(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】コーヒーフィルタ及びクレープ紙
(51)【国際特許分類】
A47J 31/08 20060101AFI20220208BHJP
A47J 31/02 20060101ALI20220208BHJP
B01D 39/18 20060101ALI20220208BHJP
D21H 11/00 20060101ALI20220208BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
A47J31/08
A47J31/02
B01D39/18
D21H11/00
D21H27/00 F
(21)【出願番号】P 2019507548
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2018009276
(87)【国際公開番号】W WO2018173809
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2017058317
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】小山 宗央
(72)【発明者】
【氏名】大川 元洋
(72)【発明者】
【氏名】林 賀津昭
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 成昌
【審査官】比嘉 貴大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-065961(JP,A)
【文献】特開2011-012365(JP,A)
【文献】特開2013-159866(JP,A)
【文献】特開2010-042234(JP,A)
【文献】特許第3400017(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/08
A47J 31/02
B01D 39/18
D21H 11/00
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ全量に対し針葉樹パルプを80%以上含
み、ろ水時間8秒以上20秒以下であるクレープ紙からなり、
該針葉樹パルプが、ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下であることを特徴とするコーヒーフィルタ。
【請求項2】
湿潤紙力増強剤を、パルプ全量に対して0.05質量%以上0.70質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載のコーヒーフィルタ。
【請求項3】
前記クレープ紙が、湿潤引張強さがMD0.2kN/m以上、CD0.1kN/m以上であることを特徴とする請求項1
または2に記載のコーヒーフィルタ。
【請求項4】
前記クレープ紙が、離解ろ水度が7°SR以上15°SR以下であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のコーヒーフィルタ。
【請求項5】
パルプ全量に対し針葉樹パルプを80%以上含み、
ろ水時間8秒以上20秒以下であり、
該針葉樹パルプが、ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下であることを特徴とするクレープ紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎した珈琲豆を挽いた粉末からコーヒー飲料を抽出、濾過するためのコーヒーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
焙煎した珈琲豆を挽いた粉末からコーヒー飲料を抽出、濾過するために、紙、ネル(布)、金属等からなるコーヒーフィルタが用いられている。これらの中で、使い捨てのため衛生的であること、取り扱いが容易であること等から、紙製のコーヒーフィルタが広く用いられている。
【0003】
紙製のコーヒーフィルタには、コーヒー飲料を効率的に濾過できる濾水性と、濡れた状態で、かつ、水を含み重くなった珈琲豆粉末を収容したまま持ち上げても破れない湿潤強度とが要求される。しかし、一般的な木材パルプのみからなる原紙は、コーヒーフィルタに要求される濾水性と湿潤強度とを両立することが困難である。そのため、一般的な紙製コーヒーフィルタは、木材パルプを75~90質量%、麻パルプを25~10質量%の質量比で含む原紙から形成されている。麻パルプは、木材パルプと比較して細く長いため、麻パルプを配合することにより、濾水性と湿潤強度とに優れ、コーヒーフィルタ用途に適した原紙を得ることができる。なお、下記特許文献1の段落0007には、「繊維径の太い麻パルプ」と記載されているが、麻パルプの繊維径は木材パルプより細く、この記載は誤記である。
