(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】天然エラストマー材料で作られた装飾品
(51)【国際特許分類】
A44C 27/00 20060101AFI20220208BHJP
A44C 5/02 20060101ALI20220208BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20220208BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220208BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220208BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220208BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
A44C27/00
A44C5/02 D
C08L7/00
C08L1/02
C08K3/36
C08K3/34
C08L27/18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020067340
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2020-04-03
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ダーン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
【審査官】柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19847710(DE,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02468127(EP,A1)
【文献】特表2018-532446(JP,A)
【文献】特開2002-058512(JP,A)
【文献】特開2007-084698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 5/00-27/00
C08L 7/00
C08L 1/02
C08K 3/36
C08K 3/34
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6重量%のセルロース繊維
、5重量%の防臭剤
、及び
30重量%
のシリカが分散している天然エラストマーマトリックスによって構成している天然エラストマー複合材料によって作られ、前記エラストマー複合材料は、短いセルロース繊維と長いセルロース繊維を含み、これらのセルロース繊維の長さは0.5~1.5mmの範囲である
ことを特徴とする装飾品。
【請求項2】
前記天然エラストマーは、ゴムである
ことを特徴とする請求項1に記載の装飾品。
【請求項3】
前記エラストマー材料は、5~20重量%の割合のフッ素化エラストマーを含有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の装飾品。
【請求項4】
前記エラストマー材料は、少なくとも、5~10重量%の染料添加剤を含有する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の装飾品。
【請求項5】
前記防臭剤は、ゼオライトである
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の装飾品。
【請求項6】
前記ゼオライトは、香料ないし臭いを拡散させるための支持体として機能し、前記ゼオライトは、少なくとも1種類の精油及び/又は少なくとも1種類の香料を受けることができる
ことを特徴とする請求項5に記載の装飾品。
【請求項7】
前記エラストマー材料は、少なくとも、0~2重量%(0重量%を除く。)のポリテトラフルオロエチレンを含有する
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の装飾品。
【請求項8】
前記天然エラストマー材料は、少なくとも1種類の離型剤を含有する
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の装飾品。
【請求項9】
少なくとも1種類の天然エラストマー及び
30重量%
のシリカを含有する組成物を作るステップと、
抗オゾン剤及び抗酸化剤を添加するステップと、
6重量%
のセルロース繊維、
5重量%の防臭剤を添加するステップと、
フッ素化エラストマーを5~20重量%の割合で添加するステップと、
前のステップで得られた組成物を成型して成型品を形成するステップと、
得られた成型品を120℃で2時間硬化させるステップと、及び
