IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ チェイン バイオテクノロジー リミテッドの特許一覧

特許7021230炎症性疾患を処置するための組成物および方法ならびにプロバイオティック組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】炎症性疾患を処置するための組成物および方法ならびにプロバイオティック組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20220208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220208BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20220208BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220208BHJP
   A61K 31/19 20060101ALN20220208BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220208BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20220208BHJP
   C12P 7/42 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
A61K35/742 ZNA
A61P43/00 123
A61P29/00
A61P1/04
A61P1/00
A61P35/00
A61P31/04
A61P31/04 171
A23K10/18
A23L33/135
A61K31/19
C12N1/21
C12N15/53
C12P7/42
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019536341
(86)(22)【出願日】2017-09-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 GB2017052832
(87)【国際公開番号】W WO2018055388
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】1616058.2
(32)【優先日】2016-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1706751.3
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518314040
【氏名又は名称】チェイン バイオテクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・ブラッドリー
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・グリーン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエラ・ヒーグ
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/021013(WO,A1)
【文献】Molecular Microbiology,2006年,Vol. 61, No. 2,pp. 297-309
【文献】醸協,1968年,Vol. 63, No. 4,pp. 405-409
【文献】廃棄物学会誌,2008年,Vol. 19, No. 6,pp. 271-277 (29-35)
【文献】腸内細菌学雑誌,2005年,Vol. 19, No. 3,pp. 169-177
【文献】ファルマシア,1986年,Vol. 22, No. 7,pp. 735-740
【文献】日本内科学会雑誌,2015年,Vol. 104, No .1,pp. 29-34
【文献】化学と生物,1975年,Vol. 13, No. 8,pp. 478-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化器管の管腔に(R)-3-ヒドロキシブチレート((R)-3-HB)を送達するための、(R)-3-HBを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌および経口摂取可能担体を含む、組成物であって、該細菌が腸において見られ、ブチレートを天然に産生し、ホスホトランスブチリラーゼおよび酪酸キナーゼをコードする天然遺伝子を有し、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを発現できる非天然遺伝子を含むものである、組成物
【請求項2】
細菌がクロストリジウム綱細菌である、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
細菌がクロストリジウム綱の分類群I、IVおよび/またはXIVaのものである、請求項1または2に記載の組成物
【請求項4】
細菌がクロストリジウム属由来である、請求項1~3の何れかに記載の組成物。
【請求項5】
細菌がクロストリジウム・ブチリクムである、請求項1~4の何れかに記載の組成物
【請求項6】
細菌が唯一の発酵産物として(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する、または細菌が発酵産物として(R)-3-ヒドロキシブチレートをアセテートおよび/またはブチレートと組み合わせて産生する、請求項1~の何れかに記載の組成物。
【請求項7】
医薬として使用するための薬学的に許容される担体を含む、請求項1~の何れかに記載の組成物。
【請求項8】
対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための、請求項1~の何れかに記載の組成物。
【請求項9】
消化器障害の処置または予防において使用するための、所望により消化器障害が炎症性腸疾患または結腸癌であり、炎症性腸疾患が過敏性腸症候群、クローン病、嚢炎、憩室炎および潰瘍性大腸炎から選択される、請求項1~の何れかに記載の組成物。
【請求項10】
組成物が経口投与用である、請求項の何れかに記載の使用のための組成物。
【請求項11】
組成物が(R)-3-HBを大腸、好ましくは大腸の嫌気性部分、好ましくは結腸および/または末端回腸に送達する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
a)消化器細菌叢異常の処置;
b)クロストリジウム・ディフィシル感染の処置または予防
c)対象における腸内細菌叢の調節または
d)動物給餌
に使用するための、請求項1~の何れかに記載の組成物。
【請求項13】
食品において使用するためであって、食品が飲み物、栄養補助食品または機能性食品である、請求項1~7の何れかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、対象における炎症性疾患、障害または状態、特に炎症性腸疾患(IBD)および/または結腸直腸癌などの消化管の炎症性疾患、障害または状態の処置方法に使用するための3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)またはその塩に関する。本発明はまたここに記載する組成物を含むプロバイオティック組成物および消化器障害の処置のための該組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
背景
炎症は、感染、毒物暴露または細胞傷害の部位での白血球および血漿タンパク質の蓄積および活性化が関与する、免疫系の複雑な反応である。炎症は、感染制御および組織修復促進における保護機能としても働くが、組織損傷および疾患も引き起こし得る。IBD、例えばクローン病および潰瘍性大腸炎は、異常な腸管炎症応答を伴う。制御されない炎症はまた腸管で腫瘍形成も駆動し、IBDを有する患者の結腸直腸癌を発症するリスクは上昇する。
【0003】
サイトカインおよびタンパク質の特定のネットワークが、炎症、特にIBDなどの疾患の病因と関連付けられる腸管粘膜などの粘膜組織の炎症の制御に関与することが示唆されている。アミノサリチレートおよびステロイドを含む今日までの薬物療法は、症状改善を提供するが、根底の炎症過程を停止できず、疾患経過を変えない。
【0004】
抗体などの生物学的製剤は、炎症性サイトカインまたはタンパク質をターゲティングすることにより、これらの慢性疾患の代替的処置選択肢を提供している。
【0005】
炎症誘発性サイトカインTNF-αは、特に腸管炎症における炎症において重要な役割を有するサイトカインの一例である(Neurath, M. F. (2014) Nature Reviews Immunology; 14: 329-342)。TNF-αは線維芽細胞を活性化し、炎症誘発性サイトカイン産生および血管形成を刺激し、上皮細胞死を誘発し、アポトーシスに対するT細胞抵抗性に介在し、そしてカヘキシーを誘発する。抗TNF-α剤は多数の研究の対象であり、多数の薬剤が乾癬、クローン病およびリウマチ性関節炎などの炎症性疾患の処置のために臨床的に承認されている(Neurath, M. F. (2014) Nature Reviews Immunology; 14: 329-342)。例はモノクローナル抗体インフリキシマブ(レミケード(登録商標))、アダリムマブ(ヒュミラ(登録商標))、セルトリズマブペゴール(シムジア(登録商標))およびゴリムマブ(シンポニー(登録商標))を含む。
【0006】
IL-12およびIL-23も炎症に役割を有し、特に腸管炎症と関連している(Teng, M. W. L., et al. (2015) Nature Medicine; 21: 719-729)。IL-12およびIL-23は、クローン病を有する患者の炎症を起こした粘膜で誘発される。IL-12は1型Tヘルパー(T1)細胞を誘発し、クローン病はT1応答と関連することが判明している。17型Tヘルパー(T17)細胞応答がクローン病および潰瘍性大腸炎において特定されており、IL-23はT17細胞のアクティベーターとして良く知られる。IL-12およびIL-23は、サブユニット(p40)を共有し、市販薬ウステキヌマブはこのサブユニットを標的とし、クローン病に対して承認されている。リサンキズマブはIL-23に特有のp19サブユニットに特異的であり、フェーズ2データはクローン病における有効性を示唆する(Neurath, M. F. (2017) Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology; 14: 269-278)。他の抗IL-23剤は、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎およびリウマチ性関節炎などの炎症性疾患の処置のために臨床開発中である。
【0007】
炎症誘発性サイトカインIL-6も炎症に役割を有し、特に腸管炎症と関連している(Neurath, M. F. (2014) Nature Reviews Immunology; 14: 329-342)。IL-6はT細胞を活性化し、アポトーシスを阻止し、マクロファージ活性化を誘発し、免疫細胞を動員し、急性期タンパク質を活性化し、上皮細胞増殖を誘発し、そして腫瘍増殖を支持する(Neurath, M. F. (2014) Nature Reviews Immunology; 14: 329-342)。開発中の抗IL-6剤(例えばトシリズマブ)は、クローン病の処置について早期臨床有効性を示している。IBD患者において、IL-6およびそのアゴニスト可溶性受容体sIL-6Rが誘発され、T細胞活性化およびそのアポトーシスの抵抗性に介在する。IL-6ブロックは、実験的大腸炎で有効である(Neurath, M. F. (2017) Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology; 14: 269-278)。抗IL-6剤もリウマチ性関節炎などの炎症性疾患の処置のために臨床開発中であり、癌治療に対して承認されている。
【0008】
IL-1β活性のブロックは、マクロファージ依存性IL-6分泌を減弱することにより、マウスにおける腫瘍形成を低減させる。IL-1β変換酵素(ICE;カスパーゼ1としても知られる) - IL-1βおよびIL-18を活性サイトカインに開裂する酵素 - の欠損は、マウスをデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎から保護し、これはIL-1ファミリーメンバーの遮断が慢性腸管炎症の治療に適切であり得ることを示唆する(Neurath, M. F. (2014) Nature Reviews Immunology; 14: 329-342)。
【0009】
IL-10は、抗原提示細胞およびT細胞による炎症誘発性サイトカイン産生を抑制し、制御性T細胞におけるSTAT3シグナル伝達を誘発する。IL-10は、炎症性疾患、特に大腸炎などの腸管炎症と関連付けられている。例えば、IL-10欠損はIBDと関連する(Neurath, M. F. (2014) Nature Reviews Immunology; 14: 329-342)。
【0010】
TGF-β1は、マウスおよびヒト腸の多くの免疫および非免疫細胞で産生され、2つのTGF-β1受容体(I型およびII型)が実質的に全ての腸管細胞で発現される。TGF-β1は、エフェクターT細胞およびマクロファージの活性化および機能を抑制し、制御性Foxp3発現T細胞(Fantini, M. C., et al. (2004) J Immunol; 172: 5149-5153)およびT17細胞両方の末梢分化に寄与する。これはまた白血球および炎症応答に参加する他の細胞の走化性勾配を提供し、細胞が活性化されたら、それを抑制する。TGF-β1は、間質細胞による細胞外マトリクス分解プロテアーゼの産生を阻害し、同時にこれらの細胞のコラーゲン産生を刺激し、上皮細胞の辺縁化(margination)を促進する。TGF-β1は粘膜免疫グロブリンA(IgA)産生に関与する主要サイトカインである。炎症のマウスモデルにおいて作成されたデータと一致して、正常、腸管粘膜細胞または外植片と中和抗体の培養における内在性TGF-β1活性のブロックは炎症性分子の誘発を増強し、一方組み換えTGF-β1での正常腸管免疫細胞刺激は炎症性シグナルを抑止する。モンジャーセンは、クローン病処置のための開発中の薬剤である。モンジャーセンは、マウスにおいてTGF-β1阻害因子(Smad7)のノックダウンによりTGF-β1活性を回復させ、そうして炎症経路の抑制および大腸炎の解消をもたらす(Ardizzone, S., et al. (2016) Ther Adv Gastroenterol; 9(4): 527-532)。
【0011】
サイトカインは、STAT3およびNF-κBなどの細胞内シグナル伝達分子の活性化を介して腫瘍細胞の増殖、増大および生存を活性化させる(Neurath, M. F. (2014) Nature Reviews Immunology; 14: 329-342)。NF-κBは、DNA転写、サイトカイン産生および細胞生存を制御するタンパク質複合体である。IBDにおける慢性粘膜炎症は、結腸組織損傷をもたらす、抗レベルのTNF-α、IL-6およびインターフェロン-γなどの炎症誘発性サイトカインを産生するエフェクター免疫細胞の過剰活性化が原因である。核転写因子NF-κBは、この免疫学的状況で重要な制御因子の一つとして同定された。トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)誘発大腸炎は、p65(NF-κBのサブユニット)アンチセンスオリゴヌクレオチドの局所投与により首尾よく処置でき、NF-κB経路はIBDの治療介入のための魅力的標的である。IBDに関与する全てのサイトカインおよびタンパク質と同様に、NF-κBも正常細胞の生理に関与する。マウス肝細胞におけるNF-κB活性化ブロックは、肝細胞癌の自然発症と関係付けられており、従って、NF-κB阻害を、炎症を起こした結腸粘膜内の免疫細胞に局所的に限定することが望まれる(Atreya, I. et al. (2008) Journal of Internal Medicine; 263: 591-596)。
【0012】