【0004】
ここで、麻パルプとは、マニラ麻、サイザル麻などの葉脈繊維類、大麻、亜麻、ケナフ等の靭皮繊維類から得られるパルプであるが、製紙原料として一般的に用いられているのはマニラ麻である。マニラ麻の生産地は、事実上、フィリピン、エクアドル、コスタリカに限られている。マニラ麻は、生産地が限られており、病害や虫害、熱帯性低気圧や干ばつ等の自然災害が発生すると、生産量が大幅に減少してしまうため、供給が不安定である。また、麻パルプは、木材パルプと比較して非常に高価である。
【0005】
そのため、麻パルプを使用しないコーヒーフィルタが求められており、例えば、特許文献1には、針葉樹漂白パルプとマーセル化木材パルプより構成された自販機用コーヒー濾紙の発明が記載されている。なお、特許文献1に記載されたコーヒー濾紙は、自動販売機用である。自動販売機では、2つの円筒の間にコーヒー濾紙を挟み、円筒内に珈琲豆粉末と湯を入れて加圧、吸引することによってコーヒー飲料を抽出する。そのため、自販機用コーヒー濾紙は、円筒と濾紙との間で液漏れを防ぐために、サイズ剤が塗布されており濡れにくく、また、液漏れの原因となる凹凸が生じるクレープ加工は施されない。自販機用コーヒー濾紙は、高サイズ性のため、水が自然濾過しにくいが、加圧、吸引時の濾過性を高くするため、また機械適性のため、坪量が20~30g/m2程度と薄い。また、自販機用コーヒー濾紙は、濡れた状態でロール給紙が行われるため、高い湿潤強度が要求される。このように、自販機用コーヒー濾紙は、本発明のコーヒーフィルタとは、フィルタ紙の厚さが薄い、自然濾過しにくい、クレープを有さない等の相違点を有する別物品である。
【0006】
特許文献2には、未晒パルプ、晒パルプ、リンターパルプが配合された原紙からなるコーヒーフィルタの発明が記載されている。リンターパルプは、結束が多いため、叩解して使用する必要がある。リンターパルプは、麻パルプと同等の長さと、やや太い繊維径を有しており、リンターパルプを配合したコーヒーフィルタは、麻パルプを配合したコーヒーフィルタと比較して、強度が弱くなり、濾過速度が早くなると推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-277148号公報
【文献】特開2005-65961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安定的に生産することのできるコーヒーフィルタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.パルプ全量に対し針葉樹パルプを80%以上含むクレープ紙からなり、
該針葉樹パルプが、ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下であることを特徴とするコーヒーフィルタ。
2.湿潤紙力増強剤を、パルプ全量に対して0.05質量%以上0.70質量%以下含むことを特徴とする1.に記載のコーヒーフィルタ。
3.前記クレープ紙が、ろ水時間8秒以上20秒以下であることを特徴とする1.または2.に記載のコーヒーフィルタ。
4.前記クレープ紙が、湿潤引張強さがMD0.2kN/m以上、CD0.1kN/m以上であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のコーヒーフィルタ。
5.前記クレープ紙が、離解ろ水度が7°SR以上15°SR以下であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のコーヒーフィルタ。
6.パルプ全量に対し針葉樹パルプを80%以上含み、
該針葉樹パルプが、ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下であることを特徴とするクレープ紙。
【0010】
また、本発明の課題を解決するための手段として、以下の別態様も挙げられる。
7.パルプ全量に対し、針葉樹パルプを80%以上含むクレープ紙からなり、
該針葉樹パルプの本数の40%以上が、ルーメン比が0.10以上0.70以下であることを特徴とするコーヒーフィルタ。
