(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】拭き取りシート取出部材および拭き取りシート収納容器
(51)【国際特許分類】
B65D 83/08 20060101AFI20220208BHJP
A47K 7/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B65D83/08 B
A47K7/00 H
(21)【出願番号】P 2020144593
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】520330881
【氏名又は名称】グラント ダグラス シンクレア
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】グラント ダグラス シンクレア
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-100752(JP,A)
【文献】特開2010-195488(JP,A)
【文献】特表2014-504239(JP,A)
【文献】特開2019-210047(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142091(WO,A1)
【文献】実開平5-34177(JP,U)
【文献】特開2009-73538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/08
A47K 7/00
A47L 13/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拭き取りシート収納容器のシート取出面に設けられ、拭き取りシートの引出開口が形成された引出壁を有する拭き取りシート取出部材であって、
前記引出開口は円形の貫通孔であり、
前記シート取出面と前記引出壁とのなす角度が20°から90°の範囲に設定され
、
前記シート取出面に対して略垂直な方向に立ち上がり、前記引出壁を囲む取出ピース本体を有することを特徴とする拭き取りシート取出部材。
【請求項2】
前記引出開口を挟んだ前記取出ピース本体の両側に、円弧状の切欠がそれぞれ設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の拭き取りシート取出部材。
【請求項3】
少なくとも前記引出開口の周囲がシリコーンによって形成されたことを特徴とする、請求項1または請求項2記載の拭き取りシート取出部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された拭き取りシート取出部材を備えたことを特徴とする拭き取りシート収納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拭き取りシート取出部材および拭き取りシート収納容器に係り、拭き取りシートの円滑な取り出しを実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットティッシュに代表される拭き取りシートは、一定の間隔でミシン目が入れられたロール状を呈し、拭き取りシート収納容器(以下、単に容器と記す)に収納されたものが多い。容器は、例えば、上部が開放された有底円筒状の容器本体と、容器本体の開放部を覆うカップ状の蓋とからなっている。蓋の上面中央には取出開口を有するシート取出部が設けられており、ミシン目で分断された拭き取りシートが取出開口から1枚ずつ引き出される。シート取出部は、はめ込み等によって蓋に装着されるものと、蓋と一体に成形されたものが存在する。また、取出開口は、拭き取りシートのミシン目での分離を良好にすべく、円形や星形等の貫通孔、十字形状等のスリット、貫通孔とスリットを組み合わせたものが採用されている(特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-195488号公報
【文献】特開2008-74457号公報
【文献】特開2009-286427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシート取出部を備えた容器では、拭き取りシートを引き出した際にいわゆるローピング(ミシン目での分離が行われず、複数枚分の拭き取りシートが一度に引き出される現象)が生じることがあった。その場合、余分に引き出された拭き取りシートは、無駄に使用されて消費量が増えるとともに、廃棄物を増加させる要因となる。また、余分に引き出した拭き取りシートを容器に戻す場合、蓋を外して再び取出開口に通す等の手間が掛かるだけでなく、手で表面に触れることになるため衛生上の問題もあった。両手を使い、一方の手で拭き取りシートを引き出し、他方の手で後続の拭き取りシートを押さえてミシン目で分離させる方法もあるが、利便性が大きく損なわれる他、後続の拭き取りシートに触れることでやはり衛生上の問題があった。
