(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/35 20210101AFI20220209BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20220209BHJP
H01M 50/655 20210101ALI20220209BHJP
H01M 50/308 20210101ALI20220209BHJP
H01M 50/392 20210101ALI20220209BHJP
H01M 50/317 20210101ALI20220209BHJP
H01M 50/30 20210101ALI20220209BHJP
【FI】
H01M50/35 101
H01M10/06 Z
H01M50/655
H01M50/308
H01M50/392
H01M50/317 101
H01M50/30
(21)【出願番号】P 2017238942
(22)【出願日】2017-12-13
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
(72)【発明者】
【氏名】大木 信典
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-034167(JP,A)
【文献】特開2008-146895(JP,A)
【文献】特開2005-276741(JP,A)
【文献】特開2009-093946(JP,A)
【文献】特開2008-034168(JP,A)
【文献】特開2008-071692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30-50/392
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
収容室が形成されるとともに前記収容室に連通する貫通孔が形成された筐体と、
前記収容室内に配置された正極および負極と、
前記筐体に形成された前記貫通孔に装着され、前記収容室に連通する連通路が形成された液口栓と、
前記筐体の表面上において前記液口栓に形成された前記連通路に対向するように配置されたシートと、を備え、
前記シートにおける前記筐体に対向する対向面は、前記筐体に接合されている接合領域と、前記筐体に接合されておらず、かつ、前記液口栓の前記連通路から前記シートの縁部まで延びている非接合領域と、を有し、
前記液口栓の前記連通路は、
前記液口栓の内部に形成された内部空間と、
前記筐体の外表面側に開口するとともに前記内部空間に連通する外側開口部と、
前記収容室側に開口するとともに前記内部空間に連通し、かつ、開口面積が、前記内部空間の前記液口栓の軸方向に直交する断面の面積より小さい内側開口部と、を含んでおり、
さらに、前記内部空間内において、一部が前記内側開口部の周囲部分に接するとともに前記周囲部分との間に隙間が形成される第1の位置と前記外側開口部側に離間する第2の位置とに変位可能に配置された弁体を備え、
前記液口栓の前記連通路における前記筐体外部から前記収容室への通気抵抗は、前記連通路における前記収容室から前記筐体外部への通気抵抗に比べて大きい、鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池であって、
前記液口栓の前記連通路における前記収容室から前記筐体外部への通気抵抗は、5.5kPa以下である、鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の鉛蓄電池であって、
前記液口栓の前記連通路における前記収容室から前記筐体外部への通気抵抗は、3.4kPa以上である、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、例えば、自動車等の車両に搭載され、車両の動力源や車両に搭載された電装品への電力供給源として利用される。このような鉛蓄電池は、開口部を有し、内部に所定の方向に並ぶ複数のセル室が形成された電槽と、該電槽の開口部に接合された蓋と、各セル室内に配置された極板群とを備える。このような鉛蓄電池の中には、各セル室に電解液を補充するための複数の液口栓が設けられているものがある。各液口栓には、各セル室に連通し、鉛蓄電池の充電時に各セル室内の極板から発生したガス(酸素ガスや水素ガス)を鉛蓄電池の外部に排出する排気孔が形成されていることが一般的である。
【0003】
鉛蓄電池では、電解液中の水分が減少する現象(以下、「減液」という)が発生することがある。この減液の発生原因としては、例えば、次のことが考えられる。鉛蓄電池は、例えばエンジンルームなどの高温環境下で使用されると、電解液中の水分の一部が蒸発して発生した水蒸気が液口栓の排気孔を介してセル室の外部に放出されたり、電解液がミスト状になって液口栓の排気孔を介してセル室の外部に放出されたりする。これにより、各セル室において減液が発生する。減液が発生すると、電池容量の低下や極板群に接続された集電体の腐食等の問題が生じるおそれがある。
【0004】
そこで、従来から、減液抑制のために、複数の液口栓の排気孔を覆うように蓋上にシートが配置された鉛蓄電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来の鉛蓄電池では、シートにおける蓋との対向面は、蓋に接合されている接合領域と、蓋に接合されておらず、かつ、液口栓の排気孔からシートの縁部まで延びている非接合領域とを有する。なお、この従来の鉛蓄電池では、液口栓の排気孔内に多孔性フィルタが配置されており、各セル室内で発生したガスは、多孔性フィルタを介して鉛蓄電池の外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、シートが蓋上に配置された上述の従来の鉛蓄電池では、減液を十分に抑制できないことがある。特に、近年、鉛蓄電池の寿命の長期化等の観点から、減液抑制性能の更なる向上が要求されており、上述の従来の鉛蓄電池では、減液抑制性能の更なる向上に対する要求に十分に応えることができない。なお、例えば、多孔性フィルタの通気抵抗を大きくすることによって、減液抑制性能を向上させることはできる。しかし、多孔性フィルタの通気抵抗を大きくし過ぎると、セル室内に発生したガスの排出性能が低下するという問題が生じる。
