IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-リチウムイオン二次電池 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20220209BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220209BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220209BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/0585
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017135821
(22)【出願日】2017-07-11
(65)【公開番号】P2019021390
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】河合 智之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】中垣 佳浩
(72)【発明者】
【氏名】四本 賢佑
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-073223(JP,A)
【文献】特開2015-079636(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057012(WO,A1)
【文献】特開2007-095656(JP,A)
【文献】特開2012-204333(JP,A)
【文献】特開2006-344494(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093126(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製の正極集電箔と前記正極集電箔の表面に形成された正極活物質層とを具備する正極板と、負極集電箔と前記負極集電箔の表面に形成された負極活物質層とを具備する負極板と、セパレータと、下記一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩を含有する電解液とを備え、
前記正極集電箔の表面には、前記正極活物質層が形成されていない正極未塗工部が存在しており、
前記正極板及び前記負極板は前記セパレータを挟んで対面し、かつ、前記正極未塗工部と前記負極活物質層の端部とが対面しているリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層の端部と対面している前記正極未塗工部における前記正極集電箔の表面に、正極集電箔保護層を有し、
前記正極集電箔保護層の材料は、合成樹脂または接着剤から選ばれる高分子、セラミックス、または炭素材料を含み、
前記正極集電箔保護層は、前記正極集電箔と前記電解液とが直接接触することを抑制することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
(R)(RSO)NLi 一般式(1)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
SOLi 一般式(2)
(Rは、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
【請求項2】
前記電解液において、前記リチウム塩を含む電解質の濃度が1.5~3mol/Lである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極未塗工部における前記正極集電箔は、前記正極活物質層が形成された前記正極集電箔から延びる正極集電箔余剰部と、前記正極集電箔余剰部から前記正極集電箔余剰部よりも短幅で延び、外部と接続されるタブ部からなり、
前記正極集電箔余剰部と前記タブ部の両者の表面に、前記正極集電箔保護層を有する請 求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極板と、前記負極板と、前記セパレータとが平面状態で積層されている請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極集電箔保護層は、その端を、正極活物質層の端と接している状態で、正極未塗工部に配置される、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極集電箔保護層の厚みは、1μm~500μmの範囲内である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池は、主な構成要素として、正極、負極及び電解液を備える。そして、電解液には、適切な電解質が適切な濃度範囲で添加されている。例えば、リチウムイオン二次電池の電解液には、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、CFSOLi、(CFSONLi等のリチウム塩が電解質として添加されるのが一般的であり、ここで、電解液におけるリチウム塩の濃度は、概ね1mol/Lとされるのが一般的である。
【0003】
また、電解液に用いられる有機溶媒には、電解質を好適に溶解させるために、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の比誘電率及び双極子モーメントの高い有機溶媒を約30体積%以上で混合して用いるのが一般的である。
【0004】
また、多数の文献で報告されているように、リチウムイオン二次電池の正極における集電体には、アルミニウム製の金属箔を用いるのが一般的である。
【0005】
実際に、特許文献1には、エチレンカーボネートを33体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む電解液と、アルミニウム製の正極集電箔を用いた正極とを備えたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【0006】
最近になって、特許文献2により、電解質としての金属塩を高濃度で含む電解液及び当該電解液を具備するリチウムイオン二次電池が報告され、当該電解液は、低濃度の電解液と比較して、アルミニウムの腐食を好適に抑制し得ることも報告されている(実施例A、比較例A、評価例Aなどを参照。)。
【0007】
また、リチウムイオン二次電池は、正極集電箔と前記正極集電箔の表面に形成された正極活物質層とを具備する正極板と、負極集電箔と前記負極集電箔の表面に形成された負極活物質層とを具備する負極板と、セパレータとを備え、前記正極板及び前記負極板はセパレータを挟んで対面しているのが一般的であり、さらに、前記正極集電箔の表面に前記正極活物質層が形成されていない正極未塗工部と、負極活物質層の端部とが対面している状態とされるのも一般的である。
負極活物質層の端部にはリチウムイオンが集中する傾向があり、そして、リチウムイオンの集中により、金属リチウムが析出する懸念があるものの、放出可能なリチウムイオンを有さない正極未塗工部と、負極活物質層の端部とが対面している状態とすることで、負極活物質層の端部へのリチウムイオンの集中を抑制し、金属リチウムの析出を抑制することができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-149477号公報
