(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】誘電体フィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/20 20060101AFI20220209BHJP
H01P 7/10 20060101ALI20220209BHJP
H01P 1/30 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
H01P1/20 A
H01P7/10
H01P1/30 Z
(21)【出願番号】P 2018021844
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【氏名又は名称】城澤 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【氏名又は名称】伊藤 進
(72)【発明者】
【氏名】芦田 裕太
(72)【発明者】
【氏名】戸蒔 重光
(72)【発明者】
【氏名】二俣 陽介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼根 晋
(72)【発明者】
【氏名】宮内 泰治
(72)【発明者】
【氏名】木村 一成
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-335110(JP,A)
【文献】実開昭63-010603(JP,U)
【文献】特開2004-140855(JP,A)
【文献】特開2017-225087(JP,A)
【文献】特開2002-076717(JP,A)
【文献】特開2006-238027(JP,A)
【文献】特開平11-071173(JP,A)
【文献】米国特許第06882252(US,B1)
【文献】小西 良弘 著,「マイクロ波回路の基礎とその応用 -基礎知識から新しい応用まで-」,総合電子出版社,1990年08月20日,pp.234-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 7/10
H01P 1/20
H01P 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体共振器を含む誘電体フィルタであって、
それぞれ第1の比誘電率を有する第1の誘電体より
なり、前記複数の誘電体共振器に対応する複数の共振器本体部と、
前記第1の比誘電率よりも小さい第2の比誘電率を有する第2の誘電体よりなり、前記
複数の共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部と、
導体よりなるシールド部とを
備え、
前記シールド部は、前記
複数の共振器本体部と前記シールド部との間に前記周囲誘電体部の少なくとも一部が介在するように、前記
複数の共振器本体部の周囲に配置され、
前記複数の共振器本体部は、前記シールド部によって囲まれた1つの領域内に配置され、
前記複数の誘電体共振器の各々は、それに対応する前記複数の共振器本体部のうちの1つと前記周囲誘電体部の少なくとも一部と前記シールド部によって構成され、
25~85℃における前記第1の誘電体の共振周波数の温度係数と25~85℃における前記第2の誘電体の共振周波数の温度係数の一方は正の値であり、他方は負の値であることを特徴とする誘電体
フィルタ。
【請求項2】
25~85℃における前記
複数の誘電体共振器
の各々の共振周波数の温度係数の絶対値は、前記25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値および前記25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の誘電体
フィルタ。
【請求項3】
25~85℃における前記
複数の誘電体共振器
の各々の共振周波数の温度係数の絶対値は、33ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体
フィルタ。
【請求項4】
25~85℃における前記
複数の誘電体共振器
の各々の共振周波数の温度係数の絶対値は、10ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体
フィルタ。
【請求項5】
前記複数の共振器本体部の各々は、前記シールド部に接していないことを特徴とする請求項
1ないし4のいずれかに記載の誘電体フィルタ。
【請求項6】
複数の誘電体共振器を含む誘電体フィルタであって、
それぞれ第1の比誘電率を有する第1の誘電体より
なり、前記複数の誘電体共振器に対応する複数の共振器本体部と、
前記第1の比誘電率よりも小さく且つ1よりも大きい第2の比誘電率を有する第2の誘電体よりなり、前記
複数の共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部と、
導体よりなるシールド部とを備えた誘電体共振器であって、
前記シールド部は、前記
複数の共振器本体部と前記シールド部との間に前記周囲誘電体部の少なくとも一部が介在するように、前記
複数の共振器本体部の周囲に配置され、
前記複数の共振器本体部は、前記シールド部によって囲まれた1つの領域内に配置され、
前記複数の誘電体共振器の各々は、それに対応する前記複数の共振器本体部のうちの1つと前記周囲誘電体部の少なくとも一部と前記シールド部によって構成され、
25~85℃における前記第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値と25~85℃における前記第2の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値は、いずれも33ppm/℃以下であることを特徴とする誘電体
フィルタ。
【請求項7】
25~85℃における前記
複数の誘電体共振器
の各々の共振周波数の温度係数の絶対値は、33ppm/℃以下であることを特徴とする請求項
6記載の誘電体
フィルタ。
【請求項8】
前記25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値と前記25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値は、いずれも10ppm/℃以下であることを特徴とする請求項
6記載の誘電体
フィルタ。
【請求項9】
25~85℃における前記
複数の誘電体共振器
の各々の共振周波数の温度係数の絶対値は、10ppm/℃以下であることを特徴とする請求項
8記載の誘電体
フィルタ。
【請求項10】
前記複数の共振器本体部の各々は、前記シールド部に接していないことを特徴とする請求項
6ないし9のいずれかに記載の誘電体フィルタ。
【請求項11】
前記周囲誘電体部は、積層された複数の誘電体層からなる積層体によって構成されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の誘電体フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体共振器、ならびに複数の誘電体共振器を含む誘電体フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、第5世代移動通信システム(以下、5Gと言う。)の規格化が進められている。5Gでは、周波数帯域を拡大するために、10GHz以上の周波数帯域、特に、10~30GHzの準ミリ波帯や30~300GHzのミリ波帯の利用が検討されている。
【0003】
通信装置に用いられる電子部品には、複数の共振器を含むバンドパスフィルタがある。10GHz以上の周波数帯域に用いられるバンドパスフィルタとしては、複数の誘電体共振器を含む誘電体フィルタが有望である。
【0004】
一般的に、誘電体共振器は、誘電体よりなる共振器本体部と、共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部と、シールド部とを備えている。周囲誘電体部は、共振器本体部を構成する誘電体よりも比誘電率が小さい誘電体によって構成されている。シールド部は、共振器本体部とシールド部との間に周囲誘電体部の少なくとも一部が介在するように共振器本体部の周囲に配置され、電磁界を閉じ込める機能を有する。
【0005】
特許文献1には、誘電体基体と、誘電体基体に埋設された複数の誘電体共振器と、外導体膜とを含む誘電体フィルタが記載されている。外導体膜は、誘電体基体の外面の一部を覆っている。特許文献1における複数の誘電体共振器の各々は、上記の共振器本体部に対応する。特許文献1における誘電体基体と外導体膜は、それぞれ、上記の周囲誘電体部とシールド部に対応する。
【0006】
誘電体共振器に求められる性能の一つには、温度の変化に伴う共振周波数の変化が小さいこと、すなわち共振周波数の温度係数が小さいことが挙げられる。
【0007】
特許文献2と特許文献3には、共振器本体部を構成するのに用いられる誘電体材料であって、共振周波数の温度係数の絶対値が小さい材料が記載されている。なお、特許文献2,3に記載されている共振周波数の温度係数は、誘電体材料の共振周波数の温度係数のことであり、誘電体共振器の共振周波数とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-238027号公報
