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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】絶縁スペーサ
(51)【国際特許分類】
   H02G 5/06 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
H02G5/06
H02G5/06 351A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019558222
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2018044554
(87)【国際公開番号】W WO2019111891
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-06-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/043495
(32)【優先日】2017-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安岡 孝倫
(72)【発明者】
【氏名】中野 俊之
(72)【発明者】
【氏名】田崎 森彦
(72)【発明者】
【氏名】椎木 元晴
(72)【発明者】
【氏名】武井 雅文
(72)【発明者】
【氏名】保科 好一
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-60209(JP,A)
【文献】特開2014-13786(JP,A)
【文献】特開2015-207485(JP,A)
【文献】特開平5-86262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス絶縁開閉装置の高電圧導体部と金属容器間を支持する絶縁スペーサであって、
前記絶縁スペーサは、電界の上昇に伴って誘電率が上昇する非線形誘電率材料からなり、
前記非線形誘電率材料は、マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂中に充填された第一の充填剤および第二の充填剤と、を含み、
前記マトリックス樹脂は、少なくとも1分子中に2つ以上のエポキシを有するエポキシ化合物であり、
前記第一の充填剤は、チタン酸バリウムであり、
前記第二の充填剤は、シリカまたはアルミナであり、
前記非線形誘電率材料における前記第一の充填剤の充填率が10vol%~40vol%であり、
前記第二の充填剤が、前記非線形誘電率材料における前記第一の充填剤と前記第二の充填剤の合計充填率が35vol%~55vol%となるように充填された絶縁スペーサ。
【請求項2】
前記第一の充填剤の平均粒径が0.1μm~15μmである請求項1に記載の絶縁スペーサ。
【請求項3】
前記第一の充填剤は、凝集体である請求項1または2に記載の絶縁スペーサ。
【請求項4】
前記第一の充填剤の表面は、チタネートカップリング処理またはシランカップリング処理が施されている請求項1~3のいずれか1項に記載の絶縁スペーサ。
【請求項5】
前記第二の充填剤は、平均粒径が1μm~30μmの溶融シリカである請求項1~4のいずれか1項に記載の絶縁スペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高電圧大容量の電力系統では、六フッ化硫黄(SF)ガスを絶縁・消孤媒体としたガス絶縁開閉装置が広く用いられている。ここで、図6を参照して、一般的なガス絶縁開閉装置の構成例を説明する。図6に示すように、ガス絶縁開閉装置を構成する機器の1つであるガス絶縁母線は、金属容器2と、金属容器2内に挿通された通電用の高電圧導体部1と、高電圧導体部1と共に金属容器2の内部に封入された絶縁ガス4と、を有する。高電圧導体部1は、金属容器2と共に同軸円筒構造を構成している。高電圧導体部1には、絶縁スペーサ6が取付けられている。絶縁スペーサ6は、高電圧導体部1を絶縁支持する。絶縁スペーサ6の近傍には、電界緩和シールド5が設けられている。一般に、絶縁スペーサ6は、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂に配合したアルミナやシリカ等の充填剤とを含む樹脂から構成される。絶縁スペーサ6は、前記の樹脂を金型注型することにより製造される。
【0003】
ガス絶縁母線の大きさを決定付ける絶縁スペーサ6近傍の電界分布は、高電圧導体部1、絶縁スペーサ3および電界緩和シールド5の幾何学的形状と、絶縁スペーサ6および絶縁ガス4の比誘電率とにより決定される。ガス絶縁母線においては、機器の性能向上および小型化にとって、絶縁スペーサ6の表面の最大電界値を低減することが重要である。そのために、絶縁スペーサ6の形状の最適化や、絶縁スペーサ6の低誘電率化が試みられてきたが、その技術開発には限界が近付いている。絶縁スペーサ6の形状は、沿面距離を伸ばすためにコーン型の複雑な形状をなしており、金型設計や注型に高い技術力や製造コストが必要になっている。
【0004】