IBDにおける組織リモデリングおよび破壊はマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)により制御される。MMP9の発現がIBD、特に潰瘍性大腸炎患者で増加することが判明した。インビボ動物試験は、上皮透過性障害および炎症増強におけるMMP9の重要な役割を示差する(Neurath, M. F. (2017) Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology; 14: 269-278)。
【0013】
サイトカインおよびタンパク質を標的とする生物学的製剤、例えばモノクローナル抗体は、その本質により標的に高度に特異的である。抗体療法は、長期不耐性による二次的失敗および休薬をしばしば伴う(Amiot, A. et al. (2015) Ther Adv Gastroenterol; 8(2): 66-82)。
【0014】
ミヤリサン製薬株式会社(日本)は、消化管の健康のためのクロストリジウム・ブチリクム(Clostridium butyricum)(CBM 588株)プロバイオティックを生産する。この製品は、3-HBを産生しない非遺伝子操作クロストリジウム株を使用する。クロストリジウム・ブチリクムは、ヒト腸内細菌叢で発見され、ヒトおよび動物健康のためのプロバイオティックとして安全に使用された実績がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
炎症性疾患、障害または状態、特に結腸直腸癌を含む腸管における炎症性疾患、障害または状態を処置するための新規治療剤の必要性が当分野でまだある。疾患、障害または状態の根底にある炎症過程を抑制するおよび/または疾患、障害または状態の経過を変えることが可能な治療剤についての必要性が当分野でまだある。より有効である;副作用が少ない;経口的に許容できる;投与が容易であり、処置スケジュールに対するコンプライアンスが改善した;および/または炎症部位での局所的な疾患、障害または状態の処置のために標的化された治療剤についての必要性が当分野でまだある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の要約
第一の態様において、本発明は、対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)またはその塩を提供する。
【0017】
第二の態様において、本発明は、対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための3-HBまたはその塩を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
第三の態様において、本発明は、対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための医薬組成物であって、ここで、組成物は3-HB送達手段を含み、方法は3-HB送達手段を消化器(GI)管の管腔および/または粘膜表面に送達することを含む。
【0019】
第四の態様において、本発明は、対象にa)3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)またはその塩;b)3-HBまたはその塩を含む医薬組成物;および/またはc)3-HB送達手段を含む医薬組成物を投与することを含む、対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法を提供する。
【0020】
第五の態様において、本発明は、(R)-3-HBを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌および経口摂取可能担体を含むまたは本質的にこれらからなる組成物を提供する。
【0021】
第六の態様において、本発明は、(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、消化器疾患または障害を処置または予防する方法を提供する。
【0022】
第七の態様において、本発明は、(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、消化器細菌叢異常を処置または予防する方法を提供する。
【0023】
第八の態様において、本発明は、(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、クロストリジウム・ディフィシル感染を処置または予防する方法を提供する。
【0024】
第九の態様において、本発明は、(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、対象における腸内細菌叢を調節する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A図1Aは、クロストリジウムにおける天然酸産生代謝経路を示す。
【0026】
図1B図1Bは、非天然(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼ導入後のクロストリジウムにおける酸産生代謝経路を示す。
【0027】
図2図2は、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)からのphaB遺伝子についてのコドン最適化DNA配列を示す。
【0028】
図3図3は、pMTL83251(クロストリジウム・ブチリクム)におけるpfdx_phaBのプラスミド地図を詳示する。
【0029】
図4A図4Aは、野生型クロストリジウム・ブチリクム(wt)による(R)-3-HB、ブチレートおよびアセテートの経時的産生を示す。
【0030】
図4B図4Bは、遺伝子操作されたクロストリジウム・ブチリクム(CHN-1-phaB)による(R)-3-HB、ブチレートおよびアセテートの経時的産生を示す。
【0031】
図5図5は、経時的にCFU/mLとして測定した野生型クロストリジウム・ブチリクムおよび遺伝子操作されたクロストリジウム・ブチリクム(CHN-1-phaB)により産生された総CFU(A)および胞子(熱抵抗CFU)(B)を示す。
【0032】
図6図6は、経時的に野生型クロストリジウム・ブチリクムおよび遺伝子操作されたクロストリジウム・ブチリクム(CHN-1-phaB)により産生された栄養細胞に対する胞子のパーセンテージを示す。
【0033】
図7図7は、コロニー形成単位/mLとして表す改変BIM上のCHN-1の総生細胞数を示す。CFU/mLは、3つの独立した実験の平均として示し、エラーバーは標準偏差を表す。
【0034】
図8図8は、コロニー形成単位/mLとして表す改変BIM上の熱抵抗細胞数を示す。CFU/mLは、3つの独立した実験の平均として示し、エラーバーは標準偏差を表す。
【0035】
図9図9は、種々の時点で測定した、模擬結腸内のpHを示す。
【0036】
図10図10は、選択した時点での模擬結腸におけるアセテート(mM)の存在を示す。
【0037】
図11図11は、選択した時点での模擬結腸におけるブチレート(mM)の存在を示す。
【0038】
図12図12は、複合実験の反復(A)および各実験の反復(B)について24時間での模擬結腸における(R)-3-HBの産生を示す。
【0039】
図13図13は、バイオリアクターでCHN-1を検出するための、オリゴヌクレオチドISR-FおよびISR-Rを使用する16s-23s遺伝子間スペーサー領域特異的PCRを示す。
【0040】
図14図14は、バイオリアクターでCHN-1を検出するための、オリゴヌクレオチドphaB-FおよびphaB-Rを使用するphaB特異的PCRを示す。
【0041】
図15図15は、腸管オルガノイドモデルからのデータを示す。オルガノイドをTNFα、TNFαとブチレートおよび/または(R)-3-HBとインキュベートしたときの、炎症性因子NF-κB(A)およびTNFα(B)の非刺激オルガノイドに対する相対的発現(mRNA)レベルを提供する。
【0042】
図16図16は、腸管オルガノイドモデルからのデータを示す。オルガノイドがTNF-α単独でまたは(R)-3-HB併用で刺激されたときの、炎症マーカーIL-10(A)、IL-23(B)、TNF-α(C)、IL-1β(D)、TGF-β1(E)、IL-6(F)およびNF-κβ(G)についての非刺激オルガノイドに対する相対的発現(mRNA)を示す。
【0043】
図17図17は、60ng/mL TNF-αおよび漸増濃度のブチレートまたは(R)-3-HBで処理したオルガノイドにおけるIL-23の相対的mRNA発現レベルを示す。
【0044】
図18図18は、エキソビボ組織モデルからのデータを示す。エキソビボ結腸組織サンプルがTNF-α単独でまたは(R)-3-HB併用で刺激されたときの、炎症マーカーIL-10(A)、IL-12(B)、IL-1β(C)およびIL-6(D)についての非刺激組織サンプルに対する相対的タンパク質量(Luminex)を示す。
【0045】
図19図19は、エキソビボ組織モデルからのデータを示す。比較Proteome Dot Blot Array実験を使用して、TNF-α単独でまたは(R)-3-HB併用で刺激されたエキソビボ結腸組織サンプルにおけるタンパク質発現レベルを比較した。炎症マーカーTNF-α(A)、IL-23(B)およびMMP9(C)のデータを示す。
【0046】
図20図20は、単独または共培養でクロストリジウム・ブチリクムおよびクロストリジウム・ディフィシルの胞子の発芽および伸長により得たCFU/mLを示す。
【0047】
図21図21は、胃および小腸条件でインキュベーション後のRCM寒天プレート上のCHN-1の胞子のmL当たりのコロニー形成単位を示す。データ点は、3つの独立した実験の平均を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
詳細な記載
ここに記載する本発明は、3-HB、特に(R)-異性体(R)-3-ヒドロキシブチレート((R)-3-HB)が腸管細胞から産生される多数の種々の炎症性サイトカインおよびシグナル伝達分子に作用する強力な抗炎症剤であるとの、本願発明者らの驚くべき発見に基づく。特に、本発明者らは、炎症を起こした腸管組織において、3-HBが特定の炎症誘発性サイトカインおよびタンパク質(例えばTNF-α、IL-23、IL-6、IL-1β、IL-12およびMMP9)を下方制御し、特定の抗炎症性サイトカイン(例えばIL-10、TGF-β1)を上方制御することを示した。関与するサイトカインおよびタンパク質は、多数の炎症性疾患、障害または状態、特にIBDを含む胃腸管における炎症(例えばクローン病、潰瘍性大腸炎および結腸直腸癌)と関連付けられている。
【0049】
本発明は、当分野における上記必要性に応える。特に、本発明は、多数の種々の炎症性サイトカインおよびタンパク質に対して広範な作用を有する炎症性疾患、障害または状態を処置する改善された治療を提供する。
【0050】
本発明者らは、3-HBが、炎症を起こした組織、特に腸管組織に局所的に送達されたとき、抗炎症効果を示すことを示している。本発明は、それ故に、炎症部位に局所送達され得る、炎症性疾患、障害または状態の処置のための改善された治療剤を提供する。
【0051】
本発明は、根底にある炎症過程を抑制するおよび/または疾患経過を変える、炎症性疾患、障害または状態の処置のための改善された治療剤を提供する。
【0052】
ある場合、本発明は、結腸直腸癌の予防的処置または治療を提供する。
【0053】
特に、本発明は、個々のサイトカインを標的とする抗体などの生物学的製剤と比較して改善された、炎症性疾患、障害または状態のための治療を提供する。特に、3-HBは、このような生物学的製剤と比較して、炎症を起こした組織における多数の種々の炎症性サイトカインおよびタンパク質に対して、広範な作用を有する。
【0054】
ある態様において、本発明は、3-HBを胃腸管に送達する医薬組成物を提供する。
【0055】
腸内細菌叢は、結腸健康の促進と関連付けられている。これにより達成されると考えられる一つの機構は、食物繊維発酵による、短鎖脂肪酸類(SCFAs)アセテート、プロピオネートおよびブチレートの産生を介する。ブチレートは、結腸健康に対するその効果、特に抗炎症および抗腫瘍効果の重要なメディエーターとして、最も注目を浴びている。腸内マイクロバイオーム解析は、潰瘍性大腸炎および結腸癌を有する患者の結腸におけるブチレート産生細菌の有意な減少を確認している(Frank, D. N., et al. (2007) Proc Natl Acad Sci; 104(34): 13780-13785; Wang, T., et al. (2012) The ISME Journal; 6: 320-329)。ブチレートでの結腸灌注が、潰瘍性大腸炎における炎症を低減できることが示されている(Hamer, H. M., et al. (2008) Aliment Pharmacol Ther; 27: 104-119)。
【0056】
本発明者らは、3-HBが、炎症を起こした組織、特に腸管組織においてブチレートよりも大きな程度で、いくつかの炎症誘発性サイトカインおよびタンパク質の相対的発現レベルを低下させ、抗炎症性サイトカインの相対的発現レベルを増加させることを示している。特に、(R)-3HBは、低濃度(10~100μM)でブチレートより大きなIL-23発現の低減効果を示している。
【0057】
D-β-ヒドロキシブチレート(β-OHB)としても知られる(R)-3-HBは、肝臓で天然に産生され、血流に乗って、炭水化物制限の期間中、代謝基質として作用できる部位である肝外組織に循環されるケトン体である。(R)-3-HBはまた種々のシグナル伝達経路において機能するが、成人の腸管内腔には通常見られない。解離(酸)形態での3-HBの摂取は非実用的である。酸は摂取のために塩またはエステルとして製剤されるが、上述のシナリオにおいては、3-HBは小腸に急速に吸収され、血流に入り、そこで希釈され、全身に分布される。3-HBの塩の経口投与は、その製剤が危険な可能性のある高塩濃度(例えば、ナトリウム塩)となるために、不適当である。
【0058】
本発明は、経腸で、好ましくは経口で投与できる医薬組成物を提供する。本発明は、それ故に、3-HBのための経口的に許容でき、かつ十分に耐容性である医薬組成物を提供する。医薬組成物は、例えば、ケトン誘発食の遵守と比較して、患者コンプライアンスの改善を示す。
【0059】
3-HBは、腸管に、好ましくは腸管の嫌気性部分、好ましくは大腸、好ましくは結腸に送達され得る。3-HBは、小腸で吸収されないように送達され得る。好ましくは、3-HBは食道、胃または小腸に送達されない。本発明はまた、経腸で、好ましくは直腸に投与できる医薬組成物を提供する。
【0060】
3-HBは、それ故に、炎症部位、特に胃腸管の管腔に送達でき、そこで局所的に作用を発揮する。それ故に、有害副作用が最小化または回避される。特に、治療有効量のケトン体の送達および全身取り込みと関係する有害副作用(例えば、塩過負荷)が最小化または回避される。
【0061】
3-HBは、2異性体、(R)-3-HBおよび(S)-3-HBがあるキラル化合物である。本発明の3-HBは、個々の異性体、異性体のラセミ混合物または異性体の非ラセミ混合物であり得る。(R)-3-HBおよび(S)-3-HBのラセミ混合物は、約50重量%(R)-3-HBおよび約50重量%(S)-3-HBを有する。あるいは、3-HBの少なくとも約50重量%、60重量%、70重量%、80重量%または90重量%が(R)-3-HBであり、残りが(S)-3-HBであり得る。好ましくは、3-HBの実質的に全てまたは100重量%が(R)-3-HBであり得る。
【0062】
(R)-3-HB対(S)-3-HBのモル比は5:1より大きい、10:1より大きい、50:1より大きいまたは100:1より大きいものであり得る。ある実施態様において、(R)-3-HB対(S)-3-HBの比は、約100~5:1、100~50:1、100~20:1、50~5:1、20~5:1、15~5:1または約15~10:1の範囲であり得る。
【0063】
