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特許7021198組成物、負極、電池、使用する方法、及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】組成物、負極、電池、使用する方法、及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20220208BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220208BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220208BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220208BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220208BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/134
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019513370
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2017072927
(87)【国際公開番号】W WO2018046767
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-07-27
(31)【優先権主張番号】16188385.5
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511089686
【氏名又は名称】イメリス グラファイト アンド カーボン スイッツァランド リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】ピルミン ウルマン
(72)【発明者】
【氏名】セルジョ パケコ ベニート
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ チュルシェ
(72)【発明者】
【氏名】マルレーネ ロドレルト-バチリエリ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ランツ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュパール
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149340(JP,A)
【文献】特開2000-272911(JP,A)
【文献】特開2014-060124(JP,A)
【文献】特開2014-229517(JP,A)
【文献】特開2010-034036(JP,A)
【文献】特表2015-508934(JP,A)
【文献】国際公開第2016/008951(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/158741(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0063620(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/134
H01M 10/052
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物であって、前記前駆体組成物は、
(i)金属系ナノ微粒子活物質、及
(ii)10m/gより低いBET比表面積を有する炭素マトリックス
を含み、
前記炭素マトリックスが少なくとも第1及び第2の炭素質微粒子物質を含み、そしてさらに
前記第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低く、
前記第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第1の炭素質微粒子物質及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より高く、
前記第1及び第2の炭素質微粒子物質のそれぞれが黒鉛である、
前駆体組成物。
【請求項2】
(i)前記第2の炭素質微粒子物質が20m/gより高いBET比表面積を有する、又は
(ii)前記炭素マトリックスが第3の炭素質微粒子物質を含み、前記第2又は第3の炭素質微粒子物質が20m/gより高いBET比表面積を有する、又は
(iii)前記第2の炭素質微粒子物質が4/gより高く20m/gより低いBET比表面積を有する、請求項1に記載の前駆体組成物。
【請求項3】
金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物であって、
前記前駆体組成物が10m/gより低いBET比表面積を有する炭素マトリックスを含み、
前記炭素マトリックスが少なくとも第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質を含み、
前記第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より低く、
前記第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第1の炭素質微粒子物質及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より高く、そして
前記第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高く、
前記第1及び第2の炭素質微粒子物質のそれぞれが黒鉛である、前駆体組成物。
【請求項4】
記金属系ナノ微粒子活物質がケイ素元素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の前駆体組成物。
【請求項5】
前記第1の炭素質微粒子物質が、
(i)少なくとも10μmの90、及び/又は
(ii)5μm~20μmの50、及び/又は
(iii)2μm~10μmの10
の粒子サイズ分布を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の前駆体組成物。
【請求項6】
ii)前記第1及び第2の炭素質微粒子物質のそれぞれが少なくとも2.1g/cmのキシレン密度を有する、及び/又は
(iii)少なくとも前記第1の炭素質微粒子物質が、20μm未満のd50を有する、及び/又は
(iv)前記第1の炭素質微粒子物質が少なくとも20%のスプリングバックを有し、前記第2の炭素質微粒子物質が20%未満のスプリングバックを有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の前駆体組成物。
【請求項7】
記黒鉛が、黒鉛化された石油系コークス、又は化学的及び/若しくは熱的に精製された天然の薄片黒鉛、若しくは剥離された天然黒鉛、又は剥離された人造黒鉛である、請求項1~6のいずれか1項に記載の前駆体組成物。
【請求項8】
前記第1の炭素質微粒子物質が、前記炭素マトリックスの99重量%以下を構成し、前記第2の炭素質微粒子物質が、前記炭素マトリックスの40重量%以下を構成する、請求項1~7のいずれか1項に記載の前駆体組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の前駆体組成物から製造された、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極。
【請求項10】
請求項9に記載の負極を含むLiイオン電池。
【請求項11】
0m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質と20m/g以下のBET比表面積を有する炭素質微粒子物質との混合物であって、20%未満のスプリングバックを有する混合物、金属系ナノ微粒子活物質を含む負極における添加物とし使用する方法
【請求項12】
前記添加物が、前記添加物を含まない金属系ナノ微粒子活物質を含む第2の負極を備えるLiイオン電池と比較して、前記負極を含むLiイオン電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させる、請求項11に記載の方法
【請求項13】
請求項9に記載の負極又は請求項10に記載のLiイオン電池を含む装置、又は
請求項1~8のいずれか1項に記載の前駆体組成物を含むエネルギー貯蔵電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン電池の負極の前駆体組成物、前記前駆体組成物を含む又は前記前駆体組成物から形成された負極、前記負極を含むLiイオン電池、前記負極を含む装置、前記前駆体組成物、負極及びLiイオン電池を作る方法、並びに前記負極を含むLiイオン電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を減少させる、及び/又はサイクル安定性を向上させるための前記前駆体組成物又はその成分の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムと化合物又は合金を形成する金属は、リチウムイオン電池における負極において非常に高い比電荷を発揮する。例えば、ケイ素金属電極の理論比電荷は、4,200mAh/gに達し得る。しかしながら、第1の充放電サイクル、及び引き続く充放電サイクルの最中の比電荷損失は、市販のリチウムイオン電池に金属系活物質を採用することを遅らせてきた大きな制限である。これらのサイクル問題は、電気化学的挿入の最中にリチウムとの化合物を形成する際の、金属の実質的な体積変化に関連すると考えられている。
【0003】
これらのサイクル問題に対処できる新規電極材料を開発する継続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様は、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物であって、前記前駆体組成物は金属系ナノ微粒子活物質、及び約10m/gより低いバルクBET比表面積を有する炭素マトリックスを含み、炭素マトリックスは、少なくとも第1及び第2の炭素質微粒子物質を含み、第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低く、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第1の炭素質微粒子及び炭素マトリックスのBET比表面積より高いことを特徴とする前駆体組成物に関する。
【0005】
本発明の第2の態様は、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物であって、前記前駆体組成物は約10m/gより低いバルクBET比表面積を有する炭素マトリックスを含み、炭素マトリックスは、少なくとも第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質を含み、第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低く、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第1の炭素質微粒子及び炭素マトリックスのBET比表面積より高く、そして第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高いことを特徴とする前駆体組成物に関する。
【0006】
第1及び第2の態様の特定の実施形態では、
(i)第1及び第2の炭素質微粒子物質のそれぞれは、黒鉛である、及び/又は
(ii)第1及び第2の炭素質微粒子物質のそれぞれは、少なくとも約2.1g/cmのキシレン密度を有する、及び/又は
(iii)少なくとも第1の炭素質微粒子物質、そして所望により第1及び第2の炭素質微粒子物質の両方は、20μm未満のd50を有する。
【0007】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様の前駆体組成物から製造された、金属系ナノ微粒子活物質を含む、Liイオン電池用の負極に関する。
【0008】
本発明の第4の態様は、金属系ナノ微粒子活物質、例えば、電極の全重量を基準にして少なくとも1重量%の前記活物質と、約10m/gより低いバルクBET比表面積を有する炭素マトリックスとを含む負極であって、炭素マトリックスは、少なくとも第1、第2、及び所望により第3の炭素質微粒子物質を含み、第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低く、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第1の炭素質微粒子及び炭素マトリックスのBET比表面積より高く、そして所望による第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高いことを特徴とする負極に関する。
【0009】
本発明の第5の態様は、第3又は第4の態様の負極を含むLiイオン電池に関する。
【0010】
本発明の第6の態様は、負極を含むLiイオン電池であって、前記Liイオン電池負極が、
少なくとも約400mAh/g、又は少なくとも約500mAh/gの、15サイクル目での放電容量、及び/又は
負極の全質量を基準にして、約25%以下の、5サイクル目と15サイクル目との間での放電容量損失
の1つ又は複数を有し、負極は、金属系ナノ微粒子活物質及び炭素質微粒子を含み、そして所望により、金属系ナノ微粒子活物質はケイ素元素であることを特徴とするLiイオン電池に関する。
【0011】
本発明の第7の態様は、第5又は第6の態様のLiイオン電池を含む装置に関する。
【0012】
本発明の第8の態様は、約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質と約20m/g以下のBET比表面積を有する炭素質微粒子物質との混合物であって、約20%未満のスプリングバックを有する混合物の、金属系ナノ微粒子活物質を含む負極におおける添加物としての使用に関する。
【0013】
本発明の第9の態様は、例えば、添加物を含まない金属系ナノ粒子状活物質を含む第2の負極を備えるLiイオン電池と比較して、負極の全重量を基準にして少なくとも約1重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む負極を含むLiイオン電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させるための、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極における、第1又は第2の態様において定義された第2の炭素質微粒子物質及び/又は第3の炭素質微粒子物質の使用に関する。
【0014】
本発明の第10の態様は、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極における、約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質であって、所望により約20%以下のスプリングバックを有する炭素質微粒子物質の使用に関する。
【0015】
本発明の第11の態様は、第3若しくは第4の態様の電極、又は第5若しくは第6の態様のLiイオン電池を含む装置に関する。
【0016】
本発明の第12の態様は、第1又は第2の態様の組成物を含むエネルギー貯蔵電池に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは意外なことに、金属系ナノ微粒子活物質を、炭素質微粒子を含む炭素マトリックスと組み合わせることにより、サイクル安定性を向上させ得る、及び/又は不可逆容量損失を低減させ得ることを見いだした。理論に束縛されることを望むものではないが、所望により少なくとも2つの異なるタイプの炭素質微粒子物質を含む炭素マトリックスが、負極構造に柔軟性を提供すると考えられる。この柔軟性は、リチウム挿入の最中に金属ナノ微粒子の体積変化を相殺し、さらには、サイクルの最中に金属系活物質を安定化させること、そして表面特性、比表面積、機械的性質(柔軟性を含む)、形態、粒子サイズ分布、電気伝導度及びイオン伝導度、並びに接着性(バインダとの相互作用)に関して負極における特性のバランスを提供することに役立つ。
【0018】
このように、そして第1の態様に準拠して、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物が提供され、前駆体組成物は、金属系ナノ微粒子活物質と、約10m/gより低いバルクBET比表面積(SSA)を有する炭素マトリックスとを含み、炭素マトリックスは、少なくとも第1及び第2の炭素質微粒子物質を含み、第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低く、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第1の炭素質微粒子及び炭素マトリックスのBET比表面積より高い。
【0019】
本明細書に言う炭素マトリックスの「バルク」BET比表面積は、少なくとも第1及び第2の、そして所望によりさらなる炭素質微粒子物質により形成された炭素マトリックスの「全体としての」BET比表面積に関連する。換言すれば、炭素マトリックスに関連した「バルクBET比表面積」は、炭素マトリックスを生じる炭素粒子の混合物のBET比表面積であって、混合物の構成成分はそれぞれ、それら自体が特性評価される場合には、それら自体のBET比表面積を有していてもよい。
【0020】
特定の実施形態では、組成物は、負極の全重量を基準にして、少なくとも約1重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む。
【0021】
