(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ゼオライト系イミダゾレート骨格物質、それらの合成、及び使用
(51)【国際特許分類】
C07F 3/06 20060101AFI20220208BHJP
C07D 235/06 20060101ALI20220208BHJP
C07D 471/04 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C07F3/06
C07D235/06
C07D471/04 107Z
(21)【出願番号】P 2019552045
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 US2018023246
(87)【国際公開番号】W WO2018175371
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-09-03
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023630
【氏名又は名称】エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【氏名又は名称】新免 勝利
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・エム・ファルコフスキー
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド・シー・カラブロ
(72)【発明者】
【氏名】イー・ドゥ
(72)【発明者】
【氏名】モバエ・アフェウォルキ
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・シー・ウエストン
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0197235(US,A1)
【文献】国際公開第2009/020745(WO,A2)
【文献】特公昭49-24072(JP,B1)
【文献】Chemical Communications,2012年,Vol. 48, No. 61,pp. 7613-7615
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 3/06
C07D 235/06
C07D 471/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト系イミダゾレート骨格物質であって、リンキングリガンドとして、部分飽和のベンゾイミダゾール、又は
そのベンゼン環の4位、5位、6位及び7位のいくつか若しくは全部の不飽和が、追加の水素原子で置換され、そしてその4位、5位、6位及び7位にある炭素原子の1つ若しくは複数がヘテロ原子によって置換されている部分飽和の置換ベンゾイミダゾールを含み、
1つ若しくは複数の亜鉛イオン、又は1つ若しくは複数のコバルトイオンをさらに含む、骨格物質。
【請求項2】
前記部分飽和のベンゾイミダゾールが、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールを含む、請求項1に記載の骨格物質。
【請求項3】
前記部分飽和の置換ベンゾイミダゾールが、4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジンを含む、請求項1に記載の骨格物質。
【請求項4】
リンキングリガンドとして、不飽和のベンゾイミダゾール又は不飽和の置換ベンゾイミダゾールをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の骨格物質。
【請求項5】
1つ又は複数の二価の遷移金属イオンをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の骨格物質。
【請求項6】
リチウムイオン及びホウ素イオンの1:1混合物をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の骨格物質。
【請求項7】
ゼオライト系イミダゾレート骨格物質であって、亜鉛及び4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールを含む、骨格物質。
【請求項8】
ゼオライト系イミダゾレート骨格物質であって、亜鉛及び4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジンを含む、骨格物質。
【請求項9】
ベンゾイミダゾール又は5-アザベンゾイミダゾールをさらに含む、請求項7又は8に記載の骨格物質。
【請求項10】
前記物質中に、ベンゾイミダゾール又は5-アザベンゾイミダゾール、及び4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾール又は4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジンの合計量を基準にして、0mol%~99mol%のベンゾイミダゾール又は5-アザベンゾイミダゾールをさらに含む、請求項9に記載の骨格物質。
【請求項11】
前記骨格物質が、SOD骨格タイプを示す、請求項1~10のいずれか1項に記載の骨格物質。
【請求項12】
前記骨格物質が、RHO骨格タイプを示す、請求項1~11のいずれか1項に記載の骨格物質。
【請求項13】
