IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京都エレックス株式会社の特許一覧

特許7021389熱硬化型導電性ペースト組成物および太陽電池セル、並びに太陽電池モジュール
<>
  • 特許-熱硬化型導電性ペースト組成物および太陽電池セル、並びに太陽電池モジュール 図1
  • 特許-熱硬化型導電性ペースト組成物および太陽電池セル、並びに太陽電池モジュール 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】熱硬化型導電性ペースト組成物および太陽電池セル、並びに太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
H01B1/22 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021166087
(22)【出願日】2021-10-08
【審査請求日】2021-10-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397059571
【氏名又は名称】京都エレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】元久 裕太
(72)【発明者】
【氏名】松原 豊治
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 悠
(72)【発明者】
【氏名】留河 悟
(72)【発明者】
【氏名】張替 彦一
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-34890(JP,A)
【文献】特開2014-220238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂成分と、(B)導電性粉末と、(C)シリコーンオイル成分と、を含有し、
前記(A)樹脂成分が、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方を含むとともに、
前記(B)導電性粉末100質量部に対する前記(A)樹脂成分の含有量をZ質量部とし、前記(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量の加重平均値をWMnとしたときに、下記式(1)の条件を満たし、
WMn×Z2 =5×103 ~3×105 ・・・ (1)
前記(C)シリコーンオイル成分が、ストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルの少なくとも一方であって、その数平均分子量が1×103 ~1×105 の範囲内であるとともに、
前記(B)導電性粉末100質量部に対する前記(C)シリコーンオイル成分の含有量が0.1~2.4質量部の範囲内であることを特徴とする、
熱硬化型導電性ペースト組成物。
【請求項2】
前記(A)樹脂成分におけるエポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方を基本樹脂成分としたときに、前記(A)樹脂成分は、さらに前記基本樹脂成分以外の他の樹脂を含有するとともに、
前記(A)樹脂成分における前記基本樹脂成分の総含有量が、当該(A)樹脂成分の総量の70質量%以上である、
請求項1に記載の熱硬化型導電性ペースト組成物。
【請求項3】
前記(B)導電性粉末が、銀粉または銀含有粉である、
請求項1または2に記載の熱硬化型導電性ペースト組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の熱硬化型導電性ペースト組成物により形成された集電電極を備える太陽電池セル。
【請求項5】
前記集電電極の下地層である透明導電層をさらに備える、
請求項4に記載の太陽電池セル。
【請求項6】
請求項4または5に記載の太陽電池セルを備える太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型導電性ペースト組成物および太陽電池セル、並びに太陽電池モジュールに関し、より詳しくは、基材へ印刷されて形成された塗膜を加熱硬化させることにより、優れた導電性を有する電極または電気配線等を形成することのできる熱硬化型導電性ペースト組成物と、この導電性ペースト組成物を用いて少なくとも集電電極を形成した太陽電池セルと、当該太陽電池セルを用いて構成される太陽電池モジュールとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器または電子部品を製造する分野において、フィルム、基板、電子部品等の基材に電極または電気配線(配線)等を形成する手法の一つとして、導電性ペースト組成物を用いる技術が知られている。このような導電性ペースト組成物には、導電性粉末(導電性粒子)および熱硬化性樹脂を含有する加熱硬化型のものが存在する。
【0003】
熱硬化型導電性ペーストを用いて電極または配線などを形成する代表的な技術分野として、太陽電池が挙げられる。例えば、アモルファスシリコン層を有する太陽電池では、フィンガー電極またはバスバー電極等の集電電極の形成に熱硬化型導電性ペーストが用いられる。一般的に、集電電極の形成は、太陽電池セルの表面にスクリーン印刷等の印刷法で熱硬化型導電性ペーストを印刷することにより行われる。
【0004】
太陽電池の発電量を増加させるためには、代表的には、受光面積を増大させることが挙げられる。集電電極は太陽電池の受光面側に形成されるため、集電電極の線幅をできるだけ細線化(ファインライン化)することが要求される。そのため、熱硬化型導電性ペーストにおいては、印刷時により細線化されたパターンを形成可能とする(細線描画性を実現する)物性が要求される。
【0005】
より細線化された印刷パターンを形成することを目的として、本願出願人は、例えば、特許文献1または特許文献2に開示の加熱硬化型導電性ペースト組成物を提案している。特許文献1に開示の熱硬化型導電性ペーストでは、レオメータで測定した貯蔵弾性率を100Pa~400Paの範囲内に設定することで、印刷パターンにおける線幅の太りを低減している。また、特許文献2に開示の熱硬化型導電性ペーストでは、溶解度パラメータを設定した溶剤を含有させることで、印刷パターンにおける線幅の太りを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-114836号公報
【文献】特開2013-114837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または特許文献2に開示される通り、熱硬化型導電性ペースト組成物の細線描画性を好適化する観点では、その物性設定あるいは含有成分の検討が考えられる。ここで、物性設定あるいは含有成分の検討等により単純に細線描画性の好適化を図ろうとすると、形成される電極または配線の抵抗値に影響が生じたり、さらには、当該電極または配線を備える電子機器または電子部品の性能に影響が生じたりする可能性があることが明らかとなった。
【0008】
特に、電子機器または電子部品が太陽電池セルまたは太陽電池モジュールである場合、集電電極を細線化できたとしても、その性能に影響が生じれば実用性に欠けることになる。一般に太陽電池セルまたは太陽電池モジュールは屋外に設置されることから、通常の電子機器または電子部品に比べて過酷な環境での使用を想定する必要がある。そのため、太陽電池セルまたは太陽電池モジュールの集電電極等を形成する用途では、熱硬化型導電性ペースト組成物には、性能に大きな影響を及ぼすことなく良好な細線描画性を実現することが求められる。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、電子機器または電子部品の性能に大きな影響を及ぼすことを回避しつつ、良好な細線描画性を実現できる熱硬化型導電性ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る熱硬化型導電性ペースト組成物は、前記の課題を解決するために、(A)樹脂成分と、(B)導電性粉末と、(C)シリコーンオイル成分と、を含有し、前記(A)樹脂成分が、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方を含むとともに、前記(B)導電性粉末100質量部に対する前記(A)樹脂成分の含有量をZ質量部とし、前記(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量の加重平均値をWMnとしたときに、下記式(1)の条件を満たし、
WMn×Z2 =5×103 ~3×105 ・・・ (1)
前記(C)シリコーンオイル成分が、ストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルの少なくとも一方であって、その数平均分子量が1×103 ~1×105 の範囲内であるとともに、前記(B)導電性粉末100質量部に対する前記(C)シリコーンオイル成分の含有量が0.1~2.4質量部の範囲内である構成である。
【0011】
前記構成によれば、(B)導電性粉末の質量を基準として前記(A)樹脂成分および前記(C)シリコーンオイル成分を含有し、かつ、(A)樹脂成分および(C)シリコーンオイル成分の数平均分子量が前記の条件を満たすことにより、電子機器または電子部品の性能に大きな影響を及ぼすことを回避しつつ、良好な細線描画性を実現することができる。特に、前記構成の熱硬化型導電性ペースト組成物により電極または配線等を形成した電子機器または電子部品では、良好な耐湿性を実現することが可能になり、当該電子機器または電子部品について長期信頼性を実現することができる。
【0012】
前記構成の熱硬化型導電性ペースト組成物においては、前記(A)樹脂成分におけるエポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方を基本樹脂成分としたときに、前記(A)樹脂成分は、さらに前記基本樹脂成分以外の他の樹脂を含有するとともに、前記(A)樹脂成分における前記基本樹脂成分の総含有量が、当該(A)樹脂成分の総量の70質量%以上である構成であってもよい。
【0013】
また、前記構成の熱硬化型導電性ペースト組成物においては、前記(B)導電性粉末が、銀粉または銀含有粉である構成であってもよい。
【0014】
また、本開示に係る太陽電池セルは、前記構成の熱硬化型導電性ペースト組成物により形成された集電電極を備える構成であればよい。
【0015】
前記構成の太陽電池セルにおいては、前記集電電極の下地層である透明導電層をさらに備える構成であってもよい。
【0016】
また、本開示に係る太陽電池モジュールは、前記構成の太陽電池セルを備える構成であればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、以上の構成により、電子機器または電子部品の性能に大きな影響を及ぼすことを回避しつつ、良好な細線描画性を実現できる熱硬化型導電性ペースト組成物を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例で作製(製造)される電子機器または電子部品の一例である太陽電池セルの模式的構成を示す断面図である。
