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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-08
(45)【発行日】2022-02-17
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20220209BHJP
   B60T 8/44 20060101ALI20220209BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/44
B60T13/138 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018069135
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177820
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】西脇 邦博
(72)【発明者】
【氏名】野村 潤
(72)【発明者】
【氏名】石田 康人
(72)【発明者】
【氏名】小林 達史
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-301435(JP,A)
【文献】特開2010-95026(JP,A)
【文献】特開2009-23553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材の操作に応じてブレーキ液を出力する液圧室と第1流路を介して接続されたリザーバと、
前記第1流路及び前記第1流路に接続された第2流路を介して、前記液圧室からブレーキ液が供給されることで前記ブレーキ操作部材に反力圧を付与するストロークシミュレータと、
前記第1流路のうち、前記第1流路と前記第2流路との接続部分よりも前記リザーバ側に設けられ、非通電状態で開弁するリザーバカット弁と、
前記ブレーキ操作部材が操作されている状況を操作実行状況として、現状が前記操作実行状況であるか否かを判定する操作判定部と、
前記操作判定部により現状が前記操作実行状況であると判定されていない場合、前記リザーバカット弁に第1電流を供給し、前記操作判定部により現状が前記操作実行状況であると判定されている場合、前記リザーバカット弁に前記第1電流よりも大きい第2電流を供給する電流制御部と、
を備える制動制御装置。
【請求項2】
前記操作判定部は、前記ブレーキ操作部材が操作される蓋然性が高いか否かを判定し、
前記操作実行状況には、前記ブレーキ操作部材が操作される蓋然性が高い状況が含まれる請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記第1流路のうち前記接続部分より前記液圧室側に設けられ、非通電状態で閉弁し供給される電流が大きくなるほど開度が大きくなるシミュレータカット弁を備え、
前記電流制御部は、前記リザーバカット弁への供給電流を前記第1電流から前記第2電流に切り替えるタイミングに合わせて、前記シミュレータカット弁への供給電流を小さくする絞り制御を実行する請求項1又は2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記操作判定部により前記ブレーキ操作部材が操作される蓋然性が高いと判定された場合、前記ブレーキ操作部材の操作速度について予測する速度予測部を備え、
前記電流制御部は、前記絞り制御において、前記速度予測部により予測された前記操作速度が高いほど、前記シミュレータカット弁への供給電流を小さくする請求項3に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記電流制御部は、前記ブレーキ操作部材の操作が解除された時点から所定時間の間、前記操作判定部の判定結果にかかわらず、前記リザーバカット弁への前記第2電流の供給を継続する請求項1~4の何れか一項に記載の制動制御装置。
【請求項6】
前記第1流路のうち前記接続部分より前記液圧室側に設けられ、非通電状態で閉弁し供給される電流が大きくなるほど開度が大きくなるシミュレータカット弁を備え、
前記電流制御部は、前記操作判定部により現状が前記操作実行状況であると判定されていない場合、前記シミュレータカット弁に第3電流を供給し、前記操作判定部により現状が前記操作実行状況であると判定されている場合、前記シミュレータカット弁に前記第3電流より大きい第4電流を供給する請求項1~5の何れか一項に記載の制動制御装置。
【請求項7】