【文献】国際公開第2016/063468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者が、アルミニウム製の正極集電箔を具備する正極と、(FSONLiを2.4mol/Lの濃度で含有する電解液とを備えるリチウムイオン二次電池を実際に製造し、充放電試験を行ったところ、アルミニウム腐食が生じないと想定されていた電位にて充放電を行ったにもかかわらず、当該リチウムイオン二次電池の正極集電箔からアルミニウムが溶出して負極上に堆積する現象が確認された。そのため、本発明者は、アルミニウム製の正極集電箔からのアルミニウム溶出の点について、改善の余地があることを認識した。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、アルミニウム製の正極集電箔からのアルミニウム溶出を低減させたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が上述した充放電試験後のリチウムイオン二次電池の正極集電箔を精緻に観察したところ、負極活物質層の端部と対面していた正極未塗工部のアルミニウムが腐食されていることを知見した。かかる知見から、充放電条件下において、負極活物質層の端部と対面していた正極未塗工部のアルミニウムがアルミニウムイオンとして電解液に溶解し、そして、アルミニウムイオンが負極上で還元されてアルミニウムやアルミニウム化合物として堆積すると考えられる。そこで、本発明者は、アルミニウム製の正極集電箔における正極未塗工部と電解液との接触を抑制して、電解液へのアルミニウムの溶出を抑制することで、上記の課題を解決することを想起した。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池は、
アルミニウム製の正極集電箔と前記正極集電箔の表面に形成された正極活物質層とを具備する正極板と、負極集電箔と前記負極集電箔の表面に形成された負極活物質層とを具備する負極板と、セパレータと、下記一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩を含有する電解液とを備え、
前記正極集電箔の表面には、前記正極活物質層が形成されていない正極未塗工部が存在しており、
前記正極板及び前記負極板は前記セパレータを挟んで対面し、かつ、前記正極未塗工部と前記負極活物質層の端部とが対面しているリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層の端部と対面している前記正極未塗工部における前記正極集電箔の表面に、正極集電箔保護層を有することを特徴とする。
【0013】
(R)(RSO)NLi 一般式(1)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
SOLi 一般式(2)
(Rは、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、正極集電箔保護層がアルミニウム製の正極集電箔における正極未塗工部と電解液との接触を抑制するため、正極集電箔からのアルミニウム溶出を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1のリチウムイオン二次電池の模式図である。
図2】実施例2のリチウムイオン二次電池の正極板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池は、
アルミニウム製の正極集電箔と前記正極集電箔の表面に形成された正極活物質層とを具備する正極板と、負極集電箔と前記負極集電箔の表面に形成された負極活物質層とを具備する負極板と、セパレータと、上記一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩を含有する電解液とを備え、
前記正極集電箔の表面には、前記正極活物質層が形成されていない正極未塗工部が存在しており、
前記正極板及び前記負極板は前記セパレータを挟んで対面し、かつ、前記正極未塗工部と前記負極活物質層の端部とが対面しているリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層の端部(以下、単に「端部」ということがある。)と対面している前記正極未塗工部における前記正極集電箔の表面に、正極集電箔保護層を有することを特徴とする。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる正極板は、アルミニウム製の正極集電箔と、正極集電箔の表面に形成された正極活物質層と、正極集電箔の表面に形成された正極集電箔保護層とを具備する。
【0019】
アルミニウム製の正極集電箔は、アルミニウム又はアルミニウム合金を材料とする。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al-Cu系、Al-Mn系、Al-Fe系、Al-Si系、Al-Mg系、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系が挙げられる。
【0020】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al-Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al-Fe系)が挙げられる。
【0021】
正極集電箔の厚みは、1μm~100μmの範囲内が好ましく、5μm~50μmの範囲内がより好ましく、10μm~30μmの範囲内がさらに好ましい。正極集電箔としては、その表面を公知の方法で処理して採用してもよい。
【0022】
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。正極活物質層の厚みは、1μm~500μmの範囲内が好ましく、5μm~200μmの範囲内がより好ましく、10μm~100μmの範囲内がさらに好ましい。
【0023】
正極活物質としては、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3) で表されるリチウム複合金属酸化物、LiMnOを挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn等のスピネル構造の金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、電荷担体(例えば充放電に寄与するリチウムイオン)を含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。
リチウム等の電荷担体を含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予め電荷担体を添加しておく必要がある。電荷担体は、イオンの状態で添加しても良いし、金属等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、電荷担体がリチウムである場合には、リチウム箔を正極及び/又は負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。
【0024】
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3) で表されるリチウム複合金属酸化物を採用することが好ましい。
【0025】
上記一般式において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが10/100<b<90/100、10/100<c<90/100、5/100<d<70/100の範囲であることが好ましく、20/100<b<80/100、12/100<c<70/100、10/100<d<60/100の範囲であることがより好ましく、30/100<b<70/100、15/100<c<50/100、12/100<d<50/100の範囲であることがさらに好ましい。