流体から元素又は化合物を吸着させる方法であって、当該方法が、前記流体を、請求項1~12のいずれか1項に記載のゼオライト系イミダゾレート骨格物質と接触させる工程を含む、方法。
【請求項14】
前記元素又は化合物が、水素、窒素、酸素、貴ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、三酸化硫黄、硫化水素、アンモニア、メタン、高炭素数の炭化水素、アルコール、アミン、又はそれらの混合物を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ゼオライト系イミダゾレート骨格物質を製造するための方法であって、部分飽和のベンゾイミダゾールの出発源又は
そのベンゼン環の4位、5位、6位及び7位のいくつか若しくは全部の不飽和が、追加の水素原子で置換され、そしてその4位、5位、6位及び7位にある炭素原子の1つ若しくは複数がヘテロ原子によって置換されている部分飽和の置換ベンゾイミダゾールの出発源と、亜鉛の出発源との混合物を、溶媒の存在下、前記ゼオライト系イミダゾレート骨格物質を形成させるのに十分な温度で反応させる工程を含む、方法。
【請求項16】
前記温度が、少なくとも20℃である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記部分飽和のベンゾイミダゾールが、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールを含む、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記部分飽和の置換ベンゾイミダゾールが、4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジンを含む、請求項15又は請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記亜鉛の出発源が酢酸亜鉛を含む、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物が、不飽和のベンゾイミダゾール又は不飽和の置換ベンゾイミダゾールをさらに含む、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(分野)
本発明の開示は、新規なゼオライト系イミダゾレート骨格物質(又はゼオライト系イミダゾレート骨格材料又はゼオライト・イミダゾレート・フレームワーク・マテリアル)(zeolitic imidazolate framework material=ZIF)、並びにそれらの物質の合成、及び、特に吸着用途(sorptive application)におけるそれらの使用(又は用途(use))に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
公知の多孔質物質ファミリーの一つが、ゼオライト系物質であり、それらは、頂点共有(corner-sharing)[TO4]四面体で規定される、三次元の、四連結骨格構造体(four-connected framework structure)をベースとしているが、ここでTは、各種の四面体配位のカチオンである。このファミリーの公知の物質としては以下のものが挙げられる:[SiO4];頂点共有四面体単位の三次元のミクロポーラス結晶骨格構造体を含む、シリケート;[SiO4]及び[AlO4];頂点共有四面体単位の三次元のミクロポーラス結晶骨格構造体を含む、アルミノシリケート;[AlO4]及び[PO4];頂点共有四面体単位の三次元のミクロポーラス結晶骨格構造体を含む、アルミノリン酸塩;並びに、その骨格構造体が、[SiO4]、[AlO4]及び[PO4]頂点共有四面体単位からなる、シリコアルミノホスフェート(SAPO)。ゼオライト系物質のファミリーには、200を越える各種の多孔質骨格タイプが含まれており、それらの多くは、触媒及び吸着剤として大きな商品価値を有している。
【0003】
ゼオライト系イミダゾレート骨格すなわちZIFは、無機のゼオライト系物質に似た性質を有している。ZIFは、[M(IM)4]の四面体配位結合環境をベースとしているが、ここで、IMは、イミダゾレート-タイプのリンキング部分であり、そしてMは、遷移金属である。これらの物質は、一般的には、ゼオライト系イミダゾレート骨格すなわちZIFと呼ばれているが、その理由は、イミダゾレート(IM)が遷移金属を架橋させる際に、それによって形成される角度が、ゼオライト中でのSi-O-Si結合の作る角度約145度に近いからである。多数の公知のゼオライト系構造のZIFカウンターパートがこれまでにも製造されてきた。それに加えて、これまでゼオライトには未知であった多孔質骨格タイプもまた、製造されるようになった。それらの研究についての考察は、たとえば、Yaghi及び彼の共同研究者からの以下の公刊物に見いだすことができる:非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;及び非特許文献7。
【0004】
いくつかのZIFが、良好な熱的及び化学的安定性、高い微孔性、及び高い内部表面積を有していることは公知である。したがって、ZIFは、拡散分離及び吸着分離において潜在的な用途があるとして、実用面での興味を喚起してきた。具体的には、ZIF-7(この場合、そのイミダゾレート-タイプのリンキング部分は、ベンゾイミダゾールである)が、精力的な研究努力の焦点となってきたが、その理由は、少なくとも部分的には、その物質が、加熱及びゲスト分子の吸着両方の作用で、狭い細孔から大きな細孔形へと 普通でない、可逆的な相変化転移を起こすからである。たとえば、次の文献を参照されたい:非特許文献8。この文献は、ZIF-7及び関連の構造体の、ガス分離及び貯蔵への使用の可能性についての、顕著な機会を提供している。