また、第2の態様に準拠して、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物が提供され、前駆体組成物は、約10m/gより低いBET比表面積を有する炭素マトリックスを含み、炭素マトリックスは、少なくとも第1、第2、及び第3の炭素質微粒子物質を含み、第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低く、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第1の炭素質微粒子及び炭素マトリックスのBET比表面積より高く、そして第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高い。
【0022】
「炭素質微粒子物質」とは、Liイオン電池の負極における使用に適切な炭素含有物質を意味する。特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、剥離された黒鉛、グラフェン、数層のグラフェン、黒鉛繊維、ナノ黒鉛、非黒鉛炭素、カーボンブラック、石油系若しくは石炭系コークス、ガラス炭素、カーボンナノチューブ、フラーレン、炭素繊維、硬い炭素、黒鉛化された微細コークス、又はそれらの混合物から選択される。特定の炭素質微粒子物質は、国際公開第2010/089326号(高度に配向した結晶粒凝集黒鉛、すなわちHOGA黒鉛)に記載の、又は、2016年9月12日に出願された同時係属中の欧州特許出願第16188344.2号(湿式粉砕及び乾燥された炭素質のせん断されたナノリーフ)に記載の、剥離された黒鉛が挙げられるが、これらには限定されない。
【0023】
特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、黒鉛及び/又はカーボンブラックから選択される。特定の実施形態では、カーボンブラックは、例えば、第2、第3、第4、及び/又は第5の炭素質微粒子物質の1つとして存在する場合には、約1200m/g未満、例えば、約1000m/g未満、又は約800m/g未満、又は約600m/g未満、又は約400m/g未満、又は約200m/g未満のBET比表面積を有する。特定の実施形態では、カーボンブラックは、約100m/g未満、例えば、約30m/g~約80m/g、又は約30m/g~約60m/g、又は約35m/g~約55m/g、又は約40m/g~約50m/gのBET比表面積を有する。
【0024】
炭素質微粒子を記載するのに使用される用語「第1の」、「第2の」、「第3の」、「第4の」等は、前駆体組成物に存在する異なるタイプの炭素質粒子どうしを差別化するのに使用される。第1の炭素質微粒子は、炭素マトリックスのBET比表面積より低いBET比表面積を有する。第1の炭素質微粒子は、異なる炭素質微粒子の混合物、例えば、2つの異なる炭素質微粒子の混合物をそれ自体含んでいてもよいが、ただし、第1の炭素質微粒子全体が、炭素マトリックスのBET比表面積より低いBET比表面積を有すること、及びそれぞれ異なる炭素質粒子状材料が個々に、炭素マトリックスのBET比表面積より低いBET比表面積を有することがその条件である。第2の、第3の、第4の、等の炭素質微粒子は、存在する場合には、第1の炭素質微粒子のBET比表面積より高い、そして特定の実施形態では、また炭素マトリックスより高いBET比表面積を、それぞれ個別に有することになる。よって、実施例を通じて、炭素マトリックスが、第1の炭素質微粒子と、第1の炭素質微粒子より高いBET比表面積を有するさらなる炭素質微粒子とだけからなる実施形態においては、このさらなる炭素質微粒子を、第2の炭素質微粒子と称することにする。その上さらに炭素質微粒子を包含するならば、これを、第3の炭素質微粒子と称する、等の可能性もある。炭素マトリックスが、第1の炭素質微粒子と、先の実施形態において第3の炭素質微粒子と称されるものとだけからなる別の実施形態では、先の第3の炭素質微粒子は、第2の炭素質微粒子として存在する可能性がある。したがって、このことは、他に言及のない限り、第1の炭素質微粒子以外では、さらなる炭素質微粒子は、どれだけ多くの異なる炭素質微粒子が炭素マトリックス及び前駆体組成物の中に存在するかに応じて、第2の、第3の、第4の、等を交換可能に指してもよいことを例示している。換言すれば、上に言及したとおり、これらの用語は、前駆体組成物中に存在する異なるタイプの炭素質微粒子どうしの間で差別化するためだけに使用される。第1の炭素質微粒子が、異なる炭素質微粒子の混合物を含む特定の実施形態では、これらを、第1の炭素質微粒子(a)、第1の炭素質微粒子(b)、等と称してもよい。
【0025】
金属系ナノ微粒子活物質は、第1の態様に準拠して、前駆体組成物の一部分であってもよい、又は第2の態様に準拠して、前駆体組成物の一部分であってもよいし、一部分でなくてもよい。活物質が、前駆体組成物の一部分ではない場合、それを、負極に形成するためにあらゆるその他の成分(例えば、バインダ)とともに前駆体組成物と組み合わせてもよい。第1の態様の特定の実施形態では、さらなる活物質を、負極に形成するのに先立って前駆体組成物に添加してもよい。いずれの態様の特定の実施形態でも、さらなる炭素質微粒子を、負極に形成するために前駆体組成物に添加してもよいが、ただし負極が、負極の全重量を基準にして、少なくとも1重量%の活物質を含むことがその条件である。
【0026】
活物質は、炭素質でない金属系ナノ微粒子である。「金属系」とは、元素での形態、合金の一部分、又は化合物の形態、例えば金属酸化物である金属を含む、非炭素質化学種を意味する。「ナノ微粒子」とは、少なくとも1つの寸法が約500nm未満である平均粒子サイズを含む物質を意味する。特定の実施形態では、金属系ナノ微粒子は、少なくとも1つの寸法が、約350nm未満、例えば、約10nm~約250nm、又は約20nm~約200nm、又は約20nm~約150nm、又は約20nm~約100nm、又は約20nm~約80nm、又は約20nm~約60nm、又は約30nm~約50nmである平均粒子サイズを有する。特定の実施形態では、金属系ナノ微粒子は、全ての寸法が約500nm未満、例えば、約350nm未満、又は約10nm~約250nm、又は約20nm~約200nm、又は約20nm~約150nm、又は約20nm~約100nm、又は約20nm~約80nm、又は約20nm~約60nm、又は約30nm~約50nmである平均粒子サイズを含む、又はそれから構成される物質である。粒子サイズは、いかなる適切な方法に準拠して決定してもよい。例えば、金属系ナノ微粒子の粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)、又は走査型電子顕微鏡(SEM)、又はTEM及びSEMの組み合わせにより決定してもよい。
【0027】
金属は、Liイオン電池の負極における活物質としての使用に適切なあらゆるもの(すなわち、あらゆる金属及び/又は合金、又は金属含有化合物、例えば金属酸化物であって、リチウムを電気化学的に挿入可能なもの)であってもよい。金属は、13族、14族、又は15族の元素、又はそれらの混合物であってもよいが、これらの金属だけに限定されるわけでない。金属は、ケイ素、例えば、Si元素、Si含有合金、又はSi酸化物、及び/又はスズ、例えば、Sn元素、Sn含有合金、又はSn酸化物であってもよい。特定の実施形態では、金属系ナノ微粒子活物質は、ケイ素元素、(すなわち、ケイ素金属)、ケイ素酸化物、又はケイ素を含有する合金、又はそれらのあらゆる組み合わせである。特定の実施形態では、ケイ素は、ケイ素元素である。特定の実施形態では、ケイ素は、少なくとも約95%、例えば、少なくとも約96%、又は少なくとも約97%、又は少なくとも98約%、又は少なくとも約99%、又は少なくとも約99.9%、又は少なくとも約99.99%の純度を有するケイ素元素である。特定の実施形態では、ケイ素は、純度が少なくとも約98%である。上の「ナノ微粒子」の意味と矛盾せずに、特定の実施形態では、ケイ素元素は、約10nm~約200nm、例えば、約20nm~約150nm、又は約20nm~約100nm、又は約20nm~約80nm、又は約20nm~約60nm、又は約30nm~約50nmの平均粒子サイズを有する。特定の実施形態では、金属系ナノ微粒子活物質は、少なくとも約95%、例えば、少なくとも約98%の純度を有する、そして約30nm~約50nmの平均粒子サイズを有するケイ素元素である。
【0028】
これ以降、本発明の特定の実施形態は、ケイ素活物質に関して、そしてケイ素活物質を前駆体組成物、負極、及び/又はLiイオン電池に組み込んだ特定の実施形態との関連において考察される傾向となる場合がある。本発明は、そのような実施形態に限定されるとは解釈されないものとし、そして特に、金属系ナノ微粒子活物質を、先の段落に記載された金属系ナノ微粒子活物質の1つ又はその他とする実施形態を包含する。また、本明細書に記載の種々な態様及び実施形態は、金属系ナノ微粒子活物質の混合物を用いて、例えば、金属が異なる、及び/又は活物質の形態は異なるが金属は同一である実施形態、例えば、SiとSn(すなわち、異なる金属)との混合物、又はSnとSnO(すなわち同じ金属ではあるがその異なる形態)との混合物等を用いて、実現してもよい。
【0029】
特定の実施形態では、金属系ナノ微粒子は、ケイ素微粒子、又はケイ素-炭素微粒子複合材料である。
【0030】
ケイ素微粒子
本開示のケイ素微粒子は、
(i)少なくとも約10%のミクロ細孔率、
(ii)約110オングストローム~約200オングストロームのBJH平均細孔幅、及び
(iii)少なくとも約0.32cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。「ミクロ細孔率」とは、微粒子の全BET比表面積に対するミクロ細孔の外表面積の%を意味する。本明細書で使用されるとおり、「ミクロ細孔」は、20オングストローム未満の細孔幅を意味し、「メソ細孔」は、20オングストローム~500オングストロームの細孔幅を意味し、そして「マクロ細孔」は、500オングストロームより大きい細孔幅を意味しており、これらはIUPAC分類に準拠する。
【0031】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、
(i)約15%~約50%のミクロ細孔率、
(ii)約130オングストローム~約180オングストロームのBJH平均細孔幅、及び
(iii)少なくとも約0.35cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。
【0032】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、
(i)約15%~約25%の、例えば、約18~22%のミクロ細孔率
(ii)約150オングストローム~約180オングストローム、例えば、約160オングストローム~約170オングストロームのBJH平均細孔幅、及び
(iii)少なくとも約0.45cm/g、例えば、約0.50cm/g~約0.60cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。
【0033】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、
(i)約25%~約35%、例えば、約28~32%のミクロ細孔率
(ii)約130オングストローム~約160オングストローム、例えば、約140オングストローム~約150オングストロームのBJH平均細孔幅、及び
(iii)少なくとも約0.35cm/g、例えば、約0.35cm/g~約0.45cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。
【0034】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、(i)、(ii)及び(iii)の少なくとも2つ、例えば、(i)及び(ii)、又は(ii)及び(iii)、又は(i)及び(iii)を有する。特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、(i)、(ii)及び(iii)のそれぞれを有する。
【0035】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、
(a)400~800オングストロームの細孔幅を有する細孔の中に存在する全細孔体積の百分率が、800オングストロームより大きく1200オングストローム以下の細孔幅を有する細孔の中に存在する全細孔体積の百分率より大きいこと、及び/又は
(b)最大細孔体積寄与が、約300と約500オングストロームとの間、又は約300と約400オングストロームとの間、又は約400と約500オングストロームとの間の細孔幅にあること、
をさらに特徴としてもよい。
最大細孔体積は、細孔サイズ分布に対して微分dV/dlog(w)(V=細孔体積、及びw=細孔幅)をプロットしたときのピーク値に対応する。換言すれば、「最大細孔体積」は、どのような細孔幅で細孔体積の寄与が最高となるかを表示する。
【0036】
加えて又は代わりに、特定の実施形態では、上の(i)、(ii)及び/又は(iii)に加えて、ケイ素微粒子は、
(1)少なくとも約70m/gのBET比表面積(SSA)、及び/又は
(2)約750オングストローム未満の平均粒子サイズ
を有してもよい。
【0037】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、約100m/g~約300m/g、例えば、約100m/g~約200m/g、又は約120m/g~約180m/g、又は約140m/g~約180m/g、又は約150m/g~約170m/g、又は約155m/g~約165m/gのBET比表面積を有する。
【0038】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、約100オングストローム~約600オングストローム、例えば、約100オングストローム~約500オングストローム、又は約100オングストローム~約400オングストローム、又は約100オングストローム~約300オングストローム、又は約100オングストローム~約250オングストローム、又は約100オングストローム~約200オングストローム、又は約110オングストローム~約190オングストローム、又は約120オングストローム~約180オングストローム、又は約130オングストローム~約180オングストローム、又は約140オングストローム~約180オングストローム、又は約150オングストローム~約170オングストローム、又は約155オングストローム~約165オングストロームの平均粒子サイズを有する。
【0039】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、約100オングストローム~約200オングストロームの平均粒子サイズを有する。特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、約140オングストローム~約180オングストロームの平均粒子サイズを有する。特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、約150オングストローム~約170オングストロームの平均粒子サイズを有する。
【0040】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、Liイオン電池の負極において活物質として使用される場合、ケイ素の微粉化を阻害する又は防止するナノ構造を有する。
【0041】
「ケイ素の微粉化を阻害する又は防止する」とは、連続プロセスにおける単一の非晶質相においてLiが脱インターカレートされること、より詳細には、1つの連続相において、そして結晶性Si及び結晶性Li15を含有する2つの相の形成が実質的に存在しない中で、Xの徐々に変化した非晶質LiSiの形成をナノ構造が促進することを意味する。結晶性Li15の形成は、第1のサイクルのLiインターカレーション及び脱インターカレーション曲線において、完全充電と完全放電との間の脱インターカレーション曲線の途中部分における特徴的なプラトーの存在により検出可能である。プラトーは、電位対Li/Li+[V](これは第1のサイクルのLiインターカレーション及び脱インターカレーション曲線のY軸である。)が、0.2の比電荷/372mAh/g(これは第1のサイクルのLi相互作用及び脱インターカレーション曲線のX軸である。)を横切って約0.05V以下変化することを特徴とする。理論に拘束されることを望むものではないが、Si-Li結晶性合金相の形成を防止する又は少なくとも阻害することにより、リチウムインターカレーションの最中にケイ素微粒子が体積膨脹の程度を低減させ、非晶質LiSi相の形成を促進すると考えられる。その結果、サイクル安定性の向上、及び比電荷損失の低減となる。
【0042】
加えて又は代わりに、したがって、特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、活物質として使用される場合にLiイオン電池の負極の電気化学的容量を保持するナノ構造を有する。「電気化学的容量を保持する」とは、100サイクル後の負極の比電荷が、10サイクル後の比電荷の少なくとも85%、例えば、10サイクル後の比電荷の少なくとも90%であることを意味する。換言すれば、ケイ素微粒子を含む負極は、100サイクル後の少なくとも85%の容量維持率、例えば、100サイクル後の少なくとも90%の容量維持率を有していてもよい。
【0043】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、湿式粉砕される、例えば、本明細書に記載の方法に準拠して湿式粉砕される。
【0044】
ケイ素微粒子を作製する方法
ケイ素微粒子は、第1の態様のケイ素微粒子、並びに/又はLiイオン電池の負極における活物質として使用する場合にケイ素の微粉化を阻害する若しくは防止する、及び/若しくは電気化学的容量を保持するナノ構造を有するケイ素微粒子を製造する条件下で、ケイ素微粒子出発物質を湿式粉砕することにより製造してもよい。「湿式粉砕する」とは、液体の存在下で粉砕することを意味し、この液体は、有機、水性、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0045】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子出発物質は、約1μm~約100μm、例えば、約1μm~約75μm、又は約1μm~約50μm、又は約1μm~約25μm、又は約1μm~約10μmの粒子サイズを有するケイ素ミクロ粒子を含む。特定の実施形態では、ケイ素微粒子出発物質は、約1μm~約10μmの粒子サイズを有する微粒子化されたケイ素微粒子である。