【0005】
そこで、本発明者等は、取出開口としての貫通孔を小さくする、あるいはスリットを開き難くし、拭き取りシートを引き出す際の抵抗(すなわち、通過抵抗)を大きくし、後続の拭き取りシートがミシン目で分離しやすくさせることも試みた。しかし、この方法を採った場合には、拭き取りシートが取出開口に引っ掛かって引き出しにくくなったり、拭き取りシートに縒れや裂け等の損傷が生じたりすることがある。また、通過抵抗を大きくし過ぎると、ミシン目で分離した後続の拭き取りシートは、取出開口を通過できずに容器内に落ち込んでしまうことがある。この場合、余分に引き出した拭き取りシートを戻す場合と同様に、蓋を外して後続の拭き取りシートの先端を取出開口に通す手間や、手で表面に触れることによる衛生上の問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、拭き取りシートの円滑な取り出しを実現する拭き取りシート取出部材と、その拭き取りシート取出部材を備えた拭き取りシート収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の拭き取りシート取出部材は、拭き取りシート収納容器のシート取出面に設けられ、拭き取りシートの引出開口が形成された引出壁を有する拭き取りシート取出部材であって、
前記引出開口は円形の貫通孔であり、
前記シート取出面と前記引出壁とのなす角度が20°から90°の範囲に設定され、
前記シート取出面に対して略垂直な方向に立ち上がり、前記引出壁を囲む取出ピース本体を有する。
【0008】
好適には、前記引出開口を挟んだ前記取出ピース本体の両側に、円弧状の切欠がそれぞれ設けられている。
【0009】
好適には、少なくとも前記引出開口の周囲がシリコーンによって形成されている。
【0010】
本発明の拭き取りシート収納容器は、上記拭き取りシート取出部材を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の拭き取りシート取出部材によれば、使用者が拭き取りシートの先端を摘んで容器から引き出すと、拭き取りシートには、引出壁の傾斜によって引出開口の縁部に押し付けられることで比較的大きな摩擦が通過抵抗として作用するとともに、引出開口の直後で屈曲することで屈曲外側には大きな引張力が作用する。これにより、先行する拭き取りシートと後続の拭き取りシートとは、後続の拭き取りシートの先端が引出開口を通過した直後にミシン目で分離し、複数枚分の長さに相当する拭き取りシートが一度に引き出されなくなり、後続の拭き取りシートが容器内に落ち込まなくなる他、拭き取りシートに損傷も生じにくくなる。
【0012】
また、引出開口が円形の貫通孔であるものでは、引き出す際に拭き取りシートの表面に裂け等の損傷が生じにくくなる。
【0013】
また、少なくとも引出開口の周囲がシリコーンによって形成されたものでは、拭き取りシートに作用する摩擦が大きくなり、後続の拭き取りシートのミシン目での分離がより確実に行われる。
【0014】
また、本発明の拭き取りシート収納容器によれば、拭き取りシートが損傷等を伴わず1枚ずつ円滑に取り出される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係るシートディスペンサを示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る拭き取りシートの斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係るシート取出ピースの縦断面図である。
【
図5】第1実施形態に係るシート取出ピースの斜視図である。
【
図6】第1実施形態の作用を示す要部縦断面図である。
【
図7】第1実施形態の作用を示す要部縦断面図である。
【
図8】第2実施形態に係るシート取出ピースの縦断面図である。
【
図9】第2実施形態に係るシート取出ピースの平面図である。
【
図10】第2実施形態の作用を示す要部縦断面図である。
【
図11】第2実施形態の作用を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施形態を、
図1から
図11を用いて詳細に説明する。
[第1実施形態]
<第1実施形態の構成>
図1に示すように、第1実施形態のシートディスペンサ1(拭き取りシート収納容器)は業務用で、どちらもステンレス鋼板を素材とするディスペンサ本体2(容器本体)とリッド3(蓋)とからなっており、その内部にシートロール4が収納されている。