絶縁スペーサ6の誘電率を空間的に自由に変化させることが可能であるならば、絶縁スペーサ6の表面の最大電界値を低減させることが可能である。それにより、ガス絶縁開閉装置の小型化やそれに伴う機器コストの低減を実現できる。金型注型で製作される絶縁スペーサ6の誘電率を空間的に変化させるという技術課題を解決するための従来技術としては、例えば、注型する際に、エポキシ樹脂および充填剤の配合量が異なる材料を複数用意し、その材料の割合を連続的に変化させて絶縁スペーサを加熱成型する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-176969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ガス絶縁開閉装置の小型化および絶縁特性を向上する絶縁スペーサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の絶縁スペーサは、ガス絶縁開閉装置の高電圧導体部と金属容器間を支持する。絶縁スペーサは、電界の上昇に伴って誘電率が上昇する非線形誘電率材料からなる。非線形誘電率材料は、マトリックス樹脂と、マトリックス樹脂中に充填された第一の充填剤および第二の充填剤と、を含む。マトリックス樹脂は、少なくとも1分子中に2つ以上のエポキシを有するエポキシ化合物である。第一の充填剤は、チタン酸バリウムである。第二の充填剤は、シリカまたはアルミナである。非線形誘電率材料における第一の充填剤の充填率が10vol%~40vol%である。第二の充填剤が、非線形誘電率材料における第一の充填剤と第二の充填剤の合計充填率が35vol%~55vol%となるように充填されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の絶縁スペーサを有するガス絶縁開閉装置におけるガス絶縁母線近傍の断面図。
図2】エポキシ樹脂にチタン酸バリウムと溶融シリカを充填した非線形誘電率材料の電界緩和効果および粘度の特性を示す図。
図3】電界緩和効果を検証したガス絶縁母線の絶縁スペーサ周辺の解析モデル図。
図4】非線形誘電率材料の電界-誘電率特性の実測データを示す図。
図5】絶縁スペーサの表面の電界値を、電界解析により比較した結果を示す図。
図6】従来のガス絶縁開閉装置におけるガス絶縁母線近傍の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の絶縁スペーサを、図面を参照して説明する。なお、図6に示したガス絶縁母線と同一の構成については同一符号を附して、説明を省略する。
【0010】
[絶縁スペーサ]
図1は、実施形態の絶縁スペーサを有するガス絶縁開閉装置におけるガス絶縁母線近傍の断面図である。図1において、図6示したガス絶縁母線と同一の構成については同一符号を附して、説明を省略する。
図1に示すように、ガス絶縁開閉装置を構成する機器の1つであるガス絶縁母線は、高電圧導体部1と、金属容器2と、絶縁スペーサ3と、絶縁ガス4と、電界緩和シールド5と、を有する。
絶縁スペーサ3は、高電圧導体部1と金属容器2間を支持する。
【0011】
絶縁スペーサ3は、電界の上昇に伴って誘電率が上昇する非線形誘電率材料からなる。
非線形誘電率材料は、マトリックス樹脂と、そのマトリックス樹脂中に充填された第一の充填剤および第二の充填剤と、を含む。
絶縁スペーサ3は、非線形誘電率材料を用いて、金型注型によって製作される。
【0012】
マトリックス樹脂は、少なくとも1分子中に2つ以上のエポキシを有するエポキシ化合物である。このようなエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートやヒダントインエポキシのような複素環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのエポキシ化合物の中でも、絶縁スペーサ3を金型注型で製作するには、エポキシ当量が125~500のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0013】
本実施形態における非線形誘電率材料は、エポキシ樹脂用のいずれの硬化剤を含んでいてもよい。エポキシ樹脂用の硬化剤としては、例えば、一般にエポキシ樹脂用化合物として用いられている、脂肪族あるいは芳香族の酸無水物、カルボン酸、アミン類、フェノール類等が挙げられる。これらのエポキシ用硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのエポキシ用硬化剤の中でも、特にポットライフが長く、硬化時の発熱の少ない点から、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル酸ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、メチル無水ナジック酸等の酸無水物類が好ましい。これらの酸無水物類の中でも、ポットライフが長く、かつ硬化が速いため、作業性の点から有利であり、またその硬化物の特性も他の硬化剤を用いた場合よりも優れている点から、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とメチルテトラヒドロ無水ナジック酸がより好ましい。
【0014】