【0046】
特定の実施形態では、その方法は、
(i)溶媒、例えば、水性のアルコール含有混合物の存在下での湿式粉砕、
(ii)ロータ・ステータ型ミル、コロイダルミル、又は媒体ミルにおける湿式粉砕、
(iii)高いせん断、及び/又は高出力密度の条件下での湿式粉砕、
(iv)比較的硬いそして高濃度の粉砕媒体の存在下での湿式粉砕、及び
(v)乾燥
の1つ又は複数を含む。
【0047】
特定の実施形態では、その方法は、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)のうちの2つ以上とその後の乾燥、例えば、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)のうちの3つ以上とその後の乾燥、又は(i)、(ii)、(iii)及び(iv)のすべてとその後の乾燥を含む。
【0048】
(i)水性のアルコール含有混合物の存在下での湿式粉砕
溶媒は、有機物又は水性であってもよい、又は水と有機溶媒の組み合わせであってもよい。特定の実施形態では、溶媒は有機物であり、例えば、有機溶媒、又は異なる有機溶媒の混合物からなる。特定の実施形態では、溶媒は水性であり、例えば、水からなる。特定の実施形態では、溶媒は、例えば、約99:1から約1:99の重量比の、有機溶媒と水の混合物である。そのような実施形態では、有機溶媒は、異なる有機溶媒の混合物を含んでいてもよい。そのような実施形態では、溶媒は、有機物が支配的で、例えば、少なくとも約90%の有機物、又は少なくとも95%の有機物、又は少なくとも99%の有機物、又は少なくとも99.5%の有機物、又は少なくとも99.9%であってもよい。特定の実施形態では、溶媒は、有機物が支配的で、痕跡量の、例えば、溶媒の全重量を基準にして約0.01重量%~約1.0重量%、例えば、約0.01重量%~約0.5重量%、又は約0.01重量%~約0.1重量%、又は約0.01重量%~約0.05重量%の水を含む。
【0049】
特定の実施形態では、溶媒は、約10:1~約1:1、例えば、約8:1~約2:1、又は約6:1~約3:1、又は約5:1~約4:1の重量比の水とアルコールを含んでいてもよい水性のアルコール含有混合物である。全量の液体は、約20重量%以下、例えば、約15重量%以下、又は少なくとも約5重量%、又は少なくとも約10重量%の固形分含有量を有するケイ素微粒子出発物質のスラリーを製造するようなものであってもよい。これらの実施形態では、アルコールは、有機溶媒の全量に関して上に与えられた重量比を有する、アルコール以外の有機溶媒、又はアルコールと別の有機溶媒とを含む有機溶媒の混合物、又はアルコール以外の有機溶媒の混合物に置き換えてもよい。
【0050】
アルコールは、炭素数が約4以下の低分子量アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノールであってもよい。特定の実施形態では、アルコールは、プロパノール、例えば、イソプロパノールである。
【0051】
(ii)及び(iii)
特定の実施形態では、湿式粉砕は、ロータ・ステータ型ミル、コロイダルミル、又は媒体ミルにおいて実行される。これらのミルは、高せん断条件及び/又は高出力密度を発生させるのに使用することができるという点で類似している。
【0052】
ロータ・ステータ型ミルは、回転するシャフト(ロータ)、及び軸に固定された同心円状ステータを備えている。様々な歯状体が、わずかに間隙を空けたロータとステータとの両方の上に一列又は複数列の噛み合う歯を有しており、この間隙は変えてもよい。ロータとステータとの間の差動スピードにより極めて高いせん断が付与される。環状領域における高いせん断と、粒子-粒子の衝突、及び/又は、もし媒体が存在するならば粒子-媒体の衝突との両方により、粒子サイズを減少させる。
【0053】
コロイダルミルは、ロータ・ステータ型ミルの別の形態である。これは、円錐状ステータ内で回転する円錐状ロータから構成されている。ロータ及びステータの表面は、平滑な、粗い、又は穴をあけたものとすることができる。ロータとステータとの間の間隔はロータの軸の場所をステータに対して変えることにより調整可能である。間隙を変えることにより、粒子に付与されるせん断だけでなく、ミルの滞留時間、及び加わる出力密度が変わる。粒子サイズの減少は、所望により媒体の存在下で、間隙、及び回転速度を調整することに左右されるようにしてもよい。
【0054】
媒体ミルは、ロータ・ステータ型ミルとは動作が異なるものの、同様に使用して、高せん断条件及び出力密度を発生させることができる。媒体ミルは、パールミル、又はビーズミル、又はサンドミルであってもよい。ミルは、粉砕チャンバ及び粉砕シャフトを備えている。粉砕シャフトは典型的には、チャンバの長さに延びている。シャフトは、半径方向への突出、又は粉砕チャンバの中に延びているピンのいずれか、チャンバの長さに沿って位置する一連の円板、又はシャフトとミルチャンバとの間に比較的薄い環状の間隙を有していてもよい。典型的には球状のチャンバは、粉砕媒体で充填される。媒体は、ミルの出口に位置するメッシュスクリーンにより、ミル内に維持される。シャフトが回転することで、粉砕媒体へ突出が移動し、高いせん断及び出力密度の条件を生み出す。粉砕媒体の移動の結果として生じる高いエネルギー及びせん断は、物質が粉砕チャンバを通じて循環されると、粒子に付与される。
【0055】
ミル内部の回転スピードは、少なくとも約5m/s、例えば、少なくとも約7m/s、又は少なくとも約10m/sであってもよい。最高の回転スピードは、ミルごとに変わってもよいが、典型的には、約20m/s以下、例えば、約15m/s以下である。これらに代えて、スピードは、rpmという用語で特徴付けてもよい。特定の実施形態では、ロータ・ステータ、又は媒体ミルの場合では粉砕シャフトのrpmは、少なくとも約5000rpm、例えば、少なくとも約7500rpm、又は少なくとも約10,000rpm、又は少なくとも約11,000rpmであってもよい。さらに、最高のrpmは、ミルごとに変わってもよいが、典型的には約15,000rpm以下である。
【0056】
特定の実施形態では、ロータ・ステータ、又は粉砕シャフトの場合では媒体ミルのrpmは、少なくとも約500rpm、例えば、少なくとも約750rpm、又は少なくとも約1000rpm、又は少なくとも約1500rpmであってもよい。再び、最高のrpmは、ミルごとに変ってもよいが、典型的には約3000rpm以下である。
【0057】
出力密度は、少なくとも約2kW/L(L=スラリーのリットル)、例えば、少なくとも約2.5kW/L、又は少なくとも約3kW/Lであってもよい。特定の実施形態では、出力密度は、約5kW/L以下、例えば約4kW/L以下である。
【0058】
ミル内部での滞留時間は、24時間未満、例えば、約18時間以下、又は約12時間以下、又は約6時間以下、又は約4時間以下、又は約220分以下、又は約200分以下、又は約180分以下、又は約160分以下、又は約140分以下、又は約120分以下、又は約100分以下、又は約80分以下、又は約60分以下、又は約40分以下、又は約20分以下である。
【0059】
(iv)比較的硬く高濃度の粉砕媒体の存在下での湿式粉砕
特定の実施形態では、粉砕媒体は、少なくとも約3g/cm、例えば、少なくとも約3.5g/cm、又は少なくとも約4.0g/cm、又は少なくとも約4.5g/cm、又は少なくとも約5.0g/cm、又は少なくとも約5.5g/cm、又は少なくとも約6.0g/cmの密度を有することを特徴とする。特定の実施形態では、粉砕媒体は、セラミック粉砕媒体、例えば、イットリア安定化ジルコニア、セリア安定化ジルコニア、電融ジルコニア、アルミナ、アルミナ-シリカ、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-シリカ-ジルコニア、及びイットリア又はセリアで安定化されたそれらの形態である。粉砕媒体、例えば、セラミック粉砕媒体は、ビーズの形態をとっていてもよい。粉砕媒体、例えば、セラミック粉砕媒体は、約10mm未満、例えば、約8mm以下、又は約6mm以下、又は約4mm以下、又は約2mm以下、又は約1mm以下、又は約0.8mm以下、又は約0.6mm以下、又は約0.5mm以下のサイズを有していてもよい。特定の実施形態では、粉砕媒体は、少なくとも0.05mm、例えば、少なくとも約0.1mm、又は少なくとも約0.2mm、又は少なくとも約0.3mm、又は少なくとも約0.4mmのサイズを有する。
【0060】
特定の実施形態では、湿式粉砕は、最高で約10mmのサイズを有する粉砕媒体、例えば、セラミック粉砕媒体を用いて、遊星型ボールミルにおいて実行される。
【0061】
(v)乾燥
乾燥は、あらゆる適切な乾燥装置を使用するあらゆる適切な技術により、実行してもよい。典型的には、乾燥の第1の工程(又は、代わりに、粉砕工程の最後の行為)は、実際の乾燥が生じる前に大部分の液体を除去する、例えばろ過又は遠心分離により、分散物から固体物質を回収する。いくつかの実施形態では、乾燥工程c)は、オーブン又は加熱炉中で高温空気/ガスに通すこと、噴霧乾燥、フラッシュ又は流動床乾燥、流動化床乾燥、及び真空乾燥から選択される乾燥技術により、実行される。
【0062】
例えば、分散物は、直接、又は所望により適切なフィルタ(例えばa<100μmの金属性又は石英フィルタ)を通じてろ過した後に、典型的には120から230℃で空気オーブン中に導入し、そしてこれらの条件下で維持してもよい、又は350℃で例えば3時間、乾燥を実行してもよい。界面活性剤が存在する場合は、所望により、この分散物を、界面活性剤を除去/破壊するためのさらに高い温度で、例えばマッフル加熱炉中、575℃で3時間、乾燥させてもよい。
【0063】
代わりに、乾燥はまた、真空乾燥により達成してもよく、この場合、処理される分散物は、直接、又は所望により適切なフィルタ(すなわちa<100μmの金属性又は石英フィルタ)を通じて濾過した後に、閉じた真空乾燥オーブンの中に、連続的に又はバッチ式に導入する。真空乾燥オーブン中では、微粒子物質を動かす様々な攪拌器を所望により使用し、典型的には100℃を下回る温度で高真空を作り出すことにより、溶媒を蒸発させる。乾燥させた粉末は、真空を破った後に乾燥チャンバから直接的に収集する。
【0064】
乾燥はまた、例えば、噴霧乾燥器を用いて達成してもよく、この場合、処理される分散物は、連続的に又はバッチ式に噴霧乾燥器の中に導入され、この乾燥器が、高温ガスの流れを使用し、小さいノズルを使用して分散物を急速に霧状にして小滴にする。乾燥させた粉末は、サイクロン又はフィルタ内で、典型的には収集する。取り込み口での代表的なガス温度は、150~350℃の範囲である一方、取り出し口での温度は、典型的には60~120℃の範囲である。
【0065】
乾燥はまた、フラッシュ又は流動床乾燥により実行することができ、この場合、処理される膨張化黒鉛分散物は、連続的に又はバッチ式にフラッシュ乾燥器の中に導入され、この乾燥器が、様々なロータを使用してこの湿った物質を急速に分散させて小粒子にし、これらの粒子を引き続いて、高温ガスの流れを使用することにより乾燥させる。乾燥させた粉末は、サイクロン又はフィルタ内で、典型的には収集する。取り込み口での代表的なガス温度は、150~300℃の範囲である一方、取り出し口での温度は、典型的には100~150℃の範囲である。
【0066】
代わりに、処理される分散物を、流動化床反応器/乾燥器の中に連続的に又はバッチ式に導入してもよく、この反応器/乾燥器が、高温空気の注入と小さい媒体ビーズの動きとの組み合わせにより、分散物を急速に原子状にする。乾燥させた粉末は、サイクロン又はフィルタ内で、典型的には収集する。取り込み口での代表的なガス温度は、150~300℃の範囲である一方、取り出し口での温度は、典型的には100~150℃の範囲である。
【0067】
乾燥はまた、凍結乾燥により実行することができ、この場合、処理される分散物は、連続的に又はバッチ式に、閉じた冷凍乾燥器の中に導入されるが、この場合、溶媒(典型的には水又は水/アルコール混合物)の凍結と高真空の適用との組み合わせにより、凍結された溶媒が昇華する。乾燥させた材料は、すべての溶媒を除去した後に、そして真空を解放した後に収集する。
【0068】
乾燥工程は、所望により複数回、実行してもよい。もし複数回実行するならば、乾燥技術の様々な組み合わせを採用してもよい。複数の乾燥工程は例えば、オーブン/加熱炉中で物質を高温空気(又は不活性ガス、例えば窒素又はアルゴンの流れ)に通すことより、噴霧乾燥、フラッシュ若しくは流動床乾燥、流動化床乾燥、真空乾燥、又はそれらのいずれかの組み合わせにより、実行してもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、乾燥工程は、少なくとも2回、実行するが、好ましくはこの場合、乾燥工程は、オーブン/加熱炉中で高温空気に通すこと、噴霧乾燥、フラッシュ又は流動床乾燥、流動化床乾燥、及び真空乾燥からなる群から選択される少なくとも二つの異なる乾燥技術を含む。
【0070】
特定の実施形態では、乾燥は、オーブン中、例えば、少なくとも約100℃、例えば、少なくとも約105℃、又は少なくとも約110℃の温度の空気中で実行する。他の実施形態では、乾燥は、噴霧乾燥により、例えば、少なくとも約50℃、又は少なくとも約60℃、又は少なくとも約70℃の温度で実行する。
【0071】
ケイ素-炭素微粒子複合材料
使用してもよいケイ素-炭素微粒子複合材料は、
(i)少なくとも5.0%、所望により約25.0%以下のミクロ細孔率、
(ii)約250オングストローム未満のBJH平均細孔幅、及び
(iii)約0.05cm/g~約0.25cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。
【0072】
「ケイ素-炭素微粒子複合材料」とは、個々の粒子がナノチューブ又はナノワイヤのような一次元の形態以外の形態を有する微粒子複合材料を意味する。
【0073】
特定の実施形態では、ケイ素-炭素微粒子組成物は、
(i)約5.0%~約20%のミクロ細孔率、
(ii)約50オングストローム~約200オングストロームのBJH平均細孔幅、及び
(iii)少なくとも約0.10cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。
【0074】
特定の実施形態(実施形態Aとも称されるもの)では、ケイ素-炭素微粒子は、
(i)約5%~約20%、例えば、約8~17%のミクロ細孔率
(ii)約75オングストローム~約150オングストローム、例えば、約100~150オングストロームのBJH平均細孔幅、及び、
(iii)少なくとも約0.50cm/g、例えば約0.50cm/g~約1.25cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。
【0075】
そのような実施形態では、ミクロ細孔率は、約10~20%、又は約12~18%、又は約13~17%であってもよく、BJH平均細孔幅は、約100オングストローム~約150オングストローム、又は約120~150オングストローム、又は約120~140オングストロームであってもよく、そして細孔のBJH体積は、少なくとも約0.75cm/g、例えば、約0.75~1.25cm/g、又は約0.90~1.10cm/gであってもよい。
【0076】
そのような実施形態では、ミクロ細孔率は、約5~15%、又は約7~13%、又は約8~11%であってもよく、BJH平均細孔幅は、約75オングストロームから約135オングストローム、又は約90~120オングストローム、又は約100~120オングストロームであってもよく、そして細孔のBJH体積は、少なくとも約0.60cm/g、例えば、約0.70~1.10cm/g、又は約0.80~1.00cm/gであってもよい。
【0077】
特定の実施形態(実施形態Bとも称されるもの)では、ケイ素-炭素微粒子は、
(i)約5%~約15%、例えば、約10~15%のミクロ細孔率
(ii)約100オングストローム~約180オングストローム、例えば、約130オングストローム~約150オングストロームのBJH平均細孔幅、及び
(iii)少なくとも約0.10cm/g、例えば、約0.10cm/g~約0.25cm/gの細孔のBJH体積
の1つ又は複数を有する。
【0078】
そのような実施形態では、ミクロ細孔率は、約8~17%、又は約10~15%、又は約11~14%であってもよく、BJH平均細孔幅は、約120オングストローム~約160オングストローム、又は約125~150オングストローム、又は約135~145オングストロームであってもよく、そして細孔のBJH体積は、少なくとも約0.12cm/g、例えば、約0.12~0.18cm/g、又は約0.90~1.10cm/gであってもよい。
【0079】
特定の実施形態では、ケイ素-炭素微粒子は、(i)、(ii)及び(iii)の少なくとも2つ、例えば、(i)及び(ii)、又は(ii)及び(iii)、又は(i)及び(iii)を有する。特定の実施形態では、ケイ素-炭素-微粒子は、(i)、(ii)及び(iii)のそれぞれを有する。
【0080】
特定の実施形態では、ケイ素-炭素微粒子複合材料は、
(1)約400m/g以下のBET比表面積(SSA)、及び/又は
(2)約50~2000オングストロームの平均粒子サイズ
を有することをさらに特徴としてもよい。
【0081】
特定の実施形態では、ケイ素-炭素微粒子複合材料は、約50~1750オングストローム、又は約50~1500オングストローム、又は約50~1250オングストローム、又は約50~1000オングストローム、又は約50~750オングストロームの平均粒子サイズを有する。
【0082】