【文献】国際公開第2012/086740号
【文献】特開2005-200269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2,3には、金属ケース内に共振器本体部が設けられ、金属ケースと共振器本体部の間は空気で満たされた構造の誘電体共振器または誘電体フィルタが記載されている。特許文献2,3に記載された誘電体材料は、このような構造の誘電体共振器または誘電体フィルタにおける共振器本体部を構成するのに適したものである。
【0010】
しかし、共振器本体部の周囲に、空気以外の誘電体材料よりなる周囲誘電体部が存在する構造の誘電体共振器では、共振器本体部を構成する誘電体材料の共振周波数の温度係数の絶対値を小さくしただけでは、必ずしも、誘電体共振器の共振周波数の温度係数の絶対値が小さくなるとは限らないという問題点があった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、誘電体共振器の共振周波数の温度係数の絶対値を小さくすることができるようにした誘電体共振器および誘電体フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点の誘電体共振器は、第1の比誘電率を有する第1の誘電体よりなる共振器本体部と、第1の比誘電率よりも小さい第2の比誘電率を有する第2の誘電体よりなり、共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部と、導体よりなるシールド部とを備えている。シールド部は、共振器本体部とシールド部との間に周囲誘電体部の少なくとも一部が介在するように、共振器本体部の周囲に配置されている。25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数と25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の一方は正の値であり、他方は負の値である。
【0013】
第1の観点の誘電体共振器において、25~85℃における誘電体共振器の共振周波数の温度係数の絶対値は、25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値および25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値よりも小さくてもよい。
【0014】
また、第1の観点の誘電体共振器において、25~85℃における誘電体共振器の共振周波数の温度係数の絶対値は、33ppm/℃以下であってもよいし、10ppm/℃以下であってもよい。
【0015】
また、第1の観点の誘電体共振器において、共振器本体部は、シールド部に接していなくてもよい。
【0016】
本発明の第1の観点の誘電体フィルタは、複数の誘電体共振器を含んでいる。また、第1の観点の誘電体フィルタは、それぞれ第1の比誘電率を有する第1の誘電体よりなり、複数の誘電体共振器に対応する複数の共振器本体部と、第1の比誘電率よりも小さい第2の比誘電率を有する第2の誘電体よりなり、複数の共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部と、導体よりなるシールド部とを備えている。シールド部は、複数の共振器本体部とシールド部との間に周囲誘電体部の少なくとも一部が介在するように、複数の共振器本体部の周囲に配置されている。複数の誘電体共振器の各々は、それに対応する複数の共振器本体部のうちの1つと周囲誘電体部の少なくとも一部とシールド部によって構成されている。25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数と25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の一方は正の値であり、他方は負の値である。
【0017】
第1の観点の誘電体フィルタにおいて、複数の共振器本体部の各々は、シールド部に接していなくてもよい。
【0018】
本発明の第2の観点の誘電体共振器は、第1の比誘電率を有する第1の誘電体よりなる共振器本体部と、第1の比誘電率よりも小さく且つ1よりも大きい第2の比誘電率を有する第2の誘電体よりなり、共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部と、導体よりなるシールド部とを備えている。シールド部は、共振器本体部とシールド部との間に周囲誘電体部の少なくとも一部が介在するように、共振器本体部の周囲に配置されている。25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値と25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値は、いずれも33ppm/℃以下である。
【0019】
第2の観点の誘電体共振器において、25~85℃における誘電体共振器の共振周波数の温度係数の絶対値は、33ppm/℃以下であってもよい。
【0020】
また、第2の観点の誘電体共振器において、25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値と25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値は、いずれも10ppm/℃以下であってもよい。この場合、25~85℃における誘電体共振器の共振周波数の温度係数の絶対値は、10ppm/℃以下であってもよい。
【0021】
また、第2の観点の誘電体共振器において、共振器本体部は、シールド部に接していなくてもよい。
【0022】
本発明の第2の観点の誘電体フィルタは、複数の誘電体共振器を含んでいる。また、第2の観点の誘電体フィルタは、それぞれ第1の比誘電率を有する第1の誘電体よりなり、複数の誘電体共振器に対応する複数の共振器本体部と、第1の比誘電率よりも小さく且つ1よりも大きい第2の比誘電率を有する第2の誘電体よりなり、複数の共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部と、導体よりなるシールド部とを備えている。シールド部は、複数の共振器本体部とシールド部との間に周囲誘電体部の少なくとも一部が介在するように、複数の共振器本体部の周囲に配置されている。複数の誘電体共振器の各々は、それに対応する複数の共振器本体部のうちの1つと周囲誘電体部の少なくとも一部とシールド部によって構成されている。25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値と25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値は、いずれも33ppm/℃以下である。
【0023】
第2の観点の誘電体フィルタにおいて、複数の共振器本体部の各々は、シールド部に接していなくてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の観点の誘電体共振器および誘電体フィルタ、ならびに本発明の第2の観点の誘電体共振器および誘電体フィルタによれば、第1の誘電体の共振周波数の温度係数と第2の誘電体の共振周波数の温度係数が所定の要件を満たすことにより、誘電体共振器の共振周波数の温度係数の絶対値を小さくすることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る誘電体フィルタの内部を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る誘電体フィルタの内部を示す側面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る誘電体フィルタの内部を示す平面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る誘電体フィルタの等価回路を示す回路図である。
【
図5】
図1に示した周囲誘電体部における1層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図6】
図1に示した周囲誘電体部における2層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図7】
図1に示した周囲誘電体部における3層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図8】
図1に示した周囲誘電体部における4層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図9】
図1に示した周囲誘電体部における5層目ないし8層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図10】
図1に示した周囲誘電体部における9層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図11】
図1に示した周囲誘電体部における10層目ないし30層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図12】
