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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】鉄含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/16 20160101AFI20220208BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220208BHJP
   A23L 29/25 20160101ALI20220208BHJP
【FI】
A23L33/16
A61K33/26
A61P3/02
A61K47/10
A61K47/36
A23L29/25
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021518027
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000538
(87)【国際公開番号】W WO2021153199
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2020015138
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】杉山 泰崇
(72)【発明者】
【氏名】江間 汐里
(72)【発明者】
【氏名】福原 寛央
(72)【発明者】
【氏名】中村 武嗣
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-089634(JP,A)
【文献】国際公開第98/042210(WO,A1)
【文献】特開2016-065003(JP,A)
【文献】特開2007-215480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P,A61Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロリン酸第二鉄、多価アルコール、アラビアガム、及びガティガムを含有する鉄含有組成物であって、ピロリン酸第二鉄100質量部に対する多価アルコールの含有量が93~630質量部であり、ピロリン酸第二鉄100質量部に対するアラビアガム及びガティガムの合計量が15~23質量部であり、ガティガム含有量に対するアラビアガム含有量の質量比(アラビアガム/ガティガム)が0.01~0.5であり、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径が0.20μm以下であり、多価アルコールが、プロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、及びポリグリセリンからなる群より選択される1種以上を含む、鉄含有組成物。
【請求項2】
ピロリン酸第二鉄、多価アルコール、アラビアガム、及びガティガムを配合する鉄含有組成物の製造方法であって、ピロリン酸第二鉄100質量部に対する多価アルコールの配合量が93~630質量部であり、ピロリン酸第二鉄100質量部に対するアラビアガム及びガティガムの合計量が15~23質量部であり、ガティガム配合量に対するアラビアガム配合量の質量比(アラビアガム/ガティガム)が0.01~0.5であり、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径が0.20μm以下であり、多価アルコールが、プロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、及びポリグリセリンからなる群より選択される1種以上を含む、鉄含有組成物の製造方法。
【請求項3】
ピロリン酸第二鉄を粉砕する工程を更に有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度が0.05mS/cm以上であるピロリン酸第二鉄を配合する、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
ピロリン酸第二鉄の配合量が15~25質量%であり、ピロリン酸第二鉄100質量部に対する多価アルコールの含有量が93~330質量部である、請求項2~4いずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の鉄含有組成物を含有する、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄含有組成物及びその製造方法、並びに鉄含有組成物を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、飲食品、飼料、化粧品、医薬組成物等において鉄を強化するための種々の組成物が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高濃度を有し且つ高分散性を有する食品添加剤スラリー組成物として、ピロリン酸第二鉄及び特定量のアラビアガムを含有し、且つ特定のカルシウムイオン濃度の要件を満たす食品添加剤スラリー組成物が開示されている。また、特許文献2には、飲食品中で鉄が金属味を呈することなく飲食品自体の良好な風味を維持し、且つ分散性に優れ、保存時の二次凝集を効果的に防止する鉄強化飲食品用組成物として、水不溶性鉄塩に対して特定量のガティガムのみを用いることを特徴とする鉄強化飲食品用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3512113号公報