【0026】
a、e、fについては、上記一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1をそれぞれ例示することができる。
【0027】
具体的な正極活物質として、スピネル構造のLiMn2―y(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素、0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。より具体的には、LiMn、LiNi0.5Mn1.5を例示できる。
【0028】
具体的な正極活物質として、LiFePO、LiFeSiO、LiCoPO、LiCoPO、LiMnPO、LiMnSiO、LiCoPOFを例示できる。他の具体的な正極活物質として、LiMnO-LiCoOを例示できる。
【0029】
正極活物質は1種類を用いても良いし、複数種類を併用しても良い。正極活物質の併用例として、層状岩塩構造の一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3) で表されるリチウム複合金属酸化物と、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)で表されるポリアニオン系化合物との併用を挙げることができる。リチウム複合金属酸化物とポリアニオン系化合物との併用において、これらの質量比は、リチウム複合金属酸化物:ポリアニオン系化合物=90:10~50:50の範囲内が好ましく、80:20~60:40の範囲内がより好ましい。また、正極活物質は炭素で被覆されていてもよい。
【0030】
正極活物質層における正極活物質の質量%は、60~100質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましく、85~96質量%がさらに好ましい。
【0031】
結着剤及び導電助剤は、負極活物質層で説明するものを必要に応じて採用すればよい。正極活物質層における結着剤の質量%は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~7質量%がより好ましく、1~5質量%がさらに好ましい。結着剤が少なすぎると成形性が低下し、他方、結着剤が多すぎるとエネルギー密度が低くなるためである。正極活物質層における導電助剤の質量%は、0.1~15質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できない場合があり、他方、導電助剤が多すぎると成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0032】
正極集電箔の表面に正極活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、正極集電箔の表面に正極活物質を塗布すればよい。具体的には、正極活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを正極集電箔の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0033】
正極集電箔保護層は、正極集電箔と電解液との直接接触を抑制するものである。正極集電箔保護層の存在に因り、正極集電箔のアルミニウムが電解液を介して負極板へ移動するのを抑制できる。正極集電箔保護層が負極活物質層の端部と対面している正極未塗工部に配置されるのは、正極未塗工部のうち、当該箇所が、負極活物質層との距離が最も近く、アルミニウムが最も腐食されやすい箇所であると考えられるためである。
また、正極活物質層が形成された正極集電箔の箇所(以下、正極塗工部ということがある。)には正極活物質が存在するため、充電時に正極から引き抜かれる電子はLiイオン放出を伴う正極活物質の酸化反応によって優先的にもたらされる。一方、正極未塗工部には正極活物質が存在しないため、負極活物質層の端部と対面している正極未塗工部から充電時に引き抜かれる電子があるとすれば、アルミニウムイオン放出を伴うアルミニウムの酸化によりもたらされると考えられる。このため、負極活物質層の端部と対面している正極未塗工部は、アルミニウムが最も腐食されやすい箇所であると考えられる。
【0034】
正極集電箔保護層の材料としては、電解液が透過せず、かつ、本発明のリチウムイオン二次電池の使用条件下において、物理的及び化学的に安定なものが好ましい。そのようなものとして、合成樹脂や接着剤などの高分子や、各種のセラミックス、黒鉛等の各種炭素材料を例示できる。
【0035】
合成樹脂や接着剤などの高分子としては、ポリエチレン及びポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ポリイミド、ポリアミド及びポリアミドイミドに代表されるアミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系樹脂、並びに、シリコーン樹脂を例示できる。
【0036】
シリコーン樹脂は、RSiO(4-y)×0.5(Rは、それぞれ独立に、置換されていても良い炭素数1~20の一価又は二価の炭化水素基であり、yは0~3である。)で表される単位構造を複数有し、シロキサン結合による骨格を有する高分子である。Rで表される一価又は二価の炭化水素基の炭素数として、1~14、1~12の範囲を挙げることができる。当該炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキレン基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。Rの2以上はアルケニル基であっても良い。当該アルキル基の具体例としてはメチル基が挙げられる。当該アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基又はヘプテニル基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。当該アリール基の具体例としてはフェニル基が挙げられる。yは2が好ましい。
【0037】
セラミックスとしては、Al、SiO、TiO、ZrO、MgO、SiC、AlN、BN、CaCO、MgCO、BaCO、タルク、マイカ、カオリナイト、CaSO、MgSO、BaSO、CaO、ZnO、ゼオライトを例示できる。
【0038】
上述した材料を単独で用いて又は併用して、正極未塗工部の表面に、正極集電箔保護層を形成すればよい。正極未塗工部の表面に正極集電箔保護層を形成する方法としては、正極未塗工部の表面に上述した材料を圧着する方法、正極未塗工部の表面に上述した材料を熱融着する方法、接着剤を用いて正極未塗工部の表面に上述した材料を接着する方法、正極未塗工部の表面に上述した材料若しくは当該材料の前駆体であるモノマー及び溶剤を含有するペーストを塗布し、乾燥若しくは重合させる方法、又は、正極未塗工部の表面に上述した材料を蒸着させる方法を例示できる。
【0039】
正極集電箔保護層の大きさには特に限定が無い。ただし、正極未塗工部のうち負極活物質層と対面している箇所の全体に、正極集電箔保護層が存在する状態が好ましい。また、正極未塗工部のうち、負極活物質層と対面していない箇所にも、正極集電箔保護層が存在してもよい。この場合は、より好適に正極集電箔からのアルミニウム溶出を低減することができる。
【0040】
