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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】作業車両、及び、作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/4035 20100101AFI20220208BHJP
   F16H 61/472 20100101ALI20220208BHJP
   F16H 61/475 20100101ALI20220208BHJP
   F16H 61/465 20100101ALI20220208BHJP
   F16H 61/431 20100101ALI20220208BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
F16H61/4035
F16H61/472
F16H61/475
F16H61/465
F16H61/431
F02D29/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019526714
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2018020537
(87)【国際公開番号】W WO2019003763
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017125377
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大浅 貴央
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-210013(JP,A)
【文献】特開2015-140727(JP,A)
【文献】特開2015-140579(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093477(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/4035,59/02,61/472,61/66,63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される走行用ポンプと、第1駆動回路と第2駆動回路とを含み前記走行用ポンプに接続された油圧回路と、前記油圧回路を介して前記走行用ポンプに接続された走行用モータと、を含み、前記走行用ポンプと前記第1駆動回路と前記第2駆動回路と前記走行用モータとで閉回路を構成する、静油圧式変速機と、
ストール時における、前記第1駆動回路と前記第2駆動回路との間の作動油の差圧と、前記油圧回路における作動油の漏れ流量との関係を規定する漏れ流量データを記憶している記憶装置と、
前記記憶装置と通信するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
車両の目標牽引力を決定し、
前記目標牽引力から前記差圧の目標値である目標差圧を決定し、
前記漏れ流量データを参照して、前記目標差圧から前記漏れ流量を決定し、
前記漏れ流量から前記走行用ポンプの目標流量を決定する、
作業車両。
【請求項2】
アクセル操作部材と、
前記アクセル操作部材の操作量を示す信号を出力するセンサと、
をさらに備え、
前記コントローラは、
前記センサからの信号を受信し、
前記アクセル操作部材の操作量から前記目標牽引力を決定する、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記記憶装置は、前記アクセル操作部材の操作量と前記目標牽引力との関係を規定する目標牽引力データを記憶しており、
前記コントローラは、前記目標牽引力データを参照して、前記アクセル操作部材の操作量から前記目標牽引力を決定する、
請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記目標牽引力から前記走行用モータの目標トルクを決定し、
前記目標トルクと前記走行用モータの容量とから、前記目標差圧を決定する、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項5】
前記油圧回路における作動油の温度を示す信号を出力する温度センサをさらに備え、
前記コントローラは、
前記温度センサからの信号を受信し、
前記作動油の温度に応じて、前記漏れ流量を補正する、
請求項1から4のいずれかに記載の作業車両。
【請求項6】
前記コントローラは、前記作動油の温度の上昇に応じて、前記漏れ流量を増大させる、
請求項5に記載の作業車両。
【請求項7】
トラクションレベルを選択するための入力装置をさらに備え、
前記コントローラは、
前記入力装置から、選択された前記トラクションレベルを示す信号を受信し、
選択された前記トラクションレベルに応じて、前記目標牽引力を補正し、
補正された前記目標牽引力から前記目標差圧を決定する、
請求項1から6のいずれかに記載の作業車両。
【請求項8】
前記コントローラは、
前記走行用ポンプの目標流量から、前記静油圧式変速機への目標入力馬力を決定し、
前記目標入力馬力から、前記エンジンの目標回転速度を決定する、
請求項1から7のいずれかに記載の作業車両。
【請求項9】
エンジンと静油圧式変速機とを備え、前記静油圧式変速機は、前記エンジンによって駆動される走行用ポンプと、前記走行用ポンプに接続された油圧回路と、前記油圧回路を介して前記走行用ポンプに接続された走行用モータとを含み、前記油圧回路は、第1駆動回路と第2駆動回路とを含み、前記走行用ポンプと前記第1駆動回路と前記第2駆動回路と前記走行用モータとで閉回路を構成する、作業車両を制御するためにコントローラによって実行される方法であって
車両の目標牽引力を決定することと、
前記第1駆動回路と前記第2駆動回路との間の作動油の差圧の目標値である目標差圧を、前記目標牽引力から決定することと、
ストール時における、前記差圧と、前記油圧回路における作動油の漏れ流量との関係を規定する漏れ流量データを参照して、前記目標差圧から前記漏れ流量を決定することと、
前記漏れ流量から前記走行用ポンプの目標流量を決定すること、
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両、及び、作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両には、静油圧式変速機を備えるものがある。静油圧式変速機は、走行用ポンプと、走行用モータと、走行用ポンプと走行用モータとを接続する油圧回路とを含む。走行用ポンプはエンジンによって駆動され、作動油を吐出する。走行用ポンプから吐出された作動油は、油圧回路を介して、走行用モータに供給される。走行用モータは、走行用ポンプからの作動油によって駆動される。走行用モータは、作業車両の走行装置に接続されており、走行用モータが駆動されることで、作業車両が走行する。静油圧式変速機では、走行用ポンプの容量と走行用モータの容量とを制御することにより、変速比を制御することができる。
【0003】
走行用ポンプの容量は、ポンプ容量制御装置によって制御される。例えば、特許文献1に示すように、ポンプ容量制御装置は、ポンプ制御シリンダを含む。ポンプ制御シリンダは、走行用ポンプの斜板に接続されており、斜板の傾転角を変更することで、走行用ポンプの容量を変更する。ポンプ制御シリンダは、ポンプ制御シリンダに接続されたポンプパイロット回路の油圧によって制御される。
【0004】
図17は、従来技術における走行用ポンプのP-Q特性を示す図である。図17において、横軸は走行用ポンプの容量を示しており、縦軸は静油圧式変速機の油圧回路の差圧(HST差圧)を示している。P-Q特性は、エンジン回転速度に応じて変更される。例えば、上述したポンプパイロット回路の油圧が、エンジン回転速度に応じて変更されることで、図17においてPQ1~PQ5に示すように、P-Q特性が変更される。詳細には、エンジン回転速度の増大に応じて、P-Q特性がPQ5からPQ1に向かって変更される。図17においてPQsは、作業車両のストール時のP-Q特性を示している。ストール時のP-Q特性は、走行用ポンプの吐出ポートを塞ぐことで、走行用モータをストール相当の状態にしたときの特性(ブロック特性)を示している。図17に示すように、ストール時には、走行用ポンプの容量の増大に応じて、HST差圧が増大する。