図2図1に示す太陽電池セルを用いて作製(製造)される太陽電池モジュールの模式的構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の代表的な実施の形態を具体的に説明する。本開示に係る熱硬化型導電性ペースト組成物は、(A)樹脂成分と、(B)導電性粉末と、(C)シリコーンオイル成分と、を含有する。これら(A)~(C)成分のうち(A)樹脂成分は、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方(エポキシ樹脂および/またはウレタン樹脂)を含む。また(A)~(C)成分のうち(C)シリコーンオイル成分は、ストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルの少なくとも一方(ストレートシリコーンオイルおよび/または変性シリコーンオイル)である。
【0020】
本開示に係る熱硬化型導電性ペースト組成物において、(A)樹脂成分および(C)シリコーンオイル成分の分子量が所定の条件を満たしており、かつ、これら成分の含有量(配合量)は、(B)導電性粉末の含有量(配合量)を基準として設定される。なお、以下の説明では、本開示に係る熱硬化型導電性ペースト組成物を単に「導電性ペースト組成物」と略す。
【0021】
本開示に係る導電性ペースト組成物の(A)樹脂成分については、(B)導電性粉末100質量部に対する(A)樹脂成分の含有量をZ質量部とし(以下、適宜「含有量Z」と略す。)、(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量の加重平均値をWMnとした(以下、適宜「分子量平均値WMn」と略す。)ときに、含有量Zと分子量平均値WMnとが下記式(1)の条件を満たす。
【0022】
WMn×Z2 =5×103 ~3×105 ・・・ (1)
本開示に係る導電性ペースト組成物の(C)シリコーンオイル成分については、当該(C)シリコーンオイル成分の数平均分子量が1×103 ~1×105 の範囲内であるとともに、(B)導電性粉末100質量部に対する(C)シリコーンオイル成分の含有量が0.1~2.4質量部の範囲内である。
【0023】
[(A)樹脂成分]
本開示に係る導電性ペースト組成物の(A)樹脂成分として用いられるエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ環またはエポキシ基を有する多価エポキシ樹脂であれば特に限定されず、一般に用いられているものが使用可能である。
【0024】
具体的には、例えば、グリシジル型のエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンエポキシド等の脂環式エポキシ樹脂、ブタジエンダイマージエポキシド等の脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0025】
グリシジル型のエポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンまたは2-メチルエピクロルヒドリンと、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック系化合物;ビスフェノールA(BPA)、水添ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、レゾルシン等の多価フェノール系化合物;エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール系化合物;エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、アニリン等のポリアミノ化合物;または、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸等の多価カルボキシル化合物;等と、を反応させて得られるものが挙げられる。
【0026】
これらエポキシ樹脂は、1種類のみが(A)樹脂成分として用いられてもよいし、2種類以上を組み合わせて(A)樹脂成分として用いられてもよい。後述する実施例では、略号E-1~E-7に示す市販の多価アルコール系、多価フェノール系等のグリシジル型エポキシ樹脂を用いている(表1参照)。
【0027】
本開示におけるエポキシ樹脂のエポキシ当量は特に限定されないが、代表的には100~1000の範囲内を挙げることができ、100~400の範囲内を挙げることができる。諸条件にもよるが、エポキシ当量が100未満であると、得られる導電性ペースト組成物で形成される硬化膜の耐熱性または耐久性等が不充分となりやすい可能性がある。一方、エポキシ当量が1000を超えると、諸条件にもよるが、得られる導電性ペースト組成物のチクソ性が低下する可能性がある。
【0028】
本開示に係る導電性ペースト組成物の(A)樹脂成分として用いられるウレタン樹脂は、公知のポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック化したもの(ブロック化ポリイソシアネート化合物)を挙げることができる。
【0029】
用いられるポリイソシアネート化合物としては、具体的には、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート、トリジンジイソソアネート、キシリレンジイソソアネート、ナフタリンジイソソアネート等の芳香族イソシアネート化合物;エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソソアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート化合物;これらポリイソシアネート化合物のウレタン基、カルボジイミド基、アロハネート基、ウレア基、ビウレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基またはオキサゾリドン基を含有する変性物;これらポリイソシアネート化合物の環化三量体であるイソシアヌレート化合物(イソシアヌレート変性物に分類されてもよい);等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0030】
これらのポリイソシアネート化合物のうち、例えば、その成分中に3核体以上のポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含むものを用いることができる。また、ポリイソシアネートとポリオールとを公知の方法により反応させて合成した末端イソシアネート基含有化合物も、本開示におけるウレタン樹脂として用いることができる。この場合のポリオールについては特に限定はないが、一般的なポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類等を好適に用いることができる。
【0031】
これらポリオールのうちポリエーテルポリオール類(あるいはポリアルキレンポリオール類)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、グリセリン、トリメチロールプロパン、またはペンタエリスリトール等の多価アルコールまたはフェノール化合物にエチレンジオキサイド、プロピレンオキサイドまたはブチレンオキサイドを付加させたものを挙げることができる。
【0032】
また、ポリエステルポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールと、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸等の多塩基酸とを縮合させたものを挙げることができる。
【0033】
また、ポリカーボネートポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA等の多価アルコールまたはフェノール化合物と、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、またはホスゲンとを反応さえせたものを挙げることができる。
【0034】
また、ポリイソシアネート化合物のブロック化剤についても特に限定されないが、具体的には、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、ピラゾール、3-メチルピラゾール及び3,5-ジメチルピラゾール、1,2,4-トリアゾール等のイミダゾール類;フェノール、クレゾール、エチルフェノール、n-プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n-ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、キシレノール、ジイソプロピルフェノール、ジ-t-ブチルフェノール、キシレノール、クロロフェノール、エチルフェノール等のフェノール類;ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトンオキシム(MEKオキシム)、メチルイソブチルケトンオキシム(MIBKオキシム)、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;等を挙げることができる。
【0035】
本開示においてウレタン樹脂として用いられる前述した各化合物は、1種類のみ用いられてもよいし2種類以上を組み合わせて用いられてもよい。また、このようなウレタン樹脂は、1種類のみ(A)樹脂成分として用いられてもよいし、2種類以上を組み合わせて(A)樹脂成分として用いられてもよい。
【0036】
後述する実施例では、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)またはHDIイソシアヌレート(イソシアヌレート変性物)をメチルエチルケトンオキシムでブロックしたウレタン樹脂(後述する表1の略号U-1またはU-2のウレタン樹脂)、あるいは、HDIイソシアヌレート型ポリイソシアネートをポリプロピレンポリオール(プロピレングリコールにプロピレンオキサイドを付加させたポリエーテルポリオール)と反応させてメチルエチルケトンオキシムでブロックしたウレタン樹脂(略号U-3のウレタン樹脂)を用いている。
【0037】
(A)樹脂成分としては、前記の通り、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方が用いられればよい。それゆえ、本開示に係る導電性ペースト組成物においては、(A)樹脂成分が1種類のみのエポキシ樹脂で構成されてもよいし、2種類以上のエポキシ樹脂のみで構成されてもよいし、1種類のみのウレタン樹脂で構成されてもよいし、2種類以上のウレタン樹脂のみで構成されてもよいし、1種類以上のエポキシ樹脂と1種類以上のウレタン樹脂とを組み合わせた構成であってもよい。
【0038】
また、(A)樹脂成分には、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。本開示においては、(A)樹脂成分におけるエポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方を基本樹脂成分としたときに、当該(A)樹脂成分は、さらに基本樹脂成分以外の他の樹脂を含有してもよい。このとき、(A)樹脂成分における基本樹脂成分の含有量が、当該(A)樹脂成分の総量の70質量%以上であればよい。
【0039】