さらには、正極未塗工部における正極集電箔が、正極塗工部から延びる正極集電箔余剰部と、正極集電箔余剰部から延び、外部と接続されるタブ部と、からなる構成であってもよい。この場合に、正極集電箔保護層は、正極集電箔余剰部とタブ部の両者の表面に存在していてもよい。この場合は、より好適に正極集電箔からのアルミニウム溶出を低減することができるとともに、タブ部と他の部材(例えば、負極板のタブ部)との直接接触を抑制することができるため、短絡防止にも効果的である。タブ部の形状としては、正極集電箔余剰部から正極集電箔余剰部よりも短幅で延びるものが、作業性の面から好ましいといえる。
【0041】
なお、正極集電箔余剰部及びタブ部の好適な形状としては、T字形状やL字形状を例示できる。正極活物質層が形成された正極集電箔の端からタブ部までの間の正極集電箔余剰部の距離としては、1~50mm、2~30mm、3~10mm、4~8mmを例示できる。
【0042】
正極集電箔保護層は、その端を、正極活物質層の端と接している状態で、正極未塗工部に配置されるのがより好ましい。正極集電箔保護層が正極活物質層の上面に積層する状態で配置されると、正極活物質層と負極活物質層の間のリチウムイオンの移動が抑制される場合がある。
【0043】
正極集電箔保護層の厚みは、1μm~500μmの範囲内が好ましく、5μm~200μmの範囲内がより好ましく、10μm~100μmの範囲内がさらに好ましい。正極集電箔保護層の厚みは、正極活物質層の厚みと同程度、又は、正極活物質層の厚みよりも薄いのが好ましい。正極活物質層の厚みに対する正極集電箔保護層の厚みは、0.1≦(正極集電箔保護層の厚み)/(正極活物質層の厚み)≦10が好ましく、0.2≦(正極集電箔保護層の厚み)/(正極活物質層の厚み)≦5がより好ましい。
正極集電箔保護層の厚みが正極活物質層の厚みよりも著しく厚い場合には、正極活物質層の面と負極活物質層の面とを平行に保つことが困難となるため、正極活物質層の面と負極活物質層の面との距離が場所によって異なる状態となることが想定され、または、正極活物質層と負極活物質層に付与される面圧が場所によって不均一になることが想定されるため、充放電反応にムラが生じる可能性がある。
【0044】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる負極板は、負極集電箔と前記負極集電箔の表面に形成された負極活物質層とを具備する。
【0045】
負極集電箔としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。負極集電箔は公知の保護層で被覆されていても良い。負極集電箔の表面を公知の方法で処理したものを負極集電箔として用いても良い。
【0046】
負極集電箔の厚みは、1μm~100μmの範囲内が好ましく、5μm~50μmの範囲内がより好ましく、8μm~30μmの範囲内がさらに好ましい。
【0047】
負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。負極活物質層の厚みは、5μm~500μmの範囲内が好ましく、10μm~200μmの範囲内がより好ましく、20μm~100μmの範囲内がさらに好ましい。
【0048】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag-Sn合金、Cu-Sn合金、Co-Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3-xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0049】
より具体的な負極活物質として、黒鉛や、ケイ素を含む材料を例示できる。ケイ素を含む材料としては、Siを含有し、負極活物質として機能するものであればよい。具体的なSi含有負極活物質としては、ケイ素単体、SiOx(0.3≦x≦1.6)、Siと他の金属との合金、国際公開第2014/080608号に記載のシリコン材料を例示できる。Si含有負極活物質は炭素で被覆されていてもよい。炭素で被覆されたSi含有負極活物質は導電性に優れる。
【0050】
国際公開第2014/080608号に記載のシリコン材料(以下、単に「シリコン材料」ということがある。)について詳細に説明する。シリコン材料は、例えば、CaSiと酸とを反応させてポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成する工程、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる工程を経て製造されるものである。
【0051】
国際公開第2014/080608号に記載のシリコン材料の製造方法を、酸として塩化水素を用いた場合の理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。
3CaSi+6HCl → Si+3CaCl
Si → 6Si+3H
【0052】
ただし、ポリシランであるSiを合成する上段の反応では、副生物や不純物除去の観点から、通常、反応溶媒として水が用いられる。そして、Siは水と反応し得るため、上段の反応を含む層状シリコン化合物を合成する工程において、層状シリコン化合物がSiのみを含むものとして製造されることはほとんどなく、層状シリコン化合物はSi(OH)(Xは酸のアニオン由来の元素若しくは基、s+t+u=6、0<s<6、0<t<6、0<u<6)で表されるものとして製造される。なお、上記の化学式においては、残存し得るCaなどの不可避不純物については、考慮していない。そして、当該層状シリコン化合物を加熱して得られるシリコン材料も、酸素や酸のアニオン由来の元素を含む。
【0053】
シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。リチウムイオン等の電荷担体が効率的に吸蔵及び放出を行うためには、板状シリコン体は厚さが10nm~100nmの範囲内のものが好ましく、20nm~50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm~50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2~1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。また、この積層構造は、原料のCaSiにおけるSi層の名残りであると考えられる。
【0054】
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。特に、上記板状シリコン体において、アモルファスシリコンをマトリックスとし、シリコン結晶子が当該マトリックス中に点在している状態が好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm~300nmの範囲内が好ましく、1nm~100nmの範囲内がより好ましく、1nm~50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm~10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0055】
シリコン材料に含まれる板状シリコン体、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子の存在量や大きさは、主に加熱温度や加熱時間に左右される。加熱温度は、350℃~950℃の範囲内が好ましく、400℃~900℃の範囲内がより好ましい。
【0056】