【0005】
上述したように、エンジン回転速度の増大に応じて、P-Q特性が変更されると、ストール時のHST差圧は、エンジン回転速度に応じてP1~P3のように変化する。図17において、PQmaxは、HST差圧の最大値を示している。従って、ストール時のHST差圧は、P3において最大となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-275012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の作業車両では、エンジン回転速度はアクセル操作部材の操作量に応じて設定される。従って、図17のP-Q特性PQ3に対応するアクセル操作部材の操作量が50%であるとすると、50%の操作量で、ストール時のHST差圧が最大値P3となる。HST差圧は、車両の牽引力に対応している。従って、50%の操作量で、ストール時の牽引力が最大となる。
【0008】
図18Aは、上述した従来の作業車両におけるアクセル操作部材の操作量に対する牽引力の変化を示している。図18Bは、上述した従来の作業車両におけるアクセル操作部材の操作量に対するエンジン回転速度の変化を示している。図18Aに示すように、操作量が0から50%までは牽引力が増大するが、50%以上では、牽引力は最大値Fmaxで一定となる。一方、エンジン回転速度は、操作量が50%以上であっても増大する。
【0009】
従って、従来の作業車両では、操作量が小~中の範囲であるときには牽引力の上昇が大きい一方、操作量が中~大の範囲では、牽引力の増大がほどんどない。そのため、操作性が低いという問題がある。また、操作量が中~大の範囲では、牽引力の増大が少ない一方で、エンジン回転速度が不必要に増大するため、燃費効率が低下するという問題もある。
【0010】
また、上述した作業車両は、最大牽引力を低く抑えるためのトラクションコントロール機能を備えている。上述した作業車両では、走行用モータの容量を最大容量よりも小さい所定の上限値以下に制限することで、最大牽引力を低減させる。
【0011】
しかし、一般的に、油圧モータは、大容量で使用される方が効率が良い。従って、上記のように、トラクションコントロールのために走行用モータの容量を制限すると、効率が低下するという問題がある。
【0012】
上記のような問題を解決するためには、ストール時の牽引力を任意に制御することが好ましい。しかし、ストール時の牽引力を任意に、精度よく、且つ効率よく制御することは容易ではない。
【0013】
本発明の目的は、静油圧式変速機を備える作業車両において、ストール時の牽引力を任意に、精度良く、且つ効率よく制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様に係る作業車両は、エンジンと、静油圧式変速機と、記憶装置と、コントローラとを含む。静油圧式変速機は、走行用ポンプと、油圧回路と、走行用モータとを含む。走行用ポンプは、エンジンによって駆動される。油圧回路は、第1駆動回路と第2駆動回路とを含み、走行用ポンプに接続されている。走行用モータは、油圧回路を介して走行用ポンプに接続されている。走行用ポンプと第1駆動回路と第2駆動回路と走行用モータとで閉回路が構成される。
【0015】
記憶装置は、漏れ流量データを記憶している。漏れ流量データは、ストール時における、第1駆動回路と第2駆動回路との間の作動油の差圧と、油圧回路における作動油の漏れ流量との関係を規定する。コントローラは、記憶装置と通信する。コントローラは、車両の目標牽引力を決定する。コントローラは、目標牽引力から差圧の目標値である目標差圧を決定する。コントローラは、漏れ流量データを参照して、目標差圧から漏れ流量を決定する。コントローラは、漏れ流量から走行用ポンプの目標流量を決定する。
【0016】
本態様に係る作業車両では、漏れ流量データを参照することで、目標差圧から漏れ流量が決定され、漏れ流量から走行用ポンプの目標流量が決定される。ストール時においては、静油圧式変速機の油圧回路からの漏れ流量は、油圧回路の差圧と相関がある。また、ストール時においては、漏れ流量は、走行用ポンプの流量と相関がある。従って、漏れ流量データを参照することで、目標差圧、すなわち目標牽引力に対応する走行用ポンプの目標流量を精度よく決定することができる。それにより、ストール時の牽引力を任意に、精度よく、且つ効率よく制御することができる。
【0017】
作業車両は、アクセル操作部材とセンサとをさらに含んでもよい。アクセル操作部材は、オペレータによって操作可能に配置されてもよい。センサは、アクセル操作部材の操作量を示す信号を出力してもよい。コントローラは、センサからの信号を受信してもよい。コントローラは、アクセル操作部材の操作量から目標牽引力を決定してもよい。この場合、アクセル操作部材の操作量に応じた目標牽引力を精度良く実現することができる。従って、オペレータは、アクセル操作部材を操作することで、車両の牽引力を容易に調整することができる。
【0018】
記憶装置は、目標牽引力データを記憶していてもよい。目標牽引力データは、アクセル操作部材の操作量と目標牽引力との関係を規定していてもよい。コントローラは、目標牽引力データを参照して、アクセル操作部材の操作量から目標牽引力を決定してもよい。この場合、アクセル操作部材の操作量に応じた目標牽引力を精度良く実現することができる。従って、オペレータは、アクセル操作部材を操作することで、車両の牽引力を容易に調整することができる。
【0019】
コントローラは、目標牽引力から走行用モータの目標トルクを決定してもよい。コントローラは、目標トルクと走行用モータの容量とから、目標差圧を決定してもよい。この場合、目標牽引力に対応する目標差圧を精度良く決定することができる。
【0020】
作業車両は、温度センサをさらに含んでもよい。温度センサは、油圧回路における作動油の温度を示す信号を出力してもよい。コントローラは、温度センサからの信号を受信してもよい。コントローラは、作動油の温度に応じて、漏れ流量を補正してもよい。この場合、作動油の温度による誤差を考慮して、走行用ポンプの目標流量をさらに精度良く決定することができる。
【0021】
コントローラは、作動油の温度の上昇に応じて、漏れ流量を増大させてもよい。この場合、作動油の温度による誤差を考慮して、走行用ポンプの目標流量をさらに精度良く決定することができる。
【0022】
作業車両は、トラクションレベルを選択するための入力装置をさらに含んでもよい。コントローラは、入力装置から、選択されたトラクションレベルを示す信号を受信してもよい。コントローラは、選択されたトラクションレベルに応じて、目標牽引力を補正してもよい。コントローラは、補正した目標牽引力から目標差圧を決定してもよい。この場合、選択されたトラクションレベルに応じて、牽引力を任意、且つ、精度良く制御することができる。
【0023】
コントローラは、走行用ポンプの目標流量から、静油圧式変速機への目標入力馬力を決定してもよい。コントローラは、目標入力馬力から、エンジンの目標回転速度を決定してもよい。この場合、目標牽引力を実現するためのエンジンの目標回転速度を精度良く決定することができる。
【0024】
第2の態様に係る方法は、作業車両を制御するためにコントローラによって実行される方法である。作業車両は、エンジンと静油圧式変速機とを含む。静油圧式変速機は、走行用ポンプと、油圧回路と、走行用モータとを含む。走行用ポンプは、エンジンによって駆動される。油圧回路は、第1駆動回路と第2駆動回路とを含み、走行用ポンプに接続されている。走行用モータは、油圧回路を介して走行用ポンプに接続されている。走行用ポンプと第1駆動回路と第2駆動回路と走行用モータとで閉回路が構成される。
【0025】
