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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】耐熱性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20220208BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20220208BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CER
C08L39/00
C08L55/02
C08L25/12
C08L51/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020163023
(22)【出願日】2020-09-29
(62)【分割の表示】P 2017519378の分割
【原出願日】2016-05-18
(65)【公開番号】P2021014582
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2015102064
(32)【優先日】2015-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
(72)【発明者】
【氏名】進藤 有一
(72)【発明者】
【氏名】黒川 欽也
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-017137(JP,A)
【文献】特開平06-001808(JP,A)
【文献】特開平05-271502(JP,A)
【文献】特開2001-329021(JP,A)
【文献】特表2004-502817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08J 3/00 - 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイミド系共重合体(A)と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂から選ばれた少なくとも2種類の樹脂(B)を、押出機で溶融混練および脱揮押出して揮発性成分の含有量を500μg/g未満にする工程を備え、前記脱揮押出は、シリンダー温度を260℃~320℃に設定した状態で行われ耐熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記脱揮押出は、前記溶融混練によって得られた溶融樹脂中に水を添加した状態で行われる、請求項に記載の耐熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記脱揮押出は、シリンダー温度を280℃~320℃に設定した状態で行われる、請求項又は請求項に記載の耐熱性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOCが低減された耐熱性樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂はアクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを主成分とする熱可塑性樹脂であり、その優れた機械的強度、外観、耐薬品性、成形性等を活かし、自動車、家電、OA機器、住宅建材、日用品などに幅広く使用されている。一方、自動車の内装材のように耐熱性が要求される用途では、耐熱性が不足することがある。耐熱性を高める技術としては特許文献1~4があり、マレイミド系共重合体やαメチルスチレン系共重合体等が使用される。また、近年、自動車の内装材から放散するVOC(Volatile Organic Compoundsの略語)の低減が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-125242号公報
【文献】特開平7-286086号公報
【文献】特開平7-316384号公報
【文献】WO2010/082617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、VOCの低減された耐熱性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)マレイミド系共重合体(A)と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂から選ばれた少なくとも1種類の樹脂(B)を含有し、揮発性成分の含有量が500μg/g未満である耐熱性樹脂組成物。
(2)マレイミド系共重合体(A)の含有量が5~45質量%、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂から選ばれた少なくとも1種類の樹脂(B)の含有量が95~55質量%である(1)に記載の耐熱性樹脂組成物。
(3)マレイミド系共重合体(A)が、マレイミド系単量体単位40~70質量%、スチレン系単量体単位20~60質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0~10質量%を有する(1)または(2)に記載の耐熱性樹脂組成物。
(4)荷重たわみ温度が85℃以上である(1)~(3)のいずれか1項に記載の耐熱性樹脂組成物。
(5)VDA277に準拠して測定した全VOC量が50μgC/g未満である請求項1~4のいずれか1項に記載の耐熱性樹脂組成物。
(6) (1)~(5)のいずれか1項に記載の耐熱性樹脂組成物を成形して得られる成形体。
(7)マレイミド系共重合体(A)と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂から選ばれた少なくとも1種類の樹脂(B)を、押出機で溶融混練および脱揮押出して揮発性成分の含有量を500μg/g未満にする工程を備える、耐熱性樹脂組成物の製造方法。
(8)前記脱揮押出は、前記溶融混練によって得られた溶融樹脂中に水を添加した状態で行われる、(7)に記載の耐熱性樹脂組成物の製造方法。