前記電流制御部は、前記シミュレータカット弁に前記第3電流を供給している状態で前記操作判定部により現状が前記操作実行状況であると判定された場合、前記リザーバカット弁に前記第2電流を供給した後に、前記シミュレータカット弁に前記第4電流を供給する請求項6に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制動制御装置は、各装置に給電ができないなどの電気系の異常が発生した場合でも、運転者のブレーキ操作に応じて機械的にマスタ圧(マスタシリンダの出力圧)が発生するように構成されている。このような構成は、例えば、ブレーキ操作に応じてブレーキ液を出力する液圧室と、ストロークシミュレータと、リザーバと、液圧室とストロークシミュレータとを接続する流路に設けられたシミュレータカット弁と、ストロークシミュレータとリザーバとの間に設けられたリザーバカット弁と、を備えている。シミュレータカット弁は、非通電状態で閉弁する常閉型の電磁弁である。シミュレータカット弁は、通常、イグニッションがオンされると通電され開状態となる。ここで、特開2009-23553号公報には、ブレーキペダルが踏み込まれる毎にシミュレータカット弁への供給電流(制御電流)を大きく、その後は供給電流を小さくする制御が開示されている。これにより、ブレーキ制御における省電力化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-23553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ブレーキ制御装置は、省電力化とブレーキフィーリング悪化の抑制との両立の観点において、改良の余地がある。本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、省電力化とブレーキフィーリング悪化の抑制とを両立可能な制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の制動制御装置は、ブレーキ操作部材の操作に応じてブレーキ液を出力する液圧室と第1流路を介して接続されたリザーバと、前記第1流路及び前記第1流路に接続された第2流路を介して、前記液圧室からブレーキ液が供給されることで前記ブレーキ操作部材に反力圧を付与するストロークシミュレータと、前記第1流路のうち、前記第1流路と前記第2流路との接続部分よりも前記リザーバ側に設けられ、非通電状態で開弁するリザーバカット弁と、前記ブレーキ操作部材が操作されている状況を操作実行状況として、現状が前記操作実行状況であるか否かを判定する操作判定部と、前記操作判定部により現状が前記操作実行状況であると判定されていない場合、前記リザーバカット弁に第1電流を供給し、前記操作判定部により現状が前記操作実行状況であると判定されている場合、前記リザーバカット弁に前記第1電流よりも大きい第2電流を供給する電流制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ブレーキ操作が行われていない状況では、リザーバカット弁への供給電流が小さくなり、省電力化が可能となる。また、シミュレータカット弁に対しては通常通りに制御可能であり、ブレーキ操作の有無にかかわらず開弁させることができるため、ストロークシミュレータと液圧室との接続が遮断されることによるブレーキフィーリングの悪化は抑制される。つまり、本発明によれば、省電力化とブレーキフィーリング悪化の抑制とが両立可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態の制動制御装置を含む車両用制動装置の構成図である。
図2】本実施形態の省電力制御の一例を示すタイムチャートである。
図3】本実施形態の変形態様におけるブレーキECUの構成図である。
図4】本実施形態の省電力制御の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。車両用制動装置BFは、図1に示すように、マスタシリンダ1と、反力発生装置2と、シミュレータカット弁22と、リザーバカット弁23と、サーボ圧発生装置4と、アクチュエータ5と、ホイールシリンダ541~544と、各種センサ71~77と、ブレーキECU6と、を備えている。車両用制動装置BFは、制動制御装置Aを含んでいる。
【0009】
マスタシリンダ1は、ブレーキペダル(「ブレーキ操作部材」に相当する)10の操作量に応じてブレーキ液をアクチュエータ5に供給する部位であり、シリンダボディ11、カバーシリンダ12、入力ピストン13、第1マスタピストン14、及び第2マスタピストン15を備えている。ブレーキペダル10は、ドライバがブレーキ操作可能なブレーキ操作手段であれば良い。
【0010】
シリンダボディ11は、前方が閉塞されて後方に開口する有底略円筒状のハウジングである。シリンダボディ11の内周側の後方寄りに、内向きフランジ状に突出する内壁部111が設けられている。内壁部111の中央は、前後方向に貫通する貫通孔111aとされている。また、シリンダボディ11の内部の内壁部111よりも前方に、内径がわずかに小さい小径部位112、113が設けられている。つまり、小径部位112、113は、シリンダボディ11の内周面から環状に突出している。シリンダボディ11の内部には、小径部位112に摺接して軸方向に移動可能に第1マスタピストン14が配設されている。同様に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に第2マスタピストン15が配設されている。
