(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】電力ネットワークの複数の測定ノード間の相互電圧感度係数を求める方法
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20220208BHJP
G01R 21/00 20060101ALI20220208BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20220208BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20220208BHJP
G01R 21/133 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
H02J13/00 301A
G01R21/00 P
H02J3/38 110
H02J3/46
G01R21/00 Q
G01R21/133 E
(21)【出願番号】P 2019506556
(86)(22)【出願日】2017-04-12
(86)【国際出願番号】 IB2017052116
(87)【国際公開番号】W WO2017182918
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-03-02
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518372224
【氏名又は名称】デプシス ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100196612
【氏名又は名称】鎌田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】ジャトン ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】ベッソン グイヨーム
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴィヴォ ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】カルピタ マウロ
(72)【発明者】
【氏名】パオローネ マリオ
(72)【発明者】
【氏名】クリスタクー コンスタンティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ミュニエ カール
(72)【発明者】
【氏名】アリザーデモウサヴィ オミード
【審査官】坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0153153(US,A1)
【文献】特開2010-220283(JP,A)
【文献】特開2005-222444(JP,A)
【文献】特開2005-160260(JP,A)
【文献】特開2013-009556(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123189(WO,A1)
【文献】特開2012-005310(JP,A)
【文献】特開2014-155430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00- 5/00
13/00
G01R11/00-11/66
21/00-22/10
35/00-35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ネットワーク(1)の複数の測定ノード(M1,...,M7)間の相互電圧感度係数を求める方法であって、該電力ネットワークは、電圧、電流、及び該電圧と該電流との間の位相差を局所的に測定する計測ユニットを該測定ノードの各々に含むモニタリングインフラを備え、該モニタリングインフラは、通信ネットワークに接続された処理ユニット(7)を含み、該計測ユニットは、該処理ユニットとの間でデータ伝送を行えるように該通信ネットワークに接続され、
前記方法は、
I.前記測定ノード(M1,...,M7)の各々において、前記電流の値
を含むデータのセットを時間ウィンドウ(τ)にわたって繰り返し同時に測定し、前記測定されたデータのセットにタイムスタンプ(t∈{t
1,...,t
m})を付け、各々の測定されたデータのセットからタイムスタンプ付き有効電力値
II.前記測定ノードの各々について、
前記電圧、前記有効電力及び前記無効電力の付随する値の
各々のセットから同じ変数の先行する値をそれぞれ減算することによって、ステップ1(ボックス「01」)において測定された前記電圧並びにステップ1(ボックス「01」)において計算された前記有効電力及び前記無効電力の値の付随する変動
全ての測定ノード(M1,...,M7)における前記有効電力の付随する変動
に関する前記測定ノード(M1,...,M7)の各々における前記電圧の変動
III.ステップII(ボックス「02」)中に編集された前記測定ノードの各々における前記電圧の変動のパラメトリック重回帰分析を、
と前記回帰分析によって予測される変動との間の不一致に対応する誤差項間の負の一次系列相関を考慮しながら実行し、前記回帰分析における前記計算されたパラメータの値から、前記電力ネットワークの前記測定ノード間の前記相互電圧感度係数の行列を取得するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
ステップIII(ボックス「03」)の前記パラメトリック重回帰分析は、連続する時間ステップに対応する2つの誤差項間の前記相関が-0.7~-0.3の区間に含まれ、
かつ連続しない時間ステップに対応する2つの誤差項間の前記相関が-0.3~0.3の区間に含まれ
ることを想定しながら実行される、
請求項1に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項3】