【文献】特許第4833176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2で開示された組成物では、更に分散性を良好とするために鉄剤の粒子径を0.2μm程度まで小さくすると粘度が高くなってしまい、高濃度での製造ができないなど、生産性に問題が生じる場合があることが分かった。従って、鉄含有組成物における分散性や生産性については、更なる改善が求められる。
【0006】
本発明は、分散性及び生産性に優れる鉄含有組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ピロリン酸第二鉄、多価アルコール、アラビアガム、及びガティガムを含有する鉄含有組成物であって、ピロリン酸第二鉄100質量部に対する多価アルコールの含有量が93~630質量部であり、ピロリン酸第二鉄100質量部に対するアラビアガム及びガティガムの合計量が15~23質量部であり、ガティガム含有量に対するアラビアガム含有量の質量比が0.01~0.5であり、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径が0.20μm以下である、鉄含有組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分散性及び生産性に優れる鉄含有組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らが上記課題について検討したところ、鉄剤としてピロリン酸第二鉄を使用し、特定量の多価アルコール、アラビアガム、及びガティガムを使用することで、鉄剤の粒子径を小さくしても、高濃度で使用することができ、分散性と生産性を両立できることを新たに見出した。
【0010】
本発明の鉄含有組成物は、ピロリン酸第二鉄、多価アルコール、アラビアガム、及びガティガムを含有する。
【0011】
本発明の鉄含有組成物におけるピロリン酸第二鉄の含有量は、用途により適宜設定することができる。例えば、鉄含有組成物の製造時には、生産性の観点から、好ましくは15~25質量%、より好ましくは20~25質量%など、高濃度で調製することが好ましい。また、飲食品用の組成物とする場合には、1~20質量%や、好ましくは5~15質量%などで使用することができ、当該濃度で調製してもよいし、高濃度で調製した鉄含有組成物を希釈して調製することもできる。本発明の鉄含有組成物の状態は、液状でも粉状でもよい。液状の態様においては水を含有することができ、粉状の態様においてはデキストリン等の賦形剤等を添加することもできる。本明細書において、ピロリン酸第二鉄の含有量は食品添加物公定書記載のピロリン酸第二鉄の定量法で測定する。なお、本発明の鉄含有組成物においては、本発明の効果を阻害しない範囲内においてピロリン酸第二鉄以外の鉄剤が含まれていてもよいが、鉄剤としては実質的にピロリン酸第二鉄のみからなることが好ましい。他の鉄剤としては、リン酸第二鉄、リン酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、水酸化第二鉄、酸化第二鉄などが挙げられる。
【0012】
本発明の鉄含有組成物におけるピロリン酸第二鉄は、ビーズミル、サンドミル、コボールミル等の湿式粉砕機、ナノマイザー、スターバースト、マイクロフルイタイザー、ホモジナイザー等の乳化・分散装置、超音波分散機など公知の粉砕手段で微粒子化されている。本発明の鉄含有組成物におけるピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径は、分散性の観点から、0.20μm以下、好ましくは0.18μm以下、より好ましくは0.16μm以下であり、また、生産性の観点から、好ましくは0.10μm以上、より好ましくは0.12μm以上、さらに好ましくは0.14μm以上であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置LS13 320(BECKMAN COULTER製)で測定する。
【0013】
本発明の鉄含有組成物に含まれる多価アルコールとしては、炭素数2~12で1分子中に水酸基を2個以上有する化合物及び糖アルコールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、ソルビタン、キシロース、アラビノース、マンノース、乳糖、砂糖、ブドウ糖、酵素水飴、酸糖化水飴、麦芽糖水飴、麦芽糖、異性化糖、果糖、還元麦芽糖水飴、還元澱粉糖水飴、蜂蜜、果糖ブドウ糖液糖などが挙げられる。このうち、製剤の調製のしやすさや安定性の観点から、好ましくはプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリンであり、食品に使用できるという観点から、より好ましくはプロピレングリコール、グリセリンである。
【0014】
本発明の鉄含有組成物における多価アルコールの含有量は、ピロリン酸第二鉄100質量部に対して93~630質量部、好ましくは100~630質量部の範囲内で適宜設計することができる。例えば、本発明の鉄含有組成物におけるピロリン酸第二鉄の含有量が15~25質量%など高濃度の場合には、多価アルコールは93~330質量部、100~330質量部など低含有量であることが好ましく、低濃度になるにつれて多価アルコールを多く含有させることが好ましい。例えば、ピロリン酸第二鉄の含有量が10~15質量%、好ましくは12~13質量%の場合には、好ましくは300~460質量部、より好ましくは330~460質量部、さらに好ましくは360~460質量部である。また、ピロリン酸第二鉄の含有量が5~10質量%、好ましくは7~9質量%の場合には、好ましくは500~630質量部である。多価アルコールを2種以上含有する場合における含有量は、多価アルコールの合計量である。
【0015】