8.パルプ全量に対し針葉樹パルプを80%以上含み、
該針葉樹パルプの本数の40%以上が、ルーメン比が0.10以上0.70以下であることを特徴とするクレープ紙。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーヒーフィルタは、特定のルーメン比を満足する針葉樹パルプを主材料とし、供給が不安定である麻パルプを使用しない、または、麻パルプの使用量を抑えているため、安定的に生産することができる。
本発明で使用するクレープ紙は、濾水性と湿潤強度とに優れており、コーヒーフィルタとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施態様であるコーヒーフィルタを示す図。
【符号の説明】
【0013】
1 コーヒーフィルタ
11 上辺
12 一方の側辺
13 底辺
14 他方の側辺
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明の一実施態様であるコーヒーフィルタ1を示す。
一実施態様であるコーヒーフィルタ1は、略台形状の袋体であり、上辺11が開口部である。コーヒーフィルタ1は、一枚のクレープ紙が折り曲げられてなり、折り曲げられた辺が一方の側辺12を形成し、底辺13と他方の側辺14は接合されて閉じられている。上辺11は、開いた際に開口部が略円形となるように円弧状に形成されている。底辺13と他方の側辺14は、コーヒーの風味に悪影響を及ぼさないように、接着剤等を用いることなく、プレス加工により接合されている。
【0015】
本発明のコーヒーフィルタは、パルプ全量に対し針葉樹パルプを80%以上含むクレープ紙からなり、この針葉樹パルプのルーメン比の平均が0.50以上0.70以下であることを特徴とする。ここで、本発明において、パルプ全量に対する針葉樹パルプの割合は、パルプを染色して光学顕微鏡で調べる繊維分析を行い、100本以上のパルプについてその種類を判別することにより、算出することができる。
【0016】
「針葉樹パルプ」
図2に、パルプ断面の概略図を示す。一般にパルプと呼ばれるものは、正しくは針葉樹では仮道管、広葉樹では木繊維であり、その内部にルーメンと呼ばれる内腔を有する。ルーメン比(l)とは、パルプの繊維径(d)に対するルーメン径(b)の割合(l=b/d)である。また、パルプ断面形状の指標としてルンケル比も知られているが、ルンケル比(R)とは、ルーメン径(b)に対するパルプの繊維壁厚(a)の割合(R=2a/b)である。
【0017】
本発明に用いる針葉樹パルプは、ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下である。より好ましくはルーメン比の平均が0.50以上0.65以下である。
ここで、一般的な針葉樹パルプは、ルーメン比の平均が0.70より大きく0.90以下である。ルーメン比の平均が0.70より大きい針葉樹パルプは、濾水性の高い原紙の製造が困難である。本発明で使用する針葉樹パルプは、一般的な針葉樹パルプと比較してルーメン比が小さい。ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下である針葉樹パルプは、繊維壁が肉厚なため剛直であり、湿紙を乾燥してもパルプ繊維が潰れにくい。そのため、この針葉樹パルプを配合することにより、嵩高で濾水性の高い原紙を得ることができる。
【0018】
ここで、本明細書において、パルプのルーメン比の平均は、以下の手順で100本以上のパルプの繊維径、繊維壁厚、ルーメン径の測定を行い、その平均値から算出する。
1.パルプを水に分散させたパルプ懸濁液を0.05%の濃度になるよう希釈する。パルプ懸濁液は、下記離解ろ水度の測定に用いる原料スラリーと同様の方法で作成することもできる。
2.希釈液を滴下管を用いて汚れのないプレパラート上に滴下し、必要に応じて解剖針を用いて繊維を均一に分散する。
3.気泡が入らないようにカバーガラスを載せ、余剰の水を吸い取り紙で除き、スライドを作製する。
4.スライドを光学顕微鏡を用いて観察し、可動ステージ上でスライドを水平方向又は垂直方向に動かし、パルプの繊維径(d)、繊維壁厚(a)、ルーメン径(b)を計測する。
【0019】
