションに関する、4つの多層20、22、24、26を有する例示的な実施形態による層システム10の変数を示す。変数dは、厚さを示し、かつ変数MATは、層材料を示す。この場合も、ミラーリングが、反射率Rmと変数σとの積、すなわちσ*Rmが1より大きいことによって達成され、記述されているこの例示的な実施形態において、これは、大きさの程度の観点から、4から50までの間の値を有することが認識され得る。一方で、σ*Rm値が1未満であれば、反射防止/反射防止効果が達成される。反射防止の層システムでは、σは、0.41以下の値を有する。
【0084】
図11は、反射防止緑色コーティングを表すAntiref_g、反射防止青色ブロックコーティングを表すAntiref_bbおよび反射防止UVコーティングを表すAntiref_uvによるアプリケーションに関する、各々Ta
2O
5である類似する部分層30およびSiO
2である部分層32で構成される5つの多層20、22、24、26、28による積層体14の本発明の別の例示的な実施形態による層システム10の対応する変数を示す。変数dは、厚さを示し、かつ変数MATは、層材料を示す。この場合も、最も上側の多層28は、部分層30と部分層32との間にAl
2O
3である機能層54を有する。
【0085】
図11における、5つの多層20、22、24、26、28の変数σは、次式で表される。
【0086】
【0087】
ここで、i=1からnmaxまでであって、(このiは)積層体内の多層の順位を示すものであって、nmax=5の場合、次式で表される。
【0088】
【0089】
v1、v2、v3、v4、v5は、個々の多層20、22、24、26、28のより高い屈折特性を有する部分層30の光学的厚さt1の、より低い屈折特性を有する部分層32の光学的厚さt2に対する商から生じ、v1は、多層20に関連づけられ、v2は、多層22に関連づけられ、v3は、多層24に関連づけられ、v4は、多層26に関連づけられ、かつv5は、多層28に関連づけられる。
【0090】
図12は、反射防止無色コーティングを表すAntiref_f、反射防止赤色コーティングを表すAntiref_rおよび反射防止金コーティングを表すAntiref_goによるアプリケーションに関する、5つの多層20、22、24、26、28を有する層システム10の変数を示し、かつ
図13は、青色ミラーリングを表すV_b、赤色ミラーリングを表すV_r、緑色ミラーリングを表すV_gおよび金ミラーリングを表すV_goによるアプリケーションに関する。変数dは、厚さを示し、かつ変数MATは、層材料を示す。この場合も、ミラーリングが、反射率Rmと変数σとの積、すなわちσ*Rmが1より大きいことによって達成され、記述されているこの例示的な実施形態において、これは、大きさの程度の観点から、1.06から27までの間の値を有することが認識され得る。一方で、積σ*Rmが1未満であれば、反射防止/反射防止効果が達成される。反射防止の層システムでは、σは、0.22以下の値を有する。
図13における青色ミラーリングの層システム10において、σは、やはり0.14であるが、積σ*Rmは、1.06であり、すなわち1より大きい。したがって、積σ*Rmは、層システム10が必要なミラーリングを示すための十分な条件である。
【0091】
図14は、反射防止の青色ブロックフィルタとして適用するための4つの多層20、22、24、26を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10の反射曲線を示し、単位nmの波長λに渡る反射Rが単位%で示されている。従って、反射曲線の最大値は、約300nmの光波長における青のスペクトル範囲に存在し、こうして青の光成分の透過が最小限に抑えられる。約400nmを超えると、反射は、極めて少なく、すなわち透過率が非常に高い。
【0092】
一方で、
図15は、反射防止の無色コーティングとして適用するための4つの多層20、22、24、26を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10の反射曲線を示し、単位nmの波長λに渡る反射Rが単位%で示されている。この場合、反射は、380nmから580nmまでの波長範囲において最小であり、その後再び緩やかに増加するが、800nmでもまだ5%に満たない。したがって、透過率は、光の広い可視範囲に渡って極めて高い。
【0093】
図16は、反射防止UVフィルタとして適用するための4つの多層20、22、24、26を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10の反射曲線を示し、単位nmの波長λに渡る反射Rが単位%で示されている。この例示的な実施形態において、反射曲線は、低値への限界波長である約300nmより下でかなり急に上昇する。その結果、光のこのUV成分は、効果的に遮断され、一方で、可視範囲は、95%までの非常に高い透過率を有する。
【0094】
図17は、反射防止赤色コーティングとして適用するための4つの多層20、22、24、26を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10の反射曲線を示し、単位nmの波長λに渡る反射Rが単位%で示されている。この例示的な実施形態では、約350nm未満の範囲における反射が極めて高いことから、UV成分は、効果的に遮断される。しかしながら、これと同時に、反射は、580nmからも増加し、これは、反射防止の層システムが、反射された赤色の光成分も反射し、一方で380nmから580n
mまでの間の透過率は極めて高いことを意味する。
【0095】
図18は、反射防止黄色コーティングとして適用するための4つの多層20、22、24、26を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10の反射曲線を示し、単位nmの波長λに渡る反射Rが単位%で示されている。この例示的な実施形態では、波長約350nmで最大反射を認識することができ、一方で、400nm超の範囲は、極めて低い反射率を有する。その結果、青の範囲が反射されることから、透過される光成分は、明らかに黄色の範囲内にある。
【0096】
図19は、赤色ミラーリングとして適用するための4つの多層20、22、24、26を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10の反射曲線を示し、単位nmの波長λに渡る反射Rが単位%で示されている。この例示的な実施形態では、300nm未満および580nmを超える赤色範囲の双方で反射が略増加しているが、これは、ミラーリング層が赤色として現出することを意味する。
【0097】
一方で、
図20は、青色ミラーリングとして適用するための4つの多層20、22、24、26を有する、本発明の例示的な一実施形態による層システム10の反射曲線を示し、単位nmの波長λに渡る反射Rが単位%で示されている。この例示的な実施形態では、約350nmから580nmまでの波長範囲において比較的高い反射が存在する。約580nmを超える赤の光成分が透過されることから、これにより、ミラーリング層が青色になって現れる。