本発明の鉄含有組成物におけるアラビアガム及びガティガムの合計量は、ピロリン酸第二鉄100質量部に対して、分散性の観点から、15質量部以上、好ましくは16質量部、より好ましくは18質量部以上であり、また、同様の観点から、23質量部以下、好ましくは22質量部以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0016】
本発明の鉄含有組成物におけるガティガム含有量に対するアラビアガム含有量の質量比(アラビアガム/ガティガム)は、分散性の観点から、0.01以上、好ましくは0.02以上、、また、同様の観点から、0.50以下、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.30以下、さらに好ましくは0.15以下であり、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。
【0017】
本発明の鉄含有組成物におけるアラビアガム及びガティガムの含有量は、上記の合計量と比率を満足するものであればよいが、アラビアガムの含有量としてはピロリン酸第二鉄100質量部に対して、好ましくは0.3~5.0質量部、より好ましくは0.3~1.0質量部、さらに好ましくは0.3~0.5質量部であり、ガティガムの含有量としてはピロリン酸第二鉄100質量部に対して、好ましくは15~23質量部、より好ましくは16~22質量部である。
【0018】
本発明の鉄含有組成物においては、アラビアガム及びガティガム以外の増粘多糖類を任意に含有することができる。このような任意の増粘多糖類としては、特に限定されるものではないが、キサンタンガム、グァーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸、カードラン、カラヤガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タラガム、プルラン、及びこれらの分解物、更にアルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、CMC、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、大豆多糖類などが挙げられる。本発明の鉄含有組成物における任意の増粘多糖類の含有量は、ピロリン酸第二鉄100質量部に対して0.01~10質量部とすることができる。
【0019】
本発明の鉄含有組成物が液状の態様において、水の含有量は特に限定されないが、ピロリン酸第二鉄100質量部に対して、好ましくは100~500質量部、より好ましくは150~400質量部である。
【0020】
本発明の鉄含有組成物においては、その他の任意成分として、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、クエン酸脂肪酸エステル、コハク酸脂肪酸エステルなどの有機酸脂肪酸エステルや酵素分解レシチン、酵素処理レシチン、高純度レシチンなどのレシチン類などの乳化剤、デキストリン、結晶セルロースなどの賦形剤、カゼイン、カゼインナトリウム、酸カゼイン、ミセルカゼイン、大豆タンパク、えんどう豆タンパク、卵白粉末、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク質、これらを分解したペプチドやアミノ酸類など、植物油、動物脂、加工油脂などの油脂類などを含有することができる。
【0021】
本発明の鉄含有組成物が液状の態様において、その粘度はピロリン酸第二鉄の含有量等に左右されるが、鉄含有組成物を製造可能とする観点から、好ましくは30000mPa・s以下であり、より好ましくは10000mPa・s以下であり、飲食品等に使用するする際には100~2000mPa・s程度まで希釈することが好ましい。本明細書において、鉄含有組成物の粘度は、10000mPa・s未満の場合は、鉄含有組成物を調製後、25℃で2時間保持後にBL型粘度計(東機産業製)で60rpmにて測定する。また、鉄含有組成物の粘度が10000mPa・s以上の場合は、25℃で2時間保持後にBH型粘度計(東機産業製)で20rpmにて測定する。
【0022】
本発明の鉄含有組成物の水分活性は、細菌の増殖を抑制する観点から、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.83以下、さらに好ましくは0.80以下であり、下限値は特に限定されないが、0.10以上、0.30以上、0.50以上、0.70以上とすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、鉄含有組成物の水分活性はPAWKIT(METER製)で測定する。
【0023】
本発明の鉄含有組成物における粒度は、好ましくは550nm以下、より好ましくは540nm以下であり、下限値は特に限定されないが、150nm以上とすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、粒度は、動的光散乱式粒度分布測定装置Nano-ZS (Malvern製)にて測定する。
【0024】