黒鉛やSi含有負極活物質を具備する負極板を備えるリチウムイオン二次電池においては、充電時に正極集電箔を高電圧に曝すことが想定される。そのため、黒鉛やSi含有負極活物質を具備する負極板を備える本発明のリチウムイオン二次電池においては、正極集電箔保護層のアルミニウム溶出低減効果が好適に発揮されるといえる。
【0057】
負極活物質層における負極活物質の質量%は、60~100質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましく、85~98質量%がさらに好ましい。
【0058】
結着剤は活物質や導電助剤などを集電箔の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
【0059】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
【0060】
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーを結着剤として具備する本発明のリチウムイオン二次電池は、より好適に容量を維持できる。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p-スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0061】
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0062】
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する方法や、ポリマーにカルボキシル基を付与する方法などで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2-ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。
【0063】
上記の酸モノマーから選ばれる二種以上の酸モノマーを重合してなる共重合ポリマーを結着剤として用いてもよい。
【0064】
また、例えば特開2013―065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体のカルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造が結着剤にあることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどを結着剤がトラップし易くなると考えられている。さらに、当該ポリマーは、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてモノマーあたりのカルボキシル基が多いため、酸性度が高まるものの、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、当該ポリマーを結着剤として用いた負極をもつ二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
【0065】
また、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーを、ジアミンで架橋した架橋ポリマーを結着剤として用いてもよい。
【0066】
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0067】
また、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーと、ポリアミドイミドとの混合物又は反応物を結着剤として用いてもよい。
【0068】
ポリアミドイミドとは、分子内にアミド結合とイミド結合をそれぞれ2つ以上有する化合物を意味する。ポリアミドイミドは、アミド結合及びイミド結合におけるカルボニル部分となる酸成分と、アミド結合及びイミド結合における窒素部分となるジアミン成分又はジイソシアネート成分を反応させることで製造される。ポリアミドイミドを得るには、当該方法で製造しても良いし、また、市販のポリアミドイミドを購入しても良い。
【0069】
ポリアミドイミドの製造に用いられる酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン-ブタジエン)、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビス(カルボキシフェニル)スルホン、ビス(カルボキシフェニル)エーテル、ナフタレンジカルボン酸、及び、これらの無水物、酸ハロゲン化物、誘導体を挙げることができる。酸成分としては、上記の化合物を単独で又は複数で採用すればよいが、ただし、イミド結合を形成させる点から、カルボキシル基が結合している炭素の隣接炭素にカルボキシル基が存在する酸成分又はその同等物が、必須となる。酸成分としては、反応性、耐熱性などの点から、トリメリット酸無水物が好ましい。また、ポリアミドイミドの引っ張り強度、引っ張り弾性率、電解液耐性の点から、トリメリット酸無水物に加えて、酸成分の一部として、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物を採用するのが好ましい。
【0070】
ポリアミドイミドの製造に用いられるジアミン成分としては、上述した架橋ポリマーに用いられるジアミンを採用すればよい。耐熱性、溶解性の観点から、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トリレンジアミン、o-トリジン、ナフタレンジアミン、イソホロンジアミンが好ましい。ポリアミドイミドの引っ張り強度、引っ張り弾性率の点からはo-トリジン、ナフタレンジアミンが好ましい。
【0071】
ポリアミドイミドの製造に用いられるジイソシアネート成分としては、上記ジアミン成分のアミンをイソシアネートで置き換えたものを挙げることができる。
【0072】
負極活物質層における結着剤の質量%は、0.1~20質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。結着剤が少なすぎると成形性が低下し、他方、結着剤が多すぎるとエネルギー密度が低くなるためである。
【0073】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0074】
負極活物質層における導電助剤の質量%は、0.1~30質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できない場合があり、他方、導電助剤が多すぎると成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0075】
負極集電箔の表面に負極活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、負極集電箔の表面に負極活物質を塗布すればよい。具体的には、負極活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを負極集電箔の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0076】
本発明のリチウムイオン二次電池にはセパレータが用いられる。セパレータは、正極板と負極板とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0077】