本態様に係る方法は、以下の処理を含む。第1の処理は、車両の目標牽引力を決定することである。第2の処理は、目標差圧を目標牽引力から決定することである。目標差圧は、第1駆動回路と第2駆動回路との間の作動油の差圧の目標値である。第3の処理は、漏れ流量データを参照して、目標差圧から漏れ流量を決定することである。漏れ流量データは、ストール時における、差圧と、油圧回路における作動油の漏れ流量との関係を規定している。第4の処理は、漏れ流量から走行用ポンプの目標流量を決定することである。
【0026】
本態様に係る方法では、漏れ流量データを参照することで、目標差圧から漏れ流量が決定され、漏れ流量から走行用ポンプの目標流量が決定される。ストール時においては、静油圧式変速機の油圧回路からの漏れ流量は、油圧回路の差圧と相関がある。また、ストール時においては、漏れ流量は、走行用ポンプの流量と相関がある。従って、漏れ流量データを参照することで、目標差圧、すなわち目標牽引力に対応する走行用ポンプの目標流量を精度よく決定することができる。それにより、ストール時の牽引力を任意に、精度よく、且つ効率よく制御することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、静油圧式変速機を備える作業車両において、ストール時の牽引力を任意に、精度良く、且つ効率よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係る作業車両の側面図である。
図2】作業車両の駆動系の構成を示すブロック図である。
図3】作業車両の制御系の構成を示すブロック図である。
図4】作業車両の車速-牽引力特性を示す図である。
図5】アクセル操作部材の操作に応じて変更される車速-牽引力特性の一例を示す図である。
図6】コントローラによって実行される処理を示すフローチャートである。
図7】アクセル操作部材の操作量から目標車速を決定するための処理を示す図である。
図8】作業車両の車速-入力馬力特性を示す図である。
図9】ストール時の目標入力馬力を決定するための処理を示す図である。
図10】低車速域及び中車速域での目標入力馬力を決定するための処理を示す図である。
図11】高車速域での目標入力馬力を決定するための処理を示す図である。
図12】過渡時の目標入力馬力を決定する処理を示す図である。
図13】エンジンの目標回転速度を決定するための処理を示す図である。
図14】走行用ポンプと走行用モータとの目標容量を決定するための処理を示す図である。
図15】目標牽引力データの一例を示す図である。
図16】油温に応じた漏れ流量の補正の一例を示す図である。
図17】従来技術における走行用ポンプのP-Q特性を示す図である。
図18】従来の作業車両におけるアクセル操作部材の操作量に対する牽引力とエンジン回転速度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態に係る作業車両1について、図面を用いて説明する。図1は、作業車両1の側面図である。作業車両1は、ホイールローダである。作業車両1は、車体2と、作業機3と、複数の走行輪4と、キャブ5と、を含む。作業機3は、車体2の前部に装着されている。作業機3は、ブーム11とバケット12とリフトシリンダ13とバケットシリンダ14とを含む。
【0030】
ブーム11は、車体2に回転可能に取り付けられている。ブーム11は、リフトシリンダ13によって駆動される。バケット12は、ブーム11に回転可能に取り付けられている。バケット12は、バケットシリンダ14によって上下に移動する。キャブ5は、車体2上に配置されている。複数の走行輪4は、車体2に回転可能に取り付けられている。
【0031】
図2は、作業車両1に搭載された駆動系の構成を示すブロック図である。作業車両1は、エンジン21と、作業機用ポンプ22と、静油圧式変速機(Hydro Static Transmission;以下“HST”と呼ぶ)23とを含む。エンジン21は、例えば、ディーゼル式のエンジンである。
【0032】
エンジン21には、燃料噴射装置24が接続されている。燃料噴射装置24がエンジン21への燃料噴射量を制御することにより、エンジン21の出力トルク(以下、「エンジントルク」と呼ぶ)と回転速度とが制御される。エンジン21の実回転速度は、エンジン回転速度センサ25によって検出される。エンジン回転速度センサ25は、エンジン21の実回転速度を示す信号を出力する。
【0033】
作業機用ポンプ22は、エンジン21に接続されている。作業機用ポンプ22は、エンジン21によって駆動されることで、作業油を吐出する。作業機用ポンプ22から吐出された作動油は、作業機用油圧回路26を介してリフトシリンダ13に供給される。これにより、作業機3が駆動される。作業機用ポンプ22の吐出圧は、作業機ポンプ圧センサ27によって検出される。作業機ポンプ圧センサ27は、作業機用ポンプ22の吐出圧を示す信号を出力する。
【0034】
作業機用ポンプ22は、可変容量型の油圧ポンプである。作業機用ポンプ22には、ポンプ容量制御装置28が接続されている。ポンプ容量制御装置28は、作業機用ポンプ22の容量を制御する。ポンプ容量制御装置28は、サーボピストン28aとポンプ制御弁28bとを含む。サーボピストン28aは、作業機用ポンプ22に接続されている。サーボピストン28aが作業機用ポンプ22の傾転角を変更することで、作業機用ポンプ22の容量が変更される。ポンプ制御弁28bは、サーボピストン28aに供給される油圧を制御することで、サーボピストン28aの動作を制御する。なお、作業機用ポンプ22は、固定容量型の油圧ポンプであってもよい。
【0035】
作業機用油圧回路26には、作業機制御弁30が配置されている。作業機制御弁30は、作業機制御弁30に印加されるパイロット圧に応じて、リフトシリンダ13に供給される作動油の流量を制御する。図示を省略するが、作業機制御弁30は、バケットシリンダ14に供給される作動油の流量を制御してもよい。なお、作動油の流量とは、単位時間当たりに供給される作動油の量を意味する。作業機制御弁30は、油圧パイロットの制御弁に限らず、電気的に制御される電磁制御弁であってもよい。
【0036】
HST23は、走行用ポンプ31と、駆動油圧回路32と、走行用モータ33とを含む。走行用ポンプ31は、エンジン21に接続されている。走行用ポンプ31は、エンジン21によって駆動されることにより作動油を吐出する。走行用ポンプ31は、可変容量型の油圧ポンプである。走行用ポンプ31から吐出された作動油は、駆動油圧回路32を通って走行用モータ33へと送られる。
【0037】
駆動油圧回路32は、走行用ポンプ31と走行用モータ33とを接続している。駆動油圧回路32は、第1駆動回路32aと第2駆動回路32bとを含む。第1駆動回路32aは、走行用ポンプ31の一方のポートと走行用モータ33の一方のポートとを接続している。第2駆動回路32bは、走行用ポンプ31の他方のポートと走行用モータ33の他方のポートとを接続している。走行用ポンプ31と走行用モータ33と第1駆動回路32aと第2駆動回路32bとは、閉回路を構成している。
【0038】
走行用ポンプ31から第1駆動回路32aを介して走行用モータ33に供給されることにより、走行用モータ33が一方向(例えば、前進方向)に駆動される。この場合、作動油は、走行用モータ33から第2駆動回路32bを介して走行用ポンプ31に戻る。また、作動油が、走行用ポンプ31から第2駆動回路32bを介して走行用モータ33に供給されることにより、走行用モータ33が他方向(例えば、後進方向)に駆動される。この場合、作動油は、走行用モータ33から第1駆動回路32aを介して走行用ポンプ31に戻る。
【0039】
駆動油圧回路32には、駆動回路圧センサ34が設けられている。駆動回路圧センサ34は、第1駆動回路32a又は第2駆動回路32bを介して走行用モータ33に供給される作動油の圧力を検出する。具体的には、駆動回路圧センサ34は、第1回路圧センサ34aと第2回路圧センサ34bとを含む。
【0040】
第1回路圧センサ34aは、第1駆動回路32aの油圧を検出する。第2回路圧センサ34bは、第2駆動回路32bの油圧を検出する。第1回路圧センサ34aは、第1駆動回路32aの油圧を示す信号を出力する。第2回路圧センサ34bは、第2駆動回路32bの油圧を示す信号を出力する。