【0007】
本明細書では、筐体の収容室に発生したガスの排出性能が低下することを抑制しつつ、減液抑制性能の向上を図ることが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される鉛蓄電池は、収容室が形成されるとともに前記収容室に連通する貫通孔が形成された筐体と、前記収容室内に配置された正極および負極と、前記筐体に形成された前記貫通孔に装着され、前記収容室に連通する連通路が形成された液口栓と、前記筐体の表面上において前記液口栓に形成された前記連通路に対向するように配置されたシートと、を備え、前記シートにおける前記筐体に対向する対向面は、前記筐体に接合されている接合領域と、前記筐体に接合されておらず、かつ、前記液口栓の前記連通路から前記シートの縁部まで延びている非接合領域と、を有し、前記液口栓の前記連通路における前記筐体外部から前記収容室への通気抵抗は、前記連通路における前記収容室から前記筐体外部への通気抵抗に比べて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図である。
【
図2】鉛蓄電池100のXY平面構成を示す説明図である。
【
図3】
図1および
図2のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図4】
図1および
図2のIV-IVの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図5】液口栓160およびシート300の部分のYZ断面構成を拡大して示す説明図である。
【
図7】液口栓160における弁体650の変位とシート300との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される鉛蓄電池は、鉛蓄電池であって、収容室が形成されるとともに前記収容室に連通する貫通孔が形成された筐体と、前記収容室内に配置された正極および負極と、前記筐体に形成された前記貫通孔に装着され、前記収容室に連通する連通路が形成された液口栓と、前記筐体の表面上において前記液口栓に形成された前記連通路に対向するように配置されたシートと、を備え、前記シートにおける前記筐体に対向する対向面は、前記筐体に接合されている接合領域と、前記筐体に接合されておらず、かつ、前記液口栓の前記連通路から前記シートの縁部まで延びている非接合領域と、を有し、前記液口栓の前記連通路における前記筐体外部から前記収容室への通気抵抗は、前記連通路における前記収容室から前記筐体外部への通気抵抗に比べて大きい。
【0012】
液口栓に連通路を形成する目的は、例えば鉛蓄電池の充電時に収容室内に発生したガス(酸素ガスや水素ガス)を、その連通路を介して鉛蓄電池の外部に排出することである。しかし、液口栓に連通路が形成されると、収容室内の電解液中の水分が減少する現象(以下、「減液」という)が発生する。すなわち、例えば高温時など、電解液中の水分が蒸発して水蒸気が発生し易い環境下では、その水蒸気が液口栓の連通路を介して鉛蓄電池の外部に排出されることによって収容室内の電解液中の水分が減少するからである。そこで、上述したように、従来から、減液抑制のために、液口栓の排気孔(連通路)を覆うようにシートが筐体の表面上に配置された鉛蓄電池が知られている。しかし、この従来の鉛蓄電池では、減液を十分に抑制できない。そこで、この従来の鉛蓄電池において、例えば、液口栓の排気孔の通気抵抗を大きくすれば、水蒸気が排気孔から鉛蓄電池の外部に排出され難くなるため、鉛蓄電池の減液抑制性能を向上させることができる。しかし、その一方で、液口栓の排気孔の通気抵抗を大きくすれば、収容室内に発生したガスも鉛蓄電池の外部に排出され難くなるため、鉛蓄電池のガスの排出性能が低下するという問題が生じる。
【0013】
そこで、本出願の発明者は、減液が発生し易い環境は、水蒸気が発生し易い環境であることに着目し、例えば60℃未満時など、水蒸気が発生し難い環境下では、ガスが鉛蓄電池の外部に排出され易くし、例えば60℃以上時など、水蒸気が発生し易い環境下では、ガスの排出性能より減液抑制性能を優先し、水蒸気が鉛蓄電池の外部に排出され難くなるようにできないかについて考えた。そして、本出願の発明者は、試行錯誤した結果、液口栓の連通路から鉛蓄電池の外部までの水蒸気の経路に高湿度の空間を形成することによって水蒸気の排出を抑制することを思いついた。水蒸気の経路に高湿度の空間を形成すれば、さらに収容室内に発生した水蒸気は、高湿度の空間によって排出が抑制されるからである。そして、本出願の発明者は、次の理由により、シートと筐体との間に高湿度の空間を形成することを検討した。すなわち、水蒸気が発生し難い環境下では、シートと筐体との間に高湿度の空間が形成され難い。このため、水蒸気の排出を抑制できないが、そもそも減液が発生し難いため問題はない。その一方で、ガスは排出され易いため、ガスの排出性能の低下を抑制できる。これに対して、水蒸気が発生し易い環境下では、シートと筐体との間に高湿度の空間が形成され易い。このため、水蒸気は排出され難くなるため、減液を抑制することができる。
【0014】
但し、シートと筐体との間に高湿度の空間を形成し維持するためには、高湿度の空間内の水蒸気が液口栓の連通路を介して収容室内に逆流することを抑制することが好ましい。しかし、水蒸気の逆流を抑制するために、例えば液口栓の連通路の通気抵抗を大きくすると、結局、水蒸気が発生し難い環境下において、ガスが排出され難くなり、ガスの排出性能が低下する。