セパレータは、正極板と負極板の接触を妨げるべく、正極板と負極板の間に位置する。セパレータは、対面する正極活物質層及び負極活物質層の面よりも大きな面を有するのが好ましい。短絡防止及び金属リチウム析出防止の観点から、面の大きさとしては、セパレータ>負極活物質層>正極活物質層の順が好ましい。セパレータと正極活物質層と負極活物質層との対面状態としては、正極活物質層の全面を覆う態様で負極活物質層が正極活物質層に対面し、そして、正極活物質層及び負極活物質層の全面を覆う態様でセパレータが正極活物質層及び負極活物質層に対面する状態が好ましい。
【0078】
本発明のリチウムイオン二次電池は、下記一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩を含有する電解液を備える。
【0079】
(R)(RSO)NLi 一般式(1)
(Rは、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、RとRは、互いに結合して環を形成しても良い。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R又はRと結合して環を形成しても良い。)
【0080】
SOLi 一般式(2)
(Rは、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
【0081】
上記一般式(1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、置換基を有さないアルキル基を意味する。
【0082】
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基で置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0083】
リチウム塩は下記一般式(1-1)で表されるものが好ましい。
【0084】
(R23)(R24SO)NLi 一般式(1-1)
(R23、R24は、それぞれ独立に、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、R23とR24は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R23又はR24と結合して環を形成しても良い。)
【0085】
上記一般式(1-1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(1)で説明したのと同義である。
【0086】
上記一般式(1-1)で表される化学構造において、nは0~6の整数が好ましく、0~4の整数がより好ましく、0~2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1-1)で表される化学構造の、R23とR24が結合して環を形成している場合には、nは1~8の整数が好ましく、1~7の整数がより好ましく、1~3の整数が特に好ましい。
【0087】
リチウム塩は、下記一般式(1-2)で表されるものがさらに好ましい。
【0088】
(R25SO)(R26SO)NLi 一般式(1-2)
(R25、R26は、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R25とR26は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
【0089】
上記一般式(1-2)で表される化学構造において、nは0~6の整数が好ましく、0~4の整数がより好ましく、0~2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1-2)で表される化学構造の、R25とR26が結合して環を形成している場合には、nは1~8の整数が好ましく、1~7の整数がより好ましく、1~3の整数が特に好ましい。
【0090】
また、上記一般式(1-2)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
【0091】
一般式(2)において、Rの炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしては、フッ素が好ましい。
【0092】
リチウム塩は(CFSONLi、(FSONLi、(CSONLi、FSO(CFSO)NLi、(SOCFCFSO)NLi、(SOCFCFCFSO)NLi、FSO(CHSO)NLi、FSO(CSO)NLi、又はFSO(CSO)NLiから選択されるものが特に好ましい。
【0093】
電解液において、一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩の1種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。また、電解液には、一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩以外の電解質を含んでいてもよい。電解液における電解質全体に対する一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩の割合としては、30~100モル%が好ましく、50~95モル%がより好ましく、70~90モル%がさらに好ましい。電解液における、一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩を含む電解質の濃度としては、1.5~3mol/L、1.6~2.8mol/L、1.8~2.6mol/L、2~2.5mol/Lを例示できる。
【0094】
一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩以外の電解質としては、LiPF、LiPF(OCOCOO)、LiBF、LiAsF及びLiSiFを具体的に例示できる。これらの電解質は、いずれもFとして脱離され得るFを有する。そして、Fはアルミニウムと反応して、安定なAl-F結合を生成し得る。したがって、正極集電箔保護層で保護されていない正極未塗工部が一部に存在したとしても、その表面はAl-F結合を含む不動態被膜で保護されることが期待できる。
【0095】
電解液は、一般式(1)及び一般式(2)から選択されるリチウム塩を含む電解質を溶解するための有機溶媒を含有する。有機溶媒としては、非水系二次電池に使用可能な有機溶媒を採用すればよく、特に、アルミニウムを溶解し難い低極性の有機溶媒を採用するのが好ましい。
【0096】
低極性の有機溶媒として、下記一般式(3)で表される鎖状カーボネートを挙げることができる。
【0097】
10OCOOR11 一般式(3)
(R10、R11は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m-1=f+g+h+i+jを満たす。)
【0098】
上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1~6の整数が好ましく、1~4の整数がより好ましく、1~2の整数が特に好ましい。mは3~8の整数が好ましく、4~7の整数がより好ましく、5~6の整数が特に好ましい。
【0099】
上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートのうち、下記一般式(3-1)で表されるものが特に好ましい。
【0100】
12OCOOR13 一般式(3-1)
(R12、R13は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるC、又は、環状アルキルを化学構造に含むCのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、f、gはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m-1=f+gを満たす。)