(9)前記脱揮押出は、シリンダー温度を240℃以上に設定した状態で行われる、(7)又は(8)に記載の耐熱性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の樹脂組成物は、耐熱性に優れ、機械的強度、外観、耐薬品性、成形性等の物性バランスに優れることから、自動車、家電、OA機器、住宅建材、日用品等に有用である。VOCが低減されていることから、特に自動車の内装材用に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<用語の説明>
本願明細書において、例えば、「A~B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0008】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0009】
本発明の樹脂組成物は、マレイミド系共重合体(A)と、SAN樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂から選ばれた少なくも1種類の樹脂(B)を、押出機で溶融混練および脱揮押出することで得られる。
【0010】
マレイミド系共重合体(A)とは、マレイミド系単量体単位、スチレン系単量体単位を有する共重合体である。本発明においては、更に不飽和ジカルボン酸無水物系単量体単位、アクリロニトリル系単量体単位を有することができる。
【0011】
マレイミド系単量体単位とは、例えば、N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-アルキルマレイミド、及びN-フェニルマレイミド、N-クロルフェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-トリブロモフェニルマレイミド等である。これらの中でも、N-フェニルマレイミドが好ましい。マレイミド系単量体単位は、単独でも良いが2種類以上を併用しても良い。マレイミド系単量体単位については、例えば、マレイミド系単量体からなる原料を用いることができる。または、不飽和ジカルボン酸単量体単位からなる原料をアンモニア又は第1級アミンでイミド化することによって得ることができる。
【0012】
スチレン系単量体単位とは、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等である。これらの中でもスチレンが好ましい。スチレン系単量体単位は、単独でも良いが2種類以上を併用してもよい。
【0013】
不飽和ジカルボン酸無水物系単量体単位とは、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、アコニット酸無水物等である。これらの中でもマレイン酸無水物が好ましい。不飽和ジカルボン酸無水物系単量体単位は、単独でも良いが2種類以上を併用してもよい。
【0014】
アクリロニトリル系単量体単位とは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等である。これらの中でもアクリロニトリルが好ましい。アクリロニトリル系単量体単位は単独でも良いが2種類以上を併用してもよい。
【0015】
マレイミド系共重合体(A)のマレイミド系単量体単位は40~70質量%、スチレン系単量体単位は20~60質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位は0~10質量%であることが好ましい。更に好ましくは、マレイミド系単量体単位は45~60質量%、スチレン系単量体単位は35~55質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位は0~5質量%である。構成単位が上記範囲内であれば、マレイミド系共重合体(A)の流動性、耐熱性、熱安定性が優れる。また、マレイミド系単量体単位、スチレン系単量体単位が上記範囲内であれば、後述するABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂から選ばれた少なくも1種類の樹脂(B)との相溶性が向上し、樹脂組成物の衝撃強度が優れる。マレイミド系単量体単位、スチレン系単量体単位は、13C-NMRによって測定した値である。不飽和ジカルボン酸無水物系単量体単位は滴定法によって測定した値である。
【0016】
樹脂組成物の耐熱性を効率的に向上させるという点で、マレイミド系共重合体(A)のガラス転移温度は175℃~200℃であることが好ましい。ガラス転移温度はDSCにて測定される値であり、下記記載の測定条件における測定値である。
装置名:セイコーインスツルメンツ(株)社製 Robot DSC6200
昇温速度:10℃/分
【0017】
マレイミド系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は8万~16万であることが好ましく、より好ましくは9万~15万である。マレイミド系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であれば、樹脂組成物の衝撃強度が優れる。マレイミド系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を制御するには、重合温度、重合時間、および重合開始剤添加量の調整に加えて、溶剤濃度および連鎖移動剤添加量を調整する等の方法がある。マレイミド系共重合体(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定されるポリスチレン換算の値であり、次の条件で測定した。
装置名:SYSTEM-21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel MIXED-Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL社製)を用いて作製した。
【0018】
マレイミド系共重合体(A)の製造方法としては、公知の方法が採用できる。例えば、スチレン系単量体、マレイミド系単量体、不飽和ジカルボン酸無水物系単量体、その他の共重合可能な単量体からなる単量体混合物を共重合させる方法がある。スチレン系単量体、不飽和ジカルボン酸無水物系単量体、その他の共重合可能な単量体からなる単量体混合物を共重合させた後、不飽和ジカルボン酸無水物系単量体単位の一部をアンモニア又は第1級アミンを反応させてイミド化し、マレイミド系単量体単位に変換させる方法がある(以下、「後イミド化法」と称する)。