エポキシ樹脂用硬化剤の配合量は、エポキシ化合物1当量に対して、0.7当量~0.9当量の範囲であることが好ましい。エポキシ樹脂用硬化剤の配合量が、エポキシ化合物1当量に対して0.7当量以上であれば、絶縁スペーサ3の耐熱性や耐湿性等の耐環境性が低下することがない。また、エポキシ樹脂用硬化剤の配合量が、エポキシ化合物1当量に対して0.9当量以下であれば、絶縁スペーサ3の化学的耐熱性や、電気特性が低下することがない。
【0015】
第一の充填剤としては、チタン酸バリウム(BaTiO)が用いられる。
【0016】
チタン酸バリウムの比誘電率は温度や電界、結晶化度に依存するが、比誘電率は100以上である。
【0017】
第一の充填剤のチタン酸バリウムの平均粒径は、0.1μm~15μmであることが好ましい。平均粒径が0.1μm以上であれば、チタン酸バリウムの凝集を抑制することができるため、樹脂硬化物の機械的、電気的破壊の起点になりにくい。一方、平均粒径が15μm以下であれば、エポキシ樹脂より比重の大きいチタン酸バリウムが硬化中に沈降しないため、必要とする比誘電率の電界非線形性が得られる。
ここで、第一の充填剤の平均粒径は、例えば、第一の充填剤を分散して含有する所定の樹脂(硬化物)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、個々の第一の充填剤の粒径を測定して、その粒径を算術平均することで得られる。
【0018】
第一の充填剤の表面は、チタネートカップリング処理またはシランカップリング処理が施されていてもよい。第一の充填剤に表面処理を施すことにより、非線形誘電率材料の主成分であるマトリックス樹脂に対する第一の充填剤の濡れ性を向上することができる。
【0019】
非線形誘電率材料における第一の充填剤の充填率は、10vol%~45vol%であることが好ましい。
非線形誘電率材料における第一の充填剤の充填率が上記の範囲内であれば、非線形誘電率材料において、電界領域で顕著な電界非線形性が発生する。なお、電界非線形性とは、電界の上昇に伴って比誘電率が上昇する性質のことである。
【0020】
第二の充填剤としては、シリカ(SiO)またはアルミナ(Al)が用いられる。
第二の充填剤としては、第一の充填剤のチタン酸バリウムと比べて比誘電率が低い材料を用いるため、電界の比誘電率に及ぼす影響が小さい。そのため、第二の充填剤を用いる目的は、絶縁スペーサ3の機械的強度を向上することと、熱線膨張係数を制御することである。
【0021】
第二の充填剤の平均粒径は、第一の充填剤の平均粒径との相性によって決定され、1μm~30μmの範囲が適正な平均粒径である。
ここで、第二の充填剤の平均粒径は、例えば、第二の充填剤を分散して含有する所定の樹脂(硬化物)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、個々の第二の充填剤の粒径を測定して、その粒径を算術平均することで得られる。
【0022】
第二の充填剤としては、平均粒径が1μm~30μmの溶融シリカが好ましい。
【0023】
第二の充填剤は、非線形誘電率材料における第一の充填剤と第二の充填剤の合計充填率が35vol%~55vol%となるように充填されることが好ましい。
合計充填率が35vol%以上であれば、絶縁スペーサ3に、構造材料として必要な硬化物の弾性率が得られる。また、合計充填率が55vol%以下であれば、非線形誘電率材料の粘度が顕著に上昇することがなく、容易に注型作業を行うことができる。
【0024】
本実施形態における非線形誘電率材料は、第一の充填剤と第二の充填剤以外に、他の充填剤が充填されていてもよい。
他の充填剤としては、非線形誘電率材料を用いた絶縁スペーサ3の注型作業に支障がない限り、いかなる種類の充填剤でも用いることができる。他の充填剤としては、粒子状充填剤または繊維状充填剤が用いられる。粒子状充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、カオリン、クレー、ドロマイト、雲母粉、炭化ケイ素、ガラス粉、カーボン、グラファイト、硫酸バリウム、ボロンナイトライド、窒化ケイ素等が挙げられる。繊維状充填剤としては、例えば、ウォーラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、カーボン繊維、アラミッド繊維、フェノール繊維等が挙げられる。これらの充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、本実施形態における非線形誘電率材料は、必要に応じて、難燃剤、離形剤、沈降防止剤、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤を代表とする界面改質剤、消泡剤、硬化促進剤、酸化防止剤、顔料、染料、微粒子ゴム等の添加剤が配合されていてもよい。
【0026】
金属容器2内に封入される代表的な絶縁ガス4としては、六フッ化硫黄(SF)が挙げられる。絶縁ガス4としては、六フッ化硫黄(SF)以外のガスを用いることができる。絶縁ガス4としては、例えば、自然由来ガスである空気、二酸化炭素、酸素、窒素等を用いることができる。これらのガスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合した混合ガスとして用いてもよい。
【0027】