つまり、本開示においては、(A)樹脂成分は、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂、もしくは、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の合計量を70質量%以上含有していれば、他の樹脂を30質量%未満で含有してもよい。このように他の樹脂を(A)樹脂成分として含有可能とすることにより、本開示に係る導電性ペースト組成物に対して、他の樹脂に由来する物性または特性等を付与することができる。
【0040】
(A)樹脂成分として用いることが可能な他の樹脂は特に限定されないが、例えば、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0041】
本開示において、(A)樹脂成分を構成する樹脂の分子量は特に限定されないが、本開示においては、前述した式(1)の条件で特定される数値範囲を満たす必要がある。前記の通り、(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量の加重平均値を分子量平均値WMnとしたときに、前記の式(1)は、(A)樹脂成分の分子量平均値WMnと含有量Zの二乗との乗算値が5×103 ~3×105 の範囲内に入るようにするというものである。
【0042】
それゆえ、(A)樹脂成分が1種類の樹脂(1種類のエポキシ樹脂またはウレタン樹脂)で構成される場合には、当該樹脂の数平均分子量そのものが、分子量平均値WMnに対応し、この分子量平均値WMnと含有量Zとの間で、前記式(1)の条件で特定される数値範囲を満たす必要がある。また、(A)樹脂成分が複数種類の樹脂(2種類以上のエポキシ樹脂、2種類以上ウレタン樹脂、あるいは1種類以上のエポキシ樹脂と1種類以上のウレタン樹脂との組合せ)で構成されている場合には、これら複数種類の樹脂の数平均分子量の加重平均値を算出して分子量平均値WMnとし、この分子量平均値WMnと(A)樹脂成分の含有量Zとの間で、前記式(1)の条件で特定される数値範囲を満たす必要がある。
【0043】
なお、分子量平均値WMnは一般的な算出式で算出すればよい。具体的には、例えば、複数種類の樹脂1、樹脂2、…、樹脂nを想定して、これら樹脂1~樹脂nのそれぞれの数平均分子量をx1,x2,…,xnとし、(A)樹脂成分中のこれら樹脂1~樹脂nの質量比をy1,y2,…,ynとしたときに、分子量平均値WMnは次の式で算出することができる。なお、基本樹脂成分(エポキシ樹脂およびウレタン樹脂)以外に他の樹脂を併用する場合には、この分子量平均値WMnの算出には他の樹脂も含まれる。
WMn=(x1×y1+x2×y2+…+xn×yn)/(y1+y2+…+yn)
【0044】
[(B)導電性粉末]
本開示に係る導電性ペースト組成物における(B)導電性粉末は特に限定されず、公知の導電性材料の粉末または粒子であればよい。具体的には、例えば、銀粉、銅粉、金粉、パラジウム粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、鉛粉、カーボン粉等を挙げることができる。(B)導電性粉末が金属粉である場合には、合金粉も含まれる。例えば、銀粉には銀合金粉が含まれ、銅粉には銅合金粉が含まれ、金粉には金合金粉が含まれる。さらには、(B)導電性粉末には、導電性材料がコートされた粉末も含まれる。例えば、より安価な材料(導電性材料であってもなくてもよい)の粉末の表面に、銀、銅、金等の金属がコートされた粉末も(B)導電性粉末として用いることができる。
【0045】
これらの中でも、少なくとも銀を含有する導電性粉末、すなわち「銀含有粉」が好適に用いられる。具体的な銀含有粉としては、実質的に銀から構成される銀粉、銀以外の材質で構成される粉末(本体粉末)の表面に銀をコートした銀コート粉、銀を含有する合金(銀合金)から構成される銀合金粉等が挙げられる。これらの中でも、特に銀粉および銀コート粉が好ましく用いられる。
【0046】
銀粉は、銀のみで構成される粉末であるが、公知の不可避的不純物を含有してよいことはいうまでもない。また、銀合金粉であっても、公知の各種規格において「銀製」と認められる程度の純度を有するものは、本開示において銀粉として取り扱うことができる。
【0047】
銀コート粉の具体的な構成は特に限定されず、銀以外の材質で構成される本体粉末の材質が金属であってもよいし、金属以外の材質であってもよい。金属以外の材質としては、公知の樹脂材料または公知のセラミック材料、ガラス等を挙げることができる。本体粉末が樹脂材料である場合には、本開示に係る導電性ペースト組成物を硬化させる際の加熱温度であっても粉末形状(粒子形状)が保持できる程度の耐熱性を有するものであればよい。
【0048】
本体粉末が金属である銀コート粉、すなわち、銀コート金属粉としては、例えば、銀コート銅粉、銀コート銅合金粉、銀コートニッケル粉、銀コートアルミニウム粉等を挙げることができるが特に限定されない。本体粉末が樹脂である銀コート粉、すなわち、銀コート樹脂粉としては、例えば、銀コートポリイミド樹脂粉等を挙げることができるが特に限定されない。本体粉末がセラミック材料である銀コート粉、すなわち、銀コートセラミック粉としては、例えば、銀コートアルミナ粉等を挙げることができるが特に限定されない。
【0049】
銀含有粉が銀コート粉である場合に、本体粉末の表面にコートされる銀の量、すなわち、銀コート量は特に限定されず、諸条件に応じて適宜設定することができる。本開示に係る導電性ペースト組成物の用途(硬化物の用途)に応じて求められる体積抵抗率等に応じて、銀コート量を増減することができる。あるいは、本体粉末の材質(導電性)に応じて、銀コート量を増減することができる。なお、銀コート量は、銀コート粉の全質量におけるコートされている銀の質量の比(質量比、例えば百分率(質量%)等)で表すことができる。
【0050】
(B)導電性粉末の具体的な形状は特に限定されないが、球状粉末またはフレーク状粉末を挙げることができる。フレーク状とは、部分的に凹凸があり、変形が見られても、全体として見た場合に、平板または厚みの薄い直方体を含むことを意味する。フレーク状には、薄片状または鱗片状の形状も含まれる。球状とは、部分的に凹凸があり、変形が見られても、全体として見た場合に、直方体よりは立方体に近い立体形状を含むことを意味し、実質的に球状であってもよいし、楕円球であってもフレーク状とは言えない粒状であってもよい。
【0051】
本開示においては、球状粉末のみを用いてもよいしフレーク状粉末のみを用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。なお、球状粉末およびフレーク状粉末の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ここで、フレーク状粉末は、その製造過程に起因して、通常の球状粉末を製造するよりコストを要することが多い。そのため、フレーク状粉末と球状粉末を併用することでコストの増加を抑制できる場合がある。
【0052】
銀含有粉として、球状粉末とフレーク状粉末とを混合して用いる場合には、両者の合計が100質量部で、フレーク状粉末が20~80質量部の範囲内であり、球状粉末が80~20質量部の範囲内であればよく、フレーク状粉末が30~70質量部の範囲内であり、球状粉末が70~30質量部の範囲内であってもよく、フレーク状粉末が40~60質量部の範囲内であり、球状粉末が60~40質量部の範囲内であってもよい。フレーク状粉末または球状粉末のいずれか一方が80質量部を超える場合または20質老部を下回る場合、両者を併用することによる利点(より良好な導電性の実現等)が十分に得られない場合がある。
【0053】
(B)導電性粉末が球状またはフレーク状である場合、その具体的な物理量については特に限定されない。銀含有粉の物理量としては、例えば、平均粒径D50、BET比表面積、タップ密度、アスペクト比、凝集度(平均粒径D50/平均粒径DSEM)等を挙げることができる。
【0054】
本実施の形態において、粉末の平均粒径D50とは、公知の測定装置(例えば、マイクロトラック社(Microtrac Incorporated)製ナノトラック(登録商標))を用いて、レーザー回折法で粉末の粒度分布を測定した場合における累積50質量%の粒径であればよい。また、平均粒径DSEMとは、走査型電子顕微鏡による観察画像から得られる一次粒子の平均粒径であればよい。凝集度は、平均粒径D50を平均粒径DSMEで除したものであればよい。なお、これら物理量の具体的な測定方法または評価方法における各種条件は、熱硬化型導電性ペースト組成物の分野で公知の条件(例えば、本願出願人による熱硬化型導電性ペースト組成物の先行特許出願の公開公報に記載される諸条件)を適用すればよい。
【0055】
球状粉末の平均粒径D50は0.1~5μmの範囲内であればよく、0.5~4μmの範囲内であってもよく、1~3μmの範囲内であってもよい。球状粉末の平均粒径D50が0.1μmより小さいと、(B)導電性粉末を他の成分と混練したときに高粘度化してペースト化が困難となる傾向がある。一方、球状粉末の平均粒径D50が5μmより大きいと、フレーク状粉末の場合と同様に、スクリーン印刷により電極パターンまたは配線パターンを印刷する場合、用いられるメッシュスクリーンに目詰まりが起こったり、電極パターンまたは配線パターンの細線描画性が低下したりするおそれがある。
【0056】
フレーク状粉末の平均粒径D50は2~20μmの範囲内であればよく、2~12μmの範囲内であってもよく、5~10μmの範囲内であってもよい。フレーク状粉末の平均粒径D50が2μmより小さければ、粉末間の接触界面の抵抗が大きく良好な導電性を実現できない可能性がある。一方、フレーク状粉末の平均粒径D50が20μmより大きければ、粉末間の接触界面の抵抗は小さくなるものの、前記の通り、メッシュスクリーンの目詰まりまたは印刷パターンの細線描画性の低下等が生じるおそれがある。
【0057】
球状粉末のBET比表面積は0.5~1.7m2 /gの範囲内であればよく、0.6~1.6m2 /gの範囲内であってもよく、0.9~1.6m2 /gの範囲内であってもよい。球状粉末のBET比表面積が0.5m2 /gより小さければ、粉末同士の接触面積が小さくなり良好な導電性を実現できない可能性がある。一方、球状粉末のBET比表面積が1.7m2 /gを超えれば、粉末同士の接触面積は大きくなるものの、ペースト粘度が高くなるため、高充填化すなわち導電性ペースト組成物における(B)導電性粉末の含有量を十分に確保できなくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。
【0058】
フレーク状粉末のBET比表面積は0.1~1m2 /gの範囲内であればよく、0.2~0.8m2 /gの範囲内であってもよく、0.2~0.5m2 /gの範囲内であってもよい。フレーク状粉末のBET比表面積が0.1m2 /gより小さければ、フレーク状粉末の厚みが大きくなり、粉末(粒子)形状が球形に近くなるため、粉末同士の接触面積が小さくなり良好な導電性を実現できない可能性がある。一方、フレーク状粉末のBET比表面積が1m2 /gを超えれば、粉末同士の接触面積は大きくなるものの、ペースト粘度が高くなるため、高充填化すなわち導電性ペースト組成物における(B)導電性粉末の含有量を十分に確保できなくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。
【0059】