本発明で使用する針葉樹パルプは、ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下の範囲内であればよく、機械パルプ(MP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、亜硫酸パルプ(SP)、クラフトパルプ(KP)、また、これらの晒パルプ(BP)、未晒パルプ(UP)の1種類または2種類以上を配合して使用することができる。針葉樹パルプの中で、クラフトパルプ(KP)および亜硫酸パルプ(SP)が、湿潤強度に優れ、抽出されたコーヒー飲料への味・香味への影響が少ないため好ましい。
【0020】
「その他のパルプ」
本発明で使用するクレープ紙は、ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下である針葉樹パルプを80%以上含めばよく、コーヒーフィルタに要求される特性を阻害しない限り、20%未満の範囲でその他のパルプを配合することができる。ルーメン比の平均が0.50以上0.70以下である針葉樹パルプの配合量は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、その他のパルプを含まないことが最も好ましい。
【0021】
その他のパルプとしては、広葉樹パルプのほかに、亜麻、ケナフ、楮、三俣などの靭皮繊維、バガス、竹、エスパルトなどの硬質繊維、コットンリンターなどの種子毛繊維、マニラ麻、サイザル麻などの葉脈繊維といった非木材パルプを使用することができる。特に、その他のパルプとして麻パルプを配合することにより、濾水性と湿潤強度とをさらに向上することができる。ただし、麻パルプは針葉樹パルプと比較して高価であるため、麻パルプの配合量は10%未満であることが好ましく、麻パルプを含まないことが最も好ましい。
【0022】
本発明のコーヒーフィルタに使用するパルプ懸濁液は、濾水度(カナダ標準フリーネス:CSF)が600mlCSF以上700mlCSF以下となるように叩解することが好ましい。濾水度を上記範囲内とすることにより、コーヒーフィルタに要求される濾水性を満足するクレープ紙を製造することができる。
パルプ懸濁液の叩解は、針葉樹パルプのみからなる懸濁液を叩解する場合に限らず、針葉樹パルプとその他のパルプとを混合した後に混合叩解しても、針葉樹パルプとその他のパルプとを別々に叩解した後に混合(別叩解)してもよい。別叩解の場合のその他のパルプの濾水度は、特に制限されるものではないが、叩解した針葉樹パルプと任意の配合で混合した後のパルプ懸濁液の濾水度が、600mlCSF以上700mlCSF以下となるように調成することが好ましい。
【0023】
「湿潤紙力増強剤」
本発明のコーヒーフィルタは、湿潤紙力増強剤を含むことが好ましい。湿潤紙力増強剤は、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、(グリオキサザール)変性ポリアクリルアミド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂などが使用できる。その中でもポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂が好ましい。
湿潤紙力増強剤は、製造工程において、全パルプに対し、0.1質量%以上1.5質量%以下の間で添加されることが好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下の間で添加されるのがより好ましい。
【0024】
コーヒーフィルタに含まれる湿潤紙力増強剤の量は、ケルダール法、エネルギー分散型X線分析等による元素分析により定量することが可能である。本発明において、コーヒーフィルタに含まれる湿潤紙力増強剤量は、ケルダール法を用いて定量した窒素元素が全てポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂由来とした場合の換算値をいう。本発明のコーヒーフィルタは、パルプ全量に対して、湿潤紙力増強剤を、0.05質量%以上0.70質量%以下含有することが好ましい。
【0025】
「他の添加剤」
本発明のコーヒーフィルタは、食品向け用紙の自主基準、FDA認可などへの問題がなければ、必要に応じて各種添加剤を使用することが可能である。
【0026】
「クレープ紙」
本発明のコーヒーフィルタは、クレープ紙であることを特徴とする。クレープ紙は、クレープ加工前の原紙と比較して濾水性に優れ、コーヒーフィルタとして好適に使用することができる。また、クレープ紙は、クレープ加工前の原紙と比較して伸びやすいため、コーヒーフィルタの底辺と一側辺とを接合するプレス加工時に破れにくい。
【0027】