3-HBは、(R)または(S)形態の純粋エナンチオマーまたは(R)-3-HBと(S)-3-HBのラセミ混合物として商業的に入手可能である。3-HBはまた当分野で知られる方法により製造することもできる。好ましくは、3-HBは、3-HBを産生するように遺伝子操作された嫌気性細菌の発酵により産生され得る。3-HBは、当分野で知られる方法により単離され得る。好ましくは、3-HBは、キラル化合物を産生するここに記載の新規クロストリジウム株の発酵により産生し得る。例えば、100重量%(R)-3-HBであり得る3-HBを、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを発現できる異種遺伝子を含む、クロストリジウム種、好ましくはクロストリジウム・ブチリクム(Clostridium butyricum)の発酵により産生できる。力価の増加は、酪酸キナーゼおよびホスホトランスブチリラーゼの発現ができる異種遺伝子の同時導入により達成され得る。(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを発現できる異種遺伝子の導入は、(R)形態の3-ヒドロキシブチリル-CoAの産生をもたらす。その後、天然レダクターゼ酵素が(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを(R)-3-HBに変換する。あるいは、少なくとも約90重量%(R)-3-HBで残りが(S)-3-HBであり得る3-HBを、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを発現できる異種遺伝子を含むクロストリジウム種、好ましくは、クロストリジウム・ブチリクムの発酵により産生できる。3-HB力価の増加を、プロピオニル-CoAトランスフェラーゼ(PCT)の発現ができる異種遺伝子の導入により達成できる。異種(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼおよびプロピオニル-CoAトランスフェラーゼ遺伝子の導入は、約10:1比での(R)-3-HBおよび(S)-3-HBの産生をもたらす。
【0064】
3-HBは薬学的に許容される塩または溶媒和物の形態であり得る。ここで使用する“3-HB”は、3-HBまたはその塩をいう。ここでいう“薬学的に許容される塩”は、医薬適用における使用に適するあらゆる塩調製物をいう。薬学的に許容される塩は、アミン塩、例えばN,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、アンモニア、ジエタノールアミンおよび他のヒドロキシアルキルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、1-パラ-クロロ-ベンジル-2-ピロリジン-1’-イルメチルベンゾイミダゾール、ジエチルアミンおよび他のアルキルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンなど;アルカリ金属塩、例えばリチウム、カリウム、ナトリウムなど;アルカリ土類金属塩、例えばバリウム、カルシウム、マグネシウムなど;遷移金属塩、例えば亜鉛、アルミニウムなど;他の金属塩、例えばリン酸水素ナトリウム、リン酸二ナトリウムなど;鉱酸、例えば塩酸塩、硫酸塩など;および有機酸の塩、例えば酢酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、フマル酸塩などを含む。
【0065】
3-HBをそれのみで投与することは可能であるが、3-HBは医薬組成物中に含ませるのが好ましい。従って、本発明は、対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための3-HBまたはその塩を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、医薬組成物は、3-HBを胃腸管の管腔または粘膜表面で遊離させることにより、3-HBを胃腸管に送達するために製剤される。
【0066】
あるいは、医薬組成物は、他の手段により3-HBを胃腸管の管腔または粘膜表面に送達できる。従って、本発明は、対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための医薬組成物であって、ここで、組成物は3-HB送達手段を含み、方法は、3-HB送達手段を胃腸管の管腔または粘膜表面に送達することを含む。
【0067】
“3-HB送達手段”は、3-HBまたはその塩を胃腸管の管腔に送達するための任意の化学的または生物学的手段を意味し得る。適当な例は、3-HBのプロドラッグまたは3-HBを胃腸管の管腔に送達する生物学的送達系を含む。このような送達手段は、下にさらに記載する。
【0068】
本発明は、少なくとも一つの薬学的に許容される担体および所望により他の治療的および/または予防的成分を含む医薬組成物を含む。
【0069】
本発明の医薬組成物は、3-HBの治療有効量が送達されるように、かつ類似用途の薬剤の許容される任意の投与形態で投与される。
【0070】
医薬組成物は、経口または直腸投与に適当なものを含む。好ましくは、投与は、苦痛の程度により調節できる便利な1日投与量レジメンを使用する経口である。
【0071】
本発明の医薬組成物は、1以上の慣用のアジュバント、担体または希釈剤と共に調製し、単位投与量などの剤形にされ得る。医薬組成物および剤形は、慣用の成分を慣用の比率で含んでよく、剤形は、用いる意図する1日投与量範囲に対して適切な有効量の活性剤(ここに記載する3-HB)を含み得る。
【0072】
医薬組成物は、特に、それが使用される態様によって、種々の形態の何れかを取り得る。それ故に、組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、クリーム剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、フォーム剤、ミセル液剤、リポソーム懸濁剤の形態または処置を必要とするヒトまたは動物に投与し得る任意の他の適当な形態であり得る。本発明の医薬組成物の担体は、投与される対象に十分に耐容性であるものでなければならない。
【0073】
ここで使用する“薬学的に許容される担体”は、医薬組成物の製剤に有用であることが当業者に知られる、任意の既知化合物または既知化合物の組み合わせである。
【0074】
活性剤は、対象における炎症性疾患、障害または状態の処置のための単剤療法(すなわち活性剤単独の使用)で使用され得る。あるいは、活性剤を、5-アミノサリチレート(5-ASAs)、例えば5-ASA、メサラミン、スルファサラジン、オルサラジンおよびバルサラジド、特にAsacol HD(登録商標)、Delzicol(登録商標)、ペンタサ(登録商標)、リアルダ(登録商標)およびApriso(登録商標);ステロイド、特にコルチコステロイド例えばヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、プレドニゾロンおよびブデソニド;免疫抑制剤を含む免疫調節剤、例えばアザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、シクロスポリン-Aおよびタクロリムス;抗TNF剤を含む生物剤、例えばインフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブおよびセルトリズマブペゴール、T細胞移送剤、例えばインテグリンブロッカーナタリズマブおよびベドリズマブ、抗生物質および非病原性微生物、例えば共生エシェリキア・コリ、ラクトバシラス種、サッカロミセスまたは寄生体豚鞭虫を含むプロバイオティクス;結腸直腸癌用化学療法剤、例えばカペシタビン(ゼローダ(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU、アドルシル(登録商標))、イリノテカン(カンプトサール(登録商標))、オキサリプラチン(エロキサチン(登録商標))およびトリフルリジン/チピラシル(TAS-102、ロンサーフ(登録商標));抗血管形成治療剤を含む結腸直腸癌用標的化治療剤、例えばベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、レゴラフェニブ(スチバーガ(登録商標))、ziv-aflibercept(ザルトラップ(登録商標))およびラムシルマブ(サイラムザ(登録商標))および上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)阻害剤、例えばセツキシマブ(アービタックス(登録商標))およびパニツムマブ(ベクティビックス(登録商標));短鎖脂肪酸、例えばブチレート、例えば酪酸を含む1以上のさらなる活性剤の補助剤としてまたはそれと組み合わせて使用し得る。3-HBを、上記の任意の1以上と、例えばアザチオプリンおよびインフリキシマブと組み合わせて使用し得る。好ましくは、3-HBをブチレートと組み合わせて使用し得る。
【0075】
ある好ましい実施態様において、薬学的に許容される担体は固体であってよく、組成物は散剤または錠剤の形態であり得る。固体の薬学的に許容される担体は、風味剤、緩衝剤、滑沢剤、安定化剤、可溶化剤、懸濁剤、湿潤剤、乳化剤、色素、充填剤、流動促進剤、圧縮助剤、不活性結合剤、甘味剤、防腐剤、色素、コーティングまたは錠剤崩壊剤としても作用し得る、1以上の物質を含み得る。担体はまたカプセル充填材でもあり得る。散剤において、担体は、本発明の微粉化活性剤と混合された微粉末固体である。錠剤において、活性剤は、必要な圧縮特性を有する担体と適当な比率で混合し、所望の形状およびサイズに圧縮し得る。散剤および錠剤は、好ましくは99%まで活性剤を含み得る。適当な固体担体は、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックスおよびイオン交換樹脂を含む。他の実施態様において、薬学的に許容される担体はゲルであってよく、組成物はクリームなどの形態であり得る。
【0076】
担体は、1以上の添加物または希釈剤を含み得る。このような添加物の例は、ゼラチン、アラビアゴム、ラクトース、微結晶セルロース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、コロイド状二酸化ケイ素などである。
【0077】
しかしながら、他の好ましい実施態様において、薬学的に許容される担体は液体であり、医薬組成物は溶液の形態であり得る。液体担体は、溶液、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エリキシルおよび加圧組成物の製造において使用される。本発明の活性剤を水、有機溶媒、両者の混合物または薬学的に許容される油または脂肪などの薬学的に許容される液体担体に溶解または懸濁し得る。液体担体は、可溶化剤、乳化剤、緩衝液、防腐剤、甘味剤、風味剤、懸濁剤、濃化剤、着色剤、粘性調節剤、安定化剤または浸透圧調節剤などの他の適当な医薬品添加物を含み得る。経口投与用液体担体の適当な例は、水(部分的に上記の添加物、例えばセルロース誘導体を含む、好ましくはナトリウムカルボキシメチルセルロース溶液)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール、例えばグリコールを含む)およびそれらの誘導体および油(例えば分別ヤシ油および落花生油)を含む。
【0078】
本発明の医薬組成物は、他の溶質または懸濁剤(例えば、溶液を等張とするのに十分な食塩水またはグルコース)、胆汁酸塩、アカシア、ゼラチン、ソルビタンモノオレエート、ポリソルベート80(エチレンオキシドと共重合化されたソルビトールおよびその無水物のオレイン酸エステル)などを含む無菌溶液または懸濁液の形態で経口投与され得る。本発明により使用される薬剤はまた液体または固体組成物形態でも経口投与される。経口投与に適する組成物は、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、錠剤および散剤などの固体形態および液体形態を含むカプセル剤など、シロップ剤、エリキシル剤および懸濁液剤などの液剤形態を含み、この全て当業者に知られる。
【0079】
本発明の医薬組成物はまた坐剤および浣腸製剤を含む直腸投与用にも製剤され得る。坐剤の場合、脂肪酸グリセリドまたはカカオバターの混合物などの低融点ワックスをまず融解させ、活性成分を均一に、例えば、撹拌により分散させる。次いで溶融均一混合物を便利な大きさの型に注加し、冷却し、固化させる。浣腸製剤は、ゲルもしくは軟膏を含む半固体または懸濁液、水溶液またはフォームを含む液体形態であり得て、これらは当業者に知られる。
【0080】
他の適当な医薬担体およびそれらの製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 22nd Edition, The pharmaceutical Press, London, Philadephia, 2013に記載される。
【0081】
本発明の医薬組成物を、放出調節剤形として製剤できる。“放出調節”は、剤形が、同じ経路で投与された即時放出型剤形と活性剤の放出速度および/または部位が異なる、製剤であることを意味する。この修飾は、特別な製剤設計および/または製造方法により達成される。放出調節剤形は、経口投与放出調節剤形を含む。持続放出(または徐放)剤形は、長期にわたり持続放出を示す放出調節剤形である。遅延放出剤形において、活性物質の放出は、薬剤の投与または適用後一定時間遅延する(遅延はラグタイムとしても知られる)。その後の放出は、即時放出型剤形に類似し得る。多相放出剤形は、二相放出およびパルス状放出を含む。二相放出剤形において、薬物放出の第一相は、投与直後に治療剤レベルを提供する部分用量により決定され、第二徐放相は、長期の有効治療レベルの維持に必要な部分用量を提供する。パルス状薬物放出は、特定の時間間隔で瞬発的に薬物を送達することを意図する。多単位:多単位剤形は、例えばゼラチンカプセルに含まれるかまたは錠剤に圧縮された、各々放出制御添加物を含む複数の単位、例えばペレットまたはビーズを含む。一単位:一単位剤形は、1単位、例えば浸透圧錠剤のみからなる。
【0082】
放出調節用添加物および製剤は当分野で周知であり、特定のテクノロジーは商業的に入手可能である。
【0083】
適切には、本発明の医薬組成物は、好ましくは、経口投与により3-HBを胃腸管に送達するために製剤される。ヒト胃腸管は、口から肛門まで伸び、食道、胃および腸を含む、消化構造からなる。胃腸管は、肝臓、胆管または膵臓などの付属の腺性臓器を含まない。腸管は小腸および大腸を含む。小腸は、十二指腸、空腸および回腸を含む。大腸は盲腸、結腸、直腸および肛門を含む。上部胃腸管は頬側口腔、咽頭、食道、胃および十二指腸を含む。下部胃腸管は、十二指腸より下の小腸および大腸を含む。好ましくは、本発明の医薬組成物は、3-HBを胃腸管の管腔または粘膜表面に、より好ましくは大腸の管腔または粘膜表面に、より好ましくは結腸の管腔または粘膜表面に送達する。好ましくは、本発明の医薬組成物は、3-HBを胃腸管、好ましくは結腸および/または終端小腸(回腸)の嫌気性部分に送達する。
【0084】
安定性を増加させるものおよび親水性を増加させるものを含む薬物と担体の共有結合;pH感受性ポリマーでのコーティング;持続放出系の製剤;特に結腸細菌により分解される担体の開発;生体付着系;および浸透圧制御薬物送達系を含む、種々の戦略が、経口投与薬物の結腸へのターゲティングのために提案されている。IBDの局所処置のための5-アミノサリチル酸(5-ASA)の送達を目的とした、種々のプロドラッグが開発されている。微生物分解可能ポリマー、特にアゾ架橋ポリマーが、結腸を標的とする薬物のコーティングとしての用途について研究されている。アミロース、イヌリン、ペクチンおよびグアーガムなどのある種の植物多糖は、消化器酵素に影響されないままであり、結腸標的化薬物送達系の製剤のための薬物のコーティングとして探索されている。さらに、植物多糖と、キトサンまたはその誘導体を含む甲殻類抽出物の組み合わせは、結腸送達系の開発で興味を引いている。
【0085】
放出調節製剤のための添加物の例は、水中で迅速に膨張でき、その膨張構造に大量の水を保持する、ヒドロゲルである。種々のヒドロゲルが種々の薬物放出パターンを提供でき、結腸送達を促進するためのヒドロゲルの使用が研究されている。例えば、ヒドロゲルおよびキセロゲルは、高粘性アクリル酸樹脂ゲル、Eudispert hvを使用して製造されており、これは、長期にわたり直腸下部において優れた滞留性を有する。オイドラギット(登録商標)ポリマー(Evonik Industries)は、胃抵抗性、pH制御薬物放出、結腸送達、活性のおよび活性からの保護を含む、種々の形態のコーティングを提供する。
【0086】