【0005】
発見されたZIF全部の内でも、ゲスト分子を吸着することによって、ほとんど非多孔質な構造から多孔質の構造へのような、置換え的な(displacive)転移を起こすことが知られているものは、ほんの数種しかない。このようなゲストに応答する相変化は、通常、吸着等温線における階段的変化に現れる。このような性質を示すZIF物質の他の例は、ZIF-9及びEMM-19である。これらの物質においては、その吸着の性質が固定されている、すなわち、相変化及びそれに続く吸着が起きる圧力が、その物質に固有の性質であり、ゲストが吸着され、調節することができない。合成的にこれらの吸着性を調節することができるようにするのが、多くの研究者の目標であった。いくつかのCO2吸着性物質は、この合成による調節性を示す(たとえば次の文献参照:非特許文献9)。しかしながら、それは、CO2のような反応性のガスの吸着を目的にしているのであって、一般的な方法ではない。他の研究者たちは、「混合リンカーアプローチ法」を使用して、ZIF-7の吸着性能を調節しようと試みた(たとえば次の文献参照:非特許文献10)。引用した研究においては、リンカーたとえば、2-メチルイミダゾール又は2-カルボキシルイミダゾールをZIF-7の中に組み入れて、ZIF-7の吸着性能を調節しようと試みていた。しかしながら、このアプローチ方法が困難であることが明らかとなってきたが、その理由は、合成的に各種の他のイミダゾールリンカーを用いてZIF-7をドープすることが困難で、その結果多くの場合では、その物質の中には、所望のドーパントリンカーが実際には極めて少量しか組み込まれないからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Exceptional Chemical and Thermal Stability of Zeolitic Imidazolate Frameworks”,Proceedings of the National Academy of Sciences of U.S.A.,Vol.103,2006,pp.10186-91
【文献】“Zeolite A Imidazolate Frameworks”,Nature Materials,Vol.6,2007,pp.501-6
【文献】“High-Throughput Synthesis of Zeolitic Imidazolate Frameworks and Application to CO2 Capture”,Science,Vol.319,2008,pp.939-43
【文献】“Colossal Cages in Zeolitic Imidazolate Frameworks as Selective Carbon Dioxide Reservoirs”,Nature,Vol.453,2008,pp.207-12
【文献】“Control of Pore Size and Functionality in Isoreticular Zeolitic Imidazolate Frameworks and their Carbon Dioxide Selective Capture Properties”,Journal of the American Chemical Society,Vol.131,2009,pp.3875-7
【文献】“A Combined Experimental-Computational Investigation of Carbon Dioxide Capture in a Series of Isoreticular Zeolitic Imidazolate Frameworks”,Journal of the American Chemical Society,Vol.132,2010,pp.11006-8
【文献】“Synthesis, Structure, and Carbon Dioxide Capture Properties of Zeolitic Imidazolate Frameworks”,Accounts of Chemical Research,Vol.43,2010,pp.58-67
【文献】Du,Y.;Wooler,B.;Nines,M.;Kortunov,P.;Paur,C.S.;Zengel,J.;Weston,S.C.;Ravikovitch,P.I.,J.Am.Chem.Soc.,2015,137,13603-13611
【文献】Mason,J.A.;Oktawiec,J.;Taylor,M.K.;Hudson,M.R.;Rodriguez,J.;Bachman,J.E.;Gonzalez,M.I.;Cervellino,A.;Guagliardi,A.;Brown,C.M.;Llewellyn,P.L.;Masciocchi,N.;Long,J.R.,Nature,2015,527,357-361
【文献】Thompson,J.A.;Blad,C.R.;Brunelli,N.A.;Lyndon,M.E.;Lively,R.P.;Jones,C.W.;Nair,S.,Chem.Mater.,2012,24,1930-1936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ゼオライト系イミダゾレート骨格、特にたとえばZIF-7のようなものの組成(又は組成物又はコンポジション(composition))及び吸着性能(adsorption properties)を調節して、相変化転移(又はフェーズ・チェンジ・トランジション(phase change transition))を示すようにするための新規な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(要旨)