BET比表面積、細孔体積及び平均粒子サイズは、ケイ素-炭素微粒子におけるケイ素の量に依存して変動してもよい。例えば、高いケイ素レベル、例えば、少なくとも約3:1、又は少なくとも約4:1、又は少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1のSi:Cの重量比では、Si:Cの重量比が少なくとも約1:3、又は少なくとも約1:4、又は少なくとも約1:5、又は少なくとも約1:6、又は少なくとも約1:7、又は少なくとも約1:8であるケイ素-炭素微粒子と比較して、BET比表面積と細孔体積はさらに高くなり、そして平均粒子サイズはさらに低くなる。
【0083】
よって、特定の実施形態、例えば実施形態Aでは、ケイ素-炭素微粒子複合材料は、
(1)約100~約400m/g、例えば、約200~400m/g、又は約250~350m/g、又は約275~325m/g、又は約275~300m/g、又は約300~325m/gのBET比表面積(SSA)、及び/又は
(2)約50オングストローム~約300オングストローム、例えば、約50~200オングストローム、又は約50~150オングストローム、又は約50~100オングストローム、又は約75~100オングストローム、又は約80~95オングストロームの平均粒子サイズ
を有することをさらに特徴としてもよい。
【0084】
そのような実施形態では、BET比表面積は、約275~325m/gであってもよく、平均粒子サイズは、約50~200オングストローム、例えば、約50~150オングストローム、又は約50~100オングストロームであってもよく、BJH平均細孔幅は、約100オングストローム~約140オングストロームであってもよく、細孔のBJH体積は、約0.75cm/g~約1.25cm/gであってもよく、そしてミクロ細孔率は、約5~20%、例えば、約12~18%、又は約8~12%であってもよい。
【0085】
特定の実施形態、例えば実施形態Bでは、ケイ素-炭素微粒子複合材料は、
(1)約10m/g~約100m/g、例えば、約20~80m/g、又は約20~60m/g、又は約30~50m/g、又は約35~45m/g、又は約40~45m/gのBET比表面積(SSA)、及び/又は
(2)約250オングストローム~約1000オングストローム、例えば、約450~850オングストローム、又は約500~800オングストローム、又は約550~700オングストローム、又は約575~675オングストローム、又は約600~650オングストローム、又は約620~640オングストロームの平均粒子サイズ
を有することをさらに特徴としてもよい。
【0086】
そのような実施形態では、BET比表面積は、約30~50m/gであってもよく、平均粒子サイズは、約300~1000オングストローム、例えば、約500~700オングストローム、又は約600~650オングストロームであってもよく、BJH平均細孔幅は、約130オングストローム~約150オングストロームであってもよく、細孔のBJH体積は、約0.12cm/g~約0.16cm/gであってもよく、そしてミクロ細孔率は、約8~15%、例えば、約10~13%であってもよい。
【0087】
特定の実施形態、例えば実施形態Aでは、ケイ素-炭素微粒子複合材料の過半数は、ケイ素であり、複合材料の全重量を基準にして、例えば、複合材料の少なくとも約60重量%、又は少なくとも約70重量%、又は少なくとも約80重量%、又は少なくとも約90重量%がケイ素である。
【0088】
特定の実施形態、例えば実施形態Bでは、ケイ素-炭素微粒子複合材料の過半数が炭素であり、複合材料の全重量を基準にして、例えば、複合材料の少なくとも約60重量%、又は少なくとも約70重量%、又は少なくとも約80重量%、又は少なくとも約90重量%が炭素である。
【0089】
特定の実施形態では、ケイ素-炭素微粒子組成物は、Liイオン電池の負極において活物質として使用される場合にケイ素の微粉化を阻害する又は防止するナノ構造を有する。
【0090】
「ケイ素の微粉化を阻害する又は防止する」とは、連続プロセスにおける単一の非晶質相においてLiが脱インターカレートされること、より詳細には、1つの連続相において、そして結晶性Si及び結晶性Li15を含有する二つの相の形成が実質的に存在しない中で、Xの徐々に変化した非晶質LiSiの形成がナノ構造により促進されることを意味する。結晶性Li15の形成は、第1のサイクルのLiインターカレーション及び脱インターカレーション曲線において、完全充電と完全放電との間の脱インターカレーション曲線の途中部分における特徴的なプラトーの存在により検出可能である。プラトーは、電位対Li/Li+[V](これは第1のサイクルのLiインターカレーション及び脱インターカレーション曲線のY軸である。)が、0.2の比電荷/372mAh/g(これは第1のサイクルのLi相互作用及び脱インターカレーション曲線のX軸である。)を横切って約0.05V以下変化することを特徴とする。理論に拘束されることを望むものではないが、Si-Li結晶性合金相の形成を防止する又は少なくとも阻害することにより、リチウムインターカレーションの最中にケイ素-炭素微粒子複合材料が体積膨脹の程度を低減させ、非晶質LiSi相の形成を促進し、そしてさらには、充分な細孔ボイド間隔を提供して、リチウム化の最中の前記体積膨脹にさらに良好に順応し、よって、Liイオン電池のサイクル安定性を向上させる、及び/又はサイクルの最中の容量損失を低減させると考えられる。その結果、サイクル安定性の向上、及び比電荷損失の低減となる。
【0091】
加えて又は代わりに、したがって、特定の実施形態では、ケイ素微粒子は、活物質として使用される場合にLiイオン電池の負極の電気化学的容量を保持するナノ構造を有する。「電気化学的容量を保持する」とは、100サイクル後の負極の比電荷が、10サイクル後の比電荷の少なくとも85%、例えば、10サイクル後の比電荷の少なくとも90%、又は10サイクル後の比電荷の少なくとも95%であることを意味する。換言すれば、ケイ素微粒子を含む負極は、100サイクル後の少なくとも85%の容量維持率、例えば、100サイクル後の少なくとも90%、又は100サイクル後の少なくとも95%の容量維持率を有していてもよい。
【0092】
特定の実施形態では、ケイ素-炭素微粒子複合材料は、ケイ素及び炭素出発物質を、湿った条件で共粉砕することにより、すなわち、本明細書に記載の方法に準拠して湿式粉砕することにより準備する。
【0093】
ケイ素-炭素微粒子複合材料を形成する方法
ケイ素-炭素微粒子複合材料は、第1の態様のケイ素-炭素粒子複合材料、並びに/又はLiイオン電池の負極における活物質として使用する場合にケイ素の微粉化を阻害する若しくは防止する、及び/若しくは電気化学的容量を保持するナノ構造を有するケイ素-炭素粒子複合材料を製造する湿った条件下で、ケイ素微粒子と炭素質微粒子出発物質とを共粉砕することにより、製造してもよい。「湿った条件」又は「湿式粉砕する」とは、液体の存在下で粉砕することを意味し、この液体は、有機、水性、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0094】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子出発物質は、約1μm~約100μm、例えば、約1μm~約75μm、又は約1μm~約50μm、又は約1μm~約25μm、又は約1μm~約10μmの粒子サイズを有するケイ素ミクロ粒子を含む。特定の実施形態では、ケイ素微粒子出発物質は、約1μm~約10μmの粒子サイズを有する微粒子化されたケイ素微粒子である。炭素質微粒子出発物質を以下に記載する。
【0095】
特定の実施形態では、その方法は、
(i)溶媒、例えば、水性のアルコール含有混合物の存在下での湿式粉砕、
(ii)ロータ・ステータ型ミル、コロイダルミル、又は媒体ミルにおける湿式粉砕、
(iii)高いせん断、及び/又は高出力密度の条件下での湿式粉砕、
(iv)比較的硬いそして高濃度の粉砕媒体の存在下での湿式粉砕、及び
(v)乾燥
の1つ又は複数を含む。
【0096】
特定の実施形態では、その方法は、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)のうちの2つ以上とその後の乾燥、例えば、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)のうちの3つ以上とその後の乾燥、又は(i)、(ii)、(iii)及び(iv)のすべてとその後の乾燥を含む。
【0097】
(i)溶媒の存在下での湿式粉砕
特定の実施形態では、溶媒は、約10:1~約1:1、例えば、約8:1~約2:1、又は約6:1~約3:1、又は約5:1~約4:1の重量比の水とアルコールを含んでいてもよい水性のアルコール含有混合物である。全量の液体は、約30重量%以下、例えば、約25重量%以下、又は約20重量%以下、又は約15重量%以下、又は少なくとも約5重量%、又は少なくとも約10重量%の固形分含有量を有するケイ素微粒子出発物質のスラリーを製造するようなものであってもよい。ケイ素微粒子出発物質と炭素質微粒子出発物質とを加えた液体は、スラリーの形態をとっていてもよい。これらの実施形態では、アルコールは、有機溶媒の全量に関して上に与えられた重量比を有する、アルコール以外の有機溶媒、又はアルコールと別の有機溶媒とを含む有機溶媒の混合物、又はアルコール以外の有機溶媒の混合物に置き換えてもよい。
【0098】
アルコールは、炭素数が約4個以下の低分子量アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノールであってもよい。特定の実施形態では、アルコールは、プロパノール、例えば、イソプロパノールである。
【0099】
(ii)及び(iii)
特定の実施形態では、湿式粉砕は、ロータ・ステータ型ミル、コロイダルミル、又は媒体ミルにおいて実行される。これらのミルは、高せん断条件及び/又は高出力密度を発生させるのに使用することができるという点で類似している。
【0100】
ロータ・ステータ型ミルは、回転するシャフト(ロータ)、及び軸に固定された同心円状ステータを備えている。様々な歯状体が、わずかに間隙を空けたロータとステータとの両方の上に一列又は複数列の噛み合う歯を有しており、この間隙は変えてもよい。ロータとステータとの間の差動スピードにより極めて高いせん断が付与される。環状領域における高いせん断と、粒子-粒子の衝突、及び/又は、もし媒体が存在するならば粒子-媒体の衝突との両方により、粒子サイズを減少させる。
【0101】
コロイダルミルは、ロータ・ステータ型ミルの別の形態である。これは、円錐状ステータ内で回転する円錐状ロータから構成されている。ロータ及びステータの表面は、平滑な、粗い、又は穴をあけたものとすることができる。ロータとステータとの間の間隔はロータの軸の場所をステータに対して変えることにより調整可能である。間隙を変えることにより、粒子に付与されるせん断だけでなく、ミルの滞留時間、及び加わる出力密度が変わる。粒子サイズの減少は、所望により媒体の存在下で、間隙、及び回転速度を調整することに左右されるようにしてもよい。
【0102】
媒体ミルは、ロータ・ステータ型ミルとは動作が異なるものの、同様に使用して、高せん断条件及び出力密度を発生させることができる。媒体ミルは、パールミル、又はビーズミル、又はサンドミルであってもよい。ミルは、粉砕チャンバ及び粉砕シャフトを備えている。粉砕シャフトは典型的には、チャンバの長さに延びている。シャフトは、半径方向への突出、又は粉砕チャンバの中に延びているピンのいずれか、チャンバの長さに沿って位置する一連の円板、又はシャフトとミルチャンバとの間に比較的薄い環状の間隙を有していてもよい。典型的には球状のチャンバは、粉砕媒体で充填される。媒体は、ミルの出口に位置するメッシュスクリーンにより、ミル内に維持される。シャフトが回転することで、粉砕媒体へ突出が移動し、高いせん断及び出力密度の条件を生み出す。粉砕媒体の移動の結果として生じる高いエネルギー及びせん断は、物質が粉砕チャンバを通じて循環されると、粒子に付与される。
【0103】
ミル内部の回転スピードは、少なくとも約5m/s、例えば、少なくとも約7m/s、又は少なくとも約10m/sであってもよい。最高の回転スピードは、ミルごとに変わってもよいが、典型的には、約20m/s以下、例えば、約15m/s以下である。これらに代えて、スピードは、rpmという用語で特徴付けてもよい。特定の実施形態では、ロータ・ステータ、又は媒体ミルの場合では粉砕シャフトのrpmは、少なくとも約5000rpm、例えば、少なくとも約7500rpm、又は少なくとも約10,000rpm、又は少なくとも約11,000rpmであってもよい。さらに、最高のrpmは、ミルごとに変わってもよいが、典型的には約15,000rpm以下である。出力密度は、少なくとも約2kW/L(L=スラリーのリットル)、例えば、少なくとも約2.5kW/L、又は少なくとも約3kW/Lであってもよい。特定の実施形態では、出力密度は、約5kW/L以下、例えば約4kW/L以下である。
【0104】
特定の実施形態では、ロータ・ステータ、又は粉砕シャフトの場合では媒体ミルのrpmは、少なくとも約500rpm、例えば、少なくとも約750rpm、又は少なくとも約1000rpm、又は少なくとも約1500rpmであってもよい。さらに、最高のrpmは、ミルごとに変ってもよいが、典型的には約3000rpm以下である。
【0105】
ミル内部での滞留時間は、24時間未満、例えば、約18時間以下、又は約12時間以下、又は約6時間以下、又は約4時間以下、又は約220分以下、又は約200分以下、又は約180分以下、又は約160分以下、又は約140分以下、又は約120分以下、又は約100分以下、又は約80分以下、又は約60分以下、又は約40分以下、又は約20分以下である。
【0106】
(iv)比較的硬く高濃度の粉砕媒体の存在下での湿式粉砕
特定の実施形態では、粉砕媒体は、少なくとも約3g/cm、例えば、少なくとも約3.5g/cm、又は少なくとも約4.0g/cm、又は少なくとも約4.5g/cm、又は少なくとも約5.0g/cm、又は少なくとも約5.5g/cm、又は少なくとも約6.0g/cmの密度を有することを特徴とする。
【0107】
特定の実施形態では、粉砕媒体は、セラミック粉砕媒体、例えば、イットリア安定化ジルコニア、セリア安定化ジルコニア、電融ジルコニア、アルミナ、アルミナ-シリカ、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-シリカ-ジルコニア、及びイットリア又はセリアで安定化されたそれらの形態である。粉砕媒体、例えば、セラミック粉砕媒体は、ビーズの形態をとっていてもよい。粉砕媒体、例えば、セラミック粉砕媒体は、約10mm未満、例えば、約8mm以下、又は約6mm以下、又は約4mm以下、又は約2mm以下、又は約1mm以下、又は約0.8mm以下、又は約0.6mm以下、又は約0.5mm以下のサイズを有していてもよい。特定の実施形態では、粉砕媒体は、少なくとも0.05mm、例えば、少なくとも約0.1mm、又は少なくとも約0.2mm、又は少なくとも約0.3mm、又は少なくとも約0.4mmのサイズを有する。
【0108】
特定の実施形態では、湿式粉砕は、最高で約10mmのサイズを有する粉砕媒体、例えば、セラミック粉砕媒体を用いて、遊星型ボールミル内で実行される。
【0109】
(v)乾燥
乾燥は、上記のとおりあらゆる適切な装置を使用するあらゆる適切な技術により、実行してもよい。特定の実施形態では、乾燥は、オーブン中、例えば、少なくとも約100℃、例えば、少なくとも約105℃、又は少なくとも約110℃の温度の空気中で実行する。特定の実施形態では、乾燥は、噴霧乾燥により、例えば、少なくとも約50℃、又は少なくとも約60℃、又は少なくとも約70℃の温度で実行する。
【0110】
特定の実施形態では、炭素質微粒子出発物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、剥離された黒鉛、グラフェン、数層のグラフェン、黒鉛繊維、ナノ黒鉛、非黒鉛炭素、カーボンブラック、石油系若しくは石炭系コークス、ガラス炭素、カーボンナノチューブ、フラーレン、炭素繊維、硬い炭素、黒鉛化された微細コークス、又はそれらの混合物から選択される。
【0111】
特定の実施形態では、炭素質微粒子出発物質は、黒鉛、例えば、天然又は人造黒鉛、剥離された黒鉛、又は膨張化黒鉛、又はそれらの組み合わせ、例えば、膨張化黒鉛と人造黒鉛との組み合わせである。特定の実施形態では、人造黒鉛は、表面改質される、例えば、非晶質被膜で被覆される。特定の実施形態では、人造黒鉛は、表面改質されてはいない。他の特定の炭素質微粒子出発物質は、国際公開第2010/089326号(高度に配向した結晶粒凝集黒鉛、すなわちHOGA黒鉛)、又は2016年9月12日に出願された同時係属中の欧州特許出願第16188344.2号(湿式粉砕及び乾燥された炭素質のせん断されたナノリーフ)に記載の、剥離された黒鉛である。
【0112】
炭素質微粒子出発物質は、共粉砕の後に、Liイオン電池の負極における使用に適切なBET比表面積を有する炭素マトリックスを与えるように選択することができる。
【0113】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子出発物質は、まず、炭素質微粒子出発物質の存在しない中で、例えば、約1時間以下、約45分以下、又は約30分以下、又は約15分以下の間、粉砕し、そしてその後、炭素質微粒子出発物質と混合して、さらなる時間、共粉砕する。
【0114】
特定の実施形態では、炭素質微粒子出発を、共粉砕プロセスの最中に徐々に、又はバッチ式に添加する。
【0115】
他の実施形態では、炭素質微粒子出発物質を、ケイ素微粒子出発物質の存在しない中でまず粉砕し、そしてその後、ケイ素微粒子出発物質と混合して、さらなる時間、共粉砕する。
【0116】
特定の実施形態では、ケイ素微粒子出発物質を、共粉砕プロセスの最中に徐々に、又はバッチ式に添加する。
【0117】
炭素マトリックス
特定の実施形態では、炭素マトリックスは、Liイオン電池の負極における使用に適切な(バルク)BET比表面積(SSA)を有する。特定の実施形態では、炭素マトリックスは、約10m/gより低い、例えば、約2.0m/g~約9.0m/g、又は約2.0m/g~約8.0m/g、又は約3.0m/g~約7.0m/g、又は約3.0m/g~約6.5m/g、又は約3.5m/g~約6.0m/g、又は約4.0m/g~約6.0m/g、又は約4.5m/g~約6.0m/g、又は約4.5m/g~約5.5m/g、又は約4.5~約5.0m/g、又は約4.0m/g~約5.0m/gのBET比表面積を有する。