医薬組成物は、当分野で知られる技法の何れかにより、例えば、3-HB、1以上の薬学的に許容される担体、添加物および/または希釈剤および1以上の放出調節添加物の混合により製造され得る。医薬組成物は、当分野で知られる技法を使用して、3-HBおよび1以上の薬学的に許容される担体、添加物および/または希釈剤および所望により1以上の放出調節添加物を含むコアを放出調節層またはコーティングでコーティングすることにより、製造され得る。例えば、コーティングは、既知プレス・コーターの何れかを使用する圧着により形成され得る。あるいは、医薬組成物は、造粒および凝集技法により製造できまたは噴霧乾燥技法、続いて乾燥により構築され得る。
【0087】
コーティングの厚さは、上記技法の何れを用いても厳密に制御できる。当業者は、所望のラグタイムおよび/またはラグタイム後に薬物が放出される所望の速度を得るための手段として、コーティングの厚さを選択できる。
【0088】
pH依存性系は、ヒト胃腸管のpHが胃(pHは約1~2であり得て、消化中にpH4まで上昇する)から、消化の場所である小腸(pHは約6~7であり得る)を経て徐々に上昇し、遠位回腸で上昇するとの一般的知識に従う。pH感受性ポリマーを有するコーティング錠剤、カプセル剤またはペレット剤は、遅延放出を提供し、活性薬物を胃液から守る。
【0089】
本発明の医薬組成物は、3-HBを特定のpHで胃腸管に送達するために製剤され得る。商業的に入手可能な添加物は、3-HBを胃腸管の特定の位置に送達するのに使用できる、オイドラギット(登録商標)ポリマーを含む。例えば、十二指腸でのpHは約5.5を超え得る。オイドラギット(登録商標)L 100-55(粉末)、オイドラギット(登録商標)L 30 D-55(水性分散体)および/またはAcryl-EZE(登録商標)(粉末)を、例えばオイドラギット(登録商標)L 100-55に基づき、使用準備済腸溶性コーティングとして使用し得る。空腸のpHは約6~約7であり、オイドラギット(登録商標)L 100(粉末)および/またはオイドラギット(登録商標)L 12,5(有機溶液)を使用し得る。結腸への送達は、約7.0を超えるpHで達成でき、オイドラギット(登録商標)S 100(粉末)、オイドラギット(登録商標)S 12,5(有機溶液)および/またはオイドラギット(登録商標)FS 30 D(水性分散体)を使用し得る。特にオイドラギット(登録商標)FS 30 D製剤のために設計されたPlasACRYLTM T20流動促進剤および可塑剤プレミックスも使用し得る。
【0090】
医薬組成物を、3-HBを、約5.5以上、例えば約5.6、5.7、5.8または5.9以上;好ましくは6以上、例えば約6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8または6.9以上;好ましくは7以上、例えば約7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.8、7.9または8のpHで送達するように製剤し得る。好ましくは、医薬組成物を、約5.5~7、約6~7.5または7~8のpHで3-HBを送達するように製剤し得る。ある実施態様において、医薬組成物は、3-HBまたは3-HB送達手段を適切なpHで放出し、そうして3-HBを胃腸管の管腔、好ましくは末端回腸および/または結腸に送達する。
【0091】
空腹時に摂取した医薬組成物は、上行結腸に投与約5時間後に到達する可能性があり、実際の到達は胃内容排出速度に大きく依存する。結腸内への薬物送達は、この領域を通って移動する速度に大きく影響される。健康な男性で、カプセル剤および錠剤は、平均20~30時間で結腸を通り抜ける。溶液および粒子は、通常近位結腸内で広範囲に拡散し、しばしば、大腸全体にわたり分散される。
【0092】
本発明の医薬組成物は、胃腸管への時間制御型送達のために、すなわち3-HBを投与後一定時間(ラグタイム)後に送達するように製剤され得る。
【0093】
時間制御型送達のための商業的に入手可能な添加物は、オイドラギット(登録商標)RL PO(粉末)、オイドラギット(登録商標)RL 100(顆粒)、オイドラギット(登録商標)RL 30 D(水性分散体)およびオイドラギット(登録商標)RL 12,5(有機溶液)を含む。これらの添加物は、オイドラギット(登録商標)RSを種々の比率で組み合わせることにより、カスタマイズされた放出プロファイルを提供できる不溶性、高透過性、pH非依存性膨張添加物である。オイドラギット(登録商標)RS PO(粉末)、オイドラギット(登録商標)RS 100(顆粒)、オイドラギット(登録商標)RS 30 D(水性分散体)およびオイドラギット(登録商標)RS 12,5(有機溶液)は、オイドラギット(登録商標)RLを種々の比率で組み合わせることにより、カスタマイズされた放出プロファイルを提供できる、不溶性、低透過性、pH非依存性膨張添加物である。オイドラギット(登録商標)NE 30 D(水性分散体)、オイドラギット(登録商標)NE 40 D(水性分散体)およびオイドラギット(登録商標)NM 30 D(水性分散体)は、マトリクス形成剤であり得る、不溶性、低透過性、pH非依存性膨張添加物である。
【0094】
好ましくは、医薬組成物は、3-HBを胃腸管に投与約4時間後に送達するように製剤され得る。好ましくは、医薬組成物は、3-HBを、投与約4~48時間後、好ましくは投与約5~24時間後、例えば、投与約5時間、10時間、15時間、20時間または24時間後;好ましくは投与約5~10時間、5~15時間、5~20時間または約10~24時間、15~24時間または20~24時間後に送達するように製剤され得る。好ましくは、医薬組成物は食間にまたは食後、好ましくは食後に投与されるものである。ある実施態様において、医薬組成物は、3-HBをラグタイム後放出する。あるいは、医薬組成物は、3-HB送達手段をラグタイム後放出する。
【0095】
医薬組成物からの3-HBまたは3-HB送達手段の適切なpHでのまたはラグタイム後の放出は、即時放出または放出調節のいずれかであり得る。即時放出および放出調節製剤は、当業者に知られる。
【0096】
医薬組成物からの3-HBまたは3-HB送達手段の放出は、製薬業界で知られる方法により測定され得る。薬物溶解試験は、品質管理目的(錠剤などの固体経口剤形のバッチ間一貫性を評価するため)および薬物開発(インビボ薬物放出プロファイルを予測するため)の両者の重大なインビトロ薬物放出情報を提供するために、日常的に使用されている。溶解試験は、USP Dissolution Apparatus 1 - バスケット(37℃);USP Dissolution Apparatus 2 - パドル(37℃);USP Dissolution Apparatus 3 - 往復動シリンダ(37℃);USP Dissolution Apparatus 4 - フロースルーセル(37℃)を含む、溶解装置で実施し得る。
【0097】
好ましくは、適切なpHに到達するまでおよび/またはラグタイムが経過するまで、3-HBが医薬組成物から実質的に放出されない。好ましくは、適切なpHに到達するまでおよび/またはラグタイムが経過するまで、医薬組成物から3-HB送達手段が実質的に放出されない。好ましくは、適切なpHに到達するまでおよび/またはラグタイムが経過するまで、医薬組成物から放出される3-HBまたは3-HB送達手段は10重量%未満であり、好ましくは医薬組成物から放出される3-HBまたは3-HB送達手段は9重量%、8重量%、7重量%、6重量%、5重量%、4重量%、3重量%、2重量%または1重量%未満である。
【0098】
特定の実施態様において、医薬組成物は、Multi Matrix MMX(登録商標)テクノロジー(Cosmo Pharmaceuticals Inc.)を使用して、好ましくは錠剤として製剤され得る。MMX(登録商標)テクノロジーにより製造した錠剤は、錠剤が、プログラムされた溶解が開始される場所である指示された腸管領域に到達するまで放出を遅延させるpH抵抗性アクリルコポリマーで被覆され、そうして活性剤を、上部胃腸管に存在する不利なpH条件および酵素から保護する。結腸の長さにわたる放出調節は、患者に対する適用を単純にするだけでなく、活性医薬成分の炎症により影響を受けた表面への局所適用を可能にする。例えば、医薬組成物は、Zacol NMX(登録商標)(Cosmo Pharmaceuticals Inc.)として製剤でき、錠剤はカルシウム3-HB、マルトデキストリン、イヌリン、ソルビトール、ヒプロメロース、微結晶セルロース、加工コーンスターチ、クエン酸、コロイド状シリカ水和物、タルク、シェラック、ステアリン酸マグネシウム、ステアレート、レシチン、二酸化チタン、ヒドロキシプロピル、トリエチルシトレート;芳香:バニリンを含む。
【0099】
他の実施態様において、医薬組成物は、カルシウムおよびマグネシウム(3-ヒドロキシ酪酸、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムおよび中鎖トリグリセリド)で緩衝化した3-HB、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むカプセル殻を含み、固化防止剤二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムを含む、BioCare(登録商標)カプセルとして製剤され得る。カプセルは、長さ約2.3cmである。
【0100】
医薬組成物は、審美的目的で(例えば着色剤)、安定性目的で(例えば、防湿層でコーティング)、矯味目的でまたは3-HB、プロドラッグ、送達系および/または添加物を侵襲性媒体から保護する目的で、薬学的に許容されるフィルムコーティングでオーバーコーティングし得る。好ましくは、医薬組成物は、例えば、アクリル酸および/またはメタクリル酸コポリマータイプAおよび/またはタイプBの混合物(例えば、オイドラギットS100および/またはオイドラギットL100として)に代表される、胃保護性または腸溶性コーティングでオーバーコーティングし得る。好ましくは、アクリル酸および/またはメタクリル酸コポリマータイプAおよび/またはタイプBの混合物は、1:5~5:1の範囲である。胃保護性コーティングは、所望により可塑剤、色素、少なくとも一つの水-溶媒、少なくとも一つの有機溶媒またはこれらの混合物も含む。
【0101】
“プロドラッグ”は、活性薬物を放出するために体内で変換が必要である、薬物分子の誘導体を意味する。結腸薬物送達戦略は、結腸でのみ見られる酵素により代謝される、プロドラッグの使用を含む。
【0102】
生物学的送達系
ある実施態様において、3-HBを胃腸管に送達する医薬組成物は、3-HBを産生できる生物学的送達系を含む。
【0103】
“生物学的送達系”は、経口投与でき、3-HBを産生できる微生物剤などの生物剤、好ましくは細菌剤を意味する。好ましくは、生物学的送達系は、3-HBを産生できる遺伝子操作された嫌気性細菌であり得る。該細菌は、唯一の発酵産物としてまたはアセテートおよび/またはブチレートなどの短鎖脂肪酸類(SCFAs)と組み合わせて、3-HBを産生し得る。
【0104】
本発明の組成物は、3-HBを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌および経口摂取可能担体を含み得る。組成物は、3-HBを対象に送達する。経口摂取されたら、該細菌は対象内で実質的に増殖し、3-HBを産生し、消化管の嫌気性部分にそれを分泌する。該細菌は、3-HBを、腸を通過するに連れてまたは上皮/粘膜細胞壁裏層に付着し始めたときに分泌する。
【0105】
該細菌は嫌気性細菌であり得る。嫌気性細菌は、酸素が限られた(低酸素)環境または完全に酸素が枯渇した(無酸素)環境で生存できる細菌である。これらは、酸素の存在により害され、嫌気性(無酸素)環境でしか増殖できない細菌である偏性嫌気性菌;好気性環境(有酸素)で生存できるが、呼吸器経路において最終電子受容体として分子酸素を使用できない耐気性細菌;ならびに好気性および嫌気性両者の環境で生存でき、好ましい電子受容体の利用可能性により、呼吸器経路において最終電子受容体として分子酸素または他の分子を使用できる通性嫌気性細菌を含む。好ましくは、細菌は偏性嫌気性菌である。
【0106】
ある実施態様において、細菌はクロストリジウム綱(Clostridia)である。(R)-3-HBデヒドロゲナーゼ((R)-3-HBD)を発現できる非天然遺伝子の導入は、(R)-3-HBを産生できるクロストリジウム株をもたらす。操作されたクロストリジウム綱は、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを産生する。天然PTBおよびBUK酵素は、もし存在するなら、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを(R)-3-HBに変換できる。(R)-3-HBは腸に分泌される。
【0107】
主発酵産物としてブチレートを天然に産生するクロストリジウム綱が、ここで、ブチレートの代わりにまたはそれと組み合わせて、(R)-3-HBを産生するように適合されている。クロストリジウム綱は、アセテート、プロピオネート、ビタミン類およびバクテリオシン類などの他の有用な発酵産物も産生し得る。
【0108】
天然腸内細菌叢の一部である細菌、すなわち腸で天然に見られる細菌が好ましい。ブチレートを天然で産生する細菌も好ましい。
【0109】
クロストリジウム綱は、本組成物に包含させるのに好ましい細菌綱である。クロストリジウム綱は、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、クリステンセネラ科(Christensenellaceae)、ユーバクテリウム科(Eubacteriaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcacea)を含むが、これらに限定されない。好ましくは、存在する細菌は、クロストリジウム綱の分類群I、IVおよび/またはXIVa由来である。好ましくは、該細菌は、下部消化管でしばしば検出されるクロストリジウム綱である。例えば、下部消化管で検出される種は、
クロストリジウム属(分類群1)由来の細菌であり、組成物に包含させるための好ましい種は、クロストリジウム・アセトブチリカム(C. acetobutylicum)、クロストリジウム・アルブスチ(C. arbusti)、クロストリジウム・オーランチブチリカム(C. aurantibutyricum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(C. beijerinckii)、クロストリジウム・セルロボランス(C. cellulovorans)、クロストリジウム・セルロリティカム(C. cellulolyticum)、クロストリジウム・サーモセラム(C. thermocellum)、クロストリジウム・サーモブチリカム(C. thermobutyricum)、クロストリジウム・パストゥリアヌム(C. pasteurianum)、クロストリジウム・クルイベリ(C. kluyveri)、クロストリジウム・ノービイ(C. novyi)、クロストリジウム・サッカロブチリカム(C. saccharobutylicum)、クロストリジウム・サーモスクシノゲネス(C. thermosuccinogenes)、クロストリジウム・サーモパルマリウム(C. thermopalmarium)、クロストリジウム・サッカロリティカム(C. saccharolyticum)、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(C. saccharoperbutylacetonicum)、クロストリジウム・チロブチリカム(C. tyrobutyricum)、クロストリジウム・テタノモーファム(C. tetanomorphum)、クロストリジウム・マグナム(C. magnum)、クロストリジウム・リュングダリイ(C. ljungdahlii)、クロストリジウム・オートエタノゲナム(C. autoethanogenum)、クロストリジウム・ブチリクム(C. butyricum)、クロストリジウム・プニセウム(C. puniceum)、クロストリジウム・ディオリス(C. diolis)、クロストリジウム・5ホモプロピオニカム(C. 5 homopropionicum)および/またはクロストリジウム・ロゼウム(C. roseum)を含むが、これらに限定されない;