【0015】
そこで、本鉛蓄電池では、液口栓の連通路における筐体外部から収容室への通気抵抗は、連通路における収容室から筐体外部への通気抵抗に比べて大きい。連通路における収容室から筐体外部への通気抵抗が相対的に小さい。このため、例えば、水蒸気が発生し難い環境下では、収容室内に発生したガスを鉛蓄電池の外部に円滑に排出することができる。一方、水蒸気が発生し易い環境下では、液口栓の連通路を介して放出された水蒸気によって筐体とシートとの間に高湿度の空間が形成されることにより、筐体の収容室における減液を抑制することができる。また、連通路における筐体外部から収容室への通気抵抗が相対的に大きい。このため、水蒸気によって筐体とシートとの間に高湿度の空間が形成された際、その空間の湿度が低下し難くなり、筐体の収容室における減液を抑制する状態を維持することができる。すなわち、本鉛蓄電池によれば、筐体の収容室に発生したガスの排出性能が低下することを抑制しつつ、減液抑制性能の向上を図ることができる。
【0016】
(2)上記鉛蓄電池において、前記液口栓の前記連通路における前記収容室から前記筐体外部への通気抵抗は、5.5kPa以下である構成としてもよい。本鉛蓄電池では、液口栓の連通路における収容室から筐体外部への通気抵抗は、5.5kPa以下である。これにより、該通気抵抗が5.5kPaより大きい場合に比べて、収容室の内圧上昇によって筐体が変形することを抑制することができる。すなわち、本鉛蓄電池によれば、ガスの排出性能が低下することを抑制しつつ、減液抑制性能の向上を図るとともに、筐体の変形を抑制することができる。
【0017】
(3)上記鉛蓄電池において、前記液口栓の前記連通路は、前記液口栓の内部に形成された内部空間と、前記筐体の外表面側に開口するとともに前記内部空間に連通する外側開口部と、前記収容室側に開口するとともに前記内部空間に連通し、かつ、開口面積が、前記内部空間の前記液口栓の軸方向に直交する断面の面積より小さい内側開口部と、を含んでおり、さらに、前記内部空間内において、少なくとも一部が前記内側開口部の周囲部分に接する第1の位置と前記外側開口部側に離間する第2の位置とに変位可能に配置された弁体を備える構成としてもよい。本鉛蓄電池では、液口栓の連通路は、液口栓の内部に形成された内部空間と、筐体の外表面側に開口するとともに内部空間に連通する外側開口部と、収容室側に開口するとともに内部空間に連通し、かつ、開口面積が、内部空間の液口栓の軸方向に直交する断面の面積より小さい内側開口部と、を含んでいる。内部空間内には、弁体が配置されており、弁体の少なくとも一部が内側開口部の周囲部分に接する第1の位置と外側開口部側に離間する第2の位置とに変位可能とされている。弁体が連通路に存在することによって、収容室内の電解液が連通路を介して筐体の外部に放出され難い。また、弁体が第1の位置にあるときに弁体と内側開口部との間に形成される隙間の大きさは、弁体が第2の位置にあるときに弁体と内側開口部との間に形成される隙間の大きさに比べて小さい。このことは、弁体が第1の位置にあるときの連通路の通気抵抗が、弁体が第2の位置にあるときの連通路の通気抵抗に比べて大きいことを意味する。このため、収容室に発生したガスによって筐体の収容室の内圧が上昇すると、弁体が第1の位置から第2の位置に変位することによって、連通路の通気抵抗が相対的に小さくなるため、収容室内に発生したガスを鉛蓄電池の外部に円滑に排出することができる。一方、水蒸気によって筐体とシートとの間に高湿度の空間が形成されているときに、例えば収容室の内圧が低下しても、弁体が第2の位置から第1の位置に変位することによって、連通路の通気抵抗が相対的に大きくなるため、筐体とシートとの間の空間の湿度が低下し難くなり、筐体の収容室における減液を抑制する状態を維持することができる。
【0018】
(4)上記鉛蓄電池において、前記液口栓の前記連通路における前記収容室から前記筐体外部への通気抵抗は、3.4kPa以上である構成としてもよい。本鉛蓄電池では、液口栓の連通路における収容室から筐体外部への通気抵抗は、3.4kPa以上である。これにより、該通気抵抗が3.4kPa未満である場合に比べて、筐体の収容室における減液をより効果的に抑制することができる。
【0019】
A.実施形態:
A-1.構成:
(鉛蓄電池100の構成)
図1は、本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、鉛蓄電池100のXY平面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1および
図2のIII-IIIの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図であり、
図4は、
図1および
図2のIV-IVの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。なお、
図3および
図4では、便宜上、後述する極板群20の構成が分かりやすく示されるように、該構成が実際とは異なる形態で表現されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、鉛蓄電池100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。また、各図において、後述のシート300は、該シート300の対向面300Aが透過して示されている。
【0020】
鉛蓄電池100は、短時間で大電流を放電することができる上に、種々の環境下で安定した性能を発揮することができるため、例えば、自動車等の車両に搭載され、エンジン始動時におけるスタータへの電力供給源や、ライト等の各種電装品への電力供給源として利用される。