【0041】
駆動油圧回路32には、温度センサ49が設けられている。温度センサ49は、走行用モータ33に供給される作動油の温度を検出する。温度センサ49は、走行用モータ33に供給される作動油の温度を示す信号を出力する。
【0042】
走行用モータ33は、可変容量型の油圧モータである。走行用モータ33は、走行用ポンプ31から吐出された作動油によって駆動され、走行のための駆動力を生じさせる。走行用モータ33には、モータ容量制御装置35が接続されている。モータ容量制御装置35は、走行用モータ33の容量を制御する。モータ容量制御装置35は、モータシリンダ35aとモータ制御弁35bとを含む。
【0043】
モータシリンダ35aは、走行用モータ33に接続されている。モータシリンダ35aは、油圧によって駆動され、走行用モータ33の傾転角を変更する。モータ制御弁35bは、モータ制御弁35bに入力される指令信号に基づいて制御される電磁制御弁である。モータ制御弁35bが、モータシリンダ35aを動作させることで、走行用モータ33の容量が変更される。
【0044】
走行用モータ33は、駆動軸37に接続されている。駆動軸37は、図示しないアクスルを介して上述した走行輪4に接続されている。走行用モータ33の回転は、駆動軸37を介して走行輪4に伝達される。それにより、作業車両1が走行する。
【0045】
作業車両1には、車速センサ36が設けられている。車速センサ36は、車速を検出する。車速センサ36は、車速を示す信号を出力する。例えば、車速センサ36は、駆動軸37の回転速度を検出することにより、車速を検出する。
【0046】
HST23は、チャージポンプ38とチャージ回路39とを含む。チャージポンプ38は、固定容量型の油圧ポンプである。チャージポンプ38は、エンジン21に接続されている。チャージポンプ38は、エンジン21によって駆動されることで、駆動油圧回路32に作動油を供給する。
【0047】
チャージ回路39は、チャージポンプ38に接続されている。チャージ回路39は、第1チェック弁41を介して、第1駆動回路32aに接続されている。チャージ回路39は、第2チェック弁42を介して、第2駆動回路32bに接続されている。
【0048】
チャージ回路39は、第1リリーフ弁43を介して、第1駆動回路32aに接続されている。第1リリーフ弁43は、第1駆動回路32aの油圧が所定のリリーフ圧より大きくなったときに開かれる。チャージ回路39は、第2リリーフ弁44を介して第2駆動回路32bに接続されている。第2リリーフ弁44は、第2駆動回路32bの油圧が所定のリリーフ圧より大きくなったときに開かれる。
【0049】
チャージ回路39には、チャージリリーフ弁40が設けられている。チャージリリーフ弁40は、チャージ回路39の油圧が所定のリリーフ圧より大きくなったときに開かれる。それにより、チャージ回路39の油圧が、所定のリリーフ圧を超えないように制限される。
【0050】
走行用ポンプ31には、ポンプ容量制御装置45が接続されている。ポンプ容量制御装置45は、走行用ポンプ31の容量を制御する。なお、油圧ポンプの容量とは、一回転あたりの作動油の吐出量(cc/rev)を意味する。また、ポンプ容量制御装置45は、走行用ポンプ31の吐出方向を制御する。ポンプ容量制御装置45は、ポンプ制御シリンダ46とポンプ制御弁47とを含む。
【0051】
ポンプ制御シリンダ46は、走行用ポンプ31に接続されている。ポンプ制御シリンダ46は、油圧によって駆動され、走行用ポンプ31の傾転角を変更する。これにより、ポンプ制御シリンダ46は、走行用ポンプ31の容量を変更する。ポンプ制御シリンダ46は、ポンプパイロット回路48を介してチャージ回路39に接続されている。
【0052】
ポンプ制御弁47は、ポンプ制御弁47に入力される指令信号に基づいて制御される電磁制御弁である。ポンプ制御弁47は、ポンプ制御シリンダ46への作動油の供給方向を切り換える。ポンプ制御弁47は、ポンプ制御シリンダ46への作動油の供給方向を切り換えることにより、走行用ポンプ31の吐出方向を切り換える。それにより、走行用モータ33の駆動方向が変更され、作業車両1の前進と後進とが切り換えられる。
【0053】
また、ポンプ制御弁47は、ポンプパイロット回路48を介してポンプ制御シリンダ46に供給される作動油の圧力を制御する。具体的には、ポンプ制御弁47は、ポンプ制御シリンダ46に供給される作動油の圧力を変更することで、走行用ポンプ31の傾転角を調整する。それにより、走行用ポンプ31の容量が制御される。
【0054】
ポンプパイロット回路48は、カットオフ弁52を介して、作動油タンクに接続されている。カットオフ弁52のパイロットポートは、シャトル弁53を介して第1駆動回路32aと第2駆動回路32bとに接続されている。シャトル弁53は、第1駆動回路32aの油圧と第2駆動回路32bの油圧とのうち大きい方(以下、「駆動回路圧」と呼ぶ)を、カットオフ弁52のパイロットポートに導入する。
【0055】
カットオフ弁52は、駆動回路圧が所定のカットオフ圧以上になると、ポンプパイロット回路48を作動油タンクに連通させる。それにより、ポンプパイロット回路48の油圧が低下することにより、走行用ポンプ31の容量が低減される。その結果、駆動回路圧の上昇が抑えられる。
【0056】
図3は、作業車両1の制御系を示す模式図である。図3に示すように、作業車両1は、アクセル操作部材61と、FR操作部材62と、シフト操作部材63とを含む。アクセル操作部材61と、FR操作部材62と、シフト操作部材63とは、オペレータによって操作可能に配置されている。アクセル操作部材61と、FR操作部材62と、シフト操作部材63とは、キャブ5内に配置されている。
【0057】
アクセル操作部材61は、例えばアクセルペダルである。ただし、アクセル操作部材61は、レバー、或いはスイッチなどの他の部材であってもよい。アクセル操作部材61は、アクセル操作センサ64と接続されている。アクセル操作センサ64は、例えばアクセル操作部材61の位置を検出する位置センサである。アクセル操作センサ64は、アクセル操作部材61の操作量(以下、「アクセル操作量」と呼ぶ)を示す信号を出力する。アクセル操作量は、例えば、アクセル操作部材61を全開に操作した状態を100%としたときの割合で表される。後述するように、オペレータは、アクセル操作量を調整することによって、車速と牽引力とを制御することができる。
【0058】
FR操作部材62は、例えばFRレバーである。ただし、FR操作部材62は、スイッチなどの他の部材であってもよい。FR操作部材62は、前進位置と後進位置と中立位置とに切り換えられる。FR操作部材62は、FR操作センサ65に接続されている。FR操作センサ65は、例えばFR操作部材62の位置を検出する位置センサである。FR操作センサ65は、FR操作部材62の位置を示す信号を出力する。オペレータは、FR操作部材62を操作することによって、作業車両1の前進と後進とを切り換えることができる。
【0059】
シフト操作部材63は、例えばダイヤル式のスイッチである。ただし、シフト操作部材63は、レバーなどの他の部材であってもよい。シフト操作部材63は、シフト操作センサ66と接続されている。シフト操作センサ66は、例えばシフト操作部材63の位置(以下、「シフト位置」と呼ぶ)を検出する位置センサである。シフト操作センサ66は、シフト位置を示す信号を出力する。シフト位置は、例えば第1速~第4速の位置を含む。ただし、シフト位置は、第4速より高速の位置を含んでもよい。或いは、シフト位置は、第1速から、第4速より低速の位置までであってもよい。
【0060】
図4は、作業車両1の車速-牽引力特性を示す図である。図4に示すように、オペレータは、シフト操作部材63を操作することによって、最高車速を規定する変速パターン(L_1st~L_4th)を選択することができる。
【0061】