【0011】
カバーシリンダ12は、略円筒状のシリンダ部121、蛇腹筒状のブーツ122、及びカップ状の圧縮スプリング123で構成されている。シリンダ部121は、シリンダボディ11の後端側に配置され、シリンダボディ11の後側の開口に同軸的に嵌合されている。シリンダ部121の前方部位121aの内径は、内壁部111の貫通孔111aの内径よりも大きい。また、シリンダ部121の後方部位121bの内径は、前方部位121aの内径よりも小さい。
【0012】
防塵用のブーツ122は蛇腹筒状で前後方向に伸縮可能であり、その前側でシリンダ部121の後端側開口に接するように組み付けられている。ブーツ122の後方の中央には貫通孔122aが形成されている。圧縮スプリング123は、ブーツ122の周りに配置されるコイル状の付勢部材であり、その前側がシリンダボディ11の後端に当接し、後側はブーツ122の貫通孔122aに近接するように縮径されている。ブーツ122の後端及び圧縮スプリング123の後端は、操作ロッド10aに結合されている。圧縮スプリング123は、操作ロッド10aを後方に付勢している。
【0013】
入力ピストン13は、ブレーキペダル10の操作に応じてカバーシリンダ12内を摺動するピストンである。入力ピストン13は、前方に底面を有し後方に開口を有する有底略円筒状のピストンである。入力ピストン13の底面を構成する底壁131は、入力ピストン13の他の部位よりも径が大きくなっている。入力ピストン13は、シリンダ部121の後方部位121bに軸方向に摺動可能かつ液密的に配置され、底壁131がシリンダ部121の前方部位121aの内周側に入り込んでいる。
【0014】
入力ピストン13の内部には、ブレーキペダル10に連動する操作ロッド10aが配設されている。操作ロッド10aの先端のピボット10bは、入力ピストン13を前側に押動できるようになっている。操作ロッド10aの後端は、入力ピストン13の後側の開口及びブーツ122の貫通孔122aを通って外部に突出し、ブレーキペダル10に接続されている。ブレーキペダル10が踏み込み操作されたときに、操作ロッド10aは、ブーツ122及び圧縮スプリング123を軸方向に押動しながら前進する。操作ロッド10aの前進に伴い、入力ピストン13も連動して前進する。
【0015】
第1マスタピストン14は、シリンダボディ11の内壁部111に軸方向に摺動可能に配設されている。第1マスタピストン14は、前方側から順番に加圧筒部141、フランジ部142、及び突出部143が一体となって形成されている。加圧筒部141は、前方に開口を有する有底略円筒状に形成され、シリンダボディ11の内周面との間に間隙を有し、小径部位112に摺接している。加圧筒部141の内部空間には、第2マスタピストン15との間にコイルばね状の付勢部材144が配設されている。付勢部材144により、第1マスタピストン14は後方に付勢されている。換言すると、第1マスタピストン14は、設定された初期位置に向けて付勢部材144により付勢されている。
【0016】
フランジ部142は、加圧筒部141よりも大径で、シリンダボディ11の内周面に摺接している。突出部143は、フランジ部142よりも小径で、内壁部111の貫通孔111aに液密に摺動するように配置されている。突出部143の後端は、貫通孔111aを通り抜けてシリンダ部121の内部空間に突出し、シリンダ部121の内周面から離間している。突出部143の後端面は、入力ピストン13の底壁131から離間し、その離間距離は変化し得るように構成されている。
【0017】
ここで、シリンダボディ11の内周面、第1マスタピストン14の加圧筒部141、及び第2マスタピストン15により、「第1マスタ室1D」が区画されている。また、第1マスタ室1Dの後方において、シリンダボディ11の内周面、小径部位112、内壁部111、及び第1マスタピストン14により、「後方室1Z」が区画されている。第1マスタピストン14のフランジ部142は後方室1Zを前後に区分しており、フランジ部142の前側に「第2液圧室1C」が区画され、フランジ部142の後側に「サーボ室1A」が区画されている。第2液圧室1Cは、第1マスタピストン14の前進により容積が減少し第1マスタピストン14の後退により容積が増加する。また、シリンダボディ11の内周面、内壁部111、シリンダ部121の前方部位121a、第1マスタピストン14の突出部143、及び入力ピストン13により「第1液圧室(「液圧室」に相当する)1B」が区画されている。
【0018】