図1から
図4に示すように、鉛蓄電池100は、筐体10と、正極側端子部30と、負極側端子部40と、複数の極板群20とを備える。以下では、正極側端子部30と負極側端子部40とを、まとめて「端子部30,40」ともいう。
【0021】
(筐体10の構成)
筐体10は、電槽12と、蓋14とを有する。電槽12は、上面に開口部を有する略直方体の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14は、電槽12の開口部を塞ぐように配置された部材であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14の下面の周縁部分と電槽12の開口部の周縁部分とが例えば熱溶着によって接合されることにより、筐体10内に外部との気密が保たれた空間が形成されている。筐体10内の空間は、隔壁58によって、所定方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ複数の(例えば6つの)セル室16に区画されている。以下では、複数のセル室16が並ぶ方向(X軸方向)を、「セル並び方向」という。セル室16は、特許請求の範囲における収容室に相当する。
【0022】
筐体10内の各セル室16には、1つの極板群20が収容されている。そのため、例えば、筐体10内の空間が6つのセル室16に区画されている場合には、鉛蓄電池100は6つの極板群20を備える。また、筐体10内の各セル室16には、希硫酸を含む電解液18が収容されており、極板群20の全体が電解液18中に浸かっている。電解液18は、蓋14に設けられた後述の液口栓160からセル室16内に注入される。なお、電解液18は、希硫酸に加えてアルミニウムイオンを含んでいてもよい。
【0023】
また、
図3および
図4に示すように、蓋14における各セル室16の直上には、蓋14を上下方向に貫通する装着孔15が形成されている。装着孔15には液口栓160が装着されている。なお、本実施形態の鉛蓄電池100は、液口栓160の上面が蓋14の上面と略面一になっている、いわゆるフラットタイプの鉛蓄電池である。また、蓋14の上面には、筐体10内の電解液18の減液を抑制するためのシート300が配置されている。装着孔15は、特許請求の範囲における貫通孔に相当する。液口栓160およびシート300の詳細構成は後述する。
【0024】
(極板群20の構成)
極板群20は、複数の正極板210と、複数の負極板220と、セパレータ230とを備える。複数の正極板210および複数の負極板220は、正極板210と負極板220とが交互に並ぶように配置されている。以下では、正極板210と負極板220とを、まとめて「極板210,220」ともいう。
【0025】
正極板210は、正極集電体212と、正極集電体212に支持された正極活物質216とを有する。正極集電体212は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、正極集電体212は、その上端付近に、上方に突出する正極耳部214を有している。正極活物質216は、二酸化鉛を含んでいる。正極活物質216は、さらに、公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0026】
負極板220は、負極集電体222と、負極集電体222に支持された負極活物質226とを有する。負極集電体222は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体222は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部224を有している。負極活物質226は、鉛を含んでいる。負極活物質226は、さらに、公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
セパレータ230は、絶縁性材料(例えば、ガラスや合成樹脂)により形成されている。セパレータ230は、互いに隣り合う正極板210と負極板220との間に介在するように配置されている。セパレータ230は、一体部材として構成されてもよいし、正極板210と負極板220との各組合せについて設けられた複数の部材の集合として構成されてもよい。
【0028】
極板群20を構成する複数の正極板210の正極耳部214は、例えば鉛または鉛合金により形成された正極側ストラップ52に接続されている。すなわち、複数の正極板210は、正極側ストラップ52を介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群20を構成する複数の負極板220の負極耳部224は、例えば鉛または鉛合金により形成された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、複数の負極板220は、負極側ストラップ54を介して電気的に並列に接続されている。以下では、正極側ストラップ52と負極側ストラップ54とを、まとめて「ストラップ52,54」ともいう。
【0029】
鉛蓄電池100において、一のセル室16に収容された負極側ストラップ54は、例えば鉛または鉛合金により形成された接続部材56を介して、該一のセル室16の一方側(例えばX軸正方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。また、該一のセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56を介して、該一のセル室16の他方側(例えばX軸負方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、鉛蓄電池100が備える複数の極板群20は、ストラップ52,54および接続部材56を介して電気的に直列に接続されている。なお、