作業車両1は、作業機操作部材67を含む。作業機操作部材67は、例えば作業機レバーである。ただし、作業機操作部材67は、スイッチ等の他の部材であってもよい。作業機操作部材67の操作に応じたパイロット圧が、作業機制御弁30に印加される。作業機操作部材67は、作業機操作センサ68に接続されている。作業機操作センサ68は、例えば圧力センサである。作業機操作センサ68は、作業機操作部材67の操作量(以下、「作業機操作量」と呼ぶ)と操作方向とを検出し、作業機操作量と操作方向とを示す信号を出力する。なお、作業機制御弁30が、圧力比例制御弁ではなく、電磁比例制御弁である場合には、作業機操作センサ68は、作業機操作部材67の位置を電気的に検出する位置センサであってもよい。オペレータは、作業機操作部材67を操作することによって、作業機3を操作することができる。例えば、オペレータは、作業機操作部材67を操作することによって、バケット12を上昇、或いは下降させることができる。
【0062】
作業車両1は、入力装置69を含む。入力装置69は、例えばタッチパネルである。ただし、入力装置69は、タッチパネルに限らず、スイッチ等の他の装置であってもよい。オペレータは、入力装置69を操作することで、作業車両1の各種の設定を行うことができる。例えば、入力装置69によって、トラクションコントロールの設定を行うことができる。図4に示すように、トラクションコントロールは、最大牽引力を複数のトラクションレベルから選択することができる機能である。
【0063】
複数のトラクションレベルは、第1レベルと第2レベルとを含む。第1レベルでは、最大牽引力が、トラクションコントロールが無効となっている通常時の最大牽引力よりも小さな値に制限される。第2レベルでは、最大牽引力が、第1レベルでの最大牽引力よりも小さな値に制限される。
【0064】
図4において、L_maxは、トラクションコントロールが無効となっている通常時の作業車両1の車速-牽引力特性を示している。L_TC1は、第1レベルのトラクションコントロールでの車速-牽引力特性を示している。L_TC2は、第2レベルのトラクションコントロールでの車速-牽引力特性を示している。
【0065】
図3に示すように、作業車両1は、記憶装置71とコントローラ72とを含む。記憶装置71は、例えばメモリと補助記憶装置とを含む。記憶装置71は、例えば、RAM、或いはROMなどであってもよい。記憶装置71は、半導体メモリ、或いはハードディスクなどであってもよい。記憶装置71は、非一時的な(non-transitory)コンピュータで読み取り可能な記録媒体の一例である。記憶装置71は、処理装置(プロセッサ)によって実行可能であり作業車両1を制御するためのコンピュータ指令を記憶している。
【0066】
コントローラ72は、例えばCPU等の処理装置(プロセッサ)を含む。コントローラ72は、上述したセンサ、入力装置69、及び記憶装置71と通信可能に接続されている。コントローラ72は、上述した各種のセンサ、入力装置69、及び記憶装置71と有線、或いは無線によって通信可能に接続されている。コントローラ72は、センサ、入力装置69、及び記憶装置71から信号を受信することで各種のデータを取得する。コントローラ72は、取得したデータに基づいて作業車両1を制御するようにプログラムされている。なお、コントローラ72は、互いに別体の複数のコントローラによって構成されてもよい。
【0067】
コントローラ72は、上述した制御弁35b,47、及び、燃料噴射装置24と、有線、或いは無線により通信可能に接続されている。コントローラ72は、制御弁35b,47、及び、燃料噴射装置24に指令信号を出力することで、制御弁35b,47、及び、燃料噴射装置24を制御する。
【0068】
詳細には、コントローラ72は、燃料噴射装置24に指令信号を出力することで、エンジントルク及びエンジン回転速度を制御する。コントローラ72は、モータ制御弁35bに指令信号を出力することで、走行用モータ33の容量を制御する。コントローラ72は、ポンプ制御弁47に指令信号を出力することで、走行用ポンプ31の容量を制御する。コントローラ72は、図4及び図5に示すような車速-牽引力特性が実現されるように、走行用ポンプの容量と走行用モータの容量とを制御して、HST23の変速比を制御する。
【0069】
次に、コントローラ72による作業車両1の制御について説明する。本実施形態に係る作業車両1では、コントローラ72は、アクセル操作量と作業機操作量とに基づいて、エンジン21の目標回転速度(以下、「目標エンジン回転速度」と呼ぶ)を決定する。オペレータは、アクセル操作部材61を操作することなく、作業機操作部材67を操作することで、エンジン回転速度を増大させることができる。また、作業機操作部材67とアクセル操作部材61とが同時に操作されても、作業機操作部材67の操作の影響を受けずに、アクセル操作部材61によって車両の走行性能を調整することができる。
【0070】
図5は、オペレータによるアクセル操作部材61の操作に応じて変更される車速-牽引力特性の一例を示す図である。図5において、T100は、アクセル操作量が100%であるときの車速-牽引力特性を示している。T80は、アクセル操作量が80%であるときの車速-牽引力特性を示している。T60は、アクセル操作量が60%であるときの車速-牽引力特性を示している。本実施形態に係る作業車両1では、作業機操作部材67とアクセル操作部材61とが同時に操作されても、アクセル操作量に応じた走行性能(車速-牽引力特性)を得ることができる。
【0071】
以下、コントローラ72によって実行される処理について説明する。図6は、コントローラ72によって実行される処理を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、作業車両1が前進するときの制御について説明する。ただし、作業車両1が後進するときにも同様の制御が行われてもよい。
【0072】
図6に示すように、S101では、コントローラ72は、アクセル操作量を取得する。コントローラ72は、アクセル操作センサ64からの信号により、アクセル操作量を取得する。
【0073】
ステップS102では、コントローラ72は、目標車速を決定する。コントローラ72は、アクセル操作量から目標車速を決定する。図7は、アクセル操作量から目標車速を決定するための処理を示している。
【0074】
図7に示すように、ステップS201では、コントローラ72は、アクセル操作量とシフト位置とから、目標基準車速を決定する。目標基準車速は、作業車両1が平地を走行しているときの目標到達車速として設定される車速である。記憶装置71は、アクセル操作量と目標基準車速との関係を規定する基準車速データD1を記憶している。基準車速データD1では、アクセル操作量の増大に応じて目標基準車速が増大する。基準車速データD1では、シフト位置ごとにアクセル操作量と目標基準車速との関係を規定している。基準車速データD1では、アクセル操作量が同じであっても、シフト位置が高速側であるほど、目標基準車速が増大する。コントローラ72は、基準車速データD1を参照して、アクセル操作量とシフト位置とに対応する目標基準車速を決定する。
【0075】
ステップS202では、コントローラ72は、車速偏差を算出する。車速偏差は、目標基準車速と実際の車速との差である。ステップS203では、コントローラ72は、目標加速度を算出する。コントローラ72は、車速偏差とアクセル操作量とから、目標加速度を算出する。詳細には、コントローラ72は、加速度データD5を参照して、車速偏差に対応する目標加速度を算出する。加速度データD5は、車速偏差と目標加速度との関係を規定する。加速度データD5では、車速偏差の増大に応じて目標加速度が減少する。コントローラ72は、アクセル操作量に応じて加速度データD5を変更する。コントローラ72は、車速偏差が同じであっても、アクセル操作量が増大するほど、目標加速度が増大するように、加速度データD5を変更する。なお、車速偏差が負であることは、作業車両1が加速中であることを意味する。車速偏差が正であることは、作業車両1が減速中であることを意味する。目標加速度が正の値であることは加速を意味し、目標加速度が負の値であることは減速を意味する。
【0076】