第2マスタピストン15は、シリンダボディ11内の第1マスタピストン14の前方側に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に配置されている。第2マスタピストン15は、前方に開口を有する筒状の加圧筒部151、及び加圧筒部151の後側を閉塞する底壁152が一体となって形成されている。底壁152は、第1マスタピストン14との間に付勢部材144を支承している。加圧筒部151の内部空間には、シリンダボディ11の閉塞された内底面111dとの間に、コイルばね状の付勢部材153が配設されている。付勢部材153により、第2マスタピストン15は後方に付勢されている。換言すると、第2マスタピストン15は、設定された初期位置に向けて付勢部材153により付勢されている。シリンダボディ11の内周面、内底面111d、及び第2マスタピストン15により、「第2マスタ室1E」が区画されている。
【0019】
マスタシリンダ1には、内部と外部を連通させるポート11a~11iが形成されている。ポート11aは、シリンダボディ11のうち内壁部111よりも後方に形成されている。ポート11bは、ポート11aと軸方向の同様の位置に、ポート11aに対向して形成されている。ポート11aとポート11bは、シリンダボディ11の内周面とシリンダ部121の外周面との間の環状空間を介して連通している。ポート11a及びポート11bは、配管161に接続され、かつリザーバ171(低圧源)に接続されている。
【0020】
また、ポート11bは、シリンダ部121及び入力ピストン13に形成された通路18により第1液圧室1Bに連通している。通路18は入力ピストン13が前進すると遮断され、これによって第1液圧室1Bとリザーバ171とが遮断される。ポート11cは、内壁部111より後方かつポート11aよりも前方に形成され、第1液圧室1Bと配管162とを連通させている。ポート11dは、ポート11cよりも前方に形成され、サーボ室1Aと配管163とを連通させている。ポート11eは、ポート11dよりも前方に形成され、第2液圧室1Cと配管164とを連通させている。
【0021】
ポート11fは、小径部位112の両シール部材G1、G2の間に形成され、リザーバ172とシリンダボディ11の内部とを連通している。ポート11fは、第1マスタピストン14に形成された通路145を介して第1マスタ室1Dに連通している。通路145は、第1マスタピストン14が前進するとポート11fと第1マスタ室1Dが遮断される位置に形成されている。ポート11gは、ポート11fよりも前方に形成され、第1マスタ室1Dと管路31とを連通させている。
【0022】
ポート11hは、小径部位113の両シール部材G3、G4の間に形成され、リザーバ173とシリンダボディ11の内部とを連通させている。ポート11hは、第2マスタピストン15の加圧筒部151に形成された通路154を介して第2マスタ室1Eに連通している。通路154は、第2マスタピストン15が前進するとポート11hと第2マスタ室1Eが遮断される位置に形成されている。ポート11iは、ポート11hよりも前方に形成され、第2マスタ室1Eと管路32とを連通させている。
【0023】
また、マスタシリンダ1内には、適宜、Oリング等のシール部材が配置されている。シール部材G1、G2は、小径部位112に配置され、第1マスタピストン14の外周面に液密的に当接している。同様に、シール部材G3、G4は、小径部位113に配置され、第2マスタピストン15の外周面に液密的に当接している。また、入力ピストン13とシリンダ部121との間にもシール部材G5、G6が配置されている。
【0024】
ストロークセンサ71は、運転者によりブレーキペダル10が操作された操作量(ストローク)を検出するセンサであり、検出信号をブレーキECU6及びブレーキECU6に送信する。ブレーキストップスイッチ72は、運転者によるブレーキペダル10の操作の有無を2値信号で検出するスイッチであり、検出信号をブレーキECU6に送信する。
【0025】
反力発生装置2は、ブレーキペダル10が操作されたとき操作力に対抗する反力を発生する装置であり、ストロークシミュレータ21を主にして構成されている。ストロークシミュレータ21は、ブレーキペダル10の操作に応じて第1液圧室1B及び第2液圧室1Cに反力圧を発生させる。ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合されて構成されている。ピストン212は圧縮スプリング213によって後方に付勢されており、ピストン212の後面側に反力圧室214が形成される。反力圧室214は、配管164及びポート11eを介して第2液圧室1Cに接続され、さらに、反力圧室214は、配管164を介してシミュレータカット弁22及びリザーバカット弁23に接続されている。配管161、162、164は、接続部分D1にて接続されている。
【0026】