本発明においては、ベンゾイミダゾール・リンキングリガンド(又は結合リガンド又は接続リガンド又は連結リガンド(linking ligand))の一部又は全部を、部分飽和のベンゾイミダゾールたとえば4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾール、又は部分飽和の置換ベンゾイミダゾールたとえば4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジンによって置換するような混合リンカーアプローチ(又はミックス・リンカー・アプローチ(mixed linker approach))によって、リガンドを、ZIF骨格構造(又はZIF・フレームワーク・ストラクチャ(ZIF framework structure))たとえばZIF-7の中に、それらの出発反応混合物に近い比率で組み入れることが可能であるということがここで見いだされている。このことによって、それらの物質の中に存在する相変化挙動を精密に調節し、その結果、それにより得られる物質の吸着性能に直接的に影響を与えることが可能となる。
【0009】
したがって、一つの態様において、本発明は、リンキングリガンド(又は結合リガンド又は接続リガンド又は連結リガンド)として、部分飽和のベンゾイミダゾール又は部分飽和の置換ベンゾイミダゾールを含むゼオライト系イミダゾレート骨格物質にある。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、亜鉛及び4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールを含むゼオライト系イミダゾレート骨格物質にある。
【0011】
もっとさらなる態様において、本発明は、亜鉛及び4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジンを含むゼオライト系イミダゾレート骨格物質にある。
【0012】
また別の態様において、本発明は、部分飽和のベンゾイミダゾールの出発源(又は出発原料又はソース(source))又は部分飽和の置換ベンゾイミダゾールの出発源(又は出発原料又はソース(source))の混合物と、亜鉛の出発源(又は出発原料又はソース(source))とを、溶媒の存在下、ゼオライト系イミダゾレート骨格物質を形成させるのに十分な温度で反応させる工程(又はステップ)を含む、ゼオライト系イミダゾレート骨格物質を製造するための方法にある。好ましくは、その温度は少なくとも20℃であってよい。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、流体から、元素又は化合物、たとえばメタンを吸着させるための方法にあるが、その方法には、その流体を、本明細書に記載のゼオライト系イミダゾレート骨格物質と接触させる工程が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】200℃及び30℃で測定し、そして真空(<10
-3mbar)、窒素(1bar)、及び二酸化炭素(1bar)中で実施した、実施例1のEMM-36-100物質のX線回折パターンを比較した図である。
【
図2】0℃、30℃、及び60℃で、実施例1のEMM-36-100物質について実施した、CO
2吸着等温線の結果を示す図である。
【
図3】60℃及び20℃で合成したEMM-36-100の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例2の合成混合物に添加した4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールのmol%に対して、液相NMRにより実施した、EMM-36-##(##は、4H-BIMのmol%を表す)の組成分析のグラフである。
【
図5】EMM-19及び実施例2に従って製造した各種のEMM-36-##物質について、30℃で実施したCO
2吸着等温線を示す図である。
【
図6】ZIF-7及び実施例1及び2に従って製造した各種のEMM-36-##物質について、30℃で実施したCH
4吸着等温線を示す図である。
【
図7】ZIF-7及び実施例1及び2に従って製造した各種のEMM-36-##物質について、30℃で実施したC
2H
4吸着等温線を示す図である。
【
図8】実施例3のEMM-38-100物質の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図9】実施例3のEMM-38-25物質の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図10】4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールの担持量を各種変化させた、実施例3のEMM-38-##物質の粉体X線回折パターンを示す図である。
【
図11】実施例3に従って製造した各種のEMM-38-##物質について、77Kで実施したN
2吸着等温線である。
【
図12】実施例3に従って製造した各種のEMM-38-##物質について、30℃で実施したエタン吸着等温線である。
【