図1に示した周囲誘電体部における31層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図13】
図1に示した周囲誘電体部における32層目の誘電体層のパターン形成面を示す平面図である。
【
図14】第1の実施例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示す特性図である。
【
図15】第1の比較例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示す特性図である。
【
図16】第2の実施例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示す特性図である。
【
図17】第3の実施例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示す特性図である。
【
図18】第3の比較例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、
図1ないし
図4を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る誘電体フィルタの構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る誘電体フィルタの内部を示す斜視図である。
図2は、本実施の形態に係る誘電体フィルタの内部を示す側面図である。
図3は、本実施の形態に係る誘電体フィルタの内部を示す平面図である。
図4は、本実施の形態に係る誘電体フィルタの等価回路を示す回路図である。
【0027】
本実施の形態に係る誘電体フィルタ1は、バンドパスフィルタの機能を有している。
図4に示したように、誘電体フィルタ1は、第1の入出力ポート5Aと、第2の入出力ポート5Bと、複数の誘電体共振器と、第1の入出力ポート5Aと第2の入出力ポート5Bとを容量結合させるためのキャパシタC10とを備えている。複数の誘電体共振器の各々は、本実施の形態に係る誘電体共振器である。
【0028】
キャパシタC10は、第1の入出力ポート5Aに接続された第1端と第2の入出力ポート5Bに接続された第2端とを有し、第1の入出力ポート5Aと第2の入出力ポート5Bとの間に設けられている。
【0029】
複数の誘電体共振器は、回路構成上第1の入出力ポート5Aと第2の入出力ポート5Bの間に設けられ、回路構成上隣接する2つの誘電体共振器が磁気結合するように構成されている。なお、本出願において、「回路構成上」という表現は、物理的な構成における配置ではなく、回路図上での配置を指すために用いている。
【0030】
本実施の形態では特に、
図4に示したように、誘電体フィルタ1が4個の誘電体共振器2A,2B,2C,2Dを備えている例を示す。誘電体共振器2A,2B,2C,2Dは、回路構成上、第1の入出力ポート5A側からこの順に配置されている。誘電体共振器2A,2B,2C,2Dは、誘電体共振器2A,2Bが回路構成上隣接して磁気結合し、誘電体共振器2B,2Cが回路構成上隣接して磁気結合し、誘電体共振器2C,2Dが回路構成上隣接して磁気結合するように構成されている。誘電体共振器2A,2B,2C,2Dの各々は、インダクタンスとキャパシタンスを有している。
【0031】
以下、回路構成上第1の入出力ポート5Aに最も近い誘電体共振器2Aを第1の入出力段共振器2Aとも言い、回路構成上第2の入出力ポート5Bに最も近い誘電体共振器2Dを第2の入出力段共振器2Dとも言う。また、回路構成上第1の入出力段共振器2Aと第2の入出力段共振器2Dの間に位置する2つの誘電体共振器2B,2Cを、中間共振器2B,2Cとも言う。
【0032】
図4に示したように、誘電体フィルタ1は、更に、第1の移相器11Aと第2の移相器11Bを備えている。第1の移相器11Aと第2の移相器11Bの各々は、そこを通過する信号に対して位相の変化を生じさせるものである。以下、第1の移相器11Aと第2の移相器11Bの各々における位相の変化量を位相変化量と言う。
【0033】
第1の移相器11Aは、回路構成上第1の入出力ポート5Aと第1の入出力段共振器2Aの間に設けられている。第1の移相器11Aは、第1の入出力段共振器2Aに対して容量結合するように構成されている。
図4において、符号C11Aを付したキャパシタの記号は、第1の移相器11Aと第1の入出力段共振器2Aの間の容量結合を表している。
【0034】
第2の移相器11Bは、回路構成上第2の入出力ポート5Bと第2の入出力段共振器2Dの間に設けられている。第2の移相器11Bは、第2の入出力段共振器2Dに対して容量結合するように構成されている。
図4において、符号C11Bを付したキャパシタの記号は、第2の移相器11Bと第2の入出力段共振器2Dの間の容量結合を表している。
【0035】
また、
図1ないし
図3に示したように、誘電体フィルタ1は、第1および第2の入出力ポート5A,5B、誘電体共振器2A,2B,2C,2D、キャパシタC10および第1および第2の移相器11A,11Bを構成するための構造体20を備えている。
【0036】
構造体20は、それぞれ第1の比誘電率εr1を有する第1の誘電体よりなり、複数の誘電体共振器に対応する複数の共振器本体部と、第1の比誘電率εr1よりも小さい第2の比誘電率εr2を有する第2の誘電体よりなり、複数の共振器本体部の周囲に存在する周囲誘電体部4とを含んでいる。第1の誘電体と第2の誘電体は、例えばセラミックである。本実施の形態では特に、構造体20は、4個の誘電体共振器2A,2B,2C,2Dに対応する4個の共振器本体部3A,3B,3C,3Dを含んでいる。
【0037】
以下、第1の入出力段共振器2Aに対応する共振器本体部3Aを第1の入出力段共振器本体部3Aとも言い、第2の入出力段共振器2Dに対応する共振器本体部3Dを第2の入出力段共振器本体部3Dとも言う。また、中間共振器2B,2Cに対応する共振器本体部3B,3Cを中間共振器本体部3B,3Cとも言う。
【0038】
本実施の形態では、周囲誘電体部4は、積層された複数の誘電体層からなる積層体によって構成されている。ここで、
図1ないし
図3に示したように、X方向、Y方向およびZ方向を定義する。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する。本実施の形態では、複数の誘電体層の積層方向(
図1では上側に向かう方向)を、Z方向とする。
【0039】
周囲誘電体部4は、外面を有する直方体形状をなしている。周囲誘電体部4の外面は、Z方向における互いに反対側に位置する下面4aおよび上面4bと、下面4aと上面4bを接続する4つの側面4c,4d,4e,4fとを含んでいる。側面4c,4dは、Y方向における互いに反対側に位置している。側面4e,4fは、X方向における互いに反対側に位置している。
【0040】
図1に示した例では、共振器本体部3A~3Dの各々は、中心軸がZ方向に向いた円柱形状を有している。しかし、共振器本体部3A~3Dの各々の形状は、円柱形状に限られず、例えば四角柱形状であってもよい。また、共振器本体部3A~3Dの各々は、それぞれ第1の誘電体よりなる複数本の棒状部材の集合体によって構成されていてもよい。
【0041】
共振器本体部3A~3Dは、共振器本体部3A,3Bが磁気結合し、共振器本体部3B,3Cが磁気結合し、共振器本体部3C,3Dが磁気結合するように構成されている。
【0042】
図1に示したように、構造体20は、更に、それぞれ導体よりなる分離導体層6とシールド部7を含んでいる。
【0043】
分離導体層6は、共振器本体部3A~3Dが存在する領域とキャパシタC10が存在する領域とを分離する。
【0044】
シールド部7は、共振器本体部3A~3Dとシールド部7との間に周囲誘電体部4の少なくとも一部が介在するように、共振器本体部3A~3Dの周囲に配置されている。
【0045】
本実施の形態では、分離導体層6は、シールド部7の一部を兼ねている。シールド部7は、分離導体層6とシールド導体層72と接続部71とを含んでいる。なお、
図3では、シールド導体層72を省略している。
【0046】
分離導体層6とシールド導体層72は、周囲誘電体部4の内部において、Z方向に互いに離れた位置に配置されている。分離導体層6は、周囲誘電体部4の下面4aの近くに配置されている。シールド導体層72は、周囲誘電体部4の上面4bの近くに配置されている。共振器本体部3A~3Dは、構造体20内における、分離導体層6とシールド導体層72との間の領域に配置されている。共振器本体部3A~3Dの各々は、分離導体層6に最も近い下端面と、シールド導体層72に最も近い上端面とを有している。
【0047】
接続部71は、分離導体層6とシールド導体層72を電気的に接続している。接続部71は、複数のスルーホール列71Tを含んでいる。複数のスルーホール列71Tの各々は、直列に接続された2つ以上のスルーホールを含んでいる。分離導体層6、シールド導体層72および接続部71は、共振器本体部3A~3Dを囲むように配置されている。共振器本体部3A~3Dの各々は、シールド部7に接していない。
【0048】
図1および
図3に示したように、第1の入出力段共振器本体部3Aと第2の入出力段共振器本体部3Dは、中間共振器本体部3B,3Cのいずれをも介することなく物理的に隣接している。共振器本体部3A,3Dは、周囲誘電体部4の側面4cの近傍において、X方向に並んでいる。共振器本体部3B,3Cは、周囲誘電体部4の側面4dの近傍において、X方向に並んでいる。