図2に示すように、シートロール4は、アルコールや除菌水等を含浸させた不織布を円筒状に巻いたものであり、多数枚(例えば、1000枚)の拭き取りシート5に分離するように一定の間隔でミシン目6が設けられている。拭き取りシート5は、先端5aがシートロール4の中心側からシートディスペンサ1の上方に引き出され、手指の皮膚の清浄や物品の拭き取り等に用いられる。
【0017】
図3に示すように、リッド3の上壁中央には取出ピース取付孔7が明けられており、この取出ピース取付孔7にシート取出ピース(シート取出部材)10が取り付けられている。シート取出ピース10は、シリコーンゴム(ゴム性状を有するシリコーン)を素材として圧縮成形や射出成形によって製造されており、
図4および
図5にも示すように、リッド3の下方から取出ピース取付孔7に嵌挿される円筒状の取出ピース本体11と、取出ピース本体11の下端に設けられた係止フランジ12と、取出ピース本体11の内周面11aに設けられた引出壁13とから構成されている。
【0018】
取出ピース本体11の外形は、下方に向けて外径が大きくなるテーパ部11bと、テーパ部11bの下端に連続する係止環部11cと、係止環部11cの下端に接続する嵌入部11dとからなっている。テーパ部11bの外径は、上端側が取出ピース取付孔7の径よりも小さく、下端側が取出ピース取付孔7の径よりも大きく設定されている。また、係止環部11cの外径はテーパ部11bの下端側の外径と同一に設定され、嵌入部11dの外径はテーパ部11bの上端側の外径と同一に設定されている。また、取出ピース本体11の上端には、一対の円弧状の切欠11eが180°の角度間隔で設けられている。
【0019】
係止フランジ12は、取出ピース本体11の下端から外周側に延設された環状部12aと、環状部12aの外縁から上方に延設された筒状部12bとからなっている。環状部12aは、その外径が取出ピース本体11の係止環部11cの外径よりも大きく設定されている。また、筒状部12bは、自由状態で上端が係止環部11cの下端とほぼ同一高さに設定されている。
【0020】
引出壁13は、取出ピース本体11の内周面11aの上端側と下端側とを結ぶかたちで設けられ、リッド3の平らな上面(すなわち、シート取出面3a)に対して所定の傾斜角度θ(本実施形態では、40°)をもって傾斜している。引出壁13の中央には真円の貫通孔が引出孔(引出開口)14として形成され、この引出孔14を通してシートディスペンサ1内の拭き取りシート5の先端5aが上方に引き出されている。引出孔14は、引出壁13に垂直に開口するとともに、通過する拭き取りシート5に対して十分な大きさの径を有している。なお、前述した切欠11eは、引出壁13の両側方に位置している。
【0021】
<第1実施形態の作用>
シートディスペンサ1を組み立てる際、作業者(あるいは、組立装置)は、シート取出ピース10をリッド3の下方から取出ピース取付孔7に押し込む。すると、取出ピース本体11は、テーパ部11bおよび係止環部11cが弾性変形(縮径)することで取出ピース取付孔7を通過し、嵌入部11dが取出ピース取付孔7に嵌り込み、リッド3の下面に係止フランジ12の筒状部12bが突き当たる。この際、テーパ部11bの上端を摘んで上方に引くことにより取出ピース本体11が上昇し、嵌入部11dの取出ピース取付孔7への嵌り込みがより確実に行われる。
【0022】
この状態でシート取出ピース10が開放されると、
図3に示すように、リッド3における取出ピース取付孔7の周囲が取出ピース本体11の係止環部11cと係止フランジ12の筒状部12bとによって弾性挟持された状態となる。次に、ディスペンサ本体2にシートロール4を納め、拭き取りシート5の先端5aをシート取出ピース10の引出孔14に通した後、リッド3をディスペンサ本体2にかぶせることによりシートディスペンサ1の使用準備が完了する。
【0023】
シートディスペンサ1から拭き取りシート5を取り出す場合、使用者は、
図6に示すように、シート取出ピース10の上部に突き出た先端5aを指20で摘み、拭き取りシート5を上方に引き上げる。この際、本実施形態では、取出ピース本体11の上端に一対の切欠11eが存在するため、使用者がシート取出ピース10の先端5aを指20で摘みやすくなっている。
【0024】
拭き取りシート5が上方に引き上げられると、引出壁13がリッド3の上面に対して傾斜しているため、引き上げ力の分力が
図6中に黒の矢印で示す方向に作用し、拭き取りシート5が引出壁13における引出孔14の辺縁に強く押し付けられる。これにより、取出ピース本体11がシリコーンゴムであることも相俟って、引出壁13との間には比較的大きな摩擦が生じ、拭き取りシート5には大きな通過抵抗が作用する。また、拭き取りシート5が引出孔14を通過した直後に屈曲するため、