【0118】
第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低い。特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、約8.0m/g未満、例えば、約1.0m/g~約7.0m/g、又は約2.0m/g~約6.0m/g、又は約2.0m/g~約5.0m/g、又は約2.0m/g~約4.0m/g、又は約2.0m/g~約3.0m/g、又は約3.0m/g~約4.0m/gのBET比表面積を有する。
【0119】
特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、
少なくとも約10μm、例えば、少なくとも約15μm、又は少なくとも約20μm、又は少なくとも約25μm、又は少なくとも約30μm、所望により約50μm未満、又は約40μm未満のd90、及び/又は
少なくとも約5μm~約20μm、例えば、約10μm~約20μm、又は約10μm~約15μm、又は約15μm~約20μmのd50、及び/又は
約2μm~約10μm、例えば、約3μm~約9μm、又は約3μm~約6μm、又は約5μmμm~約9μmのd10
の粒子サイズ分布を有する。
【0120】
特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、少なくとも約20%、例えば、少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%の比較的高いスプリングバックを有する。特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、約40%~約70%、例えば、約45%~約65%、例えば、約45%~約55%、又は約60%~約70%、又は約50%~約60%のスプリングバックを有する。
【0121】
特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子物質は、黒鉛、例えば、人造黒鉛若しくは天然黒鉛、又はそれらの混合物である。特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子物質は、人造黒鉛物質の混合物である。
【0122】
特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子物質は、表面改質人造黒鉛、例えば、化学気相成長(「CVD被覆))若しくは高温で制御された酸化のいずれかにより表面改質された人造黒鉛である、又はこれを(例えば、別の炭素質微粒子物質との混合物として)含む。特定の実施形態では、表面改質に先立つ人造黒鉛は、BET比表面積が約1.0~約4.0m/gであること、そして平行軸結晶子サイズL(ラマン分光により測定されたもの)に対する垂直軸結晶子サイズL(XRDにより測定されたもの)の比、すなわちL/Lが1より大きいことを特徴とする。表面改質の後には、人造黒鉛は、結晶子サイズLと結晶子サイズLとの間の比が増大することを特徴とする。換言すれば、表面改質プロセスは、結晶子サイズLに実質的に影響を及ぼすことなしに、結晶子サイズLを減少させる。一実施形態では、人造黒鉛の表面改質は、高温で、好ましくは>1の、又はさらに大きい、例えば>1.5、2.0、2.5、若しくはさらに3.0の比まで、比L/Lの増大を実現するのに充分な時間、酸素と未処理の人造黒鉛とを接触させることにより、実現される。更に、バーンオフ率(burn-off rate)を比較的低く、例えば、約10%未満、9%未満、又は8%未満に維持するプロセスパラメータ、例えば、温度、酸素含有プロセスガスの量、及び処理時間を選択する。これらのプロセスパラメータは、約4.0m/g未満のBET表面積を維持する表面改質人造黒鉛を製造するように選択される。
【0123】
人造黒鉛の表面を改質するプロセスは、例えば約500~約1100℃にわたる高温での黒鉛粒子の制御された酸化が関与していてもよい。酸化は、適切な加熱炉、例えば回転式の加熱炉内で、比較的短時間、人造黒鉛粒子を酸素含有プロセスガスと接触させることにより実現される。酸素を含有するプロセスガスは、純酸素、(人工又は天然)空気、又は他の酸素含有ガス、例えばCO、CO、HO(蒸気)、O、及びNOxから選択してもよい。プロセスガスが、所望により、不活性の担体ガス、例えば窒素又はアルゴンとの混合物での、前述の酸素含有ガスのいかなる組み合わせも可能であることが理解されるであろう。酸化プロセスが、増加した酸素濃度、すなわち、プロセスガスにおけるさらに高い分圧を用いると、さらに速やかに進行することは、概して認識されるであろう。プロセスパラメータ、例えば、処理温度だけでなく、処理時間(すなわち加熱炉内での滞留時間)、プロセスガスの酸素含有量及び流量は、重量で約10%未満のバーンオフ率を維持するように選択されるが、ただし、いくつかの実施形態では、さらに低い、例えば9%、8%、7%、6%、又は5%未満のバーンオフ率を維持することが望ましい。バーンオフ率は、特に表面酸化処理の文脈においては、普通に使用されるパラメータであるが、そのわけは、どれだけの量の炭素質物質が二酸化炭素に変換され、それにより、残っている表面処理済み物質の重量がどれだけ減少するかを、このパラメータが指示するからである。
【0124】
黒鉛粒子が、酸素含有プロセスガス(すなわち人工空気)と接触している処理時間は比較的短くてよく、よって、2~30分の範囲であってもよい。多くの実例では、この時間はさらに短く、例えば2~15分、4~10分、又は5~8分であってさえよい。もちろん、異なる出発物質、温度、及び酸素分圧を採用するには、本明細書で定義したとおりの所望の構造パラメータを有する表面改質人造黒鉛に到達することを目的として、処理時間を適合させることが必要となることがある。酸化は、概して1~200L/分、例えば、1~50L/分、又は2~5L/分の範囲にわたる流量で、人造黒鉛を空気又は別の酸素含有ガスと接触させることにより、実現してもよい。当業者は、表面改質黒鉛に到達することを目的として、プロセスガスの素性、処理温度、及び加熱炉における滞留時間に応じて流量を適合させることができるであろう。
【0125】
代わりに、人造黒鉛出発物質を、炭化水素含有プロセスガスを用いて高温で、好ましくは>1の、又はさらに大きい、例えば>1.5、2.0、2.5、若しくはさらに3.0の比まで、比L/Lの増大を実現するのに充分な時間、CVD被覆処理に通す。適切なプロセス及び表面改質人造黒鉛物質は、米国特許第7,115,221号明細書に記載されており、その全体の内容は参照により、本明細書に援用される。CVDプロセスは、黒鉛粒子の表面を大部分無秩序な(すなわち、非晶質の)炭素含有粒子で被覆する。CVD被覆は、高温(例えば500~1000℃)で特定の30の期間、人造黒鉛出発物質を、炭化水素又は低級アルコールを含有するプロセスガスと接触させることを含む。処理時間は、大多数の実施形態では、2~120分の範囲内であるが、ただし、多くの実例では、黒鉛粒子がプロセスガスと接触している時間は、わずか5~90分、10~60分、又は15~30分の範囲となる。適切なガス流量は、当業者が決定することができる。いくつかの実施形態では、プロセスガスは、窒素キャリヤーガス中に2~10%のアセチレン又はプロパンを含有し、流量はおよそ1m/時間である。
【0126】
特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子、例えば、先の段落に記載された表面改質人造黒鉛は、上に記載されたBET比表面積、粒子サイズ分布、及びスプリングバックに加えて、以下の特性:
約0.337nm以下、例えば、約0.336nm以下の層間隔c/2(XRDによる測定されたもの)、
100nm~約175nm、例えば、約140nm~約170nmの結晶子サイズL(XRDによる測定されたもの)、
約2.22~約2.24g/cm、例えば、約0.225~約0.235g/cmのキシレン密度、
約0.25g/cm~約0.75g/cm、例えば、約0.40~約0.50g/cmのスコット密度(Scott density)
の1つ又は複数を有していてもよい。
【0127】
特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、表面改質されなかった人造黒鉛、すなわち非表面改質人造黒鉛である、又はこれを(例えば、別の炭素質微粒子物質との混合物として)含む。上に記載されたBET比表面積、粒子サイズ分布、及びスプリングバックに加えて、非表面改質人造微粒子は、以下の特性:
約0.337nm以下、例えば、約0.336nm以下の層間隔c/2(XRDによる測定されたもの)、
100nm~約150nm、例えば、約120nm~約135nmの結晶子サイズL(XRDによる測定されたもの)、
約2.23~約2.25g/cm、例えば、約0.235~約0.245g/cmのキシレン密度、
約0.15g/cm~約0.60g/cm、例えば、約0.30~約0.45g/cmのスコット密度
の1つ又は複数を有していてもよい。
【0128】
特定の実施形態では、非表面改質人造黒鉛は、国際公開2010/049428号に記載された方法に従って準備され、その全体の内容は参照により、本明細書に援用される。
【0129】
特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、本明細書に記載された表面改質人造黒鉛と本明細書に記載された非表面改質人造黒鉛との混合物である。そのような混合物の重量比は、99:1~約1:99([表面改質]:[非表面改質])、例えば、約90:10~約10:90、又は約80:20~約20:80、又は約70:30~約30:70、又は約60:40~約40:60、又は約50:50~約30:70、又は約45:55~約35:65の範囲内で変化してもよい。
【0130】
第1の炭素質微粒子物質に対して、さらなる炭素質微粒子物質は、さらに高いBET比表面積、及び/又はさらに低いスプリングバック、例えば、さらに高いBET比表面積及びさらに低いスプリングバックを有する。
【0131】
第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第1の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より高く、そして存在する場合には、第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高く、そして存在する場合には第4の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高い。
【0132】
実施形態A
特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、約8m/gより高く約20m/gより低い、例えば、約15m/gより低い、又は約12m/gより低い、又は約10m/gより低いBET比表面積を有する。そのような実施形態では、第3の炭素質微粒子物質は、存在する場合には、約20m/gより高く、例えば、約25m/gより高く、又は約30m/gより高く、所望により、約40m/gより低い、例えば、約35m/gより低いBET比表面積を有する。そのような実施形態では、存在する場合には第2若しくは第3の炭素質微粒子物質、又は第2及び第3の炭素質微粒子物質の両方は、20%未満、例えば、約18%未満、又は約16%未満、又は約14%未満、又は約12%以下、又は約10%以下のスプリングバックを有していてもよい。そのような実施形態では、前駆体組成物は、少なくとも約40m/gであり、かつ約100m/gより低い、例えば、約80m/gより低い、又は約60m/gより低い、又は約50m/gより低いBET比表面積を有する第4の炭素質微粒子物質を含んでいてもよい。そのような実施形態では、第4の炭素質微粒子は、カーボンブラックであってもよい。他の実施形態では、カーボンブラックは、第4の炭素質微粒子として存在する場合には、約1200m/g未満の、例えば、約1000m/gより低い、又は約800m/gより低い、又は約600m/gより低い、又は約400m/gより低い、又は約200m/gより低いBET比表面積を有していてもよい。
【0133】
実施形態A1と称してもよい、実施形態Aの特定の実施形態では、第3の炭素質微粒子は存在せず、この場合では、第4の炭素質粒子状材料を第3の炭素質微粒子物質と見なしてもよい。
【0134】
特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、
少なくとも約8μm、例えば、少なくとも約10μm、又は少なくとも約12μmであって、所望により約25μm未満の、又は約20μmより低いd90、及び/又は
約5μm~約12μm、例えば、約5μm~約10μm、又は約7μm~約9μmのd50、及び/又は
約1μm~約5μm、例えば、約2μm~約5μm、又は約3μm~約5μm、又は約3μm~約4μmのd10
の粒子サイズ分布を有する。
【0135】
実施形態A及びA1では、第2の炭素質微粒子は、いかなる表面改質も、例えば非黒鉛炭素を用いた被覆又は表面酸化も受けなかった炭素質物質であってもよい。一方、この文脈における用語「非改質」には、炭素質粒子の純粋に機械的な操作は含まれない。なぜなら、多くの実施形態における粒子は、例えば所望の粒子サイズ分布を得るために、粉砕する、又はそうでなければ、他の機械的な力を受けることが必要となることがあるからである。
【0136】
いくつかの実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、天然又は人造黒鉛、所望により高度に結晶性の黒鉛である。本明細書で使用するときは、「高度に結晶性」とは、好ましくは、層間距離c/2によって、実際の密度(キシレン密度)によって、及び/又は粒子中の結晶領域のサイズ(結晶サイズL)によって特徴づけられる黒鉛粒子の結晶性をいう。そのような実施形態では、高度に結晶性の炭素質材料は、≦0.3370nm、若しくは≦0.3365nm、若しくは≦0.3362nm、若しくは≦0.3360nmのc/2距離を、及び/又は2.230g/cm超のキシレン密度を、及び/又は少なくとも20nm、若しくは少なくとも40nm、若しくは少なくとも60nm、若しくは少なくとも80nm、若しくは少なくとも100nm、若しくはそれ以上のLを特徴としてもよい。
【0137】
上に記載されたBET比表面積、粒子サイズ分布、及びスプリングバックに加えて、第2の炭素質微粒子物質は、以下の特性:
100~300nm、又は100nm~250nm、又は100nm~200nm、又は150nm~200nmの結晶子サイズL(XRDにより測定されたもの)、
約0.2g/cmより低い、又は約0.15g/cm未満、又は約0.10g/cm未満であって、所望により約0.05g/cmより大きいスコット密度、
2.24~2.27g/cm、又は2.245~2.26g/cm、又は2.245~2.255g/cmのキシレン密度
の1つまた複数を有していてもよい。
【0138】
特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、非表面改質人造黒鉛である。疑念を回避するために、そのような非表面改質人造黒鉛は、第1の炭素質微粒子物質に関する実施形態に記載された非表面改質人造黒鉛とは明確に異なる。
【0139】
特定の実施形態では、非表面改質人造黒鉛は、不活性ガス雰囲気下、約2500℃より高い温度で石油系コークスを黒鉛化し、続いて粉砕して、又はすりつぶして、適切な粒子サイズ分布にすることにより形成してもよい。代わりに、第2の炭素質微粒子は、化学的又は熱的に精製された天然の薄片黒鉛をすりつぶして、又は粉砕して、適切な粒子サイズ分布にすることにより形成してもよい。
【0140】
実施形態A1ではなくAでは、第3の炭素質微粒子物質は、存在する場合には、実施形態Bにおいて第2の炭素質粒子材料として以下に定義されるものであってもよい。
【0141】
上に記載されたBET比表面積に加えて、実施形態Aの第4の炭素質微粒子物質、実施形態A1の第3の炭素質微粒子物質、及び以下の実施形態B第3の炭素質微粒子物質は、以下の特性:
20nm未満、例えば、10nm未満、又は5nm未満、又は4nm未満、又は3nm未満であって、所望により少なくとも0.5nm、又は少なくとも1nmの結晶子サイズL(XRDによる測定されたもの)、
約0.2g/cm未満、又は約0.15g/cm未満、又は約0.10g/cm未満、又は約0.08g/cm未満、又は約0.06g/cm未満であって、所望により約0.05g/cmより大きいスコット密度、
約2.20g/cm未満、例えば、約0.15g/cm未満であって、所望により約2.10g/cmより大きい、例えば、約2.11~約2.15g/cm、又は約2.12~約2.14g/cm、又は約2.125~約2.135g/cmのキシレン密度
の1つ又は複数を有することをさらに特徴としてもよい。
【0142】
実施形態B
特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、約20m/gより高く、例えば、約25m/gより高く、又は約30m/gより高く、所望により約40m/gより低い、例えば、約35m/gより低いBET比表面積を有する。そのような実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、20%未満、例えば、約18%未満、又は約16%未満、又は約14%未満、又は約12%以下、又は約10%以下のスプリングバックを有していてもよい。そのような実施形態では、さらなる炭素質微粒子が、第3の炭素質微粒子として存在してもよい。第3の炭素質微粒子物質は、少なくとも約40m/gであって、約100m/gより低い、例えば、約80m/gより低い、又は約60m/gより低い、又は約50m/gより低いBET比表面積を有していてもよい。そのような実施形態では、第3の炭素質微粒子は、カーボンブラックであってもよい。他の実施形態では、カーボンブラックは、第3の炭素質微粒子として存在する場合には、約1200m/g未満の、例えば、約1000m/gより低い、又は約800m/gより低い、又は約600m/gより低い、又は約400m/gより低い、又は約200m/gより低いBET比表面積を有していてもよい。