移動体通信事業者によって提供される既存の商用ネットワークが、前記通信ネットワークとしての役割を果たす、
請求項1又は2に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項4】
前記計測ユニットは、前記通信ネットワークを介してネットワークタイムプロトコル(NTP)によって同期化される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項5】
前記電力ネットワークは、前記測定ノードのうちの第1の測定ノード(M1)を通じて、既知の値のインピーダンス(Zcc)を有する電圧コンバータ(5)によって別のネットワークから電流を供給されるように構成され、前記方法は、ステップI(ボックス「01」)とステップII(ボックス「02」)の間に、前記インピーダンスの値に基づいて、前記第1の測定ノード(M1)に
おいて測定されたタイムスタンプ付きのデータのセットの各々から
タイムスタンプ付きのスラック電圧値を計算し、
計算され
タイムスタンプが付けられたスラック電圧
値の各々を、前記複数の測定ノード(M1,...,M7)の各々において同時に測定された前記
電圧値から減算する追加のステップ(ボックス「01a」)を含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項6】
前記計測ユニットの各々は、コントローラとバッファとを含み、ステップI(ボックス「01」)は、前記計測ユニットによって一体的に分散方式で実行される、
請求項1から5のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項7】
前記方法は、ステップI(ボックス「01」)の後に、各測定ノードi(i∈{1,...,N})における時間ウィンドウにわたる前記有効電力
の変動量が十分に大きいかどうかを評価する追加のステップIc(ボックス「01c」及び「変動OK?」)を含み、前記方法は、前記変動が十分に大きくない場合、新たな時間ウィンドウ中に差し替えデータのセットを取得するためにステップIに戻る、
請求項1から6のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項8】
前記計測ユニットの各々は、コントローラとバッファとを含み、ステップI(ボックス「01」)は、前記計測ユニットによって一体的に分散方式で実行され、ステップIcにおける、各測定ノードi(i∈{1,...,N})における時間ウィンドウにわたる前記有効電力
の前記変動量の評価(ボックス「01c」)は、前記計測ユニットによって分散方式で実行される、
請求項
7に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項9】
ステップIc(ボックス「01c」及び「変動OK?」)は、前記処理ユニット(7)によって実行される、
請求項7に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項10】
前記方法は、ステップI(ボックス「01」)の前に、前記電圧コンバータ(5)の出力にどのノードが位置するかについての情報と、前記電圧コンバータの前記インピーダンス(Zcc)の値についての情報とを含む方法パラメータを前記処理ユニットにロードする追加のステップ(ボックス「01
prior」)を含む、
請求項5に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項11】
前記処理ユニット(7)は、ステップI(ボックス「01」)の完了後に前記通信ネットワークにアクセスして、前記計測ユニットから前記電圧
の前記タイムスタンプ付きの値をダウンロードする、
請求項8に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項12】
計算され
タイムスタンプが付けられたスラック電圧
値の各々を
前記複数の測定ノードの各々において同時に測定された前記電圧値から減算する
こと(ボックス「01a」)は、前記処理ユニット(7)によって実行される、
請求項5に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項13】
前記計測ユニットの各々は、コントローラと作業メモリとを含み、前記計測ユニットのうちの1つの計測ユニットは、前記処理ユニットとしての役割を果たす、
請求項1から12のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項14】
前記ネットワーク(1)は3相電力ネットワークであり、前記電圧及び前記電流は、前記3相のそれぞれについて独立して測定され、
前記電圧と前記
電流との間の
各位相について測定される前記それぞれの位相差も測定される、
請求項1から13のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項15】
前記電力ネットワークは交流(AC)電力ネットワークであり、前記測定された前記電圧の値
は、前記AC電力の少なくとも半周期にわたって測定された平均値である、
請求項1から14のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項16】
前記平均値は、前記AC電力の2周期以上10周期未満にわたって
測定された二乗平均平方根値(rms)である、
請求項15に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項17】
ステップI(ボックス「01」)において、繰り返し測定される前記データのセットは一定間隔で測定される、
請求項1から16のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項18】
前記処理ユニット(7)にロードされる前記方法パラメータは、前記電力ネットワーク(1)がグリッド接続されているか否かについての指示を含む、