図6中に矢印で示すように、拭き取りシート5では屈曲内側に比べて屈曲外側の方が大きな引張力が作用する。
【0025】
その結果、
図7(a)に示すように、拭き取りシート5が所定量引き出されてミシン目6が引出孔14を通過すると、先行する拭き取りシート5と後続の拭き取りシート5とは大きな引張力が作用する屈曲外側でミシン目6から分離し始める。
図7(b)に示すように、拭き取りシート5が更に引き出されると、先行する拭き取りシート5と後続の拭き取りシート5とは完全に分離し、過不足の無い長さの先端5aが突き出た状態で後続の拭き取りシート5が引出壁13に保持される。また、引出壁13が傾斜しているため、先行する拭き取りシート5と後続の拭き取りシート5とが分離した時点では、拭き取りシート5の先端5aがすでに引出孔14を通過しており、後続の拭き取りシート5がシートディスペンサ1内に落ち込むことがない。
【0026】
[第2実施形態]
<第2実施形態の構成>
第2実施形態においてもシートディスペンサ1の構成は第1実施形態とほぼ同様であるが、シート取出ピース10の形状が異なる。
図8に示すように、リッド3の上壁中央には正方形の取出ピース取付孔7が明けられており、
図9に示すように、この取出ピース取付孔7に平面視で正方形のシート取出ピース(シート取出部材)10が取り付けられている。シート取出ピース10も第1実施形態と同様にシリコーンゴムを素材としており、リッド3の下方から取出ピース取付孔7に嵌挿される角筒状の取出ピース本体11と、取出ピース本体11の下端に設けられた係止フランジ12と、取出ピース本体11の内側面11aに設けられた引出壁13とから構成されている。
【0027】
取出ピース本体11の外形は、下方に向けて幅が広くなるテーパ部11bと、テーパ部11bの下端に連続する係止部11cと、係止部11cの下端に接続する嵌入部11dとからなっている。テーパ部11bは、上端側が取出ピース取付孔7よりも小さく、下端側が取出ピース取付孔7よりも大きく設定されている。また、係止部11cはテーパ部11bの下端側と同一に設定され、嵌入部11dはテーパ部11bの上端側と同一寸法に設定されている。また、取出ピース本体11の上端には、一対の円弧状の切欠11eが180°の角度間隔で設けられている。
【0028】
係止フランジ12は、取出ピース本体11の下端から外周側に延設された平板部12aと、平板部12aの外縁から上方に延設された筒状部12bとからなっている。平板部12aは外寸が取出ピース本体11の係止部11cの外寸よりも大きく設定されている。また、筒状部12bは、自由状態で上端が係止部11cの下端とほぼ同一高さに設定されている。
【0029】
引出壁13は、取出ピース本体11の内側面11aを左右に結ぶかたちで設けられ、リッド3の上面(すなわち、シート取出面3a)に対して傾斜角度θ(本実施形態では、60°)をもって傾斜している。引出壁13の中央には真円の貫通孔が引出孔14として形成され、この引出孔14を通してシートディスペンサ1内の拭き取りシート5の先端5aが上方に引き出されている。引出孔14は、引出壁13に垂直に開口しており、通過する拭き取りシート5に対して十分な大きさの径を有している。なお、前述した切欠11eは引出壁13の両側方に位置している。また、引出壁13の上端と取出ピース本体11の内側面11aとは上部連結壁17によって連結され、引出壁13の下端と取出ピース本体11の内側面11aとは下部連結壁18によって連結されている。
【0030】
<第2実施形態の作用>
シートディスペンサ1から拭き取りシート5を取り出す場合、使用者は、
図10に示すように、シート取出ピース10の上部に突き出た先端5aを指20で摘み、拭き取りシート5を上方に引き上げる。この際、本実施形態でも、取出ピース本体11の上端に一対の切欠11eが存在するため、使用者がシート取出ピース10の先端5aを指20で摘みやすくなっている。
【0031】
拭き取りシート5が上方に引き上げられると、引出壁13がリッド3の上面に対して大きく傾斜しているため、引き上げ力の分力が
図10中に黒の矢印で示す方向に作用し、拭き取りシート5が引出壁13における引出孔14の辺縁に強く押し付けられる。これにより、取出ピース本体11がシリコーンゴムであることも相俟って、引出壁13との間に比較的大きな摩擦が生じ、拭き取りシート5には第1実施形態よりも大きな通過抵抗が作用する。また、拭き取りシート5が引出孔14を通過した直後に屈曲しているため、
図6中に矢印で示すように、拭き取りシート5には屈曲内側に比べて屈曲外側の方が大きな引張力が作用する。
【0032】
その結果、