【0049】
図1に示したように、構造体20は、更に、それぞれ導体よりなる仕切り部8、グランド層9および接続部12を含んでいる。
【0050】
仕切り部8は、第1の入出力段共振器本体部3Aと第2の入出力段共振器本体部3Dの間に磁気結合が生じないようにするためのものである。仕切り部8は、第1の入出力段共振器本体部3Aと第2の入出力段共振器本体部3Dの間を通過するように設けられている。仕切り部8は、分離導体層6とシールド導体層72を電気的に接続している。仕切り部8は、複数のスルーホール列8Tを含んでいる。複数のスルーホール列8Tの各々は、直列に接続された2つ以上のスルーホールを含んでいる。
【0051】
グランド層9は、周囲誘電体部4の下面4aに配置されている。接続部12は、グランド層9と分離導体層6を電気的に接続している。接続部12は、複数のスルーホール列12Tを含んでいる。複数のスルーホール列12Tの各々は、直列に接続された2つ以上のスルーホールを含んでいる。
【0052】
Z方向から見たグランド層9、分離導体層6およびシールド導体層72の形状は、いずれも矩形である。
【0053】
図1に示したように、構造体20は、更に、それぞれ導体よりなる結合調整部13,14,15を含んでいる。
【0054】
結合調整部13は、共振器本体部3A,3Bの間の磁気結合の大きさを調整するためのものである。結合調整部14は、共振器本体部3B,3Cの間の磁気結合の大きさを調整するためのものである。結合調整部15は、共振器本体部3C,3Dの間の磁気結合の大きさを調整するためのものである。結合調整部13,14,15の各々は、分離導体層6とシールド導体層72を電気的に接続している。
【0055】
図1に示した例では、結合調整部13は、1つのスルーホール列13Tを含んでいる。結合調整部14は、複数のスルーホール列14Tを含んでいる。結合調整部15は、1つのスルーホール列15Tを含んでいる。スルーホール列13T,14T,15Tの各々は、直列に接続された2つ以上のスルーホールを含んでいる。
【0056】
誘電体共振器2Aは、共振器本体部3Aと周囲誘電体部4の少なくとも一部とシールド部7によって構成されている。誘電体共振器2Bは、共振器本体部3Bと周囲誘電体部4の少なくとも一部とシールド部7によって構成されている。誘電体共振器2Cは、共振器本体部3Cと周囲誘電体部4の少なくとも一部とシールド部7によって構成されている。誘電体共振器2Dは、共振器本体部3Dと周囲誘電体部4の少なくとも一部とシールド部7によって構成されている。
【0057】
本実施の形態では、誘電体共振器2A~2Dの各々の共振モードは、TMモードである。誘電体共振器2A~2Dによって発生する電磁界は、共振器本体部3A~3Dの内部および外部に存在する。シールド部7は、共振器本体部3A~3Dの外部の電磁界を、シールド部7によって囲まれた領域内に閉じ込める機能を有する。
【0058】
次に、
図5ないし
図13を参照して、周囲誘電体部4を構成する複数の誘電体層と、この複数の誘電体層に形成された複数の導体層および複数のスルーホールの構成の一例について説明する。この例では、周囲誘電体部4は、積層された32層の誘電体層を有している。以下、この32層の誘電体層を、下から順に1層目ないし32層目の誘電体層と呼ぶ。また、1層目ないし32層目の誘電体層を符号31~62で表す。
図5ないし
図12において、複数の小さな円は複数のスルーホールを表している。
【0059】
図5は、1層目の誘電体層31のパターン形成面を示している。誘電体層31のパターン形成面には、グランド層9と、第1の入出力ポート5Aを構成する導体層311と、第2の入出力ポート5Bを構成する導体層312が形成されている。グランド層9には、2つの円形の孔9a,9bが形成されている。導体層311は孔9aの内側に配置され、導体層312は孔9bの内側に配置されている。
【0060】
また、誘電体層31には、導体層311に接続されたスルーホール31T1と、導体層312に接続されたスルーホール31T2が形成されている。誘電体層31には、更に、複数のスルーホール列12Tの一部を構成する複数のスルーホール12T1が形成されている。
図5において、スルーホール31T1,31T2以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール12T1である。複数のスルーホール12T1は、グランド層9に接続されている。
【0061】
図6は、2層目の誘電体層32のパターン形成面を示している。誘電体層32のパターン形成面には、それぞれX方向に長い導体層321,322が形成されている。導体層321,322の各々は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。導体層321の第1端と導体層322の第1端は、互いに対向している。導体層321における第1端の近傍部分には、
図5に示したスルーホール31T1が接続されている。導体層322における第1端の近傍部分には、
図5に示したスルーホール31T2が接続されている。
【0062】
また、誘電体層32には、導体層321における第2端の近傍部分に接続されたスルーホール32T1と、導体層322における第2端の近傍部分に接続されたスルーホール32T2が形成されている。誘電体層32には、更に、複数のスルーホール列12Tの一部を構成する複数のスルーホール12T2が形成されている。
図6において、スルーホール32T1,32T2以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール12T2である。複数のスルーホール12T2には、
図5に示した複数のスルーホール12T1が接続されている。
【0063】
図7は、3層目の誘電体層33のパターン形成面を示している。誘電体層33のパターン形成面には、X方向に長い導体層331が形成されている。導体層331の一部は、誘電体層32を介して導体層321における第1端の近傍部分に対向している。導体層331の他の一部は、誘電体層32を介して導体層322における第1端の近傍部分に対向している。
【0064】
また、誘電体層33には、スルーホール33T1,33T2と、複数のスルーホール列12Tの一部を構成する複数のスルーホール12T3が形成されている。スルーホール33T1,33T2には、それぞれ
図6に示したスルーホール32T1,32T2が接続されている。
図7において、スルーホール33T1,33T2以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール12T3である。複数のスルーホール12T3には、
図6に示した複数のスルーホール12T2が接続されている。
【0065】
図8は、4層目の誘電体層34のパターン形成面を示している。誘電体層34のパターン形成面には、分離導体層6が形成されている。分離導体層6には、2つの矩形の孔6a,6bが形成されている。
【0066】
また、誘電体層34には、スルーホール34T1,34T2が形成されている。誘電体層34には、更に、それぞれスルーホール列8T,13T,14T,15T,71Tの一部を構成するスルーホール8T1,13T1,14T1,15T1,71T1が形成されている。
図8において、スルーホール34T1,34T2,8T1,13T1,14T1,15T1以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール71T1である。
【0067】
スルーホール34T1は孔6aの内側に配置され、スルーホール34T2は孔6bの内側に配置されている。スルーホール34T1,34T2には、それぞれ
図7に示したスルーホール33T1,33T2が接続されている。
【0068】
図8において、スルーホール34T1,34T2以外の全てのスルーホールは、分離導体層6に接続されている。分離導体層6は、矩形の外縁を有している。複数のスルーホール71T1は、分離導体層6のうち、外縁の近傍の部分に接続されている。
【0069】
図9は、5層目ないし8層目の誘電体層35~38のパターン形成面を示している。誘電体層35~38の各々には、スルーホール35T1,35T2が形成されている。誘電体層35~38の各々には、更に、それぞれスルーホール列8T,13T,14T,15T,71Tの一部を構成するスルーホール8T2,13T2,14T2,15T2,71T2が形成されている。
図9において、スルーホール35T1,35T2,8T2,13T2,14T2,15T2以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール71T2である。
【0070】
5層目の誘電体層35に形成されたスルーホール35T1,35T2,8T2,13T2,14T2,15T2,71T2には、それぞれ
図8に示したスルーホール34T1,34T2,8T1,13T1,14T1,15T1,71T1が接続されている。誘電体層35~38では、上下に隣接する同じ符号のスルーホール同士が互いに接続されている。
【0071】
図10は、9層目の誘電体層39のパターン形成面を示している。誘電体層39のパターン形成面には、導体層391,392が形成されている。導体層391,392には、それぞれ8層目の誘電体層38に形成されたスルーホール35T1,35T2が接続されている。