ステップS204では、コントローラ72は、目標加速度から目標速度変化量を算出する。コントローラ72は、目標加速度に、コントローラ72による計算周期を乗じることで、目標速度変化量を算出する。
【0077】
ステップS205とステップS206とでは、コントローラ72は、実際の車速に目標速度変化量を加算する。ステップS207では、コントローラ72は、実際の車速に目標速度変化量を加算した値と目標基準車速との小さい方(第1目標車速)を選択する。ステップS208では、コントローラ72は、実際の車速に目標速度変化量を加算した値と目標基準車速との大きい方(第2目標車速)を選択する。
【0078】
ステップS209では、コントローラ72は、作業車両1が加速中であるのか、減速中であるのかに応じて目標車速を決定する。コントローラ72は、目標基準車速よりも実際の車速が小さいときには、作業車両1が加速中であると判断する。また、コントローラ72は、目標基準車速よりも実際の車速が大きいときには、作業車両1が減速中であると判断する。コントローラ72は、加速中には第1目標車速を目標車速として決定し、減速中には、第2目標車速を目標車速として決定する。なお、目標車速が負の値であるときには、コントローラ72は、目標車速を0とする。
【0079】
次に、図6に示すように、ステップS103では、コントローラ72は、HST23への目標入力馬力を決定する。HST23への目標入力馬力は、エンジン21の出力馬力のうち、HST23に分配される馬力を意味する。コントローラ72は、アクセル操作量から目標入力馬を決定する。
【0080】
図8は、本実施形態に係る作業車両1の車速-HST入力馬力特性を示す図である。図8において、H100は、アクセル操作量が100%であるときの車速-HST入力馬力特性を示している。H80は、アクセル操作量が80%であるときの車速-HST入力馬力特性を示している。H60は、アクセル操作量が60%であるときの車速-HST入力馬力特性を示している。
【0081】
図8に示すように、コントローラ72は、アクセル操作量に応じた走行性能(車速-HST入力馬力特性)が得られるように、アクセル操作量からHST23への目標入力馬力を決定する。コントローラ72は、目標車速に応じて、ストール時(R_stall)、低車速域(R_low)、中車速域(R_mid)、高車速域(R_high)でのHST23への目標入力馬力を決定する。
【0082】
図9は、ストール時のHST23への目標入力馬力を決定するための処理を示す図である。図9に示すように、ステップS301では、コントローラ72は、アクセル操作量からストール時の目標牽引力を決定する。記憶装置71は、アクセル操作量とストール時の目標牽引力との関係を規定する目標牽引力データD2を記憶している。目標牽引力データD2は、上述したトラクションコントロールなどの機能が実行されていない通常時におけるアクセル操作量とストール時の目標牽引力との関係を規定している。目標牽引力データD2は、0から100%の範囲のアクセル操作量に対するストール時の目標牽引力を規定している。目標牽引力データD2では、アクセル操作量の増大に応じて目標牽引力が増大する。コントローラ72は、目標牽引力データD2を参照して、アクセル操作量に対応するストール時の目標牽引力を決定する。
【0083】
ステップS302では、コントローラ72は、ステップS301で決定されたストール時の目標牽引力に、トラクションレベルに応じた比率を乗じることで、各トラクションレベルでのストール時の目標牽引力を決定する。トラクションコントロールが実施されない通常時には、当該比率は1となる。
【0084】
ステップS303では、コントローラ72は、ステップS302で決定されたストール時の目標牽引力を目標モータトルクに換算する。コントローラ72は、目標牽引力に、所定の換算係数を乗じて、トランスミッション機械効率で除することで、目標モータトルクを算出する。所定の換算係数は、作業車両1の牽引力をHST23の出力軸でのトルクに換算するための係数である。トランスミッション機械効率は、HST23の出力軸から走行輪4までの伝達効率である。
【0085】
ステップS304では、コントローラ72は、目標モータトルクから目標HST差圧を決定する。HST差圧は、第1駆動回路32aの油圧と第2駆動回路32bの油圧との差である。コントローラ72は、目標モータトルクを、走行用モータ33の最大容量で除して、走行用モータ33のトルク効率で除することにより、目標HST差圧を算出する。
【0086】
ステップS305では、コントローラ72は、目標HST差圧から走行用ポンプ31の目標流量を決定する。コントローラ72は、目標HST差圧から作動油の漏れ流量を決定し、漏れ流量から走行用ポンプ31の目標流量を決定する。記憶装置71は、ストール時における目標HST差圧と、駆動油圧回路32における作動油の漏れ流量との関係を規定する漏れ流量データD3を記憶している。
【0087】
作動油の漏れ流量は、HST23に含まれる油圧機器から漏れる作動油の流量であり、HST差圧と相関がある。そこで、HST差圧と、駆動油圧回路32における作動油の漏れ流量との関係が、予め実験、或いはシミュレーションによって求められ、漏れ流量データD10として設定される。例えば、作動油の漏れ流量は、HST23において走行用モータ33を停止させた状態で走行用ポンプ31を駆動したときの走行用ポンプ31の流量に相当する。
【0088】
漏れ流量データD3では、目標HST差圧の増大に応じて、漏れ流量が増大する。コントローラ72は、漏れ流量データD3を参照して、目標HST差圧に対応する漏れ流量を決定する。ストール時においては、漏れ流量は、走行用ポンプ31の流量と概ね一致する。コントローラ72は、漏れ流量データD3から求めた漏れ流量を走行用ポンプ31の目標流量として決定する。
【0089】
ステップS306では、コントローラ72は、目標HST差圧と走行用ポンプ31の目標流量とから、ストール時のHST23への目標入力馬力を決定する。コントローラ72は、目標HST差圧に走行用ポンプ31の目標流量を乗じて、ポンプトルク効率で除することで、ストール時のHST23への目標入力馬力を決定する。
【0090】
図10は、低車速域及び中車速域でのHST23への目標入力馬力を決定するための処理を示す図である。図10に示すように、ステップS401では、コントローラ72は、ストール時の目標牽引力と目標車速とから、目標走行馬力を決定する。コントローラ72は、ストール時の目標牽引力に目標車速を乗じてトランスミッション効率で除することにより、目標走行馬力を決定する。トランスミッション効率は、HST23の入力軸から走行輪4までの伝達効率である。
【0091】
ステップS402では、コントローラ72は、目標走行馬力とストール時の目標入力馬力とから低車速域でのHST23への目標入力馬力を決定する。コントローラ72は、ストール時の目標入力馬力に目標走行馬力を加えることで、低車速域でのHST23への目標入力馬力を決定する。
【0092】
ステップS403では、コントローラ72は、アクセル操作量から、中車速域のHST23への目標入力馬力を決定する。記憶装置71は、アクセル操作量とHST23への目標入力馬力との関係を規定する目標入力馬力データD4を記憶している。目標入力馬力データD4では、アクセル操作量の増大に応じて目標入力馬力が増大する。コントローラ72は、目標入力馬力データD4を参照して、アクセル操作量に対応する中車速域の目標入力馬力を決定する。
【0093】
ステップS404では、コントローラ72は、ステップS402で決定した低車速域の目標入力馬力と、ステップS403で決定した中車速域の目標入力馬力との小さい方を、低・中車速域のHST23への目標入力馬力として決定する。
【0094】
図11は、高車速域でのHST23への目標入力馬力を決定するための処理を示す図である。図11に示すように、ステップS501では、コントローラ72は、アクセル操作量とシフト位置とから、高車速域の閾車速を決定する。高車速域の閾車速は、低・中車速域と高車速域との境界を示す車速である。記憶装置71は、アクセル操作量と閾車速との関係を規定する閾車速データD6を記憶している。閾車速データD6では、アクセル操作量の増大に応じて閾車速が増大する。閾車速データD6は、シフト位置ごとにアクセル操作量と閾車速との関係を規定している。アクセル操作量が同じであっても、シフト位置が高速側であるほど、閾車速は大きくなる。コントローラ72は、閾車速データD6を参照して、アクセル操作量とシフト位置とに対応する閾車速を決定する。