請求項10に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【請求項19】
ステップIII(ボックス「03」)の前記パラメトリック重回帰分析は、連続する時間ステップに対応する2つの誤差項間の前記相関が-0.6~-0.4の区間に含まれ、かつ連続しない時間ステップに対応する2つの誤差項間の前記相関が-0.2~0.2の区間に含まれることを想定しながら実行される、請求項1から18のいずれか1項に記載の相互電圧感度係数を求める方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に配電ネットワークのモニタリングに関する。具体的には、本発明は、ネットワークパラメータの知識を持たずに電力ネットワークの複数の測定ノード間の相互電圧感度係数(mutual voltage sensitivity coefficients)を求める方法に関する。電圧感度係数の値が求められると、このデータの可用性を技術的に安全かつ経済的な電力ネットワークの稼働に役立てることができる。電圧感度係数の可用性は、とりわけ電圧制御に役立てることができる。
【背景技術】
【0002】
基本的に再生可能エネルギー資源で構成される断続性の高い分散型発電の接続が電力グリッド内で連続的に増加すると、稼働制約違反が生じて専用モニタリング機構及び制御機構の開発が必要になる。とりわけ電圧制御は、配電システムで展開されることが見込まれる典型的な制御のうちの1つである。
【0003】
グリッド(又はマイクログリッド)における電圧制御スキームは既に提案されている。とりわけ米国特許第7,687,937号には、電圧制御のドループ制御法として知られているものの例示的な実装が開示されている。ドループ制御法は、グリッドと制御可能な資源との間の接続点において局所的に電圧を検知し、特定の電圧垂下特性に従って様々な資源の無効電力及び/又は有効電力の注入を調整するものである。このような方法は、局所的に利用可能なデータに依拠し、グリッドトポロジー及びパラメータを考慮していない。これでは、ドループ制御法による解決策が最適以下になってしまい、場合によっては実現不可能な稼働条件又はシステムの崩壊を招く傾向にあるため問題がある。
【0004】
例えば、国際公開第2015/193199号には、別の既知のグリッド(又はマイクログリッド)電圧制御法が記載されている。この文献は、一方における配電ネットワーク内の各発電機の電圧、有効電力及び無効電力の値と、他方におけるネットワークの遠隔システム状態との間の関係をモデル化するために、オフライン電力潮流分析の適用を教示している。このモデル化は、ネットワークのトポロジー(例えば、総ノード数)、並びにネットワークパラメータ(すなわち、分岐の直列コンダクタンス及びサセプタンス、ノードの分路コンダクタンス及びサセプタンス)の予備知識に基づいて最初に感度係数を計算することによって行われる。第2のステップでは、上述した関係を導出するために、計算された感度係数に非線形回帰法を適用する。その後、このモデル化された関係を用いて配電ネットワークの電圧を制御することができる。
【0005】
この第2の方法によれば、配電ネットワークの電圧制御では、グリッドを直接制御するように有効及び無効ノード電力注入のための明確な設定点を定める必要がある。通常、これらの電力設定点は、グリッドの最適な動作を保証するためにオンライン最適化問題の解として計算される。このような方法には、ドループ制御法に比べて一定レベルの最適性が保証されるという利点がある。しかしながら、この方法の精度は、正確な最新のネットワークモデルにアクセスできることに依存する。このような最新モデルは、常に利用可能であるとは限らない。とりわけ、低電圧ネットワークの場合には、ネットワークのトポロジーの適合化が非常に頻繁に行われる傾向にある。さらに、場合によっては、例えば給電線のパラメータ及びブレーカの状態も、この情報が適当な時点で配電ネットワーク事業者(DNO)又は配電システム事業者(DSO)に届くことなく変化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7,687,937号明細書
【文献】国際公開第2015/193199号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の目的は、配電ネットワークの電圧感度係数の計算方法を提供し、これに従ってネットワークの電気パラメータの知識を不要にすることによって上述した先行技術の問題点を軽減することである。本発明は、付属の請求項1による、電力ネットワーク内の複数の測定ノード間の相互電圧感度係数を求める方法を提供することによって上記の及びその他の目的を達成する。
【0008】
「下流(downstream)」という表現は、メイングリッドとの接続からより遠くに離れていることを意味すると理解されたい。
【0009】
電力ネットワーク内の特定の箇所で注入又は消費される電力量が変化した場合、これによってネットワーク内の全ての位置の電圧も変化するようになる。しかしながら、電力の変化は、ネットワーク内のいくつかのノードに他のノードよりも大きな影響を与える。本発明の方法は、ネットワークパラメータ(例えば、分枝の直列コンダクタンス及びサセプタンス、ノードの分路コンダクタンス及びサセプタンスなど)の知識を必要とすることなく電力ネットワーク内の複数の測定ノード間の相互電圧感度係数の行列計算を可能にするものである。さらに、これらの電圧感度係数の知識は、同じノード又は他のいずれかの特定のノードにおいて注入又は消費される電力量が変化した際のいずれかの特定のノードにおける電圧変化の予測を可能にする。この知識を用いて、例えばネットワークに接続された制御可能な資源の明確な電力設定点又は電圧垂下特性を決定することができる。
【0010】