【0072】
また、誘電体層39には、それぞれスルーホール列8T,13T,14T,15T,71Tの一部を構成するスルーホール8T3,13T3,14T3,15T3,71T3が形成されている。
図10において、スルーホール8T3,13T3,14T3,15T3以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール71T3である。
【0073】
誘電体層39に形成されたスルーホール8T3,13T3,14T3,15T3,71T3には、それぞれ8層目の誘電体層38に形成されたスルーホール8T2,13T2,14T2,15T2,71T2が接続されている。
【0074】
図11は、10層目ないし30層目の誘電体層40~60のパターン形成面を示している。誘電体層40~60の各々には、それぞれスルーホール列8T,13T,14T,15T,71Tの一部を構成するスルーホール8T4,13T4,14T4,15T4,71T4が形成されている。
図11において、スルーホール8T4,13T4,14T4,15T4以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール71T4である。
【0075】
10層目の誘電体層40に形成されたスルーホール8T4,13T4,14T4,15T4,71T4には、それぞれ
図10に示したスルーホール8T3,13T3,14T3,15T3,71T3が接続されている。誘電体層40~60では、上下に隣接する同じ符号のスルーホール同士が互いに接続されている。
【0076】
共振器本体部3A~3Dは、誘電体層40~60を貫通するように設けられている。
図10に示した導体層391は、誘電体層39を介して共振器本体部3Aの下端面に対向している。
図10に示した導体層392は、誘電体層39を介して共振器本体部3Dの下端面に対向している。
【0077】
図12は、31層目の誘電体層61のパターン形成面を示している。誘電体層61には、それぞれスルーホール列8T,13T,14T,15T,71Tの一部を構成するスルーホール8T5,13T5,14T5,15T5,71T5が形成されている。
図12において、スルーホール8T5,13T5,14T5,15T5以外の複数のスルーホールは、全てスルーホール71T5である。
【0078】
誘電体層61に形成されたスルーホール8T5,13T5,14T5,15T5,71T5には、それぞれ30層目の誘電体層60に形成されたスルーホール8T4,13T4,14T4,15T4,71T4が接続されている。
【0079】
図13は、32層目の誘電体層62のパターン形成面を示している。誘電体層62のパターン形成面には、シールド導体層72が形成されている。シールド導体層72には、
図12に示したスルーホール8T5,13T5,14T5,15T5,71T5が接続されている。
【0080】
周囲誘電体部4は、
図5に示した誘電体層31のパターン形成面が周囲誘電体部4の下面4aになるように、誘電体層31~62が積層されて構成されている。
【0081】
図4に示したキャパシタC10は、
図7に示した導体層331と、
図6に示した導体層321,322と、これらの間の誘電体層32とによって構成されている。キャパシタC10は、構造体20内における、分離導体層6とグランド層9との間の領域に配置されている。前述の通り、共振器本体部3A~3Dは、構造体20内における、分離導体層6とシールド導体層72との間の領域に配置されている。このように、分離導体層6は、共振器本体部3A~3Dが存在する領域とキャパシタC10が存在する領域とを分離している。
【0082】
接続部12を構成する複数の複数のスルーホール列12Tのうちの一部のスルーホール列12Tは、キャパシタC10を構成する導体層321,322,331を囲うように配置されている。
【0083】
図2に示したように、導体層321と導体層391は、直列に接続されたスルーホール32T1,33T1,34T1,35T1からなるスルーホール列11ATによって接続されている。また、導体層322と導体層392は、直列に接続されたスルーホール32T2,33T2,34T2,35T2からなるスルーホール列11BTによって接続されている。
【0084】
第1の移相器11Aは、導体層321とスルーホール列11ATによって構成されている。第2の移相器11Bは、導体層322とスルーホール列11BTによって構成されている。
【0085】
導体層391は、誘電体層39を介して共振器本体部3Aの下端面に対向している。これにより、第1の移相器11Aと第1の入出力段共振器2Aの間の容量結合C11Aが実現されている。導体層392は、誘電体層39を介して共振器本体部3Dの下端面に対向している。これにより、第2の移相器11Bと第2の入出力段共振器2Dの間の容量結合C11Bが実現されている。
【0086】
なお、周囲誘電体部4は、誘電体層31,32,33を含まずに、誘電体層34~62からなる積層体によって構成されていてもよい。この場合、誘電体層31,32,33を構成する誘電体の比誘電率は、共振器本体部3A~3Dを構成する第1の誘電体の第1の比誘電率εr1以上であってもよい。
【0087】
次に、本実施の形態に係る誘電体フィルタ1の製造方法について説明する。この製造方法は、後に焼成されて構造体20となる焼成前積層体を作製する工程と、焼成前積層体を焼成して構造体20を完成させる工程とを含んでいる。
【0088】
焼成前積層体を作製する工程では、まず、複数の誘電体層31~62となる複数の焼成前のセラミックシートを作製する。次に、複数のスルーホールが形成された誘電体層に対応するセラミックシートに、複数の焼成前のスルーホールを形成する。また、1つ以上の導体層が形成された誘電体層に対応するセラミックシートに、1つ以上の焼成前の導体層を形成する。以下、複数の焼成前のスルーホールと1つ以上の焼成前の導体層の少なくとも一方が形成された後のセラミックシートを焼成前シートと言う。
【0089】
焼成前積層体を作製する工程では、次に、
図11に示した誘電体層40~60に対応する複数の焼成前シートを積層して、焼成前積層体の一部を形成する。次に、この焼成前積層体の一部に、共振器本体部3A~3Dを収容するための4つの収容部を形成する。次に、この4つの収容部に共振器本体部3A~3Dを収容する。次に、上記焼成前積層体の一部と、焼成前積層体の残りの部分を構成する複数の焼成前シートとを積層して、焼成前積層体を完成させる。
【0090】
本実施の形態に係る誘電体フィルタ1は、バンドパスフィルタの機能を有している。誘電体フィルタ1は、通過帯域が例えば10~30GHzの準ミリ波帯または30~300GHzのミリ波帯に存在するように設計および構成される。なお、通過帯域は、例えば、挿入損失の最小値から3dBだけ挿入損失が大きくなる2つの周波数の間の周波数帯域である。また、誘電体共振器2A~2Dの各々は、共振周波数f0が例えば10~30GHzの準ミリ波帯または30~300GHzのミリ波帯に存在するように設計および構成される。誘電体フィルタ1の通過帯域の中心周波数fcは、誘電体共振器2A~2Dの各々の共振周波数f0に依存し、この共振周波数f0に近い。
【0091】
次に、本実施の形態に係る誘電体共振器2A~2Dおよび誘電体フィルタ1の特徴について説明する。本実施の形態では、共振器本体部3A~3Dは第1の誘電体によって構成され、周囲誘電体部4は第2の誘電体によって構成されている。25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数tf1Hと、25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数tf2Hの一方は正の値であり、他方は負の値である。
【0092】
また、本実施の形態では、-40~25℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数tf1Lと、-40~25℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数tf2Lの一方は正の値であり、他方は負の値である。
【0093】
ここで、第1および第2の誘電体を含む誘電体材料の共振周波数の温度係数について説明する。まず、基準温度Trefにおける誘電体材料の共振周波数をfrefとし、所定の温度Trにおける誘電体材料の共振周波数をfrとする。また、基準温度Trefから温度Trまでの温度範囲における誘電体材料の共振周波数の温度係数を記号tfで表す。共振周波数の温度係数tfは、下記の式(1)で表される。
【0094】
tf=[(fr-fref)/{fref(Tr-Tref)}]×106(ppm/℃) …(1)
【0095】
温度係数tf1Hは、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを85℃として、式(1)から求められる第1の誘電体の共振周波数の温度係数である。同様に、温度係数tf2Hは、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを85℃として、式(1)から求められる第2の誘電体の共振周波数の温度係数である。
【0096】