以上説明した実施形態によれば、絶縁スペーサ3が、電界の上昇に伴って誘電率が上昇する非線形誘電率材料からなる。これにより、非線形誘電率材料が、それ自体が持つ比誘電率の電界依存性によって、あたかも空間的に絶縁スペーサ3の比誘電率が傾斜したかのような状態となり、絶縁スペーサ3の表面の最大電界値が抑制される。その結果、ガス絶縁開閉装置の小型化および絶縁特性の向上に貢献することができる。
【実施例
【0028】
以下、実験例、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
第一の充填剤であるチタン酸バリウムの比誘電率は電界非線形性があるため、マトリックス材であるエポキシ樹脂とのコンポジット材とした場合にも比誘電率の電界非線形が発現する。
【0030】
[実験例1]
図2は、エポキシ樹脂に、チタン酸バリウム(BaTiO)と溶融シリカ(SiO)を充填した非線形誘電率材料の電界緩和効果および樹脂組成物の粘度を、溶融シリカのみ50vol%充填した材料の特性で規格化した結果を示す図である。図3は、電界緩和効果を検証したガス絶縁母線の絶縁スペーサ3周辺の解析モデル図である。
図3に示す直径100mmの高電圧導体部1と直径300mmの金属容器2の間に、厚さ30mmのディスク型の絶縁スペーサ3が配置されたモデルにおいて、チタン酸バリウムと溶融シリカの充填率を変えて絶縁スペーサ3を製作し、絶縁スペーサ3の表面の電界分布を解析し、その最大電界値で電界緩和効果を評価した。
図2に示す結果から、非線形誘電率材料におけるチタン酸バリウムの充填率が20vol%~40vol%の場合に、顕著な比誘電率の電界非線形性が発生することが分かった。また、図2に示す結果から、非線形誘電率材料におけるチタン酸バリウムの充填率が40vol%を超えると、非線形誘電率材料の粘度が顕著に上昇することが分かった。
【0031】
[実施例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるJER828(商品名:三菱化学社製、エポキシ当量190)を70質量部、脂環式エポキシ樹脂であるセロキサイド2021P(商品名:ダイセル社製)を30質量部、酸無水物硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸であるHN5500(商品名:日立化成社製)を90質量部、硬化促進剤として四級アンモニウム塩であるニッサンカチオンM2-100(商品名:日本油脂社製)を0.5質量部含む樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物に対して、平均粒径5μmのチタン酸バリウム(共立マテリアル社製)を25vol%と平均粒径19μmの溶融シリカFB24(商品名:デンカ社製)25vol%を配合し、非線形誘電率材料組成物(A)を調製した。
次に、非線形誘電率材料組成物(A)を100℃で予熱した電界・誘電率特性評価用の電極モデル金型内に真空注型し、一次硬化条件は100℃で3時間、二次硬化条件は150℃で10時間として、電気試験用注型品(A)を製作した。
二次硬化後の非線形誘電率材料組成物(A)のガラス転移温度(Tg)を示差走査熱量計(DSC)法で測定した結果、Tg=150℃であった。
【0032】
[実施例2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるJER828(商品名:三菱化学社製、エポキシ当量190)を70質量部、脂環式エポキシ樹脂であるセロキサイド2021P(商品名:ダイセル社製)を30質量部、酸無水物硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸であるHN5500(商品名:日立化成社製)を90質量部、硬化促進剤として四級アンモニウム塩であるニッサンカチオンM2-100(商品名:日本油脂社製)を0.5質量部含む樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物に対して、平均粒径2μmのチタン酸バリウム(共立マテリアル社製)を20vol%と平均粒径19μmの溶融シリカFB24(商品名:デンカ社製)30vol%を配合し、非線形誘電率材料組成物(B)を調製した。
次に、非線形誘電率材料組成物(B)を100℃で予熱した電界・誘電率特性評価用の電極モデル金型内に真空注型し、一次硬化条件は100℃で3時間、二次硬化条件は150℃で10時間として、電気試験用注型品(B)を製作した。
二次硬化後の非線形誘電率材料組成物(B)のガラス転移温度(Tg)を示差走査熱量計(DSC)法で測定した結果、Tg=150℃であった。
【0033】
[比較例1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるJER828(商品名:三菱化学社製、エポキシ当量190)を70質量部、脂環式エポキシ樹脂であるセロキサイド2021P(商品名:ダイセル社製)を30質量部、酸無水物硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸であるMH700(商品名:新日本理化社製)を90質量部、硬化促進剤として四級アンモニウム塩であるニッサンカチオンM2-100(商品名:日本油脂社製)を0.5質量部含む樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物に対して、平均粒径1.2μmのチタン酸ストロンチウム(共立マテリアル社製)を25vol%と平均粒径19μmの溶融シリカFB24(商品名:デンカ社製)25vol%を配合し、非線形誘電率材料組成物(C)を調製した。