本発明の実装は、測定ノードの各々に配置された計測ユニット(metering units)を含む基本モニタリングインフラ(basic monitoring infrastructure)の可用性を必要とする。各計測ユニットは、電圧、電流、及び電圧と電流との間の位相差を局所的に測定するように構成される。モニタリングインフラは、計測ユニットが取得したデータを処理ユニットに送信できるように、計測ユニットが接続された通信ネットワークをさらに含む。しかしながら、本発明の実装は、モニタリングインフラの必要性に関わらず、高度に同期化された測定を必要としない。とりわけ、このことは、計測ユニットが、共通の時間基準への常設リンク(permanent link)を有する高価な電圧位相測定ユニット(PMU)である必要がなく、従来の計測装置でもよいことを意味する。
【0011】
添付図面に関連して単に非限定的な例として示す以下の説明を読めば、本発明の他の特徴及び利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の方法の特定の実装を説明するために使用する例示的な配電ネットワークの概略図である。
【
図2】電力ネットワークの複数の測定ノード間の相互電圧感度係数を求める本発明の方法の第1の特定の実装を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の方法の第2の特定の実装を示すフローチャートである。
【
図4A】方法の第3の特定の実装を示すフローチャートである。
【
図4B】本発明の方法の第4の特定の実装を示すフローチャートである。
【
図4C】本発明の方法の第5の特定の実装を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の方法の第6の特定の実装を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の主題は、電力ネットワークの複数の測定ノード間の相互電圧感度係数を求める方法である。本発明の適用分野は電力ネットワークの分野であるため、最初に例示的なネットワークについて説明する。その後、この方法が動作できる実際の方法について説明する。
【0014】
図1は、57個の住居ブロックと、9つの農業施設と、で構成された、合計88人の顧客に供給を行う(1で参照する)例示的な低電圧放射状配電ネットワークの概略図である。低電圧ネットワーク1(230/400ボルト、50Hz)は、変電所変換器によって中電圧ネットワーク3にリンクされる。
図1では、変電所変換器をインピーダンスZccと組み合わさった(5で参照する)理想変換器として表しており、インピーダンスZccは、理想変換器5の出力とネットワーク1の残り部分との間に挿入される。以下の表1は、この特定の例における変電所変換器の考えられる特性の概念を示すものである。
表I
【0015】
変電所変換器は、回路遮断器9及び第1のバスN1を介してネットワーク1に接続される。図示の例のネットワークでは、バスN1から複数の給電線が分岐する。これらの給電線のうちの(L1で参照する)1つの給電線は、5つの住居ブロック及び1つの農業施設の一部を低電圧ネットワークにリンクするように構成される。なお、残りの52個の住居ブロック及び8つの農業施設は、
図1には明示していない(ただし11で参照する単一の矢印として表す)他の給電線によってバスN1にリンクすることができると理解されたい。
【0016】
給電線L1は、バスN1を(N2で参照する)第2のバスに接続する。
図1で分かるように、バスN2には3つの住居ブロックと1つの農業施設とが接続される。さらに、バスN2は、給電線L2によって(N3で参照する)第3のバスに接続される。バスN3には、2つの住居ブロックが接続される。(以下の)表IIは、この特定の例において使用される給電線L1及びL2の考えられる特性の概念を示すものである。
表II
【0017】
引き続き
図1を参照すると、ネットワーク1は、3つの分散型発電所をさらに含むことが分かる。(G1で参照する)第1の発電所は、バスN2に接続された太陽光発電所であり、第2の発電所(G2で参照する)は、バスN3に接続された太陽光発電所であり、第3の発電所は、バスN1にリンクされたディーゼル発電機である。さらに詳細に説明すると、第3の発電所は、電力ネットワーク1がアイランドモードで稼動している時に電圧基準発電機としての役割を果たすように構成される。
図1では、ディーゼル発電機を、インピーダンスXdと組み合わさった(G3で参照する)理想発電機として表しており、インピーダンスXdは、理想発電機G3の出力とネットワーク1の残り部分との間に挿入される。(以下の)表IIIA及び表IIIBは、この特定の例において使用される3つの分散型発電所の考えられる特性の概念を示すものである。
表IIIA
表IIIB
【0018】
この例によれば、太陽光発電所G1及びG2が最大226kVAの電力を供給することが分かる。
図1には、ネットワーク1のバスN1に接続された(15で参照する)バッテリパックも示す。3つの分散型発電所を組み合わせた存在、バッテリパック15及び回路遮断器9は、低電圧ネットワーク1を一時的にアイランド化する(islanding)可能性を提示する。以下の表IVは、この特定の例において使用されるバッテリパック15の考えられる特性の概念を示すものである。
表IV
【0019】
本発明の方法を実装する物理的環境は、電力ネットワークに加えてモニタリングインフラも含まなければならない。本発明によれば、モニタリングインフラは、ネットワークノードの選択において提供される計測ユニット(以下の文書では、少なくとも1つの計測ユニットを備えたネットワークノードを「測定ノード」と呼ぶ)を含む。上述したように、
図1に示す例示的な低電圧電力ネットワーク1は3相電力ネットワークである。このような場合、本発明の好ましい実装では、3相のそれぞれについて電圧及び電流が独立して測定され、各電圧と対応する電流との間のそれぞれの位相差も測定される。この測定は、ネットワーク内の各測定ノードが3つの計測ユニットを備えることによって、或いは3つの異なる位相を独立して測定するように設計された計測ユニットを使用することによって行うことができる。