クレープ紙の製造方法は特に限定されず、針葉樹パルプと、必要に応じてその他のパルプ、湿潤紙力増強剤、他の添加剤等を含む紙料から、原紙を抄紙し、原紙にクレープ加工を施すことにより、製造することができる。抄紙方法は特に限定されず、トップワイヤー等を含む長網抄紙機、オントップフォーマー、ギャップフォーマ、円網抄紙機、短網抄紙機、傾斜短網抄紙機等を用いて行うことができる。乾燥工程は、多筒式シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風ドライヤーなど適宜選定することができる。クレープ加工は、ウェット法とドライ法のいずれも採用することができるが、クレープ形状の表裏差が小さいウェット法が好ましい。
【0028】
クレープ紙の坪量は、40g/m2以上70g/m2以下が好ましく、50g/m2以上60g/m2以下がより好ましい。クレープ紙の坪量が40g/m2より小さいと湿潤強度が低下する場合があり、また、コーヒー飲料を抽出した時に珈琲豆の微粉がフィルタから抽出液に抜けて雑味が生じる場合がある。クレープ紙の坪量が70g/m2より大きいと濾水性が低下する場合がある。
クレープ紙の厚さは、100μm以上300μm以下が好ましく、120μm以上200μm以下がより好ましく、130μm以上180μm以下がさらに好ましい。クレープ紙の厚さが100μmより薄いとコーヒーフィルタとして使用する際にコシがなく、コーヒー飲料を抽出する際にドリッパー内で折れ曲がるなどの不具合を起こす場合がある。クレープ紙の厚さが300μmより厚いと濾水性が低下する場合がある。
【0029】
クレープ紙の離解ろ水度は、7°SR以上15°SR以下であることが好ましい。離解ろ水度が上記数値範囲であるクレープ紙は、コーヒーフィルタとして適した濾水性を備えている。なお、本発明において、クレープ紙の離解ろ水度は、クレープ紙30gを水500mlに浸漬し、紙に対して固形分添加率2質量%の次亜塩素酸ソーダを添加し2時間処理した後、200メッシュ金網上で十分に洗浄したクレープ紙を、JIS P8220-1に規定された方法で離解した原料スラリーのJIS P8121-1に規定されるショッパー・リーグラ法で測定した値をいう。
【0030】
クレープ紙の通気度は、2500c.u.以上3500c.u.以下であることが好ましい。通気度が上記数値範囲であるクレープ紙は、コーヒーフィルタとして適した濾水性を備えている。なお、本発明において、通気度は、米国FILTRONA社製の通気度計PPM100を用いて、気温23℃、相対湿度50%の環境下において、100mmH2Oの圧力下における1cm2あたりに流れる空気の流量(ml/min)を測定した値をいう。
【0031】
クレープ紙のろ水時間(JIS P3801(1995)に準拠して測定した、ヘルツベルヒ濾過度試験器を用いて100mlの水が紙を通過する時間)は、8秒以上20秒以下であることが好ましい。このろ水時間が8秒未満だと、抽出が十分に行えず、コーヒー飲料の味・風味が薄くなる。また、このろ水時間が20秒より長いと、コーヒーメーカーの種類によっては、抽出中のフィルタ上方からコーヒー飲料が溢れてしまう場合がある。
【0032】
クレープ紙の湿潤引張強さは、JIS P8135に準じて測定した値が、MD0.2kN/m以上、CD0.1kN/m以上であることが好ましい。湿潤引張強さが上記数値範囲であるクレープ紙は、コーヒー抽出後に濡れた状態で、かつ、水を吸って重くなった珈琲豆粉末を収容したまま持ち上げても破れにくいため、廃棄が容易であり、取り扱い性に優れている。
【0033】
クレープ紙のクレープの度合いは、JIS P8113で測定されるMDの破断伸びで評価することができる。クレープ紙のMD破断伸びは5%以上15%以下が好ましい。MD破断伸びが5%より小さいと、クレープ加工前と比較して表面積を増大させて濾水性を向上させることができず、また、プレス加工による接合部に割れや裂けを生じるため接合できないといった不具合が起こる場合がある。MD破断伸びが15%を超えると抄紙工程での乾燥効率が低下し、製袋工程では略台形への打ち抜き加工性の低下が起こる場合がある。
【0034】
「別態様のコーヒーフィルタ」
別態様であるコーヒーフィルタとして、針葉樹パルプを80%以上含むクレープ紙からなり、この針葉樹パルプの本数の40%以上が、より好ましくは50%以上が、ルーメン比が0.10以上0.70以下の針葉樹パルプであるコーヒーフィルタを挙げることができる。