図11(a)に示すように、拭き取りシート5が所定量引き出されてミシン目6が引出孔14を通過すると、先行する拭き取りシート5と後続の拭き取りシート5とは大きな引張力が作用する屈曲外側でミシン目6から分離し始める。
図11(b)に示すように、拭き取りシート5が更に引き出されると、先行する拭き取りシート5と後続の拭き取りシート5とは完全に分離し、過不足の無い長さの先端5aが突き出た状態で後続の拭き取りシート5が引出壁13に保持される。また、引出壁13が第1実施形態よりも大きい傾斜角度θをもって傾斜しているため、先行する拭き取りシート5と後続の拭き取りシート5とが分離し始める時点では、拭き取りシート5の先端5aがすでに引出孔14を通過しており、後続の拭き取りシート5がシートディスペンサ1内に落ち込むおそれが更に少なくなる。
【0033】
<実施形態の効果>
上記両本実施形態では上述した構成を採ったため、シートディスペンサ1からの拭き取りシート5の取り出しが一枚ずつ確実に行われ、一度に複数枚分の長さの拭き取りシート5が引き出されたり、後続の拭き取りシート5がシートディスペンサ1内に落ち込んだりすることがなくなる。また、引出孔14が十分な大きさの径を有する真円の貫通孔であるため、拭き取りシート5が引出孔14で引っ掛かったり、拭き取りシートに縒れや裂け等の損傷が生じなくなる。そして、長期にわたる使用で引出孔14の周辺が摩耗しても、シート取出ピース10が弾性に富むシリコーンゴム製であるため、その交換が容易に行える。
【0034】
さらに、両実施形態のシートディスペンサ1においては、シート取出ピース10を容易に着脱できることから、引出孔14の径や引出壁13の傾斜角度θの異なる複数のシート取出ピース10を設定しておけば、拭き取りシート5の厚みやサイズ、素材、水分やアルコールの含有量等に応じて適宜交換することができる。例えば、拭き取りシート5の厚みが小さい場合には、拭き取りシート5の表面が引出孔14の辺縁に十分な圧力をもって接するように、引出孔14の径が小さいシート取出ピース10を選択することができる。また、拭き取りシート5は水分やアルコールの含有量が多いほど滑りやすくなるため、十分な通過抵抗を確保すべく、引出孔14の径が小さい、あるいは傾斜角度θが大きいシート取出ピース10を選択することができる。
【0035】
下記表1に、種々の形状の取出口を有するディスペンサを使用した実験結果を示す。実験には、除菌液含浸済みの1000枚シートがミシン目でつながったロール状のウェットシートを使用した。実験方法としては、このロール状のウェットシートをディスペンサ内に入れ、1枚目のシートの先端をロール中心部からリッドにある引出孔に貫通させて引出す。リッドを閉じ、個々のシートが分離するかどうかを検証するためにシートを垂直上方向に引出していく。1回のテストにおいて、シートを引出すために取出口からシートを1回引っ張り、これを「1回」とカウントする。かかるテストを800回繰り返す。800回引っ張った場合、各テストで1枚のシートが分離され、最終的に800枚のシートが取り出されることが望ましい結果である。1回のテストで1枚のシートが分離された場合には「成功」とした。もし、1回のテストで2枚以上のシートが引き出された場合、ローピングが起こったということであり、テストは「失敗」とした。もしシートが取出口により損傷を受けたり、引出しの際に引き延ばされたり、変形した場合にも、「失敗」とした。
【0036】
【0037】
比較例1は、X形状スリットを有するプラスチック製のシート取出部材とした。本比較例1においては、800回、取出口からシートを引出したところ、2枚以上連続して引出されて結果が失敗となった回数は88回であった。すなわち、「ローピング」が起こったことを示し、毎回の引出しで必ずしも1枚ずつシートを得ることができなかった。X形状の取出口で満足のいく成功率を達成するためには、ミシン目でシートの分離を促すために取出口のスリットが十分に狭いものでなければならない。スリットが十分に狭い場合、ある程度良好なシートの分離率が得られることが期待できるが、シート上に大きな摩擦を生じ、シートを引出しにくくなる。また、摩擦が大きいと、シートが延伸し過ぎたり、変形が生じたりしやすくなる。本比較例1では、800回のテスト中、シートの変形が64回起こった。このような変形により、シート間の分離が早くに起こってしまう可能性があり、その結果、後続のシートが収納容器の内部に落下してしまう可能性もある。
【0038】
比較例2は、円形状の取出孔を有するシリコーン製のシート取出部材であって、シート取出面と引出壁とが略平行に配置されたものとした。本比較例2では、シートのストレッチや変形を防ぐことができた。しかしながら、1枚ずつシートを分離する性能に劣る結果となった。また、先端のシートがうまく分離しなかった場合、後続のシートがディスペンサ本体内に落下することもあった。これは、取出孔のへりでミシン目に均等にシートを分離する力が加わるため、不均衡な力が加わった場合と異なり、シートの一部が取出孔の外側に残ることがなかったと考えられる。