図13】実施例4のEMM-38-100-N物質の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図14】実施例4のEMM-38-100-N物質の粉体X線回折パターンを示す図である。
【
図15】実施例4のEMM-38-100-N物質について、30℃で実施した、CO
2の吸着及び脱着等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態の詳細な説明)
本明細書に開示されているのは、リンキングリガンドとしての部分飽和のベンゾイミダゾール又は部分飽和の置換ベンゾイミダゾールを、任意選択的に、さらなるリンキングリガンドとしての不飽和のベンゾイミダゾール又は不飽和の置換ベンゾイミダゾールと組み合わせて含む、ある種の新規なゼオライト系イミダゾレート骨格(ZIF)組成物である。さらに開示されているのは、その構造の中に、各種の調節されたレベルの部分飽和のベンゾイミダゾール又は部分飽和の置換ベンゾイミダゾールを有するこれら新規なZIF物質を製造する方法、並びに、そのようにして得られたZIF物質を、たとえばメタンのようなガスの吸着に使用するための方法である。
【0016】
本明細書で使用するとき、「不飽和ベンゾイミダゾール」、「ベンゾイミダゾール」、又は簡略化して「BIM」という用語は、相互に言換え可能に使用され、不飽和と、ベンゼン環の4位、5位、6位及び7位のそれぞれに単一の水素原子とを有する、ヘテロサイクリック芳香族化合物、C
7H
6N
2、(式I参照)を意味している。
【化1】
【0017】
本明細書で使用するとき、「部分飽和のベンゾイミダゾール」という用語は
、ベンゼン環の上の4位、5位、6位及び7位のいくつか又は全部における不飽和が追加の水素原子で置換されている
ベンゾイミダゾールを含むヘテロサイクリック化合物を意味する。部分飽和のベンゾイミダゾールの一例としては、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾール(本明細書においては、いくつかの場合には、略して4H-BIM)(式II参照)が挙げられる。
【化2】
【0018】
本明細書で使用するとき、「不飽和の置換ベンゾイミダゾール」という用語は、そのベンゼン環の4位、5位、6位及び7位のそれぞれに不飽和を有し、そしてその4位、5位、6位及び7位の炭素原子の1つ又は複数が、ヘテロ原子(たとえば、窒素、酸素又は硫黄だが、これらに限定される訳ではない)によって置換されている、ベンゾイミダゾールを含むヘテロサイクリック化合物を意味している。不飽和の置換ベンゾイミダゾールの一例としては、5-アザベンゾイミダゾール(式III参照)が挙げられる。
【化3】
【0019】
本明細書で使用するとき、「部分飽和の置換ベンゾイミダゾール」という用語は、そのベンゼン環の4位、5位、6位及び7位のいくつか又は全部の不飽和が、追加の水素原子で置換され、そしてその4位、5位、6位及び7位にある炭素原子の1つ又は複数がヘテロ原子(たとえば、窒素、酸素又は硫黄だが、これらに限定される訳ではない)によって置換されている、ベンゾイミダゾールを含むヘテロサイクリック化合物を意味している。部分飽和の置換ベンゾイミダゾールの一例としては、4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン(本明細書においては、略して4H-IMP)(式IV参照)が挙げられる。
【化4】
【0020】
そのリンキングリガンドが、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾール(4H-BIM)又は4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジンを含み、任意選択的に混合リガンド系の中にさらにベンゾイミダゾール又は5-アザベンゾイミダゾールを含むような、いくつかの実施態様においては、そのZIFの合成は、溶媒の存在下に実施される。この場合においては、新規なZIF物質が製造されるが、それらは、本明細書においては、EMM-36、より詳しくはEMM-36-##と呼ばれるが、ここで##は、最終物質中の全有機リンカーの4H-BIM又は4H-IMPのmol%を表している。EMM-36-##は、「SOD」骨格タイプを有し、構造的にはZIF-7と密に関連している。EMM-36-100(この場合は、4H-BIM又は4H-IMPが、その構造の中の唯一の有機リンカーである)は、ZIF-7の大細孔(large pore)相と等構造(isostructural)であり、多孔質物質としては、ユニークな性質を示し、77Kでは窒素を実質的に吸着しないのに、室温ではCO2を吸着することが見いだされた。驚くべきことには、そしてほぼ等構造のZIF-7(単一の有機リンカーとしてベンゾイミダゾールを使用して形成されたもの)とは異なって、EMM-36-100は、室温では相変化挙動を示さない。他のEMM-36-##物質のこのような性質及び吸着挙動は、実施例においてさらに詳しく検討する。
【0021】
EMM-36は、ZIF-7のX線回折パターンと類似のパターンを有しており、次の表1に列記した特性線(characteristic line)を示す。
【0022】
【0023】