別態様であるコーヒーフィルタの場合は、上記方法により100本以上の針葉樹パルプについてルーメン比を算出することにより、ルーメン比を測定した全針葉樹パルプ数に対するルーメン比が0.10以上0.70以下である針葉樹パルプの本数の割合(%)を求めることができる。また、別態様であるコーヒーフィルタは、上記した一実施態様であるコーヒーフィルタと同等の針葉樹パルプ、その他のパルプ、湿潤紙力増強剤、その他の添加剤を用い、同等の方法により製造することができる。また、上記した一実施態様であるコーヒーフィルタと同等の特性を満足することが好ましい。
【実施例】
【0035】
「実施例1」
針葉樹パルプ(NBKP、アメリカ産、ルーメン比の平均0.60)をリファイナーによってCSF647ml、17°SRの叩解度まで叩解し、パルプに対して、ポリアミドエピクロルヒドリン系湿潤紙力増強剤(固形分25%)を0.75質量%(固形分)を添加して紙料を調成した。
次に、この紙料を長網抄紙機によって抄紙し、ウェット法によってクレープ加工を施すことによって坪量51.3g/m2のクレープ紙を抄造した。
「実施例2」
実施例1と同じパルプをCSF662ml、15°SRの叩解度まで叩解した以外は、実施例1と同様にして、坪量57.6g/m2のクレープ紙を抄造した。
「実施例3」
実施例1と同じパルプをCSF681ml、11°SRの叩解度まで叩解した以外は、実施例1と同様にして、坪量69.6g/m2のクレープ紙を抄造した。
【0036】
「実施例4」
針葉樹パルプ(NBKP、アメリカ産、ルーメン比の平均0.68)を用い、CSF645ml、17°SRの叩解度まで叩解した以外は、実施例1と同様にして、坪量52.1g/m2のクレープ紙を抄造した。
「実施例5」
針葉樹パルプ(NBKP、アメリカ産、ルーメン比の平均0.68)とエクアドル産マニラ麻パルプとを85:15(質量%)の比率にて混合した紙料を叩解し、叩解度をCSF615ml、19°SRまで叩解した以外は、実施例1と同様にして、坪量53.3g/m2のクレープ紙を得た。
【0037】
「比較例1」
針葉樹パルプ(NBKP、カナダ産、ルーメン比の平均0.74)を用い、CSF639ml、18°SRの叩解度まで叩解した以外は、実施例1と同様にして坪量52.2g/m2のクレープ紙を得た。
【0038】
「比較例2」
クレープ加工を施さなかった以外は、実施例1と同様にして、坪量52.4g/m2の未加工紙を得た。
【0039】
上記で得られた各クレープ紙、未加工紙、さらに参考例として市販のクレープ紙からなるコーヒーフィルタについて、上記方法により各物性を測定した。
上記で得られた各クレープ紙と未加工紙から略台形のコーヒーフィルタを製造した。各コーヒーフィルタと市販のコーヒーフィルタを、それぞれドリッパーにセットして、同一条件でコーヒー飲料を抽出し、コーヒー飲料抽出時の濾水性とコーヒー飲料の風味を評価した。なお、比較例2の未加工紙は、プレス加工による接合部に穴が開いてしまい、コーヒーフィルタを製造することができなかったため、略台形に折りたたんだものを用いてコーヒー飲料を抽出した。
結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
本発明である実施例1~4のクレープ紙は、針葉樹パルプ100%で製造されているにもかかわらず、市販のコーヒーフィルタに用いられているクレープ紙、すなわち一般の針葉樹パルプ(ルーメン比の平均0.74)85質量%と麻パルプ15質量%からなるクレープ紙と同等の物性を備えており、特に、湿潤引張強さは市販品よりも優れていた。本発明である実施例5のクレープ紙は、ルーメン比の平均0.68の針葉樹パルプに麻パルプを配合することで、より優れたコーヒーフィルタを得ることができた。また、実施例のクレープ紙を用いたコーヒーフィルタは、濾水性が良好で、ドリップ時間が適当であり、市販のコーヒーフィルタと同等の風味を有するおいしいコーヒー飲料を淹れることができた。
【0042】
それに対し、比較例1のクレープ紙を用いたコーヒーフィルタは、ルーメン比の平均0.74である一般の針葉樹パルプ100%で製造されたため、濾水性が悪く、ドリッパー内で抽出液が滞留した。そのため、抽出時間が長くなり珈琲豆粉末から雑味まで抽出され、雑味の多いコーヒー飲料となった。また、比較例2の未加工紙は、破断伸びが小さいため、プレス加工による接合部に穴が開いてしまい、コーヒーフィルタとすることができなかった。比較例2の未加工紙を略台形となるよう折りたたみ、これをコーヒーフィルタとしてコーヒー飲料を抽出したところ、比較例1と同様に濾水性が悪く、ドリッパー内で抽出液が滞留し、雑味の多いコーヒー飲料となった。