本発明の鉄含有組成物は、飲食品、飼料、化粧品、医薬組成物などに使用することができる。飲食品としては、例えば、パン、麺類などに代表される小麦粉加工食品、お粥、炊き込み飯などの米加工品、ビスケット、ケーキ、キャンディ、チョコレート、せんべい、あられ、錠菓、和菓子などの菓子類、豆腐、その加工食品などの大豆加工食品、清涼飲料、果汁飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、アルコール飲料などの飲料類、ヨーグルト、チーズ、バター、アイスクリーム、コーヒーホワイトナー、ホイップクリーム、牛乳などの乳製品、醤油、味噌、ドレッシング、ソース、たれ、マーガリン、マヨネーズなどの調味料、ハム、ベーコン、ソーセージなどの畜肉加工食品、蒲鉾、はんぺん、ちくわ、魚の缶詰などの水産加工食品、濃厚流動食、半消化態栄養食、成分栄養食などの経口経腸栄養食などが挙げられる。飼料としては、例えば、ペット、家畜、養殖魚などの餌などが挙げられる。化粧品としては、化粧水、乳液、浴用剤、クレンジング剤などの洗浄剤、歯磨剤などが挙げられる。医薬組成物としては、医薬品、医薬部外品等として幅広く利用することができる。例えば、鉄分の補給あるいは維持が望まれている任意の疾患の治療や予防のために用いることができる。具体的には、鉄欠乏性貧血症、スポーツ貧血の治療や予防の用途に好適に用いることができる。なお、医薬組成物は、本発明の鉄含有組成物と同じ作用を有する他の成分等を共に配合して調製することもできる。医薬組成物の製剤形態としては、本発明の鉄含有組成物を含有するのであれば特に制限されず、具体的には、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤、錠剤〔素錠、糖衣錠、口腔内速崩壊錠、咀嚼可能錠(チュアブル錠)、発泡錠、トローチ剤、フィルムコーティング錠等を含む〕、ドライシロップ剤、フィルム剤、液剤〔懸濁剤、乳剤、シロップ剤、リモナーデ剤等を含む〕、ゼリー剤が例示され、製菓剤〔キャンディー(飴)、グミ剤、ヌガー剤等〕も包含される。なお、カプセル剤としては、ハードカプセル剤の他に、本発明の鉄含有組成物を分散させた溶液を充填したソフトカプセル剤も含まれる。
【0025】
本発明の鉄含有組成物は、公知の製造方法により製造することができ、例えば、ピロリン酸第二鉄、多価アルコール、アラビアガム、及びガティガムを配合し、ビーズミル、サンドミル、コボールミル等の湿式粉砕機、スターバースト、ナノマイザー、マイクロフルイタイザー、ホモジナイザー等の乳化・分散装置、超音波分散機などにより製造することができる。各種成分についての配合量等については、上記したとおりである。ここで、原料として用いるピロリン酸第二鉄としては、市販されているものを用いることができるが、特定の電気伝導度を有するピロリン酸第二鉄を用いることが好ましい。なお、原料として用いるピロリン酸第二鉄は、所望の粒子径となるように製造工程中に粉砕してもよいし、予め粉砕処理された原料を使用してもよい。ピロリン酸第二鉄の電気伝導度は、好ましくは0.05mS/cm以上、より好ましくは0.08mS/cm以上、さらに好ましくは0.10mS/cm以上、さらに好ましくは0.20mS/cm以上、さらに好ましくは0.30mS/cm以上であり、また、上限値としては、特に限定されないが、例えば、1.5mS/cm以下とすることができ、これらいずれの組み合わせによる範囲としてもよい。本明細書において、原料となるピロリン酸第二鉄の電気伝導度は、ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度であり、電気伝導度測定機 ES-12(HORIBA製)で測定する。また、原料として用いるピロリン酸第二鉄としては、ピロリン酸第二鉄を水で洗浄した際に得られた上清に含まれるリンの割合が好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下のものを用いることが好ましい。リンの割合は、上清を乾燥後、蛍光X線分析により測定する。
【実施例
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
鉄含有組成物の調製
実施例1~11、比較例1~6
ピロリン酸第二鉄A(ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度0.40mS/cm、水で洗浄した際に得られた上清に含まれるリンの割合1.4%)400gをグリセリン500g、イオン交換水1100gに混合、分散させ、微細化処理を実施し、ピロリン酸第二鉄の平均粒子の大きさを表1、2に記載の大きさに均一化し、20質量%のピロリン酸第二鉄組成物を得た。得られた組成物を、表1、2となるように増粘多糖類の溶液とグリセリンに混合した後、ホモジナイザーにて分散均一化して、鉄含有組成物(12.5質量%ピロリン酸第二鉄分散液)を得た。得られた鉄含有組成物を分析し、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径、粘度、粒度(調製直後及び4日後)を測定した。また、各実施例に関しては、その水分活性についても測定し、細菌の増殖を抑制できる水準であることを確認した。結果を表1、2に示す。
【0028】
<分散性(沈殿評価)>
調製4日後の各実施例・比較例のピロリン酸第二鉄分散液を、市販の低脂肪乳に、鉄濃度5mg/100mlとなるように添加した。ホモミキサー(8000rpm、2分)処理後、80℃、30分加熱後、冷蔵1週間静置し、下記基準にて黄色~黄褐色の沈殿の量を評価した。
(評価基準)
点数5:まったく沈殿が確認できない
点数4:ほとんど沈殿が確認できない
点数3:少し沈殿が確認できる
点数2:沈殿が確認できる
点数1:多量の沈殿が確認できる
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表1、2より、ガティガム含有量に対するアラビアガム含有量の質量比が0.01~0.5の範囲外である比較例1~3、アラビアガム及びガティガムの合計量が15~23質量部の範囲外である比較例4、5、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径が0.20μmを超える比較例6の鉄含有組成物に比べて、実施例1~11の鉄含有組成物はいずれも分散性に優れていたことが分かる。
【0032】
鉄含有組成物の調製
実施例12~14