クリステンセネラ属、ユーバクテリウム属およびラクノスピラ属(分類群XIVa)由来の細菌であり、組成物に包含させるための好ましい種は、ロゼブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)、ロゼブリア・ブロミ(Roseburia bromii)、ユウバクテリウム・レクターレ(Eubacterium rectale)、ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)、アナエロスティペス種(Anaerostipes spp.)、ブチリビブリオ種(Butyrivibrio spp.)および/またはコプロコッカス種(Coprococcus spp.)を含むがこれらに限定されない;および
ルミノコッカス属(分類群IV)由来の細菌であり、組成物に包含させるための好ましい種は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)を含むが、これに限定されない。
【0110】
好ましくは、組成物における種はクロストリジウム・ブチリクムである。
【0111】
好ましくは、クロストリジウム綱はブチレート産生株である。周知のクロストリジウムのブチレート産生株は、アナエロスティペス種、ブチリビブリオ種、コプロコッカス種、ロゼブリア種、ユウバクテリウム・レクターレ関連およびユウバクテリウム・ハリイ関連種を含む。
【0112】
好ましくは、組成物におけるクロストリジウム種は胞子形成ができ、好ましくはクロストリジウム・ブチリクムである。好ましい実施態様において、株はDSM10702およびATCC19398である。
【0113】
操作された細菌は、(R)-3-HBDを発現できる非天然遺伝子を含み得る。(R)-3-HBD(EC1.1.1.36)を発現できる遺伝子は、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、(カプリアビダス・ネカトール)、バチルス種(Bacillus sp)、クレブシエラ種(Klebsellia sp)、シュードモナス種(Pseudomonas sp)、例えばphbBおよびphaBを含む生物からの遺伝子から選択されるが、これらに限定されない。
【0114】
適当な遺伝子は、UniProt Accession Nos. P14697(PHBB_CUPNH)、P50203(PHAB_ACISR)、A0A060V147(A0A060V147_KLESP)、C1D6J5(C1D6J5_LARHH)、F8GXX8(F8GXX8_CUPNN)、F8GP10(F8GP10_CUPNN)、G0ETI7(G0ETI7_CUPNN)、A9LLG6(A9LLG6_9BACI)、A0A0E0VPS5(A0A0E0VPS5_STAA5)、D5DZ99(D5DZ99_BACMQ)およびV6A8L4(V6A8L4_PSEAI)を含む。
【0115】
ある実施態様において、(R)-3-HBD遺伝子はphaBである。phaB遺伝子の配列は、使用する特定のクロストリジウム種に対してコドン最適化され得る。phaBの配列は、図2に示す配列(配列番号1)を含み得る。
【0116】
非天然(R)-3-HBDをコードする核酸は、図2のphaB配列(配列番号1)と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または99%配列同一性を有する配列を含み得る。
【0117】
2配列間の同一性の決定利用可能な多数の方法がある。配列間の同一性の決定のための好ましいコンピュータープログラムは、BLAST(Atschul et al, Journal of Molecular Biology, 215, 403-410, 1990)を含むが、これに限定されない。好ましくは、コンピュータープログラムのデフォルトパラメータを使用する。
【0118】
クロストリジウム綱において、天然酵素は3-ヒドロキシブチレートレダクターゼ反応を触媒する。それ故に、ある実施態様において、クロストリジウム種は、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを(R)-3-HBに変換できる酵素をコードする遺伝子を含む。
【0119】
PTBおよびBUKなどの天然酵素は、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを、(R)-3-ヒドロキシブチレート-ホスフェートを経て(R)-3-HBに変換する。それ故に、遺伝子操作された細菌は、PTBおよびBUKをコードする天然遺伝子ならびに(R)-3-HBDをコードする非天然遺伝子を有し得る。
【0120】
クロストリジウム種はまたPTB、BUK、PCTおよび/またはBUTをコードするもののようなさらなる非天然遺伝子も含み得る。
【0121】
クロストリジウム種は、ptbおよびbukなどの、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを(R)-3-HBに変換できる還元酵素をコードする1以上の非天然遺伝子を含み得る。これらの遺伝子は、バチルス種、大腸菌またはクロストリジウム綱の他の種を含むが、これらに限定されない生物に由来し得る。
【0122】
さらに、クロストリジウム種は、PCTまたはBUTなどの、SCFAを産生するための酵素をコードする、1以上の天然または非天然遺伝子を含み得る。例えば、クロストリジウム・プロピオニクム(Clostridium propionicum)からのPCTを、(R/S)-3-ヒドロキシブチレート-CoAとアセテートの間のCoA伝達反応を触媒するように、株に操作して入れ得る。
【0123】
用語“非天然遺伝子”は、その天然環境にない遺伝子であり、同じ属の他の種に入れられた、微生物のある種からの遺伝子を含む。
【0124】
非天然遺伝子は、クロストリジウム綱に対してコドン最適化されおよび/または該遺伝子のクロストリジウム綱における制御可能な発現を可能とするプロモーターの制御下に置かれることができる。酵素の発現レベルを、誘導性プロモーターおよび/または種々の強度のプロモーターを用いて、遺伝子発現を制御することにより最適化し得る。ある実施態様において、非天然遺伝子を天然クロストリジウム綱プロモーター、例えばフェレドキシンまたはチオラーゼプロモーターの制御下におく。他の適当なプロモーターは、当業者に知られる。
【0125】
非天然遺伝子を、組み換え微生物産生の分野で知られる標準プラスミド形質転換技法により、すなわちコンジュゲーションまたはエレクトロポレーションにより、クロストリジウム株に導入し得る。一例として、プラスミド形質転換はコンジュゲーションにより達成である。
【0126】
(R)-3-HBDを含む非天然遺伝子を、当業者に知られる遺伝子組込みテクノロジーを使用して、クロストリジウム綱の染色体に当業し得る。
【0127】
クロストリジウム綱は、天然に炭水化物を種々の還元発酵産物に変換する発酵代謝をする嫌気性細菌である。該細菌は、3および4炭素(C3/C4)化合物の産生について独特の代謝経路および生化学を有する。
【0128】
遺伝子操作されたクロストリジウム株の代謝経路を図1Bに記載する。遺伝子操作されたクロストリジウム種は、アセトアセチル-CoAを(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAに変換する、異種(R)-3-HBD(図1Bにおける酵素A)を担持する。(R)特異的3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼは、基質(アセトアセチル-CoA)について天然HBD酵素と競合する。天然クロトナーゼ(Crt)酵素は、(R)形態の3-ヒドロキシブチリル-CoAに活性を有しないか、低活性しか有さず、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAがPTBおよびBUKまたはBUTなどの天然酵素により(R)-3-HBに変換されることを可能とする。酵素PTBおよびBUKはR形態特異的であり、(R)-3-ヒドロキシブチリル-ホスフェートを介して(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを(R)-3-HBに変換する。
【0129】
使用される経路は、クロストリジウム種による。クロストリジウム属(クロストリジウム・ブチリクムを含む)を含むクロストリジウム科ファミリー(分類群I)において一般に見られるある種において、最終段階は2酵素、PTBおよびBUKを必要とする。ラクノスピラ科ファミリー(分類群XIVa)およびルミノコッカス属ファミリー(分類群IV)において一般に見られる他の種において、最終段階は1酵素、BUTを必要とする。ある種のクロストリジウム綱は、両系の酵素を担持し、(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを(R)-3-HBに変換することが可能である。
【0130】
PTB、BUKおよび/またはBUTが天然プロバイオティック株に存在しないならば、これらの酵素をコードする異種遺伝子を、操作された株で発現させ得る。
【0131】
遺伝子操作された嫌気性細菌において(R)-3-HBを産生する代替経路は、例えばチオエステラーゼをコードする、さらなる非天然遺伝子、すなわち大腸菌からのTesBの導入による。これらの酵素は、それぞれ(S)-および(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAを(S)-および(R)-3-HBに変換できる。
【0132】
クロストリジウムプロバイオティックは、該細菌の増殖に適当な条件下で実施する発酵により産生され得る。発酵後、該細菌を遠心分離を使用して精製し、活性を保持するように調製し得る。組成物中の該細菌は、生存可能生物として提供される。該組成物は、細菌胞子および/または栄養細胞を含み得る。該細菌を、細菌の活性を保持するように乾燥させ得る。適当な乾燥方法は、凍結乾燥、噴霧乾燥、加熱乾燥およびこれらの組み合わせを含む。次いで得られた粉末を、記載の1以上の薬学的に許容される添加物と混合し得る。
【0133】
胞子および/または栄養細菌を、ここに記載の、経口投与用の慣用の添加物および成分と製剤し得る。特に、製薬および栄養補助食品業界で慣例の脂肪および/または水性成分、湿潤剤、濃厚剤、防腐剤、テクスチャリング剤、風味増強剤および/またはコーティング剤、抗酸化剤、防腐剤および/または色素。適当な薬学的に許容される担体は、微結晶セルロース、セロビオース、マンニトール、グルコース、スクロース、ラクトース、ポリビニルピロリドン、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムおよびデンプンまたはこれらの組み合わせを含む。次いで、該細菌を、ここに記載する、適当な経口摂取可能形態に整形し得る。プロバイオティック細菌の適当な経口摂取可能形態は、製薬業界で周知の方法により製造し得る。
【0134】
ある実施態様において、3-HBを産生する嫌気性細菌を、該細菌が所望の治療効果を提供する十分量で存在する限り、広範囲の濃度で医薬組成物に提供し得る。好ましくは、該細菌は、医薬組成物に、1×10~1×1010コロニー形成単位/乾燥組成物g(CFU/g)に相当する量で存在し、より好ましくは、該細菌は、1×10~1×1010CFU/乾燥組成物gに相当する量で存在する。組成物が錠剤の形態であるならば、該細菌は、2×10~6×10CFU/錠、好ましくは約3×10~5×10CFU/錠の量で存在し得る。好ましくは、該細菌は結腸で増殖および代謝し、腸管内腔に約1μm~10mM、好ましくは約100μm~5mM、好ましくは約1mM 3-HBを送達する。
【0135】
“3-HBの送達”は、3-HBが、炎症性疾患、障害または状態を処置するための治療効果を発揮するように、3-HBが対象における特定の部位で利用可能となることを意味する。3-HBは、3-HBが局所で治療効果を有するために利用可能となるように、対象における特定の炎症部位に送達され得る。好ましくは、本発明の医薬組成物は、3-HBを、炎症性疾患、障害または状態の部位に送達し、局所で治療効果を有する。例えば、3-HBは、炎症部位に直接直腸的に送達され得る;3-HBは、ここに記載するカプセル剤または錠剤などの経口剤形から、炎症部位で放出され得る;または3-HBは、3-HBを炎症部位で産生するプロドラッグまたは生物学的送達系などの3-HB送達系から放出され得る。
【0136】
投与すべき3-HBの治療有効量は、用いる3-HB(例えば(R)-異性体対(S)-異性体比)、処置する対象、重症度および苦痛のタイプならびに投与方式および経路による。
【0137】
送達される3-HBの量を考慮して、治療有効量は約0.1mg/キログラム(kg)体重~約500mg/kg体重、例えば約1mg~約250mg/kg体重、例えば約10mg~約180mg/kg体重、例えば約20mg~約150mg/kg体重、例えば約60mg~約125mg/kg体重であり得る。例えば、治療有効量は、約10mg~約40g、例えば約80mg~約20g、例えば約100mg~約15g、例えば約1g~約12g、例えば約5g~約10gであり得る。
【0138】
経口投与について、治療有効量は、約10mg~約20g、例えば約50mg~約20g、例えば約100mg~約20g、例えば約100mg~約10g、例えば約500mg~約10g、例えば500mg~5g、例えば500mg~2g、例えば1g~15g、例えば1g~10g、例えば1g~8g、例えば1g~2g、例えば1g~4g、例えば2g~4g、例えば2g~6g、例えば4g~8g、例えば4g~6g、例えば5g~10g、例えば6g~10g、例えば6g~8g、例えば8g~12g、例えば8g~10g、例えば10g~14g、例えば10g~12g、例えば10g~20gであり得る。好ましい実施態様において、治療有効量は、約10mg~約50g、例えば10mg~約30g、例えば約50mg~約30g、例えば約100mg~約30g、例えば約100mg~約15gまたは例えば約500mg~約15gであり得る。他の好ましい実施態様において、治療有効量は、約1g~50g、例えば5g~50g、例えば10g~40g、例えば1g~30g、例えば5g~30g、例えば3g~25g、例えば1g~20g、例えば5g~20g、例えば1g~10g、例えば20g~30g、例えば30g~40gまたは例えば5g~15gであり得る。
【0139】
治療有効量の各用量は、数単位用量であり得る。単一固体単位用量は、例えば、約50mg~約3g、例えば約100mg~約2g、例えば約250mg~約2g、例えば約500mg~約2g、例えば約250mg~約1g、例えば約500mg~約1g、例えば100mg~500mg、例えば100mg~1g、例えば100mg~2g、例えば250mg~2g、例えば250mg~1g、例えば500mg~2g、例えば500mg~1g、例えば1g~3g、例えば1g~2gを含み得る。特記し得る特定の単位用量は、約1.5g、1.6g、1.7g、1.8g、1.9gおよび2g、好ましくは約1.8g;または約300mgである。
【0140】
上に記載した用量の量を、例えば、1日1回、2回、3回または4回または週に1回または2回;好ましくは1日3回与え得る。例えば、経口投与について、30mg~約120g、例えば約240mg~約60g、例えば約300mg~約45g、例えば約3g~約36gまたは例えば約15g~約30gの総1日用量を与え得る。ある好ましい実施態様において、経口投与のための総1日用量は、例えば約1g~約50g、例えば約1g~約30g、例えば約5g~約30g、例えば約5g~約25g、例えば約5g~約15g、好ましくは約5g~約10gである。好ましくは、約1.8gを1日3回投与する。
【0141】
1用量を食事または軽食または液体の一部として投与でき、ここで、対象は、食事、軽食または液体(例えば水または果実飲料)と混ぜるまたは組み合わせるための乾燥用量を提供される。
【0142】
本発明によって、3-HBを1以上のさらなる治療剤と組み合わせて投与し得る。投与は、3-HBと1以上のさらなる治療剤を含む製剤の投与または3-HBおよび1以上のさらなる治療剤の別々の製剤の本質的に同時、逐次もしくは別々の投与を含む。ある実施態様において、3-HB送達手段はまた1以上のさらなる治療剤を胃腸管の管腔に送達し、好ましくは該さらなる治療剤はブチレートである。
【0143】
本発明はまた対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法も含む。