【0019】
マレイミド系共重合体(A)の重合様式は、例えば、溶液重合、塊状重合等がある。分添等を行いながら重合することで、共重合組成がより均一なマレイミド系共重合体(A)を得られるという観点から、溶液重合が好ましい。溶液重合の溶媒は、副生成物が出来難く、悪影響が少ないという観点から非重合性であることが好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等であり、マレイミド系共重合体(A)の脱揮回収時における溶媒除去の容易性から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。重合プロセスは、連続重合式、バッチ式(回分式)、半回分式のいずれも適用できる。重合方法は、特に限定されないが、簡潔なプロセスによって生産性よく製造することが可能である観点から、ラジカル重合が好ましい。
【0020】
溶液重合或いは塊状重合では、重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができ、重合温度は80~150℃の範囲であることが好ましい。重合開始剤は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル等のアゾ系化合物、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル-3,3-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブチレート等のパーオキサイド類であり、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合の反応速度や重合率制御の観点から、10時間半減期が70~120℃であるアゾ化合物や有機過酸化物を用いるのが好ましい。重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、全単量体単位100質量%に対して0.1~1.5質量%使用することが好ましく、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。重合開始剤の使用量が0.1質量%以上であれば、十分な重合速度が得られるため好ましい。重合開始剤の使用量が1.5質量%以下であれば、重合速度が抑制できるため反応制御が容易になり、目標分子量を得ることが簡単になる。連鎖移動剤は、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、チオグリコール酸エチル、リモネン、ターピノーレン等がある。連鎖移動量の使用量は、目標分子量が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、全単量体単位100質量%に対して0.1~0.8質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.15~0.5質量%である。連鎖移動剤の使用量が0.1質量%~0.8質量%であれば、目標分子量を容易に得ることができる。
【0021】
マレイミド系共重合体(A)のマレイミド系単量体単位の導入は、マレイミド系単量体を共重合させる方法と後イミド化法がある。後イミド化法の方が、マレイミド系共重合体(A)中の残存マレイミド系単量体量が少なくなるので好ましい。後イミド化法とは、スチレン系単量体、不飽和ジカルボン酸無水物系単量体、その他の共重合可能な単量体からなる単量体混合物を共重合させた後、不飽和ジカルボン酸無水物系単量体単位の一部をアンモニア又は第1級アミンと反応させてイミド化し、マレイミド系単量体単位に変換させる方法である。第1級アミンとは、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、デシルアミン等のアルキルアミン類及びクロル又はブロム置換アルキルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン等の芳香族アミンがあり、この中でもアニリンが好ましい。これらの第1級アミンは、単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。後イミド化の際、第1級アミンと不飽和ジカルボン酸無水物単体量体単位との反応において、脱水閉環反応を向上させるために触媒を使用することができる。触媒は、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の第3級アミンである。後イミド化の温度は、100~250℃であることが好ましく、より好ましくは120~200℃である。イミド化反応の温度が100℃以上であれば、反応速度が向上し、生産性の面から好ましい。イミド化反応の温度が250℃以下であれば、マレイミド系共重合体(A)の熱劣化による物性低下を抑制できるので好ましい。
【0022】
マレイミド系共重合体(A)の溶液重合終了後の溶液或いは後イミド化終了後の溶液から、溶液重合に用いた溶媒や未反応の単量体などの揮発成分を取り除く方法(脱揮方法)は、公知の手法が採用できる。例えば、加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機を用いることができる。脱揮された溶融状態のマレイミド系共重合体(A)は、造粒工程に移送され、多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状に加工することができる。
【0023】
マレイミド系共重合体(A)中に残存する単量体と溶媒の含有量の合計は、2000μg/g未満であることが好ましく、より好ましくは、1500μg/g未満である。残存する単量体と溶媒の含有量は、重合条件や脱揮条件により調整することができ、ガスクロマトグラフィーを用いて定量された値である。
【0024】