そのリンキングリガンドが、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾール(4H-BIM)又は4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン(4H-IMP)を含み、任意選択的に混合リガンド系の中にさらにベンゾイミダゾール又は5-アザベンゾイミダゾールを含むような、別の実施態様においては、そのZIFの合成は、構造指向剤(structure directing agent)としてのトルエンの存在下に実施される。この場合においては、さらなる新規なZIF物質が製造されるが、それらは、本明細書においては、EMM-38-##と呼ばれるが、ここで##は、最終物質中の全有機リンカーの4H-BIM又は4H-IMPのmol%を表している。EMM-38-##は、「RHO」骨格タイプを有し、構造的にはZIF-11と密に関連している。
【0024】
EMM-38は、ZIF-11のX線回折パターンと類似のパターンを有しており、次の表2に列記した特性線を示す。
【0025】
【0026】
本明細書において報告するX線回折データはすべて、ゲルマニウム固体検出器を備えた、Xceleratorマルチチャンネル検出器付きPanalytical X’Pert Pro回折システムを使用し、銅Kα線を用いて集積したものである。回折データは、2θが0.02度ごとのステップ走査法(ここで、θはブラッグ角)で、それぞれのステップでの有効計測時間2秒で記録した。面間隔すなわちd間隔は、オングストロームの単位で計算し、線の相対強度I/I0は、バックグラウンドより上で、最強の線の強度に対するピーク強度の比である。それらの強度には、ロレンツ効果及び偏光効果についての補正は行わない。相対強度は、以下の記号で表す:vs=極めて強(75~100)、s=強(50~74)、m=中程度(25~49)、w=弱(0~24)。
【0027】
上述のリンキングリガンドに加えて、本明細書において開示される新規なZIF物質には、1つ又は複数の金属イオンが含まれる。適切な金属イオンとしては、1つ又は複数の二価の遷移金属が挙げられる。好適な金属イオンとしては、1つ又は複数の亜鉛イオン、1つ又は複数のコバルトイオン、並びにリチウムイオン及びホウ素イオンの1:1混合物が挙げられる。Zn2+イオンが好ましい。さらに、以下のことを理解していただきたい:本明細書においては、リンキングリガンドを「イミダゾール」化合物と記載しているが、これは、単に簡略化のためだけであって、最終的なZIF物質の中では、これらの化合物は、脱プロトン化されて、負の電荷を有する「イミダゾレート」化学種として存在しているであろう。
【0028】
1つの実施態様においては、本明細書において開示されたZIF物質を、所望の金属イオンの出発源、たとえば酢酸亜鉛と、所望のリンキングリガンドの出発源とを適切な溶媒の中に溶解させて、反応混合物を形成させ、次いで、この反応混合物を、その結晶性のZIF物質を沈殿物として形成させるのに十分な条件下に保持することにより調製することができる。
【0029】
また別な実施態様においては、これまでの記述から理解されるであろうが、溶媒の選択によって、生成するZIFの構造が支配される可能性がある。したがって、適切な溶媒としては、アルコールたとえば、メタノール及びエタノールが挙げられるが、この場合においては、生成するZIFは、「SOD」骨格タイプのものとなる可能性がある。それに対して、溶媒に、任意選択的にメタノール及び/又はエタノールと共に、トルエンが含まれると、生成するZIFは、「RHO」骨格タイプのものとなる可能性がある。
【0030】
もっとさらなる実施態様においては、ここに開示されたZIF物質を合成するのに、液体支援摩砕法(liquid-assisted grinding)又は機械化学法のような技術を使用することも可能であろう。
【0031】
本明細書において開示された新規なZIF物質は、広く各種の元素及び化合物を、それらを含む流体から吸着させるための、選択性を持たせることができる。そのような元素及び化合物の例としては、以下のものが挙げられる:水素、窒素、酸素、貴ガス(又は希ガス)、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、三酸化硫黄、硫化水素、アンモニア、メタン、高炭素数(又は高級炭素数)の炭化水素、アルコール、アミン、及びそれらの混合物。炭化水素の例としては、以下のものが挙げられる:アルカンたとえば、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、及びオクタン、並びにアルケンたとえば、エテン、プロペン、ブテン、ヘキセン、及びオクテン。アルコールの例としては、以下のものが挙げられる:メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノール(たとえば、イソブタノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノールなど)。アミンの例としては、以下のものが挙げられる:メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、及びブチルアミン。
【0032】
ここで、以下の非限定的な例及び添付の図面を参照しながら、本発明を特に詳しく説明する。
【0033】
実施例1:EMM-36-100の合成
100mgの4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールを、10mLのエタノールの中に溶解させ、その溶液に0.1mLのNH4OH(濃)を添加した。この溶液に対して、0.1gのZn(OAc)2を添加し、その反応混合物を室温(25℃)で16時間撹拌した。その反応生成物を濾過により単離し、エタノールを用いて洗浄し、空気中90℃で乾燥させた。
【0034】
図1に、そのようにして得られたEMM-36-100を、200℃及び30℃で、真空中(<10