【0020】
図1には、(M1~M7で参照する)7つの異なる測定ノードの位置を示す。しかしながら、本発明によれば、あらゆる数の測定ノードが存在することができ、場合によっては2つの測定ノードしか存在しないこともできると理解されたい。さらに、
図1に示す特定のネットワークに関しては、詳細に示していないネットワーク1の残り部分が追加の測定ノードを含むこともできると理解されたい。ノードM1~M7の計測ユニットの各々は、少なくとも1つの電圧と、1つの電流と、電圧と電流との間の位相差とを局所的に測定するように構成される。再び
図1を参照すると、第1の測定ノードM1が変電所変換器をバスN1に接続していることが分かる。第2の測定ノードM2は、バッテリパック15をバスN1に接続し、第3の測定ノードM3は、PVシステムG2をバスN3に接続し、第4の測定ノードM4は、PVシステムG1をバスN2に接続し、第5の測定ノードM5は、ディーゼル発電機をバスN1に接続し、第6の測定ノードM6は、給電線L2をバスN3に接続する。最後に、第7の測定ノードM7は、給電線L1をバスN2に接続する。
【0021】
本発明によれば、このモニタリングインフラは、処理ユニット7とのデータ伝送を可能にするように計測ユニットが接続された通信ネットワークをさらに含む。
図1の非常に概略的な図には、処理ユニット7を、ネットワーク1から一定の距離に配置されたコンピュータの形態で示す。しかしながら、処理ユニットは、測定ノードのうちの1つに配置することもできると理解されるであろう。実際に、モニタリングインフラの好ましい実施形態によれば、処理ユニットが、これらの計測ユニットのうちの1つの計測ユニットの一部を形成する。図示の例によれば、通信ネットワークは専用の伝送ネットワークではなく、移動体通信事業者によって提供される商用のGSM(登録商標)ネットワークである。しかしながら、別の実装によれば、モニタリングインフラのための通信ネットワークは、当業者が適切と考えるいずれのタイプのものであってもよいと理解されるであろう。
【0022】
図2は、電力ネットワークの複数の測定ノード間の相互電圧感度係数を求める本発明の方法の第1の例示的な実装を示すフローチャートである。
図2の大まかなフローチャートは、3つのボックスを含む。(01で参照する)第1のボックスは、一般に電力ネットワーク内の複数の測定ノードにおける電圧V、有効電力P及び無効電力Qの一連の値を求めるタスクを表す。この目的のために、本発明の方法は、ネットワーク内の複数の位置における電圧、電流、及び電圧と電流との間の位相差を時間ウィンドウτにわたって繰り返し測定するように構成されたモニタリングインフラを使用する。本発明によれば、電力ネットワークはAC電力ネットワークであり、電圧と電流の測定値は瞬間値ではなく、少なくともAC電力の半周期にわたって、好ましくはAC電力の2~10周期にわたって、最も好ましくはAC電力の3周期にわたって(すなわち、50HzのAC電力ネットワークの場合には60ms中に)測定された(好ましくは基本信号周波数に基づくrms値である)平均値である。本発明の方法では、異なる測定ノードにおける測定を高度に同期させる必要はない。しかしながら、本発明の方法では、異なる測定ノードにおける計測ユニットがほぼ同時に取得した測定値を提供する必要があり、或いは換言すれば、異なる測定ノードにおける測定を、取得した値を後で付随値(concomitant)として処理できるほど十分に近い時点で行う必要がある。
【0023】
現在説明している本発明の実装によれば、ネットワーク内の異なる計測ユニットが、モニタリングインフラの通信ネットワークとしての役割を果たすGSM(登録商標)ネットワークを介してネットワークタイムプロトコル(NTP)によって同期化される。NTPの利点は、実装が容易であってほとんどどこでも容易に利用できる点である。NTPの既知の不利点は、精度が極端に高くない点である。しかしながら、経験からすれば、予想に反して、NTPによって行われる同期は、本発明の方法によって満足のいく結果がもたらされるほど十分に良好である。しかしながら、NTPは、本発明の方法と共に使用できる唯一の同期方法ではないと理解されたい。とりわけ、相当にコストの高い実装によれば、計測ユニットは、共通の時間基準又はGPS同期への常設リンクを有するPMUとすることもできる。
【0024】
上述したように、各測定ノードにおける有効電力及び無効電力は、測定された電圧及び電流の局所値、並びに電圧と電流との間の位相差から計算される。この計算は、以下の関係に基づくことができる。
P=V・I・cosφ及びQ=V・I・sinφ
【0025】
現在説明している第1の例示的な実装によれば、有効電力及び無効電力の値の計算は、各計測ユニットによって局所的に行われる。第1の実装の第1の変形例によれば、各計測ユニットにバッファが備わり、少なくとも電圧、電流、及び電圧と電流との間の位相差を測定する時間ウィンドウτの終わりまで、連続するタイムスタンプ付きの測定値がバッファに保存される。その後、保存された一群の測定値全体について、例えば1日に1回、有効電力及び無効電力の計算を行う。計測ユニットによって取得された電圧、電流、及び電圧と電流との間の位相差の値にはタイムスタンプが付けられるので、後で計算される有効電力及び無効電力の値は、これらの値の計算元であるデータに関連するタイムスタンプを「引き継ぐ」ことができる。第1の実施形態の別の変形例によれば、有効電力及び無効電力の計算がオンラインでリアルタイムに行われ、取得された電圧及び有効電力及び無効電力の値にタイムスタンプを付けた後に、上述した各計測ユニットに備わるバッファに一時的に保存される。
【0026】
さらに、本発明の他の実装によれば、有効電力及び無効電力の全ての値の計算が処理ユニットにおいて行われると理解されたい。これらの他の実装のうちの特定の実装によれば、モニタリングインフラが高速通信ネットワークを含み、全ての測定ノードからの測定値が、取得されるとすぐに処理ユニットに送信される。このようにして、処理ユニットは、有効電力及び無効電力の値をリアルタイムで計算することができる。