樹脂組成物中のマレイミド系共重合体(A)の含有量は5~45質量%であることが好ましく、より好ましくは7~35質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。マレイミド系共重合体(A)の含有量が少なすぎると樹脂組成物の耐熱性が十分に向上しないことがある。多すぎると、流動性が低下し、成形性が悪化することがある。
【0025】
樹脂Bは、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂から選ばれ、1種類でも良く、2種類以上を使用することもできる。
【0026】
ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂は、ゴム状重合体に、少なくともスチレン系単量体及びアクリロニトリル系単量体をグラフト共重合させたグラフト共重合体である。例えば、ゴム状重合体として、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴムを用いる場合はABS樹脂、アクリル酸ブチルやアクリル酸エチル等からなるアクリル系ゴムを用いる場合はASA樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体等のエチレン系ゴムを用いる場合はAES樹脂である。グラフト共重合時に、これらのゴム状重合体を2種類以上組合せて使用してもよい。
【0027】
ABS樹脂等のグラフト共重合体の製造法としては、公知の手法が採用できる。例えば、乳化重合や連続塊状重合による製造法が挙げられる。乳化重合による方法は、最終的な樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量を調整し易いことから好ましい。
【0028】
乳化重合によるグラフト共重合体の製造法は、ゴム状重合体のラテックスに、スチレン系単量体とアクリロニトリル系単量体を乳化グラフト共重合させる方法がある(以下、「乳化グラフト重合法」と称する)。乳化グラフト重合法により、グラフト共重合体のラテックスを得ることができる。
【0029】
乳化グラフト重合法では、水、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤を用い、重合温度は30~90℃の範囲であることが好ましい。乳化剤は、例えば、アニオン系界面活性剤、オニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等がある。重合開始剤は、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルエンゼンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、アゾビスブチロニトリル等のアゾ系化合物、鉄イオン等の還元剤、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート等の二次還元剤及びエチレンジアミン4酢酸2ナトリウム等のキレート剤等がある。連鎖移動剤は、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、チオグリコール酸エチル、リモネン、ターピノーレン等がある。
【0030】
グラフト共重合体のラテックスは、公知の方法により凝固し、グラフト共重合体を回収することができる。例えば、グラフト共重合体のラテックスに凝固剤を加えて凝固し、脱水機で洗浄脱水し、乾燥工程を経ることで粉末状のグラフト共重合体が得られる。
【0031】
乳化グラフト重合法によって得られた粉末状のグラフト共重合体中に残存する単量体の含有量は、15,000μg/g未満であることが好ましく、より好ましくは、8,000μg/g未満である。残存単量体の含有量は、重合条件によって調整することができ、ガスクロマトグラフィーを用いて定量された値である。
【0032】
乳化グラフト重合法によって得られるグラフト共重合体中のゴム状重合体の含有量は、耐衝撃性の観点から、40~70質量%であることが好ましく、より好ましくは45~65質量%である。ゴム状重合体の含有量は、例えば、乳化グラフト重合する際、ゴム状重合体に対するスチレン系単量体及びアクリロニトリル系単量体の使用比率によって調整することができる。
【0033】
乳化グラフト重合法によって得られるグラフト共重合体のゴム状重合体を除いた構成単位は、耐衝撃性や耐薬品性の観点から、スチレン系単量体単位65~85質量%、アクリロニトリル系単量体単位15~35質量%であることが好ましい。
【0034】
グラフト共重合体のゲル分は、粒子形状であることが好ましい。ゲル分とは、スチレン系単量体とアクリロニトリル系単量体がグラフト共重合したゴム状重合体の粒子であり、メチルエチルケトンやトルエン等の有機溶媒に不溶で遠心分離によって分離される成分である。ゴム状重合体の粒子内部に、スチレン-アクリロニトリル系共重合体が粒子状に内包されたオクルージョン構造を形成することもある。グラフト共重合体とスチレン-アクリロニトリル共重合体とを溶融ブレンドすると、ゲル分は、スチレン-アクリロニトリル共重合体の連続相の中に、粒子形状で分散相として存在する。ゲル分は、質量Wのグラフト共重合体をメチルエチレンケトンに溶解し、遠心分離機を用いて、20000rpmにて遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得て、真空乾燥後の乾燥した不溶分の質量Sから、ゲル分(質量%)=(S/W)×100の式で算出した値である。また、グラフト共重合体とスチレン-アクリロニトリル共重合体とを溶融ブレンドした樹脂組成物を同様に、メチルエチルケトンに溶解し、遠心分離することで、ゲル分を算出することができる。
【0035】
グラフト共重合体のゲル分の体積平均粒子径は、耐衝撃性及び成形品の外観の観点から、0.10~1.0μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.15~0.50μmである。体積平均粒子径は、グラフト共重合体とスチレン-アクリロニトリル共重合体とを溶融ブレンドした樹脂組成物のペレットから超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察を行い、連続相に分散した粒子の画像解析から算出した値である。体積平均粒子径は、例えば、乳化グラフト重合の際に使用するゴム状重合体のラテックスの粒子径によって調整することができる。ゴム状重合体のラテックスの粒子径は、乳化重合時に乳化剤の添加方法や水の使用量などで調整することができるが、好ましい範囲とするためには重合時間が長く生産性が低いので、0.1μm前後の粒子径のゴム状重合体を短時間で重合させ、化学的凝集法や物理的凝集法を用いてゴム粒子を肥大化する方法がある。