また、温度係数tf1Lは、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを-40℃として、式(1)から求められる第1の誘電体の共振周波数の温度係数である。同様に、温度係数tf2Lは、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを-40℃として、式(1)から求められる第2の誘電体の共振周波数の温度係数である。
【0097】
比誘電率や共振周波数が未知の誘電体材料について、本実施の形態における第1の誘電体または第2の誘電体の要件を満たすか否かを判別するためには、その誘電体材料の比誘電率や共振周波数を測定する必要がある。この場合、誘電体材料の比誘電率や共振周波数の測定方法としては、例えば、国際規格IEC61338-1-3(1999)で規格化されている2誘電体共振器法または国際規格IEC61788-7(2002)で規格化されている1誘電体共振器法を用いることができる。
【0098】
以下、誘電体共振器2A~2Dのうちの任意の1つを誘電体共振器2と言い、1つの誘電体共振器2に対応する1つの共振器本体部を共振器本体部3と言う。本実施の形態では、25~85℃における誘電体共振器2の共振周波数f0の温度係数tf0Hと、-40~25℃における誘電体共振器2の共振周波数f0の温度係数tf0Lを、以下のように定義する。
【0099】
温度係数tf0Hは、式(1)におけるfrefを、基準温度Trefにおける誘電体共振器2の共振周波数f0に置き換え、式(1)におけるfrを、所定の温度Trにおける誘電体共振器2の共振周波数f0に置き換え、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを85℃として、式(1)から求められる値である。
【0100】
温度係数tf0Lは、式(1)におけるfrefを、基準温度Trefにおける誘電体共振器2の共振周波数f0に置き換え、式(1)におけるfrを、所定の温度Trにおける誘電体共振器2の共振周波数f0に置き換え、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを-40℃として、式(1)から求められる値である。
【0101】
また、本実施の形態では、25~85℃における誘電体フィルタ1の通過帯域の中心周波数fcの温度係数tfcHと、-40~25℃における誘電体フィルタ1の通過帯域の中心周波数fcの温度係数tfcLを、以下のように定義する。
【0102】
温度係数tfcHは、式(1)におけるfrefを、基準温度Trefにおける中心周波数fcに置き換え、式(1)におけるfrを、所定の温度Trにおける中心周波数fcに置き換え、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを85℃として、式(1)から求められる値である。
【0103】
温度係数tfcLは、式(1)におけるfrefを、基準温度Trefにおける中心周波数fcに置き換え、式(1)におけるfrを、所定の温度Trにおける中心周波数fcに置き換え、基準温度Trefを25℃とし、所定の温度Trを-40℃として、式(1)から求められる値である。
【0104】
誘電体共振器2には、温度の変化に伴う共振周波数f0の変化が小さいこと、すなわち、温度係数tf0Hの絶対値および温度係数tf0Lの絶対値が小さいことが求められる。
【0105】
また、誘電体フィルタ1には、温度の変化に伴う通過帯域の中心周波数fcの変化が小さいこと、すなわち、温度係数tfcHの絶対値および温度係数tfcLの絶対値が小さいことが求められる。
【0106】
本実施の形態では、前述の通り、温度係数tf1Hと温度係数tf2Hの一方は正の値であり、他方は負の値である。これにより、本実施の形態によれば、温度係数tf0Hの絶対値および温度係数tfcHの絶対値を小さくすることが可能である。また、本実施の形態では、温度係数tf1Lと温度係数tf2Lの一方は正の値であり、他方は負の値である。これにより、本実施の形態によれば、温度係数tf0Lの絶対値および温度係数tfcLの絶対値を小さくすることが可能である。
【0107】
以下、温度係数tf1Hと温度係数tf2Hの一方を正の値とし、他方を負の値とすることによって温度係数tf0Hの絶対値を小さくすることが可能である理由について説明する。
【0108】
まず、誘電体共振器2の共振周波数f0は、誘電体共振器2の電気長に依存する。誘電体共振器2によって発生する電磁界は、共振器本体部3の内部および外部に存在する。そのため、誘電体共振器2の電気長は、共振器本体部3を構成する第1の誘電体の第1の比誘電率εr1と、周囲誘電体部4を構成する第2の誘電体の第2の比誘電率εr2とによって変化する。従って、誘電体共振器2の共振周波数f0は、比誘電率εr1,εr2によって変化する。具体的には、共振周波数f0は、比誘電率εr1が大きくなると低くなり、比誘電率εr1が小さくなると高くなる。同様に、共振周波数f0は、比誘電率εr2が大きくなると低くなり、比誘電率εr2が小さくなると高くなる。
【0109】
一方、第1の誘電体の共振周波数は第1の比誘電率εr1によって変化し、第2の誘電体の共振周波数は第2の比誘電率εr2によって変化する。具体的には、第1の誘電体の共振周波数は、比誘電率εr1が大きくなると低くなり、比誘電率εr1が小さくなると高くなる。同様に、第2の誘電体の共振周波数は、比誘電率εr2が大きくなると低くなり、比誘電率εr2が小さくなると高くなる。
【0110】
従って、ある温度変化が生じたときに、第1の誘電体の共振周波数が高くなるということは、第1の比誘電率εr1が小さくなるということであり、これは、誘電体共振器2に対して共振周波数f0を高くするように作用する。逆に、ある温度変化が生じたときに、第1の誘電体の共振周波数が低くなるということは、第1の比誘電率εr1が大きくなるということであり、これは、誘電体共振器2に対して共振周波数f0を低くするように作用する。
【0111】
同様に、ある温度変化が生じたときに、第2の誘電体の共振周波数が高くなるということは、第2の比誘電率εr2が小さくなるということであり、これは、誘電体共振器2に対して共振周波数f0を高くするように作用する。逆に、ある温度変化が生じたときに、第2の誘電体の共振周波数が低くなるということは、第2の比誘電率εr2が大きくなるということであり、これは、誘電体共振器2に対して共振周波数f0を低くするように作用する。
【0112】
従って、温度係数tf1Hと温度係数tf2Hの一方を正の値とし、他方を負の値とすることによって、25℃から85℃への温度変化に対する共振周波数f0の変化を抑制すること、すなわち、温度係数tf0Hの絶対値を小さくすることが可能である。
【0113】
同じ理由から、温度係数tf1Lと温度係数tf2Lの一方を正の値とし、他方を負の値とすることによって、25℃から-40℃への温度変化に対する共振周波数f0の変化を抑制すること、すなわち、温度係数tf0Lの絶対値を小さくすることが可能である。
【0114】
また、誘電体フィルタ1の通過帯域の中心周波数fcは、誘電体共振器2の共振周波数f0に依存する。そのため、温度係数tf1Hと温度係数tf2Hの一方を正の値とし、他方を負の値とすることによって、温度係数tfcHの絶対値を小さくすることが可能である。同様に、温度係数tf1Lと温度係数tf2Lの一方を正の値とし、他方を負の値とすることによって、温度係数tfcLの絶対値を小さくすることが可能である。
【0115】
温度係数tf0Hは、温度係数tf1Hと温度係数tf2Hの間の値になる。また、温度係数tf0Lは、温度係数tf1Lと温度係数tf2Lの間の値になる。そのため、本実施の形態によれば、tf1H,tf2H,tf1L,tf2Lの絶対値が大きくても、温度係数tf0H,tfcH,tf0L,tfcLの絶対値を小さくすることが可能である。
【0116】
温度係数tf0Hの絶対値は、温度係数tf1Hの絶対値および温度係数tf2Hの絶対値よりも小さいことが好ましい。また、温度係数tf0Lの絶対値は、温度係数tf1Lの絶対値および温度係数tf2Lの絶対値よりも小さいことが好ましい。
【0117】
次に、温度係数tf0Hの絶対値と温度係数tf0Lの絶対値の好ましい範囲について説明する。まず、温度の変化に伴う誘電体共振器2の共振周波数f0の変化率の上限の目標値を0.2%とする。25℃から85℃への温度変化に対する共振周波数f0の変化率を0.2%とすると、温度係数tf0Hの絶対値は約33ppm/℃になる。また、25℃から-40℃への温度変化に対する共振周波数f0の変化率を0.2%とすると、温度係数tf0Lの絶対値は約30ppm/℃になる。そのため、温度係数tf0Hの絶対値は33ppm/℃以下であることが好ましく、温度係数tf0Lの絶対値は30ppm/℃以下であることが好ましい。温度係数tf0Hの絶対値と温度係数tf0Lの絶対値は、10ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0118】