シミュレータカット弁22は、非通電状態で閉弁する常閉型の電磁弁であり、ブレーキECU6により開閉(通過流量)が制御される。シミュレータカット弁22は、入力された電流値に応じた開度で開弁する。シミュレータカット弁22は、配管162に設けられている。配管162はポート11cを介して第1液圧室1Bに連通している。シミュレータカット弁22が開弁すると配管162、164を介して第1液圧室1Bとストロークシミュレータ21とが連通状態となり、シミュレータカット弁22が閉弁すると第1液圧室1Bが密閉状態になる。
【0027】
シミュレータカット弁22が閉弁すると、第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが遮断される。当該遮断状態において、第1液圧室1Bが密閉状態になってブレーキ液の行き場がなくなり、入力ピストン13と第1マスタピストン14とが一定の離間距離を保って連動する。また、シミュレータカット弁22が開弁すると、第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが連通される。圧力センサ73は、第2液圧室1Cの液圧(反力圧)を検出するセンサであり、配管164に接続されている。圧力センサ73は、検出信号をブレーキECU6に送信する。
【0028】
リザーバカット弁23は、非通電状態で開弁する常開型の電磁弁であり、ブレーキECU6により開閉(通過流量)が制御される。リザーバカット弁23は、入力された電流値に応じた開度で開弁する。リザーバカット弁23は、配管161に設けられている。配管164はポート11eを介して第2液圧室1Cに連通し、配管161はポート11aを介してリザーバ171に連通している。リザーバカット弁23は、ストロークシミュレータ21とリザーバ171との間を、開状態で連通して反力圧を発生させず、閉状態で遮断して反力圧を発生可能な状態とする。
配管161、162は、第1液圧室1Bとリザーバ171とを接続する第1流路を構成する。配管164は、接続部分D1で第1流路に接続された第2流路を構成し、ストロークシミュレータ21と第1流路とを接続している。リザーバカット弁23は、第1流路のうち接続部分D1よりもリザーバ171側に設けられている。シミュレータカット弁22は、第1流路のうち接続部分D1よりも第1液圧室1B側に設けられている。
【0029】
通常の制御において、シミュレータカット弁22及びリザーバカット弁23は、イグニッションがオンされると(車両が起動すると)通電される。従来の制御では、イグニッションがオンされると、例えば、シミュレータカット弁22を全開させるとともに、リザーバカット弁23をリザーバ171にブレーキ液が漏れないように閉弁させていた。電気系の異常によりシミュレータカット弁22及びリザーバカット弁23が給電されない場合、第1液圧室1Bが密閉状態となり、運転者のブレーキ操作による入力ピストン13の前進に連動して、第1マスタピストン14が機械的に前進し、マスタ圧が発生する。
【0030】
サーボ圧発生装置4は、いわゆる油圧式ブースタ(倍力装置)であって、減圧弁41、増圧弁42、圧力供給部43、及びレギュレータ44を備えている。減圧弁41は、非通電状態で開く常開型の電磁弁(常開弁)であり、ブレーキECU6により流量(又は圧力)が制御される。減圧弁41の一方は配管411を介して配管161に接続され、減圧弁41の他方は配管413に接続されている。つまり、減圧弁41の一方は、配管411、161、及びポート11a、11bを介してリザーバ171に連通している。減圧弁41は、閉弁することで、パイロット室4Dからブレーキ液が流出することを阻止する。なお、リザーバ171とリザーバ434とは、図示していないが連通している。リザーバ171とリザーバ434が同一のリザーバであっても良い。
【0031】
増圧弁42は、非通電状態で閉じる常閉型の電磁弁(常閉弁)であり、ブレーキECU6により流量(又は圧力)が制御されている。増圧弁42の一方は配管421に接続され、増圧弁42の他方は配管422に接続されている。圧力供給部43は、レギュレータ44に主に高圧のブレーキ液を供給する部位である。圧力供給部43は、アキュムレータ431、液圧ポンプ432、モータ433、及びリザーバ434を備えている。圧力センサ75は、アキュムレータ431の液圧を検出する。圧力供給部43は、の構成は公知であるため説明は省略する。
【0032】