【0036】
グラフト共重合体のグラフト率は、耐衝撃性の観点から、10~100質量%であることが好ましく、より好ましくは20~70質量%である。グラフト率は、ゲル分(G)とゴム状重合体の含有量(RC)より、グラフト率(質量%)=[(G-RC)/R]×100で算出した値である。グラフト率は、ゴム状重合体の粒子が、ゴム状重合体の単位質量当たりに含有するグラフトによって結合しているスチレン-アクリロニトリル系共重合体及び粒子に内包されるスチレン-アクリロニトリル系共重合体の量を表す。グラフト率は、例えば、乳化グラフト重合する際、単量体とゴム状重合体の比率、開始剤の種類及び量、連鎖移動剤量、乳化剤量、重合温度、仕込み方法(一括/多段/連続)、単量体の添加速度などにより調整することができる。
【0037】
グラフト共重合体のトルエン膨潤度は、耐衝撃性と成形品外観の観点から、5~20倍であることが好ましい。トルエン膨潤度は、ゴム状重合体の粒子の架橋度を表し、グラフト共重合体をトルエンに溶解し、不溶分を遠心分離或いはろ過によって分離し、トルエンで膨潤した状態の質量と真空乾燥によってトルエンを除去した乾燥状態の質量比から算出される。トルエン膨潤度は、例えば、乳化グラフト重合する際に使用するゴム状重合体の架橋度の影響を受け、これはゴム状重合体の乳化重合時の開始剤、乳化剤、重合温度、ジビニルベンゼン等の多官能単量体の添加などによって調整することができる。
【0038】
SAN樹脂とは、スチレン系単量体単位とアクリロニトリル系単量体単位を有する共重合体であり、例えば、スチレン-アクリロニトリル共重合体がある。
【0039】
SAN樹脂のその他の共重合可能な単量体として、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリル酸ブチルやアクリル酸エチル等のアクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸系単量体、アクリル酸等のアクリル酸系単量体、N-フェニルマレイミド等のN-置換マレイミド系単量体を用いることができる。
【0040】
SAN樹脂の構成単位は、スチレン系単量体単位60~90質量%、シアン化ビニル単量体単位10~40質量%であることが好ましく、より好ましくは、スチレン系単量体単位65~80質量%、シアン化ビニル単量体単位20~35質量%である。構成単位が上記範囲内であれば、得られる樹脂組成物の衝撃強度と流動性のバランスに優れる。スチレン系単量体単位、シアン化ビニル単量体単位は13C-NMRによって測定した値である。
【0041】
SAN樹脂の製造方法としては、公知の方法が採用できる。例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等により製造することができる。反応装置の操作法としては、連続式、バッチ式(回分式)、半回分式のいずれも適用できる。品質面や生産性の面から、塊状重合或いは溶液重合が好ましく、連続式であることが好ましい。塊状重合或いは溶液重合の溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等がある。
【0042】
SAN樹脂の塊状重合或いは溶液重合では、重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができ、重合温度は120~170℃の範囲であることが好ましい。重合開始剤は、例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート等のアルキルパーオキサイド類、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のパーオキシカーボネート類、N,N'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N'-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等があり、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。連鎖移動剤は、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、チオグリコール酸エチル、リモネン、ターピノーレン等がある。
【0043】
SAN樹脂の重合終了後の溶液から、未反応の単量体や溶液重合に用いた溶媒などの揮発成分を取り除く脱揮方法は、公知の手法が採用できる。例えば、予熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機を用いることができる。脱揮された溶融状態のSAN樹脂は、造粒工程に移送され、多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状に加工することができる。
【0044】
SAN樹脂中に残存する単量体と溶媒の含有量の合計は、2000μg/g未満であることが好ましく、より好ましくは、1500μg/g未満である。残存する単量体と溶媒の含有量は、脱揮条件により調整することができ、ガスクロマトグラフィーを用いて定量された値である。
【0045】
SAN樹脂の重量平均分子量は、樹脂組成物の耐衝撃性と成形性の観点から、50,000~250,000であることが好ましく、より好ましくは70,000~200,000である。SAN樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、THF溶媒中で測定されるポリスチレン換算の値であり、マレイミド系共重合体(A)と同様の方法で測定した値である。重量平均分子量は、重合時の連鎖移動剤の種類及び量、溶媒濃度、重合温度、重合開始剤の種類及び量によって調整することができる。