【0143】
実施形態Bの特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、黒鉛、例えば、天然又は人造黒鉛であってもよい。特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は、天然黒鉛である。特定の実施形態では、天然黒鉛は、剥離された天然黒鉛である。特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子は、人造黒鉛、例えば剥離された人造黒鉛、例えば国際公開第2010/089326号(高度に配向した結晶粒凝集黒鉛、すなわちHOGA黒鉛)に記載された、又は、2016年9月12日に出願された同時係属中の欧州特許出願第16188344.2号(湿式粉砕及び乾燥された炭素質のせん断されたナノリーフ)に記載されたものである。
【0144】
特定の実施形態では、実施形態Bの第2の炭素質微粒子物質は、
少なくとも約4μm、例えば、少なくとも約6μm、又は少なくとも約8μmであって、所望により約15μm未満、又は約12μm未満のd90、及び/又は
約2μm~約10μm、例えば、約5μm~約10μm、又は約6μm~約9μmのd50、及び/又は
約0.5μm~約5μm、例えば、約1μm~約4μm、又は約1μm~約3μm、又は約1.5μm~約2.5μmのd10
の粒子サイズ分布を有する。
【0145】
上に記載されたBET比表面積、粒子サイズ分布、及びスプリングバックに加えて、第2の炭素質微粒子物質は、以下の特性:
5~75nm、又は10nm~50nm、又は20nm~40nm、又は20nm~35nm、又は20~30nm、又は25~35nmの結晶子サイズL(XRDにより測定されたもの)、
約0.2g/cm未満、又は約0.15g/cm未満、又は約0.10g/cm未満、又は約0.08g/cm未満であって、所望により約0.04g/cmより大きいスコット密度、
2.24~2.27g/cm、又は2.245~2.26g/cm、又は2.245~2.255g/cmのキシレン密度
の1つ又は複数を有していてもよい。
【0146】
実施形態C
特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質は少なくとも約40m/gであって、約100m/gより低い、例えば、約80m/gより低い、又は約60m/gより低い、又は約50m/gより低いBET比表面積を有する。そのような実施形態では、第2の炭素質微粒子は、カーボンブラックであってもよい。実施形態Cの第2の炭素質微粒子物質は、実施形態Aの第4の炭素質微粒子物質と同じ物質であってもよい。他の実施形態では、カーボンブラックは、第2の炭素質微粒子として存在する場合には、約1200m/g未満、例えば、約1000m/gより低い、又は約800m/gより低い、又は約600m/gより低い、又は約400m/gより低い、又は約200m/gより低いBET比表面積を有していてもよい。
【0147】
前駆体組成物
前駆体組成物中の炭素質微粒子物質(すなわち、炭素マトリックス)の全重量を基準にして、第1の炭素質微粒子物質は、最高で約99重量%、例えば、約50重量%~約99重量%、又は約60重量%~約98重量%、又は約70重量%~約95重量%、又は約80重量%~約95重量%、又は約90重量%~約95重量%の量で存在していてもよく、残りは、本明細書に記載された他の炭素質微粒子物質の1つ又は複数である。
【0148】
特定の実施形態では、第2の炭素質微粒子物質、及び、存在する場合には、第3の炭素質微粒子物質は、炭素質微粒子物質の全重量を基準にして、それぞれ約10重量%以下(すなわち合計で、20重量%以下)、例えば、(それぞれ)約8重量%以下、又は(それぞれ)約6重量%以下、又は(それぞれ)約4重量%以下、又は(それぞれ)約2重量%以下の量で存在していてもよい。
【0149】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、少なくとも約1重量%の第2の炭素質微粒子を含む。
【0150】
特定の実施形態、例えば、実施形態Aの特定の実施形態では、前駆体組成物は、約90重量%以下の第1の炭素質微粒子物質、1~10重量%の第2の炭素質微粒子物質、存在する場合には、1~10重量%の第3の炭素質微粒子物質、及び存在する場合には、1~5重量%の第4の炭素質微粒子物質を含む。
【0151】
実施形態Aの特定の実施形態では、前駆体組成物は、少なくとも約80重量%の第1の炭素質微粒子物質、2~10重量%の第2の炭素質物質、及び2~10重量%の第3の炭素質微粒子物質、例えば、少なくとも約85重量%の第1の炭素質微粒子物質、5~9重量%の第2の炭素質微粒子物質、及び5~9重量%の第3の炭素質微粒子物質を含む。
【0152】
実施形態A1の特定の実施形態では、前駆体組成物は、少なくとも約85重量%の第1の炭素質微粒子物質、2~10重量%の第2の炭素質物質、及び1~5重量%の第3の炭素質微粒子物質を含む。
【0153】
実施形態Aの特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、第1の炭素質微粒子物質と、第2の炭素質物質とからなり、第1の炭素質微粒子物質の量は、前駆体組成物における炭素質微粒子物質の全重量を基準にして、少なくとも80重量%であってもよく、そして第2の炭素質微粒子の量は、約20重量%以下であってもよく、例えば、少なくとも約90重量%の第1の炭素質微粒子物質及び約10重量%以下の第2の炭素質微粒子物質、又は少なくとも約95重量%の第1の炭素質微粒子物質及び約5重量%以下の第2の炭素質微粒子物質であってもよい。
【0154】
実施形態Bの特定の実施形態では、前駆体組成物は、約90重量%以下の第1の炭素質微粒子物質、1~10重量%の第2の炭素質微粒子物質、及び存在する場合には、1~5重量%の第4の炭素質微粒子物質を含む。
【0155】
実施形態Bの特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、第1の炭素質微粒子物質と、第2の炭素質物質とからなり、第1の炭素質微粒子物質の量は、前駆体組成物における炭素質微粒子物質の全重量を基準にして、少なくとも80重量%であってもよく、そして第2の炭素質微粒子物質の量は、約20重量%以下であってもよく、例えば、少なくとも約90重量%の第1の炭素質微粒子物質及び約10重量%以下の第2の炭素質微粒子物質、又は少なくとも約95重量%の第1の炭素質微粒子物質及び約5重量%以下の第2の炭素質微粒子物質であってもよい。
【0156】
上に記載された様々な「前駆体組成物」の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、本明細書に記載された表面改質人造黒鉛と、本明細書に記載された非表面改質人造黒鉛との混合物であってもよい。そのような混合物の重量比は、99:1~約1:99([表面改質]:[非表面改質])、例えば、約90:10~約10:90、又は約80:20~約20:80、又は約70:30~約30:70、又は約60:40~約40:60、又は約50:50~約30:70、又は約45:55~約35:65の範囲内で変化してもよい。
【0157】
上に記載された様々な「前駆体組成物」の実施形態では、第1の炭素質微粒子は、混合物以外の単一の物質を構成してもよい。例えば、特定の実施形態では、第1の炭素質微粒子物質は、本明細書に記載された表面改質人造黒鉛である。他の実施形態では、第1の炭素質微粒子物質は、本明細書に記載された非表面改質人造黒鉛である。
【0158】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、或る量の金属系ナノ微粒子活物質をさらに含んでいてもよい。金属系ナノ微粒子活物質の量は、前駆体組成物の全重量、又は前駆体組成物からできている負極の全重量を基準にしていてもよい、すなわち、負極の全重量を基準にしていてもよい。
【0159】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、金属系ナノ微粒子活物質を含まない、すなわち、種々な組み合わせの炭素質微粒子物質を含む前駆体組成物が準備され、その後に、適切な量の金属系ナノ微粒子活物質が添加される。
【0160】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、前駆体組成物の全重量を基準にして、約0.1重量%~約90重量%の、例えば、約0.1重量%~約80重量%、又は約0.1重量%~約70重量%、又は約0.1重量%~約60重量%、又は約0.1重量%~約50重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む。特定の実施形態では、前駆体組成物は、前駆体組成物の全重量を基準にして、約0.1重量%~約40重量%の、例えば、約0.5重量%~約30重量%、又は約1重量%~約25重量%、又は約1重量%~約20重量%、又は約1重量%~約15重量%、又は約1重量~約10重量%、又は約1重量%~約5重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む。
【0161】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、負極の全重量を基準にして、約1重量%~約90重量%の、例えば、約1重量%~約80重量%、又は約1重量%~約70重量%、又は約1重量%~約60重量%、又は約1重量%~約50重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む。特定の実施形態では、前駆体組成物は、負極の全重量を基準にして、約1重量%~約40重量%の、例えば、約2重量%~約30重量%、又は約5重量%~約25重量%、又は約7.5重量%~約20重量%、又は約10重量~約17.5重量%、又は約12.5重量%~約15重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む。
【0162】
先の実施形態では、金属系ナノ微粒子活物質は、ケイ素活物質、例えば、少なくとも約95%、例えば少なくとも約98%の純度を有するケイ素元素の活物質である。
【0163】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、以下の構成成分:
約100nm未満、例えば、約20nm~約60nmの平均粒子サイズを有するナノ微粒子の形態でのケイ素元素の活物質、
約6.0m/g以下のBET比表面積を有する炭素マトリックス
約4.0m/g以下のBET比表面積を有する第1の炭素質微粒子、例えば、非表面改質人造黒鉛、又は表面改質人造黒鉛、又はそれらの混合物、
約8.0m/g~約15m/g、例えば、約8.0m/g~約12m/gのBET比表面積を有する第2の炭素質微粒子、例えば、非表面処理人造黒鉛、及び/又は
少なくとも約20m/g、例えば、約25~約35m/gのBET比表面積を有する第3の炭素質微粒子、例えば、剥離された黒鉛、例えば、剥離された天然黒鉛、若しくは剥離された人造黒鉛等
を含み、
そして第1の炭素質微粒子物質:第2の炭素質微粒子物質:第3の炭素質微粒子物質の重量比は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、80~98:0~10:0~10である。ただし、第2及び第3の炭素質微粒子物質の少なくとも一方が存在する。
【0164】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、70~90重量%の第1の炭素質微粒子物質、例えば、80~90重量%の第1の炭素質微粒子物質を含み、残りが、実施形態Aによって定義された第2及び/又は第3の炭素質微粒子物質、所望によりさらに第4の炭素質微粒子物質である。
【0165】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、80~95重量%の第1の炭素質微粒子物質を含み、残りが、実施形態Aによって定義された第2及び第3の炭素質微粒子物質の一方又は他方、所望によりさらに第4の炭素質微粒子物質である。
【0166】
先の3つの段落に記載された前駆体組成物は、さらに、前駆体組成物から形成された負極が、負極の少なくとも1重量%、例えば、少なくとも5重量%、又は少なくとも10重量%、又は少なくとも約15重量%、又は少なくとも20重量%を含むように、充分な量のケイ素活物質を含んでもよい。
【0167】
前駆体組成物は、炭素マトリックスを形成する適切な量の炭素質微粒子を、所望により金属系ナノ微粒子物質と混合することにより形成してもよい。特定の実施形態では、炭素マトリックスを準備し、そしてその後、活物質を、あらゆる適切な混合技術を使用して、さらに炭素マトリックスと混合する。特定の実施形態では、炭素マトリックスを第1の場所で準備し、そしてその後、第2の場所で、活物質と混合する。特定の実施形態では、炭素マトリックスを第1の場所で準備し、そしてその後、第2の場所(例えば、電極製造拠点)に輸送し、そこで、活物質と、そして必要に応じて、所望によりさらなる炭素質微粒子と、そしてその後、以下に記載する負極を製造する元となるいずれかのさらなる構成成分と、混合する。
【0168】
Liイオン電池用の負極
本明細書で定義した前駆体組成物は、Liイオン電池、特に、電気車両、又はハイブリッド電気車両、又はエネルギー貯蔵ユニットに電力を供給するLiイオン電池用の負極を製造するのに使用することができる。
【0169】
よって、別の態様は、第1及び第2の態様並びにそれらの実施形態の前駆体組成物から製造された金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極である。
【0170】
関連する態様では、電極の全重量を基準にして少なくとも1重量%の金属系ナノ微粒子活物質と、約10m/gより低いBET比表面積を有する炭素マトリックスとを含む負極が提供され、炭素マトリックスは、少なくとも第1、第2、及び所望により第3の炭素質微粒子物質を含み、第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質及び炭素マトリックスのBET比表面積より低く、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第1の炭素質微粒子及び炭素マトリックスのBET比表面積より高く、所望による第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積は、第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高い。
【0171】
特定の実施形態では、これらの態様の負極は、電極の全重量を基準にして、少なくとも約2重量%、例えば、少なくとも約5重量%、又は少なくとも約10重量%、そして所望により約40重量%以下の金属系ナノ微粒子活物質を含む。特定の実施形態では、負極は、電極の全重量を基準にして、約5重量%~約35重量%の、例えば、約5重量%~約30重量%、又は約5重量%~約25重量%、又は約10重量%~約20重量%、又は約10重量%~約18重量%、又は約12重量%~約16重量%、又は約13重量%~約15重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む。特定の実施形態では、金属系ナノ微粒子活物質は、ケイ素元素であり、例えば、少なくとも約95%、又は少なくとも約98%であって、所望により、約99.99%未満、又は約99.9%未満、又は約99%未満の純度を有するケイ素元素である。そのような実施形態では、ケイ素元素のナノ微粒子は、約500nm未満、例えば、約10nm~約250nm、又は約20nm~約200nm、又は約20nm~約150nm、又は約20nm~約100nm、又は約20nm~約80nm、又は約20nm~約60nm、又は約30nm~約50nmの平均粒子サイズを有していてもよい。
【0172】
負極は、従来方法を使用して製造してもよい。特定の実施形態では、前駆体組成物は、適切なバインダと混合される。適切なバインダ物質は数多く、様々であり、例えば、セルロース及びアクリル系のバインダ物質、例えば、カルボキシメチルセルロース及び/又はPAA(ポリアクリル酸)バインダ等が挙げられる。バインダの量は変えてもよい。バインダの量は、負極の全重量を基準にして、約1重量~約20重量%、例えば、約1重量%~約15重量%、又は約5重量%~約10重量%であってもよい。
【0173】
負極は、その後、Liイオン電池において使用してもよい。特定の態様では、したがって、全電極質量(バインダを含む)を基準にして、少なくとも約400mAh/g、又は少なくとも500mAh/gの、15サイクル目での放電容量、及び/又は約25%以下の、5サイクル目と15サイクル目との間での放電容量損失の1つ又は複数を有する負極を備えるLiイオン電池が提供され、負極は金属系ナノ微粒子活物質、及び炭素質微粒子物質を含む。特定の実施形態では、負極は、少なくとも2つの異なる炭素質微粒子物質、所望により少なくとも3つの異なる炭素質微粒子物質を含む。特定の実施形態では、負極は、本明細書で定義された、すなわち第1又は第2の態様及びそれらのあらゆる実施形態、例えば、実施形態A、A1、B又はCに記載の前駆体組成物から形成される。
【0174】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、少なくとも約500mAh/gの、15サイクル目での放電容量を有する。
【0175】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、少なくとも約520mAh/g、例えば、少なくとも約540mAh/g、又は少なくとも約560mAh/g、又は少なくとも約580mAh/g、又は少なくとも約600mAh/g、又は少なくとも約620mAh/g、又は少なくとも約640mAh/g、又は少なくとも約660mAh/gの、15サイクル目での放電容量を有する。特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、約3800mAh/g以下、例えば、約3400mAh/g以下、又は約3000mAh/g以下、又は約2600mAh/g以下、又は約2200mAh/g以下、又は約1800mAh/g以下、又は約1400mAh/g以下、又は約1000mAh/g以下の、15サイクル目での放電容量を有する。