-3mbar、下)、窒素(1bar、中)、及び二酸化炭素(1bar、上)で実施して測定したX線回折パターンを示す。それらの結果は、すべての条件下で、「SOD」骨格構造体の大細孔相として矛盾がなく、試験条件の全範囲で、相変化が存在しないことを示唆している。
【0035】
図2に、0℃、30℃、及び60℃でEMM-36-100物質について実施したCO
2吸着等温線の結果を示すが、その物質が、20~60℃の範囲の温度全体で、タイプIの等温線を有していることを示している。
図3に、20℃及び60℃で合成したEMM-36-100のSEM顕微鏡写真を示す。合成温度を高くすると、微結晶サイズが大きくなり、より大きな粒子が得られることが認められる。
【0036】
実施例2:EMM-36-##の合成
実施例1の作業を繰り返したが、ただし、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾール(4H-BIM)の量を1mol%から99mol%まで変化させた、一連のベンゾイミダゾール(BIM)の混合物を用いた。液相の
1H NMRにより、そのようにして得られたEMM-36-##反応生成物の組成分析を実施した。それらの結果と、最初の合成混合物の含量との比較を
図4に示す。
図4の中の実線は、ZIF構造の中への4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾールの理想的な組込みを表しているが、それに対して菱形は、
1H NMRで観察された組込量を示している。
図4から明らかに、4H-BIM及びBIMは、それらの出発反応混合物に極めて類似した比率でZIF骨格構造体の中に組み入れられている。このような性質があるので、EMM-36の組成を微妙に調節することが可能となる。
【0037】
EMM-36-##反応生成物について30℃でのCO
2吸着等温線測定を実施したので、それらの結果を
図5に示す。4H-BIMの比率が低いところでは、EMM-36-##が、ZIF-7と同様の段階的な等温線を示していることが分かるであろう。4H-BIMの含量が25mol%にまで高くなると、等温線のステップが、0.05barの低さにまでシフトする。4H-BIMのレベルがもっと高くなると、タイプIの等温線となる。
【0038】
EMM-36-##物質について30℃でのCH
4吸着等温線測定も実施したので、それらの結果を
図6に示す。4H-BIMの含量が高くなって15mol%を越えると、等温線のステップが1bar未満となる。約25mol%より高い4H-BIMでは、その物質が、等温線全体(0.01barより上)で、開放された細孔相にとどまる。
【0039】
ZIF-7、さらにはEMM-36-##物質について、30℃でC
2H
4の吸着等温線を実施した。
図7に示した結果は、EMM-36-##物質の、C
2H
4吸着剤としての潜在的な実用性を示している。
【0040】
実施例3:EMM-38-##の合成
4,5,6,7-テトラヒドロベンゾイミダゾール(4H-BIM)と、各種の量のベンゾイミダゾール(BIM)との混合物100mgを、10mLのメタノール/トルエン(1:1)の中に溶解させ、その溶液に、0.1mLのNH4OH(濃)を添加した。この溶液に対して、0.1gのZn(OAc)2を添加し、その反応混合物を室温(25℃)で16時間撹拌した。その反応生成物を濾過し、エタノールを用いて洗浄し、空気中70℃で乾燥させる。
【0041】
そのようにして得られたEMM-38-100の反応生成物(100mol%の4H-BIMを含む)のSEMを、
図8に示し、EMM-38-25の反応生成物(25mol%の4H-BIMを含む)のSEMを
図9に示す。EMM-38-25、EMM-38-50、及びEMM-38-100物質の粉体X線回折パターンを
図10に示すが、「RHO」骨格構造体を示している。
【0042】
EMM-38-##の反応生成物についてのN
2の吸着等温線を、77Kで実施し、その結果を
図11に示す。ZIF-11とは対照的に、EMM-38-##は、低い温度では、窒素で利用可能な細孔容積を示している。
【0043】
EMM-38-##反応生成物について30℃でのエタン吸着等温線測定を実施したので、それらの結果を
図12に示す。4H-BIMが中程度の含量では、EMM-38-##が、ZIF-11と極めてよく似た等温線を示す。4H-BIM含量がもっと高くなると、エタンの容量が低下する。
【0044】
実施例4:EMM-38-100-Nの合成(Nは、部分飽和された環の中に窒素が存在していることを表している)
100mgの4,5,6,7-テトラヒドロ-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン及び100mgの脱水酢酸亜鉛を、20mLのバイアルの中に仕込んだ。これに対して、0.1mLのNH4OH(濃)及び10mLのエタノールを添加した。その反応液を、60℃で一夜撹拌した。次いで、遠心分離により固形物を単離し、90℃で乾燥させた。
【0045】
そのようにして得られたEMM-38-100-N反応生成物のSEMを
図13に示す。EMM-38-100-N反応生成物の粉体X線回折パターンを
図14に示すが、これは、その物質がEMM-38-##と近い等構造である、「RHO」骨格構造体を有していることを示している。
【0046】
EMM-38-100-N反応生成物についての、CO
2の吸着及び脱着等温線を30℃で実施し、その結果を
図15に示す。注目すべきは、ZIF-11又はEMM-38-##に比較して、EMM-38-100-Nでは、より高い容量が観察されたことである。