本実施の形態に係る誘電体共振器2の共振周波数f0の温度係数は、第1の誘電体の共振周波数の温度係数と第2の誘電体の共振周波数の温度係数とに依存する。このような誘電体共振器2では、第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値を小さくしただけでは、必ずしも、誘電体共振器2の共振周波数f0の温度係数の絶対値が小さくなるとは限らない。また、第1の誘電体の共振周波数の温度係数の絶対値を小さくしようとすると、第1の誘電体として用いることのできる材料が限られてくる。そのため、比誘電率やQ値等、第1の誘電体の共振周波数の温度係数以外の特性が犠牲になり、その結果、誘電体共振器2の特性が犠牲になる場合がある。
【0119】
本実施の形態によれば、第1の誘電体として用いることのできる材料の選択の自由度が増すため、誘電体共振器2の特性を犠牲にすることなく、誘電体共振器2の共振周波数f0の温度係数の絶対値を小さくすることが可能になる。
【0120】
以下、シミュレーションによる第1の実施例の誘電体フィルタと第1および第2の比較例の誘電体フィルタについて説明する。第1の実施例の誘電体フィルタは、本実施の形態に係る誘電体フィルタ1の例である。第1および第2の比較例の誘電体フィルタは、温度係数tf1H,tf1L,tf2H,tf2Lが本実施の形態における第1および第2の誘電体の要件を満たしてない点を除いて、第1の実施例の誘電体フィルタと同じである。
【0121】
第1の実施例では、第1の誘電体の第1の比誘電率εr1は40であり、温度係数tf1H,tf1Lはいずれも120ppm/℃である。また、第1の実施例では、第2の誘電体の第2の比誘電率εr2は7.43であり、温度係数tf2H,tf2Lはいずれも-65ppm/℃である。
【0122】
第1の実施例では、温度係数tf0Hは3.2ppm/℃であり、温度係数tf0Lは2.1ppm/℃であり、温度係数tfcHは-4.4ppm/℃であり、温度係数tfcLは-2.7ppm/℃であった。
【0123】
第1の実施例における上述の複数の温度特性の値を、以下の表1にまとめて示す。
【0124】
【0125】
図14は、第1の実施例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示している。
図14において、横軸は周波数を示し、縦軸は挿入損失を示している。また、
図14において、点線は-40℃における特性を示している。また、2つの実線のうち、細い方は25℃における特性を示し、太い方は85℃における特性を示している。
【0126】
第1の比較例では、第1の誘電体の第1の比誘電率εr1は40であり、温度係数tf1H,tf1Lはいずれも-65ppm/℃である。また、第1の比較例では、第2の誘電体の第2の比誘電率εr2は7.43であり、温度係数tf2H,tf2Lはいずれも-65ppm/℃である。このように、第1の比較例では、温度係数tf1H,tf1L,tf2H,tf2Lは、いずれも負の値であり、且つ第1の実施例における温度係数tf2H,tf2Lと等しい。
【0127】
第1の比較例では、温度係数tf0Hは-64.6ppm/℃であり、温度係数tf0Lは-65.4ppm/℃であり、温度係数tfcHは-52.9ppm/℃であり、温度係数tfcLは-66.9ppm/℃であった。
【0128】
第1の比較例における上述の複数の温度特性の値を、以下の表2にまとめて示す。
【0129】
【0130】
図15は、第1の比較例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示している。
図15において、横軸は周波数を示し、縦軸は挿入損失を示している。
図15では、
図14と同様に、-40℃における特性と、25℃における特性と、85℃における特性を、それぞれ、点線と細い実線と太い実線で示している。
【0131】
第2の比較例では、第1の誘電体の第1の比誘電率εr1は40であり、温度係数tf1H,tf1Lはいずれも120ppm/℃である。また、第2の比較例では、第2の誘電体の第2の比誘電率εr2は7.43であり、温度係数tf2H,tf2Lはいずれも120ppm/℃である。このように、第2の比較例では、温度係数tf1H,tf1L,tf2H,tf2Lは、いずれも正の値であり、且つ第1の実施例における温度係数tf1H,tf1Lと等しい。
【0132】
第2の比較例では、温度係数tf0Hは121.3ppm/℃であり、温度係数tf0Lは118.6ppm/℃であり、温度係数tfcHは122.8ppm/℃であり、温度係数tfcLは104.7ppm/℃であった。
【0133】
第2の比較例における上述の複数の温度特性の値を、以下の表3にまとめて示す。
【0134】
【0135】
第1の比較例と第2の比較例では、温度係数tf0H,tfcHの値は温度係数tf1H,tf2Hの値に近く、温度係数tf0L,tfcLの値は温度係数tf1L,tf2Lの値に近い。そのため、第1の比較例と第2の比較例では、温度係数tf0H,tfcHの絶対値は、温度係数tf1H,tf2Hの絶対値と同程度に大きく、温度係数tf0L,tfcLの絶対値は、温度係数tf1L,tf2Lの絶対値と同程度に大きい。
【0136】
これに対し、第1の実施例では、温度係数tf0H,tfcH,tf0L,tfcLの絶対値は、いずれも10ppm/℃以下の小さな値である。このシミュレーションの結果からも、本実施の形態によれば、tf1H,tf2H,tf1L,tf2Lの絶対値が大きくても、温度係数tf0H,tfcH,tf0L,tfcLの絶対値を小さくすることが可能であることが分かる。
【0137】
以下、第1の誘電体として用いることのできる第1の誘電体材料の具体例と、第2の誘電体として用いることのできる第2の誘電体材料の具体例について説明する。第1の誘電体は、例えば、第1の誘電体材料の具体例を主成分として含む。第2の誘電体は、例えば、第2の誘電体材料の具体例を主成分として含む。主成分とは、50重量%以上の成分を言う。
【0138】
始めに、第1の誘電体の温度係数tf1Hが正の値で、第2の誘電体の温度係数tf2Hが負の値である場合における第1および第2の誘電体材料の具体例について説明する。この場合、第1の誘電体材料の共振周波数の温度係数は正の値であり、第2の誘電体材料の共振周波数の温度係数は負の値である。
【0139】
共振周波数の温度係数が正の値である第1の誘電体材料の具体例としては、BaO-Nd2O3-TiO2系の低温焼成セラミックを挙げることができる。この材料の比誘電率は、例えば、4.6GHzにおいて78.3である。また、この材料の25~85℃における共振周波数の温度係数は、例えば40ppm/℃である。
【0140】
共振周波数の温度係数が正の値である第1の誘電体材料の他の具体例としては、ZnO-TiO2系の低温焼成セラミックを挙げることができる。この材料の比誘電率は、例えば、6.9GHzにおいて38である。また、この材料の25~85℃における共振周波数の温度係数は、例えば120ppm/℃である。
【0141】
共振周波数の温度係数が負の値である第2の誘電体材料の具体例としては、Mg2SiO4の組成の低温焼成セラミックを挙げることができる。この材料の比誘電率は、例えば、16GHzにおいて7.43である。また、この材料の25~85℃における共振周波数の温度係数は、例えば-68ppm/℃である。
【0142】
次に、第1の誘電体の温度係数tf1Hが負の値で、第2の誘電体の温度係数tf2Hが正の値である場合における第1および第2の誘電体材料の具体例について説明する。この場合、第1の誘電体材料の共振周波数の温度係数は負の値であり、第2の誘電体材料の共振周波数の温度係数は正の値である。
【0143】
共振周波数の温度係数が負の値である第1の誘電体材料の具体例としては、0.7(Na1/2La1/2)TiO3-0.3(Li1/2Sm1/2)TiO3の組成のセラミックを挙げることができる。この材料の比誘電率は、例えば、3GHzにおいて117である。また、この材料の25~85℃における共振周波数の温度係数は、例えば-19ppm/℃である。
【0144】
共振周波数の温度係数が正の値である第2の誘電体材料の具体例としては、0.84Al2O3-0.16TiO2の組成のセラミックに4重量%のMgO-CaO-SiO2-Al2O3系ガラスを添加した材料が挙げられる。この材料の比誘電率は、例えば、11~13GHzにおいて9.4である。また、この材料の25~85℃における共振周波数の温度係数は、例えば約10ppm/℃である。
【0145】
以下、本実施の形態に係る誘電体フィルタ1のその他の特徴について説明する。誘電体フィルタ1は、回路構成上隣接する2つの誘電体共振器が磁気結合するように構成された4個の誘電体共振器2A~2Dと、第1の入出力ポート5Aと第2の入出力ポート5Bとを容量結合させるためのキャパシタC10とを備えている。このような構成の誘電体フィルタ1によれば、挿入損失の周波数特性において、通過帯域よりも低く通過帯域に近い周波数領域である第1の通過帯域近傍領域に第1の減衰極を生じさせ、通過帯域よりも高く通過帯域に近い周波数領域である第2の通過帯域近傍領域に第2の減衰極を生じさせることができる。なお、第1および第2の減衰極を生じさせるためには、誘電体共振器の数は、4個に限らず偶数個であればよい。
【0146】
また、誘電体フィルタ1では、第1および第2の移相器11A,11Bの各々における位相変化量を調整することにより、誘電体フィルタ1の挿入損失の周波数特性を調整することができる。第1および第2の移相器11A,11Bの各々における位相変化量は、第1および第2の移相器11A,11Bの各々の長さを変えることによって変えることができる。