【0095】
ステップS502では、コントローラ72は、アクセル操作量とシフト位置とから、目標基準車速を決定する。コントローラ72は、上述した基準車速データD1を参照して、アクセル操作量とシフト位置とに対応する目標基準車速を決定する。
【0096】
ステップS503では、コントローラ72は、アクセル操作量とシフト位置とから、ゼロ牽引力車速を決定する。ゼロ牽引力車速は、牽引力がゼロであるとき、すなわち走行負荷がゼロであるときの、目標車速を意味する。記憶装置71は、アクセル操作量とゼロ牽引力車速との関係を規定するゼロ牽引力車速データD7を記憶している。ゼロ牽引力車速データD7では、アクセル操作量の増大に応じてゼロ牽引力車速が増大する。ゼロ牽引力車速データD7は、シフト位置ごとにアクセル操作量とゼロ牽引力車速との関係を規定している。アクセル操作量が同じであっても、シフト位置が高速側であるほど、ゼロ牽引力車速は大きくなる。コントローラ72は、ゼロ牽引力車速データD7を参照して、アクセル操作量とシフト位置とに対応するゼロ牽引力車速を決定する。
【0097】
なお、アクセル操作量及びシフト位置が同じ場合には、閾車速<目標基準車速<ゼロ件引力車速の関係が成り立つように、閾車速データD6、基準車速データD1、及びゼロ牽引力車速データD7が設定されている。
【0098】
ステップS504では、コントローラ72は、目標車速から、HST23への静的な目標入力馬力を決定する。コントローラ72は、目標車速が閾車速以下であるときには、上述した低・中車速域の目標入力馬力を、静的な目標入力馬力として決定する。
【0099】
コントローラ72は、目標車速が目標基準車速であるときには、目標基準牽引力に目標基準車速を乗じて算出した目標基準走行馬力を、静的な目標入力馬力として決定する。例えば、コントローラは、作業車両1の車重と所定の係数とから、目標基準牽引力を決定する。車重と所定の係数とは、記憶装置71に記憶されている。
【0100】
コントローラ72は、目標車速がゼロ牽引力車速以上であるときには、静的な目標入力馬力をゼロとする。目標車速が、閾車速と目標基準車速との間の値、或いは、目標基準車速とゼロ牽引力車速との間の値であるときには、コントローラ72は、線形補間により、HST23への静的な目標入力馬力を決定する。
【0101】
上述した静的な目標入力馬力は、定常時におけるHST23への目標入力馬力である。アクセル操作量の変更による過渡時には、コントローラ72は、静的な目標入力馬力を越えない範囲で、アクセル操作量に応じた速さでHST23への目標入力馬力を増加させる。図12は、過渡時のHST23への目標入力馬力(動的な目標入力馬力)を決定する処理を示す図である。
【0102】
図12に示すように、ステップS601では、コントローラ72は、上述した目標加速度と、実際の車速と、トランスミッション効率とから、馬力増加量を決定する。馬力増加量は、実際の車速から、目標加速度で車速を増加させるために必要な単位時間当たりのHST23への入力馬力の増加量を意味する。
【0103】
ステップS602では、コントローラ72は、前回の目標入力馬力に馬力増加量を加算することで、今回の目標入力馬力を決定する。ステップS603では、コントローラ72は、ステップS602で決定した今回の目標入力馬力と上述したストール時の目標入力馬力とのうち大きい方を動的な目標入力馬力として選択する。また、ステップS604において、コントローラ72は、ステップS603で決定した動的な目標入力馬力と、上述した静的な目標入力馬力との小さい方を、目標入力馬力として選択する。
【0104】
以上のように、コントローラ72は、前回の動的な目標入力馬力を、アクセル操作量に応じた馬力増加量で増加することで、今回の動的な目標入力馬力を決定する。そして、コントローラ72は、ストール時の目標入力馬力と静的な目標入力馬力との間で、単位時間ごとに動的な目標入力馬力を増大させる。
【0105】
次に、図6に示すように、ステップS104では、コントローラ72は、作業機操作量を取得する。コントローラ72は、作業機操作センサ68からの信号により、作業機操作量を取得する。
【0106】
ステップS105では、コントローラ72は、目標エンジン回転速度を決定する。コントローラ72は、HST23への目標入力馬力と作業機操作量とから、目標エンジン回転速度を決定する。図13は、目標エンジン回転速度を決定するための処理を示す図である。
【0107】
図13に示すように、ステップS701では、コントローラ72は、ステップS604で決定された目標入力馬力から、HST23のための目標エンジン回転速度を決定する。記憶装置71は、エンジントルクとHST23のための目標エンジン回転速度との関係を規定するエンジントルク-回転速度データD8を記憶している。コントローラ72は、エンジントルク-回転速度データD8を参照して、HST23への目標入力馬力に対応する目標エンジン回転速度を決定する。コントローラ72は、エンジントルクと走行用ポンプ31の吸収トルクとが、目標入力馬力に対応する等馬力線上の所定のマッチング点MPで一致するように、HST23のための目標エンジン回転速度を決定する。
【0108】
ステップS702では、コントローラ72は、作業機操作量から、作業機3のための目標エンジン回転速度を決定する。記憶装置71は、作業機操作量と、作業機3のための目標エンジン回転速度との関係を規定する目標回転速度データD9を記憶している。目標回転速度データD9では、作業機操作量の増大に応じて、目標エンジン回転速度が増大する。コントローラ72は、目標回転速度データD9を参照して、作業機操作量に対応する作業機3のための目標エンジン回転速度を決定する。
【0109】
ステップS703では、コントローラ72は、目標車速から、車速用の目標エンジン回転速度を決定する。コントローラ72は、目標車速に所定の換算係数と最小トランスミッション変速比とを乗じて算出した値を車速用の目標エンジン回転速度として決定する。所定の換算係数は、目標車速をHSTの出力軸の回転速度に換算するための係数である。最小トランスミッション変速比は、HST23の最小変速比である。
【0110】
ステップS704では、コントローラ72は、HST23のための目標エンジン回転速度と、作業機3のための目標エンジン回転速度と、車速用の目標エンジン回転速度とのなかで最大のものを、目標エンジン回転速度として決定する。
【0111】
次に、図6に示すように、ステップS106において、コントローラ72は、走行用ポンプ31の目標容量を決定する。コントローラ72は、目標車速と、ステップS704で決定した目標エンジン回転速度とから、走行用ポンプ31の目標容量を決定する。また、ステップS107において、コントローラ72は、走行用モータ33の目標容量を決定する。コントローラ72は、目標車速と、ステップS704で決定した目標エンジン回転速度とから、走行用モータ33の目標容量を決定する。
【0112】
図14Aは、走行用ポンプ31の目標容量を決定するための処理を示す図である。図14Aに示すように、ステップS801において、コントローラ72は、目標車速から走行用モータ33の流量を決定する。コントローラ72は、目標車速に所定の換算係数と走行用モータ33の最大容量とを乗じて、走行用モータ33の容積効率で除した値を、走行用モータ33の流量として決定する。所定の換算係数は、目標車速をHST23の出力軸の回転速度に換算するための係数である。
【0113】
ステップS802において、コントローラ72は、目標エンジン回転速度と走行用モータ33の流量とから、走行用ポンプ31の目標容量を決定する。コントローラ72は、走行用モータ33の流量を、目標エンジン回転速度と走行用ポンプ31の容積効率で除した値を、走行用ポンプ31の目標容量として算出する。
【0114】