【0144】
処置する方法は、3-HBを、疾患、障害または状態の改善(すなわち、疾患、障害または状態またはその少なくとも一つの臨床症状の発症遅延もしくは停止または軽減);患者により認識され得ないものを含む少なくとも一つの身体的パラメータの軽減または改善;身体的(例えば、認識できる症状の安定化)、生理的(例えば、身体的パラメータの安定化)または両者での疾患、障害または状態の調節;または疾患もしくは障害またはその臨床症状の発症または発生の予防または遅延の目的で投与することを含む。
【0145】
対象は、該対象がこのような処置から生物学的に、医学的にまたはクオリティ・オブ・ライフで利益を受けるならば、処置の必要がある。処置は、一般に3-HBの治療有効量を投与する、医師により実施される。適切には対象はヒトである。
【0146】
3-HBの治療有効量は、上記処置、例えば疾患、障害もしくは状態またはその症状の遅延、停止、軽減または予防に有効である、量である。一般に、処置を必要とする対象は、疾患、障害または状態の症状を呈する対象である。あるいは、対象は、疾患、障害もしくは状態に感受性であるかまたは疾患、障害もしくは状態について検査で陽性であるが、また症状を示していない可能性がある。
【0147】
好ましくは、3-HBの治療有効量投与は、約1μM~約10mM、好ましくは約100μM~約5mM、好ましくは約1mMの濃度の3-HBを、胃腸管の管腔、好ましくは結腸に提供する。
【0148】
炎症性疾患、障害または状態は、特に炎症性疾患、障害または状態、特にクローン病および潰瘍性大腸炎などのIBDおよび結腸直腸癌を含む胃腸管における炎症性疾患、障害または状態に関与するものについて、高い炎症誘発性サイトカインまたはタンパク質および/または不十分な抗炎症性サイトカインまたはタンパク質レベルにより特徴付けられ得る。好ましくは、炎症性疾患、障害または状態は、TNF-α、IL-23、IL-6、IL-1β、IL-12、MMP9およびNF-κBの1以上、好ましくは2、3、4、5、6またはそれ以上または全て;好ましくはIL-23の高いレベルにより特徴付けられる。好ましくは、炎症性疾患、障害または状態は、適切な免疫応答の達成および維持に不十分なIL-10および/またはTGF-β1のレベルにより特徴付けられる。好ましくは、炎症性疾患、障害または状態は、高いTNF-α、IL-23、IL-6、IL-1β、IL-12およびMMP9の2、3、4、5またはそれ以上または全ての高いレベルおよび適切な免疫応答の達成および維持にIL-10および/またはTGF-β1の不十分なレベルにより;好ましくはTNF-α、IL-23、IL-6、IL-1β、IL-12およびMMP9の高いレベルおよびIL-10およびTGF-β1の不十分なレベルにより特徴付けられ、所望によりさらにNF-κBの高いレベルにより特徴付けられる。
【0149】
炎症性疾患、障害または状態は、IL-8、IL-18、IL-18結合タンパク質、IL-16、カスパーゼ-1、IL-1α、IL-17AおよびRANTES(CCL5)、IL-22およびIL-27の1以上の高いレベルおよび/または不十分なレベルにより特徴付けられ得る。
【0150】
炎症性疾患、障害または状態は、クローン病、潰瘍性大腸炎、嚢炎、膠原性大腸炎およびリンパ球性大腸炎などのIBD、結腸直腸癌、リウマチ性関節炎、多発性硬化症、乾癬、乾癬性関節炎、痛風、強直性脊椎炎またはCOPDであり得る。
【0151】
好ましくは、炎症性疾患、障害または状態は、胃腸管、好ましくは大腸、より好ましくは結腸の炎症性疾患、障害または状態である。好ましくは、炎症性疾患、障害または状態は、IBD、好ましくはクローン病もしくは潰瘍性大腸炎または結腸直腸癌である。
【0152】
本発明はまた、ここに記載する(R)-3-HBの産生が可能な遺伝子操作された嫌気性細菌などの生物学的送達系を含む組成物および消化器疾患および障害の処置におけるならびに動物健康のためのプロバイオティクスとしてのその使用に関する。
【0153】
該細菌は、このような経口組成物のための慣用の添加物および成分、すなわち特に医薬および栄養補助食品業界で慣用の脂肪および/または水性成分、湿潤剤、濃厚剤、防腐剤、テクスチャリング剤、風味増強剤および/またはコーティング剤、抗酸化剤、防腐剤および/または色素と製剤され得る。適当な薬学的に許容される担体は、微結晶セルロース、マンニトール、グルコース、ポリビニルピロリドンおよびデンプンまたはこれらの組み合わせを含む。次いで、該細菌を、適当な経口摂取可能形態に整形し得る。プロバイオティック細菌の適当な経口摂取可能形態は、製薬業界で周知の方法により製造し得る。
【0154】
経口投与される組成物は、例えばコーティング錠、ゲルカプセル、ゲル、エマルジョン、錠剤、カプセル、ヒドロゲル、フードバー、圧縮したまたは緩い粉末、液体懸濁液または溶液、菓子類製品または食物製品の形に製造され得る。好ましくは、該組成物は乾燥形態である。組成物のための好ましい経口形態は、カプセル、錠または粉末などの固体形態である。
【0155】
該組成物を、経口製剤、特にコーティング錠、ゲルカプセル、ゲル、エマルジョン、錠剤、カプセル、ヒドロゲルおよび粉末の製造のための、慣用の方法により製剤し得る。
【0156】
経口摂取可能担体はまた、飲料、飲み物、栄養補助食品または機能性食品などの食品でもあり得る。
【0157】
(R)-3-HBを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌はまた食品の一部として、すなわちヨーグルト、牛乳または豆乳にまたは栄養補助食品としても取り込まれ得る。このような食品および栄養補助食品は、食品業界および補助食品業界で周知の方法により製造され得る。
本組成物は、動物給餌製品に餌添加物として取り込まれ得る。
【0158】
本組成物はまた細菌叢異常の予防または処置にも使用され得る。消化器細菌叢異常は、広域抗生物質の使用により引き起こされ得る。本組成物は、抗生物質投与による細菌叢異常の処置および予防に使用し得る。
【0159】
細菌叢異常の間、対象は、クロストリジウム・ディフィシルを含む日和見性病原微生物に感受性である。本組成物は、細菌感染の処置または予防に使用され得る。本発明のある実施態様において、本組成物をクロストリジウム・ディフィシル感染の処置または予防に使用し得る。
【0160】
(R)-3-HBを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を含む組成物は、対象における腸内細菌叢の調節にも使用し得る。(R)-3-HBを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を含むまたはこれから本質的になる組成物を、健康対象に、すなわち、非治療的用途で投与する。組成物は、対象に経口投与し得る。
【0161】
遺伝子操作された細菌の腸における増殖およびコロニー形成の程度は、種および株選択および/または該細菌が繁殖する特定の食物をプレバイオティックとして、プロバイオティックを含むのと同じ用量内にまたは別々に摂取される組成物として提供することにより、制御し得る。
【0162】
本組成物はまたさらに投与したプロバイオティックの増殖を増強するためのプレバイオティックも含み得る。プレバイオティックは、(R)-3-HBを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を含む組成物と逐次的に、同時にまたは別々に投与され得る。プレバイオティックおよび遺伝子操作された細菌を、同時投与のための同一組成物に一緒に製剤し得る。あるいは、該細菌およびプレバイオティックを、同時または逐次投与のために別々に製剤し得る。
【0163】
プレバイオティクスは、腸管でのプロバイオティクスの増殖を促進する物質である。それらは、該細菌により腸管で発酵される食品物質である。プレバイオティックの添加は、腸管におけるプロバイオティック株の増殖を促進できる媒体を提供する。細菌の増殖を促進する1以上の単糖、オリゴ糖、多糖または他のプレバイオティクスを使用し得る。
【0164】
好ましくは、プレバイオティックは、所望によりフルクトース、ガラクトース、マンノースを含むオリゴ糖;食物繊維、特に可溶性繊維、ダイズ繊維;イヌリン;またはこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。好ましいプレバイオティクスは、フルクト-オリゴサッカライド(FOS)、ガラクト-オリゴサッカライド(GOS)、イソマルト-オリゴサッカライド、キシロ-オリゴサッカライド、ダイズのオリゴ糖、グリコシルスクロース(GS)、ラクトスクロース(LS)、ラクツロース(LA)、パラチノース-オリゴサッカライド(PAO)、マルト-オリゴサッカライド、ペクチン、これらの加水分解産物またはこれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0165】
細菌から分泌される(R)-3-HBは、腸の管腔内および/または粘膜層内で局所的に作用し、例えば微生物増殖のエンハンサーおよび/またはサプレッサーとして作用することにより、腸内細菌叢を調節し得る。
【0166】
ここに(添付する特許請求の範囲、要約および図面のいずれも含む)記載する全ての特性および/または開示された何らかの方法の工程の全てを、このような特性および/または工程の少なくとも一部が相互排他的である場合の組み合わせを除き、任意の組み合わせで、上記態様の何れかと組み合わせることができる。特に、ここに記載する活性剤および組成物の何れかを、記載する処置方法のいずれにも使用できる。任意かつ全てのこのような組み合わせは、本発明の一部を形成することは明らかに企図される。
【実施例
【0167】
本発明を、次に下記実施例を参照して、さらに詳しく説明する。
【0168】
実施例1 - phaBを発現するクロストリジウム・ブチリクムにおける(R)-3-HBの産生
1) 遺伝子合成
遺伝子カプリアビダス・ネカトールphaBを、クロストリジウム綱に対してコドン最適化した。図2は、Gene Art(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)により合成されたコドン最適化配列の一例を示す。
【0169】
2) プラスミド構築
phaBを、標準クローニング技法を使用してクロストリジウム・スポロゲネスPfdxプロモーター制御下にプラスミドpMTL83251にクローニングし、プラスミドpMTL83251_pfdx_phaBを得た(図3)。
【0170】
3) 株作成
プラスミドpMTL83251_pfdx_phaBを、コンジュゲーションドナーとして大腸菌CA434を使用して、クロストリジウム・ブチリクムATCC19398/DSM10702にコンジュゲートした。株特異的コンジュゲーションプロトコールを適用した。簡潔には、プラスミドpMTL83251_pfdx_phaBを担持する大腸菌およびクロストリジウム・ブチリクムCA434の一夜培養物を、それぞれ、9ml LBおよびRCブロスに接種した。OD600が0.5~0.7に到達するまで、培養物を増殖させた。1mlの大腸菌培養物を遠沈させ、ペレットを200μl熱ショック(50℃、10分)クロストリジウム・ブチリクム培養物と混合した。細胞混合物を非選択的RCMプレートにスポットし、一夜インキュベートした。インキュベート混合物を500μl 新鮮RCMに再懸濁させ、10μg/ml エリスロマイシンを含む選択培地に播種した。得られた接合完了体内のプラスミドの存在を、プラスミド特異的プライマーを使用するPCRにより確認した。
【0171】
4) クロストリジウム・ブチリクムについての発酵データ
増殖法
1L当たり酵母抽出物13g、ペプトン10g、可溶性デンプン1g、塩化ナトリウム5.0g、酢酸ナトリウム3g、システイン塩酸塩0.5g、炭水化物2%を含むRCブロスを使用した。炭酸カルシウム10g/Lを、液体培養物にpH制御のために添加した。固体培地は15g/L寒天を含んだ。
形質転換体を、種培養(RCブロス)で一夜、37℃で増殖させた。2%グルコースを含む100ml RCブロスを、0.05~0.1の出発ODまで接種した。株を、必要な抗生物質の存在下、37℃で嫌気性に増殖させた。代謝解析用サンプルを一定間隔で取った。
【0172】
解析および結果
操作されたクロストリジウム・ブチリクム(CHN-1)の培養上清を、3-HBアッセイキット(Sigma Aldrich)を使用して(R)-3-HBおよび(S)-3-HBについて解析した。phaBを発現する株は、(R)-3-HBのみを産生した。CHN-1および天然クロストリジウム・ブチリクムの培養上清を、HPLC-RIを使用して、SCFAsおよび(R)-3-HBの産生についても解析した。クロストリジウム・ブチリクムのphaB発現株(CHN-1)は、図4Bに示すとおり、24時間増殖後約187mg/L産生された。野生型クロストリジウム・ブチリクム株は、図4Aに示すとおり、ブチレートおよびアセテートのみを産生した。
【0173】
実施例2 - 結腸送達用製剤
Zacol NMX(登録商標)は、MMX(登録商標)テクノロジーに基づき、結腸向けの栄養補助食品(機能性食品)である。これは、酪酸のカルシウム塩とイヌリンを組み合わせるMMX(登録商標)テクノロジーの提供に基づく、製品である。NMX(登録商標)は、MMX(登録商標)テクノロジーの機能性食品版である。錠剤は、カルシウム3-HB(0.307g)、マルトデキストリン、イヌリン(0.250g)、ソルビトール、ヒプロメロース、微結晶セルロース、加工コーンスターチ、クエン酸、コロイド状シリカ水和物、タルク、シェラック、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、レシチン、二酸化チタン、ヒドロキシプロピル、トリエチルシトレート;芳香:バニリンを含む。
BioCare形式。カプセルは、1815mg 3-HB、243mg水酸化カルシウム、123mg水酸化マグネシウム、中鎖トリグリセリド、カプセル殻(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、固化防止剤(二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウム)を含む。1カプセルを1日3回食後に、または専門家の指示に従って、摂取する。
【0174】
実施例3 -細菌送達
クロストリジウム・ブチリクムの胞子形成
発酵と同じ培養培地および接種技法を使用した。サンプルを、実験開始時および72時間にわたり一定間隔で採取し、栄養細胞対胞子の比を決定した。胞子の計数のために、サンプルを65℃で30分熱処理して、あらゆる栄養細胞を死滅させた。同時に、総CFUカウント(栄養細胞+胞子)の計数のために取ったサンプルを、培地におけるさらなる増殖を阻止するためにベンチに置いた。次いで、熱処理および非熱処理サンプルを連続的に希釈し、野生型について非選択培地および操作された株について選択培地に、トリプリケートで20μLの個別スポットに植種した。37℃で嫌気性に一夜インキュベーション後、CFU/mLを決定した。図5A~Bは、72時間にわたる胞子の発生を示す。図6は、72時間にわたる培養における総CFU中の胞子のパーセンテージを示す。
錠剤製剤は、コーンスターチ、ラクトース、水和ケイ酸マグネシウム、微結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウムおよびスクロースを含む。
【0175】
実施例4 - 模擬結腸環境におけるCHN-1の評価
操作されたクロストリジウム・ブチリクム(CHN-1)の胞子を、pH制御実験室規模バイオリアクターで産生した。株を、バイオリアクターに接種前、窒素および二酸化炭素フラッシュ嫌気性ワークステーションで37℃で取り扱った。
CHN-1を、胞子ストックから強化クロストリジウム寒天(Sigma-Aldrich, UK)プレートで増殖させた。単一コロニーを、改変強化クロストリジウム(RC)ブロス(1リットル当たり酵母13g、ペプトン10g、デンプン1g、NaCl 5g、CHCOONa 3g、システイン塩酸塩0.5g、CaCO 10g、グルコース20g)の摂取に使用し、次いでそれを改変RCブロスで10~10-8に連続的に希釈した。8~12時間後、1:10希釈を、1日培養に最高希釈一夜培養増殖(通常10-6)から新鮮改変RC中で調製した。1日培養を、一般に血清ボトルに移す前、1 1/2~2時間増殖させた。血清ボトルにゴム栓で蓋をして、嫌気生育を維持した。血清ボトルからの細菌培養を使用して、バイオリアクターに1:10で摂取した。改変RCを含むバイオリアクターを、必要に応じて、125rpm撹拌および6L/時間Nフラッシングしながら、3M 無菌KOHで6.5にpH制御した。バイオリアクターを、ずっと37℃に維持した。細胞塊を24時間後に採取し、4℃で保存し、その後精製した。栄養細胞を、65℃での熱処理により破壊した。精製は、無菌脱イオン水と、5000×gで20分の遠心分離を使用する反復洗浄工程を伴った。胞子を、改良型ノイバウエル血球計数機を使用して計数し、生存胞子数をRC寒天上のコロニー形成単位により評価した。