球状粉末のタップ密度は2~5g/cm3 の範囲内であればよく、3~5g/cm3 の範囲内であってもよく、3~4g/cm3 の範囲内であってもよい。球状粉末のタップ密度が2g/cm3 未満であれば、粉末が嵩高くなり、高充填化すなわち導電性ペースト組成物における(B)導電性粉末の含有量を十分に確保できなくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。一方、タップ密度が5g/cm3 を超えれば、粉末が過剰に分散しやすくなり、(B)導電性粉末の間に(A)樹脂成分が入り込みやすくなるため、(B)導電性粉末同士の接触界面の抵抗が大きくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。
【0060】
フレーク状粉末のタップ密度は3~7g/cm3 の範囲内であればよく、3~6g/cm3 の範囲内であってもよく、3.5~5.5g/cm3 の範囲内であってもよい。フレーク状粉末のタップ密度が3g/cm3 未満であれば、粉末が嵩高くなり、高充填化すなわち導電性ペースト組成物における(B)導電性粉末の含有量を十分に確保できなくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。一方、タップ密度が7g/cm3 を超えるフレーク状粉末を工業的に得ることは困難であるとされる。
【0061】
フレーク状粉末のアスペクト比は5~15の範囲内であればよく、6~12の範囲内であってもよく、6~10の範囲内であってもよい。フレーク状粉末のアスペクト比が5未満であれば、フレーク化が十分でないため粉末同士の接触面積が小さくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。一方、フレーク状粉末のアスペクト比が15を超えれば、粉末同士の接触面積は大きくなるが、高充填化すなわち導電性ペースト組成物における(B)導電性粉末の含有量を十分に確保できなくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。
【0062】
球状粉末の凝集度(平均粒径D50/平均粒径DSEM)は2~15の範囲内であればよく、3~11の範囲内であってもよく、3~7.5の範囲内であってもよい。凝集度が2より小さければ、粉末が過剰に分散しやすくなり、(B)導電性粉末の間に(A)樹脂成分が入り込みやすくなるため、(B)導電性粉末同士の接触界面の抵抗が大きくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。一方、凝集度が15より大きくなると、粉末が嵩高くなり、高充填化すなわち導電性ペースト組成物における(B)導電性粉末の含有量を十分に確保できなくなり、良好な導電性を実現できない可能性がある。
【0063】
(B)導電性粉末に含まれるナトリウムイオン量およびカリウムイオン量はそれぞれ200ppm未満であればよく、100ppm未満であってもよく、10ppm未満であってもよい。銀含有粉に含まれるナトリウムイオン量およびカリウムイオン量がそれぞれ200ppmを超えれば、電子部品または電子機器の電気特性または電気的接続信頼性に影響を与えるおそれがある。そのため、(B)導電性粉末に含まれるナトリウムイオン量およびカリウムイオン量はできるだけ低いことが好ましい。理想的には、(B)導電性粉末にはナトリウムイオンおよびカリウムイオンは全く含まれないことが好ましいが、実用的には、(B)導電性粉末に含まれるナトリウムイオン量およびカリウムイオン量がそれぞれ10ppm未満であると特に好ましい。
【0064】
後述する実施例では、(B)導電性粉末として、球状銀粉、フレーク状銀粉、球状の銀コート銅粉(銀コート量10質量%)を用いており、平均粒径D50、BET比表面積、およびタップ密度を好適化している。これら(B)導電性粉末の物理量を好適化することで、より良好な導電性を実現できるが、特に、本開示に係る導電性ペースト組成物において、(A)樹脂成分および(C)シリコーンオイル成分について、前述した分子量および含有量を設定することにより、良好な細線描画性を実現する点について相乗効果が期待でき、さらには、電子機器または電子部品においてより一層良好な長期信頼性(後述する耐湿性等)を実現することも可能である。
【0065】
(B)導電性粉末の材質または形状にかかわらず、当該(B)導電性粉末の分散性を改善するために、その表面に表面処理剤を付着させてもよい。このような表面処理剤としては、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エマルション、脂肪酸アミド、界面活性剤、有機金属、アゾール構造を有する化合物および保護コロイドからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができるが、特に限定されない。
【0066】
(B)導電性粉末として銀含有粉を用いるとともに、銀含有粉以外の他の導電性粉末を併用する場合、全ての(B)導電性粉末のうち銀含有粉が少なくとも10質量%を超えて含まれていればよく、50質量%以上含まれてもよいし、90質量%以上含まれてもよいし、95質量%以上含まれてもよい。他の導電性粉末を併用する際の配合量は、得られる硬化物に求められる諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0067】
[(C)シリコーンオイル成分]
本開示に係る導電性ペースト組成物における(C)シリコーンオイル成分は、ストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルの少なくとも一方であって、その数平均分子量Mnが1×103 ~1×105 の範囲内であればよい。本開示における「ストレートシリコーンオイル」とは変性していない(未変性)のシリコーンオイルを意味する。
【0068】
本開示において(C)シリコーンオイル成分として用いることが可能なシリコーンオイルが特に限定されない。ストレートシリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、環状ジメチルシロキサンオイル等を挙げることができる。
【0069】
また、変性シリコーンオイルとしては、例えば、モノアミン変性シリコーンオイル、ジアミン変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、ハイドロジェン変性シリコーンオイル、(メタ)アクリル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル等の反応性変性シリコーンオイル;ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル;メチルスチリル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、ハロゲン変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル等の非反応性変性シリコーンオイル;等を挙げることができる。
【0070】
なお、変性シリコーンオイルは、反応性または非反応性にかかわらず、導入された官能基の位置が側鎖であってもよいし両末端であってもよいし片末端であってもいし側鎖両末端であってもよい。また、前記の例示では、変性シリコーンオイルに導入される官能基が1種類の場合を挙げているが、もちろん複数種類の官能基が導入された変性シリコーンオイルであってもよい。例えば、反応性変性シリコーンオイルでは、アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・アラルキル変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテルシリコーンオイル等を例示することができ、非反応性変性シリコーンオイルでは、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル・アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル等を挙げることができる。官能基がアルキル基の場合、長鎖アルキル基であってもよい。
【0071】
後述する実施例では、市販のジメチルシリコーンオイル(略号S-1,S-2,S-4,S-5,S-7)、メチルフェニルシリコーンオイル(略号S-3)、両末端エポキシ変性シリコーンオイル(略号S-5)を用いている(表3参照)。
【0072】
(C)シリコーンオイル成分として用いられるシリコーンオイルの数平均分子量Mnは、前記の通り、1×103 ~1×105 の範囲内であればよいが、例えば、下限値は2×103 以上であってもよいし、3×103 以上であってもよいし、4×103 以上であってもよい。特に好ましい下限値である1×103 以上は、後述する実施例および比較例の対比に基づいて導き出すことができる。
【0073】
また、シリコーンオイルの数平均分子量Mnの上限値は、例えば、9×104 以下であってもよいし、8×104 以下であってもよいし、7×104 以下であってもよい。特に好ましい上限値である1×105 以下は、後述する実施例および比較例の対比に基づいて導き出すことができる。
【0074】
なお、(C)シリコーンオイル成分としては、1種類のシリコーンオイルを用いればよいが、2種類以上のシリコーンオイルを併用してもよい。2種類以上のシリコーンオイルを併用する場合における(C)シリコーンオイル成分の数平均分子量Mnは、前述した(A)樹脂成分と同様に、(C)シリコーンオイル成分を構成する複数のシリコーンオイルの数平均分子量の加重平均値を算出し、前記の範囲内に入るようにすればよい。
【0075】
[その他の成分]
本開示に係る導電性ペースト組成物は、(A)~(C)成分以外に他の成分を含有してもよい。代表的な他の成分としては、熱硬化性成分である(A)樹脂成分を硬化させる硬化剤を挙げることができる。前記の通り、(A)樹脂成分としては、基本樹脂成分として熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂またはウレタン樹脂が用いられるので、これら樹脂に対する硬化剤としては、イミダゾール類、フッ化ホウ素を含むルイス酸およびそれらの錯体または塩、アミンアダクト、3級アミン、ジシアンジアミド、フェノール樹脂、酸無水物等を挙げることができる。
【0076】
イミダゾール類としては、具体的には、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-メチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール等を挙げることができる。
【0077】
フッ化ホウ素を含むルイス酸およびそれらの錯体または塩としては、具体的には、例えば、三フッ化ホウ素エチルエーテル、三フッ化ホウ素フェノール、三フッ化ホウ素ピペリジン、酢酸三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、三フッ化ホウ素モノエタノールアミン、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等を挙げることができる。
【0078】
アミンアダクトとしては、具体的には、例えば、味の素ファインテクノ株式会社製アミキュアシリーズ、富士化成工業株式会社製フジキュアシリーズ等を挙げることができる。
【0079】