図3に示すように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56ではなく、後述する正極柱34に接続されている。また、
図4に示すように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54は、接続部材56ではなく、後述する負極柱44に接続されている。
【0030】
(端子部30,40の構成)
正極側端子部30は、筐体10におけるセル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端部付近に配置されており、負極側端子部40は、筐体10におけるセル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端部付近に配置されている。
【0031】
図3に示すように、正極側端子部30は、正極側ブッシング32と、正極柱34とを含む。正極側ブッシング32は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側ブッシング32の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、正極側ブッシング32の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。正極柱34は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱34は、正極側ブッシング32の孔に挿入されている。正極柱34の上端部は、正極側ブッシング32の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により正極側ブッシング32に接合されている。正極柱34の下端部は、正極側ブッシング32の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の一方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。
【0032】
図4に示すように、負極側端子部40は、負極側ブッシング42と、負極柱44とを含む。負極側ブッシング42は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側ブッシング42の下側部分は、インサート成形により蓋14に埋設されており、負極側ブッシング42の上側部分は、蓋14の上面から上方に突出している。負極柱44は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極柱44は、負極側ブッシング42の孔に挿入されている。負極柱44の上端部は、負極側ブッシング42の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接により負極側ブッシング42に接合されている。負極柱44の下端部は、負極側ブッシング42の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の他方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。
【0033】
鉛蓄電池100の放電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に負荷(図示せず)が接続され、各極板群20の正極板210での反応(二酸化鉛から硫酸鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(鉛から硫酸鉛が生ずる反応)により生じた電力が該負荷に供給される。また、鉛蓄電池100の充電の際には、正極側端子部30の正極側ブッシング32および負極側端子部40の負極側ブッシング42に電源(図示せず)が接続され、該電源から供給される電力によって各極板群20の正極板210での反応(硫酸鉛から二酸化鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(硫酸鉛から鉛が生ずる反応)が起こり、鉛蓄電池100が充電される。
【0034】
A-2.液口栓160の詳細構成:
図5は、液口栓160およびシート300の部分のYZ断面構成を拡大して示す説明図である。
図3から
図5に示すように、液口栓160は、液口栓本体400と防沫体500とを備える。液口栓本体400は、筒状部410と、頭部420とを含む。筒状部410は、上下方向(Z軸方向)に延びる円筒状である。筒状部410の下端は開放しており、また、筒状部410の側壁部には1また複数の開口部412が形成されている。頭部420は、円形平板状であり、筒状部410の上側を封止するように配置されている。頭部420には、該頭部420を上下に貫通し、筐体10内のセル室16と筐体10の外部とを連通させる貫通孔422が形成されている。頭部420の外径は、筒状部410の外径より大きく、頭部420の周縁部が全周にわたって筒状部410より外周側に張り出している。筒状部410と頭部420とは、例えば樹脂により一体的に形成されている。
【0035】
防沫体500は、筒状部410内に収容されている。防沫体500は、複数の防沫板510を有する。防沫体500が複数の防沫板510を有することにより、筒状部410内におけるガスの排気経路が迷路状になっている。これにより、液口栓160では、セル室16内に発生したガスを比較的容易に通すが、セル室16内の電解液18が頭部420の貫通孔422から容易に漏れ出ることが抑制されている。
【0036】
また、