【0046】
樹脂Bとして、例えば、乳化重合法によって得られた粉末状のABS樹脂と、連続式の塊状重合法によって得られたペレット状のSAN樹脂の2種類を使用する方法が挙げられる。また、乳化重合法によって得られた粉末状のABS樹脂と、連続式塊状重合によって得られたペレット状のSAN樹脂を一旦、押出機等で溶融ブレンドし、ペレット状のABS樹脂としたものを使用する方法が挙げられる。
【0047】
押出機を用いて、マレイミド系共重合体(A)と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂から選ばれた少なくも1種類の樹脂(B)を溶融混練および脱揮押出する方法は、公知の方法が採用できる。押出機は公知の装置を使用することができ、例えば、二軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、二軸ロータ付きの連続混練機などが挙げられる。噛み合い形同方向回転二軸スクリュー押出機が、一般的に広く使用されており、好適に用いることができる。また、これらの押出機を複数組み合わせて使用することもできる。
【0048】
押出機は、マレイミド系共重合体(A)と樹脂(B)を溶融混練するための混練部と少なくとも1つの脱揮部から構成される。押出機に供給されたマレイミド系共重合体(A)と樹脂(B)は、まず、混練部にて溶融され、均一な組成に混練される。混練部は、ニーディングディスク等の公知のミキシングエレメントを組合せて構成される。混練部の下流には、上流側に溶融樹脂を押し戻す作用のエレメントを使用し、混練部を充満状態にすることが混練性の観点から好ましい。当該エレメントとしては、例えば、逆リードフルフライト、逆ずらしニーディング、シールリングなどが挙げられる。
【0049】
混練部で溶融混練された耐熱性樹脂組成物は、溶融状態で脱揮部に搬送され、真空ベントによって揮発性成分が脱揮される。脱揮された溶融状態の耐熱性樹脂組成物は、多孔ダイからストランド状に押出され、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状の耐熱性樹脂組成物が得られる。
【0050】
脱揮押出の方法として、脱揮部の前に水を添加する注水脱揮法は、脱揮効率に優れることから好ましい。例えば、混練部でマレイミド系共重合体(A)と樹脂(B)を溶融混練した後、さらに混練部を設け、水を溶融樹脂中に均一に混練分散させ、上流の脱揮部で水と共に揮発性成分を脱揮する方法が挙げられる。水を添加および混練する混練部も同様に充満状態とすることが好ましい。水の添加量は、樹脂組成物に対して、0.05~2.0質量%であることが好ましい。また、マレイミド系共重合体(A)と樹脂(B)の含水分も脱揮効率の改善に有効に作用するが、多すぎると押出機の運転上問題となることもある。
【0051】
押出機の混練部と脱揮部のシリンダー温度は、240℃以上に設定することが好ましく、より好ましくは、260℃以上であり、さらに好ましくは280℃以上である。シリンダー温度を高く設定することで、脱揮効率が高くなる。特に、マレイミド系共重合体を用いた耐熱性樹脂組成物は熱安定性に優れることから、シリンダー温度を高く設定することで、揮発性成分を低減することができる。一方、αメチルスチレン系共重合体を用いた耐熱性樹脂組成物は熱安定性に劣るため、シリンダー温度を高く設定すると、熱分解により生成したαメチルスチレンが多く含有する。また、シリンダー温度は、320℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下である。脱揮部の圧力は、水を添加しない場合は10mmHg以下、水を添加する場合は40mmHg以下に設定することが好ましい。
【0052】
耐熱性樹脂組成物中の揮発性成分の含有量は、500μg/g未満であり、好ましくは400μg/g未満である。揮発性成分とは、マレイミド系共重合体(A)、α-メチルスチレン系共重合体、及び樹脂(B)に由来する単量体、溶媒成分であって、当初から残存する単量体、溶媒成分に由来する物や、熱分解によって生成する単量体成分に由来する物がある。揮発性成分の含有量が多すぎると、成形体から放散するVOC量が増加することがある。
【0053】
押出機に供給されるマレイミド系共重合体(A)及び樹脂(B)の配合から計算される揮発性成分の含有量は、3,000μg/g未満であることが好ましく、更に好ましくは2,700μg/g未満である。押出前の含有量が多すぎると、樹脂組成物中の含有量の低減が困難になることがある。
【0054】
樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量は、10~20質量%であることが好ましい。少なすぎると耐衝撃性が低下することがあり、多すぎると剛性や荷重たわみ温度が低下することがある。
【0055】
樹脂組成物からゲル分を分離した連続相中のアクリロニトリル系単量体単位は、15~35質量%であることが好ましく、より好ましくは20~30質量%である。少なすぎると、耐衝撃性が低下することがあり、多すぎると流動性が低下することがある。樹脂組成物をメチルエチルケトンに溶解し、遠心分離によってゲル分を不溶分として分離し、デカンテーションによって得られた上澄み液をメタノール析出することで連続相の成分が得られる。
【0056】
樹脂組成物の荷重たわみ温度は、JIS K 7191-1、-2に準拠し、フラットワイズ法、1.8MPa応力で求めた。荷重たわみ温度は、85℃以上であることが好ましく、より好ましくは、90℃以上である。荷重たわみ温度が高いほど、適用できる部材が増える。荷重たわみ温度は、組成物中のマレイミド系共重合体(A)の含有量やゴム状重合体の含有量などによって調整することができる。
【0057】
樹脂組成物のVDA277に準拠して測定された全VOC量は、50μgC/g未満であることが好ましく、より好ましくは40μgC/g未満、更に好ましくは30μgC/g未満である。VDA277は、ドイツ自動車工業会で規格化されたVOC測定方法で、ヘッドスペースガスクロマトグラフを用いて全VOC量を測定する方法である。成形体から10~25mgの試料を採取して細かく砕き、バイアル瓶にいれて密閉する。120℃で5時間加熱後、ヘッドスペースサンプラーでバイアル瓶内部の空気を捕集し、ガスクロマトグラフで分析する。ガスクログラムの全ピーク面積からアセトン換算し、さらに、炭素換算することで全VOC量を算出する。単位は、サンプル1g当たりの炭素の重量μgを意味する。