【0176】
結腸環境でCHN-1胞子が発芽し、増殖する能力を、Molly et al., (1993) Appl Microbiol Biotechnolに記載の、近位大腸模擬条件を使用して評価した。結腸(例えばムチンまたはデンプンなどの宿主または食餌由来グリカン)に存在する栄養素を含む、還元糖予枯渇基礎結腸培地を、ダブルジャケットガラスバイオリアクターに加えた。CHN-1胞子および/または糞便接種材料(faecal inoculum)を、嫌気性ワークステーション内でバイオリアクターに加えた。糞便接種材料を、1名の健常ドナーの糞便ドナー材料を、新鮮糞便サンプルと予還元リン酸緩衝液を1:5で混合し、500×gの遠心分離により粒子を除去することにより調製した。次いで接種材料を、バイオリアクターに1:10希釈で加えた。バイオリアクターをゴム栓で密閉して、嫌気生育を維持した。
実験は、トリプリケートで4つの異なる条件を含んだ:i)濾過滅菌糞便懸濁液およびCHN-1を接種;ii)濾過滅菌糞便懸濁液、CHN-1およびグルコース(1g/L)を接種;iii)糞便懸濁液およびCHN-1を接種;およびiv)糞便懸濁液を接種。バイオリアクターを37℃に維持し、90rpmの連続混合を適用した。サンプルを、接種後t=0時間、2時間、4時間、6時間、24時間、30時間および48時間に解析のために取った。
胞子の発芽、増殖およびCHN-1の代謝活性を、1)選択培地上のコロニー形成単位;2)pH低下;3)SCFA産生;および4)(R)-3-HBの産生により評価した。5)CHN-1の検出は、クロストリジウム・ブチリクム16s-23s遺伝子間スペーサー領域の検出およびphaBの検出のための2つの特異的PCRプロトコールを使用して実施した。
【0177】
1) コロニー形成単位を、Popoff (1984) J Clin Microbiolに記載の改変クロストリジウム・ブチリクム単離培地(BIM)で、D-シクロセリンを唯一の抗生物質として250μg/mLの濃度で使用して評価した。この培地は、CHN-1の選択的数え上げを可能とし、この株の補充をしなければ、コロニーが背景観察されない(検出閾値200CFU/mL)。総生細胞数(図7)を、サンプルを連続的に希釈し、改変BIMに播種することにより評価した。コロニー形成単位を、嫌気性条件で一夜インキュベーション後に数え上げた。熱抵抗細胞数(図8)を、サンプルを30分、65℃で低温殺菌し、連続希釈し、改変BIMに播種することにより評価した。コロニー形成単位を、嫌気性条件で一夜インキュベーション後に計数した。
図7に示すとおり、濾過滅菌糞便懸濁液およびCHN-1をグルコースを伴いまたは伴わずに接種したそれぞれのリアクターで計数した生細胞数に有意差はなかった。CHN-1および糞便懸濁液を接種したバイオリアクターにおいて、実験の最初の6時間について生細胞数の恒常的な増加があり、CHN-1の発芽および増殖を示した。24時間後、糞便懸濁液を接種したものと比較して、濾過滅菌糞便懸濁液を接種したバイオリアクターでCHN-1の生細胞数が統計的に有意な高値であり(p<0.05)、これらのバイオリアクターで糞便細菌叢とCHN-1の競合があったことを示した。CHN-1を接種しなかったバイオリアクターは、CFUが検出閾値を超えて回復しなかった。
図8に示すとおり、濾過滅菌糞便懸濁液およびCHN-1をグルコースを伴いまたは伴わずに接種したそれぞれのバイオリアクターで計数した熱抵抗計数値に有意差はなかった。インキュベーション4~24時間で全バイオリアクターで熱抵抗計数値に恒常的な低下があり、栄養細胞増殖に至る胞子からの発芽および伸長を示した。
【0178】
2) 模擬結腸内の代謝活性により引き起こされるpHの低下(図9)を、Senseline F410 pH meter(ProSense, Oosterhout, NL)を使用してt=0時間、6時間、24時間および48時間に測定した。
図9に示すとおり、実験開始時には4つの実験設定のpHに有意差はなかった。濾過滅菌糞便接種材料およびCHN-1を接種したバイオリアクターおよび糞便懸濁液およびCHN-1を播種したバイオリアクターのpHにも実験中あらゆる時点で、有意差はなかった。しかしながら、濾過滅菌糞便懸濁液およびCHN-1を接種したバイオリアクターのpHは、6時間以降の時点でグルコースを添加したものと比較して、統計的に有意な差があった(p<0.02)。糞便懸濁液を接種したバイオリアクターも、CHN-1を添加したものと添加していないものを比較して、6時間および24時間の時点に統計的に有意な差があった(それぞれp=0.003および0.0133)。これは、CHN-1が、滴下の最初の6時間内では、濾過滅菌糞便懸濁液および糞便懸濁液で、それぞれの背景で代謝的に活性であることを示す。
【0179】
3) SCFAアセテート(図10)およびブチラート(図11)の産生を、De Weirdt et al. (2010) FEMS Microbiol Ecolに記載とおり、ガスクロマトグラフィーにより測定した。
図10に示すとおり、糞便接種材料およびCHN-1を添加したバイオリアクターを、糞便接種材料のみと比較したとき、インキュベーション6時間後から実験終了時まで、アセテート濃度の統計的に有意な増加があった(p<0.04)。糞便接種材料およびCHN-1を含むバイオリアクターにおいて、濾過滅菌糞便懸濁液およびCHN-1を含むものと比較したとき、アセテートの有意に高い量が、24時間以降の時点で存在した(p<0.003)。
図11に示すとおり、糞便接種材料およびCHN-1を添加したバイオリアクターにおいて、糞便懸濁液のみを添加したものと比較して、ブチレート濃度の統計的に有意な増加が、実験をとおしてあった(p=0.0001)。CHN-1を糞便懸濁液を伴いまたは伴わずに含むバイオリアクターの間に有意差はなかった。グルコースがブチレート産生の前駆体として補われたリアクターで、最高量のブチレートが見られた(p<0.04)。
【0180】
4) 模擬結腸における(R)-3-HBの産生を、35℃および55分のランタイムに設定した、Dionex UltiMate 3000 System(Thermo Scientific, USA)上の300mm×7.8mmで9μm粒子径のAminex HPX-87Hカラム(Biorad, USA)を使用するHPLC-RIにより測定した。移動相として、5mM HSOを流速0.5mL/分で使用した。培養サンプルを、細孔径0.22μmのレギュラーセルロースの13mm直径のKXシリンジフィルター(Kinesis Ltd, UK)を使用して、解析前に濾過滅菌した。既知量の(R)-3-HBをサンプルに添加し、その後サンプルを、内部標準として50mM バレラートを含む移動相と1:1で混合した。漸増濃度のグルコース、(R)-3-HB、ブチレート、アセテートおよびラクテートを含む較正標準を、添加されたサンプルと同時に流した。
図12Aに示すとおり、濾過滅菌糞便懸濁液、CHN-1およびグルコースを接種したバイオリアクターにおいて、グルコース不含バイオリアクターと比較して、有意に高い量の(R)-3-HBが産生された。CHN-1を添加したバイオリアクターの何れにおいても、糞便懸濁液のみを添加したものと比較して、有意に高い量の(R)-3-HBが存在した(p<0.03)。これは、全てのバイオリアクターにおける(R)-3-HBの産生が、CHN-1の存在に依存することを示す。
図12Bは、図12Aの三番目の実験条件(糞便懸濁液およびCHN-1を接種)について実施した3回の実験的反復の各々で測定された(R)-3-HB濃度を示す。これらの3つの値を合わせ、図12Aに示す。(R)-3-HBは、全3反復で、摂食条件下、ヒト血清(0~200μM)で見られるベースライン濃度を超えて検出された。一つのリアクターは、約1mMのレベルを示した。この200μM~1mM (R)-3-HBの範囲は、実施例5および6に記載するとおり、2つのヒト結腸組織ベースのインビトロモデルにおいて、複数の炎症性タンパク質の発現低減および抗炎症性タンパク質の発現増加に有効であることが判明した。
【0181】
5) バイオリアクターにおけるCHN-1の存在を、株特異的PCRによりさらに確認した。これについて、2つの異なるセットのオリゴヌクレオチドを使用した(表1)。第一のセットは、Nakanishi et al. (2005) Microbiol Immunol.に記載のとおり、クロストリジウム・ブチリクムの16s-23s遺伝子間スペーサー領域を増幅させた。第二のセットは、統合phaB遺伝子を特に増幅させた。
【表1】
ゲノムDNAを、フェノール-クロロホルム抽出した後、両オリゴヌクレオチドセットを使用するPCRに付した。
【0182】
図13に示すとおり、クロストリジウム・ブチリクムの存在が、CHN-1胞子を添加したバイオリアクターに対応するサンプル1~9において確認された。低レベルのクロストリジウム・ブチリクム(生細胞数および熱抵抗計数検出レベル以下(図7および8))は、糞便懸濁液のみを添加したリアクター10~12でも確認された。
図14に示すとおり、phaBの存在が、CHN-1胞子を添加したバイオリアクターに対応するサンプル1~9において確認された。アンプリコンは、糞便懸濁液のみを添加したリアクターで観察されず、これらのバイオリアクターにおいてphaBがないことが確認された。
まとめると、これらのデータは、CHN-1胞子が模擬結腸環境で発芽できることを示す。これらの胞子の発芽は、続いて、ここではSCFA濃度およびpH低下である代謝活性の指標により示される、栄養細胞増殖に至る。本データはまたCHN-1が、結腸環境で通常見られない新規代謝産物、すなわち(R)-3-HBの導入に成功したことも示す。
【0183】
実施例5 - 一次ヒト腸管オルガノイドを使用するモデル化炎症
一次ヒト腸管オルガノイドの炎症に対する(R)-3-HBの効果を測定するために、女性67歳ドナーの健常大腸サンプルを、実験前に8週間インビトロで培養した。Hannan et al., Stem Cell Reports. Vol. 1, 293-306 October 15, 2013において使用された方法。
【0184】
1) 炎症を誘発するために、オルガノイドをTNFα(40ng/mL)単独またはブチレート(10μM)、(R)-3-HB(10μM)またはブチレートと(R)-3-HBと組み合わせて、18時間処理した。続いて、細胞を溶解し、RNAを、cDNA合成およびqPCRによる炎症因子、NF-κBおよびTNFαのmRNA発現レベル測定のために単離した。
図15は、1に設定した対照(非刺激サンプル)に対して標準化した、ブチレート、(R)-3-HBまたはブチレートと(R)-3-HBの組み合わせと組み合わせたTNFαとのインキュベーションに応答した、一次ヒト腸管オルガノイドにより発現された炎症性因子、NF-κB(A)およびTNFα(B)の相対的mRNA発現レベルを示す。炎症因子NF-κBおよびTNF-αのmRNA発現は、ブチレート、(R)-3-HBまたはブチレートと(R)-3-HBの組み合わせでの処理により低減した。
【0185】
2) 炎症を誘発するために、オルガノイドをTNF-α(40ng/mL)単独または(R)-3-HB(ナトリウム塩を10μM)で18時間処理した。続いて、細胞を溶解し、RNAを、cDNA合成のために単離し、一団の炎症因子のmRNA発現レベルをqPCRにより測定した。
図16は、正規化対照(0に設定した非刺激サンプル)に対して標準化した、TNF-α単独または(R)-3-HBとの組み合わせとのインキュベーションに応答した、一次ヒト腸管オルガノイドにより発現された炎症性因子の相対的mRNA発現レベルを示す。炎症誘発性サイトカインおよびタンパク質IL-23、TNF-α、IL-1β、IL-6およびNF-κβのmRNA発現は、TNF-α単独での処理と比較して、(R)-3-HB存在下で低減した。抗炎症性サイトカインTGF-β1およびIL-10のmRNA発現は、TNF-α単独での処理と比較して、(R)-3-HB存在下で増加した。
ブチレートおよび(R)-3-HBの両者は、炎症誘発性サイトカインおよびタンパク質ならびに抗炎症性サイトカインおよびタンパク質に作用する。(R)-3-HBは、IBDの複数の重要な炎症誘発性制御因子に対してブチレートより大きな低減効果を有し、腸管炎症の主要な保護性制御因子にブチレートより大きな誘発効果を有する(データは示していない)。
【0186】
3) 炎症性刺激としてTNF-αとの共インキュベーションにより一次ヒト腸管オルガノイドにより生じた炎症性応答に対する(R)-3-HBおよび関連SCFAブチレートの効果を測定した。一次ヒト腸管オルガノイドを、Hannan et al. (2013) Stem Cell Reportsに記載のとおり、実験前8週間培養した。
炎症を誘発するために、オルガノイドを60ng/mL TNF-α単独または種々の濃度の(R)-3-HBのナトリウム塩またはブチレートで24時間処理した。続いて、細胞を溶解し、RNAをcDNA合成のためにRNeasy mini kit(Qiagen Ltd, Germany)を使用して単離した。IL-23のmRNA発現レベルを、SensiMix SYBR low-ROX kit(Bioline, UK)を使用するqPCRにより測定した。
値を未処理対照に対して正規化し、グラフはTNF-α単独(0として設定)で処理したおよびTNF-αとブチレートまたは(R)-3-HBで処理したオルガノイドで測定したmRNAレベルの差を示す。
図17は、60ng/mL TNF-αおよび漸増濃度のブチレートまたは(R)-3-HBで処理したオルガノイドにおけるIL-23の相対的mRNA発現レベルを示す。これらのデータは、10~100μM濃度の(R)-3HBが、ヒト腸粘膜におけるIL-23発現低減に有効であり得ることを示す。IL-23はIBDにおける炎症の重要なメディエーターであり、いくつかの医薬モノクローナル抗体薬物の標的である。(R)-3-HBのこの濃度範囲は、インビトロ腸モデル化により証明されるとおり、細菌送達を使用して腸管内腔で達成可能である(図12参照)。(R)-3-HBは、これらの濃度でブチレートより大きなIL-23発現低減効果を有する。
【0187】
実施例6 - エキソビボヒト結腸組織モデルを使用するモデル化炎症
結腸直腸検体は、患者のインフォームドコンセント書類への署名を得た後、腸管組織の外科的切除または組織診により得ることができる。
【0188】
材料:検体収集ポット、無菌メス、無菌鉗子、ペトリ皿、PBS、ダルベッコ最小必須培地(DMEM)高グルコース、ウシ胎仔血清(FCS)、L-グルタミン、抗生物質、蓋付き96ウェルU底無菌プレート、マルチチャンネルピペッター。
【0189】
結腸直腸外植片の調製。組織切除後、検体を検査室への輸送のためにDMEMを含む検体収集ポットに維持する。検体をいくらかの培地を含むペトリ皿に移す。切除検体から筋肉を無菌メスで剥がす。残った組織を培地を含む新しいペトリ皿に移し、組織を上皮粘膜および粘膜筋板の両者を含む外植片に切断する(Berry N, Herrera C, Cranage M. Methods Mol. Biol. 2011; 665: 133-60)。アッセイに進む。
【0190】
候補化合物の前臨床評価。炎症を誘発するために、外植片を96ウェルU底無菌プレート中で100μlの炎症性刺激(TNF-α 15μg/ml)とインキュベートする。外植片を1時間100mlの完全培地(FCS、L-グルタミンおよび抗生物質含有DMEM)とインキュベートする。目的化合物の活性を評価するために、100μlの化合物(10mM)を外植片に加える。次いで、組織外植片を5%COを含む雰囲気下、37℃で24時間培養する。陰性対照は、炎症性刺激および目的化合物の何れも添加せずに培養した組織外植片である(200μlの完全培地添加)。陽性対照は、炎症性刺激のみで培養した外植片である。培養後、組織外植片を培養ウェルから除き、プレートを遠沈し、180μlの培養上清を回収する。上清および組織外植片を-80℃で凍結する。次いで上清および/または組織外植片における目的分析物の定量を行う。