図5に示すように、筒状部410内において、頭部420と防沫体500との間には、弁体収容部材600が配置されている。弁体収容部材600は、上下方向視(Z軸方向視)で略円環状の筒状部材である。弁体収容部材600の内部空間は、フィルタ収容室610と、弁体収容室620と、下側開口部630とを含む。フィルタ収容室610は、特許請求の範囲における外側開口部に相当し、弁体収容室620は、特許請求の範囲における内部空間に相当し、下側開口部630は、特許請求の範囲における内側開口部に相当する。
【0037】
フィルタ収容室610は、フィルタ700が収容される空間である。具体的には、フィルタ収容室610の上端は、弁体収容部材600の上面に開口しており、液口栓本体400の頭部420に形成された貫通孔422に連通している。なお、貫通孔422の径は、フィルタ収容室610の内径より小さい。フィルタ収容室610の内径は、弁体収容室620の内径より大きくなっており、フィルタ収容室610の内周面と弁体収容室620の内周面との間には、上下方向視(Z軸方向視)で環状の第1の段差面612が形成されている。フィルタ700は、略円盤状の多孔質体であり、頭部420の下面と第1の段差面612との間に挟まれるようにしてフィルタ収容室610内に収容されている。なお、フィルタ700は、例えば、頭部420の貫通孔422から排出された水素ガスに引火し、筐体10内の水素ガスに引火して爆発することを防止する防爆フィルタであることが好ましい。
【0038】
弁体収容室620は、弁体650が収容される空間である。具体的には、弁体収容室620の上端は、フィルタ収容室610側に開口しており、弁体収容室620の下端は、下側開口部630側に開口している。弁体収容室620の内径は、下側開口部630の内径より大きくなっており、弁体収容室620の内周面と下側開口部630の内周面との間には、上下方向視(Z軸方向視)で環状の第2の段差面622が形成されている。弁体650は、略円形の平板状部材である。弁体650の外径は、弁体収容室620の内径より小さく、かつ、下側開口部630の外径より大きい。このため、弁体650は、上下方向視で、該弁体650の周縁部分が全周にわたって第2の段差面622に重なるように弁体収容室620内に収容されている。また、弁体650の上下方向の厚さは、弁体収容室620の上下方向の高さ寸法より小さい。このため、弁体650は、弁体収容室620内において上下方向に変位可能に収容されている。
【0039】
また、第2の段差面622のうち、弁体650に対向する1または複数の部分に溝623が形成されている。このため、弁体650が第2の段差面622上に配置された場合でも、弁体650と第2の段差面622との間に僅かな隙間が形成される。また、弁体650の上面には、上方に突出する凸部652が形成されている。このように弁体650に凸部652が形成されていることによって、例えば電解液18中の水分によって湿ったフィルタ700に弁体650が付着して弁機能が作用しなくなることを抑制することができる。なお、凸部652を含めた弁体650の上下方向の厚さが、弁体収容室620の上下方向の高さ寸法より小さい。このため、弁体650は、凸部652が形成されていても、弁体収容室620内において上下方向に変位可能である。本実施形態では、液口栓160における貫通孔422から液口栓160の下側開口部630までのガスの流路が、液口栓160における連通路である。
【0040】
A-3.シート300の詳細構成:
図1から
図5に示すように、蓋14の上面には、各液口栓160に形成された貫通孔422を覆うようにシート300が接合されている。シート300は、セル並び方向(X軸方向)に延びている矩形のシート状であり、例えばポリプロピレン樹脂等の樹脂材料により形成されている。
【0041】
図2に示すように、シート300のうち、蓋14の上面に対向する対向面300Aには、非接合領域310と接合領域320とが含まれている。非接合領域310は、蓋14の上面に接合されていない一体の領域である。また、非接合領域310は、少なくとも、6つの液口栓160の貫通孔422の全てに対向している連続した領域である。換言すれば、非接合領域310は、上下方向(Z軸方向)視で、6つの液口栓160の貫通孔422の全てを覆う連続した領域である。具体的には、非接合領域310は、セル並び方向(X方向)に直線状に延びており、非接合領域310におけるセル並び方向の両端部は、シート300におけるセル並び方向の両端辺まで延びている。
【0042】
接合領域320は、例えば接着剤を介して、蓋14の上面に接合されている領域である。また、接合領域320は、シート300の対向面300Aのうち、非接合領域310を除く領域(本実施形態では2つの領域)である。このような構成により、シート300における非接合領域310は、6つの貫通孔422に連通し、かつ、非接合領域310におけるセル並び方向(X方向)の両端部が開放された排気経路を形成している。以下、非接合領域310における各端部を、「シート300の開放端312」という。
【0043】
A-4.性能評価:
フィルタ700、弁体650を有する弁構造およびシート300に関する構成が互いに異なる鉛蓄電池のサンプル(比較例1~11および実施例1~4)について、性能評価を行った。なお、各サンプルは、フィルタ700の有無や種類、弁構造やシート300の有無以外の構成は、上述した
図1から
図5に示す鉛蓄電池100と同じである。
【0044】
(評価方法)
本性能評価では、各サンプルについて、液口栓160の連通路におけるセル室16から筐体10外部への通気抵抗(kPa)(以下、「流出通気抵抗」という)を測定した。ここで、液口栓160の連通路は、