得られた鋳造物を仕上げるステップと
を備えることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の装飾品を製造する方法。
【請求項10】
前記天然エラストマーは、ゴムである
ことを特徴とする請求項9に記載の装飾品を製造する方法。
【請求項11】
前記組成物は、少なくとも1種類の染料添加剤を含有する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の装飾品を製造する方法。
【請求項12】
前記組成物は、少なくとも1種類の離型剤を含有する
ことを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の装飾品を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマーベースの材料の技術分野に関する。具体的には、本発明は、天然のエラストマー材料を用いて作られる装飾品、このような装飾品を製造する方法、及びこの方法によって得られる装飾品に関する。
【0002】
本発明に関連して、用語「装飾品」は、計時器又は装飾品の分野で用いられる構成要素とともに、あらゆる装飾性の物品を意味する。より詳細には、本発明は、腕時計用ブレスレットのようなブレスレットに関する。
【背景技術】
【0003】
多くのエラストマー材料を市場で入手可能であり、その高い快適性、柔らかい感触、耐久性などのために、ブレスレットとして用いることが知られている。
【0004】
例えば、欧州特許文献EP2468127は、補強用充填剤が配置されるエラストマーマトリックスによって構成している複合材料によって少なくとも部分的に作られている装飾品を開示している。この充填剤は、マイクロファイバー、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子及びそれらの混合物からなる群から選択され、前記複合材料は、前記補強用充填剤のうちの少なくとも1つを含有しつつ、組成物の全重量に対して、60~95重量%の少なくとも1種類のエラストマー、0~5重量%マイクロファイバー、及び0~40重量%のポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子を含有する組成物から得られる。
【0005】
しかし、皮膚と接触するブレスレットや計時器用部品に用いられるこれらのエラストマー材料の90%以上が化石資源に由来しており、これでは現在の環境上の懸念を満足させることができない。
【0006】
これらの環境上の懸念を満足させるために、天然エラストマーのような代替材料が存在する。しかし、天然エラストマーは、アレルゲンとなりやすいタンパク質の組み合わせを含有しており、したがって、このようなアレルゲンを含有しない天然エラストマーを用いるべきである。このようなエラストマーは、Yulex Corp.などによって提案されている。
【0007】
この種の天然エラストマーには、アレルゲンが含まれないが、着用者に十分な快適性を与える部品の製造に関連する特定の課題がある。具体的には、この種の天然エラストマーには、ゴムと加硫方法に起因する強い臭いがあり、また、汚れに対する耐性があまり高くなく、皮膚に接触させたときにあまり快適ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特に、これらの既知の技術の様々な課題を解決することを目的とする。
【0009】
具体的には、本発明は、皮膚に長い時間(直接的又は間接的に)接触するように意図されている天然エラストマー材料によって作られた装飾品を提供すること、また、発汗をなくすために貢献し、かつ、劣化(紫外線、発汗、美観、裂傷、摩耗など)に対する耐性が良好である特性を有しつつ、環境に対する影響が限定される又はないような天然エラストマー材料を得ることなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的及び以下を読むことによって明確に理解することができる他の目的は、本発明によって、0~6%のセルロース繊維、0~5%の抗臭剤、及び0~30%のシリカが分散している天然エラストマーマトリックスによって構成している天然エラストマー複合材料によって作られた装飾品を用いることによって達成することができる。
【0011】
本発明の他の有利な実施形態は、以下の特徴を有する。
- 前記天然エラストマーは、除タンパクされた天然ゴムである。
- 前記エラストマー材料は、5~20%の割合のフッ素化エラストマーを含有する。
- 前記エラストマー複合材料は、短いセルロース繊維と長いセルロース繊維を含み、これらのセルロース繊維の長さは0.5~1.5mmの範囲である。
- 前記エラストマー材料は、少なくとも、5~10%の染料添加剤を含有する。
- 前記エラストマー材料は、少なくとも、0~2%のポリテトラフルオロエチレンを含有する。