【0058】
耐熱性樹脂組成物には、本発明の効果を損ねない範囲で、その他の樹脂成分、耐衝撃改質材、流動性改質材、硬度改質材、酸化防止剤、無機充填剤、艶消し剤、難燃剤、難燃助剤、ドリップ防止剤、摺動性付与剤、放熱材、電磁波吸収材、可塑剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌剤、抗カビ剤、帯電防止剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料、染料等を配合してもよい。
【0059】
耐熱性樹脂組成物の成形方法は、公知の方法が採用できる。例えば、射出成形、シート押出成形、真空成形、ブロー成形、発泡成形、異型押出成形等が挙げられる。成形時には、通常、熱可塑性樹脂組成物を200~280℃に加熱した後、加工されるが、210~270℃であることが好ましい。成形品は、自動車、家電、OA機器、住宅建材、日用品等に用いることができる。本発明の耐熱性樹脂組成物は、熱安定性に優れることから、高い温度で成形しても揮発性成分の含有量は大きく変化しない。一方、α-メチルスチレン系共重合体を用いた耐熱性樹脂組成物では、α-メチルスチレン系共重合体の熱分解により、成形機内の樹脂温度と滞留時間に応じて、α-メチルスチレンが生成し、成形体中に多く含有する。
【実施例
【0060】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<マレイミド系共重合体(A-1)の製造例>
攪拌機を備えた容積約25Lのオートクレーブ中にスチレン65質量部、無水マレイン酸7質量部、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.3質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、無水マレイン酸28質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン-無水マレイン酸共重合体のポリマー溶液を得た。次に、ポリマー溶液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。イミド化反応後のポリマー溶液をベントタイプスクリュー式押出機に供給し、揮発性成分を除去し、ペレット形状のマレイミド系共重合体(A-1)を得た。マレイミド系共重合体中の揮発性成分の含有量は、スチレンが990μg/gであった。構成単位は、スチレン単位が51質量%、N-フェニルマレイミド単位が48質量%、無水マレイン酸単位が1質量%であった。DSCにより測定したガラス転移温度は、186℃であった。また、重量平均分子量は、101,000であった。
【0062】
<マレイミド系共重合体 A-2の製造例>
攪拌機を備えた容積約25Lのオートクレーブ中にスチレン60質量部、無水マレイン酸8質量部、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、無水マレイン酸32質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、更に1時間反応させてスチレン-無水マレイン酸共重合体のポリマー溶液を得た。次に、ポリマー溶液にアニリン37質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。イミド化反応後のポリマー溶液をベントタイプスクリュー式押出機に供給し、揮発性成分を除去し、ペレット形状のマレイミド系共重合体(A-1)を得た。マレイミド系共重合体中の揮発性成分の含有量は、スチレンが740μg/gであった。構成単位は、スチレン単位が46質量%、N-フェニルマレイミド単位が53質量%、無水マレイン酸単位が1質量%であった。DSCにより測定したガラス転移温度は、197℃であった。また、重量平均分子量は、131,000であった。
【0063】
<ABS樹脂の製造例>
ABS樹脂は、乳化グラフト重合法にて作製した。攪拌機を備えた反応缶中に、ポリブタジエンラテックス97質量部(固形分濃度50質量%、平均粒子径が0.3μm)、スチレン含有量24質量%のスチレン-ブタジエンラテックス12質量部(固形分濃度70質量%、平均粒子径が0.5μm、)、ステアリン酸ソーダ1質量部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2質量部、テトラソジウムエチレンジアミンテトラアセチックアシッド0.01質量部、硫酸第一鉄0.005質量部、及び純水200部を仕込み、温度を50℃に加熱した。ここにスチレン75質量%及びアクリロニトリル25質量%の単量体混合物43質量部、t-ドデシルメルカプタン0.2質量部、t-ブチルパーオキシアセテート0.06質量部を5時間で連続的に分割添加した。分割添加終了後、ジイソプロピルエンゼンパーオキサイドを0.04質量部加え、70℃でさらに2時間かけて重合を完結させ、ABS樹脂のラテックスを得た。得られたラテックスにイルガノックス1076(チバスペシャリティケミカル社製)を0.3部添加した後、硫酸マグネシウムと硫酸を用い、凝固時のスラリーのpHが6.8となるよう凝固を行い、洗浄脱水後、乾燥することで粉末状のABS樹脂を得た。原料の配合比より、ゴム状重合体含有量は57質量%である。ゴム状重合体を除いた構成単位は、NMRによって測定し、スチレン単位が75質量%、アクリロニトリル単位が25質量%であった。樹脂組成物とした後の透過型電子顕微鏡の観察より、ABS樹脂は粒子状に分散しており、体積平均粒子径は0.4μmであった。ABS樹脂中の揮発性成分の含有量は、スチレンが6,000μg/gで、アクリロニトリルは検出下限(30μg/g)未満であった。
【0064】
<SAN樹脂の製造例>