【0101】
上記一般式(3-1)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1~6の整数が好ましく、1~4の整数がより好ましく、1~2の整数が特に好ましい。mは3~8の整数が好ましく、4~7の整数がより好ましく、5~6の整数が特に好ましい。
【0102】
上記一般式(3-1)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネートが特に好ましい。
【0103】
鎖状カーボネートは、1種類を電解液に用いても良いし、複数種類を併用しても良い。鎖状カーボネートの複数を併用することで、電解液の低温流動性や低温でのリチウムイオン輸送性などを好適に確保することができる。鎖状カーボネートの併用例として、DMC、DEC及びEMCから選択される2種又は3種の併用を挙げることができる。DMCと、DEC又はEMCとの併用において、これらのモル比は、DMC:DEC又はEMC=60:40~95:5の範囲内が好ましく、70:30~95:5の範囲内がより好ましく、80:20~95:5の範囲内がさらに好ましい。
【0104】
電解液においては、上記鎖状カーボネート以外に、リチウムイオン二次電池などの電解液に使用可能である他の有機溶媒(以下、単に「他の有機溶媒」ということがある。)が含まれていてもよい。
【0105】
電解液には、電解液に含まれる全有機溶媒に対し、上記鎖状カーボネートが、70体積%、70質量%以上若しくは70モル%以上で含まれるのが好ましく、80体積%、80質量%以上若しくは80モル%以上で含まれるのがより好ましく、90体積%、90質量%以上若しくは90モル%以上で含まれるのがさらに好ましく、95体積%、95質量%以上若しくは95モル%以上で含まれるのが特に好ましい。電解液に含まれる有機溶媒すべてが上記鎖状カーボネートであってもよい。
【0106】
他の有機溶媒を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、フルオロエチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン等のフッ素含有環状カーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のフッ素非含有環状カーボネート類、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n-プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2-エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2-エチルオキサゾール、オキサゾリン、2-メチル-2-オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ-4-ピロン、1-メチルピロリジン、N-メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
【0107】
電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の添加剤を加えてもよい。公知の添加剤の一例として、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)に代表される不飽和結合を有する環状カーボネート;フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネートに代表されるカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物に代表されるカルボン酸無水物;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、ε-カプロラクトンに代表されるラクトン;1,4-ジオキサンに代表される環状エーテル;エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィドに代表される含硫黄化合物;1-メチル-2-ピロリジノン、1-メチル-2-ピペリドン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルスクシンイミドに代表される含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩に代表されるリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタンに代表される飽和炭化水素化合物;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランに代表される不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。
【0108】
本発明のリチウムイオン二次電池において、正極板、セパレータ及び負極板を積層した積層体は、積層体を捲いた捲回型であっても良いし、正極板とセパレータと負極板とが平面状態で積層されたままの積層型であっても良い。正極未塗工部と負極活物質層の端部との対面関係、及び、負極活物質層の端部と正極集電箔保護層との対面関係を制御する観点からは、積層型が好ましい。
【0109】
本発明のリチウムイオン二次電池の電池容器の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、樹脂、アルミニウムなどの金属と樹脂を積層した積層体を例示できる。本発明のリチウムイオン二次電池の電池容器の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0110】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極集電箔保護層の存在により、正極集電箔からのアルミニウム溶出を低減できるので、高電圧条件下での使用が可能である。高電圧条件として具体的には、正極が曝されるリチウム基準での電位が4V以上、4~5.5V、4.1~5V、4.3~4.8Vの条件を例示できる。本発明のリチウムイオン二次電池は高電圧用のリチウムイオン二次電池であると認識することもできる。
【0111】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0112】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。本明細書においては、本発明の実施形態として、電荷担体がリチウムであるリチウムイオン二次電池を具体的に説明しているが、本明細書で開示する技術事項は、電荷担体がナトリウムであるナトリウムイオン二次電池、電荷担体がカリウムであるカリウムイオン二次電池、電荷担体がマグネシウムであるマグネシウムイオン二次電池などにも、適用可能である。本明細書で開示する技術事項を、ナトリウムイオン二次電池又はカリウムイオン二次電池に適用する場合には、本明細書における「リチウム」及び「Li」との記載を、それぞれ「ナトリウム」及び「Na」、又は、「カリウム」及び「K」に読み替えれば良い。本明細書で開示する技術事項を、マグネシウムイオン二次電池に適用する場合には、本明細書における「リチウム」及び「Li」との記載を、必要に応じて価数を適切に整合させた上で、「マグネシウム」及び「Mg」に読み替えれば良い。
【実施例
【0113】
以下に、実施例及び比較例などを示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0114】