表3に記載の配合として、8.0質量%ピロリン酸第二鉄分散液とした以外は実施例1と同様にして鉄含有組成物を得た。表3中、ピロリン酸第二鉄Aは、ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度0.40mS/cmであり、水で洗浄した際に得られた上清に含まれるリンの割合1.4%のものであり、ピロリン酸第二鉄Bは、ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度0.10mS/cmであり、水で洗浄した際に得られた上清に含まれるリンの割合65.1%のものであり、ピロリン酸第二鉄Cは、ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度0.08mS/cmであり、水で洗浄した際に得られた上清に含まれるリンの割合95.3%のものである。得られた鉄含有組成物について実施例1~11と同様にして沈殿評価を行った。また、得られた鉄含有組成物を分析し、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径、粘度、粒度(調製直後及び4日後)を測定した。また、水分活性についても測定し、細菌の増殖を抑制できる水準であることを確認した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3より、実施例12~14の鉄含有組成物における分散性はいずれも優れていたが、より電気伝導度が高いピロリン酸第二鉄である、ピロリン酸第二鉄A、Bを用いた実施例12、13の方が分散性に優れるものであった。また、粘度を考慮すると、ピロリン酸第二鉄Aを配合した実施例12の鉄含有組成物が最も優れていた。
【0035】
鉄含有組成物の調製
実施例15、16
ピロリン酸第二鉄A(ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度0.40mS/cm、水で洗浄した際に得られた上清に含まれるリンの割合1.4%)500gをグリセリン500g、ガティガム70g、アラビアガム2g、イオン交換水928gに混合、分散させ、微細化処理を60分実施し、ピロリン酸第二鉄の平均粒子の大きさを表4に記載の大きさに均一化し、ピロリン酸第二鉄25質量%の鉄含有組成物を得た。得られた鉄含有組成物を分析し、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径及び粘度を測定した。結果を表4に示す。
【0036】
比較例7
グリセリンの量およびイオン交換水の量を表4に記載の量とした以外は実施例15、16と同様にして調製を試みた。なお、比較例7については固形化しており体積平均粒子径及び粘度が測定できなかった。
【0037】
<製造適性>
実施例15、16及び比較例7の製造適性について、以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
(評価基準)
○:微細化処理時に液体スラリーとして製造可能
△:微細化処理時に増粘するが、液体スラリーとして製造できる
×:微細化処理時に固形化して製造できない、もしくは微細化処理後の体積平均粒子径が0.20を超える
【表4】
【0038】
実施例17、18
実施例15、16で得られたピロリン酸第二鉄25質量%の鉄含有組成物100質量部に対して、グリセリンを70質量部、水を30質量部添加して希釈し、ピロリン酸第二鉄12.5質量%の鉄含有組成物を調製した。得られた鉄含有組成物について実施例1~11と同様にして沈殿評価を行ったところ、いずれも沈殿が見られず優れた分散性を示すことを確認した。
【0039】
実施例19
ピロリン酸第二鉄A(ピロリン酸第二鉄1%水溶液での電気伝導度0.40mS/cm、水で洗浄した際に得られた上清に含まれるリンの割合1.4%)400gをグリセリン400g、ガティガム64g、アラビアガム1.28g、イオン交換水1134.72gに混合、分散させ、微細化処理を実施し、ピロリン酸第二鉄の平均粒子の大きさを0.15μmに均一化し、ピロリン酸第二鉄20質量%の鉄含有組成物を得た。その溶液に更にイオン交換水を80000g、デキストリンを19134.72g加えて加熱し、デキストリンを溶解後、スプレードライヤーで噴霧乾燥し、粉末状の鉄含有組成物を調製した。得られた鉄含有組成物について実施例1~11と同様にして沈殿評価を行ったところ、沈殿が見られず優れた分散性を示すことを確認した。
【0040】
鉄含有組成物の調製
実施例20~23、比較例8~11
各成分量を表5に記載の量とした以外は実施例15、16と同様にして、ピロリン酸第二鉄25質量%の鉄含有組成物を得た。得られた鉄含有組成物を分析し、ピロリン酸第二鉄の体積平均粒子径及び粘度を測定した。また、実施例15、16と同様の基準で製造適性を評価した。結果を表5に示す。なお、比較例8については固形化しており体積平均粒子径及び粘度が測定できなかった。
【0041】
【表5】
【0042】
表5に示すように、実施例20~23では、粘度が30000近くなり製造効率が実施例15、16よりも劣るものの、高濃度での製造適正を有するものであることが確認できた。一方、比較例9~11では、実施例20~23と同様の微細化処理を行ったが、微細化処理後に粒子凝集が確認され分散性に劣ることから、高濃度での製造適正はないと評価した。
【0043】
実施例24~27
実施例20~23で得られたピロリン酸第二鉄25質量%の鉄含有組成物100質量部に対して、グリセリンを70質量部、水を30質量部添加して希釈し、ピロリン酸第二鉄12.5質量%の鉄含有組成物を調製した。得られた鉄含有組成物について実施例1~11と同様にして沈殿評価を行ったところ、いずれも沈殿が見られず優れた分散性を示すことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の鉄含有組成物は、飲食品、飼料、化粧品、医薬組成物等に使用することができる。