図5に示す構成において、貫通孔422の上端から、フィルタ700と、弁体650と第2の段差面622との隙間を介して、下側開口部630に至る経路である。なお、液口栓160の連通路の流出通気抵抗は、次の方法により測定する。すなわち、図示しないテストピース装着治具内に、各サンプルを配置する。テストピース装着治具は、テストピースを収容する収容空間を内部に備えるとともに、外部から収容空間に連通する流入口と流出口とを備える。各サンプルの液口栓160を、テストピース装着治具の収容空間内に配置し、液口栓160の下側開口部630側をテストピース装着治具の流入口に接続し、液口栓160の貫通孔422側をテストピース装着治具の流出口に接続する。そして、テストピース装着治具の流入口から、5L/minの送風量でエアを流入し、そのときの流入口における圧力と流出口における圧力とをデジタル圧力計で測定し、その両圧力の差を、各サンプルの連通路における流出通気抵抗とした。なお、液口栓160の連通路における筐体10外部からセル室16への通気抵抗(以下、「流入通気抵抗」という)は、液口栓160の貫通孔422側をテストピース装着治具の流入口に接続し、液口栓160の下側開口部630側をテストピース装着治具の流出口に接続して、流入口と流出口との圧力差を測定することにより特定することができる。
【0045】
また、本性能評価では、各サンプルについて、電解液18の減液量を測定した。具体的には、各サンプルの鉛蓄電池、70℃の温度雰囲気下で、充電電圧14.5V(最大充電電流25A)で鉛蓄電池100時間連続充電する間、実車ランダム振動条件で上下方向に振動を加えた時の電池の質量減少量を、電解液18の減液量(電槽12内から筐体10の外部に排出された電解液18の水分の量)として測定した。
【0046】
また、本性能評価では、各サンプルについて、電槽12の変形の有無を確認した。具体的には、各サンプルの電槽12の膨れ具合を視覚により確認した。
【0047】
(評価結果)
図6は、サンプルの性能評価の結果を示す説明図である。なお、図中の「樹脂フィルタ」は、通気抵抗が1.0kPa以上、2.0kPa以下のフィルタを意味する。図中の「高密度樹脂フィルタ」は、通気抵抗が3.0kPa以上、6.0kPa以下のフィルタを意味する。また、図中の「無」は、サンプルがフィルタ700と弁構造とシート300とのいずれかを備えないことを意味する。
【0048】
図6に示すように、比較例1では、液口栓160は、フィルタ700、弁構造およびシート300のいずれも備えない。このため、液口栓160の連通路における流出通気抵抗は略0kPaであり、ほとんど減液抑制効果がない。比較例1の減液量を「200」とする。
【0049】
次に、比較例2~4では、液口栓160は、フィルタ700として樹脂フィルタを備えるが、弁構造およびシート300を備えない。比較例2~4では、樹脂フィルタを備えることによって、液口栓160の連通路における流出通気抵抗は1.0kPa以上、2.0kPa以下となった。その結果、比較例2~4の減液量は、比較例1の減液量より減少し、「100以上、110以下」となった。
【0050】
次に、比較例5~7では、液口栓160は、フィルタ700として樹脂フィルタを備えるとともに、蓋14の上面にシート300が配置されている。但し、比較例5~7では、弁構造を備えない。比較例5~7では、樹脂フィルタに加えてシート300を備えるため、シート300による減液抑制効果によって、比較例5~7の減液量は、比較例2~4の減液量よりさらに減少し、「65以上、70以下」となった。
【0051】
次に、比較例8~11では、液口栓160は、フィルタ700として高密度樹脂フィルタを備えるとともに、弁体650を有する弁構造を備える。但し、比較例8~11では、シート300を備えない。比較例8~11では、高密度樹脂フィルタおよび弁構造を備えることによって、液口栓160の連通路における流出通気抵抗は3.4kPa以上、6.0kPa以下となった。その結果、比較例8~11の減液量は、比較例5~7の減液量よりさらに減少し、「46以上、52以下」となった。
【0052】
次に、実施例1~4では、液口栓160は、高密度樹脂フィルタおよび弁構造を備えるとともに、蓋14の上面にシート300が配置されている。実施例1~4では、液口栓160の連通路における流出通気抵抗は、比較例8~11の液口栓160の連通路における流出通気抵抗と同程度であるが、実施例1~4の減液量は、比較例8~11の減液量よりさらに減少し、「23以上、26以下」となった。
【0053】
ここで、例えば、高密度樹脂フィルタおよび弁構造を備える比較例8では、減液量が「52」であった。一方、樹脂フィルタのみ備える比較例1の減液量は「110」であり、樹脂フィルタに加えてシート300を備える比較例5の減液量は「70」であった。これらのことは、シート300による減液抑制効果は70/110であることを意味する。すなわち、蓋14にシート300を配置した場合、蓋14にシート300を配置しない場合に比べて、減液量を約3割低減できることを意味する。そうであるとすると、高密度樹脂フィルタおよび弁構造を備える比較例8に対して、蓋14にシート300を配置した場合、計算上、減液量は「33」(=52×(70/110))になるはずである。
【0054】
ところが、
図6に示すように、例えば、高密度樹脂フィルタおよび弁構造に加えてシート300を備える実施例1の減液量は「26」であり、計算上の減液量「33」よりさらに低い。この原因は、次に述べるように、弁構造とシート300との相乗効果によるものであると考えられる。
【0055】
図7は、液口栓160における弁体650の変位とシート300との関係を示す説明図である。
図7(A)に示すように、例えば、電解液18中の水分が蒸発しない正常時では、鉛蓄電池100の充電時においてセル室16内に発生したガスGは、液口栓160の連通路を介して、蓋14とシート300との間の排気経路に至り、シート300の開放端312を介して外部に排気される。
【0056】
ここで、上述したように、弁体650は、弁体収容室620内において上下方向に変位可能に収容されている。このため、セル室16内に発生したガスGによってセル室16の内圧が上昇すると、弁体650が、第2の段差面622上に配置された第1の位置(