【0191】
培養上清におけるタンパク質濃度決定のためにLuminex法を使用した:
Luminexプロトコール:所内アッセイは、St Mary's Hospital, Paddington, LondonのDr. Carolina Herreraが実施した。Luminexアッセイ緩衝液:PBS、ヤギ血清、マウス血清、Tween 20、Tris pH7-8。Luminex洗浄緩衝液:PBS、Tween-20。操作:
アッセイプレート調製
1. アッセイプレートをアッセイ緩衝液で予湿
標品調製
1. 1/3の希釈段階で11標品調製
サンプル調製
1. パネル毎に必要に応じてサンプル希釈
ビーズ調製
1. ビーズを超音波処理およびボルテックス処理
2. ビーズをアッセイ緩衝液で希釈
アッセイ設定
1. プレートからアッセイ緩衝液除去
2. 50μlの標品、ブランクおよびサンプルを対応ウェルに添加
3. 50μlのビーズ混合物を各ウェルに添加
4. ホイルでプレートを被覆し、プレートシェーカーで1時間30分振盪
【0192】
検出抗体カクテル添加
1. 検出抗体カクテルをアッセイ緩衝液で希釈
2. プレートを3回洗浄緩衝液で洗浄
3. ウェル当たり50μl 検出抗体カクテル添加
4. 前記のとおりホイルで被覆し、1時間振盪
ストレプトアビジン-PE添加
1. ストレプトアビジン-PEをアッセイ緩衝液で希釈
2. プレートを3回洗浄緩衝液で洗浄
3. 各ウェルに50μlの希釈ストレプトアビジン-PE添加
4. ホイルで被覆し、30分振盪
5. 3回洗浄し、100μlのシース液を各ウェルに添加
6. Luminexでプレートを走らせる前に振盪するかまたは冷蔵庫に保存し、翌日までホイルで被覆。
【0193】
図18は、正規化対照(0に設定した非刺激サンプル)に対して標準化した、TNF-α単独(60分)またはTNF-α(60分)とのインキュベーション、続いて(R)-3-HBへの暴露(24時間)に応答して、エクスビボ結腸組織サンプルにより発現された炎症性因子の相対的タンパク質レベルを示す。3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩および遊離酸の両者を、全て10mM濃度で試験した。相対的タンパク質レベル[ng/mL]を、標準曲線を使用して決定した。炎症誘発性サイトカインおよびタンパク質IL-12、IL-1βおよびIL-6のタンパク質濃度は、TNF-α単独での処理と比較して、(R)-3-HB存在下で低減した。抗炎症性サイトカインIL-10のタンパク質濃度は、TNF-α単独での処理と比較して、(R)-3-HBの存在下で上昇した。ブチレートおよび(R)-3-HBの両者は、炎症誘発性サイトカインおよびタンパク質および抗炎症性サイトカインおよびタンパク質に作用する。(R)-3-HBは、IBDの複数の重要な炎症誘発性制御因子に対してブチレートより大きな低減効果を有し、腸管炎症の主要な保護制御因子対してブチレートより大きな誘発効果を有する(データは示していない)。
【0194】
Proteome ProfilerTM Arrayを、免疫応答に関与する大きなタンパク質およびサイトカインのセットの相対的存在量の測定に使用した。実験条件および結腸組織サンプル調製は、上記と同じであった。Human XL Cytokine Array Kit(www.rndsystems.com)、Catalog Number ARY022をこの実験に使用した。サイトカイン、ケモカインおよび増殖因子は、細胞間コミュニケーションに介在する細胞外シグナル伝達分子である。これらの分子は細胞から放出され、細胞増殖、分化、遺伝子発現、遊走、免疫および炎症などの多くの生物学的過程に重大な役割を有する。大部分の生物学的過程において、複数のサイトカインが大きなネットワークで作動し、そこでは、1サイトカインの作用が他のサイトカインの存在または非存在により制御される。Human XL Cytokine Array Kitは、サンプル間のサイトカイン差を同時に検出するための迅速で、高感度かつ経済的なツールである。102のヒト可溶性タンパク質相対的発現レベルを、多数のイムノアッセイを行うことなく決定できる。
【0195】
アッセイの原理
捕捉および対照抗体は、ニトロセルロース膜にデュプリケートでスポッティングされている。細胞培養上清、細胞ライセート、血清、血漿、ヒト乳、尿、唾液または組織ライセートを希釈し、一夜、Proteome Profiler Human XL Cytokine Arrayとインキュベートする。膜を洗浄して非結合物質を除去し、続いてビオチニル化検出抗体のカクテルとインキュベーションする。次いでストレプトアビジン-HRPおよび化学発光検出試薬を適用し、結合したタンパク質量に対応するシグナルが、各捕捉スポットで生じる。
図19は、正規化対照(0に設定した非刺激サンプル)に対して標準化した、TNF-α単独(60分)またはTNF-α(60分)のインキュベーション、続いて(R)-3-HBへの暴露(24時間)に応答してエクスビボ結腸組織サンプルにより発現された、炎症性因子の相対的タンパク質存在量(非定量的)を示す。3-ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩および遊離酸の両者を、全て10mM濃度で試験した。炎症誘発性サイトカインおよびタンパク質TNF-α、IL-23およびMMP9のタンパク質濃度は、TNF-α単独での処理と比較して、(R)-3-HB存在下で低下した。
【0196】
実施例7 - 発芽および伸長競合アッセイ
クロストリジウム・ディフィシルおよび遺伝子操作されたクロストリジウム・ブチリクムの胞子を、5日間インキュベーションした後の富栄養培地プレートから胞子ストックを収穫することにより得た。サンプルを65℃で30分熱処理して、残ったあらゆる栄養細胞を死滅させた。胞子発芽のために、50μLの胞子培養物を、0.1%タウロコール酸ナトリウム(クロストリジウム・ディフィシル発芽誘導因子)を添加した10mLの富栄養培地に接種した。クロストリジウム・ディフィシルおよびクロストリジウム・ブチリクムの胞子を、単一および共培養のトリプリケート実験に使用した。24時間、嫌気性条件で37℃でインキュベーション後、サンプルを各個々の実験から取り、連続希釈し、富栄養培地にトリプリケートで20μLの個別のスポットに植種した。37℃で嫌気性に一夜インキュベーション後、CFU/mLを決定した。
図20は、クロストリジウム・ディフィシルおよびクロストリジウム・ブチリクムの胞子の単独または共培養により得られたCFU/mLを示す。クロストリジウム・ディフィシルの発芽および/または伸長は、胞子がクロストリジウム・ブチリクム胞子と並んで共培養により発芽されたとき、完全に阻止された。
【0197】
実施例8 - 胃および小腸条件における生存評価
CHN-1の胞子を1mL PBSに再懸濁し、g/Lでアラビノガラクタン、1、ペクチン、2、キシラン、1、デンプン、3、グルコース、0.4、酵母抽出物、3、ペプトン、1、ムチン、4、システイン、0.5およびペプシン、1を含む9mLの模擬胃培地(GSM)に接種した。培地をオートクレーブ前に1M HClを使用してpH3に調節した。GSM培養を、嫌気性に、37℃で100rpmで撹拌しながら2時間インキュベートし、その後、g/Lでパンクレアチン、3、脱水胆汁抽出物、8、重炭酸ナトリウム、10を含む、5mLの予還元膵臓胆汁を添加した。培養を、嫌気性に、37℃で50rpmで撹拌しながら4時間インキュベートした。GSMは予還元しなかったが、胃で遭遇する好気性条件およびその後の嫌気性インキュベーションによる消化管の移動により遭遇する酸素減少を模倣するために、キャビネットに移す前に37℃で保存した。サンプルをインキュベーションのt=0時間、2時間、4時間および6時間に取った。サンプルを連続的に希釈し、RCM寒天プレート上に3つの個別の20μLスポットを植種した。プレートを嫌気性に37℃で一夜インキュベートし、コロニーをカウントして、胃および小腸条件における胞子の生存能を評価した。
図21は、CHN-1の胞子が胃酸条件を生き残り、故に生存可能であることを示す。
さらに、本発明は次の態様を包含する。
項1
対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための、3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)またはその塩。
項2
3-HBの少なくとも約90%が(R)-異性体((R)-3-HB)である、項1に記載の3-HB。
項3
対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための、3-HBまたはその塩を含む医薬組成物。
項4
組成物が3-HBまたはその塩を胃腸管、好ましくは胃腸管の管腔に送達するように製剤されている、項3に記載の使用のための医薬組成物。
項5
対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法において使用するための医薬組成物であって、ここで、組成物は3-HB送達手段を含み、方法が3-HB送達手段の胃腸管の管腔への送達を含む、医薬組成物。
項6
3-HB送達手段がプロドラッグまたは3-HBを胃腸管の管腔に送達するための生物学的送達系である、項5に記載の使用のための医薬組成物。
項7
生物学的送達系が3-HBを産生する嫌気性細菌からなる、項6に記載の使用のための医薬組成物。
項8
嫌気性細菌が遺伝子操作されている、項7に記載の使用のための医薬組成物。
項9
嫌気性細菌が(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを発現できる非天然遺伝子を含むブチレート産生細菌である、項8に記載の使用のための医薬組成物。
項10
嫌気性細菌が偏性嫌気性菌、好ましくはクロストリジウム・ブチリクムを形成する胞子である、項9に記載の使用のための医薬組成物。
項11
3-HBの少なくとも約90%が(R)-異性体((R)-3-HB)である、項3~10の何れかに記載の使用のための医薬組成物。
項12
医薬組成物が放出調節のために製剤されている、項3~11の何れかに記載の使用のための医薬組成物。
項13
医薬組成物が経口投与用である、項5~12の何れかに記載の使用のための医薬組成物。
項14
医薬組成物が3-HBまたはその塩または送達手段を含むコアを囲む放出調節層またはコーティングを含む、項13に記載の使用のための医薬組成物。
項15
医薬組成物が約5.5~約7のpHで3-HBまたはその塩または送達手段を胃腸管に送達するように製剤されている、項13または項14に記載の使用のための医薬組成物。
項16
医薬組成物が食後経口投与5~24時間後に3-HBまたはその塩または送達手段を胃腸管に送達するように製剤されている、項13または項14に記載の使用のための医薬組成物。
項17
医薬組成物が3-HBまたはその塩または送達手段を大腸、好ましくは大腸の嫌気性部分、好ましくは結腸および/または末端回腸に送達するように製剤されている、項13~16の何れかに記載の使用のための医薬組成物。
項18
対象がヒトである、項1もしくは項2に記載の使用のための3-HBまたは項3~17の何れかに記載の使用のための医薬組成物。
項19
炎症性疾患、障害または状態が炎症性腸疾患(IBD)、好ましくはクローン病または潰瘍性大腸炎、または結腸直腸癌である、項1もしくは項2に記載の使用のための3-HBまたは項3~18の何れかに記載の使用のための医薬組成物。
項20
対象における炎症性疾患、障害または状態を処置する方法であって、対象に
a) 3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)またはその塩;
b) 3-HBまたはその塩を含む医薬組成物;および/または
c) 3-HB送達手段を含む医薬組成物
を投与することを含む、方法。
項21
実質的にここに記載する3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)または医薬組成物。
項22
(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌および経口摂取可能担体を含む、組成物。
項23
細菌が(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを発現できる非天然遺伝子を含む、項22に記載の組成物。
項24
細菌がクロストリジウム綱細菌である、項22または項23に記載の組成物。
項25
細菌がクロストリジウム綱の分類群I、IVおよび/またはXIVaのものである、項22~24の何れかに記載の組成物。
項26
細菌がクロストリジウム属由来である、項22~25の何れかに記載の組成物。
項27
細菌がクロストリジウム・ブチリクムである、項22~26の何れかに記載の組成物。
項28
細菌がホスホトランスブチリラーゼおよび/または酪酸キナーゼをコードする天然遺伝子を有する、項22~27の何れかに記載の組成物。
項29
細菌が唯一の発酵産物として(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する、項22~28の何れかに記載の組成物。
項30
細菌が発酵産物として(R)-3-ヒドロキシブチレートをアセテートおよび/またはブチレートと組み合わせて産生する、項22~29の何れかに記載の組成物。
項31
医薬として使用するための薬学的に許容される担体を含む、項22~30の何れかに記載の組成物。
項32
消化器障害の処置または予防に使用するための、項22~31の何れかに記載の組成物。
項33
消化器障害が炎症性腸疾患または結腸癌である、項32に記載の組成物。
項34
炎症性腸疾患が過敏性腸症候群、クローン病、嚢炎、憩室炎および潰瘍性大腸炎から選択される、項33に記載の組成物。
項35
消化器細菌叢異常の処置に使用するための、項22~31の何れかに記載の組成物。
項36
クロストリジウム・ディフィシル感染の処置または予防に使用するための、項22~31の何れかに記載の組成物。
項37
対象における腸内細菌叢の調節に使用するための、項22~31の何れかに記載の組成物。
項38
動物給餌に使用するための、項22~31の何れかに記載の組成物。
項39
カプセル、錠剤または粉末の形態である、項22~31の何れかに記載の組成物。
項40
食品において使用するための、項22~30の何れかに記載の組成物。
項41
食品が飲料、飲み物、栄養補助食品または機能性食品である、項40に記載の組成物。
項42
クロストリジウム種が胞子または栄養細胞の形態である、項22~41の何れかに記載の組成物。
項43
クロストリジウム種が1×10 ~1×10 10 CFU/組成物gの量で存在し得る、項22~42の何れかに記載の組成物。
項44
(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、消化器疾患または障害を処置または予防する方法。
項45
(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、消化器細菌叢異常を処置または予防する方法。
項46
(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、クロストリジウム・ディフィシル感染を処置または予防する方法。
項47
(R)-3-ヒドロキシブチレートを産生する遺伝子操作された嫌気性細菌を投与することを含む、対象における腸内細菌叢を調節する方法。
項48
動物に該細菌を含む餌または餌添加物を投与することを含む、項47に記載の方法。
項49
細菌がクロストリジウム綱である、項42~48の何れかに記載の方法。
項50
細菌が(R)-3-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドロゲナーゼを発現できる非天然遺伝子を含む、項42~49の何れかに記載の方法。
項51
細菌を経口で投与することを含む、項42~50の何れかに記載の方法。
項52
さらにプレバイオティックを含む、項42~51の何れかに記載の方法。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図16-3】
図17
図18-1】
図18-2】
図19
図20
図21
【配列表】
0007021230000001.app