次に、非線形誘電率材料組成物(C)を100℃で予熱した電界・誘電率特性評価用の電極モデル金型内に真空注型し、一次硬化条件は100℃で3時間、二次硬化条件は150℃で10時間として、電気試験用注型品(C)を製作した。
二次硬化後の非線形誘電率材料組成物(C)のガラス転移温度(Tg)を示差走査熱量計(DSC)法で測定した結果、Tg=155℃であった。
【0034】
[比較例2]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるJER828(商品名:三菱化学社製、エポキシ当量190)を70質量部、脂環式エポキシ樹脂であるセロキサイド2021P(商品名:ダイセル社製)を30質量部、酸無水物硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸であるHN5500(商品名:日立化成社製)を90質量部、硬化促進剤として四級アンモニウム塩であるニッサンカチオンM2-100(商品名:日本油脂社製)を0.5質量部含む樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物に対して、平均粒径19μmの溶融シリカFB24(商品名:デンカ社製)50vol%を配合し、従来の材料であるシリカ充填エポキシ材料を調製した。
次に、シリカ充填エポキシ材料を100℃で予熱した電界・誘電率特性評価用の電極モデル金型内に真空注型し、一次硬化条件は100℃で3時間、二次硬化条件は150℃で10時間として、電気試験用注型品(D)を製作した。
二次硬化後のシリカ充填エポキシ材料のガラス転移温度(Tg)を示差走査熱量計(DSC)法で測定した結果、Tg=152℃であった。
【0035】
[評価]
電気試験用注型品(A)~(D)について、電界-誘電率特性を実測した。
図4は、電気試験用注型品(A)~(D)の電界-誘電率特性の実測データを示す図である。
図4に示す結果から、第一の充填剤としてチタン酸バリウムを充填した電気試験用注型品(A)、(B)は5kV/mm~20kV/mmの間の電界領域で顕著な電界非線形性が発生することが分かった。一方で第一の充填剤にペロブスカイト構造を有するチタン酸ストロンチウムを充填した電気試験用注型品(C)では顕著な電界非線形性は発現しないことが分かった。
【0036】
図3に示す直径100mmの高電圧導体部1と直径300mmの金属容器2の間に、厚さ30mmのディスク型の絶縁スペーサ3,6が配置されたモデルにおいて、絶縁スペーサ3として電気試験用注型品(A)を用い、従来の絶縁スペーサ6として電気試験用注型品(D)を用いて、高電圧導体部1から金属容器2間の電界分布を解析し、非線形誘電率材料による最大電界値の低減効果を評価した。
図5は、電気試験用注型品(A)、(D)について、高電圧導体部1から金属容器2間の電界分布を解析した結果を示す図である。
図2に示した非線形誘電率材料の電界緩和効果に関する結果は、図5に示す高電圧導体部1の表面の最大電界値をまとめた結果であり、非線形誘電率材料による最大電界値の低減効果、すなわち、絶縁性能向上効果を示している。
機器のサイズを10%小型化することが可能な電界緩和効果を得るためには、具体的には、図5より、チタン酸バリウムと溶融シリカの合計充填率を50vol%としたときは、チタン酸バリウムの充填率は15vol%以上であることが好ましく、溶融シリカの充填率はそれに対応した35vol%以下であることが好ましい。また、図5より、絶縁スペーサ3は金型注型で製作するため、非線形誘電率材料の粘度が高過ぎると金型注型による製作が不可能となる。このような注型作業性の制約から、金型注型で絶縁スペーサ3を製作することが可能なチタン酸バリウムの充填率は40vol%以下である。
【0037】
以上のことから、非線形誘電率材料からなる絶縁スペーサの表面の最大電界値は、従来の絶縁スペーサよりも低下し、非線形誘電率材料からなる絶縁スペーサは高い絶縁性能を有する。これにより、非線形誘電率材料からなる絶縁スペーサの絶縁特性は向上し、従来よりもタンク内径が小さく絶縁特性に優れたガス絶縁開閉装置を提供できる。
一方、同じ内径のガス絶縁母線内に従来のスペーサと本願のスペーサを配置した場合を比較すると、従来のスペーサは図6に記載したように絶縁距離を伸ばすために母線の長手方向に長さをもったコーン形状にすることが一般的であった。本実施形態に記載したスペーサを用いた場合、図1に記載したような、より母線の長手方向の長さが短い製造性が良好で、かつコンパクトな形状のスペーサとすることができる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0039】
1・・・高電圧導体部、2・・・金属容器、3・・・絶縁スペーサ(非線形誘電率材料)、4・・・絶縁ガス、5・・・電界緩和シールド、6・・・絶縁スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6