【0027】
本発明によれば、異なる測定ノードにおいて行われる電圧、電流、及び電圧と電流との間の位相差の測定が、上述した程度に同期化される。この例によれば、計測ユニットは、電圧、電流及び位相差を、好ましくは所与の時間ウィンドウ内で一定間隔で繰り返し測定する。この連続する測定回数は、200~5000回の測定に含まれ、好ましくは1000~3000回の測定に含まれ、例えば2000回の測定であることが好ましい。しかしながら、最適な測定回数は、測定ノードの数の関数として増加する傾向にあると理解されたい。一方で、最適な測定回数は、計測ユニットによって行われる測定の精度が高まるとともに、また計測ユニット間の同期精度が高まるとともに減少する傾向にある。
【0028】
計測ユニットによって測定される値は瞬間値ではなく、AC電力の少なくとも半周期にわたって測定される平均値であるため、連続する測定間の最小時間間隔は、AC電力の複数の周期に等しいはずである。実際に、第1の例示的な実装によれば、連続する測定を隔てる時間間隔の長さは60ms~3秒であることが好ましく、60ms~1秒であることが最も好ましい。
【0029】
図2のフローチャートの(02で参照する)第2のボックスは、測定された電圧、並びに有効電力及び無効電力の付随する変動(concomitant variations)を測定ノード毎に計算し、全ての測定ノードにおける有効電力及び無効電力の付随する変動に関する各測定ノードの電圧の変動のテーブルを編集するタスクを表す。測定された電圧、並びに有効電力及び無効電力の付随する変動は、電圧、有効電力及び無効電力の各々の付随する値(concomitant values)のセットから同じ変数の前の値をそれぞれ減算することによって計算することができる。換言すれば、時点t及びt+Δtにおける2つの連続する測定値のセットが利用可能である場合には、
- 測定ノード毎に変動
- 測定ノード毎に変動
- 測定ノード毎に変動
式中、i∈{1,...,N}であり、i番目の測定ノードを指定する。さらに、この説明では、測定値に対応する量を波形符号
【0030】
本発明の第1の例示的な実装によれば、処理ユニットは、上記の計算を行うために、最初に通信ネットワークにアクセスし、異なる計測ユニットのバッファからタイムスタンプ付きの電圧
の値をダウンロードする。次に、処理ユニットは、各ダウンロードした電圧、有効電力及び無効電力の値から直前のタイムスタンプを有する同じ変数の値をそれぞれ減算することによって、測定された電圧、並びに有効電力及び無効電力の変動を計算する。とりわけ、時点t∈{t
1,...,t
m}は、異なる計測ユニットによって提供されるタイムスタンプを意味すると覚えておかれたい。例えば、P
1(t
1)及びP
N(t
1)は、異なる計測ユニットから得られた測定値から計算されたものであり、しかも第1の例示的な実装によれば、これらの異なる計測ユニットのそれぞれのクロックはNTPを用いて同期化されているので、時点tにおける測定値は、時点t±標準的なNTP同期誤差での測定値を意味するものであると理解されたい。
【0031】
次に、処理ユニットは、1つの特定の測定ノードにおける電圧の各変動
同じ測定時点(t∈{t
1,...,t
m}であり、特定の測定時点又はタイムスタンプを示す)における全ての測定ノード(j∈{1,...,N}であり、j番目の測定ノードを指定する)での有効電力の変動
を関連付ける。(以下の)表Vに例示するように、結果は、全ての測定ノード1~Nにおける有効電力及び無効電力の付随する変動に関する1つの特定の測定ノードiにおける電圧の変動をそれぞれが含むN個のテーブルの組として表すことができる。タイムスタンプ{t
1,...,t
m}は、連続する測定時間に対応する。これらの測定時間は、所与の時間ウィンドウτ=[t
1,t
m]をカバーする。本発明によれば、m>2Nであり、好ましくはm>>Nである。
表V
【0032】
図2のフローチャートの(03で参照する)第3のボックスは、前に計算したN個の変動テーブルに対してパラメトリック重回帰分析(multiple parametric regression analysis)を実行するタスクを表す。この分析は、負の一次自己相関(negative first-order autocorrelation)を考慮する。パラメトリック重回帰分析を用いて、電圧感度係数行列を形成するためにグループ化することができる一連の電圧感度係数の値を求める。この例の実装によれば、この回帰分析は線形タイプのものであり、計算される電圧感度係数は、制御変数(電力注入)と制御量(電圧)との間の線形依存の推定である。この特定の事例では、電圧感度係数K
Pij及びK
Qijを、以下に示す偏導関数の値の推定として解釈することができる。
【0033】
要約すれば、パラメトリック重回帰分析では、t∈{t
1,...,t
m}及びi∈{1,...,N}とする電圧変動(voltage variation)の値ΔV
i(t)を、全ての測定ノードにおける有効電力の付随する変動
の関数として予測することができる。
【0034】
方法の統計的性質に起因して、個々の測定値は、その予測値からある程度逸脱する傾向にある。したがって、各測定される電圧変動は、対応する予測電圧変動プラス/マイナス誤差項に等しい。すなわち、以下のようになり、
ここでのω
i(t)は誤差項である。
【0035】
本発明によれば、パラメトリック重回帰分析は、負の一次自己相関を考慮する。すなわち、パラメトリック重回帰分析は、2つの連続する時間ステップをt及びt+Δtとする誤差ωi(t)とωi(t+Δt)との間に実質的な負の相関が存在すると仮定する。この説明では、「実質的な相関」という表現は、少なくとも0.3の、好ましくは少なくとも0.4の、最も好ましい例では0.5にほぼ等しい大きさの相関を意味するものとする。
【0036】