レギュレータ44は、機械式のレギュレータであって、内部にパイロット室4Dが形成されている。また、レギュレータ44には、複数のポート4a~4hが形成されている。パイロット室4Dは、ポート4f及び配管413を介して減圧弁41に接続され、ポート4g及び配管421を介して増圧弁42に接続されている。増圧弁42の開弁により、アキュムレータ431からポート4a、4b、4gを介して高圧のブレーキ液がパイロット室4Dに供給され、ピストンが移動し、パイロット室4Dが拡大する。当該拡大に応じて弁部材が移動し、ポート4aとポート4cが連通し、配管163を介して高圧のブレーキ液がサーボ室1Aに供給される。一方、減圧弁41の開弁により、パイロット室4Dの液圧(パイロット圧)が低下し、ポート4aとポート4cとの間の流路が弁部材により遮断される。このように、ブレーキECU6は、減圧弁41及び増圧弁42を制御することで、サーボ圧に対応するパイロット圧を制御し、サーボ圧を制御している。実際のサーボ圧は、圧力センサ74により検出される。本実施形態は、ブレーキ操作機構と調圧機構とが分離されたバイワイヤ構成になっている。
【0033】
アクチュエータ5は、マスタ圧(第1マスタ室1D及び第2マスタ室1Eの液圧)を調整してホイールシリンダ541~544に供給する装置である。アクチュエータ5は、第1マスタ室1D及び第2マスタ室1Eとホイールシリンダ541~544との間に配置されている。アクチュエータ5と第1マスタ室1Dとは管路31により接続され、アクチュエータ5と第2マスタ室1Eは管路32により接続されている。アクチュエータ5は、複数の電磁弁やポンプ等で構成され、ブレーキECU6の指示に応じて、ホイールシリンダ541~544の液圧(ホイール圧)を調整する。アクチュエータ5は、ブレーキECU6の指令に基づき、例えばアンチスキッド制御(ABS制御)等を実行する。各車輪Wには、車輪速度センサ76が設置されている。
【0034】
このように、本実施形態の制動制御装置Aは、ブレーキペダル10の操作に応じてブレーキ液を出力する第1液圧室1Bと配管161、162(第1流路)を介して接続されたリザーバ171と、配管161、162及び配管161、162に接続された配管164(第2流路)を介して、第1液圧室1Bからブレーキ液が供給されることでブレーキペダル10に反力圧を付与するストロークシミュレータ21と、配管161、162のうち、配管161、162と配管164との接続部分D1よりもリザーバ171側に設けられ、非通電状態で開弁するリザーバカット弁23と、配管161、162のうち接続部分D1より第1液圧室1B側に設けられ、非通電状態で閉弁し供給される電流が大きくなるほど開度が大きくなるシミュレータカット弁22と、リザーバカット弁23及びシミュレータカット弁22を制御するブレーキECU6と、を備えている。
【0035】
(省電力制御の第1パターン)
ここで、本実施形態の省電力制御について説明する。ブレーキECU6は、機能として、操作判定部61と、電流制御部62と、を備えている。操作判定部61は、ブレーキペダル10が操作されている状況を「操作実行状況」として、現状が操作実行状況であるか否かを判定するように構成されている。操作判定部61は、ストロークシミュレータ21及び/又はブレーキストップスイッチ72の検出結果に基づいて、実際にブレーキペダル10が踏み込まれたか否かを判定する。
【0036】
また、操作判定部61は、ブレーキペダル10が操作される蓋然性が高いか否かを判定する。操作判定部61は、例えば、車間距離や車両と車両前方の物との距離を測るセンサ77、及び/又は車輪速度センサ76の検出結果に基づいて、現状が、ブレーキ操作が実行されやすい状況であるか否かを判定する。例えば、車両と他の車両又は物との距離が小さく且つ車速が高ければ、ブレーキ操作が実行される蓋然性が高いといえる。したがって、操作判定部61は、センサ76、77の検出結果等に基づいて、ブレーキ操作に関する状況について判断することができる。
【0037】
そして、操作判定部61は、ブレーキペダル10が操作される蓋然性が高い場合、当該状況を「操作実行状況」として判定する。つまり、本実施形態の操作実行状況には、ブレーキペダル10が操作されている状況と、ブレーキペダル10が操作される蓋然性が高い状況とが含まれている。操作判定部61は、ブレーキペダル10が操作されている場合又はブレーキペダル10が操作される蓋然性が高い場合、現状が操作実行状況であると判定する。なお、センサ77は、例えばミリ波レーダー等である。
【0038】
電流制御部62は、操作判定部61により現状が操作実行状況であると判定されていない場合、リザーバカット弁23に第1電流を供給し、操作判定部61により現状が操作実行状況であると判定されている場合、リザーバカット弁23に第1電流よりも大きい第2電流を供給するように構成されている(図2の下段参照)。第1電流は、0以上第2電流未満の値に設定されている(0≦第1電流<第2電流)。つまり、電流制御部62は、リザーバカット弁23に対し、操作実行状況以外の状況において比較的小さい電流を印加して少し開弁させ、操作実行状況において比較的大きい電流を印加して従来通りに開弁させる。第2電流は、例えば、リザーバカット弁23をブレーキ液がリザーバ171に漏れ出ないように閉弁させる電流(通常閉弁電流)に設定されている。なお、電流制御部62は、シミュレータカット弁22に対しては、イグニッションがオンされると通常開弁電流(例えば全開させるのに必要な電流)を供給し、従来通りに開弁させる。