3級アミンとしては、具体的には、例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジラウリルモノエチルアミン、メチルジデエシルアミン、メチルジオレイルアミン、トリアリルアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエチルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、トリ-n-オクチルアミン、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン等を挙げることができる。
【0080】
フェノール樹脂としては、具体的には、例えば、三菱化学株式会社製JER170、JER171N、明和化成株式会社製MEH-8000H、MEH-8005等を挙げることができる。
【0081】
酸無水物としては、具体的には、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水cis-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸、あるいは、新日本理化株式会社製リカシッドMH-700、リカシッドHNA-100等を挙げることができる。
【0082】
これら硬化剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。後述する実施例では、市販のイミダゾール系硬化剤を用いている。
【0083】
また、これら硬化剤の添加量は特に限定されないが、例えば、基本樹脂成分のうちエポキシ樹脂を基準とすれば、当該エポキシ樹脂の総量100質量部に対して硬化剤を3~30質量部の範囲内で用いればよく、3~15質量部の範囲内で用いてもよいし、3~10質量部の範囲内で用いてもよい。
【0084】
硬化剤の添加量がエポキシ樹脂の総量100質量部に対して3質量部未満であると、(A)樹脂成分の硬化が不十分となり、形成される電極または配線において良好な導電性が実現できない可能性がある。一方、硬化剤の添加量が30質量部を超えると、導電性ペースト組成物のペースト粘度が高くなり、細線描画性に影響を及ぼすおそれがある。なお、本開示の実施状況によっては、硬化剤の添加量の上限値は「以上」ではなく「超」としてもよいし、下限値は「以下」ではなく「未満」としてもよい。
【0085】
本開示に係る導電性ペースト組成物が含有する他の成分としては、溶剤を挙げることができる。この溶剤は、導電性ペースト組成物の粘度等の物性を調整するために添加(配合)することができる。
【0086】
具体的な溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、モノブチルジグリコール、ジブチルジグリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;およびこれらグリコールエーテル類の酢酸エステル;DBE(二塩基酸エステル)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のエステル類;シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;ターピネオール、水添ターピネオール等のモノテルペンアルコール類;およびこれらモノテルペンアルコール類の酢酸エステル;γ-ブチロラクトン;リモネン;n-メチル-2-ピロリドン;等を例示することができる。これら溶剤は単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。後述する実施例では、粘度調整のために、ブチルジグリコールアセテート(モノブチルジグリコールの酢酸エステル)を用いている。
【0087】
溶剤の含有量(配合量)は特に限定されない。前記の通り(後述する実施例のように)、本開示に係る導電性ペースト組成物の粘度を調整する目的であれば、例えば、導電性ペースト組成物の全体質量に対して0.1質量%~10質量%の範囲内を挙げることができるが、0.5質量%~5質量%の範囲内で配合してもよいし、これら範囲から外れる配合量で配合してもよい。
【0088】
硬化剤および溶剤以外の他の成分としては、例えば、分散剤(安定剤)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等、公知の様々な添加剤を挙げることができるが特に限定されない。
【0089】
[導電性ペースト組成物の製造方法および使用]
本開示に係る導電性ペースト組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。代表的な一例としては、前述した(A)~(C)成分、必要に応じて他の成分を所定の配合割合(質量基準)で配合し、公知の混練装置を用いてペースト化すればよい。混練装置としては、例えば、3本ロールミル等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0090】
本開示に係る導電性ペースト組成物における具体的な組成、すなわち、基本成分である(A)~(C)成分の配合量(含有量)は、前述したように、(B)導電性粉末100質量部を基準として設定される。(C)シリコーンオイル成分については、(B)導電性粉末100質量部に対する含有量が0.1~2.4質量部の範囲内であればよい。
【0091】
(C)シリコーンオイル成分の含有量の下限は、0.1質量部以上であればよいが、0.2質量部以上であってもよいし、0.3質量部以上であってもよいし、0.4質量部以上であってもよいし、0.5質量部以上であってもよい。また、(C)シリコーンオイル成分の含有量の上限は、2.4質量部以下であればよいが、2.3質量部以下であってもよいし、2.2質量部以下であってもよいし、2.1質量部以下であってもよいし、2.0質量部以下であってもよい。これら上限値または下限値は、後述する実施例および比較例の対比に基づいて導き出すことができる。また、本開示の実施状況によっては、上限値は「以上」ではなく「超」としてもよいし、下限値は「以下」ではなく「未満」としてもよい。
【0092】
(A)樹脂成分の含有量については、その含有量単独ではなく、当該(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量との関係式から、好適な含有量を導き出すことができる。具体的には、前述したように、(A)樹脂成分の含有量をZ質量部(含有量Z)とし、(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量の加重平均値を分子量平均値WMnとしたときに、含有量Zと分子量平均値WMnとは下記式(1)の条件を満たす。
【0093】
WMn×Z2 =5×103 ~3×105 ・・・ (1)
上記式(1)の条件で特定される数値範囲の上限、すなわち分子量平均値WMnと含有量Zの二乗との積の上限は、5×103 以上であるが、5.5×103 以上であってもよいし、6.0×103 以上であってもよい。また、上記式(1)の条件で特定される数値範囲の下限は、3×105 以下であるが、2×105 以下であってもよいし、1×105 以下であってもよい。これら上限値または下限値は、後述する実施例および比較例の対比に基づいて導き出すことができる。また、本開示の実施状況によっては、上限値は「以上」ではなく「超」としてもよいし、下限値は「以下」ではなく「未満」としてもよい。
【0094】
また、本開示に係る導電性ペースト組成物が(A)~(C)成分以外のその他の成分を含有する場合、その含有量は特に限定されず、当該その他の成分の一般的な使用量、もしくは、導電性ペースト組成物の基本的な物性に影響を及ぼさない量で含有させてばよい。
【0095】
本発明に係る導電性ペースト組成物の具体的な使用方法は特に限定されず、導電性ペースト組成物を基材上に所定の導体パターンで塗布または印刷するステップ(パターン形成ステップ)と、基材上の導体パターンを加熱硬化させるステップ(加熱硬化ステップ)とを含む方法であればよい。硬化した後の導体パターン(硬化膜)が基材上に形成された電極や配線となる。
【0096】
導電性ペースト組成物によるパターン形成対象すなわち前記基材としては、前述した電子機器または電子部品に応じた公知のフィルム、基板、その他の基材を挙げることができる。これら基材の具体的な材質、形状、寸法、その他条件等は特に限定されず、電子機器または電子部品の種類に応じて適切なものを選択すればよい。
【0097】
本開示においては、特に代表的な電子機器または電子部品として、太陽電池セルまたは太陽電池モジュールを挙げることができる。後述する実施例でも例示するように、本開示に係る導電性ペースト組成物を用いて太陽電池セルの集電電極を形成する場合には、太陽電池セルの具体的な種類にもよるが、基材が透明導電層(透明電極膜)となる場合がある。代表的な透明導電層としては、酸化インジウムスズ(ITO)が挙げられるが、酸化亜鉛系材料、酸化スズ系材料、酸化チタン系材料等も知られている。これらはいずれもセラミック材料であるため、樹脂組成物である導電性ペースト組成物に対する親和性は相対的に低い。
【0098】
本発明者らによる鋭意検討の結果、前述した通り、導電性ペースト組成物の細線描画性を好適化する観点から、その物性設定あるいは含有成分を検討したところ、シリコーンオイルを添加することで、導電性ペースト組成物の細線描画性をより良好にきることが明らかとなった。ところが、良好な細線描画性を優先すると、後述する実施例(比較例3~5,9,10)に示すように、電極または配線の線抵抗が高くなったり電子機器または電子部品の性能に影響が生じたりすることが明らかとなった。
【0099】
後述する実施例では、電子機器または電子部品の代表例として太陽電池セルおよび太陽電池モジュールを挙げているが、良好な細線描画性が実現できたとしても、集電電極の線抵抗が高くなり太陽電池セルのセル特性が十分でなくなる結果が得られている(比較例3,4,9)。あるいは、良好な細線描画性と良好な線抵抗および良好なセル特性を実現できたとしても、太陽電池モジュールの耐湿性に影響が生じる結果が得られている(比較例5,10)。太陽電池セルとして良好な結果が得られても、当該太陽電池セルを備える太陽電池モジュールの耐湿性が低下するということは、屋外に設置されて用いられる太陽電池モジュールの長期信頼性が低下することになる。
【0100】
これらの結果に基づけば、導電性ペースト組成物にシリコーンオイルを添加して、電極または配線について良好な細線描画性を実現できたとしても、シリコーンオイルの特性により、電極または配線の下地層(基材)との密着性に何らかの影響が生じることが考えられる。そこで、本発明者らによるさらなる検討の結果、(C)シリコーンオイル成分の数平均分子量および含有量を所定の範囲内に設定するともに、「主成分」である(A)樹脂成分については、(B)導電性粉末を基準とした含有量(配合量)と樹脂の数平均分子量との間に前記式(1)に示す関係性があることが独自に見出された。
【0101】
したがって、本開示に係る導電性ペースト組成物は、さまざまな電子機器または電子部品において、微細な電極または配線を形成する用途に好適に用いることができるが、特に、下地層(基材)が透明導電層(透明電極膜)のようなセラミックス系(あるいは無機材料系)である場合に、より一層良好な作用効果を発揮することができる。それゆえ、本開示に係る導電性ペースト組成物により形成される集電電極の下地層が透明導電層である太陽電池セルは、本開示の代表的な電子機器または電子部品として挙げることができる。