【0039】
実施例としては、上記第1実施形態として説明したシート取出部材と同様の形状をして、シート取出面と引出壁とのなす角度が10°から90°のものを使用した。本実施例においては、シートが引っかかって過度の引っ張りや変形を生じることなく、また後続シートがディスペンサ本体内に落下することなく、継続して良好なシート間の分離結果を達成することができた。特にシート取出面と引出壁とのなす角度が20°から90°の範囲では、シートが2枚以上引き出された回数が少なくなり、良好な結果が得られた。また、シート取出面と引出壁とのなす角度が40°から90°の範囲では、シートが2枚以上引き出された回数が更に少なくなり、更に良好な結果となった。また、本実施例では比較例2とは異なり、取出孔サイズを変更しても良好な結果が得られた。取出孔サイズは通常、シートに用いられる材料、材質の条件等に応じて決定される。しかしながら、本発明は取出孔サイズやシート材料等の変動にも柔軟に対応することができ、良好な性能を維持することができる。
【0040】
シート取出面と引出壁の最適な角度は用途に応じても変動する。しかし、本発明の原理は同じであり、90°の角度であってもシートに不均衡な力が加わるため、本発明の効果は達成される。角度が90°の場合、取出孔からはみ出るシートの先端も90°の角度で真横に突き出ていることになるので、例えば取出し面が50°の角度の場合と比較すると、使用に際しては極端な角度と感じる可能性がある。これは用途やミシン目の強度/弱さに応じて好ましい場合もあれば好ましくない場合もある。角度が大きければ、結果の信頼度も増加することが示されたように、角度が大きければ大きいほど、より大きな力/摩擦が加わることになるので、ミシン目の強度が強ければ、角度は大きくするほうが好ましい。ディスペンサ本体を水平面上に載置し、シートを垂直に上に引っ張るような一般的な用途を想定する場合には、取出孔の角度は40°から70°の間が好ましい。このような範囲では広い範囲のミシン目の強度において良好な結果を達成できる。
【0041】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれに限られるものではない。例えば、両実施形態は本発明をウェットティッシュを収容する業務用のシートディスペンサに装着されるシート取出ピースに適用したものであるが、乾式の拭き取りシートを収容する拭き取りシート収納容器や、一般家庭で用いられる比較的小型のウェットティッシュケース等にも適用できる。また両実施形態ではシート取出ピース全体をシリコーンゴム製としたが、例えば硬質樹脂製の蓋に傾斜した引出壁を形成し、その引出壁に引出孔を有するシリコーンゴム製の引出ピースを装着してもよい。
【0042】
また、引出孔を円形以外の形状、例えば一文字形、十文字形、星形、Y字形等としてもよいし、引出孔が形成される部材をシリコーンゴム以外の素材、例えば、天然ゴムや各種合成ゴム、各種樹脂等で製造してもよい。また、拭き取りシート収納容器は、円筒形状以外、例えば、半円筒形状や角筒形状、直方体形状等としてもよい。また、拭き取りシート収納容器は、ステンレス鋼板以外の撓みにくい素材、例えば、硬質樹脂や木材等で製造してもよいし、フォイルや樹脂袋等の容易に変形する素材で製造してもよく、更には防水加工を施した厚紙等で製造してもよい。その他、引出壁等の具体的形状についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ウェットティッシュ等の収納に供される拭き取りシート収納容器に効果的に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 シートディスペンサ(拭き取りシート収納容器)
2 ディスペンサ本体
3 リッド
3a シート取出面
5 拭き取りシート
6 ミシン目
7 取出ピース取付孔
10 シート取出ピース
13 引出壁
14 引出孔(引出開口)
θ 傾斜角度
【要約】
【課題】拭き取りシートの円滑な取り出しを実現する拭き取りシート取出部材および拭き取りシート収納容器を提供する。
【解決手段】引出壁13は、取出ピース本体11の内周面11aの上端側と下端側とを結ぶかたちで設けられ、リッド3の上面に対して傾斜角度θをもって傾斜している。引出壁13の中央には真円の貫通孔が引出孔14として形成され、この引出孔14を通してシートディスペンサ1内の拭き取りシート5が上方に引き出される。引出孔14は、引出壁13に垂直に開口しており、通過する拭き取りシート5に対して十分な大きさの径を有している。
【選択図】
図4