【0039】
本実施形態によれば、ブレーキ操作が行われていない状況又はブレーキ操作が行われにくい状況では、リザーバカット弁23への供給電流が小さくなり、省電力化が可能となる。また、シミュレータカット弁22は通常通りに制御可能であり、ブレーキ操作の有無にかかわらず開弁させることができるため、ストロークシミュレータ21と第1液圧室1Bとの接続が遮断されることによるブレーキフィーリングの悪化は抑制される。例えば、シミュレータカット弁22に対し、ブレーキペダル10が操作される毎に通常開弁電流を印加する制御では、ブレーキペダル10のストロークの増大勾配に段付きが発生しやすく(階段状になりやすく)、ブレーキフィーリングへの影響が比較的大きくなる。しかし、本実施形態では、ストロークの増大勾配に段付きが発生しにくいリザーバカット弁23を省電力制御の対象としており、ブレーキフィーリングへの影響が抑制されている。つまり、本実施形態によれば、省電力化とブレーキフィーリング悪化の抑制とが両立可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、操作実行状況にはブレーキ操作が実行される蓋然性が高い状況が含まれているため、実際にブレーキ操作が実行されるよりも早くリザーバカット弁23を制御でき、ブレーキフィーリングへの影響を極力抑えることができる。
【0041】
また、電流制御部62は、ブレーキペダル10の操作が解除された時点(ブレーキ操作が終了した時点)から所定時間の間、操作判定部61の判定結果にかかわらず、リザーバカット弁23への第2電流の供給を継続するように構成されている。これにより、例えばブレーキ操作を短時間で繰り返すポンピング操作が行われた際でも、リザーバカット弁23の開度変更回数の増大が抑制され、作動音抑制及び耐久性向上の面で有利となる。
【0042】
(省電力制御の第2パターン)
省電力制御の第2パターンとして、上記第1パターンに対して「絞り制御」を追加したものを説明する。電流制御部62は、リザーバカット弁23への供給電流を第1電流から第2電流に切り替えるタイミングに合わせて、シミュレータカット弁22への供給電流を小さくする(すなわちシミュレータカット弁22の開度を小さくする)絞り制御を実行する。第2パターンでの絞り制御は、操作判定部61により現状が操作実行状況であると判定された時点から第2電流によってリザーバカット弁23が閉弁するまでの間、シミュレータカット弁22の開度を小さくする制御といえる。
【0043】
図2に示すように、電流制御部62は、リザーバカット弁23に第2電流を供給するタイミングで、シミュレータカット弁22に供給する電流を小さくして、シミュレータカット弁22の流路を絞る。電流制御部62は、例えば、第2電流をリザーバカット弁23に印加した時点から所定時間が経過するまでの間は、シミュレータカット弁22への供給電流を小さくする。この所定時間は、例えば閉弁動作が完了するのに必要な時間に設定できる。
【0044】
絞り制御によれば、リザーバカット弁23が第1電流により少し開弁している状態(又は全開している状態)においてブレーキペダル10が操作された際、第1液圧室1Bとストロークシミュレータ21との連通を維持しつつ、第1液圧室1Bから流出したブレーキ液がリザーバカット弁23を介してリザーバ171に流入することを抑制することができる。つまり、省電力制御によるブレーキフィーリングへの影響は、さらに抑制される。なお、省電力制御の第1パターンは、図2において絞り制御がないものに相当する。
【0045】
(省電力制御の第3パターン)
省電力制御の第3パターンでは、図3に示すように、ブレーキECU6は、速度予測部63をさらに備えている。速度予測部63は、操作判定部61によりブレーキペダル10が操作される蓋然性が高いと判定された場合、ブレーキペダル10の操作速度について予測する。具体的に、速度予測部63は、センサ77及び/又は車輪速度センサ76の検出結果に基づいて、操作速度が高いか否か、すなわち急ブレーキ操作(緊急ブレーキ操作)が実行されるか否かを判定する。速度予測部63は、例えば、車間距離が所定値以下で且つ車速が所定速度以上である場合、操作速度が高いと判定する。
【0046】
電流制御部62は、絞り制御において、速度予測部63により予測された操作速度が高いほど、シミュレータカット弁22の開度を小さくする。具体的に、電流制御部62は、速度予測部63により操作速度が高いと判定されている場合、絞り制御でのシミュレータカット弁22への供給電流を第1絞り電流とし、速度予測部63により操作速度が高いと判定されていない場合、絞り制御でのシミュレータカット弁22への供給電流を第1絞り電流より大きい第2絞り電流とする(第1絞り電流<第2絞り電流<通常開弁電流)。これにより、急ブレーキが予測される際にシミュレータカット弁22の開度がより小さくなり、リザーバカット弁23が閉弁するまでの間にブレーキ液がリザーバ171に流入することはより効果的に抑制される。