- 前記天然エラストマー材料は、少なくとも1種類の離型剤を含有する。
【0012】
本発明は、さらに、特に、本発明に係る天然エラストマー材料によって作られている任意の計時器に関する。
【0013】
本発明は、さらに、本発明に係る装飾品を製造する方法に関し、この方法は、
少なくとも1種類の天然エラストマー及び0~30%のシリカを含有する組成物を作るステップと、
抗オゾン剤及び抗酸化剤を添加するステップと、
0~6%のセルロース繊維、0~5%の消臭剤を添加するステップと、
フッ素化エラストマーを5~20%の割合で添加するステップと、
前のステップで得られた組成物を成型して成型品を形成するステップと、
得られた成型品を120℃で2時間硬化させるステップと、及び
得られた鋳造物を仕上げるステップと
を備える。
【0014】
本発明の特定の実施形態についての以下の説明は、説明のために与えられ本発明の範囲を限定することを意図していない。この説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点をよく理解することができるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、0~6%のセルロース繊維、0~5%の抗臭剤及び0~30%のシリカを分散される天然エラストマーマトリックスによって構成している天然エラストマー複合材料によって作られた装飾品に関する。
【0016】
本発明によると、天然エラストマーマトリックスのために選択される天然エラストマー材料は、Yulex Corp.によって製造されるもののような低アレルギー性の天然ゴムである。天然エラストマーの量は、組成物の全重量に対して100重量%である。
【0017】
エラストマー材料の硬度は、触感的及び機能的な必要性に応じて、20ショアOO~90ショアDの範囲から選択することができる。
【0018】
例えば、ケースの硬い部分は、例えば、90ショアDの硬さで成型することによって作ることができ、一方、硬い部分上の被覆としてショアOOとショアAの材料を用いることができる。ブレスレットのようなフレキシブルな部品は、硬度がショアAであるようなものによって作られる。
【0019】
例えば、携行型時計(例、腕時計、懐中時計)のケースの場合、エラストマーをケースの表面上にスプレーして、被覆として機能させたり、エラストマーを成型してソフトな感触を得たりすることができる。
【0020】
本発明の有利な態様の1つにおいて、ゴムには、生来的に、ブレスレットが皮膚に接触しているときなどの着用者の発汗に起因する表面上及び材料内における細菌の繁殖を抑えたり防いだりする抗菌特性がある(ゴム樹から誘導されるラテックスは、天然の殺生物剤であるセスキテルペンを含有する)。
【0021】
エラストマー材料は、さらに、ゼオライトのような防臭剤を含有して臭いを吸収する。この防臭剤は、一般的には、粒径が0~10μmの粒状の形態で存在する。必要に応じて、防臭剤の量は0~5%の範囲である。本発明の1つの代替実施形態において、ゼオライトは、香料を拡散させるための支持体として機能する。このゼオライトは、例えば、一又は複数の種類の精油や一又は複数の種類の香料を受けることができるゼオライトが非常に長い期間にわたって芳香を拡散させることができることを考えると、このような実施形態は特に興味深い。
【0022】
天然エラストマー材料は、さらに、シリカのような強化剤を含有し、これによって、その耐久性及び耐摩耗性を改善させる。シリカの量は、0~30%の範囲である。
【0023】
本発明によると、エラストマー材料は、親水性マイクロファイバーを含有して、そのエラストマー材料を通して水分、特に、汗、を排除するように構成している。本発明によると、親水性マイクロファイバーは、細かさが150mTex未満である。これは、H2Oタイプの分子を担持するのに十分な大きさである。
【0024】
本発明によると、親水性繊維は、セルロース材料によって構成しており、好ましくは、LenzingによるTencel FCPのようなリヨセル(Lyocell)タイプの繊維を用いる。
【0025】
好ましくは、本発明に係る組成物は、その組成物の全重量に対してマイクロファイバーを0~6%含有する。用いられるマイクロファイバーの長さは、0.5~1.5mmである。
【0026】
当該材料内にこれらのマイクロファイバーが存在することによって、微視的な導通路のネットワークを形成することができ、マイクロファイバーを形成するナノフィブリルは、当該材料を通り抜けるように迅速かつ均質的に水分を運ぶ。
【0027】
材料を通る水分の運搬を改善させるために、材料に組み込まれたマイクロファイバーは、短いセルロースマイクロファイバーと長いセルロースマイクロファイバーによって形成され、これらのセルロースファイバーの長さは、0.5~1.5mmの範囲にある。
【0028】