本発明の好ましい実装によれば、パラメトリック重回帰分析は、2つの連続しない時間ステップからの誤差間に実質的な相関は存在しないとさらに仮定する。「実質的な相関が存在しない」という表現は、0.3未満の、好ましくは0.2未満の、最も好ましい例では0.0にほぼ等しい大きさの相関を意味するものとする。したがって、2つの連続しない時間ステップにおける誤差間の相関は、-0.3~0.3の区間に含まれ、好ましくは-0.2~0.2の区間に含まれ、最も好ましい例では0.0にほぼ等しい。連続する測定の回数はmであるため、測定ノード毎にm-1個の誤差項ωi(t)が存在し、したがって(m-1)×(m-1)個の誤差相関項が存在する。
【0037】
図3は、
図2のフローチャートによって示す実装の特定の変形例を示すフローチャートである。図示の変形例によれば、ボックス03において行われる特定のタイプの重線形回帰は「一般化最小二乗(generalized least squares)」である。一般化最小二乗法では、以下の各測定ノードi∈{1,...,N}についての方程式の解決を通じて分析的に電圧感度係数を取得することができる。
ここでのΣ
iは、誤差相関行列である。
【0038】
誤差相関行列Σ
iは、処理ユニットに予めロードされず、電圧対電力変動のテーブルが作成された時(ボックス02)に1度だけ形成されることが好ましい。実際に、(m-1)×(m-1)の誤差相関行列のサイズは、電圧対電力変動テーブルの長さm-1によって決まる。したがって、
図3の変形例は、
図2には存在しない追加のボックス02aを含む。ボックス02aは、各測定ノードの誤差相関行列を形成するタスクを含む。ボックス02の後にこの追加のボックスが存在すると、1つの(又は2つ以上の)特定のタイムスタンプに関連する1つの(又は複数の)データの組が失われた事例に方法を適合させることができるという利点がある。
【0039】
この例では、あらゆる相関行列の場合と同様に、N(m-1)×(m-1)の相関行列の各行列の主対角線のエントリが全て1に等しく選択される。本発明によれば、下位の最初の対角線及びその上位の最初の対角線のエントリが全て-0.7~-0.3に含まれ、最終的には他の全てのエントリが-0.3~0.3に含まれる。この特定の例では、2つの連続しない時間ステップ間の誤差の相関係数がゼロに等しく、2つの連続する時間ステップ間の誤差の相関係数が-0.5になると想定される。この場合、誤差相関行列は、以下の三重対角行列に対応する。
【0040】
図4Aは、
図2のフローチャートによって示す実装の別の特定の変形例を示すフローチャートである。
図4Aの変形例の顕著な特徴は、とりわけ上位グリッドに生じる電圧変動をフィルタ除去できるようにする追加のステップを含む点である。上述したように、低電圧ネットワーク1は、変電所変換器5によって中電圧ネットワーク3にリンクされる。この変換器は、回路遮断器9及び第1のバスN1を通じてネットワーク1に接続される。したがって、低電圧ネットワーク1は、回路遮断器9によってグリッドの主要部分から切り離すことができる。
【0041】
電力ネットワークの分野では、電力系統(図示の例ではネットワーク1)の一部がメイングリッドから一時的に切り離されたにも関わらず独自の分散型発電資源(図示の例ではG1、G2、G3及び15)によって電圧を得続けている状態が「アイランド稼働(islanding operation)」として知られている。アイランド化は、偶然に又は意図的に行われることがある。中心グリッドが信頼性問題を生じやすい場合には、意図的なアイランド稼働を望むことができる。この場合、相互接続部は、グリッドの特定の部分が自動的に動作を継続できるとともに、メイングリッドの停電中にその地域の顧客に中断なくサービスを提供するように設計される。通常、アイランドモードとグリッド接続モードとの間の遷移時には、保護装置を自動再構成しなければならない。
【0042】
再び
図1を参照すると、低電圧電力ネットワーク1がグリッド接続モードで稼働している時には、中電圧ネットワーク3によって変電所変換器5に供給される電圧のあらゆる変化がネットワーク1内の全ての測定ノードにおける電圧に常に影響を与えると理解することができる。中電圧ネットワーク3によって供給される電圧が安定している限りは、この電圧を基準と見なすことができる。しかしながら、中電圧ネットワークの電圧レベルが変化することもあると理解されたい。さらに、これらの変化の原因の大部分は、接続先の低電圧ネットワーク内の事象とは全く無関係である。
【0043】
以下の説明では、変電所変換器が理想的変換器である場合に出力する、ゼロインピーダンスを有する電圧のレベルを、変換器の「スラック電圧」と呼ぶ。変換器のスラック電圧は、中電圧ネットワーク3によって変電所変換器に供給される電圧に「固定」され、或いは換言すれば、理想的変換器の場合には、入力電圧に対する出力電圧の比率が一定であると理解されたい。再び
図1を参照すると、スラック電圧は直接計算することができると理解されるであろう。実際に、第1の測定ノードM1は、変電所変換器5をネットワーク1のバスN1に接続する。要するに、ノードM1の計測ユニットによって測定される電圧は、変電所変換器からの出力電圧である。さらに、測定される電流及び位相差も、変換器の出力における電流及び位相差である。変換器のインピーダンス(Zcc)が分かれば、出力電圧、出力電流、及びこれらの間の位相差に基づいて容易にスラック電圧(slack voltage)を計算することができる。
この場合、複素数に対応する変数及び因数は、バーを用いて示している
【0044】
図4Aのフローチャートと
図2のフローチャートとを比較すると、
図4Aのフローチャートは、ボックス「01
PRIOR」及びボックス「01a」として示す2つの追加のボックスを含むことが分かる。上述したように、これらのボックスが表す方法ステップは、上位グリッドに由来する電圧変動をフィルタ除去するものである。ボックス「01