【0102】
前述した導電性ペースト組成物の使用方法の一例のうち、パターン形成ステップでは、公知の種々の導体パターン形成方法(印刷方法または塗布方法)を用いることができるが、代表的には、メッシュスクリーンを用いたスクリーン印刷を挙げることができる。あるいは、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、ディスペンサー法、ディップ法等の印刷法も適用することができる。
【0103】
なお、本開示に係る導電性ペースト組成物の物性は特に限定されないが、パターン形成ステップ時の便宜上、特にスクリーン印刷の効率性から、当該導電性ペースト組成物の粘度は、75~100Pa・sの範囲内を挙げることができる。粘度がこの範囲内であれば、スクリーン印刷による導体パターンの形成を好適に行うことができる。導電性ペースト組成物の粘度は、前記の通り、溶剤の添加により調整すればよい。
【0104】
前述した導電性ペースト組成物の使用方法の一例のうち、加熱硬化ステップにおいても加熱方法または加熱温度は特に限定されないが、加熱温度は、100~250℃の範囲内であることが好ましい。加熱温度が100℃より低ければ、導電性ペースト組成物の硬化が不十分となるおそれがあり、250℃より高くなれば、(A)樹脂成分の分解または基材から剥離等が生じるおそれがある。
【0105】
本開示に係る導電性ペースト組成物は、高精細な電極や配線等の形成または電子部品の接着等に広く利用することができる。具体的には、例えば、太陽電池セルの集電電極;チップ型電子部品の内部電極または外部電極;RFID(Radio Frequency IDentification)、電磁波シールド、振動子接着、メンブレンスイッチ、タッチパネル、またはエレクトロルミネセンス等に用いられる部品の電極または配線または接着;等の用途に好適に用いることができる。
【0106】
特に本開示においては、代表的な利用分野として、前述したように、本開示に係る導電性ペースト組成物により形成された集電電極を備える太陽電池セルを挙げることができ、さらには、当該太陽電池セルを備える太陽電池モジュールを挙げることができる。したがって、本開示には、導電性ペースト組成物だけでなく太陽電池セルおよび太陽電池モジュールも含まれる。
【0107】
なお、太陽電池セルおよび太陽電池モジュールの具体的な種類または構成等については特に限定されない。本開示では、後述する実施例において、図1に模式的に示す太陽電池セルおよび図2に模式的に示す構成の太陽電池モジュールを用いているが、本開示に係る太陽電池セルおよび太陽電池モジュールは、図1または図2に示す構成に限定されない。
【0108】
このように、本開示に係る熱硬化型導電性ペースト組成物は、(A)樹脂成分と、(B)導電性粉末と、(C)シリコーンオイル成分と、を含有し、(A)樹脂成分が、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方であるとともに、(B)導電性粉末100質量部に対する(A)樹脂成分の含有量をZ質量部(含有量Z)とし、(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量の加重平均値をWMnとしたときに、前記の式(1)の条件で特定される数値範囲を満たし、(C)シリコーンオイル成分が、ストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルの少なくとも一方であって、その数平均分子量が1×103 ~1×105 の範囲内であるとともに、(B)導電性粉末100質量部に対する(C)シリコーンオイル成分の含有量が0.1~2.4質量部の範囲内である構成である。
【0109】
このような構成によれば、(B)導電性粉末の質量を基準として前記(A)樹脂成分および前記(C)シリコーンオイル成分を含有し、かつ、(A)樹脂成分および(C)シリコーンオイル成分の数平均分子量が前記の条件を満たすことにより、電子機器または電子部品の性能に大きな影響を及ぼすことを回避しつつ、良好な細線描画性を実現することができる。特に、前記構成の熱硬化型導電性ペースト組成物により電極または配線等を形成した電子機器または電子部品では、良好な耐湿性を実現することが可能になり、当該電子機器または電子部品について長期信頼性を実現することができる。
【実施例
【0110】
本開示について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。当業者は本開示の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0111】
なお、以下の実施例または比較例における電子機器(あるいは電力機器)としての太陽電池セルおよび太陽電池モジュールの製造例、当該太陽電池セルの特性、集電電極の特性についての評価は次に示すようにして行った。
【0112】
[太陽電池セルの製造]
後述する実施例または比較例の導電性ペースト組成物を用いて、図1に例示する太陽電池セルを作製(製造)した。
【0113】
図1に示す太陽電池セル10は、n型単結晶シリコン基板11、実質的に真性な非晶質シリコン層であるi型アモルファスシリコン層12および13、ドープされた非晶質シリコン層(ドープ層)であるp型アモルファスシリコン層14およびn型アモルファスシリコン層15、透明導電層16および17、並びに導電性ペースト組成物により形成される集電電極18および19を備えている。この太陽電池セル10は、n型単結晶シリコン基板11を実質的に真性な非晶質シリコン層(i型アモルファスシリコン層12および13)で挟持することにより、pn接合界面における欠陥を低減したヘテロ接合型である。
【0114】
n型単結晶シリコン基板11は厚さ約300μmであって、その上面(表面、受光面)には、図1には示さないテクスチャ構造(数μm~10μm程度の高さを有するピラミッド状の凹凸構造)が設けられている。n型単結晶シリコン基板11の上面に対して、厚さ50Åのi型アモルファスシリコン層12をRFプラズマCVD法で形成し、その上に厚さ50Åのp型アモルファスシリコン層14をRFプラズマCVD法で形成した。
【0115】
また、n型単結晶シリコン基板11の下面(裏面、反対面)に対して、厚さ50Åのi型アモルファスシリコン層13をRFプラズマCVD法で形成し、その上に厚さ50Åのn型アモルファスシリコン層15をRFプラズマCVD法で形成した。さらに、p型アモルファスシリコン層14およびn型アモルファスシリコン層15のそれぞれの上に、厚さ1000Åの透明導電層16および17(いずれも酸化インジウムスズ(ITO))をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
【0116】
これら透明導電層16および17のそれぞれ上に、実施例または比較例の導電性ペースト組成物を用いて、スクリーン印刷法により所定の印刷パターンを形成し、当該印刷パターンを200℃で30分間熱硬化させることにより、集電電極18および19を形成した。なお、受光面側の集電電極18は、フィンガー開口が30μmでフィンガー本数が100本の櫛形であり、反対面側の集電電極19は、フィンガー開口が30μmでフィンガー本数が200本の櫛形である。
【0117】
[集電電極の線幅]
前記のようにして作製(製造)された太陽電池セル10について、集電電極18および19の線幅を、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製)を用いて測定した。
【0118】
[集電電極の線抵抗]
前記のようにして作製(製造)された太陽電池セル10について、集電電極18および19の線抵抗をGP4 test(製品名、GP solar社製)を用いて評価した。
【0119】
[セル特性]
前記のようにして作製(製造)された太陽電池セル10について、太陽電池セル検査システム(共進電気株式会社製、商品名:KSX-3000H)を用いて、I-V特性を検査することによって、そのセル特性を評価した。セル特性が23.3%未満のときを不適とした。
【0120】
[太陽電池モジュールの作成]
前記のようにして作製(製造)された太陽電池セル10を用いて、図2に例示する太陽電池モジュール20を作製(製造)した。
【0121】
図2に示す太陽電池モジュール20は、複数の太陽電池セル10(図2では4個図示)を配線であるタブ21で接続し、これを充填材22、表面保護ガラス23、および裏面保護材24で封止した構成を有している。
【0122】
タブ21は、Sn-Ag-Cu系の鉛フリー半田を表面にコーティングした銅箔で構成される。このタブ21を複数の太陽電池セル10の集電電極18および19に接触させて加熱し、これら太陽電池セル10を直列接続した。これにより、それぞれの太陽電池セル10による発電で得られた電流を取り出すことができる。
【0123】
次に、表面保護ガラス23の上にエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)からなる充填材22を載置した後、この充填材22の上に、タブ21により接続された複数の太陽電池セル10を載置した。さらにこれら太陽電池セル10の上に、EVAからなる充填材22を載置し、ポリエチレンテレフタレート(PET)/アルミニウム箔/PETの3層構造を有する裏面保護材24を載置し、加熱しながら加圧した。これにより、表面保護ガラス23、充填材22、タブ21により接続された複数の太陽電池セル10、および裏面保護材24が一体化され、図2に示す太陽電池モジュール20を得た。
【0124】
[太陽電池モジュールの耐湿性]
前記のようにして作製(製造)された太陽電池モジュール20を、温度85℃、湿度85%の条件に設定した恒温恒湿器(エスペック株式会社製、商品名:SMS-2)に3000時間保管した。保管前後の太陽電池モジュール20について、共進電気株式会社製の太陽電池モジュール検査システム(商品名:KSX-2012HM)を用いて、モジュール出力を評価した。保管後の変換効率の低下量が5%未満であるときを「○」と評価し、保管後の変換効率の低下量が5%以上であるときを「×」として評価した。
【0125】
[(A)~(C)成分]
後述する実施例または比較例の導電性ペースト組成物では、(A)樹脂成分として、表1に示す7種類のエポキシ樹脂、3種類のウレタン樹脂、1種類の他の樹脂(ブチラール樹脂)を用いた。なお、各実施例または比較例では、それぞれの樹脂を表1に示す略号を用いて表記する。
【0126】
【表1】
【0127】
また、後述する実施例または比較例の導電性ペースト組成物では、(B)導電性粉末として、表2に示す3種類の銀含有粉(銀系粉末)を用いた。なお、各実施例または比較例では、(A)樹脂成分と同様に、それぞれの銀含有粉を表2に示す略号を用いて表記する。
【0128】
【表2】
【0129】
また、後述する実施例または比較例の導電性ペースト組成物では、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示す7種類のシリコーンオイルを用いた。なお、各実施例または比較例では、(A)樹脂成分または(B)導電性粉末と同様に、それぞれのシリコーンオイルを表3に示す略号を用いて表記する。
【0130】
【表3】
【0131】
(実施例1~3)