【0176】
加えて又は代わりに、Liイオン電池の負極は、約20%以下、又は約18%以下、又は約16%以下、又は約14%以下、又は約12%以下、又は約10%以下の、5サイクル目と15サイクル目との間での放電容量損失を有する。
【0177】
加えて、特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、約30%以下、例えば、約25%以下、又は約20%以下、又は約18%以下、又は約16%以下、又は約14%以下の、第1のサイクルでの不可逆容量を有する。
【0178】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、実施形態Aに記載された前駆体組成物から形成されるが、実施形態Aは、炭素マトリックスが、第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質からなり、約7m/g未満、例えば、約5.5m/g未満のBET比表面積を有し、約10~20重量%のケイ素元素のナノ微粒子活物質、例えば、12~16重量%を含むものであり、負極は、少なくとも660mAh/gの放電容量、約14%以下、例えば、約10%以下の放電容量損失、及び所望により約20%以下、例えば、約16%以下の第1のサイクルでの不可逆容量を有する。第1の炭素質微粒子は、混合物ではなく、非表面改質人造黒鉛からなる。第2及び第3の炭素質微粒子の混合された量は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、10~20重量%未満である。
【0179】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、実施形態Bに記載された前駆体組成物から形成されるが、実施形態Bは、炭素マトリックスが、第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質からなり、約7m/g未満、例えば、約6.5m/g未満のBET比表面積を有し、約10~20重量%のケイ素元素のナノ微粒子活物質、例えば、12~16重量%を含むものであり、負極は、少なくとも600mAh/gの放電容量、約14%以下、例えば、約12%以下の放電容量損失、及び所望により約20%以下、例えば、約16%以下の第1のサイクルでの不可逆容量を有する。第1の炭素質微粒子は、混合物ではなく、非表面改質人造黒鉛からなる。第2及び第3の炭素質微粒子の混合された量は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、8~12重量%である。
【0180】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、実施形態A1に記載された前駆体組成物から形成されるが、実施形態A1は、炭素マトリックスが、第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質からなり、約6m/g未満、例えば、約5.0m/g未満のBET比表面積を有し、約10~20重量%のケイ素元素のナノ微粒子活物質、例えば、12~16重量%を含むものであり、負極は、少なくとも600mAh/gの放電容量、約14%以下の放電容量損失、及び所望により約16%以下、又は約14%以下の第1のサイクルでの不可逆容量を有する。第1の炭素質微粒子は、混合物ではなく、非表面改質人造黒鉛からなる。第2及び第3の炭素質微粒子の混合された量は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、8~12重量%である。
【0181】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、実施形態Bに記載された前駆体組成物から形成され、実施形態Bは、炭素マトリックスが、第1及び第2の炭素質微粒子物質からなり、約7m/g未満、例えば、約6.0m/g未満のBET比表面積を有し、約10~20重量%のケイ素元素のナノ微粒子活物質、例えば、12~16重量%を含むものであり、負極は、少なくとも640mAh/gの放電容量、約18%以下の放電容量損失、及び所望により約30%以下の第1のサイクルでの不可逆容量を有する。第1の炭素質微粒子は、混合物ではなく、表面改質人造黒鉛からなる。第2の炭素質微粒子は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、約10重量%未満の量で存在する。
【0182】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、実施形態Aに記載された前駆体組成物から形成され、実施形態Aは、炭素マトリックスが、第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質からなり、約6m/g未満、例えば、約5.0m/g未満のBET比表面積を有し、約10~20重量%のケイ素元素のナノ微粒子活物質、例えば、12~16重量%を含むものであり、負極は、少なくとも620mAh/gの放電容量、約14%以下の放電容量損失、及び所望により約31%以下の第1のサイクルでの不可逆容量を有する。第1の炭素質微粒子は、混合物であり、表面改質人造黒鉛と非表面改質人造黒鉛からなる。第2及び第3の炭素質微粒子物質の混合された量は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、10重量%未満である。
【0183】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、実施形態Aに記載された前駆体組成物から形成され、実施形態Aは、炭素マトリックスが、第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質からなり、約7.0m/g未満、例えば、約6.0m/g未満のBET比表面積を有し、約10~20重量%のケイ素元素のナノ微粒子活物質、例えば、12~16重量%を含むものであり、負極は、少なくとも600mAh/gの放電容量、約13%以下の放電容量損失、及び所望により約30%以下の第1のサイクルでの不可逆容量を有する。第1の炭素質微粒子は、混合物ではなく、表面改質人造黒鉛からなる。第2及び第3の炭素質微粒子の混合された量は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、10重量%未満である。
【0184】
特定の実施形態では、Liイオン電池の負極は、実施形態Aに記載された前駆体組成物から形成され、実施形態Aは、炭素マトリックスが、第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質からなり、約7.0m/g未満、例えば、約5.5m/g未満のBET比表面積を有し、約10~20重量%のケイ素元素のナノ微粒子活物質、例えば、12~16重量%を含むものであり、負極は、少なくとも540mAh/gの放電容量、約20%以下の放電容量損失、及び所望により約30%以下の第1のサイクルでの不可逆容量を有する。第1の炭素質微粒子は、混合物ではなく、表面改質人造黒鉛からなる。第2及び第3の炭素質微粒子の混合された量は、炭素マトリックスの全重量を基準にして、7重量%未満である。
【0185】
上記のとおり、Liイオン電池は、出力を要求する装置内に組み込まれていてもよい。特定の実施形態では、装置は、電気車両、例えば、ハイブリッド電気車両、又はプラグイン電気車両である。
【0186】
特定の実施形態では、前駆体組成物は、エネルギー貯蔵装置内に組み込まれている。他の実施形態では、炭素マトリックス又は前駆体組成物は、炭素ブラシ又は摩擦パッド内に組み込まれる。
【0187】
他の実施形態では、前駆体組成物は、ポリマー複合材料内に、ポリマー複合材料の全重量を基準にして、例えば、約5~95重量%、又は10~85%の範囲の量で組み込まれる。
【0188】
使用
関連する態様及び実施形態では、約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質(例えば、実施形態Aで定義された第3の炭素質微粒子、又は実施形態Bで定義された第2の炭素質微粒子)と、約20m/g以下のBET比表面積を有する炭素質微粒子(例えば、実施形態Aで定義された第2の炭素質微粒子)との混合物を、金属系ナノ微粒子活物質を含む負極における添加物として使用することが提供され、この混合物は、約20%未満、例えば、約15%未満、又は約12%未満、所望により約5%より大きい、又は約10%以上のスプリングバックを有する。
【0189】
特定の実施形態では、例えば、この添加物を含まない金属系ナノ微粒子活物質を含む負極を備えるLiイオン電池と比較して、負極を含むLiイオン電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させるために、この添加物が使用される。
【0190】
特定の実施形態では、負極は、(i)約8m/g未満、例えば、約6m/g未満、又は約4m/g未満のBET比表面積、及び/又は(ii)約20%以上、例えば、約40%以上のスプリングバックを有する炭素質微粒子物質をさらに含む。特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、本明細書で定義されたとおりの第1の炭素質微粒子物質であり、表面改質炭素質微粒子、又は非表面改質炭素質微粒子、又はそれらの混合物であってもよく、少なくとも約50%のスプリングバックを有する。
【0191】
別の実施形態では、負極を含むLiイオン電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させるために、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極であって、所望により、例えば、第2の炭素質微粒子物質及び/又は第3の炭素質微粒子物質を含まない活物質を含む負極を備えるLiイオン電池と比較して、負極の全重量を基準にして、少なくとも約1重量%の活物質を含む負極における、本明細書で定義したとおりの第2の炭素質微粒子物質及び/又は第3の炭素質微粒子物質の使用が提供される。
【0192】
また、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極における、約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質であって、所望により、約20%以下のスプリングバックを有する炭素質微粒子物質の使用が提供される。特定の実施形態では、その使用は、例えば、約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質を含まない金属系ナノ微粒子活物質を含む第2の負極を備えるLiイオン電池と比較して、負極を含むLi電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させるためである。特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、約30m/gより大きいBET比表面積、及び所望により約15%以下のスプリングバックを有する。特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、剥離された天然黒鉛である。特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、実施形態Bにおいて定義されたとおりの第2の炭素質微粒子物質である。
【0193】
特定の実施形態では、炭素質微粒子物質は、負極が製造される元となる、約10m/g未満のBET比表面積を有する炭素マトリックスの一部分であり、所望により、炭素マトリックスは、本明細書で定義したとおりの第1の炭素質微粒子物質を含み、所望により、約8m/g~20m/gより低いBET比表面積、及び/又は約20%以下のスプリングバックを有する別の炭素質微粒子物質、例えば、実施形態Aで定義されたとおりの第2の炭素質微粒子をさらに含む。
【0194】
先の実施形態において、放電容量とは、15サイクル目での放電容量のことをいうことができる。同様に、放電容量損失とは、5サイクル目と15サイクル目との間の放電容量損失のことをいうことができる。
【0195】
測定法
BET比表面積(BET SSA)
この方法は、77Kでp/p=0.04~0.26の範囲において液体窒素の吸着等温式を記録することに基づいている。ブルナウアー(Brunauer)、エメット(Emmet)及びテラー(Teller)により提案された手順(Adsorption of Gases in Multimolecular Layers, J.Am.Chem.Soc.,1938,60,309-319)に従って、単層吸着容量を決定することができる。よって、窒素分子の断面積、単層容量及びサンプルの重量に基づいて、比表面積を計算することができる。
【0196】
平均細孔幅及び細孔の全体積を含むメソ及びマクロ細孔率のパラメータは、バレット-ジョイナー-ハレンダ(Barrett-Joyner-Halenda)(BJH)理論を使用して窒素吸着データから導出でき、そして全BET表面積に関連するミクロ細孔率はtプロット法を使用して決定される。ケイ素微粒子の平均粒子サイズは、細孔を有しない球状粒子であると仮定して、BET表面積とケイ素の理論密度(2.33g/cm)から計算することができる。
【0197】
ケイ素-炭素微粒子組成物の平均粒子サイズは、細孔を有しない球状粒子であると仮定して、BET表面積とケイ素-炭素微粒子の理論密度から計算することができる。
【0198】
X線回折
XRDデータは、PANalytical X’Celerator検出器と結合させたPANalytical X’Pert PRO回折計を使用して収集した。回折計は、表1に示された以下の特徴を有する。
【表1】
データは、PANalytical X’Pert HighScore Plusソフトウェアを使用して解析した。
【0199】
層間隔c/2
層間隔c/2は、X線回折法により決定する。[002]での反射プロファイルのピーク最高値の角度位置を決定し、そして、ブラッグ(Bragg)式を適用することにより、層間隔を計算する(Klug and Alexander,X-ray Diffraction Procedures,John Wiley & Sons Inc.,New York,London(1967))。炭素の低い吸収係数、機器の位置合わせ及びサンプルの非平面性に起因する問題を回避するために、内部標準であるケイ素粉末をサンプルに添加し、黒鉛のピーク位置を、ケイ素のピーク位置を基準にして再計算する。黒鉛のサンプルは、ポリグリコールとエタノールとの混合物を添加することにより、ケイ素標準粉末と混合する。得られたスラリーは続いて、ブレードを用いて150μmの間隔を空けてガラスプレート上に付着させ、さらに乾燥させる。
【0200】
結晶子サイズL
結晶子サイズLは、[002]でのX線回折プロファイルの解析、及び全半値でのピークプロファイル幅を決定することにより、決定する。ピークの広がりもまた、シェラー(Scherrer)により提案されたとおり、結晶子サイズによる影響を受けるはずである(P.Scherrer,Gottinger Nachrichten 1918,2,98)。しかしながら、この広がりは、他の要因、例えばX線吸収、ローレンツ分極、及び原子散乱因子によっても影響をうける。内部のケイ素標準を使用しシェラーの式に補正関数を適用することによりこれらの影響を考慮に入れるいくつかの方法が、提案されてきた。本開示には、岩下(Iwashita)により提案された方法(N.Iwashita,C.Rae Park,H.Fujimoto,M.Shiraishi and M.Inagaki,Carbon 2004,42,701-714)を使用する。サンプル調製物は、上に記載されたc/2決定用のものと同一であった。
【0201】
結晶子サイズL
結晶子サイズLは、式:
[オングストローム]=C×(I/I
を使用してラマン測定結果から計算するが、ここで定数Cは、514.5nm及び632.8nmの波長を用いるレーザーについて、それぞれ44[オングストローム]及び58[オングストローム]の値を有する。
【0202】
キシレン密度
解析は、DIN 51901に定義されたとおりの液体排除の原理に基づいている。およそ2.5g(精度0.1mg)の粉末を、25mLの比重瓶中で秤量する。キシレンを、真空(20mbar)下で添加する。常圧下、数時間の滞留時間の後、比重瓶を適切な状態にして秤量する。密度は、質量と体積の比を表す。質量は、サンプルの重量により与えられ、体積は、サンプル粉末有り無しのキシレン充填比重瓶の重量差から計算する。
参考文献:DIN 51 901
【0203】
スコット密度(見かけの密度)
スコット密度は、ASTM B 329-98(2003)に従って、乾燥した炭素粉末をスコット容積計に通過させることにより、決定する。粉末は、1立方インチ(約16.39cmに相当)の容器に収集し、そして0.1mgの精度で秤量する。重量と体積の比がスコット密度に相当する。3回測定し平均値を計算することが必要である。黒鉛のバルク密度は、較正済みガラスシリンダ中の250mLサンプルの重量から計算する。
参考文献:ASTM B 329-98(2003)
【0204】
スプリングバック
スプリングバックは、圧縮して固めた黒鉛粉末のレジリエンスに関する情報の源である。決められた量の粉末を金型(die)の中に注ぐ。パンチを挿着し金型を封止した後、空気をダイから排気する。0.5トン/cmの圧縮力をかけて、粉末の高さを記録する。この高さを、圧力を解放した後に再び記録する。スプリングバックは、圧力下での高さに対する高さの差をパーセント表示したものである。
【0205】
レーザー回折による粒子サイズ分布