図7(A)参照)から、第2の段差面622から上方に離間した第2の位置(
図7の(B)参照)に変位する。弁体650が第1の位置にあるとき、弁体650と第2の段差面622との間には溝623による僅かな隙間だけが形成される。これに対して、弁体650が第2の位置に変位すると、弁体650と第2の段差面622との間の隙間が大きくなる。すなわち、弁体650が第2の位置にあるときの液口栓160の連通路における通気抵抗は、弁体650が第1の位置にあるときの液口栓160の連通路における通気抵抗より小さい。したがって、セル室16内に発生したガスGによってセル室16の内圧が上昇したときには、弁体650が第2の位置に変位するため、液口栓160の連通路における流出通気抵抗が相対的に小さくなり、ガスGが連通路を介して筐体10の外部に放出され易くなる。
【0057】
また、例えば鉛蓄電池100が高温環境下に配置され、電解液18中の水分の一部が蒸発して水蒸気が発生した場合、液口栓160の連通路を介して放出された水蒸気Vによってシート300とフィルタ700との間に高湿度の空間Hが形成される。高湿度の空間Hが形成されると、セル室16内で発生した水蒸気は、フィルタ700を介して貫通孔422に浸入し難くなるため、セル室16における減液を抑制することができる。また、仮に、水水蒸気がフィルタ700を通過しても、液化し、筐体10の外部に放出されることが抑制される。
【0058】
また、高湿度の空間Hが形成された状態で、例えば鉛蓄電池100の充電が停止してセル室16からガスが発生しなくなった場合、セル室16の内圧が低下し、弁体650が第2の位置から第1の位置に変位する(
図7(C)参照)。その結果、液口栓160の連通路における流入通気抵抗が相対的に大きくなり、高湿度の空間Hから貫通孔422内への気体の逆流が抑制されるため、その空間の湿度が低下し難くなる。すなわち、高湿度の空間Hによる減液抑制効果が維持される。このように、弁体650を備える弁構造とシート300との相乗効果により高湿度の空間Hが維持されるため、実施例1~4では、減液量が、計算上の減液量よりさらに低くなったと考えられる。すなわち、実施例1~4によれば、筐体10のセル室16に発生したガスGの排出機能が低下すること抑制しつつ、減液抑制性能の向上を図ることができる。
【0059】
また、比較例11および実施例4では、電槽12に膨れが発生した。このため、液口栓160の連通路における流出通気抵抗は、5.5kPa以下であることが好ましい。また、
図6の評価結果によれば、液口栓160の連通路における流出通気抵抗は、3.4kPa以上であることが好ましい。
【0060】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
上記実施形態において、液口栓160は、防沫体500を備えないとしてもよい。また、上記実施形態において、液口栓160は、フィルタ収容室610およびフィルタ700を備えないとしてもよい。また、上記実施形態において、弁体収容部材600の第2の段差面622に溝623が形成されていないとしてもよい。また、上記実施形態において、弁体650に凸部652が形成されていないとしてもよい。
【0063】
上記実施形態において、フィルタ700が樹脂フィルタであったり、フィルタ700を備えなかったりした場合でも、弁構造とシートとを備えることにより、筐体10のセル室16に発生したガスGの排出性能が低下することを抑制しつつ、減液抑制性能の向上を図ることができる。
【0064】
上記実施形態において、シート300の両端部の一方は開放し、他方は閉塞しているとしてもよい。このような構成であれば、シート300による減液抑制効果をさらに高めることができる。
【0065】
また、上記実施形態では、鉛蓄電池100は、フラットタイプの鉛蓄電池であるとしたが、これに限らず、例えば、液口栓160が筐体10の上面から上方に突出する摘まみ部を含む、いわゆる摘まみタイプの鉛蓄電池であるとしてもよい。また、上記実施形態において、筐体10内のセル室16の数は、6つに限らず、複数または3つ以上であればよい。また、本実施形態において、電槽12と蓋14とが一体形成されているとしてもよい。
【0066】
また、上記実施形態において、筒状部410は、円筒状に限らず、例えば、角筒状などでもよい。また、弁体収容部材600は、円環状に限らず、例えば角筒状であるとしてもよい。また、弁体650は、円形に限らず、例えば矩形状などでもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、液口栓160の連通路における流出通気抵抗は、5.5kPaより大きくてもよいし、3.4kPaより小さくてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10:筐体 12:電槽 14:蓋 15:装着孔 16:セル室 18:電解液 20:極板群 30:正極側端子部 32:正極側ブッシング 34:正極柱 40:負極側端子部 42:負極側ブッシング 44:負極柱 52:正極側ストラップ 54:負極側ストラップ 56:接続部材 58:隔壁 100:鉛蓄電池 160:液口栓 210:正極板 212:正極集電体 214:正極耳部 216:正極活物質 220:負極板 222:負極集電体 224:負極耳部 226:負極活物質 230:セパレータ 300:シート 300A:対向面 310:非接合領域 312:開放端 320:接合領域 400:液口栓本体 410:筒状部 412:開口部 420:頭部 422:貫通孔 500:防沫体 510:防沫板 600:弁体収容部材 610:フィルタ収容室 612:第1の段差面 620:弁体収容室 622:第2の段差面 623:溝 630:下側開口部 650:弁体 652:凸部 700:フィルタ G:ガス H:空間 V:水蒸気