したがって、このような短いマイクロファイバーと長いマイクロファイバーの混合物によって、これらのマイクロファイバーどうしが接触することとなり、エラストマー材料によって形成されるマトリックスの拡散力を改善するチャネルを形成させ、水分は、材料を通る毛細管性によって担持され、表面で排出される。
【0029】
本発明によると、マイクロファイバーは、好ましくは、らせん形状を形成する断面を有し、これは、比表面積を大きくし、したがって、拡散力を速くする。
【0030】
具体的には、親水性繊維の断面は、n個のブレードを有するらせん状である。ここで、nは厳密に2よりも大きい。これによって、比表面積を大きくし、したがって、水分の排出を促進させる。
【0031】
当該組成物は、エラストマーに特異的な加硫剤と、及びゴムベースの組成の分野において当業者によって一般的に用いられている他の伝統的な添加剤とを含有する。ゴムに一般的に用いられる加硫剤の例として、過酸化物がある。この組成物は、さらに、加硫促進剤と加硫遅延剤を含有している。これらはそれぞれ、8%と0.5%の割合で存在する。
【0032】
好ましいことに、当該組成物は、染料又は顔料を含有することができる。また、染料及び/又は顔料の混合物を用いることもできる。
【0033】
当該組成物は、さらに、天然ゴムが劣化しないように保護するために、抗オゾン剤及び抗酸化剤を含有し、これらはそれぞれ1%の割合で存在する。
【0034】
ゴムの色を改善させるために、天然ゴムの黄色とバランスをとるように二酸化チタンを用いて、白色の組成物を得る。ここで用いる二酸化チタンの量は、5~10%の範囲である。言うまでもなく、好ましくは天然の染料である、他の染料を添加して、所望の色を得ることができる。
【0035】
また、光透過性のFKMタイプのフルオロエラストマーを20%の割合となるように添加して、組成物の汚れに対する耐性を改善させ、最終製品のフレキシブル性を改善させる。
【0036】
本発明の一実施形態において、感触を改善するために、この材料に、さらに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を0~2%、特に、1.84%、の割合で添加する。このようにすると、皮膚に接触したときの感触が柔らかくなる。
【0037】
上記の材料は、天然のエラストマーベースを有する単一材料のブレスレットストランドを作るように直接成型することができ、あるいはさらに、型から成型して二材料系のブレスレットストランドを製造することもでき、各ストランドには、皮膚に接触する天然材料によって作られた下側の第1の部分と、機能に関して有利な別の材料によって作られた上側の部分がある。また、その各部分は、純粋に美的な理由で異なる色にすることもできる。
【0038】
以下に組成物の例について説明する。各組成物は、添加物が分散されるエラストマーマトリックスを形成するベースを含む。これらの例は、本発明にしたがって出願人が作った試料に基づく。
【0039】
【0040】
本発明に係るエラストマー複合材料によって作られた装飾品は、以下のステップを備える方法によって得られる。
- 少なくとも1種類の天然エラストマー及び0~30%のシリカを含有する組成物を作るステップ
- 抗オゾン剤及び抗酸化剤を添加するステップ
- 0~6%のセルロース繊維、0~5%の消臭剤を添加するステップ
- フッ素化エラストマーを5~20%の割合で添加するステップ
- 前のステップで得られた組成物を成型又は鋳造して成型品又は鋳造品を形成するステップ
- 得られた成型品又は鋳造品を120℃で2時間硬化させるステップ
- 得られた鋳造物を仕上げるステップ
【0041】
前記鋳造物を仕上げるステップは、当業者の必要性及び製造する部品に応じて、縫製、パターン印刷、又は材料に穴を開けることなどを伴う。
【0042】
組成物の成型は、射出成形や圧縮成形のような当業者に知られている任意の方法によって行うことができる。
【0043】
加硫は、一般的には10~200℃の温度で既知の方法で十分な継続時間行われる。この継続時間は、所望の部品に応じて変わり、例えば、加硫温度、採用した加硫システム及び組成物の加硫の反応速度論に応じて60~380秒の間である。
【0044】
装飾品は、例えば、ブレスレット、特に、腕時計のブレスレット、であることができる。具体的には、本発明に係るブレスレットは、特定の形及びカット形状を有することができ、それにもかかわらず、機械的強度、具体的には、引張強度及び汚れに対する耐性、についての厳格な仕様を満足させ、かつ、着用者の汗を良好に排出することができる。
【0045】
このような天然材料によって、計時器や装飾品を製造することができる。例えば、ブレスレット、ブレスレットバックル、ネックレス、ケース、ケース裏部、押し部品、バックル又はベゼルなどを製造することができる。
【0046】
なお、当然、本発明は、図示している実施形態に限定されず、当業者が考えることができる様々な代替形態や改変形態を作ることができる。