炭素質微粒子/炭素マトリックスの粒子サイズ分布を、RODOS/L乾式分散ユニットとVIBRI/L投与システムとを備えたSympatec HELOS BRレーザー回折装置を使用して測定する。小さいサンプルを投与システム上に置いて、3barの圧縮空気を使用して、光ビーム中に通して輸送する。粒子サイズ分布を計算し、三つの分位点:10%、50%、及び90%について、μm表示で報告する。
参考文献:ISO13320-1
【0206】
リチウムイオン負極半電池試験-標準手順
この試験を使用して、ナノSi/炭素系電極の比電荷を定量化した。
一般的な半電池パラメータ:対向/基準電極としてLi金属箔を用いた2電極のコイン型単電池設計、アルゴン充填されたグローブボックス(酸素及び水含有量<1ppm)中の単電池組立体。
電極の径:13mm。
較正済みのばね(100N)を、決まった力を電極上で有するようにする目的に使用した。試験を、25℃で実行した。
分散物処方:6%のバインダ有り:3.52g(14%)のナノケイ素(Si、98+%、30~50nm、ナノストラクチャード・アンド・アモルファス・マテリアルズ社(Nanostructured & Amorphous Materials Inc.)、米国)、20.11g(80%)の炭素マトリックス、50.3g(6%)のCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)/PAA(ポリアクリル酸)溶液(水中3%、重量/重量で1:1のCMC/PAA)、21gのエタノール;9%のバインダ有り:3.52g(14%)のナノケイ素(Si、98+%、30~50nm、ナノストラクチャード・アンド・アモルファス・マテリアルズ社、米国)、19.36g(77%)の炭素マトリックス、75.4g(9%)のCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)/PAA(ポリアクリル酸)溶液(水中3%、重量/重量で1:1のCMC/PAA)、31gのエタノール。
分散物の調製:ナノケイ素をエタノール中に分散させ、5分間、超音波処理する。この溶液を、CMC/PAAバインダ溶液に添加し、炭素マトリックスを添加し、ガラス棒を用いて攪拌し、その後、5分間、ロータ・ステータ型ミキサ(13,000rpm)を用いて混合する。その後、これを、機械的な混合器を用いて真空下で30分間、1,000rpmで攪拌する。
銅電極上での電極負荷:6mg/cm
電極密度:1.25g/cm
乾燥手順:被覆されたCu箔を、80℃で1時間、そしてその後、真空(<50mbar)下、150℃で12時間、乾燥させた。切断した後、電極を120℃で10時間、真空(<50mbar)下で乾燥させた後、グローブボックスの中に挿入した。
電解液:エチレンカルボナート(EC):エチルメチルカルボナート(EMC)1:3(体積/体積)、1MのLiPF、2%のフルオロエチレンカルボナート、0.5%のビニレンカルボナート。
セパレータ:グラスファイバーシート、約1mm。
ポテンシオスタット/ガルバノスタットを使用したサイクルプログラム:第1の充電:Li/Liに対して5mVの電位まで20mA/gの定電流工程、その後、Li/Liに対して5mVの定電圧工程で、5mA/gのカットオフ電流に達するまで。第1の放電:Li/Liに対して1.5Vの電位まで20mA/gの定電流工程、その後、Li/Liに対して1.5Vの定電圧工程で、5mA/gのカットオフ電流に達するまで。さらなる充電サイクル:Li/Liに対して5mVの電位まで186mA/gの定電流工程、その後、Li/Liに対して5mVの定電圧工程で、5mA/gのカットオフ電流に達するまで。さらなる放電サイクル:Li/Liに対して1.5Vの電位まで1,116mA/gの定電流工程、その後、Li/Liに対して1.5Vの定電圧工程で、5mA/gのカットオフ電流に達するまで。
【0207】
番号付けされた実施形態
本開示は、以下の番号付けされた実施形態によりさらに例示されてもよいが、これらには限定されない。
1.金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物であって、金属系ナノ微粒子活物質と、約10m/gより低いBET比表面積を有する炭素マトリックスとを含み、前記炭素マトリックスが、少なくとも第1及び第2の炭素質微粒子物質を含み、前記第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より低く、前記第2の炭素質微粒子のBET比表面積が前記第1の炭素質微粒子及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より高い、前駆体組成物。
2.前記炭素マトリックスが、第3の炭素質微粒子物質を含み、前記第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第1の炭素質微粒子及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より高い、実施形態1に記載の前駆体組成物。
3.(i)前記第2の炭素質微粒子物質が、約20m/gより高い、例えば、約30m/gより高いBET比表面積を有する、又は
(ii)前記第2又は第3の炭素質微粒子物質が、約20m/gより高い、例えば、約30m/gより高いBET比表面積を有する、
実施形態1又は2に記載の前駆体組成物。
4.前記第2の炭素質微粒子物質が、約4m/gより高く約20m/gより低い、例えば、約8m/gより高く約20m/gより低いBET比表面積を有し、所望により前記第3の微粒子物質が、存在する場合には、約20m/gより高いBET比表面積を有する、実施形態1又は2に記載の前駆体組成物。
5.金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池の負極用の前駆体組成物であって、約10m/gより低いBET比表面積を有する炭素マトリックスを含み、前記炭素マトリックスが少なくとも第1、第2及び第3の炭素質微粒子物質を含み、前記第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より低く、前記第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第1の炭素質微粒子及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より高く、前記第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高い、前駆体組成物。
6.金属系ナノ微粒子活物質、例えば、前記負極の全重量を基準にして、少なくとも約1重量%の活物質をさらに含む、実施形態5に記載の前駆体組成物。
7.前記第1の炭素質微粒子物質が、
少なくとも約10μm、例えば、少なくとも約15μm、又は少なくとも約20μm、又は少なくとも約25μm、又は少なくとも約30μmであって、所望により約50μm未満、又は約40μm未満のd90、及び/又は
少なくとも約5μm~約20μm、例えば、約10μm~約20μm、又は約10μm~約15μm、又は約15μm~約20μmのd50、及び/又は
約2μm~約10μm、例えば、約3μm~約9μm、又は約3μm~約6μm、又は約5μm~約9μmのd10
の粒子サイズ分布を有する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
8. (i) 前記第1及び第2の炭素質微粒子物質のそれぞれが黒鉛である;及び/又は
(ii) 前記第1及び第2の炭素質微粒子物質のそれぞれが、少なくとも約2.1g/cmのキシレン密度を有する;及び/又は
(iii) 少なくとも前記第1の炭素質微粒子物質、及び所望により前記第1及び第2の炭素質微粒子物質の両方が、20μm未満のd50を有する、
実施形態1~7のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
9. 前記第2の炭素質微粒子物質が、約8m2/gより高く約20m/gより低い、例えば、約12m/gより低いBET比表面積を有する、及び/又は前記第3の炭素質粒子材料が、存在する場合には約20m/gより高い、例えば、約30m/gより高いBET比表面積を有する、実施形態1~8のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
10.前記第1の炭素質微粒子物質が少なくとも20%のスプリングバックを有し、前記第2の炭素質微粒子物質が20%未満のスプリングバックを有し、そして、存在する場合には、前記第3の微粒子が20%未満のスプリングバックを有する、実施形態1~9のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
11.前記第1、第2、及び、存在する場合には第3の炭素質微粒子物質それぞれが、黒鉛、例えば、天然又は人造黒鉛である、実施形態1~10のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
12.前記第1の炭素質微粒子物質が人造黒鉛である、実施形態11に記載の前駆体組成物。
13.前記黒鉛が表面改質されている、実施形態11又は12に記載の前駆体組成物。
14.前記黒鉛が表面改質されていない、実施形態11又は12に記載の前駆体組成物。
15.前記第2、及び/又は、存在する場合には、前記第3の炭素質微粒子が、人造黒鉛、例えば、黒鉛化された石油系コークス、又は天然黒鉛、例えば、化学的及び/若しくは熱的に精製された天然の薄片黒鉛、若しくは剥離された天然黒鉛、又は剥離された人造黒鉛である、実施形態1~14のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
16.前記第1の炭素質物質が、炭素マトリックスのBET比表面積未満のBET比表面積をそれぞれ個々に有する炭素質微粒子物質の混合物である、実施形態1~15のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
17.前記炭素マトリックスが、約6.0m/gより低い、例えば、約5.0m/g以下のBET比表面積を有する、実施形態1~16のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
18.前記第1の炭素質微粒子物質が、前記炭素マトリックスの約99重量%以下、例えば約95重量%以下を構成し、前記第2、及び、存在する場合には前記第3の炭素質物質が、炭素マトリックスの約40重量%以下、例えば、約5重量%~約20重量%を構成する、実施形態1~17のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
19.前記炭素マトリックスが、伝導性カーボンブラック、例えば約10重量%以下の伝導性カーボンブラックをさらに含む、実施形態1~18のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
20.前記金属系ナノ微粒子活物質がケイ素元素である、実施形態1~19のいずれか1つに記載の前駆体組成物。
21.実施形態1~20のいずれか1つに記載の前駆体組成物から製造された、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極。
22.金属系ナノ微粒子活物質、例えば、電極の全重量を基準にして少なくとも1重量%の前記活物質と、約10m/gより低いBET比表面積を有する炭素マトリックスとを含む負極であって、前記炭素マトリックスが少なくとも第1、第2及び所望により第3の炭素質微粒子物質を含み、前記第1の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より低く、前記第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第1の炭素質微粒子及び前記炭素マトリックスのBET比表面積より高く、そして前記所望による第3の炭素質微粒子物質のBET比表面積が前記第2の炭素質微粒子物質のBET比表面積より高い、負極。
23.前記電極の全重量を基準にして、少なくとも約2重量%、例えば、少なくとも約5重量%、又は少なくとも約10重量%であって、所望により、約90重量%以下の、例えば、約40重量%以下の金属系ナノ微粒子活物質を含む、実施形態21又は22に記載の負極。
24.実施形態21~23のいずれか1つに記載の負極を含むLiイオン電池。
25.負極を含むLiイオン電池であって、Liイオン電池は、
少なくとも約400mAh/g、又は少なくとも約500mAh/gの15サイクル目での放電容量、及び/又は
前記負極の全質量を基準にして、約25%以下の5サイクル目と15サイクル目との間での放電容量損失
の1つ又は複数を有し、
前記負極が、金属系ナノ微粒子活物質と炭素質微粒子とを含み、所望により、前記金属系ナノ微粒子活物質がケイ素元素である、Liイオン電池。
26.前記負極が、少なくとも2つの異なる炭素質微粒子物質、所望により少なくとも3つの異なる炭素質物質を含む、実施形態25に記載のLiイオン電池。
27.前記負極が、少なくとも約600mAh/gの15サイクル目での放電容量、及び/又は約15%以下の5サイクル目と15サイクル目との間の放電容量損失を有する、実施形態24~26のいずれか1つに記載のLiイオン電池。
28.前記負極が、少なくとも約660mAh/gの15サイクル目での放電容量、及び/又は約10%以下の5サイクル目と15サイクル目との間の放電容量損失を有する、実施形態27に記載のLiイオン電池。
29.前記負極が、実施形態1~20のいずれか1つに記載の前駆体組成物を含む、又はそれから製造される、実施形態25~28のいずれか1つに記載のLiイオン電池。
30.実施形態24~29のいずれか1つに記載のLiイオン電池を含む装置。
31.約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質と、約20m/g以下のBET比表面積を有する炭素質微粒子との混合物であって、約20%未満のスプリングバックを有する混合物の、金属系ナノ微粒子活物質を含む負極における添加物としての使用。
32.例えば、前記添加物を含まない前記金属系ナノ微粒子活物質を含む第2の負極を備えるLiイオン電池と比較して、前記負極を含むLiイオン電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させる、実施形態31に記載の使用。
33.前記負極が、(i)約8m/g未満、例えば、約6m/g未満、又は約4m/g未満のBET比表面積、及び/又は(ii)約20%以上、例えば、約40%以上のスプリングバックを有する炭素質微粒子物質をさらに含む、実施形態31又は32に記載の使用。
34.前記負極を含むLiイオン電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させるための、金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極における、実施形態1~20のいずれか1つにおいて定義された前記第2の炭素質微粒子物質及び/又は前記第3の炭素質微粒子物質の使用であって、前記負極が、例えば、前記添加物を含まない前記金属系ナノ微粒子活物質を含む第2の負極を備えるLiイオン電池と比較して、前記負極の全重量を基準にして、少なくとも約1重量%の金属系ナノ微粒子活物質を含む、使用。
35.金属系ナノ微粒子活物質を含むLiイオン電池用の負極における、約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質の使用であって、所望により、前記炭素質微粒子物質が約20%以下のスプリングバックを有する、使用。
36.例えば、約20m/gより大きいBET比表面積を有する炭素質微粒子物質を含まない前記金属系ナノ微粒子活物質を含む第2の負極を備えるLiイオン電池と比較して、前記負極を含むLi電池の放電容量を増加させる、及び/又は放電容量損失を低減させる、及び/又はサイクル安定性を向上させる、実施形態35に記載の使用。
37.前記炭素質微粒子物質が、約30m/gより大きいBET比表面積、及び所望により約15%以下のスプリングバックを有する、実施形態35又は36に記載の使用。
38.前記炭素質微粒子物質が、剥離された天然黒鉛、又は剥離された人造黒鉛である、実施形態35~37のいずれか1つに記載の使用。
39.前記炭素質微粒子物質が、前記負極が製造される元となる、約10m/g未満のバルクBET比表面積を有する炭素マトリックスの一部分であり、所望により、前記炭素マトリックスが、実施形態1~20のいずれか1つにおいて定義された第1の炭素質微粒子物質を含み、約8m/g~20m/gより低いBET比表面積、及び/又は約20%以下のスプリングバックを有する別の炭素質微粒子物質を所望によりさらに含む、実施形態35~38のいずれか1つに記載の使用。
40.前記金属系ナノ微粒子活物質がケイ素元素である、実施形態31~39のいずれか1つに記載の使用。
41.実施形態21~23のいずれか1つに記載の電極又は実施形態24~29のいずれか1つに記載のLiイオン電池を備える装置。
42.電気車両、ハイブリッド電気車両、又はプラグインハイブリッド電気車両である、実施形態41に記載の装置。
43.実施形態1~20のいずれか1つに記載の前駆体組成物を含むエネルギー貯蔵単電池。
【0208】
本開示の種々な態様を大まかに記載してきたが、多くの修正及びわずかな変形が、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく可能であることは、当業者には明らかであろう。本開示を、以下の被制限的で実用的な実施例を参照することによりさらに記載する。
【実施例
【0209】
炭素質微粒子物質のいくつかの種類を混合して、14重量%のケイ素活物質(径:30~50nm)と、6重量%又は9重量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)/PAA(ポリアクリル酸)バインダとを含む負極用の、複数の炭素マトリックスを形成した。炭素質微粒子を表1に要約する。
【表2】
各電極を、上に記載された方法に準拠して、電気化学的性能について試験した。電極組成物及び電気化学的データを、以下の表2に要約する。放電容量を、バインダを含む全電極質量を基準にして表現する。
【表3】