【0047】
(省電力制御の第4パターン)
省電力制御の第4パターンでは、第1パターンに加えて、電流制御部62は、操作判定部61により現状が操作実行状況であると判定されていない場合、シミュレータカット弁22に第3電流を供給し、操作判定部61により現状が操作実行状況であると判定されている場合、シミュレータカット弁22に第3電流より大きい第4電流を供給する(図4参照)。第3電流は、シミュレータカット弁22が少し開弁する電流である。
【0048】
つまり、電流制御部62は、リザーバカット弁23同様に、シミュレータカット弁22に対しても、操作実行状況以外の状況において、供給電流を小さくする。これにより、操作実行状況以外の状況では、シミュレータカット弁22及びリザーバカット弁23は、比較的小さい電流により少し開弁した状態となる。そして、操作判定部61により現状が操作実行状況であると判定された場合、シミュレータカット弁22及びリザーバカット弁23への供給電流を大きくする。第4電流は、シミュレータカット弁22の通常開弁電流に相当する。
【0049】
この構成によれば、シミュレータカット弁22を開弁で維持することでブレーキ操作時のブレーキフィーリングへの影響を抑えつつ、シミュレータカット弁22に対しても省電力化が可能となる。
【0050】
ここで、電流制御部62は、シミュレータカット弁22に第3電流を供給している状態で操作判定部61により現状が操作実行状況であると判定された場合、リザーバカット弁23に第2電流を供給した後に、シミュレータカット弁22に第4電流を供給する。つまり、図4に示すように、電流制御部62は、現状が操作実行状況になった場合、先にリザーバカット弁23に比較的大きい電流(第2電流)を印加し、その後シミュレータカット弁22に比較的大きい電流(第4電流)を印加する。リザーバカット弁23が閉弁した後にシミュレータカット弁22が完全に開弁することで、ブレーキ液のリザーバ171への突入をより確実に抑制することができる。つまり、省電力制御によるブレーキフィーリングへの影響をさらに抑制することができる。
【0051】
(省電力制御の第5パターン)
省電力制御の第5パターンとして、電流制御部62は、第2パターンにおける絞り制御の開始タイミングを、リザーバカット弁23への供給電流を第1電流から第2電流に切り替えるタイミングよりも前にする制御を実行する。例えば、電流制御部62は、操作判定部61によりブレーキペダル10が操作される蓋然性が高いと判定された場合に、絞り制御を実行し、操作判定部61によりブレーキペダル10が操作されていると判定された場合に、リザーバカット弁23への供給電流を第1電流から第2電流に切り替える。絞り制御は、例えば、第2電流によりリザーバカット弁23が閉弁するまで、又はブレーキペダル10が操作されることなく操作判定部61によりブレーキペダル10が操作される蓋然性が低いと判定されるまで継続される。これにより、リザーバカット弁23に第2電流が供給される前から、シミュレータカット弁22の流路を絞ることができ、より確実に省電力制御によるブレーキフィーリングへの影響を抑制することができる。このように、シミュレータカット弁22への供給電流の制御を、ブレーキ操作の蓋然性に基づいて行い、リザーバカット弁23への供給電流の制御を、実際のブレーキ操作の有無に基づいて行っても良い。
【0052】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、操作実行状況は、ブレーキペダル10が操作されている状況のみに設定されても良い。これによっても、省電力化とブレーキフィーリング悪化の抑制とが両立できる。また、シミュレータカット弁22への供給電流の制御及びリザーバカット弁への供給電流の制御は、それぞれ異なる判定種別(例えば予測又は実測)に基づき行われても良い。また、ブレーキ操作の有無の判定は、踏力センサを用いても良い。また、リザーバカット弁23への供給電流は、ブレーキペダル10への操作が解除された時点で第2電流から第1電流に切り替えられても良い。また、速度予測部63は、操作速度をより詳細に(例えば高、中、低など)予測しても良い。また、ブレーキ操作が実行される蓋然性の判断要素は、上記に限らず、例えば前方カメラの検出結果を用いることもできる。また、本発明は、自動ブレーキ制御にも適用できる。
【符号の説明】
【0053】
10…ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、161、162…配管(第1流路)、164…配管(第2流路)、171…リザーバ、1B…第1液圧室(液圧室)、21…ストロークシミュレータ、22…シミュレータカット弁、23…リザーバカット弁、61…操作判定部、62…電流制御部、63…速度予測部、A…制動制御装置。
図1
図2
図3
図4