表1に示す(A)樹脂成分のうち略号E-3のエポキシ樹脂と、略号U-2のウレタン樹脂を選択し、表2に示す(B)導電性粉末のうち略号Pa-1の銀粉1(球状)および略号Pa-2の銀粉2(フレーク状)を選択し、表3に示す(C)シリコーンオイル成分のうち略号S-3のストレートシリコーンオイルを選択した。
【0132】
前記(B)導電性粉末は、銀粉1(Pa-1)と銀粉2(Pa-2)を表4に示すようにそれぞれ50質量部、合計100質量部とし、当該(B)導電性粉末の総量100質量部に対して、(A)樹脂成分および(C)シリコーンオイル成分を表4に示す組成(配合量)で配合した。
【0133】
なお、表4では、(A)樹脂成分の組成については、(A)樹脂成分の含有量Z、すなわち(A)樹脂成分を構成する樹脂の含有量(配合量)の総和Zを「質量部」で示すとともに、それぞれの樹脂の含有量(配合量)は「質量部」ではなく、(A)樹脂成分全体を100質量%としたときの比率(百分率)で示している。そのため、実施例1の導電性ペースト組成物では、(A)樹脂成分の含有量Z(総配合量)は4質量部であるが、略号E-3のエポキシ樹脂が「0(%)」であり、略号U-2のウレタン樹脂が「100(%)」であるので、(A)樹脂成分として略号U-2のウレタン樹脂のみを4質量部含有していることになる。
【0134】
同様に、実施例3の導電性ペースト組成物では、略号E-3のエポキシ樹脂が「100(%)」であり、略号U-2のウレタン樹脂が「0(%)」であるので、(A)樹脂成分として略号E-3のエポキシ樹脂のみを6質量部含有していることになる。
【0135】
また、実施例2の導電性ペースト組成物では、略号E-3のエポキシ樹脂が「30(%)」であり、略号U-2のウレタン樹脂が「70(%)」であって、(A)樹脂成分の含有量Zが「5質量部」であるので、(A)樹脂成分としては、略号E-3のエポキシ樹脂を「1.5質量部」および略号U-2のウレタン樹脂を「3.5質量部」含有していることになる。
【0136】
また、表4では、各実施例について、(A)樹脂成分の含有量Z(総配合量)だけでなく、前述した分子量平均値WMn、すなわち、(A)樹脂成分を構成する1種類以上の樹脂における数平均分子量の加重平均値WMnと、当該分子量平均値WMnおよび(A)樹脂成分の含有量Zの二乗との積(WMn×Z2 )、すなわち前記式(1)の条件についても併記している。また、表4には、(C)シリコーンオイル成分として用いたシリコーンオイルの分子量(表3参照)も併記している。
【0137】
(A)樹脂成分に関する前記の記載内容と、(C)シリコーンオイル成分の分子量の記載については、表4に示す実施例1~3および後述する実施例4~6だけでなく、他の実施例および比較例を示す表5~表9についても同様であるので、各実施例または比較例では詳細な説明は省略する。
【0138】
表4に示す配合量で配合した(A)~(C)各成分に対して、さらに硬化剤として、イミダゾール系硬化剤(製品名:キュアゾール(登録商標)1B2PZ、四国化成工業(株)製)0.1質量部の割合で配合し、3本ロールミルで混練した。その後、溶剤としてブチルジグリコールアセテートを加えて粘度を300Pa・s(1rpm)に調整することにより、実施例1~3の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0139】
得られた実施例1~3の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表4に示す。
【0140】
(実施例4~6)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-2のエポキシ樹脂および略号U-3のウレタン樹脂を表4に示す配合量で用いた以外は、実施例1~3と同様にして、実施例4~6の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0141】
得られた実施例4~6の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表4に示す。
【0142】
【表4】
【0143】
(実施例7~10)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-1のエポキシ樹脂と略号E-4~E-7のいずれかのエポキシ樹脂を用い、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示すS-1~S-4のいずれかのシリコーンオイルを、それぞれ表5に示す配合量で用いた以外は、実施例1~3(表4参照)と同様にして、実施例7~10の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0144】
得られた実施例7~10の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表5に示す。
【0145】
【表5】
【0146】
(実施例11、12)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-6のエポキシ樹脂と略号U-1のウレタン樹脂とを表6に示す配合量で用いるとともに、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示すS-1またはS-2のシリコーンオイルを表6に示す配合量で用いた以外は、実施例1~3(表4参照)と同様にして、実施例11、12の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0147】
得られた実施例11、12の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表6に示す。
【0148】
(実施例13)
表6に示すように、(B)導電性粉末として、略号Pa-2の銀粉2に代えて、表2に示す略号Pa-3の銀コート銅粉を用いた以外は、実施例12と同様にして、実施例13の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0149】
得られた実施例13の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表5に示す。
【0150】
(実施例14)
表6に示すように、(A)樹脂成分の含有量Z(総配合量)を7質量部とするとともに、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示す略号S-5の変性シリコーンオイルを用いた以外は、実施例12と同様にして、実施例14の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0151】
得られた実施例14の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表6に示す。
【0152】
(実施例15)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-6のエポキシ樹脂および略号U-1のウレタン樹脂に加え、略号B-1のその他の樹脂(ブチラール樹脂)を表6に示す配合量で用いた以外は、実施例11と同様にして、実施例15の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0153】
得られた実施例15の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表6に示す。
【0154】
【表6】
【0155】
(実施例16、17)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-2のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂とを表7に示す配合量で用いた以外は、実施例9(表5参照)と同様にして、実施例16、17の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0156】
得られた実施例16、17の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表7に示す。
【0157】
(比較例1、2)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-1のエポキシ樹脂と略号U-3のウレタン樹脂(比較例1)または略号U-1のウレタン樹脂(比較例2)とを表7に示す配合量で用いた以外は、実施例1~3(表4参照)と同様にして、比較例1、2の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。これら比較例1、2では、前記式(1)の条件(WMn×Z2 )が前述した範囲の下限値を下回っている。
【0158】
得られた比較例1、2の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表7に示す。
【0159】
(比較例3、4)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-3のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂を表7に示す配合量で用いるとともに、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示す略号S-3のストレートシリコーンオイルを表7に示す配合量で用いた以外は、実施例7~10(表5参照)と同様にして、比較例3、4の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。これら比較例3、4では、前記式(1)の条件(WMn×Z2 )が前述した範囲の上限値を上回っている。
【0160】
得られた比較例3、4の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表7に示す。
【0161】
【表7】
【0162】
(比較例5)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-3のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂を表8に示す配合量で用いるとともに、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示す略号S-3のストレートシリコーンオイルを表8に示す配合量で用いた以外は、実施例7~10(表5参照)と同様にして、比較例5の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。この比較例5では、(C)シリコーンオイル成分の含有量が上限値を上回っている。
【0163】
得られた比較例5の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表8に示す。
【0164】
(比較例6)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-2のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂を表8に示す配合量で用いるとともに、(C)シリコーンオイル成分を用いなかった以外は、実施例7~10(表5参照)と同様にして、比較例6の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。
【0165】