PRIOR」は、モニタリングインフラ又はシステムによって行われる、方法パラメータをロードするタスクを表す。現在説明している実装によれば、方法パラメータは、測定スケジュール、変換器の出力にどの計測ユニットが位置するかについての情報、及び変換器のインピーダンスZccの値についての情報を含む。ボックス「01a」は、スラック電圧を計算するタスクを表す。このタスクは、処理ユニットによって、又は変換器の出力に位置する計測ユニット(
図1のノードM1)によって直接行われる。スラック電圧は繰り返し計算され、好ましくは第1のノードM1の計測ユニットが電圧、電流及び位相差を測定する度に計算される。第1の計測ユニットによって各連続する測定から取得された一連のデータにはタイムスタンプが付けられるので、スラック電圧の異なる計算値は、これらの値の計算元であるそれぞれの一連のデータに関連するタイムスタンプを「引き継ぐ」ことができる。その後、このスラック電圧のタイムスタンプ値を、全ての測定ノードにおいて同時に測定された電圧から減算する。この後続の計算は、処理ユニット、又は各測定ノードにおける計測ユニットのいずれかが行うことができる。
【0045】
図4Bは、
図4Aに示す実装の好ましい形態を示すフローチャートである。
図4Bに示す本発明の方法を実装する特定の方法は、アイランドモードでの稼働とグリッド接続モードでの稼働との間で遷移できる電力ネットワークと併用されるように設計される。再び
図1の電力ネットワークを参照すると、図示の例によれば、現在ネットワーク1がいずれのモードで稼働しているかを決定するのは回路遮断器9の状態であることが分かる。
図4Aに関連して行った説明と同様に、モニタリングインフラは、ボックス「01
PRIOR」によって示すステップ中にいくつかの方法パラメータをロードする。上述したように、これらの方法パラメータは、測定スケジュール、変換器の出力にどの計測ユニットが位置するかについての情報、及び変換器のインピーダンスの値についての情報を含む。さらに、
図4Bの実装によれば、方法パラメータは、回路遮断器9の「開」状態又は「閉」状態、及びディーゼル発電機のインピーダンスXdの値を含む。図示の例によれば、電力ネットワークがグリッド接続モードで稼働している時には、ボックス「01a」によって表す、変換器のスラック電圧を計算する行為及び減算する行為を含むタスクが常に実行される。この例の方法は、グリッドがアイランド型モードで稼働している逆の状況では、ボックス「01a」のタスクを実行せずに別のタスク(ボックス「01b」)を実行する。ボックス「01b」が表すタスクは、発電機のスラック電圧を計算し、全ての測定ノードにおいて同時に測定された電圧から減算することを含む。上述したように、モニタリングインフラは、回路遮断器9の状態にアクセスすることができる。この例では、他の方法パラメータと共に「開」状態又は「閉」状態がシステムにロードされる。しかしながら、回路遮断器の現在の状態はいつでもオンラインで読み取ることもできると理解されたい。
【0046】
図4Cは、
図2のフローチャートによって示す実装の別の特定の変形例を示すフローチャートである。この特定の変形例は、
図4Aに示す変形例と共通するロットを有する。とりわけ、この特定の変形例は、スラック電圧の変動に起因する電圧変動の成分のフィルタ除去を可能にするステップも含む。
図4Cのフローチャートと
図4Aのフローチャートとを比較すると、一方では
図4Cが追加のボックス「02b」を含み、他方では
図4Aのボックス「01a」が
図4Cに存在しないことが分かる。
【0047】
図4Aに関して上述した内容と同様に、ボックス「02b」はスラック電圧を計算するタスクを表す。このタスクは、処理ユニットが行うことも、或いは変換器の出力(
図1のノードM1)に位置する計測ユニットが直接行うこともできる。スラック電圧の連続する計算値は、スラック電圧の変動を計算するために使用される。スラック電圧の変動は、スラック電圧の各値から同じ変数の前の値を単純に減算することによって計算される。その後、計算されたスラック電圧の変動を、全ての測定ノードにおいて同時に測定された電圧の変動から減算する。この後続の計算は、処理ユニット、又は各測定ノードの計測ユニットのいずれかが行うことができる。
【0048】
図5は、
図2のフローチャートによって示す実装の別の特定の変形例を示すフローチャートである。
図5の変形例の顕著な特徴は、感度係数行列を統計的に推定するステップの前に、取得されたデータの品質を試験する2つの追加のステップを含む点である。
【0049】
図示の例によれば、各測定ノードi(i∈{1,...,N})における有効電力
の変動量が十分に大きい場合には、一連の測定値が電圧感度係数の統計的推定に適すると考えられる。この条件は、測定値を用いて電圧感度係数を正しく推定できることを保証する。説明する実装によれば、有効電力及び無効電力の変動量は、予め定めた時間ウィンドウに由来するタイムスタンプt{t
1,...,t
m}のタイムスタンプ付き有効電力値
の標準偏差を計算することによって評価される。例えば、
の標準偏差が所定の閾値よりも大きい場合には、測定値を適切と見なすことができる。所定の閾値は、例えば対応する平均の絶対値の10%に等しくなるように、好ましくは対応する平均の絶対値の20%に等しくなるように選択することができる。
【0050】
図5のフローチャートと
図2のフローチャートとを比較すると、
図5のフローチャートは、ボックス「01c」として参照する第1の追加のボックスを含むことが分かる。ボックス「01c」は、各測定ノードの有効電力及び無効電力の標準偏差を計算するタスクを表す。全ての測定ノードの測定値が適切として識別された場合、感度係数行列を統計的に推定するステップ(ボックス「03」)が実行される。測定値が推定に適していない場合には、新たな時間ウィンドウ中に差し替えデータセットが取得される。
【0051】
例示的な実装を用いて本発明の方法を図示し詳細に説明したが、本発明は、開示した実施例及び様々な変更によって限定されるものではなく、及び/又は当業者であれば、添付の特許請求の範囲に定められる本発明の範囲から逸脱することなく、開示した実施例及び様々な変更から改善を導き出すことができる。