(実施例1)
実施例1のリチウムイオン二次電池を、正極板、セパレータ及び負極板の厚み側から観察した場合の模式図を、図1に示す。以下の説明において、縦とは、図1において上下方向を意味し、横とは図1において紙面手前側-奥側方向を意味する。
【0115】
実施例1のリチウムイオン二次電池1は、
アルミニウム製の正極集電箔20と前記正極集電箔20の表面に形成された正極活物質層21とを具備する正極板2と、負極集電箔30と前記負極集電箔30の表面に形成された負極活物質層31とを具備する負極板3と、セパレータ4と、リチウム塩として(FSONLiを含有する電解液5とを備え、
前記正極集電箔20の表面には、前記正極活物質層21が形成されていない正極未塗工部22が存在しており、
前記正極板2及び前記負極板3は前記セパレータ4を挟んで対面し、かつ、前記正極未塗工部22と前記負極活物質層31の端部32とが対面しているリチウムイオン二次電池1であって、
前記負極活物質層31の端部32と対面している前記正極未塗工部22における前記正極集電箔20の表面に、正極集電箔保護層23を有する。
【0116】
正極集電箔20は、JIS A1000系の純アルミニウムであり、厚み15μm、縦40mm、横幅30mmの箔である。正極集電箔20の一面には、正極集電箔20の縦方向の下端を起点として上端方向へ25mmにわたり、正極活物質層21が横幅30mm、厚み22μmで形成されている。正極活物質層21には、正極活物質であるLiNi50/100Co35/100Mn15/100が90質量部、導電助剤であるアセチレンブラックが5質量部、導電助剤である黒鉛が3質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデンが2質量部で含有されている。
【0117】
さらに、正極集電箔20の表面には、正極活物質層21が形成されていない正極未塗工部22が、正極活物質層21が形成されている箇所、すなわち正極塗工部の端から、正極集電箔20の上端にわたり、存在する。そして、正極未塗工部22は、セパレータ4を介して負極活物質層31の端部32と対面関係にある。端部32と対面関係にある正極未塗工部22には、厚み55μmの正極集電箔保護層23が配置されている。正極集電箔保護層23の下端は、正極活物質層21の上端と接している。正極集電箔保護層23はポリイミドフィルムとポリイミドフィルムの一面に塗布されたシリコーン樹脂とで構成されており、当該シリコーン樹脂はポリイミドフィルムと正極未塗工部22を接着する接着剤として機能する。
【0118】
正極集電箔保護層23は、正極未塗工部22と電解液5との接触を抑制するため、端部32と対面関係にある正極未塗工部22からのアルミニウムの溶出は抑制される。
正極集電箔20の上端は、正極導線24を介して外部電源15に接続されている。
【0119】
負極集電箔30は、厚み10μm、縦40mm、横幅32mmの銅箔である。負極集電箔30の一面には、負極集電箔30の縦方向の上端を起点として下端方向へ30mmにわたり、負極活物質層31が横幅32mm、厚み40μmで形成されている。負極活物質層31には、負極活物質である黒鉛が98質量部、結着剤であるカルボキシメチルセルロースが1質量部、結着剤であるスチレンブタジエンゴムが1質量部で含有されている。
負極集電箔30の下端は、負極導線34を介して外部電源15に接続されている。
【0120】
セパレータ4は、厚さ16μmのポリエチレン製多孔質膜である。セパレータ4は、セパレータ4と対面する正極活物質層21及び負極活物質層31の面よりも大きな面を有する。そして、セパレータ4は、正極板2と負極板3の接触を妨げるべく、正極板2と負極板3の間に位置する。
【0121】
正極板2、負極板3及びセパレータ4は、平面を維持した積層状態で、電池容器10の内部に密閉されている。電池容器10はアルミラミネートフィルムからなる。電池容器10の内部には、電解液5が注入されている。電解液5は、リチウム塩として(FSONLiを含有し、かつ、有機溶媒として、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートをモル比9:1で混合した混合溶媒を含有する。電解液5における(FSONLiの濃度は、2.4mol/Lである。
【0122】
(比較例1)
比較例1のリチウムイオン二次電池は、正極集電箔保護層を有さない点を除いて、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様の構成である。
【0123】
(評価例1)
実施例1のリチウムイオン二次電池につき、25℃の条件下、5Cレートの定電流にて4.1Vまで充電し、その後、同電圧を維持するための充電を2時間行った。次いで、60℃の条件下、2Cレートの定電流で3.3Vまで放電して4.1Vまで充電するとの充放電サイクルを30回繰り返した。さらに、25℃の条件下、1Cレートの定電流にて3.0Vまで放電し、その後、同電圧を2時間維持させた。
以上の充放電を行った実施例1のリチウムイオン二次電池を解体し、負極板をジメチルカーボネートの液中に10分静置することを、液を取り替えながら3回繰り返すことで、残存する電解液成分を洗浄し、その後、負極板を分析に供した。ICP発光分析にて、負極板に付着したアルミニウムの量を測定した。比較例1のリチウムイオン二次電池についても、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1の結果から、正極集電箔保護層の存在により、負極板へのアルミニウム析出が著しく抑制されているのがわかる。正極集電箔保護層が、アルミニウム製の正極集電箔における正極未塗工部と電解液との接触を抑制して、電解液へのアルミニウムの溶出を抑制させたといえる。
【0126】
(実施例2)
実施例2のリチウムイオン二次電池は、正極板及び正極集電箔保護層の形状が異なる点を除いて、実施例1のリチウムイオン二次電池と同様である。以下、実施例1のリチウムイオン二次電池における正極板とは異なる点について、実施例2のリチウムイオン二次電池における正極板の説明を行う。
【0127】
実施例2のリチウムイオン二次電池における正極板の斜視図を図2に示す。
【0128】
実施例2のリチウムイオン二次電池における正極板2は、アルミニウム製の正極集電箔20と正極集電箔20の表面に形成された正極活物質層21とを具備する。正極集電箔20の表面には、正極活物質層21が形成されていない正極未塗工部22が存在している。当該正極未塗工部22における正極集電箔20は、正極活物質層21が形成された箇所、すなわち正極塗工部から上方向に延びる正極集電箔余剰部22aと、正極集電箔余剰部22aからさらに上方向に正極集電箔余剰部22aよりも短幅で延び、外部と接続されるタブ部22bからなる。
【0129】
実施例2のリチウムイオン二次電池における正極板2において、正極集電箔保護層23は、正極集電箔余剰部22aとタブ部22bの形状に沿って、これら両者の表面に、存在する。タブ部22bの表面の一部に正極集電箔保護層23が存在することにより、正極未塗工部22からのアルミニウム溶出を好適に低減することができるとともに、タブ部22bと他の部材との直接接触を部分的に抑制することができるため、短絡防止に効果的である。
【符号の説明】
【0130】
1 リチウムイオン二次電池
2 正極板
3 負極板
4 セパレータ
5 電解液
10 電池容器
15 外部電源
20 正極集電箔
21 正極活物質層
22 正極未塗工部
22a 正極集電箔余剰部
22b タブ部
23 正極集電箔保護層
24 正極導線
30 負極集電箔
31 負極活物質層
32 端部
34 負極導線
図1
図2