SAN樹脂は、連続式の塊状重合にて作製した。反応器として完全混合槽型撹拌槽を1基使用し、20Lの容量で重合を行った。スチレン60質量%、アクリロニトリル22質量%、エチルベンゼン18質量%の原料溶液を作製し、反応器に6.5L/hの流量で連続的に供給した。また、原料溶液に対して、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを160ppm、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタン400ppmの濃度となるよう、原料溶液の供給ラインに連続的に添加した。反応器の反応温度は145℃となるよう調整した。反応器から連続的に取り出されたポリマー溶液は、予熱器付き真空脱揮槽に供給され、未反応のスチレン及びアクリロニトリル、エチルベンゼンを分離した。脱揮槽内のポリマー温度が225℃となるように予熱器の温度を調整し、脱揮槽内の圧力は0.4kPaとした。ギヤーポンプにより真空脱揮槽からポリマーを抜出し、ストランド状に押出して冷却水にて冷却後、切断してペレット状のSAN樹脂を得た。SAN樹脂中の揮発性成分の含有量は、スチレンが680μg/g、アクリロニトリルが60μg/g、エチルベンゼンが750μg/gであった。構成単位は、スチレン単位が74質量%、アクリロニトリル単位が26質量%であった。また、重量平均分子量は145,000であった。
【0065】
<αMS-AN共重合体>
αメチルスチレン-アクリロニトリル共重合体(αMS-AN共重合体)は、市販品を使用した。αMS-AN共重合体中の揮発性成分の含有量は、αメチルスチレンが1,150μg/g、アクリロニトリルが130μg/gであった。また、構成単位は、αメチルスチレン単位が67質量%、アクリロニトリル単位が33質量%であり、重量平均分子量は95,000であった。
【0066】
<実施例1~4、比較例1~3>
マレイミド系共重合体、ABS樹脂、SAN樹脂及びαメチルスチレン-アクリロニトリル共重合体を表1に示す配合で、押出機を用いて溶融混錬及び脱揮押出し、樹脂組成物を得た。押出機は、二軸スクリュー押出機(東芝機械株式会社製 TEM-35B)を使用した。押出機の構成として、まず各々の樹脂を溶融混練するための混練部を設け、次に水を添加及び混練するために混錬部を設け、その後に脱揮部を設けた。押出温度(混練部と脱揮部のシリンダー温度)は表1に示す設定温度とし、スクリュー回転数は250rpm、フィード量は30kg/hrで押出を行った。水はフィード量に対して、0.5質量%となるように添加し、脱揮部の圧力は10mmHgとした。得られた樹脂組成物について、以下の評価を行った。評価結果を表1、2に示す。
【0067】
(メルトマスフローレイト)
メルトマスフローレイトは、JIS K7210に基づき、220℃、98N荷重にて測定した。
【0068】
(ビカット軟化温度)
ビカット軟化点は、JIS K7206に基づき、50法(荷重50N、昇温速度50℃/時間)で試験片は10mm×10mm、厚さ4mmのものを用いて測定した。なお、測定機は東洋精機製作所社製HDT&VSPT試験装置を使用した。
【0069】
(荷重たわみ温度)
荷重たわみ温度は、JIS K 7191-1、-2に基づき、フラットワイズ法(1.8MPa応力)で、試験片は80mm×10mm、厚さ4mmのものを用いて測定した。なお、測定機は東洋精機製作所社製HDT&VSPT試験装置を使用した。
【0070】
(シャルピー衝撃強さ)
シャルピー衝撃強度は、JIS K7111-1に基づき、ノッチあり試験片を用い、打撃方向はエッジワイズを採用して測定した。なお、測定機は東洋精機製作所社製デジタル衝撃試験機を使用した。
【0071】
(揮発性成分の含有量)
マレイミド系共重合体、ABS樹脂、SAN樹脂、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、樹脂組成物中の揮発性成分の含有量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。スチレン(Sty)、α-メチルスチレン(AMS)、エチルベンゼン(EB)の測定では、前処理として、樹脂組成物を50mLの三角フラスコに0.3~0.4g秤量し、内部標準(シクロペンタノール)入りDMFを10mL加え溶解し、次の条件にて測定を行った。
装置名:GC-12A(株式会社島津製作所製)
検出器:FID
カラム:3mガラスカラム(充填剤:液相PEG20M+TCEP(15+5))
温度:INJ150℃ DET150℃ カラム 115℃
注入量:1μL
【0072】
アクリロニトリル(AN)の測定では、前処理として、樹脂組成物を50mLの三角フラスコに0.5~0.7g秤量し、内部標準(o-キシレン)入りDMFを10mL加え溶解し、次の条件にて測定を行った。
装置名:GC-12A(株式会社島津製作所製)
検出器:FID
カラム:1mガラスカラム(充填剤:液相PEG20M+TCEP(15+5)+SE30)
温度:INJ150℃ DET150℃ カラム 115℃
注入量:1μL
【0073】
(全VOC量)
VDA277に準拠した全VOC量は、実施例1と比較例1の樹脂組成物を射出成形して得られた成形体を用いて測定した。射出成形機は、東芝機械社製IS-50EPNを用いて、シリンダー温度は250℃と270℃の2水準、金型温度は70℃で、縦90mm、横50mm、厚み2mmの鏡面プレートを作製した。得られた鏡面プレートを使用し、VDA277に準拠した全VOC量を測定した結果を表2に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
表1の結果より、マレイミド系共重合体を使用した実施例では、揮発性成分の含有量を低減することができ、耐熱性と耐衝撃性に優れる。一方、αMS-AN共重合体を使用した比較例は、揮発成分として、特に、αメチルスチレンの低減が難しく、多くの揮発性成分を含有する。表2の結果より、実施例では樹脂組成物を成形する過程で揮発性成分は増加しないが、比較例では増加している。また、実施例の成形品は、全VOC量が低いレベルに抑えられている。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の樹脂組成物を用いることで、成形体から放散されるVOCを低減することができ、耐熱性と耐衝撃性にも優れることから、自動車、家電、OA機器、住宅建材、日用品などに好適に用いることができる。