図14Bは、走行用モータ33の目標容量を決定するための処理を示す図である。図14Bに示すように、ステップS803において、コントローラ72は、目標車速から走行用モータ33の回転速度を決定する。コントローラ72は、目標車速に所定の換算係数を乗じることで、走行用モータ33の回転速度を算出する。所定の換算係数は、目標車速をHST23の出力軸の回転速度に換算するための係数である。
【0115】
ステップS804では、コントローラ72は、目標エンジン回転速度と走行用ポンプ31の最大容量とから、走行用ポンプ31の流量を決定する。コントローラ72は、エンジン回転速度に走行用ポンプ31の最大容量を乗じた値を走行用ポンプ31の容積効率で除することで、走行用ポンプ31の流量を算出する。
【0116】
ステップS805では、コントローラ72は、走行用モータ33の回転速度と走行用ポンプ31の流量とから、走行用モータ33の目標容量を決定する。コントローラ72は、走行用ポンプ31の流量を走行用モータ33の回転速度と走行用モータ33の容積効率とで除することにより、走行用モータ33の目標容量を算出する。
【0117】
そして、図6に示すように、ステップS108において、コントローラ72は、指令信号を出力する。コントローラ72は、エンジン21が目標エンジン回転速度で駆動されるように、燃料噴射装置24に指令信号を出力する。コントローラ72は、走行用ポンプ31が目標容量で駆動されるように、ポンプ容量制御装置45に指令信号を出力する。コントローラ72は、走行用モータ33が目標容量で駆動されるように、モータ容量制御装置35に指令信号を出力する。
【0118】
以上説明した本実施形態に係る作業車両1では、漏れ流量データD3を参照することで、目標HST差圧から漏れ流量が決定され、漏れ流量から走行用ポンプ31の目標流量が決定される。ストール時においては、HST23の駆動油圧回路32からの漏れ流量は、HST差圧と相関がある。また、ストール時においては、漏れ流量は、走行用ポンプ31の流量と概ね一致する。従って、漏れ流量データD3を参照することで、目標HST差圧、すなわち目標牽引力に対応する走行用ポンプ31の目標流量を精度よく決定することができる。それにより、ストール時の牽引力を任意に、且つ、精度よく、制御することができる。
【0119】
例えば、図15は、上述した目標牽引力データD2の一例を示す図である。図15において破線C1は、比較例に係る作業車両におけるアクセル操作量とストール時の実際の牽引力との関係を示している。比較例に係る作業車両では、アクセル操作量が中間的な値AC1であるときに、ストール時の実際の牽引力が最大牽引力Fmaxとなり、アクセル操作量がAC1以上ではストール時の実際の牽引力が最大牽引力Fmaxで一定となる。
【0120】
それに対して、本実施形態に係る目標牽引力データD2では、アクセル操作量がAC1よりも大きいAC2であるときに、目標牽引力が最大牽引力Fmaxとなるように、目標牽引力データD2が設定されている。AC2は、例えば100%であることがさらに好ましい。すなわち、アクセル操作量が0から100%の範囲で、アクセル操作量の増大に応じて目標牽引力が線形的に増大することが好ましい。ただし、AC2は、100%より小さくてもよい。例えば、AC2は、80%以上であることが好ましい。或いは、AC2は、90%以上であることが好ましい。
【0121】
このような目標牽引力データD2に基づいて目標牽引力が決定されることで、ストール時の牽引力の操作性を向上させることができる。また、上記のように、漏れ流量データD3を参照して走行用ポンプ31の目標流量を決定することで、目標牽引力データD2に規定された目標牽引力を精度良く実現することができる。さらに、エンジン回転速度の不必要な増大を抑えることができるため、燃費効率を向上させることができる。
【0122】
本実施形態に係る作業車両1では、目標牽引力にトラクションレベルに応じた比率が乗じられることで、ストール時の目標牽引力が補正される。そして、補正された目標牽引力から目標差圧が決定され、目標差圧から走行用ポンプ31の目標容量が決定される。従って、走行用モータ33の容量を最大容量に維持したまま、走行用ポンプ31の容量を制御することで、トラクションレベルに応じた最大牽引力を実現することができる。それにより、走行用モータ33の効率を向上させることができる。また、漏れ流量データD3を参照することで、目標差圧から走行用ポンプ31の目標容量が決定される。従って、トラクションレベルに応じた最大牽引力を精度良く実現することができる。
【0123】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0124】
作業車両1は、ホイールローダに限らず、モータグレーダ等の他の種類の車両であってもよい。作業車両1の駆動系及び制御系の構成は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、走行用ポンプ31の容量は、ポンプ制御弁47に限らず、他の制御弁によって制御されてもよい。すなわち、ポンプパイロット回路48を介してポンプ制御シリンダ46に供給される作動油の圧力を制御するための制御弁が、ポンプ制御弁47とは別に設けられてもよい。
【0125】
コントローラ72は、作動油の温度に基づいて、上述した漏れ流量を補正してもよい。コントローラ72は、温度センサ49からの信号により、走行用モータ33に供給される作動油の温度(以下、単に「油温」と記す)を取得する。コントローラ72は、油温により、漏れ流量データを補正してもよい。例えば、図16において破線D3’で示すように、コントローラ72は、油温の上昇に応じて、漏れ流量が増大するように、漏れ流量を補正してもよい。或いは、破線D3’’ ’で示すように、コントローラ72は、油温の低下に応じて、漏れ流量が減少するように、漏れ流量を補正してもよい。
【0126】
上述した各種の演算に用いられるパラメータは、上述したものに限らず、変更されてもよい。或いは、上述したパラメータ以外のパラメータが演算に用いられてもよい。上述した各種のデータは、例えば式で表されてもよく、或いは、テーブル、マップなどの形式であってもよい。
【0127】
上述した処理の順序が変更されてもよい。或いは、一部の処理が並列に行われてもよい。例えば、ステップS101とステップS104とは並列して行われてもよい。
【0128】
コントローラ72は、上記の実施形態とは異なる方法によって、目標車速を決定してもよい。コントローラ72は、上記の実施形態とは異なる方法によって、HST23への目標入力馬力を決定してもよい。コントローラ72は、上記の実施形態とは異なる方法によって、目標エンジン回転速度を決定してもよい。コントローラ72は、上記の実施形態とは異なる方法によって、走行用ポンプ31の目標容量を決定してもよい。コントローラ72は、上記の実施形態とは異なる方法によって、走行用モータ33の目標容量を決定してもよい。そのような場合であっても、漏れ流量を用いることで、目標HST差圧に対応する走行用ポンプ31の目標流量を精度良く決定することができる。
【0129】
上記の実施形態では、コントローラ72は、過渡時には、ストール時の目標入力馬力と静的な目標入力馬力との間で、単位時間ごとにHST23への目標入力馬力を増大させている。しかし、コントローラ72は、ストール時の目標入力馬力に限らず、アクセル操作量に応じた他の値を、HST23への目標入力馬力の下限として決定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、静油圧式変速機を備える作業車両において、ストール時の牽引力を任意、精度良く、且つ効率よく制御することができる。
【符号の説明】
【0131】
21 エンジン
31 走行用ポンプ
32 駆動油圧回路
33 走行用モータ
23 HST(静油圧式変速機)
61 アクセル操作部材
64 アクセル操作センサ(第1センサ)
72 コントローラ
71 記憶装置
49 温度センサ
69 入力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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