【0147】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態では、第1の誘電体と第2の誘電体の要件が、第1の実施の形態とは異なる。
【0148】
本実施の形態では、第2の誘電体の第2の比誘電率εr2は、1よりも大きい。また、本実施の形態では、25~85℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数tf1Hの絶対値と、25~85℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数tf2Hの絶対値は、いずれも、33ppm/℃以下である。温度係数tf1H,tf2Hの正負の符号は、同じでもよいし異なっていてもよい。温度係数tf1H,tf2Hの絶対値は、10ppm/℃以下であることが好ましい。
【0149】
25~85℃における誘電体共振器2の共振周波数f0の温度係数tf0Hの絶対値は、33ppm/℃以下であることが好ましい。その理由は、第1の実施の形態において説明した通りである。温度係数tf0Hの絶対値は、10ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0150】
また、本実施の形態において、-40~25℃における第1の誘電体の共振周波数の温度係数tf1Lの絶対値と、-40~25℃における第2の誘電体の共振周波数の温度係数tf2Lの絶対値は、30ppm/℃以下であることが好ましい。温度係数tf1L,tf2Lの正負の符号は、同じでもよいし異なっていてもよい。温度係数tf1L,tf2Lの絶対値は、10ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0151】
-40~25℃における誘電体共振器2の共振周波数f0の温度係数tf0Lの絶対値は、30ppm/℃以下であることが好ましい。その理由は、第1の実施の形態において説明した通りである。温度係数tf0Lの絶対値は、10ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0152】
本実施の形態では、温度係数tf1Hの絶対値と温度係数tf2Hの絶対値がいずれも33ppm/℃以下であることにより、温度係数tf0H,tfcHの絶対値を、約33ppm/℃以下の小さな値にすることができる。また、温度係数tf1Hの絶対値と温度係数tf2Hの絶対値がいずれも10ppm/℃以下である場合には、温度係数tf0H,tfcHの絶対値を、約10ppm/℃以下の小さな値にすることができる。
【0153】
また、本実施の形態において、温度係数tf1Lの絶対値と温度係数tf2Lの絶対値がいずれも30ppm/℃以下である場合には、温度係数tf0L,tfcLの絶対値を、約30ppm/℃以下の小さな値にすることができる。また、温度係数tf1Lの絶対値と温度係数tf2Lの絶対値がいずれも10ppm/℃以下である場合には、温度係数tf0L,tfcLの絶対値を、約10ppm/℃以下の小さな値にすることができる。
【0154】
以下、シミュレーションによる第2および第3の実施例の誘電体フィルタと第3の比較例の誘電体フィルタについて説明する。第2および第3の実施例の誘電体フィルタは、本実施の形態に係る誘電体フィルタ1の例である。第3の比較例の誘電体フィルタは、温度係数tf1H,tf1L,tf2H,tf2Lが本実施の形態における第1および第2の誘電体の要件を満たしてない点を除いて、第2および第3の実施例の誘電体フィルタと同じである。
【0155】
第2の実施例では、第1の誘電体の第1の比誘電率εr1は40であり、温度係数tf1H,tf1Lはいずれも-5ppm/℃である。また、第2の実施例では、第2の誘電体の第2の比誘電率εr2は7.43であり、温度係数tf2H,tf2Lはいずれも-5ppm/℃である。
【0156】
第2の実施例では、温度係数tf0Hは-5.0ppm/℃であり、温度係数tf0Lは-5.0ppm/℃であり、温度係数tfcHは-7.9ppm/℃であり、温度係数tfcLは-6.5ppm/℃であった。
【0157】
第2の実施例における上述の複数の温度特性の値を、以下の表4にまとめて示す。
【0158】
【0159】
図16は、第2の実施例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示している。
図16において、横軸は周波数を示し、縦軸は挿入損失を示している。
図16では、
図14と同様に、-40℃における特性と、25℃における特性と、85℃における特性を、それぞれ、点線と細い実線と太い実線で示している。ただし、
図16において、これらの3つの線は、ほとんど重なっている。
【0160】
第3の実施例では、第1の誘電体の第1の比誘電率εr1は40であり、温度係数tf1H,tf1Lはいずれも-30ppm/℃である。また、第3の実施例では、第2の誘電体の第2の比誘電率εr2は7.43であり、温度係数tf2H,tf2Lはいずれも-30ppm/℃である。
【0161】
第3の実施例では、温度係数tf0Hは-29.8ppm/℃であり、温度係数tf0Lは-30.2ppm/℃であり、温度係数tfcHは-31.0ppm/℃であり、温度係数tfcLは-26.2ppm/℃であった。
【0162】
第3の実施例における上述の複数の温度特性の値を、以下の表5にまとめて示す。
【0163】
【0164】
図17は、第3の実施例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示している。
図17において、横軸は周波数を示し、縦軸は挿入損失を示している。
図17では、
図14と同様に、-40℃における特性と、25℃における特性と、85℃における特性を、それぞれ、点線と細い実線と太い実線で示している。
【0165】
第3の比較例では、第1の誘電体の第1の比誘電率εr1は40であり、温度係数tf1H,tf1Lはいずれも-5ppm/℃である。また、第3の比較例では、第2の誘電体の第2の比誘電率εr2は7.43であり、温度係数tf2H,tf2Lはいずれも-65ppm/℃である。
【0166】
第3の比較例では、温度係数tf0Hは-42.6ppm/℃であり、温度係数tf0Lは-43.4ppm/℃であり、温度係数tfcHは-38.3ppm/℃であり、温度係数tfcLは-47.2ppm/℃であった。
【0167】
第3の比較例における上述の複数の温度特性の値を、以下の表6にまとめて示す。
【0168】
【0169】
図18は、第3の比較例の誘電体フィルタの挿入損失の周波数特性を示している。
図18において、横軸は周波数を示し、縦軸は挿入損失を示している。
図18では、
図14と同様に、-40℃における特性と、25℃における特性と、85℃における特性を、それぞれ、点線と細い実線と太い実線で示している。
【0170】
第3の比較例から、第2の誘電体の共振周波数の温度係数tf2H,tf2Lの絶対値が大きいと、第1の誘電体の共振周波数の温度係数tf1H,tf1Lの絶対値を小さくしただけでは、温度係数tf0H,tfcH,tf0L,tfcLの絶対値を小さくすることができないことが分かる。
【0171】
これに対し、本実施の形態では、第2および第3の実施例からも分かるように、第1の誘電体の共振周波数の温度係数tf1H,tf1Lの絶対値と、第2の誘電体の共振周波数の温度係数tf2H,tf2Lの絶対値の両方を小さくすることによって、温度係数tf0H,tfcH,tf0L,tfcLの絶対値を小さくすることができる。
【0172】
以下、第1の誘電体として用いることのできる第1の誘電体材料の具体例と、第2の誘電体として用いることのできる第2の誘電体材料の具体例について説明する。第1の誘電体は、例えば、第1の誘電体材料の具体例を主成分として含む。第2の誘電体は、例えば、第2の誘電体材料の具体例を主成分として含む。
【0173】
第1の誘電体材料の具体例としては、Ba0.3Sr0.7(Zn1/3Nb2/3)O3の組成のセラミックを挙げることができる。この材料の比誘電率は、例えば、10GHzにおいて40である。また、この材料の25~85℃における共振周波数の温度係数は、例えば約-5ppm/℃である。
【0174】
第2の誘電体材料の具体例としては、0.75MgAl2O4-0.25TiO2の組成のセラミックを挙げることができる。この材料の比誘電率は、例えば、7.5GHzにおいて10.7である。また、この材料の25~85℃における共振周波数の温度係数は、例えば約-12ppm/℃である。
【0175】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0176】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、第1の誘電体として用いることのできる第1の誘電体材料と第2の誘電体として用いることのできる第2の誘電体材料は、各実施の形態において例示したものに限らず、特許請求の範囲の要件を満たすものであればよい。
【符号の説明】
【0177】
1…誘電体フィルタ、2A,2B,2C,2D…誘電体共振器、3A,3B,3C,3D…共振器本体部、4…周囲誘電体部、5A…第1の入出力ポート、5B…第1の入出力ポート、6…分離導体層、7…シールド部、8…仕切り部、11A…第1の移相器、11B…第2の移相器、20…構造体。