得られた比較例6の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表8に示す。
【0166】
(比較例7)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-2のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂を表8に示す配合量で用いるとともに、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示す略号S-3のストレートシリコーンオイルを表8に示す配合量で用いた以外は、実施例7~10(表5参照)と同様にして、比較例7の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。この比較例7では、(C)シリコーンオイル成分の含有量が下限値を下回っている。
【0167】
得られた比較例7の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表8に示す。
【0168】
(比較例8)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-2のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂を表8に示す配合量で用いるとともに、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示す略号S-6のストレートシリコーンオイルを表8に示す配合量で用いた以外は、実施例7~10(表5参照)と同様にして、比較例8の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。この比較例8では、(C)シリコーンオイル成分の分子量が下限値を下回っている。
【0169】
得られた比較例8の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表8に示す。
【0170】
(比較例9)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-2のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂を表8に示す配合量で用いるとともに、(C)シリコーンオイル成分として、表3に示す略号S-7のストレートシリコーンオイルを表8に示す配合量で用いた以外は、実施例7~10(表5参照)と同様にして、比較例9の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。この比較例9では、(C)シリコーンオイル成分の分子量が上限値を下回っている。
【0171】
得られた比較例9の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表8に示す。
【0172】
(比較例10)
(A)樹脂成分として、表1に示す略号E-2のエポキシ樹脂と略号E-7のエポキシ樹脂を表8に示す配合量で用いるとともに、表3に示す略号S-3のストレートシリコーンオイルを表8に示す配合量で用いた以外は、実施例7~10(表5参照)と同様にして、比較例5の導電性ペースト組成物を調製(製造)した。この比較例10では、(C)シリコーンオイル成分の含有量が上限値を上回っている。
【0173】
得られた比較例10の導電性ペースト組成物を用いて、前記の通り太陽電池セル10(図1参照)および太陽電池モジュール20(図2参照)を作製(製造)し、集電電極18および19の線幅および線抵抗、太陽電池セル10のセル特性、および太陽電池モジュール20の耐湿性を評価した。その結果を表8に示す。
【0174】
【表8】
【0175】
(実施例および比較例の対比)
実施例1~17の結果から明らかなように、本開示に係る導電性ペースト組成物では、透明導電層(透明電極膜)を下地層としても、微細な線幅を有する集電電極を形成することができるとともに、集電電極の線抵抗の増加を有効に抑制または回避することができる。しかも、当該集電電極を備える太陽電池セル(本開示に係る太陽電池セル)は、良好なセル特性を実現でき、さらには、当該太陽電池セルを備える太陽電池モジュール(本開示に係る太陽電池モジュール)は、良好な耐湿性を実現できるので、太陽電池モジュールとして良好な長期信頼性を実現することができる。
【0176】
例えば、実施例1~6の結果(表4)あるいは実施例11~14の結果(表6)から明らかなように、(A)樹脂成分としてエポキシ樹脂およびウレタン樹脂を併用しても併用しなくても、本開示に係る導電性ペースト組成物の構成であれば、良好な結果を得ることができる。また、実施例7~10、16、17の結果(表5)から明らかなように、(A)樹脂成分としてエポキシ樹脂のみを2種類用いても、本開示に係る導電性ペースト組成物の構成であれば、良好な結果を得ることができる。(A)樹脂成分としてエポキシ樹脂を3種類以上用いたりウレタン樹脂を2種類以上用いたりした構成であっても同様に良好な結果が得られる。
【0177】
実施例13の結果から明らかなように、(B)導電性粉末として銀コート銅粉を用いた場合でも、本開示に係る導電性ペースト組成物の構成であれば、良好な結果を得ることができる。(B)導電性粉末が銀粉以外の金属粉あるいは導電性を有する金属以外の粉末であっても、(B)導電性粉末が1種類のみであっても2種類の配合が1対1ではなくても3種類以上が配合されたものであっても同様に良好な結果が得られる。
【0178】
実施例14の結果から明らかなように、(C)シリコーンオイル成分がストレートシリコーンオイルではなく変性シリコーンオイルであっても、本開示に係る導電性ペースト組成物の構成であれば、良好な結果を得ることができる。
【0179】
実施例15の結果から明らかなように、(A)樹脂成分として、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂に加えてその他の樹脂を用いても、基本樹脂成分が(A)樹脂成分総量の70質量%以上であれば、良好な結果を得ることができる。基本樹脂成分がエポキシ樹脂のみ(1種類または2種類以上)、あるいは、ウレタン樹脂のみ(1種類または2種類以上)であっても同様に良好な結果が得られる。
【0180】
実施例1~17のいずれの結果を対比しても明らかなように、(A)樹脂成分を構成する樹脂の種類、分子量、組合せ、全配合量(含有量Z)を変化させても、前記式(1)の条件(WMn×Z2 )が所定範囲内に入っていれば(すなわち本開示に係る導電性ペースト組成物の構成であれば)、良好な結果を得ることができる。同様に、実施例1~17(特に実施例7~15)の結果から明らかなように、(C)シリコーンオイル成分として、さまざまな種類のシリコーンオイルを用いても(実施例14の変性シリコーンオイルも含む)、シリコーンオイルの分子量が所定範囲内であり、かつ、配合量が所定範囲内であれば(本開示に係る導電性ペースト組成物の構成であれば)、良好な結果を得ることができる。
【0181】
これに対して、比較例1~4の結果から明らかなように、前記式(1)の条件(WMn×Z2 )が所定範囲外であれば、良好なセル特性が得られなくなるだけでなく、線幅が太くなったり(比較例1、2)、線抵抗が高くなったり(比較例3、4)、良好な耐湿性(すなわち長期安定性)を実現できなくなったり(比較例1、2)することがわかる。
【0182】
また、比較例5~7、10の結果から明らかなように、シリコーンオイルの分子量が所定の範囲内であるとしても、その配合量が所定の範囲外であれば、良好な結果が得られないことがわかる。特に、(C)シリコーンオイル成分が含有(配合)されなかったり(比較例6)、含有量(配合量)が少なかったり(比較例7)する場合には、良好なセル特性が得られないだけでなく、線幅が太くなるとがわかる。また、(C)シリコーンオイル成分が多くなると(比較例5、10)、良好な耐湿性が得られなくなり、太陽電池モジュールの長期信頼性が低下するおそれがある。
【0183】
また、比較例8、9の結果から明らかなように、シリコーンオイルの配合量が所定範囲内であるとしても、当該シリコーンオイルの分子量が所定範囲より小さかったり(比較例8)所定範囲より大きかったり(比較例9)すると、良好なセル特性が得られなくなるだけでなく、線幅が太くなったり(比較例8)線抵抗が高くなったり(比較例9)することがわかる。
【0184】
このように、本開示に係る導電性ペースト組成物であれば、(A)樹脂成分が、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方であるとともに、(B)導電性粉末の含有量を基準として、前記式(1)の条件(WMn×Z2 =5×103 ~3×105 )を満たすように、(A)樹脂成分の含有量Zおよび(A)樹脂成分の分子量平均値WMnを設定するとともに、(C)シリコーンオイル成分の数平均分子量と含有量とを設定している。これにより、前述した実施例または比較例の通り、陽電池セルまたは太陽電池モジュール等の電子機器または電子部品において、その性能に大きな影響を及ぼすことを回避しつつ、集電電極等の電極または配線を形成する際に、良好な細線描画性を実現することができる。
【0185】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明は、各種電子機器や電子部品を製造する分野に好適に用いることができ、特に、太陽電池の集電電極、チップ型電子部品の内部電極または外部電極、RFID、電磁波シールド、振動子接着、メンブレンスイッチ、タッチパネルまたはエレクトロルミネセンス等に用いられる部品の電極または配線等、より高精細な電極または配線等を形成、あるいは電子部品の接着が求められる分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0187】
10:太陽電池セル
11:n型単結晶シリコン基板
12:i型アモルファスシリコン層
13:i型アモルファスシリコン層
14:p型アモルファスシリコン層
15:n型アモルファスシリコン層
16:透明導電層(透明電極膜)
17:透明導電層(透明電極膜)
18:集電電極(導電性ペースト組成物の印刷パターン)
19:集電電極(導電性ペースト組成物の印刷パターン)
20:太陽電池モジュール
21:タブ
22:充填材
23:表面保護ガラス
24:裏面保護材
【要約】
【課題】 電子機器または電子部品の性能に大きな影響を及ぼすことを回避しつつ、良好な細線描画性を実現できる熱硬化型導電性ペースト組成物を提供する。
【解決手段】 熱硬化型導電性ペースト組成物の(A)樹脂成分が、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂の少なくとも一方を含み、(C)シリコーンオイル成分が、ストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルの少なくとも一方であって、その数平均分子量が1×103 ~1×105 の範囲内である。(B)導電性粉末100質量部に対して、(A)樹脂成分の含有量をZ質量部とし、(A)樹脂成分を構成する樹脂の数平均分子量の加重平均値をWMnとしたときに、下記式(1)の条件を満たし、(C)シリコーンオイル成分の含有量が0.1~2質量部の範囲内である。
WMn×Z2 =5×103 ~3×105 ・・・ (1)
【選択図】 なし
図1
図2